特許第6233131号(P6233131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

6233131二次電池多孔膜用組成物、二次電池用多孔膜及び二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233131
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】二次電池多孔膜用組成物、二次電池用多孔膜及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20171113BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M4/02 Z
   H01M2/16 L
【請求項の数】9
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-63677(P2014-63677)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-185515(P2015-185515A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雄輝
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/125645(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/024991(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/151144(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/005796(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/129408(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16、4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸と、増粘多糖類と、非導電性粒子と、水とを含有する二次電池多孔膜用組成物であって、
前記ポリカルボン酸は、カルボン酸基含有単量体単位を20重量%以上50重量%以下含み、
前記ポリカルボン酸は、pHが6.5以下で非水溶性、pHが8以上で水溶性であり、
前記増粘多糖類100重量部に対する前記ポリカルボン酸の含有量が、40重量部以上、100重量部以下であり、
前記二次電池多孔膜用組成物のpHが7超過である、二次電池多孔膜用組成物。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸が、さらに架橋性単量体単位0.1重量%以上2.0重量%以下を含む、請求項1に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項3】
前記非導電性粒子100重量部に対する前記ポリカルボン酸と前記増粘多糖類の合計含有量が、0.1重量部以上、3.0重量部以下である、請求項1または請求項2に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項4】
25℃におけるB型粘度計で測定される溶液粘度が50〜200mPa・sである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項5】
前記ポリカルボン酸の前記カルボン酸基含有単量体単位が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸は、アルキル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項7】
前記アルキル(メタ)アクリレート単位が、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U1)と、炭素数4〜6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U2)とを含み、
前記ポリカルボン酸における前記単位(U1)と前記単位(U2)との重量比U1/U2が、1〜5である、請求項6に記載の二次電池多孔膜用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物を用いて形成された二次電池用多孔膜。
【請求項9】
請求項8に記載の二次電池用多孔膜を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池多孔膜用組成物、二次電池用多孔膜及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、携帯型の機器の電源として、近年広く用いられている。特に、リチウムイオン二次電池は、小型で軽量なものとしうる、エネルギー密度が高い、繰り返し充放電が可能である等の特性を有し、需要の拡大が見込まれている。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高い利点を活かし、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの装置に利用されている。二次電池には、使用される装置の高性能化のため、さらなる性能の向上が求められている。例えば、高温の環境下で充放電を繰り返しても容量を維持しうる能力(高温サイクル特性)といった性能を向上させることが求められている。
【0003】
二次電池においては、性能を向上させるため、正極と負極との間にセパレーターを設けることが行なわれている。セパレーターとしては、非導電性粒子及びバインダーを含むスラリーの層を基材に塗布して層を形成し、これを乾燥させて得られる多孔膜が知られている。多孔膜形成用のスラリーは、環境負荷低減等のため、水を溶媒として用いて調製された、所謂水系スラリーが普及しつつある。また、多孔膜形成用のスラリーの成分としてのバインダーとして、各種の重合体を用いることが知られている(特許文献1及び2)。
【0004】
このようなスラリーは、その粘度等の物性を好ましい範囲とすることにより、塗布を良好に行い高品質の多孔膜を容易に製造することが可能となる。また、二次電池の性能を良好なものとするためには、多孔膜には高いピール強度(多孔膜と基材との密着強度)が求められる。スラリーにそのような性質を付与するために、増粘多糖類をスラリーに添加することが広く行なわれている。かかる増粘多糖類としては、従来より、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系の重合体が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2013/125645号
【特許文献2】国際公開第WO2009/123168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に増粘多糖類は親水性が高いため、スラリーの層を乾燥させた後の多孔膜中に残存する水分量を増加させるという問題点がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、残存水分量が少なく、ピール強度が高く、多孔膜に求められる耐熱収縮性を備えた、二次電池の性能を向上させうる二次電池用多孔膜及びそのような多孔膜を形成しうる二次電池多孔膜用組成物、並びに高温サイクル特性等の性能が向上した二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために検討を行った。その結果、本発明者は、特定のポリカルボン酸と増粘多糖類とを組み合わせ、かつ、特定範囲のpHの多孔膜組成物とすることで、耐熱収縮性を備え、多孔膜の残存水分量を低減し、二次電池の性能を向上させうる多孔膜を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明によれば、下記〔1〕〜〔9〕が提供される。
【0009】
〔1〕 ポリカルボン酸と、増粘多糖類と、非導電性粒子と、水とを含有する二次電池多孔膜用組成物であって、
前記ポリカルボン酸は、カルボン酸基含有単量体単位を20重量%以上50重量%以下含み、
前記ポリカルボン酸は、pHが6.5以下で非水溶性、pHが8以上で水溶性であり、
前記二次電池多孔膜用組成物のpHが7超過である、二次電池多孔膜用組成物。
〔2〕 前記増粘多糖類100重量部に対する前記ポリカルボン酸の含有量が、40重量部以上、100重量部以下である、〔1〕に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔3〕 前記非導電性粒子100重量部に対する前記ポリカルボン酸と前記増粘多糖類の合計含有量が、0.1重量部以上、3.0重量部以下である、〔1〕または〔2〕に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔4〕 25℃におけるB型粘度計で測定される溶液粘度が50〜200mPa・sである、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔5〕 前記ポリカルボン酸の前記カルボン酸基含有単量体単位が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔6〕 前記ポリカルボン酸は、アルキル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔7〕 前記アルキル(メタ)アクリレート単位が、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U1)と、炭素数4〜6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U2)とを含み、
前記ポリカルボン酸における前記単位(U1)と前記単位(U2)との重量比U1/U2が、1〜5である、〔6〕に記載の二次電池多孔膜用組成物。
〔8〕 〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の二次電池多孔膜用組成物を用いて形成された二次電池用多孔膜。
〔9〕 〔8〕に記載の二次電池用多孔膜を備える二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔膜用組成物によれば、耐熱収縮性を備え、残存水分量が少なく、ピール強度が高く、二次電池の性能を向上させうる本発明の二次電池用多孔膜を得ることができ、それを備える本発明の二次電池は、高温サイクル特性等の性能が向上した二次電池としうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
本願において、「(メタ)アクリル」の文言は、アクリル及びメタクリルのいずれか又は両方を意味する。例えば、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの組み合わせを意味する。同様に、例えば「(メタ)アクリレート」の文言はアクリレート、メタクリレート又はこれらの組み合わせを意味する。
【0013】
ポリカルボン酸は、pHによって水溶性となる場合もあり、非水溶性となる場合もあるため、以下の説明におけるポリカルボン酸の「水溶液」「水分散液」に関しては、「水溶液」と述べるものの中に非水溶性のポリカルボン酸が分散していることもあり、「水分散液」と述べるものの中に水溶性のポリカルボン酸が溶解していることもある。
【0014】
〔1.多孔膜用組成物〕
本発明の二次電池多孔膜用組成物(以下において、単に「多孔膜用組成物」という場合がある。)は、特定のポリカルボン酸と、増粘多糖類と、非導電性粒子と、水とを含有する。この特定のポリカルボン酸を、以下において、ポリカルボン酸(A)と呼ぶ場合がある。
【0015】
〔1.1.ポリカルボン酸(A)〕
ポリカルボン酸(A)は、カルボン酸基含有単量体単位を所定割合含む重合体である。ポリカルボン酸(A)は、多孔膜において非導電性粒子同士の間に介在することにより非導電性粒子同士を結着する作用、並びに、非導電性粒子とセパレーター基材又は極板との間に介在することにより多孔膜とセパレーター基材又は極板とを結着する作用を奏しうる。
【0016】
〔1.1.1.ポリカルボン酸(A):カルボン酸基含有単量体単位〕
ポリカルボン酸(A)におけるカルボン酸基含有単量体単位とは、カルボン酸基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。
【0017】
カルボン酸基含有単量体は、−COOH基(カルボン酸基)を有し、且つ、重合反応しうる基を有する化合物としうる。また、例えば、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる単量体も、カルボン酸基含有単量体として用いうる。そのようなカルボン酸基含有単量体の具体例を挙げると、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる酸無水物などが挙げられる。
【0018】
カルボン酸基含有単量体単位は、好ましくは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。そのような単位を含むことにより、特定の水溶性等の所望の条件を満たすポリカルボン酸(A)を容易に得ることができる。
【0019】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等の置換基を有するマレイン酸;マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸、特にメタクリル酸が、ポリカルボン酸(A)の水に対する分散性がより高めることができるため好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリカルボン酸(A)におけるカルボン酸基含有単量体単位の割合は、20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは28重量%以上であり、一方50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。ポリカルボン酸(A)におけるカルボン酸基含有単量体単位の割合を前記下限以上とすることにより、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸(A)におけるカルボン酸基含有単量体単位の割合を前記上限以下とすることにより、多孔膜に柔軟性を付与し、ピール強度(多孔膜と基材との密着強度)を高くすることができる。また、カルボン酸基は親水性が高いので、ポリカルボン酸(A)におけるカルボン酸基含有単量体単位の割合を前記上限以下とすることにより、多孔膜中の水分量を低減することができる。
【0021】
〔1.1.2.ポリカルボン酸(A):アルキル(メタ)アクリレート単位〕
ポリカルボン酸(A)は、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート単位を含む。アルキル(メタ)アクリレート単位とは、アルキル(メタ)アクリレートを重合して形成される構造を有する構造単位を示す。
アルキル(メタ)アクリレートの例としては、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレートとして、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであることがより好ましい。これらのアルキル(メタ)アクリレートのうち1種類、又は複数種類を組み合わせて、ポリカルボン酸(A)の重合のためのアルキル(メタ)アクリレートとして用いることができる。
【0022】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアルキルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートなどが挙げられる。また、これらは1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ポリカルボン酸(A)におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらにより好ましくは60重量%以上である。ポリカルボン酸(A)におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の割合の上限は、80重量%以下である。ポリカルボン酸(A)におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の割合を前記下限以上とすることにより、ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度を所望の低い値に保ち、ピール強度を高くすることができる。
【0024】
特に好ましい態様において、ポリカルボン酸(A)は、アルキル(メタ)アクリレート単位として、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U1)と、炭素数4〜6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位(U2)とを含む。このように、単位(U1)と単位(U2)とを組み合わせることにより、多孔膜用組成物、及びその材料として予備的に調製したポリカルボン酸(A)を含む水分散液の保存安定性が優れるようになる。特に、単位(U1)及び単位(U2)を与える単量体として、エチル(メタ)アクリレートと、ブチル(メタ)アクリレートとを組み合わせることが好ましい。
【0025】
この場合において、ポリカルボン酸における単位(U1)と単位(U2)との重量比U1/U2は、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上、さらにより好ましくは2.5以上であり、一方好ましくは10.0以下、より好ましくは7.0以下、さらにより好ましくは6.0以下、特に好ましくは5.0以下である。ポリカルボン酸における単位(U1)と単位(U2)との重量比U1/U2が前記下限以上であることにより、ポリカルボン酸(A)を容易に可溶化させることができ、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸における単位(U1)と単位(U2)との重量比U1/U2が前記上限以下であることにより、多孔膜に柔軟性を付与し、ピール強度を高くすることができる。
【0026】
〔1.1.3.ポリカルボン酸(A):架橋性単量体単位〕
ポリカルボン酸(A)は、架橋性単量体単位を含みうる。架橋性単量体単位を含むことにより、ポリカルボン酸(A)の分子量、物性等を適切な範囲に調節することができる。架橋性単量体単位とは、架橋性単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。架橋性単量体とは、重合により架橋構造を形成しうる単量体を表す。架橋性単量体の例としては、通常、熱架橋性を有する単量体が挙げられる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体;1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0027】
熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0028】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0029】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0030】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0031】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
【0032】
1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンが挙げられる。
【0033】
これらの例示物の中でも、架橋性単量体としては、特に、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びグリシジルメタクリレートが好ましく、エチレンジメタクリレートが特に好ましい。
また、架橋性単量体及び架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリカルボン酸(A)における架橋性単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、さらにより好ましくは0.5重量%以上であり、一方好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、さらにより好ましくは1.0重量%以下である。ポリカルボン酸(A)における架橋性単量体単位の割合を、前記下限以上とすることにより、電池内でのポリカルボン酸(A)が溶け出すことを防止し、高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸(A)における架橋性単量体単位の割合を、前記上限以下とすることにより、多孔膜に柔軟性を付与し、ピール強度を高くすることができる。
【0035】
〔1.1.4.ポリカルボン酸(A):反応性界面活性剤単位〕
また、ポリカルボン酸(A)は、反応性界面活性剤単位を含むことが好ましい。反応性界面活性剤単位を含むことにより、ポリカルボン酸(A)の水に対する溶解性及びポリカルボン酸(A)の分散性を高めることができる。ここで、反応性界面活性剤単位とは、反応性界面活性剤単量体を重合して得られる構造を有する構造単位を表す。また、反応性界面活性剤単量体とは、他の単量体と共重合しうる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(即ち、親水性基及び疎水性基)を有する単量体を表す。反応性界面活性剤単量体の重合により得られる反応性界面活性剤単位は、ポリカルボン酸(A)の分子の一部を構成し、且つ界面活性剤として機能しうる。
【0036】
通常、反応性界面活性剤単量体は重合性不飽和基を有し、この重合性不飽和基が重合後に疎水性基としても作用する。重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。1分子のポリカルボン酸(A)が有する重合性不飽和基の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0037】
また、反応性界面活性剤単量体は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤単量体は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0038】
アニオン系の親水性基の例としては、−SOM、−COOM、及び−PO(OM)が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオン;などが挙げられる。
カチオン系の親水基の例としては、−NHHXなどの第1級アミン塩、−NHCHHXなどの第2級アミン塩、−N(CHHXなどの第3級アミン塩、−N(CHなどの第4級アミン塩、などが挙げられる。ここでXは、ハロゲン基を表す。
ノニオン系の親水基の例としては、−OHが挙げられる。
【0039】
好適な反応性界面活性剤の例としては、下記の式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0040】
【化1】
【0041】
式(II)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。
式(II)において、Rは親水性基を表す。Rの例としては、−SONHが挙げられる。
式(II)において、nは1以上100以下の整数を表す。
【0042】
好適な反応性界面活性剤の別の例としては、エチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位及びブチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位を有し、さらに末端に、末端二重結合を有するアルケニル基及び−SONHを有する化合物(例えば、商品名「ラテムルPD−104」及び「ラテムルPD−105」、花王株式会社製)を挙げることができる。
反応性界面活性剤及び反応性界面活性剤単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ポリカルボン酸(A)における反応性界面活性剤単位の含有割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。反応性界面活性剤単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、ポリカルボン酸(A)の分散性を向上させることができ、均一な多孔膜を得ることができる。一方、反応性界面活性剤単位の割合を前記範囲の上限値以下とすることにより、多孔膜中の水分量を低く抑えられるので、本発明の多孔膜の耐久性を向上させることができる。
【0044】
〔1.1.5.ポリカルボン酸(A):その他の単位〕
ポリカルボン酸(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した単位以外の構造単位を含んでいてもよい。このような構造単位は、上述した単量体と共重合可能な単量体を重合して形成される構造単位としうる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリカルボン酸(A)はフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含みうる。但し、多孔膜用組成物の基材への塗布を良好に行う観点からは、ポリカルボン酸(A)におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、1重量%未満であることが好ましい。
【0045】
〔1.1.6.ポリカルボン酸(A):物性等〕
一般にポリカルボン酸は、カルボン酸基を有するため、pHが高い水溶液中では高い水溶性を示し、pHが低い水溶液中では低い水溶性を示す傾向がある。本発明のポリカルボン酸(A)は、pHが6.5以下で非水溶性、pHが8以上で水溶性である。
ポリカルボン酸(A)のpH6.5及びpH8における水溶性、非水溶性については、下記の通り判定する。
まず、ポリカルボン酸(A)の濃度10%、pH6.5の水溶液、及び濃度10%、pH8.0の水溶液を準備し、それぞれを25℃において1時間攪拌し、評価液とする。
前記評価液を光路長30mmのセルに移し、ヘーズメータを用い、散乱光及び全光線透過光を測定し、式:曇り度=散乱光/全光線透過光×100(%)で求められる、評価液の曇り度を求める。評価液の曇り度が60%以上である場合、ポリカルボン酸(A)が水溶性であると判定し、60%未満である場合、ポリカルボン酸(A)が非水溶性であると判定する。
【0046】
前述のポリカルボン酸(A)のpH6.5の水溶液の曇り度は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。pH6.5以下でこのような高い曇り度即ち高い非水溶性を呈するポリカルボン酸(A)は、ポリカルボン酸(A)の水分散液を酸性の状態に保つことにより、水分散液中で粒子状の形状を維持させることができ、良好な分散を達成できる。そのため、本発明の多孔膜用組成物の製造に先立ちポリカルボン酸(A)の水分散液を調製及び保存する際、及び本発明の多孔膜用組成物の製造に際し、pHを適宜調節することにより、ポリカルボン酸(A)が粒子の状態で分散した状態で操作を行うことができ、それにより多孔膜用組成物においてポリカルボン酸(A)を良好に分散させることができる。その結果、均一な多孔膜を得ることができ、且つ多孔膜の耐熱収縮性を向上させることができる。
【0047】
一方、前述のポリカルボン酸(A)のpH8.0の水溶液の曇り度は、好ましくは50%未満であり、より好ましくは40%未満である。pH8.0でこのような低い曇り度即ち高い水溶性を呈するポリカルボン酸(A)を用いることにより、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、二次電池の高い高温サイクル特性を達成することができる。
【0048】
このような、pH6.5の水溶液における性質及びpH8.0の水溶液における性質を兼ね備えるポリカルボン酸(A)は、カルボン酸基含有単量体単位の割合やその他単量体単位の割合、種類などを適宜調節することにより得ることができる。
【0049】
ポリカルボン酸(A)の重量平均分子量は、好ましくは20,000以上、より好ましくは50,000以上、特に好ましくは100,000以上であり、好ましくは500,000以下、より好ましくは250,000以下である。ポリカルボン酸(A)の重量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることによりポリカルボン酸(A)の強度を高くして安定な多孔膜を形成できるので、例えば非導電性粒子の分散性及び二次電池の高温保存特性などを改善できる。また、上記範囲の上限値以下とすることによりポリカルボン酸(A)を柔らかくできるので、例えば本発明の多孔膜の基材への密着性の改善などが可能となる。ここで、ポリカルボン酸(A)の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)によって、アセトニトリルの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリエチレンオキサイド換算の値として求めうる。
【0050】
ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−30℃以上、さらにより好ましくは−10℃以上であり、一方好ましくは30℃未満、より好ましくは25℃以下、さらにより好ましくは20℃以下である。ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度が前記下限以上であることにより、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、二次電池の高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度が前記上限以下であることにより、多孔膜に柔軟性を付与し、ピール強度を高くすることができる。
【0051】
〔1.1.7.ポリカルボン酸(A):含有量〕
本発明の多孔膜用組成物におけるポリカルボン酸(A)の量は、非導電性粒子100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、さらにより好ましくは0.3重量部以上であり、一方好ましくは2.0重量部以下、より好ましくは1.5重量部以下、さらにより好ましくは1.0重量部以下である。ポリカルボン酸(A)の量を前記下限以上とすることにより、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、二次電池の高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸(A)の量を前記上限以下とすることにより、多孔膜用組成物の粘度を所望の高すぎない値とし、それにより塗布ムラの少ない塗布を達成することができ、高い高温サイクル特性を達成することができる。
【0052】
〔1.1.8.ポリカルボン酸(A):製造方法〕
ポリカルボン酸(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して製造しうる。この際、単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、ポリカルボン酸(A)における構造単位の比率と同じ比率に調整される。
水系溶媒としては、例えば、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン等のケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、特に好ましい。また、主溶媒として水を使用して、上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0053】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いてもよい。
【0054】
これにより、通常は水系溶媒にポリカルボン酸(A)が分散した水分散液が得られる。こうして得られた水分散液からポリカルボン酸(A)を取り出してもよいが、通常は、水系溶媒及びその中に分散したポリカルボン酸(A)を含む水分散液を用いて、多孔膜用組成物及び多孔膜を製造しうる。
【0055】
重合反応の結果得られるポリカルボン酸(A)の水分散液は通常は酸性である。水分散液のpHは、必要に応じて、保存及び次の工程での使用に適した値に調整しうる。ポリカルボン酸(A)の水分散液のpHは、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.2以上、さらにより好ましくは3.5以上であり、一方好ましくは6.5以下である。ポリカルボン酸(A)の水分散液のpHを前記下限以上とすることにより、ポリカルボン酸の凝集を低減し、得られる多孔膜のピール強度を高めることができる。ポリカルボン酸(A)の水分散液のpHを前記上限以下とすることにより、ポリカルボン酸(A)の可溶化を抑制し、多孔膜組成物の分散性を高め、均一な多孔膜を得ることができ、且つ多孔膜の耐熱収縮性を向上させることができる。
【0056】
pHを所望の範囲にする場合、通常は、重合反応の結果得られるポリカルボン酸(A)の水分散液のpHを高める調整を行う。pHを高める方法の例としては、アルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。アルカリ水溶液を構成する塩基性の成分の例としては、アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;並びに水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。また、前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
〔1.2.増粘多糖類〕
本発明の多孔膜用組成物は、ポリカルボン酸(A)に加えて、増粘多糖類を含む。増粘多糖類とは、ポリカルボン酸(A)以外の化合物であって、多孔膜用組成物中に含まれることによって多孔膜用組成物の粘度を高めうる多糖類である。
増粘多糖類としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸もしくはこれらの塩を用いることが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はその塩が特に好ましい。
カルボキシメチルセルロース塩等の増粘多糖類は、多孔膜用組成物の粘度を高めることができるので、多孔膜用組成物の塗布性を良好にすることができる。また、カルボキシメチルセルロース塩により、通常は、多孔膜用組成物における非導電性粒子の分散安定性を高めたり、多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性を高めたりすることができる。カルボキシメチルセルロース塩としては、例えば、ナトリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。増粘多糖類は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
増粘多糖類の量は、非導電性粒子100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、さらにより好ましくは0.5重量部以上であり、一方好ましくは2.0重量部以下、より好ましくは1.8重量部以下、さらにより好ましくは1.5重量部以下である。増粘多糖類の量を前記下限以上とすることにより、耐熱収縮性を向上させることができる。増粘多糖類の量を前記上限以下とすることにより、多孔膜の水分量を低減することができる。
【0059】
〔1.3.ポリカルボン酸(A)の量と増粘多糖類の量との割合、及びこれらの合計の含有量〕
本発明の多孔膜用組成物においては、ポリカルボン酸(A)の量と増粘多糖類の量との割合が、所定の範囲内であることが好ましい。具体的には、増粘多糖類100重量部に対するポリカルボン酸(A)の含有量は、好ましくは40重量部以上、より好ましくは45重量部以上、さらにより好ましくは50重量部以上であり、一方好ましくは100重量部以下、より好ましくは90重量部以下、さらにより好ましくは80重量部以下である。増粘多糖類に対するポリカルボン酸(A)の含有量を前記下限以上とすることにより、多孔膜の水分量を低減することができる。増粘多糖類に対するポリカルボン酸(A)の含有量を前記上限以下とすることにより、多孔膜用組成物の粘度を所望の高すぎない値とし、それにより塗布ムラの少ない塗布を達成することができ、高い高温サイクル特性を達成することができる。また、ポリカルボン酸(A)の量と増粘多糖類の量との割合を前記範囲とすることで、成形後の多孔膜は水に対する耐性が向上する。従って、多孔膜の上に、水系媒体を含む接着剤などの塗工剤を塗布しても、多孔膜が侵され難く、多孔膜の密着性(ピール強度)などの機能を損なう虞が少ない。
【0060】
本発明の多孔膜用組成物においては、ポリカルボン酸(A)の量と増粘多糖類の量との合計量が、非導電性粒子の量に対する相対量として、所定の範囲内であることが好ましい。具体的には、非導電性粒子100重量部に対する、ポリカルボン酸(A)の量と増粘多糖類の量との合計量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらにより好ましくは0.7重量部以上であり、一方好ましくは3.0重量部以下、より好ましくは2.5重量部以下、さらにより好ましくは2.0重量部以下である。ポリカルボン酸(A)及び増粘多糖類の合計量を前記下限以上とすることにより、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、二次電池の高い高温サイクル特性を達成することができる。ポリカルボン酸(A)及び増粘多糖類の合計量を前記上限以下とすることにより、多孔膜の水分量を低減することができる。
【0061】
〔1.4.非導電性粒子〕
本発明の多孔膜用組成物は、非導電性粒子を含む。非導電性粒子は、多孔膜に充填される成分であり、この非導電性粒子同士の隙間が多孔膜の孔を形成しうる。非導電性粒子が非導電性を有するので、多孔膜を絶縁性にでき、そのため、二次電池における短絡を防止することができる。また、通常、非導電性粒子は高い剛性を有し、これにより、多孔膜の機械的強度を高めることができる。そのため、熱によってセパレーター基材等の基材に収縮しようとする応力が生じた場合でも、多孔膜がその応力に抗することができるので、基材の収縮による短絡の発生を防止することが可能である。
非導電性粒子としては、無機粒子を用いてもよく、有機粒子を用いてもよい。
【0062】
無機粒子は、通常、水中での分散安定性に優れ、多孔膜用組成物において沈降し難く、均一なスラリー状態を長時間維持することができる。また、無機粒子を用いると、通常は多孔膜の耐熱性を高くできる。
【0063】
非導電性粒子の材料としては、電気化学的に安定な材料が好ましい。このような観点から、非導電性粒子の無機材料として好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH)、ギブサイト(Al(OH))、ベークライト、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;シリカ、タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点からアルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムが好ましく、アルミナが特に好ましい。
【0065】
有機粒子としては、通常は重合体の粒子を用いる。有機粒子は、当該有機粒子の表面の官能基の種類及び量を調整することにより、水に対する親和性を制御でき、ひいては多孔膜に含まれる水分量を制御できる。また有機粒子は、通常は金属イオンの溶出が少ない点で優れる。
【0066】
非導電性粒子を形成する重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等の各種高分子化合物などが挙げられる。粒子を形成する上記高分子化合物は、単独重合体でも共重合体でもよく、共重合体の場合は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれも使用できる。さらに、少なくとも一部が変性されたものや架橋物であってもよい。そして、これらの混合物であってもよい。架橋物である場合の架橋剤としては、ジビニルベンゼンなどの芳香族環を持つ架橋体、エチレングリコールジメタクリレートなどの多官能アクリレート架橋体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を有する架橋体などが挙げられる。
【0067】
非導電性粒子として有機粒子を用いる場合、当該有機粒子は、通常、ガラス転移温度を持たない重合体の粒子であるか、高いガラス転移温度を有する重合体の粒子である。当該重合体がガラス転移温度を有する場合、そのガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上であり、通常500℃以下である。
【0068】
非導電性粒子としての有機粒子の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法を用いてもよい。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま多孔膜用組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、有機粒子を製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。有機粒子は、通常、実質的に当該有機粒子を構成する重合体からなるが、重合に際して添加した添加剤等の任意の成分を同伴していてもよい。
【0069】
非導電性粒子は、必要に応じて、例えば元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。また、非導電性粒子は、1つの粒子の中に、前記の材料のうち1種類を単独で含むものであってもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものであってもよい。さらに、非導電性粒子は、異なる材料で形成された2種類以上の粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
非導電性粒子の形状は、例えば、球状、楕円球状、多角形状、テトラポッド(登録商標)状、板状、鱗片状などが挙げられる。
【0071】
非導電性粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。非導電性粒子の体積平均粒子径を前記範囲の下限値以上にすることにより、多孔膜における非導電性粒子の分散性を高めることができるので、均一性に優れた多孔膜を得ることができる。また、上限値以下にすることにより、耐久性に優れた多孔膜を得ることができる。ここで、粒子の体積平均粒子径とは、レーザー回折法で測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0072】
非導電性粒子のBET比表面積は、例えば0.9m/g以上、さらには1.5m/g以上であることが好ましい。また、非導電性粒子の凝集を抑制し、多孔膜用組成物の流動性を好適化する観点から、BET比表面積は大き過ぎないことが好ましく、例えば150m/g以下であることが好ましい。
【0073】
〔1.5.粒子状重合体〕
本発明の多孔膜用組成物は、粒子状重合体を含みうる。多孔膜用組成物が粒子状重合体を含むことにより、通常は、以下のような利点を得られる。即ち、多孔膜の結着性が向上し、捲回時、運搬時等の取扱い時に本発明の二次電池用多孔膜を備えるセパレーター又は電極にかかる機械的な力に対する強度を向上させることができる。また、粒子状重合体は、その形状が粒子状であるので、多孔膜において非導電性粒子に対して面ではなく点で結着しうる。このため、多孔膜における孔を大きくできるので、二次電池の内部抵抗を小さくできる。
【0074】
通常、粒子状重合体は、非水溶性であり、少なくとも、多孔膜用組成物においては溶解せず、粒子形状を有した状態で分散して存在しうる。粒子状重合体は、多孔膜においては、その粒子形状の一部又は全部を維持したまま存在しうる。構成要素である単量体単位の割合を適宜調節することにより、このような粒子状の重合体を得ることができる。
【0075】
粒子状合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含みうる。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は強度が高いので、粒子状重合体の分子を安定化させることができる。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0077】
粒子状重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、特に好ましくは58重量%以上であり、好ましくは98重量%以下、より好ましくは97重量%以下、特に好ましくは96重量%以下である。粒子状重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記範囲の下限値以上にすることにより、多孔膜のセパレーター基材又は極板への結着性を高くすることができる。また、上限値以下にすることにより、多孔膜の柔軟性を高めることができる。
【0078】
粒子状重合体は、架橋性単量体単位を含みうる。架橋性単量体単位及びそれを与える架橋性単量体の例としては、ポリカルボン酸(A)の架橋性単量体単位及び架橋性単量体として挙げたものと同様のものが挙げられる。中でも、粒子状重合体は、架橋性単量体単位として、N−メチロールアミド基を含む単量体単位を含むことが好ましい。N−メチロールアミド基を含む単量体としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドが挙げられる。N−メチロールアミド基を含む単量体を用いる場合、架橋性単量体として、(メタ)アクリルアミドなどの一級アミンのアクリルアミドを併用することが好ましい。一級アミンのアクリルアミド単量体単位の割合は、N−メチロール基を有するアクリルアミド単量体単位の100重量部に対し、好ましくは50重量部以上200重量部以下である。前記の範囲とすることで、粒子状重合体が電解液へ溶出することを抑制し、良好な電池特性が得られるようになる。
【0079】
粒子状重合体における架橋性単量体単位の割合は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上であり、一方好ましくは5重量%以下、より好ましくは4.5重量%以下、さらにより好ましくは4.0重量%以下である。粒子状重合体における架橋性単量体単位の割合を、前記下限以上とすることにより、多孔膜と基材との親和性を高め、ピール強度を高くすることができる。粒子状重合体における架橋性単量体単位の割合を、前記上限以下とすることにより、粒子状重合体の重合時に粒径の小さい粒子が多く発生することを防ぐことができる。それにより、電池の使用に際してセパレーターにおける目詰まりの発生を低減することができ、結果として高い高温サイクル特性を達成することができる。
【0080】
粒子状重合体は、酸基含有単量体単位を含みうる。粒子状重合体における酸基含有単量体単位とは、酸基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。また、酸基含有単量体とは、酸基を含む単量体を示す。したがって、酸基含有単量体単位を有する粒子状重合体は、酸基を含む。
【0081】
粒子状重合体が含みうる酸基の例としては、−COOH基(カルボン酸基);−SOH基(スルホン酸基);−PO基及び−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)等のホスホン酸基;及びこれらの組み合わせが挙げられる。したがって、酸基含有単量体としては、例えば、これらの酸基を有する単量体が挙げられる。また、例えば、加水分解により前記の酸基を生成しうる単量体も、酸基含有単量体として挙げられる。そのような酸基含有単量体の具体例を挙げると、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる酸無水物などが挙げられる。
【0082】
カルボン酸基を有する単量体(カルボン酸単量体)の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、及びこれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−エチルアクリル酸、及びイソクロトン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びメチルマレイン酸が挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。これらの中でもモノカルボン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0083】
また、上述した単量体の塩を、酸基含有単量体として用いてもよい。このような塩の例としては、p−スチレンスルホン酸等のスチレンスルホン酸のナトリウム塩が挙げられる。
また、酸基含有単量体及び酸基含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0084】
酸基は、上述のような酸基含有単量体の重合により導入してもよいが、酸基を有しない粒子状重合体を重合した後、該粒子状重合体中の官能基の一部または全部を酸基に置換することにより導入してもよい。このように導入された酸基を有する粒子状重合体中の繰り返し単位も、酸基含有単量体単位に含まれる。
【0085】
粒子状重合体における酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。粒子状重合体における酸基含有単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性を効果的に高めることができる。また、上限値以下にすることにより、多孔膜の耐久性を高めることができる。
【0086】
さらに、粒子状重合体は、上述した構造単位以外に任意の構造単位を含みうる。粒子状重合体が含みうる任意の構造単位の例としては、下記の単量体を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。即ち、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等の肪族共役ジエン単量体;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン単量体;並びに、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体;の1以上を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0087】
また、粒子状重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0088】
粒子状重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。粒子状重合体を構成する重合体の重量平均分子量を上記範囲に収めることにより、多孔膜の強度及び非導電性粒子の分散性を良好にし易い。ここで、粒子状重合体を構成する重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めうる。
【0089】
粒子状重合体のガラス転移温度は、好ましくは−75℃以上、より好ましくは−55℃以上、特に好ましくは−45℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらにより好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下である。粒子状重合体のガラス転移温度を上記範囲に収めることにより、多孔膜を備えたセパレーター及び電極の柔軟性及び捲回性、並びに多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性などの特性が高度にバランスされ、好適である。粒子状重合体のガラス転移温度は、例えば、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0090】
粒子状重合体の体積平均粒径D50は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらにより好ましくは0.1μm以上であり、一方好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらにより好ましくは0.5μm以下である。粒子状重合体の体積平均粒径を上記範囲に収めることにより、多孔膜の強度及び柔軟性を良好にできる。
【0091】
本発明の多孔膜用組成物における粒子状重合体の量は、非導電性粒子100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、さらにより好ましくは1重量部以上であり、一方好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらにより好ましくは8重量部以下である。粒子状重合体の量を前記下限値以上にすることにより、非導電性粒子同士、及び非導電性粒子と基材との接着性を向上させ、多孔膜からの粉落ちなどの不具合の発生を低減することができる。また、上限値以下にすることにより、粒子状重合体が基材の孔をふさぎガーレー値が増加するのを抑制することができる。
【0092】
粒子状重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造しうる。重合反応における単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状重合体における繰り返し単位の含有割合と同じ割合に調整される。
【0093】
水系溶媒としては、その中で粒子状重合体が粒子状態で分散しうるものを選択しうる。水系溶媒としては、常圧における沸点が好ましくは80〜350℃、より好ましくは100〜300℃ものを選択しうる。
【0094】
水系溶媒の例としては、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトンなどのケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、粒子状重合体の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状重合体の粒子の分散状態が確保可能な範囲において上記の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0095】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合の反応形式は、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などのいずれであってもよい。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明の多孔膜用組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、乳化重合法が特に好ましい。乳化重合は、常法に従い行うことができる。
【0096】
重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などの添加剤は、一般に用いられるものを使用しうる。これらの添加剤の使用量も、一般に使用される量としうる。重合条件は、重合方法および重合開始剤の種類などに応じて適宜調整しうる。
【0097】
〔1.6.水及びその他の成分〕
本発明の多孔膜用組成物は水を含む。水は、多孔膜用組成物において媒体即ち溶媒又は分散媒として機能する。通常、多孔膜用組成物では、非導電性粒子及び粒子状重合体は水に分散している。一方、ポリカルボン酸及び増粘多糖類は、その一部又は全部が水に溶解している。
【0098】
また、媒体として、水以外の媒体を水とを組み合わせて用いてもよい。水と組み合わせて用いうる媒体としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素化合物;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のエステル化合物;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール化合物;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。水以外の媒体の量は、水100重量部に対して5重量部以下であることが好ましい。
【0099】
多孔膜用組成物における溶媒の量は、多孔膜用組成物の固形分濃度が所望の範囲に収まるように設定することが好ましい。具体的な多孔膜用組成物の固形分濃度は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらにより好ましくは20重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、さらにより好ましくは70重量%以下、特に好ましくは65重量%以下である。本願において、組成物の固形分とは、その組成物の乾燥を経て残留する物質のことをいう。固形分濃度を前記下限以上とすることにより、好適な濃度の多孔膜用組成物を容易に製造することができ、ひいては、その組成物を用いた多孔膜の製造に際しての水の除去を容易に行ない、多孔膜中の水分量を低減させることができる。固形分濃度を前記上限以下とすることにより、塗布に適した多孔膜用組成物を容易に得ることができる。
【0100】
本発明の多孔膜用組成物はさらに、pHを調整するための酸性及び/又は塩基性の成分を含みうる。かかる酸性及び塩基性の成分の例としては、塩化水素;アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;並びに水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。
【0101】
また、本発明の多孔膜用組成物は、例えば、イソチアゾリン系化合物、ピリチオン化合物、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、消泡剤、湿潤剤、及び、電解液分解抑制の機能を有する電解液添加剤などを含んでいてもよい。
【0102】
本発明の多孔膜用組成物は、上述した成分以外に、任意の成分を含みうる。このような任意の成分としては、電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものを用いうる。任意の成分としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0103】
〔1.7.多孔膜用組成物の物性〕
本発明の多孔膜用組成物のpHは7.0超過であり、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上である。多孔膜用組成物のpHをこの範囲とすることにより、ポリカルボン酸(A)を水溶性の状態とし、その増粘効果により、多孔膜用組成物に十分な粘度を発現させ、塗布の不良の発生を低減し、高い高温サイクル特性を達成することができる。また、ポリカルボン酸と増粘多糖類との親和性が高まり、ピール強度、耐熱収縮性を高めたり、水分を低減し易くすることができる。多孔膜用組成物のpHは、ポリカルボン酸及びその他の成分の含有量を調整することにより、また必要に応じて多孔膜用組成物の製造に際してpHを調整する酸性又は塩基性の成分を添加することにより調整しうる。
【0104】
本発明の多孔膜用組成物は、通常スラリー状の組成物であり、塗布に適した粘度を有するよう調製されうる。本発明の多孔膜用組成物の粘度は、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは60mPa・s以上、さらにより好ましくは70mPa・s以上であり、一方好ましくは200mPa・s以下、より好ましくは180mPa・s以下、さらにより好ましくは150mPa・s以下である。多孔膜用組成物の粘度を前記下限以上とすることにより、塗布の不良の発生を低減し、高い高温サイクル特性を達成することができる。多孔膜用組成物の粘度を前記上限以下とすることにより、塗布ムラの少ない塗布を達成することができ、高い高温サイクル特性を達成することができる。多孔膜用組成物の粘度は、B型粘度計を用いて温度25℃、回転数60rpmにて測定した値である。多孔膜用組成物の粘度は、ポリカルボン酸(A)の分子量、並びにポリカルボン酸(A)、増粘多糖類、水、酸性の成分及び塩基性の成分の含有量を調整することにより調整しうる。
【0105】
〔1.8.多孔膜用組成物の製造方法〕
本発明の多孔膜用組成物は、任意の製造方法で製造しうる。本発明の多孔膜用組成物の製造方法の好ましい例としては、ポリカルボン酸(A)及び粒子状重合体を含むバインダー混合物を先に調製し、これと、他の成分とを混合し、多孔膜用組成物を得る方法が挙げられる。
混合の操作に際して、必要に応じて、分散機を用いて、上記成分、特に非導電性粒子を、多孔膜用組成物中に分散させることができる。分散機としては、メディアレス分散機を用いることが、非導電性粒子の粒径を不所望に小さくすることが少ないため好ましい。
さらに、かかる混合の前又は混合の後に、必要に応じてpHを調整しうる。pHの調整は、酸又は塩基を適宜添加することにより行ないうる。
【0106】
上に述べた方法を採用することにより、多孔膜用組成物が必要なときに、水溶液同士の混合により容易に、高品質な多孔膜用組成物を製造できる。具体的には、ポリカルボン酸(A)及び粒子状重合体を含む混合物を特定の範囲のpHを有する状態に調製することにより、安定した粒子状の状態で、且つ用事に容易に使用しうる状態で、ポリカルボン酸(A)を保持することができる。これを用事に、多孔膜用組成物を構成する他の成分と混合し、さらに必要に応じてpHを特定の範囲に調整することで多孔膜用組成物を製造することにより、ポリカルボン酸(A)の高い保存安定性と、使用時の適度な粘度との両方を享受することができる。
【0107】
〔2.多孔膜〕
本発明の二次電池用多孔膜(以下において単に本発明の多孔膜という場合がある。)は、前記本発明の多孔膜用組成物を用いて形成される。具体的には、本発明の多孔膜は、前記本発明の二次電池多孔膜用組成物の層を形成し、これを乾燥させることにより得うる。
【0108】
多孔膜用組成物の層は、基材上に多孔膜用組成物を塗布して得うる。基材は、多孔膜用組成物の膜を形成する対象となる部材である。基材に制限は無く、例えば剥離フィルムの表面に多孔膜用組成物の膜を形成し、その膜から溶媒を除去して多孔膜を形成し、剥離フィルムから多孔膜を剥がしてもよい。しかし、通常は、多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点から、基材として電池の構成要素を用いる。このような電池の構成要素の例としては、セパレーター基材及び極板が挙げられる。
【0109】
塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法及びグラビア法が好ましい。本発明の多孔膜用組成物は、特定の組成及び物性を含有しているので、その塗布が容易であり、高品質な層を容易に得ることができ、且つ多孔膜中に残存する水分量を低減させることができる。
【0110】
多孔膜用組成物の層を乾燥させる具体的な方法の例としては、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、及び電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0111】
乾燥の際の温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。乾燥温度を前記範囲の下限以上にすることにより多孔膜用組成物からの溶媒及び低分子化合物を効率よく除去できる。また、上限以下とすることにより基材の熱による変形を抑えることができる。
【0112】
乾燥時間は、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上、特に好ましくは15秒以上であり、好ましくは3分以下、より好ましくは2分以下である。乾燥時間を前記範囲の下限以上にすることにより、多孔膜用組成物から溶媒を十分に除去できるので、電池の出力特性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、基材の熱による変形を抑え、また、製造効率を高めることができる。
【0113】
本発明の多孔膜の製造方法においては、上述した以外の任意の操作を行ってもよい。
例えば、金型プレス及びロールプレス等のプレス方法によって、多孔膜に加圧処理を施してもよい。加圧処理を施すことにより、基材と多孔膜との結着性を向上させることができる。ただし、多孔膜の空隙率を好ましい範囲に保つ観点では、圧力および加圧時間が過度に大きくならないように適切に制御することが好ましい。
また、残留水分除去のため、例えば真空乾燥やドライルーム内で乾燥することが好ましい。
【0114】
本発明の多孔膜の厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。多孔膜の厚みを前記範囲の下限値以上とすることにより、多孔膜の耐熱性を高くすることができる。また上限値以下とすることにより、多孔膜によるイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0115】
本発明の多孔膜は、含有する水分量が少ないことが好ましい。具体的には、本発明の多孔膜中の水分量は、好ましくは1500ppm未満、より好ましくは1300ppm未満、さらにより好ましくは1000ppm未満である。水分量は、多孔膜を温度25℃、湿度50%で24時間放置し、その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により測定した値を採用しうる。本発明の多孔膜は、本発明の多孔膜用組成物を用いて形成されたものであるため、このように含有する水分量が少ない多孔膜とすることができる。そして、このように含有する水分量が少ない多孔膜を、二次電池の構成要素として用いることにより、二次電池内に持ち込まれる水分量を低減することができ、その結果、二次電池の性能を向上させることができる。
【0116】
〔3.二次電池用セパレーター〕
基材として、セパレーター基材を用いた場合、セパレーター基材及び本発明の多孔膜を備える二次電池用セパレーターが得られる。本発明の多孔膜は、セパレーター基材の片方の面だけに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
二次電池において、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを用いた場合、多孔膜中の残存水分量が少なく、多孔膜の熱収縮が少なく、且つピール強度を高くしうるため、二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0117】
セパレーター基材としては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材を用いうる。このようなセパレーター基材を用いることにより、二次電池において電池の充放電を妨げることなく短絡を防止することができる。セパレーター基材の具体例を挙げると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、セルロースなどを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。
【0118】
セパレーター基材の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。この範囲であると二次電池内でのセパレーター基材による抵抗が小さくなり、また、電池製造時の作業性に優れる。
【0119】
本発明の二次電池用セパレーターは、耐熱収縮性に優れたものとしうる。具体的には、130℃、1時間の処理による熱収縮率が、好ましくは10%未満、より好ましくは7%未満、さらにより好ましくは5%未満である。ここで、熱収縮率は、当該処理前後の、セパレーターの面積の変化率である。本発明の多孔膜は、本発明の多孔膜用組成物を用いて形成されたものであるため、耐熱収縮性の高い多孔膜とすることができる。そして、このように耐熱収縮性が高い多孔膜を、二次電池の構成要素として用いることにより、二次電池の使用に際してのセパレーターの収縮の発生を低減することができ、その結果、二次電池の性能を向上させることができる。
【0120】
〔4.二次電池用電極〕
基材として極板を用いた場合、極板及び本発明の多孔膜を備える二次電池用電極が得られる。本願において、「極板」とは、多孔膜を備える電極のうち、多孔膜以外の部材をいう。極板は、通常、集電体及び電極活物質層を備える。極板及び本発明の多孔膜を備える二次電池用電極は、通常、集電体、電極活物質層及び本発明の多孔膜をこの順に備える。例えば、極板において、集電体の片面のみに電極活物質層が設けられている場合、集電体/電極活物質層/多孔膜の層構成をとりうる。また例えば、極板において、集電体の両面に電極活物質層が設けられている場合、多孔膜/電極活物質層/集電体/電極活物質層/多孔膜の層構成をとりうる。
【0121】
二次電池において、電極として本発明の多孔膜を備える電極を用いた場合、多孔膜中の残存水分量が少なく、多孔膜の熱収縮が少なく、且つピール強度を高くしうるため、二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0122】
〔4.1.集電体〕
極板の集電体としては、電気導電性を有し、且つ、電気化学的に耐久性のある材料を用いうる。通常、この集電体の材料としては、金属材料を用いる。その例を挙げると、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、正極に用いる集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極に用いる集電体としては銅が好ましい。また、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0123】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
【0124】
〔4.2.電極活物質層〕
電極活物質層は、集電体上に設けられた層であり、電極活物質を含む。電極活物質の種類は二次電池の種類に応じて様々であり、ここでは、特にリチウムイオン二次電池用の電極活物質について説明する。ただし、電極活物質は以下で挙げるものに限定されない。
【0125】
リチウムイオン二次電池の電極活物質は、電解液中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入又は放出できるものを用いうる。電極活物質は、無機化合物を用いてもよく、有機化合物を用いてもよい。
【0126】
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVO等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。一方、有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性重合体が挙げられる。
【0127】
さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
これらの正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0128】
正極活物質の粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで選択されうる。負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、正極活物質の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。正極活物質の体積平均粒子径がこの範囲であると、充放電容量が大きい電池を得ることができ、かつ電極スラリー組成物および電極を製造する際の取扱いが容易である。
【0129】
電極活物質層における正極活物質の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であり、また、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。正極活物質の量を上記範囲とすることにより、二次電池の容量を高くでき、また、正極の柔軟性並びに集電体と正極活物質層との結着性を向上させることができる。
【0130】
負極活物質は、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等を使用してもよい。さらに、電極活物質は、機械的改質法により表面に導電材を付着させたものを使用してもよい。これらの負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0131】
負極活物質の粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、負極活物質の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0132】
負極活物質の比表面積は、出力密度向上の観点から、好ましくは2m/g以上、より好ましくは3m/g以上、さらに好ましくは5m/g以上であり、また、好ましくは20m/g以下、より好ましくは15m/g以下、さらに好ましくは10m/g以下である。負極活物質の比表面積は、例えばBET法により測定しうる。
【0133】
電極活物質層における負極活物質の割合は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは88重量%以上であり、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。負極活物質の量を上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも優れた柔軟性及び結着性を示す負極を実現できる。
【0134】
電極活物質層は、電極活物質の他に、電極用バインダーを含むことが好ましい。電極用バインダーを含むことにより、電極活物質層の結着性が向上し、電極の撒回時等の工程においてかかる機械的な力に対する強度が上がる。また、電極活物質層が集電体及び多孔膜から剥がれにくくなることから、剥れた脱離物による短絡の危険性が小さくなる。
【0135】
電極用バインダーとしては、例えば重合体を用いうる。電極用バインダーとして用いうる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いてもよい。
【0136】
さらに、以下に例示する軟質重合体の粒子を、粒子状重合体として使用してもよい。軟質重合体としては、例えば、
(i)ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;
(ii)ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
(iii)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などジエン系軟質重合体;
(iv)ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
(v)液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
(vi)ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
(vii)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
(viii)フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
(ix)天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、変性により官能基を導入したものであってもよい。
また、前記の重合体は、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。
さらに、電極用バインダーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0137】
電極活物質層における電極用バインダーの量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。電極用バインダーの量が前記範囲であることにより、電池反応を阻害せずに、電極から電極活物質が脱落するのを防ぐことができる。
【0138】
電極活物質層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、電極活物質及び電極用バインダー以外にも、任意の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電材、補強材などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0139】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛等の炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。導電材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、サイクル特性等の電池特性を改善できる。
【0140】
導電材の比表面積は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは60m/g以上、特に好ましくは70m/g以上であり、好ましくは1500m/g以下、より好ましくは1200m/g以下、特に好ましくは1000m/g以下である。導電材の比表面積を前記範囲の下限値以上にすることにより、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。
【0141】
補強材としては、例えば、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより、強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を得ることができる。
【0142】
導電材及び補強剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、それぞれ、通常0重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0143】
電極活物質層の厚みは、正極及び負極のいずれも、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0144】
電極活物質層の製造方法は特に制限されない。電極活物質層は、例えば、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて電極用バインダー及び任意の成分を含む電極スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて製造しうる。溶媒としては、水及び有機溶媒のいずれも使用しうる。
【0145】
〔5.二次電池〕
本発明の二次電池は、前記本発明の多孔膜を備える。二次電池は、通常、正極、負極及び電解液を備え、下記の要件(A)を満たすか、要件(B)を満たすか、要件(A)及び(B)の両方を満たす。
(A)本発明の二次電池の正極及び負極の少なくとも一方が、極板及び本発明の多孔膜を備える電極である。
(B)本発明の二次電池がセパレーターを備え、且つ、そのセパレーターがセパレーター基材及び本発明の多孔膜を備えるセパレーターである。
【0146】
本発明の多孔膜は、残存水分量が少なく、熱収縮が少なく、且つピール強度を高くしうる。従って、本発明の多孔膜を備える電極及び/又はセパレーターを構成要素として有する本発明の二次電池は、高温サイクル特性の向上等の効果を発現することができる。
【0147】
〔5.1.セパレーター〕
本発明の二次電池は、原則として、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを備える。ただし、本発明の二次電池が正極及び負極の少なくとも一方として本発明の多孔膜を備えるものを備える場合には、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーター以外のセパレーターを備えていてもよい。また、本発明の多孔膜を備える電極における多孔膜はセパレーターとしての機能を有するので、電極が本発明の多孔膜を備える場合、セパレーターを省略してもよい。
【0148】
〔5.2.電極〕
本発明の二次電池は、原則として、正極及び負極の一方又は両方として、本発明の多孔膜を備える電極を備える。ただし、本発明の二次電池がセパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを備える場合には、正極及び負極の両方として本発明の多孔膜を備えない電極を備えていてもよい。
【0149】
〔5.3.電解液〕
電解液としては、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものを使用しうる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiは好適に用いられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0150】
支持電解質の量は、電解液における濃度として、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。支持電解質の量をこの範囲に収めることにより、イオン伝導度を高くして、二次電池の充電特性及び放電特性を良好にできる。
【0151】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させうるものを用いうる。このような溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のアルキルカーボネート化合物;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル化合物;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物;などが用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0152】
また、電解液は必要に応じて添加剤を含みうる。添加剤としては、例えばビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0153】
〔5.4.二次電池の製造方法〕
本発明の二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口してもよい。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0154】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及び均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
【0155】
実施例及び比較例において、ポリカルボン酸(A)の水溶性判定、ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度の測定、多孔膜用組成物の粘度、多孔膜のピール強度、水分量及び熱収縮率の測定、並びに二次電池の高温サイクル特性の評価は、それぞれ以下のように行った。
【0156】
〔ポリカルボン酸(A)の水溶性判定〕
実施例及び比較例で得られたポリカルボン酸(A)の水分散液の濃度及びpHを調整し、濃度10%、pH6.5の水溶液、及び濃度10%、pH8.0の水溶液を準備し、それぞれを25℃において1時間攪拌し、評価液とした。
前記評価液を光路長30mmのセルに移し、ヘーズメータを用い、散乱光及び全光線透過光を測定し、式:曇り度=散乱光/全光線透過光×100(%)で求められる、評価液の曇り度を求めた。評価液の曇り度が60%以上である場合、ポリカルボン酸(A)が水溶性であると判定し、60%未満である場合、ポリカルボン酸(A)が非水溶性であると判定した。
【0157】
〔ポリカルボン酸(A)のガラス転移温度〕
ポリカルボン酸(A)を50%湿度、25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1.0mmのフィルムを得た。このフィルムを、60℃真空乾燥機で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JIS K 7121に準じて、測定温度−100℃〜180℃、昇温速度5℃/分の条件下、DSC6220SII(示差走査熱量分析計、ナノテクノロジー社製)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
【0158】
〔粘度〕
多孔膜用組成物の粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した。
【0159】
〔ピール強度〕
実施例及び比較例で得られたセパレーターを、幅10mm×長さ100mmの長方形に切り出し、試験片とした。試験片の多孔膜面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付けた。セロハンテープを試験台の水平面に、平らな状態に固定し、セパレーターの一端を、そのセパレータの一端と対向する端部に向かって180℃方向に引張り速度10mm/分で引張って剥がし、そのときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記の基準により評価した。ピール強度が大きいほど、多孔膜とセパレーター基材との結着力が大きい、すなわち密着強度が大きいことを示す。
【0160】
A:ピール強度が200N/m以上
B:ピール強度が150N/m以上200N/m未満
C:ピール強度が100N/m以上150N/m未満
D:ピール強度が100N/m未満
【0161】
〔水分量測定〕
実施例及び比較例で得られたセパレーターを、幅10cm×長さ10cmの大きさで切り出して、試験片とした。この試験片を、温度25℃、湿度50%で24時間放置した。その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により、試験片の水分量を測定した。これを、多孔膜の水分量として、下記の基準により評価した。
【0162】
A:多孔膜水分量が1000ppm未満
B:多孔膜水分量が1000ppm以上1300ppm未満
C:多孔膜水分量が1300ppm以上1500ppm未満
D:多孔膜水分量が1500ppm以上
【0163】
〔熱収縮率〕
実施例及び比較例で得られたセパレーターを、幅12cm×長さ12cmの正方形に切り、正方形内部に1辺が10cmの正方形を描き試験片とした。試験片を130℃の恒温槽に入れ1時間放置することにより加熱処理した。加熱処理後、内部に描いた正方形の面積を測定し、加熱処理前後の面積の変化を熱収縮率として求め、下記の基準により評価した。熱収縮率が小さいほどセパレーターの耐熱収縮性が優れることを示す。
【0164】
A:セパレーターの熱収縮率が5%以下
B:セパレーターの熱収縮率が5%超過7%以下
C:セパレーターの熱収縮率が7%超過10%以下
D:セパレーターの熱収縮率が10%超過
【0165】
〔二次電池の高温サイクル特性の評価〕
実施例および比較例で得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.35V、0.1Cの充電、及び2.75V、0.1Cの放電にて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃環境下で、4.35V、0.1Cの充電、及び2.75V、0.1Cの放電を1サイクルとする充放電のサイクルを繰り返し、1000サイクル後の容量C1を測定した。C0及びC1の値から、容量維持率を、式ΔC=(C1/C0)×100(%)により求め、下記の基準により評価した。この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
【0166】
A:容量維持率が70%以上
B:容量維持率が60%以上70%未満
C:容量維持率が50%以上60%未満
D:容量維持率が50%未満
【0167】
<実施例1>
(1−1.ポリカルボン酸(A)の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、単量体組成物100.0部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)1.0部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。単量体組成物は、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)30部、エチルアクリレート56部、ブチルアクリレート12.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤、商品名「ラテムルPD−104」(花王株式会社製))1.0部からなるものとした。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを4.0に調整し、ポリカルボン酸(A)を含む水分散液を得た。
得られたポリカルボン酸(A)について、pH6.5及び8.0における水溶性、及びガラス転移温度を評価した。
【0168】
(1−2.粒子状重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、単量体組成物100.0部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。単量体組成物は、ブチルアクリレート92.8部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、N−メチロールアクリルアミド1.6部、及びアクリルアミド1.6部からなるものとした。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH6.5に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液を得た。
【0169】
(1−3.多孔膜用バインダー混合物の製造)
工程(1−2)で得られた粒子状重合体を含む水分散液90部(固形分相当)、及び工程(1−1)で得られたポリカルボン酸(A)を含む水分散液10部(固形分相当)を混合し、多孔膜用バインダー混合物を得た。
【0170】
(1−4.多孔膜用組成物の製造)
非導電性粒子としてアルミナ粒子(体積平均粒径0.5μm、BET比表面積 5.0m/g)100部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(ダイセル社製、製品名「1220」)1.0部、及び前記工程(1−3)で得た多孔膜用バインダー混合物6部(固形分相当、粒子状重合体5.4部とポリカルボン酸(A)0.6部)を混合し、更に水を混合して水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整し最終固形分濃度が40重量%になるように調整して、多孔膜用組成物を、スラリー状の組成物として製造した。
得られた多孔膜用組成物について、粘度を測定した。
【0171】
(1−5.多孔膜付きのセパレーターの製造)
単層のポリプロピレン製のセパレーター基材(セルガード社製「セルガード2500」)の一方の面上に、前記工程(1−4)で得た多孔膜用組成物を、グラビアコーターで、乾燥後の塗布量が6mg/cmとなるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、セパレーター基材を20m/分の速度で100℃のオーブン内を1分間かけて搬送することにより行った。これにより、セパレーター基材及びその一方の面状に形成された多孔膜を備えるセパレーターを得た。
得られたセパレーターについて、ピール強度、水分量、及び熱収縮率を測定した。
【0172】
(1−6.正極の製造)
正極活物質としてLiCoO(体積平均粒子径D50:12μm)を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100)を2部、正極活物質層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、#7208)を固形分相当で2部、及びNMP(N−メチルピロリドン)を混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
【0173】
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、正極原反をロールプレスで圧延して、正極活物質層の厚みが95μmの正極を得た。
【0174】
(1−7.負極の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33.5部、イタコン酸3.5部、スチレン62部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極活物質層用結着剤(SBR)を含む混合物を得た。上記負極活物質層用結着剤を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極活物質層用結着剤を含む水分散液を得た。
【0175】
人造黒鉛(体積平均粒子径D50:15.6μm)100部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(日本製紙社製、MAC350HC)の2%水溶液を固形分相当で1部との混合物をイオン交換水で固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調整した後、25℃で15分間混合した。上記の負極活物質層用結着剤(SBR)を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を調製した。
【0176】
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、負極原反をロールプレスで圧延して、負極活物質層の厚みが100μmの負極を得た。
【0177】
(1−8.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。工程(1−6)で得られた正極を、4.6cm×4.6cmの正方形に切り出し、矩形の正極を得た。工程(1−5)で得られたセパレーターを、5.5cm×5.5cmの正方形に切り出し、矩形のセパレーターを得た。さらに、工程(1−7)で得られた負極を、5cm×5cmの正方形に切り出し、矩形の負極を得た。矩形の正極を、その集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように、包材外装内に配置した。矩形の正極の正極活物質層側の面上に、矩形のセパレーターを、多孔膜側の面が矩形の正極に接するよう配置した。さらに、矩形の負極を、セパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/EMC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
このリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性を評価した。
【0178】
<実施例2>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)28部、エチルアクリレート58部、ブチルアクリレート12.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量(固形分相当)を0.7部に変更した。
【0179】
<実施例3>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)35部、エチルアクリレート45.5部、ブチルアクリレート17.7部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量(固形分相当)を1.2部に変更した。
【0180】
<実施例4>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)22部、エチルアクリレート56部、ブチルアクリレート20.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0181】
<実施例5>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)44部、エチルアクリレート29部、ブチルアクリレート25.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0182】
<実施例6>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−3)の多孔膜用バインダー混合物の製造において、工程(1−2)で得られた粒子状重合体を含む水分散液及び工程(1−1)で得られたポリカルボン酸(A)を含む水分散液の割合(固形分相当)を、それぞれ90部及び5部とした。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、バインダー混合物の添加量(固形分相当)を5.7部(即ち粒子状重合体5.4部とポリカルボン酸(A)0.3部)に変更し、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量(固形分相当)を0.3部に変更した。
【0183】
<実施例7>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量(固形分相当)を1.3部に変更した。
【0184】
<実施例8>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩に代えてキサンタンガム(東京化成工業社製)1.0部(固形分相当)を用いた。
【0185】
<実施例9>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)30部、エチルアクリレート34.2部、ブチルアクリレート34部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0186】
<実施例10>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)30部、エチルアクリレート59.5部、ブチルアクリレート8.7部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0187】
<実施例11>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)35部、エチルアクリレート51部、ブチルアクリレート12.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0188】
<実施例12>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−3)の多孔膜用バインダー混合物の製造において、工程(1−2)で得られた粒子状重合体を含む水分散液及び工程(1−1)で得られたポリカルボン酸(A)を含む水分散液の割合を、それぞれ90部及び6.6部とした。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、バインダー混合物の添加量(固形分相当)を5.8部(即ち粒子状重合体5.4部とポリカルボン酸(A)0.4部)に変更した。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の添加量(固形分相当)を1.5部に変更した。
【0189】
<実施例13>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−3)の多孔膜用バインダー混合物の製造において、工程(1−2)で得られた粒子状重合体を含む水分散液及び工程(1−1)で得られたポリカルボン酸(A)を含む水分散液の割合(固形分相当)を、それぞれ90部及び15部とした。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、バインダー混合物の添加量(固形分相当)を6.3部(即ち粒子状重合体5.4部とポリカルボン酸(A)0.9部)に変更した。
【0190】
<実施例14>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、pHを、9.0ではなく7.1に調整した。
【0191】
<実施例15>
(15−1.多孔膜付きのセパレーターの製造)
セパレーター基材として、セルロース繊維(繊維径10μm)からなる平均最大孔径が0.3μm、厚み20μmの不織布を用意した。前記不織布上に、実施例1の工程(1−3)で得た多孔膜用組成物を塗布し、50℃で3分間乾燥させて、不織布及びその表面に形成された厚さ1μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。
得られたセパレーターについて、ピール強度、水分量、及び耐熱収縮性を測定した。
【0192】
(15−2.リチウムイオン二次電池の製造)
セパレーターとして、実施例1の工程(1−4)で得たものに代えて、工程(15−1)で得たものを用いた他は、実施例1の工程(1−6)〜(1−8)と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0193】
<比較例1>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)10部、エチルアクリレート68部、ブチルアクリレート20.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0194】
<比較例2>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−1)のポリカルボン酸(A)の製造において、単量体組成物を、メタクリル酸(カルボン酸基含有単量体)60部、エチルアクリレート19部、ブチルアクリレート19.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.0部からなるものに変更した。
【0195】
<比較例3>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、pHを、9.0ではなく6.0に調整した。
【0196】
<比較例4>
下記の事項を変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
・工程(1−4)の多孔膜用組成物の製造において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を添加しなかった。
【0197】
実施例及び比較例における評価結果を表1〜表4に示す。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
【表3】
【0201】
【表4】
【0202】
表中の略語の意味は、それぞれ下記の通りである。
MAA割合:ポリカルボン酸(A)の調製のために用いた単量体組成物中のメタクリル酸の割合。
EA割合:ポリカルボン酸(A)の調製のために用いた単量体組成物中のエチルアクリレートの割合。
BA割合:ポリカルボン酸(A)の調製のために用いた単量体組成物中のブチルアクリレートの割合。
pH6.5曇り度:調製したポリカルボン酸(A)のpH6.5の水溶液の曇り度。
pH8.0曇り度:調製したポリカルボン酸(A)のpH8.0の水溶液の曇り度。
(A)量:多孔膜用組成物の製造に際し添加したポリカルボン酸(A)の量。非導電性粒子100重量部に対する部数。
(A)Tg:調製したポリカルボン酸(A)のガラス転移温度。
増粘種類:多孔膜用組成物の製造に際し用いた増粘多糖類の種類。CMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。
増粘割合:多孔膜用組成物の製造に際し用いた増粘多糖類の割合。非導電性粒子100重量部に対する部数。
(A)/増粘:多孔膜用組成物の製造に際し用いた増粘多糖類100重量部に対する、ポリカルボン酸(A)の重量部。
(A)+増粘/非導電粒子:多孔膜用組成物の製造に際し添加したポリカルボン酸(A)及び増粘多糖類の合計量。非導電性粒子100重量部に対する部数。
pH:製造した多孔膜用組成物のpH。
粘度:製造した多孔膜用組成物の粘度。
基材:セパレーターの製造に用いたセパレーター基材の種類。PP:ポリプロピレン(セルガード社製「セルガード2500」)。
【0203】
表1〜表4の結果から示される通り、ポリカルボン酸(A)及び増粘多糖類を含み且つ所定のpHに調整された本発明の多孔膜用組成物を用いた実施例においては、多孔膜の高いピール強度、低い水分量、及び高い耐熱収縮性をバランス良く高いレベルで実現することができ、さらにそれを用いて製造した二次電池は良好な高温サイクル特性を示した。