【0005】
<ラジカル重合性基を有し且つ酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであるシルセスキオキサンモノマー(A1)>
成分(A1)のシルセスキオキサンモノマーは、下記式(3)で示される。
ここで、gは重合度であり、6〜100の数であり、
R
Aは、ラジカル重合性基を有する有機基、ヒドロキシル基、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基またはフェニル基である、但し、少なくとも3個のR
Aはラジカル重合性基を有する有機基であるものとし且つg個のR
Aはこの式(3)のシルセスキオキサンモノマー(A1)の酸価が0.5〜2.0mgKOH/gを満足する量のヒドロキシル基を有するものとする。
ここで、R
Aにおけるラジカル重合性基を含む有機基は、珪素原子に直接、重合性基(例えば、(メタ)アクリル基等)が結合するものを含む。具体的には、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロキシプロピル基、(3−(メタ)アクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ基等の(メタ)アクリル基を有する有機基;アリル基、アリルプロピル基、アリルプロピルジメチルシロキシ基等のアリル基を有する有機基;ビニル基、ビニルプロピル基、ビニルジメチルシロキシ基等のビニル基を有する有機基;(4−シクロヘキセニル)エチルジメチルシロキシ基等のシクロヘキセニル基を有する有機基;ノルボルネニルエチル基、ノルボルネニルエチルジメチルシロキシ基等のノルボルネニル基を有する有機基;N−マレイミドプロピル基等のマレイミド基を有する有機基等が挙げられる。中でも(メタ)アクリル基を有する有機基が、優れたフォトクロミック特性を発現しつつ、高い膜強度を得ることができるため特に好ましい。
また、R
Aにおける、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましい。炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
ただし、成分(A1)は、酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであることから、R
Aの一部がヒドロキシル基として存在している。酸価の割合は、重合度gとの兼ね合いで決定される。
中でも、R
Aは、成分(A1)の酸価が0.5〜2.0mgKOH/gとなる数のヒドロキシル基以外は、前記ラジカル重合性基を含む有機基であることが好ましい。こうすることにより、フォトクロミック硬化性組成物から得られる硬化体が、特に優れた密着性を発揮する。
gは、重合度であり、6〜100の整数である。このうち、フォトクロミック特性、及びフォトクロミック硬化体の機械的強度の点から8〜50の整数であるものが好ましく、8〜30の整数であるものが特に好ましい。
一般にシルセスキオキサン化合物は、ケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の構造を取ることができるが、本発明においては複数の構造からなる混合物であることが好ましい。
成分(A1)において、酸価が0.5mgKOH/g未満であるか、2.0mgKOH/gを超える場合には、成分(A1)を含むフォトクロミック硬化性組成物から得られる硬化体とプラスチックレンズ基材との密着性が低下するため、好ましくない。
また、成分(A1)の重量平均分子量は1,500〜20,000であることが好ましい。成分(A1)の重量平均分子量が前記範囲を満足することにより、フォトクロミック硬化性組成物の成型性を向上することができ、かつ、酸価の制御が容易となる。さらに、フォトクロミック硬化性組成物から得られる硬化体の機械的特性、およびプラスチックレンズ基材との密着性を向上できる。さらに、成分(A1)は分子量分布図において単一のピークを示すものが好ましい。
<シルセスキオキサンモノマー(A1)の製造方法>
ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンモノマー(A1)は、下記式(4)
ここで、R
A’はラジカル重合性基を含む有機基であり、R
Bは、炭素数1〜4のアルキル基である。)で示されるアルコキシシランモノマーと、下記式(4’)
(式中、R
A’’は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基であり、R
B’は、炭素数1〜4のアルキル基である。)で示されるアルコキシシラン化合物とを、触媒の存在下、加水分解反応および縮合反応に付すことにより得ることができる。前記アルコキシシランモノマーと前記アルコキシシラン化合物との混合割合は、得られるシルセスキオキサンモノマーにおいて、R
A’(ラジカル重合性基を有する有機基)が少なくとも3個含まれるような割合で配合させればよい。最も好ましくは、前記式(4)で示されるアルコキシシランモノマーのみを加水分解反応および縮合反応させることが好ましい。
前記式(4)中のR
A’は、ラジカル重合性基を有する有機基である。前記式(4’)中のR
A’’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基から選ばれる基である。これらは前記一般式(3)中のR
Aで説明されているラジカル重合性基を有する有機基、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基と同義である。
前記式(4)、(4’)中のR
B、およびR
B’は、炭素数1〜4のアルキル基であり、入手のしやすさの観点から、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。
シルセスキオキサンモノマーの合成方法としては、例えば、引用文献(Appl.Organometal.Chem.2001年、p.683−692参照)や特許文献(特開2004−143449号公報、特開平11−29640号公報)に記載の方法に従って製造することもできる。しかしながら、公知の方法で製造されたシルセスキオキサンモノマーにおいては、酸価に関する記載はない。本発明者らが製造方法と酸価に関して検討したところ、反応に用いる溶媒と反応温度を選択することにより、酸価を制御できることがわかった。すなわち、酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであるラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンモノマーを得るためには、反応溶媒としてメタノールまたはエタノールを用い、塩基触媒の存在下で25℃〜40℃の温度で製造することが好ましい。反応温度が25℃未満の場合には酸価が2.0mgKOH/gを超え、反応温度が40℃を超える場合には酸価が0.5mgKOH/g未満となってしまう。酸価の好ましい範囲は0.7〜1.8mgKOH/gである。
塩基触媒としては、公知の塩基が使用できるが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることが好ましく、その使用量は原料であるアルコキシシラン化合物に対して0.001〜0.1当量用いることが好ましく、0.002〜0.05当量用いることがさらに好ましい。触媒量がこの範囲よりも少ないときには反応時間が長時間化するため、生産性の点で好ましくなく、この範囲よりも多いときには、ラジカル重合性基が加水分解等の副反応を引き起こすため、好ましくない。また、加水分解に用いる水の使用量は、原料であるアルコキシシラン化合物の1当量以上あれば十分であり、通常1〜3当量の水が使用される。
以上のような製造方法に従えば、酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであるラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンモノマーを得ることができる。
<多官能ラジカル重合性モノマー(A2)>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、下記式(1)で示される多官能ラジカル重合性モノマー(A2)を含んでもよい。
ここで、
a+bの平均値が2〜30であり、aは0〜30及びbは0〜30の数である、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ、水素原子又はメチル基であり、
Aは、下記の群から選択される炭素数が1〜20である2価の有機基である、
アルキレン基;
非置換のフェニレン基;
置換基としてハロゲン原子あるいは炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニレン基;及び
下記式(2a)、(2b)または(2c)で表される2価の基;
ここで、
R
5及びR
6は、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子であり、
d及びeは、0〜4の整数であり、
六員環Bは、ベンゼン環又はシクロヘキサン環であり、
該六員環Bがベンゼン環であるときには、Xは、−O−、−S−、
−S(O)
2−、−C(O)−、−CH
2−、−CH=CH−、
−C(CH
3)
2−、または−C(CH
3)(C
6H
5)− で示される2価の基であり、
また六員環Bがシクロヘキサン環であるときには、Xは、−O−、−S−、−CH
2−、または−C(CH
3)
2− で示される2価の基であり、
cは0または1である。
該多官能ラジカル重合性モノマーは、本発明のフォトクロミック硬化性組成物の粘度を下げて取り扱いを容易にすることができると同時に、後述するフォトクロミック化合物(B)の溶解性を向上させることができる。また、得られる硬化体は、優れたフォトクロミック特性、特に高い発色濃度と速い退色速度を維持することができる。
前記式(1)で示される多官能重合性モノマーは、通常、分子量の異なる分子の混合物の形で得られる。そのため、a及びbの値は平均値となる。上記効果がより発揮されるためには、aは0〜30であり、bは0〜30であり、a+bの平均値は2以上30以下であることが好ましい。特に、a+bの平均値が2以上15以下であることが好ましい。
前記式(1)において、Aにおけるアルキレン基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ノニレン基が挙げられる。
Aにおけるハロゲン原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたフェニレン基としては、例えばジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラブロモフェニル基等が挙げられる。
好適に使用できる前記式(1)で示される多官能ラジカル重合性モノマーを具体的に例示すると、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が536のもの)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736のもの)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が23であり、平均分子量が1136のもの)、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が662のもの)、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が508のもの)、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が708のもの)、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が7であり、平均分子量が536のもの)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が12であり、平均分子量が808のもの)、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が2.3のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が2.6のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が4のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が10のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が20のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値30のもの)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート(a+bの平均値が4のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が3のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が4のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(a+bの平均値が10のもの)等を挙げることができる。
これらのうち、前記式(1)において、Aがエチレン基、プロピレン基、さらには下記式
で示される骨格を有するものが、特に高い発色濃度が得られるという点で好ましい。これらの重合性モノマーは2種以上混合して使用してもよい。
<イソシアネートモノマー(A3)>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、下記式(2)で示されるイソシアネートモノマー(A3)を含んでもよい。
ここで、R
7は水素原子またはメチル基であり、R
8はアルキレン基である。
前記式(2)中のR
7は、水素原子またはメチル基である。
前記式(2)中のR
8は、アルキレン基であり、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
好適に使用できるイソシアネートモノマーの具体例としては、例えば2−イソシアナトエトキシメタアクリレート等が挙げられる。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物に、該イソシアネート化合物を添加することにより、他のプラスチックレンズ基材と貼り合わせ法などの手法により積層体を形成する際に優れた密着性を得ることができる。
<その他のラジカル重合性成分(A4)>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、成分(A1)、成分(A2)、及び成分(A3)以外のラジカル重合性成分(A4)を含んでいてもよく、具体的には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、4個の(メタ)アクリル基を有するポリエステルオリゴマー、6個の(メタ)アクリル基を有するポリエステルオリゴマー等の多官能ラジカル重合性モノマーや、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、ナフトキシエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が468のもの)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が23であり、平均分子量が1068のもの)、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が6であり、平均分子量が412のもの)等の単官能ラジカル重合性モノマー、更にはα−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のビニルモノマー、平均分子量550のメトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量350のメトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量1500のメトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量450のポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量750のメトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアリルエーテル、平均分子量1600のブトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアリルエーテル、平均分子量560のメタクリロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアリルエーテル、平均分子量600のフェノキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量430のメタクリロキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量420のアクリロキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量560のビニロキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量650のスチリロキシポリエチレングリコールアリルエーテル、平均分子量730のメトキシポリエチレンチオグリコールアリルチオエーテル等のアリルモノマーなどが挙げられる。
これらの中でも、フォトクロミック特性、他のプラスチックレンズ基材との密着性などの観点から、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリシジルメタクリレート、フォトクロミック積層体の成型性などの観点から、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマーなどを好適に用いることが出来る。
<重合性成分の配合割合>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、成分(A1)、(A2)、(A3)および(A4)の如きラジカル重合性成分(A)として、単位重量(g)当たりの酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであるラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンモノマー(A1)を含んでいればよいが、フォトクロミック特性、プラスチックレンズ基材との密着性などを向上させる目的で、適宜成分(A1)以外の重合性成分を配合することができる。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物には、成分(A1)以外にも、成分(A2)、成分(A3)、及び成分(A4)などを配合することも出来る。そして、各成分の配合割合は、使用する用途に応じて適宜決定すればよいが、ラジカル重合性成分(A)を100質量%とした場合に、成分(A1)を10〜100質量%、成分(A2)を0〜70質量%、成分(A3)を0〜20質量%、及び成分(A4)を0〜50質量%含むことが好ましい。更には、成分(A1)を15〜60質量%、成分(A2)を20〜70質量%、成分(A3)を0〜10質量%、及び成分(A4)を5〜40質量%含むことがより好ましい。
<フォトクロミック化合物(B)>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物において用いるフォトクロミック化合物としては、クロメン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などの公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することが出来る。これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても構わない。
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物及びクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレットなどに記載されている化合物が挙げられる。
特に、クロメン化合物としては上記特許文献に記載されたもの以外にも、優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物が知られており、好適に使用できる。このようなクロメン化合物としては、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−344761号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219678号、特開2000−219686号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号、米国特許5645767号公報、米国特許5658501号公報、米国特許5961892号公報、米国特許6296785号公報、日本国特許第4424981号公報、日本国特許第4424962号公報、WO2009/136668号パンフレット、WO2008/023828号パンフレット、日本国特許第4369754号公報、日本国特許第4301621号公報、日本国特許第4256985号公報、WO2007/086532号パンフレット、特開2009−120536号、特開2009−67754号、特開2009−67680号、特開2009−57300号、日本国特許4195615号公報、日本国特許4158881号公報、日本国特許4157245号公報、日本国特許4157239号公報、日本国特許4157227号公報、日本国特許4118458号公報、特開2008−74832号、日本国特許3982770号公報、日本国特許3801386号公報、WO2005/028465号パンフレット、WO2003/042203号パンフレット、特開2005−289812号、特開2005−289807号、特開2005−112772号、日本国特許3522189号公報、WO2002/090342号パンフレット、日本国特許第3471073号公報、特開2003−277381号、WO2001/060811号パンフレット、WO2000/071544号パンフレット、WO2005/028465号パンフレット、WO2011/16582号パンフレット、WO2011/034202号パンフレット、WO2012/121414号パンフレット等に開示されている。
これらのフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、インデノナフト[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。さらにこれらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適である。その具体例として、以下のものが挙げられる。
<フォトクロミック化合物(B)の配合量>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物において、フォトクロミック化合物(B)の配合量は、全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましい。上記配合量が少なすぎる場合には、十分な発色濃度や耐久性が得られない傾向があり、多すぎる場合には、フォトクロミック化合物の種類にもよるが、ラジカル重合性成分に対しフォトクロミック組成物が溶解しにくくなり、組成物の均一性が低下する傾向があるばかりでなく、他のプラスチック基材との密着性が低下する傾向もある。発色濃度や耐久性といったフォトクロミック特性を維持したまま、他のプラスチックレンズ基材との密着性を十分に保持するためには、フォトクロミック化合物(B)の添加量は全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.03〜10質量部とすることがより好ましく、0.05〜5質量部とすることが特に好ましい。
<その他の配合剤、及びフォトクロミック硬化性組成物の製造方法>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物には、前記ラジカル重合性成分(成分(A1)、成分(A2)、成分(A3)、成分(A4))、フォトクロミック化合物(成分(B)のほかに、例えば離型剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料等の各種安定剤、添加剤を必要に応じて混合することができる。
中でも、紫外線安定剤を混合して使用するとフォトクロミック化合物の耐久性をさらに向上させることができるために好適である。紫外線安定剤としては、例えばヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止、イオウ系酸化防止剤を好適に使用することができる。好適な例としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、旭電化工業(株)製アデカスタブLA−52、LA−57、LA−62、LA−63、LA−67、LA−77、LA−82、LA−87、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチル−フェノール、2,6−エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のIRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565等を挙げることができる。この紫外線安定剤の使用量は特に制限されるものではないが、好ましくは全ラジカル重合性成分100質量部に対して各紫外線安定剤の配合量が0.001〜10質量部であり、さらに好ましくは0.01〜3質量部の範囲である。特にヒンダードアミン光安定剤を用いる場合、過剰に配合すると各化合物間の耐久性の向上効果に差が生じるため、発色色調の色ズレを起こすおそれがある。そのため、前記フォトクロミック化合物1モルに対して、ヒンダードアミン光安定剤は好ましくは0.5〜30モル、より好ましくは、1〜20モル、さらに好ましくは2〜15モル用いることが好適である(ヒンダードアミン光安定剤のモル数は、ヒンダードアミンの部位を1モルとした場合モル数である。)。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物には、ラジカル重合開始剤を配合することが好ましい。代表的なラジカル重合開始剤を例示すると、熱重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を挙げることができる。また、光重合開始剤としては、例えば、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;1,2−ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレート等のα−ジカルボニル系化合物;2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6−ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド系化合物を挙げることができる。これらの重合開始剤は1種、又は2種以上を混合して用いてもかまわない。また、熱重合開始剤と光重合開始剤を併用することもできる。光重合開始剤を用いる場合には3級アミン等の公知の重合促進剤を併用することができる。
本発明において、上記ラジカル重合開始剤を使用する際、その重合開始剤の使用量は、全ラジカル重合性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.01〜5質量部の範囲である。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、成分(A1)、フォトクロミック化合物(B)のほかに、成分(A2)、成分(A3)、成分(A4)、さらに必要に応じて配合される前記配合剤、ラジカル重合開始剤などを公知の方法で混合することにより製造できる。
<フォトクロミック硬化体、フォトクロミック積層体、その製法>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物から硬化体を得る重合方法は、特に制限されるものではなく、公知のラジカル重合方法を採用できる。重合開始手段としては、熱や紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。この際には、前述の熱重合開始剤や光重合開始剤などのラジカル重合開始剤を、本発明のフォトクロミック硬化性組成物に添加することが好ましい。
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を有効に使用できる貼り合わせ法の代表的な重合方法を例示すると、エラストマーガスケット又はスペーサーで保持されているガラスモールドとプラスチックレンズ基材の隙間に、熱重合開始剤を混合した本発明のフォトクロミック硬化体組成物を注入し、空気炉、もしくは水浴中で熱重合硬化させる方法、または、光重合開始剤を混合した本発明のフォトクロミック硬化体組成物を注入し、特にガラスモールド側から光照射を行う光重合方法を行った後に、ガラスモールドを取り外し、積層体を得る重合方法が採用される。
上記プラスチックレンズ基材としては、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂及びチオエポキシ系樹脂等が代表的であり、本発明のフォトクロミック硬化性組成物およびその硬化体は何れのプラスチックレンズ基材にも適用できる。
なお、貼り合わせ法により形成されるフォトクロミック積層体の厚みはガラスモールドと上記プラスチックレンズ基材の隙間により調整できるが、その厚みは150〜1500マイクロメートルであることが好ましい。150マイクロメートル未満であると、フォトクロミック化合物が酸化劣化を受けやすくなり、繰り返し耐久性に問題が生じる場合があり、1500マイクロメートルを超える厚みになると、本発明のフォトクロミック硬化体組成物を重合する際の収縮によりプラスチックレンズ基材が変形するなどの問題を生じることがある。
また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物を硬化して得られる積層体は、プラスチックレンズ基材に対して優れた密着性を有しているが、密着性をさらに向上させるために、プラスチックレンズ基材に接着層を有していても良い。該接着層には、公知の接着剤を使用することができ、その厚みは0.1〜100マイクロメートルであることが好ましく、0.1〜20マイクロメートルであることがより好ましい。
本発明で使用される接着剤としては、公知の接着剤を使用することができる。例えば水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散アクリル樹脂、水分散ポリウレタン・アクリル樹脂などの水分散性ポリマー組成物;光硬化性の(メタ)アクリル基を有する重合性モノマー組成物;湿気硬化型、2液硬化型などのポリウレタン樹脂組成物などを挙げることができる。
上記のような本発明のフォトクロミック硬化性組成物を用いて得られる貼り合わせ法フォトクロミックレンズ(フォトクロミック積層体ともいう。)は、通常のプラスチックレンズ基材に比べて高い硬度を有しているため、そのまま研磨や縁取りなどの加工工程を経て使用に供することができるが、着用時の傷の発生を防止することを目的として、さらにハードコーティング層で被覆して使用することもできる。
ハードコーティング層を形成するためのコーティング剤(ハードコート剤)としては、公知のものがなんら制限なく使用できる。具体的には、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、チタン等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート剤や、有機高分子体を主成分とするハードコート剤が使用できる。
本発明のフォトクロミック積層体では、成分(A1)を含んでいるため、ハードコーティング層形成前に公知の前処理を行わずとも、十分な密着性を有するハードコーティング層を形成することができる。本発明のフォトクロミック積層体とハードコーティング層の密着性をより強固に向上させる目的で、該フォトクロミック積層体表面をアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、UVオゾン処理、無機あるいは有機物の微粒子による研磨処理、プライマー処理又はプラズマもしくはコロナ放電処理を行うことが効果的である。
また、塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法あるいはフロー法等によりコーティング組成物を塗布することができる。
塗布後の硬化方法として、乾燥空気あるいは空気中で風乾して、通常フォトクロミック積層体が変形しない程度の温度で加熱処理することによって硬化し、ハードコーティング層が形成される。
また、本発明のフォトクロミック積層体の表面には、ハードコーティング層以外にも、さらに必要により、SiO
2、TiO
2、ZrO
2等の金属酸化物の薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工や2次処理を施すこともできる。
【実施例】
【0006】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン(A1)の合成)
<PMS1の合成>
3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート248g(1.0mol)にエタノール248mlおよび水54g(3.0mol)を加え、触媒として水酸化ナトリウム0.20g(0.005mol)を添加し、30℃で3時間反応させた。原料の消失を確認後、希塩酸で中和し、トルエン174ml、ヘプタン174ml、および水174gを添加し、水層を除去した。その後、水層が中性になるまで有機層を水洗し、溶媒を濃縮することによってシルセスキオキサンモノマー(PMS1)を得た。なお、
1H−NMRより、原料は完全に消費されていることを確認した。また、
29Si−NMRより、ケージ状構造、ラダー状構造およびランダム構造の混合物であることを確認した。
シルセスキオキサンモノマー(PMS1)に含まれる酸性成分は次に記す滴定を行うことで酸価を定量して評価した。
2mlミクロビューレットに0.1mol/L水酸化カリウムアルコール溶液(エタノール性)溶液(以下、測定液)をセットし、スターラーを準備した。メスシリンダーを用い、エタノールとトルエンを50mlずつ精秤し、200mlビーカーに入れ、スターラーにて撹拌混合した。フェノールフタレイン溶液3滴を加え、滴定液にて空滴定を行った。空滴定後の溶液に試料20gを入れ、スターラーにて撹拌混合した。さらに、フェノールフタレイン溶液3滴を加え、滴定液にて試料滴定を行って滴定量を得た。酸価の計算方法は以下の式に基づいて計算した。
酸価(mgKOH/g)=滴定量(ml)×滴定液f×5.6÷試料量(g)
ここで、fは標準塩酸溶液を用いて求めた滴定液のファクターを示す。上記方法で使用したN/10水酸化カリウムアルコール溶液のfは0.094であった。また、試料量は試料中に含まれるシルセスキオキサンモノマーの重量である。
この方法に従って測定したPMS1の酸価は1.1mgKOH/gであった。
シルセスキオキサンモノマー(PMS1)の分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定した。
装置としては、液体クロマトグラフ装置(日本ウォーターズ社製)を用いた。カラムとしては、Shodex GPC KF−802(排除限界分子量:5000、昭和電工株式会社製)、Shodex GPC GPC KF802.5(排除限界分子量:20000、昭和電工株式会社製)及びShodex GPC KF−803(排除限界分子量:70000、昭和電工株式会社製)を使用した。
また、展開液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/min、温度40℃の条件にて測定した。標準試料にポリスチレンを用い、比較換算により重量平均分子量および多分散度を求めたところ、PMS1の重量平均分子量は4800、多分散度は1.40であった。
<PMS2〜PMS6の合成>
表1に示す原料および反応条件に従って、PMS1の合成方法と同様にしてシルセスキオキサンモノマー(A1)を合成した。また、PMS1と同様の方法で酸価および分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
(フォトクロミック硬化体の作製および評価)
以下の例で使用した化合物の略号と名称は次のとおりである。
多官能ラジカル重合性モノマー(A2);
BPE500:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長10、平均分子量804)。
A−BPE:2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長10、平均分子量776)。
9G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長9、平均分子量536)。
14G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖14、平均分子量770)。
A400:ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長9、平均分子量508)。
3PG:トリプロピレングリコールジメタクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長3、平均分子量328)。
イソシアネートモノマー(A3);
IEM:2−イソシアナトエトキシメタクリレート。
その他のラジカル重合性成分(A4);
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
M90G:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長9、平均分子量468)。
GMA:グリシジルメタクリレート。
αMS:アルファαメチルスチレン。
MSD:アルファαメチルスチレンダイマー。
フォトクロミック化合物(B);
実施例1
下記の成分を混合して、ラジカル重合性成分(A)を調整した。
シルセスキオキサンモノマー(A1)
PMS1:20重量部
多官能ラジカル重合性モノマー(A2)
BPE500:50重量部
9G:20重量部
その他のラジカル重合性モノマー(A4)
GMA:1重量部
αMS:8重量部
MSD:1重量部
このようにして調製されたラジカル重合性成分(A)100重量部に、
PC1(フォトクロミック化合物(B)) 0.2重量部、
パーブチルND(重合開始剤) 1重量部
を十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物を得た。
この硬化性組成物を、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットを用い、ガラス板と屈折率1.60のチオウレタン系樹脂プラスチックレンズ基材で挟まれた鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃まで18時間かけ徐々に温度を上げていき、90℃で2時間保持して行い、重合終了後にガラス板を外すことで、0.5mm厚のフォトクロミック硬化性組成物の硬化体と2mm厚のプラスチックレンズ基材が密着したフォトクロミック積層体を得た。得られたフォトクロミック積層体は、最大吸収波長588nm、発色濃度0.83、退色速度63秒のフォトクロミック特性を有し、密着性がBであった。なお、これらの評価は以下のようにして行った。
フォトクロミック特性
得られたフォトクロミック積層体(フォトクロミック層の厚み500マイクロメートル)を試料とし、これに、浜松ホトニクス社製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、重合体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm
2,245nm=24μW/cm
2で120秒間照射して発色させ、前記積層体のフォトクロミック特性を測定した。各フォトクロミック特性は以下の方法で評価した。
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
2)発色濃度{ε(120)−ε(0)}:前記最大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と上記ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック特性が優れているといえる。
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記最大波長における吸光度が{ε(120)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほど速やかに消色することを意味し、フォトクロミック特性が優れているといえる。
密着性
得られたフォトクロミック積層体の密着性を評価した。評価方法としては、得られたフォトクロミック積層体を100℃を沸騰水に浸漬し、1時間毎にフォトクロミック積層体の接着状態を目視評価することにより実施した。評価基準を以下に示す。
S:浸漬計3時間密着性良好。
A:浸漬計2時間密着性良好。浸漬計3時間で、一部剥離箇所あり。
B:浸漬1時間密着性良好。浸漬計2時間で、一部剥離箇所あり。
C:浸漬1時間で一部剥離箇所あり。
D:浸漬1時間で、複数個所で剥離が発生。
E:浸漬1時間で、50%以上の面積が剥離。
実施例2〜11
表2に記載したラジカル重合性成分、及びフォトクロミック化合物を用いた以外は、実施例1と同様にしてフォトクロミック硬化性組成物を調製し、また実施例1と同様にしてフォトクロミック積層体を作製し、評価を行った。評価結果を表3に示す。
【表2】
【表3】
比較として、下記のシルセスキオキサンモノマーを合成した。
シルセスキオキサンモノマーPMS−R1;
3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートを原料として、特許文献(特開2004−143449号公報)に開示されている製造方法に従って合成した。(酸価0.3mgKOH/g、重量平均分子量1.8×10
3、多分散度1.08)。
シルセスキオキサンモノマーPMS−R2;
PMS1の合成方法において、反応溶媒を2−プロパノールにかえ、反応温度を20℃にして合成した。(酸価2.3mgKOH/g、重量平均分子量6.6×10
3、多分散度1.41)。
シルセスキオキサンモノマーPMS−R3;
PMS1の合成方法おいて、反応溶媒を用いず(無溶媒)、反応温度を5℃にして合成した。(酸価8.4mgKOH/g、重量平均分子量22×10
3、多分散度1.88)。
比較例1〜5
表4に記載したラジカル重合性成分、及びフォトクロミック化合物を用いた以外は、実施例1と同様にしてフォトクロミック硬化性組成物を調製し、また実施例1と同様にしてフォトクロミック積層体を作製し、評価を行った。評価結果を表5に示す。
【表4】
【表5】
上記実施例1〜11から明らかなように、本発明に従って、ラジカル重合性基を有し且つ酸価が0.5〜2.0mgKOH/gであるシルセスキオキサンモノマー(A1)を含んだフォトクロミック硬化性組成物を用いることにより、優れたフォトクロミック特性、密着性を有するフォトクロミック積層体が得られた。
一方、比較例1〜3のように、酸価が0.5〜2.0mgKOH/gの範囲外であるシルセスキオキサンモノマーを含むか、もしくは比較例4、及び5のように、シルセスキオキサンモノマー(A1)を含まない場合においては、得られたフォトクロミック積層体の密着性が不十分であった。
発明の効果
以上のとおり、本発明によれば、従来の方法ではその両立が困難であった、優れたフォトクロミック特性を有し、かつ密着強度の優れたフォトクロミック積層体を提供することができる。