(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リアクタンス素子は、前記放射素子の基本モードの共振周波数と2次モードの共振周波数との間の周波数でマルチバンドアンテナを整合させるリアクタンスを有する、請求項1に記載のマルチバンドアンテナ。
前記無給電素子は、前記グランドプレーンから離れる方向に延伸する部分と、前記放射素子と平面視において重複する部分とを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマルチバンドアンテナ。
前記給電素子の共振の基本モードを与える電気長をLe21、前記放射素子の共振の基本モードを与える電気長をLe22、前記放射素子の基本モードの共振周波数における前記給電素子または前記放射素子上での波長をλとして、Le21が、(3/8)・λ以下であり、かつ、Le22が、前記放射素子の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下であり、前記放射素子の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下である請求項1から6のいずれか一項に記載のマルチバンドアンテナ。
前記給電素子が前記放射素子に給電する給電部は、前記放射素子の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分以外に位置する、請求項1から8のいずれか一項に記載のマルチバンドアンテナ。
前記給電素子が前記放射素子に給電する給電部は、前記放射素子の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分から前記放射素子の全長の1/8以上の距離を離した部位に位置する、請求項1から9のいずれか一項に記載のマルチバンドアンテナ。
前記給電素子と前記放射素子とが最短距離で並走する距離は、前記放射素子の長さの3/8以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載のマルチバンドアンテナ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の一実施形態であるマルチバンドアンテナ1の動作を解析するためのコンピュータ上のシミュレーションモデルを示した斜視図である。電磁界シミュレータとして、Microwave Studio(登録商標)(CST社)を使用した。マルチバンドアンテナ1は、給電素子21と、放射素子22と、グランドプレーン42と、無給電素子23とを備えた、高次モードを利用するマルチバンドアンテナである。
【0009】
給電素子21は、給電点44に接続され、放射素子22に対して給電可能な線状導体である。
図1には、樹脂基板43の表面に形成された給電素子21の端部21aがマイクロストリップライン40のストリップ導体41に接続され、マイクロストリップライン40のストリップ導体41を介して給電点44に接続される形態が例示されている。
【0010】
マイクロストリップライン40は、樹脂基板43を有し、樹脂基板43の一方の表面にグランドプレーン42が配置され、樹脂基板43のもう一方の反対側の表面に線状のストリップ導体41が配置されている。樹脂基板43は、例えば、ストリップ導体41に給電点44を介して接続される給電回路(例えば、ICチップ等の集積回路)が実装される基板を想定している。
図1には、XY平面内に延在する方形状の樹脂基板43及びグランドプレーン42が例示されている。
図1の場合、給電素子21は、ストリップ導体41と同じ表面に配置され、給電素子21とストリップ導体41との境界は、グランドプレーン42の縁部42aである。
【0011】
図1には、グランドプレーン42の縁部42aに対して直角且つY軸に平行な方向に延在する直線状導体と、X軸に平行な縁部42aに並走して延在する直線状導体とによって、L字状に形成された給電素子21が例示されている。
図1の場合、給電素子21は、端部21aを起点にY軸方向に延伸してからX軸方向に折り曲げられ、X軸方向への延伸の端部21bまで延伸している。
【0012】
放射素子22は、給電素子21を介して給電されるアンテナとして機能するアンテナ導体である。
図1には、X軸に平行な方向に縁部42aに並走するように端部22aから端部22bまで延在する直線状導体を有する放射素子22が例示されている。給電素子21は、グランドプレーン42から離れる方向に延伸し、放射素子22は、グランドプレーン42の縁部42a又は縁部42bに沿った部位を有するような配置が好ましい。このような配置にすることにより、例えばマルチバンドアンテナ1の指向性を容易に制御することが可能となる。
【0013】
放射素子22は、給電素子21から所定の間隔離れて配置され、給電素子21と電磁界結合する線状導体である。放射素子22は、給電部25で給電素子21を介して電磁界結合によって非接触で給電される。このように給電されることによって、放射素子22は、アンテナの放射導体として機能する。
図1に示すように、放射素子22が2点間を結ぶ線状導体である場合、半波長ダイポールアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子22上に形成される。すなわち、放射素子22は、所定の周波数の半波長で共振するダイポールアンテナとして機能(以下、ダイポールモードという)する。また、図示しないが、放射素子は線状導体で四角形を形成するようなループ状導体であってもよい。放射素子がループ状導体である場合、ループアンテナと同様の共振電流(分布)が放射素子上に形成される。すなわち、放射素子は、所定の周波数の1波長で共振するループアンテナとして機能(以下、ループモードという)する。
【0014】
電磁界結合とは、電磁界の共鳴現象を利用した結合であり、例えば非特許文献(A.Kurs, et al,“Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances,”Science Express, Vol.317, No.5834, pp.83−86, Jul. 2007)に開示されている。電磁界結合は、電磁界共振結合又は電磁界共鳴結合とも称され、同じ周波数で共振する共振器同士を近接させ、一方の共振器を共振させると、共振器間に作られるニアフィールド(非放射界領域)での結合を介して、他方の共振器にエネルギーを伝送する技術である。また、電磁界結合とは、静電容量結合や電磁誘導による結合を除いた高周波における電界及び磁界による結合を意味する。なお、ここでの「静電容量結合や電磁誘導による結合を除いた」とは、これらの結合が全くなくなることを意味するのではなく、影響を及ぼさない程度に小さいことを意味する。給電素子21と放射素子22との間の媒体は、空気でもよいし、ガラスや樹脂材等の誘電体でもよい。なお、給電素子21と放射素子22との間には、グランドプレーンやディスプレイ等の導電性材料を配置しないことが好ましい。
【0015】
給電素子21と放射素子22を電磁界結合させることによって、衝撃に対して強い構造が得られる。すなわち、電磁界結合の利用によって、給電素子21と放射素子22を物理的に接触させることなく、給電素子21を用いて放射素子22に給電できるため、物理的な接触が必要な接触給電方式に比べて、衝撃に対して強い構造が得られる。
【0016】
また、電磁界結合で給電する場合の方が、静電容量結合で給電する場合に比べて、給電素子21と放射素子22の離間距離(結合距離)の変化に対して、動作周波数におけるマルチバンドアンテナ1の動作利得(アンテナ利得)は低下しにくい。ここで、動作利得とは、アンテナの放射効率×リターンロスで算出される量であり、入力電力に対するアンテナの効率として定義される量である。したがって、給電素子21と放射素子22を電磁界結合させることで、給電素子21と放射素子22の配置位置を決める自由度を高めることができ、位置ロバスト性も高めることができる。なお、位置ロバスト性が高いとは、給電素子21及び放射素子22の配置位置等がずれても、マルチバンドアンテナ1の動作利得に与える影響が低いことを意味する。また、給電素子21と放射素子22の配置位置を決める自由度が高いため、マルチバンドアンテナ1の設置に必要なスペースを容易に縮小できる点で有利である。また、電磁界結合の利用によって、容量板などの余計な部品を構成してなくても、給電素子21を用いて放射素子22に給電できるため、静電容量結合で給電する場合に比べて、簡易な構成での給電が可能である。
【0017】
また、給電素子21が放射素子22に給電する部位である給電部25は、
図1の場合、放射素子22の一方の端部22aと他方の端部22bとの間の中央部26以外の部位(中央部26と端部22a又は端部22bとの間の部位)に位置している。このように、給電部25を放射素子22の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、中央部26)以外の放射素子22の部位に位置させることによって、マルチバンドアンテナ1のインピーダンスマッチングを容易に取ることができる。給電部25は、放射素子22と給電素子21とが最近接する放射素子22の導体部分のうち給電素子21の端部21aに最も近い部分で定義される部位である。
【0018】
放射素子22のインピーダンスは、ダイポールモードの場合、放射素子22の中央部26から端部22a又は端部22bの方に離れるにつれて高くなる。電磁界結合における高インピーダンスでの結合の場合、給電素子21と放射素子22間のインピーダンスが多少変化しても一定以上の高インピーダンスで結合していればインピーダンスマッチングに対する影響は小さい。よって、マッチングを容易に取るために、放射素子22の給電部25は、放射素子22の高インピーダンスの部分に位置することが好ましい。
【0019】
例えば、マルチバンドアンテナ1のインピーダンスマッチングを容易に取るために、給電部25は、放射素子22の基本モードの共振周波数における最も低いインピーダンスになる部分(この場合、中央部26)から放射素子22の全長の1/8以上(好ましくは、1/6以上、さらに好ましくは、1/4以上)の距離を離した部位に位置するとよい。
図1の場合、放射素子22の全長は、L7に相当し、給電部25は、中央部26に対して端部22a側に位置している。
【0020】
図2は、マルチバンドアンテナ1の各構成のZ軸方向の位置関係を模式的に示した図である。放射素子22は、例えば
図2に示されるように、樹脂基板43から距離H2離れて樹脂基板43に対向する樹脂基板45に設けられている。放射素子22は、
図2では樹脂基板45の給電素子21に対向する側の表面に配置されているが、樹脂基板43に配置されてもよいし、樹脂基板45の給電素子21に対向する側とは反対側の表面に配置されてもよいし、樹脂基板45の側面に配置されてもよい。
【0021】
なお、図面を見えやすくするため、
図1では樹脂基板45の図示が省略され、
図2ではストリップ導体41の図示が省略されている。
【0022】
無給電素子23は、放射素子22に近接し、
図1に示されるリアクタンス素子24を介してグランドプレーン42に接続される線状導体である。
図1の場合、無給電素子23は、端部23aを起点にY軸方向に延伸してからX軸方向に折り曲げられ、X軸方向への延伸の端部23bまで延伸している。無給電素子23は、
図2では樹脂基板43のグランドプレーン42と同一平面上にあるが、給電素子21と同一平面上にあってもよい。後者の場合、グランドプレーン42とは例えばビアを介して接続される。また、樹脂基板43が多層基板で構成される場合には、内層に構成されてもよい。
【0023】
無給電素子23は、放射素子22と高周波的に結合可能な距離離れて配置されている。無給電素子23と放射素子22との高周波的な結合は、静電容量結合でもよいし、電磁気的な結合でもよいし、電磁界結合でもよい。例えば、放射素子22の基本モードの共振周波数における真空中の波長をλ
0として、無給電素子23と放射素子22との最短距離が、0.2×λ
0以下であることが、安定的な高周波的結合の観点で好ましい。また、無給電素子23は、グランドプレーン42から離れる方向に延伸する部分と、放射素子22と平面視において重複する部分とを有することによって同様の効果が得られる。
【0024】
なお、無給電素子23と放射素子22との最短距離とは、無給電素子23と放射素子22において、最も近接している部位間の直線距離である。また、無給電素子23と放射素子22は、Z軸方向から見たときに、両者が高周波的な結合をしていれば、交差しても交差しなくてもよいし、その交差角度も任意の角度でよい。
【0025】
リアクタンス素子24は、放射素子22の共振モードの共振周波数以外の周波数でマルチバンドアンテナ1を整合させるリアクタンスを有している。例えば、リアクタンス素子24は、放射素子22の互いに最も近い2つの共振モードの共振周波数の間の周波数で、マルチバンドアンテナ1を共振させ、マルチバンドアンテナ1をインピーダンス整合させるリアクタンスを有している。放射素子22の互いに最も近い2つの共振モードの共振周波数の間の周波数とは、例えば、基本モードの共振周波数と2次モードの共振周波数(基本モードの共振周波数の2倍の周波数)との間の周波数である。
【0026】
マルチバンドアンテナ1では、給電素子21、放射素子22、無給電素子23、リアクタンス素子24及びグランドプレーン42を含んで構成されたループRに電流が流れることが考えられる。給電素子21、放射素子22、無給電素子23、リアクタンス素子24及びグランドプレーン42の順番でループRが形成されるように、給電素子21、放射素子22、無給電素子23、リアクタンス素子24及びグランドプレーン42は配置されている。
図1に示したループRは、電流が流れる経路の一例である。リアクタンス素子24の所定のリアクタンスにより、放射素子22の2つの共振モードの周波数の間の周波数でループRを共振させていると考えられる。具体的なリアクタンスは、共振モードの共振周波数によって変わるものであるが、例えば、1GHzから2GHzの間で共振させる場合には、8nH以上100nH以下であることが好ましい。
【0027】
マルチバンドアンテナ1は、このようなリアクタンスを有するリアクタンス素子24を介してグランドプレーン42に接続された無給電素子23を、給電素子21と電磁界結合する放射素子22に近接配置する構成を有している。このような構成を有することにより、放射素子22の元々の各共振モードの共振特性に与える影響を抑えたまま、放射素子22の基本モードと2次モードの間の周波数で共振する新たな共振特性をマルチバンドアンテナ1に付加することができる。
【0028】
リアクタンス素子24は、無給電素子23とグランドプレーン42との間のギャップに装荷された素子である。リアクタンス素子24の個数は一つでも複数でもよい。また、リアクタンス素子24は、インダクタンス素子のみを有する素子でもよいし、インダクタンス素子及びキャパシタンス素子の両方を有する素子でもよい。また、インダクタンス素子及びキャパシタンス素子は、互いに直列に接続されてもよいし、互いに並列に接続されてもよい。リアクタンス素子24に構成されるキャパシタンス素子は、例えば、マルチバンドアンテナ1と、給電素子21に給電点44を介して接続される給電回路とのマッチングの調整に使用可能である。
【0029】
また、リアクタンス素子24として可変リアクタンス素子を使用することにより、共振周波数やインピーダンス整合の調整を電気的に行うことができる。
【0030】
給電素子21の共振の基本モードを与える電気長をLe21、放射素子22の共振の基本モードを与える電気長をLe22、放射素子22の基本モードの共振周波数fにおける給電素子21または放射素子22上での波長をλとして、Le21が、(3/8)・λ以下であり、かつ、Le22が、放射素子22の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下であり、放射素子22の共振の基本モードがループモードである場合、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下であることが好ましい。
【0031】
前記Le21は、縁部42aが放射素子22に沿うようにグランドプレーン42が形成され、給電素子21は、縁部42aとの相互作用により、給電素子21とグランドプレーン上に、共振電流(分布)を形成することができ、放射素子22と共鳴して電磁界結合する。そのため、給電素子21の電気長Le21の下限値は特になく、給電素子21が放射素子22と物理的に電磁界結合できる程度の長さであればよい。また、電磁界結合が実現しているとは整合が取れているということを意味している。また、この場合、給電素子21が放射素子22の共振周波数に合わせて電気長を設計する必要がなく、給電素子21を放射導体として自由に設計することが可能になるため、マルチバンドアンテナ1の多周波化を容易に実現できる。なお、放射素子22に沿うグランドプレーン42の縁部42aは、給電素子21の電気長と合計して設計周波数(共振周波数f)の(1/4)・λ以上の長さであることがよい。
【0032】
なお給電素子21の物理的な長さL21は、整合回路などを含んでいない場合、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ
0として、実装される環境による波長短縮効果の短縮率をk
1としたとき、λ
g1=λ
0・k
1によって決定される。ここでk
1は、給電素子21の環境の実効比誘電率(ε
r1)および実効比透磁率(μ
r1)などの給電素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L21は、(3/8)・λ
g1以下である。なお、短縮率は上記の物性から算出してもよいし、実測により求めても良い。例えば、短縮率を測定したい環境に設置された対象となる素子の共振周波数を測定し、任意の周波数ごとの短縮率が既知である環境において同じ素子の共振周波数を測定し、これらの共振周波数の差から短縮率を算出してもよい。
【0033】
給電素子21の物理的な長さL21は、Le21を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le21と等しい。給電素子21が、整合回路などを含む場合、L21は、ゼロを超え、Le21以下が好ましい。L21はインダクタ等の整合回路を利用することにより短く(サイズを小さく)することが可能である。
【0034】
また、前記Le22は、放射素子の共振の基本モードがダイポールモード(放射素子の両端が開放端であるような線状の導体)である場合、(3/8)・λ以上(5/8)・λ以下が好ましく、(7/16)・λ以上(9/16)・λ以下がより好ましく、(15/32)・λ以上(17/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードを考慮すると、前記Le22は、(3/8)・λ・m以上(5/8)・λ・m以下が好ましく、(7/16)・λ・m以上(9/16)・λ・m以下がより好ましく、(15/32)・λ・m以上(17/32)・λ・m以下が特に好ましい。ただし、mは高次モードのモード数であり、自然数である。mは1〜5の整数が好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。m=1の場合は基本モードである。Le22がこの範囲内であれば、放射素子22が充分に放射導体として機能し、マルチバンドアンテナ1の効率が良く好ましい。
【0035】
また同様に、放射素子の共振の基本モードがループモード(放射素子がループ状の導体)である場合、前記Le22は、(7/8)・λ以上(9/8)・λ以下が好ましく、(15/16)・λ以上(17/16)・λ以下がより好ましく、(31/32)・λ以上(33/32)・λ以下が特に好ましい。また、高次モードについては、前記Le22は、(7/8)・λ・m以上(9/8)・λ・m以下が好ましく、(15/16)・λ・m以上(17/16)・λ・m以下がより好ましく、(31/32)・λ・m以上(33/32)・λ・m以下が特に好ましい。
【0036】
なお放射素子22の物理的な長さL22は、放射素子の基本モードの共振周波数における真空中の電波の波長をλ
0として、実装される環境による短縮効果の短縮率をk
2としたとき、λ
g2=λ
0・k
2によって決定される。ここでk
2は、放射素子22の環境の実効比誘電率(ε
r2)および実効比透磁率(μ
r2)などの放射素子が設けられた誘電体基材等の媒質(環境)の比誘電率、比透磁率、および厚み、共振周波数などから算出される値である。すなわち、L22は、放射素子の共振の基本モードがダイポールモードである場合、(1/2)・λ
g2であることが理想的である。放射素子22の長さL22は、好ましくは、(1/4)・λ
g2以上(5/8)・λ
g2以下であり、さらに好ましくは、(3/8)・λ
g2以上である。ループモードである場合、(7/8)・λ
g2以上(9/8)・λ
g2以下である。放射素子22の物理的な長さL22は、Le22を与える物理的な長さであり、その他の要素を含まない理想的な場合、Le22と等しい。L22は、インダクタ等の整合回路を利用することにより短くしたとしても、ゼロを超え、Le22以下が好ましく、Le22の0.4倍以上1倍以下が特に好ましい。放射素子22の長さL22をこのような長さに調整することによって、放射素子22の動作利得を向上させる点で有利である。
【0037】
例えば、誘電体基材として比誘電率=3.4、tanδ=0.003、基板厚0.8mmであるBTレジン(登録商標)CCL−HL870(M)(三菱ガス化学製)を使用した場合のL21の長さは、設計周波数を3.5GHzとしたときに、20mmであり、L22の長さは、設計周波数を2.2GHzとしたときに、34mmである。
【0038】
また、放射素子22の基本モードの共振周波数fにおける真空中の電波波長をλ
0とし、給電素子21と放射素子22との最短距離D1(>0)は、0.2×λ
0以下(より好ましくは、0.1×λ
0以下、更に好ましくは、0.05×λ
0以下)であると好適である。給電素子21と放射素子22をこのような最短距離D1だけ離して配置することによって、マルチバンドアンテナ1の動作利得を向上させる点で有利である。
【0039】
なお、最短距離D1とは、給電素子21と放射素子22において、最も近接している部位間の直線距離である。また、給電素子21と放射素子22は、Z軸方向から見たときに、両者が電磁界結合していれば、交差しても交差しなくてもよいし、その交差角度も任意の角度でよい。
【0040】
また、給電素子21と放射素子22とが最短距離xで並走する距離は、放射素子22の物理的な長さの3/8以下であることが好ましい。より好ましくは、1/4以下、更に好ましくは、1/8以下である。最短距離xとなる位置は給電素子21と放射素子22との結合が強い部位であり、最短距離xで並走する距離が長いと、放射素子22のインピーダンスが高い部分と低い部分の両方と強く結合することになるため、インピーダンスマッチングが取れない場合がある。よって、放射素子22のインピーダンスの変化が少ない部位のみと強く結合するために最短距離xで並走する距離は短い方がインピーダンスマッチングの点で有利である。
【0041】
また、放射素子22の基本モードの共振周波数fにおける真空中の波長をλ
0とし、放射素子22が設けられる誘電体基材の波長短縮率をkとし、その誘電体基材上での波長を=k・λ
0として、
【0042】
また、マルチバンドアンテナ1は、無線装置(例えば、人が携帯可能な通信端末等の無線通信装置)に搭載される。無線装置の具体例として、情報端末機、携帯電話、スマートフォン、パソコン、ゲーム機、テレビ、音楽や映像のプレーヤーなどの電子機器が挙げられる。
【0043】
例えば
図2において、マルチバンドアンテナ1がディスプレイを有する無線通信装置に搭載される場合、樹脂基板45は、例えば、ディスプレイの画像表示面を全面的に覆うカバーガラスであってもよいし、樹脂基板43が固定される筐体(特には、表蓋、裏蓋、側壁など)であってもよい。カバーガラスは、ディスプレイに表示される画像を透明又はユーザが視認可能な程度に半透明な誘電体基板であって、ディスプレイの上に積層配置された平板状の部材である。
【0044】
放射素子22がカバーガラスの表面に設けられる場合、放射素子22は、銅や銀などの導体ペーストをカバーガラスの表面に塗って焼成して形成されるとよい。このときの導体ペーストとして、カバーガラスに利用される化学強化ガラスの強化が鈍らない程度の温度で焼成できる低温焼成可能な導体ペーストを利用するとよい。また、酸化による導体の劣化を防ぐために、メッキなどを施してもよい。また、配線などを隠す目的でカバーガラスの周縁に黒色隠蔽膜が形成されている場合、放射素子22が黒色隠蔽膜上に形成されてもよい。
【0045】
放射素子22の形状に関して、カバーガラスに放射素子22を形成する場合、その形状は線状導体が好ましい。一方、放射素子22を筐体に形成する場合は、放射素子22を配置する場所は特に限定されず、また形状に関しても、線状導体でもよく、ループ状導体でもよく、パッチ状導体でもよい。パッチ状導体は、形状は特に限定されなく、略正方形、略長方形、略円形、略楕円形等のあらゆる形状の平面構造を用いることができる。
【0046】
また、給電素子21、放射素子22及び無給電素子23、並びにグランドプレーン42のZ軸に平行な高さ方向における各位置は、互いに異なっていてもよい。また、給電素子21、放射素子22及び無給電素子23、並びにグランドプレーン42の高さ方向の各位置が全て又は一部のみが同じでもよい。
【0047】
また、一つの給電素子21で複数の放射素子に給電してもよい。複数の放射素子を利用することにより、マルチバンド化、ワイドバンド化、指向性制御等の実施が容易となる。また、複数のマルチバンドアンテナ1が一つの無線装置に搭載されてもよい。
【0048】
図1,2で示した形態のマルチバンドアンテナ1をシミュレーション解析したときのS11特性(
図3,
図4,
図5)について説明する。S11特性とは、高周波電子部品等の特性の一種であり、本明細書においては周波数に対する反射損失(リターンロス)で表す。電磁界シミュレータとして、Microwave Studio(登録商標)(CST社)を使用した。放射素子22の基本モードの共振周波数を1GHz付近に設定した。
【0049】
このときの
図1,2で示した各寸法は、単位をmmとすると、
L1:140
L2:30
L3:5.95
L4:0.1
L5:3.95(
図3),5.95(
図4),10.95(
図5)
L6:15.95
L7:95
L8:40
L9:120
H1:0.8
H2:1.72
H3:1.0
とした。グランドプレーン42、給電素子21、放射素子22及び無給電素子23において、Z軸方向の厚さ(高さ)は0.018mmとした。また、ストリップ導体41、給電素子21、放射素子22及び無給電素子23のX方向又はY方向の幅は、1.9mmとした。また、樹脂基板43は、比誘電率ε
r=3.4、tanδ=0.0015に設定し、樹脂基板45は、比誘電率ε
r=8.926、tanδ=0.000326に設定した。
【0050】
図3,
図4,
図5は、リアクタンス素子24がインダクタンス素子のみ有するときのマルチバンドアンテナ1のS11特性図である。
図3は、L5を3.95mmに設定したマルチバンドアンテナ1において、インダクタンス素子のインダクタンスを10〜80nH変化させたときのS11特性図である。
図4は、L5を5.95mmに設定したマルチバンドアンテナ1において、インダクタンス素子のインダクタンスを8〜80nH変化させたときのS11特性図である。
図5は、L5を10.95mmに設定したマルチバンドアンテナ1において、インダクタンス素子のインダクタンスを6〜100nH変化させたときのS11特性図である。L5は、無給電素子23と放射素子22とが平面視において重複する部分のX軸方向の長さである。
【0051】
図3〜5に示されるように、基本モードの共振周波数が1GHz付近に現れ、2次モードの共振周波数が2GHz付近に現れている。
【0052】
図3の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを12〜60nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、それらの共振周波数以外の周波数帯で新たな共振周波数(以下、「付加共振周波数」という)が付加されている。また、
図3の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを12〜40nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、元々の基本モードと2次モードとの間に新たな共振周波数(以下、「中間共振周波数」という)が付加されている。
【0053】
図4の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを10〜60nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、付加共振周波数が付加されている。また、
図4の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを10〜40nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、中間共振周波数が付加されている。
【0054】
図5の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを8〜100nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、付加共振周波数が付加されている。また、
図5の場合、インダクタンス素子のインダクタンスを8〜30nHに設定することによって、元々の基本モードと2次モードのそれぞれの共振周波数を変化させずに、中間共振周波数が付加されている。
【0055】
このように、インダクタンス素子のインダクタンスを調整することによって、付加共振周波数(又は、中間共振周波数)を制御でき、そのインダクタンスを大きくするにつれて、付加共振周波数(又は、中間共振周波数)を低周波側に順次移動させることができる。
【0056】
以上、マルチバンドアンテナを実施形態例により説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではない。他の実施形態例の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0057】
例えば、
図1に例示した給電素子21、放射素子22及び無給電素子23は、直線的に延びる線状導体であるが、曲がった導体部位を含む線状導体でもよい。例えば、L字状の導体部位を含むものでもよいし、メアンダ形状の導体部位を含むものでもよい。また、給電素子21、放射素子22及び無給電素子23は、途中で分岐した導体部位を含む線状導体でもよい。
【0058】
また、給電素子21に、スタブを設けてもよいし、整合回路を設けてもよい。これにより、給電素子21が基板に占める面積を減らすことができる。
【0059】
また、給電素子21が接続される伝送線路は、マイクロストリップラインに限られない。例えば、ストリップライン、グランドプレーン付きコプレーナウェーブガイド(導体面とは反対側の表面にグランドプレーンが配置されたコプレーナウェーブガイド)などが挙げられる。給電素子21と給電点44は、これらの異なる複数の種類の伝送線路を介して接続されてもよい。
【0060】
本国際出願は、2012年12月28日に出願した日本国特許出願第2012−289053号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2012−289053号の全内容を本国際出願に援用する。