特許第6233738号(P6233738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233738
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/288 20060101AFI20171113BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20171113BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20171113BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20171113BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20171113BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01L21/288 Z
   H01L21/88 B
   H05K3/12 610G
   C09D11/02
   C09D11/52
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-46492(P2013-46492)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-175448(P2014-175448A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二郎
(72)【発明者】
【氏名】熊木 大介
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−062391(JP,A)
【文献】 特開2008−041340(JP,A)
【文献】 特開2009−268972(JP,A)
【文献】 特開2012−124076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/288
C09D 11/02
C09D 11/52
H01L 21/3205
H01L 21/768
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に水系インクで印刷して薄膜を形成する方法において、
前記水系インクが水を20質量%以上含む組成からなり、
印刷された前記水系インクの乾燥工程における相対湿度を30%rh以上、温度を30℃とし、かつ、乾燥時間を60分以下の範囲内で調整することにより前記薄膜の断面形状を制御することを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記水系インクが、導電インク、可溶性半導体材料、又は可溶性絶縁性材料であることを特徴とする請求項1記載の薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷により形成される薄膜の形成方法に関し、特に、薄膜トランジスタや積層型キャパシタ等の電子素子の配線形成技術において、電極や回路等となる薄膜の平坦化が求められる分野に好適な薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷手法によりエレクトロニクスデバイスを創出する技術、いわゆるプリンテッドエレクトロニクスは、材料の消費量を抑制し、生産効率を向上させることができる等のメリットを有しており、実用化に向けた研究開発が進められている。
【0003】
このプリンテッドエレクトロニクスにおいては、より高精細なデバイス作製が求められることから、印刷されたパターンの形状を制御することが非常に重要な課題となっている。しかしながら、10cPs程度の低粘度インクをインクジェット印刷により形成した薄膜は、インクの乾燥後、該薄膜の端部が盛り上がり、膜厚が不均一となる、いわゆる「コーヒーリング効果」の影響等により、平坦性に劣るという問題が生じていた(非特許文献1参照)。
【0004】
これに対しては、インクの組成を変更したり、インク中に界面活性剤を添加したりする等、インクを改良することにより平坦性を改善することが提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献2参照)。
また、特許文献2には、印刷されたインクの気−液界面における液層表面の中央部を、電位差(電界)により電気的に引き上げながら乾燥させて、インキを平坦に固化させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−184407号公報
【特許文献2】特開2012−194313号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. D.Deegan et al., Nature, 389, 827-829 (1997)
【非特許文献2】P. J.Yunker et al., Nature, 476, 308-311 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなインクの改良は、形成される薄膜の組成や機能の変動を生じさせることとなり、また、印刷されたインクに電気的処理を施す上記方法は、印刷基材の形態が限定的であり、工程及び装置が複雑化し、高コストとなるものであった。
【0008】
したがって、印刷されたインクにより形成された薄膜を、簡便かつ低コストな方法によって平坦性を改善する手段が求められていた。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、基材表面にインクで印刷することにより形成された薄膜の平坦性を改善するために、該薄膜の断面形状を簡便かつ低コストで制御することができる薄膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る薄膜の形成方法は、基材表面に水系インクで印刷して薄膜を形成する方法において、前記水系インクが水を20質量%以上含む組成からなり、印刷された前記水系インクの乾燥工程における相対湿度を30%rh以上、温度を30℃とし、かつ、乾燥時間を60分以下の範囲内で調整することにより前記薄膜の断面形状を制御することを特徴とする。
このように、インク印刷後の乾燥工程における乾燥条件を調整することにより、インク印刷により形成された薄膜の断面形状を任意に制御することができる。
【0011】
上記の薄膜の形成方法においては、前記水系インクは、導電インク、可溶性半導体材料、又は可溶性絶縁性材料であることが好ましい。
前記乾燥条件の調整による薄膜の断面形状の制御効果は、特に、このような水系インクにおいて顕著である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材表面にインクで印刷して形成された薄膜の断面形状を、簡便かつ低コストで制御することができ、これにより、前記薄膜の平坦性の改善を図ることができる。
したがって、本発明に係る薄膜の形成方法を用いることにより、薄膜トランジスタや積層型キャパシタ等の電子素子における薄膜電極や薄膜回路等の平坦化又は形状の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において、乾燥時の相対湿度を調整した場合の各薄膜の断面形状を示した図である。
図2】実施例1において形成した各薄膜(電極)の抵抗率と乾燥時の相対湿度との関係を示したグラフである。
図3】実施例2において、乾燥時間を調整した場合の各薄膜の断面形状を示した図である。
図4】実施例3において、乾燥時間を調整した場合の各薄膜の断面形状を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る薄膜の形成方法は、基材表面にインクで印刷して薄膜を形成する方法において、印刷された前記インクの乾燥工程における相対湿度を30%rh以上、かつ、乾燥時間を60分以下の範囲内で調整することよって、前記薄膜の断面形状を制御するものである。
本発明は、インク印刷によって形成された薄膜の平坦性が、そのインク乾燥時の湿度及び乾燥時間に依存することを見出したことに基づくものである。すなわち、インク印刷後、後工程である乾燥工程における湿度及び乾燥時間を調整することにより、インク印刷により形成された薄膜の断面形状を任意に制御可能となる。
【0015】
前記インクとしては、水を20質量%以上含む組成からなるものが好適に用いられる。
このような水系インクによれば、前記乾燥工程における湿度及び乾燥時間の調整による薄膜の断面形状の制御効果が顕著であるため好ましい。
前記インクには、プリンテッドエレクトロニクスにおける薄膜形成材料を適用することができ、具体的には、金や銀等の金属ナノ粒子インクもしくはその他の導電インク、可溶性半導体材料又は可溶性絶縁性材料等が挙げられる。
【0016】
また、印刷方法は、特に限定されるものではなく、インクジェット印刷やスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷等のいずれの方法でもよいが、これらのうち、インクジェット印刷が直接的かつ効率的であり、高精細な薄膜形成において簡便で好適な方法であるため好ましい。
【0017】
インク印刷によって形成される薄膜の断面形状は、おおよそ、凹型、角丸台形型及び凸型の3種類に区別される。
比較的湿度の低い状態又は短時間で乾燥させた場合には、コーヒーリング効果によって薄膜の端部が盛り上がった凹型断面となる傾向にある。
一方、湿度が非常に高い状態又は長時間かけて乾燥させた場合には、薄膜の中央部が盛り上がった蒲鉾型又は凸型断面となる傾向にある。このような形状の変化は、高湿度環境下においては、コーヒーリング効果よりも、インク内の濃度均一化による拡散が支配的になったためであると考えられる。
【0018】
そして、前記凹型断面になる場合と前記凸型断面になる場合との間の湿度及び乾燥時間で乾燥した場合、薄膜の端部から中央部にかけて平坦化されたほぼ角丸台形型の断面形状が得られる。
したがって、上記のような乾燥条件の調整のみによって、インク印刷によって形成された薄膜の断面形状を簡便に制御することができ、前記薄膜の平坦性を改善することが可能となる。
【0019】
しかも、上記のような本発明に係る方法によれば、薄膜の断面形状を制御するためにインク組成を変化させる必要がないため、断面形状によって薄膜の電気的・化学的特性等を損なうことなく、所望の断面形状の薄膜の形成が可能となる。
したがって、本発明に係る薄膜の形成方法は、薄膜トランジスタや積層型キャパシタ等の電子素子における薄膜電極や薄膜回路等の平坦化あるいはまた形状の制御に好適に適用することができる。
【0020】
前記乾燥工程における相対湿度及び乾燥時間は、印刷に用いられるインク組成やインクの溶媒によって異なり、また、所望の薄膜の断面形状に応じて適宜調整される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。なお、下記実施例においては、銀ナノ粒子インクの印刷による薄膜電極を形成する場合を代表例として説明するが、本発明は銀ナノ粒子インクの印刷による薄膜の形成に限定されるものではない。
[実施例1]相対湿度の調整
ガラス基板上に架橋ポリビニルフェノール膜による下地層が形成されたものを基材とし、その上に、インクジェット法により銀ナノ粒子インクを用いて、幅130μmの直線を印刷した。前記銀ナノ粒子インクの組成は、水が35〜45質量%、銀が25〜35質量%である。
インク印刷した基材を複数作製し、それぞれ、所定の温度・湿度に調整した乾燥試験機中に静置して乾燥させ、その後、140℃で1時間焼成し、薄膜を形成した。乾燥条件は、乾燥温度30℃、乾燥時間30分とし、相対湿度を30〜100%rhの範囲内で変化させた。
【0022】
図1に、相対湿度が30%rh、80rh%、85rh%又は90rh%の場合の各薄膜の断面形状を示す。図1に示したように、銀薄膜の断面形状は、相対湿度が30〜80%rhでは凹型、85%rhではほぼ角丸台形型、90%rh以上では凸型であった。このことから、乾燥時の相対湿度の調整により、印刷により形成された薄膜の断面形状を制御可能であると言える。
【0023】
また、形成した銀薄膜(電極)について抵抗率を測定した。その測定結果と乾燥時の相対湿度との関係を図2に示す。図2に示したように、相対湿度が85%rh以上の場合、抵抗率が低下していることから、電極の導電性を損なうことなく、電極の断面形状を制御可能であると言える。
【0024】
[実施例2]乾燥時間の調整(相対湿度90%rh)
実施例1と同様にして、銀ナノ粒子インクで印刷した基材を複数作製し、それぞれ、所定の温度・湿度で乾燥させた後、焼成し、薄膜を形成した。乾燥条件は、乾燥温度30℃、相対湿度90%rhとし、乾燥時間を5〜45分の範囲内で変化させた。
【0025】
図3に、乾燥時間が5分、10分、15分、30分又は45分の場合の各薄膜の断面形状を示す。図3に示したように、銀薄膜の断面形状は、乾燥時間が5分では凹型、10分では台形型、15分以上では凸型であった。このことから、乾燥時間の調整により、印刷により形成された薄膜の断面形状を制御可能であると言える。
【0026】
[実施例3]乾燥時間の調整(相対湿度80%rh)
実施例1と同様にして、銀ナノ粒子インクで印刷した基材を複数作製し、それぞれ、所定の温度・湿度で乾燥させた後、焼成し、薄膜を形成した。乾燥条件は、乾燥温度30℃、相対湿度80%rhとし、乾燥時間を15〜45分の範囲内で変化させた。
【0027】
図4に、乾燥時間が15分、30分又は45分の場合の各薄膜の断面形状を示す。図4に示したように、銀薄膜の断面形状は、長時間(45分)の乾燥でも凹型であり、大きな形状変化はなかった。
実施例3,4から、乾燥時間の調整により、前記銀ナノ粒子インクでの印刷により形成された薄膜の断面形状を制御するためには、高湿度であるほど、形状変化が速やかであり、相対湿度90%rh以上であることが好ましいと言える。
図1
図2
図3
図4