特許第6236883号(P6236883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236883透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236883
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】透光性ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20171120BHJP
   A61C 7/14 20060101ALI20171120BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C04B35/488 500
   A61C7/14
   A61C13/083
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-118025(P2013-118025)
(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公開番号】特開2014-12627(P2014-12627A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-126731(P2012-126731)
(32)【優先日】2012年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 光二
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−269812(JP,A)
【文献】 特開2010−150063(JP,A)
【文献】 特表2006−513963(JP,A)
【文献】 特開平11−071576(JP,A)
【文献】 特開2002−362972(JP,A)
【文献】 特開2004−269331(JP,A)
【文献】 特開2004−010419(JP,A)
【文献】 特開2013−022070(JP,A)
【文献】 特開2008−222450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
A61C 7/00−7/36
A61C 13/00−13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、正方晶率が90重量%以上、かつ、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上であり、焼結体全体を140℃熱水中に75時間浸漬させた後の焼結体中の単斜晶存在比率が10%以下であることを特徴とする透光性ジルコニア焼結体。
【請求項2】
イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、BET比表面積13〜20m/g、平均粒径0.4μm以下のジルコニア粉末を成形し、800〜1100℃で加熱して仮焼体を得、次いで、該仮焼体を電磁波加熱によって1150〜1250℃で焼成することによる請求項1記載の透光性ジルコニア焼結体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水熱劣化性に優れる透光性ジルコニア焼結体に関する。特に、歯科用途で使用されるジルコニア焼結体、更には義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットとして用いるのに適する。
【背景技術】
【0002】
常温力学特性(強度・靭性)に優れるイットリア安定化正方晶ジルコニア焼結体は、切断工具、ダイス、ノズル、ベアリング等の構造部材や歯科材等の生体材料に広く利用されている。更に、歯科材の場合、高強度・高靱性という機械的特性のみならず、審美的観点から透光性や色調という光学的特性も要求される。
【0003】
一方で、この正方晶ジルコニアは、長い時間を経て除々に正方晶から単斜晶へ相変態して体積膨張が起って、クラックが発生し、強度及び靭性が低下する劣化現象が起ることが指摘されており、特に、歯科材では上記の特性を満足し、かつ、劣化しにくい品質信頼性の高い、即ち、製品寿命の長いものが求められている。品質信頼性は、一般に水熱処理による劣化加速試験で評価されている。
【0004】
また、ジルコニア単結晶は透光感があり、従来からイットリアを約10モル%含有する立方晶ジルコニア単結晶は宝飾品等に利用されているが、強度が極めて低いという問題があった。
【0005】
更に、正方晶を主成分とする多結晶体のイットリア安定化正方晶ジルコニア焼結体は、結晶粒間及び粒内に存在する残留気孔が光散乱を引起すために光透過率が低くなることが知られており、これまで残留気孔を減少させ密度を高めることで透光性を付与しようとする研究がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1にはイットリアを2モル%以上及びチタニアを3〜20モル%含む透光性ジルコニアが開示されているが、透光性を与えるためにチタニアを多量に含有させるため、強度をより高める必要があった。
【0007】
特許文献2には、2〜4モル%イットリア、0.1〜0.2重量%アルミナの組成において、可視光の全光線透過率が試料厚み1.0mmで35%以上のジルコニア焼結体が開示されている。しかしながら、この焼結体に対して140℃の熱水中に24時間浸漬させる劣化加速試験を実施すると、焼結体の単斜晶相率が5〜29%となり、品質信頼性に更なる改善の余地があった。
【0008】
特許文献3には、イットリアが固溶したジルコニア焼結体であって、該ジルコニア焼結体の正方晶の結晶粒子の配向度が45%以下であるジルコニア焼結体が開示されている。しかしながら、この焼結体は望ましい密度までは到達しておらず残留気孔が多いため、審美性に改善の余地があった。
【0009】
また、特許文献4には、2〜4モル%のイットリアを含み、0.2重量%以下のアルミナを含むジルコニアからなり、相対密度が99.8%以上、厚み1.0mmでの全光線透過率が35%以上のジルコニア焼結体が開示されている。しかしながら、この焼結体は特許文献2と同様に品質信頼性に更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−91467号公報
【特許文献2】特開2009−269812公報
【特許文献3】特開平11−240757号公報
【特許文献4】国際公開第2009/125793号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では、上記のような従来品における欠点を解消し、強度及び靭性に優れており、これに加えて耐水熱劣化性に優れる透光性ジルコニア焼結体の提供;並びにその透光性ジルコニア焼結体を簡易なプロセスにより製造することのできる方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジルコニア焼結過程で形成される微細組織と光透過率及び耐水熱劣化性の関係について詳細に検討し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
a)イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、正方晶率が90重量%以上、かつ、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上の透光性ジルコニア焼結体。
b)焼結体全体を140℃熱水中に75時間浸漬させた後の焼結体中の単斜晶存在比率が10%以下であることを特徴とする上記a)のジルコニア焼結体。
c)イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、BET比表面積13〜20m/g、平均粒径0.4μm以下のジルコニア粉末を成形し、800〜1100℃で加熱して仮焼体を得、次いで、該仮焼体を電磁波加熱によって1150〜1250℃で焼成することによる上記a)またはb)の透光性ジルコニア焼結体の製造方法。
を要旨とするものである。以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明における用語の定義を以下に示す。
【0015】
透光性ジルコニア焼結体に係わる「ジルコニア」とは、イットリアが安定化剤として固溶しているジルコニアをいう。
【0016】
「イットリア濃度」とは、Y/(ZrO+Y)の比率をモル%として表した値をいう。
【0017】
「アルミナ濃度」とは、Al/(ZrO+Y+Al)の比率を重量%として表した値をいう。
【0018】
「正方晶の比率(正方晶率)」とは、X線回折(XRD)プロファイルに解析プログラムとしてRIETAN−FP(参考文献:F.Izumi,”The Rietveld Method”,Ed. by R. A. Young, Oxford University Press, Oxford (1993) Chap. 13.)を用いてリートベルト法により算出された重量%の値をいう。
【0019】
「光透過率」とは、焼結体の両面を鏡面研磨加工した厚み1.0mmの円盤形状の測定試料を用い、紫外可視分光光度計で測定された光透過スペクトルの波長600nmでの全光線透過率の値をいう。
【0020】
「単斜晶率(f)」とは、水熱処理した焼結体についてXRD測定を行い、単斜晶の(111)及び(11−1)反射の面積強度、立方晶及び正方晶の(111)反射の面積強度をそれぞれ求めて、数式1により算出されたものの%値をいう。
【0021】
(%)=[I(111)+I(11−1)]×100/[I(111)+
(11−1)+I(111)+I(111)] (1)
ここで、Iは各反射の面積強度、添字m,t及びcはそれぞれ単斜晶,正方晶,立方晶を示す。
【0022】
「相対密度」とは、実験的に求めた実測密度ρと、数式2〜5により計算されたイットリア及びアルミナを含有するジルコニアの真密度ρを用い、(ρ/ρ)×100で表される比率(%)のことをいう。
【0023】
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (2)
C=0.5195−0.06180X/(100+X) (3)
ρ=[124.25(100−X)+225.81X]/[150.5(100+X)AC] (4)
ρ=100/[(Y/3.987)+(100−Y)/ρ] (5)
ここで、Xはイットリア濃度(モル%)、Yはアルミナ濃度(重量%)である。
【0024】
アルミナ及びジルコニア結晶粒子に係わる「平均粒径」とは、電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法(参考文献:山口喬,セラミックス,19,520−529(1984))により算出されたものの値をいう。
【0025】
ジルコニア粉末に係わる「BET比表面積」は、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。
【0026】
「平均粒径」とは、体積基準分布が中央値(メディアン)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、レーザー回折装置による粒度分布測定装置、例えば、マイクロトラック粒度分布計によって測定することができる。
【0027】
本発明の透光性ジルコニア焼結体は、イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含んでいることを必要とする。イットリア濃度を2.5〜3.5モル%とすることにより、劣化が抑制されて品質信頼性が向上すると共に、機械的特性が向上するからである。より高い品質信頼性及びより強い機械的特性を得るために、イットリア濃度としては、2.8〜3.3モル%が好ましい。
【0028】
また、アルミナ濃度を0.05〜0.3重量%とすることにより、結晶粒間の境界(粒界)に固溶偏析しているアルミニウムイオンの偏析量が多くなった結果、粒界強度が高くなって強度・靱性が高いものとなり、また、結晶粒界におけるアルミニウムイオンの固溶限界を超えないため、光散乱により光透過率が低下する原因となるアルミナ結晶粒の析出が抑制された結果、審美性が付与されて歯科材用として好適なものとなるからである。より好ましいアルミナ濃度は、0.1〜0.2重量%である。
【0029】
さらに、上記のジルコニア焼結体は、正方晶率が90重量%以上、かつ、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上でなければならない。正方晶率を90重量%以上とすることにより、正方晶の相安定性が向上し、品質信頼性が高くなるからである。また、試料厚み1.0mmでの波長600nmの光透過率が30%以上、好ましくは33%以上であると、審美性が維持されるため、歯科材用として好適なものとなるからである。
【0030】
本発明のジルコニア焼結体の相対密度は、99%以上、好ましくは99.5%以上のものがよい。
【0031】
また、本発明のジルコニア焼結体は、焼結体全体を140℃熱水中に75時間浸漬させた後に、その焼結体の単斜晶存在比率を測定すると、その存在比率が10%以下、好ましくは6%以下のものであり、耐水熱劣化性に優れるものである。
【0032】
次に、本発明の透光性ジルコニア焼結体の製造方法につき説明する。
【0033】
本発明の透光性ジルコニア焼結体を製造する方法においては、イットリアを2.5〜3.5モル%及びアルミナを0.05〜0.3重量%含み、BET比表面積13〜20m/g、平均粒径0.4μm以下のジルコニア粉末を原料として使用する。
【0034】
イットリアの濃度としては、本発明の製造方法により得られる焼結体に、より高い品質信頼性及びより強い機械的特性を与えるために、2.8〜3.3モル%が好ましい。
【0035】
また、アルミナ濃度としては、本発明の製造方法により得られる焼結体に、より大きな強度・靱性を与え、一方、光透過率が低下する原因となるアルミナ結晶粒の析出を抑制するために、0.1〜0.2重量%が好ましい。
【0036】
ジルコニア粉末のBET比表面積が13〜20m/gであると、焼結性・成形性の良好な粉末となるため、製造される焼結体は、良好な光透過率を与えるものとなる。
【0037】
また、ジルコニア粉末の平均粒径が0.4μm以下であると、焼結性が高い粉末となるために、製造される焼結体の光透過率が30%以上となる。より好ましいジルコニア粉末の平均粒径は、0.1〜0.3μmである。
【0038】
次いで、本発明の製造方法では、上記のジルコニア粉末を成形して、800〜1100℃で加熱して仮焼体を得る工程を実施する。仮焼体を得るための加熱温度を800〜1100℃とすることにより、ジルコニア粉末中に残留している吸着水や不純物等の微量の昇温脱離成分を十分に除去することが可能となるため、次のマイクロ波焼成過程でそれらの微量成分を原因とする微細クラックが生じることを防止でき、また、この仮焼工程で内部に気孔が残留した仮焼体微構造が形成され、マイクロ波焼成工程で当該残留気孔が焼結体外部に除去されないことに起因する光透過率の低下を抑制することができる。
【0039】
ジルコニア粉末を成形する方法としては、加圧成形,射出成形,押出成形等の公知の方法を選択することができる。
【0040】
次いで、上記の仮焼体を電磁波加熱によって1150〜1250℃で焼成する。通常の輻射加熱方式の電気炉で仮焼体を焼成すると、仮焼体表面層より加熱が始まって熱伝導により仮焼体内部が加熱されるので表面層より焼結が進行し、その結果として焼結体内部に気孔が残留しやすくなり、結果として光透過率が30%よりも小さくなるからである。
【0041】
焼成温度が1150〜1250℃、好ましくは1160〜1240℃であると、仮焼体の緻密化が充分進行するために焼結体に気孔が残留し難くなるため、光透過率が30%以上となり、また、正方晶率を90重量%とすることが可能であるからである。
【0042】
本発明の製造方法における電磁波による加熱方法としては、電磁波を用いて加熱する焼結方法であれば特に限定されないが、電磁波としてはマグネトロンまたはジャイロトロン等から発生する連続またはパルス状の2.45GHz等のマイクロ波、28GHz等のミリ波、またはサブミリ波が利用できる。
【0043】
電磁波焼成炉としては、バッチ式、連続式、外部加熱式とのハイブリット式等の種々の焼成炉を使用することができ、特に、周波数2.45GHzのマイクロ波焼成炉を用いて電磁波加熱を行うことが好ましい。電磁波加熱では電気焼成炉に比べて短時間で昇温速度を上げることや保持時間を短縮することが可能であり、焼成時の昇温速度については特に限定されないが、生産性の観点から400〜600℃/hとするのが好ましい。焼成温度の保持時間は1〜2時間程度でよい。
【0044】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、ジルコニア焼結体として、相対密度99%以上、好ましくは99.5%以上のものを得ることができる。
【0045】
上記のジルコニア粉末の製造方法には特に制限はなく、イットリア濃度、アルミナ濃度、BET比表面積及び平均粒径を満足しているものであれば、いかなる方法(例えば、加水分解法,中和共沈法等)で得られたものを用いてもよい。特に、イットリウムを含む水和ジルコニア微粒子を900〜1000℃の温度で加熱して得られるジルコニア粉末が好適であり、これにアルミニウム化合物を加えて湿式粉砕すればよい。
【0046】
このイットリウムを含む水和ジルコニア微粒子は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾル含有液に、イットリウム化合物を添加して乾燥させたものを用いればよい。また、イットリウム化合物を前もって所定量添加したジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾル含有液を乾燥させたものを用いてもよい。
【0047】
水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどを挙げることができるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。
【0048】
イットリウム化合物としては、塩化物,水酸化物,酸化物などを挙げることができる。
【0049】
ジルコニア粉末に添加するアルミニウム化合物は、塩化アルミニウム,硫酸アルミニウム,水酸化アルミニウム,アルミナゾル,酸化アルミニウム粉末などが挙げられる。
【発明の効果】
【0050】
以上、説明したとおり、本発明の透光性ジルコニア焼結体は、強度及び靭性に優れており、これに加えて耐水熱劣化性にも優れている。また、本発明の方法により、上記の透光性ジルコニア焼結体を簡易なプロセスにより製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。
【0052】
例中、ジルコニア微粉末の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布計(Honeywell社製,商品名「9320−HRA」)を用いて測定した。試料の前処理条件としては、粉末を蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。
【0053】
ジルコニア粉末の成形は、成形圧力200MPaで冷間静水圧(CIP)を行った。
【0054】
マイクロ波焼成は、周波数2.45GHzの焼成炉を用い、成形体を炭化ケイ素セッターの上に置いて行った。焼成条件(昇温速度,焼成温度)は、試料に熱電対を直接接触させて制御した。
【0055】
得られた焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。
【0056】
アルミナ及びジルコニア結晶粒の平均粒径は、熱エッチング処理を行ったあとに、電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いてプラニメトリック法により算出した。具体的には、顕微鏡画像上に円を描いたとき、円内の粒子数nと円周にかかった粒子数Nの合計が少なくとも200個となるような円を描いて、または200個に満たない画像の場合には、粒子数の合計(n+N)が少なくとも200個となるように数視野の画像を用いて複数の円を描き、プラニメトリック法により平均粒径を求めた。
【0057】
正方晶率は、XRDをステップスキャン法(2θ:15〜80°,ステップ幅:0.04°,積算時間:8秒/ステップ)で測定し、得られたプロファイルをリートベルト法により定量化することにより求めた。解析は、正方晶及び立方晶の混相とし、各結晶のプロファイル関数は独立して取扱い、各元素の温度パラメーターは同一とした。
【0058】
光透過率は、焼結体の両面を鏡面研磨加工して厚み1.0mmの円盤形状の試料を作製し、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製,商品名「V−650」)で波長600nmにおける全光線透過率を測定した。
【0059】
機械的特性(靭性)は、微小圧子圧入法で評価を行い、新原の式(参考文献:新原皓一,セラミックス,20,12−18,1985)を用いて算出した。
【0060】
また、劣化加速試験は、焼結体を140℃の熱水中に所定時間浸漬させ、生成する単斜晶の比率を求めることによって評価した。単斜晶率は、浸漬処理した焼結体についてX線回折測定を行い、前記の数式1により算出した。
【0061】
実施例1
2モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液4リットルに2モル/リットルのアンモニア水4.8リットルを混合し、蒸留水を加えてジルコニア換算濃度0.8モル/リットルの溶液を調製した。この溶液を還流器付きフラスコ中で攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で150時間行った。
【0062】
得られた水和ジルコニアゾルに、塩化イットリウムをイットリア濃度が3.0モル%になるように添加して乾燥させ、950℃の温度で2時間加熱した。
【0063】
得られた加熱粉を水洗処理したあとに、粒径0.015μmのアルミナゾルをアルミナ濃度が0.15重量%になるように添加し、さらに蒸留水を加えてジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。このスラリーを直径2mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで48時間粉砕して乾燥させた。得られたジルコニア粉末の特性を表1に示す。
【0064】
次いで、上記で得られたジルコニア粉末を成形し、得られた成形体を電気炉で1100℃×2時間加熱して、次いで、昇温600℃/h,1200℃×1時間の条件でマイクロ波焼結させた。
【0065】
得られた焼結体の特性(相対密度,正方晶率,光透過率,靭性)と劣化加速試験(エージング時間:24,75時間)後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が4%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0066】
実施例2
イットリア濃度が2.6モル%及びマイクロ波焼成の温度が1160℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が6%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0067】
実施例3
イットリア濃度が3.4モル%以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が2%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0068】
実施例4
アルミナ濃度が0.1重量%及びマイクロ波焼成の温度が1240℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が7%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0069】
実施例5
マイクロ波焼成の温度が1160℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が3%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0070】
実施例6
マイクロ波焼成の温度が1240℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング75時間での単斜晶率が6%であることから、極めて劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0071】
比較例1
アルミナゾルを添加しない以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。光透過率が15%と低く、審美性の悪い焼結体であることが確認された。
【0072】
比較例2
アルミナ濃度を0.4重量%とした以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。光透過率が28%と低く、審美性の悪い焼結体であることが確認された。
【0073】
比較例3
成形体を電気炉で1100℃×2時間加熱処理を施さない以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。光透過率が13%と低く、審美性の悪い焼結体であることが確認された。
【0074】
比較例4
マイクロ波焼成の代わりに電気炉で昇温600℃/h,1200℃×1時間の条件で行った以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。光透過率が<1%と極めて低く、審美性の悪い焼結体であることが確認された。
【0075】
比較例5
マイクロ波焼成の温度を1300℃とした以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。劣化加速試験(エージング時間:75時間)後の単斜晶率が17%であり、劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0076】
比較例6
0.4モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液に水酸化カリウム水溶液を添加して、モル濃度比が[OH]/[Zr]=0.02の水溶液を調製した。この溶液を還流器付きフラスコ中で攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で350時間行った。この水和ジルコニアゾルに蒸留水を加えて、ジルコニア換算濃度0.3モル/リットルの溶液を調製した。これを出発溶液に用いて、溶液の5体積%を反応槽から間欠的に排出し、かつ、溶液の体積が一定に保たれるように、その排出量と同量の0.3モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加したオキシ塩化ジルコニウム水溶液([OH]/[Zr]=0.02)を30分毎に反応槽に供給しながら煮沸温度で加水分解反応を200時間行った。
【0077】
この水和ジルコニアゾルに、塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、1140℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼粉を水洗処理したあとに、粒径0.015μmのアルミナゾルをアルミナ含有量で0.17重量%及び蒸留水を加えてジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。このスラリーを直径2mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで24時間処理してジルコニア粉末を得た。得られたジルコニア粉末の特性を表1に示す。
【0078】
次いで、上記で得られたジルコニア粉末を成形し、電気炉で昇温50℃/h,1350℃×2時間の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。劣化加速試験(エージング時間:75時間)後の単斜晶率が19%と劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0079】
比較例7
加水分解法で、表1記載の粉末特性を有するジルコニア粉末を合成した。得られた粉末を金型プレスで成形(成形圧68.6MPa)して、電気炉で昇温100℃/h,1350℃×2時間の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。光透過率が13%と低く、審美性の悪い焼結体であることが確認された。
【0080】
比較例8
オキシ塩化ジルコニウムの加水分解によって得られた水和ジルコニアゾルに、塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、1030℃の温度で2時間加熱した。得られた加熱粉を水洗処理したあとに、平均粒径0.3μmのα−アルミナをアルミナ含有量で0.05重量%及び蒸留水を加えてジルコニア濃度が45重量%のスラリーにした。このスラリーを、直径3mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで24時間粉砕処理して、ジルコニア粉末を得た。得られたジルコニア粉末の特性を表1に示す。
【0081】
次いで、上記で得られたジルコニア粉末を成形し、電気炉で昇温100℃/h,1400℃×2時間の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。劣化加速試験(エージング時間:75時間)後の単斜晶率が18%と劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0084】
歯科用途で使用されるジルコニア焼結体、更には義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットとして用いるのに適する。