特許第6231886号(P6231886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許6231886ショートカット繊維、湿式不織布、及びこれを用いたセパレータ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231886
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】ショートカット繊維、湿式不織布、及びこれを用いたセパレータ
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20171106BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20171106BHJP
   D04H 1/4334 20120101ALI20171106BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   D01F6/60 351Z
   D21H13/26
   D04H1/4334
   H01G9/02 301
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-286(P2014-286)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-129356(P2015-129356A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】大前 好信
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 宗訓
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−299206(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072754(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0098893(US,A1)
【文献】 特開2004−186523(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057105(WO,A1)
【文献】 特開2003−031200(JP,A)
【文献】 特開2002−266281(JP,A)
【文献】 特開2002−339287(JP,A)
【文献】 特開2009−235223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00− 6/96、9/00−9/04
D04H 1/00−18/04
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
C08G 69/00−69/50
H01G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂として、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなる脂肪族ポリアミドを用い、単繊維繊度が0.01〜5dtex、繊維長が0.1〜20mm、アスペクト比が50〜1000であって、且つその繊維表面にポリエーテルエステル系界面活性剤を0.05〜2.0重量%付与し、水分率が3〜40重量%であることを特徴とする無捲縮ショートカット繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のショートカット繊維を30〜100重量%含有し、目付が5〜100g/m、厚さが0.005〜0.2mm、強力が3kN/m以上、通気度が1〜50cc/cm/sec、平均細孔径が1〜50μm、最大細孔径が1〜80μmであることを特徴とする湿式不織布。
【請求項3】
請求項2に記載の湿式不織布を用いたことを特徴とするコンデンサ用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて電解液を含浸・保持した電解コンデンサにおいて、電解液中での熱劣化が少なく、高温電解液中での耐熱性を著しく高め、高温使用時の寿命の長いセパレータとすることができる、特定の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維、それを用いた湿式不織布、及び該湿式不織布を用いたセパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に電解コンデンサ、具体的には巻回型アルミ電解コンデンサは、陽極アルミ箔と陰極アルミ箔との間にセパレータを介在させて巻付け形成してコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子を液状の電解液中に浸漬して電解液を含浸させ、封口して製作している。前記セパレータにはクラフトパルプやマニラ麻パルプ、エスパルトパルプ等のセルロース繊維を配合した電解紙が用いられている。また、前記電解液としては、通常エチレングリコール(EG)、ジメチルホルムアミド(DMF)またはγ−ブチロラクトン(GBL)等を溶媒とし、これらの溶媒に硼酸やアジピン酸アンモニウム、マレイン酸水素アンモニウム等の溶質を溶解したものを用いてコンデンサ素子の両端から浸透させて製造している。EGは水系の溶媒、DMF及びGBLは非水系の溶媒であり、それぞれの溶媒を用いた電解液は水系電解液と非水系電解液に、それぞれ分類することができる。
【0003】
近年、デジタル化された業務用及び民生用の各種電子機器に使用される電解コンデンサにはより一層の耐熱性が求められている。例えば、カーエレクトロニクスの進展に伴い、自動車に搭載されるアルミ電解コンデンサの数が増えるとともに、電装部品の設置場所については、省スペースを図るため車室内からエンジンルームへ設置することが検討されている。そのため、電解コンデンサにはより一層耐熱性、具体的には最高使用温度及び保証寿命の向上が求められている。
【0004】
照明用電子バラストに用いられる電解コンデンサにおいても、省スペースのため温度の高い状態で使用されることが多くなり、カーエレクトロニクスに使用される電解コンデンサ同様に一層の耐熱性向上が求められている。
【0005】
また、使用時の耐熱性だけでなく、基板に実装する際の耐熱性も重要である。表面実装を行うためにハンダリフロー工程が用いられている。ハンダリフロー工程は環境保全の観点から鉛フリーが求められており、ハンダリフロー温度も250℃を超えるようになってきている。こうした鉛フリーのハンダリフロー工程に対応するため、セパレータの素材にもハンダリフロー工程の温度以上の融点を持つことが求められている。
【0006】
このように、アルミ電解コンデンサには様々な用途、あるいは実装工程において、耐熱性の向上が求められており、より高温域で長時間使用できる電解コンデンサの開発が進められている。現在、電解コンデンサの最高使用温度は標準品で85℃、高信頼性品は105℃ に対応したものが多い。保証寿命は短いもので1000時間、長いものになると5000時間、10000時間、さらには最高使用温度85℃のアルミ電解コンデンサでは20000時間にまで達する。
【0007】
近年、照明及び自動車の電装用等の用途において最高使用温度が105℃を超え125℃や150℃のコンデンサが開発されている。これら最高使用温度の高いコンデンサの保証寿命は125℃タイプで5000時間程度が限界であり、85℃タイプや105℃タイプに比べて短い。また、150℃タイプでは保証寿命がまだ1000時間程度に過ぎない。
【0008】
このように、最高使用温度の高い125℃タイプや150℃タイプの電解コンデンサは開発され上市されているものの、最高使用温度の高い電解コンデンサの保証寿命は、85℃タイプや105℃タイプの最高使用温度が低い電解コンデンサの寿命に比べてまだまだ短く、要求されている特性を満足しているとはいえない。このように最高使用温度が125℃や150℃の電解コンデンサの保証寿命を長くすることができない主な理由は、高温度使用時における等価直列抵抗(ESR)及び漏れ電流(LC)の上昇にある。
【0009】
従来、アルミ電解コンデンサの最高使用温度及び高温使用時の保証寿命を向上させる方策としては、専ら化成皮膜、電解液、封口材の改善が主に行われており、セパレータの改善により連続使用温度を向上させるという試みは見られなかった。
【0010】
そこで、発明者等は先にセパレータの改善からアルミ電解コンデンサの最高使用温度及び高温使用時の保証寿命の向上にアプローチする手段として、セパレータとして電解液中での熱劣化が少なく、高温電解液中においても長時間の保形性を有し、重量変化の少ない化学繊維、例えばアクリル繊維、アラミド繊維、冷却ゲル紡糸ビニロン繊維、ナイロン66繊維等を含有するセパレータを用いることにより、高温電解液中での耐熱性を著しく高め、高温使用時の寿命を長くした電解コンデンサを提供した(特許文献1)。
【0011】
一方、化学繊維としてのポリアミドにおいて、脂肪族ポリアミドは一般にナイロンと呼ばれてストッキングなどに使用されており、他方、芳香族ポリアミドは一般にアラミドと呼ばれ、その強度、耐熱性の高さから耐炎防護服などに広く使用されている。さらに、近年、脂肪族ポリアミド樹脂からなる繊維と芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維の長所を併せ持つ半芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維が提供されている(特許文献2、特許文献3)。
【0012】
しかしながら、電解質として電解液を用いる巻回型アルミ電解コンデンサにおいて、セパレータとして使用されている従来のクラフトパルプや、マニラ麻、エスパルトパルプ等のセルロース繊維を用いたセパレータは、最高使用温度が高くなっても、長時間の使用に充分に耐えることができる特性を有しているかというと必ずしもそうではない。なぜなら、高温で連続使用した後のアルミ電解コンデンサを分解すると、セパレータの劣化、特に引張強度、耐折強度、重量の低下・減少が観察されるからである。また、セルロース繊維を用いたセパレータを電解液に浸漬すると、時間と共に徐々に引張強度、引き裂き強度及び重量が低下・減少し、その強度の低下及び重量の減少は温度の上昇により加速されるからである。
【0013】
このことは、従来用いられているセルロースを原料とするセパレータは、電解液中、特に高温度の電解液中で長時間使用することについては、まだ改善の余地があることを示している。また、前記した電解液中での熱劣化が少ない化学繊維を含有したセパレータについても、より使用に適した化学繊維についての改善の余地がある。
【0014】
そのため、アルミ電解コンデンサの最高使用温度を高め、最高使用温度での保証時間を伸ばす方策として、セパレータの耐熱性、特に電解液を含浸した状態での耐熱性を向上させる目的で、半芳香族ポリアミド樹脂からなる繊維を少なくとも30重量%以上含有した電解コンデンサ用セパレータが提案されているものの、未だ満足されるものではないのが現状である(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−367863号公報
【特許文献2】特開平9−13222号公報
【特許文献3】特開平9−256219号公報
【特許文献4】特開2004−186523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、高温電解液中での耐熱性を著しく高めた電解コンデンサに好適に使用可能な特定の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維、これを用いた湿式不織布、及び該湿式不織布を用いたセパレータを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂として、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなる脂肪族ポリアミドを用い、特定の単繊維繊度、繊維長、アスペクト比として、且つその繊維表面にポリエーテルエステル系界面活性剤を特定量付与し、特定の水分率を有する無捲縮ショートカット繊維を用いた湿式不織布をセパレータに使用することによって、電解コンデンサの高温電解液中での耐熱性を著しく高められることを見出し、本発明に至った。
【0018】
すなわち、第1の発明は、熱可塑性樹脂として、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなる脂肪族ポリアミドを用い、単繊維繊度が0.01〜5dtex、繊維長が0.1〜20mm、アスペクト比が50〜1000であって、且つその繊維表面にポリエーテルエステル系界面活性剤を0.05〜2.0重量%付与し、水分率が3〜40重量%であることを特徴とする無捲縮ショートカット繊維である。
【0019】
また、第2の発明は、上記のショートカット繊維を30〜100重量%含有し、目付が5〜100g/m、厚さが0.005〜0.2mm、強力が3kN/m以上、通気度が1〜50cc/cm/sec、平均細孔径が1〜50μm、最大細孔径が1〜80μmであることを特徴とする湿式不織布である。
【0020】
さらに、第3の発明は、上記の湿式不織布を用いたことを特徴とする電解コンデンサ用セパレータである。
【発明の効果】
【0021】
以上述べた手段によって、本発明は、高温電解液中での耐熱性を著しく高めた電解コンデンサに好適に使用できるショートカット繊維を提供し、またこのショートカット繊維を用いた湿式不織布を提供するとともに、前記湿式不織布を使用したセパレータを提供するものである。
【0022】
第1の発明は、熱可塑性樹脂として、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなる脂肪族ポリアミドを用いることで、高温電解液中での耐熱性を著しく高めることが出来る。また、単繊維繊度が0.01〜5dtex、繊維長が0.1〜20mm、アスペクト比が50〜1000であって、且つその繊維表面にポリエーテルエステル系界面活性剤を0.05〜2.0重量%付与し、水分率が3〜40重量%である無捲縮ショートカット繊維とすることで、後述する湿式不織布が低目付、薄厚でありながらセパレータとした際の地合の均質性、及び適度なポアサイズを確保することができる。
【0023】
また、第2の発明は、上記のショートカット繊維を30〜100重量%含有し、目付が5〜100g/m、厚さが0.005〜0.2mm、強力が3kN/m以上の湿式不織布とし、これを使用することで、後述のセパレータとしての耐熱性を高めるとともに、捲回時のシート強度を維持することが出来る。また、前記湿式不織布の通気度が1〜50cc/cm/sec、平均細孔径が1〜50μm、最大細孔径が1〜80μmの範囲とすることによって、陽極箔と陰極箔の間に介するセパレータとしての性能を十分に満足することができる。
【0024】
さらに、第3の発明は、本発明の湿式不織布を電解コンデンサ用セパレータに用いた際、従来にない高温電解液中での耐熱性を著しく高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、電解コンデンサにおいて、高温電解液中での熱劣化が少ない特定の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維を含有する湿式不織布を使用したセパレータを用いることを特徴としている。本発明に使用する特定の熱可塑性樹脂とは、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなる脂肪族ポリアミドである。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂の製造に用いられるシュウ酸源としては、シュウ酸ジエステルを採用でき、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジフェニル等の芳香族アルコールのシュウ酸ジエステル等が挙げられる。該シュウ酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、芳香族アルコールのシュウ酸ジエステルが好ましく、その中でもシュウ酸ジブチル及びシュウ酸ジフェニルが特に好ましい。
【0027】
一方、本発明のポリアミド樹脂のジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物を用いる。1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分のモル比は、1:99〜99:1が好ましく、より好ましくは5:95〜95:5、さらに好ましくは5:95〜40:60または60:40〜95:5、特に好ましくは5:95〜30:70または70:30〜90:10である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、かつ耐薬品性、耐加水分解性に優れたポリアミド樹脂が得られる。特に、該モル比が5:95〜40:60、さらに5:95〜30:70である場合、結晶性に優れるため、低吸水性及び力学特性に特に優れるとともに、液体及び/または気体(例えばアルコールなど)の透過性も低いという利点が得られる他、例えば1,9−ノナンジアミンの含有量が2−メチル−1,8−オクタンジアミンの含有量よりも多い場合と比べて吸水性がより低いという利点も有する。一方該モル比が60:40〜95:5、さらに70:30〜95:5、さらには70:30〜90:10である場合には、低吸水性及び力学特性が特に優れるとともに、良好な透明性が付与されるという利点が得られる。
【0028】
本発明において用いるポリアミド樹脂を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を混合する事ができる。シュウ酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。他のジカルボン酸成分の使用量は、ジカルボン酸成分全体の5モル%以下であることが好ましい。
【0029】
また、本発明において用いるポリアミド樹脂を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事ができる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。他のジアミン成分の使用量は、ジアミン成分全体の5モル%以下であることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明で用いるポリアミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、一部が他のポリマー成分で置き換えられたものであってもよい。他のポリマー成分としては、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド以外のポリアミドとしての、ポリオキサミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどのポリアミド類や、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマーなどが挙げられる。本発明において用いるポリアミド樹脂中の、ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミドの割合は、50質量%以上が好ましく、さらに70質量%以上がより好ましい。
【0031】
本発明において用いるポリアミド樹脂の分子量に特別の制限はないが、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηが1.8〜6.0の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する傾向がある。一方、ηが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる傾向がある。
【0032】
本発明において用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分としてシュウ酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、シュウ酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tと略す)と融点(以下、Tと略す)の差(T−T)で表される成形可能温度範囲が、シュウ酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、成形可能温度範囲が好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明において用いるポリアミド樹脂は、Tが好ましくは280℃、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0033】
本発明においては、上述のポリアミド樹脂に加えて、必要に応じて各種添加剤を組合せることができ、これらはポリアミド重縮合反応時、またはその後に組合せることができる。
【0034】
各種添加剤としては、補強剤、フィラー、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤、耐熱剤などが挙げられる。
【0035】
補強剤としては、例えば層状珪酸塩を好ましく使用できる。ここで層状珪酸塩は、本発明のフィラメントの伸度を損なうことなく、良好な剛性、高弾性、高引き抜き力などにより得られる優れた機械的強度、及び優れた風合を付与することができる。
【0036】
層状珪酸塩は、一辺の長さが0.002〜1μmで、厚さが6〜20Åである平板状のものを用いることが好ましい。また、上記層状珪酸塩は、ポリアミド樹脂中に分散した際に、各層が約18Å以上の層間距離を保ち、均一に分散されるものであることが好ましい。ここで、「層間距離」とは、平板状をなす層状珪酸塩の各重心の間の距離をいい、「均一に分散する」とは、各層が主にランダムな状態で存在し、層状珪酸塩の50質量%以上、好ましくは70質量%以上が、複層物を形成することなく単層に分散していることをいうものとする。
【0037】
上記層状珪酸塩の原料としては、珪酸マグネシウムまたは珪酸アルミニウムの層から構成される層状フィロ珪酸鉱物、すなわち、珪酸アルミニウム質フィロ珪酸塩または珪酸マグネシウム質フィロ珪酸塩を例示することができる。具体的には、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト等を例示することができ、これらは天然のものであっても、合成されたものであってもよい。
【0038】
なお、上記層状珪酸塩は、ミキサー、ボールミル、振動ミル、ピンミル、ジェットミル、叩解機等を用いて粉砕し、予め所望の形状及びサイズのものとしておくことが好ましい。
【0039】
上記層状珪酸塩の量は、機械的強度や風合の向上効果が得られる量であれば特に制限されるものではないが、本発明で用いるポリアミド樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.05〜8質量部、特に好ましくは0.05〜5質量部である。層状珪酸塩の割合が低くなると、上記向上効果が小さくなる傾向があり、上記割合が高くなると、樹脂組成物の流動性や得られる成形物の物性、特に衝撃強度が低くなる傾向がある。
【0040】
上記層状珪酸塩をポリアミド樹脂に分散させるために、通常、膨潤化剤が用いられる。該膨潤化剤は、粘土鉱物の層間を拡げる役割と、粘土鉱物に層間ポリマーを取り込む力を与える役割とを有するものであり、本発明の場合には、1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを用いることが好ましい。
【0041】
上記層状珪酸塩をポリアミド樹脂中に均一に分散させる方法としては、例えば以下の方法を例示できる。層状珪酸塩の原料が多層状粘土鉱物である場合、層状珪酸塩を塩酸等によりイオン化し、ここに膨潤化剤として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを添加して、予め層状珪酸塩の各層の間隔を広げる。次いで、当該層の間にポリアミド原料を導入し、さらに当該層の間で上記原料を重合させることができる。
【0042】
また、膨潤化剤として高分子化合物を用いて層間を約100Å以上に予め広げ、これをポリアミド樹脂と溶融混合して、各層をポリアミド樹脂に分散させてもよい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維は、単繊維繊度が0.01〜5dtexであることが重要である。好ましくは0.3〜3dtex、さらに好ましくは0.5〜2dtexである。これは、湿式不織布とした際の通気度、及びポアサイズに影響し、さらには電解コンデンサ用のセパレータとした時に、そのセパレータ性能を確保するためである。すなわち、繊度が0.01dtex未満の場合、湿式不織布とした際の分散性が維持できず、斑のある不織布にしかならない。特に、低目付とした場合にはその傾向が顕著に現れ、セパレータとして不適なものとなってしまう。逆に繊度が5dtexを超える場合、低目付とした際に通気度が大きくなり、ポアサイズも大きくなってしまうためセパレータとして機能しないものとなってしまうのである。
【0044】
また、本発明の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維は、繊維長が0.1〜20mmであることが重要である。好ましくは1〜12mm、さらには3〜10mmが好ましく使用できる。繊維長が0.1mm未満であると、捲回型の電解コンデンサの場合、セパレータを陽極箔と陰極箔と合わせて捲回する際に強度が不足して工程トラブルを生じてしまう。一方で、繊維長が20mmを超えると湿式不織布とした際の地合が悪く、セパレータとして不適なものになる。
【0045】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維は、アスペクト比が50〜1000であることが重要である。アスペクト比が50未満の場合、湿式不織布とした際の地合は良好となるが、前記繊維長が短かった場合と同様、捲回時の強力不足で工程トラブルを発生してしまい生産性を落とす結果となる。アスペクト比が1000を超えると、逆に湿式不織布とした際の強力は十分満足されるものの、地合が損なわれセパレータとして機能しないものとなってしまう。よって、好ましいアスペクト比としては300〜800、さらには400〜700のショートカット繊維が好適に使用できる。
【0046】
本発明のショートカット繊維の表面にはポリエーテルエステル系界面活性剤を0.05〜2.0重量%付与し、且つ該繊維の水分率が3〜40重量%であることが重要である。
【0047】
該ポリエーテルエステル系界面活性剤としては、テレフタル酸及び/またはイソフタル酸、低級アルキレングリコール並びにポリアルキレングリコール及び/またはそのモノエーテルからなるポリエーテル・ポリエステル共重合体等を例示できる。好ましく用いられる低級アルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールが挙げられる。一方、ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が600〜6000のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコールが例示できる。さらにポリアルキレングリコールのモノエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノフェニルエーテル等があげられる。なお、該共重合体はテレフタレート単位とイソフタレート単位のモル比が95:5〜40:60の範囲内が水中分散性の点から好ましいが、アルカリ金属塩スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を少量共重合していてもよい。
【0048】
上記成分からなるポリエーテル・ポリエステル共重合体の平均分子量は、使用するポリアルキレングリコールの分子量にもよるが、通常1000〜20000、好ましくは3000〜15000である。平均分子量が1000未満では水中分散性の向上効果が十分でない一方、20000を越えると該重合体の乳化分散が難しくなる。
【0049】
上記ポリエーテル・ポリエステル共重合体は、通常水分散液として繊維表面に付与するが、該共重合体は比較的容易に水中へ分散させることができる。なお、得られる水性分散液の安定性をより向上させるため、界面活性剤や有機溶媒を少量添加してもよく、また油剤等の各種処理剤を混合使用しても何ら差しつかえない。付与方法はディップ、スプレー、ローラータッチ等の通常の方法が採用されるが、均一に付与するためにはディップによる方法が適している。
【0050】
上記ポリエーテル・ポリエステル共重合体の付与量は、該ショートカット繊維の重量を基準として0.05〜2.0重量%付与している必要があり、好ましくは0.1〜1.0重量%、さらには0.15〜0.5重量%付与していることが望ましい。該付与量が0.05重量%未満の場合には、湿式不織布の製造工程での水中への繊維の分散が不十分となるので好ましくない。なお、付与量があまりに多くなりすぎる場合には、湿式不織布の製造工程での循環水の発泡に繋がったり、地合形成を阻害する要因となるため好ましくないほか、多量のポリエーテル・ポリエステル共重合体は排水処理時の負荷を増大するので、2.0重量%以下とすべきである。
【0051】
前述したように、上記ポリエーテル・ポリエステル共重合体が付与された本発明のショートカット繊維は、さらに、水分率を3〜40重量%とする必要がある。好ましくは水分率が4〜25重量%、さらに好ましくは水分率が5〜15重量%である。該水分率が3重量%未満の場合には、繊維表面に形成されたポリエーテル・ポリエステル共重合体による被膜が、湿式不織布を製造する工程で繊維表面から脱落しにくくなるため、接着障害をひき起こして湿式不織布の強力が低下すると推定され、好ましくない。一方、水分率が40重量%を越える場合には、湿式不織布の強力の点では問題がないが、該熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維を前記繊維長に切断する際、水の飛散が多くなって安定にカットすることが困難となるだけでなく、輸送コストの観点からも不経済である。
【0052】
次に、本発明の湿式不織布について説明する。
本発明の湿式不織布は、前記熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維を30〜100重量%含有していることが好ましく、より好ましくは50〜90重量%、とくに60〜80重量%含有していることが望ましい。該熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維が30重量%未満の場合、高温電解液中での耐熱性が顕著に不良となるため、本発明の目的を達成できない場合がある。本発明の熱可塑性樹脂からなるショートカット繊維以外の繊維については、特に限定はされないが、セパレータ性能を向上するために0.1dtex以下の芳香族ポリアミド繊維を配合したり、マニラ麻等の天然繊維のフィブリル化繊維を使用できる。また、低目付にした際にも電解コンデンサ組立時の捲回工程でトラブルを起こさないよう不織布の強力を維持するためにポリビニルアルコール系バインダー繊維や芳香族ポリアミド繊維の未延伸糸などのバインダー繊維等を用いても良い。
【0053】
本発明の湿式不織布の目付は5〜100g/mであることが好ましく、より好ましくは10〜70g/m、さらには15〜50g/mの目付とすることが望ましい。目付が5g/m未満となると、湿式不織布の強力が著しく不良となり、不織布製造工程でシート切れを起こしたり、電解コンデンサの組立工程で捲回時にシート切れを起こして生産性を悪化させたりするなどのトラブルの要因となるとともに、湿式不織布の地合が不良となってしまい、本来目的とするセパレータ性能が失われるため使用不可となる場合がある。一方で目付が100g/mを超えると、電解コンデンサの容量低下を招き、近年の小型・高容量化には沿わないセパレータとなってしまうため好ましくない。
【0054】
本発明の湿式不織布の厚さについては、厚さが0.005mm未満であると、低密度の場合には湿式不織布の強力が著しく不良となり、不織布製造工程でシート切れを起こしたり、電解コンデンサの組立工程で捲回時にシート切れを起こして生産性を悪化させたりするなどのトラブルの要因となる場合があるとともに、湿式不織布の地合が不良となってしまい、本来目的とするセパレータ性能が失われるため使用不可となるおそれがある。逆に高密度の場合には湿式不織布の強力は満足されるものの、空隙を持たないフィルムライクなセパレータとなってしまうため電解液保持が出来ず電解コンデンサの容量低下を招いてしまう。一方で厚さが0.2mmを超える場合は、電解コンデンサの一定容積内での陽極箔、陰極箔の占める割合が少なくなってしまうため、近年の小型・高容量化には沿わないセパレータとなってしまい好ましくない。よって、本発明の湿式不織布の厚さは0.005〜0.2mmであることが好ましく、0.01〜0.1mmがより好ましく、特に0.01〜0.05mmの厚さとすることが望ましい。なお、ここでいう厚さとは、湿式不織布をセパレータとして用いるために、熱プレス加工を行った後の湿式不織布の厚さを指す。
【0055】
本発明の湿式不織布の強力については3kN/m以上であることが好ましい。3kN/m未満であると、不織布製造工程でシート切れを起こしたり、電解コンデンサの組立工程で捲回時にシート切れを起こして生産性を悪化させたりするなどのトラブルの要因となるためセパレータとして不適なものとなってしまう場合がある。より好ましくは5kN/m以上である。
【0056】
本発明の湿式不織布の通気度は1〜50cc/cm/secであることが好ましい。より好ましくは2〜40cc/cm/secであり、特に3〜30cc/cm/secの範囲とした場合、電解コンデンサ用セパレータとして好適に使用できる。該湿式不織布の通気度が50cc/cm/secを超える場合は、セパレータとして機能せず、洩れ電流が大きくなる場合があり、逆に1cc/cm/sec未満の場合は内部抵抗が高くなるためセパレータとして不適なものとなる場合がある。
【0057】
また、本発明の湿式不織布の平均細孔径、及び最大細孔径についても前記通気度と同様に、平均細孔径が50μmを超えた場合、または最大細孔径が80μmを超えた場合はセパレータとして機能せず洩れ電流が大きくなる場合がある。一方で、平均細孔径が1μm未満の場合、または最大細孔径が1μm未満の場合は、内部抵抗が高くなりセパレータとして不適なものとなってしまうので好ましくない。よって、平均細孔径が1〜40μm、最大細孔径が1〜60μmであることが好ましく、より好ましくは平均細孔径が1〜30μm、最大細孔径が1〜40μmである。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を説明するが、本実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値は以下の方法により測定した値である。
【0059】
[融点]
熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)「TA3000」(メトラー社製)を使用し、サンプル10mgをアルミ製パンへ封入後、窒素雰囲気下で、昇温速度5℃/minで測定した時、吸熱ピーク温度を融点(T)として測定した。1st−runで明確な吸熱ピークが現れない場合は、50℃/minの昇温速度で予想される吸熱ピーク温度より50℃高い温度まで3min程度で加熱して完全溶融させた後、80℃/minで50℃まで冷却し、しかるのち、5℃/minの昇温速度で測定した値を用いた。
【0060】
[厚さ]
湿式不織布の厚さは、JIS P 8118「紙及び板紙の厚さと密度の試験方法」に準じて測定した。
【0061】
[目付]
湿式不織布の目付は、JIS P 8124「紙のメートル坪量測定方法」に準じて測定した。
【0062】
[強力]
湿式不織布の強力は、JIS P 8113「紙及び板紙の引張強さ試験方法」に準じて測定した。
【0063】
[通気度]
湿式不織布の通気度は、JIS L 1096−1996「一般織物試験方法」の通気度測定方法に準じて、フラジール型通気度試験機(東洋精機製作所社製)を使用して測定した。
【0064】
[平均細孔径、及び最大細孔径]
湿式不織布の細孔径は、「パームポロメーター CFP−1100AEXL」(Porous Materials Inc.社製)により、平均細孔径と最大細孔径を測定した。
【0065】
[地合]
湿式不織布の地合は、20cm角のサンプルを屋内で蛍光灯にかざし、目視観察した時にピンホールが1個以上あった場合には×、0個の場合には○として評価した。
【0066】
[耐電解液性]
セパレータの耐電解液性は、JIS P 8113「紙及び板紙の引張強さ試験方法」に準じて、耐電解液性処理前後の試験片の引張強さを測定し、その引張強さの保持率で評価した。耐電解液性処理は、試験片を窒素雰囲気下で80℃のプロピレンカーボネート(和光純薬社製)に24時間浸漬処理した。
【0067】
[耐熱性]
セパレータの耐熱性は、以下の方法で評価した。23℃、65%RHで24時間調湿後のセパレータサンプルを20cm角に切り出し、サンプルを真空下で200℃に保持した乾燥機中で24時間乾燥処理を行い、サンプルを真空乾燥機から取り出した後、23℃、65%RHで24時間調湿後、形態を測定し、縦または横の少なくとも一方の形態変化が2.5%未満のものを○とした。
【0068】
[コンデンサの作製]
セパレータサンプルを200℃に保持した真空乾燥機で24時間乾燥後、−60℃以下の露点雰囲気のドライボックスにサンプルを持ち込んだ。次いで、サンプルを直径13.5mmに打ち抜き、テトラエチルアンモニウムテトラフロロボレートの0.15質量%のプロピレンカーボネート溶液(水分率20ppm以下)に浸漬した。活性炭(クラレケミカル社製「BP−20」)とポリテトラフロロエチレンとカーボンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」(登録商標))を80:10:10の質量比で混練後、300μmの厚みまで圧延して、直径13mmに打ち抜いてシート状の分極性電極を得た。分極性電極を、導電性ペースト(日本アチソン社製「EB−815」)を用いて集電部材に接着し、260℃の乾燥機にて30分間乾燥後、200℃の真空乾燥機で12時間乾燥した。乾燥した電極サンプルをドライボックスに持ち込んだ。電極、及び上記溶液に浸漬したセパレータ2枚、電極の順に重ね、コイン型コンデンサをドライボックス内にて作製した。
【0069】
[静電容量、及び内部抵抗]
コンデンサの静電容量、内部抵抗は、以下の方法で測定した。前記方法により作製したコンデンサを充電電流3mAの定電流にて2.3Vまで充電後、電流値が1mAになるまで定電圧充電を行い、放電電流3mAにて放電を行った。この充電−放電サイクルを6回繰り返し、6サイクル目の放電時の端子間電圧1.2Vから1.0Vになるまでの時間より静電容量値を求めた。内部抵抗値は、同サイクル時の放電直後の電圧低下より求めた。
【0070】
[実施例1]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%を水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りコンデンサ用セパレータとして優れるものであった。
【0071】
[実施例2]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.3mmのノズルより吐出して、速度800m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度4.5dtex、繊維長5mm(アスペクト比220)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付50g/m、厚さ0.08mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りコンデンサ用セパレータとして優れるものであった。
【0072】
[実施例3]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1050m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度1.0dtex、繊維長10mm(アスペクト比940)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りコンデンサ用セパレータとして優れるものであった。
【0073】
[実施例4]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.08重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りコンデンサ用セパレータとして優れるものであった。
【0074】
[実施例5]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が5重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りコンデンサ用セパレータとして優れるものであった。
【0075】
[比較例1]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.1mmのノズルより吐出して、速度1450m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.008dtex、繊維長3mm(アスペクト比3150)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて目付20g/mの湿式不織布を得たが、ピンホールがあるだけでなくポリアミド繊維の分散不良による地合斑が大きいことから、セパレータとして用いるには不適であった。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。
【0076】
[比較例2]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.3mmのノズルより吐出して、速度650m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度6.0dtex、繊維長5mm(アスペクト比190)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付50g/m、厚さ0.1mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りで、地合斑はないもののピンホールがあるほか、低強力で最大細孔径が大きいため、コンデンサに用いるには不適であった。
【0077】
[比較例3]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.4mmのノズルより吐出して、速度550m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度15.0dtex、繊維長2mm(アスペクト比48)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて湿式不織布を得た。次いで、220℃のカレンダーロールを用いて熱プレス加工を行い、目付50g/m、厚さ0.1mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りで、地合斑はないもののピンホールがあるほか、低強力であり、平均細孔径及び最大細孔径が大きいため、コンデンサに用いるには不適であった。
【0078】
[比較例4]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を付与せず、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて目付20g/mの湿式不織布を得たが、ピンホールがあるだけでなくポリアミド繊維の分散不良による地合斑が大きいことから、セパレータとして用いるには不適であった。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。
【0079】
[比較例5]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を3.0重量%付与し、水分率が12重量%となるように搾液後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させたが、ポリエーテルエステル系界面活性剤の付与量が多かったことにより水面の泡立ちが多く、工業的に製造する際に工程トラブルや排水トラブルが生じることが予想される状態で、湿式不織布を作製するには不適であった。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。
【0080】
[比較例6]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比85:15)をジアミン成分とし、シュウ酸をジカルボン酸成分とする脂肪族ポリアミド(宇部興産社製ポリオキサミド、融点235℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が0.3重量%となるように搾液、乾燥後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。しかしながら、ポリアミド繊維の未分散繊維塊があり地合が均一ではなく、ピンホールを確認した。また、強力が低く、コンデンサを組み立てる際の捲回工程で紙切れが懸念されることから、コンデンサに用いるには不適であった。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。
【0081】
[比較例7]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物(モル比50:50)をジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分とする半芳香族ポリアミド(クラレ社製「ジェネスタ」(登録商標)、融点265℃)を、押出機を用いて溶融押出しし、孔径0.14mmのノズルより吐出して、速度1300m/分で捲き取り、未延伸糸を得た。次いで、水浴温度95℃で前記未延伸糸を延伸、ポリエーテルエステル系界面活性剤を0.2重量%付与し、水分率が12重量%以下となるように搾液、乾燥後、切断を行って、単繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm(アスペクト比560)の無捲縮ポリアミド繊維を得た。
得られたポリアミド繊維を80重量%、ポリビニルアルコールバインダー繊維を、20重量%用いて、水中で攪拌混合して分散させた後、金網上に抄き上げ、110℃のドラム式ドライヤーで乾燥させて目付20g/m、厚さ0.04mmのコンデンサ用セパレータとした。各条件、及び評価結果を表1、表2に示した。性能は表2に示す通りで、耐電解液性の点で劣りコンデンサ用セパレータとして満足されるものではなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】