特許第6232496号(P6232496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6232496電子部品の気密封止用クラッド材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232496
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】電子部品の気密封止用クラッド材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/14 20060101AFI20171106BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20171106BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20171106BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171106BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20171106BHJP
   H01L 23/10 20060101ALI20171106BHJP
   H01L 23/06 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
   B23K35/14 F
   B23K35/30 310B
   C22C5/06 Z
   C22C38/00 302S
   H01L23/02 C
   H01L23/10 B
   H01L23/06 B
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-523428(P2016-523428)
(86)(22)【出願日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2015064145
(87)【国際公開番号】WO2015182415
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-110832(P2014-110832)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 順一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋樹
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−030393(JP,A)
【文献】 特開平10−330841(JP,A)
【文献】 特開2000−168721(JP,A)
【文献】 特開2006−049595(JP,A)
【文献】 特開2004−115905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 5/00− 5/10
C22C 38/00−38/60
H01L 23/02
H01L 23/06
H01L 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀系ロウ材層とコバール層を有する、電子部品の気密封止用クラッド材であって、
該コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmである、電子部品の気密封止用クラッド材。
【請求項2】
シールリングを製造するために用いられる、請求項1に記載のクラッド材。
【請求項3】
前記コバール層から前記銀系ロウ材層への打ち抜き加工に用いられる、請求項1又は2に記載のクラッド材。
【請求項4】
銀系ロウ材層とコバール層を有する、電子部品の気密封止用クラッド材を打ち抜き加工して形成される気密封止材であって、
該コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmである気密封止材。
【請求項5】
前記コバール層から前記銀系ロウ材層へ打ち抜き加工して形成される請求項4に記載の気密封止材。
【請求項6】
前記気密封止材が、シールリングである請求項4又は5に記載の気密封止材。
【請求項7】
銀系ロウ材層とコバール層を有する、電子部品の気密封止用クラッド材の製造方法であって、
該銀系ロウ材層と該コバール層を接合して積層体を形成する第1の工程と、
該積層体を熱処理、冷間圧延する第2の工程と、
第2の工程に引き続いて再度、該積層体を熱処理する第3の工程と
を含む、
該コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmである、電子部品の気密封止用クラッド材の製造方法。
【請求項8】
第2の工程における熱処理を500〜800°Cの範囲で行い、第3の工程における熱処理を300〜600°Cの範囲で行う請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の気密封止用クラッド材及びその製造方法に関する。詳しくは、打ち抜き加工性に優れた、電子部品の気密封止用クラッド材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバール(Kovar)は、米国ウェスティングハウス社によって開発されたFe-Ni-Co系合金であるが、硬質ガラスやセラミックスと熱膨張特性が広い温度範囲で一致していることから、硬質ガラスやセラミックスとの気密封止に最適な材料として知られている。そのため、コバールに銀系ロウをクラッドしたシールリングやリッドは、セラミックスパッケージ等の電子部品の気密封止材として広く利用されている。
【0003】
コバールに銀系ロウをクラッドした前記シールリングやリッドは、通常、コバールと銀系ロウ材からなるクラッド薄板を打ち抜き加工することにより製造されるが、コバールは、非常に粘りがあり、加工・切削が難しい材料であるため、前記クラッド薄板を打ち抜き加工して前記シールリングやリッドを効率的に量産化することは必ずしも容易ではなかった。また、近年の電子機器の小型化に伴い、クラッド材の打ち抜き加工性の向上に対する要求がますます高くなっている。
【0004】
そこで、こうした状況に鑑み、打ち抜き加工性を向上させた、コバールと銀系ロウ材からなるクラッド材に関する研究が進められており、そのようなクラッド材としては、例えば、Fe-Ni-Co系合金板材側の平面表面をエックス線回折で測定した時、エックス線回折図形におけるオーステナイト相の結晶面(200)、(111)、(220)、(311)とマルテンサイト相の結晶面(110)、(200)、(211)の積分強度の総和に占めるマルテンサイト相の結晶面(110)、(200)、(211)の積分強度の和の比率が0.5%以上10%以下であり、且つ前記マルテンサイト相の積分強度の和の比率が0.5%以上10%以下となる深さの領域が、前記Fe-Ni-Co系合金板材側の平面最表面から厚さ方向に総厚の10%以内であることを特徴とするプレス打ち抜き性に優れた封着材料が報告されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載された上記クラッド材は、板材表面に導入されたマルテンサイト相がプレス打ち抜き加工に際して、破断を進行しやすくし、バリの発生を抑制する効果を有するという知見に基づいて、Fe-Ni-Co系合金の板材平面最表面から特定の深さまでのマルテンサイト相の量を特定の範囲内に調整している点に特徴がある。そして、特許文献1には、マルテンサイト相の調整について、Fe-Ni-Co系合金の板材平面に冷間圧延を施し、加工誘起変態を利用して行うこと、及び、圧延以外の方法としては、例えば、表面研磨、ショットピーニング等の方法によっても加工誘起マルテンサイト相を生成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1:特許第3531814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示された従来技術においては、工業的な冷間圧延装置を使用して、コバールのオーステナイト相を低温領域で圧延し、該圧延時の温度や圧下率を制御することで、マルテンサイト相に加工誘起変態させて、結晶粒の微細化を行っている。そして、結晶粒を微細化することにより、上記クラッド材の打ち抜き加工性の向上を実現させている。
【0008】
しかしながら、前記従来技術のように、クラッド材を圧延加工することによる加工硬化によって結晶粒の微細化を行うと、打ち抜き加工性が良好なマルテンサイト相が多くはなるものの、それによって、コバール本来の特徴である熱膨張率が大きく変化してしまう恐れがある。
【0009】
さらに、クラッド材を圧延加工のみによって、結晶粒の微細化を行う場合、使用する冷間圧延装置によって、加工できるクラッド材の厚さ等が制限されたり、加工工程が制限されたりするため、各種サイズのクラッド材を高い加工率で量産化することは設備の点から必ずしも容易ではない。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、高い加工率で量産化することができ、コバール本来の特徴である熱膨張率を維持しつつ、打ち抜き加工性に優れた、コバールと銀ロウ材からなる、電子部品の気密封止用クラッド材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、前記従来技術のように、加工硬化による結晶粒の微細化を行うのではなく、熱処理に続く冷間圧延加工後に、再度、熱処理(300〜600℃)を行うことにより、マルテンサイト相を誘起させずに、又はほとんど誘起させることなく、オーステナイト相の状態を保ったまま結晶粒の微細化を達成して、クラッド材の打ち抜き加工性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、銀系ロウ材層とコバール層を有する、電子部品の気密封止用クラッド材であって、
該コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmである、電子部品の気密封止用クラッド材である。
【0012】
また、本発明の別の態様は、上記クラッド材の製造方法についてであり、すなわち、
銀系ロウ材層とコバール層を接合して積層体を形成する第1の工程と、
前記積層体を熱処理、冷間圧延する第2の工程と、
第2の工程に引き続いて再度、前記積層体を熱処理する第3の工程と
を含む、電子部品の気密封止用クラッド材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マルテンサイト相を含んでいない、又はほとんど含んでおらず、オーステナイト相が保持された状態で結晶粒の微細化が達成されているため、高い封止信頼性を維持しつつ、優れた打ち抜き加工性(快削性)を備えた、電子部品の気密封止用クラッド材を提供することが可能となる。また、従来技術のように、クラッド材の圧延加工による加工硬化にもとづいて、結晶粒の微細化を達成する方法とは異なり、冷間圧延装置の性能等による制約が大きくないため、各種のクラッド材を高い加工率で量産化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記のとおり、本発明に係る電子部品の気密封止用クラッド材(以下、「クラッド材」という。)は、銀系ロウ材層とコバール層を有する。そして、該クラッド材は、コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmであることを特徴とする。本発明は、このような特徴を有することにより、該クラッド材のコバール層において相変化を起こすことなく、オーステナイト相を保持したまま、該オーステナイト相の結晶粒が微細化されているため、本発明によれば、封止信頼性と打ち抜き加工性の点で優れた性能を発揮するクラッド材を得ることが可能となる。
【0015】
前記銀系ロウ材層を構成する銀系ロウ材としては、銀を主成分とするロウ材であれば特に限定されず、例えば、銀−銅合金(銅濃度10〜30質量%)、銀−銅−錫合金(銅濃度20〜40質量%、錫濃度1〜40質量%)、銀−銅−インジウム合金(銅濃度20〜40質量%、インジウム濃度1〜40質量%)、銀−銅−亜鉛合金(銅濃度20〜40質量%、亜鉛濃度1〜40質量%)が挙げられる。なお、前記銀系ロウ材層の厚さは、通常、0.01〜0.1mmである。
【0016】
前記コバール層を構成するコバールは、前述したように、Fe-Ni-Co系合金であり、その組成はFe(54質量%)、Ni(29質量%)、Co(17質量%)、その他、Si、Mn等が微量含まれる。なお、前記コバール層の厚さは、通常、0.1〜0.6mmである。
【0017】
前述したように、本発明のクラッド材は、コバール層の表面において、電子線後方散乱回折法(EBSD(electron backscattering diffraction)法)による結晶相分布測定から算出される、コバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相(γ:fcc)の面積の割合が99.0〜100.0%であることを特徴とする。このことは、該クラッド材が、オーステナイト単相であるか、圧延時に加工誘起マルテンサイト変態を起こして生成したマルテンサイト相(α’:bcc)が1%未満であることを意味する。本発明においては、オーステナイト相の面積の割合が99.0%未満であると、クラッド材の良好な打ち抜き加工性を得ることが困難となり、また、マルテンサイト相が多くなるため、熱膨張率が大幅に変化する恐れがある。
【0018】
また、本発明のクラッド材は、コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmであることを特徴とする。好ましくは、コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.7〜3.4μmであるクラッド材が用いられる。コバール結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmの範囲外であると、高い打ち抜き加工性を得ることが困難となる。
【0019】
本発明において、電子線後方散乱回折法による結晶相分布測定からコバール結晶粒の全面積中に占めるオーステナイト相の面積の割合を算出するには、通常、以下のようにして行う。
まず、測定対象となるクラッド材のコバール層の表面に機械研摩、電解研磨等の表面処理を施して、圧延模様等にもとづく微小凹凸を除去する。次に、EBSDを付属する走査型電子顕微鏡を用いて上記表面の組織観察を行い、ステップサイズ0.1μmにてコバール相の表面の所定の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、前記測定面積において結晶粒を特定する。続いて、オーステナイト相の結晶粒内のピクセル数をカウントし、1ピクセルあたりの面積を乗じることにより、オーステナイト相の各結晶粒あたりの面積を算出し、これを合計することで、オーステナイト相の結晶粒の総面積を求めることができる。同様にして、マルテンサイト相の結晶粒の総面積を求めることができる。そして、このようにして求めたオーステナイト相の結晶粒の総面積を、オーステナイト相とマルテンサイト相との結晶粒総面積で除して100倍することにより、オーステナイト相の面積率(%)を算出する。
【0020】
他方、コバール結晶粒の平均結晶粒径の測定は、JIS G 0551に準拠して行えばよい。具体的には、切断法によれば、クラッド材のコバール相の表面に機械研摩等の表面処理を施して結晶粒を観察しやすい状態とした後、コバール層の金属組織についてEBSDを付属する走査型電子顕微鏡を用いて写真撮影し、撮影された金属組織の結晶粒界に沿ってペン等を用いて線を引いて、結晶粒界を顕在化させ、直交する2本の直線を引き、これらの線で切断される結晶粒の数を測定し、その後、これらの線の長さを測って、それらの長さと結晶粒の数を所定の式に挿入することにより、コバール結晶粒の平均粒子径が算出される。
【0021】
本発明のクラッド材は、打ち抜き加工性を損なわない範囲で、銀系ロウ材層とコバール層の間、及び/又はコバール層の上に中間層を設けることにより、3層以上の多層構造体にすることができる。
【0022】
前記クラッド材は、通常の打ち抜き加工、すなわち、所望する電子部品の気密封止材(例えば、シールリングやリッド)の輪郭形状からなる穴型を有するダイと、該穴型に嵌入するパンチからなる金型を備えたプレス機を用いて打ち抜くことにより、所定形状の電子部品の気密封止材が得られる。本発明のクラッド材は、特に電子部品の気密封止材を製造するために用いられ、特に好ましくはシールリングを製造するために用いられる。打ち抜き加工を行う場合は、前記コバール層から前記銀系ロウ材層の方向に打ち抜き加工をすることが良好な打ち抜き性を得る上で好ましい。
【0023】
次に、本発明に係るクラッド材の製造方法について述べる。該製造方法は、銀系ロウ材層とコバール層を接合して積層体を形成する第1の工程と、前記積層体を熱処理、冷間圧延する第2の工程と、第2の工程に引き続いて再度、前記積層体を熱処理する第3の工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
第1の工程においては、銀系ロウ材層とコバール層を接合して積層体を形成するが、その具体的な方法は特に限定されない。一般には、まず、銀系ロウ材層とコバール層の各層を構成する板材をそれぞれ用意し、それらの表面を、適宜研磨等を行って均質化した後、銀系ロウ材層とコバール層を積層して、例えば、周囲を溶接した後、接合のための冷間圧接を行い、あるいは、例えば、銀系ロウ材層とコバール層の合わせ面にレーザを照射して、接合のための冷間圧接を行うことにより、積層された層の接合面を全面又は部分的に接合して積層体を形成する。
【0025】
次に、第2の工程として、第1の工程で得られた前記積層体に対して熱処理、及び冷間圧延を行う。通常、熱処理は、500〜800℃の範囲で、1〜60分間行い、その後、室温に冷却して、冷間圧延を行う。こうした熱処理、冷間圧延を行うことで、接合が確実となり、信頼度の高い積層体となる。
【0026】
最後に、第3の工程として、第2の工程に引き続いて再度、前記積層体に対して熱処理及び必要に応じて冷間圧延を行う。これにより、打ち抜き加工性に優れた本発明のクラッド材を得ることができる。第3の工程で行う熱処理は、300〜600℃、好ましくは400〜550℃の範囲で、1〜60分間行うことを要する。300〜600℃の範囲外の温度であると、結晶粒が粗大化して結晶粒の微細化が十分に行われないために、打ち抜き加工性が向上せず、マルテンサイト相が多く生成して、コバールの熱膨張率を維持することが困難になる恐れがある。なお、上記冷間圧延を行う場合、1回の圧下率を30%以上にすると溶接部等にクラックが発生する恐れがあるため、1回の圧下率は、30%未満にするのが好ましい。
【0027】
上記熱処理を行った後は、性能や厚さの調整を目的とする冷間圧延を行うことが好ましい。ただし、マルテンサイト相の生成を防ぐため、この場合の圧下率は 20%未満にするのが好ましい。
このようにして、コバール結晶粒の全面積に占めるオーステナイト相の面積の割合が99.0〜100.0%であり、かつ、該オーステナイト相の結晶粒の平均結晶粒径が0.5〜3.5μmである、打ち抜き加工性に優れたクラッド材を工業的に安定して提供することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない
【実施例】
【0029】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
幅15mm、厚さ1.5mmのコバール合金(日本冶金社製、商品名:NAS29CO)からなるコバール層に、幅15mm、厚さ0.40mmの銀系ロウ材(銀−85質量%銅合金)からなる銀系ロウ材層をクラッドし、表1に記載の条件で熱処理した後(熱処理(1))、室温まで冷却し、表1に記載の圧下率で圧延してクラッド母材を作製した(圧延(1))。次いで、該クラッド母材を表1に記載の条件で再度熱処理した後(熱処理(2))、室温まで冷却し、表1に記載の圧下率で圧延し(圧延(2))、クラッド材を作製した。このときの、コバール層の厚さは0.15mm、銀系ロウ材層の厚さは0.04mmであった。
作製した上記クラッド材のコバール層の圧延面(表面)を湿式研磨及び電解研磨し鏡面状態に仕上げ、表面から5μmの深さ位置について、電子線後方散乱回折法(EBSD)により、EBSDシステム(テクセムラボラトリー社製、商品名:OIMシステム)付きの走査型電子顕微鏡を用いて(日本電子社製、商品名:JSM−6500F)、コバール結晶粒の平均結晶粒径及びオーステナイト相とマルテンサイト相の結晶粒面積を測定した。測定面積については、30μm×30μmの範囲で行い、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、また、走査間隔はステップ距離=0.1μmとした。結晶粒は、結晶方位差が15°以上と定義した。オーステナイト相とマルテンサイト相の区別は、EBSD法と光学顕微鏡写真により求めた結晶方位マップの照合により行い、光学顕微鏡写真において、オーステナイト相、マルテンサイト相のそれぞれを確認した。一方、コバール結晶の平均結晶粒径は、JIS規格(JIS G 0551)を用いて算出した。平均結晶粒径(μm)、及びオーステナイト相とマルテンサイト相との結晶粒総面積に対するオーステナイト相の面積の割合(%)についての結果を表2に示す。
また、5mmの円形の金型を用い、プレス機(ベスト社製)により、パンチとダイのクリアランスを5μmとして、実施例1〜6、比較例1〜4に係る各クラッド材のコバール層側から銀系ロウ材層方向への垂直打ち抜き加工のプレス試験を行った。該プレス試験は1mm/sの加圧速度で行い、プレス中の応力最大値(N/mm)と、該応力最大値から打ち抜き終了時の応力変化を該応力最大値からの応力差(N/mm)として算出した。
さらに、プレス後の破断面について、光学顕微鏡を用いて破断面の亀裂及びバリ(8μm以上のもの)の有無をそれぞれ観察して評価した。評価した結果を表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
(評価結果)
表2に示すように、実施例1〜4のクラッド材は、そのコバール層表面におけるオーステナイト相の面積率が99.3%以上と高く、また、比較例1、2のクラッド材に比べて、平均結晶粒径が小さいコバール結晶粒でコバール層が構成されていた。また、プレス試験の結果、実施例1〜4のクラッド材は、応力差が小さく、バリの発生も無いことから、良好なプレス打ち抜き加工性を示すことが確認された。