(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
本発明の近赤外線カットフィルタ(以下、NIRフィルタともいう)は、
CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスからなる近赤外線吸収ガラス基材と、前記近赤外線吸収ガラス基材の少なくとも一方の主面上に配設される、近赤外線吸収色素(A)および透明樹脂(B)を含有する近赤外線吸収層を有するとともに、
下記光学特性を有するNIRフィルタである。
(i−1)400〜550nmの波長域における透過率の平均値が80%以上
(i−2)650〜720nmの波長域における透過率の平均値が15%以下
【0031】
なお、NIRフィルタにおける光学特性は、400〜550nmの波長域における透過率の平均値は82%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。また、650〜720nmの波長域における透過率の平均値については13%以下が好ましく、10%以下がさらに好ましい。
また、本発明のNIRフィルタが、上記近赤外線吸収ガラス基材と上記近赤外線吸収層のみから構成される場合には、特に該NIRフィルタの400〜550nmの波長域における透過率の平均値は83%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。本発明のNIRフィルタが、上記近赤外線吸収ガラス基材と、上記近赤外線吸収層と、さらに他の構成要素とから構成される場合には、上記近赤外線吸収ガラス基材に上記近赤外線吸収層が積層された積層体において、400〜550nmの波長域における透過率の平均値は83%以上が好ましく、85%以上がより好ましい
【0032】
本発明のNIRフィルタは、さらに、上記近赤外線吸収層の表面および上記近赤外線吸収ガラス基材の表面の少なくとも一方に、屈折率が1.45以上1.55未満の誘電体膜と屈折率が2.2以上2.5以下の誘電体膜とを交互に積層した誘電体多層膜を有することが好ましい。
【0033】
ここで、本明細書において近赤外線吸収層の表面とは、近赤外線吸収層の主面において別の層や基材等と接していない主面、すなわち大気と接する主面をいう。近赤外線吸収ガラス基材の表面も同じ意味である。
【0034】
本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収ガラスと近赤外線吸収色素を効果的に用いた近赤外線遮蔽特性に優れるNIRフィルタである。また、誘電体多層膜を備える場合であっても、誘電体多層膜が本来的に有する光の入射角により吸収波長がシフトする角度依存性の影響を受けることなく、誘電体多層膜の吸光特性を十分に活用でき、結果として近赤外線遮蔽特性に特に優れるNIRフィルタとできる。
【0035】
以下、図面を用いて本発明のNIRフィルタの実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るNIRフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0036】
図1に示すように、本実施形態のNIRフィルタ10Aは、近赤外線吸収ガラス基材1とその一方の主面上に積層された近赤外線吸収層2とを備える。
【0037】
[近赤外線吸収ガラス基材]
近赤外線吸収ガラス基材1(以下、近赤外線吸収ガラス基材を単に「ガラス基材」ともいう)は、CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラス(以下、これらをまとめて「CuO含有ガラス」ともいう。)で構成される。ガラス基材1は、CuO含有ガラスで構成されることで、可視光に対し高い透過率を有するとともに近赤外線に対しても高い遮蔽性を有する。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO
2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。ガラス基材1に使用されるCuO含有ガラスとしては、例えば、以下の組成のものが挙げられる。
【0038】
(1)質量%表示で、P
2O
5 46〜70%、AlF
3 0.2〜20%、LiF+NaF+KF0〜25%、MgF
2+CaF
2+SrF
2+BaF
2+PbF
2 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0039】
(2)質量%表示で、P
2O
5 25〜60%、Al
2OF
3 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、Li
2O 0〜13%、Na
2O 0〜10%、K
2O 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’
2O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO
2−イオンがF
−イオンで置換されている)からなるガラス。
【0040】
(3)質量%表示で、P
2O
5 5〜45%、AlF
3 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F
2(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”F
m(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0041】
(4)カチオン%表示で、P
5+ 11〜43%、Al
3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu
2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF
− 17〜80%を含有するガラス。
【0042】
(5)カチオン%表示で、P
5+ 23〜41%、Al
3+ 4〜16%、Li
+ 11〜40%、Na
+ 3〜13%、R
2+(Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Zn
2+の合量) 12〜53%、およびCu
2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF
− 25〜48%、およびO
2− 52〜75%を含むガラス。
【0043】
(6)質量%表示で、P
2O
5 70〜85%、Al
2O
3 8〜17%、B
2O
3 1〜10%、Li
2O 0〜3%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜5%、ただし、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.1〜5%、SiO
2 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0044】
市販品を例示すると、例えば、(1)のガラスとしては、NF50−E、NF50−EX(旭硝子社製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA社製、商品名)等が挙げられる。
【0045】
また、上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物として、例えば、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3、CeO
2、Sb
2O
3、V
2O
5等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。該金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3およびCeO
2からなる群から選択される少なくとも1種を、Fe
2O
3 0.6〜5質量部、MoO
3 0.5〜5質量部、WO
3 1〜6質量部、CeO
2 2.5〜6質量部、またはFe
2O
3とSb
2O
3の2種をFe
2O
3 0.6〜5質量部+Sb
2O
3 0.1〜5質量部、もしくはV
2O
5とCeO
2の2種をV
2O
5 0.01〜0.5質量部+CeO
2 1〜6質量部とすることが好ましい。
【0046】
ガラス基材1の近赤外線吸収性能は、以下に説明する近赤外線吸収層2と積層して得られるNIRフィルタ10Aとして、上記(i−1)および(i−2)の光学特性を有するものであればよい。ガラス基材1の厚さは、装置の小型化、薄型化、および取り扱い時の破損を抑制する点から、0.03〜5mmの範囲が好ましく、軽量化および強度の点から、0.05〜1mmの範囲がより好ましい。
【0047】
また、ガラス基材1の光学特性は、該好ましい厚さ0.03〜5mmにおいて、400〜550nmの波長域における透過率が80%以上であり、750〜1000nmの波長域における透過率が40%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明において透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定した値である。本明細書において、特定の波長領域で透過率が70%以上とは、その波長領域の全波長において透過率が70%以上であることをいい、透過率が10%以下とは、その波長領域の全波長において透過率が10%以下であることをいい、他の透過率においても同様である。なお、特に断りのない限り光の透過率とは、検体の主面に直交する方向から入射した光に対してその光が検体内部を直進して反対側に透過した割合をいう。また、光の透過率の測定において検体の主面に直交する方向以外の方向から光を入射させて透過率を測定する場合、主面に直交する線に対して光が入射する方向を示す直線のなす角度を入射角という。
【0049】
NIRフィルタ10Aの使用態様として、ガラス基材1側が例えば撮像装置の固体撮像素子に直接貼着して使用されることがある。この場合、ガラス基板1の線膨張係数と被貼着部の線膨張係数との差が30×10
−7/K以下となるように調整することが好ましい。該線膨張係数の差が小さいと、貼着後のNIRフィルタの剥がれ等を抑制できる。
【0050】
NIRフィルタ10Aは、例えば、固体撮像装置において固体撮像素子を保護するために気密封着されるカバーとしてこれを用いれば、固体撮像装置の小型化、薄型化に寄与できる。ここで、カバー中に不純物としてα線放出性元素(放射性同位元素)が含まれていると、α線を放出して固体撮像素子に一過性の誤動作(ソフトエラー)を引き起こす。したがって、このような用途においてはガラス基材1を構成するCuO含有ガラスは、α線放出性元素の含有量ができるだけ少ないことが好ましい。α線放出性元素のなかでも、U、Thの含有量を、20ppb以下とすることが好ましく、5ppb以下とすることがより好ましい。
【0051】
ガラス基材1は、その主面上に以下の近赤外線吸収層2を積層させるにあたって、該層が積層される面にシランカップリング剤による表面処理を施してもよい。シランカップリング剤による表面処理が施されたガラス基材1を用いることにより、近赤外線吸収層2との密着性を高めることができる。シランカップリング剤としては、例えば、以下の近赤外線吸収層2で用いるのと同じものを使用できる。
【0052】
[近赤外線吸収層]
近赤外線吸収層2は、近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)に近赤外線吸収色素(A)が均一に分散してなる層である。
【0053】
(近赤外線吸収色素(A))
近赤外線吸収色素(A)(以下、「色素(A)」という。)は、可視波長領域(450〜600nm)の光を透過し、近赤外波長領域(700〜1100nm)の光を吸収する能力を有する近赤外線吸収色素であれば特に制限されない。なお、本発明における色素は顔料、すなわち分子が凝集した状態であってもよい。以下、近赤外線吸収色素を必要に応じて「NIR吸収色素」という。
【0054】
色素(A)は、該色素(A)が透明樹脂(B)中に分散して得られる樹脂膜を使用して測定される400〜850nmの波長域の吸収スペクトルにおいて、650〜750nmの波長域内に吸収極大波長を発現するものが好ましい。該吸収特性を有する近赤外線吸収色素を色素(A1)という。該吸収スペクトルにおける吸収極大波長を、色素(A1)のλmaxという。なお、色素(A1)の吸収スペクトルは、波長λmaxに吸収の頂点を有する吸収ピーク(以下、「λmaxの吸収ピーク」という)を有する。色素(A1)の吸収スペクトルは、650〜750nmの波長域内にλmaxを有することに加えて、可視光域の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークの可視光側の傾きが急峻であることが好ましい。さらに、λmaxの吸収ピークは長波長側では傾きは緩やかであることが好ましい。
【0055】
色素(A1)としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
【0056】
これらの中ではスクアリリウム系化合物、シアニン系化合物およびフタロシアニン系化合物がより好ましく、スクアリリウム系化合物が特に好ましい。スクアリリウム系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光域の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークが可視光側で急峻な傾きを有するとともに、保存安定性および光に対する安定性が高いため好ましい。シアニン系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光域の吸収が少なく、λmax近傍の波長域において長波長側で光の吸収率が高いため好ましい。また、シアニン系化合物は古くからCD−R等の記録色素として用いられてきた色素であり低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できることが知られている。フタロシアニン系化合物からなる色素(A1)は、耐熱性や耐候性に優れるため好ましい。
【0057】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)として、具体的には、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、式(F1)で示される化合物を化合物(F1)ともいう。他の化合物についても同様である。
【0058】
化合物(F1)は、スクアリリウム骨格の左右にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環の4位に窒素原子が結合するとともに該窒素原子を含む飽和複素環が形成された構造を有するスクアリリウム系化合物であり、上記色素(A1)としての吸光特性を有する化合物である。化合物(F1)においては、近赤外線吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ということもある。)や透明樹脂(B)への溶解性を高める等のその他の要求特性に応じて、以下の範囲でベンゼン環の置換基を適宜調整できる。
【0060】
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
R
4およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR
7R
8(R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R
9(R
9は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
【0061】
R
1とR
2、R
2とR
5、およびR
1とR
3は、のうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成する。
【0062】
複素環Aが形成される場合のR
1とR
2は、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0063】
複素環Bが形成される場合のR
2とR
5、および複素環Cが形成される場合のR
1とR
3は、これらが結合したそれぞれ2価の基−X
1−Y
1−および−X
2−Y
2−(窒素に結合する側がX
1およびX
2)として、X
1およびX
2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y
1およびY
2がそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X
1およびX
2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y
1およびY
2はそれぞれ単結合であってもよい。
【0065】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR
28R
29(R
28およびR
29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R
21〜R
26はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R
27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
【0066】
R
7、R
8、R
9、R
4、R
6、R
21〜R
27、複素環を形成していない場合のR
1〜R
3、およびR
5は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R
21とR
26、R
21とR
27は直接結合してもよい。
【0067】
複素環を形成していない場合の、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
以下、複素環Aは単に環Aということもある。複素環B、複素環Cについても同様である。
【0068】
化合物(F1)において、R
4およびR
6は、それぞれ独立して、上記の原子または基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。R
4およびR
6は、いずれか一方が水素原子であって、他方が−NR
7R
8である組合せが好ましい。
【0069】
化合物(F1)が、環A〜環Cのうち、環Aのみ、環Bと環Cのみ、環A〜環Cをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
4とR
6のいずれに導入されてもよい。化合物(F1)が、環Bのみ、環Aと環Bのみをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
4に導入されるのが好ましい。同様に、環Cのみ、環Aと環Cのみをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
6に導入されるのが好ましい。
【0070】
−NR
7R
8としては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、−NH−C(=O)−R
9が好ましい。R
9としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0071】
R
9としては、これらのうちでも、フッ素原子で置換されてもよい直鎖状、分岐鎖状、環状の炭素数1〜17のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基、および炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18の、末端に炭素数1〜6のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基を有するアルアリール基から選ばれる基が好ましい。
【0072】
化合物(F1)において、R
1とR
2、R
2とR
5、およびR
1とR
3が、それぞれ互いに連結して形成される員数5または6の環A、環B、および環Cは、少なくともこれらのいずれか1個が形成されていればよく、2個または3個が形成されていてもよい。
【0073】
環を形成していない場合の、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。置換基としては、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、および炭素数1〜3のアシルオキシ基が挙げられる。環を形成していない場合の、R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。これらのなかでも、R
1、R
2、R
3、R
5としては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基、2−プロピル基が特に好ましい。
【0074】
また、化合物(F1)において、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環が有する基R
1〜R
6は、左右で異なってもよいが、左右で同一が好ましい。
なお、化合物(F1)は、上記一般式(F1)で示される構造の共鳴構造を有する式(F1−1)で示される化合物(F1−1)を含む。
【0075】
【化6】
ただし、式(F1−1)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じである。
【0076】
化合物(F1)として、より具体的には、環Bのみを環構造として有する下記式(F11)で示される化合物、環Aのみを環構造として有する下記式(F12)で示される化合物、環Bおよび環Cの2個を環構造として有する下記式(F13)で示される化合物が挙げられる。なお、下記式(F11)で示される化合物は、化合物(F1)において環Cのみを環構造として有しR
6が−NR
7R
8である化合物と同じ化合物である。また、下記式(F11)で示される化合物および下記式(F13)で示される化合物は、米国特許第5,543,086号明細書に記載された化合物である。
【0077】
【化7】
式(F11)〜(F13)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0078】
化合物(F11)において、X
1としては、上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。X
1として、具体的には、−(CH
2)
2−、−CH
2−C(CH
3)
2−、−CH(CH
3)−C(CH
3)
2−、−C(CH
3)
2−C(CH
3)
2−等が挙げられる。化合物(F11)における−NR
7R
8としては、−NH−C(=O)−CH
3、−NH−C(=O)−C
6H
13、−NH−C(=O)−C
6H
5、−NH−C(=O)−CH(C
2H
5)−C
4H
9、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−C
2H
5、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−C
3H
7、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−(CH
2)
3−O−C
6H
3(CH
3)
2等が好ましい。
【0079】
化合物(F11)として、例えば、下記式(F11−1)、式(F11−2)、式(F11−3)、式(F11−4)、式(F11−5)、式(F11−6)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。これらの中でもホスト溶媒や透明樹脂(B)に対する溶解性が高いことから、化合物(F11−2)、化合物(F11−3)、化合物(F11−4)、化合物(F11−5)、化合物(F11−6)がより好ましい。
【0082】
化合物(F12)において、Qは、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基に置換されてもよい炭素数4または5のアルキレン基、炭素数3または4のアルキレンオキシ基である。アルキレンオキシ基の場合の酸素の位置はNの隣以外が好ましい。なお、Qとしては、炭素数1〜3のアルキル基、特にはメチル基に置換されてもよいブチレン基が好ましい。
【0083】
化合物(F12)において、−NR
7R
8は、−NH−C(=O)−(CH
2)
m−CH
3(mは、0〜19)、−NH−C(=O)−Ph−R
10(−Ph−はフェニレン基を、R
10は、水素原子、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のアルコキシ基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
【0084】
ここで、化合物(F12)は、そのλmaxが上記波長域のなかでも比較的長波長側にあることから、化合物(F12)を用いれば可視波長帯の透過領域を広げることが可能となる。化合物(F12)として、例えば、下記式(F12−1)、式(F12−2)、式(F12−3)で示される化合物等が挙げられる。
【0086】
化合物(F13)において、X
1およびX
2としては、独立して上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。X
1およびX
2として、具体的には、−(CH
2)
2−、−CH
2−C(CH
3)
2−、−CH(CH
3)−C(CH
3)
2−、−C(CH
3)
2−C(CH
3)
2−等が挙げられる。Y
1およびY
2としては、独立して−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−CH(C
6H
5)−、−CH((CH
2)
mCH
3)−(mは0〜5)等が挙げられる。化合物(F13)において、−NR
7R
8は、−NH−C(=O)−C
mH
2m+1(mは1〜20であり、C
mH
2m+1は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。)、−NH−C(=O)−Ph−R
10(−Ph−はフェニレン基を、R
10は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
化合物(F13)として、例えば、下記式(F13−1)、式(F13−2)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。
【0088】
また、色素(A1)として、下記式(F6)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。式(F6)は、式(F1)において環A、環B、環Cのいずれも形成されていない化合物(ただし、R
1〜R
6は以下のとおりである。)を示す。
【0090】
式(F6)中の記号は以下のとおりである。
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。R
4およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR
7R
8(R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R
9(R
9は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
化合物(F6)として、例えば、式(F6−1)、式(F6−2)で示される化合物等が挙げられる。
【0092】
さらに、色素(A1)として、下記式(F7)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。
【0094】
上記化合物(F11)、化合物(F12)、化合物(F13)等の化合物(F1)や、化合物(F6)、化合物(F7)は、従来公知の方法で製造可能である。
化合物(F11−1)等の化合物(F11)は、例えば、米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。
また、化合物(F12)は、例えば、J.Org.Chem.2005,70(13),5164−5173に記載の方法で製造できる。
【0095】
これらのうちでも、化合物(F12−1)、化合物(F12−2)等は、例えば以下の反応式(F3)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F3)によれば、1−メチル−2−ヨード−4−アミノベンゼンのアミノ基に所望の置換基R
9を有するカルボン酸塩化物を反応させてアミドを形成する。次いで、ピロリジンを反応させ、さらに3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(以下、スクアリン酸という。)と反応させることで、化合物(F12−1)、化合物(F12−2)等が得られる。
【0097】
反応式(F3)中R
9は、−Phまたは−(CH
2)
5−CH
3を示す。−Phはフェニル基を示す。Etはエチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0098】
また、化合物(F13−1)、化合物(F13−2)等は、例えば以下の反応式(F4)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F4)では、まず、8−ヒドロキシジュロリジンにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf
2O)を反応させ、8−トリフルオロメタンスルホン酸ジュロリジンとし、次いで、これにベンジルアミン(BnNH
2)を反応させ8−ベンジルアミノジュロリジンを得、さらにこれを還元して8−アミノジュロリジンを製造する。次いで、8−アミノジュロリジンのアミノ基に所望の置換基R
9(化合物(F13−1)の場合−(CH
2)
6−CH
3、化合物(F13−2)の場合−CH(CH(CH
3)−CH
2−C(CH
3)
3)−(CH
2)
2−CH(CH
3)−CH
2−C(CH
3)
3)を有するカルボン酸塩化物を反応させてジュロリジンの8位に−NH−C(=O)R
9を有する化合物を得る。次いで、この化合物の2モルをスクアリン酸1モルと反応させることで、化合物(F13−1)、化合物(F13−2)等が得られる。
【0100】
反応式(F4)中、Meはメチル基、TEAはトリエチルアミン、Acはアセチル基、BINAPは(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル)、NaOtBuはナトリウムt−ブトキシドをそれぞれ示す。
【0101】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、S2098、S2084(商品名、FEWケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0102】
シアニン系化合物である色素(A1)として、具体的には、下記式(F5)で示されるシアニン系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0104】
ただし、式(F5)中の記号は以下のとおりである。
R
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基もしくはアルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
R
12およびR
13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
【0105】
Zは、PF
6、ClO
4、R
f−SO
2、(R
f−SO
2)
2−N(R
fは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基を示す。)、またはBF
4を示す。
R
14、R
15、R
16およびR
17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nは1〜6の整数を示す。
【0106】
なお、化合物(F5)におけるR
11としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、R
12およびR
13はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。R
14、R
15、R
16およびR
17は、それぞれ独立して、水素原子が好ましく、nの数は1〜4が好ましい。n個の繰り返し単位を挟んだ左右の構造は異なってもよいが、同一の構造が好ましい。
【0107】
化合物(F5)としてより具体的には、下記式(F51)で示される化合物、下記式(F52)で示される化合物等が例示される。Z
−が示すアニオンは上記(F5)におけるZ
−と同様である。
【0110】
シアニン系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、ADS680HO(商品名、American dye社製)、S0830(商品名、FEWケミカルズ社製)、S2137(商品名、FEWケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0111】
また、色素(A1)として使用可能なフタロシアニン系化合物としては、FB22(商品名、山田化学工業社製)、TXEX720(商品名、日本触媒社製)、PC142c(商品名、山田化学工業社製)等の市販品が挙げられる。
【0112】
上に例示した色素(A1)として用いられる各化合物のλmaxを測定時に使用した透明樹脂(B)の種類と共に表1に示す。
【0114】
なお、上記において透明樹脂(B)として用いた、B−OKP2、バイロン103は、ポリエステル樹脂、SP3810はポリカーボネート樹脂、EA−F5003はアクリル樹脂であり、詳細は後述のとおりである。
【0115】
本実施形態においては、色素(A1)として、上記色素(A1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
色素(A)は、好ましくは色素(A1)の1種または2種以上を含有する。なお、色素(A)は、色素(A1)以外に、必要に応じてその他のNIR吸収色素を含有してもよい。色素(A)として複数のNIR吸収色素を用いる場合、これらを透明樹脂(B)に分散して作製した樹脂膜に対して測定される400〜850nmの波長域の吸収スペクトルにおいて、650〜750nmの波長域内に吸収極大波長を発現するようにNIR吸収色素を組合せて用いることが好ましい。さらには、該吸収スペクトルにおいて、可視光域の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークの可視光側の傾きが急峻であり、長波長側では傾きは緩やかとなるように、NIR吸収色素を組合せて用いることが好ましい。
【0116】
(透明樹脂(B))
透明樹脂(B)としては、屈折率が、1.45以上の透明樹脂が好ましい。屈折率は1.5以上がより好ましく、1.6以上が特に好ましい。透明樹脂(B)の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が好ましい。
本明細書において屈折率とは、20℃において波長589nmにおける屈折率をいい、特に断りのない限り、屈折率とは該屈折率をいう。
【0117】
透明樹脂(B)として、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂(B)としては、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、屈折率について1.45以上の透明樹脂(B)を用いる場合については、全体として屈折率が1.45以上であれば、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0118】
上記のなかでも、色素(A)の透明樹脂(B)に対する溶解性の観点から、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
【0119】
透明樹脂(B)の屈折率は、例えば、ポリマーの主鎖や側鎖に特定の構造を有するように、原料成分の分子構造を調整することで、上記範囲に調整できる。屈折率を上記範囲に調整するためにポリマー内に有する構造としては、例えば、下記式(B1)で示されるフルオレン骨格が挙げられる。なお、フルオレン骨格のうちでも、より高い屈折率および耐熱性が得られる点で、下記式(B2)で示される9,9−ビスフェニルフルオレン骨格が好ましい。
【0121】
上記フルオレン骨格や9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂が好ましい。
【0122】
フルオレン骨格を有するアクリル樹脂としては、例えば、少なくとも、9,9−ビスフェニルフルオレンの2個のフェニル基に、末端に(メタ)アクリロイル基を有する置換基を各1個導入した9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体を含む原料成分を重合させて得られるアクリル樹脂が挙げられる。なお、本明細書における「(メタ)アクリロイル…」とは、「メタクリロイル…」と「アクリロイル…」の総称である。
【0123】
また、上記(メタ)アクリロイル基を有する9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体に水酸基を導入した化合物と、ウレタン(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られるアクリル樹脂を用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物の反応生成物として得られる化合物や、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の反応生成物として得られる化合物が挙げられる。
【0124】
フルオレン骨格が導入されたポリエステル樹脂としては、例えば、下記式(B2−1)に示される9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体が芳香族ジオールとして導入されたポリエステル樹脂が挙げられる。この場合、上記芳香族ジオールと反応させるジカルボン酸の種類は特に制限されない。このようなポリエステル樹脂は、屈折率値や可視光領域における透明性の点から透明樹脂(B)として好適に用いられる。
【0126】
(ただし、式(B2−1)中、R
41は炭素数が2〜4のアルキレン基、R
42、R
43、R
44およびR
45は、各々独立に水素原子、炭素数が1〜7の飽和炭化水素基、または炭素数が6〜7のアリール基を表す。)
【0127】
透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよい。アクリル樹脂の市販品としては、オグソールEA−F5003(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.59)を硬化させた樹脂が挙げられる。また、既にポリマーとして購入可能なアクリル樹脂として、例えば、東京化成工業社製のポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、ポリイソブチルメタクリレート(屈折率:1.48)が挙げられる。
【0128】
また、ポリエステル樹脂の市販品としては、大阪ガスケミカル社製のOKPH4HT(屈折率:1.64)、OKPH4(屈折率:1.61)、B−OKP2(屈折率:1.63)、やバイロン103(東洋紡社製、屈折率:1.58)が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の市販品としては、SP3810(帝人化成社製、屈折率:1.64)、LeXanML9103(sabic社製、屈折率1.59)が挙げられる。ポリマーアロイとしてはポリカーボネートとポリエステルのアロイであるパンライトAM−8シリーズ(帝人化成社製)やxylex 7507(sabic社製)が挙げられる。
【0129】
(近赤外線吸収層)
近赤外線吸収層2は、色素(A)と透明樹脂(B)を含有する層である。
【0130】
近赤外線吸収層2は、下記(a1)および(a2)のいずれかの光学特性を有することが好ましく、両方の光学特性を有することがより好ましい。
(a1)450〜550nmの波長域において透過率が80%以上である。
(a2)650〜750nmの波長域において吸収極大波長(λmax)を有する。
【0131】
近赤外線吸収層2が、上記条件(a1)および(a2)を満足すれば、該近赤外線吸収層2とガラス基材1とを積層して得られるNIRフィルタ10Aとして、上記(i−1)および(i−2)の光学特性を容易に得ることができ、好ましい。これにより、NIRフィルタ10Aを例えば、デジタルスチルカメラやデジタルビデオ等のNIRフィルタとして用いた場合に、近赤外線波長領域の光を遮蔽しつつ可視光波長域の光の利用効率を向上でき、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利となる。
【0132】
近赤外線吸収層2において、色素(A)の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.1〜6質量部がより好ましく、0.5〜6質量部が特に好ましい。含有量が上記範囲であれば、近赤外線吸収層を薄くできるため好ましい。
【0133】
近赤外線吸収層2は、色素(A)および透明樹脂(B)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて任意成分を含有してもよい。任意成分として、具体的には、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。また、後述する近赤外線吸収層を形成する際に用いる塗工液に添加する成分、例えば、シランカップリング剤、熱もしくは光重合開始剤、重合触媒に由来する成分等が挙げられる。近赤外線吸収層における、これら任意成分の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、それぞれ15質量部以下が好ましい。
【0134】
近赤外線吸収層2の膜厚は、特に限定されるものではなく、用途、すなわち使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められる。上記膜厚は、0.1〜100μmが好ましい。膜厚が0.1μm未満では、近赤外線吸収能を十分に発現できないおそれがある。また、膜厚が100μm超では膜の平坦性が低下し、吸収率のバラツキが生じるおそれがある。膜厚は、1〜50μmがより好ましい。この範囲にあれば、十分な近赤外線吸収能と膜厚の平坦性を両立できる。
【0135】
上記近赤外線ないし赤外線吸収剤としては、上記色素(A)、好ましくは色素(A1)の光学特性による効果を損なわないものが使用される。このような近赤外線ないし赤外線吸収剤として、無機微粒子が好ましく使用でき、具体的には、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタンなどの微粒子が挙げられる。なかでも、ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視波長領域の光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、赤外波長領域の光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
【0136】
ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子の数平均凝集粒子径は、散乱を抑制し、透明性を維持する点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmがさらに好ましい。ここで、本明細書において、数平均凝集粒子径とは、検体微粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値をいう。
【0137】
近赤外線ないし赤外線吸収剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.3〜10質量部である。これにより、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、近赤外線ないし赤外線吸収剤がその機能を発揮できる。
【0138】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられる。市販品として、Ciba社製、商品名「TINUVIN 479」等が挙げられる。
【0139】
無機系紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の粒子が挙げられる。無機系紫外線吸収剤の数平均凝集粒子径は、透明性の点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmがさらに好ましい。
紫外線吸収剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部である。これにより、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、紫外線吸収剤がその機能を発揮できる。
【0140】
光安定剤としては、ヒンダードアミン類およびニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。光安定剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0141】
シランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−N’−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−2−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3−ウレイドプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
【0142】
用いるシランカップリング剤の種類は、組合せて使用する透明樹脂(B)に応じて適宜選択できる。シランカップリング剤の含有量は、以下に説明する塗工液において、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。
【0143】
光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等が挙げられる。また熱重合開始剤としてアゾビス系、および過酸化物系の重合開始剤が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。光または熱重合開始剤の含有量は、以下に説明する塗工液において、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0144】
近赤外線吸収層2は、例えば、色素(A)および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分を溶媒に分散し、溶解させて調製した塗工液を、ガラス基材1上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより製造できる。近赤外線吸収層2をこのような方法で成膜することで、所望の膜厚で均一に製造できる。近赤外線吸収層2が上記任意成分を含む場合、塗工液が該任意成分を含有する。
【0145】
上記溶媒としては、色素(A)、および透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分を安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。溶媒として、具体的には、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0146】
溶媒の量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、10〜5000質量部が好ましく、30〜2000質量部が特に好ましい。なお、塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0147】
塗工液の調製には、マグネチックスターラー、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の撹拌装置を使用できる。高い透明性を確保するためには、撹拌を十分に行うことが好ましい。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0148】
塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0149】
ガラス基材1上に上記塗工液を塗工した後、乾燥させることで該ガラス基材1上に近赤外線吸収層2が形成される。塗工液が透明樹脂(B)の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化処理を設ける。
【0150】
このように、ガラス基材1上に直接、近赤外線吸収層2を形成することで、近赤外線吸収層2の製造と同時にNIRフィルタ10Aが得られる。NIRフィルタ10Aを製造する方法としては、ガラス基材1上に直接、近赤外線吸収層2を形成する上記方法が、作業性の点、得られるNIRフィルタ10Aの性能の点から好ましい。
【0151】
なお、近赤外線吸収層2は、透明樹脂(B)の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造することも可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させることもできる。また、剥離性の基材上に形成された近赤外線吸収層2を剥離することにより製造することもできる。このようにして単体で得られる近赤外線吸収層2を用いてNIRフィルタ10Aを製造してもよく、この場合には、常法により、例えば接着剤等を用いて、近赤外線吸収層2をガラス基材1上に貼着させることで、NIRフィルタ10Aが製造できる。
【0152】
(誘電多層膜)
本発明のNIRフィルタは、
図1に示すNIRフィルタ10Aのように近赤外線吸収層2とガラス基材1を各1個ずつ有する構成でもよいが、近赤外線吸収層2を2枚のガラス基材1が挟み込む構成や、ガラス基材1の両方の主面に近赤外線吸収層2が形成または貼着された構成でもよい。また、近赤外線吸収層2およびガラス基材1の積層体が、他の構成要素とともにNIRフィルタを構成してもよい。他の構成要素としては、反射防止膜、特定の波長域の光を反射する反射膜、特定の波長域の光の透過と遮蔽を制御する選択波長遮蔽層、α線等の放射線を遮蔽する放射線遮蔽膜等が挙げられる。本発明のNIRフィルタが、これら各種機能膜や機能層を有する場合、これらは誘電体多層膜で構成されることが好ましい。
【0153】
本発明のNIRフィルタは、選択波長遮蔽層として紫外線遮蔽能を有するローパスフィルタと貼り合わせて用いてもよい。また、NIRフィルタの主面の端部に黒い枠状の遮光部材が配設されていてもよい。NIRフィルタにおいて遮光部材が配設される位置は、主面のどちらか一方もしくは両方でもよく、側面でもよい。
【0154】
NIRフィルタ10Aがローパスフィルタと貼り合わされる面は、NIRフィルタ10Aの近赤外吸収層2側の面、もしくはガラス基材1側の面のどちらでもよく、適宜選択できる。近赤外吸収層2側の面がローパスフィルタと接着剤を介して貼り合わされる場合、該近赤外吸収層2上に厚みが50〜500nm程度の誘電体膜を設けることが好ましい。
【0155】
これにより、近赤外線吸収層2が含有する透明樹脂(B)の上記接着剤による溶解を防止できる。該誘電体膜の構成材料は、SiO
2、SiO
xN
y、MgF
2、ZrO
2、Ta
2O
5、TiO
2などの、貼り合せ後に分光特性を損ねない材料から適宜選択できる。NIRフィルタ10Aは、一方または両方の主面に、上記反射防止膜、反射膜、選択波長遮蔽膜、放射線遮蔽膜等を目的に応じて有してもよい。
【0156】
図2は、本発明の実施形態に係るNIRフィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図2に示すNIRフィルタ10Bは、ガラス基材1と、その一方の主面上に形成された近赤外線吸収層2と、さらに、近赤外線吸収層2のガラス基材1側と反対側の面上、すなわち近赤外線吸収層2の表面に形成された第1の誘電体多層膜3および、ガラス基材1の近赤外線吸収層2側と反対側の面上、すなわちガラス基材1の表面に形成された第2の誘電体多層膜4からなる。ガラス基材1および近赤外線吸収層2は上記NIRフィルタ10Aと同様にできる。
【0157】
ここで、NIRフィルタ10Bは、近赤外線吸収層2の表面およびガラス基材1の表面に第1の誘電体多層膜3および第2の誘電体多層膜4をそれぞれ有する構成である。本発明のNIRフィルタにおいては、必要に応じて、近赤外線吸収層の表面とガラス基材の表面のうち、近赤外線吸収層の表面のみに誘電体多層膜を有する構成であってもよく、ガラス基材の表面にのみ誘電体多層膜を有する構成であってもよい。
【0158】
第1の誘電体多層膜3および第2の誘電体多層膜4は、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜を交互に積層することで得られる光学的機能を有する膜である。設計により、光の干渉を利用して特定の波長域の光の透過や遮蔽を制御する機能を発現させた反射防止膜、反射膜、選択波長遮蔽層等として使用できる。なお、低屈折率と高屈折率とは、隣接する層の屈折率に対して高い屈折率と低い屈折率を有することを意味する。
【0159】
高屈折率の誘電体膜を構成する高屈折率材料および低屈折率の誘電体膜を構成する低屈折率材料については、屈折率が異なる2種の材料を準備し、屈折率が高い材料を高屈折率材料、屈折率が低い材料を低屈折率材料とすればよい。
【0160】
具体的には、屈折率が1.45以上1.55未満の材料を低屈折率材料として用い、屈折率が2.2以上2.5以下の材料を高屈折率材料として用いて誘電体多層膜を形成することが好ましい。
【0161】
低屈折率材料として、より具体的には、SiO
2(1.45)、SiO
xN
y(1.46以上1.55未満)、MgF
2(1.38)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、上記の屈折率の範囲の低屈折率材料が好ましく、SiO
2が成膜性における再現性、安定性、経済性などの点で特に好ましい。なお、化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。以下、高屈折率材料についても同様に化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。
【0162】
また、高屈折率材料として、より具体的には、Ta
2O
5(2.22)、TiO
2(2.41)、Nb
2O
5(2.3)、ZrO
2(1.99)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、上記の屈折率の範囲の高屈折率材料が好ましく、成膜性と屈折率等をその再現性、安定性を含め総合的に判断して、TiO
2等が特に好ましく用いられる。
【0163】
第1の誘電体多層膜3および第2の誘電体多層膜4は、求められる光学特性に応じて、その具体的な層数や膜厚、および使用する高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率を、従来の手法を用いて設計できる。さらに、誘電体多層膜は、該設計のとおりに製造できる。
【0164】
誘電体多層膜の層数は、誘電体多層膜の有する光学特性によるが、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜との合計積層数として2〜100が好ましく、2〜80がより好ましい。合計積層数が増えると製作時のタクトが長くなり、誘電体多層膜の反りなどが発生するため、また、誘電体多層膜の膜厚が増加するため上記上限以下が好ましい。なお、求められる光学特性を有する限り層数は少ない方が好ましい。低屈折率誘電体膜と高屈折率誘電体膜の積層順は交互であれば、最初の層が低屈折率誘電体膜であっても高屈折率誘電体膜であってもよい。
【0165】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、NIRフィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、誘電体多層膜が有する光学特性によるが、2〜10μmが好ましい。なお、誘電体多層膜を反射防止層として用いる場合には、その膜厚は0.1〜1μmが好ましい。また、NIRフィルタ10Bのように、近赤外線吸収層2の表面およびガラス基材1の表面に第1の誘電体多層膜3および第2の誘電体多層膜4をそれぞれ配設する場合、誘電体多層膜の応力により反りが生じる場合がある。この反りの発生を抑制するために各々の表面に成膜される誘電体多層膜の膜厚の差は、所望の選択波長遮蔽特性を有するように成膜した上で、可能な限り少ない方が好ましい。
【0166】
誘電体多層膜は、その形成にあたっては、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0167】
NIRフィルタ10Bにおいて、第1の誘電体多層膜3は反射防止機能を有する膜として設計することが好ましい。第1の誘電体多層膜3が反射防止膜である場合、該誘電体多層膜(反射防止膜)は、NIRフィルタ10Bに入射した光の反射を防止することにより透過率を向上させ、効率よく入射光を利用する機能を有するものであり、上記の材料を用いて常法により設計し、それに従い上記の方法により形成できる。
【0168】
第2の誘電体多層膜4としては、可視領域の光を透過し、上記ガラス基材1および近赤外線吸収層2の遮光域以外の波長の光を遮蔽する波長選択特性を有することが好ましい。なお、この場合、第2の誘電体多層膜4の遮光域は、ガラス基材1や近赤外線吸収層2の近赤外線波長領域における遮光域を含んでもよい。
【0169】
このような第2の誘電体多層膜4としては、以下の光学特性を有する誘電体多層膜が好ましい。
(ii−1)420〜650nmの波長域において透過率が90%以上
(ii−2)750〜1100nmの波長域における透過率が10%以下
(ii−3)600nmよりも長波長側の波長域において透過率が50%となる最も短波長側の波長が650nm超730nm以下の波長域内に存在する。
【0170】
条件(ii−1)を満たすことで、可視光領域の光の利用効率を高められる。そのため、(ii−1)の透過率は高いほど好ましく、95%以上がより好ましい。条件(ii−2)を満たすことで、近赤外および赤外領域の光を十分に遮蔽できる。それにより、撮像素子への近赤外光の入射を抑制し、ノイズをなくすことができる。(ii−2)における透過率は、5%以下がより好ましい。さらに、条件(ii−3)を満たすことで、ガラス基材や近赤外線吸収層の近赤外線波長領域における遮光域との間に隙間のない遮光性能を有するNIRフィルタとできる。
【0171】
このような第2の誘電体多層膜4は、さらに、400nm以下の紫外線波長領域の光の透過率を1%以下とすることがより好ましい。410nm以下の光の透過率を1%以下とすることが特に好ましい。
【0172】
ここで、NIRフィルタ10Bにおいては第2の誘電体多層膜4は、ガラス基材1の表面に該膜のみの配設で所定の波長領域の光の遮蔽を達成する構成であるが、必要に応じて、これと同様の所定の波長領域の光を遮蔽する機能を、誘電体多層膜の複数枚を組み合わせて達成する構成としてもよい。このような選択波長を遮蔽する機能を有する誘電体多層膜は、本発明のNIRフィルタの用途に応じて、例えば、NIRフィルタ10Aを用いた場合に、近赤外線吸収層2の表面と、ガラス基材1の表面のいずれか一方のみに配置してもよく、または両方に配置してもよい。配置される誘電体多層膜の数は制限されない。一方のみに1以上の誘電体多層膜を配置してもよく、両方にそれぞれ独立した数の1以上の誘電体多層膜を配置してもよい。本発明のNIRフィルタの各構成要素の積層順は特に制限されない。本発明のNIRフィルタの用途に応じて適宜設定される。
【0173】
さらに、本発明のNIRフィルタには、光の利用効率を高めるために、モスアイ構造のように表面反射を低減する構成を設けてもよい。モスアイ構造は、例えば400nmよりも小さい周期で規則的な突起配列を形成した構造で、厚さ方向に実効的な屈折率が連続的に変化するため、周期より長い波長の光の表面反射率を抑える構造であり、モールド成型等によりNIRフィルタの表面、例えば、
図2に示すNIRフィルタ10Bであれば第1の誘電体多層膜3上に形成できる。
【0174】
また、上記のような選択波長を遮蔽する機能を有する層であれば、誘電体多層膜以外の構成の層であってもよい。例えば、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を含有する特定の波長の光を吸収する層として、従来公知の方法で各吸収剤を透明樹脂に分散させた光吸収層であってもよい。透明樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、光硬化型アクリル樹脂、シルセスキオキサン樹脂等の熱や光により硬化される樹脂等が挙げられる。これら光吸収層における各吸収剤の含有量は各吸収剤の光吸収能に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で適宜調整される。
【0175】
このような光吸収層として、例えば、ITO微粒子を透明樹脂に分散した赤外線吸収層を使用できる。ITO微粒子の含有量は、近赤外線吸収層の場合と同様にできる。これにより、可視波長領域の光に吸収を示さず、透明性を保持できる。
【0176】
光吸収層として、近赤外線ないし赤外線を広い波長領域で吸収させる目的で色素を添加する場合には、一般に、可視域の吸収も伴うことが多く、その点で、本発明によるCuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスからなる近赤外線吸収ガラス基材を用いた場合には、可視光域の吸収を低く抑えたまま近赤外線ないし赤外線を吸収させることができて好ましい。また、同一の吸収層に複数種の色素を混在させた場合において、熱等による劣化がより顕著に起こることがあり、その点でも、本発明によるCuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスからなる近赤外線吸収ガラス基材を用いた方が好ましい。
【0177】
本発明のNIRフィルタは、
図2に示すNIRフィルタ10Bのように、選択波長を遮蔽する機能を有する誘電体多層膜を有する場合であっても、近赤外線吸収層2とガラス基材1を積層した構成を有することで、誘電体多層膜が本来的に有する光の入射する角度により遮蔽波長がシフトする角度依存性の影響をほぼ排除することが可能である。角度依存性の評価は、例えば、NIRフィルタについて入射角0°の(主面に直交する方向から入射した)ときの透過率(T
0)と、入射角30°の透過率(T
30)を測定し、T
0からT
30を差し引いたときに得られる差スペクトルにおける、波長550〜750nmの範囲の面積を指標として行うことができる。
【0178】
この面積が小さいほど誘電体多層膜の有する角度依存性が解消され、近赤外線領域における遮光性が入射角の影響を受けることなく広い波長領域で十分に確保されているといえる。例えば、選択波長を遮蔽する機能を有する誘電体多層膜と近赤外線吸収層とガラス基材をこの順に有する構成のNIRフィルタ(1)と近赤外線吸収層を有しない以外は同じ構成のNIRフィルタ(2)を作製した場合の、NIRフィルタ(1)における上記T
0からT
30を差し引いたときに得られる差スペクトルにおける、波長550〜750nmの範囲の面積と、NIRフィルタ(2)における上記T
0からT
30を差し引いたときに得られる差スペクトルにおける、波長550〜750nmの範囲の面積の比により、NIRフィルタ(1)の角度依存性を評価できる。本発明のNIRフィルタにおいては、該比の値を0.9以下とすることが好ましく、0.8以下がより好ましい。
【0179】
以上、
図1および
図2に示すNIRフィルタ10AおよびNIRフィルタ10Bを例にして本発明の実施の形態を説明したが、本発明のNIRフィルタはこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
【0180】
本発明のNIRフィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ、PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。本発明のNIRフィルタはデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の固体撮像装置において好適に用いられ、NIRフィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。
【0181】
[固体撮像装置]
以下に
図3を参照しながら、本発明のNIRフィルタを撮像レンズと固体撮像素子との間に配置して用いた本発明の固体撮像装置の一例を説明する。
図3は、上記近NIRフィルタ10Bを用いた固体撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この固体撮像装置20は、
図3に示すように、固体撮像素子21と、その前面に以下の順に、NIRフィルタ10Bと、撮像レンズ23を有し、さらにこれらを固定する筐体24とを有する。撮像レンズ23は、筐体24の内側にさらに設けられたレンズユニット22により固定されている。NIRフィルタ10Bは固体撮像素子21側に第1の誘電体多層膜3が、撮像レンズ23側に第2の誘電体多層膜4が位置するように配置されている。固体撮像素子21と、撮像レンズ23とは、光軸Xに沿って配置されている。このようにNIRフィルタを装置に設置する際の方向については、設計に応じて適宜選択される。
【0182】
本発明の固体撮像装置は、近赤外線吸収ガラスと近赤外線吸収色素を効果的に用いた、近赤外線遮蔽特性に優れたNIRフィルタであり、誘電体多層膜を有する場合にもその角度依存性が解消された、本発明のNIRフィルタを用いることで、感度の高い固体撮像装置である。
【実施例】
【0183】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下で説明する実施形態および実施例に何ら限定されるものではない。例1〜11、例14〜24が本発明の実施例であり、例12、13、例25、26が比較例である。例1〜11のNIRフィルタは
図1に示すのと同様の断面図を有するNIRフィルタである。例14〜24のNIRフィルタは
図2に示すのと同様の断面図を有するNIRフィルタである。
【0184】
[1]ガラス基材と近赤外線吸収層とからなるNIRフィルタ
(例1)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−2))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.6質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ1を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ1の透過率(400〜550nmの平均透過率および650〜720nmの平均透過率)の結果を表2に示す。
【0185】
(例2)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−3))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.6質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ2を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ2の透過率の結果を表2に示す。
【0186】
(例3)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F12−1))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して1.0質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ3を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ3の透過率の結果を表2に示す。
【0187】
(例4)
ポリイソブチルメタクリレート樹脂(東京化成社製、屈折率1.48、以下「PIBM」と省略する。)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−3))を、アクリル樹脂100質量部に対して0.6質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ4を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ4の透過率の結果を表2に示す。
【0188】
(例5)
ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、商品名:SP3810、屈折率1.64、以下「SP3810」と省略する。)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−4))を、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して2.0質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚1.1μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ5を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ5の透過率の結果を表2に示す。
【0189】
(例6)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の7質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−5))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して3.0質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.23mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−EX)板上にスピンコート法により塗布し、150℃で60分間加熱乾燥させ、膜厚1μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ6を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ6の透過率の結果を表2に示す。
【0190】
(例7)
NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(S2084(商品名、FEWケミカルズ社製))と、アクリルモノマー(大阪ガスケミカル社製、商品名:オグソールEA−F5003、屈折率1.59)の50質量%テトラヒドフラン溶液とを、アクリルモノマー(得られるアクリル樹脂と同量である)100質量部に対して上記スクアリリウム系色素が2.5質量部、光重合開始剤としてIRGACURE184(商品名、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、BASF社製)を2.0質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させた。その後、塗膜に波長365nmの紫外線を360mJ/cm
2照射して硬化させ、フツリン酸ガラス板上に膜厚8μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ7を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ7の透過率の結果を表2に示す。
【0191】
(例8)
ポリエステル樹脂(東洋紡績社製、商品名:バイロン103、屈折率1.58)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてフタロシアニン系色素(FB22(商品名、山田化学工業社製))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.5質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ8を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ8の透過率の結果を表2に示す。
【0192】
(例9)
NIR吸収色素としてシアニン系色素(ADS680HO(商品名、American dye社製))と、アクリルモノマー(大阪ガスケミカル社製、商品名:オグソールEA−F5003、屈折率1.59)の50質量%テトラヒドフラン溶液とを、アクリルモノマー(得られるアクリル樹脂と同量である)100質量部に対して上記シアニン系色素が2.0質量部、光重合開始剤としてIRGACURE184(商品名、BASF社製)を2.0質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させた。その後、塗膜に波長365nmの紫外線を360mJ/cm
2照射して硬化させ、フツリン酸ガラス板上に膜厚8μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ9を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ9の透過率の結果を表2に示す。
【0193】
(例10)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F13−2))を、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.6質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ10を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ10の透過率の結果を表2に示す。
【0194】
(例11)
ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:B−OKP2、屈折率1.63)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素として化合物(F12−1)と化合物(F11−2)を、ポリエステル樹脂100質量部に対して各々4.5質量部と0.9質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を、基材として厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚2.3μmの近赤外線吸収層が形成されたNIRフィルタ11を得た。日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定されたNIRフィルタ11の透過率の結果を表2に示す。
【0195】
(例12)
比較例として例1〜11(例6を除く)において基材として用いた厚さ0.56mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−E)板の分光透過率を、日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定された結果を表2に示す。なお、このフツリン酸ガラス板の750〜1000nmの波長域における透過率は10%以下であった。
【0196】
(例13)
さらに、別の比較例として例6において基材として用いた厚さ0.23mmのフツリン酸ガラス(旭硝子社製、商品名:NF50−EX)板の分光透過率を、日立製作所社製分光光度計(商品名:U4100)を用いて測定された結果を表2に示す。なお、このフツリン酸ガラス板の750〜1000nmの波長域における透過率は15%以下であった。
【0197】
【表2】
【0198】
[2]誘電体多層膜を有するNIRフィルタ
(例14〜例26)
上記例1〜11で得られたNIRフィルタ1〜11の両側にさらに誘電体多層膜を有するNIRフィルタ、すなわち、
図2に示す第1の誘電体多層膜(反射防止膜)3、近赤外線吸収層2、ガラス基材1、第2の誘電体多層膜4の順に積層された構成の例14〜24のNIRフィルタを、それぞれNIRフィルタ14〜24として作製した。同様にして、例25、例26として、例12、例13のフツリン酸ガラスの両側にさらに誘電体多層膜、すなわち第1の誘電体多層膜(反射防止膜)3および第2の誘電体多層膜4を有するNIRフィルタ25、26を作製した。なお、第1の誘電体多層膜(反射防止膜)3および第2の誘電体多層膜4としては、例14〜例26の全ての例において、以下のとおりに設計し成膜した同一の誘電体多層膜を用いた。
【0199】
(誘電体多層膜の設計)
第2の誘電体多層膜4は、高屈折率誘電体膜であるTiO
2膜と低屈折率誘電体膜であるSiO
2膜を交互に積層する構成において、蒸着法により成膜した。
第2の誘電体多層膜4の積層数、TiO
2膜の膜厚およびSiO
2膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして構成を決定した。
【0200】
光の入射角が0°ときの第2の誘電体多層膜4の透過率特性は、420〜670nmの波長域における透過率が90%以上、730〜1100nmの波長域における透過率が1%以下、400nm以下の全領域に亘り透過率が5%以下とした。また、第2の誘電体多層膜4の600nmよりも長波長側の波長域において透過率が50%となる最も短波長側の波長は680nmである。
【0201】
また、光の入射角が30°のときの第2の誘電体多層膜4の透過率特性は、400〜600nmの波長域における透過率が90%以上、730〜1100nmの波長域における透過率が5%以下、400nm以下の全領域に亘り透過率が20%以下とした。得られた第2の誘電体多層膜4の波長域350〜1100nmの透過スペクトルを
図4に示す。合計層数52層、合計膜厚6.6μmであった。
【0202】
第1の誘電体多層膜(反射防止膜)3も、第2の誘電体多層膜4と同様に高屈折率誘電体膜であるTiO
2膜と低屈折率誘電体膜であるSiO
2膜を交互に積層する構成において、蒸着法により成膜した。第1の誘電体多層膜(反射防止膜)3の設計も誘電体多層膜の積層数、TiO
2膜の膜厚およびSiO
2膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして構成を決定した。合計層数5、合計膜厚0.25μmであった。
【0203】
(NIRフィルタの評価)
得られたNIRフィルタ14〜26について、入射角0°のときの透過率(T
0)と、入射角30°の透過率(T
30)を測定し、T
0からT
30を差し引いたときに得られる差スペクトルにおける、波長550〜750nmの範囲の面積(「T
0−T
30の面積(550〜750nm)」と示す。)を算出した。また、NIRフィルタ14〜18およびNIRフィルタ20〜24については、得られたT
0−T
30の面積(550〜750nm)を、NIRフィルタ25のT
0−T
30の面積(550〜750nm)で除して、NIR吸収層を有しないフィルタに対する面積比を算出した。同様にNIRフィルタ19については、NIRフィルタ26に対するT
0−T
30の面積(550〜750nm)の面積比を算出した。これらの結果をNIRフィルタの構成および平均透過率(透過率(T
0)における、400〜550nmの平均透過率および650〜720nmの平均透過率)とともに表3に示す。
【0204】
なお、例14で得られたNIRフィルタ14と例25で得られたNIRフィルタ25については、上記で測定した透過率(T
0)と透過率(T
30)の透過率スペクトルの波長600〜700nmの範囲をそれぞれ
図5、
図6に示す。
図5および
図6において、透過率(T
0)のスペクトルは実線で、透過率(T
30)のスペクトルは破線でそれぞれ示され、該実線と破線で囲まれた領域の面積がT
0−T
30の面積(550〜750nm)に相当する。
【0205】
【表3】
【0206】
図5および
図6により、例14によるNIRフィルタ14と例25によるNIRフィルタ25の波長630〜700nmの光の吸収曲線の傾斜を比較すると、透過率(T
0)および透過率(T
30)のいずれの場合においてもNIRフィルタ14における波長630〜700nmの光の吸収曲線の傾斜が急峻なことがわかる。また、NIRフィルタ14のT
0−T
30の面積(550〜750nm)は、NIRフィルタ25の同面積より小さく、表3に示すように0.78倍である。これにより、例14によるNIRフィルタ14は、入射角の角度依存性が小さく、良好な近赤外線遮蔽特性を有するNIRフィルタであることがわかる。表3から例15〜例24のNIRフィルタ15〜24についても面積比は全て0.9以下であり、NIRフィルタ14と同様に入射角の角度依存性が小さく良好な近赤外線遮蔽特性を有するNIRフィルタであることがわかる。