(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
撮像手段により画像を投射する前の投射面を撮像する第一ステップ、投射する前の投射面を撮像した画像を解析し、光量分布(第1の光量分布)を取得する第二ステップ、光学系を有する画像投射装置によりテスト用の投射画像を投射する第三ステップ、前記撮像手段でテスト画像を撮像する第四ステップ、撮像したテスト画像を解析し、光量分布(第2の光量分布)を取得し、第1の光量分布と第2の光量分布との差異を解析する第五ステップを実行し、前記光学系への付着物による投射画像の光量分布への影響を評価することを特徴とする画像投射装置評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面により本発明を実施するための形態について説明する。
なお、以下の説明では、本発明の特徴である異物の写り込みを定量化する手順と同時にこの手順に必要とされる構成および作用について併せて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る画像投射装置評価方法に用いられる画像投射システムの一例を示す図である。
同図において符号1は画像投射装置(プロジェクタ)を、符号2は撮像手段を、符号3はスクリーンもしくは壁を、符号4は投射画像を、符号5は異物の写り込みをそれぞれ示している。
画像投射システムでは、画像投射装置1からテスト画像を表示し、それを撮像手段2により撮影する。
図1において画像投射装置1からの投射は実線の矢印で示され、その投射画像の撮像は破線の矢印で示されている。
【0014】
撮像手段2には、デジタルカメラ、CCD(Charge−coupled device)カメラなどが用いられる。
カラーが好ましいが,テスト画像が白、若しくは黒の場合、モノクロの撮像手段であってもよい。
図1では、テスト画像に全白画面を投射している。
異物の写り込みの部分は暗くなっている様子を示している。
【0015】
撮像手段2は、画像投射装置1と別である必要はなく、画像投射装置1に組み込まれていても良い。
例えば、
図2に示すように、画像投射装置21に組み込まれた投射レンズ22、撮像手段23を備えることも可能である。また、
図3に示すように、撮像手段(
図3中、符号24で示す)を複数設けてステレオカメラのような二眼式とすることも可能である。
【0016】
画像投射装置の評価システムには、上述した撮像手段2に加えて解析手段6が備えられている。
解析手段6は、画像投射装置の内部に、電子電気回路を備えた制御基板として組み込まれている。従ってハードウェア的なものである。
【0017】
このような解析手段6は、光を照射する前のスクリーン或いは壁を撮像することで得られる、スクリーン表面にあるムラ、模様、シミ、汚れ等を検出する。この場合の検出対象は、画像投射前の元々のスクリーン面の画像が対応している。
解析手段6では、上述した画像投射前のスクリーン表面での元々の画像が取り込まれる。
取り込み後、投射レンズの変倍比に応じたテスト画像の投射、それの撮像、解析、さらに、元々のムラ、模様、シミ、汚れとの比較演算を行い、画像投射装置内部の異物による写り込みを抽出する。これは、元々の画像とテスト画像との差分を取れば良い。
【0018】
解析手段6には、上述した元々の画像データを登録可能な記憶手段を備えた記憶回路基板が備えられている。解析手段6では、抽出した画像と、記憶回路基板に予め記憶させておいた写り込み画像の情報とを比較して、異物の付着位置を推定し、各種警告の表示などを行う。
【0019】
なお、解析手段6は、上述したように、制御基板のようなハードウェア的な要素として設けることに限らない。
例えば、
図4に示すように、画像投射装置1をパーソナルコンピュータ(PC)7などに接続して使用する場合には、解析のためのプログラムの一つとしてソフトウェア的に用いることも可能である。
このような構成は、ハードウェア的な構成とした場合のように独自で解析処理する場合とは違って、パーソナルコンピュータ(PC)で実行されるシーケンス処理に従うことから演算速度では劣るが、他のプログラムとの連動など、汎用・拡張性に優れる利点がある。
【0020】
図5は、
図1に示した解析手段6によって実行される処理の内容を説明するためのフローチャートである。
図5において、画像投射装置内部の異物による写り込みを抽出するために、次の工程が実行される。
[1]テスト画像を投射する前(投射面に光を照射しない状態で)、撮像手段で、スクリーン或いは壁の画像を撮像しておく(第一ステップ(符号ST1で示す))。
[2]次にこの画像の解析を行い、光量分布(第1の光量分布)を取得する(第二ステップ(符号ST2で示す))。
[3]テスト用の投射画像を投射し(第三ステップ(符号ST3で示す))。
[4]撮像手段で撮影する(第四ステップ(符号ST4で示す)4)。
[5]テスト画像の解析を行い光量分布(第2の光量分布)を取得し、元々の画像データ(第1の光量分布)と比較して、テスト画像での異物抽出のための解析を行う(第五ステップ(符号ST5で示す))。
【0021】
図23に示すように、スクリーン若しくは壁に、模様、ムラ、或いは、汚れ、シミなどが、元々ある場合、画像投射装置内部の異物により写り込みと区別できない場合がある。 ステップ1では、テスト画像を投射する前に(投射面に光を照射しない状態で)、撮像手段で、スクリーン或いは壁の画像を撮像しておくテスト画像を投射する前に(投射面に光を照射しない状態で)、撮像手段2によって、スクリーン或いは壁の画像が撮像される。
【0022】
第二ステップ(ST2)では、第一ステップ(ST1)において得られた画像の解析(光量分布の取得)を行う。
第二ステップ(ST2)で実行される解析では、投射面が平坦であり、室内灯などの照明が均一であるとして、シミ、汚れなどがあれば、その部位と周囲との光量の比較により、その部位の位置、程度を検出することができる。
これは特許文献1のような従来技術から明らかである。また画像の補正も従来技術で可能である。投射面に元々シミ、汚れがある場合、その位置、サイズ、光量の低下量などの情報を、投射画像装置の記憶回路に保存する。
【0023】
また、シミ、汚れなどが無い場合は、解析結果を以降のステップに反映させなくともよい。シミ、汚れが無い場合、投射面の光量分布は均一であり、シミや汚れがある場合でさらに濃く、また数が多くなるに従い、投射面の均一性は失われていく。
第二ステップでは、光量分布から光量が設定値(閾値)より高いまたは低い位置(第1の位置情報)が割り出される。前記設定値(閾値)は光量の均一度の高い場所の光量を設定値(閾値)としてもよい。シミ、汚れなどが無い場所等である。
【0024】
第三ステップおよび第四ステップ(ST3,4)では、周知の方法によりテスト画像の投射および撮像が行われる。
【0025】
第五ステップ(ST5)で実行される解析には、撮像画
像を用いた光量分布の差異分析が行われる。特に、この場合には、第2の光量分布から光量が設定値(閾値)より高いまたは低い位置(第2の位置情報)が用いられる。前記設定値(閾値)は光量の均一度の高い場所の光量を設定値(閾値)としてもよい。本実施例の場合の第2の位置情報は、第1の位置情報でない領域が対象とされる。
以下に撮像画
像を用いる手順およびこれを用いて異物の抽出方法、そして集出した結果の解析に応じた処理について説明する。
【0026】
画像投射装置の画像形成に用いられる空間光変調素子には、大別すると、次に挙げるものがある。
マイクロミラーを可動させるDMD(Digital Micromirror Device、Texas instruments社)、反射型液晶空間光変調素子(LCoS、Liquid Crystal on Silicon)、透過型液晶空間光変調素子がある。
これらの空間光変調素子の画素は一辺が10μm前後であり、例えば解像度XGA(extended graphic array)では1024×768の画素が配列されており、WXGAでは1280×800の画素が配列されている。
【0027】
また、これらの空間光変調素子は、
図6(d)に示すように、画素配列の前面に保護用のカバーガラスが設置されている。
このカバーガラスの埃、塵、汚れなどの異物が付着すると、スクリーンに異物の映り込みとして投射される。
【0028】
投射レンズと空間光変調素子の画素配列は共役の関係にあるが、画素配列から1〜2mm程度の前面(投射レンズ寄り)にあるカバーガラスもまた、共役に近い関係にある。
従って、カバーガラス上に付着した異物は、投射レンズによりスクリーンに投射される。ただし、この場合、所謂デフォーカスであるため、スクリーン上でシャープな像にはならず、ぼけた画像となる。
【0029】
また、投射レンズのF値及び焦点距離にも依存する。また、異物は塵、埃などであり、サイズ、形状、透過率、反射率など、さまざまな種類がある。
ただし、完全な吸収体、反射体は希であり、大部分一部吸収、一部反射である。
従って、異物が光を吸収するとしても、完全な影になって、スクリーンに写り込むことは希であり、先のデフォーカスとあわせて、写り込みの中心は暗く、周囲にいくほど明るくなるといった写り込みである。
図7は、投射した全白画面へのテスト画像4’に含まれる写り込み5を示している。
【0030】
現状の空間光変調素子における階調の表現は8ビット(=2
8)、即ち、256段階(0から255階調)が主流である。従って、全白画面を表示するには255階調に設定する。
全白であるため、赤、緑、青の三原色からなる画像表示装置であれば、赤255階調、緑255階調、青255階調である。
全黒の場合は0であり、赤0、緑0、青0とする。
【0031】
画像投射装置は、パーソナルコンピュータ(PC)に接続して、画像を表示させるが多い。パーソナルコンピュータ(PC)のカラー画像の設定において、このような階調設定方法は既知である。ただし、スクリーン上での明るさは(照度、全光束等)、画像投射装置に用いられる光源の出力、及び光学系の光利用効率により決定させる。
例えば、光源に超高圧水銀ランプを用いた場合、ワット数の大きいものの方が、また照明光学系と投射光学系の光利用効率が高いほうが、スクリーン上での明るさは明るい。従って、全白画面を表示させるときに、設定上は同じ255階調であっても、画像投射装置が異なれば、スクリーン上の明るさは異なる。上記の例では、撮像手段としてデジタルカメラ、CCDカメラを挙げたが、撮像手段として光量計等であっても構わない。
【0032】
撮像手段も同様に255階調で画像を取得する。全白画面を投射した場合、全白が撮像手段の255階調に相当するように、絞り及びシャッタースピードで露光量を調整することが好ましい。
【0033】
テスト画像を投射する前のスクリーン或いは壁(投射面)を示した様子を
図24(a)に示す。この時点でプロジェクタからの画像は投射されておらず、暗い。
このとき投射面に元々、汚れがあったとする。この投射面を撮像手段で撮像するのがステップ1である。撮像手段で撮像した
図24(a)の画像は、撮像手段の撮像素子の画素配列と重ねて表示すると
図24(b)の様である。
図24(a)、(b)を同じサイズで描いてあるが、実際には、(a)は対角100インチ、(b)は対角1/1.7インチ、等である。
【0034】
具体的には、デジタルカメラを使って投射面全体を撮像する場合である。(b)では画素のサイズを誇張して大きく描いてある。実際には一片数μmである。
ある画素の位置は座標x、y、その画素が取り込んだ光量(階調に比例する)はIで表され、まとめると(x,y、I)と表される。投射面全体の光量が一様であると、Iは、場所(x、yの値)によらずほぼ一定となる。
【0035】
しかし、図のように汚れがあると、この位置のIは、その周囲のIよりも小さくなり、この位置に汚れがあると判断できる。上記判断にはIよりもどのくらい小さいと汚れと判断するか閾値を用いても良い。この解析をプログラムにより自動で行う。また、この位置及び階調を記憶装置に記憶する。
図24では汚れは一つのみであるが、多数あっても問題ない。それらの位置及び階調を記憶する。これが第二ステップ(ST2)である。
【0036】
次に全白のテストパターンを、
図24の投射面に、投射した様子を
図25(a)に示す(第三ステップ(ST3))。
プロジェクタからの光が投射面に投影されるため、明るくなる。今、用いたプロジェクタ内のDMDのカバーガラスにゴミが一つ付着して、それが投影されている場合を考えている。それを撮像手段で撮像する(第四ステップ(ST4))。
撮像手段の撮像素子の画素配列と重ねて表示すると
図25(b)に示す内容となる。
【0037】
上記と同様に(x、y、I)を調べ、Iが周囲よりも小さい位置を検出し、記憶する。
ここで記録した位置と第二ステップ(ST2)で記憶した位置とを比較し、x、yが一致しない箇所は、テストパターン投射後に新たに出現したものであり、プロジェクタ内部によるものであると判断できる。以上が本実施例での第五ステップ(ST5)である。
また(x、y、I)の情報を用いて領域の大きさまたは形状を測定することができる。
【0038】
図7において、写り込み5は、プロジェクタ内部での異物であり、投射面にあった元々の汚れではない。写り込み5の最も暗い部分(グレー)であり、階調200とする。周囲は255階調であり、従って、異物の透過率は200/255(=78.4%)と見積られる(図では濃い部分を強調して描いてある)。
【0039】
図8は、
図7の写り込み5を拡大して示した図である。
同図において、一つの正方形51は、撮像手段の一画素を表している。空間的な解像度を確保するために、空間光変調素子の投射した一画素のサイズが、撮像手段の一画素の数倍以上になるように調整する。
調整に用いられる要素としては、例えば、画像投射装置に用いられる投射レンズの投射倍率(変倍率)、スクリーンと装置までの距離、或いは、撮像手段の撮影倍率、焦点距離などである。
【0040】
具体的には空間光変調素子の画素が、投射レンズによりスクリーン上で拡大投射される。正方形の画素の一辺のサイズをP0とし、またスクリーン上での一画素の像のサイズをP1とし、そして、投射レンズの倍率をβとすると、P1=β・P0で現される。またスクリーン上で実測した一画素の像のサイズをP1’とし、画素サイズP0を既知として、実質の倍率β’はP1/P0で求められる。
撮像手段2にデジタルカメラを用いる場合、その撮像素子の一画素の一辺のサイズをyとする。スクリーン上の画素サイズP1は、撮像手段の一画素のサイズyよりも大きく、P1/yを求めることにより、撮像素子の一画素に相当する長さを求めることができる。
【0041】
図8に示すように、写り込みをデジタル画像と取得すると、解析が容易になる。撮像した画像から任意の画素の位置を(xi、yj)として取得することが可能となる。この場合の符号i、jは整数である。また写り込みの長さL、幅Wを得ることもできる。
この場合、写り込み以外の部分を全白で255階調として、例えば、その階調が240階調になったときを閾値とすれば、写り込みの領域を明確にできる。
このような閾値は、記憶手段に、予め与えておく、或いは、逐次入力するなどどちらも可能である。
【0042】
さらに、
図9に示したように写り込みのx方向とy方向とで、縦軸に階調を取ると、プロファイル情報(位置情報)を得ることができる。実際のプロファイルは
図10(a)に示すように、離散化されている。
【0043】
図8、9のように異物の写り込みの詳細情報が得られると、領域の光量と領域周囲の光量との差に基づき光量を増減する補正が可能となる。
図10に示すように、得られた写り込みにおいて、階調の最小値245まで周囲の階調255を下げる。これは、全体的に暗くなり、画面上の明るさとのトレードオフである。従って、写り込みの最小値が、小さい場合、補正が困難となる。
この場合、予め閾値を設定することにより投射画像に問題があるかどうかの判断基準としておき、写り込みの解析の結果が、この閾値以下になると、
図11に示すように、清掃を喚起する警告を表示させる。このような処理は、
図5において符号ST6,ST7で示す項目に相当している。
【0044】
解析手段6では、異物の写り込みは一つとは限らないことを考慮して、複数ある場合は、写り込みの程度の最も大きいもの、即ち階調が最も低いものに合わせるようになっている。
【0045】
図5のフローチャートにおいて、ステップ5では、テスト画像と、ステップ2で得た投射面との差分を取るなどの演算、また、記憶回路に予め記憶させておいた、異物の形状、サイズ等の情報との比較を行う。その結果、終了、或いは警告等の表示の判断を行うことになる。
【0046】
ところで、画像投射装置(プロジェクタ)の場合、白地に黒の写り込みだけでなく、黒地に白の写り込みも画質を劣化させる。
図12は、スクリーン3に全黒画面4を表示させた場合の例であり、全黒画面4において白い写り込み5が生じる。
全黒画面は、階調が0(赤0、緑0、青0)の場合である。黒地に、白の写り込みの場合、その階調表現は
図13のようになる。
【0047】
白地に黒の写り込みの場合、異物により光が吸収されたことが原因である。
しかし、黒地に白の写り込みにおいては、異物による光の散乱が原因である。
画像投射装置において、通常、全黒画面の場合、空間光変調素子から出た光は投射レンズには届かないように設計されている。しかし、異物により光の散乱が生じると、一般に散乱は全方位に向かって起るため、投射レンズに向かう光が生じる。このような光がスクリーンに到達して、黒地に白の写り込みを生じさせる。
【0048】
本実施形態では、全黒画面を対象として異物の抽出を以下の手順により行う。
黒地に白の写り込みを相殺する場合、
図14に示すように、写り込みで最も階調の高い部分に、全体を合わせる。従って、黒表現とのトレードオフである。程度が大きいと、所謂黒浮きとなり、画質を落とす。
そこで、予め、閾値を設定しておき、解析の結果、閾値以上となった場合は、
図11に示した警告を表示させる。
【0049】
以上の解析手順においては、全白(階調255)、全黒(階調0)の両端の場合を示したが、テスト画像はこれに限られるものではない。グレーであっても、緑、青、赤などのカラーが画像であってもより。異物の種類は多種多用であり、特定の色を吸収・反射するものもある。この場合、その特性に応じたテスト画像を用いるのが良い。
【0050】
次に、投射面において、投射面に元々あるシミと画像投射装置内部の異物による写り込みが重なった場合の分析について、
図15を用いて説明する。
【0051】
画像投射装置内部の異物による写り込みが、投射面に元々あるシミ、汚れなどと重なった場合には、シミ、汚れなどによる影響を差し引いて、異物による写り込みを解析する。
投射面に元々あるシミ、汚れが重なる場合とは、第1の光量分布にて光量が設定された閾値より低い箇所と第2の光量分布にて光量が設定された閾値より低い箇所とが重なった場合である。
投射面のある領域100で、投射面に元々あるシミ101に、画像投射装置内部の異物による写り込み102が重なっている。
従って、異物により写り込みは、実際以上に暗くなっている(
図15(a)参照)。
【0052】
仮に、画像を取得・解析した結果が、
図15(b)に示す状態であったとすると、シミ101と異物による写り込み102が重なっている部分は、階調が大きく落ちている。
このときに、シミの部分のaおよびbの部分を用いて、シミだけによる階調の落ち込みの曲線を推定する。次にこの落ち分だけを補正する。このようにすると異物による写り込み分を推定できる(
図15(c)参照)。
【0053】
ところで、空間光変調素子に、前述したDMDを用いた場合、
図16、
図17に示すように、白地、黒地の画面ともに、二重の像が現れる。
図18は、白地に黒の写り込みの場合の説明する図であり、同図では異物がカバーガラス上に付着している状態が示されている。
図中、符号(1)で示すように、異物に照明光が入射すると、吸収が生じる。従ってこの領域の光は投射レンズには到達せず、その部分は暗くなる。
【0054】
通る光は、DMDアレイに到達し、反射され、投射レンズに到達する。図中、符号(2)で示すように、異物の手前に照射された光は、DMDアレイに到達し、反射されるが、光路に異物があり吸収される。
この光は投射レンズには到達せず、その部分は暗くなる。一方、その周囲の光は、投射レンズに到達する。従って、スクリーンでは、近接した位置に、白地に暗い写り込みが生じる。
【0055】
一方、
図19は黒地に白の写り込みの場合の説明を図である。
同図には、異物がカバーガラスに付着している状態が示されている。
照明光がDMDアレイに入射すると、DMDアレイがOFFであると、アレイで反射された照明系は、投射レンズに到達しない(図中、符号(3)で示す状態)。従ってスクリーン前面は黒となる。
【0056】
しかし、異物に入射した照明光は散乱される。散乱光のうち、符号(1)で示すように、上方に散乱された光は投射レンズに到達し、スクリーン上に白い写り込みを生じる。また異物の内部で散乱され、符号(2)で示すように、下方に散乱された光はDMDアレイに達する。
通常の照明光であれば、投射レンズに到達しない方向に反射されるが、散乱光であるため、投射レンズに到達する方向に反射される光が生じる。これはスクリーンに到達して、白い写り込みを生じる。従ってスクリーン上で、黒地に白の二重の写り込みが生じる。
【0057】
従って、この二重の像、換言すれば、光量分布において互いに類似する2点が現れると、画像表示素子に用いられるDMDアレイのカバーガラスに異物が付着していることが分る。この二重像を、画像投射装置に設けた電気的な記憶装置に予め入力しておく。
【0058】
白、或いは黒のテスト画像を投射して、撮像、解析した結果、このような二重像を検出すると、DMDアレイのカバーガラスに異物が付着していることが特定できる。
DMDアレイのカバーガラスを清掃するクリーナーを画像投射装置は備えており、カバーガラスに異物が付着していると判別された場合、カバーガラスの清掃を行う。
【0059】
ここで、DMDについて
図6を用いて説明すると次の通りである。
図6(a)は、DMDを上から見た図である。
画像表示のサイズは、テレビの画面サイズと同様に対角線で決められる。例えは0.5インチ、0.65インチなどである。
また矩形の長辺と短辺との比を取り、4:3、16:10などと画面の縦横比を表現する。画像表示領域には、微小なミラーが画素として配列している(
図6(b))。
【0060】
画素は正方形であり、配列の周期を画素ピッチと称し、10μm前後である。
図では詳細は描いていないが、実際のミラーのサイズは画素ピッチよりも若干小さい。
また画素ピッチに対する実際のミラーサイズを開口率と呼ぶ。画素配列を横から見ると
図6(d)に示すとおりである。
【0061】
画素配列の上側には保護用のカバーガラスがおかれている。また、正方形の画素は、その対角線を回転軸として回転する(
図6(c))。
回転の方向は、回転軸に対して時計周り、半時計周りの両方である。プラスとマイナスで区別する。回転角度は±10°乃至12°である。なお、回転をチルトということもある。
【0062】
回転したミラーは、プラスとマイナスとで、入射光に対する反射光の方向を変えることできる(
図6(e))。
すなわち、ONとOFFとの二値である。ON光は、投射レンズを経て、スクリーンに到達する。OFF光は、適切な位置に設けられた吸収部材に到達する。この光がスクリーン上では黒の表示となる。
【0063】
近年、スクリーン或いは壁から至近距離(超至近距離)からの画像の投射が可能な画像投射装置が出現している。
図20は、その画像投射装置の光学系を示す図である。
同図において画像投射装置200は、次の構成が用いられる。
リフレクタを有する白色光源(ランプ光源)201、照明均一化素子(ライトトンネル)202、第1及び第2リレーレンズ203、第1の折り返しミラー204、第2の折り返しミラー205、DMDのカバーガラス206、DMD207、投射系208、防塵ガラス209である。
【0064】
第1の折り返しミラー204はシリンダーミラーである。第2の折り返しミラー205は凹球面であり、切り欠きを有する。投射光学系は、複数のレンズを用いた屈折系の投射レンズ210、折り返しミラー(平面)211、及び自由曲面ミラー212からなる。
第2の折り返しミラー205は切り欠きを有するので、投射レンズ210のDMD207側の鏡筒は機械的に重なり合わないようになっている。
【0065】
防塵ガラス209は、上から埃や塵が光学系やDMD207に侵入するのを防ぐためのものである。また図示していないが、ランプ光源201とライトトンネル202の間には、カラーホイールがある。
自由曲面ミラー212は、至近距離からの投射を達成するために配置されている。またこの照明系において、ライトトンネル202の出射端とDMD207面は共役である。
【0066】
ランプ光源201から出射した光は、次の経路を通過する。
つまり、ライトトンネル202、第1及び第2リレーレンズ203、第1の折り返しミラー204、第2の折り返しミラー205の各光学素子を経て、DMD207上の照度分布を形成する。この照度分布は投射光学系を経てスクリーンに投射される。
【0067】
投射レンズ210を出射した光は平面ミラー211の近傍でDMD207の表示面の中間像を形成する。
投射レンズ210を介して、DMD207の画像表示面とこの中間像が共役である。
自由曲面ミラー212は、この中間像をスクリーンに投射する。従って自由曲面ミラー212を介して中間像面とスクリーンは共役である。ただし厳密な共役関係ではない。
【0068】
上述した光学系において、第1の折り返しミラー204あるいは第2の折り返しミラー205に異物が付着していると、スクリーン上に写り込みとなる。
写り込みが、白地に黒の場合は、DMD207のカバーガラスに付着した異物の写り込みと同様である。ただし、像が二重になることはない。
【0069】
図21は、折り返しミラー上の異物と、スクリーン上に投射した画像における写り込みとの関係を示す図である。
従って、
図16に示した、二重の写り込みとは区別がつく。これを画像投射装置に内蔵の記憶回路に記憶させておけば、異物付着の位置の区別が可能となる。写り込みの相殺方法に関しては、
図7に示したのと同じである。またパーソナルコンピュータPCのソフトウェアに記憶させておいてもよい。
【0070】
一方、
図21に示した場合と違って、折り返しミラーに異物が付着し、これが黒地に白の写り込みの場合は、スクリーン上に、
図22に示すように、円弧状、或いは傾いた楕円状の写り込みが生じる。
これは、第一に、自由曲面ミラーを介して、折り返しミラーとスクリーン面とが共役に近い関係にあること。
【0071】
第二に、異物で散乱が生じて、それが自由曲面ミラーでスクリーンに投射されるが、正規の光ではないため、自由曲面ミラーの形状を反映した投射画像となることが原因となる。この写り込みは特徴的であるため、異物の付着位置の特定は容易となる。このような写り込みの情報を画像投射装置に内蔵の記憶素子に、入力しておく。テスト画像を表示、画像を取得、解析した後に、このような写り込みが検出された際には、補正を行えばよい。
【0072】
通常、DMDアレイがOFFの場合、投射系に光は到達しないが、迷光などにより、一部の光が投射系に到達する。この光が、自由曲面上の異物を照明し、上記のような写り込みを生じることがある。
【0073】
DMDのカバーガラスの異物、折り返しミラーに付着した異物は、いずれも、特徴的であることから、光学シミュレーションなどで再現も可能である。
工場出荷時に、画像投射装置に内蔵の記憶素子に、この写り込みの情報を入力しておくことで、テスト画像投射により得られた画素データの対比を簡便化することができる。
【0074】
一方、本実施形態では、投射レンズがズームレンズの場合、ズームの位置により、写り込みが変わる。従って、幾つかのズーム位置で、上述の撮像、解析、補正量を求めておき、記憶回路に記憶させておく。実際の投射しているズームの位置にあわせた、補正量を用いて画像を表示させる。
【0075】
また、本実施形態では、異物による写り込みの閾値、例えば白地に黒の写り込みの場合、階調表現で245/255以下、逆に黒地に白の写り込みの場合、10/255以上を予め記憶回路に記憶させておく。
解析の結果、この閾値を越えた場合に、スクリーン上の警告を発する。この処理手順に関しては、
図5に示したフローチャートに基づく。
【0076】
以上の実施形態においては、投射面に元々あるムラ、模様などを検出した後、これとは別にテスト画像を用いて画像投射装置内部の異物による写り込みを抽出する。その後、その周囲との比較を行って定量化することにより、異物の位置や形状などの特定が可能となり、異物や傷による光量変化を補正する精度を高めることができる。
【0077】
また、本実施形態においては、定量化のために、テスト画像が全黒画像を用いることにより異物の透過を利用することができる。また、テスト画像に全白画像を用いることにより異物の散乱を利用することができるので、特殊な光学素子を用いることなく簡便な処理が可能となる。
【0078】
さらに本実施形態においては、定量化により異物の抽出を行う際に、装置に内蔵されている記憶手段に予め閾値を入力することにより、解析の結果と比較できる。
【0079】
この比較を実行することにより、異物の写り込みが解消・低減できないと判断した場合に、清掃が必要な旨の警告をスクリーンに表示することができる。
これにより、異物の写り込みの解消・低減を図る上で誤判断の発生を未然に防止することができる。
【0080】
本実施形態では、上述した各ステップを設定することによる光量補正を行なうことを利用して画像投射装置を製造することが可能となる。