【実施例】
【0050】
[前処理基板の作製]
1cm×1cmのシリコン基板をエタノール中で5分間超音波洗浄した後、窒素気流中で乾燥させた。次に、1×10
3Paで30分間オゾン洗浄した後、約100μLの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と共に、密封式のテフロン(登録商標)容器に入れ、100℃で60分間加熱処理した。これにより、シリコン基板の表面に存在するシラノール基と、APTESのトリエトキシシリル基を、脱水縮合させ、シリコン基板の表面にアミノ基を導入した。さらに、シリコン基板に吸着している余分なAPTESをトルエンでリンスした後、窒素気流中で乾燥させた。次に、アミノ基が導入されたシリコン基板を、ATRP開始剤としての、2−ブロモイソブチリルブロミド(BIBB)を0.1M1,4−ジオキサン溶液に一晩浸漬し、シリコン基板の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入し、前処理基板を得た。
【0051】
[実施例1−1]
AGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(PDMAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)8mL、水7mL、塩化銅(II)16mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン50μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液20μLを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0052】
図1に、重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0053】
図1から、ポリマーブラシの厚さは、約30分間のインキュベーション期間の後、約2nm/minで直線的に増加し、重合を開始してから約200分後に300nmに達していることがわかる。ポリマーブラシの厚さが直線的に増加していることから、重合が高いレベルで制御されており、成長するポリマー鎖の端末にブロモ基又はクロロ基が保持されていることが示唆される。ポリマーブラシの厚さが300nmに達した後、ポリマーブラシの厚さの増加は緩やかになった。これは、成長するポリマー鎖の末端のブロモ基又はクロロ基が減少することにより、成長するポリマー鎖の数が減少したためであると考えられる。その結果、ポリマーブラシの厚さは、重合を開始してから1380分後に、670nmに達していた。
【0054】
なお、ポリマーブラシの厚さは、エリプソメーターを用いて測定した。
【0055】
図2に、ポリマーブラシの断面のSEM写真を示す。
【0056】
図2から、ポリマーブラシが平滑で均質であることがわかる。
【0057】
[実施例1−2]
塩化銅(II)、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン及びアスコルビン酸の1mg/mL水溶液の添加量を、それぞれ8mg、25μL及び10μLに変更した以外は、実施例1−1と同様にして、表面改質基板を得た。
【0058】
図3に、実施例1−1、1−2の重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0059】
図3から、塩化銅(II)、ペンタメチルジエチレントリアミン及びアスコルビン酸の添加量が実施例1−1の半量である実施例1−2では、インキュベーション期間が実施例1−1における約30分間から約80分間に増加することがわかる。これは、Cu(I)がCu(II)に酸化することにより、重合反応を阻害する酸素を重合系から除去する速度が遅くなるためであると考えられる。また、実施例1−1では、重合を開始してから約30分後にポリマーブラシが急激に成長するのに対し、実施例1−2では、重合を開始してから約160分後に、ポリマーブラシが急激に成長する。これは、ポリマーブラシの成長速度が、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]に比例することに起因するためである。実施例1−2では、重合を開始してから80分後に、重合系中のCu(I)の存在量が少ないため、ポリマーブラシの成長が遅い。一方、重合を開始してから120分後に、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]の存在量が増加するため、ポリマーブラシの成長が速くなり、重合を開始してから約160分後に、重合系からほぼ全ての酸素が除去され、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]は最大になり、一定になる。
【0060】
[実施例2]
ARGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル)(PDEAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル(DEAEMA)8mL、水3mL、エタノール4mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた。次に、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液1mLを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で24時間重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。表面処理基板に導入されているポリマーブラシは、厚さが70nmであった。
【0061】
[比較例1]
AGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリメタクリル酸ナトリウムのポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸ナトリウム3g、水4.6mL、塩化銅(II)8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン25μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液10μLを加えて約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0062】
図4に、重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0063】
図4から、ポリマーブラシの厚さは、インキュベーション期間を経ずに増加するが、重合を開始してから1320分後に、150nmに達していることがわかる。
【0064】
次に、実施例1−1、2、比較例1の表面改質基板の所定のpHの水に浸漬した後の撥油性を評価した。このとき、実施例1−1の表面改質基板としては、厚さが20nmのポリマーブラシが導入されている基板を用い、実施例2の表面改質基板としては、厚さが29nmのポリマーブラシが導入されている基板を用い、比較例1の表面改質基板としては、厚さが87nmのポリマーブラシが導入されている基板を用いた。
【0065】
[所定のpHの水に浸漬した後の撥油性]
pHが2である酸水溶液又はpHが10である塩基水溶液に、表面改質基板を浸漬した後、自動接触角計DM−501Hi(協和界面科学社製)を用いて、n−ヘキサデカン3μLに対する前進接触角θ
A及び後退接触角θ
Rを25℃で測定した。次に、式
θ
A−θ
R
から、接触角ヒステリシスΔθを算出した。
【0066】
表1に、実施例1−1、2、比較例1の表面改質基板のpHが2である酸水溶液又はpHが10である塩基水溶液に浸漬した後の撥油性の評価結果を示す。
【0067】
【表1】
なお、ΔpHは、pHの変化よるθ
A及びθ
Rの変化を意味する。
【0068】
表1から、実施例1−1、2の表面改質基板は、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθが、それぞれ4°、8°であるため、5°以下の傾斜角(滑落角という)で油滴を滑落させることができ、撥油性(液滴除去能及び防汚性)に優れる。
【0069】
また、実施例1−1、2の表面改質基板は、pHが10である塩基水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθの比が、それぞれ0.04、0.08であるため、浸漬する水のpHの変化による撥油性の変化が大きい。
【0070】
これに対して、比較例1の表面改質基板は、pHが10である塩基水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθの比が9であるため、浸漬する水のpHの変化による撥油性の変化が小さい。
【0071】
[実施例3−1]
ARGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(PDMAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)0.8mL、水15.2mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸1mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0072】
スポイトを用いて、前処理基板に重合液を数滴滴下して重合を開始した後、重合液が滴下された前処理基板の表面をワットマン濾紙で被覆した。さらに、室温下(23〜28℃)で90分間重合した後、ワットマン濾紙を剥離して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0073】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0074】
[実施例3−2〜3−7]
アスコルビン酸の添加量を、2mg、10mg、20mg、30mg、40mg、80mgに変更した以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。
【0075】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0076】
図5に、重合液中のアスコルビン酸の濃度に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0077】
なお、ポリマーブラシの厚さは、エリプソメーターを用いて測定した。
【0078】
図5から、重合液中のアスコルビン酸の最適濃度は0.2M(30mg添加)であることがわかった。ここで、重合液中のアスコルビン酸の濃度が低い場合、重合速度は遅いが、重合が制御されるため、厚さが大きいポリマーブラシが導入されると考えられる。しかしながら、重合液中のアスコルビン酸の濃度が低い場合、溶液中の酸素が再生成したCu(I)を酸化して、アスコルビン酸が短時間で消費されるため、短時間で重合が停止すると考えられる。一方、重合液中のアスコルビン酸の濃度が高い場合、重合系中のポリマーラジカルの濃度が高くなりやすいため、重合の初期に停止反応が起こりやすく、結果として、ポリマーブラシの厚さが小さくなると考えられる。
【0079】
[実施例4]
DMAEMA4.8mL、水7.0mL、塩化銅(II)8.0mg、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン50μL及びポリビニルアルコール0.50gを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸0.01mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0080】
得られた重合液を用い、重合液が滴下された前処理基板の表面をワットマン濾紙で被覆しなかった以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。ポリマーブラシは、厚さが4〜6nmであった。
【0081】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0082】
[実施例5]
DMAEMA0.8mL、水15.2mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸20mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0083】
得られた重合液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。ポリマーブラシは、厚さが10nmであった。
【0084】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0085】
本国際出願は、2014年4月25日に出願された日本国特許出願2014−091865号及び2014年5月8日に出願された日本国特許出願2014−097191号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2014−091865号及び日本国特許出願2014−097191号の全内容を本国際出願に援用する。