(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物、とで表面処理されたガラス系無機充填材1質量部以上100質量部以下と、(C)ホウ酸0.001質量部以上1.0質量部以下とを含有する。以下、各々の成分について説明する。
【0015】
<(A)ポリアセタール樹脂>
(A)ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(−CH
2O−)を主たる構成単位とする高分子化合物で、ポリオキシメチレンホモポリマー、又はオキシメチレン基を主たる繰り返し単位とし、これ以外に他の構成単位、例えばエチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール等のコモノマー単位を少量含有するコポリマー、ターポリマー、ブロックポリマーのいずれにてもよい。
【0016】
また、ポリアセタール樹脂は、分子が線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリオキシメチレンであってもよい。また、ポリアセタール樹脂は、その重合度に関しても特に制限はなく、溶融成形加工性を有するもの(例えば、190℃、2160g荷重下でのメルトフロー値(MFR)が1.0g/10分以上100g/10分以下)であればよい。
【0017】
<(B)ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物、とで表面処理されたガラス系無機充填材>
(B)ガラス系無機充填材は、ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物、とで表面処理されたものであることを要する。
【0018】
ガラス系無機充填材は、ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物、とで表面処理されていれば足り、表面処理するタイミングの先後は問わない。
すなわち、ガラス系無機充填材は、ブロック化イソシアネート化合物で表面処理された後に、その他の成分で表面処理されたものであってもよいし、アミノシランカップリング剤で表面処理された後、その他の成分で表面処理されたものであってもよい。
【0019】
あるいは、ハロゲン化物で表面処理された後に、その他の成分で表面処理されたものであってもよい。また、ガラス系無機充填材は、ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化物とで同時に表面処理されたものであってもよい。
【0020】
また、ガラス系無機充填材が、ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化物とで表面処理されたものであるか否かは、ポリアセタール樹脂組成物からガラス系無機充填材を溶剤抽出し、成分を分析することで区別可能である。
【0021】
ポリアセタール樹脂組成物の構成成分として表面処理されたガラス系無機充填材を用いたとしても、表面処理剤が前記イソシアネート化合物、アミノシランカップリング剤及びハロゲン化物とを含まないと、前記イソシアネート化合物、アミノシランカップリング剤及びハロゲン化物とで表面処理した場合に比べ、引張強さ等の機械的特性が劣るだけでなく、耐熱水性も劣るため、好ましくない。
【0022】
≪ガラス系無機充填材≫
本実施形態に用いられるガラス系無機充填材は、繊維状(ガラス繊維)、粒状(ガラスビーズ)、粒状(ミルドガラスファイバー)、板状(ガラスフレーク)及び中空状の充填材が挙げられ、特に限定されるものではない。取り扱い上、ガラス繊維であって、2〜8mm程度にカットされたチョップドストランドが好適である。また、ガラス繊維の直径としては、通常は5〜15μm、好ましくは7〜13μmのものが好適に用いられる。
【0023】
≪ブロック化イソシアネート≫
本実施形態のブロック化イソシアネート化合物の原料であるイソシアネート化合物としては、一分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する多官能のイソシアネート化合物であれば特に制限なく使用できる。例えば、脂肪族(直鎖、分岐、脂環式を含む)及び芳香族のイソシアネート化合物を挙げることができるが、特に、ポリアセタール樹脂との相溶性や適合性の面から、脂肪族イソシアネート化合物が好ましい。特に、2官能性の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート、これらのジイソシアネートを多量化したポリイソシアネートであることが好ましい。
【0024】
直鎖、分岐の脂肪族ジイソシアネートとしては、炭素数4以上30以下のものが好ましく、炭素数5以上10以下のものがより好ましい。具体的には、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0025】
脂環式ジイソシアネートとしては、炭素数8以上15以下のものが好ましく、炭素数10以上18以下のものがより好ましい。具体的には、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
芳香族ジイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
ポリイソシアネートとしては、一分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物、例えば、トリレンジイソシアネートもしくはジフェニルメタンジイソシアネートの如き、各種の芳香族ジイソシアネート類;m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−m−キシリレンジイソシアネートの如き、各種のアラルキルジイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートもしくはイソホロンジイシシアネートの如き、脂肪族ジイソシアネート類と、多価アルコール類とを付加反応せしめて得られるような、イソシアネート基含有プレポリマー類、前記の各種のジイソシアネート類を環化三量化せしめて得られるような、イソシアヌレート環を有するプレポリマー類、あるいは前記の各種のジイソシアネート類と、水とを反応せしめて得られるような、ビウレット構造を有するアダクト、ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
なかでも、得られる組成物の耐衝撃性や耐久性、工業的入手の容易さの点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット、又はヘキサメチレンジイソシアネートの環状三量体が好ましい。なお、上記化合物を2種以上併用することもできる。さらに、上記化合物の2種以上の混合物であっても良い。
【0028】
また、本実施形態のブロック化イソシアネート化合物としては、上記イソシアネート化合物の反応基を、周知のブロック化剤で定法によりブロックしたものを、特に限定されることなく使用できる。
具体的なブロック化剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム系ブロック化剤;m−クレゾール、キシレノール等のフェノール系ブロック化剤;メタノール、エタノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール系ブロック化剤;ε−カプロラクタム等のラクタム系ブロック化剤;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル等のジケトン系ブロック化剤;チオフェノール等のメルカプタン系ブロック化剤;チオ尿素等の尿素系ブロック化剤;イミダゾール系ブロック化剤;ピラゾール系ブロック化剤;カルバミン酸系ブロック化剤;重亜硫酸塩等を挙げることができるが、これらに特に限定されない。なかでも、ラクタム系ブロック化剤、オキシム系ブロック化剤、ジケトン系ブロック化剤の使用が好ましい。
本発明のブロック化イソシアネートは、ガラス系無機充填材100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下使用され、好ましくは0.3質量部以上3質量部以下である。
≪ポリウレタン樹脂≫
【0029】
他方、本実施形態のポリウレタン樹脂としては、集束性等の点から、特にキシリレンジイソシアネートを主とするポリイソシアネート成分とポリエステルポリオールを主とするポリオール成分から得られたものが好適である。
ここで、キシリレンジイソシアネートとしては、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート及びこれらの混合物が挙げられるが、これらの中でm−キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0030】
一方、ポリエステルポリオールとしては、例えば多価アルコールと多価カルボン酸との脱水縮合により得られた縮合系ポリエステルポリオール、多価アルコールをベースとしてラクトンの開環重合により得られたラクトン系ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールの末端をラクトンでエステル変性したエステル変性ポリオール及びこれらの共重合ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0031】
上記縮合系ポリエステルポリオールにおいて用いられる多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられ、多価カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0032】
また、ラクトン系ポリエステルポリオールとしては、例えばポリ(ε−カプロラクトン)ポリオール等がある。これらのポリエステルポリオールは、重量平均分子量が500以上4000以下の範囲にあるものが好適である。なお、本明細書における樹脂の重量平均分子量は、GPC法によって測定し、かつ、標準ポリスチレン換算された値である。
【0033】
前記ポリウレタン樹脂を製造するには、例えば、キシリレンジイソシアネートとポリエステルポリオールとを、30℃以上130℃以下程度で無溶媒下又は少量の有機溶媒存在下に加熱することにより行うことができる。
なお、加熱反応を行う際には、前記ポリエステルポリオールの説明で例示した多価アルコールを、鎖延長剤として適宜共存させてもよい。また、有機溶媒を使用する場合には、この有機溶媒としては、イソシアネートと反応せず、かつ水と混和性のあるものであればよく、特に制限はないが、例えばアセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
本発明のポリウレタン樹脂は、ガラス系無機充填材100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下使用され、好ましくは0.2質量部以上2質量部以下である。
【0034】
≪アミノシランカップリング剤≫
さらに、本実施形態のガラス系無機充填材の表面処理には、アミノシランカップリング剤が用いられる。アミノシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、窒素原子を含有する官能基とを含有している化合物を意味する。
【0035】
具体的なアミノシランカップリング剤として、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’−ビス−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’−ビス−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’−ビス−〔3−(メチルジメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N,N’−ビス−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ビス−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらのアミノシランカップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記アミノシランカップリング剤として、なかでも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく挙げられ、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランがより好ましく挙げられる。
【0037】
これらのアミノシランカップリング剤によれば、ブロック化イソシアネート化合物との組み合わせによる相乗効果が得られ易く、ポリアセタール樹脂とガラス系無機充填材との接着性を向上させることができる。
本発明のアミノシランカップリング剤による表面処理は、ガラス系無機充填材100質量に対し0.01〜3質量部、好ましくは0.03〜1質量部でなされる。
【0038】
≪ハロゲン化物≫
さらに、本実施形態のガラス系無機充填材の表面処理には、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物が用いられる。
本発明のハロゲン化物は、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化アンモニウムであり、ハロゲン元素としては、臭素、塩素が好ましい。特に塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化アンモニウム及び臭化アンモニウムから選択された一種であることが好ましい。
【0039】
本発明において、ハロゲン化物には、無水塩又は含水塩(二水塩、四水塩、六水塩、八水塩、十二水塩等)が含まれる。
本発明のハロゲン化物は、ガラス系無機充填材100質量部に対し0.00001質量部以上0.5質量部以下であり、0.0001質量部以上0.05質量部以下であることが好ましい。
本発明のハロゲン化物は水溶性を有するため、本実施形態のガラス系無機充填材の表面処理において、ハロゲン化物は水に溶解した状態で使用してもよい。
【0040】
本実施形態のガラス系無機充填材の表面処理に用いられるハロゲン化物は、ポリアセタール樹脂の引張り強さ、曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性及び耐熱水性の向上に大きく寄与しているものと考えられる。
【0041】
本実施形態のガラス系無機充填材は、ブロック化イソシアネート化合物とポリウレタン樹脂とアミノシランカップリング剤とハロゲン化物、とで表面処理されたガラス系無機充填材であることがより好ましい。ガラス系無機充填材は、イソシアネート化合物とアミノシランカップリング剤とハロゲン化物とで表面処理されていれば足り、表面処理するタイミングの先後は問わない。すなわち、ガラス系無機充填材を表面処理する際、複数の表面処理剤を逐次に使用してもよいし、複数の表面処理剤を同時に使用してもよい。
【0042】
ガラス系無機充填材に表面処理を行う際には、後述するようにブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化物とを、有機溶剤中に溶解又は分散、或いは、水中に分散させ使用することが好ましい。特に、ポリウレタン樹脂を含む水性エマルジョンを製造する方法としては、自己乳化法、乳化剤を使用する方法があるが、これらを適当に組み合わせてもよい。
【0043】
(1)ポリウレタン樹脂の側鎖又は末端にイオン性基(スルホン酸基、アミノ基、カルボキシル基等)又は非イオン性親水性基(ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール等)を導入することにより親水性を付与した後、自己乳化により水中に分散又は溶解する方法。
【0044】
(2)ポリウレタン樹脂を製造する際、モノマーとして、ポリエステルポリオール成分及びキシリレンジイソシアネート成分以外に、ポリエチレングリコール又はモノアルコキシポリエチレングリコールのような水溶性ポリオールを共存させて行い、水に比較的親和性のあるポリウレタン系樹脂として水中に分散又は溶解させて自己乳化する方法。
【0045】
(3)ポリウレタン樹脂に存在するイソシアネート基をブロック剤(アルコール、オキシム、カプロラクタム等)でブロックしたポリマーを乳化剤と機械的剪断力を用いて強制的に分散する方法。
【0046】
(4)ポリウレタン樹脂を特にブロック剤を使用せずに乳化剤と機械的剪断力により強制的に水中で分散させる方法。
【0047】
また、乳化させる際或いは乳化させた後、イソシアネート基を有するポリウレタン系樹脂に鎖延長剤を加えることにより、さらに分子量の高いポリウレタン系樹脂エマルジョンを製造することもできる。その際の鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヒドラジン、N,N−ジメチルヒドラジン等の公知のものを使用することができる。
【0048】
(B)ガラス系無機充填材の配合量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して1質量部以上100質量部以下であり、好ましくは5質量部以上55質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上40質量部以下である。ガラス系無機充填材の含有量が1質量部未満であると、成形品の機械的特性及び耐熱水性の改善が不十分であり、その含有量が100質量部を超えると成形加工が困難になる。
【0049】
<(C)ホウ酸>
(C)ホウ酸の種類は特に限定されるものでなく、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等のいずれであってもよい。中でもオルトホウ酸が好ましい。ホウ酸の配合量はポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上1.0質量部以下であり、好ましくは0.003質量部以上0.5質量部以下である。0.001質量部未満では、機械的特性及び耐熱水性に劣り所望の効果が得られず、1.0質量部を越えると、同じく機械的特性及び耐熱水性に劣り所望の効果が得られない。
【0050】
ポリアセタール樹脂組成物が酸を含有するとしても、酸が、一般の無機酸、有機酸では本発明の効果は得られない。無機酸として塩酸、リン酸、有機酸としてギ酸、酢酸などを用いても、機械的特性及び耐熱水性は、ホウ酸による効果のレベルに達しない。
【0051】
本実施形態は、(B)特定の表面処理を行ったガラス系無機充填材と(C)ホウ酸とを併用したことで、ポリアセタール樹脂の機械的特性と耐熱水性との両方を向上させたことを特徴とする。(B)特定の表面処理を行ったガラス系無機充填材と(C)ホウ酸とによる、ポリアセタール樹脂の機械的特性及び耐熱水性向上の原因は不明であるが、特定の表面処理用化合物との相互作用による相乗効果によるものと考えられる。
【0052】
そのため、ガラス系無機充填材の表面処理にブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化物とが用いられない場合や、ポリアセタール樹脂に(C)ホウ酸が含まれないか、(C)ホウ酸以外の酸が含まれる場合には、ポリアセタール樹脂は充分な機械的特性及び耐熱水性を有し得ない。
【0053】
≪その他≫
(他のガラス系無機充填材)
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物には、さらにアミノシランカップリング剤以外の公知のカップリング剤で表面処理されたガラス系無機充填材を含有してもよい。カップリング剤は、ガラス系無機充填材を、ポリアセタール樹脂との濡れ性や接着性等を良好なものとするために用いられるものであって、例えばシラン系、チタネート系、アルミニウム系、クロム系、ジルコニウム系、ボラン系カップリング剤等があるが、これらの中で、特にシラン系カップリング剤が好適である。
【0054】
シラン系カップリング剤としては、例えばビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、アリルアルコキシシラン等が挙げられる。ビニルアルコキシシランとしては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0055】
エポキシアルコキシシランとしては、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。メルカプトアルコキシシランとしては、例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
アリルアルコキシシランとしては、例えばγ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アリルチオプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0057】
チタネート系表面処理剤としては、例えばチタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン等が挙げられる。これらカップリング剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(各種安定剤・添加剤)
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物には、さらに公知の各種安定剤・添加剤を配合し得る。安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、含窒素塩基性化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種又は2種以上を挙げることができる。
添加剤としては、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤のいずれか1種又は2種以上を挙げることができる。
【0059】
≪含窒素塩基性化合物≫
含窒素塩基性化合物は、ポリアセタール樹脂組成物の耐熱安定性を高めるために用いられる。含窒素塩基性化合物の種類は、特に限定されるものではないが、一例として、(D)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体が挙げられる。
【0060】
<(D)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体>
(D)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体を配合することが、機械的特性のさらなる向上の観点から、特に好ましい。本実施形態に用いられる含窒素官能基を有するトリアジン誘導体(D)としては、具体的には、グアナミン、メラミン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N’−ジフェニルメラミン、N,N’−ジアリルメラミン、N,N’,N’’−トリフェニルメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジン、アンメリン、2,4−ジアミノ−6−ベンジルオキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブトキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−シクロヘキシル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−クロロ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−sym−トリアジン、6−アミノ−2,4−ジヒドロキシ−sym−トリアジン〔別称(アンメリド)〕、1,1−ビス(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアジニル)メタン、1,2−ビス−(3,5−ジアミノ2,4,6−トリアジニル)エタン〔別称(サクシノグアナミン)〕、1,3−ビス(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアジニル)プロパン、1,4−ビス(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアジニル)ブタン、メチレン化メラミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、メラミンシアヌレート、エチレンジメラミンシアヌレート、トリグアナミンシアヌレート等である。
【0061】
これらのトリアジン誘導体は1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくはグアナミン、メラミンであり、中でもメラミンが特に好ましい。
【0062】
本実施形態においてかかる含窒素官能基を有するトリアジン誘導体(D)を配合する場合、その配合量はポリアセタール樹脂100質量部に対して0.002質量部以上10質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは0.01質量部以上2質量部以下、特に好ましくは0.03質量部以上1質量部以下である。
【0063】
上記トリアジン誘導体(D)の含有量が0.002質量部以上であれば、ポリアセタール樹脂の熱安定性を向上することができ、10質量部以下であれば、ポリアセタール樹脂からの滲み出し等の問題がなく好ましい。
【0064】
また、本実施形態の目的とする成形品の性能を大幅に低下させないような範囲であるならば、ガラス系無機充填材以外の公知の無機、有機、及び金属等の繊維状、板状、粉粒状等の充填材を1種又は2種以上複合させて配合することも可能である。このような充填材の例としては、タルク、マイカ、ウォラストナイト、炭素繊維等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0065】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製される。例えば各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練込み押出しして、ペレットを調製し、しかる後、成形する方法、一旦組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(稀釈)して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法等、いずれも使用できる。
また、アセタール組成物の調製において、基体であるポリアセタール樹脂の一部又は全部を粉砕し、これとその他の成分を混合した後、押出等を行うことは添加物の分散性を良くする上で好ましい方法である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、評価、測定は特に断りのない限り、23℃55%RHの環境下で行った。
【0067】
<ポリアセタール樹脂組成物の調製>
表1において、各種材料は次のとおりである。
〔(A)ポリアセタール樹脂〕
(A1)ポリアセタール樹脂(トリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトインデックス(190℃,荷重2160gで測定):45g/10min)
(A2)ポリアセタール樹脂(トリオキサン96.7質量%と1,3−ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトインデックス(190℃,荷重2160gで測定):9g/10min)
【0068】
〔(B)表面処理されたガラス系無機充填材(特定のガラス繊維)〕
(B1)日本国特許特公平6−27204号公報の実施例1記載のメチルエチルケトオキシムでブロックされたブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、塩化マグネシウム0.0005質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
【0069】
(B2)メチルエチルケトオキシムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体のブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、塩化マグネシウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
(B3)メチルエチルケトオキシムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体のブロック化イソシアネート0.8質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.02質量%、塩化マグネシウム0.0005質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
【0070】
(B4)メチルエチルケトオキシムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化イソシアネート1.0質量%、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.02質量%、塩化マグネシウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
(B5)ポリウレタン樹脂1.2質量%、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.02質量%、塩化マグネシウム0.001質量%で表面処理された直径10μmチョップドストランド。
【0071】
(B6)メチルエチルケトオキシムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体のブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、臭化アンモニウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
(B7)メチルエチルケトオキシムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体のブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、臭化マグネシウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
【0072】
(B8)ε−カプロラクタムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、塩化マグネシウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
(B9)ε−カプロラクタムでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート環状三量体のブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%に加えて、塩化アンモニウム0.001質量%で表面処理された直径10μmのチョップドストランド。
【0073】
〔(B’)他のガラス繊維〕
(B’1)他の表面処理剤で表面処理されたガラス系無機充填材
ポリ酢酸ビニルで表面処理されたガラス系無機充填材(単繊維直径:10μm)
(B’2)日本国特許特公平6−27204号公報の実施例1記載のメチルエチルケトオキシムでブロックされたブロック化イソシアネート1.0質量%、ポリウレタン樹脂0.3質量%、アミノシランカップリング剤0.02質量%とで表面処理された10μmのチョップドストランド。
【0074】
〔(C)ホウ酸〕
(C1)オルトホウ酸
〔(C’)他の酸〕
(C’1)リン酸
(C’2)酢酸
〔(D)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体〕
(D1)メラミン
【0075】
ポリアセタール樹脂100質量部に、ガラス系無機充填材、ホウ酸及び含窒素官能基を有するトリアジン誘導体を表1〜表4に示す量で配合し、シリンダー温度200℃の押出機で溶融混練し、実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を調製した。
【0076】
【表1】
(組成における単位は、質量部である。)
【0077】
【表2】
(組成における単位は、質量部である。)
【0078】
【表3】
(組成における単位は、質量部である。)
【0079】
【表4】
(組成における単位は、質量部である。)
【0080】
<物性評価>
実施例及び比較例に係るペレット状の組成物から射出成形機を用い、試験片を成形した。そして、ISO527−1,2に準拠した引張強さ・引張伸び、ISO178に準拠した曲げ強度・曲げ弾性率、ISO179・1eAに準拠したシャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)の測定を実施した。結果を表1〜表4に示す。
【0081】
<耐熱水性評価>
ISO3167に準拠した引張試験片を用い、120℃の熱水の入ったオートクレーブに4日間浸漬させた後取り出し、上記の引張強さ・伸びの条件で引張強さを測定した。引張強保持率は、浸漬前に測定した引張強さの値を100%として計算した。結果を表1〜表4に示す。
【0082】
表1〜4の結果から、(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、特定のハロゲン化物とで表面処理されたガラス系無機充填材1質量部以上100質量部以下と、(C)ホウ酸0.001質量部以上1.0質量部以下とが配合されたポリアセタール樹脂組成物の成形品は、いずれも引張強さ、引張伸び及び衝撃強度・曲げ弾性率の機械的特性に優れ、耐熱水性にも優れていることが確認された(実施例1〜25)。
【0083】
中でも、ブロック化イソシアネート化合物、ポリウレタン樹脂、アミノシランカップリング剤及び塩化マグネシウムで表面処理された本実施形態のガラス繊維(B1)を含有する実施例1と、ブロック化イソシアネート化合物、アミノシランカップリング剤及び塩化マグネシウムで表面処理された本実施形態のガラス系無機充填材(B4)を含有する実施例4、または、ポリウレタン樹脂、アミノシランカップリング剤及び塩化マグネシウムで表面処理された本実施形態のガラス系無機充填材(B5)を含有する実施例5とを比較した場合、衝撃強さの点で、実施例1が最も優れている。
【0084】
すなわち、ブロック化イソシアネート化合物とアミノシランカップリング剤とポリウレタン樹脂と塩化マグネシウムとで表面処理されたガラス系無機充填材であることが、ポリアセタール樹脂組成物の衝撃強度向上の点でより好ましいことが確認された。
【0085】
また、本実施形態のガラス系無機充填材(B3)とトリアジン誘導体とを含有させた実施例7のポリアセタール樹脂組成物成形品は、トリアジン誘導体を含有しないことのみ異なる実施例3のポリアセタール樹脂組成物成形品より、さらに高い衝撃強度等の機械的特性を示すことから、トリアジン誘導体が本願発明の表面処理を行ったガラス系無機充填材の効果を増強することが確認された。
【0086】
これに対し、表4から明らかなように、ホウ酸が配合されていない比較例1〜5、7〜9では、初期の引張強さ、耐衝撃性等の機械的特性において劣る。また、本発明の表面処理が行われていないガラス系無機充填材を用いた比較例6、10および11についても、初期の引張強さ、耐衝撃性等の機械的特性において劣る。
【0087】
これらは、いずれも、熱水処理によって引張強さの低下が大きく、所望の耐熱水性が得られなかった。特に、本発明の処理剤でない処理剤で表面処理されたガラス系無機充填材を用いたガラス系無機充填材を含有する比較例6、10および11や、本発明のガラス系無機充填材を含有するが、ホウ酸でない酸を含有する比較例7及び8は、その機械的特性が本発明の実施例に大きく劣る。
【0088】
これらの結果から、(A)ポリアセタール樹脂と、(B)本発明の処理剤で表面処理されたガラス系無機充填材及び(C)ホウ酸とを組み合わせることにより、相乗的にポリアセタール樹脂組成物の機械的特性が向上することは明らかである。
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ブロック化イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物と、アミノシランカップリング剤と、ハロゲン化マグネシウム及びハロゲン化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物、とで表面処理されたガラス系無機充填材1質量部以上100質量部以下と、(C)ホウ酸0.001質量部以上1.0質量部以下とを含有する。また、(C)成分は、オルトホウ酸であることが好ましい。また、ポリアセタール樹脂組成物は、さらに、(D)含窒素官能基を有するトリアジン誘導体0.002質量部以上10質量部以下を含有することが好ましい。