(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、本発明の目的は、光学用途に好適な透明性を有し、成形性および耐衝撃性に優れる高分子化合物の工業的に有利な製造方法および該製造方法によって得られる高分子化合物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、該高分子化合物から得られる外観に優れる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の目的は、
〔1〕メタクリル酸エステル(A)およびメタクリル酸エステル(A)と共重合可能なビニル系単量体(B)からなる単量体混合物(C)並びに1種以上の多官能連鎖移動剤(D)および重合開始剤(E)の存在下でラジカル重合する高分子化合物の製造方法であって、前記単量体混合物(C)100質量部に対する前記多官能連鎖移動剤(D)の使用量が下記式(1)の関係を満たす高分子化合物の製造方法;
【0009】
【数1】
【0010】
(式(1)中、aおよびpは1以上の整数を表し、M
p、n
pおよびW
pはa種の多官能連鎖移動剤(D)のうちの任意の多官能連鎖移動剤(D
p)の分子量、官能基数および量(質量部)をそれぞれ表す。)
〔2〕メタクリル酸エステル(A)およびメタクリル酸エステル(A)と共重合可能なビニル系単量体(B)からなる単量体混合物(C)並びに1種以上の多官能連鎖移動剤(D)、1種以上の単官能連鎖移動剤(D’)および重合開始剤(E)の存在下でラジカル重合する高分子化合物の製造方法であって、前記単量体混合物(C)100質量部に対する前記多官能連鎖移動剤(D)および前記多官能連鎖移動剤(D’)の使用量が下記式(2)および式(3)の関係を満たす高分子化合物の製造方法;
【0011】
【数2】
【0012】
【数3】
【0013】
(式(2)、(3)中、a、bおよびpは1以上の整数をそれぞれ表し、M
p、n
pおよびW
pはa種の多官能連鎖移動剤(D)のうちの任意の多官能連鎖移動剤(D
p)の分子量、官能基数および量(質量部)をそれぞれ表し、M’
pおよびW’
pはb種の単官能連鎖移動剤(D’)のうちの任意の単官能連鎖移動剤(D’
p)の分子量および量(質量部)をそれぞれ表す。)
〔3〕前記重合開始剤(E)を0.001〜0.01質量部の範囲で使用することを特徴とする前記〔1〕または〔2〕のいずれかに記載の高分子化合物の製造方法;
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法により得られる高分子化合物;および
〔5〕前記〔4〕に記載の高分子化合物からなる成形品;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、耐衝撃性改良剤の添加が不要で、光学用途に好適な透明性を有し、成形性および耐衝撃性に優れる高分子化合物を工業的に有利に製造することができる。また、該製造方法により得られる高分子化合物によって、力学強度および外観に優れる成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の高分子化合物の製造方法においては、メタクリル酸エステル(A)およびこれと共重合可能なビニル系単量体(B)からなる単量体混合物(C)並びに1種以上の多官能連鎖移動剤(D)および重合開始剤(E)の存在下でラジカル重合する。
【0016】
本発明の製造方法におけるラジカル重合は溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等を適用でき、また、バッチ方式、連続重合方式のいずれで実施してもよい。中でも、得られた高分子化合物を光学用途で使用する上では、分散剤、乳化剤、溶剤等を使用しない塊状重合法が好ましく、生産性の観点から連続重合方式による塊状重合法(連続塊状重合法)がより好ましい。
【0017】
本発明の製造方法に用いることができるメタクリル酸エステル(A)としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)などのメタクリル酸アルキル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)などのメタクリル酸シクロアルキル;メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アラルキル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリール;などが挙げられる。中でも得られる高分子化合物の透明性の観点からメタクリル酸アルキルを用いることが好ましい。これらメタクリル酸エステル(A)は一種単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0018】
本発明の製造方法に用いることができるメタクリル酸エステル(A)と共重合可能なビニル系単量体(B)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ペンチルスチレン、α−ヘキシルスチレン、α−オクチルスチレン、m−メチルスチレン、m−エチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α,α−ジフェニルエチレンなどの芳香族ビニル化合物;無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水アコニット酸、無水トリメリット酸などの不飽和カルボン酸無水物;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物などが挙げられる。中でも得られる高分子化合物の透明性の観点からアクリル酸エステルが好ましく、炭素数1〜6のアクリル酸アルキルを用いることがより好ましい。これらビニル系単量体(B)は一種単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0019】
本発明の製造方法で用いる単量体混合物(C)は、透明性および成形性の観点からメタクリル酸エステル(A)を50〜99.9質量%の範囲で含むことが好ましく、70〜99.5質量%の範囲で含むことがより好ましく、85〜99質量%の範囲で含むことがさらに好ましい。また単量体混合物(C)は、ビニル系単量体(B)を0.1〜50質量%の範囲で含むことが好ましく、0.5〜30質量%の範囲で含むことがより好ましく、1〜15質量%の範囲で含むことがさらに好ましい。
【0020】
また、上記単量体混合物(C)は、単官能単量体を99〜100質量%の範囲で含むことが好ましく、99.5〜100質量%の範囲で含むことがより好ましく、99.9〜100質量%の範囲で含むことがさらに好ましく、100質量%含むことが最も好ましい。多官能単量体を含むと、分子量分布が広くなり本発明の効果が十分に得られず、また、成形品の透過率も低下する。
【0021】
本発明の製造方法においては、多官能連鎖移動剤(D)の使用量を、上記した単量体混合物(C)100質量部に対して下記一般式(1)の関係を満たすようにすることにより、得られる高分子化合物の成形性および耐衝撃性を改善できる。
【0023】
(式(1)中、aおよびpは1以上の整数を表し、M
p、n
pおよびW
pはa種の多官能連鎖移動剤(D)のうちの任意の多官能連鎖移動剤(D
p)の分子量、官能基数および量(質量部)をそれぞれ表す。)
【0024】
本発明の製造方法に使用する多官能連鎖移動剤(D)とは、ラジカル重合条件下における、連鎖移動定数が0.01以上である官能基を、一分子中に二つ以上有する連鎖移動剤を意味する。なお、上記した連鎖移動定数とは、ラジカル重合温度における単量体混合物(C)よりなる重合体の成長末端ラジカルと該多官能連鎖移動剤(D)の有する官能基との連鎖移動定数を指し、連鎖移動反応の速度定数k
trを成長反応の速度定数k
pで割った値として定義される。かかる官能基としては、メルカプト基、ジスルフィド基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0025】
多官能連鎖移動剤(D)としては、例えば、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,10−デカンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタンが挙げられる。これら多官能連鎖移動剤(D)は単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0026】
単量体混合物(C)100質量部に対する多官能連鎖移動剤(D)の使用量は、上記式(1)を満たす必要がある。すなわち、用いる全ての多官能連鎖移動剤(D)のW・n
0.5/M(但し、W,n,Mは各多官能連鎖移動剤(D)の分子量、官能基数および量(質量部)を表す)の和(以下、「定数f」と称する)が、0.0015以上0.0045以下である。単量体混合物(C)100質量部に対して分子量M、官能基数nの多官能連鎖移動剤(D)をW質量部用いた場合、ラジカル重合中の成長末端ラジカルの連鎖移動が起こる置換基は単量体混合物(C)100質量部あたり、W・n
0.5/Mモルと推定される。したがって、定数fは、単量体混合物(C)100質量部をラジカル重合した場合に、成長末端ラジカルの連鎖移動が起こる多官能連鎖移動剤(D)の官能基のモル数の総計を意味する。定数fが、0.0015を下回ると流動性が低下する傾向があり、0.0045を上回ると耐衝撃性が低下する傾向がある。定数fは、0.0020〜0.0040の範囲であることが好ましく、0.0025〜0.0035の範囲であることがより好ましい。
【0027】
また本発明の製造方法で行うラジカル重合においては、さらに単官能連鎖移動剤(D’)を用いてもよい。本発明の製造方法に使用する単官能連鎖移動剤(D’)とは、ラジカル重合条件下において、連鎖移動定数が0.01以上である官能基を、一分子中に一つのみ有する連鎖移動剤を意味する。なお、上記した連鎖移動定数とは、ラジカル重合温度における単量体混合物(C)よりなる重合体の成長末端ラジカルと該単官能連鎖移動剤(D’)の有する官能基との連鎖移動定数を指し、連鎖移動反応の速度定数k
trを成長反応の速度定数k
pで割った値として定義される。かかる官能基としては、メルカプト基、ジスルフィド基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0028】
単官能連鎖移動剤(D’)としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;チオグリコール酸エステル;3−メルカプトプロピオン酸エステル;チオフェノール;アルキルサルファイド;α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、中でもアルキルメルカプタンが好ましい。これら単官能連鎖移動剤(D’)は単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0029】
単官能連鎖移動剤(D’)を用いる場合、多官能連鎖移動剤(D)および単官能連鎖移動剤(D’)の使用量は、単量体混合物(C)100質量部に対して下記式(2)および式(3)の関係を満たす必要がある。
【0032】
(式(2)、(3)中、a、bおよびpは1以上の整数をそれぞれ表し、M
p、n
pおよびW
pはa種の多官能連鎖移動剤(D)のうちの任意の多官能連鎖移動剤(D
p)の分子量、官能基数および量(質量部)をそれぞれ表し、M’
pおよびW’
pはb種の単官能連鎖移動剤(D’)のうちの任意の単官能連鎖移動剤(D’
p)の分子量および量(質量部)をそれぞれ表す。)
【0033】
単官能連鎖移動剤(D’)を用いる場合、多官能連鎖移動剤(D)および単官能連鎖移動剤(D’)の使用量は、得られる高分子化合物の成形性および耐衝撃性の観点から上記式(2)を満たす必要がある。すなわち、定数fおよび用いる全ての単官能連鎖移動剤(D’)のW’・n
0.5/M’(但し、W’,M’は各単官能連鎖移動剤(D’)の分子量および量(質量部))の和(以下、「定数f’」と称する)の総計が、0.0015以上0.0045以下である。単量体混合物(C)100質量部に対して分子量M’の単官能連鎖移動剤(D’)をW’質量部用いた場合、ラジカル重合中の成長末端ラジカルの連鎖移動が起こる官能基は、単量体混合物(C)100質量部あたり、W’/M’モルであると考えている。したがって、定数f’は、単量体混合物(C)100質量部を用いてラジカル重合を行った場合に成長末端ラジカルの連鎖移動が起こる単官能連鎖移動剤(D’)の置換基のモル数の総計を意味する。そして定数fと定数f’の総計は、単量体混合物(C)100質量部をラジカル重合するにあたり、多官能連鎖移動剤(D)と単官能連鎖移動剤(D’)を併用した場合の連鎖移動が起こる官能基のモル数の総計を意味する。定数fと定数f’の総計が0.0015を下回ると得られる高分子化合物の成形性が低下する一方、0.0045を上回ると耐衝撃性が低下する。定数fと定数f’の総計は、0.0020〜0.0040の範囲であることが好ましく、0.0025〜0.0035の範囲であることがより好ましい。
【0034】
さらに、単官能連鎖移動剤(D’)を用いる場合、多官能連鎖移動剤(D)および単官能連鎖移動剤(D’)の使用量は、得られる高分子化合物の成形性と耐衝撃性の観点から上記式(3)を満たす必要がある。すなわち、定数f’とfの比が1以下である必要がある。これは、ラジカル重合における成長ラジカル末端の単官能連鎖移動剤(D’)への移動が、多官能連鎖移動剤(D)への移動を上回らないことを意味する。さらに定数f’と定数fの比は0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法で用いる重合開始剤(E)は、重合温度においてラジカル重合を開始できるものであれば特に制限はなく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらの重合開始剤(E)は、一種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0036】
重合開始剤(E)の10時間半減期温度は90℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。重合開始剤(E)の10時間半減期温度が90℃を超えると、得られる高分子化合物中の低分子量の重合体の割合が増えるので、成形時の金型汚れや成形品の強度低下をひき起こす傾向となる。
【0037】
前記重合開始剤(E)の使用量は、単量体混合物(C)100質量部に対して0.001〜0.01質量部の範囲であることが好ましい。また、生産性、重合安定性の観点から単量体混合物(C)1モルに対して1.0×10
−6〜1.0×10
−4モルの範囲が好ましく、3.0×10
−5〜7.0×10
−5モルの範囲がより好ましい。単量体混合物(C)1モルに対する重合開始剤の使用量が1.0×10
−6モル未満であると反応速度が遅く生産性が低下する傾向があり、重合開始剤の使用量が1.0×10
−4モルを超えると重合の制御が困難となる傾向がある。
【0038】
本発明の製造方法で行うラジカル重合における重合温度は、110〜170℃が好ましく、120〜160℃の範囲がより好ましく、130〜150℃の範囲がさらに好ましい。重合温度が110℃未満である場合には反応液の粘度が高くなり、混合のために大きな動力が必要となる傾向があり、重合温度が170℃を超える場合には、得られる高分子化合物の熱安定性が低下する傾向となる。
【0039】
ラジカル重合における重合時間は、0.5〜4時間の範囲が好ましく、1〜3時間の範囲がより好ましく、1.5〜2.5時間の範囲がさらに好ましい。重合時間が0.5時間未満である場合、重合開始剤(E)の必要量が増え、重合反応の制御が難しくなるとともに、分子量の調整が困難になる傾向がある。一方、重合時間が4時間を超えると、生産性が低下する傾向となる。
【0040】
本発明の製造方法で得られる高分子化合物の分子量分布は、1.6〜1.8の範囲となることが好ましい。分子量分布が1.6未満であると成形性が低下する傾向があり、1.8を超えると耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0041】
本発明の製造方法で得られる高分子化合物の重量平均分子量は、4万〜10万の範囲が好ましく、4.5万〜8万の範囲がより好ましく、5万〜6万の範囲がさらに好ましい。
【0042】
本発明の製造方法によって得られる高分子化合物は、透明性、成形性、耐衝撃性に優れているので、各種成形品として有用である。例えば、射出成形、圧縮成形、押出成形、真空成形などの公知の溶融加熱成形により、種々の形状の力学強度と外観に優れた成形品を得ることができる。成形品の用途としては、例えば広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ用品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明用品;ペンダント、ミラーなどのインテリア用品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、メーターカバー、テールランプカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機などの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、溶接時の顔面保護用マスクなどが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例等によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0044】
(試験片の作製)
実施例、比較例で得られた高分子化合物を、射出成形機((株)日本製鋼所製、J75SAV)を用いて、H1/H2/HV/H3/MH=200/210/230/250/250℃、金型温度60℃の条件で射出成形を行うことで、試験片を作製した。かかる試験片を用いて成形品の物性値を測定した。
【0045】
実施例1〜4および比較例1〜5で得られた高分子化合物並びにこれらから作製した成形品の物性値は以下の方法によって測定した。
【0046】
(重量平均分子量、分子量分布)
実施例、比較例で得られた高分子化合物の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を、カラム(東ソー(株)製、TSKgelSUPERHZM−MおよびTSKguard columnSUPERHZ−H)および示差屈折率計(東ソー(株)製、RI−8020)を備えたゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製、HLC−8020)により、40℃、テトラヒドロフラン溶媒中にてポリスチレン換算で求めた。
【0047】
(MFR)
実施例、比較例で得られた高分子化合物のMFRを、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重37.3Nで測定した。
【0048】
(耐衝撃性)
実施例、比較例で得られた高分子化合物から作製した80mm×10mm×4mmの試験片を用いて、JIS K7203に準拠して測定した曲げ強さによって評価した。
【0049】
(光透過率)
厚さ6mmの平板から光路長200mmとなるように試験片を切り出し、波長550nmの光の光路長200mmにおける透過率を測定した。
【0050】
以下、メタクリル酸メチルをMMA、アクリル酸メチルをMA、アゾビスイソブチロニトリルをAIBN、n−オクチルメルカプタンをn−OM、ペンタエリストールテトラキスチオプロピオネートをPETP、エチレングリコールチオビスグリコレートをEGTG、1,2,3−プロパントリスチオールをPTT、エチレングリコールジメタクリレートをEGDMAと表記する。なお、上記試薬はいずれも和光純薬工業社製である。
【0051】
(実施例1)
攪拌機を備えた重合反応器に、MMA89質量部(0.87モル部)およびMA11質量部(0.13モル部)からなる単量体混合物(C)(1モル部)、重合開始剤(E)としてAIBN0.007質量部(4.2×10
−5モル部)、多官能連鎖移動剤(D)としてPETP0.66質量部からなる混合液を連続的に供給した。本条件において定数fは0.0029である。これらを重合温度140℃、平均滞留時間2時間となる条件で塊状重合を実施し、連続的に重合反応液を抜き出した。次いで、重合反応器から出てきた反応混合液を230℃に加温し、260℃に制御された二軸押出機に供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、重合体をストランド状に押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状の高分子化合物を得た。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
実施例1におけるPETPの代わりに、多官能連鎖移動剤(D)としてEGTG0.44質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0030である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
実施例1におけるPETPの量を0.52質量部に変更し、かつ、併せて単官能連鎖移動剤(D’)としてn−OM0.13質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0023、定数f’は0.0009であり、定数fと定数f’の和は0.0032である。また、定数f’と定数fとの比(f’/f)は0.39である。得られた当該高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
実施例1におけるPETPの代わりに多官能連鎖移動剤(D)としてPTT0.22質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0027である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
実施例1におけるPETPの代わりに単官能連鎖移動剤(D’)としてn−OM0.44質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数f’は0.0030である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例2)
実施例1におけるPETPの代わりに多官能連鎖移動剤(D)としてEGTG0.16質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0011である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0057】
(比較例3)
実施例1におけるPETPの量を1.1質量部に変更して用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0049である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0058】
(比較例4)
実施例1におけるPETPの代わりに多官能連鎖移動剤(D)としてEGTG0.22質量部を用い、かつ、併せて単官能連鎖移動剤(D’)としてn−OM0.35質量部を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0015、定数f’は0.0024であり、定数fと定数f’の和は0.0039である。また、定数f’と定数fとの比(f’/f)は1.6である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例5)
MMA89質量部(0.87モル部)、MA11質量部(0.13モル部)およびEGDMA0.10質量部(5.0×10
−4モル部)からなる単量体混合物(C)(1.0005モル部)を用いて、PETPの代わりに多官能連鎖移動剤(D)としてEGTG0.70質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット状の高分子化合物を得た。なお、本条件において定数fは0.0047である。得られた高分子化合物の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
単官能連鎖移動剤(D’)のみで製造された点において本発明とは異なる比較例1は、実施例と同等のMFRを示すものの曲げ強さに劣ることが分かる。
また、多官能連鎖移動剤(D)の使用量において式(1)で規定する範囲を下回る比較例2は、実施例と比較して曲げ強さが優れるものの、MFRが大幅に低く、流動性に劣ることが分かる。
また、多官能連鎖移動剤(D)の使用量において式(1)で規定する範囲を上回る比較例3は、実施例と比較してMFRが高いものの、曲げ強さに劣ることが分かる。
さらに、多官能連鎖移動剤(D)と単官能連鎖移動剤(D’)の使用比率において式(3)を満たさない比較例4は、実施例と同等のMFR値を示すものの、曲げ強さに劣ることが分かる。
また、多官能連鎖移動剤(D)の使用量において式(1)で規定する範囲を上回り、かつ単量体混合物(C)に多官能単量体を含んでいる比較例5は、実施例と比較して分子量分布が広く、曲げ強さおよび光線透過率に劣ることが分かる。
以上のように本発明の製造方法によって得られる高分子化合物は、MFRと曲げ強さの両方が優れることから、流動性と耐衝撃性に優れる。このことから本発明の高分子化合物を用いることで力学強度と外観に優れる成形品を得ることができる。