特許第6232334号(P6232334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232334
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】レーザ位相雑音低減装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20171106BHJP
【FI】
   H01S3/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-85771(P2014-85771)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-207601(P2015-207601A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
【審査官】 大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−045096(JP,A)
【文献】 特開2011−182198(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/148413(WO,A1)
【文献】 特開2011−226930(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001679(WO,A1)
【文献】 特開2008−304410(JP,A)
【文献】 特開2008−252910(JP,A)
【文献】 特開2008−193709(JP,A)
【文献】 特開2008−039759(JP,A)
【文献】 特開2007−189402(JP,A)
【文献】 特表昭63−502376(JP,A)
【文献】 特開昭61−270928(JP,A)
【文献】 米国特許第07224463(US,B1)
【文献】 Firooz Aflatouni, et al.,“Wideband tunable laser phase noise reduction using single sideband modulation in an electro-optical feed-forward scheme”,Optics Letters,2012年 1月15日,Vol.37,No.2,p.196-198
【文献】 Firooz Aflatouni, et al.,“Design Methodology and Architectures to Reduce the Semiconductor Laser Phase Noise Using Electrical Feedforward Schemes”,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,2010年11月,Vol.58,No.11,p.3290-3303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 − 3/30
H04B 10/00 − 10/90
H04J 14/00 − 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出力されたレーザ光を第1のレーザ光と第2のレーザ光に二分岐する光分岐器と、
前記分岐された第2のレーザ光の位相雑音の変化をマッハツェンダー干渉計及び光検出器を用いて測定しその電気信号を出力する測定器と、
前記測定器から出力された電気信号に基づいて、前記位相雑音の変化を電圧変化に変換したフィードフォワード制御信号を生成する制御信号生成回路と、
前記制御信号生成回路により生成されたフィードフォワード制御信号により駆動され、当該フィードフォワード制御信号の電圧値の変化に対応する周波数を持つ変調信号を発生する変調信号発生回路と、
前記変調信号発生回路により発生された変調信号により、前記分岐された第1のレーザ光を変調する光変調器と
を具備し、
前記制御信号生成回路は、
前記測定から出力された電気信号の同相成分及び直交成分のそれぞれについて時間平均を算出する同相成分用及び直交成分用の時間平均算出手段と、
前記直交成分用の時間平均算出手段により算出された前記直交成分の時間平均値を符号反転する符号反転手段と、
前記測定から出力された電気信号の直交成分と、前記同相成分用の時間平均算出手段により算出された前記同相成分の時間平均値とを乗算する第1の乗算手段と、
前記測定から出力された電気信号の同相成分と、前記符号反転された前記直交成分の時間平均値とを乗算する第2の乗算手段と、
前記第1及び第2の乗算手段により得られた各乗算値を相互に加算し、当該加算後の信号を前記フィードフォワード制御信号として出力する加算手段と
を備えることを特徴とするレーザ位相雑音低減装置。
【請求項2】
前記光分岐器により分岐された第2のレーザ光をもとに、前記測定器、制御信号生成回路及び変調信号発生回路からなるフィードフォワード制御系により生成された変調信号が前記光変調器に入力するタイミングと、前記光分岐器により前記第2のレーザ光と同時に分岐された第1のレーザ光が前記光変調器に入射するタイミングとが一致するように調整するタイミング調整手段を、さらに具備することを特徴とする請求項1記載のレーザ位相雑音低減装置。
【請求項3】
前記光変調器は、前記変調信号発生回路により発生された変調信号により前記第1のレーザ光の−1次サイドバンド光を変調する−1次サイドバンド変調器により構成されるものである請求項1又は2記載のレーザ位相雑音低減装置。
【請求項4】
前記光変調器は、
前記変調信号発生回路により発生された変調信号により駆動され、前記第1のレーザ光を強度変調又は位相変調する変調器と、
前記変調器により変調された第1のレーザ光から−1次サイドバンド光を抽出する光フィルタと
を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ位相雑音低減装置。
【請求項5】
前記変調信号発生回路は、
前記制御信号生成回路により生成されたフィードフォワード制御信号の電圧値を積分して、前記位相雑音を表す電気信号を出力する積分器と、
前記積分器から出力された位相雑音を表す電気信号を符号反転する符号反転器と
を備え、
前記光変調器は、前記符号反転器から出力された符号反転後の電気信号により前記第1のレーザ光を位相変調する位相変調器を
備えることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ位相雑音低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ光の位相雑音を低減するために用いるレーザ位相雑音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光通信や測定等のために使用されるレーザ光には位相雑音が含まれており、この位相雑音を低減するために種々の技術が提案されている。例えば、非特許文献1では、光変調器、周波数弁別器及び電圧制御発振器を用い、周波数弁別器としてマッハツェンダー干渉計と光検出器を用いた装置が記載されている。
【0003】
非特許文献1に記載された装置では、レーザ光源から出射したビームを二分岐して、一方を光変調器へ、他方を周波数弁別器へそれぞれ入射する。周波数弁別器はマッハツェンダー干渉計と光検出器とから構成され、レーザ光の位相雑音の変化量を測定する。そして、この測定された位相雑音の変化量により電圧制御発振器を駆動することで、レーザ光の位相雑音を含む変調信号を生成し、光変調器へ入力されたレーザ光を上記変調信号によりフィードフォワード制御することで、位相雑音が低減した光を得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F. Aflatouni and H. Hashemi, "Wideband tunable laser phase noise reduction using single side-band modulation in an electro-optical feed-forward scheme," Optics Letters, vol. 37, no. 2, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、非特許文献1に記載された技術では、レーザの位相雑音の変化量を正確に測定するために、マッハツェンダー干渉系の片アームに設ける遅延に対して、レーザ光のコヒーレンス時間より小さいことと、ντ=n+1/4(ν:レーザの周波数、τ:マッハツェンダー干渉計の片アームに設ける遅延、n:整数)という2つの条件を満たさなければならない。しかし、この条件を満たすためには、例えば周波数200THzのレーザ光の場合、遅延τをfsオーダの精度で調整する必要があり、容易なことではない。非特許文献1に記載された技術では、遅延τをフィードバック制御することで上記条件を満たしている。しかし、フィードバック制御の帯域によって、レーザ光の位相雑音低減装置の帯域が制限されてしまうという、別の問題が発生する。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、マッハツェンダー干渉計に設定する遅延に対する条件を満たさなくても、レーザ光の位相雑音の変化量を正確に測定できるようにし、これにより帯域制限を受けることなくレーザ光の位相雑音を低減できるようにしたレーザ位相雑音低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の第1の観点は、レーザ光源から出力されたレーザ光を第1のレーザ光と第2のレーザ光に二分岐する光分岐器と、前記分岐された第2のレーザ光の位相雑音の変化をマッハツェンダー干渉計及び光検出器を用いて測定しその電気信号を出力する測定器と、前記測定器から出力された電気信号に基づいて、前記位相雑音の変化を電圧変化に変換したフィードフォワード制御信号を生成する制御信号生成回路と、前記制御信号生成回路により生成されたフィードフォワード制御信号により駆動され、当該フィードフォワード制御信号の電圧値の変化に対応する周波数を持つ変調信号を発生する変調信号発生回路と、前記変調信号発生回路により発生された変調信号により、前記分岐された第1のレーザ光を変調する光変調器とを具備する。そして前記制御信号生成回路は、前記測定から出力された電気信号の同相成分及び直交成分のそれぞれについて時間平均を算出する同相成分用及び直交成分用の時間平均算出手段と、前記直交成分用の時間平均算出手段により算出された前記直交成分の時間平均値を符号反転する符号反転手段と、前記測定から出力された電気信号の直交成分と、前記同相成分用の時間平均算出手段により算出された前記同相成分の時間平均値とを乗算する第1の乗算手段と、前記測定から出力された電気信号の同相成分と、前記符号反転された前記直交成分の時間平均値とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1及び第2の乗算手段により得られた各乗算値を相互に加算し、当該加算後の信号を前記フィードフォワード制御信号として出力する加算手段とを備えるものである。
【0008】
また、この発明の第1の観点は以下のようないくつかの態様を備えることを特徴とする。
第1の態様は、前記光分岐器により分岐された第2のレーザ光をもとに、前記測定器、制御信号生成回路及び変調信号発生回路からなるフィードフォワード制御系により生成された変調信号が前記光変調器に入力されるタイミングと、前記光分岐器により前記第2のレーザ光と同時に分岐された第1のレーザ光が前記光変調器に入射するタイミングとが一致するように調整するタイミング調整手段を、さらに具備するものである。
【0009】
第2の態様は、前記光変調器として−1次サイドバンド変調器を用い、前記変調信号発生回路により発生された変調信号により前記第1のレーザ光の−1次サイドバンド光を変調するものである。
【0010】
第3の態様は、前記光変調器として、前記変調信号発生回路により発生された変調信号により駆動され、前記第1のレーザ光を強度変調又は位相変調する変調器と、この変調器により変調された第1のレーザ光から−1次サイドバンド光を抽出し出力する光フィルタとを備えるものである。
【0011】
第4の態様は、前記変調信号生成回路として、前記制御信号生成回路により生成されたフィードフォワード制御信号の電圧値を積分して、前記位相雑音を表す電気信号を出力する積分器と、前記積分器から出力された位相雑音を表す電気信号を符号反転する符号反転器とを備え、かつ前記光変調器として、前記符号反転器から出力された符号反転後の電気信号により前記第1のレーザ光を位相変調する位相変調器を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の第1の観点によれば、レーザ光に含まれる位相雑音を、フィードバック制御系を用いずにフィードフォワード制御系のみにより低減することが可能となる。このため、マッハツェンダー干渉計に設定する遅延に対する条件を緩和することができ、さらにフィードバック制御の帯域制限の影響を低減して、高い位相雑音の低減効果を得ることができる。
【0014】
第1の態様によれば、タイミング調整手段を備えることで、フィードフォワード制御系により生成された変調信号が光変調器に入力されるタイミングと、レーザ光が上記光変調器に入射するタイミングとが一致するように調整することができる。このため、フィードフォワード制御系における処理遅延が大きい場合でも、光変調器へのレーザ光と変調信号の入力タイミングを一致させることが可能となり、これにより高精度の位相雑音低減処理を実現することができる。
【0015】
第2の態様によれば、光変調器として−1次サイドバンド変調器を用いることで、フィードフォワード制御系により生成された変調信号をそのまま光変調器に与えることで、レーザ光の位相雑音成分を低減することが可能となる。
【0016】
第3の態様によれば、光変調器として、レーザ光を強度変調又は位相変調する変調器と、変調されたレーザ光から−1次サイドバンド光を抽出する光フィルタとを用いることで、比較的安価な光部品により本発明を実施することができる。
【0017】
第4の態様によれば、変調信号生成回路として、フィードフォワード制御信号の電圧値を積分して位相雑音を表す電気信号を出力する積分器と、この積分器から出力された位相雑音を表す電気信号を符号反転する符号反転器とを用いることで、電圧制御発振器を用いずに実現することができる。
【0018】
すなわちこの発明の各観点によれば、マッハツェンダー干渉系の片アームに設ける遅延に対する条件を満たさなくても、レーザ光の位相雑音の変化量を正確に測定できるようになり、これにより帯域制限を受けることなくレーザ光の位相雑音を低減することが可能なレーザ位相雑音低減装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の第1の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図。
図2図1に示した装置の動作説明に使用するコンスタレーションマップを示す図。
図3】この発明の第2の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図。
図4】この発明の第3の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態をいくつか説明する。
[第1の実施形態]
(構成)
図1は、この発明の第1の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図であり、1はレーザ光を発生するレーザ光源、100Aはレーザ位相雑音低減装置をそれぞれ示している。
【0021】
レーザ位相雑音低減装置100Aは、光回路系デバイスとして、光分岐器2−1,2−2と、遅延付与部3と、光90度ハイブリッド部4と、バランス型受光器5−1,5−2と、光路長調整部11と、−1次サイドバンド変調部13とを備えている。このうち遅延付与部3及び光90度ハイブリッド部4はマッハツェンダー干渉計を構成する。
【0022】
またレーザ位相雑音低減装置100Aは、電気回路系デバイスとして、電気信号分岐部6−1,6−2と、時間平均算出部7−1,7−2と、符号反転部8と、乗算器9−1,9−2と、加算器10と、電圧制御発振器12を備えている。これらの回路はフィードフォワード制御回路を構成する。
【0023】
光分岐器2−1は、レーザ光源1から出射されたレーザ光を二分岐し、その一方の第1のレーザ光を光路長調整部11へ、他方の第2のレーザ光を光分岐器2−2へそれぞれ出力する。光分岐器2−2は上記第2のレーザ光をさらに二分岐し、その一方を遅延付与部3へ、他方を光90度ハイブリッド部4にそれぞれ出力する。
【0024】
マッハツェンダー干渉計の遅延付与部3は、上記入力されたレーザ光に遅延量τを与える。光90度ハイブリッド部4は、上記遅延付与部3により遅延量τが与えられたレーザ光と、遅延量τが与えられないレーザ光との間に干渉を発生させ、その干渉波を出力する。バランス型受光器5−1,5−2はそれぞれ上記光90度ハイブリッド部4から出力された干渉波を受光し、その受光信号の直交成分Q(t) 及び同相成分I(t) を出力する。
【0025】
電気信号分岐部6−1,6−2は、それぞれ上記バランス型受光器5−1,5−2から出力された受光信号の直交成分Q(t) 及び同相成分I(t) を二分岐する。時間平均算出部7−1,7−2は、それぞれ上記二分岐された受光信号の直交成分Q(t) 及び同相成分I(t) に対し所定期間の時間平均値を算出する。符号反転部8は、上記時間平均算出部7−1により算出された直交成分Q(t) の時間平均値の符号を反転させる。
【0026】
乗算器9−1は、上記電気信号分岐部6−1により二分岐された受光信号の直交成分Q(t) と、上記時間平均算出部7−2により算出された同相成分I(t) の時間平均値とを乗算する。乗算器9−2は、上記電気信号分岐部6−2により二分岐された受光信号の同相成分I(t) と、上記符号反転部8により符号が反転された直交成分Q(t) の時間平均値とを乗算する。加算器10は、上記乗算器9−1,9−2から出力された乗算値を相互に加算し、その加算信号をフィードフォワード制御信号として電圧制御発振器12に与える。
【0027】
電圧制御発振器12は、上記加算器10から与えられたフィードフォワード制御信号の電圧値に対応する周波数、つまり上記レーザ光に含まれる周波数ゆらぎに相当する周波数を含む信号を発振する。そして、この発振した信号を−1次サイドバンド変調部13に変調信号として供給する。
【0028】
−1次サイドバンド変調部13は、上記光分岐器2−1から出射された第1のレーザ光を上記電圧制御発振器12から供給された変調信号により光変調し、変調された−1次サイドバンド光を出力する。
【0029】
光路長調整部11は、上記光分岐器2−1から出射された第1のレーザ光が上記−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングと、上記光分岐器2−1から上記第1のレーザ光と同時に出射された第2のレーザ光をもとに上記フィードフォワード制御回路で生成された変調信号が上記−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングとが一致するように、第1のレーザ光の光路長を調節するものである。
【0030】
(動作)
次に、以上のように構成されたレーザ位相雑音低減装置の動作を、数式を用いて説明する。
レーザ光源1から出射される光の複素電界振幅E(t) を次式で表す。
【数1】
ここで、Aはレーザ光源1から出射されるレーザ光の振幅、νはレーザ光源1から出射されるレーザ光の周波数、θ(t) はレーザ光源1から出射される光の位相雑音を表す。
【0031】
(1) 式で表されるレーザ光は光分岐素子2−1によって二分岐され、一方は−1次サイドバンド変調部13に入力される。もう一方は光分岐器2−2を介してマッハツェンダー干渉計に入力される。マッハツェンダー干渉計では、遅延付与部3を経て光90度ハイブリッド部4に入射した光と、遅延付与部3を経ずに直接光90度ハイブリッド部4に入射した光とが、光90度ハイブリッド部4において干渉する。
【0032】
このとき、遅延付与部3が与える遅延量をτとすると、干渉S(t) は
【数2】
のように表される。ここで、Δθ(t) は遅延量τに対する位相雑音の変化量を示す。
【0033】
遅延量τに対する位相雑音の変化量Δθ(t) は、
【数3】
のように表される。Δθ(t) は遅延量τに依存する量であり、遅延量τをレーザ光源1のコヒーレンス時間よりも短く調整することで、
【数4】
を満たす。
【0034】
(2) 式で表される干渉の同相成分と直交成分がバランス型受光器5−1,5−2によって検出され、出力される。出力される信号の同相成分をI(t) 、直交成分をQ(t) とすると、これらは上記(2) 式を用いてそれぞれ
【数5】
のように表される。
【0035】
上記(5) 、(6) 式は行列を用いて、
【数6】
のように表せる。
【0036】
(7) 式から、上記同相成分I(t) 、直交成分Q(t) は、コンスタレーションマップにおいて、例えば図2に示すように(cosΔθ(t),sinΔθ(t))を角度2πντ回転させる回転行列をかけたものであることがわかる。
(7) 式の両辺に回転行列の逆行列をかけると、
【数7】
が得られる。
【0037】
そして、(4)式より、sinΔθ(t) ≒Δθ(t) なる近似を行うと、(8) 式のsinΔθ(t) はI(t) 、Q(t) を用いて、
【数8】
のように表される。
【0038】
次に、(5) 式の時間平均を以下のように求める。
【数9】
ここで、Δθ(t)はランダムな波形であり、かつ(4) 式を満たす。
このため、
【数10】
なる近似式が成り立つ。
【0039】
そして、(10) 〜(12) 式より、
【数11】
なる近似が成り立つ。
【0040】
同様に、(6) 式の時間平均を以下のように求める。
【数12】
そして、(11) 、(12) 、(14) 式より、
【数13】
なる近似式が成り立つ。
【0041】
そして、(9) 、(13)、(15)式より、Δθ(t)はI(t) 、Q(t) を用いて
【数14】
のように表される。
【0042】
(16)式で表される電気信号はフィードフォワード制御信号として使用されるもので、電気信号分岐部6−1,6−2、時間平均算出部7−1,7−2、符号反転部8、乗算器9−1,9−2、及び加算器10により構成されるフィードフォワード制御信号生成回路により生成される。
【0043】
次に、(16)式で表されるフィードフォワード制御信号により電圧制御発振器12を駆動する。これにより電圧制御発振器12からは、次式で表される瞬時周波数vosc(t)をもつ信号が出力される。
【数15】
ここで、vmは電圧制御発振器12の発振周波数を表す。
【0044】
また、(17)式の瞬時周波数をもつ信号の時間波形φm(t)は、次式で表される。
【数16】
ここで、θmod(t) は、電圧制御発振器12によって得られたレーザ光の位相雑音成分を表す。
【0045】
(18)式で表される変調信号は、−1次サイドバンド変調部13の変調信号入力端子に入力される。この結果、−1次サイドバンド変調部13からは、フィードフォワード制御されたレーザ光が出力される。すなわち、位相雑音が低減されたレーザ光が得られる。当該レーザ光の複素電界振幅Ered(t) は、
【数17】
のように表される。
【0046】
なお、以上述べたフィードフォワード制御によりレーザ光の位相雑音を低減するには、光分岐器2−1から出射された第1のレーザ光が−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングと、光分岐器2−1から上記第1のレーザ光と同時に出射された第2のレーザ光をもとに上記フィードフォワード制御回路で生成された変調信号が上記−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングとを一致させる必要がある。そこで、光路長調整部11により、第1のレーザ光の光路長を調節する。この光路長の調整操作は、保守員の手操作により行われる。
【0047】
(効果)
以上詳述したように第1の実施形態では、レーザ光源1から出射されたレーザ光をマッハツェンダー干渉計に入射して遅延付与部3により遅延τを与えることで干渉を発生させ、この干渉波に含まれる上記遅延τに対する位相雑音の変化量をバランス型受光器5−1,5−2により検出する。そして、検出された位相雑音の変化量を電圧値の変化量に変換したフィードフォワード制御信号を生成し、このフィードフォワード制御信号を電圧制御発振器12を入力して上記位相雑音の変化に相当する周波数を含む信号を発生させ、この信号を−1次サイドバンド変調部13に変調信号として与えてレーザ光の−1次サイドバンドを変調することで、上記位相雑音が相殺されたレーザ光を出力するようにしている。
【0048】
したがって、レーザ光に含まれる位相雑音を、フィードバック制御系を用いずにフィードフォワード制御系のみにより低減することが可能となる。このため、マッハツェンダー干渉計に設定する遅延τに対しフィードバック制御を行う必要がなくなって、遅延τに対する条件を緩和することができ、また位相雑音低減装置100Aの帯域がフィードバック制御の帯域に制限されることがなく、これによりレーザ光に含まれる位相雑音を効果的に低減することができる。
【0049】
さらに、光路長調整部11を備えることで、レーザ光が−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングを調整して、当該入射タイミングを、フィードフォワード制御系により生成された変調信号が−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングと一致させることができる。このため、フィードフォワード制御系における処理遅延が大きくなる場合であっても、−1次サイドバンド変調部13へのレーザ光と変調信号の入力タイミングを一致させることが可能となり、これにより高精度の位相雑音低減処理を実現することができる。
【0050】
[第2の実施形態]
この発明の第2の実施形態は、第1の実施形態で用いた−1次サイドバンド変調部13に代えて、強度変調又は位相変調を行う変調器と光フィルタとを用いるようにしたものである。
【0051】
図3はこの発明の第2の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図ある。なお、同図において、前記図1と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0052】
第2の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置100Bは、光分岐部2−1により分岐された第1のレーザ光の光路上に、光長調整部11、強度変調又は位相変調部14及び光フィルタ15を配置している。強度変調又は位相変調部14は、電圧制御発振器12から発生された変調信号により、上記光路長調整部11を経て入射したレーザ光の強度または位相を変調する。光フィルタ15は、上記強度変調又は位相変調部14により強度または位相が変調されたレーザ光から、−1次サイドバンド光のみを抽出して出力する。
【0053】
このような構成であるから、電圧制御発振器12により発生された(18)式で示される変調信号が強度変調又は位相変調部14に供給され、これにより強度変調又は位相変調部14においてレーザ光のフィードフォワード制御が行われ、光周波数コムが発生する。そして、この光周波数コムを光フィルタ15に通すことで、光周波数コムから(19)式に示す−1次サイドバンド光が抽出され、出力される。
【0054】
したがって、第2の実施形態においても、先に述べた第1の実施形態と同様に、レーザ光に含まれる位相雑音を、フィードバック制御系を用いずにフィードフォワード制御系のみにより低減することが可能となる。このため、マッハツェンダー干渉計に設定する遅延τに対する条件を緩和することができ、また位相雑音低減装置100Bの帯域がフィードバック制御の帯域に制限されることがなく、これによりレーザ光に含まれる位相雑音を効果的に低減することができる。
【0055】
また、第2の実施形態では光変調部として強度変調又は位相変調部14及び光フィルタ15を用いている。このため、−1次サイドバンド変調部13を用いる場合に比べ、汎用の光部品を用いることができ、これにより装置を安価に提供することができる。
【0056】
さらに、第2の実施形態においても、光路長調整部11により、レーザ光が−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングを調整して、当該入射タイミングを、フィードフォワード制御系により生成された変調信号が−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングと一致させることができる。このため、フィードフォワード制御系における処理遅延が大きくなる場合であっても、−1次サイドバンド変調部13へのレーザ光と変調信号の入力タイミングを一致させることが可能となり、これにより高精度の位相雑音低減処理を実現することができる。
【0057】
[第3の実施形態]
この発明の第3の実施形態は、電圧制御発振器の代わりに積分器及び符号反転部を用い、この積分器及び符号反転部により得られた信号を変調信号として位相変調部に与え、レーザ光を位相変調して位相雑音が低減されたレーザ光を出力するようにしたものである。
【0058】
図4はこの発明の第3の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置の構成を示すブロック図ある。なお、同図において、前記図1と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0059】
第3の実施形態に係るレーザ位相雑音低減装置100Cは、加算器10から出力されたフィードフォワード制御信号を積分器16に入力している。積分器16は、上記フィードフォワード制御信号を積分し、その積分出力信号を符号反転部17に入力している。符号反転部17は、上記入力された積分出力信号の符号を反転させ、符号反転後の積分出力信号を位相変調部18に変調信号として与える。位相変調部18は、上記変調信号によりレーザ光の位相を変調し、この位相変調されたレーザ光を位相雑音が低減されたレーザ光として出力する。
【0060】
以上のように構成された装置の動作を数式を用いて説明する。なお、マッハツェンダー干渉計及びフィードフォワード制御回路において、(1) 式〜(16)式に示す処理が行われてフィードバック制御信号が生成される点は、第1の実施形態と同様である。
【0061】
(16)式で表される電気信号を積分器16で積分すると、レーザ光源1の位相雑音を表す信号が得られる。この信号は、
【数18】
のように表される。
【0062】
次に、上記積分器16により得られた信号を符号反転部17に入力して符号を反転し、この符号反転された信号を位相変調部18に変調信号として与えると、位相変調部18においてレーザ光がフィードフォワード制御され、これにより位相雑音が低減されたレーザ光が出力される。このレーザ光の複素電界振幅Ered(t) は、
【数19】
のように表される。なお、θmod(t) は、積分器16から出力される、レーザ光の位相雑音成分を表す。
【0063】
したがって第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、レーザ光に含まれる位相雑音を、フィードバック制御系を用いずにフィードフォワード制御系のみにより低減することが可能となる。このため、マッハツェンダー干渉計に設定する遅延τに対する条件を緩和することができ、またレーザ位相雑音低減装置100Cの帯域がフィードバック制御の帯域に制限されることがなく、これによりレーザ光に含まれる位相雑音を効果的に低減することができる。
【0064】
また、積分器16と符号反転部17を用いて変調信号を生成しているので、電圧制御発振器12を用いる場合に比べフィードフォワード制御系の回路構成を簡単かつ安価に実現することができる。
【0065】
さらに、第3の実施形態においても、光路長調整部11により、第1のレーザ光が−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングを調整して、当該入射タイミングを、フィードフォワード制御系により生成された変調信号が−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングと一致させることができる。このため、フィードフォワード制御系における処理遅延が大きくなる場合であっても、−1次サイドバンド変調部13へのレーザ光と変調信号の入力タイミングを一致させることが可能となり、これにより高精度の位相雑音低減処理を実現することができる。
【0066】
[その他の実施形態]
前記各実施形態では、第1のレーザ光の光路に光路調整部11を配置して、レーザ光が光変調部に入射するタイミングを調整するようにした。しかしこれに限定されるものではなく、第1のレーザ光の光路には第1のレーザ光に対し予め定めた固定遅延量を与える遅延部を配置すると共に、フィードフォワード制御系の電気回路中にフィードフォワード制御信号の出力タイミングを調整する可変遅延器を設ける。そして、この可変遅延器の遅延量を可変制御することで、第1のレーザ光が−1次サイドバンド変調部13に入射するタイミングと、フィードフォワード制御系により生成された変調信号が−1次サイドバンド変調部13に入力されるタイミングとを一致させるようにしてもよい。このように構成すると、タイミング調整をより簡単かつ正確に行うことが可能となる。
【0067】
その他、フィードフォワード制御系の回路構成や、変調信号を生成する回路の構成、光変調部の種類などについても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0068】
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…レーザ光源、2−1,2−2…光分岐器、3…遅延付与部、4…光90度ハイブリッド部、5−1,5−2…バランス型受光器、6−1,6−2…電気信号分岐器、7−1,7−2…時間平均算出部、8…符号反転部、9−1,9−2…乗算器、10…加算器、11…光路長調整部、12…電圧制御発振器、13…−1次サイドバンド変調部、14…強度変調又は位相変調部、15…光フィルタ、16…積分器、17…符号反転部、18…位相変調部。
図1
図2
図3
図4