特許第6236785号(P6236785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236785アリールアミン化合物、有機EL用材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236785
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】アリールアミン化合物、有機EL用材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 219/32 20060101AFI20171120BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 209/68 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 211/58 20060101ALI20171120BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C07C219/32CSP
   H05B33/10
   H05B33/22 D
   H05B33/14 A
   C07C209/68
   C07C211/58
   C09K11/06 690
【請求項の数】8
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2013-5121(P2013-5121)
(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-209358(P2013-209358A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-41114(P2012-41114)
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓司
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭
(72)【発明者】
【氏名】毛利 匡貴
(72)【発明者】
【氏名】宮川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 一
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−224442(JP,A)
【文献】 特表2003−512446(JP,A)
【文献】 特開2011−213705(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0152210(US,A1)
【文献】 Lautens, Mark; Schmid, Gavin A.; Chau, Anh,Remote Electronic Effects in the Rhodium-Catalyzed Nucleophilic Ring Opening of Oxabenzonorbornadienes,Journal of Organic Chemistry ,2002年,67(23),8043-8053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 219/32
C07C 209/68
C07C 211/58
C09K 11/06
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)または(1−2)で示される部分構造を含むことを特徴とするアリールアミン化合物。
【化1】
【化2】
(一般式(1−1)、(1−2)中、XおよびY、(XとX)および(YとY)は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、該XおよびYのうち一方、(XとX)および(YとY)のうち一方は脱離性置換基であり、他方は水素原子である。前記脱離性置換基は、置換されていてもよい炭素数1以上のアシルオキシ基である。Q乃至Qは水素原子、ハロゲン原子、前記脱離性置換基以外の一価の有機基、又は、アリールアミンのアリール環炭素原子若しくはアミン窒素原子に結合する結合手であり、又は、Q乃至Qのうち隣り合った2つの基はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。前記一価の有機基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アルコキシル基、チオアルコキシル基、アリールオキシ基、チオアリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオオキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、及びアミノ基から選択されるいずれかである。)
【請求項2】
前記置換されていてもよい炭素数1以上のアシルオキシ基が、ヘキサノイルオキシ基である請求項1に記載のアリールアミン化合物。
【請求項3】
前記アリールアミン化合物はトリアリールアミン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアリールアミン化合物。
【請求項4】
前記一般式(1−1)および(1−2)の構造部分が、隣接するアリール環の炭素原子又は窒素原子に結合する結合手を有するシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−11)]、シクロへキセニル基[下記一般式(1−21)]、ベンゾシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−12)若しくは(1−13)]、ベンゾシクロへキセニル基[下記一般式(1−22)]、インドリノ[2,3]シクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−14)、(1−15)若しくは(1−16)]、又はインドリノ[2,3]シクロへキセニル基[下記一般式(1−23)、(1−24)若しくは(1−25)]から選ばれる芳香族基であり、これらそれぞれの基のシクロへキセニル環部分又はシクロヘキサジエニル環部分は、1つ又は2つのエーテル基またはアシルオキシ基で置換されたものであり、前記Q乃至QのうちのQとQ対は、それぞれ結合して多縮合アリール環を形成していてもよいものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載のアリールアミン化合物。
【化3】
【請求項5】
有機エレクトロルミネッセンス素子用材料である請求項1乃至4のいずれかに記載のアリールアミン化合物。
【請求項6】
溶媒と請求項1乃至4のいずれかに記載のアリールアミン化合物を少なくとも含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス材料インク。
【請求項7】
請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス材料インクを用いて製膜された膜に、外部刺激を与えて、前記脱離性置換基を脱離し、二重結合を形成する工程を含むことを特徴とするアリールアミン化合物含有膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載のアリールアミン化合物に外部刺激を与えて、前記脱離性置換基を脱離し、二重結合を形成する工程を含むことを特徴とするアリールアミン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアリールアミン化合物に関するものである。さらに詳しくは、脱離可能な溶解性基を備え、溶解性、特性に優れた有機EL素子の構成材料として有用なアリールアミン化合物を提供することである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、素子作製のプロセスと材料の特性の相違から、蒸着型の低分子系材料を用いた素子と塗布型の主として高分子系材料を用いた素子に分けられる。
前者は成膜のために真空蒸着装置を必要とするため、製造コストが高い、大画面基板に適用できない、量産に難がある等の欠点を有している。一方、後者は、塗布液を基板に塗布し、次いで塗布液中の溶媒を除去することによって容易に成膜をおこなえるので、製造工程が簡単となり、低コストで製造できる。
塗布法にて有機EL材料の薄膜を成膜するにあたっては、有機EL材料を溶液に溶解させる必要があるところ、高分子有機EL材料を溶媒に溶解させた塗布用組成物が一般に知られている。
溶媒としては、トルエン、キシレン、テトラリン、メシチレン、シクロへキシルベンゼンなどが用いられる。
低分子有機EL材料を塗布で製膜するに当たって、任意の有機EL低分子材料を溶媒に溶解させようとする場合、溶解性の低さが問題となる。所定量以上(例えば0.5〜1.0wt%程度)の溶解度が無いと好適に塗布法を適用できないが、従来公知の低分子有機EL材料の溶解度はそれ以下であるものが多かった。
溶解性の向上のために、溶解性基を導入する方法、分子自体の対称性を下げる方法が主に行われている。(例えば特許文献1の特開2008−166629号公報)前者においては、アルキル鎖等の溶解基が存在するため、相転位の問題が生じ、熱安定性、経時安定性に優れた材料は見出すことができなかった。後者においては、非対称構造や折れ曲がり構造あるいは、全体として嵩高い構造を取る必要があるため、特性の向上を本質的に追及した分子設計が行えないというところに難点があった。
このように、溶解性と分子設計への展開性を両立した方法はこれまで見出せていない。
【0003】
ところで、有機EL素子特性の向上という課題において、機能を分離し、複数の層を積層することが不可欠となっている。ここで、先に述べた前者の方法は、真空プロセスであるため、複数層の積層は比較的容易に行うことが可能である。後者の方法については、上層を積層時に下層が溶媒により侵されるという問題があった。特に、湿式成膜法での積層化は、有機溶剤と水系溶剤を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。
このような積層化における問題点を解決するために、特許文献2の特許第4761006号公報、特許文献3の特表2004−505169号公報、特許文献4の国際公開第2008/038747号パンフレット、特許文献5の国際公開第2005/053056号パンフレット)では、架橋性基を有する高分子化合物が提案され、架橋性基が反応することによって有機溶剤に不溶にする積層化方法が開示されているが、架橋重合に伴う体積変化等の要因により、平滑な膜が形成できない場合や素子の耐久性に問題があるという課題があった。
【0004】
このように、低分子材料の塗布、積層においては溶解性、分子設計の展開性、積層の可能性を具備し得る材料系の提示はこれまで全くなされていなかった。
ところで、我々は上記の様な縮合芳香族化合物の可溶化手段として、脱離可能な溶解性置換基を付与する前駆体方式を提案している。(例えば特許文献6の特開2011−213705号公報、特許文献7の特願2011−086973号明細書)
それにおいては、複数の前駆体材料が挙げられているが、これは結晶性、キャリア移動度を追求した設計となっており、本発明における有機E材料として特に好適な特性を示すアモルファス性の膜を与えるアリールアミン化合物などは具体的に開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に対して、特定の溶解性基をアリールアミン骨格に対して導入することで、溶解性を高め溶液プロセスでの製膜に用いるのに好適なアリールアミン化合物を提供し、加えて前記アリールアミン化合物の特定の溶解基を外部刺激により脱離し、特性に優れた有機EL材料としてのアリールアミン化合物を提供することを課題とする。
加えて、脱離前後での溶解性を変化させることが可能であることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の[1]〜[10]に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
[1]下記一般式(1−1)または(1−2)で示される部分構造を含むことを特徴とするアリールアミン化合物。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
(一般式(1−1)、(1−2)中、XおよびY、(XとX)および(YとY)は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、該XおよびYのうち一方、(XとX)および(YとY)のうち一方は脱離性置換基であり、他方は水素原子である。Q乃至Qは水素原子、ハロゲン原子、前記脱離性置換基以外の有機基、又は、隣接するアリール環の炭素原子若しくは窒素原子に結合する結合手であり、又は、Q乃至Qのうち隣り合った2つの基はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
[2]前記、一般式(1−1)および(1−2)中、脱離性置換基XまたはY、(XとX)または(YとY)が、置換されていてもよい炭素数1以上の、[エーテル基またはアシルオキシ基]であり、他方は水素原子であることを特徴とする前記[1]項に記載のアリールアミン化合物。
[3]前記アリールアミン化合物はトリアリールアミン化合物であることを特徴とする前記[1]項又は[2]項に記載のアリールアミン化合物。
[4]前記一般式(1−1)および(1−2)の構造部分が、隣接するアリール環の炭素原子又は窒素原子に結合する結合手を有するシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−11)]、シクロへキセニル基[下記一般式(1−21)]、ベンゾシクロヘキセニル基[下記一般式(1−12)若しくは(1−13)]、ベンゾシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−22)]、インドリノ[2,3]シクロへキセニル基[下記一般式(1−14)、(1−15)若しくは(1−16)]、又はインドリノ[2,3]ヘキサジエ二ル基[下記一般式(1−23)、(1−24)若しくは(1−25)]から選ばれる芳香族基であり、これらそれぞれの基のシクロへキセニル環部分又はシクロヘキサジエ二ル環部分は、1つ又は2つのエーテル基またはアシルオキシ基で置換されたものであり、前記Q乃至QのうちのQとQの対、QとQ対、QとQの対又はQとQの対のうち1つ又は2つの対は、それぞれ結合して多縮合アリール環を形成していてもよいものであることを特徴とする[2]項又は[3]項に記載のアリールアミン化合物。
【0009】
【化3】
【0010】
[5]有機エレクトロルミネッセンス素子用材料である前記[1]項乃至[4]項のいずれかに記載のアリールアミン化合物。
[6]溶媒と前記[1]項乃至[4]項のいずれかに記載のアリールアミン化合物を少なくとも含有する、有機エレクトロルミネッセンス材料インク。
[7]前記[6]項に記載のインクを用いて製膜された膜に、外部刺激を与えて脱離成分を脱離し、前記脱離性置換基を脱離し、二重結合を形成する工程を特徴とするアリールアミン化合物含有膜の製造方法。
[8]前記[1]項乃至[4]項のいずれかに記載のアリールアミン化合物に外部刺激を与えて、前記脱離性置換基を脱離し、二重結合を形成する工程を特徴とするアリールアミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明によれば、特定の溶解性基を有することで溶解性に富み、溶液プロセスで好適な薄膜を形成可能なアリールアミン化合物を提供できる。また、前記溶解基は必要に応じて、外部刺激を与えることで、脱離、除去することが可能であり、その結果より特性に優れた有機EL材料としてのアリールアミン化合物を与えるという極めて優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】有機EL素子の好適実施形態を示す模式図である。
図2】本発明のアリールアミン化合物(HTL17)のTG−DTAの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施の形態を示して、説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0014】
[アリールアミン化合物]
前述のように本発明におけるアリールアミン化合物は、下記一般式(1−1)または(1−2)で示される部分構造を有することが特徴である。
【0015】
【化4】
【0016】
【化5】
(一般式(1−1)、(1−2)中、XおよびY、(XとX)および(YとY)は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、該XおよびYのうち一方、(XとX)および(YとY)のうち一方は脱離性置換基であり、他方は水素原子である。Q乃至Qは水素原子、ハロゲン原子、前記脱離性置換基以外の有機基、又は、隣接するアリール環の炭素原子若しくは窒素原子に結合する結合手であり、又は、Q乃至Qのうち隣り合った2つの基はそれぞれ結合して環を形成していてもよい。)
これら置換基は窒素原子にQ乃至Qの位置で直接結合していても良いし、Q乃至Q部で他の原子や環を介して結合していても良い。
【0017】
前記一般式(1−1)および(1−2)の構造部分は、隣接するアリール環の炭素原子又は窒素原子に結合する結合手を有するシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−11)]、シクロへキセニル基[下記一般式(1−21)]、ベンゾシクロヘキセニル基[下記一般式(1−12)若しくは(1−13)]、ベンゾシクロヘキサジエニル基[下記一般式(1−22)]、インドリノ[2,3]シクロへキセニル基[下記一般式(1−14)、(1−15)若しくは(1−16)]、又はインドリノ[2,3]ヘキサジエ二ル基[下記一般式(1−23)、(1−24)若しくは(1−25)]から選ばれる芳香族基であり、これらそれぞれの基のシクロへキセニル環部分又はシクロヘキサジエ二ル環部分は、1つ又は2つのエーテル基またはアシルオキシ基で置換されたものであり、前記Q乃至QのうちのQとQの対、QとQ対、QとQの対又はQとQの対のうち1つ又は2つの対は、それぞれ結合して多縮合アリール環を形成していてもよいものであることが好ましい。
【0018】
【化6】
【0019】
[脱離性置換基を含む特定の置換基]
次に、前記一般式(1−1)または(1−2)で表される部分構造を有する基について説明する。
【0020】
これら特定の置換基は、シクロヘキセン骨格あるいはシクロヘキサジエン骨格と脱離性置換基を有していることが特徴である(この構造部位全体として溶解性置換基と称する)。
このシクロヘキセン骨格あるいはシクロヘキサジエン骨格と脱離性置換基からなる構造の所謂、溶解性置換基部分が剛直ではなくまた立体的に嵩高いために結晶性が悪く、このような構造を有する分子は溶解性が良好であり、且つ置換基脱離化合物を溶解した溶液を用いて塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定形の膜が得られやすい性質を有する。
【0021】
[式(1−1)、(1−2)中、XおよびY、(X,X)および(Y,Y)は水素原子もしくは脱離性置換基を表し、該XおよびY、(X,X)および(Y,Y)のうち一方は脱離性置換基であり、他方は水素原子である。Q乃至Qはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、前記脱離性置換基以外の有機基、若しくは、隣接するアリール環の炭素原子若しくは窒素原子に結合する結合手であり、QおよびQは、水素原子または前記脱離性置換基を除く有機基、若しくは、隣接するアリール環の炭素原子又は窒素原子に結合する結合手であり、又は、Q乃至Qは隣り合った基同士でそれぞれ結合して環を形成していてもよい。]
【0022】
前記XおよびY、(X,X)および(Y,Y)で表される基は、水素原子または脱離性置換基であるが、そのような基としては、ハロゲン原子、ヒドロシル基、置換されていてもよいエーテル基または置換されていてもよいアシルオキシ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基、ニトロキシ基、置換されていても良いホスホオキシ基、置換されていてもよいアルキルアミンオキシド基、置換されていてもよいポリアルキル四級アンモニウム塩などβ炭素上の水素を引き抜いて脱離する基が挙げられるが、化合物自体の保存安定性、有機溶媒への溶解性、置換基脱離反応の条件(触媒添加の有無、反応温度等)などの観点から、好ましくは置換されていても良いエーテル基または置換されていてもよいアシルオキシ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基が挙げられる。特に好ましくは置換されていても良いエーテル基または置換されていてもよいアシルオキシ基である。
【0023】
XおよびY、(X,X)および(Y,Y)のうち少なくとも一方は、脱離性置換基(即ち、置換されていてもよい炭素数1以上のエーテル基または置換されていてもよい炭素数1以上のアシルオキシ基など)であり、他方は水素原子である。
上記、置換されていても良い炭素数1以上のエーテル基としては、炭素数1以上の置換されていても良い直鎖または環状の脂肪族アルコールおよび炭素数4以上の芳香族アルコール等、アルコール由来のエーテル基、オルガノシロキサン由来のエーテル基等が挙げられる。また、前記エーテル中の酸素原子が硫黄原子に置き換わったチオエーテル基も含めることができる。前記エーテル基の炭素数としては、溶解性、脱離成分の沸点等各種の影響を考慮して、普通C1〜C38、好ましくはC2〜C22、更に好ましくはC3〜C18である。
具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ピバロイル基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、ラウリロキシ基、トリフルオロメトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基、ペンタフルオロプロポキシ基、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロヘキシロキシ基、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基等が挙げられ、エーテル結合部位の酸素を硫黄に置き換えた対応するチオエーテル類も同様に含まれる。
【0024】
上記、置換されていても良い炭素数1以上のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、炭素数2以上のハロゲン原子を含んでいてもよい直鎖または環状の脂肪族カルボン酸および炭酸ハーフエステル、炭素数4以上の芳香族カルボン酸等、カルボン酸および炭酸ハーフエステル由来のアシルオキシ基が挙げられる。また、前記カルボン酸の酸素原子が硫黄に置き換わったチオカルボン酸も含めることができる。前記アシルオキシ基の炭素数としては、溶解性、脱離成分の沸点等各種の影響を考慮して、普通C1〜C38、好ましくはC2〜C22、更に好ましくはC3〜C18である。
具体的には、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ、3,3,3−トリフルオロプロピオニルオキシ、ペンタフルオロプロピオニルオキシ、シクロプロパノイルオキシ、シクロブタノイルオキシ、シクロヘキサノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
加えて、上記例示したアシルオキシ基のカルボニル基とアルキル基あるいはアリール基の間に酸素原子または硫黄原子を挿入した、炭酸ハーフエステル由来の炭酸エステルも挙げることができる。加えて、エーテル結合部位およびカルボニル部位の酸素の一つ以上を硫黄に置き換えた対応するアシルチオオキシ類、チオアシルオキシ類も同様に含まれる。
【0025】
上記概念の脱離性置換基XおよびY、(X,X)および(Y,Y)の好ましい例の一部を下記に例示する。
【0026】
【表1-1】
【0027】
【表1-2】
【0028】
【表1-3】
【0029】
【表1-4】
【0030】
【表1-5】
【0031】
【表1-6】
【0032】
【表1-7】
【0033】
【表1-8】
【0034】
【表1-9】
【0035】
本発明における置換されていてもよい炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基(脱離性を有する基)の導入により、有機溶媒に対する高い溶解性と、化合物の安定性を維持しつつ従来よりも低いエネルギー(加熱)で脱離性基の脱離反応を可能とすることができる。
例えば、脱離性基として、置換または無置換の炭素数1以上のエーテル基およびアシルオキシ基に代えて炭素数1以上の置換されていてもよいスルホニルオキシ基、を導入することもできる。
尚、上記置換されていてもよいスルホニルオキシ基としては、炭素数1以上の直鎖または環状の脂肪族スルホン酸、炭素数4以上の芳香族スルホン酸等、スルホン酸由来のスルホニルオキシ基が挙げられる。具体的には、例えば、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基、イソプロピルスルホニルオキシ基、ピバロイルスルホニルオキシ基、ペンタノイルスルホニルオキシ基、ヘキサノイルスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピオニルスルホニルオキシ基、フェニルスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等が挙げられ、エーテル部位の酸素原子が硫黄原子に置き換わったスルホニルチオオキシ基も同様に含むことができる。前記スルホニルオキシ基の炭素数としては、溶解性、脱離成分の沸点等各種の影響を考慮して、普通C1〜C38、好ましくはC2〜C22、更に好ましくはC3〜C18である。
【0036】
また、本発明における前記Q乃至Qで表される有機基としては、前述のように、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、あるいは有機基(但し、Q乃至Qにおいては置換されていても良い炭素数1以上のエーテル基またはアシルオキシ基以外の1価の有機基)、若しくは、隣接するアリール環の炭素原子又は窒素原子に結合する結合手が用いられるが、該有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アルコキシル基、チオアルコキシル基、アリールオキシ基、チオアリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオオキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基などが挙げられる。
【0037】
上記アルキル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルキル基を表す。
これらの例としては、アルキル基[好ましくは置換または無置換の炭素数1以上のアルキル基[例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、シクロアルキル基(好ましくは置換または無置換の炭素数3以上のアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基)、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基]が挙げられる。
以下に説明する他の有機基においても、アルキル基は上記概念のアルキル基を示す。
【0038】
上記アルケニル基は、直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルケニル基を表す。これらの例としては、アルケニル基[好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルケニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1,1,1−トリフルオロ−2−ブテニル基〕。]、シクロアルケニル基[上記した炭素数2以上のシクロアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものが挙げられる〔例えば、1−シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、2−シクロヘプテニル基、3−シクロヘプテニル基、4−シクロヘプテニル基、3−フルオロ−1−シクロヘキセニル基〕。]等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス(E)体及びシス(Z)体等の立体異性体が存在する場合は、その何れであってもよく、またそれらの任意の割合からなる混合物であってもよい。
【0039】
上記アルキニル基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルキニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上三重結合としたものが挙げられる。このようなアルキニル基として、例えば、エチニル基、プロパギル基、トリメチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基が挙げられる。
【0040】
上記アリール基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数6以上のアリール基〔例えば、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、p−クロロフェニル、p−フルオロフェニル、p−トリフルオロフェニル、ナフチル等〕が挙げられる。
【0041】
上記ヘテロアリール基としては、好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物〔例えば、2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−チエノチエニル、2−ベンゾチエニル、2−ピリミジル等〕が挙げられる。
【0042】
上記アラルキル基(アリール部分は炭素数6〜49、アルキル部分は炭素数1〜44)としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルイソプロピル基、2−フェニルイソプロピル基、フェニル−t−ブチル基、α−ナフチルメチル基、1−α−ナフチルエチル基、2−α−ナフチルエチル基、1−α−ナフチルイソプロピル基、2−α−ナフチルイソプロピル基、β−ナフチルメチル基、1−β−ナフチルエチル基、2−β−ナフチルエチル基、1−β−ナフチルイソプロピル基、2−β−ナフチルイソプロピル基、1−ピロリルメチル基、2−(1−ピロリル)エチル基、p−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、o−メチルベンジル基、p−クロロベンジル基、m−クロロベンジル基、o−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、m−ブロモベンジル基、o−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、m−ヨードベンジル基、o−ヨードベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、m−ヒドロキシベンジル基、o−ヒドロキシベンジル基、p−アミノベンジル基、m−アミノベンジル基、o−アミノベンジル基、p−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基、o−ニトロベンジル基、p−シアノベンジル基、m−シアノベンジル基、o−シアノベンジル基、1−ヒドロキシ−2−フェニルイソプロピル基、1−クロロ−2−フェニルイソプロピル基などが挙げられる。
【0043】
上記アルコキシル基およびチオアルコキシル基としては、好ましくは置換または無置換のアルコキシル基およびチオアルコキシル基であり、上記に例示したアルキル基およびアルケニル基およびアルキニル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0044】
上記アリールオキシ基およびチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のアリールオキシ基およびアリールチオオキシ基であり、上記に例示したアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアリールオキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0045】
上記ヘテロアリールオキシ基およびヘテロチオアリールオキシ基としては、好ましくは置換または無置換のヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオオキシ基であり、上記に例示したヘテロアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してヘテロアリールオキシ基あるいはヘテロアリールチオアリールオキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0046】
上記アミノ基としては、好ましくはアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のアニリノ基、〔例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基〕、アシルアミノ基[好ましくは、ホルミルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、〔例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基〕]、アミノカルボニルアミノ基[好ましくは、炭素置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基(例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)]等が挙げられる。
【0047】
前記Q乃至Qで表される有機基としては、前述した範囲で表すことが可能であるが、好ましくは置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基であるか、または隣り合う基同士で環状構造を形成していることである。さらに好ましくは、前記環状構造が置換していても良いアリール基またはヘテロアリール基からなることである。
該環の結合、縮環形式の一例としては一般式(1−2)から派生した構造を例にとって、下記I−(1)〜I−(42)に示すような構造が挙げられる。(1−1)から派生した構造も同様の範囲が可能である。
【0048】
【表2】
【0049】
前記、上記環状構造を形成する置換基を有していてもよいアリール基またはヘテロアリール基は具体的にはベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環が好ましく、より好ましくは下記(i)、(ii)である。
(i):1つ以上の前記アリール基およびヘテロアリール基、または前記環同士が縮環された化合物残基。
(ii):(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物残基。
【0050】
また、上記(i)および(ii)より形成される群から少なくとも一つ以上選択される組み合わせで選ばれるπ共役系化合物が好ましく、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び共有結合を介した連結による相互作用によって縮環または連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。
ここでの共有結合とは、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、オキシエーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられるが、好ましくは前記単結合、二重結合、三重結合のいずれかである。
【0051】
[脱離性置換基を含む特定の置換基の変換]
前記、溶解性置換基(脱離性置換基を含む特定構造の置換基)は、脱離性置換基を脱離して、その構造を変換することが可能であることが特徴である。
すなわち、下記式に示されるように、溶解性置換基(IaまたはIb)から、脱離性置換基と水素原子で構成されるXおよびYまたは(X,X)および(Y,Y)を、化合物X−Y(IIIa)または化合物X−Y(IIIb1)および化合物X−Y(IIIb2)の形で脱離して、対応するベンゼン構造(II)へと変換される。
【0052】
【化7】
【0053】
通常、前記脱離反応には、官能基の構造にも依存するが、反応速度および反応率の観点から外部エネルギーの印加が必要となることが多い。
このために付与(印加)するエネルギーとしては、熱、光、電磁波が挙げられるが、反応性および収率、後処理の観点から、熱エネルギーあるいは光エネルギーが望ましく、特に熱エネルギーが好ましい。また、酸または塩基の存在下で上記エネルギーを印加してもよい。脱離反応を行なうための加熱の方法には、支持体上で加熱する方法、オーブン内で加熱する方法、マイクロ波の照射による方法、レーザーを用いて光を熱に変換して加熱する方法、光熱変換層を用いる等種々の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
上記、加熱温度については、室温(およそ25℃)〜500℃の範囲を用いることが可能であり、下限温度は材料の熱安定性および脱離成分の沸点を考え、上限温度ではエネルギー効率や、未変換分子の存在率、変換後の化合物の分解、昇華等を考慮すると、40℃〜500℃の範囲が好ましく、さらに置換基脱離化合物の合成時の熱安定性を考慮すると、より好ましくは60℃〜500℃の範囲であり、特に好ましくは80℃〜400℃である。
また、応用例として有機ELの活性層として用いる場合、加熱温度が脱離基を脱離した後の構造に対応するアリールアミン化合物のガラス転移点や融点よりも高いと結晶化や溶融が生じるため、アモルファス性の膜を得るには、これらの温度より低いことが特に好ましい。この場合、好ましくは30℃〜250℃、より好ましくは40℃〜250℃、最も好ましくは60℃〜150℃である。しかしながら、ガラス転移点を超える加熱処理をしたからといって本発明のアリールアミン化合物は、対応する化合物(すなわち脱離基を脱離し、二重結合を形成した分子構造)の膜をそのまま加熱した場合と同様の結晶化挙動を見せるわけではない。理由は定かではないが、熱変換による膜はアモルファス状態を維持していることが多くの場合見られる。
上記加熱の時間については、高温であるほど反応時間は短く、低温であるほど脱離反応に必要な時間は長くなる。また、脱離基を有するアリールアミン化合物の反応性、量にもよるが、通常0.5分〜120分、好ましくは1分〜60分、特に好ましくは1分〜30分である。
【0055】
光を外部刺激として用いる場合は、赤外線ランプや、化合物が吸収する波長の光を照射すること(例えば、405nm以下の波長に露光)等を利用してもよい。その際に半導体レーザーを用いてもよい。例えば、近赤外域のレーザー光(通常は780nm付近の波長のレーザー光)、可視レーザー光(通常は、630nm〜680nmの範囲の波長のレーザー光)、波長390〜440nmのレーザー光が挙げられる。特に好ましくは波長390〜440nmのレーザー光であり、440nm以下の範囲の発振波長を有する半導体レーザー光が好適に用いられる。中でも好ましい光源としては、390〜440(更に好ましくは390〜415nm)の範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光、中心発振波長850nmの赤外半導体レーザー光を光導波路素子を使って半分の波長にした中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザー光を挙げることができる。
【0056】
前記脱離性置換基の脱離反応において、酸または塩基は触媒として働き、より低温での変換が可能となる。これらの使用方法は特に限定はされないが、置換基脱離化合物に対してそのまま添加してもよいし、任意の溶媒に溶解させ溶液にして添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で加熱処理を行ってもよく、光酸発生剤および光塩基発生剤等を添加し、光照射によって系内で酸および塩基を得てもよい。
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸、蟻酸、リン酸等、2−ブチルオクタン酸等を用いることができる。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のイオン性発生剤とイオン性光酸発生剤イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジスルホニルジアゾメタン、ニトロベンジルスルホネート等の非イオン性発生剤を用いることができる。
また、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
また、光塩基発生剤としては、カルバマート類、アシルオキシム類、アンモニウム塩等を用いることができる。
中でも揮発性の酸または塩基の雰囲気中に行うのが、反応後の酸塩基の系外への除去の容易さを考えると好ましい。
【0057】
脱離反応を行なう際の雰囲気については、上記触媒の有無に関わらず大気下においても行なうことが可能であるが、酸化等の副反応および水分の影響を除くため、さらに脱離した成分の系外への排除を促すために、不活性ガス雰囲気下また減圧下で行なうことが望ましい。
【0058】
脱離成分X−Y,X−Y,X−Yとしては、前記置換されていても良いエーテル基またはアシルオキシ基を構成する置換基の−O−結合または−S−結合部位を切断し末端に水素を置換した対応するアルコールおよびカルボン酸および炭酸ハーフエステルが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール基、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tertブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、トリフルオロメタノール、3,3,3−トリフルオロプロパノール、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基、ペンタフルオロプロパノール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロヘキサノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、tert−ブチルジメチルシリラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール等が挙げられ、エーテル結合部位の酸素を硫黄に置き換えた対応するチオール類も同様に含まれる。
前記カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、トリフルオロ酢酸、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロプロピオン酸、シクロプロパン酸、シクロブタン酸、シクロヘキサン酸、安息香酸、p−メトキシ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸などが挙げられ、エーテル結合部位の酸素を硫黄に置き換えた対応するチオカルボン酸類も同様に含まれる。脱離成分の安定性によっては、熱エネルギー等によりさらに分解することが見られる。より沸点の低い構造となるため、脱離成分の除去には有利に働く。
【0059】
尚、参考として前述の置換もしくは無置換のスルホニルオキシ基も挙げられ、前記スルホニルオキシ基を構成する置換基の−O−結合または−S−結合部位を切断し末端に水素を置換した対応するスルホン酸およびチオスルホン酸が挙げられ、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イソプロピルスルホン酸、ピバロイルスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサノイルスルホン酸、トルエンスルホン酸、フェニルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、3,3,3−トリフルオロプロピオニルスルホン酸基などが挙げられ、エーテル結合部位の酸素を硫黄に置き換えた対応するチオスルホン酸類も同様に含まれる。
【0060】
以下に以上の記載を踏まえて、本発明のアリールアミン化合物の好ましい形態を具体的に例示するが、本発明の要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0061】
【表3-1】
【0062】
【表3-2】
【0063】
【表3-3】
【0064】
【表3-4】
【0065】
本発明のアリールアミン誘導体は溶解性に富むため、様々な溶媒に溶解させてインク化することができる。以下にインク化について説明する。
【0066】
本発明では、前記溶媒は、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒およびエーテル系溶媒から選択され、前記溶媒には、さらに、アルコール系溶液、ケトン系溶液、パラフィン系溶媒および炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液から選択される粘度調整液が加えられることが好ましい。
【0067】
インク化における、溶媒および粘度調整液について説明する。
【0068】
前記溶媒は、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒およびエーテル系溶媒から選択され、前記溶媒には、さらに、アルコール系溶液、ケトン系溶液、パラフィン系溶媒および炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液から選択される粘度調整液が加えられることが好ましい。
【0069】
溶媒例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、アニソール、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのアルコキシ基、ハロゲンを有しても良い芳香族系溶媒が挙げられる。また、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒も溶媒として用いられる。
また、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒も溶媒として用いられる。
【0070】
粘度調整液例としては、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ(登録商標)、エチルセロソルブ(登録商標)、エチレングリコール、ベンジルアルコールなどの直鎖または分岐のアルコール系溶媒が例として挙げられる。
また、ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、ブチルベンゼン、ドデシルベンゼンなどの直鎖または分岐アルキル基を有しても良い炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶媒も粘度調整液として用いられる。ここで、粘度調整液としてアルコール系溶液とするとアルコール系は水を吸いやすいことから溶液の保存管理に注意を要するところ、粘度調整液として炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液とすると疎水性であるので保管が簡便であるという利点がある。
また、炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液であれば、アルキル基の構造を変化させる(例えばアルキル鎖を長くする)ことにより粘度調整が可能であるという利点がある。
また、アルコール系溶液は粘度が高いので、高い溶液粘度を必要とする成膜プロセス(例えばインクジェット法)に適した溶液を調整する際に好適である。
【0071】
また、これらの溶媒および粘度調整液は単独で使用してもよく、複数混合して用いてもよい。
【0072】
なお、粘度調整液の種類や混合量等は、各種の成膜プロセスに必要な粘度に応じて適宜選択されうる。炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液とは、すなわち、芳香族であって炭素数4以上のアルキル置換基を有するものをいう。アルキル置換基の炭素数の上限については特に定めるものではないが、例えば50程度を上限にすることが例として挙げられる。このように芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒およびエーテル系溶媒のうちから溶媒を選択することにより、本発明の有機EL材料を必要量(例えば、1wt%)以上溶媒に溶解させることができる。
また、粘度調整液としてアルコール系溶液、ケトン系溶液、パラフィン系溶液および炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液のうちから選択した溶液を加えると、有機EL材料含有溶液の粘度を増加させて各種の塗布手段(インクジェット、ノズルプリント、スピンコート)に適した粘度に調整することができる。
なお、溶媒は、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒およびエーテル系溶媒のうちから選択される少なくとも一つであり、2つ以上を混合してもよいことはもちろんである。
同様に、粘度調整液も、アルコール系溶液、ケトン系溶液、パラフィン系溶液および炭素数4以上のアルキル置換芳香族系溶液のうちから選択される少なくとも一つであり、2つ以上を混合してもよいことはもちろんである。
【0073】
[有機EL素子]
本発明のアリールアミン化合物は有機EL材料として好適である。以下に、その応用例としての有機EL素子について説明する。
【0074】
有機EL素子の形態は特に限定されるものではなく、図1に本発明の有機EL素子における積層構造の好適実施形態の模式図を示す。
図1(a)に示す有機EL素子(8)は、基板(1)の上に、陽極(2)、発光層(4)および陰極(7)が積層されている。
陽極(2)および陰極(7)には、それぞれ導線(図示せず)が接続されており、導線の他端は電源(図示せず)に接続されている。
図1(b)に示す有機EL素子(8)は、陽極(2)と発光層(4)の間に正孔輸送層(3)が積層されている以外は図1(a)と同様である。図1(c)に示す有機EL素子(8)は、発光層(4)と陰極(7)の間に電子輸送層(6)が積層されている以外は図1と同様である。図1(d)に示す有機EL素子(8)は、基板(1)の上に、陽極(2)、正孔輸送層(3)、発光層(4)、電子輸送層(6)および陰極(7)が積層されている。
図1(e)に示す有機EL素子(8)は、基板(1)の上に、陽極(2)、正孔輸送層(3)、発光層(4)、励起子阻止層(5)、電子輸送層(6)および陰極(7)が積層されている。
図1に示した有機EL素子の基板は、有機EL素子に一般的に使用されるものを使用することができ、特に制限されるものではないが、表面平滑性、防水性等に優れたガラス基板、シリコン基板およびプラスチック基板が好ましい。
陽極(2)は特に限定されないが、陽極の役割は正孔を正孔輸送層などの有機層に注入することであり、仕事関数が大きいものが好ましい。陽極材料としてはニッケル、金、白金、パラジウムやこれらの合金、或いは酸化スズ(SnO)、アクセプター性不純物を含んだ酸化亜鉛(ZnO)、沃化銅などの仕事関数の大きな金属やそれらの合金、化合物、更には、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール等の導電性ポリマーなどを用いることができる。陽極(2)に用いることができる透明導電材料としては、例えば、導電性、光透過性、エッチング加工性等を考慮し、インジウムスズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)により形成された透明電極等を好適に使用することができる。その他、インジウム亜鉛酸化物(IZO:In−ZnO)等もあげることができる。また例えば、銀電極など反射電極上に上記透明導電材料を積層した構造を用いても良い。さらに、膜厚は、材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0075】
また、陰極(7)も特に限定されないが、陰極(7)の役割は有機層への電子注入にあり、仕事関数が小さいものが好ましい。例えば、マグネシウム−銀合金電極、マグネシウム−インジウム合金電極、アルミニウム電極、薄い界面層とアルミニウム電極を組み合わせたものを好適に使用することができる。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0076】
本発明における有機EL素子の応用例は、陽極(2)および陰極(7)に挟まれた各層のうち、少なくとも一層に、アリールアミン化合物を含む膜を含むものであり、本発明のアリールアミン化合物がホール輸送層あるいはホール注入層であることが好ましいが、特に限定されるものではなく、それ以外の層が本発明のアリールアミン化合物を含んでいてもよい。
【0077】
ゲスト材料として使用する蛍光またはリン光材料は特に制限されるものではなく、例えば、蛍光材料としては、例えば、ペリレン誘導体、ルブレン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体等を挙げることができる。
この中では、ジスチリルアリーレン誘導体を好ましく用いることができ、この誘導体の例として、ジフェニルアミノビニルアリーレンを挙げることができる。また、リン光材料としては、イリジウム錯体を好適に使用することができる。イリジウム錯体としては、例えば、緑色の発光色を得ることができるIr(ppy)3、赤色の発光色を得ることができるBtp2Ir(acac)、青色の発光色を得ることができるFIrpicを挙げることができる。
【0078】
正孔輸送材料は有機EL素子に一般的に使用されるものを使用することができ、特に制限されるものではないが、例えば、芳香族アミン、特にトリアリールアミン誘導体を好適に挙げることができる。具体的には、α−NPD、m−MTDATA、2−TNATA、TCTA、スピロ−TAD、DPPD等を挙げることできる。これらの正孔輸送材料は、単独で用いてもよく、或いは、二種以上を組合せて用いてもよい。
また、本発明のアリールアミン化合物も上記と同様に好適に用いることができる。
【0079】
電子輸送材料は有機EL素子に一般的に使用されるものを使用することができ、特に制限されるものではない。電子輸送材料として例えば、Alq3を挙げることができる。更に、電子輸送材料として、Alq3の他に、オキサジアゾール誘導体(tBu−PBD)、二量化、スターバースト化されたオキサジアゾール誘導体を挙げることができる。これらの化合物は一種で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0080】
なお、発光層のみならず、キャリア輸送層、注入層にもドーピングを行ってもよい。
例えば、正孔輸送層にルブレンをドーピングすることによってルブレンから発光が観測され、素子の発光効率が向上する。また、キャリア輸送層、注入層へのドーピングにより、素子の長寿命化、耐久性の向上等の効果を得ることができる。
【0081】
図1に模式的に示した有機EL素子は公知の製造方法により製造することができ特に製造方法は限定されない。例えば、真空蒸着法(熱蒸着法)、スピンキャスト法によるコーティング(スピンコート法)、ソルベントキャスト法等を好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0083】
実施例で用いる可溶性置換基およびアントラセン中間体の合成例を下記に記載する。
【0084】
<合成例1>
[化合物中間体の合成1]
【0085】
[化合物1の合成]
【0086】
【化8】
【0087】
500mLのビーカーに1,2,3,4−テトラヒドロ−6−アミノナフタレン(Aldrich製、10g,65.3mmol)と15%HCl(60mL)を入れ、氷冷却下5℃以下を維持しながら、亜硝酸ナトリウム水溶液(5.41g,78.36mmol in Water 23mL)を徐々に滴下した。
滴下終了後、そのままの温度で1時間攪拌し、ヨウ化カリウム水溶液(13.0g,78.36mmol in Water 50mL)を一度に加え、氷浴を外し3時間攪拌し、その後60℃で窒素の発生が収まるまで1時間加熱した。
室温まで冷却した後、反応溶液をジエチルエーテルで3回抽出した。有機層を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(100mL×3回)で洗浄し、さらに飽和食塩水(100mL×2回)で洗浄した。さらに、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾液を濃縮することで赤色のオイルを得た。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン)にて精製することにより、無色のオイルとして化合物1を得た。(収量 12.0g,収率 71.2%)
以下に化合物1の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.73−1.81(m,4H),2.70(quint,4H,J=4.85Hz),6.80(d,1H,J=8.0Hz),7.38(dd,1H,J=8.0Hz J=1.75Hz),7.41(s,1H)
質量分析(GC−MS):m/z=258(M+)(実測値);258.099(分子量理論値)
【0088】
[化合物2の合成]
J.Org.Chem.1999,64,9365−9373に記載の方法を応用して、目的化合物2の合成を行なった。
【0089】
【化9】
【0090】
100mLの丸底フラスコに化合物2(3.1g,12mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(59mg,0.36mmol)、四塩化炭素(50mL)、N−ブロモスクシンイミド(4.7g,26.4mmol)を入れ、アルゴンガスで置換を行なった後、穏やかに80℃に加熱し、そのまま1時間攪拌し、室温まで冷却した。沈殿を濾過し、濾液を減圧下で濃縮することで、薄黄色の固体として化合物2を得た。(収量 4.99g,収率 100%)
これ以上精製することなく次の反応に用いた。
以下に化合物2の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.31−2.41(m,2H),2.70−2.79(m,2H),5.65(t,2H,J=2.0Hz),7.24−7.28(m,2H),7.31−7.34(m,2H)
質量分析(GC−MS):m/z=416(100.0%),414(51.4%),418(48.6%)(実測値);415.891(分子量理論値)
【0091】
[化合物3の合成]
【0092】
化合物1の合成において、1,2,3,4−テトラヒドロ−6−アミノナフタレンの代わりに、1,2,3,4−テトラヒドロ−5−アミノナフタレンを用いて同様に1,2,3,4−テトラヒドロ−5−ヨードナフタレンを合成した。化合物2の合成において、化合物1の代わりに、1,2,3,4−テトラヒドロ−5−ヨードナフタレンを用いた以外は同じ方法で化合物3の合成を行った。
【0093】
【化10】
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.72−2.76(m,2H),2.81−2.85(m,2H),5.53−5.54(m,H),5.60−5.62(m,H),6.95−6.99(m,H),7.35(d,H,J=7.8Hz),7.83(d,H,J=7.8Hz)
質量分析(GC−MS):m/z=416(100.0%),414(51.4%),418(48.6%)(実測値);415.891(分子量理論値)以上の分析結果より、合成した物が化合物3の構造と矛盾がないことを確認した。
【0094】
[化合物4の合成]
【0095】
【化11】
【0096】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g,20mmol)、ヘキサン酸(2.51mL,20mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF,30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物2(4.16g,10mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、オレンジ色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン→酢酸エチル/トルエン(5/95,v/v))にて精製することにより、無色のオイルとして化合物4を得た。(収量 2.44g,収率 50.2%)
以下に化合物4の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.87−0.90(m,6H),1.24−1.34(m,8H),1.60−1.67(m,4H),1.90−1.94(m,2H),2.23−2.34(m,6H),5.98(d,2H,J=3.5Hz),7.06(d,2H,J=8.0Hz),7.63−7.66(m,2H)
質量分析(GC−MS):m/z=486(M+)(実測値);486.384(分子量理論値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物4の構造と矛盾がないことを確認した。
【0097】
[化合物5の合成]
【0098】
【化12】
【0099】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(6.8g,37.5mmol)、ヘキサン酸(4.7mL,37.5mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF,60mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3(6.24g,15mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、オレンジ色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン→酢酸エチル/トルエン(5/95,v/v))にて精製することにより、無色のオイルとして化合物5を得た。(収量 2.00g,収率 27.0%)
以下に化合物5の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.86−0.89(m,6H),1.25−1.35(m,8H),1.58−1.62(m,4H),1.63−1.69(m,2H),1.94−1.96(m,2H),2.24−2.38(m,4H),5.89(t,H,J=2.9Hz),6.00(t,H,J=2.9Hz),7.04−7.07(m,H),7.36(d,H,J=8.0Hz),7.89(d,H,J=8.0Hz)
質量分析(GC−MS):m/z=486(M+)(実測値);486.384(分子量理論値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物5の構造と矛盾がないことを確認した。
【0100】
<合成例2>
[化合物中間体の合成2]
[化合物6の合成]
【0101】
下記反応式(スキーム)に従って化合物6を合成した。
【0102】
【化13】
【0103】
上記式中、出発原料の6−アミノ−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ナフタレノンはSIGMA Aldrich社より購入したものをそのまま用いた。
【0104】
500mLのビーカーに6−アミノ−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ナフタレノン(20g、119.0mmol)と15% HCl(96mL)を入れ、氷冷却下5℃以下を維持しながら、亜硝酸ナトリウム水溶液(9.9g、143.0mmol+水42mL)を徐々に滴下した。滴下終了後、そのままの温度で30分間攪拌し、ヨウ化カリウム水溶液(23.7g、143.0mmol+水77mL)を一度に加え、氷浴を外し2.5時間攪拌し、その後60℃で窒素の発生が収まるまで0.5時間加熱した。室温まで冷却した後、反応溶液をジエチルエーテルで3回抽出した。有機層を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(100mL×3回)で洗浄し、さらに飽和食塩水(100mL×2回)で洗浄した。
さらに、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾液を濃縮することで赤色のオイルを得た。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=9/1)にて精製することにより、淡橙色の固体を得た。さらに、2−プロパノールより再結晶することにより、淡橙色の結晶として化合物6を得た(収量 11.4g、収率 35.2%)。
以下に化合物6の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):2.13(quint,2H,J=5.7Hz),2.64(t,2H,J=6.3Hz),2.92(t,2H,J=6.0Hz),7.66(d,1H,J=8.0Hz),,7.67(s,1H),7.72(d,1H,J=8.0Hz)
融点:74.0−75.0°C
質量分析(GC−MS):m/z=272(M+)(実測値);272.082(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物6の構造と矛盾が無いことを確認した。
【0105】
[化合物7の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物7を合成した。
【0106】
【化14】
【0107】
200mLの丸底フラスコに化合物6(4.1g、15mmol)、メタノール(100mL)を入れ、氷冷下0℃にて、水素化ホウ素ナトリウム(850mg、22.5mmol)を徐々に加え、0℃のまま3時間攪拌した。過剰の水素化ホウ素ナトリウムを希塩酸で中和し、飽和食塩水を加えて、酢酸エチル(50mL)で5回抽出を行った。抽出液を塩化アンモニウム(100mL)で1回、続けて食塩水(100mL)で2回洗浄し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。濾液を濃縮し、淡赤色の固体として、化合物7を得た(収量 3.93g、収率 95.5%)。
これ以上精製することなく、このまま次の反応に用いた。
以下に化合物7の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.71(d,1H,J=5.8Hz),1.84−2.02(m,4H),2.65−2.71(m,1H,),2.75−2.81(m,1H,),4.72(d,1H,J=4.6Hz),7.17(d,1H,J=8.0Hz),,7.47(s,1H),7.52(d,t1H,J=8.0Hz,J=1.2Hz)
質量分析(GC−MS):m/z=274(M+)(実測値);274.098(分子量計算値)
融点:82.0−84.0℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物7の構造と矛盾がないことを確認した。
【0108】
[化合物8の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物8を合成した。
【0109】
【化15】
【0110】
50mLの丸底フラスコに化合物7(3.70g、13.5mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン(以下、DMAP、10mg)を入れ、アルゴンガスで置換した後、脱水ピリジン(8.1ml)、無水酢酸(6.2ml)を加えて、室温で6時間攪拌した。
反応溶液に水50mlを加えて、酢酸エチル(20ml)で5回抽出し、合わせた有機層を希塩酸(100ml)で3回、続けて飽和炭酸水素ナトリウム溶液(100ml)で2回洗浄し、最後に飽和食塩水(100ml)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、褐色の液体として化合物8を得た(収量 4.28g、収率 100%)。
これ以上精製することなく、このまま次の反応に用いた。
以下に化合物8の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.76−1.83(m,1H,),1.89−2.10(m,1H),2.07(s,3H),2.67−2.73(m,1H,),2.79−2.84(m,1H,),5.93(t,1H,J=5.2Hz),7.01(d,1H,J=8.6Hz),7.49(d,1H,J=2.3Hz),7.52(s,1H)
質量分析(GC−MS):m/z=316(M+)(実測値);316.135(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物8の構造と矛盾がないことを確認した。
【0111】
[化合物9の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物9を合成した。
【0112】
【化16】
【0113】
100mLの丸底フラスコに化合物8(4.27g、13.5mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBN,25mg)、四塩化炭素(100mL)、N−ブロモスクシンイミド(以下NBS,2.64g、14.8mmol)を入れ、アルゴンガスで置換を行なった後、穏やかに80℃に加熱し、そのまま1時間攪拌し、室温まで冷却した。沈殿を濾過し、濾液を減圧下で濃縮することで、薄黄色の固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=8/2)にて精製することにより、淡赤色のオイルとして化合物9を得た(収量 4.9g、収率 92.0%)。化合物(5)はシス体とトランス体の10:7の混合物として得られた。
以下に化合物9の分析結果を示す。
精密質量分析(LC−TofMS):m/z=393.9028(100.0%),395.9082(実測値);393.9065(100.0%),395.9045(97.3%) (理論値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物9の構造と矛盾が無いことを確認した。
【0114】
[化合物10の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物10を合成した。
【0115】
【化17】
【0116】
500mLの丸底フラスコに化合物9(4.2g、10.6mmol)を入れアルゴンガスで置換した後、THF(300mL)を入れ、氷冷下0℃で、ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(25wt%、24mL)を加えて、そのままの温度で6時間攪拌した。
水(300mL)を加えて、酢酸エチル(100mL)で4回抽出し、飽和食塩水(100mL)で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾液を濃縮することで褐色の液体を得た。これをカラム精製することにより、無色の結晶として化合物10を得た(収量 1.2g、収率 41.0%)。
以下に化合物10の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):1.70(d,1H,J=3.4Hz),2.58−2.61(m,2H),4.76(q,1H,J=6.3Hz),6.04(q,1H,J=5.2Hz),6.47(d,1H,J=9.8Hz),7.13(d,1H,J=8.1Hz),7.47(d,1H,J=1.7Hz),7.57(J=8.1Hz J=1.7Hz)
質量分析(GC−MS):m/z=272(M+),254(M+−HO)(実測値);272.082(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物10)の構造と矛盾がないことを確認した。
【0117】
[化合物(11−1)の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物(11−1)を合成した。
【0118】
【化18】
【0119】
50mLの丸底フラスコに化合物10(680mg、2.5mmol)、DMAP(15.3mg、0.125mmol)、を入れアルゴンガスで置換した後、ピリジン(15mL)を加えて、氷冷下0℃にて、ヘキサノイルクロライド(370mg、2.75mmol)を滴下し、そのままの温度で3時間攪拌した。反応溶液に水を加え、酢酸エチル(50mL)で3回抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、褐色の液体を得た。酢酸エチル/ヘキサン(95/5)に液体を溶解させ、厚さ3cmのシリカゲルパッドを通し、濾液を濃縮することで無色の液体として化合物(11)を得た(収量 560g、収率 60.5%)。
以下に化合物(11)の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.86(t,3H,J=7.2Hz),1.21−1.30(m,4H),1.54−1.60(m,2H),2.23(td,2H,J=7.5Hz J=2.3Hz),2.58−2.62(m,2H),5.95(t,1H,J=5.2Hz),6.03(quint,1H,J=4.6Hz),6.48(d,1H,J=9.8Hz),7.10(d,1H,J=8.0Hz),7.48(d,1H,J=1.7Hz),7.54(dd,1H,J1=8.0Hz,J2=1.8Hz)
質量分析(GC−MS):m/z=370(M+)、254(M+−C5H11COOH)(実測値);370.225(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物(11)の構造と矛盾がないことを確認した。
【0120】
[化合物12の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物12を合成した。
出発原料の1−シクロヘキセニル トリフルオロメタンスルホン酸エステルはAldrichより購入したものを用いて、化合物2の合成と同様にジブロモ化を行い3,6−ジブロモ−1−シクロヘキセニル トリフルオロメタンスルホン酸エステルを得、それを次の反応に精製することなくそのまま用いた。
【0121】
【化19】
【0122】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(1.81g,10mmol)、ヘキサン酸(1.25mL,10mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF,30mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、3,6−ジブロモ−1−シクロヘキセニル トリフルオロメタンスルホン酸エステル(1.8g,4.5 mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。
反応溶液を酢酸エチル100mLで希釈し、純水200mLを加え、有機層を分離した。
水層は酢酸エチル30mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、オレンジ色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン→酢酸エチル/ヘキサン(5/95,v/v))にて精製することにより、無色のオイルとして化合物12を得た。(収量900 mg,収率 43.2%)
以下に化合物12の分析結果を示す。
H NMR(500MHz,CDCl,TMS,δ):0.90(t,J=7.5Hz,6H),1.26−1.37(m,8H),1.60−1.67(m,4H),1.76−1.92(m,2H),1.96−2.08(m,2H),2.29−2.36(m,4H),5.48(q,1H,J=4.6Hz),5.51(t,1H,J=4.6Hz),6.12(d,J=5.2Hz,1H)
精密質量分析(LC−TofMS):m/z=458.1507(実測値),225.9980(M+−2C11COOH);458.1586,225.9910(理論値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物12の構造と矛盾がないことを確認した。
【0123】
[化合物13の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物13を合成した。
既知の1,5−シクロヘキサジエニル トリフルオロメタンスルホン酸エステルを化合物12と同様にブロモ化し、4−ブロモ−1,5−シクロヘキサジエニル トリフルオロメタンスルホン酸エステルを合成した。
【0124】
【化20】
【0125】
化合物12と同様に4−ブロモ−1,5−シクロヘキサジエニル トリフルオロメタンスルホン酸エステルの臭素をエステル化し、無色のオイルとして化合物13を得た。(収量 800mg,収率 30%)
精密質量分析(Tof−MS):m/z=342.0766(M+),225.9982(M+ −C11COOH)(実測値);342.0749(M+),225.9911(M+ −C11COOH)(理論値)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物13の構造と矛盾がないことを確認した。
【0126】
[化合物14の合成]
下記反応式(スキーム)に従って化合物14を合成した。
【0127】
【化21】
【0128】
丸底フラスコに4,4’−ジブロモビフェニル (7.8g,25mmol)、1−ナフチルアミン(8.59g,60mmol)、ナトリウム tert−ブトキシド(5.77g,60mmol)を取り、容器内をアルゴンガスで置換した後、トルエン(150mL)を加え、ラセミ−BINAP(1.4g,2.25mmol)、酢酸パラジウム(334mg,1.5mmol)を加えて、85℃で16時間加熱攪拌を行った。反応溶液に水を加えて、反応を停止させ、析出した固体を濾取した。固体を、水、メタノールで洗浄した後、真空下で乾燥させた。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、淡褐色の結晶として化合物14を得た。
(収量 3.6g、収率 33%)
NMR、質量分析で分析したところ、既知の文献データと一致した。
【0129】
[化合物15の合成]
和光純薬工業より購入した4,4’−Bis(carbazol−9−yl)biphenylを原料とし、下記スキームに従って公知の手法で化合物15を合成した。すなわち、DMF溶液にN−ブロモスクシンイミドを加えて、ブロモ化を行った後、J.Org.Chem.1995,60,7508−7510に記載の石山・宮浦らの手法を適用し、ブロモをボロン酸エステルへと誘導した。
【0130】
【化22】
質量分析(MALDI−TOFMS)で分析したところ、目的物であることが確認された。
【0131】
[化合物16の合成]
化合物14と同様の方法で、化合物16を得た。(収量 4.0g,収率 70%)
【0132】
【化23】
【0133】
[実施例1:アリールアミン化合物 HTL17の合成]
【0134】
【化24】
【0135】
丸底フラスコに、N,N’−Di(1−naphthyl)−4,4’−benzidine(化合物14)(2.4g,5.5mmol)、化合物4(6.4g,13.2mmol)、ナトリウム tert−ブトキシド(1.37g,14.3mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(50.3mg,0.055mmol),トリtertブチルホスフィン(22.2mg,0.11mmol)を取り、アルゴンガスで容器内を置換し、トルエン(100mL)を加えた。110℃で16時間加熱攪拌を行い、室温に戻した後、水を加えて反応を停止させた。反応溶液に酢酸エチルと水を加え、有機層を分離した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、合わせた有機層を水、続けて食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾取した後、溶液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、メタノールで洗浄し、淡黄色の固体としてHTL17を得た。(収量 1.7g,収率 26.8%)
H NMR(500MHz,CDCl3,TMS,δ):0.802−0.904(m,12H),1.15−1.32(m,12H),1.42−1.48(m,4H),1.58−1.65(m,8H),1.87−1.91(m,4H),2.03−2.35(m,12H),6.21−6.27(m,2H),6.63(t,2H,J=9.2Hz),7.24−7.25(m,2H),7.29−7.36(m,4H),7.44(td,1H,J1=5.3Hz, J2=2.3Hz),7.57−7.75(m,6H)
精密質量分析(MALDI−TOFMS):m/z=1153.4882(M+),689.8550(M+ −4C11COOH)(実測値);1153.4888(M+),688.8556(M+ −411COOH)(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、それぞれHTL17の構造と矛盾がないことを確認した。
【0136】
[実施例2:アリールアミン化合物HTL18の合成]
【0137】
【化25】
【0138】
実施例1において、化合物4を化合物5に換えた以外は実施例1と同様に行ったところ、淡黄色の固体としてHTL18を収量 1.0g,収率 15.8%で得た。
精密質量分析(MALDI−TOFMS):m/z=1153.4880(M+),689.8559(M+ −4C11COOH)(実測値);1153.4888(M+),688.8556(M+ −411COOH)(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、それぞれHTL18の構造と矛盾がないことを確認した。
【0139】
[実施例3:アリールアミン化合物HTL20の合成]
【0140】
【化26】
【0141】
実施例1において、化合物4を化合物11に換えた以外は実施例1と同様に行ったところ、淡黄色の固体としてHTL20を収量 0.7g,収率 11.0%で得た。
精密質量分析(MALDI−TOFMS):m/z=1153.4880(M+),689.8549(M+ −4C11COOH)(実測値);1153.4888(M+),688.8556(M+ −411COOH)(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、それぞれHTL20の構造と矛盾がないことを確認した。
【0142】
[実施例4:アリールアミン化合物HTL33の合成]
【0143】
【化27】
【0144】
実施例1において、化合物14を化合物16に換えた以外は実施例1と同様に行ったところ、淡黄色の固体としてHTL33を収量 1.08g,収率 56.8%で得た。
精密質量分析(MALDI−TOFMS):m/z=1317.6911(M+),853.0589(M+ −4C11COOH)(実測値);1317.6914(M+),853.0583(M+ −411COOH)(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、それぞれHTL33の構造と矛盾がないことを確認した。
【0145】
[実施例5:アリールアミン化合物HTL34の合成]
【0146】
【化28】
【0147】
丸底フラスコに、化合物15(2.98g,3.0mmol)、化合物12(6.05g,13.2mmol)、リン酸カリウム(8.41g,39.6mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(362.0mg,0.396mmol),トリオルトトリルホスフィン(481mg,1.58mmol)を取り、アルゴンガスで容器内を置換し、DMF(100mL)を加えた。85℃で16時間加熱攪拌を行い、室温に戻した後、水を加えて反応を停止させた。反応溶液に酢酸エチルと水を加え、有機層を分離した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、合わせた有機層を水、続けて食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾取した後、溶液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル)で精製し、メタノールで洗浄し、淡黄色の固体としてHTL34を得た。(収量 3.1g,収率 60.0%)
精密質量分析(MALDI−TOFMS):m/z=1721.0200(M+),792.3509(M+ −8C5H11COOH)(実測値);1721.0203(M+),792.3504(M+ −8C5H11COOH)(分子量計算値)
以上の分析結果から、合成したものが、それぞれHTL34の構造と矛盾がないことを確認した。
【0148】
[実施例6:アリールアミン化合物の熱分解挙動の観察例1]
実施例1で合成したHTL17の熱分解挙動を、TG−DTA[リファレンスAl、窒素気流下(200mL/min)、EXSTAR6000(商品名)、Seiko Instruments Inc.製]を用いて25℃から450℃の範囲を5℃/minのレートで昇温し、観察した。
上記の結果を図2に示す。なお、図2において横軸は温度[℃]、縦軸左は重量変化[ug]、縦軸右はDTA信号[uV]である。
図2より、室温から250℃付近にかけて、初期重量から40.0%の重量減少が確認された。これは、ヘキサン酸4分子がHTL17より脱離し、4,4’−ビス[N−(l−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル(α,β−TNB)が生成したと考えられる重量減少量(40.28%)とほぼ一致する。
また、200℃の段階でサンプルを取り出し、精密質量分析を行ったところ、m/z,200℃加熱サンプルの実測値:688.2899に対して、α,β−TNBの理論値:688.2890と精密質量が小数点3桁一致した。
このことから、HTL17は加熱により、ヘキサン酸4分子を分子内より脱離し、α,β−TNBと定量的に変換することが確認された。
この実施例より本発明のアリールアミン化合物は、加熱により溶解基を脱離した構造へと定量的に変換が可能であることが明らかになった。
【0149】
[実施例7:アリールアミン化合物の熱分解挙動の観察例2]
実施例6において、HTL17の代わりに実施例3で合成したHTL20に変えた以外は同様にして、TG−DTAを測定し、その重量減少量と、加熱後のサンプルの分析を行った。
室温から180℃付近にかけて、初期重量から25.1%の重量減少が確認された。これは、ヘキサン酸2分子がHTL20より脱離し、4,4’−ビス[N−(l−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル(α,β−TNB)が生成したと考えられる重量減少量(25.22%)とほぼ一致する。
また、150℃の段階でサンプルを取り出し、精密質量分析を行ったところ、m/z,150℃加熱サンプルの実測値:688.2854に対して、α,β−TNBの理論値:688.2858と精密質量が小数点3桁一致した。
このことから、HTL20は加熱により、ヘキサン酸2分子を分子内より脱離し、α,β−TNBと定量的に変換することが確認された。脱離反応に要する温度はHTL17と比べて低いことが確認された。
【0150】
[実施例8]
実施例6において、HTL17の代わりに実施例2で合成したHTL18に変えた以外は同様にして、TG−DTAを測定し、その重量減少量と、加熱後のサンプルの分析を行った。
実施例6、7と同様に理論値からの重量減少値のずれは−0.12%となった。
また、精密質量分析については理論値と小数点以下3桁が一致した。
このことからHTL18についてもHTL17同様に加熱により構造変換が可能であることがわかった。
【0151】
[実施例9]
実施例6において、HTL17の代わりに実施例4で合成したHTL33に変えた以外は同様にして、TG−DTAを測定し、その重量減少量と、加熱後のサンプルの分析を行った。
実施例6、7と同様に理論値からの重量減少値のずれは−0.16%となった。
また、精密質量分析については理論値と小数点以下3桁が一致した。
このことからHTL33についてもHTL17同様に加熱により構造変換が可能であることがわかった。
【0152】
[実施例10]
実施例6において、HTL17の代わりに実施例5で合成したHTL34に変えた以外は同様にして、TG−DTAを測定し、その重量減少量と、加熱後のサンプルの分析を行った。
実施例6、7と同様に理論値からの重量減少値のずれは−0.18%となった。
また、精密質量分析については理論値と小数点以下3桁が一致した。
このことからHTL34についてもHTL17同様に加熱により構造変換が可能であることがわかった。
【0153】
[実施例11:アリールアミン化合物のインク化(溶解度の評価)1]
実施例1で得られたHTL17をそれぞれトルエン、クロロホルム、2−プロパノール、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン(登録商標))、安息香酸エチル(各100mg)に溶け残りが出るまで添加し、溶媒還流下で10分間攪拌し、室温まで冷却し、さらに1時間攪拌し、16時間静置した後、上澄みを0.2μmのPTFEフィルターで濾過して飽和溶液を得た。これを減圧下乾燥させることにより、各溶媒に対する化合物の溶解度を算出した。
【0154】
[実施例12:アリールアミン化合物のインク化(溶解度の評価)2]
実施例11でHTL17に換えてHTL18を用いた以外は同様にして化合物の溶解度を算出した。
【0155】
[実施例13:アリールアミン化合物のインク化(溶解度の評価)3]
実施例11でHTL17に換えてHTL20を用いた以外は同様にして化合物の溶解度を算出した。
【0156】
[実施例14:アリールアミン化合物のインク化(溶解度の評価)4]
実施例11でHTL17に換えてHTL33を用いた以外は同様にして化合物の溶解度を算出した。
【0157】
[実施例15:アリールアミン化合物のインク化(溶解度の評価)5]
実施例11でHTL17に換えてHTL34を用いた以外は同様にして化合物の溶解度を算出した。
【0158】
[比較例1]
実施例11でHTL17に換えて、4,4’−ビス[N−(l−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル(α,β−TNB)を用いた以外は同様にして、化合物の溶解度を算出した。
【0159】
[比較例2]
実施例11でHTL17に換えて、4,4’−テトラキス[N−(l−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル(α−TNB)を用いた以外は同様にして、化合物の溶解度を算出した。
【0160】
[比較例3]
実施例11でHTL17に換えて、9,9−ビス[4−(N,N−ビス−ナフタレン−2−イル−アミノ)フェニル]−9H−フルオレン(慣用名NPAPF)を用いた以外は同様にして、化合物の溶解度を算出した。
【0161】
[比較例4]
実施例11でHTL17に換えて、N,N,N’,N’−tetra−biphenyl−4−yl−benzidine(慣用名TBPB)を用いた以外は同様にして、化合物の溶解度を算出した。
【0162】
表4における評価基準は以下のとおりである。
○:溶解度が5wt%以上、
△:1wt%以上5wt%未満、
×:1.0wt%未満、
【0163】
【表4】
【0164】
表4より、全てのアリールアミン化合物について、トルエン、クロロホルム、2−プロパノール、テトラリン、安息香酸エチルなどの種々の溶媒に対して、概ね1.0wt%以上、最大5.0wt%以上という高い溶解性が確認された。これは、骨格中に含まれる溶解性基の寄与が大きいことを示している。本発明のアリールアミン化合物は、高い溶解性を有するので、様々な溶液プロセスに好適な濃度、粘度のインクを調製することが容易である。溶媒極性については、トルエン、テトラリンのような極性の小さい溶媒、クロロホルムのような含ハロゲン系溶媒、2−プロノール、安息香酸エチルのような高極性溶媒を選択できる。また、沸点についても少なくとも60℃から200℃程度の範囲の溶媒を選択することができる。
成膜方法に応じて、極性、沸点など所望の物性を得るために例えば上記溶媒を混合することも効果的だと考えられる。
本発明のアリールアミン化合物は、分子量が1000を超えるような通常の蒸着法では成膜が困難な骨格においても多くの溶媒に対して高い溶解性を有するので、様々な溶液プロセスに好適な濃度、粘度のインクを調製することが容易である。
【0165】
[実施例16:薄膜の作製&評価例1]
実施例1で合成したHTL17をクロロホルムに1.0wt%の濃度になるように溶解させ、0.2μmのフィルターで濾過して溶液を調製した。濃硫酸に24時間付けおき洗浄した膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板上に、調製した溶液をピペットを用いて100μL滴下し、シャーレを被せてそのまま溶媒が乾燥するまで静置し、薄膜を作製した。薄膜観察を偏光顕微鏡および走査型プローブ顕微鏡[コンタクトモード、Nanopics(商品名)、Seiko Instruments Inc.製]によって行ったところ、平滑な連続したアモルファス膜が得られていることが分かった。次に前記薄膜を、アルゴン雰囲気下で180℃で60分間アニール処理した後に、前記と同様にして膜の観察を行った。アニール処理後も変更顕微鏡像で確認したところ、結晶化は生じておらず、アモルファス性の連続した平滑な膜を保っていることが分かった。アニール後の薄膜を、クロロホルムに溶かし出し、精密質量分析を行ったところ、m/z,加熱後の薄膜抽出物の実測値:688.2812に対して、α,β−TNBの理論値:688.2878と精密質量が小数点2桁一致した。このことから、HTL17から製膜された膜が、加熱により、脱離成分を脱離し、二重結合を形成したことで、定量的にアモルファス性のα,β−TNB膜へと変換されていることが分かった。
【0166】
[実施例17:薄膜の作製&評価例2]
実施例16において、HTL17の代わりにHTL20を用いて、アニール温度を135度に変更した以外は同様にして、製膜および膜の観察を行い、膜の質量分析を行った。
アニール処理後も変更顕微鏡像で確認したところ、結晶化は生じておらず、アモルファス性の連続した平滑な膜を保っていることが分かった。アニール後の薄膜を、クロロホルムに溶かし出し、精密質量分析を行ったところ、m/z,加熱後の薄膜抽出物の実測値:688.2855に対して、α,β−TNBの理論値:688.2878と精密質量が小数点2桁一致した。このことから、HTL20から製膜された膜が、加熱により、脱離成分を脱離し、二重結合を形成したことで、定量的にアモルファス性のα,β−TNB膜へと変換されていることが分かった。
【0167】
[比較例5:薄膜の作製&評価例3]
実施例16において、HTL17をα,β−TNBに換えた以外は、同様にして、薄膜を調製し、観察を行ったところ、偏光顕微鏡像において一部結晶化していることが確認された。また、走査型プローブ顕微鏡像において、結晶化により不連続な膜を生じていることが確認された。同様に膜を180℃に加熱し、再度偏光顕微鏡像を確認したところ、さらに結晶化が進んでいることが確認された。
実施例16、17および比較例5より、本発明のアリールアミン化合物は結晶性が低く、有機EL材料に好適なアモルファス性膜を形成しやすいことが分かった。また、加熱変換後に生成する対応する化合物(この場合は、α,β−TNB)を単に溶液として製膜したのでは、結晶性の不連続膜が得られるのみであるが、本発明のアリールアミン化合物を製膜後、加熱処理することで、アモルファス性の連続膜が得られるということも明らかとなった。
【0168】
以下に、本発明のアリールアミン化合物およびその熱変換膜の有機ELデバイスへの応用例を示すが、本発明のアリールアミン化合物の応用用途はこれに限られる物ではない。
【0169】
[実施例18:ELデバイスへの応用例1]
<有機EL素子作成例>
40×40mm角の透明なガラスからなる基板を用意して、公知の洗浄工程により基板面を洗浄した。次に、前記基板の一面にITOを公知の成膜方法により成膜した後ストライプ状にパターニングして、これを陽極(電極)とした。その後、ITO表面をO2プラズマ処理によりクリーニングした。
次に、実施例1で合成したアリールアミン化合物HTL17の1.0wt%THF溶液を用意し、前記基板上にスピンコーティング法により膜厚60nmの膜を塗布した後、乾燥させた。
次に、前記基板を真空装置のチャンバーに入れ、真空蒸着法により、Alq3からなる電子輸送層(60nm)をこの順序で成膜した。次に、真空蒸着法により、メタルマスクを用いて、LiF(膜厚0.25nm)とMgAg(膜厚200nm)をこの順序で積層したストライプ状の陰極(電極)を形成した。
【0170】
<素子の評価>
作製した有機EL素子について、電流密度の電圧依存性、輝度の電圧依存性、発光スペクトルの測定を行い、絶対蛍光量子効率を算出した。
【0171】
[実施例19:応用例2]
実施例18(応用例1)において、HTL17をそれぞれHTL18に換えた以外は同様にして、有機EL素子の作製、素子評価を行った。
【0172】
[実施例20:応用例3]
実施例18(応用例1)において、HTL17をそれぞれHTL20に換えた以外は同様にして、有機EL素子の作製、素子評価を行った。応用例1乃至3の外部量子効率の評価結果を表5に示した。
【0173】
【表5】
【0174】
表5より、本発明のアリールアミン化合物は、溶液法による製膜で良好な特性を示す有機EL素子を作製可能であることが分かる(応用例1乃至3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0175】
【特許文献1】特開2008−166629号公報
【特許文献2】特許第4761006号公報
【特許文献3】特表2004−505169号公報
【特許文献4】国際公開第2008/038747号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/053056号パンフレット
【特許文献6】特開2011−213705号公報
【特許文献7】特願2011−086973号明細書
図1
図2