【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジルコニア焼結過程で形成される微細組織と光透過率及び耐水熱劣化性の関係について詳細に検討し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
a)イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、正方晶率が90重量%以上、かつ、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上の透光性ジルコニア焼結体。
b)焼結体全体を140℃熱水中に75時間浸漬させた後の焼結体中の単斜晶存在比率が10%以下であることを特徴とする上記a)のジルコニア焼結体。
c)イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、BET比表面積13〜20m
2/g、平均粒径0.4μm以下のジルコニア粉末を成形し、800〜1100℃で加熱して仮焼体を得、次いで、該仮焼体を電磁波加熱によって1150〜1250℃で焼成することによる上記a)またはb)の透光性ジルコニア焼結体の製造方法。
を要旨とするものである。以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明における用語の定義を以下に示す。
【0015】
透光性ジルコニア焼結体に係わる「ジルコニア」とは、イットリアが安定化剤として固溶しているジルコニアをいう。
【0016】
「イットリア濃度」とは、Y
2O
3/(ZrO
2+Y
2O
3)の比率をモル%として表した値をいう。
【0017】
「アルミナ濃度」とは、Al
2O
3/(ZrO
2+Y
2O
3+Al
2O
3)の比率を重量%として表した値をいう。
【0018】
「正方晶の比率(正方晶率)」とは、X線回折(XRD)プロファイルに解析プログラムとしてRIETAN−FP(参考文献:F.Izumi,”The Rietveld Method”,Ed. by R. A. Young, Oxford University Press, Oxford (1993) Chap. 13.)を用いてリートベルト法により算出された重量%の値をいう。
【0019】
「光透過率」とは、焼結体の両面を鏡面研磨加工した厚み1.0mmの円盤形状の測定試料を用い、紫外可視分光光度計で測定された光透過スペクトルの波長600nmでの全光線透過率の値をいう。
【0020】
「単斜晶率(f
m)」とは、水熱処理した焼結体についてXRD測定を行い、単斜晶の(111)及び(11−1)反射の面積強度、立方晶及び正方晶の(111)反射の面積強度をそれぞれ求めて、数式1により算出されたものの%値をいう。
【0021】
f
m(%)=[I
m(111)+I
m(11−1)]×100/[I
m(111)+
I
m(11−1)+I
t(111)+I(111)
c] (1)
ここで、Iは各反射の面積強度、添字m,t及びcはそれぞれ単斜晶,正方晶,立方晶を示す。
【0022】
「相対密度」とは、実験的に求めた実測密度ρと、数式2〜5により計算されたイットリア及びアルミナを含有するジルコニアの真密度ρ
0を用い、(ρ/ρ
0)×100で表される比率(%)のことをいう。
【0023】
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (2)
C=0.5195−0.06180X/(100+X) (3)
ρ
Z=[124.25(100−X)+225.81X]/[150.5(100+X)A
2C] (4)
ρ
0=100/[(Y/3.987)+(100−Y)/ρ
Z] (5)
ここで、Xはイットリア濃度(モル%)、Yはアルミナ濃度(重量%)である。
【0024】
アルミナ及びジルコニア結晶粒子に係わる「平均粒径」とは、電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法(参考文献:山口喬,セラミックス,
19,520−529(1984))により算出されたものの値をいう。
【0025】
ジルコニア粉末に係わる「BET比表面積」は、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。
【0026】
「平均粒径」とは、体積基準分布が中央値(メディアン)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、レーザー回折装置による粒度分布測定装置、例えば、マイクロトラック粒度分布計によって測定することができる。
【0027】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含んでいることを必要とする。イットリア濃度を2.5〜3.5モル%とすることにより、劣化が抑制されて品質信頼性が向上すると共に、機械的特性が向上するからである。より高い品質信頼性及びより強い機械的特性を得るために、イットリア濃度としては、2.8〜3.3モル%が好ましい。
【0028】
また、アルミナ濃度を0.05〜0.3重量%とすることにより、結晶粒間の境界(粒界)に固溶偏析しているアルミニウムイオンの偏析量が多くなった結果、粒界強度が高くなって強度・靱性が高いものとなり、また、結晶粒界におけるアルミニウムイオンの固溶限界を超えないため、光散乱により光透過率が低下する原因となるアルミナ結晶粒の析出が抑制された結果、審美性が付与されて歯科材用として好適なものとなるからである。より好ましいアルミナ濃度は、0.1〜0.2重量%である。
【0029】
さらに、上記のジルコニア焼結体は、正方晶率が90重量%以上、かつ、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上でなければならない。正方晶率を90重量%以上とすることにより、正方晶の相安定性が向上し、品質信頼性が高くなるからである。また、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上、好ましくは33%以上であると、審美性が維持されるため、歯科材用として好適なものとなるからである。
【0030】
本発明のジルコニア焼結体の相対密度は、99%以上、好ましくは99.5%以上のものがよい。
【0031】
また、本発明のジルコニア焼結体は、焼結体全体を140℃熱水中に75時間浸漬させた後に、その焼結体の単斜晶存在比率を測定すると、その存在比率が10%以下、好ましくは6%以下のものであり、耐水熱劣化性に優れるものである。
【0032】
次に、本発明の透光性ジルコニア焼結体の製造方法につき説明する。
【0033】
本発明の透光性ジルコニア焼結体を製造する方法においては、イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、BET比表面積13〜20m
2/g、平均粒径0.4μm以下のジルコニア粉末を原料として使用する。
【0034】
イットリアの濃度としては、本発明の製造方法により得られる焼結体に、より高い品質信頼性及びより強い機械的特性を与えるために、2.8〜3.3モル%が好ましい。
【0035】
また、アルミナ濃度としては、本発明の製造方法により得られる焼結体に、より大きな強度・靱性を与え、一方、光透過率が低下する原因となるアルミナ結晶粒の析出を抑制するために、0.1〜0.2重量%が好ましい。
【0036】
ジルコニア粉末のBET比表面積が13〜20m
2/gであると、焼結性・成形性の良好な粉末となるため、製造される焼結体は、良好な光透過率を与えるものとなる。
【0037】
また、ジルコニア粉末の平均粒径が0.4μm以下であると、焼結性が高い粉末となるために、製造される焼結体の光透過率が30%以上となる。より好ましいジルコニア粉末の平均粒径は、0.1〜0.3μmである。
【0038】
次いで、本発明の製造方法では、上記のジルコニア粉末を成形して、800〜1100℃で加熱して仮焼体を得る工程を実施する。仮焼体を得るための加熱温度を800〜1100℃とすることにより、ジルコニア粉末中に残留している吸着水や不純物等の微量の昇温脱離成分を十分に除去することが可能となるため、次のマイクロ波焼成過程でそれらの微量成分を原因とする微細クラックが生じることを防止でき、また、この仮焼工程で内部に気孔が残留した仮焼体微構造が形成され、マイクロ波焼成工程で当該残留気孔が焼結体外部に除去されないことに起因する光透過率の低下を抑制することができる。
【0039】
ジルコニア粉末を成形する方法としては、加圧成形,射出成形,押出成形等の公知の方法を選択することができる。
【0040】
次いで、上記の仮焼体を電磁波加熱によって1150〜1250℃で焼成する。通常の輻射加熱方式の電気炉で仮焼体を焼成すると、仮焼体表面層より加熱が始まって熱伝導により仮焼体内部が加熱されるので表面層より焼結が進行し、その結果として焼結体内部に気孔が残留しやすくなり、結果として光透過率が30%よりも小さくなるからである。
【0041】
焼成温度が1150〜1250℃、好ましくは1160〜1240℃であると、仮焼体の緻密化が充分進行するために焼結体に気孔が残留し難くなるため、光透過率が30%以上となり、また、正方晶率を90重量%とすることが可能であるからである。
【0042】
本発明の製造方法における電磁波による加熱方法としては、電磁波を用いて加熱する焼結方法であれば特に限定されないが、電磁波としてはマグネトロンまたはジャイロトロン等から発生する連続またはパルス状の2.45GHz等のマイクロ波、28GHz等のミリ波、またはサブミリ波が利用できる。
【0043】
電磁波焼成炉としては、バッチ式、連続式、外部加熱式とのハイブリット式等の種々の焼成炉を使用することができ、特に、周波数2.45GHzのマイクロ波焼成炉を用いて電磁波加熱を行うことが好ましい。電磁波加熱では電気焼成炉に比べて短時間で昇温速度を上げることや保持時間を短縮することが可能であり、焼成時の昇温速度については特に限定されないが、生産性の観点から400〜600℃/hとするのが好ましい。焼成温度の保持時間は1〜2時間程度でよい。
【0044】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、ジルコニア焼結体として、相対密度99%以上、好ましくは99.5%以上のものを得ることができる。
【0045】
上記のジルコニア粉末の製造方法には特に制限はなく、イットリア濃度、アルミナ濃度、BET比表面積及び平均粒径を満足しているものであれば、いかなる方法(例えば、加水分解法,中和共沈法等)で得られたものを用いてもよい。特に、イットリウムを含む水和ジルコニア微粒子を900〜1000℃の温度で加熱して得られるジルコニア粉末が好適であり、これにアルミニウム化合物を加えて湿式粉砕すればよい。
【0046】
このイットリウムを含む水和ジルコニア微粒子は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾル含有液に、イットリウム化合物を添加して乾燥させたものを用いればよい。また、イットリウム化合物を前もって所定量添加したジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾル含有液を乾燥させたものを用いてもよい。
【0047】
水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどを挙げることができるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。
【0048】
イットリウム化合物としては、塩化物,水酸化物,酸化物などを挙げることができる。
【0049】
ジルコニア粉末に添加するアルミニウム化合物は、塩化アルミニウム,硫酸アルミニウム,水酸化アルミニウム,アルミナゾル,酸化アルミニウム粉末などが挙げられる。