【文献】
NAKAMOTO Masashi 他5名,Extraction of Rare Earth Elements as Oxides from a Neodymium Magnetic Sludge,Metallurgical and Materials Transactions B,米国,The Minerals, Metals & Materials Society,2012年 6月,Vol.43 No.3,Page.468-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から重希土類元素を回収する方法であって、処理対象物に対して酸化処理を行った後、または、処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することで、重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離する工程を少なくとも含んでなることを特徴とする方法。
処理対象物がR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源であって、使用によって磁石由来の成分をさらに含んでなるものであることを特徴とする請求項2記載の方法。
酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金が、磁石の製造工程中に排出される磁石スクラップおよび/または磁石加工屑を酸化処理したものであることを特徴とする請求項10記載の方法。
処理対象物に対する酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合量を、処理対象物に含まれる重希土類元素に対して酸化処理を行った磁石合金に含まれるホウ素換算のモル比率で2.0倍以上とすることを特徴とする請求項10記載の方法。
処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物の熱処理を、炭素るつぼを処理容器および炭素供給源として用いて行うことを特徴とする請求項10記載の方法。
処理対象物および/または酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の少なくとも一部が5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることを特徴とする請求項10記載の方法。
処理対象物がR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源であって、使用によって磁石由来の成分をさらに含んでなるものであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【背景技術】
【0002】
R−Fe−B系永久磁石は、高い磁気特性を有していることから、電動パワーステアリング用モータ、ハイブリッド電気自動車や電気自動車の主機モータ、エアコン用モータ、ハードディスクドライブ用磁気ヘッドアクチュエータなどをはじめとする様々な工業製品において使用されているが、高温で保磁力が低下する性質を有している。そのため、自動車に用いられるモータに組み込まれるR−Fe−B系永久磁石などには、厳しい使用環境の中で高温に晒されても所定の保磁力が維持されるように、とりわけ高い保磁力を有することが求められている。このような事情に鑑み、従来からR−Fe−B系永久磁石の保磁力の向上を図ることが行われており、そのための方法として、R−Fe−B系永久磁石用の原料合金に、Dy,Tbなどの重希土類元素を添加する方法が知られている。この方法は、R−Fe−B系永久磁石の保磁力の向上を図るための方法として優れたものであるが、場合によっては重希土類元素を磁石中の含有比率が10mass%近くになるまで添加することもある。しかしながら、重希土類元素は希少資源であり、我が国においては中国からの輸入に依存していることから、その使用量をできる限り削減しなければならない必要に迫られている。そこで、少ない重希土類元素の使用量による効率的なR−Fe−B系永久磁石の保磁力の向上を達成することができる方法として、R−Fe−B系永久磁石の表面から内部に重希土類元素を拡散させる方法が注目されており、例えば特許文献1では、磁石と、磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる拡散源(DyFe
2,DyFe
3,TbFe
2,TbFe
3などからなる合金片など)を、処理室内にて連続的または断続的に移動させながら加熱する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、重希土類元素を少ない使用量で効果的にR−Fe−B系永久磁石に拡散させて保磁力の向上を図ることができる方法として優れたものである。しかしながら、この方法において用いられる重希土類元素と鉄の合金からなる拡散源は、繰り返し使用していると、その重希土類元素の含有比率が低下することを本発明者らは見出している。これは、本発明者らの検討によれば、処理室内にてR−Fe−B系永久磁石と拡散源を連続的または断続的に移動させながら加熱すると、拡散源の表面破砕が起こることで生成した拡散源の破片が磁石の表面に付着する一方で、磁石の表面破砕が起こることで生成した磁石の破片が拡散源の表面に付着することなどに起因するものである。拡散源の重希土類元素の含有比率が低下すると、R−Fe−B系永久磁石に対する重希土類元素の拡散効率も低下するので、拡散源はある時点で使用をやめることになる。ここで問題となるのは、使用済みの拡散源をいかに取り扱うかということである。もはや拡散源として使用することができなくても、そこには希少資源である重希土類元素が含まれている。従って、使用済みの拡散源を廃棄せず、そこに含まれる重希土類元素をいかに回収して再利用するかが今後の重要な技術課題となる。
【0004】
少なくとも希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する方法については、これまでにもいくつかの方法が提案されており、例えば特許文献2では、処理対象物を酸化性雰囲気中で加熱して含有金属元素を酸化物とした後、水と混合してスラリーとし、加熱しながら塩酸を加えて希土類元素を溶液に溶解させ、得られた溶液に加熱しながらアルカリ(水酸化ナトリウムやアンモニアや水酸化カリウムなど)を加えることで、希土類元素とともに溶液に浸出した鉄族元素を沈殿させた後、溶液を未溶解物と沈殿物から分離し、溶液に沈殿剤として例えばシュウ酸を加えて希土類元素をシュウ酸塩として回収する方法が提案されている。この方法は、希土類元素を鉄族元素と効果的に分離して回収することができる方法として注目に値する。しかしながら、工程の一部に酸やアルカリを用いることから、工程管理が容易ではなく、また、回収コストが高くつくといった問題がある。従って、特許文献2に記載の方法は、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして実用化するには困難な側面を有するといわざるを得ない。
【0005】
また、特許文献3では、処理対象物に含まれる鉄族元素を酸化することなく希土類元素のみを酸化することによって両者を分離する方法として、処理対象物を炭素るつぼの中で加熱する方法が提案されている。この方法は、特許文献2に記載の方法のように酸やアルカリを必要とせず、また、炭素るつぼの中で処理対象物を加熱することで理論的にるつぼ内の雰囲気が鉄族元素が酸化されることなく希土類元素のみが酸化される酸素分圧に自律的に制御されることから、特許文献2に記載の方法に比較して工程が簡易であるという点において優れていると考えられる。しかしながら、単に処理対象物を炭素るつぼの中で加熱すればるつぼ内の雰囲気が所定の酸素分圧に自律的に制御されて希土類元素と鉄族元素を分離できるのかといえば、現実的には必ずしもそうではない。特許文献3では、るつぼ内の雰囲気の望ましい酸素含有濃度は1ppm〜1%であるとされているが、本質的には雰囲気を制御するための外的操作は必要とされないとある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、少なくとも酸素含有濃度が1ppm未満の場合には希土類元素と鉄族元素は分離できない。従って、炭素るつぼの中で処理対象物を加熱すれば、理論的にはるつぼ内の雰囲気が鉄族元素が酸化されることなく希土類元素のみが酸化される酸素分圧に自律的に制御されるとしても、現実的にはるつぼ内を酸素含有濃度が1ppm以上の雰囲気に人為的に制御する必要がある。こうした制御は、特許文献3にも記載されているように酸素含有濃度が1ppm以上の不活性ガスをるつぼ内に導入することで行うことができるが、工業用不活性ガスとして汎用されているアルゴンガスの場合、その酸素含有濃度は通常0.5ppm以下である。従って、酸素含有濃度が1ppm以上のアルゴンガスをるつぼ内に導入するためには、汎用されているアルゴンガスをそのまま用いることはできず、その酸素含有濃度をわざわざ高めた上で用いる必要がある。結果として、特許文献3に記載の方法は、一見工程が簡易に思えるものの実はそうではなく、特許文献2に記載の方法と同様、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして実用化するには困難な側面を有するといわざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、低コストで簡易なリサイクルシステムとして実用化が可能な、少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から重希土類元素を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させて保磁力の向上を図るために繰り返し使用した重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源(重希土類元素の含有比率が低下した使用済み拡散源)に対して酸化処理を行った後、または、使用済み拡散源を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において所定の温度で熱処理すると、使用済み拡散源に含まれる重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収することができることを見出した。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明の少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から重希土類元素を回収する方法は、請求項1記載の通り、処理対象物に対して酸化処理を行った後、または、処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することで、重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離する工程を少なくとも含んでなることを特徴とする。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物に対して酸化処理を行った後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする。
また、請求項3記載の方法は、請求項2記載の方法において、熱処理温度が1300℃以上であることを特徴とする。
また、請求項4記載の方法は、請求項2記載の方法において、酸化処理を行った処理対象物の熱処理を、炭素るつぼを処理容器および炭素供給源として用いて行うことを特徴とする。
また、請求項5記載の方法は、請求項2記載の方法において、酸化処理を行った処理対象物の熱処理を、炭素とホウ素の存在下において行うことを特徴とする。
また、請求項6記載の方法は、請求項5記載の方法において、酸化処理を行った処理対象物の熱処理を、酸化ホウ素をホウ素供給源として用いて行うことを特徴とする。
また、請求項7記載の方法は、請求項2記載の方法において、処理対象物の少なくとも一部が5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることを特徴とする。
また、請求項8記載の方法は、請求項2記載の方法において、処理対象物の鉄族元素の含有比率が30mass%以上であることを特徴とする。
また、請求項9記載の方法は、請求項2記載の方法において、処理対象物がR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源であって、使用によって磁石由来の成分をさらに含んでなるものであることを特徴とする。
また、請求項10記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする。
また、請求項11記載の方法は、請求項10記載の方法において、熱処理温度が1300℃以上であることを特徴とする。
また、請求項12記載の方法は、請求項10記載の方法において、酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金が、磁石の製造工程中に排出される磁石スクラップおよび/または磁石加工屑を酸化処理したものであることを特徴とする。
また、請求項13記載の方法は、請求項10記載の方法において、処理対象物に対する酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合量を、処理対象物に含まれる重希土類元素に対して酸化処理を行った磁石合金に含まれるホウ素換算のモル比率で2.0倍以上とすることを特徴とする。
また、請求項14記載の方法は、請求項10記載の方法において、処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物の熱処理を、炭素るつぼを処理容器および炭素供給源として用いて行うことを特徴とする。
また、請求項15記載の方法は、請求項10記載の方法において、処理対象物および/または酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の少なくとも一部が5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることを特徴とする。
また、請求項16記載の方法は、請求項10記載の方法において、処理対象物の鉄族元素の含有比率が30mass%以上であることを特徴とする。
また、請求項17記載の方法は、請求項10記載の方法において、処理対象物がR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源であって、使用によって磁石由来の成分をさらに含んでなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストで簡易なリサイクルシステムとして実用化が可能な、少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から重希土類元素を回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から重希土類元素を回収する方法は、処理対象物に対して酸化処理を行った後、または、処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することで、重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離する工程を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。
【0013】
まず、本発明の第1の方法である、少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物に対して酸化処理を行った後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することによって重希土類元素を回収する方法について説明する。
【0014】
本発明の第1の方法の適用対象となる少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物は、Dy,Tbなどの重希土類元素とFe,Co,Niなどの鉄族元素を含むものであれば特段の制限はなく、重希土類元素と鉄族元素に加えてその他の元素としてNd,Pr,Smなどの軽希土類元素やホウ素などを含んでいてもよい。具体的には、例えば、R−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源(DyFe
2,DyFe
3,TbFe
2,TbFe
3などからなる合金片など)であって、使用によって磁石由来の成分(軽希土類元素やホウ素など)をさらに含んでなるものなどが挙げられるが、とりわけ本発明の第1の方法は鉄族元素の含有比率が30mass%以上である処理対象物に好適に適用することができる(使用態様などにも依存するが、例えば重希土類元素拡散源としてDyFe
2やTbFe
2からなる合金片を用いた場合における使用済み拡散源の鉄族元素の含有比率は、通常、35mass%〜60mass%であり、DyFe
3やTbFe
3からなる合金片を用いた場合における使用済み拡散源の鉄族元素の含有比率は、通常、40mass%〜65mass%である)。なお、処理対象物の鉄族元素の含有比率の上限は、重希土類元素を鉄族元素から効率的に分離するためには80mass%が望ましい。処理対象物の大きさや形状は特段制限されるものではないが、処理対象物に対して十分な酸化処理を行うためには、処理対象物は5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることが望ましく、粒径は3mm以下がより望ましい。処理対象物は、必要に応じて粉砕するなどして例えば粒径が500μm以下のものを調製してもよいが、この場合、調製の容易性などに鑑みれば粒径の下限は1μmが望ましい。しかしながら、処理対象物の全てがこのような大きさの粒状ないし粉末状である必要は必ずしもなく、このような大きさの粒状ないし粉末状であるのは処理対象物の一部であってよい。
【0015】
まず、本発明の第1の方法における処理対象物に対する酸化処理は、処理対象物に含まれる重希土類元素を酸化物に変換することを目的とするものである。特許文献3に記載の方法と異なり、処理対象物に対する酸化処理によって処理対象物に含まれる鉄族元素が重希土類元素とともに酸化物に変換されてもよい。処理対象物に対する酸化処理は、酸素含有雰囲気中で処理対象物を熱処理したり燃焼処理したりすることによって行うことが簡便である。酸素含有雰囲気は大気雰囲気であってよい。処理対象物を熱処理する場合、例えば350℃〜1000℃で1時間〜10時間行えばよい。処理対象物を燃焼処理する場合、例えば自然発火や人為的点火により行えばよい。また、処理対象物に対する酸化処理は、アルカリ水溶液中で処理対象物の酸化を進行させるアルカリ処理によって行うこともできる。アルカリ処理に用いることができるアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアなどが挙げられる。また、アルカリ水溶液の濃度としては0.1mol/L〜10mol/Lが挙げられる。処理温度としては60℃〜150℃が挙げられるが、より効果的な酸化処理を行うためには100℃以上が望ましく、より安全性を高めるためには130℃以下が望ましい。処理時間としては30分間〜10時間が挙げられる。処理対象物に対する酸化処理は、単一の方法で行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。処理対象物に対してこうした酸化処理を行うと、処理対象物に含まれる酸素の量は重希土類元素に対してモル比率で1.5倍以上となり、重希土類元素の酸化物への変換をより確実なものにすることができる。酸化処理によって処理対象物に含まれる酸素の量は重希土類元素に対してモル比率で2.0倍以上になることが望ましい。また、処理対象物に対する酸化処理は、炭素の非存在下で行うことが望ましい。炭素の存在下で処理対象物に対する酸化処理を行うと、処理対象物に含まれる重希土類元素が炭素と望まざる化学反応を起こして所望する酸化物への変換が阻害される恐れがあるからである(従ってここでは「炭素の非存在下」は処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物への変換が阻害されるに足る化学反応の起因となる炭素が存在しないことを意味する)。
【0016】
次に、酸化処理を行った処理対象物を、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することで、重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離することができる。これは、酸化処理を行った処理対象物を、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理すると、酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物は高温で酸化物のまま存在するのに対し、鉄族元素は炭素を固溶して合金化し、また、鉄族元素が酸化処理によって酸化物に変換された場合には鉄族元素の酸化物は炭素によって還元された後に炭素を固溶して合金化し、結果として、重希土類元素の酸化物と、鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在するという本発明者らによって見出された現象に基づくものであり、処理対象物に含まれる鉄族元素を酸化することなく希土類元素のみを酸化するために炭素が利用される特許文献3に記載の方法とは炭素の役割が全く異なる。
【0017】
熱処理温度を1000℃以上に規定するのは、1000℃未満であると、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金化が十分に進行しなかったり、鉄族元素が酸化物に変換された場合の鉄族元素の酸化物の炭素による還元が十分に進行しないことにより、重希土類元素の酸化物と、鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在しにくくなることで、両者の分離が困難になるからである。熱処理温度は1300℃以上が望ましく、1350℃以上がより望ましく、1400℃以上がさらに望ましい。なお、熱処理温度の上限は例えばエネルギーコストの点に鑑みれば1700℃が望ましく、1650℃がより望ましく、1600℃がさらに望ましい。熱処理時間は例えば10分間〜30時間が適当である。
【0018】
酸化処理を行った処理対象物に対する炭素の供給源は、グラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなど、どのような構造や形状のものであってもよいが、炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割とともにその表面からの炭素供給源としての役割も果たすので都合がよい(もちろん別個の炭素供給源をさらに添加することを妨げるものではない)。処理容器として炭素るつぼを用いる場合、酸化処理を行った処理対象物の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行うことが望ましい。大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で熱処理を行うと、雰囲気中の酸素が炭素るつぼの表面において炭素と反応することで二酸化炭素を生成し、炭素るつぼが炭素供給源としての役割を効率的に果さない恐れがあるからである。
【0019】
なお、用いることができる処理容器は、特許文献3に記載の方法のように炭素るつぼに限定されるわけではなく、非炭素製の処理容器、例えばアルミナや酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどの金属酸化物や酸化ケイ素でできたセラミックスるつぼ(単一の素材からなるものであってもよいし複数の素材からなるものであってもよい。炭化ケイ素などの炭素元素を含む素材であっても炭素供給源としての役割を果さない素材からなるものを含む)などを用いることもできる。非炭素製の処理容器を用いる場合、処理容器は炭素供給源としての役割を果さないので、処理容器に炭素供給源を添加することによって酸化処理を行った処理対象物を熱処理する。また、非炭素製の処理容器として製鉄のための溶鉱炉、電気炉、誘導炉などを用いるとともに、炭素供給源として木炭やコークスなどを用いれば、酸化処理を行った処理対象物を一度に大量に熱処理することができる。非炭素製の処理容器を用いる場合、酸化処理を行った処理対象物の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行ってもよいし、大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で行ってもよい。酸化処理を行った処理対象物の炭素の存在下での熱処理を酸素含有雰囲気中で行った場合、熱処理後における処理容器内の余剰の炭素供給源は雰囲気中の酸素と反応することによって二酸化炭素となって処理容器から排出される点において都合がよい。
【0020】
添加する炭素供給源の量は、処理対象物に含まれる鉄族元素に対してモル比率で1.5倍以上であることが望ましい。添加する炭素供給源の量をこのように調整することで、処理対象物に含まれる鉄族元素が酸化処理によって酸化物に変換されてもその還元を確実なものとして炭素との合金化を進行させることができる。
【0021】
また、酸化処理を行った処理対象物の熱処理は、炭素とホウ素の存在下において行ってもよい。熱処理の工程におけるホウ素の存在意義は必ずしも明確ではないが、酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物に取り込まれ、重希土類元素の酸化物の溶融性を高めることにより、鉄族元素との分離性の向上に寄与すると本発明者らは考えている。酸化処理を行った処理対象物に対するホウ素の供給源は、単体ホウ素の他、酸化ホウ素やホウ酸などのホウ素化合物が挙げられるが、中でも低価格で安定性に優れる酸化ホウ素を好適に用いることができる。処理対象物に含まれる重希土類元素を酸化物として効率的に回収するためには、添加するホウ素供給源の量は処理対象物に含まれる重希土類元素に対してホウ素供給源に含まれるホウ素換算のモル比率で0.25倍以上が望ましく、0.30倍以上がより望ましく、0.35倍以上がさらに望ましい。なお、添加するホウ素供給源の量の上限は、重希土類元素の酸化物に取り込まれるホウ素の量をできるだけ少なくするためには、処理対象物に含まれる重希土類元素に対してホウ素供給源に含まれるホウ素換算のモル比率で4.0倍が望ましく、3.0倍がより望ましく、1.0倍がさらに望ましい。
【0022】
以上のようにして酸化処理を行った処理対象物を熱処理してから冷却すると、熱処理温度や熱処理時間の違い、炭素やホウ素の供給量の違いなどにより、処理容器内には、2種類の塊状物が互いに独立かつ密接して存在したり、塊状物と粉状物が存在したり、球状物の表面に物理的な衝撃を与えることで容易に剥離する付着物が付着した単独形状の塊状物が存在したり、個々の粒子が球状物の表面に物理的な衝撃を与えることで容易に剥離する付着物が付着した粉状物が存在したり、粗い粒子が接合してなる単一の塊状物が存在したりする。酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物は、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の一方としてや、塊状物と粉状物が存在する場合における粉状物としてや、単独形状の塊状物や粉状物の個々の粒子を構成する球状物の表面に付着した付着物としてそれぞれ回収することができるが、こうした態様は、炭素とホウ素の存在下において1300℃以上の温度で熱処理した場合に多い(一連の処理条件などにも依存するが、添加するホウ素供給源の量が少ない場合、例えば添加するホウ素供給源の量が処理対象物に含まれる重希土類元素に対してホウ素供給源に含まれるホウ素換算のモル比率で1.0倍以下の場合は、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の一方として回収される傾向がある一方、1.0倍を超える場合は、塊状物と粉状物が存在する場合における粉状物として回収される傾向がある)。なお、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の他方や、塊状物と粉状物が存在する場合における塊状物や、単独形状の塊状物や粉状物の個々の粒子を構成する球状物は、鉄族元素の炭素との合金である。また、熱処理温度が1300℃未満の場合や熱処理温度が1300℃以上でもホウ素が存在しない場合、生成物として粗い粒子が接合してなる単一の塊状物が得られることが多いが、この塊状物を構成する個々の粒子は2相構造を有しており、その一方が酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物であって、他方が鉄族元素の炭素との合金である。従って、この塊状物を構成する個々の粒子を例えば10μm以下の大きさに粉砕した後(粉砕の程度は5μm以下が望ましく3μm以下がより望ましく1μm以下がさらに望ましい。下限は例えば0.1μmである)、磁気的方法によって鉄族元素の炭素との合金からなる相の粉末を分離することで、酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物からなる相の粉末を回収することができる。また、不活性ガス雰囲気中または真空中において、この塊状物をホウ素の存在下において1300℃以上の温度で熱処理することで溶融すれば、酸化処理を行った処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物を互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の一方として回収することができる。
【0023】
また、酸化処理を行った処理対象物を炭素とホウ素の存在下において1300℃以上の温度で熱処理した場合、重希土類元素の酸化物と鉄族元素の炭素との合金が、いずれも溶融すると、両者の溶融物は、相溶せず、前者の溶融物は後者の溶融物よりも比重が軽いため、後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、両者を容易に分離することができる。また、重希土類元素の酸化物の塊状物と鉄族元素の炭素との合金の塊状物が、処理容器内に互いに独立かつ密接して存在する場合、両者を1300℃以上の温度で熱処理すると、いずれの塊状物も溶融し、後者の溶融物は処理容器の表面に拡散層を形成して展延するのに対し、前者の溶融物は後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、前者の溶融物を後者の溶融物から容易に分離することができる。また、この現象を利用すれば、重希土類元素の酸化物の塊状物と鉄族元素の炭素との合金の塊状物が、互いに独立かつ密接して存在する処理容器を、天地を逆転させた状態で例えばアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で1300℃以上の温度で熱処理することで(熱処理時間は例えば10分間〜3時間が適当である)、前者の溶融物だけを落下させて後者の溶融物と分離するといったこともできる。
【0024】
こうした方法で鉄族元素の炭素との合金から分離することで回収された重希土類元素の酸化物は、例えば溶融塩電解法などによって還元することで重希土類金属に変換することができる。なお、処理対象物が、例えば使用済みのR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素拡散源のように、重希土類元素に加えて磁石由来の軽希土類元素を含む場合、上記の処理対象物に対する酸化処理および酸化処理を行った処理対象物に対する熱処理によって、重希土類元素と軽希土類元素のいずれもが酸化物に変換されて鉄族元素から分離され、重希土類元素と軽希土類元素の酸化物の混合物が得られる。この混合物からの希土類元素の種類ごとの酸化物の分離は、例えば溶媒抽出法などによって行うことができる。こうして分離されたそれぞれの希土類元素の酸化物は、例えば溶融塩電解法などによって還元することでそれぞれの希土類金属に変換することができる。従って、この場合、上記の処理対象物に対する酸化処理および酸化処理を行った処理対象物に対する熱処理についての説明中の「重希土類元素」は「重希土類元素と軽希土類元素」と読み替えることができる。
【0025】
なお、本発明の第1の方法によって鉄族元素の炭素との合金から分離することで回収された重希土類元素の酸化物に含まれるホウ素の量が多い場合、フッ素を含む溶融塩成分を用いた溶融塩電解法によって還元すると、重希土類元素の酸化物に含まれるホウ素がフッ素と反応することで有毒なフッ化ホウ素が発生する恐れがあるので、こうした場合には予め重希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減しておくことが望ましい。ホウ素を含む重希土類元素の酸化物のホウ素含量の低減は、例えばホウ素を含む重希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)や酸化物とともに例えば炭素の存在下で熱処理することで行うことができる。このホウ素含量の低減のための炭素の存在下での熱処理は、例えばグラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなどを炭素の供給源として用いて1300℃〜1600℃で行えばよい。熱処理時間は例えば30分間〜5時間が適当である。炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割とともにその表面からの炭素供給源としての役割も果たすので都合がよい(もちろん別個の炭素供給源をさらに添加することを妨げるものではない)。アルカリ金属の炭酸塩や酸化物は、例えばホウ素を含む重希土類元素の酸化物1重量部に対して0.1重量部〜2重量部用いればよい。なお、処理対象物が重希土類元素に加えて軽希土類元素を含む場合、この説明中の「重希土類元素」は「重希土類元素と軽希土類元素」と読み替えることができる。
【0026】
次に、本発明の第2の方法である、少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することによって重希土類元素を回収する方法について説明する。
【0027】
本発明の第2の方法の適用対象となる少なくとも重希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物は、Dy,Tbなどの重希土類元素とFe,Co,Niなどの鉄族元素を含むものであれば特段の制限はなく、重希土類元素と鉄族元素に加えてその他の元素としてNd,Pr,Smなどの軽希土類元素やホウ素などを含んでいてもよい。具体的には、例えば、R−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素と鉄の合金からなる重希土類元素拡散源(DyFe
2,DyFe
3,TbFe
2,TbFe
3などからなる合金片など)であって、使用によって磁石由来の成分(軽希土類元素やホウ素など)をさらに含んでなるものなどが挙げられるが、とりわけ本発明の第2の方法は鉄族元素の含有比率が30mass%以上である処理対象物に好適に適用することができる(使用態様などにも依存するが、例えば重希土類元素拡散源としてDyFe
2やTbFe
2からなる合金片を用いた場合における使用済み拡散源の鉄族元素の含有比率は、通常、35mass%〜60mass%であり、DyFe
3やTbFe
3からなる合金片を用いた場合における使用済み拡散源の鉄族元素の含有比率は、通常、40mass%〜65mass%である)。なお、処理対象物の鉄族元素の含有比率の上限は、重希土類元素を鉄族元素から効率的に分離するためには80mass%が望ましい。処理対象物は、自然酸化していないものや人為的に酸化処理が行われていないものであってもよいが、自然酸化したものや人為的に酸化処理が行われたものであってもよい。人為的な酸化処理の方法としては、酸素含有雰囲気中で熱処理したり燃焼処理したりする方法が挙げられる。酸素含有雰囲気は大気雰囲気であってよい。熱処理は例えば350℃〜1000℃で1時間〜10時間行えばよい。燃焼処理は例えば自然発火や人為的点火により行えばよい。処理対象物の大きさや形状は特段制限されるものではないが、5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることが望ましく、粒径は3mm以下がより望ましい。処理対象物は、必要に応じて粉砕するなどして例えば粒径が500μm以下のものを調製してもよいが、この場合、調製の容易性などに鑑みれば粒径の下限は1μmが望ましい。処理対象物がこのような大きさの粒状ないし粉末状であることで、酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合してから後述する熱処理を行うことによって処理対象物に含まれる重希土類元素を酸化物として効率的に回収することができる。しかしながら、処理対象物の全てがこのような大きさの粒状ないし粉末状である必要は必ずしもなく、このような大きさの粒状ないし粉末状であるのは処理対象物の一部であってよい。
【0028】
本発明の第2の方法において酸化処理を行うR−Fe−B系磁石合金は、R−Fe−B系永久磁石が有する組成の合金を意味し、着磁が行われることで永久磁石としての特性を有する成形体はもちろんのこと、磁石原料として使用する合金片や合金粉末など、所定の合金組成を有するものであればどのようなものであってもよい。しかしながら、中でも、R−Fe−B系永久磁石の製造工程中に排出される磁石スクラップや磁石加工屑を好適に用いることができる。近年、R−Fe−B系永久磁石の生産量の増大に伴い、製造工程中に加工不良物などとして排出される磁石スクラップや、切削屑や研削屑などとして排出される磁石加工屑の量も増加しているため、その有効利用を図ることができることに加え、そこに含まれる希土類元素を処理対象物に含まれる重希土類元素とともに回収することができるからである。酸化処理を行うR−Fe−B系磁石合金の大きさや形状は特段制限されるものではないが、5mm以下の粒径を有する粒状ないし粉末状であることが望ましく、粒径は3mm以下がより望ましい。酸化処理を行うR−Fe−B系磁石合金は、粉砕するなどして粒径が500μm以下のものを調製することがさらに望ましいが、この場合、調製の容易性に鑑みれば粒径の下限は1μmが望ましい。酸化処理を行うR−Fe−B系磁石合金がこのような大きさの粒状ないし粉末状であることで、酸化処理を行った後に処理対象物と混合してから後述する熱処理を行うことによって処理対象物に含まれる重希土類元素を酸化物として効率的に回収することができるとともに、磁石合金に含まれる希土類元素も効率的に回収することができる。しかしながら、酸化処理を行うR−Fe−B系磁石合金の全てがこのような大きさの粒状ないし粉末状である必要は必ずしもなく、このような大きさの粒状ないし粉末状であるのは磁石合金の一部であってよい。
【0029】
R−Fe−B系磁石合金に対する酸化処理は、磁石合金に含まれる希土類元素と鉄族元素を酸化物に変換することで磁石合金に酸素を取り込ませ、磁石合金に取り込まれた酸素を利用して、後述する熱処理を行うことによって処理対象物を酸化し、処理対象物に含まれる重希土類元素を酸化物に変換して回収することを目的とするものである。処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物への変換を確実なものにするためには、R−Fe−B系磁石合金に対する酸化処理は、処理対象物に含まれる重希土類元素と磁石合金に含まれる希土類元素の合計量に対して酸化処理を行った磁石合金に含まれる酸素がモル比率で1.5倍以上になるように行うことが望ましく、2.0倍以上になるように行うことがより望ましい。こうしたR−Fe−B系磁石合金に対する効果的な酸化処理は、酸素含有雰囲気中で磁石合金を熱処理したり燃焼処理したりすることによって行うことが簡便である。酸素含有雰囲気は大気雰囲気であってよい。R−Fe−B系磁石合金を熱処理する場合、例えば350℃〜1000℃で1時間〜10時間行えばよい。R−Fe−B系磁石合金を燃焼処理する場合、例えば自然発火や人為的点火により行えばよい。R−Fe−B系磁石合金に対する酸化処理は、単一の方法で行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。R−Fe−B系磁石合金に対する酸化処理は、炭素の非存在下で行うことが望ましい。炭素の存在下でR−Fe−B系磁石合金に対する酸化処理を行うと、磁石合金に含まれる希土類元素と鉄族元素が炭素と望まざる化学反応を起こして酸化物への変換が阻害されることで、後述する熱処理を行うことによる処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物への変換も阻害される恐れがあるからである(従ってここでは「炭素の非存在下」は磁石合金に含まれる希土類元素と鉄族元素の酸化物への変換が阻害されるに足る化学反応の起因となる炭素が存在しないことを意味する)。
【0030】
次に、処理対象物を酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金と混合した後、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理することで、重希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離することができる。これは、処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物を、炭素の存在下において1000℃以上の温度で熱処理すると、酸化処理を行った磁石合金に含まれる酸素によって処理対象物が酸化されることで、処理対象物に含まれる重希土類元素が酸化物に変換され、高温で酸化物のまま存在するのに対し、鉄族元素は炭素を固溶して合金化し、また、鉄族元素が酸化物に変換された場合には鉄族元素の酸化物は炭素によって還元された後に炭素を固溶して合金化し、重希土類元素の酸化物と、鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在する現象に基づく。また、この現象が起こる際、酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物も高温で酸化物のまま存在するのに対し、鉄族元素の酸化物は炭素によって還元された後に炭素を固溶して合金化し、希土類元素の酸化物と、鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在する現象も起こる。従って結果的には、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在することになる。
【0031】
熱処理温度を1000℃以上に規定するのは、1000℃未満であると、処理対象物に含まれる鉄族元素が酸化物に変換された場合の鉄族元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の酸化物の炭素による還元が十分に進行しなかったり、鉄族元素の炭素との合金化が十分に進行しないことにより、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在しにくくなることで、両者の分離が困難になるからである。熱処理温度は1300℃以上が望ましく、1350℃以上がより望ましく、1400℃以上がさらに望ましい。熱処理温度が1300℃以上の場合、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金が、互いに相溶することなく溶融するので、両者を独立した溶融物として分離することができる。こうした現象は、酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれるホウ素が、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物に取り込まれて重希土類元素の酸化物の溶融性を高めることに寄与した結果であるとともに、酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物の溶融性を高めることに寄与した結果であると本発明者らは考えている。なお、熱処理温度の上限は例えばエネルギーコストの点に鑑みれば1700℃が望ましく、1650℃がより望ましく、1600℃がさらに望ましい。熱処理時間は例えば10分間〜30時間が適当である。
【0032】
処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物に対する炭素の供給源は、グラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなど、どのような構造や形状のものであってもよいが、炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割とともにその表面からの炭素供給源としての役割も果たすので都合がよい(もちろん別個の炭素供給源をさらに添加することを妨げるものではない)。処理容器として炭素るつぼを用いる場合、処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行うことが望ましい。大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で熱処理を行うと、雰囲気中の酸素が炭素るつぼの表面において炭素と反応することで二酸化炭素を生成し、炭素るつぼが炭素供給源としての役割を効率的に果さない恐れがあるからである。
【0033】
なお、用いることができる処理容器は、特許文献3に記載の方法のように炭素るつぼに限定されるわけではなく、非炭素製の処理容器、例えばアルミナや酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどの金属酸化物や酸化ケイ素でできたセラミックスるつぼ(単一の素材からなるものであってもよいし複数の素材からなるものであってもよい。炭化ケイ素などの炭素元素を含む素材であっても炭素供給源としての役割を果さない素材からなるものを含む)などを用いることもできる。非炭素製の処理容器を用いる場合、処理容器は炭素供給源としての役割を果さないので、処理容器に炭素供給源を添加することによって処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物を熱処理する。また、非炭素製の処理容器として製鉄のための溶鉱炉、電気炉、誘導炉などを用いるとともに、炭素供給源として木炭やコークスなどを用いれば、処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物を一度に大量に熱処理することができる。非炭素製の処理容器を用いる場合、処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物の炭素の存在下での熱処理は、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で行ってもよいし、大気雰囲気などの酸素含有雰囲気中で行ってもよい。処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物の炭素の存在下での熱処理を酸素含有雰囲気中で行った場合、熱処理後における処理容器内の余剰の炭素供給源は雰囲気中の酸素と反応することによって二酸化炭素となって処理容器から排出される点において都合がよい。
【0034】
添加する炭素供給源の量は、処理対象物に含まれる鉄族元素と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の合計量に対してモル比率で1.5倍以上であることが望ましい。添加する炭素供給源の量をこのように調整することで、処理対象物に含まれる鉄族元素が酸化物に変換されても、酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の酸化物とともに、それらの還元を確実なものとして炭素との合金化を進行させることができる。
【0035】
処理対象物に対する酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合量は、処理対象物に含まれる重希土類元素に対して酸化処理を行った磁石合金に含まれるホウ素換算のモル比率で2.0倍以上とすることが望ましく、3.0倍以上とすることがより望ましい。処理対象物に対する酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合量をこうした混合量とすることで、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金が、互いに独立して存在しやすくなることで、両者の分離が容易になる(熱処理温度が1300℃以上の場合においては、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金を、独立した溶融物として分離しやすくなる)。なお、処理対象物に対する酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合量の上限は、重希土類元素の酸化物に取り込まれるホウ素の量をできるだけ少なくするといった観点や、重希土類元素の酸化物を効率的に回収するといった観点に鑑みれば、処理対象物に含まれる重希土類元素に対して酸化処理を行った磁石合金に含まれるホウ素換算のモル比率で15.0倍が望ましく、10.0倍がより望ましい。
【0036】
以上のようにして処理対象物と酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金の混合物を熱処理してから冷却すると、熱処理温度や熱処理時間の違い、炭素の供給量の違いなどにより、処理容器内には、2種類の塊状物が互いに独立かつ密接して存在したり、球状物の表面に物理的な衝撃を与えることで容易に剥離する付着物が付着した単独形状の塊状物が存在したり、個々の粒子が球状物の表面に物理的な衝撃を与えることで容易に剥離する付着物が付着した粉状物が存在したり、粗い粒子が接合してなる単一の塊状物が存在したりする。処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物は、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の一方としてや、単独形状の塊状物や粉状物の個々の粒子を構成する球状物の表面に付着した付着物としてそれぞれ回収することができるが、こうした態様は、熱処理温度が1300℃以上の場合に多い。なお、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の他方や、単独形状の塊状物や粉状物の個々の粒子を構成する球状物は、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金である。また、熱処理温度が1300℃未満の場合、生成物として粗い粒子が接合してなる単一の塊状物が得られることが多いが、この塊状物を構成する個々の粒子は2相構造を有しており、その一方が処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物であって、他方が処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金である。従って、この塊状物を構成する個々の粒子を例えば10μm以下の大きさに粉砕した後(粉砕の程度は5μm以下が望ましく3μm以下がより望ましく1μm以下がさらに望ましい。下限は例えば0.1μmである)、磁気的方法によって処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金からなる相の粉末を分離することで、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物からなる相の粉末を回収することができる。また、不活性ガス雰囲気中または真空中において、この塊状物を1300℃以上の温度で熱処理することで溶融すれば、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物を互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物の一方として回収することができる。
【0037】
また、熱処理温度が1300℃以上の場合、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金が、いずれも溶融すると、両者の溶融物は、相溶せず、前者の溶融物は後者の溶融物よりも比重が軽いため、後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、両者を容易に分離することができる。また、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物の塊状物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金の塊状物が、処理容器内に互いに独立かつ密接して存在する場合、両者を1300℃以上の温度で熱処理すると、いずれの塊状物も溶融し、後者の溶融物は処理容器の表面に拡散層を形成して展延するのに対し、前者の溶融物は後者の溶融物の表面に浮き上がった状態で存在するようになるので、前者の溶融物を後者の溶融物から容易に分離することができる。また、この現象を利用すれば、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物の塊状物と、処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行った磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金の塊状物が、互いに独立かつ密接して存在する処理容器を、天地を逆転させた状態で例えばアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気(酸素含有濃度は1ppm未満が望ましい)中や真空(1000Pa未満が望ましい)中で1300℃以上の温度で熱処理することで(熱処理時間は例えば10分間〜3時間が適当である)、前者の溶融物だけを落下させて後者の溶融物と分離するといったこともできる。
【0038】
こうした方法で処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金から分離することで回収された、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物は、例えば溶媒抽出法などによって希土類元素の種類ごとの酸化物に分離することができる。こうして分離されたそれぞれの希土類元素の酸化物は、例えば溶融塩電解法などによって還元することでそれぞれの希土類金属に変換することができる。なお、処理対象物が、例えば使用済みのR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素を拡散させるための重希土類元素拡散源のように、重希土類元素に加えて磁石由来の軽希土類元素を含む場合、上記の熱処理によって、重希土類元素と軽希土類元素のいずれもが酸化物に変換されて鉄族元素から分離され、重希土類元素
の酸化物と軽希土類元素
の酸化物が得られる。従って、この場合、上記の熱処理についての説明中の「重希土類元素」は「重希土類元素と軽希土類元素」と読み替えることができる。
【0039】
なお、本発明の第2の方法によって処理対象物に含まれる鉄族元素の炭素との合金や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる鉄族元素の炭素との合金から分離することで回収された、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物に含まれるホウ素の量が多い場合、フッ素を含む溶融塩成分を用いた溶融塩電解法によって還元すると、処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物に含まれるホウ素がフッ素と反応することで有毒なフッ化ホウ素が発生する恐れがあるので、こうした場合には予め処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物のホウ素含量を低減しておくことが望ましい。ホウ素を含む処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物のホウ素含量の低減は、例えばホウ素を含む処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行った磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物をアルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)や酸化物とともに例えば炭素の存在下で熱処理することで行うことができる。このホウ素含量の低減のための炭素の存在下での熱処理は、例えばグラファイト(黒鉛や石墨)、木炭、コークス、石炭、ダイヤモンド、カーボンブラックなどを炭素の供給源として用いて1300℃〜1600℃で行えばよい。熱処理時間は例えば30分間〜5時間が適当である。炭素るつぼを用いて熱処理を行えば、炭素るつぼは処理容器としての役割とともにその表面からの炭素供給源としての役割も果たすので都合がよい(もちろん別個の炭素供給源をさらに添加することを妨げるものではない)。アルカリ金属の炭酸塩や酸化物は、例えばホウ素を含む処理対象物に含まれる重希土類元素の酸化物や酸化処理を行ったR−Fe−B系磁石合金に含まれる希土類元素の酸化物1重量部に対して0.1重量部〜2重量部用いればよい。なお、処理対象物が重希土類元素に加えて軽希土類元素を含む場合、この説明中の「重希土類元素」は「重希土類元素と軽希土類元素」と読み替えることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0041】
(本発明の第1の方法)
実施例1:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
2からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=59:41)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径が2mm以下の粒状のもの)に対し、大気雰囲気中で900℃で5時間熱処理することで酸化処理を行った。酸化処理を行う前の使用済みDy拡散源と酸化処理を行った使用済みDy拡散源のICP分析(使用装置:島津製作所社製のICPV−1017。以下同じ)の結果を表1に示す。酸化処理を行った使用済みDy拡散源に含まれる酸素の量は希土類元素(重希土類元素であるDyと軽希土類元素であるNd,Pr)に対してモル比率で4.4倍であった。
【0042】
【表1】
【0043】
次に、酸化処理を行った使用済みDy拡散源5.00gと各種の量の酸化ホウ素(B
2O
3)を混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気(酸素含有濃度:0.2ppm、流量:5L/分。以下同じ)中で1450℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷した。それぞれの場合における熱処理後の炭素るつぼを室温まで炉冷した後のるつぼ内の様子を
図1に示す。
図1から明らかなように、供給した酸化ホウ素の量が少ない場合(添加量:0.13g,0.20g,0.27g)、るつぼ内には2種類の塊状物Aと塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在した。一方、供給した酸化ホウ素の量が多い場合(添加量:0.93g,1.22g)、るつぼ内には塊状物Aと粉状物Bがるつぼに固着せずに存在した。塊状物Aおよび塊状物Bと粉状物BのそれぞれのSEM・EDX分析(使用装置:日立ハイテクノロジーズ社製のS4500。以下同じ)の結果を表2に示す(表中の「モル比率」は酸化処理を行った使用済みDy拡散源に含まれる希土類元素(Dy,Nd,Pr)に対する酸化ホウ素によって供給されるホウ素のモル比率を意味する。以下同じ)。表2から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bと粉状物Bの主成分は希土類元素であり、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった(これらの希土類元素が酸化物であることは別途に行った標準試料を用いたX線回折分析において念のため確認した)。また、塊状物Bと粉状物Bにはホウ素が含まれていた(別途に行ったICP分析による)。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例2:
実施例1と同様にして、酸化処理を行った使用済みDy拡散源5.00gと酸化ホウ素0.27gを混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1350℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0046】
実施例3:
実施例1と同様にして、酸化処理を行った使用済みDy拡散源5.00gと酸化ホウ素0.27gを混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1650℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0047】
実施例4:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
3からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=49:51)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径が2mm以下の粒状のもの)を処理対象物とすること以外は実施例3と同様にして酸化処理を行った後、熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0048】
実施例5:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
2からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=59:41)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径を300μm以下に調整したもの)30.0gを処理対象物として、実施例1と同様にして酸化処理を行った後、カーボンブラック(東海カーボン社製のファーネスブラック、以下同じ)4.2gと混合し、または、カーボンブラック4.2gと酸化ホウ素1.32gと混合し、それぞれ寸法が外径70mm×高さ60mm×肉厚10mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1050℃で12時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、いずれもるつぼ内には粗い粒子が接合してなる単一の塊状物(わずかな力で壊れる脆いもの)がるつぼの底面全体に固着せずに存在した。それぞれのるつぼ内から回収した単一の塊状物を構成する個々の粒子の断面のSEM・EDX分析の結果を
図2(断面SEM像)と表3に示す。
図2と表3から明らかなように、それぞれの塊状物を構成する個々の粒子は相Aと相Bからなる2相構造を有し、相Aは鉄を主成分とし、相Bは希土類元素を主成分とすることがわかった。それぞれの塊状物を構成する個々の粒子を市販の擂潰機を用いて粉砕した後、磁気的方法によって5μm程度の大きさの鉄を主成分とする相Aの粉末を分離することで、1μm程度の大きさの希土類元素を主成分とする相Bの粉末を回収することができた(酸化ホウ素の添加の有無にかかわらず回収できることがわかった)。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例6:
酸化処理を行った使用済みDy拡散源5.00gに対して酸化ホウ素を混合しないこと以外は実施例1と同様にして熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には粗い粒子が接合してなる単一の塊状物がるつぼの底面全体に固着せずに存在した。るつぼ内から回収した単一の塊状物を構成する個々の粒子は、実施例5においてるつぼ内から回収した単一の塊状物を構成する個々の粒子と同様、鉄を主成分とする相Aと希土類元素を主成分とする相Bからなる2相構造を有するものであり、市販の擂潰機を用いた粉砕操作と磁気的方法による分離操作によって希土類元素を主成分とする相Bの粉末を回収することができた。
【0051】
(本発明の第2の方法)
実施例7:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
2からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=59:41)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径が2mm以下の粒状のもの)を処理対象物として以下の実験を行った。使用済みDy拡散源のICP分析(使用装置:島津製作所社製のICPV−1017。以下同じ)の結果を表
4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
R−Fe−B系永久磁石の製造工程中に発生した約10μmの粒径を有する磁石加工屑(自然発火防止のため水中で7日間保管したもの)に対し、吸引ろ過することで脱水してから大気雰囲気中で火をつけて燃焼処理を行うことで酸化処理を行った。こうして酸化処理を行った磁石加工屑のICP分析結果を表
5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
次に、各種の量の使用済みDy拡散源と酸化処理を行った磁石加工屑5.00gを混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気(酸素含有濃度:0.2ppm、流量:5L/分。以下同じ)中で1450℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷した。それぞれの場合における熱処理後の炭素るつぼを室温まで炉冷した後のるつぼ内の様子を
図3に示す。
図3から明らかなように、るつぼ内には2種類の塊状物Aと塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在した。塊状物Aおよび塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析(使用装置:日立ハイテクノロジーズ社製のS4500。以下同じ)の結果を表6に示す(表中の酸化処理を行った磁石加工屑についての「酸化の程度」は使用済みDy拡散源に含まれる希土類元素と酸化処理を行った磁石加工屑に含まれる希土類元素の合計量(希土類元素:重希土類元素であるDyと軽希土類元素であるNd,Pr)に対する酸化処理を行った磁石加工屑に含まれる酸素のモル比率を意味し、「添加モル比率」は使用済みDy拡散源に含まれる希土類元素に対する酸化処理を行った磁石加工屑に含まれるホウ素換算のモル比率を意味する。以下同じ)。表6から明らかなように、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素であり、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった(これらの希土類元素が酸化物であることは別途に行った標準試料を用いたX線回折分析において念のため確認した)。また、塊状物Bにはホウ素が含まれていた(別途に行ったICP分析による)。なお、使用済みDy拡散源0.25gに対し、酸化処理を行った磁石加工屑を混合することなく上記の同様の熱処理を行った場合、熱処理後の炭素るつぼを室温まで炉冷した後のるつぼ内には単一の粉状物のみが存在し、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができなかった。
【0056】
【表6】
【0057】
実施例8:
実施例7と同様にして、使用済みDy拡散源0.25gと酸化処理を行った磁石加工屑5.00gを混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1350℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0058】
実施例9:
実施例7と同様にして、使用済みDy拡散源0.25gと酸化処理を行った磁石加工屑5.00gを混合し、寸法が外径35mm×高さ15mm×肉厚5mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1650℃で1時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0059】
実施例10:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
3からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=49:51)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径が2mm以下の粒状のもの)を処理対象物とすること以外は実施例9と同様にして熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0060】
実施例11:
実施例7に記載の使用済みDy拡散源に対して大気雰囲気中で900℃で5時間熱処理することで酸化処理を行った使用済みDy拡散源を処理対象物とすること以外は実施例9と同様にして熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には鉄を主成分とする塊状物Aと希土類元素を主成分とする塊状物Bが互いに独立かつ密接してるつぼに固着して存在したことから、重希土類元素であるDyを軽希土類元素であるNd,Prとともに酸化物として鉄から分離することができたことがわかった。
【0061】
実施例12:
特許文献1に記載の方法に従ってR−Fe−B系永久磁石に重希土類元素としてDyを拡散させるために調製されたDy拡散源(DyFe
2からなる合金片。重量比がおよそDy:Fe=59:41)であって、特許文献1に記載の方法に従って850℃〜1000℃の温度範囲で所定の期間、使用した後のもの(使用済みDy拡散源。粒径を300μm以下に調整したもの)3.00gを処理対象物として、実施例7に記載の酸化処理を行った磁石加工屑30.0gとカーボンブラック(東海カーボン社製のファーネスブラック)4.1gと混合し、寸法が外径70mm×高さ60mm×肉厚10mmの炭素るつぼ(黒鉛製)に収容した後、工業用アルゴンガス雰囲気中で1050℃で12時間熱処理した。その後、炭素るつぼを室温まで炉冷したところ、るつぼ内には粗い粒子が接合してなる単一の塊状物(わずかな力で壊れる脆いもの)がるつぼの底面全体に固着せずに存在した。るつぼ内から回収した単一の塊状物を構成する個々の粒子の断面のSEM・EDX分析の結果を
図4(断面SEM像)と表7に示す。
図4と表7から明らかなように、この塊状物を構成する個々の粒子は相Aと相Bからなる2相構造を有し、相Aは鉄を主成分とし、相Bは希土類元素を主成分とすることがわかった。この塊状物を構成する個々の粒子を市販の擂潰機を用いて粉砕した後、磁気的方法によって5μm程度の大きさの鉄を主成分とする相Aの粉末を分離することで、1μm程度の大きさの希土類元素を主成分とする相Bの粉末を回収することができた。
【0062】
【表7】