【文献】
DIAS,A.A. et al,TSG-14 transgenic mice have improved survival to endotoxemia and to CLP-induced sepsis,Journal of leukocyte biology,2001年,Vol.69, No.6,p.928-36
【文献】
DAIGO,K. et al,The proteomic profile of circulating pentraxin 3 (PTX3) complex in sepsis demonstrates the interacti,Molecular and Cellular Proteomics,2012年 1月,Vol.11, No.6,p.M111.015073,p.1-12
【文献】
Annu. Rev.Immunol., 2005, Vol.23, p.337-366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成することができるペントラキシン3(PTX3)のN末端ドメインのアミノ酸配列と同一若しくは実質的に同一なアミノ酸配列を含むポリペプチド(以下、「本発明のポリペプチド」と称する場合がある)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療又は予防剤を提供する。
【0013】
本発明において、PTX3は、一般にペントラキシンファミリーと呼ばれるタンパク質ファミリーに属する公知のタンパク質であり、その中でもロングペントラキシンに属するタンパク質である。本発明におけるPTX3は、通常、脊椎動物由来である。
【0014】
脊椎動物としては、例えば、哺乳動物、鳥類、魚類、両生類動物及び爬虫類動物等が挙げられる。哺乳動物としては、特に限られないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜;イヌ、ネコ等のペット;ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることができる。鳥類としては、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、オーストリッチ、エミュ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハト等を挙げることができる。脊椎動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0015】
本明細書において、ポリペプチドやポリヌクレオチドについて「生物X由来」とは、該ポリペプチドのアミノ酸配列又は該ポリヌクレオチドの核酸配列が、生物Xにおいて天然に発現している該ポリペプチドのアミノ酸配列又はポリヌクレオチドの核酸配列と同一であることを意味する。
【0016】
ヒト由来PTX3は、代表的には全長381アミノ酸の1本鎖ポリペプチドからなる。ヒト由来PTX3ポリペプチドの代表的なアミノ酸配列が、Genebank Accession No. AAH39733として登録されている(配列番号2)。また、ヒト由来PTX3ポリペプチドをコードする代表的な塩基配列が、Genebank Accession No. BC039733として登録されている(配列番号1)。
【0017】
通常、細胞において発現されたPTX3ポリペプチドは、細胞外に分泌される過程でそのN末端のシグナルペプチドが切断され、成熟PTX3ポリペプチドとなる。本明細書においてPTX3ポリペプチドは、好ましくは成熟PTX3ポリペプチドである。例えば、ヒト由来PTX3のアミノ酸配列のうち、N末端より1〜17番目のアミノ酸部分はシグナルペプチドとなっており、細胞外に分泌されて成熟ポリペプチドになる過程で切断される。従って、ヒト由来成熟PTX3ポリペプチドは、代表的には配列番号2で表されるアミノ酸配列の18〜381番目のアミノ酸配列を含む。
【0018】
本発明において、PTX3のN末端ドメインは、上述したPTX3ポリペプチド(好ましくは成熟PTX3ポリペプチド)のペントラキシンドメインよりもN末端側の領域又は当該領域の一部である。ペントラキシンドメインは、CRP(C-reactive Protein)やSAP(Serum amyloid P component)等のペントラキシンスーパーファミリーのメンバーに共通するドメインであり、NCBIのConserved Domainにアクセッション番号cd00152として登録されている。従って、当業者であれば、任意のPTX3の配列情報に基づいてそのペントラキシンドメインを特定し、当該PTX3のN末端ドメインを特定することができる。ヒト由来PTX3のペントラキシンドメインは、代表的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列の179〜380番目のアミノ酸からなる領域に相当する。従って、ヒト由来PTX3のN末端ドメインは、通常、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1〜178番目のアミノ酸からなる領域またはその一部であり、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列の18〜178番目のアミノ酸からなる領域またはその一部である。ヒト由来のPTX3であれば、そのN末端ドメインは、N末端より18〜178番目のアミノ酸部分であることが好ましい。配列番号2で表されるアミノ酸配列の18〜178番目のアミノ酸からなる領域については、配列番号3にそのアミノ酸配列を示す。
【0019】
PTX3のN末端ドメインが、PTX3ポリペプチドのペントラキシンドメインよりもN末端側の領域の一部である場合、その長さは、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する限り、特に限定されないが、少なくとも8アミノ酸、例えば10アミノ酸以上、好ましくは30アミノ酸以上、より好ましくは50アミノ酸以上、さらに好ましくは100アミノ酸以上、さらに一層好ましくは150アミノ酸以上(例えば、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160アミノ酸)である。
【0020】
更なる局面において、ヒト由来PTX3のN末端ドメインは、以下のいずれかの領域を含む:
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列の18〜67番目のアミノ酸からなる領域(配列番号3で表されるアミノ酸配列の1〜50番目のアミノ酸からなる領域)、
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列の55〜104番目のアミノ酸からなる領域(配列番号3で表されるアミノ酸配列の38〜87番目のアミノ酸からなる領域)、
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列の92〜141番目のアミノ酸からなる領域(配列番号3で表されるアミノ酸配列の75〜124番目のアミノ酸からなる領域)、及び
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列の129〜178番目のアミノ酸からなる領域(配列番号3で表されるアミノ酸配列の112〜161番目のアミノ酸からなる領域)。
後述する実施例に示すように、(1)〜(4)の各領域は、それぞれ、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する。
【0021】
本発明のポリペプチドは、PTX3のN末端ドメインと同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含む。PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更により好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。ここで「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸の割合(%)を意味する。
【0022】
PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、(1)PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列中の1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列中の1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列等が挙げられる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失、付加又は置換されている場合、その挿入、欠失、付加又は置換の位置は、かかるアミノ酸配列を有するポリペプチドが、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する限り、特に限定されない。本発明で使用可能なPTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、上述したヒト以外の他の脊椎動物におけるそのホモログのアミノ酸配列等が挙げられる。
【0023】
尚、アミノ酸配列が挿入、欠失、付加又は置換されている場合であっても、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を維持するため、配列番号2で表されるアミノ酸配列における47、49及び103番目のシステイン残基は、保存されていることが好ましい。
【0024】
PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドとしては、前記のPTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列を含むポリペプチドと実質的に同質の活性を有するポリペプチドが好ましい。
【0025】
実質的に同質の活性としては、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性が挙げられる。ここで、「実質的に同質」とは、その性質が定性的に(例えば、生理学的に、又は薬理学的に)同質であることを意味する。したがって、上記実質的に同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性が同等であることが好ましいが、その活性の程度(例えば、約0.01〜約100倍、好ましくは約0.1〜約10倍、より好ましくは0.5〜2倍)や、ポリペプチドの分子量等の量的要素は異なっていてもよい。
【0026】
本発明のポリペプチドの長さは、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する限り、特に限定されないが、調製の容易さ及びポリペプチドの安定性の観点から、例えば200アミノ酸以下、好ましくは100アミノ酸以下、より好ましくは50アミノ酸以下である。
【0027】
本発明のポリペプチドとしては、PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列(例、配列番号3)と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、PTX3のN末端ドメインのみ)、PTX3全長ポリペプチド(成熟型及び未成熟型を含む)を挙げることができる。
【0028】
PTX3のN末端ドメイン及び本発明のポリペプチドは、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する。ここで、本明細書において「凝集体を形成する」とは、PTX3のN末端ドメインとヒストンとが特異的な相互作用により結合して、非水溶性の密な集合状態を形成することを意味する。また、本明細書において「ポリペプチド凝集体」とは、PTX3のN末端ドメイン及びヒストンを含んでなる非水溶性の塊状の集合体を意味する。
【0029】
ヒストンは、真核生物のクロマチン(染色体)を構成するタンパク質の一種であり、DNAに結合する活性を有する。本明細書において、ヒストンは、通常、脊椎動物由来、好ましくは哺乳動物由来、最も好ましくはヒト由来である。ヒストンには、H1、H2A、H2B、H3及びH4が包含される。PTX3のN末端ドメイン及び本発明のポリペプチドは、通常、H1、H2A、H2B、H3及びH4からなる群から選択される少なくとも1種のヒストン、好ましくは、H1、H3及びH4からなる群から選択される少なくとも1種のヒストン、より好ましくはH1、H3及びH4のそれぞれと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有する。
【0030】
ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性の有無は、例えば、ポリペプチド凝集体の形成の目視観察によって確認をすることができる。例えば、1.0mg/mlのヒストン溶液(バッファー(150mM NaCl, 20mM HEPES, 4mM CaCl
2, 0.005% surfactant P20(pH7.4))中)と、1.0mg/mlの評価対象ポリペプチド溶液(前記バッファー中)とを等量混合し、目視により粒子状物質の存在が確認できれば、評価対象のポリペプチドはヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有すると判断することができる。目視による観察については、さらに電子顕微鏡を使用すればより明確にポリペプチド凝集体の形成を確認することができる。
【0031】
また、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性の有無は、UV-可視吸収スペクトルを測定することによって確認することもできる。例えば、0.1mg/mlのヒストン溶液(バッファー(150mM NaCl, 20mM HEPES, 4mM CaCl
2, 0.005% surfactant P20(pH7.4))中)と、各種濃度の評価対象ポリペプチド溶液(前記バッファー中)とを等量混合し、スペクトル測定をしたときに、凝集体の散乱によるUV-可視光(例えば310nm)の吸収スペクトルの用量依存的な上昇が観察されれば、或いは同濃度のヒストンのみ、PTX3のN末端ドメインのみ、又は本発明のポリペプチドのみと比較して吸収スペクトルの増大が観察されれば、評価対象のポリペプチドはヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有すると判断することができる。
【0032】
さらに、ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性の有無は、イムノクロマト、オクタロニー法及び免疫比濁法を用いて確認することもできる。
【0033】
上記の方法のうち少なくとも一つの方法においてポリペプチド凝集体の形成が確認できたときに、評価対象のポリペプチドはヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性を有すると判断される。
【0034】
本発明の治療又は予防剤に含有されるポリペプチドは、上述したPTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含む限りにおいて特に制限されず、前記アミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、PTX3のN末端ドメインのみ)であってもよく、或いはPTX3全長タンパク質(成熟型及び未成熟型を含む)であってもよい。かかるポリペプチドのアミノ酸長は特に限定されず、その下限値は、PTX3のN末端ドメインのアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列のアミノ酸長であり、その上限に関しては、例えば200アミノ酸以下、好ましくは100アミノ酸以下、より好ましくは50アミノ酸以下である。
【0035】
本明細書においてアミノ酸配列により特定されるポリヌクレオチドは、ペプチド表記の慣例に従って、左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。本発明のポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH
2)又はエステル(-COOR)の何れであってもよい。また、本発明におけるPTX3のN末端ドメインを含むポリペプチドが、C末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明に含まれる。さらに、上記ポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基(例えば、メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、或いは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質等の複合ポリペプチド等も含まれる。
【0036】
本発明のポリペプチドは遊離体であってもよいし、薬理学的に許容される塩であってもよい。そのような塩としては、薬理学的に許容される酸や塩基等との塩が用いられる。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、バリウム塩)、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が用いられる。
本発明のポリペプチドの機能を増強する薬剤、本発明のポリペプチドに他のタンパク質を付加した複合体、及び複数の本発明のポリペプチドを複数個連結したポリペプチドも本発明の治療又は予防剤の有効成分として使用可能である。
【0037】
本発明のポリペプチドは、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。「単離されたポリペプチドX」の純度(総ポリペプチド重量に占めるポリペプチドXの百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは実質的に100%である。
【0038】
本発明のポリペプチドは、上述した脊椎動物の細胞又は組織から自体公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。具体的には、該動物の組織又は細胞をホモジナイズした後、酸等で抽出を行い、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製及び単離することができる。
【0039】
また、本発明のポリペプチドは、自体公知の方法を用いて、該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入した形質転換体を培養し、得られる培養物から該ポリペプチドを分離することによって製造することもできる。
上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又はその相補配列を含むDNAとしては、染色体DNA、上記ポリペプチドを発現する上述した脊椎動物の細胞又は該細胞が存在するあらゆる組織若しくは器官由来のcDNA、合成DNA等が挙げられる。上記ポリペプチドをコードする染色体DNA及びcDNAは、上述した細胞又は組織より調製した染色体DNA画分及び全RNA若しくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(PCR法)又はReverse Transcriptase-PCR(RT-PCR法)によって直接増幅することができる。或いは、本発明のポリペプチドをコードする染色体DNA及びcDNAは、上記した細胞又は組織より調製した染色体DNA、cDNA及び全RNA若しくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製される公知の染色体DNAライブラリー及びcDNAライブラリーから、コロニー若しくはプラークハイブリダイゼーション法又はPCR法等により、それぞれクローニングすることができる。
形質転換体を利用した上記ポリペプチドの製造は、具体的には、後述の実施例に示された方法に準じて行うことができる。
【0040】
さらに、本発明のポリペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。該ペプチド合成法は、固相合成法又は液相合成法のいずれであってもよい。本発明のポリペプチドを構成し得る部分ペプチド又はアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするポリペプチドを製造することができる。縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法に従って行うことができる。
【0041】
また、本発明のポリペプチドは、PTX3タンパク質を適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
【0042】
以上のようにして得られたポリペプチドは、自体公知の方法により精製することができる。精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、上記方法で得られるポリペプチドが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法或いはそれに準じる方法によって適当な塩(好ましくは、薬理学的に許容される塩)に変換することができ、逆にポリペプチドが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法或いはそれに準じる方法によって遊離体又は他の塩(好ましくは、薬理学的に許容される塩)に変換することができる。
【0043】
本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩は、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して医薬組成物とし、SIRSの治療又は予防剤として用いることができる。本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩の予防的又は治療的有効量を、哺乳動物に投与することにより、当該哺乳動物(好ましくは、ヒト)のSIRSを予防又は治療することができる。投与対象の哺乳動物としては、好ましくはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。このような哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ミニブタ、無毛ブタ、サル等が挙げられる。
【0044】
本明細書において「SIRS」とは、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome)に属する疾患の総称を意味する。本発明において、SIRSは、ダメージ関連分子パターン(Damage associated molecular patterns (DAMPs))に関連する疾患であることが好ましい。なお、本明細書において、DAMPsに関連する疾患とは、DAMPsに起因する疾患と同義である。SIRSを引き起こすDAMPsとしては、例えば、ヒストン(例えば、ヒストンH1、ヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4等)、HMGB1(High Mobility Group Box 1)、S100タンパク質、ヒートショックプロテイン、ヒアルロン酸分解産物、ATP、尿酸、ヘパリン硫酸、DNA等が挙げられる。本発明では、DAMPsは、これらの中でもヒストンであることが好ましく、ヒストンH1、H3又はH4であることがより好ましい。SIRSは、例えば感染性疾患(感染性SIRS)と非感染性疾患(非感染性SIRS)とに区別することができる。感染性SIRSは、SIRSの中でも、細菌、真菌、ウイルス等の病原体の感染により引き起こされる疾患を意味する。感染性SIRSの具体的疾患としては、例えば、細菌感染、真菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症等が挙げられる。非感染性SIRSは、SIRSの中でも、細胞死等により放出された細胞内成分によって引き起こされる疾患を意味する。非感染性SIRSの具体的疾患としては、例えば、膵炎、熱傷、外傷、虚血再還流障害、手術侵襲、横紋筋融解症等が挙げられる。これらの疾患では、一定の割合でヒストン(特にヒストンH1、H3又はH4)が関連する。本発明において、SIRSは好ましくは非感染性SIRSである。
【0045】
本発明において、医薬組成物に使用される薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることもできる。これらの担体は、医薬組成物に使用可能な自体公知の化合物を用いることができ、好適には市販品を利用することができる。また、各種担体の配合量は、当業者により適宜設定することができる。
【0046】
上記医薬組成物の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤;及び注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤等)、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤等)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤等)、ペレット、点滴剤、徐放性製剤(例えば、徐放性マイクロカプセル等)等の非経口剤が挙げられる。これらのような医薬組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。
【0047】
本発明におけるSIRSの治療又は予防剤の投与量は、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩が、治療対象哺乳動物の体内(例えば、血液中)において、ヒストンと結合して凝集体を形成し、ヒストンを中和するのに十分な量であることが好ましい。本発明の治療又は予防剤の投与量は、非経口的に投与する場合は、その投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法等によって異なるが、例えば、体重60kgの患者において、本発明のポリペプチドの重量として、一日につき約10〜1000mg程度、好ましくは約100〜500mg程度、より好ましくは約200〜400mg程度である。投与対象がヒト以外の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0048】
本発明はまた、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を含有する、ヒストンの定量用試薬を提供する。本発明の定量用試薬に関連する各用語の内容(定義及び態様等)も、上記本発明の治療又は予防剤について記載したものと同一である。
【0049】
本発明におけるヒストンの定量用試薬は、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストンとが凝集体を形成するという知見に基づくものである。そのため本発明の定量用試薬は、そのような凝集体が測定でき、且つ定量できる態様であれば特に限定されない。例えば、本発明の定量用試薬は、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩のみからなり、固形物として提供され、適当な緩衝液等により用事調製されるものであってもよい。或いは、前記緩衝液等により適当な濃度に予め溶解されており、液状物として提供されるものであってもよい。
【0050】
更なる態様において、本発明の定量用試薬は、固相担体上に固相化された上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩として提供されてもよい。担体としては、プラスチックプレート(例、96穴プレート)、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、メンブレン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
本発明の定量用試薬を用いた場合、(1)ヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成することができるペントラキシン3のN末端ドメインのアミノ酸配列と同一若しくは実質的に同一なアミノ酸配列を含むポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストン含有試料とを接触させることにより、該ポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストンとを含むポリペプチド凝集体を形成する工程、及び(2)工程(1)により得られたポリペプチド凝集体を定量する工程、を実施することにより、ヒストンを定量することができる。ヒストンの定量方法としては、例えば、上記に説明したヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性の有無を確認する方法等を利用することができる。
【0052】
ヒストンを定量する方法の具体例としては、UV-可視吸収スペクトルの測定が挙げられる。例えば、各種既知濃度(例えば、0.01、0.1、1、10mg/ml)のヒストン溶液(バッファー(150mM NaCl, 20mM HEPES, 4mM CaCl
2, 0.005% surfactant P20(pH7.4))中)と、所定濃度(例えば、1mg/ml)の本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩の溶液(前記バッファー中)とを等量混合し、所定の波長(例えば、310nm)での吸収スペクトルを測定して検量線を作成する。その上で未知濃度のヒストン溶液を用いた場合の吸収スペクトルを測定し、前記検量線を用いてヒストンの濃度を求めることができる。
【0053】
上述のヒストン(又はポリペプチド凝集体)を定量する他の方法としては、ヒストンを特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法によりポリペプチド凝集体中に含まれるヒストンを検出/定量する方法が挙げられる。例えば、上述の本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化した固相担体とヒストン含有試料とを接触させることにより、ヒストンが本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩に捕捉され、当該固相担体上に本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストンとを含むポリペプチド凝集体が形成される。そして、このポリペプチド凝集体へヒストンを特異的に認識する抗体を接触させ、当該抗体の抗原特異的結合を用いた免疫学的手法によりポリペプチド凝集体中に含まれるヒストンを検出/定量する。免疫学的手法としては、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、ラテックス凝集法、ウエスタンブロット法、免疫クロマト法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、Fab発現ライブラリーによって作製された抗体断片、およびこれらの結合性断片(F(ab')
2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、dAb等)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。
【0055】
「特異的な認識」とは、ある抗体の特定の抗原に対する親和性が、他の抗原に対する親和性よりも高いことをいう。
【0056】
特定の抗原を特異的に認識するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体、これらの結合性断片の製造方法は当業者に周知である。
【0057】
ヒストンを特異的に認識する抗体は、好ましくは、ヒト由来ヒストンH1、H2A、H2B、H3又はH4を特異的に認識する抗体であり、より好ましくはヒト由来ヒストンH1、H3又はH4を特異的に認識する抗体である。該抗体として、例えば、ヒト由来ヒストンH3を特異的に認識する抗体を用いることにより、ヒト由来ヒストンH3を特異的に定量し得る。
【0058】
固相担体へ本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化する方法は、当該技術分野において公知であり、特に限定されないが、例えば、適切な緩衝液中の本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩の溶液と固相担体とを接触させることに、固相担体へ本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化することができる。
【0059】
緩衝液の種類は、固相化が可能である限り、特に限定されないが、例えば、クエン酸緩衝液、MES緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、Tris−HCl緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。固相担体としてプラスチックプレートを採用する場合、クエン酸緩衝液、MES緩衝液、炭酸緩衝液及びホウ酸緩衝液が好適に用いられる。
【0060】
緩衝液のpHも、固相化が可能である限り、特に限定されないが、固相担体としてプラスチックプレートを採用する場合、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩のプラスチックプレートへの吸着効率を上げる観点から、pHは3.5〜4.0の弱酸性か、8.5〜9.6の弱アルカリ性とするのが好ましい。
【0061】
固相担体としてプラスチックプレートを採用する場合、固相化に使用する緩衝液は、好ましくはpH3.5〜4.0のクエン酸緩衝液又はMES緩衝液、或いはpH8.5〜9.6の炭酸緩衝液又はホウ酸緩衝液であり、最も好ましくはpH8.5〜9.6炭酸緩衝液である。
【0062】
本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化した固相担体は、ヒストンやヒストンを特異的に認識する抗体の非特異的吸着を抑制するために、適切なブロッキング剤によりブロッキングをすることが好ましい。ブロッキング剤の種類は、非特異的吸着を抑制し得る限り、特に限定されないが、例えばスキムミルク、カゼイン、BSA、ゼラチン、正常血清等のタンパク質、BlockmasterCE510, CE210(JSRライフサイエンス株式会社製)、式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
H
2N−(C
2H
4NH)
n−R
1−(C
2H
4O)
m−R
2 ・・・・・(1)
(式中、n=2〜20、m=2〜200、R
1は単結合、フェニレン基、又は、炭素数1〜10のアルキレン基を表し、R
2は、水素原子、又は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
ヒストンは、強いプラス電荷を有し、BSAに非特異的に吸着するので、ブロッキング剤としては、好ましくはCE510、CE210又は式(1)で表される化合物が用いられる。
【0063】
ブロッキング剤の濃度は、非特異的吸着を抑制し得るように、当業者であれば適宜設定することができる。ブロッキング剤としてCE510又はCE210を使用する場合、通常0.1〜1.0 % (w/v)であり、好ましくは0.1〜0.3 % (w/v)である。
【0064】
ブロッキングは、通常、4〜37℃にて1〜12時間程度、固相担体をブロッキング剤の溶液により処理することにより行われる。
【0065】
本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化した固相担体との接触に供するヒストン含有試料は、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩への結合性を増強し、検出感度を高める観点から、pHを8.0〜9.6の弱アルカリ性となるように調整することが好ましい。pHの調整は、適切な緩衝液(Tris−HCl緩衝液、炭酸緩衝液等)を添加することにより実施することが出来る。
【0066】
ヒストン含有試料は、ヒストンの本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩への結合性を増強し、ヒストンの非特異的吸着を抑制する観点から、例えば0.45〜1.2M、好ましくは0.75〜1.2M、より好ましくは0.75〜0.9MのNaClを含むことが好ましい。
【0067】
本発明の定量用試薬はまた、ヒストンの定量(特に、上記ポリペプチド凝集体の定量)において使用され得る物質をさらに含む、ヒストンの定量用キットとすることもできる。そのような物質としては、具体的には、本発明の定量用試薬やヒストン含有試料を希釈するための緩衝液、反応容器、陽性対照(ヒストン含有量が既知のヒストン含有試料)、陰性対照、標識物質(例えば、蛍光色素、酵素等)、及びヒストン定量方法を記載した指示書等が挙げられる。例えば、上述の免疫学的手法によりヒストンを定量する場合、当該キットには、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化した固相担体、ヒストンを特異的に認識する抗体、ブロッキング剤(好ましくは、CE510、CE210又は式(1)で表される化合物)、pH8.0〜9.6の緩衝液(Tris−HCl緩衝液、炭酸緩衝液等)、濃NaCl溶液(例、1.2M以上、1.0M以上)、二次抗体等が含まれ得る。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。このような定量用キットを使用することにより、より簡便にヒストンを定量することが可能となる。
【0068】
一態様において、本発明のヒストンの定量用キットは、以下の構成を含む:
(1)本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を固相化したプラスチックプレート、又は
pH3.5〜4.0又は8.5〜9.6の緩衝液(例、pH8.5〜9.6炭酸緩衝液)中の本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を含む溶液及びプラスチックプレート、
(2)ヒストンを特異的に認識する抗体、
(3)ブロッキング剤(好ましくは、CE510、CE210又は式(1)で表される化合物)、
(4)pH8.0〜9.6の緩衝液(Tris−HCl緩衝液、炭酸緩衝液等)(ヒストン含有試料調製用)、及び
(5)濃NaCl溶液(例、1.2M以上、1.0M以上)(ヒストン含有試料調製用)。
各構成については、上述のポリペプチド凝集体を定量する他の方法の説明において記載した通りである。
【0069】
上述したヒストンの定量用試薬又は定量方法を用いることによって、試料中のヒストン量(濃度)を調べることができる。これを応用すれば、例えば、哺乳動物より採取した試料中のヒストンを検出又は定量して、該哺乳動物がSIRSに罹患しているか否かを診断することが可能となる。従って、本発明はさらに、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩を含有する、SIRSの診断剤を提供する。本発明の診断剤に関連する各用語の内容(定義及び態様等)も、上記本発明の治療又は予防剤、ヒストンの定量用試薬及び定量方法について記載したものと同一である。
【0070】
本発明の診断剤の診断対象となるSIRSは、DAMPsに関連する疾患であることが好ましく、そのようなDAMPsとしては、ヒストンが好ましく、その中でもヒストンH1、H3又はH4がより好ましい。SIRSには、感染性疾患(感染性SIRS)と非感染性疾患(非感染性SIRS)が包含されるが、好ましくは、非感染性SIRSである。SIRSに該当する具体的疾患やヒストン(又はヒストンH1、H3又はH4)に関連する疾患、及びDAMPsの例示については、上記と同様である。
【0071】
本発明の診断剤は、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストンとの凝集体形成を利用したものであり、本発明の診断剤を用いて、診断対象より採取した試料中のヒストンを検出又は定量し、その試料中のヒストンの有無又は量に基づきSIRSへの罹患の有無を判定することができる。本発明における診断対象としては、好ましくはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。このような哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ミニブタ、無毛ブタ、サル等が挙げられる。また、診断対象より採取される試料としては、例えば、血液、血漿、血清、血管外液、間質液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、リンパ液、唾液、精液、涙、尿等を挙げることができる。これらのうち、本発明における試料としては、診断対象への侵襲が少ないという観点から、好ましくは血液、血漿、血清、唾液、精液、涙、尿であり、より好ましくは血液、血漿、血清である。
【0072】
本発明の診断剤は、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩のみであってもよいし、或いは薬理学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。薬理学的に許容される担体としては、本発明の診断薬を液剤として調製する場合、製剤素材として慣用されている各種担体、例えば希釈剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等を挙げることができる。これらの担体は、通常の診断剤に使用可能な自体公知の化合物を用いることができ、好適には市販品を利用することができる。また、各種担体の配合量は、当業者により適宜設定することができる。なお、本発明の診断剤は液剤のみに限らず、固体製剤及び粉末製剤等の任意の製剤形態とすることができ、各種製剤技術分野において慣用の方法を用いて製剤化することができる。
【0073】
本発明の診断剤を、例えば、診断対象(例えば、ヒト)より採取した試料(例えば、血液)と接触させ、形成される本発明のポリペプチド及びヒストンを含む凝集体を測定して、試料中のヒストン(好ましくは、ヒストンH4)を検出又は定量することにより、対象がSIRSに罹患しているか否か、或いはSIRSに罹患するリスクが高いか否かを判定することができる。
【0074】
本発明の診断剤を用いて試料中のヒストンを検出又は定量する方法は、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストンとを含むポリペプチド凝集体の存在を調べることができるものであれば特に限定されない。例えば、上記に説明したヒストンと結合してポリペプチド凝集体を形成する活性の有無を確認する方法等を用いることができる。
【0075】
本発明において、対象がSIRSに罹患しているか否か、或いはSIRSに罹患するリスクが高いか否かの判定は、特に限定されないが、試料中のヒストンの検出又は定量の結果を、正常な対象について得られる結果と対比することにより行うことができる。その対比の結果として、試料中にヒストンが存在していた場合、又は試料中のヒストンの量が相対的に増加していた場合に、対象がSIRSに罹患している、又はSIRSに罹患するリスクが高いと判断することができる。
本発明において、SIRSに罹患した対象に対して治療を行った際に、治療の効果や経過を観察するための判定は、特に限定されないが、試料中のヒストンの検出又は定量の結果を、正常な対象について得られる結果、罹患後における結果、治療中における結果と対比することにより行うことができる。その対比の結果として、試料中のヒストンの量が相対的に減少していた場合に、対象に対する治療効果が得られており、治療が有効であったと判断することができる。
【0076】
本発明の診断剤はまた、試料中のヒストンの検出又は定量方法において使用され得る試薬等をさらに含む、SIRSの診断用キットとすることもできる。該試薬等としては、具体的には、試薬や上記試料を希釈するための緩衝液、反応容器、陽性対照(ヒストン含有量を予め測定しておいたヒストン含有試料)、陰性対照、標識物質(例えば、蛍光色素、酵素等)、及び検査プロトコールを記載した指示書等が挙げられる。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。このような診断用キットを使用することにより、より簡便にSIRSを診断することが可能となる。
【0077】
本発明はまた、(1)対象より採取した試料と、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とを接触させる工程、及び(2)該試料中のヒストンを検出又は定量する工程を含む、SIRSの罹患の有無の判定方法を提供する。
【0078】
本発明の判定方法に関連する各用語の内容(定義及び態様等)は、上記本発明のSIRSの治療又は予防剤、及び上記本発明のSIRSの診断剤について記載したものと同一である。特に、本発明におけるSIRSの罹患の有無の判定は、上記本発明の診断剤について記載した内容に従って実施することができる。なお、本発明の判定方法では、上記本発明の診断剤について記載した内容に従い、SIRSの罹患の有無だけでなく、SIRSに罹患するリスクが高いか否かを判定することもできる。
【0079】
本発明の診断剤及びその使用方法の態様としては、上述の本発明のヒストンの定量用試薬及び定量方法について記載したのと同一のものを挙げることができる。
【0080】
本発明はまた、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩、及びヒストンまたはそのPTX3N末端ドメイン結合性断片を含む、ポリペプチド複合体、並びにその製造方法を提供する。
【0081】
「ポリペプチド複合体」とは、少なくとも2種のポリペプチドが会合している状態をいい、水溶性であっても非水溶性であってもよい。本発明のポリペプチド複合体は、好ましくは非水溶性のポリペプチド凝集体である。
【0082】
本発明のポリペプチド複合体及びその製造方法に関連する各用語の内容(定義及び態様等)は、上記に示したものと同一である。本発明のポリペプチド複合体及びその製造方法において用いられるヒストンは、通常、H1、H2A、H2B、H3及びH4からなる群から選択される少なくとも1種のヒストン、好ましくは、H1、H3及びH4からなる群から選択される少なくとも1種のヒストンである。
【0083】
本発明のポリペプチド複合体及びその製造方法において用いられるヒストンは、通常、脊椎動物由来である。脊椎動物としては、上述のものを挙げることができる。脊椎動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0084】
ヒト由来ヒストンH3ポリペプチドの代表的なアミノ酸配列が、Genebank Accession No.AAN10051として登録されている(配列番号27)。
ヒト由来ヒストンH4ポリペプチドの代表的なアミノ酸配列が、Genebank Accession No.AAM83108として登録されている(配列番号28)。
【0085】
本発明のポリペプチド複合体またはその製造方法に用いられるヒストンのPTX3N末端ドメイン結合性断片の部位は、PTX3(好ましくはヒト由来PTX3)のN末端ドメインと結合する(好ましくは凝集体を形成する)限り特に限定されない。
【0086】
ヒト由来ヒストンH3のPTX3N末端ドメイン結合性断片を用いる場合、当該断片は、配列番号27で表されるアミノ酸配列の
10-29番目のアミノ酸からなる領域(H3-2、配列番号5)、
50-69番目のアミノ酸からなる領域(H3-6、配列番号9)、
70-89番目のアミノ酸からなる領域(H3-8、配列番号11)、
80-99番目のアミノ酸からなる領域(H3-9、配列番号12)、
100−119番目のアミノ酸からなる領域(H3-11、配列番号14)、又は
110−129番目のアミノ酸からなる領域(H3-12、配列番号15)
(好ましくは、H3-6、8、9又は11、より好ましくはH3-6、8又は11)を含む。
【0087】
ヒト由来ヒストンH4のPTX3N末端ドメイン結合性断片を用いる場合、当該断片は、配列番号28で表されるアミノ酸配列の
50-69番目のアミノ酸からなる領域(H4-6、配列番号22)、
60-79番目のアミノ酸からなる領域(H4-7、配列番号23)、
70-89番目のアミノ酸からなる領域(H4-8、配列番号24)、又は
80−99番目のアミノ酸からなる領域(H4-9、配列番号25)
(好ましくは、H4-6、8又は9、より好ましくはH4-9)を含む。
【0088】
本発明のポリペプチド複合体またはその製造方法に用いられるヒストンのPTX3N末端ドメイン結合性断片の長さは、PTX3(好ましくはヒト由来PTX3)のN末端ドメインと結合する(好ましくは凝集体を形成する)限り特に限定されない。一態様において、当該断片の長さは、100アミノ酸以下、80アミノ酸以下、60アミノ酸以下、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、25アミノ酸以下、24アミノ酸以下、23アミノ酸以下、22アミノ酸以下、21アミノ酸以下、20アミノ酸であり得る。
【0089】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)に含まれる本発明のポリペプチドの含有量は、通常10〜90(ポリペプチドw/w)%、好ましくは40〜80(ポリペプチドw/w)%、より好ましくは50〜60(ポリペプチドw/w)%である。
【0090】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)に含まれるヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片の含有量は、通常10〜90(ポリペプチドw/w)%、好ましくは40〜80(ポリペプチドw/w)%、より好ましくは50〜60(ポリペプチドw/w)%である。
【0091】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)に含まれるヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片は、1種類のみ(H1、H2A、H2B、H3又はH4)であってもよいし、複数種類(2、3、4又は5種類)のヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片が含まれていてもよい。
【0092】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)は、
(1)本発明のポリペプチド及びヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片からなるものであってもよく、あるいは
(2)本発明のポリペプチド及びヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片以外の因子(ポリペプチド)を含んでいてもよい。
【0093】
(2)の場合、本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)に含まれる、本発明のポリペプチド及びヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片の含有量は、本発明のポリペプチド複合体の用途に応じて適宜設定することができる。
【0094】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)は、好ましくは、単離されている。「単離されたポリペプチド複合体」の純度(総ポリペプチド重量に占めるポリペプチド複合体の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは実質的に100%である。
【0095】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)は、本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片とを接触させることにより製造することができる。
【0096】
当該接触工程においては、特に限定されないが、例えば、上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片とは、それぞれ適当な緩衝液により溶解又は懸濁されたものを用いることができる。このような緩衝液としては、両分子の結合及び凝集を阻害しない限りいずれのものでもよく、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水及びHEPES緩衝液等が挙げられる。また、緩衝液のpHは、通常pH4〜10であり、好ましくはpH6〜8である。
【0097】
上記本発明のポリペプチド又はその薬理学的に許容される塩とヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片との接触は、例えば、両分子がそれぞれ溶解又は懸濁された溶液を混合することにより行うことができる。或いは、本発明のポリペプチド或いはヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片のいずれか一方を固相担体上に結合させておき、そこへもう一方の分子を含む溶液を接触させてもよい。このときの混合比率は、ポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)が形成される限り特に限定されないが、通常本発明のポリペプチド1重量部(又はモル)に対して、ヒストン又はそのPTX3N末端ドメイン結合性断片が0.25〜8モル、好ましくは0.5〜4モル、より好ましくは1〜2モルである。
【0098】
両分子の接触は、本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)が形成される限り、二価イオン(好ましくはカルシウムイオン)存在下又は非在下のいずれの条件で行ってもよい。後述の実施例に示す通り、本発明のポリペプチドとヒストンとは、二価イオン(好ましくはカルシウムイオン)存在下の方がより安定に結合するので、好ましい態様において、両分子の接触は、二価イオン(好ましくはカルシウムイオン)存在下で行われる。
【0099】
両分子を接触させるときの温度や時間も特に限定されることはなく、その温度としては、通常0〜50℃、好ましくは4〜40℃、より好ましくは25〜37℃であり、その時間としては、通常1秒〜10時間、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは5分〜0.5時間である。
【0100】
以上のようにして製造されたポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)は、その後、適当な抗体等を用いて回収し、単離及び精製をさらに行うこともできる。その回収、単離及び精製に係る方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ポリペプチド凝集体を単離する場合には、遠心分離等により反応混合物から不溶画分を回収し、上清を除去することにより、本発明のポリペプチド凝集体を得ることができる。ポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)が製造されていることの確認は、例えば、免疫沈降や、上記に示したポリペプチド凝集体の形成を確認する方法を用いて行うことができる。
【0101】
本発明のポリペプチド複合体(好ましくはポリペプチド凝集体)は、例えばSIRSにおけるPTX3とヒストンとの相互作用を解析するための研究試薬や、上記診断剤におけるポジティブコントロール等として有用である。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
実験例1.ELISAバインディングアッセイ
リコンビナントヒトヒストン(NEB社)をそれぞれTBS中に1μg/mLの濃度に調整し、96ウェルELISAプレートに添加して一晩4℃で固相化した。液を捨て、ブロッキングバッファー(TBS, 0.1% Triton-X100, 1% BSA)を添加し、2時間室温でインキュベーションした。洗浄バッファー(TBS, 0.1% Triton-X100)で4回洗浄の後、ブロッキングバッファーで各種濃度に希釈したリコンビナントPTX3を各ウェルに添加し、1時間室温で反応させた。洗浄バッファーで4回洗浄の後、ブロッキングバッファーで希釈したHRP標識抗体を添加し、1時間室温で反応させた。洗浄バッファーで4回洗浄の後、TMB液を添加して30分間呈色反応を実施し、450nmの吸光度を測定した。全てのバッファーには4mM CaCl
2又は4mM EDTAを存在させてアッセイを行った。
【0104】
実験例2.BIAcore測定
測定はBIAcore3000もしくはT200(GEヘルスケア社)を使用した。CM5センサーチップにリコンビナントヒトヒストンをアミンカップリングキット(GEヘルスケア社)で固相化した。リコンビナントPTX3との反応は、バッファー(150mM NaCl, 20mM HEPES, 0.005% surfactant P20(pH7.4))を用いて流速20μl/minで行った。バッファーには2mM CaCl
2又は3mM EDTAを存在させて測定を行った。センサーチップの再生は10μLの1M sodium acetate(pH7.2)及び10μLの10mM NaOHで行った。
【0105】
実験例3.リコンビナントPTX3のクローニング・発現・精製
タグなしPTX3(rPTX3)は、既報(Savchenko, A., et al. (2008) The Journal of Pathology 215, 48-55)に準じて発現・精製した。Myc及びHisタグ付き部分長又は全長PTX3の動物細胞発現コンストラクトは、N末端ドメインのヒトPTX3(1〜178アミノ酸)、N末端にヒトPTX3のシグナルシークエンス(1〜17アミノ酸)をつないだC末端ドメインのヒトPTX3(179〜381アミノ酸)、及び全長ヒトPTX3(1〜381アミノ酸)をコードする配列を増幅し、pEF4/Myc-His Bベクター(Invitrogen)のNotI/XbaIサイトにリクローニングして作製した。FreeStyle
TMMAX CHOシステム(Invitrogen)により発現ベクターをトランスフェクションし、Zeocin
TM(Invitrogen)を用いてステーブル細胞を確立した。各ステーブル細胞の培養上清からHisTrap HP 1mL(GE Healthcare Life Sciences)を用いてタンパク質を精製した。Hisタグ付きN末端PTX3の大腸菌発現コンストラクトは、N末端にTEVシークエンス(ENLYFQG)をつないだN末端ドメインのヒトPTX3(18〜178アミノ酸)、及び47、49、103番目のシステイン残基をセリン残基に変更したN末端ドメインのヒトPTX3をコードする配列を大腸菌発現用に最適化した配列で全合成し、pCold IIベクター(タカラバイオ)のNdeI/XhoIサイトにリクローニングして作製した。発現ベクターをBL21-CodonPlus-RIL(Agilent)にトランスフォーメーションし、常法により発現させた。回収した大腸菌をBugBuster(MERCK)で溶解し、HisTrap HP 1mL(GE Healthcare Life Sciences)を用いてタンパク質精製を行った。
【0106】
実験例4.細胞障害アッセイ
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)をEGM2培地(Clonetics)で培養した。培養後の細胞をPBSで洗浄し、活性化プロテインC(APC)、PTX3、C反応性タンパク質(CRP)又はSerum amyloid P component(SAP)とヒストンとを1時間インキュベートしておいたものを含むOpti-MEM培地を添加して、さらに1時間培養した。培養後の培地中にヨウ化プロピジウム(PI)を終濃度10μg/mLで添加し、10分間染色した。細胞をPBSで洗浄してから剥がし、フローサイトメトリーにより解析した。
【0107】
実験例5.マウス実験
オスC57BL/6マウスに大腸菌発現Hisタグ付きN末端PTX3タンパク質(18〜178アミノ酸)を5mg/kg腹腔内投与し、2時間後にLPSを16mg/kg腹腔内投与し、8日間生存を観察した。LPS投与0、6及び24時間後にヘパリン血漿を採取し、マウスIL-6及びマウスVEGFの濃度をELISAキット(R&D社)を用いて測定した。
盲腸結紮穿孔(CLP)処置は、オスC57BL/6マウスを麻酔し、開腹の後、盲腸を露出し、盲腸を結紮する。注射針で結紮部と盲腸末梢部の中間に穴をあけ、閉腹する。CLP処置の4時間後に、PTX3のN末端ドメイン(5mg/kg)及びゲンタマイシン(5mg/kg)、又はゲンタマイシン(5mg/kg)のみをマウスへ投与した。
【0108】
<結果>
1.PTX3-ヒストン結合による凝集反応
バインディングアッセイとBIAcoreによるSPR測定とで各ヒストンバリアントとPTX3との結合性を解析したところ、ヒストンバリアント毎に異なる結合特性が見られた(
図1A)。特にヒストンH1、H3及びH4は、PTX3との強固な結合親和性を示した。驚くべきことに、SPR測定で得られた親和性は極めて高く、結合シグナル及び解離シグナルを注意深く観察したところ、平衡反応よりもむしろ非特異的な反応に近いことがわかった(
図1A)。以上の結果から、PTX3とヒストンとの結合は通常の平衡反応と異なる機構によるものと推定された。また、PTX3とヒストンとの混合物において、凝集体様のものが目視により確認され、UV-可視吸収スペクトルの測定から用量依存的なスペクトルが見られた(
図1B)。通常のタンパク質結合ではUV-可視吸収スペクトルの増大は見られないことから、PTX3とヒストンとの間には凝集反応が生じていることが明らかとなり、
図1Bに示されたスペクトルは両者を含む凝集物の散乱によるものと考えられた。
【0109】
2.PTX3-ヒストン凝集反応に重要なPTX3ドメインの決定
次に、PTX3のいずれのドメインがヒストンとの凝集に関与しているかを確認するために、PTX3ドメインリコンビナントタンパク質及びN末端多量体形成ミュータント(
図2A)を用いてバインディングアッセイを行った。その結果、ヒストンH1、H3及びH4において、N末端ドメインとの強い結合性が観察された(
図2B)。また、弱いながらもC末端ドメインとの結合性も観察された(
図2B)。そこで、ヒストンとの凝集反応を確認したところ、N末端ドメインに凝集反応が見られた(
図2C)。また、47、49、103番目のシステイン残基をセリン残基に変更して多量体形成能を失わせたN末端ドメインは、結合能及び凝集反応の両方共が低下していた(
図2B、C)。この結果から、ヒストンとの凝集反応にはPTX3の47〜103番目のアミノ酸領域が重要であることが考えられた。PTX3とヒストンとの凝集反応がロングペントラキシン特有のPTX3のN末端ドメインで生じることをさらに確認するために、N末端ドメインが短く、且つヒストンとの結合能が報告されているCRP及びSAPのヒストンとの凝集能を確認したところ、それらには凝集能は見られなかった(
図2C)。
【0110】
3.PTX3によるヒストンの血管内皮細胞障害活性抑制及びPTX3投与マウスにおけるLPS投与による致死率の改善
今回見出されたPTX3-ヒストン凝集反応と、細胞外ヒストンが有する細胞障害活性との関連性を検討した。その結果、PTX3は、細胞外ヒストンによるHUVECに対する障害活性をAPCと同程度に抑制すること、並びにCRP及びSAPは、その抑制効果を有さないことが示された(
図3A)。ヒストンに対するAPCの分解活性と、PTX3の凝集能との関連を確認したところ、PTX3-ヒストン凝集体は、APCによる分解に耐性を有することが示された(
図3B)。また、PTX3のN末端ドメイン(18〜178アミノ酸)もPTX3(全長)と同様に、HUVECにおいてヒストンによる細胞障害活性を抑制できることが確認された(
図3C)。
このようなPTX3-ヒストン凝集反応、及びPTX3によるヒストンの血管内皮細胞障害活性抑制の効果をin vivoで検討した。かかる検討には、ヒストンとの凝集に関与しているPTX3のN末端ドメインを用いた。PTX3のN末端ドメインを投与したマウスは、LPS投与による死亡率を有意に改善した(
図3D)。また、血液中の生化学的な検討により、PTX3のN末端ドメインを投与したマウスは、LPS投与による炎症性反応を抑制していることが示された(
図3D)。
以上の結果から、PTX3のN末端ドメインは、生体にとって悪性因子である細胞外ヒストンに対して凝集反応を起こし、生体内で該ヒストンを中和する効果を奏することが考えられた。これにより、PTX3のN末端ドメインは、細胞外ヒストンに関連する疾患の治療又は予防に有用であることが考えられた。
【0111】
4.ヒストンバリアントとPTX3との結合活性及び親和性
固相化された各リコンビナントヒストンとタグ無しリコンビナントヒトPTX3(rhPTX3)との結合レベルをバインディングアッセイ(ELISA)により測定した。検出にはHRP標識抗PTX3モノクローナル抗体(PPZ1228)を使用した。ELISAは各点2ウェルで行い、3回の独立した実験から平均値と標準偏差を求めた。
その結果、ヒストンバリアント毎に異なる結合特性が見られた(
図4)。特にヒストンH1、H3及びH4は、PTX3との強固な結合親和性を示した。PTX3と各ヒストンとの結合にカルシウムイオンは要求されなかったが、カルシウムイオン存在下の方がより強固に結合した。
【0112】
固相化された各リコンビナントヒストンとタグ付きヒトPTX3フラグメントとの結合レベルをバインディングアッセイ(ELISA)により測定した。検出にはHRP標識抗His(6xHis)抗体を使用した。ELISAは各点2ウェルで行い、3回の独立した実験から平均値と標準偏差を求めた。
その結果、PTX3のN末端ドメインは、全長PTX3と同等のヒストンH1、H3及びH4への結合性を示した(
図8A)。PTX3のN末端ドメインのヒストンH2A及びH2Bへの結合性は、全長PTX3よりも低かった。PTX3のN末端ドメインの各ヒストンへの結合にはカルシウムイオンは要求されなかったが、カルシウムイオン存在下の方がより強固に結合した(
図8A)。また、弱いながらもPTX3のC末端ドメインも各ヒストンへの結合性を示した(
図8A)。47、49、103番目のシステイン残基をセリン残基に変更して多量体形成能を失わせたN末端ドメインは、各ヒストンへほとんど結合しなかった(
図8B)。
【0113】
固相化された各リコンビナントヒストンとMyc及びHisタグ付きヒトPTX3フラグメントとの結合を表面プラズモン共鳴(SPR)により測定した。各PTX3の最高濃度は次の通りである。全長PTX3:1nM、PTX3のN末端ドメイン:5nM、PTX3のC末端ドメイン:50nM。アッセイバッファーには、4mM CaCl
2(Ca
2+)又は4mM EDTA/EGTAを含有させた。SPRにより計測された親和性については3回の実験から求めた。
その結果、SPRでは、各ヒストンへの親和性は、全長PTX3> N末端ドメイン> C末端ドメインの順で高かった(
図9A及びC)。EDTA/EGTA処理により、各ヒストンへの親和性は減弱した(
図9A及びC)。47、49、103番目のシステイン残基をセリン残基に変更して多量体形成能を失わせたN末端ドメインは、結合性は見られたものの、親和性は野生型に比べて低下した。(
図9B及びC)。EDTA/EGTA処理により、各ヒストンへの親和性は減弱した(
図9B及びC)。
【0114】
5.PTX3のN末端ドメインによるヒストン細胞傷害性の抑制効果
Calf Thymus Histones(100μg/mL)とPTX3フラグメント(40μg/mL)、CRP(40μg/mL)又はSAP(40μg/mL)とを共存させた培地でHUVECを37℃で1時間培養し、FACSを用いて障害活性の程度を測定した。HUVECに対するヒストン細胞傷害性の評価はヨウ化プロピジウム(PI)染色を用いて行った。
その結果、全長PTX3及びPTX3のN末端ドメインは、ヒストンによるHUVECに対する障害活性を抑制すること、並びにCRP及びSAPは、その抑制効果を有さないことが示された(
図5A及びB)。
【0115】
Calf Thymus Histonesに換えて、各リコンビナントヒストンを用いて、同様に全長PTX3又はPTX3のN末端ドメインによるヒストン細胞傷害性の抑制効果を検討した。
その結果、全長PTX3は各リコンビナントヒストンによるHUVECに対する障害活性を抑制した(
図10A)。PTX3のN末端ドメインは、ヒストンH4及びCalf Thymus HistonesによるHUVECに対する障害活性を抑制した(
図10B)。
【0116】
LPSを16mg/kgの濃度で腹腔内投与したマウスの生存率を示す。LPS投与の2時間前に、PTX3のN末端ドメイン(5mg/kg)又はコントロールバッファーを腹腔内投与した。また、PTX3のN末端ドメインで処理されたLPS投与マウスにおける血漿IL-6及びVEGFレベルの経時的変化をELISAにより測定した。
その結果、PTX3のN末端ドメインを投与したマウスは、LPS投与による死亡率を有意に改善した(
図5C)。また、PTX3のN末端ドメイン投与により、血漿IL-6及びVEGFレベルが抑制された(
図5E)。この結果から、PTX3のN末端ドメインを投与したマウスはLPS投与による致死に耐性で、かつLPS投与による炎症性反応を抑制していることが示された。
【0117】
マウスを盲腸結紮穿孔手術(CLP)処置し、その処置の4時間後に、PTX3のN末端ドメイン(5mg/kg)及びゲンタマイシン(5mg/kg)、又はゲンタマイシン(5mg/kg)のみをマウスへ投与した。
その結果、PTX3のN末端ドメインを投与したマウスは、CLP処置による死亡率を有意に改善した(
図5D)。
【0118】
以上の結果から、PTX3のN末端ドメインは、生体にとって悪性因子である細胞外ヒストンに対して凝集反応を起こし、生体内で該ヒストンを中和する効果を奏することが考えられた。これにより、PTX3のN末端ドメインは、細胞外ヒストンに関連する疾患の治療又は予防に有用であることが考えられた。尚、ヒストンバリアントの細胞傷害性に対する抑制効果については、
図10に示す。
【0119】
6.ヒストンとPTX3との凝集メカニズム
PTX3及びその他のペントラキシンのヒストンに対する凝集活性を評価した。Calf Thymus Histones(50μg/mL)を各濃度のPTX3フラグメント又は他のペントラキシンと混合し、310nmの波長で吸光度を測定した。混合前に、試料を4mM CaCl
2含有TBSで透析した。
その結果、全長PTX3及びPTX3のN末端ドメインは、ヒストンに対する凝集活性を示した(
図6A)。PTX3のC末端ドメインも、ヒストンに対する一定の凝集活性を示したが、その活性は全長PTX3及びPTX3のN末端ドメインよりも弱かった(
図6A)。CRP及びSAPは、ほとんど凝集活性を示さなかった(
図6A)。47、49、103番目のシステイン残基をセリン残基に変更して多量体形成能を失わせたN末端ドメインは、凝集活性が低下していた。
【0120】
凝集の化学量論を検討した。各PTX3フラグメント(50μg/mL)を様々なモル比のリコンビナントヒストンH4と混合し、遠心分離により凝集体を除去して、上清中に残存したPTX3及びヒストンH4を回収してサイプロルビー染色により検出した(
図6B)。
その結果、全長PTX3及びPTX3のN末端ドメインは、1:1〜1:2のモル比(PTX3(又はそのN末端ドメイン):ヒストンH4)で、ヒストンH4と凝集することが示された(
図6C)。一方、PTX3のC末端ドメインは、1:1〜1:2のモル比(PTX3 C末端ドメイン:ヒストンH4)で、ヒストンH4と凝集することが示された(
図6C)。
【0121】
ヒストンH4−PTX3複合体のCDスペクトルを測定した。PTX3のN末端ドメイン(25μg/mL)及びヒストンH4(5μg/mL)をそれぞれ独立して測定し、さらにヒストンH4−PTX3混合物を測定した(
図6D)。
その結果、PTX3のN末端ドメイン単独では2次構造にαヘリックスを持つスペクトルパターンが得られたが(
図6D上及び中Original)、ヒストンH4と混合した時のPTX3のN末端ドメインでは一般的な2次構造を示すスペクトルパターンが得られなかった(
図6D上及び中with H4)。同様にヒストンH4もPTX3のN末端ドメインと混合した時に一般的な2次構造を示すスペクトルパターンが得られなかった(
図6D下)。
この結果から、ヒストンH4−PTX3複合体形成によりヒストンH4、PTX3どちらも不安定な2次構造を取っていることが考えられ、この不安定な構造が凝集を形成する別の理由であることが示唆された。
【0122】
7.ヒストンH3及びH4のフラグメントの細胞障害活性に対するPTX3の抑制効果
ヒストンH3及びH4のフラグメントの細胞障害活性に対するPTX3の抑制効果を評価した。ヒストンH3及びH4のフラグメントとしては、
図7A及び表1に示したものを使用した。
【0123】
【表1】
【0124】
各フラグメント(250μg/mL)を添加した培地でHUVECを37℃で1時間培養し、FACSを用いて障害活性の程度を測定した。細胞傷害性の評価はヨウ化プロピジウム(PI)染色を用いて行った。
その結果、フラグメントH3-6、H3-8、H3-11及びH4-9が、細胞障害活性を示した(
図7B、7C)。
【0125】
次に、フラグメントH3-6、H3-8、H3-11及びH4-9の細胞障害活性に対するPTX3の抑制効果を評価した。全長PTX3(80μg/mL)の存在又は非存在下の培地において各フラグメント(250μg/mL)を添加し、HUVECを37℃で1時間培養してFACSを用いて障害活性の程度を測定した。細胞傷害性の評価はヨウ化プロピジウム(PI)染色を用いて行った。
その結果、PTX3は、フラグメントH3-6、H3-8、H3-11及びH4-9の細胞障害活性を中和した(
図7D)。この結果から、PTX3はヒストンH3及びH4の細胞傷害活性中心に結合することによって中和していることが示唆された。
【0126】
8.ヒストンとPTX3との凝集の解析結果
各濃度の全長PTX3を50μg/mLのヒストンH4と混合し、UV-可視吸収スペクトル(波長310nm)を測定した。
その結果、PTX3とヒストンとの混合物において、凝集体様のものが目視により確認され、UV-可視吸収スペクトルの測定から用量依存的なスペクトルが見られた(
図11A)。通常のタンパク質結合ではUV-可視吸収スペクトルの増大は見られないことから、PTX3とヒストンとの間には凝集反応が生じていることが明らかとなった。
図11Aに示されたスペクトルは両者を含む凝集物の散乱によるものと考えられた。
【0127】
各ヒストンバリアント(50μg/mL)と各PTX3フラグメント(30μg/mL)とを混合し、波長310nmでの吸光度を測定した。混合前に、試料を4mM CaCl
2含有TBSで透析した。
その結果、全長PTX3及びPTX3のN末端フラグメントは、各ヒストンバリアントと凝集することが示された(
図11B)。PTX3のC末端フラグメントも、各ヒストンバリアントと凝集した(
図11B)。
【0128】
各濃度の全長PTX3(0、12.5、25、50μg/mL)をCalf Thymus Histones(50μg/mL)又はヒストンH4(50μg/mL)と混合し、遠心分離に付した。得られた上清をPPZ-1228を用いた免疫ブロッティング又はサイプロルビー染色に供した。
その結果、PTX3の添加量が高いほど、上清中のCalf Thymus Histones及びヒストンH4の含有量が低下した(
図11C)。この結果から、全長PTX3がCalf Thymus Histones及びヒストンH4と結合し、不溶物として沈降したことが示唆された。
【0129】
ヒストンとPTX3のN末端ドメインとの凝集の化学量論を評価した。各濃度のリコンビナントヒストンH4を、PTX3のN末端ドメインの野生型(50μg/mL)又は多量体形成能を欠損する変異型(50μg/mL)と混合し、凝集体を除去して、残存するPTX3及びヒストンH4をサイプロルビー染色により検出した。
その結果、PTX3の野生型N末端ドメイン及び変異型N末端ドメインは、1:2のモル比(N末端ドメイン:ヒストンH4)で、ヒストンH4と凝集した(
図11D)。
【0130】
CDスペクトルの測定時にはサンプルが凝集していないことが必須であるため、ヒストンH4とPTX3N末端ドメイン(30μg/mL)とを混合し、波長310nmでの吸光度の増大が見られないヒストンH4の濃度域を確認した。混合前に、試料を4mM CaCl
2含有TBSで透析した。
その結果、ヒストンH4の濃度が5μg/mLでほとんど吸光度の増大が認められなかったので、本濃度をCDスペクトル測定に用いた(
図11E)。
【0131】
9.ヒストンH3及びH4のフラグメントのPTX3結合能
ヒストンH3及びH4の各フラグメント(H3-1〜H3-13、及びH4-1〜H4-10)のPTX3への結合活性を評価した。ヒストンH3及びH4並びにそれらのフラグメントをニトロセルロースメンブレンにスポットし、サイプロルビーで染色し、PTX3フラグメントで反応させた。PTX3の検出は、二次反応として抗myc抗体を用い、三次反応としてペルオキシダーゼ標識F(ab’)
2フラグメントヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体を用いて行った。
その結果、全長PTX3はH3-2、6、8、9、11及び12に、PTX3のN末端フラグメントはH3-6、8、9及び11に、PTX3のC末端フラグメントはH3-9及び11に、それぞれ結合した(
図12A左)。また、全長PTX3はH4-6、7、8及び9に、PTX3のN末端フラグメントはH4-6、8及び9に、PTX3のC末端フラグメントはH4-6に、それぞれ結合した(
図12A右)。
【0132】
図7B〜Dと同様に、PTX3のN末端ドメインによるヒストンH3及びH4フラグメントの細胞障害活性の抑制効果を評価した。
その結果、PTX3のN末端ドメインは、フラグメントH3-6、H3-8、H3-11及びH4-9の細胞障害活性を中和した(
図12B)。
【0133】
ヒストンH3及びH4のフラグメントとPTX3との複合体のCDスペクトルを測定した。PTX3のN末端ドメイン及びヒストンH3及びH4のフラグメント(H3-6、H3-8、H3-11及びH4-9)をそれぞれ独立して測定し、さらにPTX3と各フラグメントとの混合物を測定した(
図12C)。両者の濃度については、PTX3(50μg/mL)とH3-6又はH4-9(50μg/mL)、PTX3(25μg/mL)とH3-8又はH4-11(5μg/mL)とした。
その結果、全てのフラグメントにおいて、複合体形成によるPTX3のN末端ドメインの2次構造の変化は観察されなかった(
図12C)。この結果から、ヒストンとの結合によるPTX3の2次構造変化は、細胞傷害活性を有するヒストンの部位との結合だけでは不十分である可能性が示唆された。
【0134】
実験例6 PTX3 N末端ドメイン固相化ELISAによるHistoneの定量(キャプチャー:PTX3 N末端ドメイン、検出:抗Histone H3抗体)
PTX3 N末端ドメインを20mM Carbonate (pH9.6)で1μg/mlに調整して、96ウェルプレート(Maxisorpイムノモジュール(Thermo, #468667))に50μLずつ分注して、4℃で一晩静置した。プレートを洗浄後、CE510(0.1%(w/v))を300μLずつ分注して、25℃で2時間静置した。Histoneサンプルとして、ウシ胸腺由来精製品(Histone from calf thymus,TypeII-A (Lyophilized powder)、SIGMA H9250)およびヒトRecombinant(Histone H3.1/H4 tetramer Human, Recombinant、BioLabs #M2509S)を使用した。プレートを洗浄後、20mM Carbonate, pH9.6, 0.8M NaCl, 1% BSAで調整したHistoneサンプル(0,1,3,10,30,100,300 ng/mL)50μLを25℃で1時間振とうした。プレートを洗浄後、抗Histone H3抗体(Anti-Histone H3, mouse monoclonal antibody, (Clone No MABI0301)、Wako 300-34783)の5,000倍希釈液50μLを25℃で1時間振とうした。プレートを洗浄後、Anti-Mouse IgG Peroxidase conjugate(SIGMA A3673)の5,000倍希釈液50μLを25℃で30分間振とうした。プレートを洗浄後、基質液(1-Step Ultra TMB - ELISA (Thermo、#34028)50μLを25℃で反応させ、30分後に反応停止液50μLを分注した。プレートリーダー(ARVO、PerkinElmer)にて吸光度(450nm)を測定した。
結果を表2に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
検出に抗Histone H3抗体を用いたPTX3 N末端ドメイン固相化ELISAによるHistoneの定量値は、ウシ胸腺由来精製品およびヒトRecombinantで大きな違いはみられなかった。いずれのHistoneについても、10〜100ng/ml前後の領域で、良好な定量性が認められた。
【0137】
実験例7 細胞外ヒストンの細胞傷害活性を抑制するPTX3 N末端側ドメイン部位の同定
(1)PTX3N末端ドメインフラグメントのコンストラクト、発現及び精製
PTX3 N末端ドメインの中でヒストンとの結合、凝集、細胞障害活性の抑制に重要な部位の特定を目的として、PTX3 N末端ドメインフラグメントの取得を試みた。PTX3 N末端ドメインを約50アミノ酸ごと4つに分割し、実験例3にて使用した大腸菌発現PTX3 N末端ドメインと同じくN末端側にHisタグとTEVシークエンスを付けた発現コンストラクトを作成した(
図13)。まず大腸菌発現PTX3 N末端ドメインと同じく、各フラグメントを常法にて大腸菌で発現させ、大腸菌ペレットをBugBusterにて溶解し、Ni-NTAカラムを用いて精製を行った(
図14)。結果、PTXN18でBugBuster溶解時に大量の不溶画分が生じ、ほとんどタンパクが取得できなかったが、その他のフラグメントについては取得できた。PTXN18については、不溶画分を8M Ureaと超音波によって可溶化させ、8M Urea存在下でNi-NTAカラムにトラップし、洗浄し、その後Ureaなしのバッファーで洗浄及び溶出させることで、取得できた。
【0138】
(2)PTX3 N末端ドメインフラグメントのクオリティチェック
PTX3 N末端ドメインはS-S結合を介して多量体(2量体及び4量体)を形成するが、N末端ドメインをより短いフラグメントにした時の多量体形成能はわかっていない。そこで、各フラグメントの還元/非還元下での分子量をSDS-PAGEで確認した。還元(2ME+)又は非還元(2ME-)条件下で各タンパクをSDS-PAGEで分離し、CYPRO Rubyタンパク染色を実施した。結果、システイン残基を持つ3つのフラグメントタンパクでは非還元状態で還元状態の2倍の分子量に染色バンドがシフトし、システイン残基を持たない残りのフラグメントは還元/非還元で分子量の差は見られなかった(
図15)。以上の結果から、本試験において取得したシステイン残基を持つPTX3 N末端ドメインフラグメントタンパクはS-S結合を介して2量体形成していることが示された。同サンプルを、PTX3タンパク全長を免疫源として得られた市販の抗PTX3ポリクローナル抗体によるウエスタンブロットで確認した結果、全てのフラグメントタンパクでバンドが検出された(
図15)。抗Hisタグ抗体を用いたウエスタンブロットでは、PTXN92と129でバンドが確認されなかった(
図15)。抗Hisタグ抗体が反応しない理由は不明であるが、質量分析装置を用いた解析の結果、得られたタンパクはタグがなくなっている可能性が考えられたため、精製後に何らかの理由でタグ部位が切断されているためと推測された。またフラグメントタンパクの予想分子量は8〜9kDaに関わらず、PTXN18は予想分子量より大きかった。理由は不明である。
【0139】
(3)PTX3N末端ドメインフラグメントのヒストンとの結合、凝集、及び細胞障害活性の抑制性
取得されたフラグメントタンパクとヒストンとの結合性をELISAで確認した。これまでELISAの検出には抗Hisタグ抗体を用いていたが、(2)で述べた通りこの抗体に反応しないフラグメントもあるため、抗PTX3ポリクローナル抗体による検出も合わせて実施した。ヒストンとの結合性の前にまず各フラグメントタンパクをELISAプレートに固相化し、それぞれの抗体の反応性を確認したところ、いずれの抗体においてもウエスタンブロットと同じ傾向で反応性の差が見られた(
図16、上段)。同じ抗体を用いて、ヒストンとの結合性を確認した結果、全てのフラグメントである程度のヒストンとの結合性が見られた(
図16、下段)。
【0140】
次にヒストンとの凝集性を310nmの吸収で確認したところ、いずれのフラグメントにおいてもヒストンとの凝集性が見られた(
図17)。
【0141】
最後にヒストンの細胞傷害活性抑制能を確認した。本実験にはある程度のタンパク量とエンドトキシン除去処理が必要であるため、500mL培養スケールでタンパクを発現及び精製し、それらをエンドトキシン除去処理した(
図18)。PTX3N末端ドメインの場合は500mL培養スケールで約10mg前後取得され、エンドトキシン除去処理でのロスはほとんど見られないが、フラグメントタンパクでは1〜5mgの取得量で、いくつかのタンパクではエンドトキシン除去処理でのロスが出た。500mLスケールで取得されたフラグメントタンパクによるHUVECへのヒストン細胞傷害性抑制能を検討した結果、ウシ胸腺由来ヒストンにおいてはPTXN18がPTX3N末端ドメインとほぼ同等の抑制能を示し、ついで55、92、129の順で抑制能が見られ(
図19、左)、リコンビナントヒストンH4においてはPTXN18と129がPTX3N末端ドメインとほぼ同等の抑制能を示し、ついで55、92の順で抑制能が見られた(
図19、右)。結合、凝集性の実験から考慮しても、全てのフラグメントがある程度の抑制能を持つ可能性が考えられた。