(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6231934
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】波長可変レーザの波長制御装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20060101AFI20171106BHJP
H01S 5/0687 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/0687
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-79692(P2014-79692)
(22)【出願日】2014年4月8日
(65)【公開番号】特開2015-201549(P2015-201549A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】布谷 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】下小園 真
(72)【発明者】
【氏名】石井 啓之
【審査官】
大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−198903(JP,A)
【文献】
特開2008−218947(JP,A)
【文献】
特開平07−249818(JP,A)
【文献】
特開2009−231526(JP,A)
【文献】
特開2014−203853(JP,A)
【文献】
特開2001−230486(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0243874(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 − 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長可変レーザの波長を制御する波長制御装置であって、
前記波長可変レーザについて、予め測定された波長と非活性導波路層へ注入される制御層電流の値との対応関係を示す第1の情報と、波長切替時の前記制御層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第2の情報とを有し、前記波長制御装置は、
所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記所望の発振波長に対応する非活性導波路層へ注入される制御層電流の値を前記第1の情報に基づいて決定し、決定された制御層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の制御層電流を生成するように構成され、
前記時定数は、前記決定された制御層電流の値と前記第2の情報とに基づいて、当該熱応答特性を相殺するように設定される
ことを特徴とする波長制御装置。
【請求項2】
波長可変レーザアレイの波長を制御する波長制御装置であって、
前記波長可変レーザアレイ内の複数の波長可変レーザの各々について、予め測定された波長と非活性導波路層へ注入される制御層電流の値との対応関係を示す第1の情報と、波長切替時の前記制御層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第2の情報とを有し、前記波長制御装置は、
所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記複数の波長可変レーザの内の前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザの非活性導波路層へ注入される制御層電流の値を前記第1の情報に基づいて決定し、決定された制御層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の制御層電流を生成するように構成され、
前記時定数は、前記決定された制御層電流の値と前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザについての前記第2の情報とに基づいて、前記第2の情報で示された熱応答特性を相殺するように設定される
ことを特徴とする波長制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の波長制御装置とともに使用して前記波長可変レーザアレイの波長を制御する波長制御装置であって、
前記波長可変レーザアレイ内の複数の波長可変レーザの各々について、予め測定された波長と活性導波路層へ注入される活性層電流の値との対応関係を示す第3の情報と、波長切替時の前記活性層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第4の情報とを有し、
所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記複数の波長可変レーザの内の前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザの活性導波路層へ注入される活性層電流の値を前記第3の情報に基づいて決定し、決定された活性層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、第2の時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の活性層電流を生成するように構成され、
前記第2の時定数は、前記決定された活性層電流の値と前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザについての前記第4の情報とに基づいて、前記第4の情報で示された熱応答特性を相殺するように設定される
ことを特徴とする波長制御装置。
【請求項4】
前記波長可変レーザは波長可変分布活性(TDA-)DFBレーザである、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の波長制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザの波長制御方法および波長制御装置に関し、より具体的には、高速且つ高精度な波長切替を実現する制御方法及び波長制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネットの普及に伴い、ネットワーク全体での通信トラフィックが飛躍的に増加しているため、光ファイバ通信の高速・大容量化が求められている。高速・大容量化の手段として、一本の光ファイバ内で複数の波長を用いることで伝送速度を向上させる波長分割多重(WDM)方式が有効である。WDM方式において、波長の一つ一つをチャネルといい、高速なチャネル(波長)切替を実現するために、高速高精度に波長を変化させることができる波長可変レーザが求められている。
【0003】
光ファイバ通信においては、単一の波長でレーザ発振する単一モードレーザというものが用いられている。単一モードレーザ発振を実現する方法としては、光導波路に周期的な凹凸の構造をした回折格子を用いるものがある。回折格子が形成された光導波路においては、光導波路の等価屈折率をn、前記回折格子の周期をΛとすると、その反射波長λ
Bは以下の(1)式で表される。
【0004】
【数1】
【0005】
上記(1)式より、光導波路の等価屈折率を変化させることで反射波長を変化させることができることがわかる。つまり、回折格子を用いた光共振器を構成することで、選択的に波長を変化させられる波長可変レーザを構成することができる。回折格子を利用した波長可変レーザとしては、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザ、SG(Sampled Grating)-DBRレーザやSSG(Super Structure Grating)-DBRレーザなどがある。
【0006】
波長可変分布活性(Tunable Distributed Amplification: TDA-)DFBレーザは、連続的に波長を変化させることのできる波長可変半導体レーザである。
【0007】
図1を参照してTDA-DFBレーザの基本的な構造を説明する。
図1は、TDA-DFBレーザアレイ100に含まれるそれぞれ異なる発振波長帯を有する複数のTDA-DFBレーザのうちの1つのTDA-DFBレーザの導波路層の断面図である。TDA-DFBレーザは、下部クラッド層1と上部クラッド層4との間に、活性導波路層(本明細書において、活性層ともいう。)2と非活性導波路層(本明細書において、波長制御領域または制御層ともいう。)3とがそれぞれ一定の長さLa、Ltで交互に周期的に形成された構造になっている。下部クラッド層1には電極9が設けられ、上部クラッド層4にはコンタクト層6を介して制御層用電極7及び活性層用電極8が、非活性導波路層3及び活性導波路層2にそれぞれ対応するように設けられている。なお、
図1に示すTDA-DFBレーザは、長さLa
1の活性導波路層2
1と長さLt
1の非活性導波路層3
1とが交互に形成された第1のレーザ部と、長さLa
2の活性導波路層2
2と長さLt
2の非活性導波路層3
2とが交互に形成された第2のレーザ部とが、位相シフト領域10を介して光の伝搬方向(活性導波路層と非活性導波路層の繰り返し方向)に直列に接続された構成例を示している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、必ずしも、1つのTDA-DFBレーザに複数のレーザ部を設ける必要はない。
【0008】
活性導波路層2と非活性導波路層3の上部には、回折格子5が形成されており、回折格子の周期に応じた波長のみ選択的に反射されるようになっている。このTDA-DFBレーザにおいては、活性導波路層2に対応して設けられた活性層用電極8へ活性層電流Iaを注入することで、利得が生じ、前記回折格子で選択的に反射された波長においてレーザ発振が起こる。一方、非活性導波路層3に対応して設けられた制御用電極7へ制御層電流Itを注入すると、キャリアプラズマ効果により導波路内の屈折率変化が生じ、非活性導波路における回折格子の反射波長が変化する。非活性導波路層に注入する電流量を変化させることで、TDA-DFBレーザの発振波長を変化させることができる(例えば、特許文献1,2参照)。
【0009】
プラズマ効果を用いた波長変化は非常に高速で、その応答速度はns(10
-9秒)オーダである。しかしながら、半導体素子に電流を注入することで抵抗成分のために熱が生じる。温度変化により、ms(10
-3秒)オーダでゆっくりと波長が変化するという熱ドリフト現象(素子抵抗に起因する熱変動が原因の波長ドリフト)が起きる。このように、波長変化の応答速度は波長の熱ドリフトの影響により律速されてしまう。
【0010】
この問題を解決するための技術がいくつか提案されている(例えば、特許文献2,3,4参照)。例えば、特許文献2,3では、波長可変半導体レーザにおいて、隣接する半導体レーザ(LD)を熱補償機構として用いて半導体素子全体の発熱量を制御することで前記熱ドリフトの抑制を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−103466号公報
【特許文献2】特開2008−218947号公報
【特許文献3】特開2011−198904号公報
【特許文献4】特開平7−111354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した熱ドリフトを抑制する手法は、TDA-DFBレーザの熱応答特性を考慮していない。すなわち、制御電流としてステップ信号をTDA-DFBレーザへ供給することで半導体素子全体の発熱量を制御している。TDA-DFBレーザアレイのような、同一の半導体上にTDA-DFBレーザが二次元的に配列されたTDA-DFBレーザアレイ(本明細書において、単にTDA-DFBレーザアレイという。)においても、TDA-DFBレーザの熱応答特性を考慮することが望ましい。また、TDA-DFBレーザアレイにおいては、TDA-DFBレーザアレイ全体の電流量を考慮して、個々のTDA-DFBレーザへの制御電流量を制御することが望ましい。
【0013】
本発明の目的は、TDA-DFBレーザアレイ等の波長可変レーザにおいて、動作中のLDにおける波長変更による波長切替時あるいは動作中のLDを別のLDに変更することによる波長切替時に、当該動作中のLDあるいは別のLDの熱応答特性に合わせた制御電流を非活性導波路層に入力することで、熱ドリフトの影響を最小限に抑制することにある。さらに、上記波長切替時に、動作中のLDあるいは別のLDの熱応答特性に合わせた制御電流を活性導波路層に入力することで、熱ドリフトの影響を最小限に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項
1に記載の発明は、波長可変レーザの波長を制御する波長制御装置であって、
前記波長可変レーザについて、予め測定された波長と非活性導波路層へ注入される制御層電流の値との対応関係を示す第1の情報と、波長切替時の前記制御層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第2の情報とを有し、前記波長制御装置は、所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記所望の発振波長に対応する非活性導波路層へ注入される制御層電流の値を前記第1の情報に基づいて決定し、決定された制御層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の制御層電流を生成するように構成され、前記時定数は、前記決定された制御層電流の値と前記第2の情報とに基づいて、当該熱応答特性を相殺するように設定されることを特徴とする。
【0018】
請求項
2に記載の発明は、波長可変レーザアレイの波長を制御する波長制御装置であって、前記波長可変レーザアレイ内の複数の波長可変レーザの各々について、予め測定された波長と非活性導波路層へ注入される制御層電流の値との対応関係を示す第1の情報と、波長切替時の前記制御層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第2の情報とを有し、前記波長制御装置は、所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記複数の波長可変レーザの内の前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザの非活性導波路層へ注入される制御層電流の値を前記第1の情報に基づいて決定し、決定された制御層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の制御層電流を生成するように構成され、前記時定数は、前記決定された制御層電流の値と前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザについての前記第2の情報とに基づいて、前記第2の情報で示された熱応答特性を相殺するように設定されることを特徴とする。
【0019】
請求項
3に記載の発明は、請求項
2に記載の波長制御装置とともに使用して前記波長可変レーザアレイの波長を制御する波長制御装置であって、前記波長可変レーザアレイ内の複数の波長可変レーザの各々について、予め測定された波長と活性導波路層へ注入される活性層電流の値との対応関係を示す第3の情報と、波長切替時の前記活性層電流と波長変化の熱応答特性との関係を示す第4の情報とを有し、所望の発振波長についての情報の入力に応答して、前記複数の波長可変レーザの内の前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザの活性導波路層へ注入される活性層電流の値を前記第3の情報に基づいて決定し、決定された活性層電流の値に対応する振幅が一定の矩形波の立ち上がり部分の振幅を、第2の時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となる波形の活性層電流を生成するように構成され、前記第2の時定数は、前記決定された活性層電流の値と前記所望の発振波長に対応する波長可変レーザについての前記第4の情報とに基づいて、前記第4の情報で示された熱応答特性を相殺するように設定されることを特徴とする。
請求項
4に記載の発明は、請求項
1乃至3のいずれかに記載の波長制御装置であって、前記波長可変レーザは波長可変分布活性(TDA-)DFBレーザであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、TDA-DFBレーザアレイ等の波長可変レーザにおいて、発振波長を切り替える時の注入電流変化に伴う発熱量変化に起因して発生する、発振波長の変動を抑制することができ、高速高精度な波長切替を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり。本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。以下の説明では、波長可変レーザの一例として、TDA-DFBレーザを例示するが、本発明は、DBRレーザ、SG-DBRレーザやSSG-DBRレーザ等の回折格子を利用した波長可変レーザに適用可能である。
【0023】
(実施形態1)
図2、3を参照して、本発明の一実施形態に係る波長制御装置およびTDA-DFBレーザアレイを制御方法について説明する。
図2に示す波長制御装置200は、
図1を参照して説明したTDA-DFBレーザアレイ100内のTDA-DFBレーザにおいて発振波長を切り替える時の注入電流変化に伴う発熱量変化に起因して発生する発振波長の変動(本明細書において、熱ドリフトともいう。)を抑制し、波長切替時の熱ドリフトの影響を最小限に抑制するための制御装置である。なお、
図1には、第1のレーザ部と第2のレーザ部との2つのレーザ部を有するTDA-DFBレーザを例示するが、本願発明は、1つまたは複数のレーザ部を有するTDA-DFBレーザを有するTDA-DFBレーザアレイに適用可能である。
【0024】
図2に示すように、波長制御装置200は、波長-電流変換器21と、制御電流発生器22とを備える。
【0025】
波長-電流変換器21は、TDA-DFBレーザ毎に予め測定された波長と非活性導波路層3への注入電流との対応関係を示す情報を有し、波長(チャネル)情報(所望の発信波長についての情報)の入力に応答して、所望の波長に合わせた電流値を出力する。一方、制御電流生成器22は、波長(チャネル)切替時の注入電流量(電力)と波長変化の温度依存性との関係を示す情報を有し、波長-電流変換器21からの電流値の入力に応答して、TDA-DFBレーザにおける熱による波長変動が最小限になるような制御信号を出力するものである。制御電流生成器22から出力された制御信号は、TDA-DFBレーザの非活性導波路層3への注入電流として制御層用電極7を介して供給される。
【0026】
波長制御装置200は、非活性導波路層3への注入電流量と波長変化の熱応答特性との関係により、その熱応答特性を相殺するような信号を出力する。例えば、波長制御装置200は、非活性導波路層3への注入電流Itをある量だけ変化させた際の、熱ドリフトによる波長変化に合わせて、非活性導波路3への注入電流として、波形の一部に時定数を有する制御信号を生成する。
【0027】
図3に、波長制御装置200から出力され非活性導波路層3に注入される制御信号の波形の例を示す。
図3に示すように波長制御装置200から出力される制御信号は、矩形波と時定数とを含む関数で表される波形の電流とすることができる。
図3に示す例は、制御電流値を低い値から高い値に変化させる際の例である。このとき、TDA-DFBレーザの発振波長は長波長から短波長へ変化する。通常の矩形波を非活性導波路層3への制御信号とする代わりに、切替後の短波長に対応する矩形波の一部を、時定数を有する波形とすることで、熱応答特性を相殺するように発振波長を制御する。この時定数を有した波形の範囲及びその時定数は、熱ドリフトによる波長変化の幅などの熱応答特性に合わせて設定される。
【0028】
例えば、切替前の非活性導波路層3の制御信号を、切替後の所望の発振波長(短波長)に対応する電流振幅を有する矩形波(切替前に比べて振幅が大きい矩形波)の制御信号へ変化させた場合には、制御信号へ変化にともない熱が生じ、この熱により発振波長と所望の発振波長との間に差が生じる。本実施形態では、切替後の所望の発振波長に対応する振幅が一定の矩形波の一部を、時定数を有する波形とする。すなわち、矩形波の立ち上がり部分の振幅を時定数にしたがって変化させ、時間の経過と共に前記一定の振幅となるようにすることで、発振波長の熱応答特性を相殺し、所望の発振波長への切替時間を短くすることが可能になる。なお、
図3に示す制御信号は、矩形波の振幅から時定数分の振幅を減じた形状の波形を例示するが、制御信号を、矩形波の振幅から時定数分の振幅を加えた形状の波形としてもよい。
【0029】
本実施形態の波長制御装置200によれば、TDA-DFBレーザアレイ100の制御方法を提供することができる。ここでは、同一LD(1つのTDA-DFBレーザ)内で非活性導波路層(制御層)3に注入する制御層電流Itの量を変化させることで当該LDの発振波長を変化させることにより波長切替を行う場合を考える。
【0030】
同一LD内で波長を切替える際は、活性導波路層2へ供給する活性層電流Iaを一定にして、非活性導波路層3へ供給する制御層電流Itを切替えることで波長を切り替えることができる。予め測定された波長と非活性導波路層3への注入電流との対応関係に基づいて所望の波長に合わせた電流値を決定し、熱ドリフトによる波長変化に合わせて、波形の一部に時定数を有する注入電流Itを生成しこれを制御層電流として非活性導波路層3へ注入する。この制御方法によれば、熱による波長変動を抑制しつつ、同一LD内で波長を切り替えることができる。
【0031】
なお、ここでは、TDA-DFBレーザアレイ内における1つのTDA-DFBレーザ内で波長を切り替える例を説明したが、TDA-DFBレーザアレイ内においてあるTDA-DFBレーザの発振(発光)を停止して別のTDA-DFBレーザの発振(発光)を開始することで波長を切り替える場合にも、上述したTDA-DFBレーザアレイの制御方法を適用することができる。この場合、当該別のTDA-DFBレーザの活性導波路層2へ活性層電流Iaを供給する際に発生する発熱も波長ドリフトに寄与する。したがって、別のTDA-DFBレーザの活性導波路層2へ供給する活性層電流Iaもまた、当該別のTDA-DFBレーザの非活性導波路層3へ供給する制御層電流Itと同様に制御することが望ましい。すなわち、別のTDA-DFBレーザの活性導波路層2の波長変化に合わせて、時定数を有する波形の活性層電流Iaを形成して注入することが望ましい。例えば、
図2を参照して説明した波長制御装置200と同様の構成で、制御層電流Itを制御する代わりに活性層電流Iaを制御するように構成した別の波長制御装置を用意して、波長制御装置200とともに用いてTDA-DFBレーザアレイの波長を制御すればよい。より具体的には、当該別の波長制御装置を、活性導波路層2への注入電流量と波長変化の熱応答特性との関係により、活性導波路層2の熱応答特性を相殺するような活性層電流Iaを出力するように構成する。これにより、活性層電流Iaは、活性導波路層2への注入電流をある量だけ変化させた際の、波長変化に合わせた、時定数を有する波形の信号となる。さらに、TDA-DFBレーザアレイ全体におけるTDA-DFBレーザへの供給電流量を一定にすることが望ましい。例えば、波長切替前に1つのTDA-DFBレーザへ電流が供給されており、波長切替後も別の1つのTDA-DFBレーザへ電流が供給されている場合には、波長切替前後のTDA-DFBレーザへ供給する電流量が同じになるように、波長切替後の別のTDA-DFBレーザの活性層電流Iaと制御層電流Itとを決定することが望ましい。
【0032】
(実施形態2)
図4を参照して、本発明の別の一実施形態を説明する。本実施形態によれば、TDA-DFBレーザアレイ100における波長切替時におけるTDA-DFBレーザアレイ100の熱補償機構が提供される。
図4に示す熱補償装置300は、TDA-DFBレーザアレイ100の熱補償機構として動作し、
図2、3を参照して説明した波長制御装置200ともに用いてTDA-DFBレーザアレイ100の熱による波長変動を最小限に抑えることを可能にする。
【0033】
ここで、TDA-DFBレーザアレイ100における熱補償動作について説明する。まず、TDA-DFBレーザアレイ100において同一LD(1つのTDA-DFBレーザ)内で波長切替を行う場合は、活性導波路層2へ注入する活性層電流Iaは一定に保ち、非活性導波路層3に注入する制御層電流Itの量を変化させて波長切替を行う。この電流量の変化により、発熱量の変動が生じ波長ドリフトが起きてしまう。そこで、波長切替時に動作中のLDに隣接するLDの非活性導波路層2への注入電流を制御し、波長切替前後でTDA-DFBレーザアレイへの全注入電流が一定になるようにすることで、発熱量を制御する。例えば、動作中のLD1内で波長切替を行う際は、LD1に隣接するLD2の非活性導波路層を用いて熱補償を行う。これにより、従来よりも高速な波長切替が可能になる。LD1に隣接するLD2の非活性導波路層の非活性導波路層2へ注入する電流は、波長切替前後でTDA-DFBレーザアレイへの全注入電流が一定になるような波形として供給される。
【0034】
本実施形態では、熱補償動作に加えて、前記波長制御装置を用いることで、熱補償動作のみのときよりも、熱による波長ドリフトをさらに抑制することが可能である。熱補償動作のみの場合、動作中のLDの熱変動を完全に抑制することは難しく、僅かながら熱変動が生じる。したがって、熱補償装置300による隣接するLDの非活性導波路層2の熱補償動作と併せて、波長制御装置200による動作中のLDの非活性導波路層2への制御層電流Itの制御動作により、動作中のLDの発振波長の熱変動を大きく抑制することができる。
【0035】
また、熱補償装置300と波長制御装置200とを組み合わせることで、低消費電力化を実現することも可能である。例えば、波長制御装置200で熱変動を最小限まで抑制し、それだけでは抑制しきれなかった熱変動に対して熱補償装置300による熱補償動作を行うことで、前記手法(常に熱補償装置300による熱補償動作を行う場合)に比べて全体での消費電力量を削減することができる。
【0036】
以上のように、本発明の波長制御装置200を用いて波長切替の制御信号波形を最適化することで、TDA-DFBレーザアレイ100における熱変動による波長ドリフトの影響の抑制が可能となる。また、熱補償動作と組み合わせることで、熱変動の抑制効果をより一層高めることが可能となり、TDA-DFBレーザアレイにおける高速・高精度な波長切替を実現することができる。
【0037】
なお、本実施形態もまた、TDA-DFBレーザアレイ内においてあるTDA-DFBレーザの発振(発光)を停止して別のTDA-DFBレーザの発振(発光)を開始することで波長を切り替える場合に適用することができる。この場合、切替前後のTDA-DFBレーザアレイ全体におけるTDA-DFBレーザへの供給電流量を一定にすることが望ましい。例えば、波長切替後に発振するTDA-DFBレーザへ供給する電流(活性層電流Ia、制御層電流It)と隣接するTDA-DFBレーザへ供給する電流(制御層電流It)を含むTDA-DFBレーザアレイ全体におけるTDA-DFBレーザへの供給電流量は、切替前のTDA-DFBレーザアレイ全体におけるTDA-DFBレーザへの供給電流量と同一となるように決定することが望ましい。
【符号の説明】
【0038】
100 TDA-DFBレーザアレイ
1 下部クラッド層
2 活性導波路層(活性層)
3 非活性導波路層(制御層)
4 上部クラッド層
5 回折格子
6 コンタクト層
7 制御層用電極
8 活性層用電極
9 電極
10 位相シフト領域
200 波長制御装置
21 波長-電流変換器
22 制御電流発生器
300 熱補償装置