特許第6233167号(P6233167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233167成膜方法、成膜装置およびそれを用いた金属薄膜付樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233167
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】成膜方法、成膜装置およびそれを用いた金属薄膜付樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20171113BHJP
   C23C 14/00 20060101ALI20171113BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20171113BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C23C14/56 B
   C23C14/00 B
   C23C14/34 V
   B32B15/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-86737(P2014-86737)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-206069(P2015-206069A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】神田 栄三郎
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−269645(JP,A)
【文献】 特開2006−077286(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0074443(US,A1)
【文献】 特開2012−117128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロール方式で搬送される長尺状の基材を、その幅よりも幅広の外周面を有し且つ冷却機構を備えた円筒状部材の該外周面に巻きつけて冷却しながら該基材の表面に乾式めっき法で金属薄膜を成膜する成膜方法であって、
該外周面のうち該基材が巻き付いていない両縁部をそれぞれ覆い且つ該外周面に巻き付いている基材の幅方向両端部においてそれぞれ該基材と該外周面との間に介在するように一対の長尺状の薄膜材を該基材の搬送方向と平行に且つ該基材の搬送速度との速度差を抑えながらロールツーロール方式で搬送することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記基材の幅方向の端から端まで前記金属薄膜を成膜することを特徴とする、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜材の厚さが100μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記基材の幅方向の長さのうち、前記薄膜材が重複する部分の長さは、一端部当たり1〜30mmであることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記円筒状部材はその外周面に複数のガス放出孔を備えており、該複数のガス放出孔から該外周面とそこに巻き付けられる該基材との間にガスを導入することを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の成膜方法を用いて、前記基材としての樹脂フィルムの少なくとも一方の面に接着剤を介さず金属薄膜を成膜することを特徴とする金属薄膜付樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
長尺状の基材をロールツーロール方式で搬送する巻出ロールおよび巻取ロールと、該基材をその幅よりも幅広の外周面に巻き付けて冷却する冷却機構を備えた円筒状部材と、該円筒状部材に巻き付いている基材に金属薄膜を成膜する金属供給源と、これらを収容する真空チャンバーとからなる成膜装置であって、
該外周面のうち該基材が巻き付いていない両縁部をそれぞれ覆い且つ該外周面に巻き付いている基材の幅方向両端部においてそれぞれ該基材と該外周面との間に介在する一対の薄膜材を該基材の搬送方向と平行に且つ該基材の搬送速度との速度差を抑えながらロールツーロール方式で搬送させるための該一対の薄膜材用の巻出ロールおよび巻取ロールを有していることを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
前記円筒状部材の外周面には、該外周面とそこに巻き付けられる長尺状基材との間にガスを導入するガス放出孔が設けられていることを特徴とする、請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の前記金属供給源がマグネトロンスパッタリングターゲットであり、前記円筒状部材がキャンロールであることを特徴とするスパッタリングウェブコータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧下での樹脂フィルムへの金属薄膜の成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイのドライバIC搭載用等に使われるCOF(Chip on Film)は、例えばポリイミドフィルムに代表される樹脂フィルムの片面にスパッタリング等の乾式めっき法で金属薄膜を成膜した後、この金属薄膜の上に電気めっき等の湿式めっき法で銅からなる金属層を積層し、得られた金属膜付き樹脂フィルムの金属層部分をパターニングして配線を形成することで作製される。上記方法で作製した金属膜付き樹脂フィルムは、金属層と樹脂フィルムとの密着性が高いので、信頼性の高いCOFの製造が可能になる。
【0003】
しかし、スパッタリングによる成膜では樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかるため、樹脂フィルムにシワが発生するおそれがある。そこで、スパッタリングによる成膜を行う装置には、冷却機能を備えた回転駆動する筒状のキャンロールを真空チャンバー内に搭載したスパッタリングウェブコータが一般的に用いられる。このキャンロールは、その外周面が樹脂フィルムの搬送経路になっており、ロールツーロールで搬送される長尺の樹脂フィルムをそこに巻き付けることによって、スパッタリング処理中の樹脂フィルムを裏面側から冷却することができる。
【0004】
上記のようなキャンロールでは、その冷却能力を高めるためにキャンロールの外周面の幅を樹脂フィルムの幅よりも広くすることが一般的である。そのため、スパッタリングで成膜する際、樹脂フィルムの幅方向の端部よりわずかに外側に入射したスパッタ粒子は、樹脂フィルムが巻き付いていないキャンロールの外周面の縁部で成膜する。このようにしてキャンロールの縁部に形成された成膜層は、剥離したときに樹脂フィルムの金属薄膜に異物として付着することがあり、これがCOFの品質を損なうことがあった。
【0005】
その対策として、特許文献1には、スパッタリング時に樹脂フィルムの両端部から露出するキャンロール外周面の両縁部と、当該樹脂フィルムの両端部とを覆うように、長尺の防着材を樹脂フィルムとともにロールツーロールで走行させる方法が提案されている。また、別の対策として、特許文献2には樹脂フィルムの両端部よりも外側へのスパッタ粒子の入射を遮るための遮蔽板を備えると共に、樹脂フィルムに覆われていないキャンロール外周面の両縁部に被覆シートを巻き付ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−54132号公報
【特許文献2】特開2006−77286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法によりキャンロール外周面の両縁部にスパッタ粒子が成膜するのを防ぐことができるが、ロールツーロールでは巻出ロールまたは巻取ロールで巻位置のずれや偏芯などが生じることがあり、これにより樹脂フィルムや防着材が蛇行しながら搬送されると、金属薄膜の成膜面が樹脂フィルムの幅方向に位置ズレを起こすことがあった。
【0008】
また、樹脂フィルムの両端部を覆うように防着材を走行させるので、樹脂フィルムの両端部には金属薄膜が成膜されない部分が生ずることになる。すなわち、従来の方法では、樹脂フィルムの幅方向の両端部は金属薄膜が成膜されないか、または所定の膜厚に満たない金属薄膜しか成膜されないので製品としては使用できず、スパッタ後の後工程でこれら両端部をスリット加工することが必要になる。そのため、原材料の有効使用効率が下がってコストアップの原因になっていた。
【0009】
また、特許文献2の方法は、被覆シートに付着する金属薄膜が厚くなると剥がれやすくなって装置内を汚染したり剥がれた薄片が樹脂フィルムの成膜面に付着したりすることがあった。さらに、長期間の使用で被覆シートが熱変形した場合は、樹脂フィルムを変形させるおそれがあった。そのため、この特許文献2では被覆シート上に成膜される層の厚さや、樹脂フィルムに連続的に成膜処理できる時間に制限があり、これらを管理する必要があった。
【0010】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、ロールツーロールで搬送される長尺状の可撓性基材に減圧下で連続的に金属薄膜を形成する際、該基材の幅方向の両端部にも中央部分と同じ厚さの膜を連続的に安定して成膜しつつ、キャンロール外周面の両縁部にスパッタ粒子が堆積するのを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る成膜方法は、ロールツーロール方式で搬送される長尺状の基材を、その幅よりも幅広の外周面を有し且つ冷却機構を備えた円筒状部材の該外周面に巻きつけて冷却しながら該基材の表面に乾式めっき法で金属薄膜を成膜する成膜方法であって、該外周面のうち該基材が巻き付いていない両縁部をそれぞれ覆い且つ該外周面に巻き付いている基材の幅方向両端部においてそれぞれ該基材と該外周面との間に介在するように一対の長尺状の薄膜材を該基材の搬送方向と平行に且つ該基材の搬送速度との速度差を抑えながらロールツーロール方式で搬送することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の成膜装置は、長尺状の基材をロールツーロール方式で搬送する巻出ロールおよび巻取ロールと、該基材をその幅よりも幅広の外周面に巻き付けて冷却する冷却機構を備えた円筒状部材と、該円筒状部材に巻き付いている基材に金属薄膜を成膜する金属供給源と、これらを収容する真空チャンバーとからなる成膜装置であって、該外周面のうち該基材が巻き付いていない両縁部をそれぞれ覆い且つ該外周面に巻き付いている基材の幅方向両端部においてそれぞれ該基材と該外周面との間に介在する一対の薄膜材を該基材の搬送方向と平行に且つ該基材の搬送速度との速度差を抑えながらロールツーロール方式で搬送させるための該一対の薄膜材用の巻出ロールおよび巻取ロールを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ほぼ均一な厚みの金属薄膜を長尺状の基材の幅方向の端から端まで成膜することが可能になるうえ、キャンロール外周面のうち、基材の巻き付いていない両縁部にスパッタ粒子が堆積するのを防止することができる。これにより、極めて高品質の金属膜付き樹脂フィルムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の成膜装置の一具体例を示す正面図である。
図2図1の成膜装置におけるスパッタリングターゲットに対向するキャンロールの外周部分を遮蔽材、一対の薄膜材、および樹脂フィルムと共に示す部分断面図である。
図3】本発明の成膜装置の他の具体例を示す正面図である。
図4】本発明の成膜装置の更に他の具体例におけるスパッタリングターゲットに対向するキャンロールの外周部分を遮蔽材、一対の薄膜材、および樹脂フィルムと共に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の成膜方法の一具体例について、図1に示す本発明の成膜方法を好適に実施可能な真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を採り上げて説明する。この真空成膜装置50は、真空チャンバー51内において巻出ロール52から巻取ロール64にロールツーロールで搬送される長尺状の被成膜基材としての樹脂フィルムFを、内部に冷却機構を備え、かつ樹脂フィルムFの幅よりも幅広で円筒状のキャンロール56の外周面に巻き付けて裏側から冷却しながらスパッタリングにより表側に連続的に金属薄膜を成膜する成膜装置である。
【0016】
具体的に説明すると、主要な機器を収容する真空チャンバー51は、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置を具備しており、これらにより真空チャンバー内を到達圧力10−4Pa程度まで減圧した後、アルゴンガスや目的に応じて添加される酸素ガスなどのスパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。真空チャンバー51の形状や材質については、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、一般的なものを使用することができる。
【0017】
樹脂フィルムFの搬送経路を画定する各種のロールがこの真空チャンバー51内に設けられており、それらのうち、巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、巻出ロール52から巻き出された樹脂フィルムFを案内するフリーロール53、樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54、および張力センサロール54から送り出される樹脂フィルムFをキャンロール56に導入するモータ駆動のフィードロール55がこの順に配置されている。
【0018】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、樹脂フィルムFの張力測定を行う張力センサロール62、および樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0019】
上記巻出ロール52および巻取ロール64では、パウダークラッチ等によりトルク制御が行われており、フィードロール55、61と組み合わせて樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。モータで回転駆動されるキャンロール56は、熱負荷のかかるスパッタリング処理により熱せられる樹脂フィルムFを冷却するため、内部に冷媒の流路が設けられており、真空チャンバー51の外部に設けられた図示しない冷媒供給装置との間で冷媒の循環が行われる。このキャンロール56の周速度に対して、フィードロール55、61の回転数が調整されており、これによりキャンロール56の外周面に樹脂フィルムFを密着させて搬送することができる。
【0020】
キャンロール56の外周面に対向する位置には、樹脂フィルムFの搬送経路に沿って金属薄膜の金属供給源である4個のマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60がこの順に設けられている。これらマグネトロンスパッタリングカソード57〜60の各々には、キャンロール56の外周面に対向する面にターゲット(図示せず)が取り付けられており、これらターゲットから叩き出されたスパッタ粒子が樹脂フィルムFの表面上に堆積して金属薄膜の成膜が行われる。
【0021】
これらスパッタリングカソード57〜60よりもキャンロール56側の位置には、上記ターゲットから叩き出されてキャンロール外周面上の樹脂フィルムに向うスパッタ粒子の進行経路となるターゲットの前方部分を除いてキャンロール56の外周面を覆うように5枚の板状の遮蔽板81、82、83、84,85がこの順に樹脂フィルムFの搬送経路に沿って着脱自在に取付けられている。隣接する2つの遮蔽板同士は各ターゲット面の略中央部近傍において当接するように配されており、各遮蔽板には上記ターゲットの前方部分に対応する位置に矩形の切り欠きが形成されている。なお、遮蔽板は5枚に限定されるものではなく、キャンロール56の大きさや遮蔽板の着脱時の作業性等を考慮してそれより多くのまたは少ない枚数で構成してもよい。また、遮蔽板は、キャンロール56の外周面に沿った曲面で構成しても良い。
【0022】
上記したように隣接する遮蔽板同士の各々の切り欠きにより形成される1つの開口部は、ターゲットから叩き出されるスパッタ粒子がキャンロール56の外周面に巻き付けられている樹脂フィルムFの幅方向の末端まで到達するのを遮ることのない大きさになっている。これにより、樹脂フィルムFの幅方向の端から端までほぼ一定の膜厚で金属薄膜を成膜することが可能となり、スパッタ成膜の後工程で樹脂フィルムの幅方向両端をスリット加工する必要がなくなる。
【0023】
しかしながら、このように樹脂フィルムの全面にほぼ一定の膜厚の金属薄膜を成膜することにより、キャンロール56の外周面において樹脂フィルムFに覆われていない両縁部に堆積するスパッタ粒子の量が、樹脂フィルムFの幅方向両端部に成膜を行わない従来の成膜装置よりも増大することになる。よって、前述した特許文献1に示すようなキャンロールの外周面において樹脂フィルムに覆われない両縁部に被覆シートを巻き付ける方法を採用すると、単位時間当たりの被覆シート上の成膜量が増大するため、被覆シートの交換頻度が高くなったり、樹脂フィルムに成膜させる膜の厚みや連続的に成膜できる時間に制約が生じたりして生産性が低下することがあった。
【0024】
そこで、本発明の一具体例の真空成膜装置では、一対の長尺状の薄膜材を樹脂フィルムの搬送方向と平行にロールツーロール方式で搬送し、これによりキャンロール外周面のうち樹脂フィルムが巻き付いていない両縁部を一対の薄膜材でそれぞれ覆うことで該両縁部での堆積を防止している。図1を用いて説明すると、薄膜材用巻出ロール72から樹脂フィルムFの搬送方向に平行に巻き出された一対の薄膜材71a、71bは、各々の幅方向の一端部がフィードロール55の外周面上において樹脂フィルムFの幅方向両端部の非成膜面側にそれぞれ重ね合わされた後、そのままキャンロール56の外周面に巻き付けられる。
【0025】
これにより一対の薄膜材71a、71bは、キャンロール56の外周面において樹脂フィルムFが巻き付いていない両縁部を覆い且つ樹脂フィルムFの幅方向両端部において樹脂フィルムFとキャンロール56の外周面との間に介在するようにキャンロール56に巻き付けられる。これら樹脂フィルムFおよび一対の薄膜材71a、71bは、次に重ね合わせられたままキャンロール56の外周面から離れてフィードロール61に向かう。樹脂フィルムFはフィードロール61を経て張力センサロール62に向かい、一方、一対の薄膜材71a、71bは樹脂フィルムFから離れて薄膜材用巻取ロール73に向かう。
【0026】
これにより、キャンロール56の外周面の両縁部は常時一対の薄膜材71a、71bによって更新されるので、一対の薄膜材71a、71bの表面上に自然に剥がれ落ちる程度の膜厚の堆積物が成膜することはない。また、一対の薄膜材71a、71bを用いて樹脂フィルムFの両端部のみが重なるようにすることで樹脂フィルムFの幅方向の中央部をキャンロール56の外周面に直接密着させることができるので、熱伝導性が低下することがなくなるうえ、薄膜材の消費コストを抑えることができる。
【0027】
薄膜材71a、71bの各々の一端部が樹脂フィルムFに重複する幅は1〜30mmとするのが好ましい。この重複幅が1mm未満では、ロールツーロール方式でそれぞれ搬送される薄膜材71a、71bおよび樹脂フィルムFが別々に蛇行しながら走行した時に、これら薄膜材71a、71bと樹脂フィルムFとが幅方向に離間してキャンロール56の外周面を露出させ、そこにスパッタ粒子を堆積させるおそれがある。一方、この重複幅が30mmを超えると、前述したように重複部はキャンロール56による冷却効率が低下するので、樹脂フィルムFの端部にシワが発生することがある。
【0028】
各薄膜材71a、71bの各々において、樹脂フィルムFと重複する一端部とは反対側の他端部は、図2のようにキャンロール56の外周面の幅方向の末端部にまで至るようにしてキャンロールの外周面の露出部分が全くないように覆ってもよいが、キャンロール56の当該末端部には前述した遮蔽板の働きによりほとんどスパッタ粒子の堆積が生じないか、あるいは堆積が生じてもその影響が無視できる程度であれば、必ずしもキャンロール56の末端部まで覆う必要はない。
【0029】
上述のように一対の薄膜材71a、71bと樹脂フィルムFとは別々にロールツーロール方式で搬送されるため、搬送速度に差がついてしまうことがある。この速度差は樹脂フィルムFのキズやシワ発生の原因となりうるため、薄膜材用巻出ロール72および薄膜材用巻取ロール73は、パウダークラッチ等によりトルク制御を行って速度差を抑えるのが好ましい。樹脂フィルムFのキズやシワの発生をより低減させたい場合は、図3に示す真空成膜装置150のように、薄膜材用巻出ロール72とフィードロール55との間、およびフィードロール61と薄膜材用巻取ロール73との間にそれぞれ補助フィードロール74と張力計付のフリーロール75を設けることが望ましい。補助フィードロール74の回転速度をキャンロール56の回転速度と同期させて制御することで、薄膜材71a、71bが樹脂フィルムF及びキャンロール56に対して「すべる」ことを防止できる。フリーロール75の張力を一定値に保つように、薄膜材用巻出ロール72および薄膜材用巻取ロール73のパウダークラッチのトルク制御を行うことで、薄膜材71a、71bの安定搬送を行うことが出来る。
【0030】
薄膜材用巻出ロール72および薄膜材用巻取ロール73の各々は、一対の薄膜材71a、71baに対応させて別々に駆動する2つのロールで構成してもよいが、この場合は、薄膜材71aと薄膜材71bとは別々にロールツーロール方式で搬送されるため、これら薄膜材71aと薄膜材71bとの間で搬送速度に差がついてしまうことがある。よって、これら薄膜材71aと薄膜材71bとは共通の軸(コア軸)を介して配置され、そのコア軸をフリクションシャフトとすることで、薄膜材71a、71b間の速度差を吸収させるのが好ましい。
【0031】
薄膜材71a、71bはロールツールールで搬送されるため、その材質には樹脂フィルムや金属箔等の可撓性部材が用いられる、特に、上述したように薄膜材71a、71bと樹脂フィルムFとに速度差がついたときに樹脂フィルムF側にキズやシワを生じさせないものが好ましい。このような部材としては、例えばPETフィルムを挙げることができる。
【0032】
薄膜材の厚さは100μm以下とするのが好ましい。薄膜材の厚さが100μmを超えると、樹脂フィルムFの幅方向の両端部における薄膜材71a、71bによる重複部と非重複部との間に顕著な傾斜部が生じ、この傾斜部ではスパッタ粒子の進行方向に対して積層面が斜めになるので単位面積当たりの成膜速度が低下し、樹脂フィルムFの幅方向の金属薄膜厚さが不均一になる。薄膜材71a、71bの厚さの下限は特に限定されないが、ロールツーロール方式による搬送での取扱い性を考慮すれば5μm程度が望ましい。
【0033】
ところで、キャンロールの外周面はミクロ的に見れば平坦ではないため、当該外周面に巻き付けられる樹脂フィルムは外周面に全面的に密着しているわけではなく、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられながら搬送される樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。そのため、成膜速度を速める等の理由によりスパッタリング処理に伴って発生する樹脂フィルムおよび薄膜材の熱負荷が大きくなると、熱によるシワが発生しやすくなる。これを抑えるため、キャンロールにガス導入機構を設け、キャンロールおよび樹脂フィルムにより形成されるギャップ部にガスを導入してもよい。これによりギャップ部の空間内の伝熱係数を高めることができるので冷却効率が向上し、シワの発生をより確実に抑えることができる。
【0034】
ガス導入機構は、例えば図4に示すように円筒状部材からなるキャンロール156の肉厚部に全周に亘ってキャンロール156の回転軸方向に平行な複数のガス導入路91を略等間隔に設け、各ガス導入路91にキャンロール156の外周面側で開口する複数のガス放出孔92をキャンロール156の回転線方向に沿って略等間隔に穿設すればよい。なお、図4には樹脂フィルムFが巻き付けられている領域に10本のガス放出孔92を設けた例が示されているが、この本数に限定されるものではない。また、一対の薄膜材71a、71bが巻き付けられる領域にガス放出孔を設けてもよい。各ガス放出孔92の内径は、キャンロール156の表面と巻き付けられる樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されず、例えば内径30μm〜500μm程度にすることができる。
【0035】
上記した複数のガス導入路91に例えばロータリージョイントを介して真空チャンバー51の外部からガスが供給される。供給するガスの圧力は10〜1000Paとするのが好ましい。この圧力が10Pa未満では、真空チャンバー51内のスパッタリングガスの圧力との差が小さく、キャンロール156の外周面とそこに巻き付いている樹脂フィルムFとの離間距離が不安定になって冷却効率が変動し、シワが発生するおそれがある。一方、この圧力が1000Paを超えると、ドライポンプ等による真空チャンバー51内からの排気が追い付かず、真空チャンバー51内の圧力が不安定となり、安定した成膜ができないことがある。
【0036】
本発明の成膜方法を用いて金属薄膜付樹脂フィルムを製造する場合は、樹脂フィルムにポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルムのような耐熱性樹脂フィルムや、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムを用いることができる。成膜する金属薄膜としては例えばNi系合金等からなるシード層とその上のCu膜とが積層された積層体を挙げることができる。シード層の材質は、具体的にはNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の各種公知の合金を用いることができ。その組成は金属薄膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。金属薄膜は樹脂フィルムの片面にのみ成膜してもよいし、両面に成膜してもよい。いずれの場合においても、金属薄膜と樹脂フィルムの間に接着剤を介することなく成膜することができる。
【0037】
このようにして得た金属薄膜付樹脂フィルムは、湿式めっき法を用いて金属膜を更に厚くすることができる。この場合の湿式めっき法には、電気めっき処理のみで金属膜を積層する場合のほか、一次めっきとしての無電解めっき処理と、二次めっきとしての電解めっき処理とを組み合わせて行う場合がある。これら湿式めっき処理の具体的な運転条件は特に制約がなく、一般的な湿式めっき法の諸条件を採用することができる。このようにして成膜された金属膜に対して、例えばサブトラクティブ法により配線をパターニング加工することでCOFが得られる。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0038】
以上、本発明の成膜方法について長尺状の基材としての樹脂フィルムにスパッタリングにより成膜処理を施す場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば長尺状の基材として、ロールツーロール方式で搬送可能な金属製の薄板や箔、可撓性のあるガラス質の基板などにも適用することができる。また、スパッタリングによる成膜処理のほか、イオンプレーティング、真空蒸着、化学蒸着(CVD)等にも適用することができる。
【実施例】
【0039】
(実施例)
図1に示すようなスパッタリングウェブコータを用いて、樹脂フィルムFとして厚み38μmの長尺ポリイミドフィルムをロールツーロールで搬送しながらその表面にシード層としてNi−20質量%Crの合金層を成膜し、更にその上にCu層を成膜した。具体的には、巻出ロール52にポリイミドフィルムが巻かれたロールを装着し、マグネトロンスパッタリングカソード57にはNi−20質量%Cr合金のターゲットを装着し、マグネトロンスパッタリングカソード58〜60にはCuターゲットを装着した。また、一対の薄膜材71a、71bとして幅20mm、厚さ12μmの長尺のPETフィルムが巻かれたロールを2ヶ用意し、これらを薄膜材用巻出ロール72に装着した。その際、ポリイミドフィルムの幅方向の一端部に一方の薄膜材の幅方向一端部が10mm重複し、ポリイミドフィルムの幅方向の他端部にもう一方の薄膜材の幅方向一端部が10mm重複するように配した。
【0040】
また、マグネトロンスパッタリングカソード57〜60のターゲットから叩き出されたスパッタ粒子がポリイミドフィルムの幅方向の端から端まで到達するように開口部が調整された遮蔽板81〜85を取り付けた。キャンロールには、図4に示すようなガス導入路91およびガス放出孔92からなるガス導入機構を備えたキャンロール156を使用し、キャンロール156の内部の流路には冷媒を循環した。先ず、ガス導入路90にガスを供給しない条件でポリイミドフィルムの片面に厚み3.5nmのNi−20質量%Cr合金層と、その上の厚み100nmのCu層とを成膜すべく、ポリイミドフィルムおよびPETフィルムを搬送速度1m/minで1000m搬送し、真空成膜処理を行った。
【0041】
得られた成膜面の膜厚を測定したところ、ポリイミドフィルムの幅方向中央部と幅方向両端部との膜厚差は中央部の膜厚を基準として10%以内であり、ほぼ均一に成膜されていた。また、成膜後のポリイミドフィルムには熱負荷によるシワがわずかに発生していたが、実用上問題となるレベルではなかった。
【0042】
次に、ガス導入路90に500Paのアルゴンガスを供給しながら上記と同じ条件で成膜した。得られた成膜面の膜厚を測定したところ、ポリイミドフィルムの幅方向中央部と幅方向両端部の膜厚差は中央部の膜厚を基準として10%以内であり、ほぼ均一に成膜されていた。また、成膜後のポリイミドフィルムには熱負荷によるシワは見られなかった。これは、キャンロール156の外周面とそこに巻き付けられたポリイミドフィルムとの間のギャップ部にガス導入機構を介してアルゴンガスを導入することにより冷却効率が向上し、成膜中のポリイミドフィルムの温度が低下したためと考えられる。
【0043】
(比較例)
厚さ12μmのPETフィルムをロールツーロール方式で走行させる代わりに、キャンロールの外周面においてポリイミドフィルムが巻き付けられない部分に予め厚さ12μmのPETフィルムを張り付けておいたこと以外は上記実施例のガスを導入しない場合と同様にして成膜した。得られた成膜面の膜厚を測定したところ、ポリイミドフィルムの幅方向中央部と幅方向両端部との膜厚差は中央部の膜厚を基準として10%以内であり、ほぼ均一に成膜されていた。しかしながら、キャンロール外周面に張り付けておいたPETフィルムに成膜された金属薄膜には剥がれた跡が多数みられ、ポリイミドフィルムの成膜面に該剥がれた金属薄膜と思われる多数の金属薄片状の異物が観察された。
【符号の説明】
【0044】
F 樹脂フィルム
50、150 真空成膜装置
51 真空チャンバー
52 巻出ロール
53、63 フリーロール
54、62 張力センサロール
55、61 フィードロール
56、156 キャンロール
57、58、59、60 マグネトロンスパッタリングカソード
64 巻取ロール
71a、71b 薄膜材
72 薄膜材用巻出ロール
73 薄膜材用巻取ロール
81、82、83,84、85 遮蔽板
91 ガス導入路
92 ガス放出孔
図1
図2
図3
図4