特許第6234724号(P6234724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234724乳化剤含有油脂組成物及び乳化剤含有油脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234724
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】乳化剤含有油脂組成物及び乳化剤含有油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 5/00 20060101AFI20171113BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C11B5/00
   A23D9/02
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-143323(P2013-143323)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2014-77118(P2014-77118A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2016年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-208149(P2012-208149)
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359784(JP,A)
【文献】 特開2011−144343(JP,A)
【文献】 特開2004−313176(JP,A)
【文献】 特開2011−074358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 5/00
A23D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のアルカリ触媒を用いて合成された乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることを特徴とし、乳化剤含有油脂組成物中の油脂が動植物油脂および、その分別油、混合油、水素添加油から選ばれる、乳化剤含有油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のアルカリ触媒を用いて合成された乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることを特徴とする乳化剤含有油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記乳化剤含有油脂組成物が、前記乳化剤を0.1〜10.0質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳化剤のHLB値が0〜9であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸処理工程がクエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸、リン酸から選ばれる酸を用いることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸処理工程が陽イオン交換樹脂、活性白土、酸性白土から選ばれる吸着剤を用いることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸処理工程が、乳化剤と油脂の混合以後の工程であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸処理工程が、乳化剤と油脂の混合前の工程であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤含有油脂組成物及び乳化剤含有油脂組成物の製造方法に関するものである。具体的には、本発明は、石鹸分を含む乳化剤を用いて乳化剤含有油脂組成物を製造するにあたり、石鹸分を低減することで調合(乳化剤と油脂の添加・混合等)、保存、輸送時等における一部の乳化剤成分の沈殿を改善できる乳化剤含有油脂組成物及び乳化剤含有油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炒め油、フライ油、スプレー油など、水相を含まない油脂組成物において、耐冷性向上、調理適性改善、離型性向上、抗菌性などの用途で様々な乳化剤が用いられている。特にショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルは、風味も良好で広く用いられている(特許文献1〜3)。しかし、乳化剤を含む油脂は吸湿しやすく、油脂中の水分が増加し、水分とともに乳化剤が沈殿することがある。例えば、ショ糖脂肪酸エステルは、油脂中において親水性のショ糖モノ脂肪酸エステル、ショ糖ジ脂肪酸エステル等の親水性の高い成分が沈殿しやすい。さらに、水分が増加しない場合でも、製品を長期に保管する場合に、油脂の界面に一部の親水性成分が集まり、沈殿するなどの問題が発生することがあった。また、油脂と乳化剤を混合時に窒素等を長期に吹き込むなどの場合において、沈殿が発生することがあり、沈殿物を除去することで対応する必要があった。これらの現象は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルでも同様に発生することがあった。
【0003】
ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルは、製造過程で、アルカリを触媒とし、エステルを合成する(特許文献4参照)。これらのアルカリ触媒は、原料の脂肪酸もしくは脂肪酸アルキルエステルと反応し、脂肪酸石鹸となる。これら脂肪酸石鹸は、乳化剤ともなるため乳化作用に対しては影響を及ぼすことが予想されるが、乳化剤の沈殿現象に影響を及ぼすとの知見はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−290683号公報
【特許文献2】特開2000−290684号公報
【特許文献3】特開2002−524027号公報
【特許文献4】特開平10−17588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、調合(乳化剤と油脂の添加・混合等)、乳化剤含油脂組成物の保存、輸送時等における一部の乳化剤成分の沈殿が改善された乳化剤含有油脂組成物の提供及び該乳化剤含有油脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するため、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を低減することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のものを提供する。
【0007】
(1)ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のアルカリ触媒を用いて合成された乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることを特徴とし、乳化剤含有油脂組成物中の油脂が動植物油脂および、その分別油、混合油、水素添加油から選ばれる、乳化剤含有油脂組成物の製造方法。
(2)ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上のアルカリ触媒を用いて合成された乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることを特徴とする乳化剤含有油脂組成物の製造方法。
)前記乳化剤含有油脂組成物が、前記乳化剤を0.1〜10.0質量%含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法。
)前記乳化剤のHLB値が0〜9であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
)前記酸処理工程がクエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸、リン酸から選ばれる酸を用いることを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の製造方法。
)前記酸処理工程が陽イオン交換樹脂、活性白土、酸性白土から選ばれる吸着剤を用いることを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の製造方法。
)前記酸処理工程が、乳化剤と油脂の混合以後の工程であることを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の製造方法。
)前記酸処理工程が、乳化剤と油脂の混合前の工程であることを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の製造方法。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることで、親水性成分の沈殿を抑えることができる。さらに、乳化剤を油脂に添加・混合するときなどの調合時、乳化剤含有油脂組成物の保管時、輸送時等における乳化剤含有油脂組成物製品中の沈殿物の除去等が不要になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明の乳化剤含有油脂組成物は、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤を含有する乳化剤含有油脂組成物の製造方法において、酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分を5ppm以下に低下させることを特徴とする。一般的に乳化剤を溶解させた油脂において、保存、輸送時に析出する乳化剤成分は、乳化剤中の一部の親水性成分であり、少量である。この時、乳化剤含有油脂組成物中に存在する石鹸分が存在すると乳化剤の沈殿を促進するので、石鹸分を低下させる必要がある。
【0010】
本発明では、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤を用いることができ、これらは、市販品を用いることができるが、市販品と同様にショ糖、ポリグリセリン、ソルビタンを脂肪酸あるいは脂肪酸アルキルエステルとアルカリ触媒で反応させたものを用いることができる。合成で用いたアルカリ触媒は、脂肪酸等と反応し、脂肪酸石鹸として約1000〜20000ppm残存する。
【0011】
なお、本発明における石鹸分は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(2.6.2−1996 セッケン)」で測定した値であり、乳化剤含有油脂組成物中に存在するナトリウム石鹸、カリウム石鹸等をオレイン酸ナトリウムとして表したものである。
【0012】
なお、本発明で用いるショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤は合計0.1〜10質量%含有することが好ましい。一般的に乳化剤を溶解させた油脂において、調合、保存、輸送時に析出する乳化剤成分は、乳化剤に対して少量(例えば添加乳化剤量に対して0.1〜7質量%以下)である。乳化剤量が乳化剤含有油脂に対して0.1質量%未満では、沈殿は発生しないか問題にならない量であり、10質量%以上では、石鹸分低減の効果が劣る。好ましくは、乳化剤量は乳化剤含有油脂組成物中に0.1〜5.0質量%であり、より好ましくは0.3〜1.5質量%であり、最も好ましくは0.5〜1.2質量%である。
【0013】
本発明では、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルを用いるが、これ以外の乳化剤、例えばモノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等を配合することができる。その量は、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の乳化剤も含めて、乳化剤合計で0.1〜10質量%含有することが好ましい。
【0014】
なお、本発明で用いる乳化剤は、HLB値が0〜9であることが油脂への溶解性の点で好ましい。HLB値(本発明においてはGriffinの算出法を用いる。グリフィン式:HLB=20×{(親水部分の分子量)/(全分子量)})は、小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、乳化剤のHLB値は、7以下であることが油脂への溶解性の点でより好ましい。最も好ましいHLB値は0〜3である。なお、乳化剤のHLB値は加成性が成り立つため、HLB値が9以上のものを含んでもよいが、添加される乳化剤の平均HLB値は9以下であることが好ましい。HLB値が9以上の乳化剤を添加しないことが好ましい。
【0015】
本発明で用いる乳化剤は、その構成脂肪酸中に飽和脂肪酸が多いと結晶化しやすくなるため、不飽和脂肪酸が多いことが乳化剤の結晶化を防止するうえで好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸であることが好ましい。また、不飽和脂肪酸は、乳化剤の構成脂肪酸中50質量%以上であることが好ましく、乳化剤の構成脂肪酸中70質量%以上がより好ましい。
【0016】
本発明で用いる油脂は、特に限定するものではなく、動植物油脂および、その分別油、混合油、水素添加油等を用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。20℃で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状である液状油の使用が好ましい。また、乳化剤との混合は精製工程の後に行うことが好ましいので、精製油脂を用いることが好ましい。
【0017】
本発明で用いる油脂は、乳化剤含有油脂組成物中に90質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは95.0〜99.9質量%である。98.5〜99.7質量%がさらに好ましく、98.8〜99.5質量%が最も好ましい。
【0018】
乳化剤含有油脂組成物は、前述の乳化剤と油脂以外に必要に応じて、他の一般的な食用油脂に用いられる成分(食品添加物など)を含有させることができる。これらの成分としては、例えば、酸化・劣化防止剤、結晶調整剤等が挙げられる。酸化・劣化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類、シリコーン等が挙げられる。また、香辛料や着色成分等も添加することができる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【0019】
上記成分は、油脂に予め添加含有させておくのが好ましいが、乳化剤と同時又はその前後に油脂に加えてもよい。
【0020】
乳化剤と油脂を混合し、乳化剤含有油脂組成物を得るが、乳化剤が均一に溶解することが重要であり、混合方法は特に限定するものではない。例えば、混合方法として、乳化剤を油脂で希釈して希釈液を得た後、当該希釈液を油脂に添加する方法が好ましい。なお、一般に乳化剤はペースト状もしくは粘度が高いため、必要に応じて50〜120℃に加温することが好ましい。油脂に乳化剤を添加する場合、プロペラを有するタンクにおいて油脂に乳化剤を添加しながら混合する方法、タンクの上下または左右等にポンプを有する配管で結合し、油脂を循環しながら乳化剤を添加・混合する方法などがある。混合は乳化剤の添加と同時に行ってもよく、添加後に混合してもよい。さらに、酸化防止もしくは、撹拌の効率化のために窒素を混合液中に吹き込んでもよい。なお、ここで気泡が多量に発生すると、沈殿を生じることがあるので、酸処理工程を事前に行わない場合は、窒素の吹込み等を制限することが好ましい。
【0021】
<酸処理工程>
本発明では、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルの合成反応により残存する石鹸の量を酸処理工程で低下することができる。酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸、リン酸から選ばれる酸の他、表面が酸性である吸着剤を用いることができる。クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸等は、水和物や水溶液で添加してもよいが、油脂の水分量が著しく上昇する場合には、減圧で水分を除去しながら行うことが好ましい。また、固体のまま添加してもよい。添加後、必要に応じて、沈殿する酸および塩をろ過する。また、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アスコルビン酸等を水溶液にせず、直接用いる場合、酸をカラムに充填し、乳化剤あるいは乳化剤含有油脂組成物を通液させることができる。
【0022】
なお、表面が酸性である吸着剤としては、例えば、陽イオン交換樹脂、活性白土、酸性白土等が好ましい。
【0023】
酸処理工程は、乳化剤に対して酸処理工程を行い、その後、乳化剤と油脂を混合して、乳化剤含有油脂組成物を得る。または、乳化剤と油脂を混合する際に同時に酸処理工程を行い、乳化剤含有油脂組成物を得る。または、乳化剤と油脂を混合した後に酸処理工程を行ってもよい。なお、乳化剤は粘度が高いため50〜120℃で加温して酸処理を行うことが好ましい。
【0024】
本発明で得られた乳化剤含有油脂組成物は、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分が5ppm以下に低下したものであることが乳化剤の沈殿を抑制する点で好ましい。酸処理工程で用いる酸の量は、適宜、乳化剤中の石鹸量に応じて調整すればよく、好ましくは、石鹸分のモル等量以上用いることが好ましい。ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルに抗酸化作用を高めるため、トコフェロール等と微量のリン酸を添加する場合があるが、抗酸化作用を高める目的で添加するリン酸の量では、乳化剤中の石鹸分低減にあまり寄与せず、乳化剤含有油脂組成物中の石鹸分が5ppm以上になることはない。また、同様に油脂の精製工程の最後にクエン酸を数十ppm添加することもあるが、クエン酸が油脂に溶解することなく除去されるものが多く、石鹸分を低下させる効果はほとんどない。乳化時含有油脂組成物中の石鹸分は、より好ましくは3ppm以下であり、さらに好ましくは2ppm以下である。最も好ましくは、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(2.6.2−1996 セッケン)」で検出できないことである。
【0025】
本発明で得られた乳化剤含有油脂組成物は、広範な用途で使用される。例えば、炒め物(焼きそば、野菜炒め等)、揚げ物(天ぷら、コロッケ、トンカツ等)、生食(マヨネーズ、ドレッシング等)、スプレー用途(油を食材にスプレーしてオーブンや電子レンジで加熱する)、食用離型油等に用いることができる。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0027】
<比較例1>
HLB値1のショ糖オレイン酸エステル(リョートーシュガーエステルO−170:オレイン酸純度約80% 三菱化学フーズ株式会社製)160gを60℃で加温し、窒素雰囲気下で密閉された40℃の精製菜種油(日清キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)19840gにプロペラで撹拌しながら添加した。添加時間は2分間であったが、さらに、プロペラで30分間撹拌を行い、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0028】
<比較例2>
HLB値1のショ糖オレイン酸エステル(リョートーシュガーエステルO−170:オレイン酸純度約80% 三菱化学フーズ株式会社製)160gを60℃で加温し、窒素雰囲気下で密閉された40℃の精製菜種油(日清キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)19840gにプロペラで撹拌しながら添加した。添加時間は2分間であったが、さらに、プロペラで30分間撹拌を行った。プロペラ撹拌時に窒素の吹込み(3L/min)を行ったところ微量の沈殿物が浮遊していた(沈殿物は約3g)。
【0029】
<実施例1>
比較例1の乳化剤含有油脂組成物にクエン酸・一水和物を乳化剤含有油脂組成物に対して0.1質量%添加し、100℃、減圧(約3000Pa)で1時間処理を行い、ろ過した。
【0030】
<実施例2>
HLB値1のショ糖オレイン酸エステル(リョートーシュガーエステルO−170:オレイン酸純度約80% 三菱化学フーズ株式会社製)200gにクエン酸・一水和物を16g添加し、100℃で減圧(約3000Pa)で1時間処理し、ろ過した。クエン酸処理したショ糖オレイン酸エステル160gを窒素雰囲気下で密閉された40℃の精製菜種油(日清キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)19840gにプロペラで撹拌しながら添加した。添加時間は2分間であったが、さらに、プロペラで30分間撹拌を行った。プロペラ撹拌時に窒素の吹込み(3L/min)を行った。
【0031】
<比較例3〜4>
表2の配合になるように、HLB値2のショ糖エルカ酸エステル(リョートーシュガーエステルER290:エルカ酸純度約90% 三菱化学フーズ株式会社製)、又はHLB値1のショ糖オレイン酸エステル(リョートーシュガーエステルO−170:オレイン酸純度約80% 三菱化学フーズ株式会社製)を60℃で加温し、窒素雰囲気下で密閉された40℃の精製菜種油(日清キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)にプロペラで撹拌しながら添加した。添加時間は約5秒であったが、さらに、プロペラで24時間撹拌を行い、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0032】
<実施例3>
比較例3の乳化剤含有油脂組成物にクエン酸・一水和物を乳化剤含有油脂組成物に対して0.1質量%添加し、ろ過し、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0033】
<実施例4>
比較例4の乳化剤含有油脂組成物にリン酸を乳化剤含有油脂組成物に対して0.005質量%添加し、ろ過し、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0034】
<比較例5>
表3の配合になるように、HLB値5.1のモノオレイン酸ソルビタン(サンソフトNo.81S:太陽化学株式会社製)、HLB約7のデカグリセリンオレイン酸エステルを60℃で加温混合し、乳化剤混合液を得た。窒素雰囲気下で密閉された40℃の精製菜種油(日清キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)にプロペラで撹拌しながら乳化剤混合液を添加した。プロペラで24時間撹拌を行い、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0035】
<実施例5>
比較例5の乳化剤組成物に、活性白土(ガレオンアース:水澤化学工業株式会社製)を0.5%添加し、減圧しながら100℃で15分間撹拌した。その後、ろ過を行い、乳化剤含有油脂組成物を得た。
【0036】
[石鹸分]
石鹸分は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(2.6.2−1996 セッケン)」で測定し、乳化剤含有油脂組成物中に存在するナトリウム石鹸、カリウム石鹸等をオレイン酸ナトリウムとしてppm(質量割合)で表した。
【0037】
[保存試験]
比較例1〜5、及び実施例1〜5の乳化剤含有組成物の状態を確認し(調合直後の状態)、1000gPET容器に充填し、3か月間保管した。なお、保存前の状態で沈殿物がある場合は、ろ過を行った。3か月保存後の状態(沈殿物の有無)を確認した。結果を表1〜3に示す。
【0038】
[フライ適性]
乳化剤含有組成物600gを用いて、トンカツ5枚を3回揚げて、泡立ちを日清キャノーラ油と比較した。なお、トンカツは、もも肉(約35g/1切)を小麦粉、卵、パン粉の順につけ、180℃で4分揚げた。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表1の結果によると実施例1〜2の乳化剤含有油脂組成物は、比較例1〜2と比べて、フライ適性を損なうこともなく、沈殿の発生が抑制されていることがわかった。また、表2〜3から、実施例3〜5も比較例3〜5と比べて、沈殿の発生が抑制されていることがわかった。