(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の多孔性フィルムの実施形態、ならびに電池用セパレータとしての電池への適応形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占める意を包含するものである。
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0020】
また、本発明の多孔性フィルムは、β晶活性を有することが重要な特徴の1つである。β晶活性は、延伸前の無孔膜状物において、ポリプロピレン系樹脂組成物がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中の前記ポリプロピレン系樹脂組成物がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細孔が形成されるため、透気特性を有する多孔性フィルムを得ることができる。
また、前記β晶活性は、本発明の多孔性フィルムが単層構造である場合、他の層と積層した積層構造である場合のいずれかにおいても多孔性フィルム全層の状態で測定している。
【0021】
本発明の多孔性フィルムにおいて、「β晶活性」の有無は、後述する示差走査型熱量計によりβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出された場合、「β晶活性」を有すると判断している。
具体的には、示差走査型熱量計で多孔性フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断している。
【0022】
また、前記多孔性フィルムのβ晶活性度は、検出される前記ポリプロピレン系樹脂組成物のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算している。
β晶活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、前記ポリプロピレン系樹脂組成物にホモポリプロピレンが含まれている場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上170℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばエチレンが1〜4モル%共重合されているランダムポリプロピレンが含まれている場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0023】
前記多孔性フィルムのβ晶活性度は大きい方が好ましく、β晶活性度は20%以上であることが好ましい。40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。多孔性フィルムが20%以上のβ晶活性度を有すれば、延伸前の無孔膜状物中においても前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶が多く生成することができることを示し、延伸により微細かつ均一な孔が多く形成され、結果として機械的強度が高く、透気性能に優れた多孔性フィルム、特に、電池用セパレータとすることができる。
β晶活性度の上限値は特に限定されないが、β晶活性度が高いほど前記効果がより有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
【0024】
前記多孔性フィルムのβ晶活性を得る方法としては、前記ポリプロピレン系樹脂組成物のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法、特許3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレンを添加する方法、及び組成物にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。
【0025】
本発明において、β晶核剤は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物に配合していることが好ましい。前記ポリプロピレン系樹脂組成物に添加するβ晶核剤の割合は、β晶核剤の種類または前記ポリプロピレン系樹脂組成物の組成などにより適宜調整することが必要であるが、前記ポリプロピレン系樹脂組成物100質量部に対しβ晶核剤0.0001〜5.0質量部が好ましい。0.001〜3.0質量部がより好ましく、0.01〜1.0質量部が更に好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分に前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶を生成・成長させることができ、多孔性フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、所望の透気性能が得られる。また、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、多孔性フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
また、仮に前記ポリプロピレン系樹脂組成物を主成分とする層以外に、ポリプロピレン系樹脂を含有する層などを積層させる場合には、各層のβ晶核剤の添加量は同じであっても、異なっていても良い。β晶核剤の添加量を変更することで各層の多孔構造を適宜調整することができる。
【0026】
以下に、本発明の多孔性フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂組成物について説明する。
[ポリプロピレン系樹脂(A)の説明]
ポリプロピレン系樹脂(A)としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、β晶活性度の高さや、多孔性フィルムの機械的強度、耐熱性などを維持する観点から、ホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0027】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)としては、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が80〜99%であることが好ましい。より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%であるものを使用する。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎるとフィルムの機械的強度が低下するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合についてはこの限りではない。
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambellietal(Macromolecules8,687,(1975))に準拠した。
【0028】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、100,000以上が好ましく、150,000以上がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量を100,000以上とすることで、多孔性フィルムは十分な機械的強度や耐熱性を有することができる。一方、上限については特に制限されるものではないが、押出成形性の観点から1,000,000以下が好ましい。
【0029】
分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnは1.5〜35.0であることが好ましい。より好ましくは1.5〜10.0、更に好ましくは2.0〜8.0であるものが使用される。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが1.5以上とすることで、十分な押出成形性を確保することできる。一方、Mw/Mnが35.0以下とすることで、低分子量成分による多孔性フィルムからのブリードアウトの発現を十分に抑制することができる。なお、Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。
【0030】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.1〜20g/10分であることが好ましく、0.5〜15g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分未満では成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く生産性が低下する。一方、20g/10分を超えると得られる多孔性フィルムの機械的強度が不足するため実用上問題が生じやすい。なお、本発明におけるMFRはJIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件下で測定値をさす。
【0031】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)には、公知の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、滑り剤、ブロッキング防止剤、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、充填剤、低分子量化合物などを製造工程やフィルム特性を低下させない程度に含有させてもよい。特にフィルムの透気特性を向上させる目的においては、充填材や低分子量化合物が有用であり、中でも、フィルム強度維持の観点から低分子量化合物が有用であり、特に低分子量ポリプロピレンを添加することが好ましい。
【0032】
また、前記ポリプロピレン系樹脂組成物について、ポリプロピレン系樹脂(A)と低分子量ポリプロピレン系樹脂とを含む場合、低分子量ポリプロピレン系樹脂の添加によって前記ポリプロピレン系樹脂組成物の粘度低下が生じるため、成型加工特性、得られるフィルムの特性を鑑みながら、混合樹脂組成物の組成比、ポリプロピレン系樹脂のMFRを調整することが好ましい。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂(A)としては、例えば、商品名「ノバテックPP」、「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「ノティオ」、「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」、「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムTPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」、「Adsyl」、「HMS−PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「バーシファイ」、「インスパイア」(ダウ・ケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
【0034】
[エチレン系共重合体(B)の説明]
エチレン系共重合体(B)は
、エチレン−アクリル酸エステル系樹脂およびエチレン−メタクリル酸エステル系樹脂からなる群より1種以上選ばれるものである。
ここで、前記エチレン系共重合体(B)の結晶融解ピーク温度は、示差走査型熱量計を用いて25〜240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分保持した後、240〜25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分保持し、更に25〜240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、検出される結晶融解ピーク温度としている。
【0036】
前記エチレン−アクリル酸エステル系樹脂、エチレン−メタクリル酸エステル系樹脂としては、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸(イソ)ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸(イソ)ブチル共重合体などが具体的に挙げられる。また、前記樹脂に無水マレイン酸変性、アミン変性といった官能基を含有させたものや、エチレンユニットを主鎖、または側鎖、あるいはその両者に有するグラフト共重合体が挙げられる。
【0037】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)に前記エチレン系共重合体(B)を添加することによって、前記エチレン系共重合体(B)がより均一に分散されるため、得られる多孔性フィルムの孔径を増大させるだけでなく、高い透気特性、高い機械的強度を有することもできる。中でも、エチレン−アクリル酸エステル系樹脂、または、エチレン−メタクリル酸エステル系樹脂が好ましい。
一方、エチレン−アクリル酸系樹脂では、極性が高いため、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との親和性が小さいため、分散性が悪く、分散径の大きなドメインが形成されやすい。そのため、不均一な多孔構造を形成することで機械的強度の低下を引き起こしやすいため、好ましくない。
【0038】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)と、前記エチレン系共重合体(B)とを含む樹脂組成物の混合質量比は、(A)/(B)=88/12〜70/30であることが重要である。前記混合質量比(A)/(B)について、(A)/(B)=87/13〜75/25が好ましく、(A)/(B)=86/14〜80/20がより好ましい。
前記混合質量比(A)/(B)について、前記エチレン系共重合体(B)が12質量%以上であることによって、多孔性フィルムにとって十分な平均孔径を確保することができる。また、電池用セパレータとして使用時において、劣化物質の生成に伴う電池用セパレータの空孔閉塞が十分に抑制される。一方、前記エチレン系共重合体(B)が30質量%以下であることによって、十分な透気特性、機械的強度を保持することができる。
【0039】
[β晶核剤の説明]
本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられるが、前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶の生成・成長を増加させるものであれば特に限定される訳ではなく、また2種類以上を混合して用いても良い。
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二塩基もしくは三塩基カルボン酸のジエステル類もしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。そのほか核剤の具体的な種類については、特開2003−306585号公報、特開平06−289566号公報、特開平09−194650号公報に記載されている。
【0040】
β晶核剤の市販品としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU−100」、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B−022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)−PP BE60−7032」、Mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP−LN」などが挙げられる。
【0041】
[他の成分の説明]
本発明においては、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0042】
[多孔性フィルムの構成の説明]
本発明の多孔性フィルムの構成は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)と前記エチレン系共重合体(B)とを含む樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物の混合質量比が、(A)/(B)=88/12〜70/30である層(以後「I層」と称す)を少なくとも1層存在すれば特に限定されるものではなく、単層構造であっても積層構造であってもよい。積層構造とする場合、前記I層と、ポリエチレン系樹脂を主成分とする層(以後「II層」と称す)とを積層させることがより好ましい。
具体的にはI層/II層を積層した2層構造、I層/II層/I層、もしくは、II層/I層/II層として積層した3層構造などが例示できる。また、他の機能を持つ層と組み合わせて3種3層の様な形態も可能である。この場合、他の機能を持つ層との積層順序は特に問わない。更に層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。なお、I層が2つ以上ある場合、それぞれの成分含有量が同じであってもよいし、異なっていても良い。
中でも、I層/II層/I層の2種3層構成は、得られる積層多孔性フィルムのカール度合いや表面平滑性が良好となるため、さらに好ましい。
【0043】
[多孔性フィルムの形状及び物性の説明]
本発明の多孔性フィルムの形態としては平面状、チューブ状の何れであってもよいが、幅方向に製品として数丁取りが可能であることから生産性がよく、さらに内面にコートなどの処理が可能等の観点から、平面状がより好ましい。
本発明の多孔性フィルムの厚みは1〜500μmが好ましく、より好ましくは5〜300μm、更に好ましくは7〜100μmである。特に電池用セパレータとして使用する場合は1〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。電池用セパレータとして使用する場合、厚みが1μm以上であれば、実質的に必要な電気絶縁性を得ることができ、例えば大きな電圧がかかった場合にも短絡しにくく安全性に優れる。一方、厚みが50μm以下であれば、多孔性フィルムの電気抵抗が小さくできるので電池の性能を十分に確保することができる。
また、前記I層と前記II層との積層比は、用途、目的に応じて適宜調整することができ、特に制約を受けるわけではないが、I層(2層以上ある場合はその厚みの合計)/II層(2層以上ある場合はその厚みの合計)の値が0.5〜10が好ましく、1〜8がより好ましい。かかる範囲であれば、透気特性が良好であり、高温状態での空孔が閉塞する機能(シャットダウン機能)が十分に機能することができる。
【0044】
本発明の多孔性フィルムの物性は、層構成や積層比、各層の組成、製造方法によって自由に調整できる。
【0045】
本発明の多孔性フィルムの透気度は、500秒/100ml未満であることが重要であり、好ましくは400秒/100ml以下、より好ましくは300秒/100ml以下である。透気度が500秒/100ml未満であれば、多孔性フィルムに連通性を有し、優れた透気性能を有することを示唆している。また、電池用セパレータとして使用時において、十分な電気抵抗を得ることができる。一方、下限については特に限定されないが、10秒/100ml以上が好ましく、50秒/100ml以上がより好ましい。
透気度はフィルム厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とはフィルム厚み方向の孔のつながり度合いである。本発明の多孔性フィルムの透気度が低ければ様々な用途に使用することができる。例えば電池用セパレータとして使用した場合、透気度が低いということはリチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。
【0046】
本発明の多孔性フィルムにおいて、空孔率は多孔構造を規定する為の重要なファクターである。
空孔率は30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。空孔率が30%以上であれば、連通性を確保し透気特性に優れた多孔性フィルムとすることができる。
一方、上限については75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。空孔率が75%以下であれば、微細孔が増えすぎてフィルムの強度が低下する問題もなくなり、ハンドリングの観点からも好ましい。なお、空孔率は後述の実施例に測定方法が記載されている。
【0047】
本発明の多孔性フィルムにおいて、多孔性フィルムの流れ方向(MD)の引張強度E
MDは100MPa以上が好ましく、105MPa以上がより好ましく、110MPa以上が更に好ましい。前記E
MDが100MPa以上であれば、引張強度E
MDが十分に高いために、多孔性フィルムのハンドリング性に優れる。一方、上限については特に限定しないが、他の物性とのバランスの関係より、1000MPa以下が好ましく、800MPa以下がより好ましい。
また、流れ方向に対して垂直方向(TD)の引張強度E
TDは100MPa未満が好ましく、80MPa以下がより好ましく、60MPa以下が更に好ましい。前記E
TDが100MPa未満であれば、連通性を有するのに適した多孔構造を形成し易く、得られる多孔性フィルムの透気特性が優れるため好ましい。一方、下限に関しては特に限定しないが、他の物性とのバランスの関係より、1MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましい。
【0048】
また、E
MDとE
TDとの比(E
MD/E
TD)が3以上10未満であることが好ましく、3.5以上5未満がより好ましい。前記E
MD/E
TDが規定された範囲内に調整することで、連通性を有する多孔構造を形成するため、極度に高い空孔率を有さずとも優れた透気特性を発揮することができると同時に、空孔率を抑えることで、突き刺し強度、引張強度に優れた多孔性フィルムを得ることが可能となる。
【0049】
本発明の多孔性フィルムにおいて、平均孔径は2μm以上であることが好ましい。平均孔径が2μm以上であることで、電池用セパレータとして使用時に劣化物質の生成に伴う電池用セパレータの空孔閉塞が十分に抑制することができる。一方、上限に関しては特に限定しないが、10μm以下がより好ましい。平均孔径が10μm以下であることで、電池用セパレータとして使用時において、短絡の発生を十分に抑制することができる。
【0050】
本発明の多孔性フィルムの突き刺し強度は1.0N以上が好ましく、1.5N以上がより好ましい。突き刺し強度が1.0N以上であることで、多孔性フィルムの面方向に対する機械的強度を十分に確保することができるため、好ましい。例えば、電池用セパレータとして使用時に、電池作製時の異物等での電池用セパレータの破れによる短絡の発生確率が高くなるために好ましくない。
一方、上限に関しては特に限定しないが、他の物性のバランスを踏まえると、10N以下が好ましい。
【0051】
[多孔性フィルムの製造方法の説明]
次に本発明の多孔性フィルムの製造方法について説明するが、本発明はかかる製造方法により製造される多孔性フィルムのみに限定されるものではない。
【0052】
具体的には、前記ポリプロピレン系樹脂組成物を用いて、溶融押出により無孔膜状物を作製し、当該無孔膜状物を延伸することにより厚み方向に連通性を有する微細孔を多数形成した多孔性フィルムを得る事ができる。
【0053】
無孔膜状物の作製方法は特に限定されず公知の方法を用いてよいが、例えば押出機を用いて熱可塑性樹脂組成物を溶融し、Tダイから押出し、キャストロールで冷却固化するという方法が挙げられる。また、チューブラー法により製造した膜状物を切り開いて平面状とする方法も適用できる。
無孔膜状物の延伸方法については、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法、同時二軸延伸法などの手法があり、これらを単独あるいは2つ以上組み合わせて一軸延伸あるいは二軸延伸を行う。中でも、多孔構造制御の観点から二軸延伸が好ましい。
【0054】
また、本発明において、積層多孔性フィルムとする場合、製造方法は、多孔化と積層の順序によって次の2つに大別される。
(a)各層を多孔化したのち、多孔化された各層をラミネートしたり接着剤等で接着したりして積層する方法。
(b)各層を積層して積層無孔膜状物を作製し、ついで当該無孔膜状物を多孔化する方法。
(c)各層のうちいずれか1層を多孔化したのち、もう1層の無孔膜状物と積層し、多孔化する方法。
(d)多孔層を作製した後、無機・有機粒子などのコーティング塗布や、金属粒子の蒸着などを行うことにより積層多孔フィルムとする方法。
本発明においては、その工程の簡略さ、生産性の観点から(b)の方法を用いることが好ましく、なかでも2層の層間接着性を確保するために、共押出で積層無孔膜状物を作製した後多孔化する方法が特に好ましい。
【0055】
以下に、製造方法の詳細を説明する。
まず、前記ポリプロピレン系樹脂組成物を作製する。例えば、ポリプロピレン系樹脂、低分子量ポリプロピレン系樹脂、β晶核剤および所望によりその他添加物等の原材料を、好ましくはヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて、または袋の中に全成分を入れてハンドブレンドにて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等、好ましくは二軸押出機で溶融混練後、カッティングしてペレットを得る。
【0056】
前記のペレットを押出機に投入し、Tダイ押出用口金から押出して膜状物を成形する。
Tダイの種類としては特に限定されない。例えば本発明の多孔性フィルムが2種3層の積層構造をとる場合、Tダイは2種3層用マルチマニホールドタイプでも構わないし、2種3層用フィードブロックタイプでも構わない。
使用するTダイのギャップは、最終的に必要なフィルムの厚み、延伸条件、ドラフト率、各種条件等から決定されるが、一般的には0.1〜3.0mm程度が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。0.1mm以上とすることで、十分な生産速度を確保することができ、また3.0mm以下とすることで、十分な生産安定性を確保することができるために好ましい。
【0057】
押出成形において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、概ね180〜350℃が好ましく、200〜330℃がより好ましく、220〜300℃が更に好ましい。180℃以上の場合、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ生産性が向上することから好ましい。一方、350℃以下にすることにより、樹脂組成物の劣化、ひいては得られる多孔性フィルムの機械的強度の低下を抑制できる。
キャストロールによる冷却固化温度は本発明において非常に重要であり、無孔膜状物中の前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶の比率を調整することができる。キャストロールの冷却固化温度は好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。冷却固化温度を80℃以上とすることで冷却固化させ、膜状物中のβ晶の比率を十分に増加させることができ好ましい。また、150℃以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻き付いてしまうなどのトラブルや、添加剤のブリードアウトが起こりにくく、効率よく無孔膜状物を得ることが可能であるために好ましい。
【0058】
前記温度範囲にキャストロールを設定することで、無孔膜状物の前記ポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶比率は、30〜100%に調整することが好ましい。40〜100%がより好ましく、50〜100%が更に好ましく、60〜100%が最も好ましい。無孔膜状物中のβ晶比率を30%以上とすることで、その後の延伸操作により多孔化が行われやすく、透気特性の良い多孔性フィルムを得ることができる。
前記無孔膜状物中のβ晶比率は、示差走査型熱量計を用いて、25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温させた際に、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
β晶比率(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
【0059】
ついで、得られた無孔膜状物を少なくとも一軸方向に延伸することが好ましく、二軸方向に延伸する二軸延伸がより好ましい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。なかでも、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸が更に好ましい。なお、膜状物の流れ方向(引き取り方向)への延伸を「縦延伸」、流れ方向に対して垂直方向への延伸を「横延伸」と称する。
【0060】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物の組成、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、下記条件の範囲内で選択することが好ましい。
縦延伸での延伸温度の下限は概ね20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましい。一方、前記延伸温度の上限は、130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。また、縦延伸での延伸倍率の下限は2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。一方、前記延伸倍率の上限は、10倍以下が好ましく、8倍以下がより好ましく、7倍以下が更に好ましい。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
縦延伸における延伸温度が20℃以上であれば、延伸時の破断が抑制され、均一な延伸が行われるため好ましい。一方、縦延伸における延伸温度が130℃以下であれば、ポリプロピレン系樹脂中の空孔形成が起こるため、適切な空孔形成を行うことができる。
【0061】
一方、横延伸での延伸温度の下限は概ね100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上が更に好ましい。一方前記延伸温度の上限は、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましい。また、横延伸での延伸倍率の下限は1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2.0倍以上が更に好ましい。一方、前記延伸倍率の上限は、10倍以下が好ましく、8倍以下がより好ましく、6倍以下が更に好ましい。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された空孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができるため、結果として優れた透気特性を有する多孔性フィルムを得ることができる。
【0062】
前記延伸工程の延伸速度の下限としては、500%/分以上が好ましく、1500%/分以上がより好ましく、2500%/分以上が更に好ましい。一方、前記延伸速度の上限としては、12000%/分以下が好ましく、10000%/分以下がより好ましく、8000%/分以下が更に好ましい。前記範囲内の延伸速度であれば、効率よく本発明の多孔性フィルムを製造することができる。
【0063】
このようにして得られた多孔性フィルムは、寸法安定性の改良を目的として熱処理を施すことが好ましい。この際、熱処理温度の下限は100℃以上とすることで、寸法安定性の効果が十分に期待できる。一方、熱処理温度の上限は160℃以下が好ましい。また、熱処理工程中には、必要に応じて1〜20%の弛緩処理を施しても良い。前記熱処理後に均一に冷却して巻き取ることにより、本発明の多孔性フィルムが得られる。
【0064】
本発明の多孔性フィルムは、透気性が要求される種々の用途に応用することができる。電池用セパレータ;水処理膜;使い捨て紙オムツ、生理用品等の体液吸収用パットもしくはベッドシーツ等の衛生材料;手術衣もしくは温湿布用基材等の医療用材料;ジャンパー、スポーツウエア、雨着もしくは防護服等の衣料用材料;壁紙、屋根防水材、断熱材、吸音材等の建築用材料;乾燥剤;防湿剤;脱酸素剤;使い捨てカイロ;鮮度保持包装もしくは食品包装等の包装材料等の資材として極めて好適に使用できる。
【0065】
[電池用セパレータおよび非水電解液電池の説明]
次に、前記多孔性フィルムを電池用セパレータとして収容している非水電解液電池(リチウムイオン電池)について、
図1を参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極は電池用セパレータ10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、電池用セパレータ10は厚みが5〜40μmであることがなかでも好ましく、5〜30μmであることが特に好ましい。厚みを5μm以上とすることにより電池用セパレータが破れにくくなり、40μm以下にすることにより所定の電池缶に捲回して収納する際電池面積を大きくとることができ、ひいては電池容量を大きくすることができる。
【0066】
前記正極板21、電池用セパレータ10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、前記電解質を電池缶内に注入し、電池用セパレータ10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池を作製している。
【0067】
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0068】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0069】
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0070】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0071】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。すなわち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)に導電助剤としてリン状黒鉛を(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【実施例】
【0072】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の多孔性フィルムについて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
(1)厚み
得られた多孔性フィルムを1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0074】
(2)空孔率
得られた多孔性フィルムの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0−W1)/W0}×100
【0075】
(3)透気度(ガーレー値)
得られた多孔性フィルムから直径φ40mmの大きさでサンプルを切り出し、JIS P8117に準拠して透気度(秒/100ml)を測定し、以下の基準で評価した。
○:透気度が500秒/100ml未満である。
×:透気度が500秒/100ml以上である。
【0076】
(4)β晶活性(DSC)
得られた多孔性フィルムをパーキンエルマー社製の示差走査型熱量計(DSC−7)を用いて、25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温した。
ポリプロピレン系樹脂組成物にホモポリプロピレンが含まれている場合は、再昇温時にポリプロピレンのβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)である145℃以上160℃未満の範囲にピークが検出されるか否かにより、以下のようにβ晶活性の有無を評価した。
○:Tmβが145℃以上160℃未満の範囲内に検出された場合(β晶活性あり)
×:Tmβが145℃以上160℃未満の範囲内に検出されなかった場合(β晶活性なし)
また、ポリプロピレン系樹脂組成物にランダムポリプロピレンが含まれている場合は、再昇温時にポリプロピレンのβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)である120℃以上140℃未満にピークが検出されるか否かにより、以下のようにβ晶活性の有無を評価した。
○:Tmβが120℃以上140℃未満の範囲内に検出された場合(β晶活性あり)
×:Tmβが120℃以上140℃未満の範囲内に検出されなかった場合(β晶活性なし) なお、β晶活性の測定は、試料量10mgで、窒素雰囲気下で行った。
【0077】
(5)引張強度
測定には、引張圧縮試験機(インテスコ社製、200X型)を用いた。試験片としては、多孔性フィルムを測定方向に長さ80mm 幅15mmの長方形に切り出したものを使用した。試験片の長さ方向における両端部をチャック間距離40mm でチャックし、クロスヘッドスピード200mm/分で引っ張り、破断点における応力を引張強度として記録した。前記測定を5回行い、その平均値を算出した。
試験片における測定方向をMDとした際の引張強度をE
MD 、TDとした際の引張強度をE
TD とし、以下の基準で評価した。
○:E
MD/E
TDが3以上10未満である。
×:E
MD/E
TDが3未満、あるいは、10以上である。
【0078】
(6)突き刺し強度
日本農林規格告示1019号に準じ、ピン径1.0mm 、先端部0.5R、突き刺し速度300mm/分の条件で測定し、以下の基準で評価した。
○:突き刺し強度が1.0N以上である。
×:突き刺し強度が1.0N未満である。
【0079】
(7)平均孔径
多孔性フィルムをTDに切断した断面を透過型電子顕微鏡(SEM)にて撮影。
撮影されたSEM写真によって映し出された各空孔の孔径の最大値を測定して、算出した平均値を平均孔径とした。前記平均孔径については、以下の基準で評価した。
○:平均孔径が2μm以上である。
×:平均孔径が2μm未満である。
【0080】
実施例、比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0081】
(ポリプロピレン系樹脂(A))
・A−1;ノバテックPP FY6HA (日本ポリプロ社製、MFR;2.4g/10分)
(エチレン系共重合体(B))
・B−1;レクスパールEEA A4200(エチレン−アクリル酸エチル共重合体、日本ポリエチレン社製)
・B−2;レクスパールEMA EB240H(エチレン−アクリル酸メチル共重合体、日本ポリエチレン社製)
・B−3;モディパーA5400(エチレン−アクリル酸エチル/スチレン−アクリロニトリルグラフト共重合体、日油社製)
・B−4;エンゲージ8411(エチレン−αオレフィン系樹脂、ダウ・ケミカル社製)
・B−5;レクスパールEAA(エチレン−アクリル酸共重合体、日本ポリエチレン社製)
・B−6;ニュクレルN1207C(エチレン−メタクリル酸共重合体、三井・デュポン ポリケミカル社製)
(β晶核剤)
・C−1;3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
(酸化防止剤)
・D−1;IRGANOX−B225 (チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
【0082】
(実施例1〜
3、参考例1、比較例1〜4)
ポリプロピレン系樹脂(A)としてA−1を100質量部、β晶核剤としてC−1を0.2質量部、酸化防止材としてD−1を0.1質量部、2軸押出機(東芝機械株式会社製、口径40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度270℃で溶融混合後、水槽にてストランドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドをカットすることで、ペレットを作製した(以下、得られたペレットをF−1という)。
前記F−1を用いて、表1に示す混合質量比にて、2軸押出機(東芝機械株式会社製、口径40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度200℃で溶融混合後、水槽にてストランドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドをカットすることで、ペレットを作製した。
得られたペレットを、単軸押出機(三菱重工株式会社製)を用いて200℃で溶融混合後、Tダイより押出した溶融樹脂シートを127℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて、幅300mm、厚み80μm程度の無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物に対し、フィルムロール縦延伸機を用い、105℃に加熱したロール間において、延伸倍率4.6倍で縦延伸を行い、縦一軸延伸フィルムを得た。
次いで、得られた縦一軸延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度150℃で予熱した後、延伸温度150℃、延伸倍率2.1倍、延伸速度1100%/minで横延伸をした後、153℃で熱処理を行い、多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの評価結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表2より、本発明で規定する範囲内で構成された実施例の多孔性フィルムは、優れた透気特性と強度特性を維持しながら、多孔性フィルムの孔径を増大することができる。
しかしながら、比較例1で示すように本発明が規定するエチレン系共重合体(B)が含まれない場合、平均孔径は小さいために、電池用セパレータとして用いる際において、電池の高出力化に伴う対応としては不十分であった。
また、比較例2、3で示すようにエチレン系共重合体(B)を、エチレン−メタクリル酸共重合体とした場合、平均孔径は増大するものの、透気特性や強度特性が著しく低下し、不十分であった。
また、比較例4で示すようにポリプロピレン系樹脂(A)とエチレン系共重合体(B)とを含む樹脂組成物の混合質量比が、本発明が規定する範囲より逸脱する場合においても平均孔径は小さいために、電池用セパレータとして用いる際において、電池の高出力化に伴う対応としては不十分であった。