特許第6233828号(P6233828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6233828リチウムイオン電池用負極、該負極を具備するリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6233828
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極、該負極を具備するリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20171113BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20171113BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20171113BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20171113BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/485
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-208116(P2012-208116)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-63644(P2014-63644A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年4月30日
【審判番号】不服2016-17498(P2016-17498/J1)
【審判請求日】2016年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】周 豪慎
(72)【発明者】
【氏名】李 会巧
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 宮本 純
【審判官】 池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−068305(JP,A)
【文献】 特開2005−158604(JP,A)
【文献】 特開2008−077847(JP,A)
【文献】 特開2010−218824(JP,A)
【文献】 特開2009−032689(JP,A)
【文献】 特開2012−178352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/ 00- 4/ 62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li3VO4からなり、リチウムイオンを吸蔵・放出するリチウムイオン電池用負極活物質であって、0.5-3.0V vs Li/Li+範囲での充放電容量が180mAh/g以上であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質を全負極活物質の50質量%以上として使用することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項3】
請求項1に記載の負極活物質又は請求項に記載の負極材料を具備するリチウムイオン電池。
【請求項4】
バナジウム金属又はバナジウム含有化合物とリチウム含有化合物とをモル比でLi:V=3:1となるように混合・粉砕し、得られた混合粉を空気中500〜1100℃で焼成することを特徴とする、0.5-3.0V vs Li/Li+範囲での充放電容量が180mAh/g以上であるリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
バナジウム含有化合物がV2O5であり、リチウム含有化合物がLi2CO3であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池用負極材料、及び、リチウムイオン電池に関する。より具体的には、安全性が高く、充放電電位や充放電容量が比較的高い、リチウム電池用負極、リチウムイオン電池用負極材料、及び、該負極を具備するリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等と比較して高電圧、高容量を有し、しかも軽量である。そのため、近年では、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源としての利用が拡大している。
【0003】
このリチウム二次電池の負極活物質には、現在、黒鉛等の炭素材料が一般的に使用されている。しかしながら、黒鉛等の炭素材料は、その電位がLi/Li+に近いため、低温環境下等において金属リチウムが析出し、デンドライド状に成長して電極間の内部短絡を招くという懸念があり、高い安全性が要求される用途に使用するには問題がある。
【0004】
金属リチウム析出の懸念を無くし、高安全性を確保するため、電位がLi/Li+に対し1.5VのLi4Ti5O12が注目され(例えば、特許文献1、2参照)、一部が電池自動車に使われている。しかしながら、Li4Ti5O12は、負極として用いる際の電位が高いため、正極活物質にリチウムコバルト複合酸化物やリチウムマンガン複合酸化物を用いた場合でも、取り出せる電圧が1.6V程度と低くなり、容量も160mA/g程度とあまり大きくないという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-020912号公報
【特許文献2】特開2011-060764号公報
【特許文献3】特開2003-68305号公報
【特許文献4】特開2008-77847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような従来技術を背景として、本発明は、安全性が高く、しかも、充放電電位や充放電容量が比較的高い、リチウムイオン電池用負極材料、リチウムイオン電池用負極、リチウム電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、安全性が高く、しかも、充放電電位や充放電容量が比較的高いリチウムイオン電池用負極材料を求めて、数多くの試験研究を行った。
このような多くの候補材料の探索過程で、Li3VO4は、その電位がLi/Li+に対し約1.0Vであり、炭素材料よりも金属リチウムが析出する危険性が小さく、高い安全性を確保可能であること、公知のLi4Ti5O12より電位が約0.5V低くなり、Li/Li+に対し十分高く、充放電電位をLi4Ti5O12より高くできること、充放電容量もLi4Ti5O12よりも高くなること等の知見を得た。
また、Li3VO4において、Liの一部やVの一部を他の所定の金属元素に置換しても、同様の充放電電位や充放電容量が得られることが想定された。
【0008】
なお、Li3VO4は、LiVO2等の負極活物質を固相法により製造する際に、その一部として生成することが知られていた(特許文献3、4参照)。しかしながら、炭素材料よりも高容量で、かつ、炭素材料と同程度の高電位となるLiVO2等の負極活物質に対し、Li3VO4は、電池性能を低下させる不純物乃至負極活物質粒の粒径拡大用助剤として認識されていただけであった。
【0009】
本発明者は、そのように不純物扱いされ、リチウムイオン電池の負極活物質の主要成分として利用することが全く想定されていなかったLi3VO4や、そのLiの一部やVの一部を他の所定の金属元素に置換したLi3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を負極活物質の主要部として使用することにより、前述の課題が達成できることを見出したのである。
【0010】
本発明は、上述のような知見に基づいてなされたものであり、次のような特徴を有するものである。
(1)Li3VO4を、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質の50質量%以上として使用することを特徴とするリチウムイオン電池用負極。
(2)Li3VO4を、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質の50質量%以上として使用することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材料。
(3)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質の50質量%以上として使用することを特徴とするリチウムイオン電池用負極。
(4)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質の50質量%以上として使用することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材料。
(5)(1)若しくは(3)に記載の負極又は(2)若しくは(4)に記載の負極材料を具備するリチウムイオン電池。
(6)バナジウム金属又はバナジウム含有化合物とリチウム含有化合物とをモル比でLi:V=3:1となるように混合・粉砕し、得られた混合粉を空気中500〜1100℃で焼成することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
(7)バナジウム含有化合物がV2O5であり、リチウム含有化合物がLi2CO3であることを特徴とする(6)に記載のリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
【0011】
本発明は、さらに、次のような実施態様を含むことができる。
(8)0.0<X<2.0、0.0<Y<0.3である(5)に記載のリチウムイオン電池。
(9)0.0<X<1.0、0.0<Y<0.2である(5)に記載のリチウムイオン電池。
(10)0.0<X<0.5、0.0<Y<0.1である(5)に記載のリチウムイオン電池。
(11)充放電開始電位が1.0V vs Li/Li+ になるLi3VO4を負極活物質の50質量%以上として使用するリチウムイオン電池。
(12)0.2-3.0V vs Li/Li+範囲で充放電容量が280mAh/g以上になるLi3VO4を負極活物質の50質量%以上として使用するリチウムイオン電池。
(13)0.5-3.0V vs Li/Li+範囲で充放電容量が180mAh/g以上になるLi3VO4を負極活物質の50質量%以上として使用するリチウムイオン電池。
(14)Li3VO4を、負極活物質の50質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(15)Li3VO4を、負極活物質の85質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(16)Li3VO4を、負極活物質の95質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(17)Li3VO4を、負極活物質の全て(100質量%)として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(18)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、負極活物質の50質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(19)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、負極活物質の85質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(20)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、負極活物質の95質量%以上として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(21)Li3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)を、負極活物質の全て(100質量%)として使用するリチウムイオン電池用負極又はリチウムイオン電池用負極材料。
(22)上記(14)〜(21)のいずれか1項に記載の負極又は負極材料を具備するリチウムイオン電池。
(23)バナジウム含有化合物が、酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、四塩化バナジウム、三塩化バナジウム、メタバナジン酸塩、ポリバナジン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、リチウム含有化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、亜硫酸リチウム、酢酸リチウム、弗化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、沃化リチウム、酪酸リチウム、リチウムアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(4)に記載のリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
(24)バナジウム含有化合物が、酸化バナジウムから選ばれる1種又は2種以上であり、リチウム含有化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウムから選ばれる1種又は2種であることを特徴とする(6)又は(23)に記載のリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用負極の活物質であるLi3VO4は、Li/Li+に約1.0Vであり、炭素材料よりも金属リチウムが析出する危険性が小さく、高い安全性を確保可能である。しかも、該Li3VO4は、公知のLi4Ti5O12より約0.5V低くなり、Li/Li+に対し十分高い。そのため、充放電電位をLi4Ti5O12より高くできる。さらに、該Li3VO4は、充放電容量もLi4Ti5O12よりも高い。
また、Liの一部やVの一部を上述のような他の金属元素に置換したLi3-XMaXV1-YMbYO4(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)も、充放電電位や充放電容量はそれほど大きくは変化しないと考えられる。
それ故、該Li3VO4やLi3-XMaXV1-YMbYO4を負極活物質の50質量%以上とする本発明のリチウムイオン電池用負極、リチウムイオン電池用負極材料、及び、該負極や負極材料を具備するリチウム二次電池は、安全性が高く、かつ、充放電電位や充放電容量も比較的高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で合成されたLi3VO4粉のX線回折パターンを示す図面。
図2】実施例で合成されたLi3VO4粉の電流密度20mA/g、Li/Li+に対し0.2〜3.0Vの条件における最初の3サイクルの放電/充電曲線を示すグラフ(図中、1、2、3は、それぞれ、第1サイクル、第2サイクル、第3サイクルを示す。)。
図3】実施例で合成されたLi3VO4粉の電流密度20mA/g、Li/Li+に対し0.5〜3.0Vの条件における最初の3サイクルの放電/充電曲線を示すグラフ(図中、1、2、3は、それぞれ、第1サイクル、第2サイクル、第3サイクルを示す。)。
図4】実施例で合成されたLi3VO4粉のGITT法を用いた場合の第2サイクルにおける充電/放電曲線を示すグラフ。GITT法の条件:充電時には、電流密度15mA/gで10分間充電と、電池を準平衡状態にリラックスするため20分間休止とを繰り返す。放電時には、電流密度15mA/gで10分間放電と、電池を準平衡状態にリラックスするため20分間休止とを繰り返す。
図5】実施例で合成されたLi3VO4粉の電流密度20mA/g、Li/Li+に対し0.2V〜3Vの範囲の条件での充放電サイクル特性を示す図面(図中、■は放電、□は充電を示す。)。
図6】実施例で合成されたLi3VO4粉の電流密度40mA/g、Li/Li+に対し0.5V〜3Vの範囲の条件での充放電サイクル特性を示す図面(図中、■は放電、□は充電を示す。)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のリチウムイオン電池用負極は、負極活物質の主要成分としてLi3VO4を用いることを基本的な特徴とするが、Liの一部は、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素で置換されていても良いし、また、Vの一部は、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素で置換されていても良い。そのような負極活物質は、次の一般式で表される。
Li3-XMaXV1-YMbYO4
(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5、Maは、Na、Kから選択される1種又は2種の金属元素、Mbは、B、Si、Ge、Ga、Sn、Mg、Ca、Al、Co、Ni、Fe、Ti、Mn、Cu、Sc、及び、Crから選択される少なくとも1種の金属元素)
前記一般式において、好ましくは、0.0<X<2.0、0.0<Y<0.3、より好ましくは、0.0<X<1.0、0.0<Y<0.2、さらに好ましくは、0.0<X<0.5、0.0<Y<0.1である。
【0015】
本発明で用いる活物質Li3VO4は、充放電電位が1.0V vs Li/Li+を示すため、炭素材料よりも金属リチウムが析出する危険性が小さく、高い安全性を確保可能である。しかも、該Li3VO4は、公知のLi4Ti5O12より約0.5V低くなり、充放電電位をLi4Ti5O12より高くすることができる。
また、本発明で用いる活物質Li3VO4は、0.2-3.0V vs Li/Li+範囲での充放電容量が280mAh/g以上(現在の確認値で、約330mAh/g程度まで)、0.5-3.0V vs Li/Li+範囲での充放電容量が180mAh/g以上(現在の確認値で、約240mAh/g程度まで)となり、公知のLi4Ti5O12より顕著に大きな充放電容量を示す。
また、Liの一部やVの一部を上述のような他の金属元素に置換しても、充放電電位や充放電容量はそれほど大きくは変化しないと考えられる。
【0016】
本発明で使用するLi3VO4(Li3-XMaXV1-YMbYO4)は、どのような製造方法で製造されたものでも良いが、例えば、次の(1)、(2)のような製造プロセスにより製造することができる。
(1)バナジウム金属又はバナジウム含有化合物とリチウム含有化合物(必要により、置換金属元素の化合物)とをモル比でLi:V=3:1〔Li:V:Ma:Mb=3-X:1-Y:X:Y(0.0<X<3.0、0.0<Y<0.5)〕となるように混合・粉砕する。
(2)得られた混合粉を空気中500〜1100℃(好ましくは700〜900℃)で焼成する。
焼成して得られたLi3VO4(Li3-XMaXV1-YMbYO4)は、負極材料として使用する際に、適宜粉砕して粉体化乃至粒子化することができる。
【0017】
製造に用いるバナジウム含有化合物としては、限定するものではないが、例えば、酸化バナジウム類(V2O5、V2O4、V2O3、V3O4等)、オキシ三塩化バナジウム、四塩化バナジウム、三塩化バナジウム、メタバナジン酸塩(メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム等)、ポリバナジン酸塩(十バナジン酸六ナトリウム、十バナジン酸六アンモニウム等)が挙げられるが、好ましくは、V2O3である
【0018】
製造に用いるリチウム含有化合物としては、限定するものではないが、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、亜硫酸リチウム、酢酸リチウム、弗化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、沃化リチウム、酪酸リチウム、リチウムアルコキシド等が挙げられるが、好ましくは、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウムである。
【0019】
該Li3VO4の負極活物質に占める割合は、その電位をLi/Li+に対し約1.0V前後(0.9〜1.1V)にするために50質量%以上とする。好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0020】
Li3VO4以外の負極活物質としては、限定するものではないが、例えば、LiVO2、LiVO3等の他のリチウムバナジウム複合酸化物の外、Li4Ti5O12、LiTNbO3、Li2TWO4等のリチウム含有金属酸化物などが挙げられる。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池用負極は、負極材料として、負極活物質(負極材料の60〜95質量%程度、好ましくは70〜85質量%)以外に、導電剤(同3〜38質量%程度、好ましくは8〜23質量%)、結着剤(同2〜37質量%程度、好ましくは7〜22質量%)、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤等の添加物を含有することができる。
導電剤としては、限定するものではないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、炭素繊維等の炭素質材料、金属粉等の金属材料、導電性高分子材料等が挙げられる。
結着剤としては、限定するものではないが、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエン等の合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレン等の高分子材料を挙げることができる。
【0022】
本発明のリチウムイオン電池用負極の対極である正極の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することができ、本発明の負極活物質より電位が貴な材料のうちから任意のものを使用することができる。限定するものではないが、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiFeO2、LiM1XM2YOZ(X、Y、Zは任意の実数であり、M1、M2は遷移金属)等を挙げることができる。
正極は、正極材料として正極活物質以外に、前述の負極と同様に、導電剤、結着剤、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤等の添加物を含有することができる。
【0023】
各電極は、電極支持基板乃至集電体を具備することができる。電極支持基板乃至集電体としては、限定するものではないが、銅、ニッケル、ステンレス鋼、アルミニウム等からなる箔、シート、ネット乃至グリッド、炭素繊維からなる織布、ネット乃至グリッドなどが挙げられる。
【0024】
電解質としては、非水溶媒に電解質塩を0.7〜1.5M(モル/リットル、好ましくは、0.8〜1.2M)溶解させた非水電解液を用いることができる。非水電解液としては、有機溶媒と電解質塩とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、非水型電池に用いられるものであればいずれも使用可能であり、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等やこれらの混合物を用いることができる。
電解質塩としては、限定するものではないが、LiClO4、LiPF6、LiBF4、CH3SO3Li、LiCl、LiBr等を用いることができる。
【0025】
また、非水電解質として、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物などに電解質を混合または溶解させた固体状若しくはゲル状電解質等を用いることもできる。
【0026】
本発明のリチウムイオン電池は、負極、正極、電解質、必要により、セパレータを具備するものであり、その形態は、コイン、ボタン、シート、シリンダー、角形等のいずれであっても良い。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の材料変更、設定調整、設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0028】
<Li3VO4の合成>
乾燥V2O5粉末とLi2CO3粉末とをモル比でLi:V=3:1となるように粉砕機(ボールミル)で良く混合した。混合粉末は、500〜1100℃に温度制御された炉内の空気雰囲気中で1〜72時間焼成された。得られた材料は、さらに粉砕され、電池テスト用の電極活物質とした。
【0029】
<Li3VO4の材料特性>
前記合成材料の結晶特性は、Bruker 社の回折装置(D8 Advanced Diffractometer)によるCuKa照射を用いた粉末X線回折〔Powder X-ray Diffraction (XRD)〕によって調べられた。その典型的なX線回折パターンを図1に示す。
【0030】
<Li3VO4の電気化学テスト例1>
リチウムイオン電池用の電極活物質としてのLi3VO4の電気化学性能は、Li3VO4含有電極、リチウム金属電極、及び、これらの電極間のポリプロピレンセパレータからなるコイン型電池を用いて評価された。Li3VO4含有電極は、Cuグリッドの集電体以外に、75質量%のLi3VO4、20質量%の導電剤、及び、5質量%の結着剤を含んでいる。電解液としては、1MのLiPF6を含むエチルカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)の混合物(体積比でEC:DEC=1:1)を使用した。単位重量当たりの容量は、Li3VO4含有電極のLi3VO4の重量に基づいて算出している。
【0031】
作成されたテスト用電池は、20 mA/gの電流密度、Li/Li+に対し0.2V〜3Vの範囲の条件で、初回の放電とその後の充電がなされた。図2に示すように、テスト用電池は、第1サイクルの放電容量が495mAh/g、第2サイクルの放電容量が325mAh/gであった。この大きな放電容量と、低い電位の比較的長い平坦部の両方からみて、リチウムイオン電池用のアノード材料(負極材料)として良好なものであると言える。Li3VO4の放電容量は、グラファイトと同等であり、Li3VO4の反応電位は、グラファイトよりやや高く、Li析出の危険性を避けるのに有効である。
【0032】
第2サイクルからは、充電容量は、放電容量に極めて近い値となっており、このことは、放電プロセス中に挿入された全てのリチウムイオンが充電により可逆的に脱離されることを示している。第3サイクルは、第2サイクルと放電容量がほぼ同様であるし、第2サイクルと同様の充放電カーブを有していることから、Li挿入/脱離(Li吸蔵/放出)の繰り返しにおけるLi3VO4の高い可逆性を示している。
【0033】
<Li3VO4の電気化学テスト例2>
上記テスト例1で用いたと同様の電池を、20mA/gの電流密度、Li/Li+に対し0.5V〜3Vの範囲の条件で、初回の放電とその後の充電がなされた。放電深度をLi/Li+に対し、例えば0.5Vの比較的高い終端電圧に制御したときには、図3に示されるように、Li3VO4は、第1サイクルの放電容量が370mAh/g、第2サイクルの充電容量が233mAh/gであった。第3サイクルの放電容量は、第2サイクルの放電容量と非常に近い値となっている。
【0034】
Li3VO4の0.5Vまで放電することにより得られた単位重量当たりの容量は、0.2Vまで放電する場合より小さいが、リチウムイオン電池におけるよく知られたアノード材料であるLi4Ti5O12の容量(150〜160mAh/g)に比べて依然としてかなり高いと言える。
【0035】
さらに、アノード材料(負極材料)の放電プロセスにおいて、0.5Vの高い終端電圧とすることによって、Liデンドライドの成長を良好に防止することができる。それ故、Li3VO4は、電池の安全使用のために適当なものである。
【0036】
<Li3VO4の電気化学テスト例3>
GITT(Galvanostatic Intermittent Titration Technology)法を用いることにより、Li3VO4のより正確な単位重量当たり容量を求めることができる。電池に対し、一定電流ステップとその後の休止ステップとの一連のステップが加えられるGITT法では、時間の関数としてポテンシャル変化結果が測定される。それぞれのサイクル中において、一定電流ステップでは、15mA/hの低い電流密度で10分間、その後、20分間休止し、準平衡状態に到達する。放電の際には、負電流が加えられ、0.2Vの終端電圧がそのプロセスを終了させる。充電の際には、正電流が加えられ、終端電圧は3.0Vである。GITT法を用いた第2充電・放電サイクル中におけるLi3VO4の電池プロファイルは、図4に示される。GITTモードによって得られる単位重量当たり容量(比容量)は、Li3+xVO4におけるx=2に応じて、400mAh/gにも到達することができる。その充電容量は、ほとんど放電容量と等しく、充電・放電プロセス間の非常によい可逆性を示している。Li3VO4の得られた可逆的な比容量は、既に商品として使用されているグラファイトアノードと比べて、やや高いことから、Li3VO4は、リチウムイオン電池の良好なアノード候補であることを示している。
【0037】
<Li3VO4の電気化学テスト例4>
深い放電深度と低電流密度でのLi3VO4の充放電サイクル性能は、図5に示されている(図中、■は放電、□は充電を示す。)。上記テスト例1で用いたと同様の電池は、電流密度20mA/g、Li/Li+に対し0.2V〜3Vの範囲の条件で、充放電された。記録されたサイクル中において、放電容量と充電容量との間において、明確な差異は見られなかった。第3サイクル後では、充電容量は、放電容量とほぼ同じ値となり、高いクーロン効率を示した。比容量は、充放電サイクルにおいて高い値を維持し、286mAh/gの容量は、25サイクル後においてもまだ得ることができ、Liの挿入/脱離におけるLi3VO4の良好なサイクル安定性を示している。
【0038】
<Li3VO4の電気化学テスト例5>
大きな電流密度でのLi3VO4の充放電サイクル性能は、図6に示されている(図中、■は放電、□は充電を示す。)。上記テスト例1で用いたと同様の電池は、電流密度40mA/g、Li/Li+に対し0.5V〜3Vの範囲の条件で、充放電された。サイクル数の増加の際、比容量の減少は、非常に僅かであり、良好な充放電サイクル性能を示している。25サイクル後、放電容量は、依然として197mAh/gを維持しており、第3サイクルで得られた値とほぼ同じであった。そのような充放電サイクル特性の容量は、より浅い放電深度と大きな電流レートの条件で得られる。この容量は、図5に示されるものより少し低い値となっている。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のリチウム電池用負極やリチウム電池用負極材料は、安全性が高く、かつ、充放電電位や充放電容量が比較的に高いリチウムイオン電池の構成部品として有用であり、高い安全性が求められる自動車用、家庭用蓄電設備等の各種のリチウムイオン電池に幅広く用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6