【実施例】
【0070】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0071】
(I)充填状態の評価
実施例1
特許文献2(特開2007−160151号公報)の
図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒に、2.49gのCo(CH
3COO)
2・4H
2O及び0.225gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Co(CH
3COO)
2・4H
2Oを溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.8gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でCo水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Co(CH
3COO)
2・4H
2O原料に含まれるCoの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末と、Co:Liが1:1になる量のLiOH・H
2Oを含む水溶液を混合して混練し、乾燥後に、空気中250℃で1時間加熱処理した。さらに、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と6M/LのLiOH水溶液とを導入し、飽和水蒸気中250℃で6時間水熱処理することにより、複合体を得た。この複合体において、直径10〜200nmのLiCoO
2の一次粒子が分散性良く形成されていた。また、この複合体について、TG測定を、空気雰囲気中、常温〜650℃の範囲で、昇温速度1℃/分の条件で行った。重量減少量を炭素分として評価したところ、複合体におけるLiCoO
2と炭素分(ケッチェンブラック)との質量比は、90:10であった。
【0072】
次いで、粗大粒子としての市販のLiCoO
2(平均一次粒子径約10μm)と、得られた複合体を100−X:Xの質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極密度測定用の電極を得た。以下に示す全ての実施例及び比較例における圧延処理は、同一条件で行っている。さらに、上記LiCoO
2と上記複合体とアセチレンブラックとを90:10:2の質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行った後、その断面にイオンミリング加工を施して、SEM観察用の電極を得た。
【0073】
比較例1
実施例1において用いた市販のLiCoO
2(平均一次粒子径約10μm)を粗大粒子とし、アセチレンブラックと、100−Y:Yの質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極密度測定用の電極を得た。さらに、上記LiCoO
2とアセチレンブラックとを97:3の質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行った後、その断面にイオンミリング加工を施して、SEM観察用の電極を得た。
【0074】
図2には、実施例1の電極における、複合体量Xと電極密度との関係を示した。
図2の(A)は、電極のアルミニウム箔上の電極材料の体積と重量の実測値から算出した電極密度と複合体量Xの関係を示しており、(B)は、得られた電極密度から、
粗大粒子密度=電極密度×{(100−X)/100}×0.95
の式を用いて算出した粗大粒子密度(電極1ccあたりの粗大粒子の重量)と複合体量Xの関係を示している。
図3には、比較例1の電極における、電極のアルミニウム箔上の電極材料の体積と重量の実測値から算出した電極密度とアセチレンブラック量Yとの関係を示した。
【0075】
図3から明らかなように、比較例1では、電極材料中のアセチレンブラックがわずかに1質量%であっても、電極密度が急激に減少し、アセチレンブラック含有量がさらに増加するにつれて電極密度がなだらかに減少した。したがって、アセチレンブラックがLiCoO
2粗大粒子間に形成される間隙部に進入しにくく、隣り合うLiCoO
2粗大粒子の間隔を増大させることがわかった。これに対し、本発明の電極材料を用いた実施例1では、
図2の(A)から明らかなように、複合体が10質量%までは複合体含有量が増加するにつれて電極密度が増加し、複合体含有量がさらに増加すると電極密度が減少した。LiCoO
2の粗大粒子密度については、
図2の(B)から明らかなように、複合体が10質量%までは、LiCoO
2粗大粒子のみから構成される電極材料の粗大粒子密度と略同一の値を示した。このことは、複合体が10質量%までは、互いに接触した状態で存在する複数のLiCoO
2粗大粒子により囲まれた間隙部に複合体が充填されていることを示している。
【0076】
図4には、実施例1の電極材料のSEM写真(A)(B)と、比較例1の電極材料のSEM写真(C)(D)とを示した。(B)は(A)の高倍率の写真であり、(D)は(C)の高倍率の写真である。
図4から明らかなように、実施例1の電極材料では、LiCoO
2粗大粒子が接近しており、LiCoO
2粗大粒子間の間隙部に複合体粒子が密に充填されていた。これに対し、比較例1の電極材料では、実施例1の電極材料と比較して、同じ圧延処理条件であるにもかかわらず電極材料の厚みが厚く、LiCoO
2粗大粒子間の間隔が離れており、LiCoO
2粗大粒子間の間隙部に存在するアセチレンブラックに空隙が認められた。これらの結果から、本発明の電極材料では、複合体が粗大粒子により囲まれた間隙部に好適に充填されることがわかる。
【0077】
実施例2
実施例1で用いた反応器の内筒に、1.98gのFe(CH
3COO)
2、0.77gのCH
3COOLi、1.10gのC
6H
8O
7・H
2O、1.32gのCH
3COOH、1.31gのH
3PO
4及び0.50gのケッチェンブラックを水120mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、ケッチェンブラックを分散させるとともに、反応生成物をケッチェンブラックの表面に担持した。内筒の旋回停止後に、反応器の内容物を回収し、空気中100℃で蒸発乾固させた。次いで、窒素中700℃で3分間加熱処理し、複合体を得た。この複合体において、直径20〜50nmのLiFePO
4の一次粒子が分散性良く形成されていた。また、この複合体について、TG測定を、空気雰囲気中、常温〜650℃の範囲で、昇温速度1℃/分の条件で行った。重量減少量を炭素分として評価したところ、複合体におけるLiFePO
4と炭素分(ケッチェンブラック)との質量比は81:19であった。
【0078】
次いで、粗大粒子としての市販のLiFePO
4(一次粒子径0.5−1μm、二次粒子径約2−3μm)と、得られた複合体を100−X:Xの質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極密度測定用の電極を得た。
【0079】
比較例2
実施例1において用いた市販のLiFePO
4(一次粒子径0.5−1μm、二次粒子径約2−3μm)を粗大粒子とし、アセチレンブラックと、100−Y:Yの質量比で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥し、圧延処理を行って、電極密度測定用の電極を得た。
【0080】
図5には、実施例2の電極における、複合体量Xと電極密度との関係を示した。
図5の(A)は、電極のアルミニウム箔上の電極材料の体積と重量の実測値から算出した電極密度と複合体量Xの関係を示しており、(B)は、得られた電極密度から、
粗大粒子密度=電極密度×{(100−X)/100}×0.95
の式を用いて算出した粗大粒子密度(電極1ccあたりの粗大粒子の重量)と複合体量Xの関係を示している。
図6には、比較例2の電極における、電極のアルミニウム箔上の電極材料の体積と重量の実測値から算出した電極密度とアセチレンブラック量Yとの関係を示した。
【0081】
図6から明らかなように、比較例2では、電極材料中のアセチレンブラックがわずかに1質量%であっても、電極密度が急激に減少し、アセチレンブラック含有量がさらに増加するにつれて電極密度がなだらかに減少した。したがって、アセチレンブラックがLiFePO
4粗大粒子間に形成される間隙部に進入しにくく、隣り合うLiFePO
4粗大粒子の間隔を増大させることがわかった。これに対し、本発明の電極材料を用いた実施例2では、
図5の(A)から明らかなように、複合体が10質量%までは複合体含有量が増加するにつれて電極密度が増加し、複合体含有量がさらに増加すると電極密度が減少した。LiFePO
4の粗大粒子密度については、
図5の(B)から明らかなように、複合体が10質量%までは、LiFePO
4粗大粒子のみから構成される電極材料の粗大粒子密度と略同一の値を示した。このことは、複合体が10質量%までは、互いに接触した状態で存在する複数のLiFePO
4粗大粒子により囲まれた間隙部に複合体が充填されていることを示している。これらの結果から、本発明の電極材料では、複合体が粗大粒子により囲まれた間隙部に好適に充填されることがわかる。
【0082】
(II)リチウムイオン二次電池
1)LiMn
2O
4(スピネル)と導電性カーボンとの複合体と、LiMn
2O
4の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例3
実施例1で用いた反応器の内筒に、2.45gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O及び0.225gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノファイバ(直径約20nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2Oを溶解させると共にカーボン混合物を分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物の核が形成され、この核が成長してカーボン混合物の表面に担持された。内筒の旋回停止後に、カーボン混合物をろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料に含まれるMnの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末と、Mn:Liが2:1になる量のLiOH・H
2Oを含む水溶液を混合して混練し、乾燥後に、空気中300℃で1時間加熱処理し、複合体を得た。この複合体において、直径10〜40nmのLiMn
2O
4の一次粒子が分散性良く形成されていた。また、この複合体について、TG測定を、空気雰囲気中、常温〜650℃の範囲で、昇温速度1℃/分の条件で行った。重量減少量を炭素分として評価したところ、複合体におけるLiMn
2O
4と炭素分(カーボン混合物)との質量比は89:11であった。
【0083】
次いで、得られた複合体と、粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4(一次粒子径2−3μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で30:70:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.45g/mLであった。なお、電極材料の密度は、正極のアルミ箔上の電極材料の体積及び重量の実測値から算出した。
【0084】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0085】
実施例4
実施例3において製造した複合体と、粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4(一次粒子径2−3μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.68g/mLであった。
【0086】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0087】
比較例3
粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4(一次粒子径2−3μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.0g/mLであった。
【0088】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0089】
図7に、実施例3の正極と比較例3の正極の表面のSEM写真を示す。(a)は実施例3についての写真であり、(b)は比較例3についての写真である。各写真において、B領域に認められる結晶は、市販のLiMn
2O
4の粗大粒子に含まれている一次粒子である。(a)の写真におけるA領域には、アセチレンブラックと複合体とが共存しているが、これらが市販のLiMn
2O
4の粗大粒子の間の間隙部に密に充填されていることがわかる。(b)の写真におけるA´領域には、アセチレンブラックが存在している。アセチレンブラックも市販のLiMn
2O
4の粗大粒子の間の間隙部に充填されているものの、実施例3の正極と比較して不十分な充填状態であった。
【0090】
実施例4の正極と、比較例3の正極について、水銀圧入法により細孔分布を測定した。結果を
図8に示す。実施例4の正極では、比較例3の正極に比較して、直径0.08μm以上の細孔が顕著に少なく、直径0.08μm未満の細孔が多いことがわかる。これは、実施例4の正極においてアセチレンブラックと複合体とが粗大粒子により形成された間隙部に密に充填されていることを反映した結果であると考えられる。
【0091】
図9には、実施例3、実施例4及び比較例3の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例3及び実施例4の電池は、比較例3の電池より、向上したエネルギー密度を示した。また、
図8に示したように、本発明の電極材料は比較例の電極材料より著しく小さな直径の細孔を有しているが、電解液がこの微細な細孔中にも十分に進入し、優れたレート特性が得られた。
【0092】
2)LiMn
2O
4と導電性カーボンとの複合体と、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例5
粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4の代わりに、同量の市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2(一次粒子径1−2μm、二次粒子径約20μm)を用いて、実施例4の手順を繰り返した。正極における電極材料の密度は、3.2g/mLであった。
【0093】
比較例4
粗大粒子としての市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2(一次粒子径1−2μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.5g/mLであった。
【0094】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0095】
図10には、実施例5及び比較例4の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例5の電池は、比較例4の電池より、向上したエネルギー密度を示した。
【0096】
3)LiFePO
4と導電性カーボンとの複合体と、LiFePO
4の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例6
実施例2において得られLiFePO
4と導電性カーボンとの複合体と、粗大粒子としての市販のLiFePO
4(一次粒子径0.5−1μm、二次粒子径約2−3μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.60g/mLであった。
【0097】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0098】
比較例5
粗大粒子としての市販のLiFePO
4(一次粒子径0.5−1μm、二次粒子径約2−3μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で85:10の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.00g/mLであった。
【0099】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0100】
図11に、実施例6の正極と比較例5の正極の表面のSEM写真を示す。(a)は実施例6についての写真であり、(b)は比較例5についての写真である。各写真において、B領域に認められる結晶は、市販のLiFePO
4の粗大粒子に含まれている一次粒子である。(a)の写真におけるA領域には、アセチレンブラックと複合体とが共存しているが、これらが市販のLiFePO
4の粗大粒子の間の間隙部に密に充填されていることがわかる。(b)の写真におけるA´領域には、アセチレンブラックが存在しているが、アセチレンブラックは、LiFePO
4の粗大粒子の間隙部に密に充填されてはいなかった。
【0101】
図12には、実施例6及び比較例5の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例6の電池は、比較例5の電池より、向上したエネルギー密度を示した。
【0102】
4)LiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、LiCoO
2の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例7
実施例1において得られたLiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、粗大粒子としての市販のLiCoO
2(平均一次粒子径約5μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、3.9g/mLであった。
【0103】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0104】
比較例6
粗大粒子としての市販のLiCoO
2(平均一次粒子径約5μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、3.2g/mLであった。
【0105】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0106】
図13に、実施例7の正極と比較例6の正極の表面のSEM写真を示す。(a)は実施例7についての写真であり、(b)は比較例6についての写真である。各写真において、B領域に認められる結晶は、市販のLiCoO
2の粗大粒子に含まれている一次粒子である。(a)の写真におけるA領域には、アセチレンブラックと複合体とが共存しているが、これらが市販のLiCoO
2の粗大粒子の間の間隙部に密に充填されていることがわかる。(b)の写真におけるA´領域には、アセチレンブラックが存在している。アセチレンブラックも市販のLiCoO
2の粗大粒子の間の間隙部に充填されているものの、実施例7の正極と比較して不十分な充填状態であった。
【0107】
図14には、実施例7及び比較例6の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例7の電池は、比較例6の電池より、向上したエネルギー密度を示した。
【0108】
5)LiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例8
実施例1において得られたLiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、粗大粒子としての市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2(一次粒子径1−2μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、3.2g/mLであった。
【0109】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0110】
比較例7
粗大粒子としての市販のLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2(一次粒子径1−2μm、二次粒子径約20μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.5g/mLであった。
【0111】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0112】
図15に、実施例8及び比較例7の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例8の電池は、比較例7の電池より、向上したエネルギー密度を示した。
【0113】
6)LiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、LiMn
2O
4の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例9
実施例1において得られたLiCoO
2と導電性カーボンとの複合体と、粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4(平均一次粒子径約5μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、3.20g/mLであった。
【0114】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0115】
比較例8
粗大粒子としての市販のLiMn
2O
4(平均一次粒子径約5μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極を得た。得られた正極における電極材料の密度は、2.5g/mLであった。
【0116】
さらに、得られた正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとしたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0117】
図16に、実施例9及び比較例8の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例9の電池は、比較例8の電池より、向上したエネルギー密度を示した。
【0118】
7)Li
4Ti
5O
12と導電性カーボンとの複合体と、Li
4Ti
5O
12の粗大粒子と、の電極材料及びこの電極材料の利用
実施例10
チタンイソプロポキシド1モルに対して酢酸1.8モル、酢酸リチウム1モルとなる量の酢酸と酢酸リチウムを、イソプロパノールと水とを質量比で90:10に混合した混合溶媒1000mLに溶解した。実施例1で用いた反応器の内筒に、得られた液と、1モルのチタンイソプロポキシドと、Li
4Ti
5O
12:Cが80:20になる量のカーボンナノファイバ(直径約20nm、長さ数百nm)とを導入し、66000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間で反応物の薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が加えられて化学反応が進行し、Li
4Ti
5O
12前駆体が高分散担持されたカーボンナノファイバが得られた。内筒の旋回停止後に、カーボンナノファイバをろ過して回収し、真空中80℃で17時間乾燥し、さらに窒素中700℃で3分加熱処理することにより、複合体を得た。この複合体において、直径5〜100nmのLi
4Ti
5O
12の一次粒子が分散性良く形成されていた。また、この複合体について、TG測定を、空気雰囲気中、常温〜650℃の範囲で、昇温速度1℃/分の条件で行った。重量減少量を炭素分として評価したところ、複合体におけるLi
4Ti
5O
12と炭素分(カーボンナノファイバ)との質量比は、80:20であった。
【0119】
次いで、得られた複合体と、粗大粒子としての市販のLi
4Ti
5O
12(平均二次粒子径約7μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で10:90:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の負極を得た。得られた負極における電極材料の密度は、2.85g/mLであった。
【0120】
市販のLiMn
2O
4(平均一次粒子径約5μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の正極(Li/Li
+に対して4Vで動作)を得た。
【0121】
得られた負極と正極を用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液としたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0122】
実施例11
実施例10で得られた複合体と、粗大粒子としての市販のLi
4Ti
5O
12(平均二次粒子径約7μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で20:80:1の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の負極を得た。得られた負極における電極材料の密度は、2.55g/mLであった。
【0123】
さらに、得られた負極と実施例10で得られた正極とを用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液としたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0124】
比較例9
粗大粒子としての市販のLi
4Ti
5O
12(平均二次粒子径約7μm)と、導電剤としてのアセチレンブラックと、を質量比で90:5の割合で混合し、さらに全体の5質量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池の負極を得た。得られた負極における電極材料の密度は、2.0g/mLであった。
【0125】
さらに、得られた負極と実施例10で得られた正極とを用いて、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液としたリチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0126】
図17に、実施例10,11及び比較例9の負極の表面のSEM写真を示す。(a)は実施例10についての写真であり、(b)は実施例11についての写真であり、(c)は比較例9についての写真である。各写真において、B領域に認められる結晶は、市販のLi
4Ti
5O
12の粗大粒子に含まれている一次粒子である。(a),(b)の写真におけるA領域には、アセチレンブラックと複合体とが共存しているが、これらが市販のLi
4Ti
5O
12の粗大粒子の間の間隙部に密に充填されていることがわかる。(c)の写真におけるA´領域には、アセチレンブラックが存在している。アセチレンブラックも市販のLi
4Ti
5O
12の粗大粒子の間の間隙部に充填されているものの、実施例10,11の負極と比較して不十分な充填状態であった。
【0127】
図18には、実施10,11及び比較例9の電池についてのラゴンプロットを示す。実施例10,11の電池は、比較例9の電池より、向上したエネルギー密度を示した。