(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材の中空部にバッキングチューブを同軸に配置し、該ターゲット材と該バッキングチューブとの間隙に接合層を形成する接合材の表面及び一端部に耐熱被膜を形成してなり、該接合材の他端部に該耐熱被膜を形成せず、
上記耐熱被膜の融点は、上記接合材の融点よりも高いことを特徴とする接合材シート。
円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材の中空部にバッキングチューブを同軸に配置し、該ターゲット材と該バッキングチューブとの間隙に接合層を形成して円筒形スパッタリングターゲットを製造する円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
接合材の表面に耐熱被膜を形成してなる接合材シートを加熱し、該接合材を融解して上記間隙に注入して接合層を形成し、
上記耐熱被膜の融点は、上記接合材の融点よりも高いことを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
上記接合材を圧延によりシート形状に加工してなる接合材シートを加熱することを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れか1項に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
上記接合材シートを上記バッキングチューブの外周部に巻き付けて耐熱性テープで固定することを特徴とする請求項9に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
下端部にテーパを有するリングで、該テーパが上記接合材シートと上記間隙との間に介在するように固定することを特徴とする請求項11に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0023】
1.円筒形スパッタリングターゲット
2.接合材シート
3.接合材シートの製造方法
4.円筒形スパッタリングターゲットの製造方法
【0024】
[1.円筒形スパッタリングターゲット]
(1−1.円筒形スパッタリングターゲットの概要)
図1に示すように、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材2がバッキングチューブ3の外周部に設置されたものであり、ターゲット材2とバッキングチューブ3とが接合層4を介して接合されている。より詳細には、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材2の中空部にバッキングチューブ3を同軸に配置し、これらの中心軸が一致した状態で接合されたものである。
【0025】
円筒形スパッタリングターゲット1のサイズは、材質や顧客の要望等に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。例えば、外径が100mm〜200mm、内径が80mm〜180mm、全長が50mm〜200mmの円筒形セラミックス焼結体をターゲット材2として用いた場合には、そのターゲット材2を単独で用いる場合、分割して用いる場合、或いは複数で用いる場合等があり、その状況により円筒形スパッタリングターゲット1のサイズが適宜決定される。
【0026】
(1−2.ターゲット材)
円筒形のターゲット材2として使用可能な円筒形セラミックス焼結体は、用途に応じて材料を適宜選択することができ、特に限定されることはない。例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)から選択される少なくとも1種を主成分とする酸化物等から構成される円筒形セラミックス焼結体を使用することができる。
【0027】
特に、後述する低融点接合材と馴染みやすい酸化インジウムを主成分とする円筒形セラミックス焼結体、具体的には、スズを含有する酸化インジウム(ITO)、セリウム(Ce)を含有する酸化インジウム(ICO)、ガリウム(Ga)を含有する酸化インジウム(IGO)、ガリウム及び亜鉛を含有する酸化インジウム(IGZO)等から構成される円筒形セラミックス焼結体が、ターゲット材2として好適に利用される。
【0028】
図1及び
図3に示すように、ターゲット材2は、接合層4を形成する接合材6との濡れ性を改善するために、ターゲット材2の内周面にインジウム又はインジウム合金の下地層を形成してもよい。下地層の形成によりターゲット材2の濡れ性が改善されると、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に接合層4を形成する際に、間隙5内の空気が、溶融した接合材7によって押し出されやすくなり、酸化被膜の原因となる酸素を外部に放出しやすくなる。
【0029】
ターゲット材2の外径及び全長は、円筒形スパッタリングターゲット1のサイズに応じて適宜調整することが可能である。内径は、間隙5の幅及びバッキングチューブ3の外径に応じて適宜調整することが可能であり、これらは特に限定されるものではない。また、ターゲット材2としては、1つの円筒形セラミックス焼結体から構成されるものだけでなく、複数の円筒形セラミックス焼結体を連結したものを使用することができる。円筒形セラミックス焼結体同士の連結方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0030】
(1−3.バッキングチューブ)
円筒形のバッキングチューブ3の材質は、円筒形スパッタリングターゲット1の使用時に、接合層4が劣化及び溶融しない十分な冷却効率を確保できる熱伝導性があり、スパッタリング時に、放電可能な電気伝導性、円筒形スパッタリングターゲット1の支持が可能な強度等を備えているものであればよい。バッキングチューブ3として、例えば、一般的なオーステナイト系ステンレス製、特にSUS304製のものに加えて、銅又は銅合金、チタン又はチタン合金、モリブデン又はモリブデン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の各種材質を使用することができる。
【0031】
バッキングチューブ3が、ステンレス材の場合は、接合材6との濡れ性を改善するために、下地層として銅をコーティングすることが好ましい。銅のコーティングは、電気めっき等で行うことができる。また、下地層の形成によりバッキングチューブ3の濡れ性が改善されると、上述のターゲット材2の濡れ性が改善された場合と同様にして、酸化被膜の原因となる酸素を外部に放出しやすくなる。
【0032】
バッキングチューブ3の全長は、円筒形スパッタリングターゲット1のサイズに応じて適宜調整することが可能である。内径は、スパッタリング装置に応じて適宜調整することが可能であり、これらは特に限定されるものではない。また、バッキングチューブ3の外径は、下地層の厚さと共に、バッキングチューブ3とターゲット材2との線膨張率の差を考慮して設定することが好ましい。
【0033】
例えば、ターゲット材2として、20℃における線膨張率が7.2×10
−6/℃のITOを使用し、バッキングチューブ3として、20℃における線膨張率が17.3×10
−6/℃のSUS304を使用する場合には、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5の幅が、好ましくは0.3mm〜3.0mm、より好ましくは0.5mm〜1.0mmとなるように、バッキングチューブ3の外径を設定する。
【0034】
間隙5の幅が0.3mm未満では、溶融した接合材7を間隙5に注入した場合に、バッキングチューブ3が熱膨張し、ターゲット材2が割れてしまうおそれがある。一方、間隙5の幅が3.0mmを超えると、ターゲット材2の中空部に、バッキングチューブ3を同軸に配置し、これらの中心軸が一致した状態で接合することが困難となる。
【0035】
(1−4.接合層)
接合層4は、例えばインジウムからなり、ターゲット材2とバッキングチューブ3とを接合する。接合層4の役割は、放電により円筒形スパッタリングターゲット1上に発生した熱をバッキングチューブ3の内側を流れる冷却液で放熱するため、ターゲット材2とバッキングチューブ3との熱的な伝達を行うことにある。即ち、接合層4は、円筒形スパッタリングターゲット1を使用する際に、バッキングチューブ3と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等を備えていればよい。
【0036】
[2.接合材シート]
本実施の形態に係る接合材シート9は、
図1に示すように、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に、接合層4を形成するためのシートである。
図2に示す接合材シート9は、接合層4を形成するための材料である接合材6の表面及び一端部(
図2では上端部)に、耐熱性を有する耐熱被膜8が形成されたものである。
【0037】
接合材シート9では、間隙5に溶融した接合材7を注入する観点から、接合材6の他端部(
図2では下端部)には、耐熱被膜8が形成されていないことが好ましい。接合材6の表面及び両端部に耐熱被膜8が形成された場合には、接合層4の形成前に、接合材6の一方の端部の耐熱被膜8を除去して用いればよい。
【0038】
接合層4に、上述のバッキングチューブ3と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等の特性を持たせるためには、接合層4の形成に用いる接合材6を選定する必要がある。例えば、インジウムを主成分とする接合材6は、スズを主成分とする接合材6に比べて凝固時の硬度が低い。そのため、インジウムを主成分とする接合材6を用いて接合層4を形成する場合には、溶融した接合材7を注入してから固化するまでの過程において、ターゲット材2の割れ等の不具合を効果的に防止することができる。
【0039】
また、インジウムを主成分とする接合材6を用いて接合層4を形成する場合には、インジウムを50質量%以上、好ましくは70質量%〜100質量%、より好ましくは80質量%〜100質量%含有するものを使用する必要がある。特に、インジウムを80質量%以上、好ましくは90質量%〜100質量%含有する低融点接合材を、接合材6として用いることが好ましい。このような低融点接合材であれば、原子又は分子間の結合が弱いため軟らかく、冷却固化後の硬度が適切な範囲にあるため、作業性に優れている。また、低融点接合材は、作業性に優れるだけでなく、溶融時の流動性が高いため、巣(鬆)やひけが極めて少ない、均一な接合層4を容易に形成することができる。
【0040】
例えば、インジウムの含有量が100質量%であるインジウム金属を接合材6として用いた場合には、インジウム金属の熱伝導率が81.6W/m・Kと熱伝導性に優れることから好ましい。また、インジウム金属は、液化して固化することによりターゲット材2とバッキングチューブ3とを接合させる際に、これらを密着性よく接合できることから好ましい。
【0041】
一方、インジウムの含有量が50質量%未満では、バッキングチューブ3側との濡れ性が低いため、そのような接合材6を加熱して溶融した接合材7を、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に、高い充填性をもって隙間なく注入することができない。
【0042】
また、接合材6としては、上述したインジウム系低融点接合材の他に、インジウム粉末を含有する樹脂ペースト、導電性樹脂等を用いることができるが、導電性や展延性の観点から、インジウム系低融点接合材が好ましく、融点が130℃〜160℃のインジウム系低融点接合材がより好ましい。なお、インジウム以外の成分については、特に制限されることはなく、例えば、スズ、アンチモン(Sb)、亜鉛等を必要に応じて含有させることができる。インジウム以外の成分の含有量は、50質量%未満であり、30質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。
【0043】
耐熱被膜8の厚さとしては、接合材6を保護することができれば特に限定されるものではなく、接合層4の厚さや幅、或いはバッキングチューブ3の外径に応じて適宜決定することができる。
【0044】
ここで、耐熱性を有する耐熱被膜8の特性としては、接合層4の形成時において、接合材6と一緒に溶融しない、即ち接合材6の融点よりも高い融点を有することが求められる。
図2に示すように、接合材シート9を加熱することにより、内部の接合材6のみが溶融して下方に溶融した接合材7が流れ出すことで、徐々に接合材シート9の厚さが薄くなる。そして、全ての接合材6が溶融すると耐熱被膜8のみが残存する。即ち、耐熱被膜8は、接合材6の溶融温度では溶融されないので、個体の状態で残存する。従って、接合材シート9では、空気や接合材6の酸化物等の不要物の混入を防止して、接合層4を形成するために必要な接合材6のみを間隙5に充填することができ、均一な接合層4を形成することができる。
【0045】
耐熱被膜8としては、例えば、酸化被膜、耐熱樹脂フィルム等が挙げられ、これらの中では、酸化被膜が好ましい。このような耐熱被膜8が少なくとも接合材6の表面に形成されることで、接合材シート9を接合材6の融点以上に加熱しても耐熱被膜8は溶融せずに、溶融した接合材7のみを、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に注入し、接合層4を形成することができる。
【0046】
酸化被膜としては、接合層4の形成に用いる接合材6の材料物質の酸化物、例えば酸化インジウム等であることが好ましい。また、耐熱樹脂フィルムとしては、ポリイミド等が好ましい。
【0047】
なお、詳細は後述するが、接合材シート9をバッキングチューブ3に固定して接合層4を形成する観点から、耐熱被膜8は、適度な機械強度を有していることが更に好ましい。耐熱被膜8が機械強度を有することで、接合材シート9内部の接合材6の外部刺激による劣化を防止し、且つバッキングチューブ3に固定してもシート形状を維持することができる。
【0048】
[3.接合材シートの製造方法]
接合材シート9の製造方法では、接合材6のインゴットを粗圧延によりシート形状に加工され、その後、冷間圧延により接合材シート9の表面に耐熱被膜8を形成して、接合材シート9を得る。このような製法により作製された接合材シート9における耐熱被膜8は、強固にその形状を保っている。なお、耐熱被膜8の形成方法は、冷間圧延に限定されるものではなく、材料や用途に応じて適宜選択することができる。
【0049】
接合材シート9の表面に形成された耐熱被膜8が酸化被膜の場合には、冷間圧延後に得られた接合材シート9について、酸洗等の処理を行うと酸化被膜が除去されてしまうので好ましくない。
【0050】
また、粗圧延後の接合材シート9の圧延率は、30%以上90%以下が好ましい。ここで、圧延率とは、下記式により算出されるものである。
【0051】
圧延率(%)=(冷間圧延前板厚−冷間圧延後板厚)÷冷間圧延前板厚×100
【0052】
接合材シート9の表面に形成された耐熱被膜8が酸化被膜の場合には、接合材シート9の圧延率が30%未満では、薄膜であるので酸化被膜の強度の確保が難しい。一方、接合材シート9の圧延率が90%を超える場合には、酸化被膜に欠陥が発生し、その欠陥から内部の接合材6が漏れて酸化被膜が破損する。
【0053】
接合材シート9の表面に酸化被膜が形成された場合には、接合材シート9の内部(接合材6)を融点以上に加熱しても外部被膜となった酸化物(耐熱被膜8)は容易に溶融せず、全ての接合材6が無くなるまで、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に混入することはない。従って、接合層4の形成前に、事前に間隙5の体積を算出し、その値から必要な接合材6の重量を測定しておくことで、酸化物等を含まない純粋な接合材6を、間隙5に注入することができる。
【0054】
接合材シート9の表面に耐熱被膜8として耐熱樹脂フィルムが形成された場合には、接合材6のインゴットを粗圧延によりシート形状に加工され、その後、その表面に耐熱樹脂フィルムをラミネートすることにより、接合材シート9を作製する。なお、ラミネート加工は、既知の方法を適宜選択して行うことができる。
【0055】
[4.円筒形スパッタリングターゲットの製造方法]
以下、本実施の形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
【0056】
(4−1.円筒形スパッタリングターゲットの概要)
図3に示すように、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材2の中空部にバッキングチューブ3を同軸に配置し、ターゲット材2とバッキングチューブ3とを接合材6で接合層4を形成することにより作製される。例えば、円筒形スパッタリングターゲット1は、SUS304製のバッキングチューブ3を、接合材6としてインジウム系低融点接合材を使用して、ITO製の円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材2と接合することにより作製することができる。
【0057】
(4−2.バッキングチューブとターゲット材の配置)
まず、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、
図3に示すように、ターゲット材2の中空部にバッキングチューブ3を同軸に配置する。
【0058】
ここでは、バッキングチューブ3を、ターゲット材2の中空部に同軸に、即ち、これらの中心軸が一致した状態で配置し、両者を接合することが重要となる。両者の中心軸がずれた状態で接合すると、得られる円筒形スパッタリングターゲット1の外径の中心と内径の中心がずれてしまう。その結果、スパッタリング時の熱負荷により、円筒形スパッタリングターゲット1が不均一に膨張し、ターゲット材2に割れや剥離が生じるおそれがある。
【0059】
なお、バッキングチューブ3を、ターゲット材2の中空部に同軸に配置する方法としては、特に制限されることなく、公知の手段を用いることができる。例えば、X−Yステージを用いて位置決めをすることにより、バッキングチューブ3を、ターゲット材2の中空部に同軸に配置することができる。
【0060】
次に、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5の軸方向一端部を、Oリング16等の公知の封止手段により封止する。そして、この封止側が下方となるように、ターゲット材2とバッキングチューブ3とを直立させる。
【0061】
(4−3.接合材シートの配置)
次に、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、
図3に示すように、接合材シート9の耐熱被膜8を除去した一端部側を下方に向けて、接合材シート9を間隙5の直上に配置し、バッキングチューブ3の外周部に巻き付ける。そして、接合材シート9の外周部に耐熱性マスキングテープ10を巻いて固定する。この際、耐熱性マスキングテープ10は、少なくとも接合材シート9の上端部付近からターゲット材2の上端部付近に亘って被覆する。このように耐熱性マスキングテープ10で接合材シート9を被覆することで、接合材シート9とターゲット材2との間から空気の流入を防止することができる。その結果、接合材6の酸化の原因となる酸素の量を低減することができる。
【0062】
また、耐熱性マスキングテープ10のような保持具を用いてバッキングチューブ3の外周部に接合材シート9を保持することで、ターゲット材2とバッキングチューブ3の間隙5に、溶融した接合材7のみを容易に注入することができる。従って、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、上述した通りに接合材シート9をバッキングチューブ3に設置することで、接合材6の酸化物(酸化被膜)や空気等の不要物を含まない均一な接合層4を形成することができる。
【0063】
(4−4.接合層の形成)
次に、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、
図3に示すように、ターゲット材2及び接合材シート9の外周面に、バンドヒーター11,12をそれぞれ取り付けて加熱する。なお、接合層4の形成条件は、ターゲット材2として使用する円筒形セラミックス焼結体の組成や、バッキングチューブ3の材質等に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0064】
接合材シート9を加熱すると、
図2及び
図3に示すように、接合材シート9をバッキングチューブ3の外周部に巻き付けることにより、接合材シート9の内部より溶融した接合材7が下方に流れ出し、間隙5の全域に亘って一度に注入される。上述したように、ターゲット材2及びバッキングチューブ3に下地層を設けることにより、濡れ性がより高くなり、間隙5内の空気が、溶融した接合材7によって押し出されやすくなり、酸化被膜の原因となる酸素を外部に放出しやすくなる。
【0065】
一方、接合材6の表面の耐熱被膜8は、耐熱性マスキングテープ10に張り付いて残るので、間隙5内へ流入することがない。溶融した接合材7の全てが間隙5に注入された後に、間隙5内を冷却することにより溶融した接合材7が固化して接合層4が形成される。そして、接合層4の形成により、ターゲット材2とバッキングチューブ3とが接合され、円筒形スパッタリングターゲット1が得られる。
【0066】
円筒形スパッタリングターゲット1は、上述のバッキングチューブ3と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等の特性を備えた接合層4を、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に形成することで、ターゲット材2とバッキングチューブ3との接合率及び接合強度を大幅に向上させることができる。
【0067】
ここで、接合率とは、間隙5の体積に対する、接合材6を加熱して溶融した接合材7が間隙5に注入されて接合層4が形成された場合の接合層4の体積(溶融した接合材7の充填量)をいう。溶融した接合材7の充填量は、超音波探傷装置によって測定することができる。また、接合強度とは、金属材料引張試験方法(JIS Z2241)に基づき、引張試験機によって求められる降伏点をいう。
【0068】
円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、上述の通り、耐熱性マスキングテープ10を用いてバッキングチューブ3の外周部に接合材シート9を保持することで、外部からの空気の流入を極力抑制することができるので、接合層4内への気泡の混入や接合材6の酸化を防止することができる。
【0069】
そのため、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、接合層4内に気泡、接合材6の酸化物(酸化被膜)等の不要物の混入を防止することができ、不要物が混入していない分、必要量の接合材6を全て間隙5内に充填することができる。その結果、従来法では不要物が含まれていた接合層とは異なり、接合材6のみで構成される接合層4とすることで、溶融した接合材7の充填量を増加させることができ、接合層4の接合率を90.0%以上、好ましくは95%以上とすることができる。
【0070】
また、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、上述の不要物が除去され接合材6のみで構成される接合層4とすることで、接合層4の接合強度を1.0MPa以上、好ましくは5.0MPa以上とすることができる。
【0071】
従って、得られた円筒形スパッタリングターゲット1において、ターゲット材2とバッキングチューブ3との接合率及び接合強度を大幅に向上させることができることから、円筒形スパッタリングターゲット1を用いたスパッタリング中におけるターゲット材2の割れや剥離を効果的に防止することができる。
【0072】
(4−5.バッキングチューブにおける接合材シートの他の保持方法)
バッキングチューブ3における接合材シート9の他の保持方法としては、例えば、
図4に示すアルミ製リング13や、
図5に示すテーパ付アルミ製リング15等の保持具を用いて保持する方法等が挙げられる。
【0073】
アルミ製リング13を保持具として用いた場合には、耐熱性マスキングテープ10よりも締め付けが強くできるので、更に外部からの空気の流入を遮断することができる。テーパ付アルミ製リング15を保持具として用いた場合には、テーパ14によって狭い間隙5に溶融した接合材7が流入しやすくなり、溶融した接合材7を迅速且つ容易に間隙5内へ注入することができる。
【0074】
円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、これらの保持具を用いたとしても、耐熱性マスキングテープ10と同様にして、ターゲット材2とバッキングチューブ3の間隙5に、溶融した接合材7のみを容易に注入することができ、均一な接合層4を形成することができる。
【0075】
(4−6.他の接合層の形成方法)
ターゲット材2とバッキングチューブ3の間隙5に溶融した接合材7を注入して接合層4を形成する際には、間隙5と溶融した接合材7との圧力差を利用してもよい。圧力差は、溶融した接合材7の加圧や間隙5の減圧、或いはその双方により発生させることが可能である。
【0076】
圧力差を生じさせる方法としては、例えば、溶融した接合材7を圧縮空気で、間隙5の方向に加圧する方法や、間隙5を真空ポンプで減圧する方法等が挙げられる。圧力差による溶融した接合材7の注入は、円筒形スパッタリングターゲット1を製造する際に、振動等の外力を加えなくとも、間隙5に溶融した接合材7を密に充填することができるため、溶融した接合材7の充填率を高めることができる。更に、間隙5と溶融した接合材7との圧力差により、気泡等を除去することができ、割れや欠け等の不具合の発生を著しく低減することができる。
【0077】
なお、間隙5と溶融した接合材7との圧力差を利用する場合には、接合材シート9をターゲット材2の上端部又は下端部の何れかに設置してもよい。
【0078】
以上で説明した通り、円筒形スパッタリングターゲット1の製造方法では、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材2の中空部にバッキングチューブ3を同軸に配置し、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に、接合材シート9を用いて、溶融した接合材7を加熱融解して流し込むことで接合層4を形成し、円筒形スパッタリングターゲット1を作製する。
【0079】
円筒形スパッタリングターゲット1の作製における接合層4の形成時において、接合材シート9を加熱すると、接合材シート9の内部(接合材6)と外部(耐熱被膜8)との融点の差により、接合材6のみが溶融して溶融した接合材7となり、ターゲット材2とバッキングチューブ3との間隙5に流れ込み、酸化被膜や気泡等の不要物の混入を低減した均一な接合層4を形成することができる。
【0080】
その結果、円筒形スパッタリングターゲット1の作製時に接合材シート9を用いることで、スパッタリング時に割れ、欠け、剥離等の不具合が発生しない円筒形スパッタリングターゲット1を得ることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
実施例1では、外径100mm、内径82mm、全長200mmのITO製の円筒形セラミックス焼結体を5つ用意した。これらの円筒形セラミックス焼結体の内周面を、マシニングセンタ(DMG森精機株式会社製、DMC635V)を用いて研削しターゲット材2を得て、超音波コテを使用してインジウムを濡らした。
【0083】
一方、バッキングチューブ3として、外径80mm、内径70mm、全長1100mmのSUS304製の円筒形バッキングチューブ3を用意した。バッキングチューブ3に対して、接合面以外の部分に余分な接合材6が付着しないように、耐熱性マスキングテープ10でマスキングを行った。次に、電解めっきにより、バッキングチューブ3の表面に、厚さ1μmの銅めっき層からなる下地層を形成した。
【0084】
その後、実施例1では、
図3に示すように、X−Yステージを用いて、バッキングチューブ3を分割ターゲット材2の中空部に同軸に配置すると共に、分割ターゲット材2とバッキングチューブ3との間に形成された間隙5の両端開口部のうち、一端を耐熱Oリング16によって封止し、この封止側が下方となるように、分割ターゲット材2とバッキングチューブ3からなる組合せ体を直立させた。その後、バッキングチューブ3の上端に外径80mm、内径70mm、全長200mmの取り外し可能なダミーパイプ(図示せず。)を耐熱性マスキングテープ10で固定し、バッキングチューブ3を上方に延長した。
【0085】
実施例1では、インジウムを80質量%、スズを10質量%、アンチモンを5質量%、亜鉛を5質量%含有するインジウム系原料を、加熱した鋳型に投入して溶解(融点:160℃)し、表面に浮遊する酸化インジウムを除去し、冷却してインゴットを得た。インゴットを粗圧延して得られた厚み20mmの粗圧延板から、冷間圧延により厚み5mm(圧延率75%)の板を得て接合材シート9とした。この接合材シート9をシャーで重さ1.7kgになるように幅251mm×高さ193mmに切り出し、
図3に示すように、最上段のターゲット材2の直上部に巻きつけ、耐熱性マスキングテープ10で周囲を巻いて固定した。
【0086】
この状態で、ターゲット材2を構成する全ての分割ターゲット材2の外周面、及び巻きつけた接合材シート9に、出力150Wのバンドヒーター11(坂口電熱株式会社製)を取り付け、設定温度を180℃として加熱した。また、接合材シート9の部分は、バンドヒーター12で190℃まで加熱することにより溶融させた。
【0087】
図2に示すように、溶融中、接合材シート9の内部より溶融した接合材7が流れ出し、表面の酸化被膜(耐熱被膜8)は耐熱性マスキングテープ10に張り付いて残り、流し込みが完了した。取り付けた接合材シート9内の溶融した接合材7を間隙5に流し込んだ後、下方に位置するバンドヒーター11から順次スイッチを切り、室温(20℃)まで冷却した。溶融した接合材7が完全に固化したことを確認した後、耐熱性マスキングテープ10、耐熱Oリング16、図示しないシリコンパッキン及びダミーパイプを取り除き、円筒形スパッタリングターゲット1を得た。
【0088】
実施例1では、得られた円筒形スパッタリングターゲット1に対して、超音波探傷装置(株式会社KJTD製、SDS−WIN)を用いて、接合材6の充填量を測定し、この測定値より、ターゲット材2とバッキングチューブ3の接合率を評価した。具体的には、接合率が95.0%以上のものを「優(○)」、90.0%以上95.0%未満のものを「良(△)」、90.0%未満のもの、又は、ターゲット材2がバッキングチューブ3から脱落し、接合率を評価できなかったものを「不良(×)」として評価した。
【0089】
また、ターゲット材2と接合層4との接合強度は、金属材料引張試験方法(JIS Z2241)に基づき、引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ)を用いて、接合強度を測定することにより評価した。具体的には、接合強度が5.0MPa以上のものを「優(○)」、1.0MPa以上5.0MPa未満のものを「良(△)」、1.0MPa未満のもの、又は、ターゲット材2がバッキングチューブ3から脱落し、接合強度を評価できなかったものを「不良(×)」として評価した。
【0090】
得られた円筒形スパッタリングターゲット1の接合率及び接合強度を、上記方法により評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、円筒形スパッタリングターゲット1をマグネトロン型回転カソードスパッタリング装置に取り付け、3.0Paのアルゴン雰囲気中、出力300Wで放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、分割ターゲット材2に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0091】
実施例1では、これらの結果を表1にまとめた。なお、表1中の「欠陥」には、円筒形スパッタリングターゲット1の割れ、欠け、剥離等の不具合が生じたか否かの結果を、「あり」又は「なし」で示した。
【0092】
(実施例2)
実施例2では、接合材シート9の材料に純インジウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲット1を得た。円筒形スパッタリングターゲット1の接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、実施例1と同様にして放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、分割ターゲット材2に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0093】
実施例2では、これらの結果を実施例1と同様にして表1にまとめた。
【0094】
(実施例3)
実施例3では、粗圧延されて得られている厚み20mmの粗圧延板から、冷間圧延を行い、厚み10mm(圧延率50%)の板を得て、接合材シート9とし、その接合材シート9をシャーで重さ1.7kgになるように幅251mm×高さ96.5mmに切り出したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲット1を得た。円筒形スパッタリングターゲット1の接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、実施例1と同様にして放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、分割ターゲット材2に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0095】
実施例3では、これらの結果を実施例1と同様にして表1にまとめた。
【0096】
(実施例4)
実施例4では、実施例1の最上段のターゲット材2の直上部に巻きつける接合材シート9の固定を、耐熱性マスキングテープ10から、
図4に示すように、外径100mm、内径92mm、全長200mmのアルミ製リング13にしたこと以外は、実施例1と同様にして円筒形スパッタリングターゲット1を得た。円筒形スパッタリングターゲット1の接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、実施例1と同様にして放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、分割ターゲット材2に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0097】
実施例4では、これらの結果を実施例1と同様にして表1にまとめた。
【0098】
(実施例5)
実施例5では、実施例4のアルミ製リング13の下端部の形状を、
図5に示すように、内径82mmで45度のテーパ14を付加し、全長205mmのテーパ付アルミ製リング15にしたこと以外は、実施例1と同様にして円筒形スパッタリングターゲット1を得た。円筒形スパッタリングターゲット1の接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、実施例1と同様にして放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、分割ターゲット材2に割れや欠け等が生じることはなかった。
【0099】
実施例5では、これらの結果を実施例1と同様にして表1にまとめた。
【0100】
(比較例1)
比較例1では、外径122mm、内径82mm、高さ20mmの内径側に45度のテーパを有するリング状流し込みアダプタを、上端部の円筒形セラミックス焼結体に設置し、1.7kgの実施例1の接合材6をビーカーで溶解して注入したこと以外は、実施例1と同様にして円筒形スパッタリングターゲットを得た。比較例1では、流し込みに長時間を要したため、ビーカーの中で約50%の接合材6が固化してしまった。この円筒形スパッタリングターゲットの接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価しようとしたところ、分割ターゲット材2が接合層から剥離し、バッキングチューブ3から脱落してしまった。
【0101】
このため、比較例1では、接合率及び接合強度の評価及び放電試験を実施することができなかった。
【0102】
(比較例2)
比較例2では、外径122mm、内径82mm、高さ20mmの内径側に45度のテーパを有するリング状流し込みアダプタを、上端部の円筒形セラミックス焼結体に設置し、1.7kgの実施例1の接合材6を、170g単位で、ビーカーで溶解して、10回に分けて注入したこと以外は、実施例1と同様にして円筒形スパッタリングターゲットを得た。比較例2では、流し込みは行えたが、流し込みが断続であり、接合材6に多数のボイドが生成していた。
【0103】
比較例2では、この円筒形スパッタリングターゲットの接合率及び接合強度を、実施例1と同様にして評価し、その結果を表1にまとめた。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例1乃至実施例5では、インジウムを80質量%以上含み、厚みが5mm〜10mm、即ち圧延率が50%〜75%の接合材シートを用いた。また、耐熱性マスキングテープ、アルミ製リング、テーパ付アルミ製リングの何れかの治具を、バッキングチューブに接合材シートを保持するものとして用い、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。その結果、表1に示した通り、得られた円筒形スパッタリングターゲットは、接合率95%以上及び接合強度5MPa以上の優れた特性を有し、スパッタリング時に割れ、欠け、剥離等の不具合が発生しなかった。
【0106】
従って、実施例1乃至実施例5より、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法では、表面に酸化被膜が形成された接合材シートを用いて、上述した何れかの治具を用いてバッキングチューブに接合材シートを保持し、各分割ターゲット材とバッキングチューブとの間隙に、接合層を形成することにより、上述した不具合の発生しない優れた円筒形スパッタリングターゲットを作製することができることがわかった。
【0107】
一方、比較例1及び比較例2では、溶融した接合材を用い、1回又は10回に分けてリング状流し込みアダプタにより、各分割ターゲット材とバッキングチューブとの間隙に接合層を形成することにより、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。その結果、表1に示した通り、得られた円筒形スパッタリングターゲットは、所望の接合率及び接合強度を得ることができず、スパッタリング時に割れ、欠け、剥離等の不具合が発生した。
【0108】
従って、比較例1及び比較例2より、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法では、各分割ターゲット材とバッキングチューブとの間隙に接合層を形成する際に、溶融した接合材を用いることにより、所望の特性を有しておらず、スパッタリング時に上述した不具合が生じる円筒形スパッタリングターゲットが得られることがわかった。