【文献】
H.GULYAS, et al.,A direct approach to selective sulfonation of triarylphosphines,Tetrahedron Letters,2002年,Vol.43, No.14,p.2543-2546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンと、窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンとを反応して得られる、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の製造方法。
前記第3級アミンが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−s−ブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリネオペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルイソブチルアミン、N,N−ジメチル−s−ブチルアミン、N,N−ジメチル−t−ブチルアミン、N,N−ジメチルペンチルアミン、N,N−ジメチルイソペンチルアミン、N,N−ジメチルネオペンチルアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルヘプチルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルノニルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルウンデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルフェニルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルモノメチルアミン、N,N−ジプロピルモノメチルアミン、N,N−ジイソプロピルモノメチルアミン、N,N−ジブチルモノメチルアミン、N,N−ジイソブチルモノメチルアミン、N,N−ジ−s−ブチルモノメチルアミン、N,N−ジ−t−ブチルモノメチルアミン、N,N−ジペンチルモノメチルアミン、N,N−ジイソペンチルモノメチルアミン、N,N−ジネオペンチルモノメチルアミン、N,N−ジヘキシルモノメチルアミン、N,N−ジヘプチルモノメチルアミン、N,N−ジオクチルモノメチルアミン、N,N−ジノニルモノメチルアミン、N,N−ジデシルモノメチルアミン、N,N−ジウンデシルモノメチルアミン、N,N−ジドデシルモノメチルアミン、N,N−ジフェニルモノメチルアミン、N,N−ジベンジルモノメチルアミン、N,N−ジプロピルモノメチルアミン、N,N−ジイソプロピルモノエチルアミン、N,N−ジブチルモノエチルアミン、N,N−ジイソブチルモノエチルアミン、N,N−ジ−s−ブチルモノエチルアミン、N,N−ジ−t−ブチルモノエチルアミン、N,N−ジペンチルモノエチルアミン、N,N−ジイソペンチルモノエチルアミン、N,N−ジネオペンチルモノエチルアミン、N,N−ジヘキシルモノエチルアミン、N,N−ジヘプチルモノエチルアミン、N,N−ジオクチルモノエチルアミン、N,N−ジノニルモノエチルアミン、N,N−ジデシルモノエチルアミン、N,N−ジウンデシルモノエチルアミン、N,N−ジドデシルモノエチルアミン、N,N−ジフェニルモノエチルアミン、N,N−ジベンジルモノエチルアミンまたはトリノニルアミンである、請求項2に記載のビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の製造方法。
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンが90モル%以上、(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィン10モル%以下からなる混合物。
請求項4に記載の混合物と、窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンを反応させてなる、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩を90モル%以上含有する混合物の製造方法。
濃硫酸の存在下、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィン1モルに対して三酸化硫黄2.5〜4.5モルを反応させてなるスルホン化反応液を得、得られたスルホン化反応液を水で希釈して希釈液を得る工程、
該希釈液をアルカリ金属水酸化物で中和する工程、
前記中和工程にて得られた水溶液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させる工程、
を有する、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンの製造方法。
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンと、窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンとを反応させることによる、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の製造方法。
【背景技術】
【0002】
リン化合物とパラジウム化合物からなるパラジウム触媒は、共役アルカジエン2分子と求核性反応剤のテロメリ化反応の触媒として有用である。具体的には、二酸化炭素および第3級アミンの存在下、ブタジエン2分子と水1分子をテロメリ化反応させて2,7−オクタジエン−1−オールを製造するための触媒として有用である。こうして得られる2,7−オクタジエン−1−オールは、異性化反応によって7−オクテナールへ誘導でき、7−オクテナールはヒドロホルミル化反応によって1,9−ノナンジアールへ誘導できる。該1,9−ノナンジアールは、還元アミノ化反応によって高分子モノマー原料として有用な1,9−ノナンジアミンに誘導できることから、2,7−オクタジエン−1−オールは工業的価値が高いため、その製造に有利な触媒を開発することも重要である。
【0003】
工業的有利に2,7−オクタジエン−1−オールを製造するためには、上記テロメリ化反応において、貴金属であるパラジウムを回収して反応に再使用することが好ましい。このような2,7−オクタジエン−1−オールの製造法としては、テロメリ化反応を利用した以下の方法が知られている。
(A)第3級アミンの炭酸塩および重炭酸塩を含むスルホラン水溶液中、パラジウム化合物および水溶性ホスフィンからなるパラジウム触媒の存在下でブタジエンと水とをテロメリ化反応させることによって2,7−オクタジエン−1−オールを生じさせ、反応混合液の少なくとも一部を飽和脂肪族炭化水素などで抽出することによって2,7−オクタジエン−1−オールを抽出分離し、パラジウム触媒を含むスルホラン抽残液の少なくとも一部を循環して反応に使用する、2,7−オクタジエン−1−オールの製造方法(特許文献1〜3参照)、
(B)パラジウム化合物および水溶性リン含有化合物からなるパラジウム触媒を水に溶解せしめた水相と、ブタジエンを有機相とする2相系において、ブタジエンの水への低い溶解度に起因する低い反応速度を補うべく界面活性剤としての機能を有する第3級アミンを共存させて、ブタジエンと水とをテロメリ化反応させる、2,7−オクタジエン−1−オールの製造方法(特許文献4および非特許文献1参照)。
【0004】
上記方法(A)では、テロメリ化反応液に対して飽和脂肪族炭化水素を添加することにより2,7−オクタジエン−1−オールを抽出しており、この飽和脂肪族炭化水素そのものの蒸留回収設備を必要とするため、設備関連の費用負担が増大する。また、スルホランはヘキサンなどの一般的な炭化水素系溶媒に比べて高価であるため、抽出によって得られた2,7−オクタジエン−1−オール相を水洗するなどしてスルホランを回収する必要もある。さらに、スルホランは硫黄原子を含有する物質であることから、焼却廃棄する場合には、脱硫設備を有する焼却炉を必要とする。よって、テロメリ化反応にスルホランを用いず、かつ、テロメリ化反応後に簡便にパラジウム触媒の多くを回収する方法が求められる。
上記方法(B)では、第3級アミンとして、例えばジメチルドデシルアミンを用いる。ジメチルドデシルアミンは界面活性剤としての機能を有することから、第3級アミンの回収率を高めるためには複数回の抽出回収もしくは蒸留分離などの煩雑な操作を必要とする。また、実施例によれば、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択性が低い方法と言える。よって、回収の容易な第3級アミンを用いることができる方法であって、かつ、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択性の高い方法が求められる。
【0005】
なお、テロメリ化反応に使用し得る水溶性トリアリールホスフィンの製造方法としては、以下の方法が知られている。
(1)トリフェニルホスフィンを硫酸に溶解させた後、発煙硫酸中の三酸化硫黄と反応させることによる、ビス(3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩の製造方法(非特許文献2および3参照)。
(2)硫酸とオルトホウ酸との無水混合物を用いてトリフェニルホスフィンをスルホン化することによる、ビス(3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩の製造方法(特許文献5参照)。
(3)メチル基またはメトキシ基などの電子供与基を芳香環に有するトリアリールホスフィンと三酸化硫黄とを、硫酸の存在下で反応させる方法(非特許文献4参照)。
(4)3つの芳香環それぞれにメチル基またはメトキシ基などの電子供与基を有するトリアリールホスフィンと三酸化硫黄とを、硫酸の存在下で反応させる方法。(非特許文献5参照)。
これらの方法によって得られるスルホナト基を有するトリアリールホスフィンのアルカリ金属塩をテロメリ化反応に使用する場合には、アルカリ金属の炭酸水素塩などの無機塩が反応系内に蓄積し、配管を閉塞するという問題がある。この問題を回避する方法として、テロメリ化反応の触媒として、スルホナト基を有するトリアリールホスフィンと第3級アミンとを反応させて得られるアンモニウム塩を用いることが好ましいことが知られている(特許文献6参照)。
【0006】
上記の水溶性トリアリールホスフィンの製造方法(1)では、リン1原子に対して等価な芳香環としてのベンゼン環が結合したトリフェニルホスフィンを三酸化硫黄によってスルホン化し、水酸化ナトリウムで中和することによってビス(3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩を製造できるが、収率は60%と低い。これは、トリス(3−スルホナトフェニル)ホスフィン三ナトリウム塩の副生が主要因である。すなわち、等価な芳香環に対して「2つ」のスルホ基のみを選択的に導入することが困難であることを示している。
水溶性トリアリールホスフィンの製造方法(2)は、スルホン化反応の際、三酸化硫黄の代わりにオルトホウ酸を用いる方法である。ビス(3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩が収率94%で取得できているが、ホウ酸を完全に除去するために、スルホン化反応液にトルエンおよびトリイソオクチルアミンを一旦加えることによって目的物のアミン塩を有機相に存在せしめ、有機相を十分に水洗し、洗浄後の有機相に水酸化ナトリウム水溶液を加えて得られる水相を硫酸で中和したのち濃縮し、メタノールを加えて得られる上澄み液からメタノールを除去することによってビス(3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩を取得するというものである。収率は高いものの、ホウ酸除去のために洗浄を繰り返す必要があり工業的な実施は困難である。
【0007】
水溶性トリアリールホスフィンの製造方法(3)は、芳香環に予めメチル基またはメトキシ基などの電子供与基を導入したトリアリールホスフィンと三酸化硫黄を硫酸存在下で反応させる方法である。非等価な芳香環を有するビス(4−メトキシフェニル)フェニルホスフィンなどを原料とし、ビス(4−メトキシ−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二ナトリウム塩を収率85%で取得している。また、水溶性トリアリールホスフィンの製造方法(4)には、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンからビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(3−スルホナトフェニル)ホスフィン三ナトリウム塩を21%の収率で製造できたことが示されている。しかし、本発明で用いるビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンは、ビス(2,4−ジメチルフェニル)フェニルホスフィンに比べてメチル基などの置換基数が少ないことから、スルホ基もしくはスルホナト基の導入数が3であるものが生じやすく、これに伴い、目的とするビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンひいてはビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の収率が低くなるおそれがある。
【0008】
スルホナト基を有するトリアリールホスフィンのアンモニウム塩の製造方法としては、スルホナト基を有するトリアリールホスフィンのアルカリ金属塩を原料として、以下のように、対陽イオンをイオン交換方法によって所望のアンモニウム塩に変換する方法が知られている。
ジフェニル(3−スルホナトフェニル)ホスフィンナトリウム塩の水溶液に対して硫酸を加えた後、4−メチル−2−ペンタノンを加え、得られる有機相に対してトリエチルアミンを加えることによって固体状のジフェニル(3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩を析出させる方法(特許文献6参照)。
ジフェニル(3−スルホナトフェニル)ホスフィンナトリウム塩を、トリエチルアミン、エタノールおよび2−プロパノールの存在下、二酸化炭素で加圧し、その反応液の濾液から目的物を取得する方法(特許文献7参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本明細書において、好ましいとする規定は任意に採用することができ、好ましいとする規定同士の組み合わせは、より好ましいと言える。
【0016】
本発明は、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンおよびそのアンモニウム塩を提供する。該アンモニウム塩とは、より具体的には、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩である。
これらは、下記工程によって効率的に製造できるが、特に下記工程に限定されるものではない。
[1.スルホン化工程]
濃硫酸の存在下、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィン1モルに対して三酸化硫黄2.5〜4.5モルを反応させてスルホン化反応液を得、得られたスルホン化反応液を水で希釈して希釈液を得る工程を有する。
[2.中和工程]
上記希釈液をアルカリ金属水酸化物で中和し、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩を含む水溶液を得る工程。
[3.イオン交換工程]
中和工程で得た水溶液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させ、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンを形成する工程。
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンは、これまでの工程によって製造できる。なお、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の製造には、さらに下記工程も必要となる。
[4.アンモニウム塩化工程]
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンと、窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンとを反応させ、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩を形成する工程。
【0017】
なお、以下に上記工程について詳細に説明するが、ホスフィン化合物は酸素によって容易に酸化されることから、たとえ明記していなくても、原則、操作は不活性ガス雰囲気下で実施する。さらに、同様の観点から、溶媒を用いる場合には、溶媒に含まれる溶存酸素を不活性ガスで置換したものを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンが挙げられ、工業的な入手容易性の観点から、窒素ガスを用いることが好ましい。
【0018】
[1.スルホン化工程]
ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンの製造方法に特に制限はなく、公知の方法によって製造できる。例えば、ジクロロフェニルホスフィンと2−ブロモトルエンから得られるグリニャール試薬との反応(ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1978年、第43巻、2941〜2956頁参照)などが知られている。
【0019】
ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンと三酸化硫黄とを、濃硫酸の存在下に反応させる操作手順に特に制限はないが、例えば、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンを濃硫酸に溶解させてから、三酸化硫黄と反応させることによって、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンをスルホン化することができる。
なお、三酸化硫黄の代わりにオルトホウ酸と反応させることによってスルホン化することもできる。本発明者らの知見によれば、オルトホウ酸を用いる場合にはスルホン化反応液からのオルトホウ酸の除去が煩雑であることから、三酸化硫黄を用いることが好ましく、三酸化硫黄と硫酸からなる発煙硫酸を用いることがより好ましい。
【0020】
スルホン化工程は、ジャケット付き完全混合型反応器を用いて実施できる。ここでいう完全混合型反応器とは、反応器内に供給した原料が一瞬の時間も置かずに、実質的に均一な分散状態へ混合されるように設計された反応器のことである。
反応器の材質としては、ステンレス鋼、ハステロイC、チタンなどが好ましく、また、反応器の内壁の材料としてはグラスライニングされたものも使用できる。反応器に起因する金属イオンの目的物への混入を回避する観点から、内壁の材料としては、グラスライニングされたものを用いることが好ましい。なお、グラスライニングとは、金属とガラスの2材料を融合させ、金属の表面改質を行う方法のことである。
スルホン化工程は、回分式(半連続式を含む)および流通連続式のいずれの形態でも実施できる。場合によっては、完全混合型反応器を2〜3基直列に接続して、流通連続式で実施することもできる。後述のスルホン化反応液の水希釈および次工程の中和工程を1つの反応槽で実施することが設備の簡素化に繋がることから、回分式(半連続式を含む)で実施することが好ましい。
【0021】
濃硫酸は、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンを溶解する役割を果たす。濃硫酸としては、硫酸含有量が高いものが好ましく、工業的入手容易性の観点から、濃度96質量%以上のものを用いることがより好ましい。濃硫酸中の硫酸含有量が多いほど、発煙硫酸に含まれる三酸化硫黄の加水分解を抑制できるために好ましい。硫酸に比べて発煙硫酸は高価であることから、三酸化硫黄の加水分解を抑制することは経済的に好ましい。
スルホン化に用いた濃硫酸は、アルカリ金属水酸化物などで中和することによって硫酸アルカリ金属塩などとして廃棄処理することが一般的であるため、硫酸使用量を低減するような製造条件であることが好ましい。この観点から、硫酸使用量はビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが溶解する量程度とするのが好ましく、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが20〜70質量%となる量に調整することがより好ましい。この範囲であれば、廃棄すべき硫酸の量を低減できるうえ、調製した混合液の粘度が低いために十分な混合状態のままで三酸化硫黄と反応させることが可能となり、ひいては目的物の収率が向上する。
ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンの濃硫酸溶液を調製するときの温度は、0〜100℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。この範囲であれば、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンの酸化反応が進行することもないうえ、混合液の粘度が低いために十分な混合状態のままで三酸化硫黄と反応させることが可能となり、ひいては目的物の収率が向上する。
【0022】
三酸化硫黄は、硫酸に三酸化硫黄が溶解した発煙硫酸の形態で反応に使用することが好ましい。発煙硫酸中の三酸化硫黄の濃度は、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。この範囲であれば実質的な硫酸使用量を低減でき、さらに、反応系内の三酸化硫黄濃度を一定以上に維持できることに起因して、スルホン化工程に要する時間を短縮できる。
三酸化硫黄の使用量は、ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが有するリン原子1モルに対して2.5〜4.5モルが好ましく、3.0〜4.0モルがより好ましい。この範囲において目的物の収率が高い。なお、該数値範囲は、加水分解による消費を考慮しない数値範囲である。加水分解による消費が考え得る場合には、その量に応じて、三酸化硫黄の使用量を増加するのがよい。
スルホン化工程の反応温度は、0〜100℃が好ましく、10〜50℃がより好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。この範囲であれば反応時間が短いままで、目的物の収率が高い。
ビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンの濃硫酸溶液に対しての発煙硫酸の添加はゆっくり行うことが好ましく、該添加に要する時間は、0.25〜5時間が好ましく、0.5〜3時間がより好ましい。この範囲であれば、反応時間が長過ぎず、かつ目的物の収率が高い。なお、発煙硫酸の添加後は、発煙硫酸の流路を濃硫酸で洗浄し、こうして得られる洗浄液を反応溶液と混合することが好ましい。
発煙硫酸の添加終了後からの反応時間は、2〜20時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。この範囲である場合に、目的物の収率が高い。
【0023】
(水希釈操作)
上記の操作により得られるスルホン化反応液を水で希釈することによって、未反応の三酸化硫黄を加水分解でき、それによってスルホン化反応を停止できる。
そしてまた、希釈に用いる水は、濃硫酸の希釈熱および三酸化硫黄の加水分解反応熱を除く役割も果たすと共に、次工程の中和工程での溶媒としての役割も果たす。
希釈に用いる水の温度としては、凍結しない程度であればよく、1〜40℃が好ましく、2〜25℃がより好ましい。この範囲の温度の中でも、低温であるほど、効率よく除熱できて好ましい。
水の使用量は、未反応の三酸化硫黄を加水分解できる量以上であればよいが、後述の中和工程での温度制御の観点から、スルホン化反応液に対して1〜20倍質量であることが好ましい。この範囲であれば、除熱が容易であるうえ、後述する中和工程における排水量を低減できる。
水による希釈時の液温は、0〜100℃が好ましく、1〜40℃がより好ましい。この範囲であれば、中和工程に着手するに際して液温を低下させるなどの作業が不要となり、生産性を向上できる。
【0024】
[2.中和工程]
中和工程では、スルホン化工程に用いた反応器をそのまま用い、かつ回分式(半連続式を含む)で引き続き実施することが設備の簡素化の点で好ましい。
中和工程で使用するアルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。中でも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
アルカリ金属水酸化物を使用することで、強酸性陽イオン交換樹脂によるビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩からビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンへの高いイオン交換率を達成できる。
【0025】
アルカリ金属水酸化物は固体のままで用いてもよいし、水溶液として用いてもよいが、中和時の局所的な発熱を回避すること、および、除熱効率を高める観点からは、水溶液として用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度に特に制限はないが、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%のものを用いることが好ましい。この範囲であれば、中和後の液量が少なく、排水量を低減できる。なお、アルカリ金属水酸化物水溶液は、前記スルホン化工程で得られたスルホン化反応液にゆっくり添加することが好ましく、場合によっては、幾度かに分けて添加してもよい。また、上記濃度範囲のアルカリ金属水酸化物水溶液を用いた後、濃度の異なるアルカリ金属水酸化物水溶液、例えば上記範囲外の濃度のアルカリ金属水酸化物水溶液(通常は、濃度の低いアルカリ金属水酸化物水溶液)を後から用いてもよい。
アルカリ金属水酸化物の使用量は、硫酸およびビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンを中和する量であれば特に制限はないが、中和終了後の25℃における水溶液のpHが7.0〜9.5となることが好ましく、7.5〜8.5となることがより好ましい。この範囲であれば、硫酸の大部分を硫酸アルカリ金属塩に誘導できる。なお、過剰のアルカリ金属水酸化物は、後述するイオン交換工程において水に変換できる。
【0026】
中和温度に特に制限はないが、通常、良好なアルカリ金属硫酸塩の析出を促すため、0〜40℃が好ましく、1〜25℃がより好ましい。0℃以上であれば、冷却に関わるエネルギー消費量を抑制できて好ましい。また、40℃以下であれば、液の移送時にアルカリ金属硫酸塩が析出するのを抑制でき、配管の閉塞などのおそれがない。
中和に要する時間は、用いる反応器の除熱能力に見合った範囲であればよい。具体的には、0.5〜20時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。0.5時間以上であれば、効率的に中和熱を除去できるため、除熱効率の高い完全混合攪拌槽を用いるなどの必要がなく、経済的に好ましい。20時間以下であれば、設定温度を維持するためのエネルギー消費量の増大を抑制できて好ましい。
【0027】
本工程において中和してなる水溶液(以下、中和液と称する。)は、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩およびアルカリ金属硫酸塩が主成分である。
メタノール、エタノール、1−プロパノールなどのアルコールへの溶解度は、アルカリ金属硫酸塩に比べてビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩が高く、この溶解度差を利用して、アルカリ金属硫酸塩を分離できる。中和液に直接アルコールを加えることによってアルカリ金属硫酸塩を析出させることも可能であるが、使用するアルコールの量を低減すること、および、目的物へのアルカリ金属硫酸塩の混入を抑制するという観点から、事前に、中和液から水を可能な限り留去しておくことが好ましく、中和液中の水の90〜98質量%を留去しておくことがより好ましい。このように、水を留去して得られる濃縮物に対して、前記アルコールを添加し、アルカリ金属硫酸塩を分離する手法が好ましい。
アルコールとしてメタノール、エタノール、1−プロパノールなどが挙げられるが、アルコール量を低減する観点から、メタノールを使用することが好ましい。
アルカリ金属硫酸塩の分離に用いるアルコールの使用量に特に制限はないが、前記濃縮物に対して、0.5〜80倍質量が好ましく、5〜20倍質量がより好ましい。この範囲であれば、目的物の単離に際して、留去するアルコール量を低減でき、かつ、アルカリ金属塩を十分に析出できる。
アルコール溶液の不溶物がアルカリ金属硫酸塩であり、これを濾過またはデカンテーションによって分離除去すればよい。濾過またはデカンテーションの温度は、0〜50℃が好ましく、1〜25℃がより好ましい。この範囲であれば、アルカリ金属硫酸塩のみを選択的に析出でき、目的物の収率が高い。
以上のようにして得られたアルコール溶液にアルカリ金属硫酸塩が混入している場合には、得られたアルコール溶液を濃縮し、再びアルコールに溶解させ、前記のアルカリ金属硫酸塩の分離除去操作を繰り返してもよい。
【0028】
アルコール溶液からアルコールを留去することによって、固体として、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンアルカリ金属塩が10モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩が90モル%以上である混合物を取得できる。以下、この混合物をアルカリ金属塩混合物と略する。
該アルカリ金属塩混合物は、好ましくは、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンアルカリ金属塩が5モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩が95モル%以上である。
【0029】
アルカリ金属塩混合物中のビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩の含有量を高めるには、水およびテトラヒドロフランなどからなる混合溶媒を移動層とし、シリカゲルを充填したカラムに通じるといったカラムクロマトグラフィーを利用することができる。または、アルカリ金属塩混合物の水溶液を調製し、2−ブタノンなどの有機溶剤で洗浄する方法も利用できる。
【0030】
[3.イオン交換工程]
前記中和工程にて得られたアルカリ金属塩混合物を強酸性陽イオン交換樹脂と反応させることにより、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アルカリ金属塩をビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンに誘導できる。
本発明者らの検討によれば、スルホ基の対陽イオンがアルカリ金属であるトリアリールホスフィンを第3級アミンと二酸化炭素をアルコール溶媒の存在下に反応させるという公知の方法、および、スルホ基の対陽イオンがアルカリ金属であるトリアリールホスフィンを非環式ケトンなどの溶媒中でプロトン酸と反応させるという公知の方法では、いずれの場合も目的物の収率が低くなる。ゆえに、強酸性イオン交換樹脂を用いることが重要であり、当該方法によって目的物の収率が高くなる。
アルカリ金属塩混合物のアルコール溶液をそのまま強酸性陽イオン交換樹脂と接触させることも可能であるが、アルカリ金属塩混合物のアルコールへの溶解性は水への溶解性に比べて低いことから、アルカリ金属塩混合物を水溶液としてから強酸性陽イオン交換樹脂と接触させて反応させることが好ましい。
陽イオン交換樹脂として強酸性陽イオン交換樹脂を使用することによって、少ないイオン交換樹脂量でアルカリ金属イオンをプロトンに十分に変換できる。
【0031】
強酸性陽イオン交換樹脂としては、スチレンとジビニルベンゼン共重合体にスルホ基を導入したもの、パーフルオロスルホン酸とテトラフルオロエチレンの共重合体、などを好ましく使用できる。
強酸性陽イオン交換樹脂には非水系のものおよび水系のものがあるが、どちらを使用してもよい。基体の種類によって、マクロポーラス型、ゲル型などがあるが、どちらを使用してもよい。強酸性陽イオン交換樹脂としては、該樹脂が有するスルホ基の対イオンがプロトンのものとナトリウムイオンのものが一般的に知られている。対イオンがナトリウムイオンのものを用いる場合には、塩酸、硫酸などのプロトン酸で前処理することにより、該ナトリウムイオンをプロトンに変換して用いる。対イオンがプロトンの樹脂の場合は、前処理なく使用できる。
強酸性陽イオン交換樹脂は、粉状であっても粒状であってもよいが、使用状態での摩擦による破壊を回避する観点から、粒状のものを用いることが、好ましい。粒状のものを用いる場合、平均粒子径に特に制限はないが、0.3〜3mmが好ましく、0.5〜1.5mmがより好ましい。0.3mm以上であれば、製品への混入が起こり難く、また、3mm以下であれば、アルカリ金属塩混合物の水溶液との接触面積を高く維持できるため、強酸性陽イオン交換樹脂の使用量を抑えることができる。
これらを満たすスチレンとジビニルベンゼン共重合体にスルホ基を導入してなる強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、ローム アンド ハース社製のアンバーリスト15、アンバーリスト16、アンバーリスト31、アンバーリスト32、アンバーリスト35[以上、アンバーリスト(Amberlyst)は登録商標である。]、ダウ・ケミカル社製のダウエックス50W、ダウエックス88、ダウエックスG−26[以上、ダウエックス(Dowex)は登録商標である。]、三菱化学株式会社製のダイヤイオンSK104、ダイヤイオンSK1B、ダイヤイオンPK212、ダイヤイオンPK216、ダイヤイオンPK228[以上、ダイヤイオンは登録商標である。]などが挙げられる。
パーフルオロスルホン酸とテトラフルオロエチレンの共重合体としての強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、デュポン社製のナフィオンSAC−13、ナフィオンNR−50[以上、ナフィオン(Nafion)は登録商標である。]などが挙げられる。
強酸性陽イオン交換樹脂としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
イオン交換工程は、流通式および回分式のどちらででも実施できる。カラムまたは固定床反応器などを用いて流通式で実施する場合には、強酸性陽イオン交換樹脂の摩擦による破壊を抑制できるうえ、平衡反応を偏らせる効果があるために強酸性陽イオン交換樹脂の使用量を低減できる。
水溶液の流れを均一にする観点から、反応器は管状構造のものが好ましい。管径は特に制限されるわけではないが、強酸性陽イオン交換樹脂の交換作業を簡便にすることから、50〜500mmであることが好ましい。反応器、つまり反応管の長さおよび数には特に制限はないが、反応器の製造費用および所望生産能力を達成するために必要な強酸性陽イオン交換樹脂などから適宜設定することが好ましい。
なお、層流は、固定床反応器に対して水溶液を反応器上部から供給するダウンフロー方式であってもよいし、反応器下部から供給するアップフロー方式であってもよい。
【0033】
アルカリ金属塩混合物の水溶液中のアルカリ金属塩混合物の濃度としては、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。この範囲であれば、少ない水の使用量で、アルカリ金属イオンの99モル%以上をプロトンに変換できる。
アルカリ金属塩混合物の水溶液の温度としては、10〜120℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。10℃以上であれば、イオン交換速度の低下がなく、強酸性陽イオン交換樹脂の使用量が増大するのを避けられる。また、120℃以下であれば、イオン交換樹脂の変形によって樹脂の細孔が閉塞されるのを抑制でき、ひいてはイオン交換率の低下を抑制できる。
強酸性陽イオン交換樹脂の使用量は、予め交換すべきアルカリ金属イオンの量から計算したイオン交換可能な理論量の1.5倍以上であることが好ましい。こうすることで、アルカリ金属塩混合物に含まれるアルカリ金属イオンの99モル%以上をプロトンに交換できる。さらに、高いイオン交換率を所望する場合には、繰り返し強酸性陽イオン交換樹脂と作用させてもよい。
アルカリ金属塩混合物の水溶液の流量に特に制限はないが、供給水溶液体積速度(m
3/hr)を、強酸性陽イオン交換樹脂からなる樹脂層の体積(m
3)で割った値としての液体時空間速度(LHSV)が5〜30hr
-1であるのが好ましく、10〜20hr
-1であるのがより好ましい。この範囲であれば、イオン交換効率が高い。
【0034】
強酸性陽イオン交換樹脂と接触させた水溶液から水を留去することによって、固体として、(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが10モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンが90モル%以上である混合物を取得できる。以下、この混合物をイオン交換混合物と略する。
該イオン交換混合物は、好ましくは、(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが5モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンが95モル%以上である。
【0035】
[4.アンモニウム塩化工程]
前記イオン交換工程で得たイオン交換混合物に含まれるスルホ基と同モル数以上の第3級アミンを作用させることによって対応するアンモニウム塩に誘導できる。
イオン交換混合物は水に溶解することが好ましく、留去する溶媒量を低減する観点から、イオン交換混合物を3〜25質量%含む水溶液として用いることが好ましい。
第3級アミンの適量は、電位差滴定によって確認できる。過剰の第3級アミンを加えた場合には、過剰の第3級アミンを留去してもよい。
第3級アミンの使用量としては、イオン交換混合物に含まれるスルホ基に対して1〜3倍モルが好ましく、1.1〜2倍モルがより好ましく、1.1〜1.5倍モルがさらに好ましい。
イオン交換混合物と第3級アミンを反応させて得られる溶液は、濃縮乾固することで固体の目的物を単離することもできれば、水の一部を留去することによって濃縮水溶液を取得することもできるし、そのままの状態であってもよい。
イオン交換混合物の水溶液に第3級アミンを直接加え、10〜30℃で、0.5〜3時間、十分に混合することによって、対応するアンモニウム塩への反応を十分に進められる。
【0036】
なお、第3級アミンとしては、窒素1原子に対して結合するアルキル基の総炭素数が3〜27である第3級アミンを用いる。
第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ−s−ブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリネオペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルイソブチルアミン、N,N−ジメチル−s−ブチルアミン、N,N−ジメチル−t−ブチルアミン、N,N−ジメチルペンチルアミン、N,N−ジメチルイソペンチルアミン、N,N−ジメチルネオペンチルアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルヘプチルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルノニルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルウンデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルフェニルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルモノメチルアミン、N,N−ジプロピルモノメチルアミン、N,N−ジイソプロピルモノメチルアミン、N,N−ジブチルモノメチルアミン、N,N−ジイソブチルモノメチルアミン、N,N−ジ−s−ブチルモノメチルアミン、N,N−ジ−t−ブチルモノメチルアミン、N,N−ジペンチルモノメチルアミン、N,N−ジイソペンチルモノメチルアミン、N,N−ジネオペンチルモノメチルアミン、N,N−ジヘキシルモノメチルアミン、N,N−ジヘプチルモノメチルアミン、N,N−ジオクチルモノメチルアミン、N,N−ジノニルモノメチルアミン、N,N−ジデシルモノメチルアミン、N,N−ジウンデシルモノメチルアミン、N,N−ジドデシルモノメチルアミン、N,N−ジフェニルモノメチルアミン、N,N−ジベンジルモノメチルアミン、N,N−ジプロピルモノメチルアミン、N,N−ジイソプロピルモノエチルアミン、N,N−ジブチルモノエチルアミン、N,N−ジイソブチルモノエチルアミン、N,N−ジ−s−ブチルモノエチルアミン、N,N−ジ−t−ブチルモノエチルアミン、N,N−ジペンチルモノエチルアミン、N,N−ジイソペンチルモノエチルアミン、N,N−ジネオペンチルモノエチルアミン、N,N−ジヘキシルモノエチルアミン、N,N−ジヘプチルモノエチルアミン、N,N−ジオクチルモノエチルアミン、N,N−ジノニルモノエチルアミン、N,N−ジデシルモノエチルアミン、N,N−ジウンデシルモノエチルアミン、N,N−ジドデシルモノエチルアミン、N,N−ジフェニルモノエチルアミン、N,N−ジベンジルモノエチルアミンまたはトリノニルアミンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
窒素1原子に結合する基の総炭素数は、好ましくは3〜24、より好ましくは5〜24、さらに好ましくは5〜10、特に好ましくは5〜7である。また、窒素1原子に結合する基としては、アルキル基、アリール基、アリール置換アルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
中でも、第3級アミンとしては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、トリオクチルアミンが好ましく、入手容易性および製造コストも考慮すると、トリエチルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミンがより好ましい。
【0037】
反応終了後、反応混合液から水を留去することによって、固体として、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンアンモニウム塩が10モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩が90モル%以上である混合物を取得できる。以下、この混合物をアンモニウム塩混合物と略する。
該アンモニウム塩混合物は、好ましくは、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンアンモニウム塩が5モル%以下、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩が95モル%以上である。
【0038】
アンモニウム塩混合物中のビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩の含有量を高めるには、水およびテトラヒドロフランなどからなる混合溶媒を移動層とし、シリカゲルを充填したカラムに通じるといったカラムクロマトグラフィーを利用することができる。または、アルカリ金属塩混合物の水溶液を調製し、2−ブタノンなどの有機溶剤で洗浄する方法も利用できる。
【0039】
以上のようにして得られるビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩またはそれを含有する前記混合物とパラジウム化合物とからなるパラジウム触媒は、テロメリ化反応用の触媒として優れている。テロメリ化反応としては、例えば、パラジウム触媒、第3級アミンおよび二酸化炭素の存在下、ブタジエンと水を反応させることによって2,7−オクタジエン−1−オールを得る反応が挙げられる。該テロメリ化反応において、2,7−オクタジエン−1−オールの選択率が向上し、かつ、パラジウム触媒の回収率をも高めるため、工業的有用性が非常に高い。
なお、上記パラジウム化合物としては、例えば、ビス(t−ブチルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(t−アミルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(シクロヘキシルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(フェニルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(p−トリルイソニトリル)パラジウム(0)、ビス(2,6−ジメチルフェニルイソニトリル)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、(1,5−シクロオクタジエン)(無水マレイン酸)パラジウム(0)、ビス(ノルボルネン)(無水マレイン酸)パラジウム(0)、ビス(無水マレイン酸)(ノルボルネン)パラジウム(0)、(ジベンジリデンアセトン)(ビピリジル)パラジウム(0)、(p−ベンゾキノン)(o−フェナントロリン)パラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリトリルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリキシリルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリメシチルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリテトラメチルフェニル)パラジウム(0)、ビス(トリメチルメトキシフェニルホスフィン)パラジウム(0)などの0価パラジウム化合物;塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、テトラアンミンジクロロパラジウム(II)、ジナトリウムテトラクロロパラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、安息香酸パラジウム(II)、α−ピコリン酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトン)パラジウム(II)、ビス(8−オキシキノリン)パラジウム(II)、ビス(アリル)パラジウム(II)、(η−アリル)(η−シクロペンタジエニル)パラジウム(II)、(η−シクロペンタジエニル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)酢酸塩、ジ−μ−クロロ−ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)二パラジウム(II)、ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)パラジウム(II)酢酸塩、2,2’−ビピリジルパラジウム(II)酢酸塩などの2価パラジウム化合物が好ましく挙げられる。
【0040】
また、テロメリ化反応を工業的に実施する場合、テロメリ化反応工程で得られたテロメリ化反応液を、25℃における誘電率が2〜18の有機溶媒と混合した後、二酸化炭素の存在下で相分離させ、有機相から2,7−オクタジエン−1−オールを得る工程(生成物分離工程)、およびパラジウム触媒を含む水相を高効率的に回収する工程(触媒回収工程)が好ましく実施される。この際、本発明のビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩またはそれを含有する前記混合物をパラジウム触媒の原料として用いた場合には、目的物の選択性およびパラジウム触媒の回収率が他のパラジウム触媒に比べて高まるため、製造コストが低下して好ましい。
なお、上記25℃における誘電率が2〜18の有機溶媒としては、例えば、n−ドデカン、シクロヘキサン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、p−キシレン、m−キシレン、トルエン、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、プロパンニトリル、エチルフェニルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、フルオロベンゼン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、2−ヘプタノン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロペンタノン、2−ヘキサノン、2−ペンタノン、シクロヘキサノン、3−ペンタノン、アセトフェノンなどが挙げられる。なお、該有機溶媒の誘電率は、好ましくは3〜10である。
【実施例】
【0041】
実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
【0042】
以下、各種水溶性トリアリールホスフィンの製造においては、特に断りのない限り、室温、常圧、窒素雰囲気下で行うものとし、また、溶媒は予め窒素置換したものを用いた。
【0043】
なお、トリアリールホスフィンをスルホン化してなる水溶性トリアリールホスフィンは、スルホ基の導入数が1〜3のものの混合物となっていることもあり、更に、これらのリンが酸化されてなる酸化物も含まれ得る。
水溶性トリアリールホスフィンに含まれるこれらの組成比(質量比)は、製造した水溶性トリアリールホスフィンが0.05mol/Lとなるように調製したジメチルスルホキシド−d
6(以下、DMSO−d
6と略する)溶液を核磁気共鳴装置「AVANCEIII 400USPlus」(ブルカー・バイオスピン株式会社製)を用いて測定してなる
31Pのピーク面積から定量した。この場合の
31Pのケミカルシフトは、リン酸が0.05mol/Lとなるように調製したDMSO−d
6溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での305Kにおける値である。
また、水溶性トリアリールホスフィンの構造は、10mmol/Lとなるように調製した重水溶液を核磁気共鳴装置「AVANCEIII 600USPlus」(ブルカー・バイオスピン株式会社製)を用いて測定してなる
31Pおよび
1Hのケミカルシフトおよびピーク面積から構造を決定した。
31Pのケミカルシフトは、リン酸が10mmol/Lとなるように調製した重水溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での300Kにおける値である。
1Hのケミカルシフトは、トリメチルシリルプロパン酸−d
4(以下、TSPと略する)が5mmol/Lとなるように調製した重水溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での300Kにおける値である。
ナトリウムイオンは、イオンクロマトグラフィー「ICS−1500型」(日本ダイオネクス株式会社製)を用いて定量した。
目的物の精製操作には、高速液体クロマトグラフシステム(日本ウォーターズ株式会社製、デルタ600マルチソルベントシステム、2998フォトダイオードアレイ検出器、カラムヒーター、クロマトグラフィーデータソフトウェアEmpower1)を用いた。なお、逆相クロマトグラフィーカラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel ODS−80Ts」(粒子径5μm、内径20mm、長さ250mm)を用いた。
【0044】
<水溶性トリアリールホスフィンの製造>
[実施例1]
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンの製造
スルホン化反応は回分式で実施した。温度計、攪拌装置、滴下ロートおよび窒素ガスラインを備えた内容量100mlの四つ口フラスコに濃硫酸10gを内在させた。濃硫酸を攪拌し、液温30〜35℃を維持するようにビス(2−メチルフェニル)フェニルホスフィン(以下、DOTPPと略する)10.00g(リン原子として34.44mmol)を0.5時間かけて投入した。滴下ロートから三酸化硫黄30質量%を含む発煙硫酸35.3g(三酸化硫黄として132.3mmol)を、同温を維持するようにしながら2時間かけて滴下した。滴下終了後、液温30〜35℃で8時間、20〜25℃で15時間攪拌を継続した。
液温が20〜30℃の範囲となるように制御しつつ、スルホン化反応液をイオン交換水90gで希釈した。水層に対して30質量%の水酸化ナトリウム水溶液113g、続いて、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液39.0gを加え、pH8〜9に調製した。この中和液を、38〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固した。この濃縮液に対してメタノール720gを加え、吸引濾過し、濾液を取得した。この濾液を、15〜50℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより、白色固体(以下、取得物1と略する)を16.84g取得した。
強酸性陽イオン交換樹脂ダウエックスG−26を100g充填したガラス製カラム(直径31mm、高さ340mm)を準備した。先の取得物1を10質量%含む水溶液168.4g(取得物1として16.84g、リン原子として34.21mmol)をカラム上部から線速度9.3〜12.5m/hrとなるように通じた。この取得液を、15〜50℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより、白色固体(以下、取得物2と略する)を14.76g取得した。
【0045】
取得物2の原子吸光分析によれば、取得物2に含まれるナトリウム含有量はナトリウム原子として294ppm以下であった。取得物2の10.0gに含まれるスルホ基数は44.11mmolであり、ナトリウム原子としての含有量は0.13mmolであることから、スルホナト基の99.71mol%以上をスルホ基に変換できた。
【0046】
取得物2は、(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィン0.25g(0.68mmol、2.08mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィン14.51g(32.20mmol、97.92mol%)からなる混合物であった。DOTPP10.00g(リン原子として34.44mmol)から取得物2を14.76g(リン原子として32.89mmol)取得できたことから、リン原子に基づく収率は95.5%であった。
【0047】
[実施例2]
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンの精製
逆相クロマトグラフィーカラムを備えた高速液体クロマトグラフシステムを用い、カラムオーブン温度を40℃に制御した状態で、水70質量%とアセトニトリル30質量%からなる混合液を移動相として5.0mL/分で通じた。実施例1の取得物2を1質量%含む水溶液1gを調製し、これを注入した。フォトダイオードアレイ検出器を275nmに設定し、保持時間15〜30分の留出液を回収した。この作業を10回繰り返した。集めた留出液を35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより、白色固体としてビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンを45.5mg取得した。
【0048】
31P−NMR(600MHz、300K、重水、リン酸、ppm)δ:−17.44(s)
【0049】
1H−NMR(600MHz、300K、重水、TSP、ppm)δ:2.34(s、6H)、7.24(dd、2.1Hz、1.7Hz、2H)、7.33(t、7.9Hz、2H)、7.37〜7.46(m、4H)、7.49(t、7.2Hz、1H)、7.79(dd、1.3Hz、2H)
【0050】
取得物2を100.0mg(リン原子として0.223mmol)用いて目的物を45.5mg(リン原子として0.101mmol)取得できたことから、精製におけるリン原子に基づく収率は45.3%であった。
【0051】
[実施例3]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリエチルアンモニウム塩の製造
実施例1と同様にして取得物2を含む水溶液を取得し、トリエチルアミン7.5g(74.3mmol)を加え、20〜30℃の範囲で1時間かけて攪拌して反応した。その後、反応液を、35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより、淡黄色固体21.21gを取得した。
【0052】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィントリエチルアンモニウム塩が−19.81(s)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリエチルアンモニウム塩が−17.02(s)にピークを示した。
【0053】
取得物は、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィントリエチルアンモニウム塩0.32g(0.69mmol、2.10mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリエチルアンモニウム塩20.89g(31.99mmol、97.90mol%)、からなる混合物であった。DOTPP10.00g(リン原子として34.44mmol)から目的物を21.21g(リン原子として32.68mmol)取得できたことから、リン原子に基づく収率は94.9%であった。
【0054】
[実施例4]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩の製造
実施例1と同様にして取得物2を含む水溶液を取得し、トリ−n−オクチルアミン26.28g(74.3ミリモル)を加え、20〜30℃の範囲で1時間かけて攪拌して反応した。その後、反応液を、35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより、淡黄色固体37.18gを取得した。
【0055】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィントリ−n−オクチルアンモニウムアンモニウム塩が−20.39(s)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩が−17.20(s)にピークを示した。
【0056】
取得物は、(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィントリ−n−オクチルアンモニウム塩0.50g(0.70mmol、2.15mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩36.68g(31.68mmol、97.85モル%)からなる混合物であった。DOTPP10.00g(リン原子として34.44mmol)から目的物を37.18g(リン原子として32.37mmol)取得できたことから、リン原子に基づく収率は94.0%であった。
【0057】
<テロメリ化反応>
以下、参考例により、本発明の水溶性トリアリールホスフィンがテロメリ化反応に有用であることを示す。なお、本発明はかかる参考例により何ら限定されるものではない。
【0058】
なお、抽出操作によって得られた水相に含まれるパラジウムおよびリン化合物濃度は、これら湿式分解物を偏光ゼーマン原子吸光分光光度計「Z−5300型」(株式会社日立製作所製)により分析し、定量した。
また、テロメリ化反応液またはパラジウム触媒を含む水相に含まれる第3級アミン、2,7−オクタジエン−1−オールなどの有機物は、下記測定条件におけるガスクロマトグラフィーにより分析し、定量した。
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
装置 :GC−14A(株式会社島津製作所製)
使用カラム:G−300(内径1.2mm×長さ20m、膜厚2μm)、
(財)化学物質評価研究機構製
分析条件 :注入口温度220℃、検出器温度220℃
サンプル注入量:0.4μL
キャリアガス:ヘリウム(260kPa)を10mL/分で通じる
カラム温度:60℃で5分保持→10℃/分で昇温→220℃で9分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0059】
[参考例1]
テロメリ化反応は回分式で実施した。反応容器としては、パラジウム触媒圧送用96mLガラス製耐圧容器、溶媒圧送用96mLガラス製耐圧容器およびサンプリング口を備えたSUS316製電磁誘導攪拌装置付き3Lオートクレーブを反応器として用いた。なお、反応は攪拌回転数500rpmで実施しており、この時の反応成績は1,000rpmのものと差異がなかったことから、十分な攪拌状態を達成できている。
【0060】
ガラス製耐圧容器に酢酸パラジウム(II)94.74mg(パラジウム原子0.422mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液17.69g、次いで、実施例3で得られたリン化合物1.370g(3価リン原子として2.109mmol)を含む水溶液21.46gを導入し、60分間攪拌し、パラジウム触媒液を調製した。
【0061】
オートクレーブに蒸留水30.06g、トリエチルアミン80.10g、2,7−オクタジエン−1−オール97.50g、ブタジエン114.95g(2.13mol)を仕込み、密閉系において500rpmで攪拌しながら70℃に昇温した。その後、ガラス製耐圧容器からパラジウム触媒液を二酸化炭素によって10秒以内に圧送するとともに、全圧を1.2MPa(ゲージ圧)とした。なお、パラジウム触媒液の圧送が完了した時点を反応開始0時間と定義した。
なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.00であり、テロメリ化反応において、ブタジエン1molに対するパラジウム原子は0.198mmolであり、水に対するトリエチルアミンの質量比は1.55であり、水に対するブタジエンと2,7−オクタジエン−1−オールからなる質量比は4.12であった。
所定時間反応後のテロメリ化反応液について、ガスクロマトグラフィー分析によって、生成物の定量を行った。
【0062】
ブタジエンの転化率は下記数式1によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数1】
【0063】
各生成物として、2,7−オクタジエン−1−オール、1,7−オクタジエン−3−オール、1,3,6−オクタトリエン、1,3,7−オクタトリエン、2,4,6−オクタトリエン、4−ビニルシクロヘキセンなどが挙げられる。ただし、1,3,6−オクタトリエン、1,3,7−オクタトリエン、2,4,6−オクタトリエンに関しては、これらを総称してオクタトリエン類と略する。各生成物の選択率は下記数式2によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数2】
【0064】
ガスクロマトグラフィーによって十分に定量できない高沸点生成物への選択率は下記数式3によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数3】
【0065】
反応8時間後のブタジエンの転化率は77.9%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は88.7%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は7.4%であり、オクタトリエン類への選択率は2.1%であり、高沸点生成物への選択率は1.8%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
【0066】
オートクレーブを25℃に冷却し、溶媒圧送用96mLガラス製耐圧容器を用いて反応消費相当の水およびジエチルエーテル330.23g(25℃における体積463.2mL)を二酸化炭素によって圧送した。二酸化炭素で全圧を3MPa(ゲージ圧)加圧した状態で1時間攪拌した。この混合液を、ポンプを用いて二酸化炭素3MPa(ゲージ圧)加圧したガラス窓付き耐圧容器に移送し、相分離させた。ガラス窓付き耐圧容器に結合した二酸化炭素1MPa(ゲージ圧)加圧したガラス製耐圧容器に、水相を適宜回収した。ガラス製耐圧容器を取り分離し、常圧開放し、水相の重さを測定するとともに、得られた水相を各種分析に用いた。
なお、テロメリ化反応液に対するジエチルエーテルの質量比は0.84であった。
【0067】
水相に含まれるパラジウム含有量は、水相の湿式分解物の偏光ゼーマン原子吸光分光光度計による分析より判明するパラジウム濃度と回収した水相の重さより算出した。パラジウム原子の回収率は下記数式4によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数4】
【0068】
水相に含まれるリン含有量は、水相の湿式分解物の偏光ゼーマン原子吸光分光光度計による分析より判明するリン濃度と回収した水相の重さより算出した。水溶性トリアリールホスフィンの回収率は下記数式5によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数5】
【0069】
水相に含まれる第3級アミンは水相のガスクロマトグラフィー分析することにより定量した。第3級アミンの回収率は下記数式6によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数6】
【0070】
水相へのパラジウム原子の回収率は91.3%であり、リン原子の回収率は90.9%であり、トリエチルアミンの回収率は83.0%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0071】
[参考例2(比較用)]
参考例1において、実施例3で得られたリン化合物の代わりにジフェニル(3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩(但し、酸化物を4.40mol%含有している。)2.120g(3価リン原子として2.120mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.02であった。
反応4時間後のブタジエン転化率は77.6%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は88.2%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は5.1%であり、オクタトリエン類への選択率は5.1%であり、高沸点生成物への選択率は1.6%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は28.2%であり、リン原子の回収率は48.8%であり、トリエチルアミンの回収率は65.5%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0072】
[参考例3(比較用)]
参考例1において、実施例3で得られたリン化合物の代わりにジフェニル(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩(但し、酸化物を4.58mol%含有している。)1.015g(3価リン原子として2.113mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.01であった。
反応4時間後のブタジエン転化率は85.0%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は88.8%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は5.0%であり、オクタトリエン類への選択率は4.4%であり、高沸点生成物への選択率は1.8%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は12.0%であり、リン原子の回収率は28.3%であり、トリエチルアミンの回収率は76.5%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0073】
実施例1によれば、(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)フェニルホスフィンが5mol%以下、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンが95mol%以上である混合物が高い収率で取得できることが明らかである。
また、実施例2によれば、カラムクロマトグラフィーによって、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンを単離精製できることが明らかである。
実施例3および4によれば、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)フェニルホスフィンと窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンを反応させることにより、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩を高い収率で取得できることが明らかである。
参考例1〜3によれば、本発明によって提供されるビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン二アンモニウム塩が、その他の水溶性トリアリールホスフィンに比べて、テロメリ化反応において高選択率を得ることができ、かつパラジウム触媒の回収率も高いため、工業的なテロメリ化反応の実施に有用であることが明らかである。