特許第6236007号(P6236007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6236007-熱伝導性自己支持シート 図000003
  • 特許6236007-熱伝導性自己支持シート 図000004
  • 特許6236007-熱伝導性自己支持シート 図000005
  • 特許6236007-熱伝導性自己支持シート 図000006
  • 特許6236007-熱伝導性自己支持シート 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236007
(24)【登録日】2017年11月2日
(45)【発行日】2017年11月22日
(54)【発明の名称】熱伝導性自己支持シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20171113BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20171113BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20171113BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20171113BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20171113BHJP
   C08J 5/02 20060101ALI20171113BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20171113BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20171113BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20171113BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20171113BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20171113BHJP
   C09K 5/00 20060101ALI20171113BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20171113BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/00
   C08K3/22
   C08K7/00
   C08K9/02
   C08J5/02CER
   C08J5/02CEZ
   H01B17/56 A
   H01B3/42 E
   H01B3/30 Z
   H01B3/44 Z
   H01B3/30 N
   H01B7/02 A
   C09K5/00
   H02K3/30
   H01B3/30 Q
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-534959(P2014-534959)
(86)(22)【出願日】2012年10月1日
(65)【公表番号】特表2015-501340(P2015-501340A)
(43)【公表日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】EP2012004113
(87)【国際公開番号】WO2013053442
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年10月1日
(31)【優先権主張番号】11008292.2
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】11008729.3
(32)【優先日】2011年11月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 龍太
(72)【発明者】
【氏名】クンツ,マッティアス
(72)【発明者】
【氏名】ルジャー,ラインホルド
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−199562(JP,A)
【文献】 特開2006−036931(JP,A)
【文献】 特開2009−144072(JP,A)
【文献】 特開2003−213133(JP,A)
【文献】 特開2010−229269(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/136542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08J 5/00− 5/24
C09K 5/00− 5/20
H01B 3/00− 17/66
H02K 3/00− 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
95〜99.9重量%の少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料および0.1〜5重量%のフィルム形成有機化合物からなる、熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートであって、前記粒子状充填剤材料が酸化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウムまたは酸化ベリリウムの少なくとも1種から構成され、前記粒子状充填剤が少なくとも20のアスペクト比を示すプレートレット形状の形態を示し一次粒子径が5〜60μmである、前記シート。
【請求項2】
粒子状充填剤材料を基準として50重量%超が酸化アルミニウムである、請求項1に記載の熱伝導性の柔軟なシート。
【請求項3】
粒子状充填剤材料のすべてが酸化アルミニウムである、請求項1または2に記載の熱伝導性の柔軟なシート。
【請求項4】
粒子状充填剤材料が5〜60μmの範囲内の一次粒子径を有する一次板状粒子を含む凝集体の形態で存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性の柔軟なシート。
【請求項5】
フィルム形成有機化合物がアクリル、シラン、ウレタン、エポキシ、アミド、塩化ビニルもしくはフェノール基を分子中に有し、任意にフッ素化されていてもよいモノマー、オリゴマーもしくはポリマーの少なくとも1種であるか、またはポリオレフィン、ポリエステルであるか、またはそれらの少なくとも2種の混合された重合した形態である、請求項1〜のいずれか一項に記載の熱伝導性の柔軟なシート。
【請求項6】
重合開始剤がさらに存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の熱伝導性の柔軟なシート。
【請求項7】
請求項1に記載の熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートの製造方法であって、以下のステップ:
a)少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料の水性懸濁液を撹拌下に維持すること、ここで、粒子状充填剤材料が酸化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウムまたは酸化ベリリウムの少なくとも1種から構成され、プレートレット形状の形態を示し一次粒子径が5〜60μmである
b)粒子状充填剤材料を、酸および/または塩基を加えることによって表面処理すること、
c)懸濁液に、フィルム形成有機化合物および粒子状充填剤材料の全固形分を基準として多くとも5重量%のフィルム形成有機化合物溶液またはエマルジョンを加えること、
d)次に得られた懸濁液をフィルターシート上に適用し、それによってフィルターシート上に粒子状充填剤材料の固体凝集物を含む湿潤層を得ること、
e)フィルターシート上の得られた層を任意に洗浄すること、ならびに
f)得られた層を乾燥し、それによって固体の柔軟であり、自己支持のシートを得ること
を含む、前記方法。
【請求項8】
粒子状充填剤材料の表面を酸および塩基を加えることにより処理する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
フィルム形成有機化合物がアクリル、シラン、ウレタン、エポキシ、アミド、塩化ビニルもしくはフェノール基を分子中に有し、任意にフッ素化されていてもよいモノマー、オリゴマーもしくはポリマーの少なくとも1種であるか、またはポリオレフィン、ポリエステルであるか、またはそれらの少なくとも2種の混合された重合した形態である、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
重合開始剤をステップc)においてさらに加える、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートの、機械および装置の絶縁のための使用。
【請求項12】
機械または装置が電気ケーブル束、導体、コイル、発電機、回転子または固定子である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか一項に記載の熱伝導性の柔軟なシートを備えた、電気ケーブル束、導体、コイル、発電機、回転子または固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械または装置、特に高い電圧を使用するものの絶縁に有利に有用な熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシート、かかる熱伝導性の柔軟なシートの製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械または装置、特に高い電圧を使用するもの、例えば電気ケーブル束、導体、コイル、発電機、回転子、固定子などは、コロナ放電に対する良好な絶縁を必要とする。純粋な絶縁ポリマーまたは充填剤を含むポリマーに加えて、マイカは、頻繁にマイカテープの形態において選択の問題としてしばしば使用され、ここで粉砕したマイカ粒子は、重ね合わせた粒子のフィルムとして配置され、かつここでマイカフィルムは、ほとんどの場合において担体材料、例えば織ったガラス繊維上に適用されており、および最終的には保護層によって覆われている。種々の組成の柔軟なマイカテープは、したがって市場において入手できる。
【0003】
上に述べた種類のマイカテープは、マイカの良好な誘電特性のためにコロナ放電に対する満足な保護を示す。しかしながら、マイカは乏しい熱伝導率を示す。したがって、電気機械および装置の内部において発生した熱は、それらがマイカテープまたは種々のマイカ含有製品で絶縁されている場合においては、これらの機械および装置の表面に移送されない。多くの用途において、増加した熱伝導率が機械および装置の増加した出力定格がもたらし、およびそれらの機械の一般的に用いられている空冷がより有効となるので、機械および装置の電気絶縁被覆のより良好な熱伝導性は、高い利点である。
【0004】
したがって、近年電気機械および装置の被覆の絶縁に関し良好な電気的絶縁のみならず良好な熱伝導性を達成するための技術的解決法を提供する多大な努力がなされてきた。
【0005】
EP 266 602 A1において、電気機械のためのコイルが開示されており、ここでコイルは、通常のマイカテープのいくつかの層、続いて高い固有の熱伝導性の粒子を含む含浸樹脂の層によって覆われている。これらの粒子は、後者がマイカテープで包まれた後にコイルを覆う樹脂材料内に無秩序に分布する。マイカテープは柔軟であり、適切にコイルの周囲を包み得るが、一旦被覆した続く樹脂層は、樹脂材料を安定化するために行う硬化プロセスのために剛性であり、柔軟ではない。マイカテープがさらにコイルに適用されるので、コイルの熱的な伝導性は、全体として悪い。
【0006】
DE 197 18 385 A1において、電気機械の金属要素のためのコーティングが記載されており、ここでコーティングは、各々の単一の金属要素上に適用された熱伝導性ラッカーコーティングである。ラッカーコーティングは、ラッカー層中に無秩序に分布し、少なくとも0.4W/mKの得られたコーティングの熱伝導性をもたらす1μm〜100μmの粒子径を有する小さな充填剤粒子を含む。上に記載した樹脂層と同様に、DE 197 18 385 A1のラッカーコーティングは、金属部上に耐久的に適用され、適用した後にそれらの厚さにおいても組成においても形状においても変化可能ではない硬化した層である。さらに、それらは、いくつかの要素から構成されたより複雑な構造にではなく、電気機械の容易に被覆可能な金属要素にのみ、適用され得る。
【0007】
より高い絶縁抵抗、機械的安定性および/または熱伝導性が、各々柔軟性と組み合わせて達成されるようにマイカテープの特性を調整する試みもまたなされている。
【0008】
この目的のために、EP 406 477 A1において、強化マイカ紙が開示されており、ここで基層はマイカでできており、それは次に、その少なくとも1つの表面上のさらなる層によって補強され、さらなる層は、任意の量のシリコーン樹脂、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、チタン酸カリウムおよび柔らかなマイカ粉末を混合することにより得られた混合物を含む。かかるマイカ紙の絶縁抵抗は、通常のマイカ紙と比較して増加している。
【0009】
高度に熱伝導性のテープは、US 7,425,366 B2に開示されている。ここで、テープはマイカ含有層および裏材料を含み、マイカ含有層は0.5w/mKまたはそれより高い熱伝導率、1μmまたはそれより小さいサイズを有するうろこ状の粒子および結合剤を含む。この種のマイカテープは柔軟であるが、通常のマイカテープに類似して、その熱伝導率は、通常のマイカテープにおけるよりも高いが、絶縁された電気機械または装置のより高いエネルギー効率をもたらすためには十分でない。さらに、マイカテープ中のいくつかの層により、その厚さは比較的高く、柔軟性および使用における制限がもたらされる。
【0010】
、コロナ放電に対する十分な絶縁、機械または装置の外側への熱伝達に十分な熱伝導性を示し、それによって機械または装置のエネルギー効率が向上し、ある程度の機械的安定性での良好な柔軟性のための薄い厚さおよび十分な引っ張り強さを示し、ならびに高い百分率の結合剤などを含まず、後者によってその熱伝導性は低下する、電気的絶縁テープを絶縁目的のために提供することができる場合には、それは高い利点であろう。さらに、絶縁テープは、有利にはマイカをも含んではならない。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、上に記載した特性を有する電気絶縁性の柔軟なシートまたはテープを提供することにある。
さらに、本発明のさらなる目的は、かかる熱伝導性シートの製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、かかる熱伝導性シートのための有用な適用を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、70.0〜99.9重量%の少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料および0.1〜30重量%のフィルム形成有機化合物からなる、熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートによって解決される。
【0013】
さらに、本発明の目的はまた、熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートの製造方法であって、以下のステップ:
− 少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料の水性懸濁液を撹拌下に維持すること、
− 粒子状充填剤材料を、酸および/または塩基を加えることによって表面処理すること、
【0014】
− 懸濁液に、フィルム形成有機化合物および粒子状充填剤材料の全固形分を基準として多くとも30重量%のフィルム形成有機化合物溶液またはエマルジョンを加えること、
【0015】
− 次に得られた懸濁液をフィルターシート上に塗布し、それによってフィルターシート上に粒子状充填剤材料の固体凝集物を含む湿潤層を得ること、
− フィルターシート上の得られた層を任意に洗浄すること、ならびに
− 得られた層を乾燥し、それによって固体の柔軟であり、自己支持のシートを得ること
を行う、前記方法によって解決される。
【0016】
さらに、本発明の目的は、上に記載した熱伝導性の柔軟なシートの電気機械または装置の絶縁のための使用によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】例1において得られたシートを示す。
図2】例1において生成したアルミナフレーク凝集体のSEM画像である。
図3】比較例1において得られたアルミナシートを示す。
図4】比較例1において生成したアルミナ凝集体のSEM画像である。
図5】例1において得られた凝集体のふるい漏れ試験による、アルミナ凝集体の通過を示す。
【0018】
本発明の熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートは、シートを基準として70.0〜99.9重量%の少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料、およびシートを基準として0.1〜30重量%のフィルム形成有機化合物からなる。
自己支持の用語は、自明であるが、本発明の意味において、シートがいかなる支持または被覆層をも必要とせずにそれ自体機械的に安定であることを意味する。
柔軟の用語は、自明であるが、本発明の意味において、シートを任意の装置または品目に巻きつけるか、包むかまたは包まれてもよいことを意味する。
【0019】
本発明の好ましい態様において、粒子状充填剤材料(充填剤粒子)は、熱伝導性の柔軟なシートの重量を基準として85.0〜99.5重量%の量において存在する。特に好ましいのは、95〜99.5重量%の充填剤含量であり、最も好ましいのは、98〜99.5重量%の充填剤含量である。
【0020】
少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する充填剤材料は、それ自体知られており、充填剤として熱伝導性コーティングまたは樹脂のために既に使用されている。通常、特別の場合、それらは、US 7,425,366 B2におけるように約1μmもしくはそれより小さい、EP 266 602 A1に記載されているように0.1〜15μmの、またはDE 197 18 385 A1に開示されているように1μm〜100μmのやや小さな粒子径を示す。より小さな粒子範囲が適切な出発原料を粉砕することにより達成され得る一方、20μmより大きな粒子径は、市場においてめったに入手可能ではなく、少なくとも各々のために固有の熱伝導率要求を満たす材料のいずれも入手可能ではない。これらの充填剤粒子がコーティングまたは樹脂中に無秩序に分布する場合において、より小さな粒子径が、当該分野において好ましい。
【0021】
本発明の少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を示す充填剤粒子は、例えば酸化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛または酸化ベリリウムの少なくとも1種から構成されている。これらの2種または3種以上の混合物がまた、可能である。
【0022】
これらの中で、酸化アルミニウムの充填剤粒子が好ましい。酸化アルミニウムを、本発明において、好ましくは充填剤材料の主な成分として使用する。これは、好ましくは、充填剤の重量を基準として50重量%超が酸化アルミニウム、つまり酸化アルミニウム充填剤粒子でできていることを意味する。酸化アルミニウム充填剤粒子をまた、上に述べた化合物から選択された1種または2種以上の化合物製の充填剤粒子と組み合わせて(例えば混合物)使用してもよい。好ましいのは、すべての充填剤、つまりすべての充填剤粒子が酸化アルミニウムである本発明の態様である。
【0023】
さらに、酸化アルミニウム充填剤粒子のための酸化アルミニウムにまた、少量の二酸化チタンをドープさせてもよい。酸化アルミニウムおよび酸化チタンの全重量を基準として約0.1〜5重量%は、二酸化チタンであってもよい。かかる少量の酸化チタンを含む酸化アルミニウム充填剤粒子を、以下でまた、純粋な酸化アルミニウム充填剤粒子と同様に酸化アルミニウム充填剤粒子と称する。実際に、かかる少量の酸化チタンを含む酸化アルミニウム充填剤粒子は、本発明において特に好ましい。
【0024】
結合剤材料は、コーティング、熱伝導性の粒子および結合剤を含む層またはシートの熱的伝導性を低減させる。したがって、最小量の結合剤および最大量の熱伝導性の充填剤粒子を含む柔軟なシートまたはテープを入手可能にすることが、非常に所望される。
【0025】
不都合なことに、小さな充填剤粒子は、柔軟なシートまたはテープを形成することができるためにある量の結合剤材料を必要とする。絶縁材料を基準として55〜65重量%の最大の充填剤含量を電気的絶縁材料において使用することは、それらが熱伝導性であるか否かを問わず一般的実務である(Andreas Kuechler “Hochspannungstechnik”, Springer Verlag, 3. Auflage 2009, S. 303を参照)。その理由は、さもなければ、結合剤マトリックス中の充填剤粒子の湿潤および包含が十分ではないからである。マイカ粒子間に存在する結合力により、マイカ粒子は結合剤材料を全く使用しないかまたはほとんど使用しないことによりシートに形成し得るので、ただマイカは例外を構成するに過ぎない。
【0026】
その構造的にマイカテープに類似する柔軟であり、自己支持であり、熱伝導性シートまたはテープについては、それらがただ少量の結合剤を使用することによりシートまたはテープを形成する必要があり、当該条件が上に記載した結合剤における小さな充填剤粒子の湿潤挙動に起因してそれ自体矛盾であると見られるので、上に開示した従来技術の少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を示す小さな充填剤粒子は、有用であると見られない。
【0027】
驚くべきことに、ここで、小さな充填剤粒子の表面を、小さな一次粒子径を示す充填剤粒子が密着して約150μmまたはさらにより大きい大きな粒子径を有する凝集体を形成し得るように処理する場合には、上に開示したように少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を示す小さな充填剤粒子を、柔軟であり、自己支持であり、熱伝導性シートの製造のために使用し得ることが見出された。かかる大きなサイズの凝集体は、その柔軟なシートを形成するために非常に少量の結合剤を必要とするに過ぎない。
【0028】
したがって、本発明の粒子状充填剤(充填剤粒子)の一次粒子径は、ただ5〜60μmの範囲内にあるのみである。一次粒子は、通常10〜40μmの範囲内の粒度分布D50を示す。
【0029】
充填剤粒子は、少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を示し、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種から構成されている。あるいはまた、上に述べた材料から構成されている充填剤粒子の混合物を、使用してもよい。充填剤を基準として50重量%より大きい量における、または最も好ましくは単一の充填剤材料(上に記載した二酸化チタンをドープした酸化アルミニウム粒子を含む)としての酸化アルミニウムが、好ましい。
【0030】
一次充填剤粒子が、それらが板状の平坦な構造および少なくとも20、好ましくは少なくとも50および最も好ましくは少なくとも80のアスペクト比[粒子の平均の最短の軸(厚さ)に対する平均の最長の軸(長さまたは幅)の比]を示すことを意味する、プレートレット形状の形態を示すのが好ましい。一次充填剤粒子のプレートレット形状の形態によって、得られた凝集物における単一の粒子のわずかな重複ならびに形成した柔軟なシートの最大の表面に沿った一次充填剤粒子および凝集物の良好な配向が可能になる。
【0031】
粒子径およびアスペクト比が上に記載した範囲内にある酸化アルミニウムのプレートレット形状の一次充填剤粒子を、以下に述べる特許明細書に従って調製することができる。好ましいのは通常エフェクト顔料(effect pigment)、例えば干渉顔料(例えばMerck KGaA, Darmstadt, Germanyによって名称Xirallic(登録商標)の下で取引されている干渉顔料)の製造のための基板として使用される、酸化アルミニウムプレートレットである。
【0032】
このタイプのプレートレット形状の酸化アルミニウム顔料を、単結晶を得る特別の結晶プロセスによって製造してもよく、少量(約5重量%まで)の異質の金属酸化物、例えば二酸化チタンを含んでいてもよい。それらを、都合の良い粒子径およびアスペクト比において達成するために、EP 763573 B1に記載されている基板形成ステップに類似するプロセスにおいて、二酸化チタンの量を前述の特許明細書に示された限定内で変化させることにより、最終的な熱処理の温度および結晶成長のための時間を変化させることにより製造してもよい。
【0033】
同様のプロセスにおいて、純粋な酸化アルミニウム一次的充填剤粒子をまた、単に二酸化チタンを省略することにより製造してもよい。本発明の目的のために、当該酸化アルミニウム一次的粒子のプレート状の形状、サイズおよび厚さは、十分な品質である。しかしながら、上に記載した少量の二酸化チタンを含む一次酸化アルミニウム充填剤粒子が、好ましい。
【0034】
上に述べたサイズ範囲内の粒子径を有し、すなわち5〜60μmの範囲内の粒子径を有し、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウムまたはそれらの混合物でできた一次プレートレット形状充填剤粒子は、市場において入手できる。
【0035】
充填剤粒子の表面処理の後に、それらは、5〜60μmの範囲内の一次粒子径を有する一次プレート状粒子を含む凝集物を形成することができる。凝集物は、後に記載するように製造した際に、充填剤粒子のいくつかの層の範囲内にあるに過ぎない大きな横寸法および小さな厚さを示す。
【0036】
本発明において、一次充填剤粒子から生成した凝集物の横寸法は、一次充填剤粒子の表面処理の方法および種類に依存する。少なくとも20μm、特に少なくとも30μmのD50値を示す得られた凝集物の粒度分布は、本発明の柔軟な熱伝導性シートを製造するために十分であり得る。
【0037】
しかしながら、少なくとも50μmのD50値を示し、特に少なくとも80μm、好ましくは少なくとも95μmのD50値を有する程度に高い場合がある得られた凝集物の粒度分布は、それが本発明の製造方法を容易にするので、より大きな利点である。
【0038】
一次充填剤粒子の表面処理に依存して、一次充填剤粒子でできた凝集物の合計の粒子径は、150μmまで、および特に200μmまでの範囲内であってもよい。特に上に述べた材料の高い熱伝導率を有するこの径の一次充填剤粒子は、市場において入手可能ではない。特に、この径の一次プレートレット形状の酸化アルミニウム粒子は、市場において入手可能ではない。
【0039】
一次充填剤粒子の表面処理は、充填剤粒子に酸および/または塩基を適用することによる処理である。
有利には、具体的な処理は、一次充填剤粒子の水性の、または異なる液体懸濁液中で行われる。
【0040】
本発明において、酸および/または塩基で処理し、および特に酸で処理し、それによって一次充填剤粒子の懸濁液のpHを強い酸性の範囲、すなわちpH0.5〜pH3.0に調整し、続いて塩基で処理することが、好ましい。
【0041】
本発明における酸および塩基での処理を、2ステップにおいて行う。最初に、強酸、例えばHCl、HSOまたはHNOを、約0.5〜3.0の範囲内のpHを調整するために少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する一次充填剤粒子の水性懸濁液に適切な量および濃度において加え、それをしばらくの間保持し、次に最終的に続いて、pHを1.0から6.0までの範囲、好ましくは2.0〜4.0の範囲にわずかに上昇させるために強塩基、例えばNaOH、KOHまたはNHOHを適切な量および濃度において加える。
【0042】
一次充填剤粒子の最初の表面処理、特に上に記載した酸および塩基処理の後に、一次充填剤粒子の凝集は開始し、一次粒子径の約2倍である次に得られた凝集体(以下において第一ステップ凝集体と称する)の粒子径および凝集体の対応するより高いD50値がもたらされる。
【0043】
一次充填剤粒子のさらなる凝集を、第2の表面処理をそのとき得られた第一ステップ凝集体に適用することにより達成してもよい。このために、場合によっては結合剤材料の溶液またはエマルジョンを、第一ステップ凝集体の懸濁液に加える。
【0044】
一次粒子の表面を上に記載したように第一ステップ凝集体を形成することができるように前処理したので、およびこれらの第一ステップ凝集体が凝集する傾向を有する反応性の外側表面を尚示すので、第一ステップ凝集体の生成の後の早い段階における結合剤の添加によって、第一ステップ凝集体より径が大きいさらなる第二ステップ凝集体の生成がもたらされる。
【0045】
粒子径が上に記載したように200μmまでであり得、粒度分布D50が50μmまたはそれより大きい範囲内にあり得るこれらの第二ステップ凝集体は、密着して柔軟な自己支持シートを最終的に形成するためにさらにわずかな量の結合剤を必要とするに過ぎない。
【0046】
有利には、一次充填剤粒子の凝集の第2のステップのために使用する結合剤は、また柔軟なシートの形成のために最終的に使用するのと同一の結合剤である。したがって、結合剤材料の1つ単一の添加ステップのみで、有利には凝集を開始するための第1の表面処理が起こった直後に、本発明の柔軟であり、自己支持の熱伝導性シートを形成するのに十分である。
【0047】
有用な結合剤材料は、本発明のフィルム形成有機化合物(それは、少なくとも凝集体生成ステップ(単数または複数)の後に得られた一次充填剤粒子の凝集体の間の、ならびにある程度までまた凝集体の上方の、および下方の表面上の結合剤材料の連続的なフィルムを形成し、後者のフィルムは、連続的である必要はない)として作用し得るものである。
【0048】
したがって、結合剤またはフィルム形成有機化合物は、アクリル、シラン、ウレタン、エポキシ、アミド、塩化ビニルもしくはフェニル基を分子中に有し、任意にフッ素化されていてもよいモノマー、オリゴマーもしくはポリマーの少なくとも1種であるか、またはポリオレフィン、ポリエステルもしくはそれらの少なくとも2種の混合された重合した形態である。
【0049】
好ましいのは、アクリルコポリマータイプ、スチレン−アクリル−タイプ、ポリエステルタイプ、ポリウレタンタイプ、ポリオレフィンタイプ、酢酸ビニルタイプ、酢酸ビニルコポリマータイプ、ポリスチレンタイプ、ポリ塩化ビニルタイプ、ポリ塩化ビニリデンコポリマータイプ、ポリ塩化ビニルコポリマータイプまたは合成ゴムタイプの結合剤または樹脂である。
【0050】
特に好ましいのは、ラテックスタイプまたは合成ゴムの水性エマルジョン樹脂である。例は、スチレンブタジエンラテックス、アクリロニトリルブタジエンラテックス、酢酸ビニル−エチレンラテックス、酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニルラテックス、スチレンブタジエンゴムまたはニトリルブタジエンゴムである。
【0051】
本発明において、熱伝導性シート中の結合剤材料を同時に構成するフィルム形成有機化合物の量は、伝導性シートの重量を基準として0.1〜30重量%である。好ましくは、フィルム形成有機化合物の量は、熱伝導性シートの重量を基準として0.5〜15重量%、特に0.5〜5重量%、最も好ましくは0.5〜2重量%である。
【0052】
その固形分を基準とした粒子状充填剤材料およびフィルム形成有機化合物の合計における量は、本発明の柔軟な熱伝導性シートの重量を基準として加えて100重量%となることは、言うまでもない。
【0053】
また結合剤材料を構成するフィルム形成有機物質に加えて、重合開始剤の添加は、フィルム形成物質がモノマー化合物もしくはオリゴマー化合物であるか、またはモノマーもしくはオリゴマー化合物を含む場合は常に、フィルム形成有機物質に続いてまたはそれと同時に適切であり得る。さらに、またフィルム形成物質が既に高分子材料である場合において、重合開始剤の添加は、架橋を増強するために有利であり得る。重合開始剤として、この目的のために通常用いられている化合物、例えばアゾ化合物、有機過酸化物、アニオン性またはカチオン性重合開始剤を、使用してもよい。特別の化合物は専門家に知られており、さらにここで記載する必要はない。
【0054】
存在する場合には、重合開始剤は、本発明の熱伝導性シート中の有機フィルム形成化合物の重量を基準として0.001〜10重量%の量において存在する。重合開始剤が粒子状充填剤材料およびフィルム形成有機化合物に加えて存在する場合において、3種の化合物の量は、本発明による柔軟な熱伝導性シートの重量を基準として加えて100重量%となる。
【0055】
本発明の熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートは、0.01〜5.0mmの範囲内の厚さを有し、それは以下に記載する製造プロセスに従って変化させてもよい。シートの厚さを、マイクロメートルの範囲において長さを測定することができる任意の機器によって測定してもよい。
【0056】
適切な場合には、本発明の熱伝導性シートは、柔軟である上元来自己支持であるが、シートを、ポリマーフィルムの形態であってもよい基板層、ガラス繊維または当該分野において一般的に使用される同様の基板のシートによって機械的に補強してもよい。通常のマイカテープさえも、本柔軟なシートを例えば接着剤層によって取り付けられ得る基板として使用してもよい。
【0057】
本発明のシートに適用してもよい被覆層の、特に保護シートとしての、存在についても同様のことがいえる。これらの基板および被覆シートは、特定の用途において有利であり得、本発明の熱伝導性シートに代替的に、またはそれらの両方の組み合わせにおいて適用してもよい。
【0058】
本発明の目的のために、粒子径は、一次顔料粒子の、および顔料凝集物のそれぞれの最長の軸の長さであると見なされる。一次顔料粒子の、または顔料凝集体の粒子径を、原則的に、当業者が熟知している粒子径測定のためのあらゆる方法を使用して測定することができる。
【0059】
粒子径測定を、一次顔料または顔料凝集体の径に応じて、例えば直接観察および高解像度光学顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)または高分解能電子顕微鏡(HRTEM)、しかしまた原子間力顕微鏡(AFM)における多数の個々の粒子または凝集体の測定によって単純な方式において行うことができ、後者は各場合において適切な画像解析ソフトウェアを伴う。
【0060】
粒子径の測定を、有利にまた測定機器(例えばMalvern Mastersizer 2000, APA200, Malvern Instruments Ltd., UK)を使用して行うことができ、それはレーザー回析の原理に基づいて作動する。これらの測定機器を使用して、容積についての粒子径およびまた粒度分布の両方を、顔料懸濁液から標準的方法(SOP)で測定することができる。最後に述べた測定方法は、本発明において好ましい。
【0061】
さらに、最終的には本発明の柔軟なシートの最大の部分を構成する凝集体のおよその径をまた、種々の孔径を示す種々のふるいで実行するふるい漏れ試験によって測定してもよく、それによってふるいを通過する凝集体の百分率を、図5から得られ得るように決定してもよい。
【0062】
本発明の目的をまた、上に記載した熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートの製造方法であって、以下のステップ:
− 少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を有する粒子状充填剤材料の水性懸濁液を撹拌下に維持すること、
− 粒子状充填剤材料を、酸および/または塩基を加えることによって表面処理すること、
【0063】
− 懸濁液に、フィルム形成有機化合物および粒子状充填剤材料の全固形分を基準として多くとも30重量%のフィルム形成有機化合物溶液またはエマルジョンを加えること、
【0064】
− 次に得られた懸濁液をフィルターシート上に適用し、それによってフィルターシート上に特定の充填剤材料の固体凝集物を含む湿潤層を得ること、
− フィルターシート上の得られた層を任意に洗浄すること、ならびに
− 得られた層を乾燥し、それによって固体の柔軟であり、自己支持のシートを得ること
を含む、前記方法によって達成する。
【0065】
粒子状充填剤材料の第1の表面処理は、本発明において、酸および/または塩基を加えることによる処理、ならびに特に酸および塩基を加えることによる処理である。既に以前に記載されているように、酸および塩基での処理を、有利には2つのステップにおいて、すなわち第1のステップにおいて強酸性pHで達成するために強酸を加えることによって、および第2のステップにおいて強塩基を加え、それによりpHをわずかに上昇させるが、尚酸性のpH範囲を維持することによって行う。
【0066】
粒子状充填剤材料の第1の表面処理によって、一次充填剤粒子の表面は凝集する強い傾向を達成するように活性化され、上に既に記載したように一次充填剤粒子の第1の凝集がもたらされる。
【0067】
本プロセスにおいて使用する粒子状充填剤材料は、少なくとも5W/mKの固有の熱伝導率を示し、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、窒化炭素、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種から選択された充填剤粒子から構成されている。酸化アルミニウムが、粒子状充填剤材料を基準として50重量%より大きい量において、または最も好ましくは単一の充填剤材料として好ましい。
【0068】
適用した充填剤粒子の、および第1の表面処理から生じた第1の凝集体の量、形状、構造、アスペクト比、サイズおよび粒度分布ならびに対応する製造方法および他の条件は、本発明の柔軟な熱伝導性シート自体に関して以前に既に記載されているのと同一である。
【0069】
一次充填剤粒子の、およびそれから誘導された第1の凝集体の凝集傾向を増強するための第2の処理を、同時に本発明の熱伝導性シートにおいて結合剤を構成するフィルム形成有機化合物を加えることにより行う。
【0070】
本発明のフィルム形成有機化合物は、アクリル、シラン、ウレタン、エポキシ、アミド、塩化ビニルもしくはフェニル基を分子中に有し、任意にフッ素化されていてもよいモノマー、オリゴマーもしくはポリマーの少なくとも1種であるか、またはポリオレフィン、ポリエステル、またはそれらの少なくとも2種の混合された重合形態である。
【0071】
好ましいのは、アクリルコポリマータイプ、スチレン−アクリル−タイプ、ポリエステルタイプ、ポリウレタンタイプ、ポリオレフィンタイプ、酢酸ビニルタイプ、酢酸ビニルコポリマータイプ、ポリスチレンタイプ、ポリ塩化ビニルタイプ、ポリ塩化ビニリデンコポリマータイプ、ポリ塩化ビニルコポリマータイプまたは合成ゴムタイプのフィルム形成有機物質である。
【0072】
これらを、特に、場合によっては本プロセスにおいて溶液またはエマルジョンとして使用する。好ましいのは、水溶液またはエマルジョンである。
特に好ましいのは、ラテックスタイプまたは合成ゴムの水性エマルジョン樹脂である。例は、スチレンブタジエンラテックス、アクリロニトリルブタジエンラテックス、酢酸ビニル−エチレンラテックス、酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニルラテックス、スチレンブタジエンゴムまたはニトリルブタジエンゴムである。
【0073】
本発明において、フィルム形成有機化合物の熱伝導性シート中の量は、存在する伝導性シートの重量を基準として0.1〜30重量%、および好ましくは0.5〜15重量%または特に0.5〜5重量%である。本発明の熱伝導性シートの製造のためのプロセスにおいて使用するフィルム形成有機化合物の量は、シート中の残留フィルム形成有機化合物よりもわずかに多いに過ぎず、上に記載した重量範囲において使用する。
【0074】
本発明の熱伝導性シート中の有機化合物(結合剤)の低い含量が利点であるので、本プロセスにおけるフィルム形成有機化合物の量を、可能な限り低く選択すべきである。
【0075】
さらに、既に上に記載したように、重合開始剤の添加は利点であり得る。存在する場合には、重合開始剤の量は、熱伝導性シート中の有機フィルム形成化合物の重量を基準として0.001〜10重量%である。
【0076】
本発明の柔軟な熱伝導性シートのすべてのコンポーネント、すなわち粒子状充填剤およびフィルム形成有機化合物または、重合開始剤がさらに存在する場合には、粒子状充填剤、フィルム形成有機化合物および重合開始剤は、その全固形分を基準として、柔軟な熱伝導性シートの重量を基準として100重量%まで加えられる。
【0077】
乾燥条件を、適切に選択してもよく、特別の物質および条件に応じて30℃〜90℃の温度範囲において、および数分から数時間までの時間において好ましい。より短い乾燥時間は、経済的利点である。同様に、乾燥温度を、得られた柔軟なシート中の微小空洞の形成を回避するために可能な限り低く選択すべきである。
【0078】
さらに、本発明の目的は、本発明の熱伝導性であり、自己支持であり、電気絶縁性であり、柔軟なシートの、機械および装置の絶縁のための、特に電気設備、例えば電気ケーブル束、導体、コイル、発電機、回転子、固定子などにおける機械および装置の絶縁のための使用によって解決される。
【0079】
高い電圧を使用するかまたは発生させる機械および装置は、良好に十分に絶縁されていない場合にはコロナ放電を示しがちである。したがって、かかるコロナ放電を回避するために、ならびにかかる設備の良好な冷却挙動およびそれと組み合わせて増加した出力定格を可能にするために、本発明の熱伝導性であり、同時に電気的に絶縁性のシートを、かかる目的のために有利に使用してもよい。本発明のシートは自己支持であるが、いくつかの目的のために、その機械的に補強する基板への適用および/または被覆層でのコーティングは、利点であり得る。
【0080】
それらの誘電性挙動、それらの柔軟性およびそれらの機械的安定性、特にウェブ様形態において巻き取られるためのそれらの引っ張り強さにおいて、本発明のシート(またはテープ)は、通常のマイカテープに類似している。例えば、本発明のシートを、約30cmの直径を有するシリンダの周囲に機械的に破壊せずに巻くことが可能である。さらにより良好には、本柔軟なシートは、約10cm、好ましくは約1cmの直径を有するシリンダの周囲に機械的に破壊せずに巻きつけるのに十分に柔軟である。
【0081】
それで作成された絶縁があらゆる形態または寸法を示す装置または設備の周囲にまとわせるかまたは包み得るので、それらを、マイカテープと同程度に多目的に使用してもよい。マイカテープとは対照的に、それらは高い熱伝導率を示し、それは、それらが高い程度の、好ましくは90重量%より高い、それ自体高い固有の熱伝導率を有する材料で構成されるという事実による。したがって、それらを、絶縁材料の高い熱伝導率が適切である場合にはマイカテープの代わりに絶縁目的のために有利に使用してもよい。
【0082】
本発明を以下の例によってある程度詳細に説明するが、これらの例に限定されない。
【0083】
例1:
130gのアルミナフレーク粒子(D50=18μm)を脱イオン水中に分散させて、容積2600mlの分散体を得る。分散体を、撹拌しながら45℃に調整する。pHを、32%のHClを加えることによりpH=1.0に調整する。得られた分散体を、これらの条件下で約30分間保持する。pHを2.0に上昇させるために、32%のNaOHを加え、続いて130gのAE610Hの1%溶液(カルボキシル変性アクリル酸化合物、Emulsion Technology Co., Ltd.、日本の製品)を加える。
【0084】
得られた分散体を、撹拌下で約10分間保持する。次に、40gの分散体を、約100μmの細孔径および12.5cmの直径を有するフィルターシート上に注ぐ。フィルターシート上の湿潤層を、脱イオン水で2回洗浄する。フィルターシート上の残留した湿潤層を、約80℃の温度で3時間乾燥し、当該プロセスによって、柔軟な白色のアルミナシートが生成する。シートを図1に示す。生成したアルミナフレーク凝集体のSEM画像を、図2に示す。
【0085】
例2:
130gのLX874(アクリロニトリルブタジエンラテックス、日本ゼオン社、日本の製品)の1%エマルジョンをAE610Hの代わりに加える以外は、例1を繰り返す。
例1におけるようなアルミナの同様の柔軟なシートが得られる。
【0086】
比較例1:
有機フィルム生成剤をアルミナ粒子分散体に加えない以外は、例1を繰り返す。得られたアルミナシートを、図3に示す。比較例1のアルミナシートがスティックの周囲を包むのに十分高い引っ張り強さを示さないことが、そこから解釈され得る。比較プロセスによって生成したシートは、本発明のシートより小さな柔軟性および機械的強度を示す。
対応するアルミナ凝集体のSEM画像を、図4に示す。
【0087】
Malvern Mastersizer 2000によって測定した、例1において使用した一次アルミナ粒子の、および得られた凝集体の粒度分布(PSD)を、表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
例1において得られた凝集体のふるい漏れ試験を、種々の孔径のふるいを例1のアルミナ凝集体の分散体の濾過のために使用することにより行う。アルミナ凝集体の通過を、図5に示す。
図1
図2
図3
図4
図5