【実施例】
【0027】
[実施例1]
実施例1の構成を
図3に示す。なお、
図2を用いて説明した従来の水熱反応装置と共通する部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
水熱反応装置1の基本構成は、
図2と同様であるが、可視化を行うためには、反応容器として、耐熱、耐圧に優れた強化ガラス製のものを使用しても何ら問題ない。
従来の水熱反応装置と比較して、特に相違する点は、密閉蓋1cに加熱装置を設けた点、溶液上方の反応容器内部空間に板状部材を設けた点、更にはガス導入・排出用バルブ7を介して、反応容器1aの内部空間に定常圧を印加するとともに、背圧弁、ガス放出管を介して、過剰圧力を放出できるようにした設定圧力印加装置を設けた点にある。
以下、詳細に実施例1について説明する。
【0028】
図3(a)において、密閉蓋1cの上面には、シリコンラバーヒーター13、アルミ板14を積層し、その上面をさらに、自動車用マフラー等に用いられる断熱シート15で被覆するようにした。なお、図中12のパイプは、
図3(b)に示すように、ガス放出管23を介して過剰圧力をリリースする背圧弁22に接続されるパイプであり、パイプ11は、
図3(c)に示すように、ガス導入・排出用バルブ7を減圧弁20を介して、空気、窒素などの気体が充填された圧力ボンベ19に接続するものであり、この減圧弁20により、この圧力ボンベ19から気体を供給し、反応容器1aの内部空間に定常圧を印加することができる。
【0029】
図3(b)に示す背圧弁22及び
図3(c)に示す減圧弁20の調整を適宜行うことにより、局所的な沸騰を抑制しつつ安定した一定圧力を得ると共に、異常圧力上昇を抑える安全性の両面に効果を発揮する。
例えば、特定の水熱反応に最適な、定常状態における反応容器1aの反応溶液温度、内部圧力が予め分かっていれば、マントルヒーター5、シリコンラバーヒーター13による加熱と並行して、圧力ボンベ19による印加圧力を減圧弁20により調整しておけばよい。
なお、目的とする温度に密閉蓋1cを昇温可能なものであれば、加熱手段はシリコンラバーヒーターに何ら制限されるものではない。また、断熱シート15もシート状形状であることに何ら制限されるものではない。また、圧力ボンベ19に換えて、可変容量式の圧縮ポンプなどを利用することもできる。
【0030】
一方、ステンレス製の反応容器1aの内部上方には、反応溶液界面の上方空間を上下に区画する板状部材16が、リング状部材等からなる板受け17に載置されている。なお、板状部材16、板受け17はいずれもPTFE等の化学的に不活性で、熱伝達率の低い材料で形成することが望ましい。
また、板受け17には様々な形態があり、例えば、PTFEで被覆されたリング状部材や、PTFE製の内筒1bの底部からピラーを立てるようにしたり、さらには、PTFE製の内筒1bの内周面に切削加工を施すことにより形成した凸部などが挙げられる。
【0031】
なお、PTFEで被覆されたリング状部材を使用する場合、反応容器1aの内周面に嵌合することにより、摩擦力で板状部材16を支持する。一方、内形状が特殊な場合や、完全円筒状の場合は、反応容器の底からピラーを立てることで、この板状部材を設置できる。反応容器内壁がPTFEなどの材質からなる場合は、このPTFE壁を直接加工するなどして、板状部材を取り付けてもよい。
【0032】
一般にPTFEは、ステンレス等と比較して熱伝達率がきわめて低く、また、撥水性が非常に高い。したがって、板状部材16の上面と密閉蓋1cの内面とで形成される空間が、マントルヒーター5の上部と密閉蓋1cの上面に取り付けられたシリコンラバーヒーター13により加熱されることで、安定した状態で設定温度に維持され、反応溶液の水分や他の揮発性成分の凝縮温度以下になることが確実に抑制される。なお、加熱装置としてマントルヒーター5を採用しているが、加熱が実現されれば、他のヒーター機器を使ってもなんら問題はない。
しかも、反応溶液界面の上方空間が板状部材16により区画されているため、マントルヒーター5により効率よく加熱され、水溶液側面との温度差を低減することができ、
図1に示した静置状態での合成環境に限りなく近づく。
【0033】
一方、板状部材16も、反応溶液界面の上方空間が、凝縮温度以上に維持されていることから、定常状態では、その反応溶液界面に対向する下面でも凝縮、結露は制限されたものとなる。
もちろん、板受け17に載置されているだけであるので、下方から、反応溶液を加熱することで発生した蒸気は、板状部材16を押し上げて、その外縁と板受け17との間を通過することになるが、その量は、きわめて制限されたものとなる。このため、板状部材16の上面と密閉蓋1cの下面での凝縮、結露も劇的に低減される。仮に板状部材16の上面に結露が発生したとしても、最終的には、その液滴は、板状部材16の外縁や、熱電対6を挿入するための鞘状のパイプ6aを挿入するための開口部の隙間に到り、PTFE製の内筒1bで加熱されて気化され、あるいは、反応溶液に静かに流れ込むので、結露による凝縮液滴の落下による界面の揺らぎ、波立ち、反応溶液の局所的な成分濃度の変化を効果的に抑制することができる。
【0034】
板状部材16の上面と密閉蓋1cの内面、板状部材16の下面での凝縮、結露による影響をさらに効果的に抑制するためには、板受け17が水平面に対しやや傾斜するように、PTFEで皮膜されたOリングの配置や、PTFE製の内筒3の内周面に切削加工した凸部を傾斜させる。これにより、板受け17の上面及び下面に付着した結露は、PTFE材の撥水性により徐々に液滴が成長しながら、板受け17の傾斜に沿って下方に流れ、PTFE製の内筒1bで加熱され、気化させることができる。
なお、板受け17を水平に形成したまま、板状部材16の一方に外縁に凸部を形成したり、さらに、上方に頂点を有する円錐形状とすることによっても、同様の効果を奏することができる。
【0035】
さらに、板状部材16の下方に、
図3の破線で示すように、右向きに下降する雨樋状の凸部を形成することにより、板受け17の外縁から落下し、PTFE製の内筒1bに到達した時点でも完全に気化できなかった液滴を受け、PTFE製の内筒1bに沿って流れるようにすることで、液滴として落下させることなく、確実に気化することができる。
【0036】
実施例の効果を検証するため、
図4に示されるように、反応容器全体を観察可能な低倍率のレンズ24bを取り付けたCCDカメラと、及び水面付近の微細な変化を観察可能な高倍率のレンズ24aを取り付けたCCDカメラからなる2系統の観察装置を取り付けた。
なお、反応容器1aとしては、耐圧硝子工業(株)製ハイパーグラスターTEM-V1000N(内容積1リットル)を使用し、マントルヒーター5の代わりに、この硝子製反応容器外壁(側周壁及び底面)に一様に付けられた加熱用皮膜(酸化スズ被膜等)5aに通電することにより加熱を行った。
なお、反応容器1aを取り囲む防爆ケース28には、耐熱強化ガラス等により形成された観察用窓として、覗き窓28aが設けられている。
装置性能を見るための基準となる比較対象として、常温(約27℃)・常圧(0.1MPa)の条件下で、非撹拌環境にて純水の観察を行った。次に、本実施例、及び、板状部材16を取り外し、圧力ボンベ19、減圧弁20、背圧弁22による圧力調整を非作動とし、常温・常圧環境と同様にともに非撹拌環境として、両者における反応容器内の純水の状態を観察した。
【0037】
図5(a)は、本実施例の常温環境下での反応容器内全体の撮影写真である。
図5(b)は液面を拡大して撮影した写真である。以下、容器全体、及び液面を拡大した写真において、撮影に用いたCCDカメラの位置はすべて共通し、常温では当然ながら、水は沸騰することなく、液面も静止しているのが分かる。
ところが、シリコンラバーヒーター13により密閉蓋1cを加熱しない場合はもとより、たとえ加熱した場合でも、板状部材16及び圧力印加装置を具備していない場合は、
図6(a)に示すように、180℃に水を加熱したとき、反応容器の底や側面から激しく水蒸気が沸騰して発生していることが分かる。
また、密閉蓋1cの下面で結露した水の落下が内壁面を伝ってくるものだけでなく、密閉蓋1cから直接落下する結露した水滴も生じた。これは沸騰により多量の水蒸気が上部空間に自ら放出されるためである。この現象は、シリコンラバーヒーター13の加熱を行わない場合、さらに顕在化する。これらの諸現象の発生に伴い、液面が激しく揺れている様子が認められた。更に、液面の様子を拡大した
図6(b)に示されるように、水面を観察することも極めて困難であった。
【0038】
一方、本実施例に基づいて、シリコンラバーヒーター13による密閉蓋1cの加熱、及び、圧力ボンベ19、減圧弁20、背圧弁22による印加圧力の調整を行いながら、同様に水を180℃まで加熱した場合の反応容器全体の様子を
図7(a)に示す。なお、空気・水蒸気等による圧力印加は、0.98MPaとし、密閉蓋1cの加熱温度を200℃とした。
この場合の反応容器内の水は、
図7(a)から確認できるように、あたかも常温・常圧の場合である
図5(a)のように静止しており、沸騰が完全に抑制されている。
【0039】
一方、液面部分を示している
図7(b)では、液面が常温状態から上昇しているものの、
図5(b)と同様に液面が明瞭に観察できる状態を維持している。なお、実機においては、加熱に伴う反応溶液の体積膨張・液面上昇に配慮して、特に、2系統のCCDカメラのうち、高倍率のレンズ24aを取り付けた方の配置を考慮する必要がある。
【0040】
次に、特許文献1に記載の混合液、すなわち、反応溶液として、下記モル比の混合溶液を調製した。
Al
2O
3:P
2O
5:(C
2H
5)
3N:H
2O=1:1:3:225
この溶液を硫酸滴下により、pHを2.95に調製した。そして、この溶液を本願発明装置の反応容器に入れ、約3時間かけて溶液温度を室温から175℃まで昇温し、その温度にて20時間保持した。
なお、
図8は175℃に達した直後の反応溶液を撮影したものである。先の実験結果と同様に、溶液が沸騰することなく、静置された状態にあることが分かる。加熱終了後、自然冷却により室温まで下げたのち、反応容器内の生成物を取り出した上、超純水による洗浄および40℃に加熱したオーブンによる乾燥を施した。
【0041】
図9に、上述の操作により得られた自立膜を示す。薄膜であるため、取り出し時に一部ひび割れが発生しているが、大面積の自立膜が形成されていることが確認できる。
更にこの膜の結晶相を特定するため、
図10に、平行ビーム法によるX線回折(XRD)データをリガク製Smart Labにより収集した結果を示す。このXRDパターンは特許文献1の実施例と同等のものであり、IUPAC表記でAFI型構造を持つAlPO
4-5の結晶が自立膜を形成し、かつ002回折線がその他の回折線よりも相対的に強いことからc軸が膜に対して垂直方向に配向していることを示している。
【0042】
一方、前述した
図1の反応容器自身を20rpmの回転速度で回転することにより、上述の溶液を撹拌子ながら、水熱反応を行うと、
図11の走査電子顕微鏡像に示されるような、10μm未満の六角柱状の結晶が粉末として得られる。自立膜が得られないのは、ある程度自明であるとしても、凝集体も存在せず、結晶1個1個が小さいなどの、静水場での反応とは明らかに異なる結晶形態となった。
以上のことから、本実施例による水熱反応装置も、オーブンに導入・静置する形式のオートクレーブと同様に機能することが確認された。
【0043】
実際に静水状態の反応溶液を観察する場合、水熱反応装置としてガラス容器を採用するほか、可視光透過窓を付帯したものや、密閉蓋を除く反応容器全体が耐圧製の透明ガラスである必要がある。一般にガラス製反応容器の場合、安全対策のために防爆構造となっており、ガラス反応容器のさらに外側に金属箱と観察用窓を設けた仕様となっている。
そのため、反応溶液の観察においては、通常の作動距離(焦点距離)の短い対物レンズを用いた顕微鏡システムを用いて水溶液内の局所領域を観察するのは難しい。
【0044】
そのため、作動距離の長いレンズシステムを採用することになるが、一般に長作動のレンズでは、開口数が小さくなるために、像が暗くなり、かつ空間分解能が下がる一方、焦点深度(被写界深度)が深くなるなどの特性を持つ。
特に焦点深度が深いことは、高倍率観察では目的とする反応現象、例えば結晶析出過程を観察する上では有効である。なぜなら、
図4に示すように、限られた視野の範囲内で結晶析出を確実に観察するためには、観察可能な反応溶液の体積領域を拡げ、焦点深度を深くすることが有利に働くからである。
【0045】
なお、この場合、反応溶液は透明もしくは半透明であることが望ましい。さらには、一般には結晶析出が起きると、この結晶は水溶液よりも密度が高ければ水溶液底部に沈降していくことにある。任意の結晶の成長過程を追跡するためには、定点観測型の観察システムは望ましくなく、
図4のように、少なくとも上下(z軸)方向、望ましくは左右(x軸)、焦点位置調整の役割も有する前後(y軸)方向の3次元方向のレンズ一調整システムを付帯していることが望ましい。
【0046】
このような観察用レンズの3次元方向調整システムの設置に当たり、この観察システムは軽量かつ反応容器との相対的位置関係が振動等により影響されないことが望ましい。すなわち、
図4のように反応システムに直接観察システムを取り付けることにより、振動等に対しても相対的位置関係が保証されやすくなる。
局所領域の観察と併せて、反応溶液全体の変化に対して、
図4のようにどの局所領域を観察しているかを確認するための低倍・定点観測型の観察システムによる反応溶液全体観察システムの併設も望ましい。目的に応じ、赤外光を用いた観察システム等、複数の観察システムもしくはそれらのうちから適切な一種を選択するのも好適である。
【0047】
その際、減圧弁20として、2段式減圧弁を採用すると、一次圧の影響を受けにくく、より安定した圧力を得ることができる。
さらに、一定圧力制御、および安全性確保の観点から、圧力印加側の減圧弁20による制御のみならず、圧力値調整可能な背圧弁22を同じく、
図3、4に示すように、
密閉蓋の上部に装着することにより、任意の圧力値を安定的に得ることができる。
【0048】
また、減圧弁20として、2段減圧弁を採用すると、ボンベ19の内圧(1次圧)が下がると、減圧弁20を通過したガスの圧力が設定圧よりも上昇してしまうという通常の減圧弁の特性を抑制することができる。
水熱反応では長時間(24時間以上)の運転を行うことが頻繁に行われるため、反応容器内に時間経過と共に変動することのない一定の圧力を印加することにより安全性をより高めることができる。もちろん万一圧力上昇が起きて、設定圧力以上になると、背圧弁22により、ガス放出管23から過剰圧力が放出され、反応容器内の圧力が設定圧上限で保たれるようしているので、2重の安全対策となる。
ただし、いずれの機器も、圧力導入は安全性確保の点から、圧力の精密な制御及び防爆構造の採用等、細心の注意を要する。
【0049】
[実施例2]
上記のように、実施例1では、所要の物質の合成、成長を実現するため、反応容器1a内の反応溶液を沸点以上に高めても、内部で発生する沸騰を効果的に抑止することができる。
しかし、種々な反応液、加熱条件を用いて実験を行ったところ、例えば、実施例1と同様のアルミニウム等が反応溶液に高濃度に含有されている場合等では、実施例1の装置構成では、より厚い自立膜を生成する場合など、所望の合成、成長が実現できないケースが確認された。
これは、反応溶液を沸点以上の所望の温度に加熱する場合、加熱工程中、反応溶液がゲル化を開始し、粘性が急激に高まることが原因と考えられる。
【0050】
反応容器1a内の温度は、シリコンラバーヒーター13やマントルヒーター5からの熱量が対流、熱伝導、輻射により反応溶液に伝搬することで上昇することになる。しかし、例えば、反応溶液にアルミニウム等が高濃度に含有されている場合、温度上昇に伴い、反応溶液がゲル化を開始する。このため反応溶液の粘性が急激に上昇し、特に、熱伝搬に大きな影響を及ぼす対流が大幅に減少することになる。こうした加熱工程に発生する反応溶液の粘性上昇が、反応容器1a内の反応溶液の温度分布を不均一なものとし、所要の物質の合成、成長を阻害することになる。すなわち、実施例1の装置構成の場合、シリコンラバーヒーター13やマントルヒーター5に近い反応容器1aの内壁部と、反応容器1a内の中央部とで温度の不均一な昇温過程で発生し、反応溶液の温度分布に変動が発生することが、所要の物質の合成、成長を阻害する原因となっているものと推測することができる。
【0051】
具体的には、実験の結果、加熱工程中、局所的に最も高温となるのは、反応容器1aの内壁部であることが判明した。すなわち、反応溶液が最終的に目的とする高温度に到達し、その温度を維持するよう温度制御すれば、熱伝導や対流、輻射により、反応溶液全体がやがて均一な温度となる。しかし、温度上昇に伴い反応溶液の粘性が上昇すると、加熱時に対流が阻害され、これにより発生する温度の不均一性は、反応溶液の粘性が上昇するほど顕著に現れることになる。
【0052】
さらに、実施例1の装置構成では、温度測定用の熱電対6aを、反応溶液の内部に浸漬しているが、反応容器1aの内壁部との距離が離れているため、反応容器1aの内壁部における実際の温度との解離が発生している。
すなわち、加熱中、温度測定用の熱電対6aの検出値と比較して、反応容器1aの内壁部の実温度が過渡的に高くなるオーバーシュートが発生し、最悪の場合、反応容器1aの内壁部で局所的な沸騰や反応溶液の撹乱が発生するという不具合が生じてしまう。
図12は、実施例1の装置構成による水熱反応で沸騰が発生したケースを撮影したもので、aで示す矢印は、温度の不均一性に起因して、沸騰が発生した箇所、bで示す矢印は、沸騰により発生した気泡が上昇することにより発生した空洞部を示している。
【0053】
特に、上述したように、高粘性の液体ほど、温度の不均一性が強くなるため、オーバーシュートも大きくなる。このような現象は、特に精密な温度制御が要求される水熱反応を行う場合には静置条件で反応を行うこと自体を不可能となり、所要の物質の合成、成長に致命的な影響を及ぼす可能性がある。
こうした局所的な沸騰を抑制するため、圧力印加用のパイプ11から印加する外部のガス圧力を高めることが考えられるが、そのためには、反応容器1aを含め、装置全体の耐圧性能を強化しなければならず、特に大型の反応装置であるほど、耐圧性の強化は装置の製造コストを上げることにつながる。
【0054】
そこで、本実施例では、
図13に示すように温度均一化のための水溶液36を充填した反応容器1aの内部に、反応溶液29を貯留するための反応溶液貯留容器30を設け、温度均一化のための水溶液36を撹拌することで、反応溶液貯留容器30の内壁を均一に加熱し、局所的な沸騰を効果的に抑止するようにした。
【0055】
以下、この
図13を用いて、実施例2の装置構成を説明する。なお、実施例1と共通する部品、装置等については同一の符号を付して説明を省略する。本実施例でも、可視化を実現するため、反応容器1aとして耐圧ガラス製のものを使用している。
水熱反応を行うための原材料である反応溶液29は、反応溶液貯留容器30に注入されている。なお、反応溶液貯留容器30は、反応溶液29と反応しない、化学的に安定な材質からなることが望ましい。
【0056】
例えば、反応溶液29が、酸性溶液(フッ酸は除く。)であれば、反応溶液貯留容器30の材質として、ガラスを使用することができ、熱伝導率の高い金属で反応溶液貯留容器30を形成する採用する場合にも、表面をPTFEなどの被膜により保護すればよい。
アルカリ性の溶液でも、PTFEの被膜は有効であり、安定な温度範囲は金属やガラスよりも狭いものの、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))などの合成樹脂・高分子材料も利用可能である。
【0057】
反応溶液貯留容器30は支持台31を介して、反応容器1aの底面に固定されている。この支持台31は、やはり、PTFE等、熱伝達率の低い材料で作製され、反応溶液貯留容器30との接触面積を最小限にするため、点接触で支持し、最低限の支持脚を有するものが好ましい。しかも、温度均一化のための水溶液36が、支持台31の内部を自由に流通できるよう、格子状、あるいは、多孔状の構造を採用することが望ましい。
【0058】
反応溶液貯留容器30の上部は、やはりPTFE製で、反応容器1aの内部と連通する連通路32を備えた容器蓋33により封止されている。容器蓋33の材質は、必ずしもPTFEである必要はないものの、上面にシリコンラバーヒーター13が配置された密封蓋1cから熱により不均一な温度変化生じないよう、熱伝導性が低く、化学的に安定なPTFE製あるいはPTFEで被覆した材料の方が望ましい。
【0059】
なお、この容器蓋33の上方には、実施例1と同様の板状部材16を載置し更に、上下方向の温度の不均一性を、さらに抑制するようにしている。本実施例では、板状部材16は、容器蓋33に載置するだけでよいので、実施例1とは異なり、反応容器1aの内部に、板状部材16を支持する機構を設ける必要がない。
ただし、実施例1とは異なり、反応溶液29自体は反応溶液貯留容器30の内部に充填されているため、必ずしも、容器蓋33の上面に板状部材16を載置する必要はない。
後述するように、反応溶液貯留容器30は、全面から均一に加熱されるため、その内部上面に結露が発生する可能性はきわめて低いが、こうした結露が万一にも反応溶液29に直接落下しないよう、板状部材16を反応溶液貯留容器30内部の反応溶液液面の上方に設置してもよい。
【0060】
一方、反応容器1aの内部には、温度均一化のための水溶液36が、反応溶液貯留容器30の外周を覆うよう充填されている。この水溶液36をマントルヒーター5(
図3参照)、シリコンラバーヒーター13によって加熱することにより、反応溶液貯留容器30の壁面を介して内部の反応溶液29が間接的に加熱される。本実施例では、温度測定用の熱電対6により、反応溶液29の温度を直接計測するのではなく、水溶液36の温度を検出し、水溶液を所定の温度に加熱する。
【0061】
支持台31の内部には、スターラーチップ(撹拌翼)34及びこれを磁気カップリングにより回転させるマグネット35が設けられ、一定速度で水溶液36を撹拌し、反応溶液貯留容器30の周囲の水溶液温度を均一化する。これにより、反応溶液貯留容器30の内壁部を均一に加熱することができる。なお、水溶液36の液面は、反応溶液貯留容器30における反応液29の液面よりも高くなっていることが重要である。これは反応溶液29の直接の加熱源が水溶液36であるため、できるだけ周囲から加熱を行って均一な加熱を行うためである。
【0062】
前述のように、反応溶液貯留容器30は支持台31により、その底面が支持されており、支持台31は、水溶液36を撹拌する機構であるスターラーチップ33との干渉を防ぐとともに、加熱源であるマントルヒーター5、及び外部耐圧容器である反応容器1aから離隔させ、反応溶液貯留容器30に直接の影響を与えないよう、離隔させる機能を備えている。
なお、本実施例では、撹拌機構はスターラーチップ33とマグネット34により構成されているが、目的は水溶液36を均一に撹拌し、その温度を均一化することであるため、密閉蓋1cに、撹拌棒挿入口を設け、その下部の回転翼によって水溶液36を撹拌してもよい。なお、反応溶液29の化学組成や水熱反応による得られる生成物、その形態・形状(生成結晶のサイズや,膜の場合にはその厚さ等)によっては、必ずしも撹拌機構を設ける必要はない。
また、本実施例でも、実施例1と同様に、マントルヒーター5(
図3参照)に加え、シリコンラバーヒーター13を設けているが、反応溶液貯留容器30が、水溶液36により均一に加熱されるので、必ずしも、シリコンラバーヒーター13を設けなくてもよい。また、反応溶液29の成分によっては、反応容器1aの側周面及び底面の少なくとも一方にヒーターを設けるだけでよい場合もある。特に、反応容器1aの側周面のみとすれば、支持台31による伝熱の影響を低減することができる。
【0063】
さて、通常水熱反応は、反応液29を沸点を超える100℃以上の温度で行われることが多いため、反応容器1aは、一般に耐圧性に優れた構造・材質を用いた、耐圧構造とし、密閉蓋1cにより内部空間を高圧に保っている。一方、反応溶液貯留容器30については、容器蓋33に形成された連通路32により、反応容器1aの内部と連通しているため、内圧と外圧に大きな差が発生せず、上述したように単なるガラス容器であってもなんら問題ない。
【0064】
ただし、このように、容器蓋33に形成された連通路32を形成すると、反応溶液貯留容器30の耐圧性を考慮する必要はなくなるが、連通路32により、反応液29と水溶液36が上方空間で連通するため、反応溶液29の化学組成に対して、影響を与える可能性がある。
すなわち、加熱により反応溶液29の揮発性成分が気化すると、反応容器1aにおける水溶液36の液面の上方空間における揮発成分濃度が平衡するまで、反応溶液貯留容器30の上部空間から反応容器1aの上部空間へと揮発性成分の移動を生じる可能性がある。
したがって、水溶液36には、少なくとも反応溶液29中に含まれる揮発成分を同じ成分濃度で含有することが好ましい。
【0065】
そこで、反応溶液29の成分を、水、揮発成分、その他の不揮発成分に反応溶液内の組成を分類する。更に、目的に応じ、例えば、反応溶液貯留容器30をガラス容器として、外部から内部の反応を観察可能にする場合、透明成分と不透明成分(ゾル粒子、遷移金属イオン、色素分子等)に分類する。
不透明成分が不揮発性であれば、それを除き、反応溶液29と組成、濃度が同一となるように水溶液36を調製する。これにより、反応溶液貯留容器30内部の観察を可能としながら反応溶液29の水熱反応時にその化学組成が変化することが、大きく抑制できる。
こうすることで、反応溶液29と水溶液36の化学組成を近づけ、かつ不透明成分を排除することができる。
【0066】
また、水溶液36中に加熱に伴い粘性が高くなる成分が存在すると、マントルヒーター5等で加熱する際、加熱工程中の温度均一性を阻害する働きを有するため、そのような成分を水溶液36に添加するかどうかは、個々の水熱反応の種別に応じて検討する必要がある。
場合によっては、水溶液36と反応溶液29を同一成分のものとしてもよい。
【0067】
以下、実施例2の実験例について説明する。
実施例1と同様に、アルミノリン酸塩多孔質結晶の一種であるAlPO
4-5(IUPACによる構造表記はAFI)の合成を行った。
反応溶液貯留容器内の水溶液を構成する原料のモル比は、
Al
2O
3:P
2O
5:(C
2H
5)
3N:H
2O=1:1:4:225・・・・・(1)
とした。さらに、この溶液のpHを硫酸の添加により2.95に調整した。
一方、均一な温度を目的とする水溶液31のモル比は
P
2O
5:(C
2H
5)
3N:H
2O=1:4:225・・・・・・・・・・・・(2)
とした。
【0068】
(1)のモル比で表される当該反応水溶液は乳白色を呈する為、加熱用水溶液は乳白色とならないように、反応溶液からアルミナ源を除いた(2)式で表した溶液とした。この(2)式で表される溶液は完全に透明な溶液である。
これらの反応溶液および加熱用水溶液を所定の容器にそれぞれ満たした後、
図13に示すように、水熱反応装置1に設置した。
加熱は室温から175℃まで3時間かけて昇温し、175℃にて18時間以上保持した。なお、反応溶液および加熱用水溶液の沸騰を避ける為、まず室温にて0.3MPaの圧力を印加後、完全閉鎖系にしてガスの出入りがない状態にしてから昇温を行った。175℃での圧力は0.98MPaであった。
【0069】
図14は、加熱による反応溶液の温度の時間変化を示す。また、
図15は、加熱開始から水熱反応の経過を撮影したもので、Aは加熱開始時(室温)、Bは3時間後、Cは5時間後、Dは7時間後、Eは8時間後における反応溶液貯留容器の内部の状態を示している。
図14から分かるように、約3時間後に175℃に到達しているが、オーバーシュートは非常に少なく2℃未満である。この過昇温に由来して、加熱用水溶液に若干の沸騰が発生したものの、
図15Bに示すように、反応溶液貯留容器の内部では、反応溶液の沸騰は皆無である。その結果、加熱3時間以降の
図15C〜Dでは、反応溶液は水平方向ではほぼ同等の状態を維持し、自立膜の形成に伴い、垂直方向にのみ溶液の変化が顕著に表れている。
【0070】
以上により得られた生成物の例を
図16に示す。
この生成物の結晶相を確認する為に、粉末X線回折データをCu-Kα線を用いた、マックサイエンス社製のMXP-3TZにより測定した。そのパターンを
図17に示すが、この結果は、明瞭に得られた生成物が実施例1と同様にAFI構造をとっていることを示すものであり、他の不純物相を含まない単相であることが分かる。
【0071】
このように、本実施例によれば、静置状態を維持した均一な昇温環境を実現し、目的とする一定温度に到達した際の実際の溶液温度のオーバーシュートもほとんど生じないことが確認された。また、反応溶液と加熱用溶液間の圧力を一致させる機構とそれぞれの溶液の組成を近い物とすることにより、反応溶液を入れる容器は耐圧性を持たせる必要性がないことが示された。