特許第6232277号(P6232277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6232277有機EL素子構造、その製造方法及び発光パネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232277
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】有機EL素子構造、その製造方法及び発光パネル
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/04 20060101AFI20171106BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20171106BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20171106BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20171106BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20171106BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20171106BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   H05B33/04
   H05B33/14 A
   H05B33/22 Z
   H05B33/26 Z
   H05B33/10
   H01L27/32
   G09F9/30 365
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-261378(P2013-261378)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-118796(P2015-118796A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】里吉 務
(72)【発明者】
【氏名】石田 寛
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−052864(JP,A)
【文献】 特開2007−234431(JP,A)
【文献】 特開2010−050081(JP,A)
【文献】 特開2013−054979(JP,A)
【文献】 特開2009−109519(JP,A)
【文献】 特開2013−229292(JP,A)
【文献】 特開2013−097917(JP,A)
【文献】 特開2011−195900(JP,A)
【文献】 特開2011−138635(JP,A)
【文献】 特開2008−159600(JP,A)
【文献】 特開2007−149673(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/046545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/02
H05B 33/04
H05B 33/26
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子駆動回路を有する素子駆動回路層上において順に積層された第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極からなる素子積層部を有する有機EL素子構造において、
前記素子駆動回路層及び前記素子積層部の間に封止膜が配され
前記素子積層部を覆う他の封止膜をさらに備え、
前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする有機EL素子構造。
【請求項2】
前記素子駆動回路層は、前記素子駆動回路と前記素子積層部との間に有機絶縁膜層をさらに有することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子構造。
【請求項3】
前記封止膜はALD法によって成膜されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL素子構造。
【請求項4】
前記他の封止膜はALD法によって成膜されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の有機EL素子構造。
【請求項5】
前記第2の電極を、前記発光部を囲む溝で分断して他の前記素子積層部の前記第2の電極から独立させることを特徴とする請求項記載の有機EL素子構造。
【請求項6】
前記溝は垂直に形成されることを特徴とする請求項記載の有機EL素子構造。
【請求項7】
前記溝は下方に向かって逆テーパに形成されることを特徴とする請求項記載の有機EL素子構造。
【請求項8】
1つの前記素子積層部が1つのサブピクセルを構成し、前記溝は1つの前記サブピクセルを囲むことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の有機EL素子構造。
【請求項9】
1つの前記素子積層部が1つのサブピクセルを構成し、前記溝は複数の前記サブピクセルを囲むことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の有機EL素子構造。
【請求項10】
前記素子積層部と前記他の封止膜との間にALD法又はMOCVD法によって成膜された透明導電膜をさらに有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の有機EL素子構造。
【請求項11】
前記第1の電極、及び前記第2の電極は、前記封止膜を介して前記素子駆動回路層へ接続されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の有機EL素子構造。
【請求項12】
素子駆動回路層上に、封止膜、第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極をこの順に形成し、
前記第1の電極、前記発光部及び前記第2の電極からなる素子積層部を覆う他の封止膜をさらに形成し、
前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする有機EL素子構造の製造方法。
【請求項13】
前記発光部を囲む溝を形成し、前記第2の電極を構成する導電膜を蒸着で形成することを特徴とする請求項12記載の有機EL素子構造の製造方法。
【請求項14】
前記第2の電極を形成した後、前記第2の電極を覆うように、ALD法によって前記他の封止膜を形成することを特徴とする請求項13記載の有機EL素子構造の製造方法。
【請求項15】
前記溝は垂直に形成されることを特徴とする請求項14記載の有機EL素子構造の製造方法。
【請求項16】
前記溝は下方に向かって逆テーパに形成されることを特徴とする請求項14記載の有機EL素子構造の製造方法。
【請求項17】
素子駆動回路層上において順に積層された第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極からなる素子積層部を有する有機EL素子構造を備える発光パネルにおいて、
前記素子駆動回路層及び前記素子積層部の間に封止膜が配され
前記有機EL素子構造は前記素子積層部を覆う他の封止膜をさらに有し、前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする発光パネル。
【請求項18】
前記有機EL素子構造では、前記第2の電極を、前記発光部を囲む溝で分断して他の前記素子積層部の前記第2の電極から独立させることを特徴とする請求項17記載の発光パネル。
【請求項19】
前記素子積層部と前記他の封止膜との間にALD法又はMOCVD法により成膜された透明導電膜をさらに有することを特徴とする請求項17記載の発光パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子構造、その製造方法及び発光パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンやモバイル機器のディスプレイとして、近年、LCD(Liquid Crystal Display)に代わり、有機EL(Organic Electro-Luminescence)素子構造を有するディスプレイ(以下、「有機ELディスプレイ」という。)が用いられる。
【0003】
有機EL素子構造では、電圧が印加された発光部の有機化合物(ジアミン類等の有機化合物)自身が発光するため、LCDに必須のバックライトが不要であり、また、有機EL素子構造は電圧印加に対する発光の応答速度が速く、構造簡素化に起因して柔軟性を呈することから、有機ELディスプレイは、特にスマートフォン等のモバイル機器のディスプレイに最適である。
【0004】
ところで、有機EL素子構造の有機化合物は吸湿すると劣化し、最悪の場合、電圧を印加しても発光しなくなるため、有機EL素子構造では有機化合物からなる発光部を外界から封止する必要がある。このため、従来は、ガラスによって有機EL素子構造を外界から遮断するガラス封止や缶封止等の封止手法が用いられてきたが、これらの封止手法は薄膜化に適していない上、封止用ガラスと有機EL素子構造の間の接着層から水分が侵入するという問題や、また、柔軟性に欠けるためフレキシブル基板に対応し難い等の問題がある。
【0005】
これに対応して、ガラス封止や缶封止等の封止手法に代わり、有機EL素子構造ではTFTを用いた素子駆動回路層の上に積層された陽極、発光部、陰極からなる素子積層部を封止膜で雰囲気から封止する手法が用いられている。封止膜としてはCVD法によって形成可能な窒化珪素(SiN)膜や酸窒化珪素(SiON)膜等が用いられるが(例えば、特許文献1、2参照。)、CVD法による成膜はカバレッジが低いため、素子積層部の各層、例えば、最上層としての陰極の上に微少なパーティクルが存在した場合、当該パーティクルを封止膜で完全に覆うことができず、結果として、封止膜が一部で途切れ、発光部の吸湿を防止することができないおそれがある。
【0006】
そこで、近年、カバレッジが高いALD(Atomic Layer Deposition)法による成膜によって封止膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。ALD法では、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)ガスと、HOやO等の酸化剤と、酸素プラズマとを反応させて酸化アルミニウム(Al)膜を形成する際、指向性を持たずに運動するTMA分子と酸化剤の分子により、被成膜物へのTMA分子の吸着と酸化を繰り返すことによって酸化アルミニウムの分子を1層ずつ積み上げるため、非常に薄い封止膜を被成膜面の向きに関係なく等方的に形成することができ、例えば、陰極の上に存在する微少なパーティクルの全面を完全に覆うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−129334号公報
【特許文献2】特開2007−157374号公報
【特許文献3】特開2013−97917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、陽極、発光部、陰極は直接素子駆動回路層の上に積層されるため、例えば、素子駆動回路層の有機絶縁膜を通して、或いは有機絶縁膜から放出される水分や有機物が発光部へ到達し、該発光部の有機化合物を劣化させるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、水分や有機物による発光部の有機化合物の劣化を防止することができる有機EL素子構造、その製造方法及び発光パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の有機EL素子構造によれば、素子駆動回路を有する素子駆動回路層上において順に積層された第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極からなる素子積層部を有する有機EL素子構造において、前記素子駆動回路層及び前記素子積層部の間に封止膜が配され、前記素子積層部を覆う他の封止膜をさらに備え、前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明の有機EL素子構造の製造方法は、素子駆動回路層上に、封止膜、第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極をこの順に形成し、前記第1の電極、前記発光部及び前記第2の電極からなる素子積層部を覆う他の封止膜をさらに形成し、前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする。
【0012】
さらに、上記目的を達成するために、本発明の発光パネルは、素子駆動回路層上において順に積層された第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極からなる素子積層部を有する有機EL素子構造を備える発光パネルにおいて、前記素子駆動回路層及び前記素子積層部の間に封止膜が配され、前記有機EL素子構造は前記素子積層部を覆う他の封止膜をさらに有し、前記他の封止膜は前記封止膜と前記素子積層部の周囲で接合して当該素子積層部を他の前記素子積層部から区画することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、素子駆動回路層上において順に積層された第1の電極、有機化合物を含む発光部及び第2の電極からなる素子積層部を有する有機EL素子構造において、素子駆動回路層及び素子積層部の間に封止膜が配されるので、封止膜が、素子駆動回路層の有機絶縁膜から放出される水分や有機物の素子積層部の発光部への到達を防止し、その結果、有機物による発光部の有機化合物の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。
図2図1における発光部の積層構造を示す拡大部分断面図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。
図4】本発明の第3の実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。
図5図4の有機EL素子構造におけるカソード膜及び溝の配置を示す平面図である。
図6図4の有機EL素子構造における溝、カソード膜及び封止薄膜の形成を説明するための工程図である。
図7図4の有機EL素子構造における溝の第1の変形例を説明するための断面図である。
図8図4の有機EL素子構造における溝の第2の変形例を説明するための断面図である。
図9図8における溝の形成、並びに溝内部でのカソード膜及び封止薄膜の形成を説明するための工程図である。
図10図4の有機EL素子構造を用いた発光パネルの製造方法を説明するための工程図である。
図11図5における発光部を囲む溝の変形例を説明するための平面図である。
図12】本発明の第4の実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明するための断面図である。
図13図12の有機EL素子構造からコンタクトホールを省略した変形例の構成を概略的に説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL素子構造について説明する。本実施の形態に係る有機EL素子構造は発光パネルにおいて多数配置され、各有機EL素子構造が個別に発光することによって当該発光パネルはディスプレイや照明器具として機能する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。
【0018】
図1において、有機EL素子構造10は、TFTを用いた素子駆動回路を有する素子駆動回路層11の上に形成された素子積層部12と、該素子積層部12を覆うように形成された封止部13と、素子駆動回路層11及び素子積層部12の間に配され、素子駆動回路層11の全面を覆うように形成された封止膜14とを有する。また、素子駆動回路層11は、素子駆動回路11aの上に積層された絶縁膜11bを有し、当該絶縁膜11bとしては、例えば、有機絶縁膜が用いられる。
【0019】
素子積層部12は、素子駆動回路層11側から順に積層されたアノード膜15(第1の電極)、例えば、ジアミン類等の有機化合物を含む発光部16、及びカソード膜17(第2の電極)からなり、発光部16の有機化合物がアノード膜15やカソード膜17から注入された正孔や電子の再結合に起因して発光する。
【0020】
アノード膜15は、例えば、スパッタ成膜法によって形成されたITO膜(酸化インジウム錫)の薄膜からなり、カソード膜17は額縁マスク蒸着法によって形成された仕事関数が小さく、酸化し易い金属からなる薄膜、例えば、アルミニウムや銀・マグネシウム合金等の薄膜からなり、発光部16はFMM(Fine Metal Mask)蒸着法によって形成される有機化合物の膜からなる。発光部16の有機化合物は赤色、緑色、青色のいずれかを発光するように調整されるため、素子積層部12は赤色、緑色、青色のいずれかを発光する。通常、赤色、緑色、青色のいずれかを発光する1つの素子積層部12をサブピクセルと呼び、隣接して配された、それぞれ赤色、緑色、青色を発光する3つの素子積層部12からなる群をピクセルと呼ぶ。
【0021】
発光部16は、図2に示すように、詳細には、アノード膜15側から順に形成された正孔注入層16a、正孔輸送層16b、有機化合物からなる発光層16c、電子輸送層16d、電子注入層16eからなる。従来、一の発光部16では、正孔注入層16a、正孔輸送層16b、電子輸送層16d、電子注入層16eのいずれかを他の発光部16と共有することがあり、例えば、1つのピクセルにおいて複数の素子積層部12の各発光部16が正孔注入層16a、正孔輸送層16b、電子輸送層16d、電子注入層16eのいずれかを共有することがあるが、本実施の形態では、一の発光部16は、他の発光部16と、正孔注入層16a、正孔輸送層16b、電子輸送層16d、電子注入層16eを共有しないこととする。なお、1つのピクセルにおいて複数の素子積層部12が存在する具体例としては、赤、緑、青の3つのサブピクセルで1つのピクセルを構成する場合や、赤、緑、青、白の4つのサブピクセルで1つのピクセルを構成する場合などが挙げられる。
【0022】
素子積層部12は、発光部16を囲むように形成された、例えば、樹脂からなる土手状のバンク18を有する。バンク18は発光部16の位置を規定するとともに、発光部16の周囲においてアノード膜15及びカソード膜17を絶縁する。
【0023】
封止部13は、例えば、CVD窒化珪素からなり、封止部13のうち素子駆動回路層11に形成されたTFTのゲート電極(不図示)やソース電極(不図示)に接続されるゲート接続電極19やソース接続電極20を覆う部分13b、13cはエッチングによって除去されてゲート接続電極19やソース接続電極20が暴露されるが、封止部13のうち素子積層部12を覆う部分13aは除去されず、素子積層部12を封止する。
【0024】
封止膜14は、水分が透過する割合の指標であるWVTR(Water Vapor Transmission Rate)が、水分侵入防止の観点において良好であって水分を透過させにくい材質からなり、例えば、CVD法によって形成されたSiN膜やALD法によって形成されたAl膜が用いられる。Alは難エッチング性なので、封止膜14をAl膜で構成する場合、封止膜14は、封止部13b、13cのエッチングにおいてエッチングストップ膜として機能する。
【0025】
有機EL素子構造10では、アノード膜15やカソード膜17は封止膜14を介して、具体的には、封止膜14を貫通する部分を有し、該部分によって素子駆動回路層11へ接続される。
【0026】
なお、有機EL素子構造10では、素子駆動回路層11の上において、封止膜14、アノード膜15、バンク18、発光部16、カソード膜17及び封止部13がこの順で形成される。
【0027】
図1の有機EL素子構造10によれば、素子駆動回路層11及び素子積層部12の間に封止膜14が配されるので、封止膜14が、素子駆動回路層11の有機絶縁膜11bから放出される水分や有機物の素子積層部12の発光部16への到達を防止し、その結果、有機物による発光部16の有機化合物の劣化を防止することができる。
【0028】
図1の有機EL素子構造10では、素子積層部12において、素子駆動回路層11からアノード膜15、発光部16及びカソード膜17がこの順で形成されたが、素子駆動回路層11からカソード膜17、発光部16及びアノード膜15をこの順で形成してもよい。
【0029】
また、図1の有機EL素子構造10では、封止膜14を素子駆動回路層11の全面を覆うように形成したが、封止膜14は部分的に形成されてもよく、例えば、シャドーマスク法によって素子駆動回路層11と素子積層部12の間にのみ形成してもよい。
【0030】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る有機EL素子構造について説明する。
【0031】
本実施の形態は、その構成や作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、素子積層部12をCVD窒化珪素からなる封止部13ではなくALD法で形成された封止薄膜で覆う点で上述した第1の実施の形態と異なる。したがって、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0032】
図3は、本実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。
【0033】
図3において、有機EL素子構造21は、ゲート接続電極19やソース接続電極20を覆う、例えば、樹脂からなるバンク18、22、23と、素子積層部12やバンク18、22、23を覆う封止薄膜24(他の封止膜)とを有する。封止薄膜24にはALD法によって形成されたAl膜が用いられ、該封止薄膜24は素子積層部12を封止する。
【0034】
有機EL素子構造21では、最終的に、ゲート 接続電極19やソース接続電極20を覆う封止薄膜24やバンク22、23がエッチングによって除去される。具体的には、封止薄膜24を塩素系ガス、例えば、塩素ガス(Cl)や塩化ホウ素ガス(BCl)等の塩素(Cl)を含むガスのプラズマによってエッチングし、封止薄膜24の除去によって露出したバンク22、23を酸素ガス(O)や弗素系ガス、例えば、四弗化炭素(CF)ガス、或いはこれらの混合ガス、又は酸素(O)や弗素(F)を含むガスのプラズマによってエッチングする。
【0035】
図3の有機EL素子構造21によれば、封止薄膜24はALD法によって形成されるが、ALD法はカバレッジが高いため、素子積層部12及びそれを含む周辺の構造の形状が複雑であっても確実に封止薄膜24によって覆うことができ、もって、素子積層部12を確実に封止することができる。
【0036】
さらに、図3の有機EL素子構造21では、ゲート電極19やソース電極20と封止薄膜24との間にバンク22、23が介在するが、樹脂はエッチングの制御性が高く、ゲート電極19やソース電極20を露出させる際、バンク22、23を弗素系ガスを用いてエッチングするため、封止膜14、ゲート電極19やソース電極20に対して選択性良くエッチングを行うことが可能となり、オーバーエッチングによってゲート電極19やソース電極20を損傷させるおそれがない。
【0037】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る有機EL素子構造について説明する。
【0038】
本実施の形態は、その構成や作用が上述した第2の実施の形態と基本的に同じであり、バンク18の頂部に溝が形成され、該溝が1つの素子積層部12を囲む点で上述した第2の実施の形態と異なる。したがって、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0039】
図4は、本実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図であり、図5は、図4の有機EL素子構造におけるカソード膜及び溝の配置を示す平面図である。
【0040】
図4及び図5において、有機EL素子構造26の素子積層部12において発光部16を囲むバンク18の頂部には溝27が形成され、該溝27は発光部16を囲む。
【0041】
溝27は、素子駆動回路層11に対して垂直に延伸する矩形の断面形状を有する。有機EL素子構造26でも、カソード膜17(第2の電極を構成する導電膜)は額縁マスク蒸着法によって形成されるため、基本的には、1つの素子積層部12だけでなく、当該1つの素子積層部12に隣接する複数の他の素子積層部12も覆うが、額縁マスク蒸着法による膜の形成は異方性があり、本実施の形態では、素子駆動回路層11に対する垂直方向にのみ膜の厚さが増加する異方性を有するため、カソード膜17は溝27の側面には形成されない。そのため、溝27の底部のカソード膜17とバンク18の頂部のカソード膜17とは断絶される。すなわち、溝27はカソード膜17を1つの発光部16を囲むように分断する。具体的には、一の素子積層部12のカソード膜17は溝27によって他の素子積層部12のカソード膜17から分断され、他の素子積層部12のカソード膜17から独立する。換言すれば、溝27はカソード膜17をサブピクセル単位で分断し、一のサブピクセルにおけるカソード膜17を他のサブピクセルにおけるカソード膜17から独立させる。
【0042】
一方、封止薄膜24はカバレッジの高いALD法によって形成されるため、溝27の底面だけでなく側面にも形成され、封止薄膜24はカソード膜17だけでなくカソード膜17で覆われない溝27の側面も覆う。すなわち、封止薄膜24は有機EL素子構造26の露出部分の全てを覆う。
【0043】
また、図4に示すように、素子駆動回路層11内にはゲート28、ドレイン29、ソース30及びチャネル31からなるTFT32が配置され、ドレイン29にはプラグ33を介してアノード膜15が接続される。また、カソード膜17はバンク18に形成されたテーパ穴34の側面に沿って素子駆動回路層11へ向けて落ち込み、導電膜35及びプラグ36を介して素子駆動回路層11内の配線37へ接続される。
【0044】
図6は、図4の有機EL素子構造における溝、カソード膜及び封止薄膜の形成を説明するための工程図である。
【0045】
まず、プラグ33、36の頂部が露出するようにエッチングで素子駆動回路層11の一部を除去し、プラグ36、プラグ33の頂部を覆うようにスパッタ成膜法によって導電膜35、アノード膜15を形成し、さらに、導電膜35やアノード膜15の平坦部を露出させるようにバンク18を形成する。このとき、バンク18の開口部(テーパ穴34やアノード膜15上の空間38)はテーパ状を呈する(図6(A))。
【0046】
次いで、エッチングによってバンク18の頂部へ溝27を形成する。この場合、異方性の強いエッチングを利用して溝27を素子駆動回路層11に対する垂直方向に穿設する(図6(B))。なお、本実施の形態では、溝27を穿設する際、当該溝27が封止膜14へ到達する前にエッチングを停止するが、封止膜14をALD法によって形成されたAlの薄膜によって構成する場合、溝27が封止膜14へ到達するまでエッチングを継続し、封止膜14をエッチングストップ膜として利用し、溝27の深さを制御してもよい。
【0047】
次いで、FMM蒸着法によってアノード膜15上の空間38に発光部16を形成し、さらに、額縁マスク蒸着法によって全面的にカソード膜17を形成する。この場合、上述したように、カソード膜17の形成には異方性があり、素子駆動回路層11に対する垂直方向にのみカソード膜17の厚さが増加するため、溝27においてカソード膜17は溝27の側面に形成されず、溝27の底部にのみ形成される。一方、テーパ穴34の側面は素子駆動回路層11に対して垂直を成さないため、テーパ穴34の側面にはカソード膜17が形成される(図6(C))。
【0048】
次いで、ALD法によってAlからなる封止薄膜24をカソード膜17上へ全面的に形成するが、この場合、上述したように、封止薄膜24は溝27の底面だけでなく側面にも形成され、当然に、封止薄膜24はテーパ穴34の側面にも形成される。その結果、封止薄膜24は有機EL素子構造26の露出部分の全てを覆う(図6(D))。
【0049】
図4の有機EL素子構造26によれば、カソード膜17を、一の素子積層部12における発光部16を囲む溝27で分断して他の素子積層部12のカソード膜17から独立させるので、1つの素子積層部12で封止膜24に封止の不具合が生じるか、または、何らかの不具合による、水分、酸素や有機物の侵入によって汚染が生じても、他の素子積層部12へ汚染が広がる等の影響が及ぶのを防止することができる。また、溝27によって有機EL素子構造26の剛性が低下するため、当該有機EL素子構造26が多数配置される発光パネルの柔軟性を向上することができる。
【0050】
図4の有機EL素子構造26では、素子積層部12を囲む溝27が素子駆動回路層11に対して垂直に形成されるので、額縁マスク蒸着法で形成されるカソード膜17は溝27の側面に形成されない一方、ALD法で形成される封止薄膜24は溝27の側面にも形成される。その結果、有機EL素子構造26において、カソード膜17の分断と素子積層部12の封止との両立を実現することができる。
【0051】
上述した図4の有機EL素子構造26では、溝27が素子駆動回路層11に対して垂直であるが、バンク18に形成される発光部16を囲む溝は、当該溝の内部においてカソード膜17が不連続となる溝であればよく、例えば、図7に示すように、図中下方に向かう逆テーパ状の溝39がバンク18の頂部に形成されてもよく、又は、図8に示すように、バンク18の庇部によって傾斜した側面が覆われ、当該側面が図中上方から視認できないテーパ状の溝40がバンク18の頂部に形成されてもよい。
【0052】
例えば、図7の有機EL素子構造では、溝39の断面形状を逆テーパ状にすることにより、封止膜24と封止膜14で1つのサブピクセルを囲うことができる。また、図4の有機EL素子構造26における垂直状の溝27においても、バンク18をWVTRが良好な窒化珪素によって形成することにより、1つのサブピクセルをWVTRが良好な、即ち水分を通し難い膜で囲うことができる。
【0053】
上述したように、額縁マスク蒸着法によって全面的にカソード膜17を形成する際、素子駆動回路層11に対する垂直方向にのみカソード膜17の厚さが増加するため、溝39や溝40においても、図中上方に向けて暴露される底面の一部のみにカソード膜17が形成される。一方、ALD法によってAlからなる封止薄膜24をカソード膜17上へ全面的に形成する際、封止薄膜24は溝39や溝40の底面だけでなく側面にも形成される。その結果、カソード膜17の分断と素子積層部12の封止とを両立することができる。
【0054】
図9は、図8における溝の形成、並びに溝内部でのカソード膜及び封止薄膜の形成を説明するための工程図である。
【0055】
まず、溝40を形成する位置に対応して開口部41を有するフォトレジスト膜42をバンク18の上に形成する。このとき、バンク18は2層構造を有し、比較的エッチングされやすい樹脂又は窒化珪素から構成される下層18aと、比較的エッチングされにくい樹脂又は窒化珪素から構成される上層18bとからなる(図9(A))。
【0056】
次いで、フォトレジスト膜42をマスクとして開口部41において暴露されるバンク18を等方性の強いエッチングを利用して除去し、溝40を形成する。このとき、バンク18において上層18bよりも下層18aの除去(エッチング)が速く進行するため、除去が進む下層18aにおいてテーパ状の溝40が形成されるとともに、除去が遅れる上層18bは溝40に対してオーバーハングする庇部18cを構成する。バンク18のエッチングは溝40が封止膜14へ到達するまで継続されるが(図9(B))、封止膜14がALD法によって形成されたAl膜からなる場合、当該封止膜14はエッチングストップ膜として機能し、溝40が封止膜14へ到達した後に当該溝40が図中下方へ成長するのを停止させる。
【0057】
次いで、フォトレジスト膜42を除去した後、額縁マスク蒸着法によって全面的にカソード膜17を形成するが、上述したように、カソード膜17の形成には異方性があり、素子駆動回路層11に対する垂直方向にのみカソード膜17の厚さが増加するため、溝40の内部では、底部において庇部18cによって覆われない部分にのみカソード膜17が形成される(図9(C))。
【0058】
次いで、カバレッジが良好なALD法によってAlからなる封止薄膜24を形成し、溝40の底面だけでなく溝40の側面も封止薄膜24で覆う(図9(D))。
【0059】
なお、溝40はカソード膜17を分断できればよく、図9(E)に示すように、封止膜14へ到達していなくてもよい(図9(E))。
【0060】
上述した有機EL素子構造10、21、26を多数、基板上に配置することにより、発光パネルを構成することができ、例えば、図10(A)に示すように、ガラス基板43の上に有機EL素子構造26を多数配置することによって発光パネル44を構成してもよく、または、まず、図10(B)に示すように、ガラス基板45上に柔軟性のある樹脂基板46を形成し、該樹脂基板46上に有機EL素子構造26を多数配置し、その後、図10(C)に示すように、ガラス基板45を除去することによって発光パネル47を構成してもよい。この場合、樹脂基板46の柔軟性及び有機EL素子構造26の溝27に起因する柔軟性の相乗効果により、発光パネル47の柔軟性を向上することができる。また、発光パネル47では、水、酸素や有機物(図中の白矢印を参照。)が、樹脂基板46から生じるか、若しくは外部から透過するが、封止膜14が水、酸素や有機物の素子積層部12への進入を阻止するため、発光部16が劣化するのを防止することができる。
【0061】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る有機EL素子構造について説明する。
【0062】
図12は、本実施の形態に係る有機EL素子構造の構成を概略的に説明する断面図である。本実施の形態は、その構成や作用が上述した第3の実施の形態と基本的に同じであり、封止薄膜24の下に全面に亘って透明導電膜48をALD法にて成膜する点が異なる。したがって、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0063】
上述した第1の実施の形態乃至第3の実施の形態では、各サブピクセルを赤色、緑色、青色の各色に塗り分けることが前提となっているため、各素子積層部12を区分する必要があるが、区分の結果として、各素子積層部12のカソード電極(カソード膜17)へ下層側から接続することができる。一方、本実施の形態では、各サブピクセルを塗り分けないため、素子積層部において、カソード電極の下には必ずOLED層が存在することになり、カソード電極へ下層側から接続することが困難となる。
【0064】
これに対応して、本実施の形態では、図12に示すように、封止薄膜24の下に全面に亘って透明導電膜48をALD法にて成膜する。これにより、カソード電極(カソード膜17)の全面が透明導電膜48と接続することができる。また、本実施の形態においても、カソード膜17自体は区分されているため、上述した第1の実施の形態乃至第3の実施の形態と同様に、本実施の形態においても本発明の効果を発揮することができる。
【0065】
本実施の形態は、特に、赤色、緑色、青色に塗り分けない白色OLEDにおいて好適に適用されるが、白色OLEDでは赤色、緑色、青色に塗り分ける必要が無いため、発光部16を、FMM蒸着法を用いることなく、額縁蒸着法で形成することができ、形成工程を簡易にすることができる。透明導電膜48としては、例えば、IZOを用いることができる。本実施の形態が適用される有機EL素子構造を形成するためには、第3の実施の形態に係る有機EL素子構造26の形成方法における図6の(C)の工程の後に、ALD法やMOCVD法によって透明導電膜48を全面的に形成し、その後、図6(D)の工程と同様に封止薄膜24を形成すればよい。
【0066】
本実施の形態では、図12に示すように、コンタクトホール49によって透明導電膜48をアノード膜15を介して素子駆動回路11aに接続する。また、図13に示すように、溝51を利用して透明導電膜48をアノード膜15を介して素子駆動回路11aに接続すれば、コンタクトホール49を省略することができる。
【0067】
以上、本発明について、上記各実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではない。
【0068】
また、上述した第3の実施の形態では、有機EL素子構造26において、溝27が1つの発光部16を囲み、カソード膜17をサブピクセル単位で分断するが、溝27が囲む発光部の数は1つに限られず、例えば、図11に示すように、溝27が3つの発光部16を囲んでもよく、3つの発光部16の有機化合物は赤色、緑色、青色のいずれかを発光する場合、当該3つの発光部16を囲む溝27はカソード膜17をピクセル単位で分断することになる。
【0069】
なお、溝27が囲む発光部16の数は3つに限られず、用途に応じ、2色の組合せを表現する場合には、発光部16の数は2つであってもよく、また、3色の組み合わせに色の補正を加えるため、発光部16の数を4つ以上としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10、21、26 有機EL素子構造
11 素子駆動回路層
12 素子積層部
14 封止膜
15 アノード膜
16 発光部
17 カソード膜
24 封止薄膜
27、39、40 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13