(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の混合ガスには、前記ハロゲン元素含有ガスとしてフッ素含有ガスが含まれ、前記第1の封止膜中のフッ素の濃度は、10atom%以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の成膜方法。
前記第1の混合ガスには、前記ハロゲン元素含有ガスとして塩素含有ガスが含まれ、前記第1の封止膜中の塩素の濃度は、10atom%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の成膜方法。
前記第1の混合ガスには、シリコン含有ガス、ハロゲン元素含有ガス、および窒素含有ガス、または、シリコンおよびハロゲン元素含有ガスならびに窒素含有ガスが含まれ、
前記第2の混合ガスには、シリコン含有ガスおよび窒素含有ガスが含まれることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の成膜方法。
前記第1の供給工程および前記第1の成膜工程を第1の工程とし、前記第2の供給工程および前記第2の成膜工程を第2の工程とし、前記第3の供給工程および前記第1のプラズマ処理工程を第3の工程とし、前記第4の供給工程および前記第4の成膜工程を第4の工程とし、前記第5の供給工程および前記第2のプラズマ処理工程を第5の工程とした場合、前記第1の工程と、前記第4の工程と、前記第5の工程とは、前記第2の工程および前記第3の工程が行われる前に、前記第4の工程、前記第5の工程、および前記第1の工程の順に複数回繰り返されることを特徴とする請求項14に記載の成膜方法。
前記第1の供給工程では、前記ハロゲン元素含有ガスとしてフッ素含有ガスが用いられ、前記所定割合は、前記第1の封止膜中のフッ素の濃度の最大値が4〜6atom%の範囲内の値となるように、前記第1の混合ガスにおける、ハロゲン元素含有ガスまたは窒素よりも電気的負性の強い官能基を有するガスの割合が調整されることを特徴とする請求項16に記載の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
開示する成膜方法は、1つの実施形態において、基板上に形成されている素子を封止する封止膜の成膜方法であって、第1の供給工程、第1の成膜工程、第2の供給工程、第2の成膜工程、第3の供給工程、および第1のプラズマ処理工程を含む。第1の供給工程では、シリコン含有ガスとハロゲン元素含有ガスとを含む第1の混合ガス、または、シリコン含有ガスと窒素よりも電気的負性が強い官能基を含有するガスとを含む第1の混合ガスが処理容器内に供給される。第1の成膜工程では、処理容器内で生成されたプラズマにより活性化された混合ガスにより、素子を覆うように封止膜が成膜される。第2の供給工程では、ハロゲン元素含有ガスおよび窒素よりも電気的負性の強い官能基を有するガスのいずれも含まず、シリコン含有ガスを含む第2の混合ガスが処理容器内に供給される。第2の成膜工程では、処理容器内で生成されたプラズマにより活性化された第2の混合ガスにより、第1の成膜工程において成膜された第1の封止膜を覆うように第2の封止膜が成膜される。第3の供給工程では、水素ガスが処理容器内に供給される。第1のプラズマ処理工程では、処理容器内で生成された水素ガスのプラズマにより、第2の成膜工程において成膜された第2の封止膜の表面がプラズマ処理される。
【0010】
ここで、シリコン含有ガスは、好ましくはシラン系ガスである。シラン系ガスとは、例えば、SiH4(モノシラン)、Si2H6(ジシラン)、またはSi3H8(トリシラン)など、SinH2n+2(nは自然数)で表されるガスを言う。
【0011】
また、開示する成膜方法は、1つの実施形態において、第2の成膜工程と第3の供給工程との間に、処理容器内のガスを排気する排気工程をさらに含んでもよく、第2の封止膜の表面は、第2の成膜工程の後に大気に暴露されることなく、第1のプラズマ処理工程において、水素ガスのプラズマによりプラズマ処理されてもよい。
【0012】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第3の供給工程では、水素ガスと希ガスとを含む第3の混合ガスが処理容器内に供給されてもよく、第1のプラズマ処理工程では、処理容器内で生成された第3の混合ガスのプラズマにより、第2の封止膜の表面がプラズマ処理されてもよい。
【0013】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の混合ガスには、窒素含有ガス、シリコン含有ガス、およびフッ素含有ガスが含まれてもよい。
【0014】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態における第1の混合ガスにおいて、シリコン含有ガスの流量に対する窒素含有ガスの流量の比は、0.8〜1.1の範囲内であり、シリコン含有ガスの流量に対するフッ素含有ガスの流量の比は、0.1〜0.4の範囲であってもよい。
【0015】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、窒素含有ガスは、N2ガスまたはNH3ガスであり、シリコン含有ガスは、SiH4ガスであり、フッ素含有ガスは、好ましくはフッ素含有シリコン化合物であり、例えば、SiF4ガス、SiH3Fガス、SiH2F2ガス、またはSiHxF4−x(xは1から3までの整数)ガスのいずれかであってもよい。
【0016】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、ハロゲン元素含有ガスは、SiCl4ガス、SiHxCl4−x(xは1から3までの整数)ガス、SiH3Fガス、またはSiHxFyClz(x、y、およびzはx+y+z=4を満たす自然数)ガスのいずれかであってもよい。
【0017】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の混合ガスにはハロゲン元素含有ガスとしてフッ素含有ガスが含まれてもよく、第1の封止膜中のフッ素の濃度は、10atom%以下であってもよい。
【0018】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の混合ガスにはハロゲン元素含有ガスとして塩素含有ガスが含まれてもよく、第1の封止膜中の塩素の濃度は、10atom%以下であってもよい。
【0019】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第2の封止膜の厚さは、第1の封止膜の厚さの2〜4倍の範囲内であってもよい。
【0020】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の混合ガスには、シリコン含有ガス、ハロゲン元素含有ガス、および窒素含有ガス、または、シリコンおよびハロゲン元素含有ガスならびに窒素含有ガスが含まれてもよく、第2の混合ガスには、シリコン含有ガスおよび窒素含有ガスが含まれてもよい。
【0021】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の混合ガスには、SiH4ガス、SiF4ガス、およびN2ガス、または、SiHxF4−xガスおよびNH3ガスが含まれてもよく、第2の混合ガスには、SiH4ガスおよびN2ガスが含まれてもよい。
【0022】
また、開示する成膜方法は、1つの実施形態において、第2の混合ガスを処理容器内に供給する第4の供給工程と、第1の成膜工程が行われる前に、処理容器内で生成されたプラズマにより活性化された第2の混合ガスにより、素子を覆うように第3の封止膜を成膜する第4の成膜工程とをさらに含んでもよく、第1の供給工程は、第4の成膜工程が行われた後に実行されてもよく、第1の成膜工程では、プラズマにより活性化された第1の混合ガスにより、第4の成膜工程において成膜された第3の封止膜を覆うように第1の封止膜が成膜されてもよい。
【0023】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第3の封止膜の厚さは、第1の封止膜の厚さの0.5〜1.5倍の範囲内であってもよい。
【0024】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第4の成膜工程と第1の供給工程との間には、水素ガスを処理容器内に供給する第5の供給工程と、処理容器内で生成された水素ガスのプラズマにより、第4の成膜工程において成膜された第3の封止膜の表面をプラズマ処理する第2のプラズマ処理工程とが含まれてもよい。
【0025】
また、開示する成膜方法は、1つの実施形態において、第1の供給工程および第1の成膜工程を第1の工程とし、第2の供給工程および第2の成膜工程を第2の工程とし、第3の供給工程および第1のプラズマ処理工程を第3の工程とし第4の供給工程および第4の成膜工程を第4の工程とし、第5の供給工程および第2のプラズマ処理工程を第5の工程とした場合、第1の工程と、第4の工程と、第5の工程とは、第2の工程および第3の工程が行われる前に、第4の工程、第5の工程、および第1の工程の順に複数回繰り返されてもよい。
【0026】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の供給工程では、第1の混合ガスにおける、ハロゲン元素含有ガスまたは窒素よりも電気的負性の強い官能基を有するガスの割合を、0から所定割合まで増加させ、その後に所定割合から0まで減少させてもよい。
【0027】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の供給工程では、ハロゲン元素含有ガスとしてフッ素含有ガスが用いられ、所定割合は、第1の封止膜中のフッ素の濃度の最大値が4〜6atom%の範囲内の値となるように、第1の混合ガスにおける、ハロゲン元素含有ガスまたは窒素よりも電気的負性の強い官能基を有するガスの割合が調整されてもよい。
【0028】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、窒素よりも電気的負性が強い官能基は、カルボニル基またはカルボキシレート基であってもよい。
【0029】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、カルボニル基は、−C(=O)−で表される官能基であってもよく、カルボキシレート基は、(R)−COOHで表される官能基であってもよい。
【0030】
また、開示する成膜方法の1つの実施形態において、第1の成膜工程における基板の温度は、10〜70℃の範囲内の温度であってもよい。
【0031】
また、開示する成膜装置は、1つの実施形態において、処理容器と、処理容器内に第1の混合ガスを供給するガス供給部と、処理容器内において第1の混合ガスのプラズマを生成するプラズマ生成部と、上記した成膜方法を実行する制御部とを備える。
【0032】
以下に、開示する成膜方法および成膜装置の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態により開示される発明が限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0033】
(第1の実施形態)
[成膜装置10の構成]
図1は、第1の実施形態に係る成膜装置10の一例を示す縦断面図である。成膜装置10は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を用いたプラズマ処理装置として構成される。成膜装置10は、例えば、内壁面が陽極酸化処理されたアルミニウムからなる角筒形状の気密な処理容器1を有する。この処理容器1は分解可能に組み立てられており、接地線1aにより接地されている。処理容器1は、誘電体壁2により上下にアンテナ室3および処理室4に区画されている。誘電体壁2は処理室4の天井壁を構成している。誘電体壁2は、例えばAl2O3等のセラミックスまたは石英等で構成されている。
【0034】
誘電体壁2の下側部分には、処理ガス供給用のシャワー筐体11が嵌め込まれている。シャワー筐体11は例えば十字状に設けられており、誘電体壁2を下から支持する。なお、上記誘電体壁2を支持するシャワー筐体11は、複数本のサスペンダ(図示せず)により処理容器1の天井に吊された状態となっている。
【0035】
シャワー筐体11は、導電性材料、望ましくは金属、例えば汚染物が発生しないようにその内面が陽極酸化処理されたアルミニウム等で構成されている。シャワー筐体11には、水平に伸びるガス流路12が形成されている。ガス流路12には、下方に向かって延びる複数のガス吐出孔12aが連通している。一方、誘電体壁2の上面中央には、ガス流路12に連通するようにガス供給管20aが設けられている。ガス供給管20aは、処理容器1の天井から処理容器1の外側へ貫通し、ガス供給系20に接続されている。
【0036】
ガス供給系20は、ガス供給源200、流量制御器201、弁202、ガス供給源203、流量制御器204、弁205、ガス供給源206、流量制御器207、および弁208を有する。
【0037】
ガス供給源200は、例えば窒素等を含有する第1のガスの供給源であり、マスフローコントローラ等の流量制御器201および弁202を介して、ガス供給管20aに接続されている。ガス供給源203は、例えばシリコン等を含有する第2のガスの供給源であり、マスフローコントローラ等の流量制御器204および弁205を介して、ガス供給管20aに接続されている。ガス供給源206は、例えばフッ素等を含有する第3のガスの供給源であり、マスフローコントローラ等の流量制御器207および弁208を介して、ガス供給管20aに接続されている。
【0038】
ガス供給系20から供給された処理ガスは、ガス供給管20aを介してシャワー筐体11内に供給され、その下面のガス吐出孔12aから処理室4内へ吐出される。
【0039】
処理容器1におけるアンテナ室3の側壁3aと処理室4の側壁4aとの間には内側に突出する支持棚5が設けられている。誘電体壁2は、支持棚5の上に載置されている。
【0040】
アンテナ室3内には、誘電体壁2の上に誘電体壁2に面するように高周波(RF)アンテナ13が配設されている。高周波アンテナ13は、絶縁部材で形成されたスペーサ13aにより誘電体壁2から所定距離(例えば50mm以下の距離)で離間している。アンテナ室3の中央部付近には、鉛直に延びる4つの給電部材16が設けられており、給電部材16には整合器14を介して高周波電源15が接続されている。給電部材16は、前述のガス供給管20aの周囲に設けられている。
【0041】
高周波電源15は、所定の周波数(例えば13.56MHz)の高周波電力を高周波アンテナ13に供給する。そして、高周波電力が供給された高周波アンテナ13により、処理室4内に誘導電界が形成される。そして、処理室4内に形成された誘導電界により、シャワー筐体11から吐出された処理ガスのプラズマが生成される。この際の高周波電源15の出力は、プラズマを発生させるのに十分な値になるように適宜設定される。高周波アンテナ13およびシャワー筐体11は、プラズマ生成部の一例である。
【0042】
処理室4内の下方には、誘電体壁2を挟んで高周波アンテナ13と対向するように、ガラス基板Gが載置されるサセプタ22が設けられている。サセプタ22は、導電性材料、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウム等で構成されている。サセプタ22に載置されたガラス基板Gは、静電チャック(図示せず)によりサセプタ22に吸着保持される。
【0043】
サセプタ22は、導体枠24内に収納され、さらに、中空の支柱25に支持される。支柱25は、気密状態を維持しつつ、処理容器1の底部を貫通している。また、支柱25は、処理容器1外に配設された昇降機構(図示せず)に支持され、ガラス基板Gの搬入および搬出時に昇降機構によりサセプタ22が上下方向に駆動される。
【0044】
なお、サセプタ22を収納する導体枠24と処理容器1の底部との間には、支柱25を気密に包囲するベローズ26が配設されている。これにより、サセプタ22の上下動によっても処理室4内の気密性が保たれる。また、処理室4の側壁4aには、ガラス基板Gを搬入および搬出するための開口部27aおよびそれを開閉するゲートバルブ27が設けられている。
【0045】
サセプタ22には、中空の支柱25内に設けられた給電棒25aにより、整合器28を介して高周波電源29が接続されている。高周波電源29は、所定の周波数(例えば6MHz)のバイアス用の高周波電力をサセプタ22に印加する。バイアス用の高周波電力により、処理室4内に生成されたプラズマ中のイオンが効果的にガラス基板Gに引き込まれる。
【0046】
また、サセプタ22内には、ガラス基板Gの温度を制御するためのセラミックヒータ等の加熱手段や冷媒流路等からなる温度制御機構と、温度センサとが設けられている(いずれも図示せず)。これらの機構や部材に接続される配管や配線は、いずれも中空の支柱25を通して処理容器1の外部へ導出される。処理室4の底部には、排気管31を介して真空ポンプ等を含む排気装置30が接続される。排気装置30は、処理室4内を排気し、処理室4内が所定の真空雰囲気となるように制御する。
【0047】
成膜装置10には、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を含む制御部50が接続されている。成膜装置10内の各構成部、例えば電源系やガス供給系、駆動系、更には、高周波電源15および高周波電源29等は、制御部50によって制御される。制御部50には、オペレータが成膜装置10を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置10の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を含むユーザーインターフェース51が接続されている。
【0048】
更に、制御部50には、各種処理を制御部50に実行させるための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置10の各構成部に処理を実行させるための処理レシピ等が格納された記憶部52が接続されている。制御プログラムや処理レシピ等は記憶部52の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクや半導体メモリであってもよく、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、制御プログラムや処理レシピ等は、他の装置から、例えば通信回線を介して伝送されて記憶部52内に適宜格納させるようにしてもよい。
【0049】
制御部50は、ユーザーインターフェース51を介したユーザからの指示に応じて、任意の制御プログラムや処理レシピ等を記憶部52から読み出して実行することで、成膜装置10において所望の処理を実現する。
【0050】
[高周波アンテナ13の構成]
図2は、高周波アンテナ13の構成の一例を示す平面図である。
図2に示すように、高周波アンテナ13は、例えば、外形が略正方形状の8重アンテナである。高周波アンテナ13は、高周波アンテナ13の中心から、高周波アンテナ13の周囲へ渦巻き状に延びる8本のアンテナ線130〜137を有する。8本のアンテナ線130〜137は、2本ずつが1組となって、それぞれの組が、4つの給電部41〜44のいずれかに接続されている。4つの給電部41〜44のそれぞれは、4本の給電部材16のいずれかに接続されている。
【0051】
8本のアンテナ線130〜137は、コンデンサ18を介してそれぞれ接地されている。8本のアンテナ線130〜137は、ほぼ同じ長さを有しており、それぞれの端部に接続されているコンデンサ18の容量もほぼ同一となっている。これにより、8本のアンテナ線130〜137のそれぞれに流れる電流は、ほぼ同じ値となる。
【0052】
次に、以上のように構成される成膜装置10を用いて基板に対して所定の膜を形成する際の概略動作について説明する。
【0053】
まず、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して搬送機構(図示せず)により基板が処理室4内に搬入され、サセプタ22の載置面上に載置される。そして、制御部50は、静電チャック(図示せず)を制御して基板をサセプタ22上に吸着保持させる。
【0054】
次に、制御部50は、ガス供給系20を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aから処理室4内に処理ガスを吐出させると共に、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内を真空排気させることにより、処理室4内を所定の圧力雰囲気に制御する。
【0055】
次に、制御部50は、高周波電源29を制御して、例えば6MHzの高周波をサセプタ22に印加する。また、制御部50は、高周波電源15を制御して、例えば13.56MHzの高周波を高周波アンテナ13に印加する。これにより、処理室4内に均一な誘導電界が形成される。
【0056】
このようにして形成された誘導電界により、高密度の誘導結合プラズマが生成され、生成されたプラズマによって処理室4内に供給された処理ガスが解離する。そして、生成された成膜種が基板上に堆積し、所定の材質の膜が基板上に形成される。
【0057】
[発光モジュール100の製造手順]
図3は、発光モジュール100の製造手順の一例を示すフローチャートである。
図4は、第1の実施形態に係る発光モジュール100の構造の一例を示す断面図である。
【0058】
まず、ガラス基板G上に、SiN(窒化シリコン)等により反射防止膜101を形成する反射防止膜形成工程が実行される(S10)。そして、ステップS10において形成された反射防止膜101上に、ITO(Indium Tin Oxide)やZnO(Zinc Oxide)等により透明電極102を形成する透明電極形成工程が実行される(S11)。そして、ステップS11において形成された透明電極102上に、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の発光物質を含む有機発光層103を形成する有機発光層形成工程が実行される(S12)。
【0059】
次に、ステップS12において形成された有機発光層103上に、例えばアルミニウム等により金属電極104を形成する金属電極形成工程が実行される(S13)。ステップS10〜S13の工程により、反射防止膜101、透明電極102、有機発光層103、および金属電極104を有する有機EL素子106がガラス基板G上に形成される。そして、有機EL素子106を覆うように封止膜105を形成する封止膜形成工程が実行される(S14)。以上の工程により、例えば
図4に示すような構造の発光モジュール100が形成される。
【0060】
[封止膜形成工程の詳細]
図5は、第1の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る封止膜形成工程は、例えば
図1に示した成膜装置10を用いて行われる。
【0061】
まず、成膜装置10のゲートバルブ27が開けられ、他の装置によって有機EL素子106が形成されたガラス基板Gが、開口部27aを介して処理室4内に搬入される(S100)。そして、制御部50は、静電チャックを制御して、ガラス基板Gをサセプタ22上に吸着保持させる。
【0062】
次に、制御部50は、ガス供給系20内の流量制御器201および弁202を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第1のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第1のガスを供給する(S101)。本実施形態において、第1のガスは、例えばN2ガスである。制御部50は、第1のガスの流量が例えば27sccmとなるように、流量制御器201を制御する。
【0063】
次に、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内に導入されたガスを排気させることにより、処理室4内を所定の圧力雰囲気に調整する(S102)。制御部50は、処理室4内を真空排気することにより、例えば0.5Paの圧力に調整するように排気装置30を制御する。
【0064】
次に、制御部50は、高周波電源29を制御して、例えば6MHzの高周波電力をサセプタ22に印加する。また、制御部50は、高周波電源15を制御して、例えば13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加する。これにより、高周波アンテナ13によって処理室4内に誘導電界が形成される。高周波アンテナ13に印加される高周波電力は、例えば2000Wである。処理室4内に形成された誘導電界により、処理室4内において第1のガスのプラズマが生成される(S103)。
【0065】
次に、制御部50は、ガス供給系20内の流量制御器204、弁205、流量制御器207、および弁208をそれぞれ制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第2および第3のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第2および第3のガスを供給する(S104)。本実施形態において、第2のガスは、例えばSiH4ガスであり、第3のガスは、例えばSiF4ガスである。
【0066】
制御部50は、第2のガス(本実施形態ではSiH4ガス)の流量に対する第1のガス(本実施形態ではN2ガス)の流量の比が、例えば0.8〜1.1の範囲内の値となるように、流量制御器204を制御する。本実施例において、第1のガスの流量は例えば27sccmであるため、制御部50は、第2のガスの流量が例えば26〜31sccmの範囲内の流量となるように流量制御器201および流量制御器204を制御する。
【0067】
また、制御部50は、第2のガス(本実施形態ではSiH4ガス)の流量に対する第3のガス(本実施形態ではSiF4ガス)の流量の比が、例えば0.1〜0.4の範囲内の値となるように、流量制御器204および流量制御器207を制御する。制御部50は、第2のガスの流量が例えば26〜31sccmの範囲内の流量となるように流量制御器204を制御し、第3のガスの流量が例えば5〜10sccmの範囲内の流量となるように流量制御器207を制御する。
【0068】
これにより、処理室4内において第1のガス、第2のガス、および第3のガスを含む混合ガスのプラズマが生成される。そして、生成されたプラズマによって第1のガス、第2のガス、および第3のガスが解離し、生成された成膜種が、ガラス基板G上に形成された有機EL素子106を覆うように堆積し始める。
【0069】
次に、制御部50は、所定時間待機することにより、成膜種の堆積により封止膜105が所定の膜厚になるまで待機する(S105)。そして、所定時間が経過した後、制御部50は、高周波電源15および高周波電源29を制御して高周波電力の印加を停止し、弁202、弁205、および弁208を制御して、第1のガス、第2のガス、および第3のガスの供給を停止する(S106)。そして、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内を真空排気する。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出される。
【0070】
図5に示した封止膜形成工程において、本実施形態のプロセス条件をまとめると、以下のようになる。
N2/SiH4/SiF4=27/31〜26/5〜10sccm
高周波電力(13.56MHz):2000W(1.5〜2W/cm
2)
処理室4内圧力:0.5Pa
Gap:150mm
ガラス基板Gの温度:70℃
封止膜中のフッ素濃度:10atm%以下
【0071】
なお、Gapとは、誘電体壁2とガラス基板Gとの間の距離を示す。なお、本実施形態においてGapは150mmであるが、80〜200mmの範囲であればよい。また、本実施形態において処理室4内の圧力は0.5Paであるが、0.5〜2Paの範囲であればよい。また、本実施形態においてガラス基板Gの温度は70℃であるが、10〜70℃の範囲であればよい。
【0072】
通常、SiN膜は非晶質であるが、完全に均一では無く、成膜の過程で粒子状に成長し、粒子が集合した構造を持っている。粒子の内部は非常に緻密であるが、粒子と粒子の間は微細な隙間が形成されている。そのため、その隙間が、H2O(水分)が侵入・透過する経路となる場合がある。従って、このSiN粒子間の結びつきを強化することで水分の侵入・透過をより強力に防止することができる。ここで、シリコンを含有する材料ガスを用いてSiN膜を形成する場合、SiN膜中に水素が混入する。この水素は、SiN膜中で、SiN粒子の間に水素結合を形成する。これにより、SiN粒子のみで構成されたSiN膜に比べて、SiN粒子の結び付きが強化され、SiN粒子のみで構成されたSiN膜よりも膜密度の高いSiN膜が形成される。
【0073】
また、SiN膜中では、水素結合により水素原子は強い正電荷を帯びる。水分子は、極性分子であり、水分子の酸素原子は、負電荷を帯びている。そのため、SiN膜中に進入した水分子の酸素原子は、SiN膜中の水素結合に引き寄せられる。これにより、水素が混入したSiN膜では、水分子の通り抜けを防止する効果がある。
【0074】
また、水素が混入したSiN膜には、NH・・・NH間の水素結合が存在する。封止膜の形成工程においてフッ素を含有するSiF4ガスを添加することにより、SiN膜中にフッ素が混入し、SiN膜中にNH4
+・・・F
-間の水素結合が発生する。
【0075】
図6は、水素結合の強弱関係の一例を示す図である。
図6は、以下の非特許文献1に開示されている。
非特許文献1:G. R. Desiraju, Acc. Chem. Res. 35, 565 (2002).
【0076】
図6は、様々な水素結合の種類を結合の強さに応じて並べた図である。
図6の左側にある水素結合の種類ほど結合力が強く、更に同じ横軸上ならば上側にあるほど水素結合の結合力が強い。
図6に示されているように、NH4
+・・・F
-間の水素結合は、NH・・・NH間の水素結合よりも強い(
図6の破線矢印)。そのため、SiN膜中にフッ素を含有するSiF4ガスを添加すると、SiN膜中にNH4
+・・・F
-間の水素結合が形成され、SiN粒子の間の水素結合が強化される。これにより、SiN膜中のSiN粒子間の結び付きが強くなり、SiN膜の膜密度がさらに高くなる。SiN膜の膜密度が高くなると、水分子が通り抜ける隙間が少なくなる。これにより、SiF4ガスを添加して形成されたSiN膜では、水分子の通り抜けがさらに抑止され、封止膜としての防湿性が向上する。
【0077】
ただし、封止膜105内のフッ素の濃度が高すぎると、大気中の水分と反応して変色する場合がある。そのため、本実施形態では、封止膜105内のフッ素の濃度が10atom%以下となるように、SiH4ガスの流量に対すSiF4ガスの流量の比を、例えば0.1〜0.4の範囲内の値となるように制御している。なお、第3のガスとして、例えば塩素含有ガスを用いる場合、封止膜105内の塩素の濃度が10atom%以下となるように、SiH4ガスの流量に対す塩素含有ガスの流量の比を制御することが好ましい。
【0078】
以上、第1の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10によれば、防湿性が高い封止膜を提供することができる。これにより、薄く防湿性が高い発光モジュール100を製造することができる。
【0079】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜は、多層構造である点が、第1の実施形態における封止膜とは異なる。なお、本実施形態で用いられる成膜装置10の構成は、
図1および
図2を用いて説明した第1の実施形態における成膜装置10の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略についても、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様であるため、以下に説明する点を除き、詳細な説明を省略する。
【0080】
[発光モジュール100の構造]
図7は、第2の実施形態に係る発光モジュール100の構造の一例を示す断面図である。発光モジュール100は、例えば
図7に示すように、ガラス基板G上に積層された有機EL素子106と、有機EL素子106を覆うように有機EL素子106上に積層された封止膜105とを有する。本実施形態における封止膜105は、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を有する。
【0081】
第1の膜107は、有機EL素子106を覆うように、d1の厚さで有機EL素子106上に積層される。第2の膜108は、第1の膜107を覆うように、d2の厚さで第1の膜107上に積層される。第3の膜109は、第2の膜108を覆うように、d3の厚さで第2の膜108上に積層される。本実施形態において、第1の膜107の厚さd1は、第2の膜108の厚さd2の0.5〜1.5倍の範囲内の厚さである。また、本実施形態において、第3の膜109の厚さd3は、第2の膜108の厚さd2の2倍以上(例えば2〜4倍の範囲内)の厚さである。
【0082】
第2の膜108は、フッ素が添加されたSiN膜である。本実施形態において、第2の膜108には、4〜6atom%の濃度(例えば、5atom%)のフッ素が添加される。なお、第2の膜108に添加される元素は、フッ素以外に、塩素等のハロゲン元素であってもよく、窒素よりも電気的負性が強い官能基を有する分子が添加されてもよい。また、第1の膜107および第3の膜109は、フッ素等のハロゲン元素または窒素よりも電気的負性が強い官能基を有する分子が添加されていないSiN膜である。
【0083】
図8は、フッ素の濃度と膜密度の関係の一例を示す図である。SiN膜中に含まれるフッ素の濃度に応じて、SiN膜の膜密度が変化する。そして、例えば
図8の実験結果に示すように、SiN膜中に含まれるフッ素の濃度が4〜6atom%の範囲内の濃度である場合に、SiN膜の膜密度が極大値をとる。SiN膜である第2の膜108の膜密度が高くなると、水分子が通り抜ける隙間が少なくなる。これにより、第2の膜108を含む封止膜105の防湿性が向上する。
【0084】
ここで、有機EL素子106上に、第1の膜107を介在させずに、フッ素が添加された第2の膜108を積層させるとすれば、第2の膜108に含まれるフッ素により有機EL素子106がダメージを受ける場合がある。そのため、フッ素が添加されていない第1の膜107で有機EL素子106を覆ってから、その上にフッ素が添加された第2の膜108を積層させる。これにより、第2の膜108に含まれるフッ素による有機EL素子106へのダメージを防止することができる。
【0085】
また、第2の膜108は、大気に晒されると、第2の膜108中のフッ素が大気中の高濃度の酸素などと反応し膜が劣化する。これにより、第2の膜108の膜密度が低下し、防湿性が低下する。これを防止するために、本実施形態では、第2の膜108上に第3の膜109が積層される。これにより、第2の膜108は、第3の膜109により大気から保護される。これにより、第3の膜109は、第2の膜108の酸化を抑制し、第2の膜108の防湿性の低下を抑制することができる。
【0086】
[封止膜形成工程の詳細]
図9は、第2の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。
図10は、第2の実施形態において混合ガスに含まれる各処理ガスの流量の変化の一例を示す図である。本実施形態に係る封止膜形成工程は、例えば
図1に示した成膜装置10を用いて行われる。
【0087】
まず、成膜装置10のゲートバルブ27が開けられ、他の装置によって有機EL素子106が形成されたガラス基板Gが、開口部27aを介して処理室4内に搬入される(S200)。そして、制御部50は、静電チャックを制御して、ガラス基板Gをサセプタ22上に吸着保持させる。
【0088】
次に、制御部50は、例えば
図10に示す時刻t
1において、流量制御器201および弁202を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第1のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第1のガスの供給を開始する(S201)。本実施形態において、第1のガスは、例えばN2ガスである。制御部50は、第1のガスの流量が例えば27sccmとなるように流量制御器201を制御する。
【0089】
次に、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内に導入されたガスを排気させることにより、処理室4内を所定の圧力雰囲気に調整する(S202)。制御部50は、処理室4内の圧力が例えば0.5Paとなるように排気装置30を制御する。
【0090】
次に、制御部50は、高周波電源29を制御して、例えば6MHzの高周波電力をサセプタ22に印加する。また、制御部50は、高周波電源15を制御して、例えば13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加する。これにより、高周波アンテナ13によって処理室4内に誘導電界が形成される。高周波アンテナ13に印加される高周波電力は、例えば2000Wである。処理室4内に形成された誘導電界により、処理室4内において第1のガスのプラズマが生成される(S203)。
【0091】
次に、制御部50は、例えば
図10に示す時刻t
2において、流量制御器204および弁205を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第2のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第2のガスの供給を開始する(S204)。本実施形態において、第2のガスは、例えばSiH4ガスである。制御部50は、第1のガスおよび第2のガスの流量の合計が、例えば第1の実施形態における第1のガス、第2のガス、および第3のガスの流量の合計とほぼ等しくなるように、第1のガスおよび第2のガスの流量をそれぞれ制御する。本実施形態では、ステップS201で例えば27sccmとなるように第1のガスの流量が調整されたため、制御部50は、第2のガスの流量を例えば36sccmとなるように流量制御器204を制御する。これにより、処理室4内に生成されたプラズマによって第1のガスおよび第2のガスが解離し、生成された成膜種が、ガラス基板G上に形成された有機EL素子106を覆うように堆積し始める。制御部50は、成膜種の堆積により厚さd1の第1の膜107が有機EL素子106上に積層されるまで所定時間待機する(S205)。
【0092】
そして、所定時間が経過した時刻t
3(
図10参照)において、制御部50は、流量制御器207および弁208を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第3のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第3のガスの供給を開始する(S206)。本実施形態において、第3のガスは、例えばSiF4ガスである。制御部50は、第3のガスの流量が例えば5sccmとなるように流量制御器207を制御する。なお、制御部50は、第1のガス、第2のガス、および第3のガスの合計の流量が一定となるように、例えば、第2のガスの流量を、第3のガスの流量分減少させる。これにより、第2のガスの流量は、例えば
図10に示すように、36sccmから31sccmに減少する。
【0093】
これにより、処理室4内に生成されたプラズマによって第1のガス、第2のガス、および第3のガスが解離し、生成された成膜種が、ステップS205において形成された第1の膜107を覆うように堆積し始める。制御部50は、成膜種の堆積により厚さd2の第2の膜108が第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S207)。
【0094】
そして、所定時間が経過した時刻t
4(
図10参照)において、制御部50は、弁208を制御して、処理室4内への第3のガスの供給を停止する(S208)。制御部50は、第3のガスの供給停止に伴い、第2のガスの流量を、第3のガスの供給開始前の流量に戻す。これにより、第2のガスの流量は、例えば
図10に示すように、31sccmから36sccmに増加する。
【0095】
そして、処理室4内に生成されたプラズマによって第1のガスおよび第2のガスが解離し、生成された成膜種が第2の膜108上に堆積し始める。制御部50は、成膜種の堆積により厚さd3の第3の膜109が第2の膜108上に積層されるまで所定時間待機する(S209)。
【0096】
そして、所定時間が経過した時刻t
5(
図10参照)において、制御部50は、高周波電源15および高周波電源29を制御して高周波電力の印加を停止し、弁202および弁205を制御して、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S210)。そして、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内を真空排気する。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出される。
【0097】
以上、第2の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10によれば、フッ素が添加されたSiN膜を封止膜に用いる場合に、有機EL素子106とフッ素が添加されたSiN膜との間に、フッ素が添加されていないSiN膜を介在させる。これにより、フッ素による有機EL素子106へのダメージを防止することができる。また、本実施形態の成膜装置10によれば、フッ素が添加されたSiN膜を、フッ素が添加されていないSiN膜で覆う。これにより、フッ素が添加されたSiN膜は、大気中の酸素による酸化から保護され、防湿性の低下が抑制される。
【0098】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜は、フッ素が添加された第2の膜108において、厚さ方向にフッ素の濃度の勾配を有する点が、第2の実施形態における封止膜とは異なる。なお、本実施形態で用いられる成膜装置10の構成は、
図1および
図2を用いて説明した第1の実施形態における成膜装置10の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略についても、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様であるため、以下に説明する点を除き、詳細な説明を省略する。
【0099】
[発光モジュール100の構造]
図11は、第3の実施形態に係る封止膜105の構造の一例を示す断面図である。本実施形態における封止膜105は、例えば
図11に示すように、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を有する。本実施形態における第2の膜108は、例えば
図11に示すように、第1層108a、第2層108b、および第3層108cを有する。
【0100】
第1層108aは、d4の厚さで形成され、第1の膜107から第3の膜109へ向かう第1層108aの厚さ方向において、フッ素の濃度が増加する濃度勾配を有する。第1層108aにおけるフッ素の濃度は、例えば0から所定濃度まで単調に増加する。本実施形態において、所定濃度は、フッ素が4〜6atom%(例えば、5atom%)となる濃度である。第2層108bは、d5の厚さで形成され、所定濃度のフッ素を有する層である。第3層108cは、d6の厚さで形成され、第1の膜107から第3の膜109へ向かう第3層108cの厚さ方向において、フッ素の濃度が減少する濃度勾配を有する。第3層108cにおけるフッ素の濃度は、例えば所定濃度から0まで単調に減少する。
【0101】
[第2の膜の形成工程の詳細]
図12は、第3の実施形態に係る第2の膜108の形成工程の一例を示すフローチャートである。
図12は、
図9に示した封止膜形成工程のうち、第2の膜108が形成される工程(
図9に示したステップS206〜S208)に対応する処理について示している。
図13は、第3の実施形態において混合ガスに含まれる各処理ガスの流量の変化の一例を示す図である。
【0102】
例えば、処理室4内に供給された第1のガスおよび第2のガスのプラズマにより、第1のガスおよび第2のガスの成膜種が有機EL素子106上に堆積し、時刻t
3(
図13参照)において、有機EL素子106上に所定の厚さの第1の膜107が積層される。そして、制御部50は、例えば
図13に示すように、時刻t
3において、第3のガスの供給を開始すると共に、流量制御器204および流量制御器207を制御することにより、第2のガスと第3のガスの合計の流量を維持しながら第3のガスの流量を0から増加させる(S220)。第2のガスの流量は、例えば
図13に示すように、第3のガスの流量の増加に伴い減少する。これにより、厚さが増すに従ってフッ素の濃度が増加する第1層108aが第1の膜107上に積層される。
【0103】
制御部50は、厚さd4の第1層108aが第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S221)。所定時間が経過すると、第3のガスの流量は、所定の流量まで増加する。ここで、所定の流量とは、第1層108bにおけるフッ素の濃度が、4〜6atom%(例えば、5atom%)となる流量である。また、
図13では、第2のガスおよび第3のガスの流量が直線状に変化しているが、第2のガスおよび第3のガスの流量の変化は、曲線状に変化してもよく、ステップ状に変化してもよい。
【0104】
そして、所定時間が経過した時刻t
31(
図13参照)において、制御部50は、流量制御器204および流量制御器207を制御することにより、第3のガスの流量を所定の流量で維持する(S222)。これにより、厚さ方向においてフッ素の濃度が所定の濃度に維持された第2層108bが第1層108a上に積層される。
【0105】
制御部50は、厚さd5の第2層108bが第1層108a上に積層されるまで所定時間待機する(S223)。そして、所定時間が経過した時刻t
32(
図13参照)において、制御部50は、流量制御器204および流量制御器207を制御することにより、第2のガスと第3のガスの合計の流量を維持しながら第3のガスの流量を所定の流量から減少させる(S224)。第2のガスの流量は、例えば
図13に示すように、第3のガスの流量の減少に伴い増加する。これにより、厚さが増すに従ってフッ素の濃度が減少する第3層108cが第2層108b上に積層される。
【0106】
制御部50は、厚さd6の第3層108cが第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S225)。所定時間が経過すると、第3のガスの流量は0sccmとなる。そして、制御部50は、弁208を制御して、処理室4内への第3のガスの供給を停止し、
図9のステップS209以降の処理を実行する。これにより、
図11に示した第2の膜108が形成される。
【0107】
以上、第3の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10によれば、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づく程、フッ素の濃度が高くなる第2の膜108が形成される。ここで、第2の膜108に接する第1の膜107および第3の膜109にはフッ素が添加されていないため、第1の膜107および第3の膜109は、第2の膜108よりも膜密度が低い。第2の膜108にフッ素の濃度勾配が設けられていない場合、膜密度の異なる第1の膜107と第2の膜108との境界、および、第2の膜108と第3の膜109との境界には、膜密度の差に応じたストレスがかかる場合がある。
【0108】
これに対し、本実施形態の第2の膜108では、第1の膜107と接する面および第3の膜109と接する面におけるフッ素の濃度は0に近い値となる。そのため、第1の膜107と第2の膜108との境界、および、第2の膜108と第3の膜109との境界にかかるストレスを低減することができ、第1の膜107と第2の膜108の密着性、および、第2の膜108と第3の膜109の密着性を高めることができる。
【0109】
また、本実施形態の第2の膜108では、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づく程、フッ素の濃度が高くなる。そのため、第2の膜108内に膜密度の高い領域が形成され、高い防湿効果を得ることができる。
【0110】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜は、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互に積層される点が、第2の実施形態における封止膜とは異なる。なお、本実施形態で用いられる成膜装置10の構成は、
図1および
図2を用いて説明した第1の実施形態における成膜装置10の構成と同様であり、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略は、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様である。そのため、以下に説明する点を除き、成膜装置10の構成および発光モジュール100の製造手順の概略に関する説明を省略する。
【0111】
[封止膜105の構造]
図14は、第4の実施形態に係る封止膜105の構造の一例を示す断面図である。本実施形態における封止膜105は、例えば
図14に示すように、第1の膜107および第2の膜108が交互に複数積層され、最上層に第3の膜109が積層された構造である。
図14に例示した封止膜105では、第1の膜107および第2の膜108が交互にn
0回ずつ積層されている。
【0112】
それぞれの第1の膜107−1〜107−n
0は、略同一の厚さd7で形成される。また、それぞれの第2の膜108−1〜108−n
0は、略同一の厚さd8で形成される。また、それぞれの第1の膜107−1〜107−n
0の厚さd7は、それぞれの第2の膜108−1〜108−n
0の厚さd8の0.5〜1.5倍の厚さである。また、第3の膜109は、それぞれの第2の膜108−1〜108−n
0の厚さd8の2倍以上(例えば2〜4倍の範囲内)の厚さd9で形成される。
【0113】
なお、それぞれの第1の膜107−1〜107−n
0の厚さd7は、第2の実施形態における第1の膜107の厚さd1より薄くてもよい。また、それぞれの第2の膜108−1〜108−n
0の厚さd8は、第2の実施形態における第2の膜108の厚さd2より薄くてもよい。また、第3の膜109の厚さd9は、第2の実施形態における第3の膜109の厚さd3より薄くてもよい。
【0114】
[封止膜形成工程の詳細]
図15は、第4の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る封止膜形成工程は、例えば
図1に示した成膜装置10を用いて行われる。
【0115】
まず、制御部50は、第1の膜107および第2の膜108を交互に積層させる回数を示す定数n
0を受け付けると共に、第1の膜107および第2の膜108を交互に積層させる回数をカウントするための変数nを0に初期化する(S300)。そして、制御部50は、ステップS301〜S305に示す処理を実行する。ステップS301〜S305の処理は、
図9を用いて説明したステップS200〜S204の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0116】
ステップS305において、処理室4内に生成されたプラズマによって第1のガスおよび第2のガスが解離し、生成された成膜種が、ガラス基板G上に形成された有機EL素子106を覆うように堆積し始める。制御部50は、成膜種の堆積により厚さd7の第1の膜107が積層されるまで所定時間待機する(S306)。
【0117】
そして、所定時間が経過した場合、制御部50は、流量制御器207および弁208を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aを介して、第3のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第3のガスの供給を開始する(S307)。本実施形態において、制御部50は、例えばSiF4ガスである第3のガスの流量を、例えば5sccmとなるように制御し、例えばSiH4ガスである第2のガスの流量を、例えば31sccmとなるように制御する。
【0118】
これにより、処理室4内に生成されたプラズマによって第1のガス、第2のガス、および第3のガスが解離し、生成された成膜種が、ステップS305において形成された第1の膜107を覆うように堆積し始める。制御部50は、成膜種の堆積により厚さd8の第2の膜108が第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S308)。
【0119】
そして、所定時間が経過した後、制御部50は、弁208を制御して、処理室4内への第3のガスの供給を停止する(S309)。制御部50は、第3のガスの供給停止に伴い、第2のガスの流量を、第3のガスの供給開始前の流量である、例えば36sccmに戻す。
【0120】
そして、制御部50は、変数nが、ステップS300で受け付けた定数n
0に達したか否かを判定する(S310)。変数nが定数n
0に達していない場合(S310:No)、制御部50は、変数nを1増やし(S313)、再びステップS306に示した処理を実行する。
【0121】
一方、変数nが定数n
0に達した場合(S310:Yes)、制御部50は、処理室4内に生成された第1のガスおよび第2のガスのプラズマによって厚さd9の第3の膜109が第2の膜108上に積層されるまで所定時間待機する(S311)。
【0122】
そして、所定時間が経過した後、制御部50は、高周波電源15および高周波電源29を制御して高周波電力の印加を停止し、弁202および弁205を制御して、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S312)。そして、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内を真空排気する。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出される。
【0123】
以上、第4の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10によれば、フッ素が添加されたSiN膜を封止膜に用いる場合に、フッ素が添加されたSiN膜と、フッ素が添加されていないSiN膜とを交互に繰り返し積層させる。これにより、フッ素の添加量を抑えつつ、水分子のトラップ効果を高めることができる。
【0124】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜105は、第2の実施形態における封止膜105と同様に、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を有する。ただし、本実施形態における封止膜105では、第3の膜109の表面が第4のガスのプラズマにより処理される点が、第2の実施形態における封止膜105とは異なる。
【0125】
図16は、第5の実施形態に係る成膜装置10の一例を示す縦断面図である。なお、
図16に示した本実施形態における成膜装置10の構成は、以下に説明する点を除き、
図1および
図2を用いて説明した第1の実施形態における成膜装置10の構成と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0126】
本実施形態におけるガス供給系20は、ガス供給源200、流量制御器201、弁202、ガス供給源203、流量制御器204、弁205、ガス供給源206、流量制御器207、弁208、ガス供給源209、流量制御器210、および弁211を有する。ガス供給源209は、例えばH2ガスを含む第4のガスの供給源であり、マスフローコントローラ等の流量制御器210および弁211を介して、ガス供給管20aに接続されている。ガス供給系20は、ガス供給部の一例である。
【0127】
本実施形態における高周波アンテナ13の構成は、
図2を用いて説明した第1の実施形態における高周波アンテナ13の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略については、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0128】
[封止膜形成工程の詳細]
図17は、第5の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。
図18は、第5の実施形態において処理室4内に供給される各処理ガスの流量の変化の一例を示す図である。
図17に示す封止膜形成工程は、例えば
図16に示した成膜装置10の制御部50によって実行される。
図17に示す封止膜形成工程は、成膜方法の一例である。なお、
図17に示すフローチャートにおいて、
図9と同一の符号を付した処理は、
図9を用いて説明した処理と同様であるため、以下ではその概略のみを示し、詳細な説明を省略する。
【0129】
まず、
図9に示したステップS200からS210までの処理が実行される。即ち、成膜装置10のゲートバルブ27が開けられ、有機EL素子106が形成されたガラス基板Gが処理室4内に搬入される(S200)。そして、制御部50は、例えば
図18に示す時刻t
1において、処理室4内に第1のガス(例えばN2ガス)の供給を開始し(S201)、処理室4内を所定の圧力雰囲気(例えば0.5Pa)に調整する(S202)。そして、制御部50は、サセプタ22および高周波アンテナ13に高周波電力をそれぞれ印加することにより、処理室4内において第1のガスのプラズマを生成する(S203)。
【0130】
次に、制御部50は、例えば
図18に示す時刻t
2において、処理室4内に第2のガス(例えばSiH4ガス)の供給を開始し(S204)、成膜種の堆積により厚さd1の第1の膜107が有機EL素子106上に積層されるまで所定時間待機する(S205)。第1の膜107は、第3の封止膜の一例である。また、第1のガスおよび第2のガスの混合ガスは、第2の混合ガスの一例である。そして、所定時間が経過した時刻t
3(
図18参照)において、制御部50は、処理室4内に第3のガス(例えばSiF4ガス)の供給を開始し(S206)、成膜種の堆積により厚さd2の第2の膜108が第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S207)。第2の膜108は、第1の封止膜の一例である。また、第1のガス、第2のガス、および第3のガスの混合ガスは、第1の混合ガスの一例である。
【0131】
次に、所定時間が経過した時刻t
4(
図18参照)において、制御部50は、処理室4内への第3のガスの供給を停止し(S208)、成膜種の堆積により厚さd3の第3の膜109が第2の膜108上に積層されるまで所定時間待機する(S209)。第3の膜109は、第2の封止膜の一例である。そして、所定時間が経過した時刻t
5(
図18参照)において、制御部50は、高周波電力の印加を停止し、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S210)。これにより、例えば
図7に示したように、有機EL素子106は、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を含む封止膜105で覆われる。
【0132】
次に、制御部50は、排気装置30を制御して、排気管31を介して処理室4内を真空排気する(S400)。そして、処理室4内が真空排気された時刻t
6(
図18参照)において、制御部50は、流量制御器210および弁211を制御して、シャワー筐体11のガス吐出孔12aから第4のガスを処理室4内に吐出させることにより、処理室4内に第4のガスの供給を開始する(S401)。本実施形態において、第4のガスは、例えばH2ガスである。なお、第4のガスは、H2ガスと、N2ガス等の不活性ガスとが混合されたガスであってもよい。
【0133】
次に、制御部50は、排気装置30を制御して処理室4内を所定の圧力雰囲気に調整する(S402)。制御部50は、処理室4内の圧力が例えば1Paとなるように排気装置30を制御する。
【0134】
次に、制御部50は、高周波電源15を制御して、例えば13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加する。これにより、高周波アンテナ13によって処理室4内に誘導電界が形成される。高周波アンテナ13に印加される高周波電力は、例えば2000Wである。処理室4内に形成された誘導電界により、処理室4内において第4のガスのプラズマが生成される(S403)。そして、第4のガスのプラズマに含まれる活性種により、第3の膜109の表面が改質される。なお、本実施形態において、第4のガスには、例えばH2ガスが含まれる。そのため、以下では、第4のガスのプラズマを、水素プラズマと記載する。
【0135】
次に、所定時間が経過した時刻t
7(
図18参照)において、制御部50は、高周波電源15を制御して高周波電力の印加を停止し、弁211を制御して、第4のガスの供給を停止する(S404)。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出される。
【0136】
ステップS403において、第3の膜109の表面を、水素プラズマにより処理する条件をまとめると、以下の通りである。
第4のガス:H2=250sccm
高周波電力(13.56MHz):2000W
処理室4内の圧力:1Pa
ガラス基板Gの温度:70℃
【0137】
[評価]
図19は、HFによるエッチングレートと、WVTRとの関係の一例を示す図である。
図19において、縦軸は1.0%に希釈されたHF(フッ酸)によるSiN膜のエッチングレートを示し、横軸はSiN膜のWVTRを示す。
図19から明らかなように、HFによるエッチングレートと、WVTRとの間には、一定の相関関係が存在する。即ち、HFによるエッチングレートが低いほど、WVTRが低くなる。これは、SiN膜の緻密性が高いほど、HF分子および水分子がSiN膜を通過しにくくなり、HFによるエッチングレートが低くなると共に、水分子がSiN膜を通過する割合が低くなるためと考えられる。即ち、HFによるエッチングレートが低いSiN膜は、WVTRの値も低いと考えられる。カルシウム法を用いた場合、WVTRの測定には1か月以上かかるため、頻繁な測定が難しい。そのため、以下では、封止膜105の評価として、WVTRでの評価に代えて、HFによるエッチングレートでの評価を行う。
【0138】
図20は、HFによるSiN膜のエッチングレートの一例を示す図である。
図20において、縦軸はHFに浸した場合にエッチングされたSiN膜の膜厚を示し、横軸は時間を示す。
図20では、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜と、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜とにおけるHFによるエッチングレートの測定結果の一例が示されている。
【0139】
図20に示した「水素プラズマ処理あり(1)」は、SiN膜の成膜後に、発光モジュール100を処理室4から搬出して大気に暴露し、その後、再び処理室4内に搬入して水素プラズマによる処理が行われたSiN膜におけるエッチングレートを示す。また、
図20に示した「水素プラズマ処理あり(2)」は、発光モジュール100を大気に暴露することなく、SiN膜の成膜と水素プラズマによる処理とが真空中で連続して行われたSiN膜におけるエッチングレートを示す。
【0140】
図20から明らかなように、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜では、水素プラズマによる処理が行われたいずれのSiN膜よりも、HFによるエッチングレートが高い。従って、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜は、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜よりもWVTRが低いと考えられる。
【0141】
なお、
図20では、HFによるエッチングレートの違いを分かりやすくするために、緻密性が比較的低くなる処理条件で成膜されたSiN膜を用いて、水素プラズマによる処理を行わなかった場合と、水素プラズマによる処理を行った場合とで、HFによるエッチングレートを測定している。緻密性が比較的高くなる処理条件で成膜されたSiN膜を用いた場合では、HF溶液に300秒間浸した場合に、水素プラズマによる処理が行われなかったSiN膜では13.57nmの厚さのSiN膜がエッチングされ、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜では9.47nmの厚さのSiN膜がエッチングされた。このように、緻密性が比較的高いSiN膜を用いた場合でも、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜では、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜よりも、HFによるエッチングレートが高くなった。
【0142】
図21は、SiN膜に水分子が侵入する過程の一例を説明する模式図である。SiN膜には、例えば
図21の破線で示すように、多数のグレイン(グレイン60および61等)が含まれる。グレインの境界には、シリコン原子や窒素原子の未結合手が多く含まれる。
【0143】
水分子は、例えば
図21の破線矢印に示すように、グレインの境界の隙間からSiN膜内に侵入する。SiN膜内に侵入した水分子は、やがてSiN膜を通り抜けて、下層膜に到達する。本実施形態において、第3の膜109は、SiN膜であるため、第3の膜109においても、グレインの境界の隙間から水分子が第3の膜109内に侵入する。第3の膜109内に侵入した水分子は、やがて第3の膜109を通り抜けて第2の膜108に到達する。そして、第2の膜108に到達した水分子は、時間はかかるものの、第2の膜108および第1の膜107を通り抜けて有機EL素子106に到達する。そのため、第3の膜109の表面を、水分子が侵入しにくい構造にすることが、水分子が封止膜105を通り抜けて有機EL素子106に到達するのに要する時間を長くする上で有効であると考えられる。
【0144】
図22は、水素状態のプラズマ反応シミュレーションの結果の一例を示す図である。
図22の例では、水素プラズマによる処理の条件に基づいてプラズマ反応シミュレーションが行われた。例えば
図22に示すように、水素プラズマ中では、H2分子以外では、H
*ラジカルが支配的である。
【0145】
従って、水素プラズマによる処理では、例えば
図23(a)に示すように、シリコン原子や窒素原子の未結合手が多く含まれるSiN膜の表面に、プラズマ中に多く含まれるH
*ラジカルが降り注ぐ。これにより、例えば
図23(b)に示すように、シリコン原子や窒素原子の未結合手とH
*ラジカルとが結合し、シリコン原子や窒素原子の未結合手が水素原子により終端される。これにより、グレイン間の隙間が小さくなり、例えば
図23(b)の破線矢印に示すように、水分子がSiN膜内に侵入しにくくなる。
【0146】
さらに、SiN膜内の未結合手が水素原子により終端されることで、SiN膜内の水素原子の数が多くなる。そのため、SiN膜内の窒素原子と水素原子との間の水素結合の数も多くなる。これにより、各グレインの隙間がさらに小さくなる。これにより、水分子はSiN膜である第3の膜109内にさらに侵入しにくくなる。従って、水分子が封止膜105を通り抜けて有機EL素子106に到達するのに要する時間を長くすることができる。
【0147】
なお、
図20に示すように、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜であれば、成膜後に一旦大気に暴露されたとしても、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜よりもHFによるエッチングレートは低い。ただし、水素プラズマによる処理の前に、SiN膜が大気に暴露されると、SiN膜の表面が酸化され、表面にSiONの層が形成される。そのため、大気に暴露された後に水素プラズマによる処理が行われた場合、H
*ラジカルがSiONの層に妨げられ、SiONの層の下のSiN膜に到達するH
*ラジカルの量が減少する。そのため、H
*ラジカルによって未結合手が終端された層の厚さは、SiONの層が形成されていないSiN膜よりも、SiONの層が形成されたSiN膜の方が薄くなる。H
*ラジカルによって未結合手が終端された層の厚さが厚いほど、緻密なSiN膜が厚くなるため水分子が膜内に侵入しにくく、WVTRが低くなると考えられる。
【0148】
また、SiONの層では、酸素原子同士が反発し合うため、グレイン間の隙間が大きくなる。そのため、SiONの層では、水素プラズマによる処理が行われたSiN膜よりも水分子が侵入しやすくなると考えられる。そのため、水素プラズマによる処理の前に大気に暴露されたSiN膜のWVTRは、SiN膜の成膜と水素プラズマによる処理とが大気に暴露されることなく真空中で連続して行われたSiN膜のWVTRよりも高い値となる。従って、WVTRの低いSiN膜を得るためには、SiN膜の成膜と水素プラズマによる処理とは、大気に暴露されることなく真空中において連続して行われることが好ましい。
【0149】
以上、第5の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10によれば、封止膜105のWVTRをさらに低くすることができる。
【0150】
なお、本実施形態では、第2の実施形態における封止膜105と同様の構成の封止膜105に対して水素プラズマによる処理を行ったが、第3の実施形態で示された、厚さ方向にフッ素の濃度勾配を有する第2の膜108を含む封止膜105に対しても、本実施形態の技術を適用することができる。
【0151】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜105は、第5の実施形態における封止膜105と同様に、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を有し、第3の膜109の表面に水素プラズマによる処理が行われる。ただし、本実施形態における封止膜105では、第1の膜107に第2の膜108が積層される前に、第1の膜107の表面にも水素プラズマによる処理が行われる点が、第5の実施形態における封止膜105とは異なる。
【0152】
なお、本実施形態で用いられる成膜装置10の構成は、
図16を用いて説明した第5の実施形態における成膜装置10の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における高周波アンテナ13の構成は、
図2を用いて説明した第1の実施形態における高周波アンテナ13の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略についても、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様であるため、以下に説明する点を除き、詳細な説明を省略する。
【0153】
[封止膜形成工程の詳細]
図24は、第6の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。
図25は、第6の実施形態において処理室4内に供給される各処理ガスの流量の変化の一例を示す図である。本実施形態に係る封止膜形成工程は、例えば
図16に示した成膜装置10の制御部50によって実行される。なお、
図24に示すフローチャートにおいて、
図9または
図17と同一の符号を付した処理は、
図9または
図17を用いて説明した処理と同様であるため、以下ではその概略のみを示し、詳細な説明を省略する。
【0154】
まず、
図9に示したステップS200からS210までの処理が実行される。即ち、成膜装置10のゲートバルブ27が開けられ、有機EL素子106が形成されたガラス基板Gが処理室4内に搬入される(S200)。そして、制御部50は、例えば
図25に示す時刻t
1において、処理室4内に第1のガス(例えばN2ガス)の供給を開始し(S201)、処理室4内を所定の圧力雰囲気(例えば0.5Pa)に調整する(S202)。そして、制御部50は、サセプタ22および高周波アンテナ13に高周波電力をそれぞれ印加することにより、処理室4内において第1のガスのプラズマを生成する(S203)。
【0155】
次に、制御部50は、例えば
図25に示す時刻t
2において、処理室4内に第2のガス(例えばSiH4ガス)の供給を開始し(S204)、成膜種の堆積により厚さd1の第1の膜107が有機EL素子106上に積層されるまで所定時間待機する(S205)。そして、制御部50は、所定時間が経過した時刻t
31(
図25参照)において、高周波電力の印加を停止し、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S500)。
【0156】
次に、制御部50は、
図17に示したステップS400からS404の処理を実行する。即ち、制御部50は、処理室4内を真空排気し(S400)、処理室4内が真空排気された時刻t
32(
図25参照)において、処理室4内に第4のガス(例えばH2ガス)の供給を開始する(S401)。そして、制御部50は、処理室4内を所定の圧力雰囲気に調整し(S402)、例えば13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加する。高周波アンテナ13によって処理室4内に形成された誘導電界により、処理室4内において第4のガスのプラズマが生成され(S403)、第4のガスのプラズマに含まれる活性種(H
*ラジカル)により、第1の膜107の表面が改質される。そして、所定時間が経過した時刻t
33(
図25参照)において、制御部50は、高周波アンテナ13への高周波電力の印加を停止し、第4のガスの供給を停止する(S404)。
【0157】
次に、制御部50は、処理室4内を真空排気する(S501)。そして、処理室4内が真空排気された時刻t
34(
図25参照)において、制御部50は、処理室4内に第1のガス(例えばN2ガス)の供給を開始し(S502)、処理室4内を所定の圧力雰囲気(例えば0.5Pa)に調整する(S503)。そして、制御部50は、サセプタ22および高周波アンテナ13に高周波電力をそれぞれ印加することにより、処理室4内において第1のガスのプラズマを生成する(S504)。そして、制御部50は、例えば
図25に示す時刻t
35において、処理室4内に第2のガス(例えばSiH4ガス)および第3のガス(例えばSiF4ガス)の供給を開始する(S505)。
【0158】
次に、
図9に示したステップS207からS210までの処理が実行される。即ち、制御部50は、成膜種の堆積により厚さd2の第2の膜108が第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S207)。そして、所定時間が経過した時刻t
4(
図25参照)において、制御部50は、処理室4内への第3のガスの供給を停止し(S208)、成膜種の堆積により厚さd3の第3の膜109が第2の膜108上に積層されるまで所定時間待機する(S209)。そして、所定時間が経過した時刻t
5(
図25参照)において、制御部50は、高周波電力の印加を停止し、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S210)。これにより、例えば
図7に示したように、有機EL素子106は、第1の膜107、第2の膜108、および第3の膜109を含む封止膜105で覆われる。
【0159】
次に、制御部50は、再びステップS400からS404に示した処理を実行する。これにより、例えば
図25に示すように、処理室4内が真空排気された時刻t
6(
図25参照)において、処理室4内に第4のガスの供給が開始され、処理室4内に第4のガスのプラズマが生成される。そして、所定時間が経過した時刻t
7において、高周波電力の印加が停止され、第4のガスの供給が停止される。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出される。
【0160】
以上、第6の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10は、第1の膜107が成膜された後に、第1の膜107上に第2の膜108が成膜される前に、第1の膜107の表面に対してさらに水素プラズマによる処理を行う。これにより、第1の膜107のWVTRを低くすることができ、封止膜105全体のWVTRをさらに低くすることができる。
【0161】
また、本実施形態の成膜装置10は、第1の膜107が成膜された後に、第1の膜107を大気に暴露させることなく、第1の膜107の表面に対して水素プラズマによる処理を行う。これにより、第1の膜107のWVTRを低くすることができる。なお、第1の膜107が成膜された後に、第1の膜107が大気に暴露されてもよい。この場合であっても、その後に第1の膜107の表面に対して水素プラズマによる処理が行われれば、第1の膜107のWVTRを、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜のWVTRよりも低くすることができる。
【0162】
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。本実施形態における封止膜105は、第4の実施形態における封止膜105と同様に、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互にn
0回積層された構造を有する。ただし、本実施形態における封止膜105では、第1の膜107が積層される都度、第1の膜107の表面に水素プラズマによる処理が行われる点、および、第3の膜109の表面に水素プラズマによる処理が行われる点が、第4の実施形態における封止膜105とは異なる。
【0163】
なお、本実施形態で用いられる成膜装置10の構成は、
図16を用いて説明した第5の実施形態における成膜装置10の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における高周波アンテナ13の構成は、
図2を用いて説明した第1の実施形態における高周波アンテナ13の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、本実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略についても、
図3を用いて説明した第1の実施形態における発光モジュール100の製造手順の概略と同様であるため、以下に説明する点を除き、詳細な説明を省略する。
【0164】
[封止膜形成工程の詳細]
図26は、第7の実施形態に係る封止膜形成工程の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る封止膜形成工程は、例えば
図16に示した成膜装置10の制御部50によって実行される。なお、
図26に示すフローチャートにおいて、
図15または
図17と同一の符号を付した処理は、
図15または
図17を用いて説明した処理と同様であるため、以下ではその概略のみを示し、詳細な説明を省略する。
【0165】
まず、
図15に示したステップS300からS305までの処理が実行される。即ち、制御部50は、まず、第1の膜107および第2の膜108を交互に積層させる回数を示す定数n
0を受け付け、変数nを0に初期化する(S300)。そして、ゲートバルブ27が開けられ、有機EL素子106が形成されたガラス基板Gが処理室4内に搬入される(S301)。そして、制御部50は、処理室4内に第1のガス(例えばN2ガス)の供給を開始し(S302)、処理室4内を所定の圧力雰囲気(例えば0.5Pa)に調整する(S303)。そして、制御部50は、サセプタ22および高周波アンテナ13に高周波電力をそれぞれ印加することにより、処理室4内において第1のガスのプラズマを生成する(S304)。そして、制御部50は、処理室4内に第2のガス(例えばSiH4ガス)の供給を開始する(S305)。
【0166】
次に、制御部50は、成膜種の堆積により厚さd7の第1の膜107が有機EL素子106上に積層されるまで所定時間待機する(S306)。そして、制御部50は、高周波電力の印加を停止し、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S600)。
【0167】
次に、制御部50は、
図17に示したステップS400からS404の処理を実行する。即ち、制御部50は、処理室4内を真空排気し(S400)、処理室4内に第4のガス(例えばH2ガス)の供給を開始する(S401)。そして、制御部50は、処理室4内を所定の圧力雰囲気に調整し(S402)、例えば13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加する。高周波アンテナ13によって処理室4内に形成された誘導電界により、処理室4内において第4のガスのプラズマが生成され(S403)、第4のガスのプラズマに含まれる活性種により、第1の膜107の表面が改質される。そして、制御部50は、高周波アンテナ13への高周波電力の印加を停止し、第4のガスの供給を停止する(S404)。
【0168】
次に、制御部50は、処理室4内を真空排気する(S601)。そして、制御部50は、処理室4内に第1のガス(例えばN2ガス)の供給を開始し(S602)、処理室4内を所定の圧力雰囲気(例えば0.5Pa)に調整する(S603)。そして、制御部50は、サセプタ22および高周波アンテナ13に高周波電力をそれぞれ印加することにより、処理室4内において第1のガスのプラズマを生成する(S604)。そして、制御部50は、処理室4内に第2のガス(例えばSiH4ガス)および第3のガス(例えばSiF4ガス)の供給を開始する(S605)。
【0169】
次に、制御部50は、成膜種の堆積により厚さd8の第2の膜108が第1の膜107上に積層されるまで所定時間待機する(S308)。そして、所定時間が経過した後に、制御部50は、処理室4内への第3のガスの供給を停止し(S309)、変数nが定数n
0に達したか否かを判定する(S310)。変数nが定数n
0に達していない場合(S310:No)、制御部50は、変数nを1増やし(S313)、再びステップS306に示した処理を実行する。
【0170】
一方、変数nが定数n
0に達した場合(S310:Yes)、制御部50は、処理室4内に生成された第1のガスおよび第2のガスのプラズマによって厚さd9の第3の膜109が第2の膜108上に積層されるまで所定時間待機する(S311)。所定時間が経過した後、制御部50は、高周波電力の印加を停止し、第1のガスおよび第2のガスの供給を停止する(S312)。そして、制御部50は、再びステップS400からS404に示した処理を実行する。そして、ゲートバルブ27が開けられ、開口部27aを介して発光モジュール100が処理室4から搬出され、本フローチャートに示した封止膜形成工程が終了する。
【0171】
以上、第7の実施形態について説明した。本実施形態の成膜装置10は、第1の膜107が積層される都度、第1の膜107の表面に水素プラズマによる処理を行う。さらに、本実施形態の成膜装置10は、第3の膜109の表面にも水素プラズマによる処理を行う。これにより、本実施形態の成膜装置10は、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互に複数回積層された封止膜105において、封止膜105全体のWVTRをさらに低くすることができる。
【0172】
なお、それぞれの第1の膜107および第3の膜109に対して行われる水素プラズマによる処理は、第1の膜107および第3の膜109が大気に暴露させることなく行われることが好ましい。しかし、第1の膜107および第3の膜109が大気に暴露されてもよい。この場合であっても、第1の膜107および第3の膜109に対して水素プラズマによる処理が行われれば、該第1の膜107および該第3の膜109のWVTRを、水素プラズマによる処理が行われていないSiN膜のWVTRよりも低くすることができる。これにより、封止膜105全体のWVTRを低くすることができる。また、本実施形態では、全ての第1の膜107に対して水素プラズマによる処理が行われるが、封止膜105全体として所望のWVTRが達成可能であれば、必ずしも全ての第1の膜107に対して水素プラズマによる処理が行われなくてもよい。
【0173】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0174】
例えば、上記した各実施形態において、窒素等を含有する第1のガスは、例えばN2ガスであるが、他の形態として、第1のガスは、NH3ガスであってもよい。
【0175】
また、上記した各実施形態において、フッ素等を含有する第3のガスは、例えばSiF4ガスであるが、他の形態として、第3のガスは、SiH3FガスやSiH2F2ガス等のSiHxF4−x(xは1から3までの整数)ガスであってもよい。
【0176】
また、上記した各実施形態において、第3のガスは、フッ素等を含有するガスであるが、ハロゲン元素を含有するガスであれば、第3のガスは、フッ素に代えてフッ素以外のハロゲン元素を含有するガスであってもよい。ハロゲン元素を含有する第3のガスとしては、例えば、SiCl4ガス、SiHxCl4−x(xは1から3までの整数)ガス、またはSiHxFyClz(x、y、およびzはx+y+z=4を満たす自然数)ガス等が考えられる。また、塩素含有ガスを添加することによっても、同様に、NH・・・NH間の水素結合よりも結合力の強いNH4
+・・・Cl
-の水素結合を形成することができる。
【0177】
また、上記した各実施形態では、第3のガスとしてSiF4ガスを用いたが、他の形態として、窒素よりも電気的負性の強い官能基を含有するガスを、第3のガスとして用いてもよい。電気的負性の強い官能基には電子が付着しやすい。また、電気的負性の強い官能基は、電気陰性度が強いFやClと同様に、プラズマ中でガスから分解・分離後および膜中においても電気的に陰性を保つことで水素結合を形成しやすい。窒素よりも電気的負性の強い官能基としては、例えば、カルボニル基やカルボキシレート基等が考えられる。カルボニル基:−C(=O)−、または、カルボキシレート基:(R)−COOHなどの官能基を持ったガスを添加すると、SiN膜中にこれら官能基が混入し、同様にNH・・・NH間の水素結合よりも強いNH・・・O=Cの水素結合や、NH4
+RCOO
-などの水素結合が形成され、SiN粒子の間の水素結合が強化される。これにより、SiN膜中のSiN粒子間の結び付きが強くなり、SiN膜の膜密度がさらに高くなる。
【0178】
また、上記した第2から第7の実施形態では、フッ素が添加された第2の膜108と、有機EL素子106との間に、フッ素が添加されていない第1の膜107が設けられたが、開示の技術はこれに限られない。例えば、他の形態として、第2の膜108中のフッ素の濃度が低い場合には、第2の膜108と有機EL素子106との間に、第1の膜107が設けられなくてもよい。特に、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づく程、フッ素の濃度が高くなるように、フッ素の濃度勾配が設けられている場合には、第2の膜108の上下の面におけるフッ素の濃度は0の近い値となる。そのため、フッ素の濃度勾配が設けられた第2の膜108を用いる場合、有機EL素子106上に第2の膜108を積層しても、第2の膜108に含まれるフッ素が有機EL素子106に与えるダメージは少ないと考えられる。
【0179】
また、上記した第3の実施形態における第2の膜108では、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心付近に、フッ素の濃度が略一定の第2層108bが設けられたが、他の形態として、第2の膜108には第2層108bは設けられなくてもよい。この場合、第2の膜108には、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づく程フッ素の濃度が高くなる第1層108aおよび第3層108cが含まれる。第1層108aおよび第3層108cは、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づくに従って、フッ素の濃度が0から所定濃度まで増加する。ここで、所定濃度とは、フッ素が例えば4〜6atom%(好ましくは5atom%)となる濃度である。
【0180】
また、上記した第4の実施形態では、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互に積層され、フッ素が添加された第2の膜108には、添加されるフッ素の濃度勾配が設けられていないが、開示の技術はこれに限られない。例えば、フッ素が添加されたそれぞれの第2の膜108には、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づく程、フッ素の濃度が高くなるように、フッ素の濃度勾配が設けられてもよい。これにより、第4の実施形態において、第1の膜107と第2の膜108との境界、および、第2の膜108と第3の膜109との境界にかかるストレスを低減することができる。また、この場合、第7の実施形態に示したように、第1の膜107が積層される都度、第1の膜107の表面に水素プラズマによる処理が行われてもよい。
【0181】
また、例えば
図27に示すように、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互にn
0回積層された封止膜105において、n
0回のおよそ半分の回数で積層された第2の膜108のフッ素濃度が最大になるように、各第2の膜108のフッ素濃度を段階的に増加または減少させてもよい。具体的には、第1の膜107および第2の膜108の積層回数を示す定数n
0が偶数である場合、例えば、n
0/2+1回目で積層された第2の膜108のフッ素濃度が最大になり、定数n
0が奇数である場合、例えば、(n
0+1)/2回目で積層された第2の膜108のフッ素濃度が最大になるように、各第2の膜108のフッ素濃度を段階的に増加または減少させる。
【0182】
ここで、フッ素濃度が最大の第2の膜108がn
x回目に積層された第2の膜108である場合、1回目からn
x−1回目までには、第2の膜108がn
x−1回積層される。フッ素濃度が最大の第2の膜108のフッ素濃度をXとした場合、1回目からn
x−1回目までに積層される第2の膜108のフッ素濃度は、フッ素濃度Xを(n
x−1)+1で等分した値を増加分として算出する。そして、1回目からn
x−1回目までの第2の膜108では、算出された増加分ずつフッ素濃度を段階的に増加させて積層させる。
【0183】
一方、n
x+1回目からn
0回目までには、第2の膜108がn
0−n
x回積層される。フッ素濃度が最大の第2の膜108のフッ素濃度をXとした場合、n
x+1回目からn
0回目までに積層される第2の膜108のフッ素濃度は、フッ素濃度Xを(n
0−n
x)+1で等分した値をフッ素濃度の減少分として算出する。そして、n
x+1回目からn
0回目までの第2の膜108では、算出された減少分ずつフッ素濃度を段階的に減少させて積層させる。
【0184】
図27には、n
0=7、n
x=4、X=5atom%の封止膜105が例示されている。
図27に例示した封止膜105では、n=1〜n
xまでは、5/((4−1)+1)=1.25atom%ずつフッ素濃度が増加している。また、
図27に例示した封止膜105では、n=n
x〜n
0までは、5/((7−4)+1)=1.25atom%ずつフッ素濃度が減少している。
【0185】
このように、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互に積層された封止膜105において、封止膜105の厚さ方向において、封止膜105の中心に近い位置に積層される第2の膜108程、フッ素の濃度が段階的に高くなるように設定されることにより、封止膜105全体として膜ストレスをさらに軽減することができる。また、この場合、第7の実施形態に示したように、第1の膜107が積層される都度、第1の膜107の表面に水素プラズマによる処理が行われてもよい。
【0186】
なお、
図27に例示した封止膜105において、各第2の膜108の厚さは同一であってもよく、フッ素濃度の値に応じて第2の膜108の厚さは異なってもよい。また、第1の膜107についても、各第2の膜108の厚さは同一であってもよく、隣接する第2の膜108のフッ素濃度の値に応じて異なってもよい。
【0187】
また、
図27に例示した封止膜105において、各第2の膜108には、厚さ方向においてフッ素濃度の勾配が設けられてもよい。この場合、各第2の膜108に設けられるフッ素濃度の勾配は、例えば
図28に示すように、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づくほど、濃度が高くなるように設定されてもよい。
図28に示した例では、第2の膜108の厚さ方向において、第1の膜107との境界から第2の膜108の中心付近へ向かって、第2の膜108中のフッ素濃度が0から所定濃度Dまで増加し、中心付近では所定濃度Dが維持される。ここで、所定濃度Dとは、対象となる第2の膜108について、n
0、n
x、およびXの値に応じて定まる濃度である。
【0188】
なお、例えば
図29に示すように、第2の膜108中のフッ素濃度は、第2の膜108の厚さ方向において、第1の膜107との境界から第2の膜108の中心付近へ向かって0から所定濃度Dまで増加し、その後、所定濃度Dが維持されることなく、所定濃度Dから0まで減少してもよい。
【0189】
このように、フッ素が添加された第2の膜108と、フッ素が添加されていない第1の膜107とが交互に積層された封止膜105において、各第2の膜108に、第2の膜108の厚さ方向において、第2の膜108の中心に近づくほどフッ素の濃度が高くなるように濃度の勾配を設けると共に、第1の膜107との境界付近では、第2の膜108中のフッ素濃度を0にする。これにより、各第2の膜108の中に、所定の濃度のフッ素を有する層を形成することができると共に、第1の膜107と第2の膜108との間に発生するストレスを低減することができる。
【0190】
また、上記した第5から第7の実施形態において、第4のガスは、H2ガスと、Ar等の希ガスとが混合されたガスであってもよい。第4のガスに希ガスが含まれることにより、希ガスの原子やイオンによって、SiN膜の表面が押し固められる。これにより、SiN膜の表面の緻密性がさらに高まり、SiN膜のWVTRがさらに低くなることが期待される。また、第4のガスに希ガスが含まれることにより、プラズマが立ちすくなり、プロセスの安定性が高まる。
【0191】
また、上記した実施形態では、プラズマ源として誘導結合プラズマを利用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜を行う成膜装置10を例に説明したが、プラズマを用いたCVD法により成膜を行う成膜装置10であれば、プラズマ源は誘導結合プラズマに限られず、容量結合プラズマ、マイクロ波プラズマ、マグネトロンプラズマなど、任意のプラズマ源が用いられてもよい。
【0192】
また、上記した実施形態では、有機EL素子106を封止する封止膜105の成膜方法について説明したが、封止膜105が封止する素子は、有機EL素子106に限られない。本発明は、有機EL素子106以外に、例えば、半導体素子や太陽電池素子などの素子を封止する膜の成膜方法に対しても適用することができる。
【0193】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者には明らかである。また、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。