(54)【発明の名称】BBF2H7(BBF2 human homologue on chromosome7)部分アミノ酸配列を有するペプチドまたはそれに結合する抗体を含む細胞増殖調節用組成物
【文献】
Mol. Cell. Biol., 2007, Vol.27, No.5, pp.1716-1729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進作用を有するペプチドに結合する抗体またはその抗体断片を含む、細胞増殖抑制用組成物。
配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列のうち、19〜25ヌクレオチドの部分塩基配列に相補的な塩基配列を有するsiRNAを含む、細胞増殖抑制用組成物。
基底細胞癌,神経外胚葉腫瘍、髄膜腫、血管腫、膠芽腫、膵臓腺癌、扁平上皮肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、軟骨肉腫、乳癌、横紋筋肉腫、食道癌、胃癌、胆道癌、腎癌、甲状腺癌、骨癌、副腎癌、尿管癌、膀胱癌、大腸癌、前立腺癌または神経グリア芽細胞腫の治療用組成物である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進作用を有するペプチドを含む、細胞増殖促進用組成物。
配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進作用を有するペプチドをコードする核酸分子、または前記核酸分子を含むベクターを含む、細胞増殖促進用組成物。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】BBF2H7 C末端の機能。BBF2H7は、低酸素および低グルコースなどの癌微小環境あるいは慢性炎症により生じた小胞体ストレスに応答して膜内切断(RIP, regulated intramembrane proteolysis)され、そのN末端断片はストレス抵抗性を高める遺伝子を転写誘導する。一方切断された小胞体内腔側を向いたC末端断片は細胞外に分泌され、自身の細胞膜表面あるいは近傍の細胞の細胞膜表面に発現しているBBF2H7のC末端受容体(Ptch1)と結合することによって細胞増殖を促す。
【
図3】胎生期18.5日目の野生型(WT, (A)) およびBbf2h7欠損型(Bbf2h7 -/-, (B)) マウスにおける大腿骨骨端成長軟骨部のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像。Bbf2h7欠損マウスでは軟骨細胞の数が激減し、軟骨低形成を起こす。
【
図4】静止軟骨層、増殖軟骨層、肥大軟骨層の軟骨細胞数。RZ: resting zone (静止軟骨層)、 PZ: proliferating zone (増殖軟骨層)、 HZ: hypertrophic zone (肥大軟骨層) (mean ± SD, N = 3, *P < 0.05, unpaired Student’s-t-test)。Bbf2h7欠損マウスでは増殖軟骨層および肥大軟骨層の軟骨細胞が有意に減少している。
【
図5】初代培養軟骨細胞を用いたBrdU取り込みアッセイの結果(BrdU陽性細胞数の割合 (mean ± SD, N = 3, *P < 0.05, unpaired Student’s-t-test))。初代軟骨細胞の培養上清中にBrdUを添加し、24時間後に蛍光顕微鏡で観察した。Bbf2h7欠損細胞ではBrdU取り込みが有意に減少し、細胞増殖速度が明らかに低下している。
【
図6】野生型(WT)およびBbf2h7欠損初代培養軟骨細胞(Bbf2h7-/-)を用いたウェスタンブロッティング。細胞の可溶化画分(Cell lysate)を抗BB2H7 C-terminus抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、培養上清(Sup.)は、軟骨細胞の培養上清を抗BB2H7 C-terminus抗体で免疫沈降後、得られた免疫沈降画分について抗BB2H7 C-terminus 抗体でウェスタンブロッティングを行った。野生型軟骨細胞の培養上清中にBB2H7 C-terminusのバンドが検出され、BB2H7 C-terminusが細胞外に分泌されていることが明らかになった。
【
図7】(A) BBF2H7 N-terminusのアミノ酸配列(上段:ヒト、下段:マウス)。黒線はヒトとマウスで同一のアミノ酸、点線は極性が一致するアミノ酸を示す。(B) BBF2H7 C-terminusのアミノ酸配列(上段:ヒト(配列番号1)、下段:マウス(配列番号2))。黒線はヒトとマウスで同一のアミノ酸、点線は極性が一致するアミノ酸を示す。
【
図8】Full length BBF2H7、BBF2H7 N-terminus、BBF2H7 C-terminusのC末端側にルシフェラーゼタンパク質を融合させたコンストラクト。 BBF2H7 C-terminusのN末側の黒塗り部分はBiP signal peptideを示す。Luc.はルシフェラーゼを示す。
【
図9】Full length BBF2H7、BBF2H7 N-terminus、BBF2H7 C-terminusのC末端側にルシフェラーゼタンパク質を融合させたコンストラクトを発現させた初代培養軟骨細胞のルシフェラーゼ活性。3種のBBF2H7コンストラクトを初代培養軟骨細胞にトランスフェクションし、24時間後に培養上清を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。Full length BBF2H7およびBBF2H7 C-terminusをトランスフェクションした細胞の培養上清にルシフェラーゼ活性が検出され、BBF2H7 C-terminusが培養上清に分泌されていることが確認できた。
【
図10】野生型およびBbf2h7欠損初代培養線維芽細胞(MEF)の細胞増殖速度。(左)細胞数カウント、(右)WST-8 アッセイ。◆:野生型細胞、□:Bbf2h7欠損細胞、BBF2H7の ▲:Full length、◇:N-terminus、○:C-terminusをトランスフェクションしたBbf2h7欠損細胞 の増殖速度を示す (mean ± SD, N = 4, *P <0.05, unpaired Student’s-t-test)。Bbf2h7欠損MEF細胞は野生型MEFに比べ明らかに増殖速度が遅いが、BBF2H7のFull lengthあるいはC-terminusをトランスフェクションしたBbf2h7欠損MEF細胞は野生型と同等レベルにまで増殖速度が回復する。
【
図11】初代培養MEF細胞における各種細胞周期関連遺伝子のリアルタイムPCR。Full length:Full length BBF2H7 を発現させたBbf2h7欠損細胞、N-terminus:BBF2H7 N-terminusを発現させたBbf2h7欠損細胞、C-terminus:BBF2H7 C-terminusを発現させたBbf2h7欠損細胞 (mean ± SD, N = 3, *P < 0.05, unpaired Student’s-t-test)。Bbf2h7欠損MEF細胞(Bbf2h7-/-)は野生型MEF(WT)に比べ明らかに細胞周期関連遺伝子の発現が減弱しているが、BBF2H7のFull lengthあるいはC-terminusをトランスフェクションしたBbf2h7欠損MEF細胞は野生型と同等レベルにまで各種遺伝子発現が回復する。
【
図12】(A) (B,C) の実験系。(B) では、HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に培養上清を回収した。回収した培養上清を初代培養軟骨細胞に添加し、一定時間経過後に細胞数をカウントした。(C) では、HEK293T細胞にBBF2H7 C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に培養上清を回収した。回収した培養上清を抗BBF2H7 C-terminus 抗体で吸収し、分泌されたBBF2H7 C-terminus を除去後に初代培養軟骨細胞に添加した。(B) ラインは ◆:Bbf2h7欠損軟骨細胞、BBF2H7の □:Full length、▲:N-terminus、○:C-terminusを発現させたHEK293T細胞の培養上清を添加したBbf2h7欠損軟骨細胞の増殖速度を示す (mean ± SD, N = 4, *P < 0.05, **P < 0.01, unpaired Student’s-t-test)。分泌されたBBF2H7 C-terminusには、増殖速度が低下したBbf2h7欠損軟骨細胞の増殖速度を回復させる機能がある。(C) ラインは ◆:BBF2H7のC-terminusを発現させたHEK293T細胞の培養上清を添加したBbf2h7欠損軟骨細胞、HEK293T細胞にBBF2H7 C-terminusを発現させ、回収した培養上清を □:抗BBF2H7 C-terminus 抗体もしくは ▲:mouse IgGを用いて吸収反応を行った後、Bbf2h7欠損軟骨細胞に添加しその後の増殖速度を調べた (mean ± SD, N = 3, *P < 0.05, unpaired Student’s-t-test)。抗BBF2H7 C-terminus 抗体で分泌されたBBF2H7 C-terminusを除去すると、細胞増殖活性はキャンセルされた。
【
図13】(A) (B) の実験系。HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に培養上清を回収した。回収した培養上清を初代培養軟骨細胞に添加し、一定時間経過後に細胞数をカウントした。(B) ラインは ◆:野生型軟骨細胞、BBF2H7の □:Full length、▲:N-terminus、○:C-terminusを発現させたHEK293T細胞の培養上清を添加した野生型軟骨細胞を示す。BBF2H7のC-terminusには野生型細胞の増殖速度も早める活性がある。
【
図14】アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞(LNCaP)、ヒト結腸癌細胞(LS174T)およびマウス線維芽細胞(MEF)の細胞増殖速度。ラインは ◇:未処理の細胞、▲:培養上清に抗BBF2H7 C-terminus 抗体を添加した細胞、○:分泌されたBBF2H7 C-terminusを抗BBF2H7 C-terminus 抗体で吸収し、除去した後の培養上清を添加した細胞 の増殖速度を示す (mean ± SD, N=3:LNCaP, LS174T, N=4:MEF, *P < 0.05, unpaired Student’s-t-test)。抗BBF2H7 C-terminus 抗体を添加した細胞およびBBF2H7 C-terminusを除去した細胞では、明らかに細胞増殖速度が遅くなる。
【
図15】ヒトglioblastoma U251MG細胞におけるウエスターンブロッティング。抗体は2種のハイブリドーマ(6D6、7E8)から得られた抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体を使用した。両抗体はBBF2H7の全長タイプおよび切断されたC末端断片に特異的に反応する。siRNA Bbf2h7:siRNA Bbf2h7を処理したヒトglioblastoma U251MG細胞、BBF2H7 expression:ヒトBBF2H7を強制発現したヒトglioblastoma U251MG細胞、Non-treatment:遺伝子導入していないヒトglioblastoma U251MG細胞。
【
図16】ヒトglioblastoma U251MG細胞の細胞増殖に対する抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体の効果。位相差顕微鏡写真。抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体を添加したヒトglioblastoma U251MG細胞の増殖は有意に抑制される。
【
図17】ヒトglioblastoma U251MG細胞の細胞増殖に対する抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体の効果。細胞数の推移。抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体を添加したヒトglioblastoma U251MG細胞の増殖は有意に抑制される。
【
図18】抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体の濃度変化に伴う細胞増殖抑制効果。6D6および7E8とも濃度依存的にヒトglioblastoma U251MG細胞の増殖を抑制する。
【
図19】マウス初代培養軟骨細胞の細胞増殖に対するBBF2H7C末端ペプチドの効果。マウスBBF2H7C末端ペプチド(431-521)を75μg/mlの濃度で培養液中に添加後、細胞数を測定した。ペプチドを加えなかった細胞に比べ有意に細胞数が増加した。
【
図20】BBF2H7欠損軟骨細胞と野生型軟骨細胞での遺伝子発現プロファイリング解析の結果。BBF2H7欠損軟骨細胞では、ヘッジホッグシグナル関連遺伝子群の発現が野生型軟骨細胞に比べ軒並み発現低下していた(Sec23aは、野生型の0.25倍以下、FoxL1、Ptch1、Gli1、Gli2、Cyclin D、Cyclin Eはそれぞれ野生型の0.25〜0.50倍)。なお、Sec23aはBBF2H7の転写ターゲットのひとつとして同定したものである。
【
図21】BBF2H7が受容体Ptch1と結合するか否かを調べるため、マウス軟骨細胞のcell lysateを、抗BBF2H7C末端ポリクローナル抗体を用いて免疫沈降し、その後抗Ptch1抗体でブロットした。その結果、両者が結合していることが明らかになった。Integrinβ1はコントロール。
【
図22】抗ヒトBBF2H7 C-terminusモノクローナル抗体のヘッジホッグシグナルに対する効果。ヒトglioblastoma U251MG細胞に抗体を20nMの濃度で添加し、2日目に各遺伝子(CycD、CycE、CDK2およびGLI1)の発現レベルをリアルタイムPCRで測定した。両抗体(6D6および7E8)ともヘッジホッグシグナルに関連する各遺伝子の発現を抑制した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.細胞外に分泌されるBBF2H7の部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質を含む細胞増殖促進用組成物
本発明は、一つの側面において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質を含む細胞増殖促進用組成物を提供する。
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドが細胞膜表面上の受容体(例えば、Ptch1)に結合することによって惹起される細胞内シグナル伝達経路を活性化する物質であり得る。例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナルを増強する物質が存在しないときに比較して、サイクリンD、サイクリンE、Cdk2、Cdk4、Gli1および/またはSec23aの遺伝子の転写を亢進させる物質であり得る。
1−1.細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを含む細胞増殖促進用組成物
一つの実施態様において、細胞外に分泌されるBBF2H7の部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドである。ペプチドは単離または合成されたペプチドであり得る。
BBF2H7は細胞内で酵素(Site-1 protease)により膜内切断を受ける。その結果、細胞外に分泌されるC末端部分ペプチドと細胞外に分泌されないN末端部分ペプチドが生成する。細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドは、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチド、または細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドであり得る。
【0017】
本明細書において、細胞は、哺乳類由来の細胞であればよく、例えば、ヒト、ラット、マウス由来の細胞である。BBF2H7部分ペプチドを細胞外に分泌する細胞の例には、軟骨細胞、線維芽細胞、初代培養軟骨細胞、初代培養線維芽細胞、軟骨細胞由来の細胞株及び線維芽細胞由来の細胞株が挙げられる。
【0018】
本明細書において、BBF2H7は特に限定されず、いずれの由来のBBF2H7(例えば、ヒトBBF2H7、マウスBBF2H7、ラットBBF2H7等)を使用してもよい。本発明に使用されるBBF2H7の例には、ヒトBBF2H7、マウスBBF2H7が挙げられる。ヒトBBF2H7のアミノ酸配列は配列番号3で、マウスBBF2H7のアミノ酸配列は配列番号4で示される。
【0019】
細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドの例としては、マウス(例えば、C57BL/6CR SLC系マウス)由来の初代培養軟骨細胞の細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド、マウス(例えば、C57BL/6CR SLC系マウス)由来の初代培養線維芽細胞の細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド、ヒト由来の初代培養軟骨細胞の細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド、ヒト由来の初代培養線維芽細胞の細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド、が挙げられる。細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドは、例えば、細胞を培養したときにその培養上清中に存在し得る。
また、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの例としては、配列番号1のアミノ酸配列(ヒトBBF2H7のC末端部分ペプチドのアミノ酸配列)からなるペプチド、配列番号2のアミノ酸配列(マウスBBF2H7のC末端部分ペプチドのアミノ酸配列)からなるペプチド、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
本発明が提供する細胞増殖促進用組成物に用いることができる細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドは、塩または溶媒和物であってよい。
【0020】
一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体を含む細胞増殖促進用組成物を提供する。細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体の例には、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドの類縁体、および細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体が挙げられる。
細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドの類縁体の例には、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドのアミノ酸配列と同一性が60、70、80、90または95%以上のアミノ酸配列からなるペプチド、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドのアミノ酸配列において1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0021】
細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体の例には、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体が挙げられる。配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド類縁体は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに基づいて作製できるものであれば、特に限定はされない。配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体の例には、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列と同一性が60、70、80、90または95%以上のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列において1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0022】
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体の他の例には、タグが付加されたBBF2H7部分ペプチドが挙げられる。
よって、本発明が提供する細胞増殖促進用組成物は、タグが付加された配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む細胞増殖促進用組成物であり得る。本明細書においてタグとは、ポリペプチドの精製、検出等のためポリペプチドに付加される部分を意味し、ヒスチジン(His)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、myc、FLAGタグなどが例示される。タグが付加されたポリペプチドは、例えば、pET30a(Novagen社製)(Hisタグ用)、pGEX(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)(GSTタグ用)などの発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞で発現させることで得られる。
【0023】
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドの類縁体のさらなる例には、ペプチド合成の分野で通常使用される置換基や保護基またはペプチドを安定化させる置換基や保護基がN末端やC末端に結合したBBF2H7部分ペプチドが挙げられる。
よって、本発明が提供する細胞増殖促進用組成物は、ペプチド合成の分野で通常使用される置換基や保護基またはペプチドを安定化させる置換基や保護基がN末端やC末端に結合した配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む細胞増殖促進用組成物であり得る。このような置換基や保護基の例としては、限定はされないが、アミド基、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基またはZ基)、Boc及びFmocが挙げられる。
【0024】
一つの実施態様として、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドの類縁体(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体)は、細胞(例えば、初代培養軟骨細胞、初代培養線維芽細胞)増殖を促進することができ、且つ/または細胞周期関連遺伝子(例えば、サイクリンD、サイクリンE、Cdk2、Cdk4)の発現(例えば、mRNAの発現)を増加させることができる。
【0025】
本発明が提供する細胞増殖促進用組成物に用いることができる細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド及びその類縁体は、通常の遺伝子工学的方法、生化学的手法またはペプチド合成において用いられる方法によって製造することができる。例えば、以下の方法により、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを製造できる:
配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を挿入した発現ベクターを用いて、大腸菌または細胞等で配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを発現させる;
初代培養細胞の培養上清から、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを精製する;
Fmoc法またはBoc法を用いて配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを固相合成する;または
Boc−アミノ酸やZ−アミノ酸を液相合成法で逐次縮合させて配列番号1または2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを製造する(Fmocは9-フルオレニルメトキシカルボニル基、Bocはt-ブトキシカルボニル基、Zはベンジルオキシカルボニル基をそれぞれ表す)。
【0026】
また、細胞増殖を促進すれば、より多くの細胞を製造できることから、細胞増殖促進用組成物は細胞調製(製造)用組成物として使用され得る。
一つの実施態様において、本発明は、細胞増殖促進用組成物または細胞調製(製造)用組成物の製造における、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその類縁体)の使用を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその類縁体)を細胞に接触させることを含む、細胞増殖促進方法または細胞調製方法を提供する。
【0027】
増殖促進される細胞は、特に限定されないが、軟骨細胞(例えば、ヒト軟骨細胞)であり得る。哺乳動物(例えば、ヒト)から得た軟骨細胞を、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその類縁体)を含む本発明が提供する細胞増殖促進用組成物と接触させることにより、軟骨細胞を大量に調製することができる。
よって、一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその類縁体を含む、軟骨細胞増殖促進用組成物を提供する。
また、一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその類縁体)を含む本発明が提供する細胞増殖促進用組成物を、軟骨細胞(例えば、ヒト軟骨細胞)と接触させることを含む、軟骨細胞を製造する方法、または軟骨細胞の増殖を促進させる方法を提供する。
【0028】
上記細胞増殖促進方法または細胞調製方法(例えば、軟骨細胞を製造する方法、軟骨細胞を増殖させる方法)は、in vitro(ex vivo)またはin vivoで実施され得る。
【0029】
1−2.核酸分子を含む細胞増殖促進用組成物
一つの実施態様において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸分子であり得る。この実施態様において、例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸分子は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子であり得る。
「核酸分子」は、2以上のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドであり得る。
【0030】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列と同一性が60、70、80、90または95%以上のアミノ酸配列からなるペプチド、または配列番号1または2で示されるアミノ酸配列において1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする核酸分子を含む細胞増殖促進用組成物を提供する。
【0031】
また、一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子の類縁体を含む細胞増殖促進用組成物を提供する。当該類縁体の例としては、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子と同一性が60、70、80、90または95%以上の塩基配列からなる核酸分子、配列番号1または2のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子において1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の塩基が欠失、置換または付加された核酸配列からなる核酸分子が挙げられる。
【0032】
本発明が提供する細胞増殖促進用組成物に用いることができる核酸分子は、単離された核酸分子であり得る。
この本発明の側面において用いることができる核酸分子は、適宜、ベクターに導入され、宿主細胞で発現させることができる。宿主細胞は、本発明が提供する細胞増殖促進用組成物に用いることができるベクターまたは核酸分子から発現されるペプチドを、安定発現する細胞であってもよいし、一過性発現する細胞であってもよい。
よって、一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子を含むベクター、または配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子が導入された宿主細胞を含む細胞増殖促進用組成物、混合物またはキットを提供する。
【0033】
本発明が提供する細胞増殖促進用組成物は細胞調製(製造)用組成物であり得る。
一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドまたはその類縁体のアミノ酸配列をコードする核酸分子(例えば、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子)、その核酸分子を含むベクター、またはそのベクターを含む宿主細胞を含む細胞増殖促進用組成物または混合物を、細胞(例えば、ヒト軟骨細胞)と接触させることを含む、細胞を製造する方法、または細胞の増殖を促進させる方法を提供する。
【0034】
細胞は、軟骨細胞(例えば、ヒト軟骨細胞)であり得、哺乳動物(例えば、ヒト)から得た軟骨細胞を、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド)またはその類縁体のアミノ酸配列をコードする核酸分子、その核酸分子を含むベクター、またはそのベクターを含む宿主細胞を含む本発明が提供する細胞増殖促進用組成物または混合物と接触させることにより、軟骨細胞を大量に調製することができる。
よって、一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子またはその類縁体、該核酸分子またはその類縁体を含むベクター、またはそのベクターを含む宿主細胞を含む、軟骨細胞増殖促進用組成物、混合物またはキットを提供する。
また、一つの実施態様において、本発明は、軟骨細胞増殖促進用組成物、混合物またはキットの製造のための、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子またはその類縁体、該核酸分子またはその類縁体を含むベクター、またはそのベクターを含む宿主細胞の使用を提供する。
また、一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドまたはその類縁体(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド)のアミノ酸配列をコードする核酸分子、その核酸分子を含むベクター、またはそのベクターを含む宿主細胞を含む本願発明が提供する細胞増殖促進用組成物を、軟骨細胞(例えば、ヒト軟骨細胞)と接触させることを含む、軟骨細胞を製造する方法、または軟骨細胞の増殖を促進させる方法を提供する。
【0035】
本発明が提供する細胞増殖促進用組成物または細胞調製(製造)用組成物は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質(例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドまたはそれをコードする核酸分子)を使用して、適宜製剤化される。例えば、本発明が提供する組成物は、医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬品として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明が提供する細胞増殖促進用組成物または細胞調製(製造)用組成物の製剤化、投与方法、投与対象、投与量などは、当業者が適宜設定可能である。例えば、本発明が提供する細胞増殖促進用組成物または細胞調製(製造)用組成物は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強する物質(例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドまたはそれをコードする核酸分子)を1ng〜10g含んだ組成物であってもよい。
【0036】
2.細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質を含む細胞増殖抑制用組成物
一つの側面において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質を含む細胞増殖抑制用組成物を提供する。
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドが細胞膜表面上の受容体(例えば、Ptch1)に結合することによって惹起される細胞内シグナル伝達経路を抑制する物質であり得る。例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナルを抑制する物質が存在しないときに比較して、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドにより惹起されるサイクリンD、サイクリンE、Cdk2、Cdk4、Gli1および/またはSec23aの遺伝子の転写を抑制する物質であり得る。細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質の例には、限定はされないが、化合物、抗体(例えば、ダイアボディー、一本鎖抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体または抗体の断片)、siRNA、アンチセンス核酸、PNAおよびリボザイムが挙げられる。
一つの実施態様において、細胞外に分泌されるBBF2H7の部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7の部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドまたはその類縁体に結合する抗体またはその抗体断片である。
また、一つの実施態様において、細胞外に分泌されるBBF2H7の部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質は、ヒトBBF2H7蛋白質の発現を抑制するsiRNAである。例えば、コスモバイオ社製、siTrio Full Set Human (CREB3L2, NM_194071)、Cat.No.MIR-SHF27A-2213と同じ塩基配列を有するsiRNA、コスモバイオ社製、siTrio Full Set Human (CREB3L2, NM_194071)、Cat.No.MIR-SHF27A-2213の塩基配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上の同一性である配列を有するsiRNAが挙げられる。siRNAは、当業者が適宜設計することができ、例えば、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列をコードする塩基配列のうち、19〜25ヌクレオチドの部分塩基配列を有するsiRNAを設計してもよい。
【0037】
細胞増殖抑制に使用可能な抗体または抗体断片は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドまたはその類縁体に結合すればよく、例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチド及び全長BBF2H7タンパク質に結合する抗体または抗体断片、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドのN末端に結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片であり得る。
例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチド及び全長BBF2H7タンパク質に結合する抗体または抗体断片は、ヒトのBBF2H7のC末端部431〜491までの配列を抗原として、当業界により周知の方法により調製できる。
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド及び全長BBF2H7タンパク質に結合する抗体または抗体断片、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片、または配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端に結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片)を含む、細胞増殖抑制用組成物を提供する。
例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物は、好ましくない細胞増殖を抑制することができる。例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物は、良性の前立腺肥厚の処置または予防のために使用することができる。
【0038】
また、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドまたはその類縁体に結合する抗体または抗体断片を使用することにより、癌または腫瘍細胞増殖抑制が達成され得る。癌または腫瘍細胞増殖抑制に使用可能な抗体または抗体断片は、当該細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドに結合すればよく、例えば、BBF2H7のC末端部分ペプチド及び全長BBF2H7タンパク質に結合する抗体または抗体断片、BBF2H7のC末端部分ペプチドのN末端に結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片であり得る。 一つの実施態様において、本発明は、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド及び全長BBF2H7タンパク質に結合する抗体または抗体断片、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片、または配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端に結合し全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体または抗体断片)を含む、癌もしくは腫瘍治療用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物を提供する。
本明細書において、癌または腫瘍は特に限定されず、充実性腫瘍であっても、非充実性腫瘍であってもよい。癌または腫瘍の例としては、基底細胞癌,神経外胚葉腫瘍、髄膜腫、血管腫、膠芽腫、膵臓腺癌、扁平上皮肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、軟骨肉腫、乳癌、横紋筋肉腫、食道癌、胃癌、胆道癌、腎癌、甲状腺癌、骨癌、副腎癌、尿管癌、膀胱癌、腺癌(例えば、大腸癌(例えば、盲腸癌、結腸癌、直腸癌)、前立腺癌等)または神経グリア芽細胞腫が挙げられる。
【0039】
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。
本明細書において、モノクローナル抗体には、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型モノクローナル抗体、例えば、キメラモノクローナル抗体、ヒト型化モノクローナル抗体や、ヒトモノクローナル抗体が含まれる。
抗体の断片は、抗原と特異的に結合する抗体の一部である。抗体の断片には、Fab (fragment of antigen binding)、F(ab')2、Fab'、一本鎖抗体 (single chain Fv; 以下、scFvと表記する)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv; 以下、dsFvと表記する)、2量化体V領域断片 (以下、Diabodyと表記する)、CDRを含むペプチド等を挙げることができる(エキスパート・オピニオン・オン・テラピューティック・パテンツ、第6巻、第5号、第441〜456頁、1996年)。抗体および抗体の断片は、当業界にて周知の方法により調製可能である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988、http://www.gene.mie-u.ac.jp/Protocol/Original/Antibody.html、米国特許第6331415号、米国特許第5693761号、米国特許第5225539号、米国特許第5981175号、米国特許第5612205号、米国特許第5814318号、米国特許第5545806号、米国特許第7145056号、米国特許第6492160号、米国特許第5871907号、米国特許第5733743号などを参照)。本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができるペプチドのN末端またはC末端を特異的に認識する抗体は、当業界にて周知の方法により調製可能である(例えば、大海 忍、辻村邦夫、稲垣昌樹 著 細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ 新版抗ペプチド抗体実験プロトコール 秀潤社などを参照)。例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのN末端またはC末端から10残基のペプチドを合成し、BSA等のキャリアタンパク質にMBSを用いて結合し、これをウサギへ免疫し、BBF2H7の部分ペプチドのN末端またはC末端に結合し、全長BBF2H7タンパク質に結合しない抗体を、ドットブロット法を用いて単離することにより、調製してもよい。
【0040】
本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる抗体または抗体断片は、生体内、例えばヒト軟骨組織に存在する配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたは酵素切断される前のBBF2H7全長タンパク質を特異的に認識し得るので、当該ペプチドまたは当該タンパク質の検出、さらには分布、機能等の解析に使用され得る。
【0041】
本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる抗体または抗体断片は、標識物質が結合されていてもよい。標識物質の例には、酵素、蛍光物質、放射性同位元素、ビオチン等が挙げられる。
酵素の例としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ等が挙げられる。
蛍光物質の例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、GFP、ルシフェリン等が挙げられる。
放射性同位元素の例としては、
125I、
14C、
32P等が挙げられる。
【0042】
本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物または癌または腫瘍細胞増殖抑制用組成物は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる抗体または抗体断片またはsiRNA)を使用して、適宜製剤化される。例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物、または本発明が提供する癌または腫瘍細胞増殖抑制用組成物は、医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬品として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物または癌または腫瘍細胞増殖抑制用組成物は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる抗体または抗体断片またはsiRNA)を1ng〜10g含んだ組成物であってもよい。
上記細胞増殖抑制用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物の投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態によって、当業者により適宜選択され得る。例えば、投与方法は静脈内投与であり得る。
投与対象は、特に限定されないが、例えば、ヒトである。
【0043】
上記細胞増殖抑制用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物に含まれる細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物に用いることができる抗体または抗体断片またはsiRNA)の量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されるものではない。例えば、ヒト体重1kg当たり1ng〜10mgを1回の投与量とし点滴静注とすることができる。投与方法および投与頻度も当業者が適宜設定できる。
【0044】
一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドに結合する抗体またはその抗体断片の細胞増殖抑制剤、癌もしくは腫瘍の治療剤、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制剤の製造への使用を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物、癌もしくは腫瘍治療用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物を投与することを含む、細胞増殖抑制方法、癌もしくは腫瘍の治療方法または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制方法を提供する。細胞増殖抑制方法、癌もしくは腫瘍の治療方法または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制方法は、in vitro(ex vivo)またはin vivoで実施され得る。
【0045】
3.細胞増殖調節剤のスクリーニング方法1
一つの側面において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを細胞に接触させること;及び被検物質を細胞に接触させることを含む、細胞増殖調節剤のスクリーニング方法を提供する。癌細胞の細胞増殖を抑制すれば、抗癌剤として使用され得る。
一つの実施態様において、本発明は、以下のi)−iii)のいずれかのペプチドを細胞に接触させる工程:
i)初代培養軟骨細胞において細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド;
ii)配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチド;または
iii)配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進作用を有するペプチド、及び
被検物質を細胞に接触させる工程
を含む、細胞増殖抑制剤または抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。
細胞が増殖したか否かの測定は、特に限定されないが、例えば、BrdU取り込みアッセイ、WST-8アッセイ等を用いてもよく、また、細胞数を計測してもよい。
よって、一つの実施態様において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを細胞に接触させること;被検物質を細胞に接触させること;及びBrdU取り込みアッセイ、WST-8アッセイまたは細胞数を計測することを含む、細胞増殖調節剤のスクリーニング方法を提供する。
細胞に接触される細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドまたはその類縁体であり得る。使用される細胞は、特に限定されないが、アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞(LNCaP)、ヒト結腸癌細胞(LS174T)、ヒトglioblastoma(U251MG)またはマウス線維芽細胞(MEF)であり得る。
被検物質は、例えば、化合物(例えば、分子量が100以上1000以下の化合物または100以上500以下の化合物)であってもよい。
本明細書において、細胞増殖調節剤は、細胞増殖促進剤及び細胞増殖抑制剤を含む。
本スクリーニング方法を実施した結果、細胞外に分泌されるBBF2H7のC末端部分ペプチドを接触させた細胞の細胞増殖と比べ、さらに被検物質を接触させた細胞の細胞増殖が抑制されれば、該被検物質は、当該BBF2H7のC末端部分ペプチドによる細胞増殖を抑制する薬剤であると判定でき、細胞増殖を促進すれば、該被検物質は、当該BBF2H7のC末端部分ペプチドによる細胞増殖を促進する薬剤であると判定できる。細胞増殖を抑制する薬剤は抗癌剤として使用され得る。
【0046】
4.細胞増殖調節剤のスクリーニング方法2
BBF2H7は、細胞内でSite-1 proteaseにより切断される。よって、Site-1 proteaseの活性調節は、BBF2H7のC末端部分ペプチドの産生を調節できるので、細胞増殖が調節され得る。
一つの側面において、本発明は、Site-1 protease、BBF2H7及び被検物質を細胞に接触させることを含む、細胞増殖調節剤のスクリーニング方法を提供する。
Site-1 proteaseの活性阻害は、癌細胞の細胞増殖抑制を惹起し得る。
よって、一つの実施態様において、本発明は、Site-1 protease、BBF2H7及び被検物質を接触させる工程、及び
Site-1 proteaseにより切断されたBBF2H7部分ペプチドを検出する工程
を含む、細胞増殖抑制剤または抗癌剤のスクリーニング方法を提供する。
【0047】
Site-1 proteaseは、いずれの由来でもよく、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター由来のSite-1 proteaseを使用してもよい。Site-1 proteaseは、当業者が適宜調製できる。例えば、ヒトおよびハムスターのSite-1 proteaseのアミノ酸配列は、Sakai, J. et al., Molecular Cell, Vol.2, 505-514, 1998に記載されているので、このアミノ酸配列情報をもとに、ヒトおよびハムスターのSite-1 protease(S1P)を調製してもよい。また、GenBank accession number AF078105(ハムスターS1P)およびD42053(ヒトS1P)の情報をもとに、ヒトおよびハムスターのSite-1 proteaseを調製してもよい。
BBF2H7は、BBF2H7全長蛋白質でも、Site-1 proteaseの認識部位を含むBBF2H7の部分ペプチドであってもよい。
Site-1 proteaseにより切断されたBBF2H7部分ペプチドの検出は、いずれの方法で行ってもよく、例えば、HPLC、ウエスタンブロッティング等を利用してもよい。
被検物質は、例えば、化合物(例えば、分子量が100以上1000以下の化合物または100以上500以下の化合物)であってもよい。
本スクリーニング法を実施した結果、被検物質がSite-1 proteaseによるBBF2H7切断を阻害すれば、該被検物質が、細胞増殖抑制または抗癌作用を有し得ると判断される。一方、被検物質がSite-1 proteaseによるBBF2H7切断を促進すれば、該被検物質は、細胞増殖促進作用を有し得ると判断される。
【0048】
5.Site-1 protease阻害剤を含む細胞増殖抑制用組成物
BBF2H7はSite-1 proteaseにより膜内切断され、細胞増殖作用を有するBBF2H7のC末端部分ペプチドが生成する。Site-1 proteaseによるBBF2H7の膜内切断を阻害する物質は、BBF2H7のC末端部分ペプチドの生成を阻害し、細胞増殖を抑制する。
よって、一つの側面において、本発明は、Site-1 protease阻害剤を含む、細胞増殖抑制用組成物を提供する。
癌細胞の細胞増殖の抑制は、抗癌剤に利用可能である。よって、Site-1 protease阻害剤を含む細胞増殖抑制用組成物は、癌もしくは腫瘍治療用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物であってもよい。癌または腫瘍の例としては、限定はされないが、基底細胞癌,神経外胚葉腫瘍、髄膜腫、血管腫、膠芽腫、膵臓腺癌、扁平上皮肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、軟骨肉腫、乳癌、横紋筋肉腫、食道癌、胃癌、胆道癌、腎癌、甲状腺癌、骨癌、副腎癌、尿管癌、膀胱癌、腺癌(例えば、大腸癌(例えば、盲腸癌、結腸癌、直腸癌)、前立腺癌等)または神経グリア芽細胞腫が挙げられる。
Site-1 protease阻害剤は、Site-1 proteaseによるBBF2H7の膜内切断を阻害すれば特に限定されず、例えば、化合物(例えば、分子量が100以上1000以下の化合物または100以上500以下の化合物)であってもよい。
本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物または癌または腫瘍細胞増殖抑制用組成物は、例えば、1ng〜10gのSite-1 protease阻害剤を医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と配合して、適宜製剤化され得る。
【0049】
上記細胞増殖抑制用組成物、癌もしくは腫瘍治療用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物は当業者が適宜調製できる。
【0050】
一つの実施態様において、本発明は、Site-1 protease阻害剤の細胞増殖抑制、癌もしくは腫瘍の治療、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制への使用を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、本発明が提供する細胞増殖抑制用組成物、癌もしくは腫瘍治療用組成物、または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制用組成物を投与することを含む、細胞増殖抑制方法、癌もしくは腫瘍の治療方法または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制方法を提供する。細胞増殖抑制方法、癌もしくは腫瘍の治療方法または癌もしくは腫瘍細胞増殖抑制方法は、in vitro(ex vivo)またはin vivoで実施され得る。
【0051】
6.トランスジェニックマウス
一つの側面において、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド(例えば、配列番号1のペプチドまたはその誘導体、配列番号2のペプチド)を発現するトランスジェニック動物を提供する。トランスジェニック動物の例としては、トランスジェニックマウスが挙げられる。
トランスジェニックマウスの作製方法としては、適切なプロモーターの制御下に細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを配置した組換えDNA断片をマイクロインジェクション法等により導入し、生き残った受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、生まれた仔マウスから上記組換えDNAを有する仔マウスを選択することによって得ることができる。目的とする組換えDNAを有する仔マウスは、例えば、マウスの尾より抽出したゲノムDNAを鋳型とし、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の一部を有するプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションにて、確認することができる。
本発明が提供するトランスジェニック動物は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのin vivoでの作用の解析及びその作用メカニズムの解析に有用であり得る。例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチド(例えば、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するペプチド)のin vivoでの細胞(例えば、軟骨細胞)増殖作用の解析に有用であり得る。
【0052】
7.ヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物
本発明は、一つの側面において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質を含む、ヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物を提供する。
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドが細胞膜表面上のヘッジホッグ受容体Ptch1に結合することによって惹起される細胞内シグナル伝達経路を調節する物質であり得る。例えば、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を増強または抑制する物質は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドにより惹起されるサイクリンD、サイクリンE、Cdk2、Cdk4、Gli1および/またはSec23aの遺伝子の転写を亢進または抑制する物質であり得る。
【0053】
ヘッジホッグは、ソニック、インディアン、デザートおよびティギーウィンクルを含む。
ヘッジホッグシグナルは、ヘッジホッグが細胞に結合することにより活性化されるシグナルであり、Smoothened(SMO)により活性化されるシグナル、例えば、サイクリンD、サイクリンE、Cdk2またはGli1遺伝子の転写が挙げられる。
一つの実施態様において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片、ヒトBBF2H7蛋白質の発現を抑制するsiRNA等)は、ソニックヘッジホッグのシグナル伝達を抑制し、例えば、サイクリンD、サイクリンE、Cdk2またはGli1遺伝子の転写を抑制する。
ソニックヘッジホッグのシグナル伝達を抑制する化合物は、癌または腫瘍の処置に使用できることが知られている。例えば、WO2002/030462には、ソニックヘッジホッグのシグナル伝達を抑制する化合物が処置に有用である腫瘍の例として、ゴーリン症候群に関する腫瘍(例えば基底細胞癌、髄芽細胞腫、髄膜腫など)、ptcノックアウトマウスにみられる腫瘍(例えば血管腫、横紋筋肉腫など)、gli−1増幅の結果起こる腫瘍(例えば神経グリア芽細胞腫、肉腫など)、TRC8、ptc相同体に連結した腫瘍(例えば腎臓癌、甲状腺癌など)、Ext−1関連腫瘍(例えば骨癌など)、Shh誘導腫瘍(例えば肺癌、軟骨肉腫など)及び他の腫瘍(例えば乳癌、尿生殖器(例えば腎臓、膀胱、尿管、前立腺など)癌、副腎癌、胃腸(例えば胃、腸など)癌など)が挙げられている。実際、ヘッジホッグシグナル伝達の阻害剤であるvismodegibは、基底細胞癌の治療薬として米国で承認されている。
よって、ソニックヘッジホッグのシグナル伝達を抑制する、本発明が提供する細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片、ヒトBBF2H7蛋白質の発現を抑制するsiRNA等)は、上記癌または腫瘍の処置に有用である。したがって、本発明が提供するヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物は、医薬組成物(例えば、上記癌または腫瘍の処置用の医薬組成物)であり得、医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。例えば、本発明が提供するヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物は、1ng〜10gの細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質を医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と配合して、適宜製剤化され得る。
一つの実施態様として、本発明は、ヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物の製造における、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質の使用を提供する。
一つの実施態様として、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質を投与することを含む、ヘッジホッグシグナル伝達調節方法を提供する。
【0054】
8.細胞周期調節用組成物
本発明は、一つの側面において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質を含む、細胞周期調節用組成物を提供する。
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質は、上記「7.ヘッジホッグシグナル伝達調節用組成物」で記載したとおりである。
一つの実施態様として、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナルを抑制する物質(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片等)は、細胞周期をG
0−G
1期で停止させ、S期への移行を阻害する。
よって、本発明は、一つの実施態様として、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体または抗体断片等)を含む、G
1期からS期への細胞周期の移行阻害剤;G
1期からS期への細胞周期の移行阻害剤の製造のための、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質の使用;細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を抑制する物質を投与することを含む、G
1期からS期への細胞周期の移行阻害方法を提供する。
本発明が提供する細胞周期調節用組成物は、医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。例えば、本発明が提供する細胞周期調節用組成物は、1ng〜10gの細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドのシグナル伝達を調節する物質を医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と配合して、適宜製剤化され得る。
【0055】
9.細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドとPtch1の結合阻害剤のスクリーニング方法
本発明は、一つの側面において、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド、Ptch1、及び被検物質を接触させることを含む、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドとPtch1の結合阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドとPtch1との結合は、いずれの方法で検出してもよい。例えば、アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞(LNCaP)、ヒト結腸癌細胞(LS174T)、ヒトglioblastoma(U251MG)、マウス線維芽細胞(MEF)または軟骨細胞のcell lysateとヒトBBF2H7C末端の部分ペプチド(例えば、配列番号1または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるいペプチド)を接触させて、抗BBF2H7C末端抗体を用いて免疫沈降し、その後抗Ptch1抗体でウエスタンブロッティングを行うことで検出してもよい。
よって、一つの実施態様として、本発明は、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチド、Ptch1、及び被検物質を接触させる工程;
イムノブロッティングにより細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドとPtch1の結合を検出する工程
を含む、細胞外に分泌されるBBF2H7部分ペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドとPtch1の結合阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
実施例1:BBF2H7ノックアウトマウスの作成
(1)ターゲティングベクターの作製
マウスBBF2H7ゲノム配列(ENSMUSG00000038648)に基づいて作製したプライマーを用い、129マウス由来ゲノムDNAを鋳型としてPCR(変性94℃ 1分、アニーリング55℃ 1分、伸長72℃ 3分を35サイクル)を行い、BBF2H7遺伝子のエキソン2前後のDNA断片1.5kb(短腕)および6kb(長腕)を単離した。このときに用いたプライマーは、短腕側が、
5’-GCGGCCGCTTCGACACTTTGTCTGCCACTC-3’ (配列番号5)および
5’-CTCGAGTCACTCCGAGAAGTGCTGCAAGAAGC-3’(配列番号6)、
長腕側が、
5’-CAGAGATGCCCTGAGATCAGCTG-3’ (配列番号7)および
5’-GGTACCCTACACCATGCGCCACCAGCCATG-3’ (配列番号8)である。
【0058】
シーケンシングにより塩基置換が起こっていないことを確認した後、各DNA断片をターゲッティン用ベクターpPNT1.1(Cell 1991 Jun 28, 65(7):1153−1163;岡部勝博士(大阪大学、大阪、日本国)から恵与された)のNotI−XhoIサイト(短腕側)およびKpnI−KpnIサイト(長腕側)にそれぞれ組み込んでターゲティングベクターを作製した。
【0059】
(2)遺伝子導入
エレクトロポレーション法により、未分化の培養マウスES細胞(約0.8×10
7個)(D3細胞株(Doetschmanら,J Embryol Exp Morphol. 1985, 87:27−45)に実施例1のターゲティングベクターを25μg/mlの割合で導入して遺伝子導入ES細胞を得た。これらの細胞をプレート(培地ESM)に播き、24時間後にG418、48時間後にG418およびガンシクロビルを培地に添加して更に7〜10日間培養し、G418およびガンシクロビルに耐性を示すコロニーを得た。これらのコロニーを個別に分離し、さらに培養したのち、DNAを抽出してサザンブロッティングにより相同組換えES細胞を選別した。
【0060】
次いで、この相同組換えES細胞を、C57BL/6CR SLC系マウスの胚盤胞へ常法により注入し、仮親マウスへ移植して個体へと発生させた。その結果、6匹のキメラマウスを得た。キメラマウスはキメラ率(黒C57BL6に対する茶色129の割合)により、遺伝子導入ES細胞がジャームラインにのる割合が高いマウスを選抜した。得られたキメラマウスのうち、雄の個体と雌の野生型C57B/6系マウスとを交配させて初代(F1)マウスを得た。これらのF1マウスのサザンブロットを行った。サザンブロッティングによりBBF2H7遺伝子の欠損を確認して、BBF2H7遺伝子ヘテロマウスを選別した。2倍体染色体の一方に変異配列が確認された個体(雄、雌)を選別し、これらを交配させて第2世代(F2)マウスを得た。
【0061】
プライマーとして、
5’-CTGCAGTGGTCAGATGGACAG-3’(配列番号9)、
5’-TGGCTGCGCTGCTGCCCAAGACCCAG-3’(配列番号10)、
5’-CTTGACGAGTTCTTCTGAGG-3’(配列番号11)
を用い、ゲノムPCRの結果、ノックアウトマウス(−/−)においてBBF2H7遺伝子が欠損していることを確認した。
【0062】
(3)BBF2H7ノックアウトマウスの特徴付け
BBF2H7ノックアウトマウスは出生直後に胸郭の低形成により死亡する場合がある。胎生期のノックアウトマウスには四肢および体幹の著明な短縮、胸郭の強い形成不全を呈する骨格の低形成が認められた。
【0063】
胎生期18.5日目の野生型(WT)およびBbf2h7欠損型(Bbf2h7 -/-)マウスの大腿骨骨端成長軟骨部のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行うと、Bbf2h7欠損マウスでは軟骨細胞の数が激減し、軟骨低形成が観察された(
図3)。また、Bbf2h7欠損マウスでは増殖軟骨層および肥大軟骨層の軟骨細胞が有意に減少していた(
図4)。
【0064】
実施例2:BBF2H7ノックアウトマウス初代培養軟骨細胞の細胞増殖能の検討
野生型(WT)マウス(C57BL/6CR SLC系マウス)及びBbf2h7欠損型(Bbf2h7 -/-)マウスより初代培養軟骨細胞を調製し(Saito et al., Nat. Cell Biol. 2009, 11:1197-1204.参照)、BrdU取り込みアッセイにより細胞の増殖能を検討した。その結果、Bbf2h7欠損細胞ではBrdU取り込みが有意に減少し、細胞増殖速度が明らかに低下していた(
図5)。
【0065】
実施例3:抗BBF2H7抗体の作成
抗ヒトBB2H7 C-terminus抗体を作成するために、部分ペプチド(IYEEHSPPEESSSPGSAGELGGWDRGSSLLRVSGLESRPDVDLPHFIISNETSLEKSVLLE(配列番号12))を抗原としマウスに免疫した。免疫したマウスより脾臓細胞を調製し、ミエローマと細胞融合し、抗原と結合する抗体を産生する細胞をスクリーニングした。
【0066】
実施例4:分泌型BBF2H7部分ペプチドの検出
野生型(WT)マウス(C57BL/6CR SLC系マウス)およびBbf2h7欠損型マウスより初代培養軟骨細胞(Bbf2h7-/-)を調製し、その可溶化画分(Cell lysate)及び培養上清(Sup.)を用いウェスタンブロッティングをおこなった。細胞の可溶化画分(Cell lysate)を抗ヒトBB2H7 C-terminus抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、培養上清(Sup.)は、軟骨細胞の培養上清を抗ヒトBB2H7 C-terminus抗体で免疫沈降後、得られた免疫沈降画分について抗ヒトBB2H7 C-terminus 抗体でウェスタンブロッティングを行った。野生型軟骨細胞の培養上清中にBB2H7 C-terminusのバンドが検出された(
図6)。この結果は、BBF2H7が膜内切断(RIP, regulated intramembrane proteolysis)を受け、切断されたN-末端断片は核内へ移行してターゲット遺伝子の転写し、C-末端断片は細胞外に分泌されることを示した。この細胞外に分泌されるBB2H7 C末端断片ペプチドのアミノ酸配列を決定すると配列番号1であり(
図7B)、BB2H7 N-末端断片ペプチドのアミノ酸配列は配列番号3であった(
図7A)。
そこで、Full length BBF2H7、BBF2H7 N-terminus、BBF2H7 C-terminusの各C末端側にルシフェラーゼタンパク質を融合させたコンストラクトを作成し(
図8)、野生型マウス(C57BL/6CR SLC系マウス)由来の初代培養軟骨細胞にトランスフェクションし、培養上清にBB2H7 C末端断片ペプチドが分泌されるか否かを検討した。24時間後に培養上清を回収してルシフェラーゼ活性を測定したところ、Full length BBF2H7およびBBF2H7 C-terminusをトランスフェクションした細胞の培養上清にルシフェラーゼ活性が検出され、BBF2H7 C-terminusが培養上清に分泌されていることが確認できた(
図9)。
【0067】
実施例5:分泌型BBF2H7由来ペプチドの初代培養線維芽細胞増殖作用
野生型(WT)マウス(C57BL/6CR SLC系マウス)およびBbf2h7欠損型マウスより初代培養線維芽細胞(MEF)を調製した。Bbf2h7欠損細胞にルシフェラーゼタンパク質をC末端側で融合させたFull length BBF2H7、BBF2H7 N-terminusまたはBBF2H7 C-terminusの各コンストラクト(
図8)をトランスフェクションし、野生型マウス由来の初代培養線維芽細胞(MEF)と増殖速度を検討した。細胞数の計測(
図10左)またはWST-8アッセイ(
図10右)により細胞増殖を測定した。その結果、Bbf2h7欠損MEF細胞は野生型MEF細胞に比べ明らかに増殖速度が遅いが、BBF2H7のFull lengthあるいはC-terminusをトランスフェクションしたBbf2h7欠損MEF細胞は野生型と同等レベルにまで増殖速度が回復した(
図10)。
細胞周期関連遺伝子の発現を、リアルタイムPCRを用いて測定したところ、Bbf2h7欠損MEF細胞は野生型MEFに比べ明らかに細胞周期関連遺伝子の発現が減弱しているが、BBF2H7のFull lengthあるいはC-terminusをトランスフェクションしたBbf2h7欠損MEF細胞は野生型と同等レベルにまで各種遺伝子発現が回復することが見出された(
図11)。なお、各遺伝子に対して使用したプライマーセットは、以下のとおりである:
Cyclin D
Fwd: 5’-TAGGCCCTCAGCCTCACTC-3’(配列番号:13)
Rev: 5’-CCACCCCTGGGATAAAGCAC-3’(配列番号:14)
Cyclin E
Fwd: 5’-CAGAGCAGCGAGCAGGAGC-3’(配列番号:15)
Rev: 5’-GCAGCTGCTTCCACACCACT-3’(配列番号:16)
Cdk2
Fwd: 5’-CTGCCATTCTCACCGTGTCC-3’(配列番号:17)
Rev: 5’-AGCTTGATGGACCCCTCTGC-3’(配列番号:18)
Cdk4
Fwd: 5’-CGAGCGTAAGATCCCCTGCT-3’(配列番号:19)
Rev: 5’-GCACCGACACCAATTTCAGC-3’(配列番号:20)。
【0068】
実施例6:分泌型BBF2H7由来ペプチドの初代培養軟骨細胞増殖作用
HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に培養上清を回収した(
図12A)。回収した培養上清をBbf2h7欠損型初代培養軟骨細胞(Bbf2h7-/-)に添加し、一定時間経過後に細胞数をカウントした。その結果、HEK293T細胞培養上清に分泌されたBBF2H7 C-terminusは、増殖速度が低下したBbf2h7欠損軟骨細胞の増殖速度を回復させた(
図12B)。また、HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に回収した培養上清に抗ヒトBBF2H7 C-terminus 抗体を添加し、BBF2H7 C-terminus を除去したHEK293T細胞培養上清をBbf2h7欠損型初代培養軟骨細胞(Bbf2h7-/-)に添加した。その結果、抗ヒトBBF2H7 C-terminus 抗体で分泌されたBBF2H7 C-terminusを除去すると、BBF2H7 C-terminusの細胞増殖活性は消失した(
図12C)。
また、HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に回収した培養上清を野生型(WT)マウス(C57BL/6CR SLC系マウス)より調製した初代培養軟骨細胞に添加した(
図13A)。その結果、BBF2H7のC-terminusは野生型細胞の増殖を促進した(
図13B)。
【0069】
実施例7:分泌型BBF2H7由来ペプチドに結合する抗体の癌細胞増殖抑制作用
HEK293T細胞にBBF2H7のFull length、N-terminus、C-terminusをトランスフェクションし、48時間後に培養上清を回収した。アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞(LNCaP)、ヒト結腸癌細胞(LS174T)及びマウス線維芽細胞(MEF)を調製し、各細胞につき、以下の(i)〜(iv)の処理:(i)未処理;(ii)上記HEK293T細胞由来の培養上清を添加;(iii)上記HEK293T細胞由来の培養上清に抗ヒトBBF2H7 C-terminus 抗体を添加;または(iv)上記HEK293T細胞由来の培養上清に抗ヒトBBF2H7 C-terminus 抗体を添加し、BBF2H7 C-terminusを取り除いた培養上清を、添加を行った。
その結果、抗ヒトBBF2H7 C-terminus 抗体を添加した細胞およびBBF2H7 C-terminusを除去した細胞では、細胞増殖速度が抑制された(
図14)。
【0070】
上記実施例に記載の実験結果より、BBF2H7は、低酸素および低グルコースなどの癌微小環境あるいは慢性炎症などに起因する小胞体ストレスに応答して膜内切断されて生じ得る小胞体内腔側を向いたC末端断片が細胞外に分泌され、自身の細胞膜表面あるいは近傍の細胞の細胞膜表面に発現しているBBF2H7のC末端受容体(Ptch1)と結合することによって細胞増殖を促すことが示された(
図2)。
【0071】
実施例8:分泌型BBF2H7由来ペプチドに結合するモノクローナル抗体の調製
ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチド(431-491)(配列番号:12)にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を融合させたリコンビナントタンパク質をGSTリコンビナントタンパク質作成用ベクター(GEヘルスケアジャパン社製、pGEX4T1、Cat.No.28-9545-49)を用いて大腸菌で発現させた。得られたGST融合ヒトBBF2H7431-492タンパク質をマウスに免疫し、骨髄腫細胞と細胞融合させ、ヒトBBF2H7431-492ペプチドに特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを10クローン取得した。得られた10クローンのうちクローンNo.:6D6とクローンNo.:7E8を以下の実験で使用した。
【0072】
実施例9:ヒトglioblastoma U251MG細胞におけるウエスターンブロッティング
得られたモノクローナル抗体がヒトBBF2H7のC末端ペプチドに結合することを確認するために、ヒトglioblastoma U251MG細胞およびヒトglioblastoma U251MG細胞にヒト全長BBF2H7を強制発現させた細胞のcell lysateをクローンNo.:6D6またはクローンNo.:7E8の抗体をもちいてウエスターンブロッティングを行った。その結果、2つのモノクローナル抗体がヒトBBF2H7のC末端ペプチドに結合することが確認された(
図15)。また、ヒトglioblastoma U251MG細胞はBBF2H7を強制発現させなくても検出可能な量のBBF2H7を発現していること、siRNA(コスモバイオ社製、siTrio Full Set Human (CREB3L2, NM_194071)、Cat.No.MIR-SHF27A-2213)でヒトglioblastoma U251MG細胞を処理することにより、全長のヒトBBF2H7の発現が抑制され、ヒトBBF2H7のC末端ペプチドの分泌が抑制されることが示された(
図15)。
【0073】
実施例10:ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合するモノクローナル抗体のヒトglioblastoma U251MG細胞増殖抑制作用
ヒトglioblastoma U251MG細胞に対するヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合するモノクローナル抗体の作用を検討した。ヒトglioblastoma U251MG細胞にヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合するモノクローナル抗体(クローンNo.:6D6)を20nM添加したところ、細胞増殖が抑制された(
図16および
図17)。また、ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合するモノクローナル抗体(クローンNo.:6D6およびクローンNo.:7E8)は濃度依存的にヒトglioblastoma U251MG細胞の細胞増殖を抑制した(
図18)。
【0074】
実施例11:ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドのマウス初代培養軟骨細胞の細胞増殖作用
ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチド(431-520)(配列番号:1)にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を融合させたリコンビナントタンパク質をGSTリコンビナントタンパク質作成用ベクター(GEヘルスケアジャパン社製、pGEX4T1、Cat.No.28-9545-49)を用いて大腸菌で発現させた。得られたGST融合ヒトBBF2H7431-521タンパク質を75μg/mlの濃度で培養液中に添加後、細胞数を測定した。ペプチドを加えなかった細胞に比べ有意に細胞数が増加した(
図19)。
【0075】
実施例12:ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドのPatched1への結合
遺伝子発現プロファイリング解析により、BBF2H7欠損軟骨細胞では、ヘッジホッグシグナル関連遺伝子群の発現が野生型軟骨細胞に比べ軒並み発現低下していた(
図20)。なお、Sec23はBBF2H7の転写ターゲットのひとつとして同定したものである。
そこで、ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドが、ヘッジホッグの受容体であるPatched1(Ptch1)と結合するか否かを調べるため、マウス軟骨細胞のcell lysateを、抗ヒトBBF2H7C末端ポリクローナル抗体を用いて免疫沈降し、その後抗Ptch1抗体でブロットした。その結果、両者が結合していることが明らかになった(
図21、Integrinβ1はコントロール)。
【0076】
実施例13:ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合する抗体のヘッジホグシグナル抑制作用
ヒトBBF2H7のC末端の部分ペプチドに結合する抗体(クローンNo.:6D6およびクローンNo.:7E8)のヘッジホッグシグナルに対する効果を検討した。ヒトglioblastoma U251MG細胞に抗体を20nMの濃度で添加し、2日目に各遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCRで測定した。なお、コントロールとして、非特異的なマウスIgG抗体(Sigma-Aldrich社製、MouseIgG murine myeloma clone MOPC-21、Cat.No.M7894)を用い、それで処理した細胞のβ-actinの発現量に対するクローンNo.:6D6およびクローンNo.:7E8)で処理した細胞の各遺伝子(サイクリンD(CycD)、サイクリンE(CycE)、CDK2およびGLI1)の発現量の相対値を求めた。なお、リアルタイムPCRで用いたプライマーセットは、CycD、CycEおよびCDK2については実施例5と同じであり、GLI1については、以下のようである。
配列番号21:5'-GGATCGGATAGGTGGTCTTC-3'
配列番号22:5'-CCAACTTCTGGCTCTTCCTG-3'
その結果、両抗体ともヘッジホッグシグナルに関連する各遺伝子の発現を抑制した(
図22)。