(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の耐震施工技術の発展により、比較的大きな地震(例えば、震度6程度)においても建物が倒壊する可能性は減少してきている。
【0003】
このため、従来なら建物自体が倒壊してしまうような巨大な地震においても、建物自体は倒壊を免れる一方で、建物内に設置されている比較的大きな構造物が、移動や転倒してしまうことにより、衝突して怪我をする危険性や、避難経路を塞がれて避難ができなくなってしまうケースが増加することが予測される。
【0004】
特に、オフィスなどに設置されている一般的な電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機等の画像形成装置は、キャスタなどにより容易に移動可能とされているため、地震の際に簡単に移動してしまうケースが多い。
【0005】
また、比較的大型の画像形成装置では、キャスタにより設置位置まで移動させた後に、アジャスタにより設置高さ位置が調整され、キャスタは床から浮いた状態で設置されることが通常である。しかしながら、比較的大きな地震の際には、移動、転倒のおそれがあり、外形寸法、重量が大きいため、衝突して怪我をする危険性や、避難経路を塞がれて避難ができなくなってしまうおそれがある。
【0006】
このような事態を回避するために、建物や建物内の各フロアの防災担当者等は、建物内の設置物の移動および転倒を防止、制限する策を施す必要がある。
【0007】
設置物の移動および転倒防止に関する技術として、例えば、特許文献1には、床面に載置したスキッドの上部に設置物の底部を固定することで、床への当接範囲を広げ、設置物の転倒防止を図る転倒防止器具が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、フリーアクセスフロア(以下、OAフロア)に穴を設け、そこに装着された弾性体上で設置物の台足を支持する免震構造に関する技術が開示されている。また、特許文献3には、設置物を基床上に設けたフレームに固定することで、基床に取付け跡をつけることなく設置可能とした耐震装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、床面に摺動可能に配設される板状の荷重伝達部材と、装置に取り付けられ、荷重伝達部材上で滑動可能な下面を有する複数の装置支持脚と、装置支持脚の荷重伝達部材上での滑動範囲を規制する規制部材と、装置支持脚に固定されて規制部材内部に配設され、装置支持脚の水平および垂直方向の所定位置からの移動に反発力を与える弾性部材とを備えた免震装置が開示されている。
【0010】
この免震装置は、小さな揺れの地震の場合、荷重伝達部材の上で装置が水平に移動し、支持脚と板状の荷重伝達部材の摩擦と、弾性部材の弾性変形により揺れを減衰させ、大きな揺れの地震の場合、装置が更に動いて弾性部材の範囲を超え、支持脚が規制部材で直接規制して、装置の動きが板状の荷重伝達部材に伝わり、板状の荷重伝達部材が床に対して滑り出すことで、床と板状の荷重伝達部材の摩擦により揺れを減衰するものである。
【0011】
また、特許文献5には、床と機器類とを連結して機器類の移動を防止する移動防止器具であって、その底板を粘着性及び制振性を有する粘着性制振材によって床に取り付ける技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1では、転倒防止に対して有効ではあるが、設置物の移動については防止することができない。例えば、スキッドの材質を鉄とした場合、コンクリート床との静摩擦係数(以下、単に摩擦係数ともいう)は、一般的に0.4前後である。ここで、阪神淡路大震災の神戸における震度6強(水平加速度約800gal)が加振された場合、設置物には、0.8Gの加速度が加わるため、静摩擦係数(0.4)<水平加速度(0.8G)となり、設置物は容易に移動してしまい、人への衝突や、避難経路を妨げてしまうといった事態となる。
【0013】
また、特許文献1は、スキッドに直接設置物を組付けているため、設置の際に水平レベルの調整等が必要な電子機器等には、対応することができない。さらに、スキッドが設置物よりも大きく出っ張る形状となるので、利用者が躓いたりするおそれもある。
【0014】
また、特許文献2では、設置物の移動や転倒の防止を図ることは可能となるが、OAフロアに加工を施して、弾性体とネジを埋め込む必要があり、工事の手間と費用が掛かってしまう。また、OAフロアには多くの種類があるため、事前に設置場所と同じOAフロアに加工を施して用意しておくことは難しく、各設置場所にそれぞれに適した加工を施さねばならないことが想定されるため、工事は煩雑で費用が高くなることが考えられる。
【0015】
また、特許文献2では、設置物の移設が困難である。すなわち、移設先が違うコンクリート床等の他の材質の床の場合、移設自体をすることができず、また、OAフロアであっても異なる種類のOAフロアの場合には、別途加工を施すことが必要となり、最初の設置時と同様の手間と費用が掛かってしまう。さらに、特許文献2では、弾性体とキャスタで設置物の重量を支えているため、重量の大きい機器等の場合、機器の落ち込みが生じ、初期姿勢を保てないことが考えられる。
【0016】
また、特許文献3によれば、基床を傷つけることがなく設置することができるが、OAフロアに関する技術であって、床面がコンクリート床などの場合は対応することができない。また、大きな地震の際には、フレーム自体が基床に対して移動するおそれもあるが、その点については考慮されていない。
【0017】
また、特許文献4は、特許文献1と同様に、転倒防止に対して有効ではあるが、設置物の移動については防止することができない。すなわち、大きな揺れが生じた場合、荷重伝達部材と床面の滑りで揺れの伝達を減衰させるようにしているため、設置物は容易に移動してしまい、人への衝突や、避難経路を妨げてしまうといった点を解決することはできない。
【0018】
一方、特許文献5によれば、機器類の移動および転倒防止を図ることが可能となるが、粘着性を有する粘着性制振材(ゲルシート)を床に貼り付ける構成であるため、移設の必要が生じた場合に、剥がす手間と新たな粘着材を用意する必要が生じ、手間がかかりと費用が高くなってしまう。
【0019】
また、外形寸法や重量の大きい設置物の場合、設置物の敷板として剛性が高く面積の広い板を用いることが必要となるため、このような敷板を、粘着性を有するシート材を介して床に貼り付けた場合、端部から徐々に剥がすことはできず一度に引き剥がす必要があるため、容易には剥がすことができない。
【0020】
なお、特許文献6には、設置物の移動の際、設置物の支持部に設けた取外し用ねじ穴に、取外し用ボルトを螺合させ、スパナ等の工具で回転させることにより、支持部が床に対し浮き上って、粘着シートが密着状態から解放させて、粘着シートを床から剥がすことを可能とした技術が開示されているが、剛性が高く面積の広い敷板を用いる場合は、取り外し用のボルトを回転させることが困難であったり、強い力がかかるため床に傷がついてしまったりすることが考えられる。
【0021】
また、特許文献5では、通常のOAフロアは建屋床に設置した支持部材に載せているだけなので、OAフロア自体を建屋床に固定する必要が生じる。よって、コンクリート床に直接、設置する必要が生じるなど、設置場所が限定されてしまうという課題も生じる。
【0022】
そこで本発明は、底部に設置床との関係において静摩擦係数を所定の値以上となる移動制限部材を設け、設置対象物が載置される荷重伝達部材の設置床に対する滑りを規制し、建物内の床面に設置される設置対象物が、地震の際に、移動してしまったり、転倒してしまったりすることを制限することができる耐震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
かかる目的を達成するため、本発明に係る耐震装置は、設置対象物を設置床に固定して設置する際に、前記設置対象物と前記設置床との間に設置される耐震装置であって、前記設置対象物が載置される板状部材であって、表面積が少なくとも前記設置対象物の設置面積よりも広い荷重伝達部材と、前記荷重伝達部材と前記設置床との間に設けられる板状またはシート状の部材であって、前記荷重伝達部材側と接着され、かつ、前記設置対象物
を前記荷重伝達部材に固定した状態で前記設置対象物に対し水平方向からかかる荷重に対し、前記設置床との間の静摩擦係数が所定の値以上となる移動制限部材と、前記設置対象物と当該耐震装置とを連結するための繋止部と、を備え、前記繋止部は、前記設置対象物の外側に備えられるとともに、
前記荷重伝達部材に接合された突起ネジと、該突起ネジと前記設置対象物の脚部または本体部とを連結する連結具と、からなり、前記繋止部および前記設置対象物の重量を受ける部分が、前記荷重伝達部材上に設けられる
ものであり、前記荷重伝達部材および前記移動制限部材のいずれも前記設置床には固設されないものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、床面に設置される設置対象物が地震の際に、移動してしまったり、転倒してしまったりすることを制限することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る構成を
図1から
図11に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
[耐震装置]
本実施形態に係る耐震装置(耐震装置1)は、設置対象物(画像形成装置20)を設置床(設置床10)に固定して設置する際に、設置対象物と設置床との間に設置される耐震装置であって、設置対象物が載置される板状部材であって、表面積が少なくとも設置対象物の設置面積よりも広い荷重伝達部材(敷板2)と、荷重伝達部材と設置床との間に設けられる板状またはシート状の部材であって、荷重伝達部材側と接着され、かつ、設置対象物を荷重伝達部材に固定した状態で設置対象物に対し水平方向からかかる荷重に対し、設置床との間の静摩擦係数が所定の値以上となる移動制限部材(ゴムシート3)と、設置対象物と当該耐震装置とを連結するための繋止部(ネジ4)と、を備えたものである。
【0028】
以下、本実施形態では、設置対象物として、適宜、大型の電子写真式画像形成装置(例えば、(1)奥行990mm、横1280mm、高さ1260mm、重量約630kg、や(2)奥行910mm、横1320mm、高さ1218mm、重量約580kg等である。以下、単に画像形成装置という)を用いた場合を例に説明する。
【0029】
図1は、本実施形態の耐震装置1の斜視図を示している。
図1に示すように、耐震装置1は、設置対象物を設置する設置面であって、設置対象物からの荷重を受ける荷重伝達部材としての敷板2と、敷板2における設置対象物の設置面側とは反対側(耐震装置1と床面との間)に設けられる移動制限部材としてのゴムシート3と、敷板2の4箇所から設置面側に突出し、設置対象物と耐震装置1とを連結するための繋止部としてのネジ4と、から構成される。
【0030】
また、
図2に、
図1に示した耐震装置1に画像形成装置20を載置して、コンクリート床である設置床10に固定的に設定する場合の説明図を示す。画像形成装置20は、本体部24の角4箇所の底面に移動手段として組み付けられているキャスタ23と、本体部24が所定の水平基準を満たすように高さを調整する調整手段としてのアジャスタ21と、を備えている。
【0031】
[荷重伝達部材]
敷板2の表面積(床に対する面積をいうものとする)は、画像形成装置20の設置面積よりも大きく構成することで、画像形成装置20の転倒を防止、制限することが可能となる。なお、画像形成装置20の重心位置にもよるが、転倒防止の観点からは、敷板2の短辺の長さを画像形成装置20の高さ以上とすることがより好ましい。
【0032】
また、敷板2は、設置対象物の荷重に対し、敷板2自体または設置床10を変形させない耐久性(剛性)を有する材質であれば、特にその材質、厚み等は限られるものではない。例えば、設置対象物が200kgを越えるような重量の場合、敷板2の材料を鉄にして、その厚さを2mm以上とすることで、その剛性により、アルミ製等のOAフロアに設置した場合に生じ得る局部的な落ち込みを防止することができる。また、設置時に調整した設置対象物の初期高さや水平度を保つことが可能となる。なお、複数台の装置を連結するシステム装置の場合、各々の装置の高さレベルと水平レベルを所望の規定値内とする必要が生じるため、経時による高さの変動を防ぐことは重要である。
【0033】
敷板2としては、例えば、厚さ4mm程度の鉄板を用いることができる。なお、敷板2は、利用者の躓き防止等の観点から、設置対象物の重量に応じて可能な限り薄板形状とすることが好ましい。
【0034】
また、敷板2の各頂点付近の所定位置には予め繋止部を構成するネジ(突起ネジ)4が溶接にて固定(接合)されている。繋止部の構成については後述する。
【0035】
[移動制限部材]
敷板2の底面側には、移動制限部材(移動防止部材)としてのゴムシート3が設けられている。ゴムシート3は、安価で、耐久性があり、取り扱いも容易であるため移動制限部材として好適である。ゴムシート3の柔軟性により設置床10の凹凸等に対応して、摩擦係数の増加を図ることができる。また、ゴムシート3としては、例えば、敷板2と同一面積で厚さ5mm程度のゴムシートを用いることができる。なお、ゴムシート3も敷板2同様に、利用者の躓き防止等の観点から、可能な限り薄板形状とすることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、敷板2の底面とゴムシート3とは、全面で粘着シートを介して接着しているが、接着方法については特に限られるものではなく、少なくとも、ゴムシート3と床面との間の静摩擦係数以上となるように接着されていれば良い。また、敷板2底面とゴムシート3とは、全面で接着されている必要はなく、少なくとも一部が接着されていれば足りる。
【0037】
なお、本実施形態では、敷板2の底面全面にゴムシート3が貼り付けられているが、静摩擦係数は面積に依存する値ではないため、必ずしも、ゴムシート3は、敷板2の底面全面に対して貼り付けられている必要はない。
【0038】
したがって、敷板2の面積に対して、ゴムシート3の面積の方が少ない構成とすることもできる。この際、ゴムシート3は、少なくとも各アジャスタ21からの荷重を受ける位置(4つのアジャスタ21の周辺をカバーする位置)に設けられていれば良い。また、ゴムシート3は1枚である必要はなく、複数枚のゴムシート3が隙間なく、または、離間して設けられるものであっても良い。
【0039】
また、本実施形態では、敷板2と設置床10との間の移動制限部材としてゴムシート3を例に説明したが、移動制限部材はこれに限られるものではなく、当該移動制限部材と設置床10との間の静摩擦係数が所定の静摩擦係数以上となるものであればよい。ここで、静摩擦係数は、設置床(本実施形態ではコンクリート床)の材質、表面粗さ等に応じて変動するため、静摩擦係数が所定の静摩擦係数以上となるように、最適な移動制限部材を選択することが必要となる。
【0040】
したがって、例えば、設置床がコンクリート床であった場合、移動制限部材としては、ゴムシートの他に、杉板、コルク板、岩板(岩体)等を用いることで静摩擦係数を所望の値以上とすることができる。例えば、杉板とコンクリート床の静摩擦係数は0.8程度であり、0.3G〜0.7Gの力が加わった場合でも、ほとんど移動しない。
【0041】
[繋止部]
次に、設置対象物の設置、および、設置対象物と耐震装置1との固定について説明する。耐震装置1は少なくとも1箇所以上の繋止部を有しており、当該繋止部と画像形成装置20の本体部24または脚部であるアジャスタ21とが固定される。
【0042】
図3は、
図2に示した耐震装置1の繋止部に固設された状態の耐震装置1と画像形成装置20(1脚部)の拡大断面図である。
【0043】
画像形成装置20は、キャスタ23により水平方向への移動が可能となっており、設置時には、敷板2上の所定の設置位置までキャスタ23により移動させて設置位置決めを行った後、4本のアジャスタ21の回動部21bを回転させる。次いで、各アジャスタ21のネジ状の軸部21aの本体部24からの突出量を調整することで、画像形成装置20の設置高さを所望の高さとすることができる。また、設置床10に凹凸、傾き等がある場合でも、各アジャスタ21の突出量を調整することで、画像形成装置20が所望の水平基準を満たすように設置することができる。
【0044】
なお、設置時には、キャスタ23は、敷板2から離間した状態となり、4本のアジャスタ21により本体部24は支持される。また、本実施形態では、アジャスタ21から敷板2、設置床への荷重を分散させることを目的として、床面にアジャスタ受け22を置いて、アジャスタ受け22を介して、画像形成装置20を設置しているが、アジャスタ受け22を用いずに、アジャスタ21が直接、敷板2上に載置される構成であっても良い。
【0045】
次に、
図2に示したように連結具としての固定金具5と固定金具6の開口部でアジャスタ21の軸部21aを挟みこんで嵌めあわせ、多端側の穴をネジ4に嵌め込んでから、ネジ7により固定金具5と固定金具6とを連結して固定する。なお、固定金具の形状は、一例であって、これに限られるものではなく、1つの固定金具により固定するものであっても良い。
【0046】
これにより、アジャスタ21の軸部21aに対し、固定金具5と固定金具6を介してネジ4(すなわち、耐震装置1)を繋止することができる。最後に、スプリングワッシャ9を介して袋ナット8によりネジ4を締付けている。
【0047】
以上の作業を4つのアジャスタ21とネジ4との間で同様に行って、画像形成装置20を敷板2上に固定するものである。なお、アジャスタ21とネジ4との固定は、少なくとも1箇所で行うことで固定できるが、画像形成装置20の回転移動防止の観点からは少なくとも2箇所で固定することが好ましい。この場合、敷板2にはネジ4を必要な本数のみ設けておけばよい。
【0048】
[設置対象物の設置]
以上説明した耐震装置1は、設置床10に単に載置するだけで良く、設置床10との間に、粘着性の部材を用いて粘着させることやアンカーボルトの打ち込み等は、何ら行われない。したがって、画像形成装置20を移設する際には、画像形成装置20を耐震装置1上から移動させた後に、耐震装置1を画像形成装置20の移動先の位置に設置し、上述したような固定金具の取付等を行うだけでよく、画像形成装置20の移設を容易に行うことができる。
【0049】
特に、設置対象物が大型の機器である場合、敷板2の設置面積も大きくなるため、設置床10に対して粘着して固定させていた場合は、容易に設置床10から剥がすことは困難である。本実施形態に係る耐震装置1では、このようなことが生じないため、設置対象物の移設が簡便である。また、アンカーボルト等を打ち込む必要がないため、設置床を傷付けることがない。
【0050】
このように固定された状態で画像形成装置20は使用される。この状態で大きな地震が発生すると、上下左右方向に設置床10は揺れる。揺れの周期によって変動はあるが、震度6を越え震度7未満の場合、概ね300gal〜700galの加速度で画像形成装置20は加振されることとなる。これは約0.3G〜0.7Gに相当する。なお、気象庁により定義される気象庁震度階級では、地震の大きさは震度0〜7に区分される。なお、例えば、中越地震(2004年10月)では1300gal、東日本地震(2011年3月)では2700galが観測されている。また、東日本地震の宮城県栗原市では震度7(改正メルカリ震度階級X(破滅的)程度)、茨城県つくば市では震度6強(改正メルカリ震度階級VIII〜IX(極めて強い〜破壊的)程度)が観測されている。
【0051】
本実施形態では、ゴムシート3と設置床(コンクリート床)10との静摩擦係数を0.7以上としているため、最大の加振力と同等であって、画像形成装置20が大きく移動することを抑制することができる。一方、ゴムシート3を貼り付けずに鉄板の敷板2のみを介して設置したところ、敷板2とコンクリート床との静摩擦係数は0.4程度であり、加振力より小さいため、画像形成装置20は大きく移動、転倒を生じてしまう(実施例参照)。
【0052】
なお、設置床10との関係において、ゴムシート3よりも静摩擦係数の高くなる部材を移動制限部材として貼付することで、震度7まで耐えることも理論上可能となる。しかしながら、建築物自体の倒壊が予測されるほどの震度の場合、設置対象物の移動、転倒防止は、意味をなさないため、本実施形態では、震度6の地震発生時の耐震性を考慮し、静摩擦係数を0.7以上としている。例えば、静摩擦係数を、0.7〜0.8程度となるような移動制限部材を用いることで、震度6強までの地震時における設置対象物の移動、転倒防止を図ることができる。
【0053】
なお、画像形成装置20の移設時には、上述の逆の手順を行えばよい。すなわち、固定金具5と固定金具6を外して、アジャスタ21の回動部21bを回転させて、アジャスタ21床面から浮かせた状態として、キャスタ23により本体部24を支持するようにする。この状態で、簡単に画像形成装置20を敷板2から降ろすことができる。また、移設先に、耐震装置1を敷き直した後、上述の手順により設置を行えばよい。
【0054】
以上説明した本実施形態に係る耐震装置1によれば、設置対象物よりも大きな荷重伝達部材(敷板2)を用いることで、地震の際の転倒を防止、制限し、また、敷板2の底部側に設置床10との関係において静摩擦係数を所定の値以上となる移動制限部材(ゴムシート3)を設けることにより、設置対象物が載置される敷板2の設置床10に対する滑りを規制し、地震発生時の水平揺れによる移動を抑制することが可能となる。
【0055】
また、耐震装置1は、設置床10へ粘着させることなく、単に設置床に載置するだけでよいため、設置対象物の移設の際にも、工事等が生じることなく、容易に移設可能である。また、床面による制約を受けることなく、コンクリート床、OAフロア、カーペットなどへの設置が可能となる。
【0056】
また、既存のアジャスタ21を用いて固定可能としているので、画像形成装置側には連結部等の新たな構成を設ける必要がなく、既存の敷板2を本実施形態に係る耐震装置1に置換することで、簡単に設置することが可能である。また、アジャスタ21により画像形成装置20の所望の水平レベルを調整した後に、敷板2に固定することができる。また、特許文献4のような弾性部材を備えることなく、脚部を直接固定しているので、ネジ、固定金具等の繋止部を簡易な構成にすることができる。
【0057】
(第2の実施形態)
以下、本発明に係る耐震装置のその他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の点についての説明は省略する。
【0058】
図4は、耐震装置1の繋止部に固設された状態の耐震装置1と画像形成装置20(1脚部)の拡大断面図である。本実施形態では、ネジ4を敷板2に溶接するのではなく、第1の実施形態のネジ4の溶接位置に相当する位置を敷板2が設置面側に隆起した形状として、その位置にネジ穴2aを設けたものである。なお、ゴムシート3は、ネジ穴2aの相当位置には設けられていない。
【0059】
本実施形態の耐震装置1では、ネジ4をネジ穴2aの下部側から嵌め込んで、スプリングワッシャ12を介してナット11によりネジ4を締付けて、固定金具5,6を固定している。よって、ネジ4のフランジ部が抜け防止となり、上記第1の実施形態と同等またはそれ以上の固定力としている。また、ネジ4を溶接した場合のように、ネジ4が突起した形状ではないので、輸送や保管時などの積み重ね時にも好適である。また、ネジ4を溶接する必要がないので、敷板2の加工も容易である。
【0060】
(第3の実施形態)
図5は、耐震装置1の繋止部に固設された状態の耐震装置1と画像形成装置20(1脚部)の拡大断面図である。
【0061】
本実施形態では、固定金具5,6に替えて、鎖13を用いて耐震装置1と画像形成装置20のアジャスタ21を繋止している。アジャスタ21により画像形成装置20の高さ位置調整後に、固定金具18をアジャスタ21のネジ状の軸部21aに嵌め込んで、鎖13を掛け、固定金具19をネジ7で固定することにより、鎖13の外れ防止と、アジャスタ21からの固定金具19の外れ防止ができる。また、鎖13の他端側は、固定金具17と鎖13との外れ防止を、固定金具16をネジ14で固定することにより行う。
【0062】
固定金具16はネジ15を用いて敷板2に固定される。本実施形態では、敷板2にネジ穴が設けられている。なお、ネジ15による固定位置とアジャスタ21の位置とは、鎖13の長さを調整することで調整することができ、鎖13が緩まなければ、ある程度の距離があっても転倒防止については、上記実施形態と同様の効果がある。また、鎖13に替えて弾性部材(スプリング)等を用いても良い。
【0063】
したがって、繋止位置に自由度を持たせることが可能となり、例えば、敷板2に予め複数のネジ穴を設けておくことで、設置対象物の外形寸法が変わっても、敷板2を共通して使用することが可能となる。例えば、1枚の敷板2によりサイズの異なる画像形成装置20へ対応することができるので、画像形成装置20の機種交換時等にも耐震装置1については、そのまま継続して使用することが可能となる。また、耐震装置1の製造コストも抑えることができ、かつ、個別化による在庫管理や輸送管理の煩雑さもなくなる利点がある。
【0064】
なお、上記実施形態で説明したように、繋止部として固定金具5,6とネジ4、またはネジ穴2aを用いる場合についても、予め大きさの異なる画像形成装置20へ対応可能となるように、ネジ4やネジ穴2aを複数個所に設けておいて、設置する画像形成装置の大きさに応じて選択可能としておくことで、鎖13を用いる場合と同様に、繋止位置に自由度を持たせることが可能となる。
【0065】
また、耐震装置1の繋止部と画像形成装置20との固定は、必ずしも画像形成装置20の脚部(アジャスタ21)ではなく、本体部24側に耐震装置1の繋止部と接続するための固定部を設けて固定するようにしても良い。この際に、上記のような固定金具を用いる方法や、鎖を用いる方法の他に、弾性部材(スプリング)を用いて固定するようにしても良い。
【0066】
(第4の実施形態)
耐震装置1は、設置対象物の大きさに合わせた寸法となるため、設置対象物が大型の装置等の場合、一枚の板状部材として構成すると、敷板2の厚みを大きくする必要性にも伴い、敷板2の重量が増加して、耐震装置1自体の重量が増して、運搬や設置が困難となる。
【0067】
そこで、
図6に示すように、耐震装置1を分割可能な構成とし、分割された耐震装置の各ピース1a〜1dを、結合部材25をネジ26によりネジ止めすることにより結合して、使用するようにする構成とすることも好ましい。この構成によれば、一枚当たりの重量、製造コストを抑えて、運搬や設置が容易とすることができる。また、大きさの異なる設置対象物への交換時等において、一部のピースのみを交換して継続使用可能となり、利便性の向上を図ることができる。
【0068】
また、
図7に示すように、分割可能な耐震装置1において、結合部材25を用いることなく各ピース1a〜1dが離れた位置に設置される構成としても良い。この構成によれば、一枚当たりの重量、製造コストをさらに抑えることが可能となる。なお、
図7に示す形態における敷板2とゴムシート3の「表面積」とは、各ピース1a〜1dの外周部を、分離部分を含めて囲んだ面積(図中の線aで示す範囲)をいい、線aで囲む範囲が、設置対象物の設置面積よりも広いよりも広ければよい。
【0069】
なお、
図6、
図7に示す例では、耐震装置1を4つに分割し、結合可能な構成としているが、分割数については特に限られるものではなく、例えば、2分割、6分割、8分割等とすることも可能である。また、分割される形状や結合手段も特に限られるものではない。また、分割された各ピースが所定の空隙を有するように設置されるものであっても良い。
【0070】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上記実施形態では、大型の電子写真式画像形成装置を例に説明したが、設置対象物の大きさや重量は、特に限られるものではなく、オフィスなどに設置されている一般的な電子写真方式の画像形成装置(複合機)、その他の電子機器、家庭用電子機器、家具等にも適用可能であることは勿論である。
【実施例】
【0071】
敷板と設置床との間に移動制限部材として、敷板底面にゴムシートを貼付ける本発明に係る耐震装置の有効性について、以下の実験を行った。
【0072】
<比較例1>
ゴムシートを貼付しない敷板を、(1)コンクリート床、(2)OAフロア(絨毯)、(3)合成樹脂系シート床(塩化ビニールなど)の各設置床に設置し、静摩擦係数を計測した。なお、敷板としては、幅445mm、長さ945mm、厚さ4mm、重量12.9kgの鉄板を用いた。
【0073】
敷板が動き出しを開始した際の荷重(動き出し荷重N)の平均値と静摩擦係数を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0074】
<実施例1>
これに対し、移動制限部材としてゴムシート(タイガースポリマー株式会社製、NBR(L)、幅440mm、長さ940mm、厚さ3mm)を、粘着シート(DIC製 No.8840ER)を用いて敷板底面に接着して、比較例1と同様の計測を行った。なお、ゴムシートと敷板の合計重量は14.7kgであった。
【0075】
動き出し荷重Nの平均値と静摩擦係数を測定した。測定結果を表2に示す。
【表2】
【0076】
表1、表2に示すように、ゴムシートを用いることで、敷板のみの場合に比べて静摩擦係数を大きく、滑りにくくすることができる。
【0077】
<実施例2>
次に、以下の条件で実験を行った。以下、XはNS方向、YはEW方向、ZはUD方向である。
【0078】
(A)加震台(テーブル)仕様
テーブル寸法 X:6m,Y:4m(コンクリート床寸法 X:6.5m,Y:4m)
加震台にめねじアンカー施工したコンクリート床を載せて評価
最大搭載質量 80tonf
最大変位 X:±300mm,Y:±150mm,Z:±100mm(35tonf)
最大加速度 X:1G,Y:3G,Z:1G(35tonf)
自由度:6自由度
【0079】
(B)設置対象物(供試機)
プリンタ(本体)および周辺装置の重量 1,530kg
【0080】
(C)加震波
阪神・淡路大震災(1995年兵庫県南部地震)の神戸海洋気象台で観測した波形(神戸波と呼ぶ)を各条件の入力加震波に調整した。
図8(A),(B),(C)に各方向の入力加震波の波形を示す。
【0081】
(D)判断基準
実施例2では、下記(D1),(D2)を判断基準とした。
(D1)設置対象物の転倒が無いこと
(D2)設置対象物の移動距離が規定量500mm以内であること
なお、(D1),(D2)に示す判断基準は、参考文献1((社)ビジネス機器・情報システム産業協会(JBMIA)の複写機の地震安全対策WGによる『複写機、複合機及びデジタル印刷機の耐震実験結果報告』)の値を参考とした。
【0082】
(E)判定結果
加震後の敷板と設置対象物(システム)の移動量と、加震中の設置対象物(システム)の移動量の一覧を
図9に、加震後のシステムの移動量を示すグラフを
図10に示す。転倒は、すべての条件(No.1〜11)において生じなかった。なお、アンカーレス方式とは、
図3に示した本発明に係る構成をいい、また、アンカー方式とは、ゴムシート3を有さず、固定金具5,6をアンカーボルトにより設置床10に打ち付けて固定した従来の一般的な構成をいう。また、ジャッキアップ方式とは、アジャスタ受け22の摩擦のみで設置対象物の動きを制限する構成であって、ゴムシート3、固定金具5,6およびその固定具4,7〜9を備えない構成をいう。
【0083】
図9および
図10に示すように、アンカーレス方式、アンカー方式では、震度7/XY加震まで移動量の目標値である規定量500mm以下を満足した。また、ジャッキアップ方式では、震度6強/XYZ加震まで目標値を満足した。
【0084】
(F)加速度
本体の上部および下部にそれぞれ加速度計を取り付け計測した。最小、最大加速度の値を
図11(A)〜(C)に示す。
図11(A)はアンカーレス方式、(B)はアンカー方式、(C)はジャッキアップ方式での測定結果である。震度階級が大きくなるにつれて、速度の絶対値が大きくなることを示している。
【0085】
(G)まとめ
判断基準(D1),(D2)に基づいて判定を行った結果、以下のことを確認した。
(1)アンカーレス方式は、震度7/XY加震まで耐震効果があった。
(2)アンカー方式は、本体のみ見れば、震度7/XY加震まで耐震効果があった。
(3)ジャッキアップ方式は、震度6強/XY加震まで耐震効果があった。
【0086】
上記比較例1および実施例1,2の結果に示されるように、ゴムシートを用いることで、各設置床について、静摩擦係数を向上させることができることを確認した。また、静摩擦係数を0.7以上とすることで、震度6強の地震波形による実験の場合でも固定された設置物が敷板ごと規定量(50cm以上)移動してしまうことを防止可能であることを確認できた。
【0087】
なお、静摩擦係数は、上述のように接触する2部材(移動制限部材と床面)の表面粗さ、凹凸形状、温度等の環境、潤滑性部材の介在の有無、等によって変動するものであるので、設置面との関係で、所定の静摩擦係数以上となるように、移動制限部材は適宜選択されるものである。