特許第6233296号(P6233296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233296砥粒の評価方法、および、シリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233296
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】砥粒の評価方法、および、シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20171113BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20171113BHJP
   B24B 57/02 20060101ALI20171113BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   B24B27/06 D
   H01L21/304 611W
   B24B57/02
   G01N15/06 E
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-265757(P2014-265757)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-124055(P2016-124055A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2016年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】南畑 祐司
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−111416(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/175859(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/091495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24B 57/02
H01L 21/304
B28D 5/04
C09K 3/14
G01N 33/40、21/49、15/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴット切断用のスラリーに用いられる砥粒の評価方法であって、
研磨砥粒および不純物を含む砥粒を溶媒に溶かして評価溶液を作製する評価溶液作製工程と、
前記評価溶液が入った容器を静置して、前記研磨砥粒を沈降させる沈降工程と、
測定機器を用いて前記評価溶液の上澄みの濁度を測定する測定工程と、
前記上澄みの濁度の測定結果に基づいて、前記不純物の量を推定する推定工程とを行うことを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の砥粒の評価方法において、
前記溶媒は、水または純水または超純水であることを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の砥粒の評価方法において、
前記評価溶液が入った容器を振とうさせる振とう工程を行った後に、前記沈降工程を行うことを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の砥粒の評価方法において、
前記上澄みを希釈する希釈工程を行った後、前記測定工程を行うことを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の砥粒の評価方法において、
前記砥粒は、SiCであることを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項6】
ワイヤソーを用いたシリコンウェーハの製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の砥粒の評価方法における前記推定工程での推定結果に基づいて、前記砥粒の合否を判定する合否判定工程と、
合格と判定された砥粒を用いてスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記ワイヤソーおよび前記スラリーを用いてインゴットを切断し、シリコンウェーハを製造する切断工程とを行うことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒の評価方法、および、シリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶のインゴットから、シリコンウェーハを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の方法では、平均粒子径が13μm〜15μmの研磨砥粒を含むスラリーをワイヤに供給しつつ、走行するワイヤにシリコンインゴットを押し付けることで、シリコンインゴットを切断し、シリコンウェーハを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−52816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような方法で用いられる研磨砥粒には、切断に寄与するGC(緑色炭化珪素)など研磨砥粒の他に、切断に寄与しない3μm以下のFC(遊離炭素)などの不純物が含まれている。このような研磨砥粒を含むスラリーを用いてインゴットを切断すると、不純物が研磨砥粒とインゴットとの間に介在することにより、ワイヤソーの切断能力が低下し、シリコンウェーハの品質が低下してしまうおそれがある。このような現象についてはインゴットの切断が終わるまで確認できないことから、インゴットの切断前に、高品質のシリコンウェーハを得られるか否かを適切に判断できる手法の開発が望まれている。
【0005】
本発明の目的は、インゴットの切断前に高品質のシリコンウェーハを得られるか否かを適切に判断できる砥粒の評価方法、および、シリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の砥粒の評価方法は、インゴット切断用のスラリーに用いられる砥粒の評価方法であって、研磨砥粒および不純物を含む砥粒を溶媒に溶かして評価溶液を作製する評価溶液作製工程と、前記評価溶液が入った容器を静置して、前記研磨砥粒を沈降させる沈降工程と、測定機器を用いて前記評価溶液の上澄みの濁度を測定する測定工程と、前記上澄みの濁度の測定結果に基づいて、前記不純物の量を推定する推定工程とを行うことを特徴とする。
【0007】
例えば、インゴット切断用のスラリーに用いられる砥粒には、研磨砥粒としてのGCの他に、不純物としてのFCなどが含まれる場合がある。この場合、研磨砥粒の比重が不純物の比重より高く、研磨砥粒のサイズと不純物のサイズとに大きな差がないため、評価溶液中の研磨砥粒の沈降速度は、不純物の沈降速度よりも速くなる。
本発明によれば、沈降工程を行うことによって、研磨砥粒を沈降させる一方で、不純物を沈降させずに上澄みに存在させ、この上澄みの濁度を測定機器で測定する。このため、不純物が研磨砥粒と見なされて測定されることを防止でき、上澄みの濁度測定結果から推定される不純物の量を、実際に砥粒に含まれる不純物の量と略一致させることができる。したがって、この砥粒と同じロットの砥粒を用いてインゴットを切断する前に、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かを適切に判断できる。
【0008】
本発明の砥粒の評価方法において、前記溶媒は、水または純水または超純水であることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、溶媒として水または純水または超純水を用いることで、例えばスラリーの作製に使用するオイルを溶媒として用いる場合と比べて、評価溶液中の研磨砥粒の沈降速度を速くすることができる。したがって、砥粒の評価時間を短縮できる。
【0010】
本発明の砥粒の評価方法において、前記評価溶液が入った容器を振とうさせる振とう工程を行った後に、前記沈降工程を行うことが好ましい。
【0011】
本発明によれば、振とう工程を行うことによって、研磨砥粒に付着している不純物を当該研磨砥粒から分離させることができる。したがって、上澄みの濁度測定結果から推定される不純物の量と、実際に砥粒に含まれる不純物の量との差を、振とう工程を行わない場合と比べて小さくすることができ、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かをより適切に判断できる。
【0012】
本発明の砥粒の評価方法において、前記上澄みを希釈する希釈工程を行った後、前記測定工程を行うことが好ましい。
【0013】
ここで、上澄みを希釈しない場合、不純物の量が多いと、濁度が測定機器の測定範囲上限を超えてしまい、不純物の量を適切に推定できない場合がある。
これに対し、本発明では、希釈工程を行うことによって、濁度が測定機器の測定範囲上限を超えることを抑制でき、不純物の量を適切に推定できる。
【0014】
本発明の砥粒の評価方法において、前記砥粒は、SiCであることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、不純物として特に多く含まれているFCの量を適切に評価することができ、FC以外の不純物の量を評価する場合と比べて、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かをより適切に判断できる。
【0016】
本発明のシリコンウェーハの製造方法は、ワイヤソーを用いたシリコンウェーハの製造方法であって、上述の砥粒の評価方法における前記推定工程での推定結果に基づいて、前記砥粒の合否を判定する合否判定工程と、合格と判定された砥粒を用いてスラリーを作製するスラリー作製工程と、前記ワイヤソーおよび前記スラリーを用いてインゴットを切断し、シリコンウェーハを製造する切断工程とを行うことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、高品質のシリコンウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤソーを示す模式図。
図2】前記一実施形態におけるシリコンウェーハの製造方法を示すフローチャート。
図3】本発明の実施例の実験1における静置時間を一定にした場合の砥粒と濁度との関係を示すグラフ。
図4】前記実施例の実験2における静置時間と砥粒と濁度との関係を示すグラフ。
図5】前記実施例の実験3における上澄みの希釈率と砥粒と濁度との関係を示すグラフ。
図6】前記実施例の実験3における10倍に希釈した上澄みの濁度の測定値と各砥粒の小粒子率との関係を示すグラフ。
図7】前記実施例の実験4における振とう条件と濁度との関係を示すグラフ。
図8】前記実施例の実験5における振とう時間と濁度との関係を示すグラフ。
図9】前記実施例の実験6における静置時間と濁度との関係を示すグラフ。
図10】前記実施例の実験7における比較例の砥粒の粒度分布を示すグラフ。
図11】前記実施例の実験7における比較例の砥粒の小粒子率示すグラフ。
図12】前記実施例の実験7における実施例の砥粒の濁度を示すグラフ。
図13】前記実施例の実験8におけるシリコンウェーハの厚みばらつきを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
[ワイヤソーの構成]
まず、ワイヤソーの構成について説明する。
図1に示すように、ワイヤソー1は、同一水平面上に2個、これら2個の中間の下方に1個配置された合計3個のメインローラ2を備えている。これら3個のメインローラ2の周りには、軸方向に沿ってワイヤ7が巻き付けられている。ワイヤ7の両端側には、それぞれ複数ずつ(図1では、1個ずつ図示)のガイドローラ3を介してワイヤ7を送り出したり巻き取ったりするワイヤリール41,42が設けられている。また、各ガイドローラ3とワイヤリール41,42との間には、それぞれトラバーサー43,44が設けられている。トラバーサー43,44は、ワイヤ7の送り位置、巻取り位置を調整する機能を有している。さらに、上側の2個のメインローラ2(以下、上側メインローラ21と称す)の上方には、2個の上側メインローラ21の中間位置にスラリーGを供給するノズル5がそれぞれ設けられている。また、ノズル5の上方には、インゴットTを保持して昇降させる送り手段6が設けられている。
【0020】
そして、ワイヤソー1は、複数のメインローラ2を回転させることで、ワイヤ7をメインローラ2の軸方向と略直交する方向(左右方向)に走行させ、2個の上側メインローラ21間にスラリーGを供給しつつ、インゴットTを下降させて走行中のワイヤ7に押し当てることで、インゴットTを切断して複数のシリコンウェーハを製造する。
【0021】
[シリコンウェーハの製造方法]
次に、シリコンウェーハの製造方法について説明する。
なお、本実施形態では、砥粒に、研磨砥粒としてのGCと、不純物としてのFCとが含まれる場合を例示して説明する。また、砥粒として、インゴットTの切断に一度も利用されていない未使用品を用いる場合を例示して説明する。
【0022】
まず、図2に示すように、スラリーGを作製する前に、スラリーGに用いる砥粒の評価を行う。この砥粒の評価では、評価溶液作製工程(ステップS1)と、振とう工程(ステップS2)と、沈降工程(ステップS3)と、希釈工程(ステップS4)と、測定工程(ステップS5)と、推定工程(ステップS6)とを行う。
【0023】
ステップS1の評価溶液作製工程では、容器としての比色管を用い、研磨砥粒としてのGCを含む砥粒を溶媒としての純水に溶かすことで、評価溶液を作製する。この評価溶液の作製は、作業者の手作業で行われてもよいし、機器で行われてもよい。
【0024】
ステップS2の振とう工程では、評価溶液が入った比色管を振とうさせる。振とう工程では、人手で比色管を振とうさせてもよいが、振とう条件の再現性や作業者の作業負担などを考慮に入れると、機器を用いることが好ましい。この振とう工程を行うことにより、GCに付着しているFCを当該GCから分離させることができる。
【0025】
ステップS3の沈降工程では、評価溶液が入った比色管を静置して、GCを沈降させる。GCを沈降させる時間は、特に限定されないが、ほぼ全てのGCが沈降し、かつ、上澄みにFCが存在するような長さが好ましい。
【0026】
ステップS4の希釈工程では、評価溶液の上澄みをステップS1で用いた溶媒によって希釈する。希釈率は、特に限定されないが、評価溶液中のFCの濃度に応じて、希釈後の上澄みの濁度が、後述する測定機器の測定範囲上限を超えないような値が好ましい。
【0027】
ステップS5の測定工程では、測定機器を用いて評価溶液の上澄みの濁度を測定する。測定機器としては、特に限定されないが、評価溶液中の濁りを数値化できるもの用いることができる。測定機器としては、例えば、吸光光度計の一種である濁度計を用いることができる。
【0028】
ステップS6の推定工程では、上澄みの濁度測定結果に基づいて、砥粒に含まれるFCの量を推定する。
【0029】
ステップS1〜S6の処理を行った後、FCの量の推定結果に基づいて、砥粒の合否を判定する(ステップS7:合否判定工程)。
例えば、FCの推定量に対応する濁度計の測定値が閾値以上の場合、この砥粒と同じロットの砥粒を用いてインゴットTを切断した場合、FCが多いために高品質のシリコンウェーハを得ることができないと判断し、不合格と判定する。一方、濁度計の測定値が閾値未満の場合、FCが少ないために高品質のシリコンウェーハを得ることができると判断し、合格と判定する。なお、ステップS7の処理は、機器が行ってもよいし、作業者が行ってもよい。
そして、ステップS7において、合格と判定した場合、評価した砥粒と同じロットの砥粒と、油性または水溶性のオイルなどと用いてスラリーGを作製する(ステップS8:スラリー作製工程)。その後、このスラリーGを用いてインゴットTを切断する(ステップS9:切断工程)ことで、シリコンウェーハを製造する。
【0030】
一方、ステップS7において、不合格と判定した場合、他ロットの砥粒を評価するか否かを判断する(ステップS10)。このステップS10において、他ロットの砥粒を評価すると判断した場合、他ロットの砥粒に対する上述の処理を行い、評価しないと判断した場合、処理を終了する。
【0031】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、以下のような作用効果を奏することができる。
【0032】
(1)沈降工程を行うことによって、GCを沈降させる一方で、FCを沈降させずに上澄みに存在させ、この上澄みの濁度を測定するため、FCがGCと見なされて測定されることを防止でき、上澄みの濁度測定結果から推定されるFCの量を、実際に未使用の砥粒に含まれるFCの量と略一致させることができる。したがって、この砥粒と同じロットの砥粒を用いてインゴットTを切断する前に、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かを適切に判断できる。
その上、FCの量が許容下限値未満の場合であっても、ロット毎のFC量の推移を把握することができ、この推移を予め砥粒の製造メーカにフィードバックすることで、砥粒の製造状況改善に活かすことができる。
【0033】
(2)評価溶液を作製するための溶媒として純水を用いるため、例えばスラリーGの作製に使用するオイルを溶媒として用いる場合と比べて、評価溶液中のGCの沈降速度を速くすることができ、砥粒の評価時間を短縮できる。
【0034】
(3)振とう工程を行うことで、GCに付着しているFCを当該GCから分離させるため、上澄みの濁度測定結果から推定されるFCの量と、実際に砥粒に含まれるFCの量との差を、振とう工程を行わない場合と比べて小さくすることができ、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かをより適切に判断できる。
【0035】
(4)評価溶液中のFCの濃度に応じて希釈工程を行うことで、濁度が測定機器の測定範囲上限を超えることを抑制でき、FCの量を適切に推定できる。
【0036】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
すなわち、評価溶液作製に用いる溶媒としては、純水より純度が高い超純水、であってもよいし、純水より純度が低い水であってもよい。このような構成でも、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
また、評価溶液作製に用いる溶媒としては、沈降工程により最終的に研磨砥粒が沈降するのであれば、油性または水溶性のオイルなどであってもよい。
【0037】
例えば、研磨砥粒に付着している不純物の量が濁度測定結果に大きな影響を及ぼさないと分かっている場合には、振とう工程を行わなくてもよい。
例えば、沈降工程後に、上澄みの濁度が測定機器の測定範囲上限を超えていないと、作業者が視覚的に判断できた場合、希釈工程を行わなくてもよい。
希釈工程では、ステップS1で用いた溶媒以外の溶媒を用いて希釈してもよい。例えば、上記実施形態において、高純水または水を用いて希釈してもよい。
上記実施形態では、未使用品の砥粒を評価したが、再生砥粒を評価してもよい。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0039】
[希釈工程の検討]
<実験1>
まず、インゴット切断用のスラリーに用いられる未使用の砥粒として、製造メーカがA社の砥粒A1,A2と、B社の砥粒B1,B2と、C社の砥粒Cと、D社の砥粒Dとを準備した。砥粒A1の製造ロットは、砥粒A2の製造ロットと異なっている。同様に、砥粒B1の製造ロットは、砥粒B2の製造ロットと異なっている。各砥粒の粒度は、#2000である。
次に、作業者の手作業によって、30gの砥粒A1と、70mlの溶媒としての純水とを混合し、評価溶液A1を作製した。また、砥粒A1を砥粒A2,B1,B2,C,Dにそれぞれ変更したこと以外は、評価溶液A1と同様の条件で、評価溶液A2,B1,B2,C,Dを作製した。
【0040】
そして、評価溶液A1,A2,B1,B2,C,Dが入った容器としての比色管を、常温で3時間静置することで研磨砥粒を沈降させ、それぞれの上澄みの濁度を測定した。濁度の測定には、透過散乱光比較測定方式の濁度計(LUTRON ELECTRONIC ENTERPRISE CO., LTD.製、型式:TU-2016 測定範囲:0ntu〜1000ntu)を用いた。その結果を図3に示す。なお、測定単位は、ntu(Nephelometric Turbidity Unit)であり、値が大きいほど濁りが強いことを表す。
【0041】
図3に示すように、評価溶液B1,B2の濁度が、他の評価溶液の濁度と比べて低い値であった。
しかし、各評価溶液を目視で確認したところ、評価溶液B1,B2の濁りが、他の評価溶液の濁りと比べて明らかに強く、濁度の測定値とは反対の結果であった。一方、評価溶液A1,A2,C,Dについては、濁度の測定値と目視での確認結果とがほぼ一致した。
これらのことから、評価溶液B1,B2については、不純物が多いため、濁度計の測定範囲上限を超えるほど上澄みの濁りが強く、濁度を正確に測定できなかったと考えられる。また、評価溶液A1,A2,C,Dについては、濁度計の測定範囲に収まる程度の上澄みの濁りであり、濁度を正確に測定できたと考えられる。
【0042】
<実験2>
上述したように、評価溶液の上澄みの濁りを、濁度計を用いて適切に測定できない場合がある。そこで、評価溶液作製後の静置時間を長くすることで、上澄みの濁りが、濁度計の測定範囲に収まる程度まで弱まるか否かを確認した。
実験1と同様の評価溶液A1,A2,B1,B2,C,Dを作製した後、それぞれ常温で3時間、12時間、24時間静置し、それぞれの上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を図4に示す。また、目視による濁度の確認も行った。
なお、静置時間を24時間以上とすると、砥粒の受け入れ管理を行う上で量産時の対応が困難なため、静置時間の最大値を24時間にした。
【0043】
図4に示すように、評価溶液B1,B2については、濁度計による濁度の測定値が他の評価溶液と比べて低い値であったものの、目視では他の評価溶液よりも濁りが強く、静置時間にかかわらず、濁度の測定値と目視での確認結果とが一致しなかった。
以上のことから、静置時間を長くするだけでは、上澄みの濁りを弱くすることができないことが分かった。
【0044】
<実験3>
実験2の結果を踏まえ、砥粒の不純物が多い場合であっても、評価溶液の上澄みを希釈することで、濁度計を用いて不純物の量を適切に推定できるか否かを確認した。
3つの比色管に実験1と同様の評価溶液A1を作製し、常温で3時間静置した後、それぞれの上澄みを純水で2倍、5倍、10倍に希釈した。そして、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。また、同様に上澄みを2倍、5倍、10倍に希釈した評価溶液A2,B1,B2,C,Dについても、上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を図5に示す。
【0045】
図5に示すように、2倍の希釈では、評価溶液B1,B2の上澄みの測定値が評価溶液C,Dの上澄みより低い値であり、5倍の希釈では、評価溶液B1の上澄みの測定値が評価溶液Dの上澄みと略等しく、いずれの希釈率でも、上澄みの測定値と目視での確認結果とが一致しなかった。一方、10倍の希釈では、評価溶液B1,B2の上澄みの測定値が評価溶液A1,A2,C,Dの上澄みより高い値であり、上澄みの測定値と目視での確認結果とがほぼ一致した。
【0046】
また、粒度分布測定機(Sysmex株式会社製、型式番号:FPIA3000S)を用いて、砥粒A1,A2,B1,B2,C,Dの粒度分布を測定し、3μm以下の粒子の全体に対する比率を小粒子率として算出した。なお、粒度分布の測定には、濃度が高いと凝集砥粒が多くなるため、実験1にて使用した評価溶液を、純水にてさらに5倍希釈した混合液を使用した。図6に、10倍に希釈した上澄みの濁度の測定値と、各砥粒の小粒子率との関係を示す。
【0047】
図6に示すように、濁度の測定値では、評価溶液Cが評価溶液A1より大きくなったが、小粒子率では、砥粒A1と砥粒Cとがほぼ一致し、濁度の測定値と、粒度分布測定機の測定結果に基づく小粒子率とは、一致しないことが分かった。一方、図6に示す濁度の測定値は、各評価溶液を目視した評価結果とほぼ一致することが分かった。
以上のことから、砥粒の不純物が多い場合であっても、評価溶液の上澄みを10倍に希釈することで、濁度計を用いて上澄みの濁度を適切に測定でき、その結果から、不純物の量を適切に推定できることが分かった。
【0048】
[振とう工程の検討]
<実験4>
希釈工程の検討では、評価溶液の作製を手作業で行っていたが、砥粒と溶媒とを混合するために比色管を振とうする速度や時間の長さが、濁度の測定値に影響を与える可能性がある。そこで、手作業による比色管を振る速度(回/min)および回数(1回=1往復)と、濁度の測定値との関係を調べた。
B社の砥粒Bを用いて上記実験1と同様の条件で評価溶液を作製した後、図7に示す水準1〜6の条件で比色管を振とうした。手作業による比色管の振とう幅は、100mm〜150mmである。そして、比色管を3時間静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を図7に示す。
【0049】
図7に示すように、振とう速度が速くなり、振とう回数が多くなるほど、濁度の測定値が大きくなった。
以上のことから、評価溶液を作製するときの比色管を振とうする速度や時間がばらつくと、濁度の測定値もばらつくことが分かった。
【0050】
<実験5>
実験4の結果を考慮に入れると、評価溶液の作製に振とう機を用いることで、濁度の測定値のばらつきを抑制できると考えられる。そこで、振とう機を用いた最適な振とう条件を検討した。
実験4と同様に砥粒Bを用いて評価溶液を作製した後、図8に示す各振とう時間で比色管を振とうした。振とう機として、株式会社タイテック社の小型振とう機レシプロシェーカーNR−1(仕様:振とう速度20〜200回/min、振幅10〜40mm)を用いた。比色管の振とう幅、振とう速度は、それぞれ40mm、200回/minである。そして、比色管を3時間静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を図8に示す。
【0051】
図8に示すように、振とう時間が20分未満の場合、振とう時間が長くなるにしたがって濁度の測定値が大きくなるが、20分を超えると、振とう時間が長くなっても濁度の測定値に大きな変化が無くなった。
以上のことから、上記振とう機を用い、振とう幅、振とう速度、振とう時間をそれぞれ40mm、200回/min、20分以上とした条件で、比色管を振とうすることで、濁度の測定値のばらつきを抑制できることが分かった。
【0052】
<実験6>
実験5の結果から、振とう機を用いることで濁度の測定値のばらつきを抑制できることが分かったが、シリコンウェーハの製造現場での運用上、比色管の振とう後の静置時間を3時間程度にしても、濁度の測定値に与える影響が少ないことが好ましい。
そこで、比色管の振とう後の静置時間が、濁度の測定値に与える影響を調べた。
実験4と同様に砥粒Bを用いて評価溶液を作製した後、実験5で用いた振とう機で比色管を振とうした。比色管の振とう幅、振とう速度、振とう時間は、それぞれ40mm、200回/min、20分である。そして、比色管を図9に示す各静置時間だけ静置することで研磨砥粒を沈降させてから、上澄みを純水で10倍に希釈し、この希釈した上澄みの濁度を上記濁度計で測定した。その結果を図9に示す。
【0053】
図9に示すように、静置時間が3時間未満の場合、静置時間が長くなるにしたがって濁度の測定値が小さくなるが、3時間以上4時間以下の場合、濁度の測定値に大きな変化が無くなった。なお、静置時間が4時間を超える場合、静置時間が濁度の測定値に与える影響については不明である。
以上のことから、上記振とう機を用い、振とう幅、振とう速度、振とう時間をそれぞれ40mm、200回/min、20分とした条件で比色管を振とうし、その後の静置時間が3時間以上4時間以下であれば、濁度の測定値に与える影響が少ないことが分かった。
【0054】
[砥粒の評価方法の有効性]
次に、本発明の砥粒の評価方法の有効性について説明する。
<実験7>
{比較例}
評価対象の砥粒として、E社の砥粒Eと、F社の砥粒Fとを準備した。各砥粒の粒度は、#2000である。
そして、上記実験3で用いた粒度分布測定機を用いて、砥粒E,Fの粒度分布を測定し、3μm以下の粒子の比率を表す小粒子率を算出した。なお、粒度分布の測定には、実験3と同様の理由から、30gの砥粒と70mlの純水との混合液を、純水にてさらに5倍希釈した混合液を使用した。粒度分布の測定結果を図10に示し、小粒子率の算出結果を図11に示す。
【0055】
図10および図11に示すように、粒度分布および小粒子率のいずれについても、砥粒Eと砥粒Fとで大きな差が見られなかった。
以上のことから、粒度分布測定機を用いた測定では、砥粒E,Fにおける微小粒子(研磨砥粒+不純物(FCなど))の量に大きな差がないという結果が得られた。
【0056】
{実施例}
上記比較例と同様の砥粒E,Fを準備した。そして、砥粒E,Fに対し、図2に示すような本発明の砥粒の評価方法に基づくステップS1〜S6の処理を行った。
ステップS1の評価溶液作成工程では、作業者の手作業によって、30gの砥粒Eと、70mlの純水とを混合し、評価溶液Eを作製した。同様に、30gの砥粒Fと70mlの純水とを混合した評価溶液Fを作製した。
ステップS2の振とう工程では、上記実験5で用いた振とう機を用い、振とう幅を40mm、振とう速度を200回/min、振とう時間を20minとした条件で、評価溶液E,Fがそれぞれ入った比色管を振とうした。
ステップS3の沈降工程では、振とう工程が終了した比色管を3時間静置した。
ステップS4の希釈工程では、沈降工程が終了した評価溶液E,Fの上澄みを純水で10倍に希釈した。
ステップS5の測定工程では、上記実験1で用いた濁度計を用い、希釈工程が終了した評価溶液E,Fの上澄みの濁度を測定し、ステップS6の推定工程では、濁度測定結果に基づいて、砥粒E,Fに含まれる不純物の量を推定した。
濁度測定結果を図12に示す。
【0057】
図12に示すように、砥粒Eの濁度が砥粒Fの濁度の約5倍であり、両者の間で大きな差が見られた。
以上のことから、本発明の砥粒の評価方法に基づく処理では、濁度の測定結果に基づいて、砥粒Eに含まれる不純物の量が砥粒Fの約5倍であるという推測結果が得られた。そして、砥粒Eを用いて製造したシリコンウェーハの品質は、砥粒Fを用いて製造したシリコンウェーハより劣ると推測することができる。
【0058】
<実験8>
次に、砥粒E,Fを用いてシリコンウェーハを製造した。
具体的に、評価した砥粒Eと同じロットの砥粒Eと、水溶性のオイルを用いてスラリーを作製し、このスラリーを用いてインゴットを切断することで、直径が300mmのシリコンウェーハを製造した。また、同様にして、砥粒Fを用いたスラリーによって、インゴットを切断し、シリコンウェーハを製造した。
製造したシリコンウェーハの切断面の品質を、厚みばらつきを用いて評価した。その結果を図13に示す。
なお、厚みばらつきとは、シリコンウェーハの切断方向(図1のZ方向)の厚みクロスセクション(厚み断面)を10mmずつの区間に区切り、各区間毎の厚みのPV値(区間最大厚み−区間最小厚み)を算出し、PV値が厚み閾値を超えた区関数である。ここで、厚み閾値を1μmとし、区関数を29個/枚(直径が300mmのシリコンウェーハを用い、エッジ5mmは評価対象から除外した)とした。なお、厚みの測定装置として、コベルコ科研社製の平坦度測定器SBW−330を用いた。
【0059】
図13に示すように、砥粒Eを用いて製造したシリコンウェーハの品質が、砥粒Fを用いて製造したシリコンウェーハの品質より劣ることが確認できた。これは、図12に示す測定結果から推定した結果と一致する。
したがって、本発明の砥粒の評価方法に基づく処理を行うことで、評価した砥粒と同じロットの砥粒を用いてインゴットを切断する前に、高品質のシリコンウェーハを得ることができるか否かを適切に判断できることが分かった。
【符号の説明】
【0060】
1…ワイヤソー
S1…評価溶液作製工程
S2…振とう工程
S3…沈降工程
S4…希釈工程
S5…測定工程
S6…推定工程
S7…合否判定工程
S8…スラリー作製工程
S9…切断工程
T…インゴット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
図13