特許第6230028号(P6230028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230028
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】粘膜ワクチン用アジュバント
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20171106BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20171106BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20171106BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   A61K39/39ZNA
   A61K38/00
   A61K39/12
   A61K39/02
   A61P31/00
【請求項の数】10
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-551032(P2014-551032)
(86)(22)【出願日】2013年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2013081459
(87)【国際公開番号】WO2014087849
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-265532(P2012-265532)
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス:http://www.jsps.go.jp/j−jisedai/data/life/h23_jishi/LS082.pdf 電気通信回線発表日:平成24年11月16日 公開者 :藤永 由佳子
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】藤永 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】松村 拓大
(72)【発明者】
【氏名】油谷 雅広
(72)【発明者】
【氏名】城内 直
【審査官】 安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】 Jae-Chul Lee, et al.,Production of anti-neurotoxin antibody is enhanced by two subcomponents, HA1 and HA3b, of Clostridiu,Microbiology,2005年,151,3739-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39
A61K 38/00
A61K 39/02
A61K 39/12
A61P 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す、ボツリヌス毒素の赤血球凝集素(HA)のサブコンポーネントHA1、HA2、及びHA3から形成される複合体タンパク質を含む、粘膜ワクチン用アジュバント。
HA1(第1成分)
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若し
くは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(a)のタンパク質と同等の機能を有す
るタンパク質
HA2(第2成分)
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若し
くは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(c)のタンパク質と同等の機能を有す
るタンパク質
HA3(第3成分)
(e)配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(f)配列番号3に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若し
くは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(e)のタンパク質と同等の機能を有す
るタンパク質
【請求項2】
ワクチン抗原と同時、またはワクチン抗原投与前または抗原投与後に使用する、請求項に記載のアジュバント。
【請求項3】
前記ワクチン抗原が、サブユニット抗原または不活化抗原である、請求項に記載のアジュバント。
【請求項4】
前記ワクチン抗原が、粘膜感染症の病原体由来の抗原である、請求項2または3に記載のアジュバント。
【請求項5】
前記粘膜感染症の病原体が、ウイルスまたは細菌である、請求項に記載のアジュバント。
【請求項6】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、水痘ウ
イルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイル
ス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイル
ス、または肝炎ウイルスである、請求項に記載のアジュバント。
【請求項7】
前記細菌が、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、破傷風
菌、またはコレラ菌である、請求項に記載のアジュバント。
【請求項8】
経粘膜投与される、請求項1〜のいずれかに記載のアジュバント。
【請求項9】
経粘膜投与が、鼻腔内投与である、請求項に記載のアジュバント。
【請求項10】
ワクチン抗原と、請求項1〜のいずれかに記載のアジュバントを含む、粘膜ワクチン製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効かつ安全な粘膜ワクチン用アジュバント、ならびに当該アジュバントとワクチン抗原を含む粘膜ワクチン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インフルエンザやエイズなどの感染症から生体を防御する免疫機構として、呼吸器・消化器・生殖器などを覆う粘膜における免疫機構が明らかにされつつある。例えば、インフルエンザウイルス感染により誘導される免疫には、粘膜上に分泌されるIgA抗体、血中に誘導されウイルスを中和するIgG抗体、及び感染細胞を溶解しウイルスの伝搬を阻止する細胞障害性T細胞等が関与する。このような粘膜免疫機構は、感染の初期段階に存在する免疫系であり、感染時または感染初期における生体防御において重要な役割を果たしている。よって、病原体が侵入する門戸の第一次バリアである粘膜面での感染を防御する免疫系を誘導する粘膜ワクチンは、様々な粘膜感染症に対して有効であるといえる。
粘膜ワクチンは、経鼻などの経粘膜投与によって、粘膜組織中に分泌型IgA抗体を産生させるとともに、血清中にIgG抗体を産生させる。よって、粘膜ワクチンは、病原体に対して粘膜系及び全身系の両方で免疫応答を誘導でき、また、操作性・安全性・経済性のいずれの点においても従来の注射によるものより優れていることから、新たなワクチンとして臨床への応用が期待され、その開発が進められている。
その一方、粘膜ワクチンは、抗原を単独で投与しても十分な免疫応答を誘導することができず、粘膜面に効果的な免疫応答を誘導するために粘膜ワクチン用アジュバントとの併用が不可欠であることが明らかとなっている。これまで、粘膜ワクチン用アジュバントとして、多くの報告があり、例えばコレラ毒素(cholera toxin:CT)や毒素原性大腸菌の易熱性毒素(heat−labile enterotoxin:LT)のような細菌内毒素が粘膜免疫を活性化する代表的なアジュバントとして知られている(非特許文献1、2)。しかしながら、LTの経鼻投与によって、顔面神経麻痺(ベル麻痺)を起こすという臨床治験があり、現在ではCTやLTのような毒素そのものを経鼻のアジュバントとして開発を進めることは、安全性の面で問題があると認識されている。また、毒素ではないが、エンドトキシンLPSの活性を減弱したMPLや、細菌の鞭毛タンパク質Flagellin(特許文献1)、二本鎖RNA(Poly(I:C))(特許文献2)なども、粘膜免疫活性化のアジュバントとして研究されているが、いずれも過剰な炎症反応を誘発するため、これらもまた安全性の面において満足できるものとはいえない。よって、有効かつ安全な粘膜ワクチン用アジュバントが実用化には至っていないのが現状である。
一方、食中毒の原因となるボツリヌス菌の産生するボツリヌス神経毒素(NTX)は赤血球凝集素(HA)及び赤血球凝集活性を示さない無毒成分(NTNH)が結合し、分子量が30万、50万、90万という巨大な神経毒素複合体(progenitor toxin:PTX)を形成している。ボツリヌス毒素は、ボツリヌス中毒においては神経伝達を遮断して致死をもたらす毒素であるが、逆にその活性を積極的に利用して、有用な神経伝達阻害剤として医療に用いられている。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体(BOTOX)は、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、斜視などの治療やしわ改善に用いられることが知られている。上記の神経毒素複合体のうち、無毒成分である赤血球凝集素(HA)は、基底膜側で上皮細胞のバリア機能を破壊し、ボツリヌス神経毒素や巨大分子を輸送させる機能があることがわかっている。また、NTX及びアルブミン抗原を用い、HAと共にマウスに皮下投与すると、IL−6産生を介して、抗原特異的な血中抗体産生が増強される(非特許文献3)。特許文献3、4にはHAのサブコンポーネント(HA1またはHA3)のアジュバント活性や核酸の細胞内導入キャリアーとしての利用について記載されているが、HAのサブコンポーネント(HA1、HA2、HA3)から形成される複合体タンパクについては検討されていない。本発明者らは、HAの作用点がパイエル板の上皮細胞層に存在するM細胞(パイエル板M細胞)であり、神経毒素複合体が、HAによりM細胞からトランスサイトーシスにより基底側へ移行し、侵入することを報告している(非特許文献4)。しかしながら、この研究では神経毒素複合体(毒素部分を結合したHA)の腸管上皮バリア通過機能を調べたものであり、毒素部分を含まないHA単独でのM細胞への作用や粘膜感染症のワクチンのデリバリーアジュバント作用についてはこれまで検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/070455
【特許文献2】特開2005−97267号公報
【特許文献3】特開2009−132686号公報
【特許文献4】特表2009−81997号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Xu−Amano,et al.,J.Exp.Med.,178,1309(1993)
【非特許文献2】I.Takahashi,et al.,J.Infect.Dis.173,627(1996)
【非特許文献3】J.Lee,et al.,Microbiology,151,3739(2005)
【非特許文献4】松村拓大他,日本細菌学雑誌64(1)79(2009)
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明の目的は、粘膜に十分な免疫応答を誘導し、安全性の高い粘膜ワクチン用アジュバントを提供することにある。
発明者らは、ボツリヌス毒素の無毒性成分である赤血球凝集素(HA)に着目し、HAのサブコンポーネント(HA1、HA2、HA3)から形成される複合体タンパクをオボアルブミン抗原またはインフルエンザHA抗原とともにマウスに経鼻投与したところ、いずれも血清中にIgG抗体、粘膜上に分泌型IgA抗体の産生が促進され、粘膜系及び全身系の両者において免疫誘導されること、またCpGやLPS刺激による自然免疫(IL−6産生等)に影響を与えないことを確認し、上記複合体タンパク質が非炎症誘発性の粘膜ワクチン用アジュバントとして有効であるという知見を得、本発明を完成させるに至った。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)ボツリヌス毒素の赤血球凝集素(HA)のサブコンポーネントHA1、HA2、及びHA3から形成される複合体タンパク質を含む、粘膜ワクチン用アジュバント。
(2)前記複合体タンパク質が以下の第1成分、第2成分、及び第3成分から形成される、(1)に記載のアジュバント。
第1成分:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(a)のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質
第2成分:
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(c)のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質
第3成分:
(e)配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;または
(f)配列番号3に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ前記(e)のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質
(3)ワクチン抗原と同時、またはワクチン抗原投与前または抗原投与後に使用する、(1)または(2)に記載のアジュバント。
(4)前記ワクチン抗原が、サブユニット抗原または不活化抗原である、(3)に記載のアジュバント。
(5)前記ワクチン抗原が、粘膜感染症の病原体由来の抗原である、(3)または(4)に記載のアジュバント。
(6)前記粘膜感染症の病原体が、ウイルスまたは細菌である、(5)に記載のアジュバント。
(7)前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、水痘ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、RSウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、または肝炎ウイルス(A型、B型、C型)である、(6)に記載のアジュバント。
(8)前記細菌が、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、破傷風菌、またはコレラ菌である、(6)に記載のアジュバント。
(9)経粘膜投与される、(1)〜(8)のいずれかに記載のアジュバント。
(10)経粘膜投与が、鼻腔内投与である、(9)に記載のアジュバント。
(11)ワクチン抗原と、(1)〜(10)のいずれかに記載のアジュバントを含む、粘膜ワクチン製剤。
本発明のアジュバントは、インフルエンザウイルス等の粘膜感染症の病原体に由来する抗原とともに鼻腔内などの粘膜に投与すると、血清中にIgG抗体、粘膜上に分泌型IgA抗体の産生が促進され、抗原特異的な全身系及び粘膜系免疫応答が増強される。従って、本発明のアジュバントは呼吸器疾患または消化器疾患のための粘膜ワクチン用アジュバントとして有用である。しかも本発明のアジュバントはボツリヌス毒素の無毒成分である赤血球凝集素(ヘマグルチニン:HA)のサブコンポーネントを用いる点、また、自然免疫に影響を与えず、粘膜投与時における炎症が生じにくい点において非常に安全が高い。
本願は、2012年12月4日に出願された日本国特許出願2012−265532号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、実施例1のボツリヌスHA(BHA)複合体作製に用いた組換えボツリヌスHA1−3のアミノ酸配列を示す。下線部はベクター由来のアミノ酸配列(FLAGタグ配列:配列番号7、Strepタグ配列;配列番号8)を示す。
図2は、BHA複合体のゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる精製を示す。
図3は、ボツリヌスHAのサブコンポーネントHA1、HA2、HA3単独のM細胞配向性(濾胞関連上皮(FAE:follicle−associated epithelium)におけるサブコンポーネントの局在を観察した顕微鏡写真)を示す。
図4は、ボツリヌスHAのHA2+3複合体、HA1+2+3複合体のM細胞配向性(濾胞関連上皮(FAE:follicle−associated epithelium)における複合体の局在を観察した顕微鏡写真)を示す。
図5は、血中のオボアルブミン特異的IgGの産生量、及び鼻腔洗浄液、気管洗浄液中のオボアルブミン特異的IgAの産生量をELISAにて測定した結果を示す(OVA:オボアルブミン単独投与群、OVA+CTB:オボアルブミン+コレラ毒素Bサブユニット投与群、OVA+BHA:オボアルブミン+BHA複合体投与群、Reciprocal log2 titer:免疫前のサンプルよりも吸光度が0.1以上高い最大希釈倍率の逆数の対数で表した抗体価)。
図6は、BHA複合体による自然免疫活性化(IL−6産生量)を示す。
図7は、血中のインフルエンザ抗原特異的IgGの産生量をELISAにて測定した結果を示す(SV:インフルエンザスプリットワクチン単独投与群、SV+BHA:インフルエンザスプリットワクチン+BHA複合体投与群、SV+CTB:インフルエンザスプリットワクチン+コレラ毒素Bサブユニット投与群、NC:無投与群。***p<0.0001 **p<0.001 *p<0.01)。
図8は、鼻腔洗浄液中、肺胞洗浄液中のインフルエンザ抗原特異的IgAの産生量をELISAにて測定した結果を示す(SV:インフルエンザスプリットワクチン単独投与群、SV+BHA:インフルエンザスプリットワクチン+BHA複合体投与群、SV+CTB:インフルエンザスプリットワクチン+コレラ毒素Bサブユニット投与群、NC:無投与群。***p<0.0001 **p<0.001 *p<0.01)。
図9は、血中のインフルエンザ抗原特異的IgGの産生量をELISAにて測定した結果を示す(SV:インフルエンザスプリットワクチン単独投与群、SV+BHA:インフルエンザスプリットワクチン+BHA複合体投与群、SV+BHA1−3:インフルエンザスプリットワクチン+BHA1、BHA2、またはBHA3投与群、SV+CTB:インフルエンザスプリットワクチン+コレラ毒素Bサブユニット投与群、NC:無投与群。***p<0.0001 **p<0.001 *p<0.01)。
図10は、鼻腔洗浄液中、肺胞洗浄液中のインフルエンザ抗原特異的IgAの産生量をELISAにて測定した結果を示す(SV:インフルエンザスプリットワクチン単独投与群、SV+BHA:インフルエンザスプリットワクチン+BHA複合体投与群、SV+BHA1−3:インフルエンザスプリットワクチン+BHA1、BHA2、またはBHA3投与群、SV+CTB:インフルエンザスプリットワクチン+コレラ毒素Bサブユニット投与群、NC:無投与群。***p<0.0001 **p<0.001 *p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の粘膜ワクチン用アジュバント(以下、単に「アジュバント」という)は、ボツリヌス毒素の赤血球凝集素(HA)のサブコンポーネントであるHA1、HA2、及びHA3から形成される複合体タンパク質である。本発明において、「アジュバント」とは、ワクチン抗原の免疫原性を高める目的で投与される物質をいう。
ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生する毒素の抗原性の違いによりA〜G型に分類されるが、本発明のアジュバントにおけるボツリヌス毒素複合体は、A型またはB型が好ましい。
本発明のアジュバントに含まれる複合体タンパク質の第1成分はボツリヌス毒素複合体のHA1、第2成分はボツリヌス毒素複合体のHA2、第3成分はボツリヌス毒素複合体のHA3であり、HA1、HA2、HA3として、具体的には、それぞれ配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質を用いる。本発明のアジュバントとして、上記第1成分、第2成分及び第3成分からなる複合体タンパク質が好ましい。
また、複合体タンパク質を形成する上記3つのタンパク質は、それぞれ配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の活性を有する限り、それらの変異タンパク質であってもよい。ここで、「同等の活性を有する」とは、それぞれの変異タンパク質から形成される複合体タンパク質が、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質から形成される複合体タンパク質と同等の粘膜アジュバント活性を有することをいう。また、「粘膜アジュバント活性」とは、ワクチン抗原と共に経粘膜投与した時に、該抗原に対する特異的抗体の産生を粘膜系及び全身系の両者において増強する活性をいう。好適には、自然免疫への影響が軽微であり、かつ該抗原に対する特異的抗体の産生を粘膜系及び全身系の両者において増強する活性、さらに好適には自然免疫へ影響を与えず、かつ該抗原に対する特異的抗体の産生を粘膜系及び全身系の両者において増強する活性をいう。そのような変異タンパク質としては、例えば、配列番号1、2、または3に示すアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。ここで、「1から数個」の範囲は、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により欠失、置換、若しくは付加できる程度の数をいい、前記の活性を保持する限り、その個数は制限されないが、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個をいう。また、変異タンパク質としては、配列番号1、2、または3に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパクであってもよい。ここで、「90%以上の同一性」とは、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上の配列の同一性をいう。アミノ酸配列の同一性は、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。また、ここにいう「変異」は、主には公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
本発明のアジュバントの作製方法は、特に限定されない。上記の複合体タンパク質は、天然物由来であってもよく、該複合体タンパク質を形成するそれぞれのタンパク質を遺伝子組換え法により製造し、それらを用いて複合体を形成させる方法により取得されたものであってもよい。遺伝子組換え法により作製する場合は、各タンパク質をコードする遺伝子を用い、自体公知の方法により行えばよい。すなわち、HA1、HA2、HA3は、それぞれ配列番号1、2、3に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子(塩基配列をそれぞれ配列番号4、5、6に示す)を含む発現ベクターを構築して適当な宿主細胞に導入し培養することによって製造することができる。HA1、HA2、HA3の変異タンパク質は、それぞれ配列番号1、2、3に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子に対して、例えば部位特異的突然変異誘発法などを適用することにより、変異タンパク質をコードする遺伝子を得、その遺伝子を用いて同様に周知の組換えDNA法により製造することができる。これらの製造については、具体的にはMolecular Clonin 2nd Edt.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書を参考にして容易に行うことができる。あるいは、上記したHA1、HA2、HA3は、そのアミノ酸配列に基づいて化学的に合成することにより製造することもできる。
製造したHA1、HA2、HA3タンパク質は、リン酸緩衝液などの溶媒中で2〜8時間、好ましくは3〜5時間、さらに好ましくは3時間、25〜40℃、好ましくは37℃でインキュベートすることにより複合体を形成させることができる。また、HA1、HA2、HA3タンパク質から融合タンパク質を作製してもよい。融合タンパク質を作製する方法は、HA1、HA2、HA3タンパク質をそれぞれコードするDNA断片をフレームが合うように結合して適当な発現ベクターに導入し、これを適当な宿主により転写、翻訳させてタンパク質を発現させる公知の方法を用いることができる。
本発明のアジュバントの生体への投与は、通常はワクチン抗原と同時に投与するが、ワクチン抗原投与前または抗原投与後に投与してもよい。また、アジュバントをワクチン抗原と同時に投与する場合は、ワクチンと実質的に同時に投与すればよく、例えば、アジュバントとワクチン抗原を対象に対して完全に同時に投与してもよいし、一定の時間内(好ましくは数分以内)に連続的に投与してもよい。
上記ワクチン抗原は、不活化抗原またはサブユニット抗原であることが好ましい。不活化抗原とは、感染能を失わせた病原体(ウイルス、細菌等)の抗原をいい、完全ウイルス粒子であるビリオン、不完全ウイルス粒子、ビリオン構成粒子、ウイルス非構造タンパク質、感染防御抗原、中和反応のエピトープなどが挙げられる。不活化するための処理は、物理的処理(X線、熱、超音波など)、化学的処理(ホルマリン、水銀、アルコール、塩素など)などが挙げられる。また、「サブユニットワクチン」とは、不活化ワクチンに含まれる様々な抗原のうち、ワクチンとしての有効成分である特定の抗原(感染防御抗原)のみを含むワクチンをいう。例えば、インフルエンザウイルスであれば、精製した表面抗原のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)だけを含むワクチンが挙げられる。
また、上記ワクチン抗原は、本発明のアジュバントとともに粘膜免疫応答を誘導しうる限り特に限定されないが、典型的には、粘膜感染症の病原体由来の抗原である。粘膜感染症の病原体はウイルスであってもよく細菌であってよい。ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、水痘ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、RSウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型、C型)等が挙げられるが、これらに限定はされない。また、細菌としては、例えば、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、破傷風菌、コレラ菌等が挙げられるが、これらに限定はされない。これらの病原体由来の抗原は、天然物由来であってもよいし、遺伝子組換等の手法により人為的に作製されたものであってもよい。
また、上記ワクチン抗原には、減感作療法に用いるアレルゲンも含まれる。従って、本発明のアジュバントは、アレルゲンワクチン用のアジュバントとしても用いることができる。アレルゲンワクチンとは、生体にアレルゲンを投与することにより、アレルゲンに対するIgG抗体を生産させてアレルギーの原因となるIgEの作用をブロックし、あるいは生体内でアレルゲンに特異的な1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)を増加させ、アレルギー症状に関与する2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)を減少させるためのワクチンをいい、減感作によりアレルギー症状を抑制することができる。アレルゲンの種類は、特に限定はされないが、食物アレルゲン(カゼイン、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン、オボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミン等)、ハウスダストアレルゲン(ダニ類アレルゲン等)、花粉アレルゲン(スギ花粉アレルゲン、ブタクサアレルゲン、カモガヤアレルゲン等)、動物の体毛等のアレルゲンなどが挙げられる。
本発明のアジュバントは、上記粘膜ワクチン抗原と共に経粘膜投与される。「経粘膜投与」とは、粘膜を経由する投与形態をいう。粘膜には、消化器、呼吸器、泌尿生殖器など特に外通性の中腔器官の内壁が含まれ、具体的には、鼻腔、口腔、咽頭、肺胞、気管、賜管、膣等が挙げられるが、好ましくは鼻腔である。従って、経粘膜投与の形態には、例えば、鼻腔内、口腔内、肺胞内、気道内、膣内、直腸内投与が挙げられるが、鼻腔内投与が好ましい。アジュバント及び粘膜ワクチンの粘膜投与は、投与される部位に応じて適切な方法で行うことができる。例えば、経鼻または経口投与の場合は、鼻腔または口腔内に、噴霧、滴下、塗布するなどの方法を用いることができる。また、肺胞内投与の場合、吸入器または噴霧器を用いる方法、エアロゾル化剤を用いる処方による製剤を投与する方法により行うことができる。
本発明のアジュバントの投与量は、投与対象の年齢、体重、疾患の種類、投与方法、投与形態等によって異なるが、例えば、ワクチン抗原と同時に、通常成人一人あたり一回につき、経口投与の場合には10μg〜100mg、好ましくは1μg〜10mg、経鼻投与の場合0.1μg〜100mg、好ましくは1μg〜10mgが例示できる。投与対象には、アジュバントとともに用いるワクチン抗原の種類に応じて適宜決定することができ、ヒトのほか、ヒト以外の哺乳類、鳥類、甲殻類なども含まれる。
また、本発明のアジュバントをワクチン抗原とともに対象に投与する頻度は、投与対象の年齢、体重、既往歴、及び経過、疾患の種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。投与は、通常のワクチン製剤と同様、疾患が発生する前の適当な時期に、通常、1〜数回/日で、1日だけまたは1〜数週間の間隔で数回投与すればよい。投与は、経過を見ながら施すことが好ましく、少なくとも約1週間の間隔をあけて追加免疫をすることが好ましい。追加免疫の間隔は少なくとも約2週間が好ましい。追加免疫を行うことによって、より効果の高い感染防御効果を奏することができる。
本発明のアジュバントは、ワクチン抗原とともに同時に投与するために、薬理学的に許容され、剤型に応じた担体とともにワクチン抗原と混合し、公知の種々の方法にて製剤化してワクチン製剤としてもよい。
ワクチン製剤中のアジュバントの配合量は、組み合わせるワクチン抗原の種類によって適宜決定することができる。また、当該製剤におけるアジュバントの含有量も特に限定されることなく、経粘膜投与により十分な抗原免疫応答を誘導させることのできる量であればよいが、通常、製剤全体に対して0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜80重量%、より好ましくは1〜50重量%である。
本発明の粘膜ワクチン製剤の剤型としては、経粘膜投与できる剤型であれば特に限定されないが、例えば液剤、懸濁剤(懸濁液)、噴霧剤、粉末剤等が挙げられる。本発明の粘膜ワクチン製剤には、ワクチン製剤に通常使用される各種添加物、例えば、可溶化剤、凝集防止剤、粘度調節剤、pH調節剤、等張化剤、乳化剤、抗酸化剤、増量剤、界面活性剤、希釈剤、保存剤、安定化剤、防湿剤、保湿剤などを必要に応じて添加することができる。
本発明のワクチン製剤は、液状または乾燥した形態で、密栓したバイアル瓶、シリンジ、アトマイザー、熔封したアンプルに入れて提供することができる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、本実施例で得られたデータの統計処理は、student t−testを用いて行った。
【実施例1】
【0008】
ボツリヌスHA(BHA)複合体の作製
ボツリヌスHA(BHA)複合体を次の手順に従い作製した。
(1)プラスミドの作製
ボツリヌスHAサブコンポーネント(BHA1、BHA2、BHA3)のそれぞれのタンパク質(BHA1:配列番号1のアミノ酸配列の7−294位のアミノ酸配列からなるタンパク質、BHA2:配列番号2のアミノ酸配列の2−146位のアミノ酸配列からなるタンパク質、BHA3:配列番号3のアミノ酸配列の19−626位のアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする遺伝子を、それぞれ下記のプライマーを用いてClostridium botulinum B−Okra株のゲノムDNAをテンプレートとして、PCR法により増幅した。
(BHA1増幅用プライマー)
(BHA2増幅用プライマー)
(BHA3増幅用プライマー)
増幅したDNA断片について、BHA1、BHA2はpT7−FLAG−1(Sigma)のHindIII−SalI siteに挿入し、BHA3についてはpET52b(+)(Novagen)のKpnI−SalI siteに挿入した(pET−BHA3)。
(2)タンパク質発現
作製したプラスミドはそれぞれ単独で大腸菌株Rosetta2(DE3)(Novagen)にトランスフォームした。タンパク質発現誘導はOvernight Express Autoinduction system 1(Novagen)を用いて行った。BHA1及びBHA3は30℃で36時間、BHA2については18℃で40時間、タンパク質発現誘導を行った。大腸菌は遠心により回収し、−80℃で保存した。
(3)タンパク質精製及び複合体作製
BHA1、BHA2は、Anti−FLAG M2 agarose(Sigma)を用いて精製を行った。BHA3はStrepTrap HP(GE Healthcare)を用いて精製した。精製した組換え体タンパク質FLAG−BHA1、FLAG−BHA2、Strep−BHA3のアミノ配列を図1に示す。
それぞれ精製した組換え体タンパク質を、BHA1:BHA2:BHA3=4:4:1のモル比で混合し、37℃で3時間インキュベートした後、StrepTrap HPにより精製することにより、BHA複合体(BHA)を得た。
(4)ボツリヌスHA(BHA)複合体のゲルろ過クロマトグラフィー
実施例1で作製したBHA複合体(BHA)を、Superdex 200 10/300 GL(GE Healthcare)により分離した。本試験のBHA複合体(BHA)のHA1、HA2、HA3は、それぞれC末端FLAGタグHA1、N末端HisタグHA2、N末端StrepタグHA3を用いた。結果を図2に示す。
【実施例2】
【0009】
ボツリヌスHAサブコンポーネント単独または複合体のM細胞配向性
ボツリヌスA型のHA1、HA2、HA3(各600nM)をそれぞれAlexa 568でラベルし、マウス結紮腸管に注入し、2時間後の各HAサブコンポーネントの局在をコンフォーカル顕微鏡で観察した。M細胞は、FITC−labeled UEA−1で染色した。その結果、HA1、HA2、HA3それぞれ単独の場合では、M細胞への結合およびトランスサイトーシスは、ほとんど観察できなかった(図3)。
一方、ボツリヌスA型のHA2+3複合体、HA1+2+3複合体(各600nM)をそれぞれAlexa 568でラベルし、マウス結紮腸管に注入し、2時間後の各複合体の局在をコンフォーカル顕微鏡で観察した。M細胞は、FITC−labeled UEA−1で染色した。その結果、HA2+3複合体の場合では、M細胞への結合およびトランスサイトーシスは、ほとんど観察できなかったが、HA1+2+3複合体の場合は、native 16S毒素の場合と同様にM細胞への結合およびトランスサイトーシスが観察された(図4)。従って、HAのM細胞配向性には、HA1とHA2とHA3が複合体(complex)を形成することが必須であることが確認できた。
【実施例3】
【0010】
オボアルブミン(OVA)を用いたBHA複合体の経鼻アジュバント効果
マウス経鼻投与系で、モデル抗原(Ovoalbumin、OVA)を用い、ボツリヌスHA(BHA)の粘膜ワクチンアジュバントとしての有効性について検討を行った。BHAは、実施例1で作製したBHA複合体(BHA)を用いた。BALB/c(6週齢、一群3匹)にOVA5μgのみ、OVA5μg+BHA15μg、OVA5μg+コレラ毒素Bサブユニット2μg(陽性対照)をそれぞれ、一週間の間隔(0日、7日、14日、21日、28日)で5回経鼻投与し、34日目に血中のOVA特異的IgG、鼻腔洗浄液中のOVA特異的IgA、及び気管洗浄液中のOVA特異的IgAの産生をELISAにて測定した。
結果を図5に示す。OVA単独投与群では、鼻腔洗浄液及び気管洗浄液のいずれにもIgAの産生が認められず、血中IgGの弱い上昇が34日目にして観察された。OVA+BHA投与群及びOVA+コレラ毒素Bサブユニット投与群では、鼻腔洗浄液及び気管洗浄液中のIgA、及び血中IgGの産生が有意に上昇した。
【実施例4】
【0011】
BHA複合体アジュバントの自然免疫活性化能(IL−6産生能)の評価
未処理のマウス脾臓細胞を用いて、BHA複合体アジュバント処理によるIL−6サイトカインの産生量を測定し、BHA複合体アジュバントの自然免疫活性化能を評価した。
SPF環境下で飼育した未処理マウス(C57BL/6、6週齢、雌性、日本クレア株式会社から購入)の脾臓細胞を採取し、96wellプレートに1×10cells/wellの細胞密度で播種した。その後、BHA複合体(BHA)を20μg/mLの濃度から段階希釈し(20μg/mL、2μg/mL、0.2μg/mL)、脾臓細胞を刺激した。また、BHA複合体アジュバントと共にCpGオリゴDNA(K3又はD35、それぞれ20μg/mL)、またはLPS(1μg/mL)のTLRリガンドで共刺激を行った。刺激開始から24時間後に、培養上清を回収し、培養上清中のサイトカイン量(IL−6)を測定した(R&D systems)。結果を図6に示す。図6に示されるように、BHA複合体アジュバント単独によるIL−6産生は検出限界以下であった。TNF−α、IL−1β、IL−12産生も検出限界以下であった。また、BHA複合体アジュバントは、CpGやLPS刺激によるIL−6産生に影響を与えないことから、他の自然免疫活性化シグナルを増強、または抑制しないと考えられた。これらのことから、BHA複合体アジュバントは自然免疫活性化シグナルに影響を与えない、非炎症誘発型アジュバントであると示唆された。
【実施例5】
【0012】
インフルエンザHA抗原を用いたBHA複合体の経鼻アジュバント効果
インフルエンザスプリットワクチンを抗原として用いて、BHA複合体のアジュバント効果を評価した。
(1)実験動物及び材料
BALB/cマウス及びC57BL/6マウス(6週齢、雌性)は、日本クレア株式会社から購入した。飼育はSPF環境下で行った。
北里第一三共ワクチン株式会社から受領したマウス馴化A/Puerto Rico/8/34(H1N1)スプリット型ワクチン(以下、「スプリット型ワクチン」という)を免疫抗原として用いた。実験期間の間、抗原は4℃の暗所にて冷蔵保存した。
アジュバントとして、実施例1で作製したBHA複合体(BHA)を用いた。エンドトキシン含有量は、0.5EU/mL以下を精製の基準として設定した。保存は、−80℃で冷凍保存し、使用直前に融解し免疫に用いた。コレラトキシンアジュバント(CTB)は、マウス一匹あたり、1μgのコレラ毒素Bサブユニット(カタログ番号033−20611、和光純薬株式会社)と1μgのコレラ毒素(カタログ番号033−20621、和光純薬株式会社)を混合し、調製した。保存は、−80℃で冷凍保存し、使用直前に融解し免疫に用いた。
(2)試験方法
スプリット型ワクチン抗原1μgと、BHA複合体(BHA)アジュバント20μg、またはアジュバント2μgをPBS(−)で12μLになるよう調製し、一匹あたりのワクチン製剤とした。6週齢のマウスに、各ワクチン製剤を6μLずつ両鼻腔内に投与した。2週間隔で計4回(0日、14日、28日、42日)投与した。14日、28日、42日の追加免疫直前に、ケタラール(第一三共株式会社)/セラクタール(バイエル株式会社)を用いて麻酔し、眼窩静脈叢から採血した。得られた血液は、4℃で一晩静置し、卓上冷却遠心分離機により血清分離を行った(9100g、10分、4℃)。得られた血清検体は−20℃で冷凍保管した。BHA複合体のアジュバント効果を評価するため、血清検体のIgG(Total IgG、IgG1、IG2a、IG2c)を測定した。
免疫開始56日目にケタラール/セラクタールによる麻酔後、心臓穿刺により全採血を行い安楽殺処分とした。その直後に、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液をそれぞれ採取した。鼻腔洗浄液、肺胞洗浄は採取後、氷上またはELISAアッセイまで冷蔵保存した。
ELISAアッセイは次のとおり行なった。スプリットワクチン抗原を1μg/mLの濃度でプレートにコーティング(4℃、overnight)し、ブロッキングは1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)によって室温2時間静置し行った。試料血清は1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)を用いて、段階希釈した。2次抗体は、それぞれのサブクラスに準じたHRPラベル抗体を用いた。発色後にプレートリーダーを用いてODを計測し、インフルエンザ抗原特異的な抗体産生量を計測した。鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液は1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)を用いて段階希釈し、BHA複合体アジュバントによる抗原特異的粘膜免疫の増強効果を評価するため、インフルエンザ抗原特異的な粘膜IgA産生量を測定した。
(3)試験結果
インフルエンザ抗原に特異的な血中IgGの測定結果(免疫開始56日目)を図7に示す。
図7に示されるように、BHA複合体(BHA)アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、インフルエンザ抗原単独で免疫した群に比べ、有意に高い抗原特異的血中抗体反応を誘導した。これは、評価した全てのIgGサブクラスで確認された。
鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液中の分泌型IgA産生量の測定結果を図8に示す。図8に示すように、BHA複合体(BHA)アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、高い抗原特異的IgA産生が認められた。これに対し、インフルエンザ抗原単独で免疫したマウスでは、分泌型IgA産生はほとんど認められなかった。
【実施例6】
【0013】
BHA複合体とBHA1、BHA2、BHA3の経鼻アジュバント効果の比較検討
インフルエンザスプリットワクチンを抗原として用いて、BHA複合体のアジュバント効果と、BHA複合体構成成分であるBHA1、BHA2、BHA3のアジュバント効果を比較した。
(1)実験動物及び材料
BALB/cマウス(6週齢、雌性)は、日本クレア株式会社から購入した。飼育はSPF環境下で行った。
北里第一三共ワクチン株式会社から受領したマウス馴化A/Puerto Rico/8/34(H1N1)スプリット型ワクチン(以下、「スプリット型ワクチン」という)を免疫抗原として用いた。実験期間の間、抗原は4℃の暗所にて冷蔵保存した。
アジュバントとして、実施例1で作製したBHA複合体(BHA)、または複合体構成成分であるBHA1、BHA2、BHA3を用いた。エンドトキシン含有量は、0.5EU/mL以下を精製の基準として設定した。保存は、−80℃で冷凍保存し、使用直前に融解し免疫に用いた。コレラトキシンアジュバント(CTB)は、マウス一匹あたり、1μgのコレラ毒素Bサブユニット(カタログ番号033−20611、和光純薬株式会社)と1μgのコレラ毒素(カタログ番号033−20621、和光純薬株式会社)を混合し、調製した。保存は、−80℃で冷凍保存し、使用直前に融解し免疫に用いた。
(2)試験方法
スプリット型ワクチン抗原1μgと、BHA複合体(BHA)アジュバント、BHA1、BHA2、BHA3アジュバントをそれぞれ20μg、またはCTBアジュバント2μgをPBS(−)で12μLになるよう調製し、一匹あたりのワクチン製剤とした。6週齢のマウスに、各ワクチン製剤を6μLずつ両鼻腔内に投与した。2週間隔で計4回(0日、14日、28日、42日)投与した。14日、28日、42日の追加免疫直前に、ケタラール(第一三共株式会社)/セラクタール(バイエル株式会社)を用いて麻酔し、眼窩静脈叢から採血した。得られた血液は、4℃で一晩静置し、卓上冷却遠心分離機により血清分離を行った(9100g、10分、4℃)。得られた血清検体は−20℃で冷凍保管した。BHA複合体のアジュバント効果を評価するため、血清検体のIgG(Total IgG、IgG1、IG2a)を測定した。
免疫開始56日目にケタラール/セラクタールによる麻酔後、心臓穿刺により全採血を行い安楽殺処分とした。その直後に、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液をそれぞれ採取した。鼻腔洗浄液、肺胞洗浄は採取後、氷上またはELISAアッセイまで冷蔵保存した。
ELISAアッセイは次のとおり行なった。スプリットワクチン抗原を1μg/mLの濃度でプレートにコーティング(4℃、overnight)し、ブロッキングは1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)によって室温2時間静置し行った。試料血清は1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)を用いて、段階希釈した。2次抗体は、それぞれのサブクラスに準じたHRPラベル抗体を用いた。発色後にプレートリーダーを用いてODを計測し、インフルエンザ抗原特異的な抗体産生量を計測した。鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液は1%BSA/PBST(Tween20:0.5%)を用いて段階希釈し、BHA複合体アジュバントによる抗原特異的粘膜免疫の増強効果を評価するため、インフルエンザ抗原特異的な粘膜IgA産生量を測定した。
(3)試験結果
インフルエンザ抗原に特異的な血中IgGの測定結果(免疫開始56日目)を図9に示す。
図9に示されるように、BHA複合体(BHA)アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、インフルエンザ抗原単独で免疫した群に比べ、有意に高い抗原特異的血中抗体反応を誘導した。これは、評価した全てのIgGサブクラスで確認された。一方、複合体構成要素BHA1、BHA2、BHA3アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、インフルエンザ抗原単独で免疫した群に比べて、有意な血中抗体反応の増強は認められなかった。なお、経鼻投与ではなく注射にて皮内投与した場合、BHA複合体(BHA)アジュバント、BHA1、BHA2またはBHA3アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群のいずれも有意な血中抗体反応は認められなかった。
鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液中の分泌型IgA産生量の測定結果を図10に示す。図10に示すように、BHA複合体(BHA)アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、インフルエンザ抗原単独で免疫した群に比べ、有意に高い抗原特異的IgA産生が認められた。これに対し、複合体構成要素BHA1、BHA2、BHA3アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群では、インフルエンザ抗原単独で免疫した群に比べて、分泌型IgA産生の有意な増強は認められなかった。なお、経鼻投与ではなく注射にて皮内投与した場合、BHA複合体(BHA)アジュバント、BHA1、BHA2またはBHA3アジュバントとインフルエンザ抗原で免疫した群のいずれも、分泌型IgA産生量は検出限界以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は粘膜アジュバント及びこれを含む粘膜ワクチン製剤の製造分野に利用できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
[配列表]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10