特許第6232195号(P6232195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232195
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】試料検査装置及び試料の検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/29 20060101AFI20171106BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20171106BHJP
   H01J 37/073 20060101ALI20171106BHJP
   G02B 21/16 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H01J37/29
   H01J37/20 H
   H01J37/073
   G02B21/16
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-57890(P2013-57890)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-182984(P2014-182984A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100154313
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100140615
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘
(72)【発明者】
【氏名】内藤 儀彦
(72)【発明者】
【氏名】畠山 雅規
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−523459(JP,A)
【文献】 特開2009−004114(JP,A)
【文献】 特開2000−208089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/225
H01J 37/00−37/295、
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを試料表面に照射する一次電子光学系と、試料から放出される二次電子を検出器の電子検出面に結像させる二次電子光学系を備え、検出器で検出された信号から試料表面の電子像を取得して試料を検査する装置であって、前記試料表面に電子ビームとともに紫外線を照射し又は紫外線単独を照射する手段を有し、試料表面に電子ビーム又は紫外線を選択的に照射することにより、電子ビームの照射による試料の二次電子像又は紫外線の照射による光電子像を取得するようにした構成を有する試料検査装置において、
一台のレーザー装置から放射されたレーザー光をビームスプリッターで分割し、分割された一方のレーザー光を前記電子ビームの発生源として電子ビーム供給手段に入射し、他方のレーザー光を、前記二次電子光学系内に配置されていてピンホールを備えた三角ミラーに入射し、三角ミラーの反射光を試料表面に照射させるようにした構成を有することを特徴とする試料検査装置。
【請求項2】
ビームスプリッターと三角ミラーとの間の分割レーザー光の経路上に、三角ミラーに入射されるレーザー光の出力調整機構を設けた構成を有することを特徴とする請求項1に記載の試料検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の試料検査装置を用いた試料の検査方法であって、試料表面に電子ビームとともに紫外線を照射することにより試料表面の電位を制御することを特徴とする試料の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板のフォトマスクやウェハの回路パターンの欠陥や異物の有無の検査など、試料表面の極めて微細な状態を検査したり評価したりするための検査装置とその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造工程において、半導体基板の検査に、電子ビームを対象試料に照射し、試料から放出される二次電子(二次電子の他にミラー電子、反射電子を含み、これらを総称して二次電子という)を検出することで試料表面の電子像を取得して試料を検査する電子顕微鏡が用いられている。
この場合、誘電体や絶縁体を構成材料に含む試料に電子ビームを照射すると、試料表面の電位が変動してしまい、安定した電子像や再現性のある電子像を得ることが困難となる。とりわけ、電子ビームの照射によって試料表面が負に帯電するときは、電子像が劣化して、欠陥や異物の検出精度を低下させてしまうという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、電子ビームとは別の経路で試料表面に紫外線を照射し、これにより試料表面に生ずる光電効果によって試料表面が負に帯電することを抑制し、試料表面の電位を制御して安定した電子像が得られるようにした検査装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−4114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の検査装置は、電子ビームの照射により試料から放出される二次電子による電子像と、紫外線の照射により光電効果によって放出される光電子による光電子像をそれぞれ取得し、それぞれが重なるように電子線と紫外線の照射領域を一致させ、紫外線照射条件を調整して試料の負帯電を除去した上で、電子ビームの照射による電子像を取得するように構成されており、紫外線の照射により試料表面の電位を制御する構成のものであるものの、試料の電子ビームの照射による電子像と、紫外線の照射による光電子像をそれぞれ切替えて取得するようには構成されてはいない。
検査対象である試料の状態や構成材料、或いはどのような試料面の画像を得たいかなどの検査や評価条件などに応じて、電子像と光電子像を選択的に取得することができれば、試料の検査や評価の精度向上に極めて有用であるが、前記従来の検査装置では試料の電子像と光電子像を選択的に取得して、何れかの像に基づいて試料を検査したり評価したりすることはできなかった。
【0006】
また、前記従来の検査装置は、別々に設けられた電子ビームの発生源と紫外線の発生源を装備しているため、装置構成が大型にならざるを得なかった。
【0007】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、試料表面の電位を制御して鮮明な電子像と光電子像を選択的に取得することができるとともに、電子ビームと紫外線を共通の発生源により供給できるようにして装置構成の簡素化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明は、電子ビームを試料表面に照射する一次電子光学系と、試料から放出される二次電子を検出器の電子検出面に結像させる二次電子光学系を備え、検出器で検出された信号から試料表面の電子像を取得して試料を検査する試料検査装置において、
前記試料表面に電子ビームとともに紫外線を照射し又は紫外線単独を照射する手段を有し、試料表面に電子ビーム又は紫外線を選択的に照射することにより、電子ビームの照射による試料の二次電子像又は紫外線の照射による光電子像を取得するようにした構成を有することを特徴とする。
【0009】
前記構成の試料検査装置において、一台のレーザー装置から放射されたレーザー光をビームスプリッターで分割し、分割された一方のレーザー光を前記電子ビームの発生源として電子ビーム供給手段に入射し、他方のレーザー光を、前記二次電子光学系内に配置されていてピンホールを備えた三角ミラーに入射し、三角ミラーの反射光を試料表面に照射させるようにした構成を有することが好ましい。
前記ビームスプリッターと三角ミラーとの間の分割レーザー光の経路上には、三角ミラーに入射されるレーザー光の出力調整機構を設けた構成とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明の試料の検査方法は、前記構成の試料検査装置を用いた試料の検査方法であって、試料表面に電子ビームとともに紫外線を照射することにより試料表面の電位を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子ビームとは別の経路で試料に紫外線を照射し、試料表面で生ずる光電効果によって電子ビームの照射による試料表面の負の帯電が抑制され、試料表面の電位を鮮明な画像取得に適するように安定的に制御して、再現性のある鮮明な安定した電子像を取得することができる。
また、レーザー装置から照射されるレーザー光を分割し、分割したレーザー光をそれぞれ電子ビームと紫外線の発生源として用いることで装置構成をコンパクトにすることができる。この場合に、試料に紫外線を照射する手段として、二次電子光学系内にピンホールを備えた三角ミラーを配置し、結像する二次電子に逆行するように紫外線を試料表面に照射する構造とすることで、照射する紫外線の照野の調整を、前記三角ミラーへの紫外線の入射角度を調整することで容易に行うことが可能となる。さらに、前記三角ミラーの前段にレーザー光の出力調整機構を設けることで、電子ビームの供給手段へのレーザー光の照射量を変えることなく、試料に照射する紫外線の出力制御が可能となり、試料表面の表面電位の精密な調整が可能となる。
【0012】
本発明によれば、レーザー光を電子ビームの発生源として利用すると同時に試料表面の電位を制御するための光発生源として用い、この電位制御用にレーザー光(紫外線)を試料に照射し、光照射により生じた光電子を検出器で検出し、検出された信号から試料表面の光電子像を取得し得るように構成されているので、試料表面の電位の制御と、試料の種類や構成材料、試料表面の観察目的などに応じて、試料に電子ビームと光の何れか又は両方を選択的に照射することで、観察目的に合致した試料表面の電子像又は光電子像を取得し、これを評価することで試料の検査精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の試料検査装置の一実施形態である電子顕微鏡の電子光学系及びレーザー導入系の概略構成図である。
図2図1の電子顕微鏡全体の概略構成図である。
図3図1の電子顕微鏡を用いて電子ビーム又は光(紫外線)を試料に照射したときの試料の表面電位の変化を示した図である。
図4図1の電子顕微鏡で取得される試料表面の電子像を示した図である。
図5】本発明の他の実施形態である電子顕微鏡の電子光学系及びレーザー導入系の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の試料検査装置の一実施形態である写像投影型電子顕微鏡の電子光学系及びレーザー導入系の概略構成を示しており、図中、符号1は鏡筒、2は一次電子光学系、3は二次電子光学系、4は検出器、5は試料保持装置であり、これらは後述する真空雰囲気に制御される真空チャンバ9上に設置されている。符号6は鏡筒1の外側に設置されるレーザー装置である。
【0015】
一次電子光学系2は、電子ビーム供給手段である電子銃21、電子ビームの形状を制御する収束レンズ22、アパーチャ23、電子ビームの進行方向を制御するアライナー24などにより構成されている。
電子銃21は、例えばDUVレーザー光を光電面に照射して電子発生(光電子を発生)させる電子銃を用いることができ、後述するレーザー装置6のレーザー光の入射により引き出された電子ビームを放出するように設けてある。一次電子光学系2は、電子銃21から放出された電子ビームを、収束レンズ22とアパーチャ23でその形状を整え、さらにアライナー24でその進行方向を制御して後述するE×Bフィルタ32へと入射し、E×Bフィルタ32で進行方向が曲げられて、試料保持装置5上に保持された試料に照射されるように構成してある。
【0016】
二次電子光学系3は、試料保持装置5側から上方に配置された、レンズ31、E×Bフィルタ32、レンズ33、レンズ34の各レンズ群と電子ビームの軌道を制御するアライナー群(図示せず)などを有して構成されており、一次電子光学系2により電子ビームが試料に照射されることにより試料表面から放出される二次電子を、前記各レンズ群とアライナー群により検出器4の検出面41に結像させるように構成してある。
また、二次電子光学系3には、電子銃21から放出された電子ビームと試料から放出された二次電子のクロスオーバーを校正するポイントのうち、E×Bフィルタ32付近に、電子ビームが通過できる程度の大きさのピンホールを備えた三角ミラー35を配置してある。前記試料表面から放出された二次電子は、三角ミラー35のピンホールを通って検出器4へと導かれる。
【0017】
検出器4は、前記二次電子を倍増するMCP(マイクロチャンネルプレート)と、倍増された電子を光に変換する蛍光板と、変換された光信号を画像信号として取り込むTDI(Time Delay Integration)−CCDカメラにより構成されている。試料から放出された二次電子は前記二次電子光学系3によりTDI−CCDカメラの検出面41に結像される。EB(Electron Beem)−CCDカメラやEB−TDIセンサを用いて構成してもよい。
【0018】
試料保持装置5は、後述するステージ10上に設置されており、その上面で検査対象である半導体のウェハなどの試料を保持し、ステージ10の動作に伴って、その試料保持面をX,Y方向に連続的に変位させることができるように構成してある。なお、検査対象である試料としては、フォトマスクやEVUマスク、半導体ウェハなどが用いられる。
【0019】
レーザー装置6は、紫外線レーザー光を放射する装置が用いられ、鏡筒1の外側に設置してある。レーザー装置6から放射されたレーザー光は、ビームスプリッター7で分割され、分割された一方のレーザー光は複数のミラー8により導かれて前記電子銃21に入射し、電子ビームの発生源として用いられる。
一方、分割された他方のレーザー光は、鏡筒1内に導入されて前記二次電子光学系3に配置された三角ミラー35に入射し、この三角ミラー35で反射されて試料保持装置5上の試料へと導かれ、試料表面を照射するようになっている。
このように二次電子光学系3内に三角ミラー35を配置し、紫外線を三角ミラー35で反射させて試料を照射する形態とすることで、試料表面への紫外線の照射角を概ね垂直にすることができ、紫外線の照射により試料表面に生ずる量子効率を最大にすることができ、また、三角ミラー35へのレーザー光の入射角を調整することで、試料表面における紫外線の照野の調整が容易となる。
なお、図示されないが、ビームスプリッター7と三角ミラー35の間のレーザー光路上には、三角ミラー35にレーザー光を入射する状態とレーザー光の入射を遮断する状態を切替える手段を設けてある。
【0020】
図1に示された電子光学系及びレーザー導入系は、例えば図2に示される真空チャンバ9上に設置される。
詳しくは、真空チャンバ9内には、X、Y方向へ変位動作するステージ10が設置されており、ステージ10上に前記試料保持装置5を設置してある。ステージ10上に回転ステージが設置される場合もある。ステージ10は、例えばそのステージ上にミラーが設置され、レーザー干渉計によるX,Y座標の変位量と位置の測定ができるように構成してある。座標測定位置精度は0.1nm〜0.6nm程度が可能である。
また、ステージ10上に支持される試料の鏡筒1側の表面には、必要な電位、例えば−1kV〜10kV程度の電位が電源により印加されるように設けてある。前記鏡筒1内に設置される各レンズやアライナーは基準電位がGNDであるため、試料から放出される二次電子は、差電位に起因した電子エネルギーにより鏡筒1内を運動し、レンズアライナー(図示せず)により検出器4に結像されるようになっている。
【0021】
さらに、ステージ10上には、一次電子光学系2の電子ビーム量を測定するためのファラデーカップFCが設置されているとともに、一次電子光学系2や二次電子光学系3の条件作成に用いるための標準パターン試料が設置してある。
具体的には、以下のようにしてレーザー照射位置調整と一次電子光学系2の電子ビーム照射位置調整を行って電子軸の条件作成がなされる。
【0022】
先ず、レーザー光を二次電子光学系3の三角ミラー35から導入して試料に照射し、試料からの光電子を二次電子光学系3により結像して検出器4にて撮像する。
次に、試料からの光電子が前記レンズ31の中心を通っているか否かを、レーザー照射位置を変化させて確認し、レンズ31のウォブリングにより、像中心が動かないレーザー照射位置、つまりレンズ31の中心を光電子が通るレーザー照射位置(物面中心)を求める。次いで、レンズ33,レンズ34の中心を前記光電子が通るように、レンズ31の後段に配置されたアライナーを用いて電子軌道を調整する。
その後、E×Bフィルタ32に一次電子光学系2により電子照射を行うためのE×B条件を印加した状態で、再度、E×Bフィルタ32の後段に配置されたレンズ33,34の中心を光電子が通るようにアライナー条件を求めて設定する。
そして、このようにして求めた試料上の物面位置(レンズ31の中心を試料からの光電子が通る位置)に、一次電子光学系2による電子ビームを照射する条件を求めれば、一次電子光学系2による電子照射によって試料から放出される二次電子(二次電子や反射電子、後方錯乱電子の一部やこれらの組み合わせ)は、レンズ31の中心を通り、E×Bフィルタ32をその後段方向へ直進する(ウィーン条件)状態で、レンズ33及びレンズ34の中心を通過して検出器4に結像されることとなる。
【0023】
このような電子軸の条件作成方法により、効率的に物面中心を特定することが可能となるだけでなく、レーザー照射による試料からの光電子よって二次電子光学系3の物面中心位置、結像条件、E×Bのウィーン条件を求めることができるので、一次電子光学系2の電子ビームの調整が非常に簡便且つ効率的に行うことが可能となる。
また、上記電子軸の条件作成過程において、レーザー光の試料上の照射サイズは2次元の面状であり、円形状や楕円形状であるが、レーザー入射部位に任意の形状の通孔、例えば矩形や正方形、六角形、八角形などの通孔が開けられたアパーチャを設けることにより、その形状を反映した試料上の照射条件を設定することができる。また、一次電子光学系2の電子ビームは、円形状や楕円形状の二次元の面状ビーム形状で試料に照射される。この電子ビームの照射による試料の二次電子発生部(光電面)にレーザーが照射されるが、このレーザー光の導入部に、任意の形状の通孔が開けられたアパーチャを設けることにより、その形状を反映したレーザービーム形状を前記電子発生部に照射することができ、これによりレーザービーム形状の電子発生を行うことが可能となる。さらに、その形状の電子ビームを試料上に照射することが可能となる。
【0024】
上記構成の電子顕微鏡を用いた試料の検査は、電子銃21から放射された電子ビームを試料に照射し、試料表面から放出される二次電子を検出器4の検出面41に結像させて、試料表面の電子像を取得することにより行われ、試料が誘電体や絶縁体などを構成材料に含むために試料表面の電位が変動し、安定した電子像が得られないときは、試料に紫外線を照射して試料表面の電位を補償した上で、より鮮明化した電子像を取得する。
【0025】
すなわち、図3は、試料に電子ビームと紫外線をそれぞれ照射したときの試料表面の電位(LE:ランディングエネルギー)の変化と検出器4で検出される電子像の明るさ(輝度の規格値)の変化を示している。同図において、(1)は電子ビームのみの照射した状態、(2)はレーザー光(紫外線)のみの照射した状態、(3)は電子ビームとレーザー光を同時に照射した状態であり、(4)は前記(1)と(2)を合算した輝度の変化を示している。
【0026】
同図に示された、試料に電子ビームと紫外線を同時に照射したときの電子像の明るさと、電子ビームと紫外線をそれぞれ単独で照射したときの電子像の明るさの合算とを比較すると、電子ビームと紫外線をそれぞれ単独照射したときの明るさの合算は試料表面の電位変動の影響を受けていない明るさの単純な合算であるのに対し、同時照射のときは電子ビームの照射による負帯電作用と紫外線の照射による正帯電作用が試料表面にそれぞれ生じ、これにより補償された表面電位に従って電子像の明るさとなるので、単独照射と同時照射を比較することで、紫外線による正帯電が大きく作用するLE領域と、電子ビームにより負帯電が大きく作用するLE領域を区別することが可能となる。図示した測定結果では、LE=Bを境として、低LE側(LE≦B)では正帯電、高LE側(LE≧B)では負帯電であることが理解できる。
これは、低LE(LE<A)では、電子ビームは試料に到達しなくなるため、試料表面からの二次電子の放出量が少なくなる一方、ミラー電子として戻ってくる量が増すため電子像は見かけ上明るくなるとともに表面電位の変化である負帯電が少なくなり、そこに紫外線が照射されることで正帯電の影響が強くなることと定性的に整合がとれる。
また、高LE(LE>C)では、電子銃21による電子ビームの照射が支配的となって試料表面からの二次電子の放出量が多くなるため負帯電となり、そこに紫外線を照射して正帯電に作用させても、負帯電の影響が強くなることと定性的に整合がとれる。
【0027】
図示した形態の電子顕微鏡では、レーザー装置6から放射される一本のレーザー光をビームスプリッター7で分割して、電子銃21と三角ミラー35とに振り分けて照射することで、電子ビームと紫外線の発生源を一台のレーザー装置6で兼用させることができ、検査装置の小型化や生産コストの抑制に効果がある。
この場合に、電子銃21と三角ミラー35へのレーザー光の照射比率を変える手段を設け、照射比率を適宜に調整することで、試料の表面電位の状態を0eVに設定したり、必要に応じて正帯電や負帯電の状態に設定したりすることが可能である。
【0028】
例えば、試料表面の電位の分布状態を事前に調べ、試料表面が負に帯電しているときは、前記レーザー光の分配比率の調整により、試料表面の負の帯電分を打ち消す程度に紫外線照射量の割合が多くなるようにすることで、試料表面に正帯電作用を及ぼし、これとは逆に、試料表面が正に帯電しているときも、同様に負帯電作用を及ぼすようにレーザー光の分配比率を調整することで、検査時の試料表面の電位を0eVに設定することができる。
【0029】
図4は、検査画像における紫外線照射による正帯電効果の確認結果を示している。同図の上段は、電位が各々LE=A,B,Cである試料に電子ビーム単独を照射したときの電子像である。下段は、前記各電位の試料に紫外線を照射し、その後に電子ビームを照射したときの電子像である。
同図から、紫外線の照射による正帯電作用により、電子ビーム単独で高いLEで得られた電子像と同品質の画像を、より低いLEでも得られることが理解できる。
【0030】
また、図5に示されるように、ビームスプリッター7と三角ミラー35との間の分割レーザー光の経路上に、三角ミラー35に入射されるレーザー光の出力調整機構11、例えば偏光板などの出力調整手段を設けてもよい。このようにすることで、電子銃21へのレーザー光の照射量を変えることなく、試料に照射する紫外線の出力制御が可能となり、試料表面の表面電位の精密な調整が可能となる。
例えば、同じ試料面内であってもその表面の電位分布を事前に調査した結果、負帯電の度合いが均一ではなく、試料表面に分散してまばらに負帯電の箇所が存在する場合、分布の位置情報に基づいて紫外線の出力を前記出力調整機構で調整しながら紫外線を照射することで、試料表面の電位を一定(0eV)に設定することができ、これにより、試料表面内の観察感度斑の発生を抑制することができる。
【0031】
また、前記形態の電子顕微鏡において、試料表面から放出される二次電子による電子像を取得する機能と併せて、試料表面への紫外線の照射に伴い試料表面を構成する材料の量子効率の違いに従い放出される光電子を、前記二次電子光学系3で検出器4の検出面41に結像し、試料表面の光電子像を取得する機能を具備させてもよい。
このように電子ビームの照射により得られる試料の電子像と、紫外線の照射により得られる試料の光電子像を選択的に得られるように構成すれば、試料の種類や構成材料、試料表面の観察目的などに応じて、試料に電子ビームと紫外線の何れか又は両方を選択的に照射することで、観察目的に合致した試料表面の電子像又は光電子像を取得し、これを評価することで試料の検査精度を高めることができる。
【0032】
紫外線の照射によって試料表面を観察する場合、一般的には、試料表面は正帯電になる。この場合、電子銃21を微少に動作させて電子ビームを僅かに照射し、紫外線の照射によって生じる正帯電を緩和させ、或いは打ち消すことが可能である。例えば、試料が半導体素子であり、これに紫外線を照射して光電子像を取得し、試料表面のコントラストを観察する場合に、観察が長時間に亘ると、試料表面の電位の上昇(表面電荷の蓄積)は、その半導体素子そのものを破壊してしまう虞がある。このような場合に、紫外線の照射による正帯電を緩和し或いは打ち消す目的で電子銃21による電子ビームの照射が有効である。
また、電子ビームの照射による試料表面の観察では、微少ではあるが質量を有する荷電粒子を試料表面に照射することとなり、試料によってはその表面の荷電粒子の衝突による物理的ダメージが問題となることがある。従って、そのような試料、例えば電子ビーム露光用のレジスト表面などの電子ビームを直接照射できない材料のものでは、紫外線照射による観察が有効となる。
【0033】
このように、観察したい試料の条件より、観察系を電子ビームと紫外線から選択することができるようにすることで、試料の検査精度を高めることができる。この場合に、電子ビームの照射による観察ではその試料表面の電位変化(負帯電)の緩和或いは打ち消しを紫外線の照射により、紫外線の照射による観察ではその試料表面の電位変化(正帯電)の緩和或いは打ち消しを電子ビームの照射によりそれぞれ行うことができる。
【0034】
なお、図示した検査装置の各構成要素の形態は一例であり、本発明はこれに限定されず、他の適宜な形態で構成することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 鏡筒、2 一次電子光学系、21 電子銃、3 二次電子光学系、35三角ミラー、4 検出器、41 検出面、5 試料保持装置、6 レーザー装置、7 ビームスプリッター、8 ミラー、9 真空チャンバ、10 ステージ、11 出力調整機構

図1
図2
図3
図4
図5