特許第6233228号(P6233228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233228光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233228
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/38 20060101AFI20171113BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20171113BHJP
【FI】
   C08G59/38
   H01L33/56
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-148869(P2014-148869)
(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公開番号】特開2016-23249(P2016-23249A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】富田 忠
【審査官】 亀谷 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−192888(JP,A)
【文献】 特開2014−027302(JP,A)
【文献】 特開2002−302533(JP,A)
【文献】 特開2006−206783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 63/00−63/10
C08K 3/00−13/08
H01L 33/00、33/48−33/64
H01L 23/28−23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂、(A−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ樹脂、並びに(A−3)酸無水物硬化剤を、エポキシ基当量/酸無水物基当量 0.6〜2.0の割合で反応させて得られるプレポリマーと
(B)硬化促進剤
からなる光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物の熱機械分析(TMA)によるガラス転移温度が、130℃以上である請求項1記載の光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子をトランスファー成型して封止してなる光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱時の強度・弾性率が高く、成型直後に硬化ムラによる黄変が生じにくく、室温において固形でハンドリングが容易である光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及びそれを用いて光半導体素子を封止してなる光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)等の光半導体素子は、街頭ディスプレイや自動車ランプ、住宅用照明など種種のインジケータや光源として利用されるようになっている。また、光半導体素子は二酸化炭素削減や省エネルギーをキーワードとして、各分野で応用した製品の開発が急速に進んでいる。
【0003】
LED等各種光半導体素子を封止するための封止材料としては、その硬化物が透明性、耐湿性、耐熱性並びに耐光性が優れていなければならないという観点から、一般的に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂とともに酸無水物系の硬化剤とを用いた熱硬化性エポキシ樹脂が用いられている(特許文献1)。
【0004】
しかし、一般的に、耐熱性や耐光性の向上を図るために多官能エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂を単純に溶融させて用いた場合、封止樹脂として強度低下を引き起こしやすく、このようなエポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子を樹脂封止して成形した際に、樹脂クラックが発生しやすく、硬化ムラから成形物が黄変しやすいという問題がある。
【0005】
また、表面実装方式のパッケージではリフロー時などにおける260℃の高温環境下にさらされることもあり、半田リフロー時の耐クラック性を向上させるために高温での弾性率を低くし、クラック発生を抑えようとする開発がなされている(特許文献2)。
【0006】
一方で、エポキシ樹脂でリードフレーム上の光半導体素子をレンズ状に封止し、さらにそのリードフレームを熱可塑樹脂にて射出成形での二次成形を行うといった方法で自動車等のランプを作成することもある。その場合、熱可塑樹脂は300℃近くまで熱せられ、高圧で成形されるためにガラス転移温度が高くても、高温時に低強度、低弾性では熱可塑樹脂に押された結果、レンズ部が流れてしまい、素子が発光しなくなってしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−309927号公報
【特許文献2】特許第5101425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、熱時の強度・弾性率が高く、成型直後に硬化ムラによる黄変が生じにくく、室温において固形でハンドリングが容易である光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及びそれを用いて光半導体素子を封止してなる光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定のエポキシ樹脂と酸無水物硬化剤を反応させたプレポリマーと硬化促進剤とを含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物が熱時の強度・弾性率が高く、成型直後に硬化ムラによる黄変が生じにくく、室温において固形でハンドリングが容易であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、
<1>
(A)(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂、(A−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ樹脂、並びに(A−3)酸無水物硬化剤を、エポキシ基当量/酸無水物基当量 0.6〜2.0の割合で反応させて得られるプレポリマーと
(B)硬化促進剤
とを必須成分とし、熱硬化前に室温において加圧成形可能である光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物、
を提供するものである。
【0011】
<2>
また、本発明は、光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物の熱機械分析(TMA)によるガラス転移温度が、130℃以上である<1>記載の光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【0012】
<3>
更に、本発明は、<1>または<2>に記載の光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子をトランスファー成型して封止してなる光半導体装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱時の強度・弾性率が高く、成型直後に硬化ムラによる黄変が生じにくく、室温において固形でハンドリングが容易である光半導体素子用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び該組成物の硬化物で受光素子その他の光半導体素子を封止した光半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0015】
本発明の光半導体素子封止用熱硬化性エポキシ樹脂組成物における(A)成分は、(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂、(A−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ樹脂、並びに(A−3)酸無水物硬化剤を反応させて得られるプレポリマーである。以下、各成分について説明する。
【0016】
<(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂>
本発明で用いられる(A−1)成分のトリアジン誘導体エポキシ樹脂は、(A−2)成分及び(A−3)成分と相俟って、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱時の強度を向上させ、黄変を抑制し、且つ経時劣化の少ない半導体発光装置を実現する。かかるトリアジン誘導体エポキシ樹脂としては、1,3,5−トリアジン核誘導体エポキシ樹脂が好ましい。特にイソシアヌレート環を有するエポキシ樹脂は、耐光性や電気絶縁性に優れており、1つのイソシアヌレート環に対して、2価の、より好ましくは3価のエポキシ基を有することが望ましい。具体的には、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(α−メチルグリシジル)イソシアヌレート、トリス(α−メチルグリシジル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いるトリアジン誘導体エポキシ樹脂は、軟化点が40〜125℃であるものが好ましい。なお、本発明において、このトリアジン誘導体エポキシ樹脂としては、トリアジン環を水素化したものは包含しない。
【0018】
<(A−2)(A−1)以外の特定のエポキシ樹脂>
本発明では、(A−1)成分のトリアジン誘導体エポキシ樹脂以外に(A−2)成分のエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ樹脂を使用する。(A−2)成分を加えることで、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物の靭性を向上させ、且つ経時劣化の少ない半導体発光装置を実現することができる。
(A−2)成分としては、ハンドリングやプレポリマー化のさせやすさの観点から室温では固形であり、また、そのエポキシ樹脂の軟化点は50〜100℃であるものが好ましい。
【0019】
<(A−3)酸無水物>
本発明で用いられる(A−3)成分の酸無水物は、硬化剤として作用するものであり、耐光性を与えるために非芳香族化合物であり、且つ炭素−炭素二重結合を有さないものが好ましく、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物などが挙げられ、これらの中でもヘキサヒドロ無水フタル酸及び/またはメチルヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。これらの酸無水物系硬化剤は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0020】
((A−1)成分と(A−2)成分の総エポキシ基のモル数)/(酸無水物のモル数)は0.6〜2.0モルであり、好ましくは0.8〜1.8モル、更に好ましくは1.0〜1.6モルである。これが0.6未満では未反応硬化剤が硬化物中に残り、得られる硬化物の耐湿性を悪化させる場合やプレポリマー化しても室温で固形化難しい場合がある。また2.0を超えると硬化不良が生じ、信頼性が低下する場合がある。
【0021】
(A−1)成分と(A−2)成分の比率は、質量比で(A−1):(A−2)=40:60〜90:10が好ましい。この範囲より(A−1)成分が多いとプレポリマー化したあとのハンドリング性が低下し、逆に(A−1)成分が少ないと熱時の強度及び弾性率が低下しやすくなる。特に好ましくは(A−1):(A−2)=50:50〜80:20である。
【0022】
(A)成分のプレポリマー合成の詳細な反応条件としては、上記した(A−1)成分、(A−2)成分及び(A−3)成分を、60〜120℃、好ましくは70〜110℃にて3〜20時間、好ましくは4〜15時間反応させることが挙げられる。この際、(A−1)成分と(A−2)成分のどちらか一方と(A−3)を予めプレポリマー化させ、あとで残りの成分を添加しても構わない。
こうして、軟化点が50〜100℃、好ましくは60〜80℃である固体生成物としてプレポリマーを得る。反応して得られる物質の軟化点が、40℃未満では固体とはなりにくく、室温において加圧成形が困難である。軟化点が100℃を超えると組成物として成型の時に必要な流動性が低すぎるおそれがある。
【0023】
(B)硬化促進剤
(B)成分の硬化促進剤は熱硬化性エポキシ樹脂を硬化させるために配合するものである。硬化促進剤の種類としては、エポキシ樹脂組成物の硬化促進剤として公知のものが使用でき、特に限定されないが、第三級アミン類、イミダゾール類、それらの有機カルボン酸塩、有機カルボン酸金属塩、金属−有機キレート化合物、芳香族スルホニウム塩、有機ホスフィン化合物類、ホスホニウム化合物類等のリン系硬化触媒、これらの塩類等の1種又は2種以上を挙げることができる。これらの中でも、イミダゾール類、リン系硬化触媒、例えば2−エチル−4−メチルイミダゾール又はメチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェイト、第三級アミンのオクチル酸塩が好ましい。
【0024】
硬化促進剤の使用量は、(A)成分の総和に対して0.05〜5質量%、特に0.1〜2質量%の範囲内とすることが好ましい。上記範囲を外れると、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなったり、成形時の硬化が非常に遅く又は速くなるおそれがある。
【0025】
本発明の組成物には、上記(A)及び(B)成分に加え、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物の透明性を損なわない範囲であれば必要に応じて更に下記の成分などを配合してもよい。
【0026】
(C)酸化防止剤
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、初期反射率向上及び長期での反射率維持のために(C)酸化防止剤を配合することができる。(C)成分の酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、硫黄系酸化防止剤を使用でき、酸化防止剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
【0028】
リン系酸化防止剤としては、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニルアルキル、亜リン酸フェニルジアルキル、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)、亜リン酸トリラウリル、亜リン酸トリオクタデシル、トリフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリトリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリトリトールジホスファイト、ジ(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、トリステアリルソルビトールトリホスファイト及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホネート等が挙げられる。
【0029】
硫黄系酸化防止剤としては、ジウラリルチオプロピオネート、ジステアリルチオプロピオネート、ジベンジルジサルフィド、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。
【0030】
これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。酸化防止剤の配合量は、(A)成分に対して0.01〜10質量%、特に0.03〜8質量%とすることが好ましい。配合量が少なすぎると十分な耐熱性が得られず、変色する場合があり、多すぎると硬化阻害を起こし、十分な硬化性、強度を得ることができない場合や酸化防止材自体の劣化により変色する場合がある。
【0031】
(D)離型剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、更に離型剤を配合することができる。(D)成分の離型剤は、成形時の離型性を高めるために配合するものである。
【0032】
離型剤としては、カルナバワックスをはじめとする天然ワックス、酸ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステルをはじめとする合成ワックスがあるが、一般的に高温条件下や光照射下では、容易に黄変したり、経時劣化したりして、離型性を有しなくなるものが多いため、変色の少ないグリセリン誘導体や脂肪酸エステルが好ましい。
【0033】
離型剤(D)の添加量は、(A)成分の総和に対して、0.20〜10.0質量%、特に1.0〜7.0質量%が好ましい。添加量が0.20質量%未満では、十分な離型性を得られない場合があり、10.0質量%を超えると、沁み出し不良や接着性不良等が起こる場合がある。
【0034】
(E)カップリング剤
本発明のシリコーン樹脂組成物には、リードフレームなどの金属基材との接着強度を高めるため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤を配合することができる。
このようなカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシランなどが好ましいものとして挙げられる。なお、カップリング剤の表面処理方法については特に制限されるものではないが、アミン系のシランカップリング剤のように150℃以上に放置した場合に熱樹脂が変色するものは好ましくない。
【0035】
(E)成分の配合量は、(A)成分に対して、0.05〜2.0質量%とすることが好ましく、特に0.1〜1.5質量%とすることが好ましい。配合量が0.05質量%未満であると、基材への接着効果が十分でなく、また2.0質量%を超えると、粘度が極端に低下して、ボイドの原因になる可能性がある。
【0036】
(F)補強材
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は室温や熱時での強度向上や成形時のクラック抑制のために(F)補強材を配合することができる。
【0037】
このような補強材としては通常エポキシ樹脂組成物に配合されるようなものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミ二ウム、ガラス繊維などが挙げられるが、硬化物との屈折率の差が小さいガラス繊維が好ましく、中でも不純物濃度が低いガラス繊維が好ましい。
【0038】
ガラス繊維の平均直径は5.0〜25.0μm、特に8.0〜15.0μmが好ましい。平均直径が細すぎると硬化物への補強効果が少なく機械強度が十分に向上せず、太すぎると外観上不均一に見えてしまう。
【0039】
ガラス繊維の平均長さとしては50〜400μmが好ましく、特に60〜300μmが好ましい。短すぎると硬化物への補強効果が少なく硬化物の機械強度が十分に向上せず、長すぎると成形時に金型のゲート部やランナー部で詰まりを起こしたり起したり、外観上不均一に見えてしまう。
【0040】
(F)成分の配合量は、(A)成分に対して、0.5〜10質量%とすることが好ましい。多すぎると透明性が大きく低下し、期待する光取り出し効率が得られなくなることがある。
【0041】
本発明熱硬化性エポキシ組成物の製造方法としては、(A)成分を所定の組成比で配合し、これをゲートミキサー等によって熱混合してプレポリマー化し、さらに(B)成分及び必要に応じて(C)〜(F)成分等の添加剤を所定の割合で溶融し、冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して熱硬化性エポキシ樹脂組成物の成形材料とする方法が挙げられる。この際、成分の投入順は問題なく、例えば(A)成分をプレポリマー化させる際に予め(C)成分等を投入しておいても構わない。
また、(A)成分のみを予めプレポリマー化し、冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して(B)成分の硬化促進剤や必要によりその他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕してエポキシ樹脂組成物の成形材料とすることもできる。
【0042】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いた光半導体素子の封止は、トランスファー成型等の公知のモールド方法により行なうことができる。トランスファー成形法では、トランスファー成形機を用い、成形圧力5〜20N/mm2、成形温度120〜190℃で成形時間30〜500秒、特に成形温度150〜185℃で成形時間90〜300秒で行うことが好ましい。更に、後硬化を150〜185℃で0.5〜20時間行ってよい。
【0043】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物は、厚み1mmにおいて、分光光度計の測定により、600nmの光透過率が70%以上のものが好ましく、特に好ましくは80%以上である。600nmの光透過率が70%以上のものとするには、各成分の分散性を上げるとよく、特に(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂を他の成分と相溶させるようにするとよい。そのためには、プレポリマー化するまで溶融混合することでムラも無くなり、分散性が向上する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0045】
実施例、比較例で使用した原料を以下に示す。
<(A−1)トリアジン誘導体エポキシ樹脂>
(A−1−1):トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(TEPIC−S:日産化学(株)製商品名、エポキシ当量100)
<(A−2)(A−1)以外の該当するエポキシ樹脂>
(A−2−1):固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER−1001:三菱化学(株)製商品名、エポキシ当量475)
(A−2−2):固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER−4004P:三菱化学(株)製商品名、エポキシ当量900)
(A−2−3):固形脂環式エポキシ樹脂(EHPE−3150:ダイセル化学工業(株)製商品、エポキシ当量170)
<(A−3)酸無水物>
(A−3−1):メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(リカシッドMH:新日本理化(株)製商品名、酸無水物当量168)
【0046】
<(B)硬化促進剤>
(B−1)リン系硬化触媒;テトラ−n−ブチルホスホニウム−O,O−ジエチルホスホロジチオレート(ヒシコーリンPX−4ET:日本化学社製)
【0047】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
後記の表1に示す(A−1)、(A−2)及び(A−3)成分を同表に示す割合で配合し、85℃に加熱したゲートミキサー内にて6時間溶融混合してプレポリマー化させ、さらに(B)成分を加えて5分間溶融混合し、冷却固化させて粉砕することで目的とする粉体状のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0048】
(比較例5〜7)
後記の表1に示す(A−1)、(A−2)、(A−3)及び(B)成分を同表に示す割合で配合し、85℃に加熱したゲートミキサー内にて10分間溶融混合し、冷却させることで固形〜ペースト状のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0049】
これらの組成につき、諸特性を下記の如く測定した。結果を表1に示す。
【0050】
組成物のハンドリング性
上記のゲートミキサーによる溶融混合時の作業性を以下の基準で評価した。
○:冷却後、タブレット化が容易な組成物を得ることが出来た。
×:冷却後、タブレット化が困難な組成物しか得られなかった。
【0051】
成形物の黄変
熱硬化性エポキシ樹脂をトランスファー成型した後の成形片を以下の基準で評価した。
○:成形後、成形片は無色透明であった。
×:成形後、透明ではあるが黄変していた。
【0052】
室温または高温での曲げ強度、曲げ弾性率
JIS−K6911規格に準じた金型を使用して、成型温度175℃、成型圧力6.9N/mm、成形時間120秒の条件で成形し、180℃、1時間ポストキュアーした。ポストキュアーした試験片を室温(25℃)または高温(260℃)にて、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
【0053】
ガラス転移温度(Tg)
EMMI規格に準じた金型を使用して、成型温度175℃、成型圧力6.9N/mm、成形時間120秒の条件で成形し、180℃、1時間ポストキュアーした。ポストキュアーした試験片をTMA(TMA8310リガク(株)製)により測定した。
【0054】
光透過率
成型温度175℃、成型圧力6.9N/mm、成形時間120秒の条件で、厚さ1mmのシート型硬化物を作成し、分光光度計U−4100(日立ハイテック社製)にて600nmの光透過率を測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から、本発明品は、プレポリマー化することで室温で加圧成形(タブレット化)が可能であり、熱時の強度・弾性率が向上し、成形直後の黄変のムラが抑えられていることを確認した。ガラス転移温度も高く、熱可塑樹脂での二次成形にも有効であることが確認できた。