特許第6229989号(P6229989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6229989
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】表面改質方法及び表面改質材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/00 20060101AFI20171106BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20171106BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C08F2/00 C
   C08F292/00
   C08F4/40
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-515191(P2016-515191)
(86)(22)【出願日】2015年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2015062305
(87)【国際公開番号】WO2015163383
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-91865(P2014-91865)
(32)【優先日】2014年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-97191(P2014-97191)
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ギャリー・ダンダーデール
(72)【発明者】
【氏名】穂積 篤
(72)【発明者】
【氏名】浦田 千尋
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/091169(WO,A1)
【文献】 特開2010−047452(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/025310(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/021500(WO,A1)
【文献】 B.T.Cheesman, A.J.G.Neilson, J.D.Willott, G.B.Webber, S.Edmondson, and E.J.Wanless,Effect of Colloidal Substrate Curvature on pH-Responsive Polyelectrolyte Brush Growth,Langmuir,米国,2013年,Vol.29,6131-6140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
4/00−4/82
292/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の表面に、アミノ基を導入する工程と、
該表面にアミノ基が導入された固体と2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体を反応させて、前記固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する工程と、
該表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体を、空気中で、水溶性モノマー、水、ATRP触媒用金属塩、ATRP触媒用配位子及び還元剤を含む重合液中に浸漬し、AGET ATRP法又はARGET ATRP法を用いて、前記水溶性モノマーを重合することにより前記固体の表面にポリマーブラシを導入する工程を有し、
前記水溶性モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又はN−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記重合液は、前記水溶性モノマーの濃度が1体積%以上50体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記ATRP触媒用金属塩に対する前記還元剤のモル比が0.30以上50以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項4】
固体の表面に、アミノ基を導入する工程と、
該表面にアミノ基が導入された固体と2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体を反応させて、前記固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する工程と、
該表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体に、空気中で、水溶性モノマー、水、ATRP触媒用金属塩、ATRP触媒用配位子及び還元剤を含む重合液を塗布し、AGET ATRP法又はARGET ATRP法を用いて、前記水溶性モノマーを重合することにより前記固体の表面にポリマーブラシを導入する工程を有し、
前記水溶性モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又はN−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする表面改質方法。
【請求項5】
前記重合液は、前記水溶性モノマーの濃度が1体積%以上50体積%以下であることを特徴とする請求項4に記載の表面改質方法。
【請求項6】
前記ATRP触媒用金属塩に対する前記還元剤のモル比が0.30以上50以下であることを特徴とする請求項4に記載の表面改質方法。
【請求項7】
前記重合液は、増粘剤をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の表面改質方法。
【請求項8】
前記重合液が塗布された固体の表面を被覆材で被覆することを特徴とする請求項4に記載の表面改質方法。
【請求項9】
請求項1に記載の表面改質方法により表面が改質されていることを特徴とする表面改質材料。
【請求項10】
pHが10である塩基水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスの比が0.1以下であることを特徴とする請求項9に記載の表面改質材料。
【請求項11】
pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスが10°以下であることを特徴とする請求項9に記載の表面改質材料。
【請求項12】
請求項に記載の表面改質方法により表面が改質されていることを特徴とする表面改質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質方法及び表面改質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーブラシは、幅広い産業分野に関連する、様々な優れた表面特性を提供することができる材料として知られている。最近では、水中で撥油性を示す表面としての応用も提案されている。
【0003】
非特許文献1には、表面に11−(2−ブロモイソブチリルオキシ)ウンデシルチオ基が導入されている金に、不活性ガス中で、ATRP法を用いて、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのポリマーブラシを導入する方法が開示されている。
【0004】
一方、還元剤を用いて、ATRP触媒用金属塩を還元することによりATRP触媒を生成させるATRP法として、AGET(Activator Generated by Electron Transfer) ATRP法及びARGET(Activator ReGenerated by Electron Transfer) ATRP法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules 2002, 35, 1175-1179, “Functionalization of Surfaces by Water-Accelerated Atom-Transfer Radical Polymerization of Hydroxyethyl Methacrylate and Subsequent Derivatization”
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/025310号
【特許文献2】WO2008/021500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、所定のpHの水に浸漬した後の撥油性に優れるポリマーブラシを簡便に導入することができないという問題がある。
【0008】
なお、特許文献1、2に開示されている方法では、重合系中から酸素を除去する必要がある。また、重合液中のモノマーの濃度を10体積%以上にする必要がある。さらに、重合液に環境負荷が大きいDMF等の有機溶媒を添加する必要がある。
【0009】
本発明の一態様は、上記従来技術が有する問題に鑑み、固体の表面に、所定のpHの水に浸漬した後の撥油性に優れるポリマーブラシを簡便に導入することが可能な表面改質方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、固体の表面に、アミノ基を導入する工程と、該表面にアミノ基が導入された固体と2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体を反応させて、前記固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する工程と、該表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体を、空気中で、水溶性モノマー、水、ATRP触媒用金属塩、ATRP触媒用配位子及び還元剤を含む重合液中に浸漬し、AGET ATRP法又はARGET ATRP法を用いて、前記水溶性モノマーを重合することにより前記固体の表面にポリマーブラシを導入する工程を有し、前記水溶性モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又はN−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドである。
【0011】
本発明の一態様は、固体の表面に、アミノ基を導入する工程と、該表面にアミノ基が導入された固体と2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体を反応させて、前記固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する工程と、該表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体に、空気中で、水溶性モノマー、水、ATRP触媒用金属塩、ATRP触媒用配位子及び還元剤を含む重合液を塗布し、AGET ATRP法又はARGET ATRP法を用いて、前記水溶性モノマーを重合することにより前記固体の表面にポリマーブラシを導入する工程を有し、前記水溶性モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又はN−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、固体の表面に、所定のpHの水に浸漬した後の撥油性に優れるポリマーブラシを簡便に導入することが可能な表面改質方法を提供することができる。


【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1−1の重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す図である。
図2】実施例1−1のポリマーブラシの断面のSEM写真である。
図3】実施例1−1、1−2の重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す図である。
図4】比較例1の重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す図である。
図5】実施例3−1〜3−7の重合液中のアスコルビン酸の濃度に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を図面と共に説明する。
【0016】
表面改質方法は、固体の表面に、アミノ基又はヒドロキシル基を導入する工程と、表面にアミノ基又はヒドロキシル基が導入された固体と2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体を反応させて、固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する工程と、表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体を、空気中で、水溶性モノマー、水、ATRP触媒用金属塩、ATRP触媒用配位子及び還元剤を含む重合液中に浸漬し、AGET ATRP法又はARGET ATRP法を用いて、水溶性モノマーを重合することにより固体の表面にポリマーブラシを導入する工程を有する。このため、固体の表面にポリマーブラシを簡便に導入することができる。
【0017】
水溶性モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、(メタ)アクリルアミド、N−2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又はN−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドである。このため、所定のpHの水に浸漬した後の撥油性に優れるポリマーブラシを形成することができる。
【0018】
重合液中の水溶性モノマーの濃度は、1〜50体積%であることが好ましく、5〜45体積%であることがさらに好ましい。重合液中の水溶性モノマーの濃度が1体積%以上であることにより、コストを低減することができ、50体積%以下であることにより、環境負荷を低減することができる。
【0019】
固体としては、特に限定されないが、金属、金属酸化物、合金、半導体、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
【0020】
固体の表面の形状としては、特に限定されないが、平面、曲面、凹凸面、ポーラス面等が挙げられる。
【0021】
このとき、重合液が水を含むため、室温下、短時間で水溶性モノマーを重合させることができ、固体の表面に、厚いポリマーブラシを導入することができる。
【0022】
重合液は、水と混和することが可能な有機溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0023】
水と混和することが可能な有機溶媒としては、特に限定されないが、エタノール等が挙げられる。
【0024】
ATRP触媒用金属塩としては、酸化された後又はそれ自体が重合液に含まれる還元剤により還元されることが可能であれば、特に限定されないが、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化チタン(II)、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、塩化モリブデン(III)、塩化モリブデン(V)、塩化ルテニウム(III)等が挙げられる。
【0025】
水溶性モノマーに対する触媒用金属塩のモル比は、0.004〜0.03であることが好ましい。
【0026】
ATRP触媒用配位子としては、特に限定されないが、2,2’−ビピリジル、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジル、4,4’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビピリジル、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジル、N−ブチル−2−ピリジルメタンイミン、N−オクチル−2−ピリジルメタンイミン、N−ドデシル−N−(2−ピリジルメチレン)アミン、N−オクタデシル−N−(2−ピリジルメチレン)アミン、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(2−ピリジルメチル)アミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、1,4,8,11−テトラメチル−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン等が挙げられる。
【0027】
ATRP触媒用金属塩に対するATRP触媒用配位子のモル比は、0.50〜1.5である。
【0028】
還元剤としては、特に限定されないが、アスコルビン酸、グルコース、ジ−n−ブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)等が挙げられる。中でも、環境負荷が小さく、強力な還元作用を示すことから、アスコルビン酸が好ましい。
【0029】
ATRP触媒用金属塩に対する還元剤のモル比は、0.30〜50であることが好ましく、7〜31であることがさらに好ましい。ATRP触媒用金属塩に対する還元剤のモル比が0.30以上であることにより、重合系中の還元体としてのATRP触媒用金属塩(例えば、塩化銅(I))の濃度の低下を抑制することができ、50以下であることにより、重合停止反応を抑制することができる。
【0030】
固体の表面にアミノ基又はヒドロキシル基を導入する方法としては、特に限定されないが、アミノ基又はヒドロキシル基を有するシランカップリング剤で固体の表面を処理する方法等が挙げられる。
【0031】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
ヒドロキシル基を有するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸誘導体としては、特に限定されないが、2−ブロモイソブチリルブロミド、2−ブロモイソブチリルクロリド、2−ブロモイソブチリルヨージド、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸プロピル等が挙げられる。
【0034】
上記以外の固体の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入する方法としては、3−(2−ブロモイソブチリルアミノ)プロピルトリアルコキシシラン又は3−(2−ブロモイソブチリルオキシ)プロピルトリアルコキシシランを固体の表面に化学気相蒸着させる方法、3−(2−ブロモイソブチリルアミノ)プロピルトリアルコキシシラン又は3−(2−ブロモイソブチリルオキシ)プロピルトリアルコキシシランを含み、必要に応じて、テトラアルコキシシランをさらに含むゾルゲル溶液を固体の表面に塗布する方法等が挙げられる。
【0035】
ゾルゲル溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法等が挙げられる。
【0036】
アルコキシシランにおけるアルコキシ基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0037】
なお、表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体を重合液中に浸漬する代わりに、表面に2−ブロモイソブチリル基が導入された固体に重合液を塗布してもよい。
【0038】
この場合、重合液は、増粘剤をさらに含んでいてもよい。これにより、重合液のはじきを防ぎ、固体の表面に重合液を均一に塗布することができる。
【0039】
増粘剤としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0040】
重合液の塗布方法としては、特に限定されないが、筆又は刷毛を用いて、重合液を塗布する方法、スポイトを用いて、重合液を滴下する方法等が挙げられる。
【0041】
なお、重合液が塗布された固体の表面を被覆材で被覆してもよい。これにより、重合液を固体の表面全体に均一に行き渡らせることができる。
【0042】
被覆材としては、特に限定されないが、濾紙、フィルム等が挙げられる。
【0043】
表面改質材料は、前述の表面改質方法により表面が改質されている。
【0044】
表面改質材料のポリマーブラシの厚さは、4〜700nmであることが好ましい。
【0045】
pHが2である酸水溶液に浸漬した後の表面改質材料のn−ヘキサデカンに対する前進接触角(θ)及び後退接触角(θ)は、150°以上であることが好ましい。
【0046】
pHが2である酸水溶液に浸漬した後の表面改質材料のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスθ−θは、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがさらに好ましい。このため、5°以下の傾斜角(滑落角という)で油滴を滑落させることができ、撥油性(液滴除去能及び防汚性)に優れる表面改質材料が得られる。
【0047】
表面改質材料は、pHが異なる酸水溶液又は塩基水溶液に浸漬すると、油滴に対する前進接触角(θ)、後退接触角(θ)、接触角ヒステリシス(θ−θ)及び滑落角が変化する。この表面改質材料のpH応答性は、繰り返し機能する。
【0048】
pHが10である塩基水溶液に浸漬した後の表面改質材料のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスθ−θに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後の表面改質材料のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスθ−θの比は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがさらに好ましい。このため、浸漬する水のpHの変化による撥油性の変化が大きい。
【0049】
表面改質材料は、潤滑処理、抗菌処理、防汚処理、超撥水/撥油処理、刺激応答性表面等に適用することができる。
【実施例】
【0050】
[前処理基板の作製]
1cm×1cmのシリコン基板をエタノール中で5分間超音波洗浄した後、窒素気流中で乾燥させた。次に、1×10Paで30分間オゾン洗浄した後、約100μLの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と共に、密封式のテフロン(登録商標)容器に入れ、100℃で60分間加熱処理した。これにより、シリコン基板の表面に存在するシラノール基と、APTESのトリエトキシシリル基を、脱水縮合させ、シリコン基板の表面にアミノ基を導入した。さらに、シリコン基板に吸着している余分なAPTESをトルエンでリンスした後、窒素気流中で乾燥させた。次に、アミノ基が導入されたシリコン基板を、ATRP開始剤としての、2−ブロモイソブチリルブロミド(BIBB)を0.1M1,4−ジオキサン溶液に一晩浸漬し、シリコン基板の表面に2−ブロモイソブチリル基を導入し、前処理基板を得た。
【0051】
[実施例1−1]
AGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(PDMAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)8mL、水7mL、塩化銅(II)16mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン50μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液20μLを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0052】
図1に、重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0053】
図1から、ポリマーブラシの厚さは、約30分間のインキュベーション期間の後、約2nm/minで直線的に増加し、重合を開始してから約200分後に300nmに達していることがわかる。ポリマーブラシの厚さが直線的に増加していることから、重合が高いレベルで制御されており、成長するポリマー鎖の端末にブロモ基又はクロロ基が保持されていることが示唆される。ポリマーブラシの厚さが300nmに達した後、ポリマーブラシの厚さの増加は緩やかになった。これは、成長するポリマー鎖の末端のブロモ基又はクロロ基が減少することにより、成長するポリマー鎖の数が減少したためであると考えられる。その結果、ポリマーブラシの厚さは、重合を開始してから1380分後に、670nmに達していた。
【0054】
なお、ポリマーブラシの厚さは、エリプソメーターを用いて測定した。
【0055】
図2に、ポリマーブラシの断面のSEM写真を示す。
【0056】
図2から、ポリマーブラシが平滑で均質であることがわかる。
【0057】
[実施例1−2]
塩化銅(II)、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン及びアスコルビン酸の1mg/mL水溶液の添加量を、それぞれ8mg、25μL及び10μLに変更した以外は、実施例1−1と同様にして、表面改質基板を得た。
【0058】
図3に、実施例1−1、1−2の重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0059】
図3から、塩化銅(II)、ペンタメチルジエチレントリアミン及びアスコルビン酸の添加量が実施例1−1の半量である実施例1−2では、インキュベーション期間が実施例1−1における約30分間から約80分間に増加することがわかる。これは、Cu(I)がCu(II)に酸化することにより、重合反応を阻害する酸素を重合系から除去する速度が遅くなるためであると考えられる。また、実施例1−1では、重合を開始してから約30分後にポリマーブラシが急激に成長するのに対し、実施例1−2では、重合を開始してから約160分後に、ポリマーブラシが急激に成長する。これは、ポリマーブラシの成長速度が、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]に比例することに起因するためである。実施例1−2では、重合を開始してから80分後に、重合系中のCu(I)の存在量が少ないため、ポリマーブラシの成長が遅い。一方、重合を開始してから120分後に、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]の存在量が増加するため、ポリマーブラシの成長が速くなり、重合を開始してから約160分後に、重合系からほぼ全ての酸素が除去され、重合系中の[Cu(I)]/[Cu(II)]は最大になり、一定になる。
【0060】
[実施例2]
ARGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル)(PDEAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル(DEAEMA)8mL、水3mL、エタノール4mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた。次に、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液1mLを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で24時間重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。表面処理基板に導入されているポリマーブラシは、厚さが70nmであった。
【0061】
[比較例1]
AGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリメタクリル酸ナトリウムのポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸ナトリウム3g、水4.6mL、塩化銅(II)8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン25μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸の1mg/mL水溶液10μLを加えて約2分間攪拌し、重合液を得た。次に、前処理基板を重合液中に浸漬して重合を開始した後、ガラス瓶をPTFE製のネジ蓋で密封した。このとき、重合液を脱気していないため、ガラス瓶には約4mLの空気が含まれていた。さらに、攪拌せずに、室温下(23〜28℃)で重合した後、ガラス瓶からポリマーブラシが導入されたガラス基板を取り出して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0062】
図4に、重合時間に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0063】
図4から、ポリマーブラシの厚さは、インキュベーション期間を経ずに増加するが、重合を開始してから1320分後に、150nmに達していることがわかる。
【0064】
次に、実施例1−1、2、比較例1の表面改質基板の所定のpHの水に浸漬した後の撥油性を評価した。このとき、実施例1−1の表面改質基板としては、厚さが20nmのポリマーブラシが導入されている基板を用い、実施例2の表面改質基板としては、厚さが29nmのポリマーブラシが導入されている基板を用い、比較例1の表面改質基板としては、厚さが87nmのポリマーブラシが導入されている基板を用いた。
【0065】
[所定のpHの水に浸漬した後の撥油性]
pHが2である酸水溶液又はpHが10である塩基水溶液に、表面改質基板を浸漬した後、自動接触角計DM−501Hi(協和界面科学社製)を用いて、n−ヘキサデカン3μLに対する前進接触角θ及び後退接触角θを25℃で測定した。次に、式
θ−θ
から、接触角ヒステリシスΔθを算出した。
【0066】
表1に、実施例1−1、2、比較例1の表面改質基板のpHが2である酸水溶液又はpHが10である塩基水溶液に浸漬した後の撥油性の評価結果を示す。
【0067】
【表1】
なお、ΔpHは、pHの変化よるθ及びθの変化を意味する。
【0068】
表1から、実施例1−1、2の表面改質基板は、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθが、それぞれ4°、8°であるため、5°以下の傾斜角(滑落角という)で油滴を滑落させることができ、撥油性(液滴除去能及び防汚性)に優れる。
【0069】
また、実施例1−1、2の表面改質基板は、pHが10である塩基水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθの比が、それぞれ0.04、0.08であるため、浸漬する水のpHの変化による撥油性の変化が大きい。
【0070】
これに対して、比較例1の表面改質基板は、pHが10である塩基水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθに対する、pHが2である酸水溶液に浸漬した後のn−ヘキサデカンに対する接触角ヒステリシスΔθの比が9であるため、浸漬する水のpHの変化による撥油性の変化が小さい。
【0071】
[実施例3−1]
ARGET ATRP法を用いて、前処理基板の表面に、ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(PDMAEMA)のポリマーブラシを導入した。具体的には、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(DMAEMA)0.8mL、水15.2mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸1mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0072】
スポイトを用いて、前処理基板に重合液を数滴滴下して重合を開始した後、重合液が滴下された前処理基板の表面をワットマン濾紙で被覆した。さらに、室温下(23〜28℃)で90分間重合した後、ワットマン濾紙を剥離して、水で十分にリンスし、表面改質基板を得た。
【0073】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0074】
[実施例3−2〜3−7]
アスコルビン酸の添加量を、2mg、10mg、20mg、30mg、40mg、80mgに変更した以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。
【0075】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0076】
図5に、重合液中のアスコルビン酸の濃度に対するポリマーブラシの厚さの関係を示す。
【0077】
なお、ポリマーブラシの厚さは、エリプソメーターを用いて測定した。
【0078】
図5から、重合液中のアスコルビン酸の最適濃度は0.2M(30mg添加)であることがわかった。ここで、重合液中のアスコルビン酸の濃度が低い場合、重合速度は遅いが、重合が制御されるため、厚さが大きいポリマーブラシが導入されると考えられる。しかしながら、重合液中のアスコルビン酸の濃度が低い場合、溶液中の酸素が再生成したCu(I)を酸化して、アスコルビン酸が短時間で消費されるため、短時間で重合が停止すると考えられる。一方、重合液中のアスコルビン酸の濃度が高い場合、重合系中のポリマーラジカルの濃度が高くなりやすいため、重合の初期に停止反応が起こりやすく、結果として、ポリマーブラシの厚さが小さくなると考えられる。
【0079】
[実施例4]
DMAEMA4.8mL、水7.0mL、塩化銅(II)8.0mg、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン50μL及びポリビニルアルコール0.50gを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸0.01mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0080】
得られた重合液を用い、重合液が滴下された前処理基板の表面をワットマン濾紙で被覆しなかった以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。ポリマーブラシは、厚さが4〜6nmであった。
【0081】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0082】
[実施例5]
DMAEMA0.8mL、水15.2mL、塩化銅(II)2.8mg及びN,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン5μLを20mLのガラス瓶に入れた後、アスコルビン酸20mgを加えて、約2分間攪拌し、重合液を得た。
【0083】
得られた重合液を用いた以外は、実施例3−1と同様にして、表面改質基板を得た。ポリマーブラシは、厚さが10nmであった。
【0084】
表面改質基板を水に浸漬した後、n−ヘキサデカンを表面改質基板に滴下すると、n−ヘキサデカンの液滴は、表面改質基板の表面を自由に動くことができた。このことから、表面改質基板は、水に浸漬した後の撥油性に優れることがわかった。
【0085】
本国際出願は、2014年4月25日に出願された日本国特許出願2014−091865号及び2014年5月8日に出願された日本国特許出願2014−097191号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2014−091865号及び日本国特許出願2014−097191号の全内容を本国際出願に援用する。
図1
図2
図3
図4
図5