(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。従来、この種の非水電解質二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にB,Ti,V,Mn,Co,Fe,Ni,Cr,Nb,Mo等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許第3008228号公報、特許第3242751号公報:特許文献1,2)、熔湯急冷したM
100-xSi
x(x≧50at%,M=Ni,Fe,Co,Mn)を負極材として適用する方法(特許第3846661号公報:特許文献3)、負極材料に珪素の酸化物を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4)、負極材料にSi
2N
2O,Ge
2N
2O及びSn
2N
2Oを用いる方法(特許第3918311号公報:特許文献5)等が知られている。
【0003】
この中で、酸化珪素はSiO
x(ただしxは酸化被膜のため理論値の1よりわずかに大きい)と表記することができるが、X線回折による分析では数nm〜数十nm程度のナノシリコンが酸化珪素中に微分散している構造をとっている。また、酸化珪素粉末を不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで珪素の微結晶の大きさを制御したSiO
2中にSiが分散した粒子とすることが可能である。このSiO
2中にSiが分散した粒子の電池容量は、珪素と比較して小さいものの炭素と比較すれば重量あたりで5〜6倍と高く、更には体積膨張も小さく、負極活物質として使用しやすいと考えられていた。
【0004】
SiO
2中にSiが分散した粒子にバインダーを添加して電極を調製した場合、電気化学で標準的に用いられるポリフッ化ビニリデン(PVdF)では、充放電を数回繰り返すと可逆容量が小さくなり、サイクル特性が悪くなっていた。一方、ポリイミドバインダー(加熱してポリイミドとなるポリアミック酸を含む)を用いると、サイクル特性が向上するものの、初回効率が70%程度と非常に低くなり、実際に電池を調製した場合では正極を過剰に必要とし、活物質あたり5〜6倍の容量増加分に見合うだけの電池容量の増加を期待することができなかった。負極材に炭素や合金を使用し、そのバインダーにポリアミドイミド樹脂を使用する負極が提案されているが、珪素系負極材に応用された例はない(特許文献6〜11)。また、酸化珪素系負極材にポリアミドイミド樹脂を使用することも提案されているが、具体的な使用例の記載はない(特開2009−152037号公報:特許文献12)。このように、SiO
2中にSiが分散した粒子の実用上の問題点は著しく初回効率が低い点にあり、これを解決する手段としては不可逆容量分を補充する方法、不可逆容量を抑制する方法が挙げられる。
【0005】
例えば、Li金属をあらかじめドープすることで、不可逆容量分を補う方法が有効であることが報告されている。しかしながら、Li金属をドープするためには負極活物質表面にLi箔を貼り付ける方法(特開平11−086847号公報:特許文献13)、及び負極活物質表面にLi蒸着する方法(特開2007−122992号公報:特許文献14)等が開示されているが、Li箔の貼り付けではSiO
2中にSiが分散した粒子を用いた負極の初回効率に見合ったLi薄体の入手が困難かつ高コストであり、Li蒸気による蒸着は製造工程が複雑となって実用的でない等の問題があった。
【0006】
一方、LiドープによらずにSiの質量割合を高めることで、初回効率を増加させる方法が開示されている。ひとつには珪素粉末をSiO
2中にSiが分散した粉末に添加して酸素の質量割合を減少させる方法であり(特許第3982230号公報:特許文献15)、他方では酸化珪素の製造段階において珪素蒸気を同時に発生、析出することで珪素と酸化珪素の混合固体を得る方法である(特開2007−290919号公報:特許文献16)。
【0007】
これらの解決策として、特許文献17にアミド/イミド比率を調整してポリイミド由来の初回効率低下を抑えながらサイクル特性維持を満足させる方法が開示(特開2011−60676号公報:特許文献17)されたが、電極の乾燥に高温が必要とされることや長期のサイクル特性維持ではまだ十分ではない等の問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の非水電解質二次電池用負極は、(A)SiO
2中にSiが分散した粒子と、(B)
o−トリジン骨格を有するモノマー成分を含むものから合成され、前記モノマー成分が全モノマー成分の25〜50モル%、引張弾性率が2,500MPa以上、引張伸度が25%以下のポリアミドイミド樹脂と、(C)炭素繊維及びカーボンブラックから選ばれる補助導電材と、(D)
イオン性液体、グリコールエーテル、クラウンエーテル及びポリフッ化ビニリデンから選ばれる物質とを含有するものである。
【0015】
(A)SiO
2中にSiが分散した粒子
この粒子は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な粒子である。Siの粒子がSiO
2中に分散した状態、その粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法等により確認することができ、Si粒子の粒径は0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。
【0016】
SiO
2中にSiが分散した粒子は本発明の非水電解質二次電池用負極の活物質として用いるものである。この粒子は、例えば、(1)珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法、(2)二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物や、有機珪素化合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物を、400℃以上の温度で加熱処理し、不均化反応を行う方法等で得ることができる。珪素の微結晶が均一に分散された粒子が得られることから、(2)の方法が好ましい。
【0017】
更に、(A)粒子中に異種元素をドープすることができる。ドープする方法としては、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して珪素酸化物を調製する際に、二酸化珪素と金属珪素との混合物に、Ni、Mn、Co、B、P、Fe、Sn、In、Cu、S、Al、C等を混合したり、金属珪素に異種元素との化合物を用いたり、二酸化珪素に異種元素がドープされた化合物を用いる方法等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の(A)SiO
2中にSiが分散した粒子中の酸素/珪素のモル比は、通常理論値の1よりわずかに大きい1.0<酸素/珪素(モル比)<1.1で生成されるが、生成した(A)粒子を、酸性雰囲気下でエッチングさせることにより、選択的にSiO
2のみを除去することが可能である。選択的にSiO
2のみを除去することで0.2<酸素/珪素(モル比)<1.1が可能となる。ここで、酸性雰囲気下とは、水溶液でも酸を含有するガスであってもよく、その組成は特に制限はされず、例えば、ふっ酸、塩酸、硝酸、過酸化水素、硫酸、酢酸、りん酸、クロム酸、ピロリン酸等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。処理温度についても特に限定されるものではない。上記方法により、0.2<酸素/珪素(モル比)<1.1のSiO
2中にSiが分散した粒子を用いることが可能である。
【0019】
(A)粒子は、導電性を付与する点から、その表面を更にカーボンで被覆した被覆粒子とすることが好ましい。被覆する方法としては、(A)粒子をカーボン等導電性のある粒子と混合する方法、(A)粒子表面を有機物ガス中で化学蒸着(CVD)する方法、両方を組み合わせる方法等が挙げられ、化学蒸着(CVD)する方法が好ましい。
【0020】
化学蒸着(CVD)は、上記珪素系化合物の加熱処理と同時、又は別途(A)粒子を、有機物ガス中化学蒸着(CVD)する方法が好適であり、熱処理時に反応器内に有機物ガスを導入することで効率よく行うことが可能である。具体的には、珪素系化合物又は(A)粒子を、有機物ガス中、50Pa〜30,000Paの減圧下、700〜1,200℃で化学蒸着することにより得ることができる。上記圧力は、50Pa〜10,000Paが好ましく、50Pa〜2,000Paがより好ましい。減圧度が30,000Paより大きいと、グラファイト構造を有する黒鉛材の割合が大きくなり過ぎて、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、電池容量の低下に加えてサイクル性が低下するおそれがある。化学蒸着温度は800〜1,200℃が好ましく、900〜1,100℃がより好ましい。処理温度が700℃より低いと、長時間の処理が必要となるおそれがある。逆に1,200℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性被膜が形成されず、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがある。なお、処理時間は目的とするカーボン被覆量、処理温度、有機物ガスの濃度(流速)や導入量等によって適宜選定されるが、通常、1〜10時間、特に2〜7時間程度が経済的にも効率的である。
【0021】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素の単独又は混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素又はこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独又は混合物も用いることができる。
【0022】
被覆量は特に限定されないが、被覆粒子に対して0.3〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。カーボン被覆量が0.3質量%未満では、十分な導電性を維持できないおそれがあり、結果として非水電解質二次電池用負極材とした際にサイクル性が低下する場合がある。逆にカーボン被覆量が40質量%を超えても、被覆量増加による効果の向上が見られない。
【0023】
本発明の(A)粒子及び被覆粒子の物性は特に限定されるものではないが、平均粒子径は0.1〜30μmが好ましく、0.2〜20μmがより好ましい。また、BET比表面積は0.5〜30m
2/gが好ましく、1〜20m
2/gがより好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。BET比表面積は、N
2ガス吸着量によって評価するBET1点法にて測定した時の値のことである。
【0024】
(B)ポリアミドイミド樹脂
本発明のポリアミドイミド樹脂は特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。乾燥皮膜の
引張弾性率
(以下、弾性率と記載する場合がある)が2,500MPa以上のものが好ましい。この範囲とすることで、非水電解質二次電池としての充放電サイクル特性がより向上する。
引張弾性率は2,500〜7,000MPaが好ましい。さらに、充放電サイクル特性をより向上させる点から、引張伸度は25%以下が好ましく、3〜25%がより好ましい。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂の弾性率を上げるには、樹脂骨格中、特に主鎖部分に剛直な構造を導入することで達成することができる。例えば、1,1’−ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸や、o−トリジンジイソシアネートに含まれるビフェニル骨格等のモノマー材料を選択し、重合反応に用いることで可能となる。特に、o−トリジン骨格を有するモノマー成分を用いることが好ましい。o−トリジン骨格を有するモノマー成分を含むものから合成されたポリアミドイミド樹脂の場合、o−トリジン骨格を有するモノマー成分が、全モノマー成分の10モル%以上、好適には、15〜50モル%の範囲とすることが好ましい。さらに、引張伸度を25%以下にするには、上記条件に加えて、例えば、(I)多価カルボン酸無水物及び/又は多価カルボン酸から選ばれる酸成分の全官能基モル数(X)と、(II)多価イソシアネート及び/又は多価アミン類から選ばれる成分の全官能基モル数(Y)の比率を(X)/(Y)<1となるように調合し分子量を抑えることで達成することができる。
【0026】
<弾性率、引張伸度の測定方法>
本発明において、ポリアミドイミド樹脂の弾性率は下記の方法により測定される。
ポリエステルフィルム上にポリアミドイミド樹脂の溶液を採りガラス棒で塗工する。これを120℃で15分間乾燥させた後、皮膜をはく離して240℃で2時間乾燥をさせ乾燥皮膜を得る。得られた皮膜を20mm/min.の速度で引っ張り、応力−ひずみ曲線を得て弾性率と引張伸度を算出する。また。同様の方法でポリイミド樹脂等を測定することができる。
【0027】
次に、ポリアミドイミド樹脂の製造方法について詳細を示す。
本発明におけるポリアミドイミド樹脂は、
(I)多価カルボン酸無水物及び/又は多価カルボン酸から選ばれる酸成分と、
(II)多価イソシアネート及び/又は多価アミン類から選ばれる成分とを反応させて得ることができる。
【0028】
多価カルボン酸無水物としては、カルボン酸無水物基とカルボキシル基を有する化合物やカルボン酸無水物基を複数有する化合物があり、例えば、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物等の芳香族系多価カルボン酸無水物、1,3,4−シクロヘキサントリカルボン酸−3,4−無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂環族系多価カルボン酸無水物等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらから誘導される誘導体、例えば、トリメリット酸無水物アルキルエステル類等、分子内酸無水物を形成し得るトリメリット酸やトリメリット酸クロライド等を使用することができる。コストや入手のしやすさを鑑みればトリメリット酸無水物が好ましい。なお、トリメリット酸無水物等酸無水物とカルボキシル基の両方を官能基として有する化合物を用いる場合は多価カルボン酸を用いなくてもポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0029】
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,1’−ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族系多価カルボン酸や、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族多価カルボン酸、マイレン酸、フマル酸等の不飽和脂肪族多価カルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の脂環式多価カルボン酸等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらから誘導される誘導体、例えば、テレフタル酸ジメチル等のエステル類、無水フタル酸等の酸無水物を使用することができる。
【0030】
多価イソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキサンメタンジイソシアネート等や、ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体やトリレンジイソシアネートの多量体等のポリイソシアネート類も挙げられる。中でも、o−トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートが好ましく、o−トリジンジイソシアネート等のo−トリジン骨格を有するモノマー成分がより好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、またこれらから誘導される誘導体、例えば、フェノール、キシレノール又はケトン等のブロックイソシアネート類を使用することもできる。
【0031】
ブロックイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及びキシレノール酸類から得られる化合物(日本ポリウレタン工業(株)製のミリオネートMS−50)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと脂肪族ポリオール、フェノール又はクレゾール類とから得られる化合物(日本ポリウレタン工業(株)製のコロネート2503)、トリレンジイソシアネートの三量体とフェノール類とから得られる化合物(バイエル社製のDesmodurCT−stable)等が有用である。これらはポリアミドイミド樹脂の反応系に存在させてもよく、反応完了後に投入し溶解させてもよい。特に、後者に関してはポリアミドイミド樹脂溶液の粘度を抑えたり、貯蔵安定性を向上させる目的で効果がある。
【0032】
多価アミン類としては、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、メチレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン、トリレンジアミン、o−トリジン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂は、通常のイソシアネート法や酸クロリドを用いる方法等により製造することができる。反応性やコストの面からイソシアネート法が好ましい。
【0034】
ポリアミドイミド樹脂の重合には溶媒を用いることができる。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系極性溶媒、γ−ブチロラクトンやδ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒、アジピン酸ジメチルやコハク酸ジメチル等のエステル系溶媒、クレゾールやキシレノールといったフェノール性溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒、キシレンや石油ナフサ等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。中でも、溶解力や反応性に優れたNMPやNEPが好ましく、コストや入手のしやすさからNMPが最も好ましい。これらの溶媒は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、重合には触媒を用いることができる。触媒には、例えば、トリエチレンジアミンやピリジン等のアミン類、リン酸トリフェニルや亜リン酸トリフェニル等のリン系触媒、オクテン酸亜鉛やオクテン酸スズ等の金属系触媒等がある。触媒の添加量は反応を阻害しなければ特に制限はないが、樹脂分に対して0.1〜1質量%が好ましい。
【0036】
重合に際して温度の制限は特にないが、50〜200℃の範囲が好ましく、80〜190℃がより好ましい。反応温度が50℃未満では反応がなかなか進行せず、長時間の反応時間を要する。反応温度が200℃を超えると、副反応が生じる確率が高くなり、ポリアミドイミド樹脂の3次元化が起きる可能性が高くなり、反応系内でゲル化を生じてしまうおそれがある。
【0037】
多価アミン類を使用した場合は、アミド酸が先ず生成された後、閉環工程を経てイミド環が生成されるが、この閉環工程はポリアミドイミド樹脂の重合反応系内にて行ってもよく、一旦アミド酸の状態で樹脂溶液を取り出しその後の成形工程のなかで閉環を行ってもよい。上記のポリアミドイミド樹脂をバインダーとして用いる場合の乾燥温度は、120度から200度までの温度を適時選ぶことができる。
【0038】
(C)炭素繊維及びカーボンブラックから選ばれる補助導電材
(C)補助導電材は、炭素繊維及びカーボンブラックから選ばれ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。炭素繊維としては特に限定されず、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維等が挙げられる。中でも、分散性及び導電性に優れるものが好ましく、負極中において、導電性を有するアスペクト比4〜50の炭素繊維が好ましい。特に、製造性の点から、調製中に容易に繊維が折れて短くなり、分散性に優れ、かつ折れて短くなっても導電性を有するものを用いて、負極を調製することが好ましい。より具体的には、外径6〜20nm、アスペクト比2〜30のペンシル状構造単位集合体を負極の製造に用いることで、導電性を有するアスペクト比4〜50の炭素繊維となって負極中に配合され、サイクル特性が向上する。上記ペンシル状構造単位集合体は互いに黒鉛基底面を介して連結した中空炭素繊維であり、該中空炭素繊維に加えられたずり応力に対し、隣接する構造単位集合体の黒鉛基底面間で滑りを生じ得る連結構造を、繊維中に少なくとも1個内包するものが挙げられる。このような中空炭素繊維としては、例えば、一酸化炭素から調製される気相成長炭素が挙げられ、触媒存在下で、一酸化炭素と水素から調製される気相成長炭素が挙げられる。このような炭素繊維としては、具体的に宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)等が挙げられる。
【0039】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。
【0040】
(D)電解液浸透性を高める物質は、電解液浸透性を高める物質であれば、特に限定されず、乾燥後にバインダー樹脂内に取り残されかつ電解液に溶けやすく電池反応に多大な影響を及ぼさない物質であればよく、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、蒸気圧と沸点が高い液体であるイオン性液体や、グリコールエーテル、クラウンエーテル、並びに、PVdF樹脂等の樹脂成分等が挙げられ、少量添加して用いることができる。これらは、リチウムイオンの充放電反応を大幅に阻害しない点から、イオン性液体、グリコールエーテル類、クラウンエーテル類を添加することで電解液浸透性が改善される。また、PVdF樹脂等の樹脂も重量減少を伴うものの電解液浸透性についての改善効果が認められる。これら電解液浸透性を高める物質を添加する量については、(B)成分等の結着剤の固形分質量に対して、0.1〜20.0質量%が好ましく、1.0〜10.0質量%がより好ましい。このような範囲とすることで、(B)成分等の結着剤に用いている樹脂の硬化は妨げられず、エージング時間が短縮され電池特性が良好となる。
【0041】
<電解液浸透性の確認方法>
電解液浸透性の確認は、以下の方法で行う。作製した電極を2cm
2に打ち抜き、電解液溶媒成分である炭酸エチレンと、炭酸ジエチルの1対1体積分率で混合した溶液を、ドライルーム中で打ち抜いた電極に対しマイクロピペットで1cc滴下し、電極が電解液溶媒成分で均一化した時点を終点としてストップウォッチで測定する。滴下後終点までの時間が30秒以下のものを、本発明の「電解液浸透性を高める物質」とする。なお、上記確認方法では同一処方で作製した電極による結果の差は3%以内であり、測定に問題はない。なお、上記確認方法は実電池で電解液を入れてから実際に使用開始するまでの時間(0.5〜48時間)からみると極めて短い時間での判断である。この数値の根拠は、(1)表面が濡れた状態と内部まで浸透した状態を目視で判断することは極めて困難なこと、(2)滴下後終点までの時間が30秒以下の電池複数個と、滴下後終点までの時間が60秒以上の電池複数個を、電解液を入れてから実際に使用開始するまでの時間を短く(0.5時間)した場合には、滴下後終点までの時間が30秒以下の電池が平均的に予定容量に達したデータが確認されたが、滴下後終点までの時間が60秒以上電池では予定容量に達しない電池が複数個確認された。このことから、本発明では、滴下後終点までの時間が30秒以下のものを、「電解液浸透性を高める物質」と定義した。
【0042】
(D)成分のイオン液体とは、常温でも液体状を示すイオン性物質の総称であり、カチオン成分とアニオン成分を有する。イオン液体のカチオン成分としては、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン(下記一般式(1))や、イミダゾリウムカチオン(下記一般式(2))、ピリジニウムカチオン(下記一般式(3))、ホスホニウムカチオン(下記一般式(4))、スルホニウムカチオン(下記一般式(5))等が挙げられる。
【0043】
【化1】
(R
1〜R
4は、互いに同一もしくは異なる炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、R
1〜R
4のうち2つが同じ官能基を共有する環状構造を有していてもよい。R
1とR
2が炭素数4の飽和炭化水素基で結ばれている場合を特に、ピロリジニウムカチオンと称し、R
1とR
2が炭素数5の飽和炭化水素基で結ばれている場合を特に、ピペリジニウムカチオンと称す。)
【0044】
【化2】
(R
5,R
6は、互いに同一もしくは異なる炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。)
【0045】
【化3】
(R
7,R
8は、互いに同一もしくは異なる炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また芳香環上の置換基は2つ以上あってもよい。)
【0046】
【化4】
(R
9〜R
12は、互いに同一もしくは異なる炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、R
9〜R
12のうち2つが同じ官能基を共有する環状構造を有していてもよい。)
【0047】
【化5】
(R
13〜R
15は、互いに同一もしくは異なる炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、R
13〜R
15のうち2つが同じ官能基を共有する環状構造を有していてもよい。)
【0048】
また、アニオン成分としては、以下が一例として挙げられる。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、トリフルオロメタンスルホナートアニオン、メチルサルフェートアニオン、エチルサルフェートアニオン、メタンスルホネートアニオン、エタンスルホネートアニオン、p−トルエンスルホネートアニオン、硫酸水素アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ビス〔オキサレート(2−)〕ボレートアニオン、トリフルオロ(トリフルオロメチル)ボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ジメチルホスフェートアニオン、ジエチルホスフェートアニオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ジシアナミドアニオン等が例示される。
【0049】
上記カチオンとアニオンの組み合わせにより種々のイオン液体を選択することができる。しかし、本発明に使用できるイオン液体は、上記アニオン・カチオンの組み合わせのみには限定されない。また使用するイオン液体の性質として、負極側で用いることになるので、リチウムが負極に析出する電位において分解反応が進行しない、あるいはしにくいようなイオン液体が好ましい。
【0050】
電位窓の広さ、入手のしやすさ等を考慮した場合、ピペリジニウム塩、イミダゾリウム塩が好ましく、特に好ましくは、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、PP13−TFSI)、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、P13−TFSI)、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、P14−TFSI)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、TMPA−TFSI)、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(以下、EMIm−FSI)、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(以下、EMIm−FAP)、1−(2−メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(以下、MOEMPL−FAP)等が例示される。
【0051】
グリコールエーテル類としては、沸点が高く蒸気圧が低く、リチウム二次電池反応を大幅に阻害しないものから選択され、エチレングリコールエーテル系やプロピレングリコールエーテル系及びジアルキルグリコールエーテルから適時選択することができる。ジアルキルグリコールエーテルは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの末端の水素をアルキル基で置換したものである。
【0052】
具体的には、エチレングリコールエーテル系で水との溶解度の高いブチルジグリコール(沸点230度、25度蒸気圧0.01hPa)、メチルトリグリコール(沸点249度、25度蒸気圧0.01hPa以下)、ブチルトリグリコール(沸点271度、25度蒸気圧0.01hPa以下)、ベンジルジグリコール(沸点302度、25度蒸気圧0.01hPa以下)や水との溶解度の小さいヘキシルジグリコール(沸点259度、25度蒸気圧0.01hPa以下)、2エチルヘキシルジグコール(沸点272度、25度蒸気圧0.1hPa以下)等が挙げられ、プロピレングリコールエーテル系では、水との溶解度の高いメチルプロピレントリグリコール(沸点242度、25度蒸気圧0.03hPa)、水との溶解度の小さいブチルプロピレンジグリコール(沸点274度、25度蒸気圧0.01hPa以下)、フェニルプロピレンジグリコール(沸点242度、25度蒸気圧0.1hPa以下)等が挙げられ、ジアルキルグリコールエーテル系では、ジブチルジグリコール(沸点254度、25度蒸気圧0.01hPa)等が挙げられる。
【0053】
クラウンエーテル類は、環状のポリエーテル(エーテル単位がいくつかつながったもの)であり、12クラウン4エーテル、15クラウン5エーテル、18クラウン6エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6等が挙げられる。
【0054】
[非水電解質二次電池用負極]
本発明の非水電解質二次電池用負極は、(A)SiO
2中にSiが分散した粒子と、(B)弾性率が2,500MPa以上のポリアミドイミド樹脂と、(C)炭素繊維及びカーボンブラックを含む補助導電材と、(D)電解液浸透性を高める物質を含有するものである。(A)成分の含有量は、負極に対して70〜99.9質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましく、80〜95質量%がさらに好ましく、80〜88質量%が特に好ましい。(B)成分の含有量は、負極に対して0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。なお、上記は固形分含有量である。(C)成分含有量は、負極に対して0.01〜10.00質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2.0質量%である。(D)成分含有量は、負極に対して0.1〜5.0質量%が好ましく、0.2〜1.0質量%がより好ましい。
【0055】
負極には、(A)成分以外の黒鉛、他の活物質(Sn、SnC
2O
4)等の他の活物質を添加することができる。他の活物質としては、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素及びそれらの高温焼成品、球状化品、鱗片状品、表面処理品等が含まれる。中でも、(A)成分と黒鉛とを併用することが好ましい。併用により電極容量を調整することができる。例えば、負極全体用量が200mAh/g−電極から2000mAh/g−電極まで自由に調整・選択することができる。また、これら2種以上の活物質を混合して使うことで、組電池としての3.8V以上の高電圧側容量や3.0V以下の低電位側容量を満たすことが可能となる。
【0056】
負極には、(C)成分以外に導電剤を添加することができる。導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や、金属繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。導電剤の含有量は、負極に対して0.1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0057】
また、上記ポリアミドイミド樹脂の他に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマー又は脂肪酸エステル等を添加してもよく、その含有量は負極に対して0.01〜10質量%の範囲から適宜選定される。
【0058】
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、例えば以下のように負極(成型体)とすることができる。(A)SiO
2中にSiが分散した粒子と、(B)ポリアミドイミド樹脂と、(C)炭素繊維及びカーボンブラックを含む補助導電材と、(D)電解液浸透性を高める物質と、その他必要に応じた添加剤とに、NMP(N−メチルピロリドン)、エチルメチルピロリドン、ガンマブチルラクトン、水等の結着剤の溶解、分散に適した溶剤を混練してスラリーとし、これをシート状の集電体に塗布して、真空乾燥する方法が挙げられる。集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、スラリー状合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。なお、上記真空乾燥する方法・温度は特に限定されないが、本発明によれば、250℃以下、180〜240℃であっても、高い電池容量と低い体積膨張率を維持し、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた、SiO
2中にSiが分散した粒子を活物質とする非水電解質二次電池用負極及びこの負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。乾燥時間は特に限定されず、適宜選定されるが、0.5〜5.0時間程度である。
【0059】
[非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池用負極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造することができる。この場合、得られたリチウムイオン二次電池は、上記負極を用いる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、非水溶媒、セパレータ、集電体等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、Li(Mn
1/3Ni
1/3Co
1/3)O
2、V
2O
5、MnO
2、TiS
2、MoS
2等の遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0060】
また、電気化学キャパシタを得る場合は、電気化学キャパシタは、上記負極を用いる点に特徴を有し、その他の電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形状等は限定されない。例えば、電解質として六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0062】
[実施例1]
<導電性粒子の調製>
平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m
2/gの珪素酸化物SiO
x(x=1.01)100gをバッチ式加熱炉内に仕込んだ。油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ炉内を1,000℃に昇温し、1,000℃に達した後にCH
4ガスを0.3NL/min流入し、5時間のカーボン被覆処理を行った。なお、この時の減圧度は800Paであった。処理後は降温し、97.5gのSiO
2中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が6.5m
2/gで、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。
【0063】
<ポリアミドイミド樹脂溶液の合成1>
2Lの4つ口フラスコ内に窒素ガスを流しながら、多価カルボン酸無水物としてトリメリット酸無水物192g(1.0モル)、多価イソシアネートとしてo−トリジンジイソシアネート132g(0.5モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート120g(0.48モル)、NMP1105gを仕込み100℃まで昇温した(o−トリジン骨格を有するモノマー成分は25モル%)。3時間後に温度を160℃まで昇温しそのまま6時間反応を行った後、NMP416gにて希釈を行い冷却した。90℃になったところでブロックイソシアネートとしてバイエル社製DesmodurCT−stable 12gを投入し3時間撹拌した。得られたポリアミドイミド樹脂溶液をJIS C2351の方法で試験を行い、不揮発分22.5質量%(200℃、2時間)、粘度は110dPa・s/30℃の値を得た。また、乾燥皮膜の弾性率は2,956MPa、引張伸度は20.4%であった。
【0064】
<負極の調製>
上記導電性粒子88質量部に3μm人造黒鉛粉末1.0質量部と微細な炭素繊維として外径6〜20nm、アスペクト比2〜30のペンシル状構造単位集合体である宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)を0.25質量部及びアセチレンブラック(AB)を0.75質量部及び上記ポリアミドイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとし、このスラリーにイオン性液体のN−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13−TFSI)をバインダー重量の0.2質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、11秒であった。
【0065】
<正極の調製>
日本化学工業社製LiCoO
2(商品名 セルシードC−10)94質量部を用いて、電気化学工業社製アセチレンブラック3質量部と呉羽化学社製ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(商品名 KF−ポリマー)3質量部とを混合し、更にNMP30質量部を加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ15μmのアルミ箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を150℃で10時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、正極とした。
【0066】
<電池評価>
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極に金属リチウムを使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックス中で調製した。
【0067】
調製したリチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックスより取り出し、低温恒温器で25℃に保持し、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0.005Vに達するまで0.15mA/cm
2の定電流で充電を行った。放電は0.15mA/cm
2の定電流で行い、セル電圧が1.3Vに達した時点で放電を終了し、初回の充電・放電容量と初回効率(%):初回の放電容量/初回の充電容量を求めた。
【0068】
LiCoO
2とアセチレンブラックとPVdFで調製した正極と上記導電性粒子とポリアミドイミドで調製した負極を用い、初回効率が対極リチウムでの初回効率とほぼ同等になるように正極及び負極の容量を調整し、正極と負極に非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックス中で調製した。
【0069】
調製したリチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックスより取り出し、低温恒温器で25℃に保持し、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで0.5CmAの相当の定電流で充電を行い、4.2Vに達した時点で電流値を減少させ、0.1CmA相当まで定電圧充電を行った。放電は0.5CmA相当の定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了し、以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の200サイクルの充放電試験を行った。初回の充放電容量と200サイクル後の放電容量及び200サイクル後の保持率(%):200サイクル目の放電容量/初回の放電容量を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
実施例1で得られた導電性粒子88質量部に3μm人造黒鉛粉末1.0質量部と微細な炭素繊維として宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)を0.25質量部及びアセチレンブラックを0.75質量部及び実施例1のポリアミドイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとし、このスラリーにエチレングリコールエーテルとしてジブチルグリコール溶液をバインダー重量の0.2質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、13秒であった。得られた負極を実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
実施例1で得られた導電性粒子88質量部に3μm人造黒鉛粉末1.0質量部と微細な炭素繊維として宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)を0.25質量部及びアセチレンブラックを0.75質量部及び実施例1のポリアミドイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとし、このスラリーにクラウンエーテルとして12クラウン4エーテル粉末をバインダー重量の0.2質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、15秒であった。得られた負極を実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例4]
実施例1で得られた導電性粒子88質量部に3μm人造黒鉛粉末1.0質量部と微細な炭素繊維として宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)を0.25質量部及びアセチレンブラックを0.75質量部及び実施例1のポリアミドイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとし、このスラリーにPVdF樹脂をバインダー重量の0.5質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、17秒であった。得られた負極を実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
実施例1で得られた導電性粒子88質量部に3μm人造黒鉛粉末1.0質量部と微細な炭素繊維として宇部興産株式会社のAMC361(登録商標)を0.25質量部及びアセチレンブラックを0.75質量部及び実施例1のポリアミドイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、85秒であった。
【0074】
[比較例2]
実施例1で得られた導電性粒子90質量部に新日本理化社製リカコートEN−20(登録商標)のポリイミド樹脂溶液10質量部とを混合し、更にNMP20質量部を加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗工時のギャップを変えて数種類の厚さで塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を200℃で2時間真空乾燥した後、2cm
2に打ち抜き、負極とした。この負極の電解液浸透性確認は、75秒であった。
【0075】
実施例及び比較例で使用した、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂の弾性率を下記方法で測定した。
ポリエステルフィルム上にポリアミドイミド樹脂・ポリイミド樹脂の溶液を採り、ガラス棒で塗工した。これを120℃で15分間乾燥させた後、皮膜をはく離して240℃で2時間乾燥をさせ、乾燥皮膜を得た。得られた皮膜を20mm/min.の速度で引っ張り、応力−ひずみ曲線を得て弾性率を算出した。
【0076】
なお、対極LiCoO
2試験結果は電池1個当たりの容量をmAhで記載した。対極Li試験では、Liが組み合わせの負極に対し、十分に大きな容量と見なせることから、目的とする負極の容量算出に適している。
【0077】
【表1】
AB:アセチレンブラック
AMC:宇部興産株式会社製:AMC361(登録商標)
PP13−TFSI:N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
PVdF:ポリフッ化ビニリデン