(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板側から数えて第1層目の上記金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体フィルム。
透明基板側から数えて第3層目の上記第2金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とする請求項1または5に記載の積層体フィルム。
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の積層体フィルム。
透明基板側から数えて第1層目の上記金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とする請求項8に記載の電極基板フィルム。
透明基板側から数えて第3層目の上記第2金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とする請求項8または12に記載の電極基板フィルム。
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする請求項12または13に記載の電極基板フィルム。
上記第2工程において、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により上記金属吸収層を形成することを特徴とする請求項15に記載の積層体フィルムの製造方法。
上記第4工程において、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により上記第2金属吸収層を形成することを特徴とする請求項15または17に記載の積層体フィルムの製造方法。
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする請求項17または18に記載の積層体フィルムの製造方法。
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムの製造方法において、
請求項1〜7のいずれかに記載の積層体フィルムの積層膜を化学エッチング処理して、線幅が20μm以下である上記積層細線を配線加工することを特徴とする電極基板フィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯電子文書機器、自動販売機、カーナビゲーション等のフラットパネルディスプレイ(FPD)表面に設置する「タッチパネル」が普及し始めている。
【0003】
上記「タッチパネル」には、大きく分けて抵抗型と静電容量型が存在する。「抵抗型のタッチパネル」は、樹脂フィルムから成る透明基板と該基板上に設けられたX座標(またはY座標)検知電極シート並びにY座標(またはX座標)検知電極シートと、これ等シートの間に設けられた絶縁体スペーサーとで主要部が構成されている。そして、上記X座標検知電極シートとY座標検知電極シートは空間的に隔たっているが、ペン等で押さえられたときに両座標検知電極シートは電気的に接触してペンの触った位置(X座標、Y座標)が判るようになっており、ペンを移動させればその都度座標を認識して、最終的に文字の入力が行なえる仕組みとなっている。他方、「静電容量型のタッチパネル」は、絶縁シートを介してX座標(またはY座標)検知電極シートとY座標(またはX座標)検知電極シートが積層され、これ等の上にガラス等の絶縁体が配置された構造を有している。そして、ガラス等の上記絶縁体に指を近づけたとき、その近傍のX座標検知電極、Y座標検知電極の電気容量が変化するため、位置検知を行なえる仕組みとなっている。
【0004】
そして、電極等の回路パターンを構成する導電性材料として、従来、ITO(酸化インジウム−酸化錫)等の透明導電膜が広く用いられていた(特許文献1参照)。また、タッチパネルの大型化に伴い、特許文献2や特許文献3等に開示されたメッシュ構造の金属製細線(金属膜)も使用され始めている。
【0005】
上記透明導電膜と金属製細線(金属膜)を較べた場合、透明導電膜は、可視波長領域における透過性に優れるため電極等の回路パターンが殆ど視認されない利点を有するが、金属製細線(金属膜)より電気抵抗値が高いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化には不向きな欠点を有する。他方、金属製細線(金属膜)は、電気抵抗値が低いためタッチパネルの大型化や応答速度の高速化に向いているが、可視波長領域における反射率が高いため、例え微細なメッシュ構造に加工されたとしても高輝度照明下において回路パターンが視認されることがあり、製品価値を低下させてしまう欠点を有する。
【0006】
そこで、電気抵抗値が低い上記金属製細線(金属膜)の特性を生かすため、樹脂フィルムから成る透明基板と金属製細線(金属膜)との間に金属酸化物から成る金属吸収層(黒化膜と称される)を介在させて(特許文献4、特許文献5参照)、透明基板側から観測される(すなわち、透明基板越しに観察される)金属製細線(金属膜)の反射を低減させる方法が提案されている。
【0007】
そして、金属酸化物から成る上記金属吸収層は、金属酸化物の成膜効率を図る観点から、通常、金属ターゲット(金属材)と反応性ガスを用いた反応性スパッタリング等により長尺状樹脂フィルム面に成膜され、かつ、成膜された金属吸収層上に銅等の金属ターゲット(金属材)を用いたスパッタリング等により金属層が成膜されて電極基板フィルムの作製に使用される積層体フィルムが製造されている。
【0008】
また、タッチパネル等の構成部品として用いられる電極基板フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板と該基板に設けられた金属吸収層と金属層から成る積層膜を有する積層体フィルムの上記積層膜を塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液によりエッチング処理し、積層体フィルムの上記積層膜(金属吸収層と金属層)を電極等の回路パターンに加工して製造されている。
【0009】
このため、電極基板フィルムの作製に使用される積層体フィルムは、積層膜(金属吸収層と金属層)が塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液等のエッチング液によりエッチングされ易い特性と、エッチング加工された電極等の回路パターンが高輝度照明下において視認され難い特性が要求される。
【0010】
ところで、樹脂フィルムから成る透明基板と金属製細線(金属膜)との間に金属酸化物から成る上記金属吸収層(黒化膜)を介在させることで、透明基板越しに観察される回路パターンが視認され難くはなったが、樹脂フィルムから成る透明基板と金属吸収層(黒化膜)との界面における光学反射をゼロにすることは困難なため、回路パターンの上記視認性については未だ改善の余地を有していた。
【0011】
特に、樹脂フィルムから成る透明基板eの両面に回路パターンが形成され、かつ、透明基板e側から数えて第2層目bの金属層の一部が湿式めっき法によりそれぞれ形成されると共に、透明基板e側から数えて第3層目cの第2金属吸収層が上記金属層上に成膜された電極基板フィルムにおいては、透明基板e越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と透明基板との界面における正反射g)が、
図6に示すように透明基板e側から数えて第3層目cの第2金属吸収層からの正反射に較べて大きいため、例え透明基板と金属製細線(金属膜)との間に金属酸化物から成る金属吸収層(黒化膜)を介在させたとしても、透明基板越しに観察される回路パターンが視認されてしまう場合があった。そして、透明基板e側から数えて第1層目aの金属吸収層と第3層目cの第2金属吸収層をそれぞれ同じ条件で反応性スパッタリング成膜により形成したとしても、透明基板e越しに観察される第1層目aの金属吸収層からの反射が目立ってしまうため、これを改善する必要性が存在した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、エッチング処理後において透明基板越しに観察される積層細線(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層)からの反射を低下させて、高輝度照明下においても回路パターンが視認され難い電極基板フィルムと該電極基板フィルムの作製に使用される積層体フィルムを提供し、合わせて積層体フィルムと電極基板フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、透明基板越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板e側から数えて第1層目aの金属吸収層と透明基板eとの界面における正反射g)に較べ、透明基板e側から数えて第3層目cの第2金属吸収層からの正反射が小さくなる原因について本発明者が調査したところ、透明基板e側から数えて第2層目bである金属層の一部が湿式めっき法によりそれぞれ形成された電極基板フィルムにおいては、湿式めっき法により形成された金属層の表面が粗面になっているため、
図6に示すように第3層目cの第2金属吸収層表面も粗面になる結果、第2金属吸収層表面の光散乱が多くなる分、第2金属吸収層からの正反射が小さくなっていることを発見するに至った。
【0015】
そこで、電極基板フィルム(積層体フィルム)を構成している透明基板、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層、第2層目である金属層、および、第3層目の第2金属吸収層の表面粗さについてそれぞれ調べたところ、樹脂フィルムから成る透明基板の表面粗さはRa0.005μm程度、透明基板と金属吸収層界面における表面粗さもRa0.005μm程度であることが確認され、また、一部が湿式めっき法で形成された金属層の表面粗さはRa0.02μm程度、金属層上に成膜される第2金属吸収層の表面粗さもRa0.02μm程度であることが確認された。
【0016】
そして、透明基板越しに観察される積層細線からの反射を低下させるには、透明基板と第1層目の金属吸収層との界面における表面粗さについて、透明基板側から数えて第3層目である第2金属吸収層の表面粗さと同程度に設定する必要があることが確認された。
【0017】
本発明はこのような調査と技術的分析を経て完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成される積層体フィルムにおいて、
上記積層膜が形成される前の透明基板の表面に、表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を備えると共に、
上記アンチグレア層上に形成される積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有することを特徴とする。
【0019】
第2の発明は、
第1の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
JIS K5600−5−4 1999に準拠する上記アンチグレア層のひっかき硬度がH以下であることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第2層目の金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明または第3の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第2層目の金属層の一部が、湿式めっき法により形成されていることを特徴とし、
また、第5の発明は、
第1の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第1層目の上記金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とし、
第6の発明は、
第1の発明または第5の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第3層目の上記第2金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とし、
第7の発明は、
第5の発明または第6の発明に記載の積層体フィルムにおいて、
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする。
【0020】
次に、第8の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられたメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムにおいて、
上記回路パターンは、透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜を加工して形成された線幅20μm以下の積層細線で構成されており、
上記積層膜が形成される前の透明基板の表面に、表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を備えると共に、
上記アンチグレア層上に形成される積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有することを特徴とする。
【0021】
第9の発明は、
第8の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
JIS K5600−5−4 1999に準拠する上記アンチグレア層のひっかき硬度がH以下であることを特徴とし、
第10の発明は、
第8の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第2層目の金属層の膜厚が、50nm以上5000nm以下であることを特徴とし、
第11の発明は、
第8の発明または第10の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第2層目の金属層の一部が、湿式めっき法により形成されていることを特徴とし、
第12の発明は、
第8の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第1層目の上記金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とし、
第13の発明は、
第8の発明または第12の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
透明基板側から数えて第3層目の上記第2金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されていることを特徴とし、
また、第14の発明は、
第12の発明または第13の発明に記載の電極基板フィルムにおいて、
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする。
【0022】
次に、第15の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成される積層体フィルムの製造方法において、
上記透明基板の少なくとも一方の面に表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を形成する第1工程と、
上記積層膜の透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層を上記アンチグレア層上に形成する第2工程と、
上記積層膜の透明基板側から数えて第2層目の金属層を上記金属吸収層上に形成する第3工程と、
上記積層膜の透明基板側から数えて第3層目の第2金属吸収層を上記金属層上に形成する第4工程、
を具備することを特徴とする。
【0023】
また、第16の発明は、
第15の発明に記載の積層体フィルムの製造方法において、
上記第3工程において、上記金属層の一部を湿式めっき法により形成することを特徴とし、
第17の発明は、
第15の発明に記載の積層体フィルムの製造方法において、
上記第2工程において、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により上記金属吸収層を形成することを特徴とし、
第18の発明は、
第15の発明または第17の発明に記載の積層体フィルムの製造方法において、
上記第4工程において、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により上記第2金属吸収層を形成することを特徴とし、
また、第19の発明は、
第17の発明または第18の発明に記載の積層体フィルムの製造方法において、
上記合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金で構成されていることを特徴とする。
【0024】
更に、第20の発明は、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有する電極基板フィルムの製造方法において、
第1の発明〜第7の発明のいずれかに記載の積層体フィルムの積層膜を化学エッチング処理して、線幅が20μm以下である上記積層細線を配線加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成される本発明に係る積層体フィルムは、
上記積層膜が形成される前の透明基板の表面に、表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を備えると共に、
上記アンチグレア層上に形成される積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有することを特徴としている。
【0026】
そして、積層体フィルムの積層膜をエッチング加工して積層細線(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有する)から成る回路パターンが形成される電極基板フィルムによれば、
透明基板と積層細線との間にアンチグレア層を有し、透明基板越しに観測される積層細線(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層)からの反射がアンチグレア層の作用により低減されるため、高輝度照明下においても上記積層細線から成る回路パターンが視認され難い効果を有する。
【0027】
特に、樹脂フィルムから成る透明基板の両面に積層細線から成る回路パターンが形成され、かつ、透明基板側から数えて第2層目の金属層の一部が湿式めっき法によりそれぞれ形成されている電極基板フィルムにおいては、上記アンチグレア層の作用により、透明基板越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と透明基板との界面における反射)と、透明基板側から数えて第3層目の第2金属吸収層からの正反射が同程度に揃えられるため、上記積層細線から成る回路パターンが更に視認され難くなる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について従来技術と共に詳細に説明する。
【0030】
(1)従来技術に係る積層体フィルム
(1-1)従来技術に係る第一の積層体フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成され、積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層を有すると共に、金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されている。
【0031】
そして、従来技術に係る第一の積層体フィルムは、
図1に示すように樹脂フィルムから成る透明基板40と、該透明基板40の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された金属吸収層41、43と金属層42、44とで構成されている。
【0032】
尚、上記金属層については、乾式成膜法(乾式めっき法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成してもよい。
【0033】
すなわち、
図2に示すように樹脂フィルムから成る透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された膜厚15nm〜30nmの金属吸収層51、53と、該金属吸収層51、53上に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された金属層52、54と、該金属層52、54上に湿式成膜法(湿式めっき法)により形成された金属層55、56とで構成してもよい。
【0034】
(1-2)従来技術に係る第二の積層体フィルムは、上記第一の積層体フィルムを前提とし、積層膜が、透明基板側から数えて第3層目の第2金属吸収層を有すると共に、第2金属吸収層が、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成されている。
【0035】
そして、従来技術に係る第二の積層体フィルムは、
図2に示した第一の積層体フィルムを前提とし、該積層体フィルムの金属層上に第2金属吸収層を形成して成るものである。
【0036】
すなわち、
図3に示すように樹脂フィルムから成る透明基板60と、該透明基板60の両面に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された膜厚15nm〜30nmの金属吸収層61、63と、該金属吸収層61、63上に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された金属層62、64と、該金属層62、64上に湿式成膜法(湿式めっき法)により形成された金属層65、66と、該金属層65、66上に乾式成膜法(乾式めっき法)により形成された膜厚15nm〜30nmの第2金属吸収層67、68とで構成されている。
【0037】
ここで、
図3に示す第二の積層体フィルムにおいて、符号62、65で示す金属層の両面に金属吸収層61と第2金属吸収層67を形成し、また、符号64、66で示す金属層の両面に金属吸収層63と第2金属吸収層68を形成しているのは、該積層体フィルムを用いて作製された電極基板フィルムをタッチパネルに組み込んだときに金属製積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンが反射して見えないようにするためである。
【0038】
尚、樹脂フィルムから成る透明基板の片面に金属吸収層を形成し、該金属吸収層上に金属層が形成された第一の積層体フィルムを用いて電極基板フィルムを作製した場合にも、該透明基板からの上記回路パターンの視認を防止することが可能である。
【0039】
(2)従来技術に係る電極基板フィルム
(2-1)従来技術に係る積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して、線幅が20μm以下である積層細線に配線加工することにより電極基板フィルムを得ることができる。例えば、
図3に示す積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して
図4に示すような電極基板フィルムを得ることができる。
【0040】
すなわち、
図4に示す従来技術に係る電極基板フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板70と、該透明基板70の両面に設けられた積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有し、上記積層細線が、線幅20μm以下でかつ透明基板70側から数えて第1層目の金属吸収層71、73と、第2層目の金属層72、75、74、76と、第3層目の第2金属吸収層77、78とで構成されている。
【0041】
そして、電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることで、従来技術に係る電極基板フィルムをタッチパネルに用いることができる。また、電極(配線)パターンに配線加工された積層細線は、積層体フィルムの積層構造を維持していることから、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが視認され難い電極基板フィルムとして提供することができる。
【0042】
(2-2)そして、従来技術に係る積層体フィルムから電極基板フィルムに配線加工するには、公知のサブトラクティブ法により加工が可能である。
【0043】
サブトラクティブ法は、積層体フィルムの積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して配線パターンを形成する方法である。
【0044】
上記記化学エッチングのエッチング液としては、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液を用いることができる。
【0045】
(3)従来技術に係る積層体フィルムと電極基板フィルムの問題点
図4に例示した従来技術に係る電極基板フィルムにおいては、樹脂フィルムから成る透明基板70と金属層72、75、74、76との間に金属酸化物から成る金属吸収層71、73を介在させているため、透明基板70越しに観察される回路パターンの視認性は低減されている。
【0046】
しかし、樹脂フィルムから成る透明基板70と金属酸化物から成る金属吸収層71、73との界面における光学反射をゼロにすることは、従来技術において説明したように困難なため、回路パターンの視認性については未だ改善の余地を有していた。
【0047】
特に、
図4に示す電極基板フィルムのように、樹脂フィルムから成る透明基板70の両面に回路パターンが形成され、かつ、透明基板70側から数えて第2層目の金属層の一部(符号75、76で示す)が湿式めっき法により形成され、更に、透明基板70側から数えて第3層目の第2金属吸収層77、78が上記金属層75、76上に成膜された電極基板フィルムにおいては、透明基板70越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板70側から数えて第1層目の金属吸収層71、73と透明基板70との界面における反射:
図6の符号gで示す第1層目正反射)が、
図6に示すように透明基板e(
図4:符号70)側から数えて第3層目cの第2金属吸収層(
図4:符号77、78)からの正反射に較べて大きいため、例え、
図6に示すように透明基板e(
図4:符号70)と第2層目bの金属層(
図4:符号72、75、74、76)との間に金属酸化物から成る金属吸収層(
図6の符号aで示す第1層目)を介在させたとしても、透明基板e越しに観察される回路パターンが視認されてしまう場合があった。
【0048】
尚、回路パターンが視認される原因は、透明基板e(
図4:符号70)側から数えて第2層目bである金属層の一部(
図4において符号75、76で示す部位)が湿式めっき法により形成されて金属層表面が粗面になっているため、
図6に示すように第3層目cの第2金属吸収層(
図4:符号77、78)表面も粗面になる結果、第2金属吸収層77、78表面の光散乱が多くなる分、第2金属吸収層77、78からの正反射が小さくなるためであった。
【0049】
(4)本発明に係る積層体フィルムと電極基板フィルム
本発明に係る積層体フィルムは、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜とで構成され、上記積層膜が形成される前の透明基板の表面に、表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を備えると共に、上記アンチグレア層上に形成される積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有することを特徴とし、
また、本発明に係る電極基板フィルムは、
樹脂フィルムから成る透明基板と該透明基板の少なくとも一方の面に設けられたメッシュ構造の回路パターンを有し、上記回路パターンは、透明基板の少なくとも一方の面に設けられた積層膜を加工して形成された線幅20μm以下の積層細線で構成されており、上記積層膜が形成される前の透明基板の表面に、表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%のアンチグレア層を備えると共に、上記アンチグレア層上に形成される積層膜が、透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層を有することを特徴とするものである。
【0050】
(4-1)本発明に係る第一の積層体フィルム
本発明に係る第一の積層体フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板の少なくとも一方の面に設けられたアンチグレア層と、該アンチグレア層上に設けられかつ透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層から成る積層膜とで構成されると共に、上記アンチグレア層の表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%であることを特徴とする。
【0051】
尚、従来技術に係る積層体フィルムと同様、第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層は、下記成膜材料を用いた乾式成膜法(乾式めっき法)により形成され、かつ、第2層目の金属層については、乾式成膜法(乾式めっき法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成してもよい。
【0052】
(4-2)本発明に係る第二の積層体フィルム
本発明に係る第二の積層体フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板と、該透明基板の少なくとも一方の面に設けられたアンチグレア層と、少なくとも一方の面にアンチグレア層が設けられた透明基板の両面に成膜されかつ透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層から成る一対の積層膜とで構成されると共に、上記アンチグレア層の表面粗さRaが0.2μm以下でかつヘイズ値が2.5〜10%であることを特徴とする。
【0053】
尚、従来技術に係る積層体フィルムと同様、第1層目の金属吸収層と第2層目の金属層と第3層目の第2金属吸収層は、下記成膜材料を用いた乾式成膜法(乾式めっき法)により形成され、かつ、第2層目の金属層については、乾式成膜法(乾式めっき法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成してもよい。
【0054】
(4-3)本発明に係る電極基板フィルム
本発明に係る上記第一若しくは第二の積層体フィルムの積層膜をエッチング処理し、線幅が20μm以下である積層細線に配線加工することにより本発明に係る電極基板フィルムを得ることができる。
【0055】
例えば、
図7に示す本発明に係る電極基板フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板eと、該透明基板eの片面に設けられたアンチグレア層fと、片面にアンチグレア層fが設けられた透明基板eの両面に設けられた積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有し、上記積層細線が、線幅20μm以下でかつ透明基板e側から数えて第1層目aの金属吸収層と、第2層目bの金属層と、第3層目cの第2金属吸収層とで構成されている。
【0056】
尚、第2層目bである金属層が、乾式成膜法(乾式めっき法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成されており、
図7に示すように第3層目cである第2金属吸収層の表面は粗面化された状態になっている。
【0057】
また、
図7に示す電極基板フィルムおいては、透明基板eの片面にアンチグレア層fが設けられているが、透明基板eの両面にアンチグレア層fを設けてもよい。
【0058】
そして、電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることで、本発明に係る電極基板フィルムをタッチパネルに用いることができる。また、電極(配線)パターンに配線加工された積層細線は、積層体フィルムの積層構造を維持し、透明基板e側に第1層目aの金属吸収層が存在するため、高輝度照明下においても透明基板eに設けられた電極等の回路パターンが視認され難い電極基板フィルムとして提供することができる。
【0059】
更に、
図7に示す本発明に係る電極基板フィルムにおいては、透明基板eの片面に設けられたアンチグレア層fの作用により、透明基板e越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板e側から数えて第1層目aの金属吸収層と透明基板eとの界面における第1層目正反射g)と、透明基板e側から数えて第3層目cの第2金属吸収層からの正反射が同程度に揃えられるため、積層細線から成る回路パターンが更に視認され難くなる利点を有する。
【0060】
そして、本発明に係る積層体フィルムから上記電極基板フィルムに配線加工するには、従来技術と同様、上述した公知のサブトラクティブ法により加工が可能である。
【0061】
(5)本発明に係る積層体フィルムと電極基板フィルムの構成材料
(5-1)透明基板を構成する樹脂フィルム
上記樹脂フィルムの材質としては特に限定されることはなく、その具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0062】
尚、本発明に係る積層体フィルムを用いて作製される電極基板フィルムは「タッチパネル」等に使用するため、上記樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
【0063】
(5-2)金属吸収層の構成材料(金属材)
透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層および第3層目である第2金属吸収層は、Ni単体若しくはCu単体、または、Ni、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Znより選ばれた2種以上の元素を含む合金から成る金属材と窒素や酸素を含む反応性ガスを用いた反応成膜法により形成され、上記金属材として特にCu単体若しくはNi−Cu合金が好ましい。また、金属吸収層を構成する金属酸化物の酸化が進み過ぎると金属吸収層が透明になってしまうため、黒化膜になる程度の酸化レベルに設定することを要する。上記反応成膜法としては、マグネトロンスパッタ、イオンビームスパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等がある。また、金属吸収層の各波長における光学定数(屈折率、消衰係数)は、反応の度合い、すなわち、酸化度や窒化度に大きく影響され、CuやNi系合金から成る金属材だけで決定されるものではない。
【0064】
(5-3)金属層の構成材料(金属材)
上記金属層の構成材料(金属材)としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えば、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、または、Ag単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、特に、Cu単体が、回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。また、金属層の膜厚は電気特性に依存するものであり、光学的な要素から決定されるものではないが、通常、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定される。
【0065】
そして、金属層の望ましい膜厚は、電気抵抗の観点からは50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましい。一方、金属層を配線パターンに加工する加工性の観点からは5μm(5000nm)以下が好ましく、3μm(3000nm)以下がより好ましい。
【0066】
(5-4)アンチグレア処理(アンチグレア層の形成)
上記アンチグレア層は樹脂フィルムから成る透明基板の少なくとも一方の面にハードコート層として形成され、アンチグレア層を構成するハードコート層は樹脂と微粒子を含有し、該樹脂には紫外線硬化型のウレタン系樹脂やアクリル系樹脂等が用いられる。
【0067】
また、アンチグレア層の硬度は、粒径500nm以下のシリカゾル等の無機ゾルを添加することにより制御できる。
【0068】
そして、アンチグレア層には、粒径0.5μm〜20μmでかつアンチグレア層における層厚の二倍以内の粒径を有する微粒子を加えることができる。また、微粒子には無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。無機微粒子には、酸化ケイ素微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、硫酸カルシウム微粒子等を選択することができ、有機微粒子には、ポリメタクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末(PMMA微粒子)、シリコーン樹脂粉末、ポリスチレン樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、アクリルスチレン樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、ポリオレフィン樹脂粉末、ポリエステル樹脂粉末、ポリアミド樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂粉末等を選択することができる。
【0069】
更に、微粒子の粒径や配合の割合は、アンチグレア層の表面粗さRaやヘイズ値を考慮して適宜定めることができ、また、アンチグレア層の層厚は30μm以下望ましくは10μm以下であり、光学特性に応じて適宜設定される。
【0070】
ところで、アンチグレア処理の評価方法にヘイズ測定(JISK7136)がある。
【0071】
図8にヘイズ測定の概略を示す。すなわち、アンチグレア処理が施されたPETフィルム(透明基板)iを積分球hの光入射側に固定し、かつ、積分球hの他端側開口部を拡散板で閉止した状態にして光を入射させ、積分球h内を多重反射した光を積分球下方に設けられた受光器で計測して「全光透過率」jを測定する。次に、上記積分球hの他端側開口部を拡散板で閉止しない状態にして光を入射させ、積分球h内を多重反射した光(但し、開口部を透過した光は含まれない)を上記受光器で計測して「散乱光透過率」kを測定する。
【0072】
そして、ヘイズ値=(散乱光透過率)÷(全光透過率)の数式からヘイズ値を求める。
【0073】
尚、透明基板の片面にアンチグレア層が設けられた場合のヘイズ値は10%以下が望ましい。アンチグレア層のヘイズ値が10%を超えた場合、タッチパネルを通して観察されるフラットパネルディスプレイの画像を曇らせ、視認性(透過率)を悪化させる。特に、本発明に係る積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して電極基板フィルムに加工した場合、エッチングにより積層膜が除去された透明基板のアンチグレア層を介してフラットパネルディスプレイの画像が観測されることになるため、透明基板に設けられたアンチグレア層のヘイズ値は10%以下が望ましい。
【0074】
また、上述したように樹脂フィルムから成る透明基板の両面にアンチグレア層を設けてもよい。透明基板の両面にアンチグレア層を設ける場合、それぞれの面のアンチグレア層のヘイズ値が10%以下であればよい。両面にアンチグレア層が設けられた電極基板フィルムを介しフラットディスプレイパネルの画像を観察した場合においても視認性に悪影響を与えない各アンチグレア層のヘイズ値は、各々10%以下である。
【0075】
アンチグレア処理を施した透明基板のヘイズ値は、
図9に示すようにアンチグレア層内に含まれる微粒子の粒径(粒子サイズs)と密度(粒子密度m)によって主に決定され、微粒子の粒径サイズが大きく、粒子密度が高い程、ヘイズ値に大きく影響する。また、粒径の大きな微粒子を採用した場合、メタルメッシュタッチパネル(メッシュ構造の回路パターンを有するタッチパネル)の後工程において、該メタルメッシュタッチパネルと他のフィルム等と貼り合わせを行うときに隙間を生じさせてしまうことがある。
【0076】
また、積層体フィルムや該積層体フィルムを加工して得られる電極基板フィルムの特性としては、ヘイズ値は低い方が望ましい。しかし、積層膜(金属吸収層)の反射率を下げるためには、アンチグレア層の表面粗さがRaで0.1μm以上必要である。そして、アンチグレア層の表面粗さRaを0.1μm以上にすると、アンチグレア層に含まれる微粒子を任意に選択してもヘイズ値は2.5%以上になる。
【0077】
更に、メタルメッシュタッチパネル(メッシュ構造の回路パターンを有するタッチパネル)は平面で使用する以外に曲面あるいは折り曲げて使用することがある。アンチグレア層に使用するコート材は硬化後(使用できる状態)で表面硬度(JIS K5600−5−4 1999に準拠する)2H以上のタイプが一般的であるが、
図10(A)に示すように硬質なコート材は折り曲げの際に割れてしまうことがある。
図10(B)に示すように上記割れを防止するには、硬化後(使用できる状態)の鉛筆硬度がHB〜H程度の軟らかいコート材を選択するとよい。この場合、JIS K5600−5−4 1999に準拠するアンチグレア層のひっかき硬度(鉛筆硬度)がH以下の条件を満たすなら、JIS K5600−5−1 1999に規定される「塗膜の機械的性質−耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」において、マンドレル径2mmφ以下を実現することができる。
【0078】
(6)反応成膜法を実施する成膜装置
(6-1)スパッタリングウェブコータ
成膜法の一例としてスパッタリング法を挙げ、その成膜装置について説明する。
【0079】
尚、この成膜装置はスパッタリングウェブコータと称され、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルム表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に用いられる。
【0080】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、
図5に示すように真空チャンバー10内に設けられており、巻き出しロール11から巻き出された長尺樹脂フィルム12に対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール24で巻き取るようになっている。これ等巻き出しロール12から巻き取りロール24までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール16が配置されている。このキャンロール16の内部には、真空チャンバー10の外部で温調された冷媒が循環している。
【0081】
真空チャンバー10内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10
-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。真空チャンバー10の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。また、真空チャンバー10内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー10にはドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置(図示せず)が組み込まれている。
【0082】
巻き出しロール11からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール13と、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール14とがこの順で配置されている。また、張力センサロール14から送り出されてキャンロール16に向かう長尺樹脂フィルム12は、キャンロール16の近傍に設けられたモータ駆動の前フィードロール15によってキャンロール16の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルム12を密着させることができる。
【0083】
キャンロール16から巻き取りロール24までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール22および長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0084】
上記巻き出しロール11および巻き取りロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルム12の張力バランスが保たれている。また、キャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15、後フィードロール21により、巻き出しロール11から長尺樹脂フィルム12が巻き出されて巻き取りロール24に巻き取られるようになっている。
【0085】
キャンロール16の近傍には、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路(すなわち、キャンロール16外周面の内の長尺樹脂フィルム12が巻き付けられる領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20が設けられ、この近傍に反応性ガスを放出するガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が設置されている。
【0086】
ところで、上記金属吸収層と金属層のスパッタリング成膜を実施する際、
図5に示すように板状のターゲットを使用できるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなくかつターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0087】
(6-2)反応性スパッタリング
金属酸化物から成る金属吸収層を成膜する目的で酸化物ターゲットを適用した場合、成膜速度が遅く量産に適さない。このため、高速成膜が可能なNi系若しくはCu系の金属ターゲット(金属材)を用い、かつ、酸素を含む反応性ガスを制御しながら導入する反応性スパッタリング等の反応成膜法が採られている。
【0088】
そして、反応性ガスを制御する方法として以下の4つの方法が知られている。
(6-2-1)一定流量の反応性ガスを放出する方法。
(6-2-2)一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法。
(6-2-3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法。
(6-2-4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0090】
[実施例1〜16,比較例1〜20]
(アンチグレア層の形成)
アンチグレア層用の樹脂として、2種類の硬質並びに軟質の紫外線硬化型アクリル系樹脂を適用し、かつ、添加用の微粒子として粒径0.5μm〜1μmのポリメタクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末(PMMA微粒子)を適用すると共に、PMMA微粒子の粒径と配合量を適宜選択して、表1の「ヘイズ値(%)」「表面粗さRa(μm)」「未成膜フィルムの透過率T(%)」および表2の「表面硬度」欄に示す数値に設定された層厚1μmのアンチグレア層をPETフィルムの片面に形成し、アンチグレア処理がなされた実施例1〜16と比較例1〜20に係る透明基板を調製した。
【0091】
尚、アンチグレア層を有しない透明基板を「参考例」とした。
【0092】
(特性評価用積層フィルムの製造)
次に、アンチグレア処理がなされた実施例1〜16と比較例1〜20に係る透明基板および参考例に係る透明基板に対し、
図5に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて「第1層目の金属吸収層」と「第2層目の金属層」を形成して積層体フィルムの前駆体である特性評価用積層フィルムを製造した。
【0093】
尚、特性評価用積層フィルムの特性対象は、表2に示す「成膜後、PETフィルム越しに測定する波長550nmにおける5°正反射率R(%)」「貼り合わせ時の隙間発生有無」、および、JIS K5600−5−1 1999に準拠するマンドレル径1mmφの「180°曲げ試験のコート割れ」とした。
【0094】
すなわち、
図5に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、反応性ガスには酸素ガスを用いると共に、キャンロール16は、直径600mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。前フィードロール15と後フィードロール21は直径150mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、各マグネトロンスパッタリングカソード17、18、19、20の上流側と下流側にガス放出パイプ25、26、27、28、29、30、31、32を設置し、かつ、マグネトロンスパッタリングカソード17、18には金属吸収層用のNi−Cuターゲット、マグネトロンスパッタリングカソード19と20には金属層用のCuターゲットを取り付けた。
【0095】
また、透明基板を構成する樹脂フィルムには、厚さ50μm、幅600mmで長さ1200mのPETフィルムを用い、キャンロール16は0℃に冷却制御した。また、真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0096】
そして、実施例1〜16と比較例1〜20に係る透明基板および参考例に係る樹脂フィルムの搬送速度を2m/分にした後、上記ガス放出パイプ29、30、31、32からアルゴンガスを500sccm導入し、カソード19と20については、Cu膜厚80nmが得られる電力制御で成膜を行った。一方、金属吸収層も
図5に示すガス放出パイプ25、26、27、28からアルゴンガス500sccmと酸素ガス50sccmが混合された混合ガスを導入し、
図5に示すカソード17と18については、Ni−Cu酸化膜厚30nmが得られる電力制御で成膜を行った。
【0097】
尚、実施例16に係る樹脂フィルムの金属吸収層に用いたスパッタリングターゲットは、他の実施例と比較例等の「Ni−Cu」と異なる「Cu」としている。
【0098】
(特性評価)
次に、実施例1〜16と比較例1〜20に係る特性評価用積層フィルム、および、参考例に係る特性評価用積層フィルムについて、上記「成膜後、PETフィルム越しに測定する波長550nmにおける5°正反射率R(%)」「貼り合わせ時の隙間発生有無」、および、JIS K5600−5−1 1999に準拠するマンドレル径1mmφの「180°曲げ試験のコート割れ」を測定した。
【0099】
この結果を以下の表1と表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
(評価結果)
(1)アンチグレア層が設けられた実施例1〜16と比較例1〜20に係る特性評価用積層フィルム、および、参考例に係る特性評価用積層フィルムの「成膜後、PETフィルム越しに測定する波長550nmにおける5°正反射率R(%)」欄から分かるように、アンチグレア処理を施すことによりPETフィルム越しに観測される波長550nmにおける5°正反射率R(%)が低減されていることが確認される。そして、PETフィルム越しに観測される波長550nmにおける5°正反射率R(%)が低減されていることから、実施例1〜16と比較例1〜20に係るアンチグレア層を有する透明基板の両面に積層細線から成る回路パターンが形成され、かつ、透明基板側から数えて第2層目の金属層の一部が湿式めっき法によりそれぞれ形成されている電極基板フィルムにおいては、上記アンチグレア層の作用により、透明基板越しに観察される回路パターンからの正反射(透明基板側から数えて第1層目の金属吸収層と透明基板との界面における反射)と、透明基板側から数えて第3層目の第2金属吸収層からの正反射が同程度に揃えられるため、上記積層細線から成る回路パターンが極めて視認され難くなる効果を有することが確認される。
【0103】
(2)アンチグレア層の「表面粗さRaが0.2μm以下」並びに「ヘイズ値が2.5〜10%」(表1参照)およびJIS K5600−5−4 1999に準拠するアンチグレア層の「ひっかき硬度がH以下」(表2参照)の要件を満たす実施例1〜10、16に係る特性評価用積層フィルムの「貼り合わせ時の隙間発生有無」(表2参照)とJIS K5600−5−1 1999に準拠するマンドレル径1mmφの「180°曲げ試験のコート割れ」(表2参照)欄において全て「なし」と評価されていることから分かるように、実施例1〜10、16に係るアンチグレア層を有する透明基板を用いて製造された電極基板フィルム(メタルメッシュタッチパネル)においては、該メタルメッシュタッチパネルと他のフィルムを貼り合わせるときに隙間を生じさせてしまう弊害がなく、かつ、該メタルメッシュタッチパネルを曲面あるいは折り曲げて使用しても
図10(A)に示すようなアンチグレア層の割れが発生することもない効果を有することが確認される。
【0104】
(3)一方、アンチグレア層の「表面粗さRaが0.2μm以下」と「ヘイズ値が2.5〜10%」(表1参照)の要件は満たすがJIS K5600−5−4 1999に準拠するアンチグレア層の「ひっかき硬度がH以下」(表2参照)の要件を満たさない実施例11〜15に係る特性評価用積層フィルムのJIS K5600−5−1 1999に準拠するマンドレル径1mmφの「180°曲げ試験のコート割れ」欄(表2参照)から分かるように、アンチグレア層のひっかき硬度がHを越えた透明基板を用いて製造された電極基板フィルム(メタルメッシュタッチパネル)においては、該メタルメッシュタッチパネルを曲面あるいは折り曲げて使用した場合にアンチグレア層の割れを生ずることがあるため平面で使用する方が望ましいことが確認される。
【0105】
(4)他方、アンチグレア層の「表面粗さRaが0.2μm以下」(表1参照)なる要件を満たさない比較例5〜11および比較例14〜20に係る特性評価用積層フィルムの「貼り合わせ時の隙間発生有無」(表2参照)欄の評価「有り」から分かるように、比較例5〜11および比較例14〜20に係るアンチグレア層を有する透明基板を用いて製造された電極基板フィルム(メタルメッシュタッチパネル)においては、該メタルメッシュタッチパネルと他のフィルムを貼り合わせるときに隙間を生じさせてしまう弊害があることが確認される。
【0106】
(5)また、アンチグレア層の「ヘイズ値が2.5〜10%」(表1参照)なる要件を満たさない比較例1〜2、3〜4、10〜13および19〜20に係る特性評価用積層フィルムの「未成膜フィルムの透過率T(%)」(表1参照)から分かるように、アンチグレア層の「ヘイズ値が2.5〜10%」なる要件を満たさない透明基板を用いた場合、透過率が90%未満になってしまうことが確認される。