(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6230029
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 9/02 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
G01J9/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-23695(P2015-23695)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-145786(P2016-145786A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2016年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】戸毛 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
【審査官】
立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−045096(JP,A)
【文献】
特開2011−226930(JP,A)
【文献】
特表2008−523396(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0321702(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/145070(WO,A1)
【文献】
特表2010−531444(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/000079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 9/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブパルスレーザ光源から出力されたプローブパルス光を被測定光学デバイスに入力し、当該被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光とローカルパルスレーザ光源から出力されたローカルパルス光とを干渉させ、その干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを測定する、光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置であって、
前記被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光および前記ローカルパルス光をそれぞれ二分岐する光分岐部と、
前記二分岐された各パルス光の一方を互いに干渉させ、目的とする干渉信号を出力する第1の光干渉部と、
前記二分岐された各パルス光の他方をそれぞれ共通の連続発振光源から出力された連続発振光と干渉させ、参照用の第1及び第2の干渉信号を出力する第2および第3の光干渉部と、
前記第2および第3の光干渉部から出力された参照用の第1及び第2の干渉信号をもとに、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出し、当該算出された位相雑音に基づいて前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める信号処理部と
を具備することを特徴とする光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、
前記第2の光干渉部から出力された参照用の第1の干渉信号から、前記プローブパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する手段と、
前記第3の光干渉部から出力された参照用の第2の干渉信号から、前記ローカルパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する手段と、
前記第1の干渉信号から算出された相対的な位相雑音から、前記第2の干渉信号から算出された相対的な位相雑音を減算することで、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出する手段と、
前記算出された前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音に基づいて、前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める手段と
を備えることを特徴とする請求項1記載の光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置。
【請求項3】
プローブパルスレーザ光源から出力されたプローブパルス光を被測定光学デバイスに入力し、当該被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光とローカルパルスレーザ光源から出力されたローカルパルス光とを干渉させ、その干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを測定する、光学デバイスのインパルスレスポンス測定方法であって、
前記被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光および前記ローカルパルス光をそれぞれ二分岐する工程と、
前記二分岐された各パルス光の一方を互いに干渉させ、目的とする干渉信号を出力する工程と、
前記二分岐された各パルス光の他方をそれぞれ共通の連続発振光源から出力された連続発振光と干渉させ、参照用の第1及び第2の干渉信号を出力する工程と、
前記出力された参照用の第1及び第2の干渉信号をもとに、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出し、当該算出された位相雑音に基づいて前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める信号処理工程と
を具備することを特徴とする光学デバイスのインパルスレスポンス測定方法。
【請求項4】
前記信号処理工程は、
前記出力された参照用の第1の干渉信号から、前記プローブパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する工程と、
前記出力された参照用の第2の干渉信号から、前記ローカルパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する工程と、
前記第1の干渉信号から算出された相対的な位相雑音から、前記第2の干渉信号から算出された相対的な位相雑音を減算することで、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出する過程と、
前記算出された前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音に基づいて、前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める工程と
を備えることを特徴とする請求項3記載の光学デバイスのインパルスレスポンス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学デバイスのインパルスレスポンスを測定するための測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学デバイスのインパルスレスポンスを測定する方法として、非特許文献1に記載された方法が知られている。この方法は以下のようなものである。すなわち、狭線幅CW(Continuous Wave)レーザをマスターレーザとして、2つの周波数コム発生光源を同期させる。2つの周波数コム光源の一方をプローブ光とし、もう一方をローカル光とする。参照経路を伝搬したプローブ光と被測定デバイスを伝搬したプローブ光をローカル光と干渉させ、それらの干渉信号を測定する。プローブ光とローカル光は狭線幅CWレーザによって同期しているため、被測定デバイスを伝搬したプローブ光とローカル光との干渉信号の位相は、参照経路を伝搬したプローブ光とローカル光との干渉信号の位相に対し、参照経路と被測定光デバイスとの間の遅延分だけ位相がシフトしている。周波数解析によってこの位相シフト量を解析することで、インパルスレスポンスを測定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】I. Coddington et al., “Rapid and precise absolute distance measurements at long range,” Nature Photonics, 3, 351-356, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、非特許文献1に記載された方法では、参照経路を伝搬したプローブ光と被測定デバイスを伝搬したプローブ光のペアを測定する期間において、プローブ光とローカル光とを同期させる必要がある。また、プローブ光とローカル光とが同期していても、測定距離が長くなって、ローカル光とプローブ光との光路長差がそれらレーザ光のコヒーレンス長よりも大きくなると、干渉信号は得られなくなる。このため、非特許文献1に記載された方法では、マスターレーザの線幅を数Hzにまで狭くしていた。しかしながら、数Hzの狭線幅レーザを用意することは簡単なことではない。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、狭線幅レーザをマスターレーザとしてプローブ光とローカル光とを同期させることなく、長距離に及ぶ被測定光デバイスのインパルスレスポンスを解析できるようにした、光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置および測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明の第1の態様は、プローブパルスレーザ光源から出力されたプローブパルス光を被測定光学デバイスに入力し、当該被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光とローカルパルスレーザ光源から出力されたローカルパルス光とを干渉させ、その干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを測定する、光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置であって、前記被測定光学デバイスから出力されたプローブパルス光および前記ローカルパルス光をそれぞれ二分岐する光分岐部と、前記二分岐された各パルス光の一方を互いに干渉させ、目的とする干渉信号を出力する第1の光干渉部と、前記二分岐された各パルス光の他方をそれぞれ共通の連続発振光源から出力された連続発振光と干渉させ、参照用の第1及び第2の干渉信号を出力する第2および第3の光干渉部と、前記第2および第3の光干渉部から出力された参照用の第1及び第2の干渉信号をもとに、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出し、当該算出された位相雑音に基づいて前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める信号処理部を具備するようにしたものである。
【0007】
この発明の第2の態様は、前記信号処理部に、前記第2の
光干渉部から出力された参照用の第1の干渉信号から、前記プローブパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する手段と、前記第3の
光干渉部から出力された参照用の第2の干渉信号から、前記ローカルパルス光と連続発振光との相対的な位相雑音を算出する手段と、前記第1の干渉信号から算出された相対的な位相雑音から、前記第2の干渉信号から算出された相対的な位相雑音を減算することで、前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を算出する手段と、前記算出された前記プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑
音に基づいて、前記目的とする干渉信号に含まれる位相雑音を補償し、当該補償された干渉信号をもとに前記被測定光学デバイスのインパルスレスポンスを求める手段とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の第1及び第2の態様によれば、プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を共通の連続発振光との干渉を用いて測定し、信号処理部によってプローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を補償することで、被測定デバイスのインパルスレスポンスを測定するようにしている。このため、狭線幅レーザをマスターレーザとして、プローブパルスレーザ光源とローカルパルスレーザ光源とを同期させる必要がなくなる。また、信号処理によって、プローブパルス光とローカルパルス光との間の相対的な位相雑音を補償するため、狭線幅レーザのコヒーレンスによって被測定デバイスの長さが制限されることもなくなる。
【0009】
すなわちこの発明によれば、狭線幅レーザをマスターレーザとしてプローブ光とローカル光とを同期させることなく、長距離に及ぶ被測定光デバイスのインパルスレスポンスを解析できるようにした、光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置および測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の一実施形態に係る光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[一実施形態]
(構成)
図1は、この発明の一実施形態に係る光学デバイスのインパルスレスポンス測定装置の構成を示すブロック図であり、1はプローブパルスレーザ光源、2は被測定デバイス、3はローカルパルスレーザ光源をそれぞれ示している。
【0012】
プローブパルスレーザ光源1から出力されたプローブパルス光P1は被測定デバイス2に入射される。これにより被測定デバイス2からは当該デバイスの光学特性の影響を受けたプローブパルス光P2が出力され、当該プローブパルス光P2は第1の光分岐器5−1により二分岐されて、その一方が第1の光90度ハイブリッド7−1に、他方が第2の光90度ハイブリッド7−2にそれぞれ入射される。
【0013】
一方、ローカルパルスレーザ光源3から出力されたローカルパルス光P3は第2の光分岐器5−2により二分岐され、その一方が上記第1の光90度ハイブリッド7−1に、他方が第3の光90度ハイブリッド7−3にそれぞれ入射される。
【0014】
また、本実施形態の測定装置はCW(Continuous Wave)光源4を備えている。このCW光源4から出力された連続発振光(CW光)は第3の光分岐器5−3により二分岐され、その一方が第1の光路長調整部6−1を介して上記第2の光90度ハイブリッド7−2に、他方が第2の光路長調整部6−2を介して上記第3の光90度ハイブリッド7−3にそれぞれ入射される。
【0015】
第1の光90度ハイブリッド7−1は、上記入射されたプローブパルス光P2をローカルパルス光P3と干渉させ、その干渉光の同相成分および直交成分をそれぞれバランス型受光器8−1,8−2に入射する。バランス型受光器8−1,8−2は、上記プローブパルス光P2とローカルパルス光P3との干渉光の同相成分および直交成分を受光して光電流からなる干渉信号に変換し、当該干渉信号の同相成分および直交成分をデータ取得部9へ出力する。
【0016】
第2の光90度ハイブリッド7−2は、上記入射されたプローブパルス光P2を上記光路長調整部6−1を通過したCW光と干渉させ、その干渉光の同相成分および直交成分をそれぞれバランス型受光器8−3,8−4に入射する。バランス型受光器8−3,8−4は、それぞれ上記プローブパルス光P2とCW光との干渉光の同相成分および直交成分を受光して光電流からなる干渉信号に変換し、当該干渉信号の同相成分および直交成分をデータ取得部9に出力する。
【0017】
第3の光90度ハイブリッド7−3は、上記入射されたローカルパルス光P3を上記光路長調整部6−2を通過したCW光と干渉させ、その干渉光の同相成分および直交成分をそれぞれバランス型受光器8−5,8−6に入射する。バランス型受光器8−5,8−6は、それぞれ上記ローカルパルス光P3とCW光との干渉光の同相成分および直交成分を受光して光電流からなる干渉信号に変換し、当該干渉信号の同相成分および直交成分をデータ取得部9に出力する。
【0018】
データ取得部9は、上記バランス型受光器8−1,8−2から出力された干渉信号の同相成分および直交成分、上記バランス型受光器8−3,8−4から出力された干渉信号の同相成分および直交成分、および上記バランス型受光器8−5,8−6から出力された干渉信号の同相成分および直交成分を、上記ローカルパルスレーザ光源3から出力される、ローカルパルス光P3と同期したクロック信号P4に同期してそれぞれ取り込む。
【0019】
インパルスレスポンス解析部10は、上記データ取得部9により取り込まれた各干渉信号のうち、上記被測定デバイス2から出力されたプローブパルス光P2をCW光と干渉させることで得られた干渉信号から両光間の相対的な位相雑音を算出すると共に、上記ローカルパルス光P3をCW光と干渉させることで得られた干渉信号から両光間の相対的な位相雑音を算出する。そして、これらの位相雑音の差を計算することで、上記被測定デバイス2から出力されたプローブパルス光P2と上記ローカルパルス光P3との間の相対的な位相雑音を算出する。次に、この相対的な位相雑音と、上記プローブパルス光P2と上記ローカルパルス光P3との間の干渉信号とから、被測定デバイス2のインパルスレスポンスを算出する。
【0020】
(動作)
次に、以上のように構成されたインパルスレスポンス測定装置の動作を説明する。
先ず、第1の光90度ハイブリッド7−1に着目する。プローブパルス光P2とローカルパルス光P3とのスペクトルは重なり合っているものとして、プローブパルス光P2とローカルパルス光P3との干渉を考える。
【0021】
プローブパルス光P1のパルス列およびローカルパルス光P3のパルス列の複素電界振幅をそれぞれE
p(t),E
L(t)とすると、これらは以下のように表される。
【数1】
【0022】
ここで、Tはプローブパルス列の周期、T+ΔTはローカルパルス列の周期、ΔTはローカルパルス列の周期のプローブパルス列の周期に対する差分、v
p はプローブパルス光P1の中心周波数、v
L はローカルパルス光P3の中心周波数、θp(t) はプローブパルス光P1の位相雑音、θ
L(t) はローカルパルス光P3の位相雑音を表す。
【0023】
次に、被測定デバイス2のインパルスレスポンスをh(t) とすると、h(t) は次式のように表わされる。但し、t
i (i=1,2,…)は所定間隔の時刻列を表し、h(Δti)は時刻t=Δt
iにおけるインパルスレスポンスの値を表す。
【数2】
【0024】
被測定デバイス2に入力されたプローブパルス光P1は、被測定デバイス2のインパルスレスポンスによって波形が変化するが、被測定デバイス2から出力されるプローブパルス光P2は、被測定デバイス2のインパルスレスポンスh(t) とプローブパルス光P1の畳み込みとして以下のように表される。
【0025】
すなわち、式(1) および式(3) から、被測定デバイス2から出力されるプローブパルス光P2は次式で表される。
【数3】
【0026】
また、インパルスレスポンスh(t) の時間スケールの間、プローブパルス光P1の位相雑音θ
p(t) は一定であると考えてよい。このため、式(4) は下記のように近似できる。
【数4】
【0027】
第1の光90度ハイブリッド7−1においては、被測定デバイス2から出力されたプローブパルス光P2(E′
p(t) )と、式(2) で表されるローカルパルス光P3とが干渉する。プローブパルス光P2(E′
p(t) )の周期とローカルパルス光P3の周期との間には差分ΔTがある。このため、プローブパルスP2(E′
p(t) )はローカルパルス光P3で等価時間サンプリングされる。
【0028】
式(5) のh(Δt
i) はタイムステップΔTで等価時間サンプリングされるが、位相項(振動項)であるexp{j[2πv
p(t−Δt
i)+θ
p(t)]} はローカルパルス光P3の周期T+ΔTの間隔でサンプリングされる。バランス型受光器8−1,8−2は干渉信号の同相成分と直交成分を検出し、光電流として出力する。
【0029】
データ取得部9は、ローカルパルス光P3に同期したクロック信号P4をクロックとして、上記バランス型受光器8−1,8−2から光電流として出力された干渉信号を取り込む。ここで、干渉信号をS
1、干渉信号の同相成分および直交成分をそれぞれI
1 ,Q
1とすると、これらは次式で表される。
【数5】
【0030】
次に、第2および第3の光90度ハイブリッド7−2,7−3に着目し、CW光源4から出力されるCW光とプローブパルス光P2との干渉、およびCW光源4から出力されるCW光とローカルパルス光P3との干渉を考える。
【0031】
CW光源4から出力されるCW光と、プローブパルス光P2およびローカルパルス光P3とのスペクトルは重なり合っているものとする。光路長調整手段6−1,6−2では、第2および第3の光90度ハイブリッド7−2,7−3に入力されるCW光の位相雑音が等しくなるように光路長が調整される。CW光源4から出力されるCW光の複素電界振幅Ecw(t) を次式のように表す。なお、Acwは振幅、vcwは中心周波数、θcw(t) は位相雑音を表している。
【数6】
【0032】
CW光と式(4) で表されるプローブパルス光P2とは、第2の光90度ハイブリッド7−2において干渉する。バランス型受光器8−3,8−4は、上記CW光とプローブパルス光P2との干渉信号の同相成分と直交成分を検出し、光電流として出力する。データ取得手段9は、ローカルパルス光P3と同期したクロック信号P4に同期して、上記CW光とプローブパルス光P2との干渉信号の同相成分と直交成分を取り込む。この結果、ローカルパルス光P3の周期T+ΔTごとに上記干渉信号の同相成分と直交成分が取り込まれる。
【0033】
いま、干渉信号をS
2 、当該干渉信号S
2 の同相成分と直交成分をそれぞれI
2 ,Q
2 とすると、これらは次式で表される。なお、aは干渉信号S
2の振幅を表す。
【数7】
【0034】
さらに、第3の光90度ハイブリッド7−3における、CW光源4から出力されるCW光とローカルパルス列P3との干渉についても、同様の議論が成り立つ。すなわち、CW光とローカルパルス列P3との干渉信号をS
3 、当該干渉信号S
3 の同相成分と直交成分をそれぞれI
3 ,Q
3 とすると、これらは次式で表される。なお、bは干渉信号S
3の振幅を表す。
【数8】
【0035】
インパルスレスポンス解析部10は以下の解析処理を行う。すなわち、先ず式(9) と式(10)より、干渉信号S
2 の位相項θ
2 を抽出する。この位相項θ
2 は以下のように表される。
【数9】
【0036】
ここで、式(13)の第1項は、プローブパルス光P2とCW光源4から出力されるCW光との間の周波数オフセットを表す項である。この周波数オフセットは、時間に対して線形的に変化するため、信号処理によって除去できる。この結果、プローブパルス光P2とCW光源4から出力されるCW光との相対的な位相雑音θ2
〜が得られる。この位相雑音θ2
〜は以下のように表される。
【数10】
【0037】
同様の解析を式(11)と式(12)の組についても行い、干渉信号S
3 の位相項θ
3 を抽出する。この位相項θ
3 は以下のように表される。
【数11】
【0038】
ここで、式(15)の第1項は周波数オフセット表す項であり、信号処理によって除去でき、これによりローカルパルス光P3とCW光源4から出力されるCW光との相対的な位相雑音θ
3〜が得られる。この位相雑音θ
3〜は下式により表される。
【数12】
【0039】
そして、式(14)から式(17)を引くことで、プローブパルス光P2とローカルパルス光P3との間の相対的な位相雑音Δθが算出される。この相対的な位相雑音Δθは以下のように表される。なお、この相対的な位相雑音Δθは、干渉信号S
1 の位相項に含まれるプローブパルス光P2とローカルパルス光P3との相対的な位相雑音を表す。
【数13】
【0040】
次に、式(7) と式(18)を用いて下記の演算を行うことで、被測定デバイス2のインパルスレスポンスを下式のように解析できる。
S
1 exp(−Δθ)=h(t) (19)
【0041】
(効果)
以上詳述したように一実施形態では、プローブパルス光P2とローカルパルス光P3との間の相対的な位相雑音を共通のCW光との干渉を用いて測定し、インパルスレスポンス解析部10の信号処理によってプローブパルス光P2とローカルパルス光P3との間の相対的な位相雑音を補償することで、被測定デバイス2のインパルスレスポンスを測定するようにしている。このため、狭線幅レーザをマスターレーザとして、プローブパルスレーザ光源1とローカルパルスレーザ光源3とを同期させる必要がなくなる。また、信号処理によって、プローブパルス光P2とローカルパルス光P3との間の相対的な位相雑音を補償するため、狭線幅レーザのコヒーレンスによって被測定デバイスの長さが制限されることもなくなる。
【0042】
[他の実施形態]
前記実施形態では、CW光源4と第2の光90度ハイブリッド7−2との間と、CW光源4と第3の光90度ハイブリッド7−3との間の光路長差をゼロにするために、両方の光路に光路長調整部6−1,6−2を配置した。しかし、いずれか一方の光路にのみ光路長調整部を配置して光路長差を無くすようにしてもよい。
【0043】
その他、装置の構成とインパルスレスポンス解析部による信号処理の手順と処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0044】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…プローブパルスレーザ光源、2…被測定デバイス、3…ローカルバルスレーザ光源、4…CW光源、5−1,5−2,5−3…光分岐器、6−1,6−2…光路長調整部、7−1,7−2,7−3…光90度ハイブリッド、8−1〜8−6…バランス型受光器、9…データ取得部、10…インパルスレスポンス解析部。