特許第6234922号(P6234922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6234922新規グラフェンナノ分散液及びその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6234922
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】新規グラフェンナノ分散液及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/60 20060101AFI20171113BHJP
   C01B 32/192 20170101ALI20171113BHJP
【FI】
   C07D233/60 103
   C01B32/192
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-515640(P2014-515640)
(86)(22)【出願日】2013年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2013063438
(87)【国際公開番号】WO2013172350
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-111019(P2012-111019)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-60376(P2013-60376)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】パク・チョン
(72)【発明者】
【氏名】ラビ・サイスワン
(72)【発明者】
【氏名】松本 道生
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101781254(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101781253(CN,A)
【文献】 ポーランド国特許発明第202539(PL,B1)
【文献】 中国特許出願公開第101049575(CN,A)
【文献】 特開2004−142972(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024988(WO,A1)
【文献】 特表平08−502476(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/068944(WO,A1)
【文献】 Lee,W.R.,et al,Electrochemical and optical behavior of bis-imidazolium ionic liquids,Polymer Preprints,2007年,Vol.48, No.2,ppt 235-236
【文献】 Lee,W.R.,et al,Electro-fluorescence switching of bis-imidazolium ionic liquids,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2008年,Vol.8, No.9,ppt 4630-4634
【文献】 Kim,J.Y.,et al,Novel thixotropic gel electrolytes based on dicationic bis-imidazolium salts for quasi-solid-state d,Journal of Power Sources,2008年,Vol.175, No.1,ppt 692-697
【文献】 Holbrey,J.D.,et al,Mercury(II) partitioning from aqueous solutions with a new, hydrophobic ethylene-glycol functionaliz,Green Chemistry,2003年,Vol.5, No.2,ppt 129-135
【文献】 PERNAK,J. et al,CHEMISTRY - A EUROPEAN JOURNAL,2006年,13,3106-3112
【文献】 Nuvoli,D.,et al,High concentration few-layer graphene sheets obtained by liquid phase exfoliation of graphite in ion,Journal of Materials Chemistry,2011年,Vol.21, No.10,ppt 3428-3431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C01B 32/192
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイオン液体。
【化1】

(式中、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、以下の式で表され、
【化2】

ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、mは1〜5の整数を表し、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、対イオンを表し、
nは〜30を表す。)
【請求項2】
及びRがC1〜C6の直鎖アルキルである、請求項1に記載のイオン液体。
【請求項3】
及びRがいずれもエチレン基である、請求項1又は2に記載のイオン液体。
【請求項4】
nが〜2の整数である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン液体。
【請求項5】
は、PF、(CFSO、BF、Cl又はBrから選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオン液体。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるイオン液体(A)、及びブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(B)あるいはブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C)を含んでなる混合イオン液体。
【化3】

(式中、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、以下の式で表され、
【化4】

ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、mは1〜5の整数を表し、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、対イオンを表し、
nは0〜30を表す。)
【請求項7】
グラフェン、及び下記一般式(1)で表されるイオン液体又は請求項6に記載の混合イオン液体を含む、グラフェン分散液。
【化5】

(式中、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、以下の式で表され、
【化6】

ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、mは1〜5の整数を表し、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、対イオンを表し、
nは0〜30を表す。)
【請求項8】
及びRがC1〜C6の直鎖アルキルである、請求項6に記載の混合イオン液体又は請求項7に記載のグラフェン分散液。
【請求項9】
及びRがいずれもエチレン基である、請求項6若しくは8に記載の混合イオン液体又は請求項7若しくは8に記載のグラフェン分散液。
【請求項10】
nが0〜2の整数である、請求項6、8及び9のいずれか1項に記載の混合イオン液体又は請求項7〜9のいずれか1項に記載のグラフェン分散液。
【請求項11】
は、PF、(CFSO、BF、Cl又はBrから選択される、請求項6及び8〜10のいずれか1項に記載の混合イオン液体又は請求項7〜10のいずれか1項に記載のグラフェン分散液。
【請求項12】
(1)下記一般式(1)で表されるイオン液体又は請求項6に記載の混合イオン液体にグラファイトを添加する工程、及び
(2)(1)で得られた混合液に、超音波又はマイクロ波を印加する工程
を、含むグラフェン分散液の調製方法。
【化7】

(式中、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、以下の式で表され、
【化8】

ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、mは1〜5の整数を表し、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、対イオンを表し、
nは0〜30を表す。)
【請求項13】
超音波又はマイクロ波印加後の混合液を遠心分離する工程を更に含む、請求項12に記載の調製方法。
【請求項14】
遠心分離後の混合液から液層を回収する工程を更に含む、請求項12又は13に記載の調製方法。
【請求項15】
及びRがC1〜C6の直鎖アルキルである、請求項12〜14のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項16】
及びRがいずれもエチレン基である、請求項12〜15のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項17】
nが0〜2の整数である、請求項12〜16のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項18】
は、PF、(CFSO、BF、Cl又はBrから選択される、請求項12〜17のいずれか1項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを高濃度で分散させることができる新規イオン液体、当該イオン液体を用いたグラフェンナノ分散液及びその分散液の調製方法に関る。
【背景技術】
【0002】
炭素材料であるグラファイトは層状構造を取っており、そのうちの1枚の層がグラフェンと呼ばれる。グラフェンは、六角形の網目状に結合した炭素原子のみからなり、その厚みは炭素原子1個分しかなく、熱伝導度が非常に高く、電気伝導度などの電気特性が際だって優れた二次元ナノシートとして期待されている。
【0003】
ノーベル賞を受賞したGeim氏らはセロハンテープにグラファイトの薄片を貼り付け、テープの粘着面で薄片を挟むように折り、再びテープを引き剥がすことを繰り返すことにより薄片を剥がしていくことでグラフェンを得た(非特許文献1)。
【0004】
一方、近年、グラファイトからグラフェンを製造する方法として、次の2つの手法が主に用いられている。一つは、グラファイトを酸化した後、水中で剥離してグラフェンオキサイドを得る方法である(非特許文献2)。もう一つの手法は、溶媒又は界面活性剤溶液中でグラファイトを超音波処理などで剥離(液相剥離)し、液中で分散したグラフェンを得る方法である(非特許文献2〜3)。
【0005】
グラフェンオキサイドを経由する前者の手法では、まずグラファイト粉末を硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどを用いて酸化する必要があり、その後のグラフェンオキサイドの還元を含めると数工程が必要となる。また、強い酸化処理によりグラファイトがダメージを受け易く、短時間の超音波印加(剥離工程)で細分化してしまうという問題も指摘されている(特許文献1)。これに対して、グラファイトの液相剥離はこのような問題がなく、有用な方法であると考えられる。
【0006】
液相剥離において最大限の収率を得る上で、溶媒は重要な役割を果たす。近年のグラフェン剥離の研究により、グラフェンに有効な溶媒は40mJ/m近傍の表面張力を有することが理論的に説明されている(非特許文献2)。しかしながら、グラフェンを超音波処理により一段階で剥離する方法において、現時点での分散性のレベルは2mg/mL程度であり、幅広い用途に展開するには未だ不十分である。
【0007】
グラフェンの液相剥離の溶媒として、分散能力が高く、更に多くの物理的特性に優れることから、種々の融解塩が用いられてきた。特に、イミダゾリウム系塩のイオン液体が、カーボンナノチューブの束をときほぐす媒体として好適に使用されてきた。ナノチューブと有機カチオンのπ電子間の相互作用が、ときほぐしとその後のゲル化に重要であると考えられる。このような観点から、様々なイオン液体がグラファイトの液相剥離で検討され、これまで報告されたグラフェン分散液の最大濃度は5.33mg/mLである(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−219318号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K.S.Novoselov,A.K.Geim,S.V.Morozov,D.Jiang,Y.Zhang,S.V.Dubonos,I.V.Grigorieva,A.A.Firsov,Science 306 (2004)666
【非特許文献2】S.Park,R.S.Ruoff,Nature Nanotech.4,217−224(2009)
【非特許文献3】Y.Hernandez,V.Nicolosi,M.Lotya,F.M.Blighe,Z.Sun,S.De,I.T.McGovern,B.Holland,M.Byrne,Y.K.Gun’Ko,J.J.Boland,P.Niraj,G.Duesberg,S.Krishnamurthy,R.Goodhue,J.Hutchison,V.Scardaci,A.C.Ferrari,J.N.Coleman,Nature Nanotech.3,563−568(2008)
【非特許文献4】D.Nuvoli,L.Valentini,V.Alzari,S.Scognamillo,S.B.Bon,M.Piccinini,J.Illescas,A.Mariani,J.Mater.Chem.21,3428−3431(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、グラフェンを高濃度で分散させることができる新規なイオン液体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、グラフェンの分散性を高める溶媒を研究するに当たり、分散性の重要な因子として、表面エネルギーに加えて粘度に着目した。粘度は流れに対する抵抗として定義されるが、それ以上に、液体の粘度は溶媒分子間の非共有結合相互作用の強度を表す。本発明者らは、表面張力が近似した値を有する公知のグラフェンの分散液において、粘度が高いものほどグラフェンの剥離が増える傾向にあることを知見した。そして、イミダゾリウム系イオン液体部分をアルキレンオキシドのコア部で連結することにより、極めて高い濃度のグラフェン分散液を与える新規イオン液体を提供できることを見出し本発明に到達した。
更に、かかる新規イオン液体を、従来からイオン液体として使用されているブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(BMIPF)、あるいはブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C)と混合すると、驚くべきことに、新規イオン液体単独で使用する場合よりも高濃度のグラフェン分散液を提供できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(1)で表されるイオン液体
【化1】



(式中、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、以下の式で表され、
【化2】



ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、mは1〜5の整数を表し、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表し、
は、対イオンを表し、
nは0〜30を表す。)、
[2]R及びRがC1〜C6の直鎖アルキルである、[1]に記載のイオン液体、
[3]R及びRがいずれもエチレン基である、[1]又は[2]に記載のイオン液体、
[4]nが0〜2の整数である、[1]〜[3]のいずれか1に記載のイオン液体、
[5]Xは、PF、(CFSO[TSFI]、BF、Cl又はBrから選択される、[1]〜[4]のいずれか1に記載のイオン液体、
[6][1]〜[5]のいずれか1に記載のイオン液体(A)、及びブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(B)あるいはブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C)を含んでなる混合イオン液体、
[7]グラフェン、及び[1]〜[5]のいずれか1に記載のイオン液体又は[6]に記載の混合イオン液体を含む、グラフェン分散液、
[8](1)[1]〜[5]のいずれか1に記載のイオン液体又は[6]に記載の混合イオン液体にグラファイトを添加する工程、及び
(2)(1)で得られた混合液に、超音波又はマイクロ波を印加する工程
を、含むグラフェン分散液の調製方法、
[9]超音波又はマイクロ波印加後の混合液を遠心分離する工程を更に含む、[8]に記載の調製方法、及び
[10]遠心分離後の混合液から液層を回収する工程を更に含む、[8]又は[9]に記載の調製方法
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、溶媒として式(1)で表されるイオン液体、又は当該イオン液体とBMIPFとの混合イオン液体を用いることにより、従来技術に比べて極めて高い濃度のグラフェン分散液を得ることができる。本発明のイオン液体により高い分散性が得られるため、幅広い用途、例えば、リチウムイオン二次電池のような多くの電子部品やエネルギー貯蔵電化製品にグラフェンを適用することが可能となる。また、本発明のグラフェン分散液の調製方法は、グラフェンオキサイドを経由することなく、グラファイトの一段階の剥離工程により高濃度のグラフェン分散液を得ることができるため、生産効率がよく工業的にも価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】グラファイト粉末と、本発明のイオン液体(化合物1)を用いたグラフェン分散液から得られたグラフェン粉末のラマンスペクトル
図2】グラファイトのグラフェン層数分布
図3】化合物1を用いてマイクロ波処理して得られたグラフェン分散液におけるグラフェンの層数分布
図4】化合物1を用いて超音波波処理して得られたグラフェン分散液におけるグラフェンの層数分布
図5】化合物3を用いてマイクロ波処理して得られたグラフェン分散液におけるグラフェンの層数分布
図6】BMIPFを用いてマイクロ波処理して得られたグラフェン分散液におけるグラフェンの層数分布
図7】化合物1を用いてマイクロ波処理の前後における分散液の動的粘弾性特性
【発明を実施するための形態】
【0015】
イオン液体
本発明の一つの形態は、下記式(1)で表される新規イオン液体に関る。
【化3】


【0016】
式(1)において、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、置換又は無置換のC1〜C7の直鎖又は分岐アルキル基を表す。本発明においては、R及びRは、好ましくはC1〜C6の直鎖アルキル基、即ちメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル又はn−ヘキシルであり、特に好ましくはn−ブチルである。
【0017】
式(1)において、Rは、以下の式(2)で表される。
【化4】



ここで、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、C1〜C4の直鎖又は分岐アルキレン基を表す。本発明においては、R及びRは、好ましくはC2〜C4の直鎖アルキレン基であり、更に好ましくはエチレン基である。
また、式(2)において、mは1〜5の整数であり、好ましくは、mは2又は3である。本発明においては、とりわけ、式(2)で表される部分がトリエチレングリコール核、即ち−CHCHOCHCHOCHCH−を形成していることが好ましい。理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明においては、式(2)で表される部分は、40mJ/m近傍の表面張力を有するイミダゾリウム塩骨格の柔軟なコアとして働き、また、水素受容体としての役割も有していると考えられ、この部分がトリエチレングリコールの場合には、これらの特性が最適化されると考えられる。
【0018】
式(1)において、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のC1〜C4の直鎖又は分岐アルキル基を表す。本発明においては、R及びRはいずれも水素であることが好ましい。
【0019】
式(1)において、Xは、対イオンを表し、好ましくは、PF、(CFSO、BF、TSFI、Cl又はBrから選択される。
【0020】
式(1)において、nは0〜30を表す。本発明においては、nが0〜2の整数であること、即ち、イミダゾリウム塩部分がダイマー、トリマー、テトラマーである場合が好ましい。nが大きくなると、粘度が増大するため、超音波処理と液中に残った過剰なグラファイトを取り除く精製の妨げとなる傾向がある。
また、nが大きい場合は、式(1)のイオン液体の合成にあたり、逐次合成法ではなく連続合成法が用いられ、この場合には、式(1)のイオン液体は数種のnからなる化合物の混合物であり、nはこれらの平均値となる。本発明は、式(1)で表されるイオン液体がこのような混合物である場合も包含する。
【0021】
式(1)で表されるイオン液体の合成方法の例を以下に示す。
【化5】



スキーム1は、イミダゾリウム塩部分がダイマー(n=0の場合)である化合物1の合成スキームであり、例えば以下のような手順で合成される。
アルゴン雰囲気下、トリエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)のアセトニトリル溶液に1−ブチルイミダゾールを添加し、加温して混合する。反応混合物を減圧下で濃縮して乾固し、粘調な残渣に塩化メチレン等を添加し、酢酸エチルなどにより二層分離を行なう。ロータリーエバポレーターと真空オーブンによりイオン液体層を乾燥すると、薄黄色の粘調な液体である化合物1aが得られる。次に、化合物1aのアセトニトリル溶液に、KPFの水溶液を添加し、混合物を室温で攪拌すると、反応混合物は水層とイオン液体層に分離する。イオン液体を塩化メチレンなどで洗浄し、乾燥すると、粘調な液体である化合物1が得られる。
【0022】
また、式(1)のnが大きい場合には連続合成法によりイオン液体を合成することができるが、その例を以下に示す。
スキーム2は、連続合成法によるイオン液体の製法の一例であり、ここで得られる化合物4は数種のnからなる化合物の混合物であり、nはこれらの平均値となる。
【化6】



アルゴン雰囲気下で、化合物B(1,1’−[1,2−エタンジイルビス(オキシ−2,1−エタンジイル)]ビス(イミダゾール))のアセトニトリル溶液とトリエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)を加温して攪拌する。ここで、化合物Bは、J.E.Bara.Ind.Eng.Chem.Res.50,13614(2011)に基づいて合成することができる。その後、反応混合物に1−ブチルイミダゾールを添加し、攪拌し、KPFの水溶液を添加する。反応混合物を更に攪拌して、この混合物を水層とイオン液体層に分離させる。上澄みの水層を移し、蒸留水でイオン液体層を洗浄し、乾燥し、酢酸等で抽出し、その後ロータリーエバポレーターで濃縮し、Pを用いて105℃で一晩真空オーブン中で乾燥すると、化合物4が得られる。
【0023】
混合イオン液体
本発明のもう一つの形態は、式(1)で表されるイオン液体(A)とブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(B)、あるいはブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C)を含んでなる混合イオン液体に関る。
【0024】
本発明の混合イオン液体においては、Aとして式(1)で表されるイオン液体の任意のものが使用できるが、特に、式(1)におけるRがトリエチレングリコール又はテトラエチレングリコール基であり、nが0〜2であるイオン液体であることが好ましい。
【0025】
本発明の混合イオン液体においては、AとBの体積比は、Aのイオン液体の種類により変わり得るが、例えば、Aとして、イミダゾリウム塩部分がダイマーである化合物(式(1)においてn=0)からなるイオン液体の場合、Aが0より大きく1.0未満、Bが1.0未満で0より大きい範囲であり得る。また、Aとして、イミダゾリウム塩部分がテトラマーである(式(1)においてn=2)イオン液体の場合、Aは0より大きく1.0未満であり、Bは1.0未満であり0より大きい。
【0026】
本発明の混合イオン液体には、AとBあるいはC以外に、他の溶媒、例えば、メタノールや水などを適宜添加することができる。
【0027】
グラフェン分散液及びその調製方法
本発明の更なる一つの形態は、グラフェン、及び本発明のイオン液体又は混合イオン液体を含む、グラフェン分散液に関る。本発明のグラフェン分散液は、グラフェンが高濃度に分散している。ここで、一般に、グラフェンは層数分布を有しており、単層のグラフェンとグラフェンの層が複数重なったものとの混合物であることが多い。本明細書において、「グラフェン」には、単層のグラフェンのみならず、グラフェンの層が複数、好ましくは9層以下重なったものも含まれる。
本発明のグラフェン分散液は、分散液1mlあたりグラフェンを好ましくは10mg以上、より好ましくは20mg以上、更に好ましくは40mg以上含有する。このような高濃度でグラフェンを含有する分散液は、本発明で初めて提供し得たものである。本発明のグラフェン分散液は、例えば、次のような方法で調製されるがこれに限定されるものではない。
【0028】
本発明におけるグラフェン分散液の調製方法は、式(1)で表されるイオン液体又は前記イオン液体とブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートあるいはブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとの混合イオン液体にグラファイトを添加する工程、及び得られた混合液に超音波又はマイクロ波を印加する工程を含む。
【0029】
本発明の調製方法に使用できるグラファイト粒子は、平均粒径が100μm以下であり、好ましくは1μm以上100μm以下である。ここで平均粒径とは、累積50%となる粒径d50である。
【0030】
本発明では、任意の超音波分散機を使用することができるが、ホーンタイプの超音波分散機を使用するのが好ましい。超音波の周波数は、10kHz以上1MHz以下程度である。また、超音波の振幅は、1μm以上100μm以下(ゼロツーピーク値)程度である。超音波の印加時間は、特に制限されないが、通常1分以上であり、好ましくは1分以上6時間以下である。
【0031】
また、本発明では、任意のマイクロ波オーブンを使用することができるが、例えば、500W、2.4GHzの一般的なマイクロ波オーブンを使用することができる。マイクロ波の印加時間は、特に制限されないが、通常10秒以上であり、好ましくは10秒〜10分である。
また、本発明においては、例えば1〜100W、2.4GHzに低エネルギーのマイクロ波を印加することもできる。この場合、印加時間は、0.2〜48時間程度である。
【0032】
本発明のグラフェン分散液の調製方法は、超音波印加後の液体を遠心分離する工程を含んでもよく、更に、遠心分離後の混合液から液層を回収する工程を含んでもよい。この場合、超音波印加後、得られた混合液を例えばその全量又は一部を遠心分離機で遠心分離し、上澄み液を採取することでグラフェン分散液が得られる。遠心分離の条件は、所望のグラフェンの濃度により適宜調整することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
A.イオン液体の合成
[合成例1]
以下の手順により、本発明の化合物1を合成した。
【化7】



(1)化合物1aの合成
アルゴン雰囲気下、トリエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)(62.36g、0.136mol)のアセトニトリル溶液(40mL)に1−ブチルイミダゾール(37.15g、0.299mol)を添加し、混合物を60℃で72時間混合した。反応混合物を減圧下で濃縮して乾固し、粘調な残渣に塩化メチレン(10mL)を添加した。酢酸エチル(50mL)により二層分離を3回行なった。イオン液体層を、ロータリーエバポレーター、及びPを用いて105℃で一晩真空オーブンにより乾燥すると、薄黄色の粘調な液体である化合物1aが得られた(57g、0.129mol、収率:81%)。
【0035】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.17(s,2H),7.81(t,J=1.5Hz,2H),7.74(t,J=1.5Hz,2H),7.48(d,J=8.5Hz,4H),7.12(d,J=7.9Hz,4H),4.33(t,J=4.9Hz,4H),4.17(t,J=7.0Hz,4H),3.73(t,J=4.9Hz,4H),3.51(s,4H),2.29(s,6H),1.75(dt,J=15.0,7.0Hz,4H),1.22(td,J=15.0,7.5Hz,4H),0.88(t,J=7.3Hz,6H);13CNMR(125MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)145.7,137.6,136.3,125.5,122.8,122.3,69.3,68.1,48.7,48.5,31.3,20.8,18.7,13.2;ESI−MS:m/z535.29([M−OTs],calcd. for C2743535.30)
【0036】
(2)化合物1の合成
化合物1a(38.17g、0.054mol)のアセトニトリル溶液(30mL)に、KPF(23g、0.125mol)水溶液を添加し、混合物を室温で2時間攪拌した。反応混合物は水層とイオン液体層に分離した。上澄みの水層を移し、10mLの塩化メチレンを加え、イオン液体層を蒸留水(30mL)で3回洗浄した。イオン液体層をNaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、Pを用いて105℃で一晩真空オーブン中で乾燥すると、粘調な液体である化合物1が得られた(30.3g、0.046mol、収率:85%)。
【0037】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.13(s,2H),7.79(t,J=1.8Hz,2H),7.72(t,J=1.8Hz,2H),4.33(t,J=4.9Hz,4H),4.18(t,J=7.0Hz,4H),3.74(t,J=5.2Hz,4H),3.52(s,4H),1.77(dt,J=15.3,6.9Hz,4H),1.25(td,J=15.0,7.3Hz,4H),0.90(t,J=7.3Hz,6H);13CNMR(125MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)136.3,122.8,122.2,69.3,68.1,48.8,48.6,31.3,18.7,13.2;ESI−MS:m/z509.25([M−PF,calcd. for C2036509.25).
【0038】
[合成例2]
以下の手順により、本発明の化合物2を合成した。
【化8】


【0039】
(1)化合物2の合成
アルゴン雰囲気下、合成例1で得た化合物1a(36.78g、0.052mol)のアセトニトリル溶液(20mL)に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(35g、0.122mol)の水溶液を添加し、混合物を室温で2時間攪拌した。反応混合物は水層とイオン液体層に分離した。上澄みの水層を移し、塩化メチレンを10mL添加し、イオン液体層を蒸留水(30mL)で3回洗浄した。イオン液体層をNaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、Pを用いて105℃で一晩真空オーブン中で乾燥すると、黄色液体が得られた(44.5g、0.048mol、収率:92%)。
【0040】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.13(s,2H),7.79(t,J=1.8Hz,2H),7.72(t,J=1.5Hz,2H),4.33(t,J=4.9Hz,4H),4.19(t,J=7.3Hz,4H),3.74(t,J=5.2Hz,4H),3.53(s,4H),1.77(dt,J=15.3,7.0Hz,4H),1.25(td,J=15.0,7.5Hz,4H),0.90(t,J=7.6Hz,6H);13CNMR(125MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)136.3,122.8,122.2,69.3,68.1,48.8,48.6,31.3,18.7,13.2;ESI−MS:m/z644.19([M−TFSI],calcd. for C2236644.20).
【0041】
[合成例3]
以下の手順により、本発明の化合物3を合成した。
【化9】


【0042】
(1)化合物Aの合成
アルゴン雰囲気下、トリエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)(52g、0.113mol)のアセトニトリル溶液(60mL)に、1−ブチルイミダゾール(4.69g、0.038mol)を添加し、混合物を60℃で10時間攪拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、乾固し、粘調な残渣に塩化メチレン(15mL)を添加した。残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール=9/1)で精製すると、薄黄色の粘調液体として化合物Aが得られた(15g、0.026mol、収率:68%)。
【0043】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.13(s,1H),7.76(dd,J=13.4,7.9Hz,4H),7.48(dd,J=7.6,5.8Hz,4H),7.11(d,J=7.9Hz,2H),4.33(t,J=4.9Hz,2H),4.17(t,J=7.0Hz,2H),4.10(t,J=4.6Hz,3H),3.75(t,J=4.9Hz,2H),3.55(t,J=4.3Hz,2H),3.49(t,J=2.7Hz,2H),3.45(t,J=2.7Hz,2H),3.34(s,4H),2.42(s,3H),2.29(s,3H),1.75(dt,J=15.3,7.0Hz,2H),1.24(td,J=15.0,7.3Hz,2H),0.89(t,J=7.3Hz,3H);13CNMR(125MHz,DMSO−d625°C)d(ppm)145.82,144.98,137.52,136.27,132.31,130.16,128.02,127.59,125.47,122.79,122.21,69.95,69.50,69.37,68.08,67.88,48.77,48.58,48.53,31.32,21.08,20.76,18.74,13.24;ESI−MS:m/z411.19([M−OTs],calcd. for C2031 411.20)
【0044】
(2)化合物Bの合成
J.E.Bara.Ind.Eng.Chem.Res.50,13614(2011)に基づいて化合物B(1,1’−[1,2−エタンジイルビス(オキシ−2,1−エタンジイル)]ビス(イミダゾール))を合成した。
【0045】
(3)化合物3aの合成
アルゴン雰囲気下において、化合物A(13.85g、0.024mol)と化合物B(2.97g、0.012mol)の混合物をアセトニトリル中60℃で48時間攪拌した。反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮して、Pを用いて105℃で一晩真空オーブン中で乾燥すると、薄黄色の粘調な液体として化合物3aが得られた(16.82g、0.012mol、収率:100%)。
【0046】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.17(s,2H),9.14(s,2H),7.80(t,J=1.8Hz,2H),7.74(dd,J=4.9,1.8Hz,6H,),7.48(d,J=7.9Hz,8H),7.11(d,J=7.9Hz,8H),4.34(td,J=9.0,4.5Hz,12H),4.17(t,J=7.0Hz,4H),3.73(t,J=4.9Hz,12H),3.51(d,J=1.2Hz,12H),2.29(s,12H),1.74(dt,J=15.4,7.0Hz,4H),1.22(td,J=15.0,7.5Hz,4H),0.88(t,J=7.3Hz,6H,);13CNMR(125MHz,DMSO−d625°C)d(ppm)145.68,137.65,136.62,136.32,128.07,125.46,122.78,122.61,122.26,69.32,68.18,68.09,48.71,48.52,31.35,20.77,18.73,13.25;ESI−MS:m/z1243.54([M−OTs],calcd. for C5987151243.55)
【0047】
(3)化合物3の合成
化合物3a(16.82g、0.012mol)のアセトニトリル溶液(10mL)にKPF(9.97g、0.054mol)水溶液を添加し、混合物を室温で2時間攪拌した。上澄みの水層を反応混合物から移し、イオン液体を蒸留水(30mL)で3回洗浄した。イオン液体層をNaSOで乾燥し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、この液体を、Pを用いて105℃で一晩真空オーブン中で乾燥すると、黄色の粘調な液体として化合物3が得られた(14.78g、0.011mol、収率:94%)。
【0048】
HNMR(500MHz,DMSO−d6,25°C)d(ppm)9.12(s,2H),9.07(s,2H),7.79(t,J=1.5Hz,2H),7.72(dd,J=3.4,1.5Hz,6H),4.36−4.32(m,12H),4.18(t,J=7.0Hz,4H),3.74(t,J=4.9Hz,12H),3.53(t,J=2.4Hz,12H),1.77(dt,J=15.0,6.9Hz,4H),1.25(td,J=14.8,7.5Hz,4H),0.90(t,J=7.3Hz,6H,);13CNMR(125MHz,DMSO−d625°C)d(ppm)136.52,136.25,122.78,122.60,122.26,69.29,68.17,68.08,48.74,48.56,31.33,18.73,13.24;ESI−MS:m/z1165.40([M−PF,calcd. for C3866181165.40)
【0049】
B.本発明のイオン液体の分散性の評価
(1)グラフェン分散液の調製
グラファイト(和光純薬工業株式会社製STG0561(純度:98%、平均粒径:約45μm)700mgをイオン液体又は混合イオン液体10mLに分散し、乳鉢で磨り潰して15分間均一に混合した。黒色ペーストをホーンタイプの超音波分散機(Sonics製VCX−500、500W)を用いて175Wで4時間超音波を印加した。得られた分散液を18000gで30分間遠心分離にかけ、グラファイトを取り除いて。グラフェン分散液を単離した。
【0050】
(2)グラフェン濃度の算出
グラフェン分散液0.2mLをAdvantec社PTFE膜(細孔:0.1μm、直径:25mm)で真空濾過することにより分散液中のグラフェン濃度を測定した。使用前に膜の重量を測定し、濾過後に膜をアセトニトリル(50mL)とジクロロメタン(50mL)で十分に洗浄し、真空オーブン中70℃、1時間乾燥して、乾燥した膜の重量を測定することで、分散液中のグラフェン量を算出した。
【0051】
[実施例1]
上記の手順で化合物1のグラフェン分散液を調製し、グラフェン濃度を算出したところ、グラフェンを12.29mg/mlの濃度で含んでいることが確認された。また、グラファイト粉末と、上記分散液から得られたグラフェン粉末のラマンスペクトルを図1に示す。Aがグラファイト粉末を、Bがグラフェン粉末のスペクトルである。二次元ピークの形状の変化は、無秩序で積層していないグラフェンによるものである。
【0052】
[比較例1]
分散媒としてブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートを用いて、実施例1と同様の実験を行なった。得られた分散液はグラフェンを5.33mg/mlの濃度で含んでいることが確認された。
【0053】
C.本発明の混合イオン液体の分散性の評価
[実施例2]
化合物1とブチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(BMIPF)を、0:100、35:65、56:44、70:30、100:0(体積比)で混合して混合イオン液体を調製した。この混合イオン液体を分散媒として用いて、実施例1と同様の実験を行なった。得られた分散液のグラフェン濃度の測定結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
化合物3とBMIPFを、0:100、35:65、56:44、70:30、100:0(体積比)で混合して混合イオン液体を調製した。この混合イオン液体を分散媒として用いて、実施例1と同様の実験を行なった。得られた分散液のグラフェン濃度の測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】


【0056】
上記の通り、本発明の新規イオン液体を用いることにより高濃度のグラフェン分散液を提供することが可能である。また、本発明の新規イオン液体とBMIPFとの混合イオン液体は、本発明の新規イオン液体単独で用いるよりも高い濃度のグラフェン分散液を提供することが可能であることが見出された。
【0057】
D.グラフェンの層数分布の評価
Nat.Mat.2012,11,217に記載されている方法により、グラフェン分散液のラマンスペクトルを測定して、2Dバンドに由来する2600−2800cm-1のラマンピークの位置を判定することにより、分散液中のグラフェンの層数の分布を調べることができる。
図2は、アセトニトリル中にグラファイトを添加して、超音波処理、遠心分離をせずに、ラマンスペクトルを測定して得られたグラファイトのグラフェン層数分布である。図2から、特別な分散処理をしないグラファイトでは、グラフェンの層数が9より大きいものが60%以上を占めることがわかる。
以下の実施例では、本発明のイオン液体を用いてグラフェンの層数分布を調べた。
【0058】
[実施例4]
化合物1のイオン液体に、グラファイトを100mg/mLの濃度となるように添加してグラファイト混合液を調製した。マイクロ波反応装置CEM Discoveryを用いて、100W、2.4GHzの条件で、当該混合液に30秒間マイクロ波を印加してグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液について、グラフェンの層数分布を調べた結果を図3に示す。
また、上記の混合液に超音波を1時間印加して得られたグラフェン分散液について、グラフェンの層数分布を調べた結果を図4に示す。
図3から、短時間のマイクロ波処理により、グラフェンの層数が1〜2層のものの割合が50%以上となることが示される。
【0059】
[実施例5]
化合物3のイオン液体を用いて、実施例4と同様に、グラファイト混合液にマイクロ波を印加してグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液についてグラフェンの層数分布を調べた結果を図5に示す。
【0060】
[比較例1]
BMIPFを用いて、実施例4と同様に、グラファイト混合液にマイクロ波を印加してグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液について、グラフェンの層数分布を調べた結果を図6に示す。
【0061】
図4及び5から、本発明のイオン液体を用いた場合、マイクロ波処理がグラフェン分散液を得るうえで有効な手段となることを示唆している。
【0062】
E.マイクロ波処理によるグラフェン分散液の調製
[実施例6]
次に、より低いエネルギーのマイクロ波の印加によるグラフェン分散液調製の可能性を検討した。
化合物1のイオン液体に、グラファイトを100mg/mLの濃度となるように添加してグラファイト混合液を調製した。マイクロ波反応装置CEM Discoveryを用いて、10W、2.4GHzの条件で、当該混合液に12時間マイクロ波を印加した。得られた分散液について、動的粘弾性を測定した。その結果を図7に示す。
マイクロ波を印加して得た分散液では、初期(マイクロ波印加前)に対し、弾性を表すG’、粘性を表すG’’が共に50倍程度大きくなっている。このことは、グラファイトが層構造を失い層が剥離することによって、グラフェンの絡み合いを誘起し、結果、粘性が上がったことを示している。
従って、本発明のイオン液体を用いることにより、低エネルギーのマイクロ波の印加によってもグラフェン分散液を調製することが示される。
【0063】
このように、本発明のイオン液体により高い分散性が得られるため、グラフェンをフィルム状にすることが容易となり、リチウムイオン二次電池のような多くの電子部品やエネルギー貯蔵電化製品にグラフェンを適用することが可能となる。また、本発明の製造方法は、グラフェンオキサイドを経由することなく、グラファイトの一段階の剥離工程により高濃度のグラフェン分散液を得ることができるため、生産効率がよく工業的にも価値が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7