特許第6231010号(P6231010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6231010アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)又はその塩、及びそれを用いた共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231010
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)又はその塩、及びそれを用いた共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/32 20060101AFI20171106BHJP
   C07C 309/15 20060101ALI20171106BHJP
   C07C 211/04 20060101ALI20171106BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20171106BHJP
   C07C 303/42 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   C07C303/32
   C07C309/15
   C07C211/04
   C08F20/58
   C07C303/42
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-543872(P2014-543872)
(86)(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公表番号】特表2015-504441(P2015-504441A)
(43)【公表日】2015年2月12日
(86)【国際出願番号】EP2012073791
(87)【国際公開番号】WO2013079507
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】11191117.8
(32)【優先日】2011年11月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】エベル,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】フォイトル,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ケラー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】リューデナウアー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】バルトリング,カルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ラングロッツ,ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】シュタイナー,ヨッヘン
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−103145(JP,A)
【文献】 特表平05−508869(JP,A)
【文献】 特開2011−045812(JP,A)
【文献】 特開2008−184412(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/025847(WO,A1)
【文献】 特開昭54−106427(JP,A)
【文献】 特開昭53−149928(JP,A)
【文献】 特開昭59−073560(JP,A)
【文献】 特開2008−071725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/32
C07C 211/04
C07C 303/42
C07C 309/15
C08F 20/58
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法であって、
a)下記式(I)、
NR …(I)
(R及びRラジカルは、それぞれ独立して、水素、C−C−アルキル、ヒロドキシ−C−C−アルキル、又はC−C−アルコキシである)
のアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基成分(B)を使用して、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)汚染塩の、無水有機溶媒(L)溶液を作製する工程を有し、及び更に
b)絶対圧0.001〜2bar(abs)の圧力範囲で、有機溶媒(L)を任意に部分的に除去する工程と、
c)温度及び/又は圧力及び/又は前記溶液中の塩濃度を変化させ、結晶化又は沈殿により、溶解した化合物(A)の塩を回収する工程と、
d)精製したアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を任意に乾燥させる工程と、
を含むことを特徴とするアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項2】
使用する前記無水有機溶媒(L)を、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、DMF又はそれら溶媒の少なくとも2種の混合物から選択する請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項3】
工程b)において、絶対圧0.001〜0.5bar(abs)の範囲の圧力で、少なくとも50質量%の有機溶媒(L)を除去する請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項4】
工程b)において、ガスを供給しながら、少なくとも60質量%の有機溶媒(L)を除去する請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項5】
工程a)において、無水C−C−アルコールを溶媒(L)として使用し、工程c)において、温度変化によりアルコール性溶液から精製した塩を得る請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項6】
工程c)において、圧力変化により前記有機溶液から精製した塩を得る請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項7】
工程c)において、濃度変化及び/又は更なる有機成分(NL)を添加することで、前記有機溶液から前記精製した塩を得る請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項8】
少なくとも工程a)及びc)を、1回を超える回数繰り返す、請求項1に記載のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を生成する方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法で生成されたアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)又はその塩を、共重合体の製造に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副生成物が無い又は副生成物が少ない、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩の生成方法に関する(以下、登録商標であるAMPS又は化合物Aとする)。本発明は、特に、少なくとも純度99%、特に少なくとも99.5%を備えた、化合物Aのナトリウム塩の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで、化合物(A)の精製塩は、前もって既に精製したアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を使用して生成されてきたが、これは不都合をもたらしていた。文献は、得た化合物(A)の加工及びにその生成のための多数の方法を開示している。そこには、その塩の生成のための多様な公知の方法手順も存在する。
【0003】
化合物(A)の単純な生成方法は、下記の反応スキームにより示される。そのスキームでは、溶剤としての過剰なアクリロニトリル及び反応物質が、イソブテン及び硫酸と反応する。使用される硫酸も、多様な遊離SOの割合を有する。一実施形態では、SO及び水を別々に添加することもできる。
【0004】
【化1】
【0005】
生成方法の一実施形態では、連続作業において、アクリロニトリルが先ず供給され、ついでイソブテン及びオレアム(発煙硫酸)と混合される。しかし、バッチ式処理(バッチ式モード)で行うことも可能である。
【0006】
化合物(A)は、無色の結晶質固体であって、該固体はアクリロニトリルわずかにかろうじて溶解するにすぎない。化合物(A)又はその塩からの重合体及び共重合体の製造において、不純物は不利な特性を負わせるので、更なる処理のためには、化合物(A)又はその塩の純度が特に重要である。これは特に、例えば鉱油製造などに使用される高分子量重合体及び共重合体の製造のためのモノマーとしてだけではなく、凝集剤として、流体損失ポリマー(fluid loss polymer)として、そして接着ポリマー(cementing polymer)としての化合物(A)の使用に関連する。
【0007】
米国特許第4,337,215号明細書は、精製2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を生成するための精製方法を開示している。この方法の出発物質は、AMPSの粗結晶沈殿物であって、公知の方法で作成した反応混合物から、沈殿物の洗浄により得られたものである。粗結晶を5〜40%の水を含む酢酸に溶解する。90℃で所望量の化合物(A)を完全に溶解するのに要求される水性酢酸の量は、水の含有量に依存する。水性酢酸の水含有量が10%の場合、粗結晶の重量の4から5倍の量が使用される。精製結晶は懸濁液を10から20℃でろ過して得られる。
【0008】
米国特許第4,701,283号明細書は、化合物(A)及びその塩、並びに、共重合体が化合物(A)と他のモノマーと重合して作成された共重合体被覆固体材料及び共重合体エマルジョンの製造方法を開示している。
【0009】
米国特許第4,650,614号明細書は、揮発性一価アルコールを含むスラリー中のスルホン酸をスラリー中で短時間加熱し、次いでデカンタ又は他の分離形式によりスルホン酸を回収し、続いて固形の湿ったスルホン酸を乾燥させることにより得られる、技術的等級(technical−grade)の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の精製方法を開示している。
【0010】
米国特許第6,331,647号明細書は、アクリルアミドスルホン酸モノマーの生成及び精製を開示している。それは、不純物が混入して(contaminated、汚染)アクリルアミドスルホン酸を金属酸化物又は水酸化物の水溶液と反応させ、次いで結晶化させることで行われる。この方法の不都合は、目的物質の水への溶解性が高いため、高い複雑性を伴う場合のみ量的除去が達成可能なこと、そして、いくつかの不純物は溶液からの晶析が同等、あるいは優先的ですらあるので、目的物質の精製がより困難であるということである。特に、ここでのスルホン酸、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸(イソブテンスルホン酸、IBSA)及び2−メチリデン−1,3−プロペンジスルホン酸(イソブテンジスルホン酸、IBDSA)について言及すべきである。従って、化合物(A)又はそのナトリウム塩の重合では高分子量ポリマーが得られなかった。作業で得られる更なる主な副次的成分は、tert−ブチルアクリルアミド(ATB)である。
【0011】
米国特許第6,331,647号明細書は、HPLCクロマトグラムのピークでの減少(reduction)に関連する使用した塩の精製を開示している。いかなるスルホン酸についても言及はない。同様に、高分子量ポリマーの製造のための精製塩の議論も同様にない。使用におけるいかなる肯定的な効果を生じる精製についても開示されていない。
【0012】
米国特許公開2010/274048号明細書は、化合物(A)の生成方法を開示しており、そこでは、100ppm未満の2−メチル−2−プロペニル−1−スルホン酸及び100ppm未満の2−メチリデン−1,3−プロピレンジスルホン酸を含む生成物が得られる。精製は、ここでは、主にその後の結晶化を通じて行われ、洗浄及び乾燥工程により、面倒な副次的成分の含量が所望の目的含量まで減少する。その後、得た(A)は、従来技術と類似の方法で、塩基との反応により所望の塩に変性可能である。この方法の他の不都合は、高い投資コストを伴う複雑な精製サイクルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,337,215号明細書
【特許文献2】米国特許第4,701,283号明細書
【特許文献3】米国特許第4,650,614号明細書
【特許文献4】米国特許第6,331,647号明細書
【特許文献5】米国特許公開第2010/274048号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、高純度を備えた化合物(A)の塩を生成するための、簡易で、改良された方法を提供することである。特に、重合に破壊的な影響を持つ有機不純物の含量を最小化することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の塩は、非常に高分子量の単独重合体及び共重合体の製造のためのモノマーとして重要である。化合物(A)生成の多様な副生成物が、重合において不要な生成物を導き出すことができる。
【0016】
この目的は、下記工程a)〜d)を有するアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の生成方法により達成される。
a)アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及び下記式(I)、
NR …(I)
(R及びRラジカルはそれぞれ独立してC−C−アルキル、ヒロドキシ−C−C−アルキル、又はC−C−アルコキシである)
のアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基成分(B)を使用して、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の汚染塩の、無水の有機溶媒(L)溶液を作製する工程を含み、
ここで、化合物(A)の塩基成分(B)に対するモル比は、好ましくは1:1〜1:3であり、更に
b)絶対圧0.1kPa以上200kPa以下(0.001〜2bar、abs)の圧力範囲で前記有機溶媒(L)を任意に部分的に除去する工程と、
c)温度及び/又は圧力及び/又は溶液中の塩の濃度を変化させ、結晶化又は沈殿により、溶解した化合物(A)の塩を回収する工程と、
d)精製されたアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を任意に乾燥させる工程。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例3における生成物(A)のHPLCスペクトルを示す図である。
図2】実施例4における生成物(A)のHPLCスペクトルを示す図である。
図3】実施例4における生成物(A)のNMRスペクトルを示す図である。
図4】比較例2における生成物(A)のHPLCスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、使用する無水溶液(L)を、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、DMF又はそれら少なくとも2種類の溶液の混合物から選択する方法に関する。
【0019】
本発明は、また、工程a)において、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩、特にナトリウム塩を使用する方法に関する。
【0020】
本発明は、また、工程a)において、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の塩を、前記式(I)のアミン、特に、トリメチルアンモニウム塩と共に使用する方法に関する。
【0021】
本発明は、また、工程b)において、少なくとも50質量%の有機溶媒(L)を、絶対圧0.1kPa以上50kPa以下(0.001〜0.5bar、abs)で除去する方法に関する。
【0022】
本発明は、また、工程b)において、少なくとも60質量%の有機溶媒(L)を、ガス、特に空気を供給しながら除去する方法に関する。
【0023】
本発明は、また、工程a)で使用する溶媒(L)が無水C−C−アルコールであり、工程c)では、温度変化によりアルコール性溶媒から精製塩を得る方法に関する。
【0024】
本発明は、または、工程c)で、圧力変化により前記有機溶媒から精製塩を得る方法に関する。
【0025】
本発明は、また、工程c)で、濃度変化及び/又は更なる有機成分(NL)添加により、前記有機溶媒から精製塩を得る方法に関する。
【0026】
本発明は、また、少なくとも工程a)及び工程c)を、1回を超える回数繰り返す方法に関する。これらの工程(無水塩基との溶解、任意の有機溶媒除去と塩の回収)、は、例えば2〜10回、特に2〜5回繰り返すことが可能であり、その結果、それぞれの場合でより高い純度を得ることができる。
【0027】
本発明は、更に、前述の方法により生成され、または生成可能なアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)又はその塩に関する。遊離化合物(A)を前記塩から生成することができる。
【0028】
本発明は、また、少なくとも純度99.5%、特に少なくとも純度99.8%のアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)又はその塩に関する。このましくは、特に少なくとも純度99.9%のナトリウム塩を使用することである。
【0029】
本発明は、また、前述の方法により生成されたアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(A)の共重合体製造のための使用に関する。
【0030】
汚染された化合物(A)から生成する本発明は、イソブテンスルホン酸(IBSA)及び/又はイソブテンジスルホン酸(IBDSA)などの不純物を極少量しか含まないアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の多様な高純度塩を生成することができる。
【0031】
これらのイソブテンスルホン酸(IBSA)及び/又はイソブテンジスルホン酸(IBDSA)副生成物の含量は、好ましくは全部で最大100ppm、特に最大70ppm、好ましくは最大50ppmにすべきである。本発明は、また、(IBSA)と(IBDSA)を合計100ppm未満含む化合物(A)のナトリウム塩を提供する。
【0032】
方法の工程a)では、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物の、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物の、及び/又は一般式NR有機アミンの非水溶液が使用される。R及びRラジカルは、それぞれ独立して水素原子、又はアルキル、ヒドロキシアルキル又はアルコキシのラジカル(1〜4の炭素原子を含む)である。
【0033】
大まかに言えば、本発明は化合物(A)の塩を生成及び精製する方法であって、その方法では、酸化物、水酸化物又はアミンの非水溶液又は懸濁液が使用される。汚染された化合物(A)と塩基成分とが有機溶媒中で反応することで、塩を形成する。
【0034】
本発明は、また、高純度、特に、99%を超える純度の、特に99.5%を超え、しばしば99.7%を超える純度の化合物(A)塩を得るための技術的な実行を容易にする方法に関連する。この高純度塩は、当該モノマーの高分子量共重合体又は単独重合体の製造用のモノマーとして適している。製造した重合体は、穿孔補助(drilling aids)、凝集剤、流体損失ポリマー(fluid loss polymers)及び接着ポリマーとして特に適している。
【0035】
その塩を生成するために、基本、有機溶液(organic solution)、特にアルコール性の溶液が使用され、有機溶液は、例えば、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物又はアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物の、又はアミンの溶液である。元素周期表のIA族及びIIA族金属の金属水酸化物が好ましい。これら金属の特定の例は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムである。
【0036】
特に好ましいIA族金属はナトリウムであり、特に好ましいIIA族金属はマグネシウムである。金属水酸化物溶液の中でも、水酸化ナトリウムのアルコール性溶液の使用が好ましい。
【0037】
上述した一般式NRのアミンの非水溶液もまた使用可能である。アンモニアのアルコール性溶液の使用もまた可能である。
【0038】
本発明の文脈における表現「本質的な有機溶液」は、主な溶媒(L)が有機であり、その溶媒に水が0.5質量%を超えない範囲、特に0.2質量%を超えない範囲、しばしば0.1質量%未満で存在することである。
【0039】
基本、好ましい無水の有機溶媒は、1〜4の炭素原子を持つアルコール、アルデヒド、ケトン、二トリル、エステル及びエーテル、ジメチルホルムアミドのようなアミド、又は、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシドである。より低級のアルコールが、多くの場合好ましい。
【0040】
塩基(B)と化合物(A)の反応は、塩を生成する。モル過剰量の塩基(B)の使用の場合、技術的問題はない。過剰は、例えば、1mol%〜約20mol%が可能である。造塩を得るために、塩基成分(B)は、化合物(A)に混合することもできるし、その逆も可能である。造塩は発熱性で、上昇した熱は塩の最大量を溶媒に溶解可能にするために使用することができる。塩溶液は、通常、次いで冷却され、例えば結晶化により、精製物として固体の塩が得られる。
【0041】
塩を生成するための化合物(A)と塩基(B)の反応は、0℃以上80℃以下の温度で行う。好ましくは、造塩を約5℃以上約50℃以下、特に約10℃以上約40℃以下の温度で行うことである。
【0042】
造塩における塩基(B)に対する化合物(A)のモル比は、塩基(B)の性質による。塩基(B)がIA群金属の場合、(A):(B)モル比は約1:1〜2、好ましくは1:1〜1.10、特には約1:1〜1.05である。塩基(B)がIIA族金属の場合、(A):(B)モル比は約2:1〜2、好ましくは2:1〜1.10、特には約2:1〜1.05である。塩基(B)が一般式NRのアミンである場合、化合物(A)のモル対塩基(B)の窒素原子の比は、約1:1〜2、好ましくは1:1〜1.10、特に約1:1〜1.05である。
【0043】
この方法で形成された塩は、有機溶液中に存在する。この溶液を、不純物を除去するために、任意にろ過することもできる。化合物(A)の塩は、有機溶液を、例えば、温度及び/又は圧力及び/又は濃度において変化させることで回収(recovered)することができる。
【0044】
例えば、化合物(A)の塩が極わずかに溶解する化合物である更なる化合物(NK)を添加することも可能である。
【0045】
温度の増加により、任意の減圧下で、溶媒(L)の一部が多くの場合除去され、その結果、存在する塩の量が残留する溶媒の量に対して増える。上昇した温度での溶媒の除去は、減圧により簡易になる。しかし、溶媒(L)もまた、室温で圧力を減少させることで除去することが可能である。温度減少により。温度の働きである塩の溶解度の変化に従って、塩は除去される。
【0046】
各場合において、塩は有機溶液の過飽和により得られる。このような過飽和とする2つの方法は、温度変化と、脱溶媒(stripping off the solvent)による結晶化である。温度変化の方法では、飽和溶液が、溶液(L)中の所望の塩の溶解度が低下するように冷却される。溶解度低下の結果、溶液から塩が晶析する。脱溶媒による結晶化の方法では、溶媒(L)が、加熱又は減圧により、又は加熱と減圧の組合せにより、溶媒から除去される。
【0047】
減少した溶媒量は、所望の塩の結晶化をもたらす。温度変化又は脱溶媒による結晶化は、バッチ式又は連続で行うことができる。
【0048】
有機溶液は、−20℃から約45℃の温度に維持することが多くの場合で好ましい。45℃を超える温度は、副生成物の急激な形成、さもなければ、重合体の形成をもたらす。約−20℃未満の温度は、時には有機溶液からの塩の分離に問題をもたらす。重合を阻害するために、重合阻害剤の使用が有効である。重合阻害剤は商業上利用可能である。好ましい重合阻害剤は、ヒドロキノンモノメチルエーテルである。蒸発結晶化では、蒸発温度を低下させ、かつ、副生成物の形成を最小化させるために、溶媒を減圧下で蒸発させる(1bar未満、即ち100kPa未満)。例えば、パージエアの又は他の酸素含有ガスの一定のガス流を、蒸発作業に供給することができる。
【0049】
本発明の方法で得られる化合物(A)の塩の純度は、例えば、H NMR及びC−13NMRのような分光方法により判定できる。
【0050】
他の可能性は、少量存在する副生成物のクロマトグラフィー除去(例えばHPLC)であり、標準的な方法の手段により量的に判定可能である。
【0051】
本発明を表す実施例及び請求項を下記に示す。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
この方法は大規模に行うことも可能ではあるが、通例の研究室規模における、アクリロニトリル溶媒中での化合物(A)の生成方法を下記に詳細に説明する。
【0053】
アクリロニトリル(AN)15.5mol(820g)を最初に−10℃の温度にし、次いで、2.5mol(140g)のイソブテン(沸点が−7.1℃)を速度0.6g/分で、2.1molの発煙硫酸(205.8g)を速度22〜28ml/時間で供給するために、2つの反応混合ポンプを一緒に使用する。供給は約3.5時間かける。
【0054】
供給の間、サーモスタット(−10℃)で冷却しながら、温度を常に2.7℃まで上昇させる。供給終了後は、20℃の温度に温め、10分間攪拌する。これにより、過剰なアクリロニトリル溶媒中の化合物(A)の乳白懸濁液を生成する。いくつかの場合においては、イソブテン及びSOの残留物が存在することも可能である。
【0055】
化合物(A)の精製は、下記のような結晶化により可能である。前記の過剰なアクリロニトリル溶媒中の化合物(A)の乳白懸濁液を反応用反応装置(reaction reactor)から取り出し、第2の反応装置に入れる。反応用反応装置をもう一度550mlの酢酸(96%)ですすぎ、同様に、第2の反応装置にも供給する。第2の反応装置の反応混合物を、20mlの水と混合し、還流で加熱する(約87℃まで)。混合物は還流で10分間攪拌し、次いで冷却する。沈殿した化合物(A)を吸引ろ過する。
【0056】
固形分は乾燥キャビネット中で、数時間70℃で乾燥させることができる。この結果、369.4gの化合物(A)が得られ、これは収率85%に相当する。生成物は、しかしながら、未だ数質量%の不純物を含む。
【0057】
本発明による方法では、対照的に、化合物(A)の不純物が汚染された懸濁液(精製、又は、アクリロニトリル、イソブテン及び発煙硫酸の反応からの除去なしに直接得た)が、塩基の実質的に無水の溶液と反応し、その塩基の溶液は、好ましくは、1種以上の極性溶媒(L)中のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物であり、極性溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、DMF等である。好ましくは、無水アルコール(好ましくはメタノール)又は主にアルコール(好ましくはメタノール)からなる混合物を用いることである。
【0058】
塩基(B)として対応するアンモニウム塩を提供するガス状アンモニア又はトリアルキルアミンとの反応も可能である。
【0059】
その結果の有機溶媒中の塩の溶液、さもなければ懸濁液は、例えば抽出又は結晶化等の精製方法により除去可能な不純物を含む。従って、好ましい手順は、結果物であるナトリウム塩の、有機溶媒、さもなければ2種以上の有機溶媒混合物からの再結晶である。
【0060】
水性システム中の結晶化とは対照的に、比較的高純度(94%を超える)で所望の生成物が得られる。特に、重合で連鎖停止を導き、それゆえ低分子量の重合体を導く、IBSA及びIBDSA不純物が、本発明の方法により使い尽くされる。
【0061】
同様の方法が、未だ汚染されている生成物が先ずろ過され、次いで有機溶媒で洗浄する更に好ましい処理工程にも適用される。水性システムでの同じ処理工程を実施する場合よりも、より高純度の生成物が得られる。
【0062】
実質無水システムにおける作業の更な利点は、溶媒の、または溶媒混合物の除去が明らかに簡易になることである。生成物は、ろ過が容易な結晶化態様でも得られる。それは容易な方法で乾燥させることができる。対照的に、水性システムからの結晶化は、ろ過がより困難な生成物を提供する。乾燥工程も複雑である。
【0063】
<実施例2:反応混合物から、直接、化合物(A)ナトリウム塩(NaATBS、無水物)を生成>
アクリロニトリル、イソブテン及び発煙硫酸を、上述したように互いに反応させ、アクリロニトリル中の結晶質ATBSの約25%懸濁液を作製した。溶液は、NaOHの乾燥メタノール溶液(MeOH中18%NaOH)により、pH=7.8になるまで調整した状態で、5℃で混合した。これにより、より直接的に処理される、NaATBS含量が約16.7質量%(校正HPLCで測定)の、均一で、青白い黄色がかった溶液を得た。
【0064】
<実施例3:実質的に無水のシステムからNaATBSの生成>
アクリロニトリル及びメタノール中のNaATBS(16.77質量%)の実施例1で得た溶液100gからの反応溶液に空気を導入しながら、約50gの溶媒を減圧下室温で除去した。これにより、無色で、NaATBSを容易にろ過可能な懸濁液を得た。生成物をろ過により残留溶媒から分離し、更なるアクリロニトリル/メタノールで洗浄した。これにより、やや汚染された、細かい結晶質のNaATBS(純度94%)を17.3g得た。IBSAの質量割合は0.43%であり、ATBの質量割合は1.7%であった。
【0065】
図1は結果として生じた生成物(A)のHPLCスペクトルを示す。HPLCでは、多量の不要な副次的成分、例えば、tert‐ブチルアクリルアミド、アクリロニトリル、IBSS及びIBSSもまた存在することが明示されている。従って、このような生成物の重合から、十分な高分子量のポリマーを得るのが困難であった。HPLCスペクトルの横軸は時間(0〜17.5分)を示し、縦軸は強度を示す。
【0066】
<実施例4:有機溶媒から結晶化によるNaATBS精製(実質無水反応体制)>
アクリロニトリル及びメタノール中のNaATBS(16.77質量%)の本特許出願実施例1で得た溶液809gからの反応溶液に空気を導入しながら、減圧下で約503gの蒸留物を除去した。残った306gの溶液に383gのアセトンを添加し、混合物を0℃に冷却した。15〜20分後、NaATBSが白結晶の形態で沈殿し始めた。その結果生じた沈殿物はろ過により除去し、アセトンで洗浄し、70℃で慎重に乾燥させた。これにより、最早ATBを含有せず、IBSAの割合が0.3質量%迄低下した、純度99.7%の精製NaATBSを得た。その方法(再結晶化、洗浄)の使用を繰り返し、110℃で乾燥させ、高分子量重合体の製造に適した純>99.9%のNaATBSを得た。
【0067】
本特許出願の図2は、その結果得た生成物(A)のHPLCスペクトルを示す。HPLCでは不要な副次的成分のレベルが顕著に減少したことが明らかである。特に、モノマー(A)の重合で問題を起こす、IBSS及びIBDSS副次的成分が100ppm未満に減少した。HPLCの横軸は時間(0〜16分)を示し、縦軸は強度を示す。
【0068】
本特許出願の図3は、その結果生じた生成物(A)のNMRスペクトルを示す。NMRスペクトルでは、結果得られた生成物が非常に高い純度を持つことが明らかになっている。NMRスペクトルの横軸はシフト(220〜0ppm)とシグナル種類(s、d、t又はq)を示す。このような化合物(A)の精製塩は、高分子量重合体の製造に適している。
【0069】
<比較例1:化合物(A)のナトリウム塩の結晶化>
水からのNaATBS(米国特許6,331,647号明細書と類似)
反応溶液に空気を供給しながら、水中のNaATBS50%溶液400gから、減圧下で100gの水を除去した。ろ過困難なろ過液から分離し、粘着性のある蜂蜜状の沈殿物を得た。ろ過ケーキは減圧下35℃で乾燥した。処理工程を複数回繰り返し、やや汚染された全量224gのNaATBS(純度94%、乾燥後は非晶質の固体として存在する)を得た。IBSAの質量割合は0.43%であり、従って、この方法で得られる化合物(A)の塩は、高分子量の重合体を得るためには不適である。化合物(A)の塩は、4〜5質量%の結晶水も含み、それは乾燥によっても固体から除去するのは困難であった。
【0070】
<比較例2:化合物(A)の塩の精製>
有機溶媒を伴う水性溶液からの結晶化によるNaATBS
約50%NaATBSの水溶液200g(100ppmのMEHQで安定化、IBSAの質量割合約0.4%)を400mlのアセトンと約20℃で攪拌しながら混合した。
【0071】
これにより、ろ過で母液から除去された微小な白色沈殿物を得た。70℃で慎重に乾燥させた後、固形分を校正HPLCにより分析した。これにより、IBSAの質量割合3.9%を伴うNaATBSの純度84.48質量%を得た。この処理手順は、このように、不要なIBSA副次的成分に富む。従って、結果として得た生成物(A)(NaATBS)は、高分子量重合体の製造には不適である。
【0072】
図4は、結果として生じた生成物(A)のHPLCスペクトルを示す。HPLCスペクトルでは、多量の不要な副次的成分、例えば、tert−ブチルアクリルアミド、アクリロニトリル、IBSS及びIBDSSの存在が明らかである。HPLCの横軸は時間(0〜17.5分)を示し、縦軸は強度を示す。従って、このような生成物の重合から、十分に高分子量の重合体を得ることが不可能であることがわかる。
図1
図2
図3
図4