(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
<液晶性樹脂組成物>
本発明は、液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物である。
以下、本発明を構成する各成分について説明する。
【0009】
≪液晶性樹脂≫
液晶性樹脂は、溶融状態で液晶性を示す樹脂であり、液晶ポリエステルであることが好ましい。
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0010】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0011】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0012】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0013】
【化1】
(Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar
2及びAr
3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0014】
【化2】
(Ar
4及びAr
5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0015】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0016】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1以上10以下である。
【0017】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar
1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr
1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar
2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr
2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar
3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr
3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、30モル%以上が好ましく、30モル%以上80モル%以下がより好ましく、40モル%以上70モル%以下が特に好ましく、45モル%以上65モル%以下が極めて好ましい。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下が特に好ましく、17.5モル%以上27.5モル%が極めて好ましい。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下が特に好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下が特に好ましい。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0021】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0022】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0023】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、270℃以上が好ましく、270℃以上400℃以下がより好ましく、280℃以上380℃以下が特に好ましい。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易い。
【0026】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0027】
≪フィラー≫
フィラーは、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。また、その形状は繊維状であってもよいし、粒状であってもよいし、板状であってもよい。
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;及びステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0028】
本発明においては、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下をより抑制できる観点から、フィラーは、ガラス繊維及び板状無機充填剤からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。すなわち、ガラス繊維及び板状無機充填材のいずれか一方又は両方を含有することがより好ましい。板状無機充填剤の中でも、タルク又はマイカが好ましく、マイカが特に好ましい。
【0029】
本発明において、フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であり、10質量部以上90質量部以下が好ましく、15質量部以上80質量部以下がより好ましく、20質量部以上70質量部以下が特に好ましい。
フィラーの含有量を上記特定の範囲とすることにより、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制することができる。
【0030】
≪カーボンブラック≫
「カーボンブラック」とは、表面に様々な官能基を有する炭素微粒子である。カーボンブラックには、多環芳香族炭化水素(以下、「PAH」と記載することがある)が含まれことが知られている。
カーボンブラックは、炭素主体の微粒子成分であり、その例としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックが挙げられる。
【0031】
本発明に用いるカーボンブラックに含まれる、下記表2に記載する8物質の合計の含有量は2.5ppm未満であり、2.2ppm以下が好ましく、2.0ppm以下がより好ましく、1.8ppm以下が特に好ましい。
本明細書において、「ppm」は、質量について100万分のいくら、すなわち、1kgあたりに含まれるmg数(mg/kg)と等価であり、「質量ppm」とも表しうる。
【0032】
本発明に用いるカーボンブラックに含まれる、下記表2に記載する8物質のうち、ベンゾ(a)ピレンと、ベンゾ(e)ピレンの合計の含有量が1.5ppm未満であることが好ましく、1.0ppm以下がより好ましく、0.5ppm以下が特に好ましい。
【0034】
本発明では、カーボンブラックとして、その数平均粒子径が20nmを超え45nm以下であるものが好ましく用いられる。より好ましくは、22nm以上であり、また、好ましくは40nm以下である。カーボンブラックの数平均粒子径は、カーボンブラックを電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0035】
本発明においては、カーボンブラックのジブチルフタレート吸収量は、150cm
3/100g以下であることが好ましい。カーボンブラックのジブチルフタレート吸収量は、JIS K6221に従って測定することができる。
【0036】
本発明においては、カーボンブラックの比表面積は、200m
2/g以下であることが好ましく、150m
2/g以下であることがより好ましい。カーボンブラックの比表面積は、JIS K6217に従って、窒素吸着量からS−BET式で測定することができる。
【0037】
本発明においては、カーボンブラックの揮発成分は、2重量%以下であることが好ましく、1.5重量%以下であることがより好ましい。カーボンブラックの揮発成分としては、原料由来の未分解品、カーボンブラックの表面官能基等がある。カーボンブラックの揮発成分は、カーボンブラックを950℃で7分間加熱した際の減量割合として測定できる。
【0038】
また、本発明においては、カーボンブラックは、中性又は塩基性であることが好ましい。
【0039】
本発明に用いるカーボンブラックの入手方法は、上記表2に示す8物質の含有量が少ない市販のカーボンブラックを購入してもよく、トルエンなどの有機溶媒を用いてカーボンブラックから上記表2に示す8物質を除去することにより、上記表2に示す8物質の合計量を2.5ppm以下に調整したものを用いてもよい。
また、上記表2に示す8物質の合計含有量を2.5ppm未満に制御する方法として、カーボンブラックを加熱処理することにより、カーボンブラックに含まれるPAHの一部を気化・分解させることによって制御してもよい。
カーボンブラック中の上記表2に示す8物質の含有量は、GC−MSによって測定すればよい。
また、本発明は、特定の多環芳香族炭化水素の合計含有量が2.5ppm未満であるカーボンブラックを用いているため、PAHの含有量が少ない液晶性樹脂組成物を提供することができる。
【0040】
本発明において、カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、0.2質量部以上4質量部以下が好ましく、0.3質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.4質量部以上2質量部以下が特に好ましい。
【0041】
8物質の合計の含有量は、表2に記載する物質のすべてまたは任意の数の合計量とすることができる。例えば、表2に記載する8物質すべての合計含有量であってもよく、表2に記載する物質の1種若しくは2種以上の合計含有量であってもよい。
【0042】
本実施形態によれば、表2に記載された8物質の合計の含有量が2.5ppm未満であるカーボンブラックの含有量を上記特定の範囲としたことにより、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制することができる。
【0043】
カーボンブラックに含まれるPAH等の物質は、カーボンブラックと液晶性樹脂との間において相互作用しうる。このため、PAH等の物質は、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の増減に影響を与えると考えられる。
表2に記載の物質は、すべて複数のベンゼン骨格を基本構造とする無置換の化合物であり、構造が近似した物質である。
表2に記載の物質はいずれも化学構造が近似しているため、表2に記載する物質のすべてまたは任意の数の合計量を2.5ppm未満とすることにより、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制することができると推察される。
【0044】
液晶性樹脂組成物は、液晶性樹脂、フィラー、カーボンブラック及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0045】
また、液晶性樹脂、フィラー、カーボンブラック及び必要に応じて用いられる他の成分とをブレンドし、マスターバッチペレットを作製し、これを成形加工時にナチュラルペレットとドライブレンドし、所定の含有量の製品を得る方法を用いることもできる。
【0046】
液晶性樹脂組成物の成形体である製品・部品の例としては、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;RIMM、DDR、CPUソケット、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター等のコネクター;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ランプホルダー、ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;及び半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材が挙げられる。
【0047】
液晶樹脂組成物の成形体の成形法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法等の押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法及びプレス成形が挙げられる。中でも射出成形法が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0049】
[流動開始温度の測定]
液晶ポリエステルの流動開始温度は、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500型」を用いて測定した。粉末状の試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kgf/cm
2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0050】
[溶融粘度]
溶融粘度は、得られたペレットについて(株)東洋機械製作所製の流れ特性試験機(キャピログラフ1D)を用いて、表4、表5にそれぞれ示す測定温度に対して、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s
−1、5000s
−1、10000s
−1の各条件で測定した。
【0051】
[カーボンブラック中の8物質の測定]
本実施例では、下記のカーボンブラックを用いた。下記のカーボンブラックのそれぞれに含まれる、下記表3に示す8物質の含有量を測定した。表3中「<0.2」とは、検出下限界以下であることを示す。
・カーボンブラック #45LB、三菱化学(株)製
・カーボンブラック #45B、三菱化学(株)製
【0052】
前記カーボンブラック#45LB、前記カーボンブラック#45Bをそれぞれ0.5gをダイオキシン類分析用トルエン(関東化学(株)製)20mlに添加した後、超音波抽出を1時間実施した。抽出後、遠心分離沈殿処理を行い、上澄み液を用いて内部標準法にてGC−MS測定を実施した。
装置:Agilent 7890(アジレントテクノロジー製)
カラム:Agilent Select PAH
長さ15m,内径0.15mm,膜厚0.10μm(アジレントテクノロジー製)
検出器:Agilent 5975C(アジレントテクノロジー製)
昇温プログラム:70℃(0.4分保持) → (昇温:70℃/分) → 180℃
→ (昇温:7℃/分) → 230℃ (7分保持)
→(昇温:50℃/分) → 280℃(7分保持)
→ (昇温:30℃/分)→ 350℃(4分保持)
注入量:1μL
注入口温度:300℃
インターフェース温度:320℃
イオン源温度 :300℃
四重極温度 :180℃
内部標準:PAH SURROGATE(CIL社製)
【0053】
【表3】
【0054】
<液晶ポリエステル1(LCP1)の製造>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸828.7g(6.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル558.6g(3.0モル)、テレフタル酸473.5g(2.85モル)、イソフタル酸24.9g(0.15モル)、及び無水酢酸1408.8g(13.8モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。その後、窒素ガス気流下で室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して3時間還流させた。
次いで、副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで4時間かけて昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
【0055】
こうして得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕し、このプレポリマーの粉末を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から317℃まで6時間かけて昇温し、317℃で9時間保持することで、固相重合を行った。
得られた液晶ポリエステル1の流動開始温度は385℃であった。
【0056】
<液晶ポリエステル2(LCP2)の製造>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、1−メチルイミダゾール0.2gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。その後、窒素ガス気流下で室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。
次いで、1−メチルイミダゾール0.9gを加え、副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
【0057】
こうして得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕し、このプレポリマーの粉末を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することで、固相重合を行った。
得られた液晶ポリエステル2の流動開始温度は327℃であった。
【0058】
<液晶ポリエステル3(LCP3)の製造>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、1−メチルイミダゾール0.2gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。
その後、窒素ガス気流下で室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。
次いで、1−メチルイミダゾール0.9gを加え、副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
【0059】
こうして得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕し、このプレポリマーの粉末を、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持することで、固相重合を行った。得られた液晶ポリエステル3の流動開始温度は291℃であった。
【0060】
<実施例1>
上述の液晶ポリエステル1(LCP1)に対して、下記表4に示す配合比にてガラス繊維(CS3J−256S、日東紡績(株)製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45LB、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM−41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0061】
<実施例2>
上述の液晶ポリエステル2(LCP2)及び液晶ポリエステル3(LCP3)に対して、下記表5に示す配合比にて、板状フィラーとしてマイカ(AB−25S、(株)ヤマグチマイカ製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45LB、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM−41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0062】
<比較例1>
上述の液晶ポリエステル1(LCP1)に対して、下記表4に示す配合比にてガラス繊維(CS3J−256S、日東紡績(株)製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45B、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM−41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0063】
<比較例2>
上述の液晶ポリエステル2(LCP2)及び液晶ポリエステル3(LCP3)に対して、下記表5に示す配合比にて、板状フィラーとしてマイカ(AB−25S、(株)ヤマグチマイカ製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45B、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM−41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
表4に示すとおり、本発明を適用した実施例1の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明を適用しない比較例1よりも溶融粘度が高く、カーボンブラック添加による粘度低下が抑制されており良好な結果であった。
【0067】
表5に示すとおり、本発明を適用した実施例2の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明を適用しない比較例2よりも溶融粘度が高く、カーボンブラック添加による粘度低下が抑制されており良好な結果であった。
【0068】
以上の評価結果からわかるように、本実施例によれば、PAHの含有量が少なく、かつ、カーボンブラック添加による粘度低下が抑制された液晶性樹脂組成物を得ることができた。
【解決手段】液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であり、前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり、前記カーボンブラックに含まれる、表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満であることを特徴とする液晶性樹脂組成物。