【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例においては、下記材料を用いて、下記方法等に沿って行った。
【0050】
<フローサイトメトリー>
フローサイトリー分析は、MoFlo(Dako Cytomation社製)、FACSAria(登録商標、BD Bioscience社製)、又はFACSCantoII(登録商標、BD Bioscience社製)を用いて行った。得られたデータの分析はFlowJoソフトウェア(Treestar社製)を用いて行った。また、フローサイトリー分析に用いた抗体は下記の通りである。
抗ヒトCD3−APC抗体(BD Bioscience社製)、抗ヒトCD4−FITC抗体(BD Bioscience社製)、抗ヒトCD8−PerCP/Cy5.5抗体(BD Bioscience社製)、抗ヒトCD56−PE抗体(BD Bioscience社製)、抗ヒトCD45RA−Pacific Blue抗体(Caltag Laboratories社製)、抗ヒトCD62L−PE−Cy7抗体(Biolegend社製)、抗ヒトCD45−Alexa 405抗体(Molecular Probes−Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)、抗ヒトCD34−PE抗体(BD Bioscience社製)、抗ヒトCD38−PerCP/Cy5.5抗体(Biolegend社製)、抗ヒトCD1a−APC抗体(Biolegend社製)、抗ヒトCD5−PE/Cy7, −CD7−FITC抗体(Biolegend社製)、抗ヒトCD5−PE/Cy7抗体(Biolegend社製)、抗ヒトCD7−FITC抗体(Biolegend社製)、抗ヒトTCRαβ−FITC抗体(Biolegend社製)。さらに、フローサイトリー分析において、細胞は適切な濃度に調整した抗体カクテルと共に4℃にて30分間インキュベーションした後、リン酸緩衝生理食塩水にて洗浄した。また、死細胞を排除するため、ヨウ化プロピジウムを添加した。
【0051】
<レトロウィルスの調製>
ヒトOCT4、SOX2、KLF4、c−MYC、及びNANOG(山中因子、YFs)をコードするpMXsレトロウィルスベクターは、山中伸弥教授(京都大学iPS細胞研究所 所属)より供与された。Gag−Pol遺伝子、及びTet−OFF制御のVSV−G偽型エンベロープ遺伝子を有する293GPGパッケージング細胞に、これらYFsを導入した。テトラサイクリンを除いた培地にてウィルスを誘導してから3日後に、これら細胞の培養上清を毎日、全4回回収した。回収した培養上清は、0.45μm酢酸セルロースフィルターに通し、6000gにて16時間かけ遠心分離を行った。そして、得られた上清の濃度が0.5%になるようにα−MEM(α−最小必須培地)に懸濁し、使用するまで−80℃にて保存した。
【0052】
<T細胞の調製、レトロウィルス感染、及びiPS細胞の作製>
実験プロトコールは、東京大学医科学研究所 ヒト倫理審査委員会の承認を受けたものである(承認番号:20−6−0826)。また、全ての研究はヘルシンキ宣言に従って行った。
【0053】
末梢血単核細胞(PBMCs)は、健康な被験者由来の血液から、Ficoll密度勾配遠心(Ficoll−Paque PLUS(登録商標)、17−1440−02、GE Healthcare社製)にて単離し、MoFlo(DAKO Cytomation社製)にて精製した。T細胞はナチュラルキラーT(NKT)細胞のコンタミを避けるため、CD3
+CD56
-細胞集団をゲートとし、単離した。T細胞のサブセットは、更なるゲートを設定し、CD4(CD4
+CD8
-)、及びCD8(CD4
-CD8
+)コホートに分離した。CD4及び/又はCD8細胞は更に、ナイーブ(CD45RA
+CD62L
+)、セントラルメモリー(CD45RA
-CD62L
+)、エフェクターメモリー(CD45RA
-CD62L
-)、またはターミナルエフェクター(CD45RA
+CD62L
-)に分類した。
【0054】
このようにしてソートした細胞は、10%ウシ胎児血清(GIBCO−Invitrogen社製)、100U/ml ペニシリン、100ng/ml ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン、及び20ng/ml ヒトインターロイキン2(hIL−2、Novartis Vaccines&Diagnostics社製)を添加した、ロズウェルパーク記念研究所培地(Roswell Park Memorial Institute、RPMI)1640培地(GIBCO−Invitrogen社製)にて最初培養した。そして、かかるT細胞の3倍量の抗CD3/CD28結合磁性ビーズ(Dynabeads(登録商標)、ClinExVivo(登録商標)CD3/CD28、Invitrogen社製)を添加することによって、これら細胞を活性化させた。なお、T細胞から誘導したiPS細胞(T−iPS細胞)の作製において、この活性化した日をday0と規定する(以下、
図1 参照)。いくつかの実験において、抗CD3/CD28結合磁性ビーズによって、PBMCsから磁気的に捕捉したCD3
+細胞を単離すると同時に刺激した。day2及びday3において、10μg/ml硫酸プロタミン(Sigma−Aldrich社製)を添加した、レトロネクチン(登録商標)コ―ティングプレート(Takara社製)上にて、スピノキュレーション(spinoculation)によってレトロウィルスを細胞に感染させた(Kaneko,S.ら、Blood、2009年、113巻、1006〜1015ページ 参照)。T細胞培養用の完全合成培地は毎日交換した。day6において、感染細胞を回収し、6cmディッシュ上の3×10
5個の照射MEF細胞層上に移した。その後4日間(day6〜day10)、培地の半分量を毎日ヒトiPS細胞培地に交換した。なお、ヒトiPS細胞培地の組成は下記の通りである(Takayama,N.ら、Blood、2008年、111巻、5298〜5306ページ 参照)。
【0055】
20% ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacement(登録商標)、GIBCO−Invitrogen社製)、200μM L−グルタミン(Invitrogen社製)、1% 非必須アミノ酸(Invitrogen社製)、10μM 2−メルカプトエタノール(GIBCO−Invitrogen社製)、及び5ng/ml b−FGF(Wako社製)を添加したダルベッコ変法イーグル培地/F12培地(Sigma−Aldrich社製)。
【0056】
またiPS細胞コロニーをピックアップする前に、前記ヒトiPS細胞培地に0.5mM VPA(HDAC阻害剤 バルプロ酸)を添加した。day10において、VPA含有ヒトiPS細胞培地に全培地を交換した。ヒトES/iPS細胞様コロニーと同一視できるようになった際、およそday24において、それらコロニーを機械的に単離し、ピペッティングによって小塊に解離し、新鮮なMEF細胞層上に播いた。ヒトES/iPS細胞様コロニーは、トリプシン溶液(0.25%トリプシン、1mM CaCl
2、及び20% ノックアウト血清代替物添加リン酸緩衝生理食塩水)を用いて、新鮮なMEF細胞層上に3〜4日毎に移した。
【0057】
<染色体分析>
染色体Gバンド分析は、日本遺伝子研究所に外注し、所定の方法に従って行った。
【0058】
<アルカリフォスファタ―ゼ(ALP)染色、及び免疫細胞化学的染色>
ALP染色のため、ヒトES/iPS細胞様コロニーを氷冷固定液(90%メタノール、10%ホルムアルデヒド)にて固定し、ALP染色キット(Vector Laboratories社製)を用い、その製造会社の説明書に従って染色した。また、免疫細胞化学的染色のため、ヒトES/iPS細胞様コロニーを5%パラホルムアルデヒドにて固定し、0.1% TritonX−100にて透過処理を行った。
【0059】
そして、このように前処理したコロニーを一次抗体とともにインキュベートした。なお、用いた一次抗体、並びに希釈率は下記の通りである。
PE−conjugated anti−SSEA−4(FAB1435P、R&D Systems社製、希釈率:1/50)、anti−Tra−1−60(MAB4360、Millipore社製、希釈率:1/100)、anti−Tra−1−81(MAB4381、Millipore社製、希釈率:1/100)。また、Tra−1−60及びTra−1−81の検出には、二次抗体としてAlexa Fluor 488−conjugated goat anti−mouse antibody (希釈率:1/500、A11029、Molecular Probes−Invitrogen社製)を用いた。さらに、核の対比染色は4’,6−diamidino−2−phenylindol(希釈率:1/1000、Roche Diagnostics社製)を用いて行った。また、顕微鏡写真は、蛍光顕微鏡Axio Observer.Z1(Carl Zeiss Japan社製)を用いて撮影した。
【0060】
<テラトーマ形成>
ヒトES/iPS細胞様コロニーを凝集させ、NOD−Scidマウスの左側の精巣の髄質にMasaki,H.ら、Stem Cell Res、2007年、1巻、105〜115ページの記載に従って注入した。なお、注入細胞数はマウス1匹あたり、1.0×10
6個である。注入してから8週間後、精巣内に形成された腫瘍を切除し、5%パラホルムアルデヒドにて固定し、パラフィンに包埋した後、切片にした。そして、得られた切片をヘマトキシリン/エオシン法にて染色し、光学顕微鏡にて、前記iPS細胞が三胚葉への分化能を有しているかどうかを調べた。
【0061】
<多能性遺伝子、及びT細胞関連遺伝子についての発現分析>
ES細胞、iPS細胞(クローニングしてから約50日目の細胞)、これらの子孫細胞、及び新鮮分離した末梢血CD3
+T細胞から、RNeasy micro キット(Qiagen社製)を用いて、トータルRNAを抽出した。そして、得られたトータルRNAを鋳型とし、PrimeScriptII 1st Strand Synthesis キット(Takara社製)を用いて、逆転写反応を行った。
また、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH又はACTB)については30サイクル、全ての多能性遺伝子又はT細胞関連遺伝子については35サイクルにて、ExTaq HS (Takara社製)を用いてPCR反応を行った。
なお、標的遺伝子、及び分析に用いたPCRプライマーの配列は表1及び表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
<マイクロアレイ分析>
ヒトES細胞(KhES3)、T細胞由来iPS細胞(TkT3V1−7)、及びCD3/CD28刺激CD3
+CD4
+CD8
-細胞について、全ゲノム遺伝子の発現解析を行った。先ず、各細胞からトータルRNA(2μg)を抽出し、プローブ調製に供した。そして、蛍光標識した相補的RNAとWhole Human Genome Microarray 4x44K(G4112F、Agilent Technologies社製)とを、一色法にてハイブリダイズした(委託先:Takara Bio Inc)。次いで、アレイをスキャンし、スポットイメージをAgilent Feature Extraction 装置(Agilent Technologies社製)にて検出した。そして、得られたシグナルデータは、GeneSpringソフトウェア(Agilent Technologies社製)を用いて分析した。また得られたデータの正規化には、Two normalization proceduresを適用した。すなわち、シグナル強度 0.01未満は0.01とした。また、チップから得られた測定値の50
thpercentileに各チップを正規化した。そして、全3サンプルにおいて、presentのフラグが付いた遺伝子(36275遺伝子)について分析を行った。
【0065】
<T−iPS細胞のゲノムDNAにおけるTCR再構成の検出>
約5×10
6個のT−iPS細胞から、QIAamp DNAキット(Qiagen社製)を用いて、ゲノムDNAを抽出した。抽出したDNA(40ng)は、TCRG、TCRB、及びTCRA遺伝子再構成の各々PCRにて検出するために用いた。
【0066】
TCRGの再構成を検出するためのPCR(Benhattar,J.ら、Diagn Mol Pathol、1995年、4巻、108〜112ページ 参照)はExTaq HS (Takara社製)を用いて行った。PCRの反応条件は、95℃にて5分間、次いでアニーリング温度の比較的高い反応、すなわち95℃にて45秒間、65℃にて45秒間、72℃にて45秒間という反応を5サイクル、そしてアニーリング温度の比較的低い反応、すなわち95℃にて45秒間、55℃にて45秒間、72℃にて30秒間の反応を30サイクルとした。
TCRBの再構成を検出するため、PCR及びヘテロ二本鎖分析は、若干の改変を加えたBIOMED−2プロトコール(van Dongen,J.Leukemia、2003年、17巻、2257〜2317ページ 参照)に沿って行った。
【0067】
TCRAの再構成を検出するためのプライマーのコンストラクトはHan et al.(Han,M.ら、J Immunol、1999年、163巻、301〜311ページ 参照)に基づく。PCRの反応条件は、95℃にて30秒間、68℃にて45秒間、72℃にて6分間という増幅反応を3サイクル、95℃にて30秒間、62℃にて45秒間、72℃にて6分間という増幅反応を15サイクル、95℃にて15秒間、62℃にて30秒間、72℃にて6分間という増幅反応を12サイクルとした。
【0068】
また、PCRはLATaq HS(Takara社製)により行った。そして、得られたPCR産物は、サイズに基づきゲルによって分画した。次いで、予想されたサイズ範囲内の主なバンドは切り出し、QIAquick gel extraction キット(Qiagen社製)を用いて精製し、シークエンスを行った。シークエンス反応においては、BigDye terminator キットv3.1(Applied Biosystems社製)をVα、Jα、Vβ、Dβ、又はJβ プライマー一式と共に用いて、多面的アプローチにて、PCRの増幅及び蛍光色素付加を行った。そして、得られた反応生成物はABI PRISM 3100自動シークエンサー(Applied Biosystems社製)にて分析した。
【0069】
なお、得られた結果は、TCRA又はTCRBの構築に関与する、V、D、及びJセグメントは、公開されている配列及びImMunoGeneTics(IMGT)データベース(http://www.cines.fr/)と比較し、v−questといったウェブツールを用いることによって同定した(Lefranc, M.P.「IMGT databases, web resources and tools for immunoglobulin and T cell receptor sequence analysis, http://imgt.cines.fr.」、Leukemia、2003年、17巻、260〜266ページ 参照)。また、遺伝子断片(セグメント)の命名はIMGT命名法に従った。またTCR再構成の検出に用いたプライマー配列は表3〜4に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
<T−iPS細胞からT系譜細胞(T−lineage Cells)への誘導>
T−iPS細胞又はその他の多能性幹細胞を、胚性幹細胞由来サック(ES−sac)様の構造をとるように、若干の変更を施したTakayama,N.ら、Blood、2008年、111巻、5298〜5306ページの記載に沿って、誘導した。
【0073】
多能性細胞は照射OP9細胞層上で、サイトカインは含有せずα−MEMをベースとする培地(20% ウシ胎児血清、100U/ml ペニシリン、100ng/ml ストレプトマイシン、及び2mM L−グルタミンを添加したαMEM)にて10〜14日間(約Day12)共培養した。
【0074】
サックに詰まっている浮遊細胞はOP9−DL1細胞層上に移し、αMEMをベースとし、10ng/ml hIL−7及びhFlt−3Lが添加された培地にて、Day40まで共培養した。なお多能性細胞をOP9細胞層上に移した日をDay0とする。培養培地は3日毎に交換した。OP9−DL1細胞層上に浮遊しており、CD45、CD3、及びTCRαβを発現しているT系譜細胞は、毎週フローサイトメトリーにてソーティングし、遺伝子発現解析を行った。なお、OP9細胞及びOP9−DL1細胞は、ナショナルバイオリソースプロジェクト(日本)を通して、理研バイオリソースセンターから入手した。
【0075】
<TCR刺激に対する反応性、及びT−iPS細胞から再分化したT系譜細胞のサイトカイン発現プロファイル>
T細胞への誘導の終わり(OP9−DL1細胞層上にて約4週間培養した後、Day40)に、浮遊細胞を回収し、30ng/ml OKT−3(Janssen Pharmaceutica社製)及び600IU/ml hIL−2(Novartis Vaccines & Diagnostics社製)にて刺激した。その5日後に細胞数を数え、CD3の発現を評価した。そして、顕微鏡写真を撮り、形態学的画像を得た。
【0076】
また、T系譜細胞のサイトカイン産生(発現)プロファイルは若干の変更を施したUckert,W.ら、Cancer Immunol Immunother、2008年、58巻、809〜822ページに記載の方法に沿って調べた。すなわち、1×10
5個の浮遊細胞を、10ng/ml ホルボール 12−ミリスタート 13−アセテ―ト(PMA、Sigma−Aldrich社製)、0.4μM A23187 カルシウムイオノホア(イオノマイシン、Sigma−Aldrich社製)、及び20IU/ml hIL−1α(Peprotech社製)によって、12時間刺激した。さらに最後の3時間においては、タンパク質分泌阻害剤 ブレフェルジンA(1mM、Sigma−Aldrich社製)を添加して培養した。
【0077】
かかる刺激後の細胞を、抗CD3結合磁性マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)にて標識し、そして磁気カラム中に保持した。一方、細胞内染色キット(Inside stain kit、Miltenyi Biotec社製)を用い、製造会社の説明書に従って、固相細胞内染色(solid−state intracellular cytokine staining)をこれら細胞に施した。hIFN−γ及びhIL−2の細胞内レベルを測定した。
【0078】
<T−iPS細胞から誘導したT系譜細胞のmRNAにおけるTCR再構成の検出>
OP9−DL1細胞層上での培養を開始してから、14日目(day26)、21日目(day33)、及び28日目(day40)に、T−iPS細胞から誘導したCD3
+TCRαβ
+T系譜細胞から、トータルRNAを抽出した。
そして、逆転写産物5’末端における乗り換え機構(switch mechanism at the 5’−end of the reverse transcript)に基づく方法(SMART法、Du,G.ら、J Immunol Methods、2006年、308巻、19〜35ページ 参照)にて、Super SMART(登録商標)cDNA synthesis kit(Clontech Laboratories社製)を用いて、製造会社の説明書に従って、cDNAを合成した。すなわち、3’SMART(登録商標)CDS primer及びSMART II A oligo(Super SMART(登録商標) cDNA synthesis kit)、並びにPrimeScript Reverse Transcriptase (Takara社製)を用いて、42℃にて90分間、逆転写反応を行った。また、二本鎖cDNAの合成及び増幅は、5’PCR Primer II A(Super SMART(登録商標) cDNA synthesis kit)及びAdvantage2 PCR Kit(BD Clontech社製)に含まれている試薬類を用いて行った。なお、PCRの反応条件は、95℃にて5秒間、65℃にて5秒間、68℃にて3分間を20サイクルとした。
【0079】
そして、増幅したcDNAは、TCRA特異的増幅反応又はTCRB特異的増幅反応における鋳型として用いた。すなわち、フォワードプライマー(2nd 5’−SMART)及びリバースプライマーを用いて、94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、72℃にて3分間という反応を25サイクル行い増幅した。なお、リバースプライマーとしては、TCRA増幅においては3’−TRACを、TCRB増幅においては3’−TRBCを用いた。そして得られたPCR産物はpGEM−T−Easyベクター(Promega, Madison社製)に挿入し、シークエンシングを行った。
【0080】
<統計解析>
本実施例における全ての統計解析は、エクセル(Microsoft社製)、Prism(Graphpad Software社製)、及びStatcel2(OMS Publishing社製)を用い、ANOVA又はスチューデントt検定にて行った。そして、P<0.05を有意とした。
【0081】
(実施例1)
<ヒト末梢血T細胞からのiPS細胞の樹立>
先ず、ヒト末梢血中のT細胞を用いて、
図1に示すようにiPS細胞の樹立を行った。すなわち、健常人(年齢(24〜56歳)及び性別の異なる複数の健常人)の末梢血より、末梢血単核球(PBMC)又はCD3陽性細胞を単離し、CD3/CD28 ClinExVivo ビーズにて刺激した。そして、hIL−2 20ng/mlを含有するRPMI1640+10%FBS+PSG(ペニシリン、ストレプトマイシン、及びL−グルタミン)で2日間培養し、VSV−Gシュードタイプのレトロウイルスウイルスベクター pMX OCT4、pMX SOX2、pMX KLF4、及びpMX c−MYCm、又はpMX OCT4、pMX SOX2、pMX KLF4を用いて遺伝子導入した。連続2日間の遺伝子導入操作後、分離日から6日目に6cmdishの照射MEF(マウス胎児繊維芽細胞)上に1×10
5個を撒き、連日半量ずつiPSメディウム(ヒトiPS細胞培地)に置換していき、播種後4日間にT細胞メディウムから完全にiPSメディウムに置換した。分離11日後(播種5日後)ころより敷石様の細胞集ゾクを認め、数日の後(培養開始してから18〜24日後)にヒトES細胞様の外観を呈するようになった(
図2:コロニー(ヒトES細胞様コロニー)の写真 参照、)。それらの細胞はALP染色陽性、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81などの未分化マーカー陽性(
図3:コロニーの染色写真 参照)であり、外来遺伝子のサイレンシングとES細胞様遺伝子発現パターンを認めた(
図4:電気泳動の写真 参照)。なお、c−MYCを導入した、及び導入しなかった3×10
5個の細胞から、各々アルカリフォスファターゼ(ALP)陽性ヒトES細胞様コロニーを、77±25(0.03%)及び5.1±2.4(0.001%)の割合にて得た(
図5 参照)。
【0082】
また、マイクロアレイ解析によって、CD3由来多能性細胞と、ヒトES細胞(KhES3)及び末梢血T細胞との発現遺伝子プロファイルを比較した。CD3由来iPS細胞における遺伝子発現の全体的なパターンは、ヒトES細胞におけるそれと類似しているが、T細胞におけるそれとは異なるものだった(
図6 参照)。
【0083】
さらに、細胞のカリオタイプ(核型)は正常で(
図7:カリオタイプ解析写真 参照)、NOD/SCIDマウス精巣への移植によって3胚葉への分化を示す奇形腫(テラトーマ)を形成した(
図8:テラトーマ形成病理所見 参照)。
従って、ヒト末梢血T細胞から樹立したiPS細胞は多能性を有していることが明らかになった。
【0084】
(実施例2)
樹立されたiPS細胞がT細胞由来であることを確認するために、TCR遺伝子の再構成を確認した。TCR遺伝子はTCRδ、TCRγ、TCRβの3群が(ほぼこの順番で)早期から再構成を始める。4因子由来の4クローン中2クローン、3因子由来の9クローン中6クローンでTCRγ遺伝子の再構成を認めた(
図9:電気泳動 参照)。それらのクローンのTCRβ遺伝子とTCRα遺伝子の再構成を解析したところ、全てのクローンでインフレーム(in frame)のTCRβ遺伝子とTCRα遺伝子の再構成を認めた(表5:TCRα鎖領域のインフレーム(in frame)遺伝子再構成、表6:TCRβ鎖領域のインフレーム(in frame)遺伝子再構成 参照)。それらの全ての再構成でTRAV24とTRBV11が特異的に用いられるNKT細胞タイプの組合わせは無く、末梢血T細胞由来のiPS細胞であることが確認された。なお、表5及び6において、「iPS Clone」は樹立したT細胞由来のiPS細胞株を示し、「Rearrangement」は再構成に用いられるセグメントの組み合わせを示し、「Sequence of junctional region」は結合領域の塩基配列を示す。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
(実施例3)
また、実施例2同様に、樹立されたiPS細胞がT細胞由来であることを確認するために、TCR遺伝子の再構成を確認した。すなわち、ヒトは4つのTCR遺伝子(TCRA、TCRB、TCRG、及びTCRD)を有しており、これらのDNA再構成は、胸腺における正常なTリンパ球の発達に関与していることが知られている。また、TCR遺伝子の再構成は、T系譜細胞に特異的な、不可逆的な遺伝的現象であり、この遺伝的現象によってT細胞は遺伝的な痕跡を与えられ、特徴付けられる。従って、これらの痕跡を調べることにより、実施例1において得られたiPS細胞は、健常人ドナーの成熟末梢Tリンパ球由来であるかどうか遡及的に確認することができる。
【0088】
先ず、Benhatter達やBIOMED−2コンソーシアムによって設計されたTCRプライマーセットを用いたPCR解析によって、TCRG又はTCRB再構成を検出した(
図28及び29 参照、Benhattar,J.ら、Diagn Mol Pathol、1995年、4巻、108〜112ページ、van Dongen, J.J.、Leukemia、2003年、17巻、2257〜2317ページ 参照)。その結果、調べた全てのiPS細胞株において、TCRG又はTCRB再構成は同定され、調べた全てのiPS細胞株は末梢血Tリンパ球由来のものであることが確認された(
図10及び11)。
また、TCRβ鎖はTCRα鎖と共にヘテロ二量体を形成しており、殆どの末梢血T細胞はTCRαβを発現している(Davis,M.M.ら、Nature、1998年、334巻、395〜402ページ 参照)。TCRG及びTCRBに対して、TCRA遺伝子座は複雑である。TCRA遺伝子座はTCRD遺伝子座を含んでいるだけでなく、103のVαセグメント、61のJαセグメント、及びCαセグメントを含む、1000kb以上にわたる領域である。そこで、ゲノムDNAにおけるTCRA遺伝子再構成を検出するために、Vαセグメントに対する34のフォワードプライマーと、Jαセグメントに対する12のリバースプライマーとのセットを設計した。なお、多重構造の解析にこれらを用いる際に、膨大なプライマーの組み合わせを実用できる程度にその数を絞った。そして、全てのJαプライマーは一つのチューブにて混合し、このJαプライマーミックスと、各Vαプライマーとを用いて、1つのサンプルに対して34のPCR反応を行った。その結果、この方法によって、TCRB再構成iPS細胞において、TCRA再構成を同定することができた(
図12 参照)。
【0089】
さらに、HLA−ペプチド複合体に対するTCRの結合性は、3タイプの相補性決定領域(CDR1、2、及び3)からなる抗原認識部位の三次元構造によって必然的に決定される。これら3領域においては、様々なランダムヌクレオチド(N−ヌクレオチド又はP−ヌクレオチド)が挿入されているV(D)J結合領域に渡っているため、CDR3は最も分散可能(diversifiable)なものである。そこで、樹立したiPS細胞のゲノムのCDR3領域における、個々のTCR鎖をコードする配列を同定した。その結果、元のT細胞における機能的な再構成(Rearranged(Productive)、インフレームで結合しておりストップコドンがない構成)が保存されていることが明らかになり、全てのT−iPS細胞において、1アレル上に機能的なTCRA及びTCRB再構成を一つのみ有していることが明らかになった。もう片方のアレルにおいては、DJβ再構成を含む、完全な又は非機能的な再構成(intact又はRearranged(Unproductive))を有していることが明らかになった(表7、及び
図13参照)。なお、表7において、「iPS Clone」は樹立したT細胞由来のiPS細胞株を示し、「Productivity」は、再構成したT細胞受容体が機能を有するか否か、すなわちβ受容体と複合体を作り抗原を認識するか(機能的:Productive)、否か(非機能的:Unproductive)を示し、「Sequence of junctional region」は結合領域の塩基配列を示す。また、TRAV24及びTRBV11セグメントが特異的に確認されるヒトNKTリンパ球はなかった(Godfrey,D.I.ら、Semin Immunol、22巻、61〜67ページ 参照)。したがって、CDR3配列に刻まれていたTCR産生能は変化することなく、一つの末梢血T細胞からiPS細胞が作製されたことが明らかになった。
【0090】
【表7】
【0091】
(実施例4)
<CD4
+リンパ球又はCD8
+リンパ球からiPS細胞への再プログラミング>
末梢Tリンパ球は主に2つの機能的なサブセット、すなわちCD4
+ヘルパー/制御性細胞、及びCD8
+細胞傷害性細胞に由来する。また、ウィルスによる遺伝子導入効率において、CD4
+リンパ球とCD8
+リンパ球との間に有意な差はないことが知られている(Berger,C.ら、Blood、2003年、101巻、476〜484ページ、Kaneko,S.ら、Blood、2009年、113巻、1006〜1015ページ 参照)。そこで、末梢Tリンパ球をCD4
+T細胞とCD8
+T細胞とに分け、iPS細胞への再プログラミングを行い、由来するT細胞の違いによって、iPS細胞への再プログラミングの効率に差異があるのかどうかを調べた。なお、各細胞における誘導条件を下記に示す。
【0092】
<CD4
+T細胞に対する誘導条件>
採血により得た末梢血単核球のCD3陽性CD56陰性CD4陽性T細胞分画(以下、CD4陽性T細胞)をフローサイトで分取し、抗CD3抗体、抗CD28抗体(ビーズ結合、固層化、培地への添加の別を問わない)で活性化させた。培地にはヒトIL−2を20ng/ml程度添加し、刺激から48〜96時間後にかけてレトロネクチンをコートした24穴プレート上で複数回の山中因子遺伝子導入を行った。その際に用いた山中因子はOCT4、SOX2、KLF4、及びC−MYC、又はOCT4、SOX2、及びKLF4である。最後の遺伝子導入から2日後以降を目安に、6cmディッシュ上の照射MEF上に1〜5x10
5の遺伝子導入T細胞を乗せた。なお、初日にフローサイトでCD4陽性T細胞を分取して用いなかった場合は、このタイミングでフローサイトによりCD4陽性T細胞を分取してMEFに乗せた。乗せ換え翌日より4日間、半量ずつの培地を0.5μMバルプロ酸入りES細胞用培地に置換し、その後は連日又は一日おきに0.5μMバルプロ酸入りES細胞用培地を交換して培養を続けた。乗せ換え後10日前後より敷石様の細胞集簇を認め、数日のうちに完成したiPS細胞コロニーが観察された。
【0093】
<CD8
+T細胞に対する誘導条件>
採血により得た末梢血単核球のCD3陽性CD56陰性CD8陽性T細胞分画(以下、CD8陽性T細胞)をフローサイトで分取し、抗CD3抗体、抗CD28抗体(ビーズ結合、固層化、培地への添加の別を問わない)で活性化させた。培地にはヒトIL−2を20ng/ml、IL−7を10ng/ml、IL−15を10ng/ml程度添加し、刺激から48〜96時間後にかけてレトロネクチンをコートした24穴プレート上で複数回の山中因子遺伝子導入を行う。その際に用いた山中因子はOCT4、SOX2、KLF4、C−MYC、NANOG、及びLIN28、又はOCT4、SOX2、KLF4、C−MYC、及びNANOGである。最後の遺伝子導入から2日後以降を目安に、6cmディッシュ上の照射MEF上に1〜5x10
5の遺伝子導入T細胞を乗せた。なお、初日にフローサイトでCD8陽性T細胞を分取して用いなかった場合は、このタイミングでフローサイトによりCD8陽性T細胞を分取してMEFに乗せた。乗せ換え翌日より4日間、半量ずつの培地を0.5μMバルプロ酸入りES細胞用培地に置換し、その後は連日又は一日おきに0.5μMバルプロ酸入りES細胞用培地を交換して培養を続けた。乗せ換え後2週前後より敷石様の細胞集簇を認め、1〜2週のうちに完成したiPS細胞コロニーが観察された。
【0094】
上記誘導条件にて調べた結果、本実施例においては、NANOGを導入しない条件下におけるCD4
+Tリンパ球からT−iPS細胞への誘導の成功率は、リプログラミング因子 NANOGを更に導入する条件下におけるCD8
+Tリンパ球からT−iPS細胞への誘導の成功率の2倍であった。なお、本実施例において、CD4
+Tリンパ球からはNANOGを導入せずに、7、8回の試行によってT−iPS細胞が得られる。
【0095】
また、図には示さないが、CD8
+Tリンパ球からT−iPS細胞への誘導の際に、MEF上への乗せ換え後に10μMのROCK inhibitor存在下に5%O
2下の低酸素培養、又は1μM MEK inhibitor(PD0325901)及び3μM GSK3 inhibitor (CHIR99021)をコロニー形成まで培地に添加することによって、T−iPS細胞への誘導効率が若干上昇する傾向にあることが確認された。
【0096】
前記結果を受け、さらに、CD4
+Tリンパ球を更に、CD45RA及びCD62L/CCR7の発現に基づき、ナイーブ(CD45RA+CD62L+)、セントラルメモリー(CD45RA−CD62L+)、エフェクターメモリー(CD45RA−CD62L−)、及びターミナルエフェクターT細胞(CD45RA+CD62L−)のサブセットに分け、iPS細胞への誘導(再プログラミング)を行った(Sallusto,F.ら、Nature、1999年、401巻、708〜712ページ 参照、
図14 参照)。その結果、健常人ドナー3人における平均 再プログラミングの効率は、ナイーブT細胞においては0.0041%、セントラルメモリーT細胞においては0.017%、エフェクターメモリーT細胞においては0.0036%、ターミナルエフェクターT細胞においては0.0008%であり、特にセントラルメモリーT細胞より比較的良好にT−iPS細胞は樹立されることが明らかになった(
図15 参照)。なお、CD4
+セントラルメモリーT細胞の再プログラミング効率の高さは、抗CD3/CD28刺激に対する感受性を反映しているのかもしれない。
【0097】
(実施例5)
<TiPS細胞から分化したT系譜細胞の機能解析>
ヒトES細胞から得たCD34陽性細胞をSCID−huマウスに移植することで移植されたヒト胎児胸腺内にT細胞系譜が分化誘導される(Galic,Zら、PNAS、2006年、103巻、31号、11742〜7ページ 参照)。またin vivoではES細胞はOP9−DL1細胞によって、CD4/CD8 double positiveを主としたCD3陽性、TCR陽性細胞へと誘導される(Timmermansら、JI、2009年、182巻、6879〜6888ページ 参照)。
【0098】
そこで、得られたT細胞由来iPS細胞(T−iPS細胞)を用いて、T細胞への分化誘導を試みた。T細胞は発生過程でTCR遺伝子の組み換えを経た後には高頻度体細胞突然変異をおこさないので、T−iPS細胞から誘導したT細胞系譜は元のT−iPS細胞のTCR情報を保持し、対立アレル排除状態によってはモノクローナルなTCRをもつと予想した。しかしながら、T−iPS細胞からT細胞が誘導できるかどうか、また誘導したT細胞は機能的であるかどうか、TCRの再構成状態は、T−iPS細胞の元になったT細胞と同一であるかどうかについては不明であるため、これらの点について以下の通り調べた。
【0099】
先ず、樹立したT−iPS細胞よりTCRα鎖、TCRβ鎖とも片方のアレルがインフレーム(in frame)再構成を起こし、対側のアレルがα鎖においてはアウトフレーム(out frame)再構成、β鎖においてはDJ再構成で停止したクローンを選択し(TkT3V1−7)、T細胞系譜をin vitroで誘導した。IL−7、Flt3L(ヒトFMS様チロシンキナーゼ3リガンド)またはSCF(ヒト幹細胞因子、hSCF)存在下にOP9上で培養されたT−iPS細胞はES−sac(サック)(Takayamaら、Blood、2008年、111巻、11号、5298〜5306ページ 参照)様の構造物を形成して14日目までに内部にCD45陽性血液細胞を誘導した(
図16の(a) 参照)。12〜14日目に血液細胞をOP9−DL1に乗せ換えて培地交換を3日おきに繰り返して培養を継続し、21日目および40日目にFACSでCD3陽性細胞を採取しT細胞関連遺伝子の発現を評価した。40日目のCD3陽性細胞はCD4/8陰性細胞が中心であるものの、一部にCD8の単独陽性細胞を認めた(
図16の(b) 参照)。
【0100】
また、サックをOP9−DL1細胞層上に移した後、サックから出てきた浮遊細胞を回収し、フローサイトメトリーを用いて毎週分析した(
図17の(a) 参照)。その結果、第1週において、大抵の浮遊細胞はCD45を弱く発現しおり、いくらかの細胞において、CD34、CD7、及びCD1aは発現しており、一方CD3−TCRαβ複合体及びCD5を発現している細胞はなかった。第2週において、大抵の細胞においてCD45の発現は亢進しており、いくらかの細胞において、CD3−TCRαβ複合体も発現し始めていた。第3週までに、CD34細胞は完全に消失しており、CD3−TCRαβ強陽性細胞は浮遊細胞の最も多い細胞群となっていた。なお、CD3+細胞においてTCRαβ
-細胞はなかった(
図17の(b) 参照)。また、第3週の後でさえ、大抵の再分化CD3
+TCRαβ
+細胞は、共陰性(DN)ステージのものであったが、いくつかの細胞群においては、CD4のみ陽性な細胞(8.5±8.2%)及びCD8のみ陽性な細胞(15.5±15.9%)も検出された(
図18及び
図19 参照)。
【0101】
一般に、胸腺細胞ステージでも、TCR発現T系譜細胞はTCR刺激に応答することができ、サイトカインを産生することもできることが知られている(Fischer,M.ら、J Immunol、1991年、146巻、3452〜3456ページ 参照)。そこで、OKT−3及びIL−2にて前記浮遊細胞を刺激して、CD3発現細胞の活性化並びに数を調べた。すなわち、30ng/ml OKT−3及び600IU/ml hIL−2にて5日間、浮遊細胞を刺激した結果、CD3
+細胞群は増加し、形態学的基準によってCD3発現細胞は活性化しているように見受けられた(
図20 参照)。しかし、実際のCD3
+細胞は変わっていないことが確認された。
【0102】
また、誘導CD3
+TCRαβ
+細胞はT系譜細胞への分化誘導に機能的に寄与していることを明らかにするため、サイトカイン産生能を下記の通り評価した。すなわち、PMA及びカルシウムイオノフォア(イオノマイシン)によって刺激した結果、12.5%のT系譜細胞はIFN−γを産生し、1.0%のT系譜細胞はIL−2を産生し、6.2%のT系譜細胞はその両方を産生していることが明らかになった(
図21 参照)。従って、T−iPS細胞から誘導したCD3
+TCRαβ
+細胞は、形態学的にも機能的にもT系譜細胞への誘導に寄与していることが明らかになった。
【0103】
また、前述の通り、一般にTCR遺伝子は高頻度体細胞突然変異(somatic hyper−variable mutations)を受けないため、T−iPS細胞由来の再分化T系譜細胞は高頻度にT−iPS細胞の元となった細胞のゲノムにコードされているTCRαβが発現していることが予想される。しかしながら、TCRの再構成状態は、T−iPS細胞の元になったT細胞と同一であるかどうかについては不明であるため、この点について以下の通り調べた。
【0104】
その結果、誘導されたCD3細胞のTCR発現を解析するとTkT3V1−3、TkT3V1−7においては1種類のTCRβ鎖のみが出現しており、CDR3領域を中心とした配列は誘導前のiPS細胞と同一であった(
図22 参照)。TCRα鎖は多様性を認めるものの大半は再構成済みのα鎖由来であった(
図23 参照)。リプログラミングを受けたT細胞は再度T細胞へと誘導される際に、クローナルにTCRを発現することが明らかになった。
【0105】
また、ドナー2人由来の4 T−iPS細胞から再分化したCD3
highTCRαβ
highT系譜細胞を分析した。すなわち、これらの細胞のcDNAライブラリーをSMART−mediated reverse transcription reactionによって構築し(Du,G.,ら、J Immunol Methods、2006年、308巻、19〜35ページ 参照)、TCR遺伝子を増幅した。そして、増幅したTCR遺伝子をクローニングベクターに挿入し、クローニングして分析した。
【0106】
その結果、分析したクローンの配列は、T−iPS細胞の分化前の細胞のゲノムにコードされていたTCR配列と一致した(
図13、23、及び25 参照)。一方、殆どの転写産物は機能的な鎖(productive chain)由来であり、非機能的な鎖(unproductive chain)由来の転写産物も存在していた(表8 参照)。しかし、機能的又は非機能的再構成由来の配列とは異なる転写産物は確認されなかった(表9 参照)。なお、表8において、「iPS Clone」は樹立したT細胞由来のiPS細胞株を示し、「Productivity」は、再構成したT細胞受容体が機能を有するか否か、すなわちβ受容体と複合体を作り抗原を認識するか(機能的:Productive)、否か(非機能的:Unproductive)を示し、「Sequence of junctional region」は結合領域の塩基配列を示す。また、表9において、「Productivity」は、再構成したT細胞受容体が機能を有するか否か、すなわちβ受容体と複合体を作り抗原を認識するか(機能的:Productive)、否か(非機能的:Unproductive)を示し、「No.of Sequenced Samples」は各TCR遺伝子において解析したサンプル数を示し、「Sequence allignment with T−iPSC‘s genome」は、解析したサンプルにおいて、再分化前のT−iPS細胞のゲノムと一致した数及び割合(Identical)、又は該ゲノムと異なった数及び割合(Different)を示す。
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
さらに、他の多能性細胞からCD34陽性細胞への誘導と、本発明の方法とを比較した。その結果、ES細胞(ヒトES細胞、Human ESC)、皮膚由来iPS細胞(ヒト皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞、HDF−iPS)、CD34陽性細胞由来iPS細胞(臍帯血CD34陽性細胞由来iPS細胞、CB−iPSC)、T−iPS細胞(T−iPSC)のいずれにおいてもCD3陽性細胞が誘導されたが、T−iPS細胞は、皮膚細胞やCD34陽性細胞に由来するiPS、およびES細胞に比して明らかにT細胞へと誘導されやすいことが判明した(
図16、17、26、及び27 参照)。
【0110】
(実施例6)
<ヒトT細胞より樹立したiPS細胞から機能的T細胞への誘導2>
複数ドナーのCD4T細胞又はCD8T細胞に由来するT−iPSCクローン(6クローン)を用いて、モノクローナルTCRを持つT細胞集団の誘導を試みた。すなわち、誘導開始日に3×10
5個のT−iPS細胞を10cmディッシュに敷き詰めた照射OP9細胞又は10T1/2細胞に撒き、分化培地を用いて14日間程度共培養した。12〜14日目にかけて共培養中に袋状の構造物に入った血球細胞が出現した。なお、その際にサイトカインを併用しなくても血球細胞は出現したが、VEGFを添加するとCD34陽性造血幹細胞(以下CD34細胞)の回収が改善することが明らかになった。またVEGF、SCF、及びTPO、又はVEGF、SCF、及びFLT3Lを加えると、さらにCD34細胞の回収が改善するも明らかになった。なお、後述の通り、これらの傾向は最終産物であるT系譜細胞の回収にも反映された。
【0111】
また、12日〜14日目のいずれかに、それらのCD34細胞を含む血球細胞を10cmディッシュに敷き詰めた照射OP9/DL1細胞、OP9/DL4細胞、又は10T1/2/DL4細胞に3×10
5個まき、IL−7及びFlt3Lの存在下に20%FBS含有α−MEM培地にて共培養した。なお、SCFはNK細胞への分化を強く促すため、使用しなかった。前述の通り、共培養2週目には一部、3週目には大部分の浮遊細胞がCD3陽性TCRαβ陽性のT系譜細胞になるが、それらの細胞はCD4とCD8の発現においてダブルネガティブ(DN)、ダブルポジティブ(DP)、シングルポジティブ(SP)を含み、一様の集団ではなかった(
図17 参照)。そこで、さらに詳細に検討した結果、DN、DP、CD4SP、CD8SPの構成はIL−7の濃度に依存することを見出した。具体的には、図には示さないが、IL−7非添加ではCD3陽性CD56陰性T細胞そのものが少なくて大部分はDNであった。IL−7 5〜10ng/mlではCD3陽性CD56陽性NKT様の細胞集団が出現し、やはり大部分はDNであった。一方、IL−7 1ng/mlではCD3陽性CD56陰性のT系譜細胞が大部分を占め、DNからDP、そしてCD4SP、CD8SPへの分化が確認された。また、これらのSP細胞を末梢血T細胞の分化マーカーで解析すると、CD8SPの80%程度はCD45RA
+CD62L
+ナイーブT細胞であり、CD4SPの大部分はCD45RA
-CD62L
+セントラルメモリーT細胞であったすなわち、エフェクターメモリー段階に進んでいたT細胞が、T−iPS細胞を介してナイーブT細胞(CD8SPの場合)やセントラルメモリーT細胞(CD4の場合)に若返りし得ることが示唆された。