【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0039】
[希釈工程の検討]
<実験1>
まず、インゴット切断用のスラリーに用いられる未使用の砥粒として、製造メーカがA社の砥粒A1,A2と、B社の砥粒B1,B2と、C社の砥粒Cと、D社の砥粒Dとを準備した。砥粒A1の製造ロットは、砥粒A2の製造ロットと異なっている。同様に、砥粒B1の製造ロットは、砥粒B2の製造ロットと異なっている。各砥粒の粒度は、#2000である。
次に、作業者の手作業によって、30gの砥粒A1と、70mlの溶媒としての純水とを混合し、評価溶液A1を作製した。また、砥粒A1を砥粒A2,B1,B2,C,Dにそれぞれ変更したこと以外は、評価溶液A1と同様の条件で、評価溶液A2,B1,B2,C,Dを作製した。
【0040】
そして、評価溶液A1,A2,B1,B2,C,Dが入った容器としての比色管を、常温で3時間静置することで研磨砥粒を沈降させ、それぞれの上澄みの濁度を測定した。濁度の測定には、透過散乱光比較測定方式の濁度計(LUTRON ELECTRONIC ENTERPRISE CO., LTD.製、型式:TU-2016 測定範囲:0ntu〜1000ntu)を用いた。その結果を
図3に示す。なお、測定単位は、ntu(Nephelometric Turbidity Unit)であり、値が大きいほど濁りが強いことを表す。
【0041】
図3に示すように、評価溶液B1,B2の濁度が、他の評価溶液の濁度と比べて低い値であった。
しかし、各評価溶液を目視で確認したところ、評価溶液B1,B2の濁りが、他の評価溶液の濁りと比べて明らかに強く、濁度の測定値とは反対の結果であった。一方、評価溶液A1,A2,C,Dについては、濁度の測定値と目視での確認結果とがほぼ一致した。
これらのことから、評価溶液B1,B2については、不純物が多いため、濁度計の測定範囲上限を超えるほど上澄みの濁りが強く、濁度を正確に測定できなかったと考えられる。また、評価溶液A1,A2,C,Dについては、濁度計の測定範囲に収まる程度の上澄みの濁りであり、濁度を正確に測定できたと考えられる。
【0042】
<実験2>
上述したように、評価溶液の上澄みの濁りを、濁度計を用いて適切に測定できない場合がある。そこで、評価溶液作製後の静置時間を長くすることで、上澄みの濁りが、濁度計の測定範囲に収まる程度まで弱まるか否かを確認した。
実験1と同様の評価溶液A1,A2,B1,B2,C,Dを作製した後、それぞれ常温で3時間、12時間、24時間静置し、それぞれの上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を
図4に示す。また、目視による濁度の確認も行った。
なお、静置時間を24時間以上とすると、砥粒の受け入れ管理を行う上で量産時の対応が困難なため、静置時間の最大値を24時間にした。
【0043】
図4に示すように、評価溶液B1,B2については、濁度計による濁度の測定値が他の評価溶液と比べて低い値であったものの、目視では他の評価溶液よりも濁りが強く、静置時間にかかわらず、濁度の測定値と目視での確認結果とが一致しなかった。
以上のことから、静置時間を長くするだけでは、上澄みの濁りを弱くすることができないことが分かった。
【0044】
<実験3>
実験2の結果を踏まえ、砥粒の不純物が多い場合であっても、評価溶液の上澄みを希釈することで、濁度計を用いて不純物の量を適切に推定できるか否かを確認した。
3つの比色管に実験1と同様の評価溶液A1を作製し、常温で3時間静置した後、それぞれの上澄みを純水で2倍、5倍、10倍に希釈した。そして、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。また、同様に上澄みを2倍、5倍、10倍に希釈した評価溶液A2,B1,B2,C,Dについても、上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を
図5に示す。
【0045】
図5に示すように、2倍の希釈では、評価溶液B1,B2の上澄みの測定値が評価溶液C,Dの上澄みより低い値であり、5倍の希釈では、評価溶液B1の上澄みの測定値が評価溶液Dの上澄みと略等しく、いずれの希釈率でも、上澄みの測定値と目視での確認結果とが一致しなかった。一方、10倍の希釈では、評価溶液B1,B2の上澄みの測定値が評価溶液A1,A2,C,Dの上澄みより高い値であり、上澄みの測定値と目視での確認結果とがほぼ一致した。
【0046】
また、粒度分布測定機(Sysmex株式会社製、型式番号:FPIA3000S)を用いて、砥粒A1,A2,B1,B2,C,Dの粒度分布を測定し、3μm以下の粒子の全体に対する比率を小粒子率として算出した。なお、粒度分布の測定には、濃度が高いと凝集砥粒が多くなるため、実験1にて使用した評価溶液を、純水にてさらに5倍希釈した混合液を使用した。
図6に、10倍に希釈した上澄みの濁度の測定値と、各砥粒の小粒子率との関係を示す。
【0047】
図6に示すように、濁度の測定値では、評価溶液Cが評価溶液A1より大きくなったが、小粒子率では、砥粒A1と砥粒Cとがほぼ一致し、濁度の測定値と、粒度分布測定機の測定結果に基づく小粒子率とは、一致しないことが分かった。一方、
図6に示す濁度の測定値は、各評価溶液を目視した評価結果とほぼ一致することが分かった。
以上のことから、砥粒の不純物が多い場合であっても、評価溶液の上澄みを10倍に希釈することで、濁度計を用いて上澄みの濁度を適切に測定でき、その結果から、不純物の量を適切に推定できることが分かった。
【0048】
[振とう工程の検討]
<実験4>
希釈工程の検討では、評価溶液の作製を手作業で行っていたが、砥粒と溶媒とを混合するために比色管を振とうする速度や時間の長さが、濁度の測定値に影響を与える可能性がある。そこで、手作業による比色管を振る速度(回/min)および回数(1回=1往復)と、濁度の測定値との関係を調べた。
B社の砥粒Bを用いて上記実験1と同様の条件で評価溶液を作製した後、
図7に示す水準1〜6の条件で比色管を振とうした。手作業による比色管の振とう幅は、100mm〜150mmである。そして、比色管を3時間静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を
図7に示す。
【0049】
図7に示すように、振とう速度が速くなり、振とう回数が多くなるほど、濁度の測定値が大きくなった。
以上のことから、評価溶液を作製するときの比色管を振とうする速度や時間がばらつくと、濁度の測定値もばらつくことが分かった。
【0050】
<実験5>
実験4の結果を考慮に入れると、評価溶液の作製に振とう機を用いることで、濁度の測定値のばらつきを抑制できると考えられる。そこで、振とう機を用いた最適な振とう条件を検討した。
実験4と同様に砥粒Bを用いて評価溶液を作製した後、
図8に示す各振とう時間で比色管を振とうした。振とう機として、株式会社タイテック社の小型振とう機レシプロシェーカーNR−1(仕様:振とう速度20〜200回/min、振幅10〜40mm)を用いた。比色管の振とう幅、振とう速度は、それぞれ40mm、200回/minである。そして、比色管を3時間静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を
図8に示す。
【0051】
図8に示すように、振とう時間が20分未満の場合、振とう時間が長くなるにしたがって濁度の測定値が大きくなるが、20分を超えると、振とう時間が長くなっても濁度の測定値に大きな変化が無くなった。
以上のことから、上記振とう機を用い、振とう幅、振とう速度、振とう時間をそれぞれ40mm、200回/min、20分以上とした条件で、比色管を振とうすることで、濁度の測定値のばらつきを抑制できることが分かった。
【0052】
<実験6>
実験5の結果から、振とう機を用いることで濁度の測定値のばらつきを抑制できることが分かったが、シリコンウェーハの製造現場での運用上、比色管の振とう後の静置時間を3時間程度にしても、濁度の測定値に与える影響が少ないことが好ましい。
そこで、比色管の振とう後の静置時間が、濁度の測定値に与える影響を調べた。
実験4と同様に砥粒Bを用いて評価溶液を作製した後、実験5で用いた振とう機で比色管を振とうした。比色管の振とう幅、振とう速度、振とう時間は、それぞれ40mm、200回/min、20分である。そして、比色管を
図9に示す各静置時間だけ静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を
図9に示す。
【0053】
図9に示すように、静置時間が3時間未満の場合、静置時間が長くなるにしたがって濁度の測定値が小さくなるが、3時間以上4時間以下の場合、濁度の測定値に大きな変化が無くなった。なお、静置時間が4時間を超える場合、静置時間が濁度の測定値に与える影響については不明である。
以上のことから、上記振とう機を用い、振とう幅、振とう速度、振とう時間をそれぞれ40mm、200回/min、20分とした条件で比色管を振とうし、その後の静置時間が3時間以上4時間以下であれば、濁度の測定値に与える影響が少ないことが分かった。
【0054】
[砥粒の評価方法の有効性]
次に、本発明の砥粒の評価方法の有効性について説明する。
<実験7>
{比較例}
評価対象の砥粒として、E社の砥粒Eと、F社の砥粒Fとを準備した。各砥粒の粒度は、#2000である。
そして、上記実験3で用いた粒度分布測定機を用いて、砥粒E,Fの粒度分布を測定し、3μm以下の粒子の比率を表す小粒子率を算出した。なお、粒度分布の測定には、実験3と同様の理由から、30gの砥粒と70mlの純水との混合液を、純水にてさらに5倍希釈した混合液を使用した。粒度分布の測定結果を
図10に示し、小粒子率の算出結果を
図11に示す。
【0055】
図10および
図11に示すように、粒度分布および小粒子率のいずれについても、砥粒Eと砥粒Fとで大きな差が見られなかった。
以上のことから、粒度分布測定機を用いた測定では、砥粒E,Fにおける微小粒子(研磨砥粒+不純物(FCなど))の量に大きな差がないという結果が得られた。
【0056】
{実施例}
上記
比較例と同様の砥粒E,Fを準備した。そして、砥粒E,Fに対し、
図2に示すような本発明の砥粒の評価方法に基づくステップS1〜S6の処理を行った。
ステップS1の評価溶液作成工程では、作業者の手作業によって、30gの砥粒Eと、70mlの純水とを混合し、評価溶液Eを作製した。同様に、30gの砥粒Fと70mlの純水とを混合した評価溶液Fを作製した。
ステップS2の振とう工程では、上記実験5で用いた振とう機を用い、振とう幅を40mm、振とう速度を200回/min、振とう時間を20minとした条件で、評価溶液E,Fがそれぞれ入った比色管を振とうした。
ステップS3の沈降工程では、振とう工程が終了した比色管を3時間静置した。
ステップS4の希釈工程では、沈降工程が終了した評価溶液E,Fの上澄みを純水で10倍に希釈した。
ステップS5の測定工程では、上記実験1で用いた濁度計を用い、希釈工程が終了した評価溶液E,Fの上澄みの濁度を測定し、ステップS6の推定工程では、濁度測定結果に基づいて、砥粒E,Fに含まれる不純物の量を推定した。
濁度測定結果を
図12に示す。
【0057】
図12に示すように、砥粒Eの濁度が砥粒Fの濁度の約5倍であり、両者の間で大きな差が見られた。
以上のことから、本発明の砥粒の評価方法に基づく処理では、濁度の測定結果に基づいて、砥粒Eに含まれる不純物の量が砥粒Fの約5倍であるという推測結果が得られた。そして、砥粒Eを用いて製造したシリコンウェーハの品質は、砥粒Fを用いて製造したシリコンウェーハより劣ると推測することができる。
【0058】
<実験8>
次に、砥粒E,Fを用いてシリコンウェーハを製造した。
具体的に、評価した砥粒Eと同じロットの砥粒Eと、水溶性のオイルを用いてスラリーを作製し、このスラリーを用いてインゴットを切断することで、直径が300mmのシリコンウェーハを製造した。また、同様にして、砥粒Fを用いたスラリーによって、インゴットを切断し、シリコンウェーハを製造した。
製造したシリコンウェーハの切断面の品質を、厚みばらつきを用いて評価した。その結果を
図13に示す。
なお、厚みばらつきとは、シリコンウェーハの切断方向(
図1のZ方向)の厚みクロスセクション(厚み断面)を10mmずつの区間に区切り、各区間毎の厚みのPV値(区間最大厚み−区間最小厚み)を算出し、PV値が厚み閾値を超えた区関数である。ここで、厚み閾値を1μmとし、区関数を29個/枚(直径が300mmのシリコンウェーハを用い、エッジ5mmは評価対象から除外した)とした。なお、厚みの測定装置として、コベルコ科研社製の平坦度測定器SBW−330を用いた。
【0059】
図13に示すように、砥粒Eを用いて製造したシリコンウェーハの品質が、砥粒Fを用いて製造したシリコンウェーハの品質より劣ることが確認できた。これは、
図12に示す測定結果から推定した結果と一致する。
したがって、本発明の砥粒の評価方法に基づく処理を行うことで、評価した砥粒と同じロットの砥粒を用いてインゴットを切断する前に、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かを適切に判断できることが分かった。