(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭酸塩水溶液は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種の水溶液であり、前記炭酸塩水溶液のpHが11以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
前記焼成工程後に、前記リチウムニッケル複合酸化物を、10〜40℃の温度で、かつ、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量が、全量に対して0.10質量%以下になるのに十分なスラリー濃度で、水洗処理した後、濾過、乾燥する水洗工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記リチウム化合物は、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6または7に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型、軽量な二次電池の開発が強く望まれている。このようなものとしてリチウム、リチウム合金、金属酸化物あるいはカーボンを負極として用いるリチウムイオン二次電池があり、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発はこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0004】
しかし、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に希産で高価なコバルト化合物を用いるため、活物質さらには電池のコストアップの原因となる。活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造が可能となることは、現在普及している携帯機器の軽量、小型化において工業的に大きな意義を持ち、コバルト化合物を代替するより安価な活物質材料が望まれている。
【0005】
リチウムイオン二次電池用正極活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)を挙げることができる。
リチウムマンガン複合酸化物は原料が安価である上、熱安定性に優れるため、リチウムコバルト複合酸化物の有力な代替材料であるといえるが、理論容量がリチウムコバルト複合酸化物のおよそ半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点を持つ。
【0006】
一方、リチウムニッケル複合酸化物はリチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。しかし、リチウムニッケル複合酸化物は、純粋にニッケルのみで合成した材料を正極活物質としてリチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比べサイクル特性が劣り、また、高温環境下で使用されたり保存されたりした場合に比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有している。
【0007】
このような欠点を解決するために、ニッケルの一部をコバルト等で置換したリチウムニッケル複合酸化物も提案されている。例えば、特許文献1では、リチウムイオン二次電池の自己放電特性やサイクル特性を向上させることを目的として、Li
xNi
aCo
bM
cO
2(0.8≦x≦1.2、0.01≦a≦0.99、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.3、0.8≦a+b+c≦1.2、MはAl、V、Mn、Fe、Cu及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有複合酸化物が提案され、また、特許文献2では、高温環境下での保存や使用に際して良好な電池性能を維持することのできる正極活物質として、Li
wNi
xCo
yB
zO
2(0.05≦w≦1.10、0.5≦x≦0.995、0.005≦z≦0.20、x+y+z=1)で表されるリチウム含有複合酸化物等が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の製造方法によって得られたリチウムニッケル複合酸化物では、リチウムコバルト複合酸化物に比べて充電容量、放電容量ともに高く、サイクル特性も改善されているが、1回目の充放電に限り、充電容量に比べて放電容量が小さく、両者の差で定義される、いわゆる不可逆容量がコバルト系複合酸化物に比べてかなり大きいという問題がある。
【0010】
不可逆容量が大きくなる原因の一つとして、従来のリチウムニッケル複合酸化物では、原料由来の硫酸根(SO
42−)やClなどの充放電反応に寄与しない不純物を含むことが挙げられる。これらの不純物は、充放電反応に寄与しないため、電池を構成する際、正極材料の不可逆容量に相当する分、負極材料を余計に電池に使用せざるを得ず、その結果、電池全体としての重量当たりおよび体積当たりの容量が小さくなるうえ、不可逆容量として負極に余分なリチウムが蓄積され、安全性の面からも問題となっている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、充放電反応に寄与しない不純物量を低減させることで、高容量かつ不可逆容量が少なく、クーロン効率および反応抵抗に優れた非水系電解質二次電池を得ることが可能な正極活物質の前駆体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、発明者らがさらに研究を深めた結果、ニッケル複合水酸化物を炭酸塩水溶液で洗浄することで、不純物の少ないニッケル複合水酸化物を得ることができ、該ニッケル複合水酸化物から製造したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料として用いることで、上記問題を回避できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、下記一般式(1)で表されるニッケル複合水酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法であって、前記ニッケル複合水酸化物を濃度0.06mol/L以上の炭酸塩水溶液で洗浄することを特徴とする。
一般式:Ni
1―x―yCo
xM
y(OH)
2・・・(1)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは0<x≦0.20、yは0<y≦0.07である。)
【0014】
また、前記炭酸塩水溶液は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種の水溶液であり、炭酸塩水溶液のpHが11以上であることが好ましい。
【0015】
また、前記洗浄は、液温度10〜50℃の範囲で行うことが好ましい。
【0016】
また、前記ニッケル複合水酸化物は、加温した反応槽中に、ニッケルおよびコバルト並びにAl、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、を供給し、その際、反応溶液をアルカリ性に保持するのに十分な量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を適宜供給して、中和晶析により得ることが好ましい。
【0017】
また、洗浄後に得られる前駆体は、硫酸根含有量が0.1質量%以下、Na含有量が0.01質量%以下であること
が好ましい。
【0018】
また、洗浄後に得られる前駆体は、塩素含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、下記の一般式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体を酸化性雰囲気中400〜800℃で酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る焙焼工程と、前記ニッケル複合酸化物とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、前記リチウム混合物を、酸素雰囲気中650〜850℃の範囲で焼成してリチウムニッケル複合酸化物得る焼成工程と、を含むことを特徴とする。
一般式:Li
aNi
1−x’−y’Co
x’M
y’O
2・・・(2)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.85≦a≦1.05であり、x’は0<x’≦0.20、y’は0<y’≦0.07である。)
【0020】
前記焼成工程後に、前記リチウムニッケル複合酸化物を、10〜40℃の温度で、かつ、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量が、全量に対して0.10質量%以下になるのに十分なスラリー濃度で、水洗処理した後、濾過、乾燥する水洗工程を含むことが好ましい。
【0021】
前記リチウム化合物は、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
また、正極活物質は、硫酸根含有量が0.1質量%以下、Na含有量が0.01質量%以下であること
が好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、高容量であり、不可逆容量が小さく、クーロン効率および反応抵抗に優れた非水系電解質二次電池用正極活物質を得ることが可能な前駆体とその製造方法が提供される。また、本発明の製造方法は、容易で生産性が高く、その工業的価値は極めて大きい。
さらに、本発明の前駆体を用いた正極活物質の製造方法により、高容量であり、不可逆容量が小さく、クーロン効率および反応抵抗に優れた非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
1.非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体(以下、単に「前駆体」ともいう)の製造方法は、下記一般式(1)で表されるニッケル複合水酸化物を濃度0.1mol/L以上の炭酸塩水溶液で洗浄することを特徴とする。
一般式:Ni
1―x―yCo
xM
y(OH)
2・・・(1)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは0<x≦0.20、yは0<y≦0.07である。)
【0027】
ニッケル複合水酸化物中のコバルトの含有量を示すxは、0<x≦0.20であり、好ましくは0.03≦x≦0.20、より好ましくは0.10≦x≦0.20である。コバルトの含有量が上記範囲であることにより、優れた放電容量、サイクル特性、熱安定性が得られる。
また、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素Mの含有量を示すyは、0<y≦0.07であり、好ましくは、0.01≦y≦0.05である。Mの含有量が上記範囲であることにより、優れたサイクル特性、熱安定性が得られる。
【0028】
(1)ニッケル複合水酸化物の製造方法
本発明に用いられるニッケル複合水酸化物を製造する方法としては、上記式(1)を満たすものが得られれば特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ニッケルおよびコバルトと、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素Mとを含む金属化合物の水溶液及びアルカリ金属水酸化物の水溶液を適宜混合し、晶析する等が挙げられる。
【0029】
中でも、加温した反応槽中に、ニッケルおよびコバルト並びにAl、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、を供給し、その際、反応溶液をアルカリ性に保持するのに十分な量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を適宜供給して、中和晶析によりニッケル複合水酸化物を得ることが、生産性、粒径安定性等の観点から好ましい。
【0030】
ニッケル、コバルトを含む金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、ニッケルまたはコバルトの
硫酸塩、硝酸物、塩化物などを用いることができ、この中でも、排水処理の容易性、環境負荷の観点からニッケルまたはコバルトの
硫酸塩、塩化物が好ましい。
Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸マンガン、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
また、アルカリ金属水酸化物としては、特に限定されず、公知の例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。
【0031】
アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
【0032】
反応槽中の温度としては、40〜60℃が好ましく、また、pHとしては10〜14であることが好ましい。晶析時の温度が60℃を超えるか、又はpHが14を超えると、液中で核生成の優先度が高まり結晶成長が進まずに微細な粉末しか得られない。一方、温度が40℃未満、又はpHが10未満では、液中で核の発生が少なく、粒子の結晶成長が優先的となるため、電極作製時に凹凸が発生するほどの非常に大きい粒子が生成するか、又は反応液中の金属イオンの残存量が高く反応効率が非常に悪いという問題が発生することがある。
【0033】
(2)炭酸塩水溶液による洗浄
本発明の前駆体の製造方法は、前記ニッケル複合水酸化物を濃度0.06mol/L以上、好ましくは0.08〜1.00mol/L、より好ましくは0.10〜0.60mol/Lの炭酸塩水溶液で洗浄することを特徴とする。洗浄する際に濃度0.06mol/L以上の炭酸塩水溶液用いることで、ニッケル複合水酸化物中の不純物、特に硫酸根や塩素などを、炭酸塩水溶液中の炭酸とのイオン交換作用により、効率よく除去することができる。
【0034】
その際、pHは25℃基準で11以上であることが好ましい。pHを11以上とすることで、酸を形成する硫酸根や塩素をさらに効率よく除去することができる。pHの上限は特に限定されないが、炭酸塩水溶液を用いるため、25℃基準のpHで12.5程度が上限となる。
【0035】
炭酸塩水溶液は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)から選ばれる少なくとも1種の水溶液が好ましい。炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムは水への溶解度が低いため、十分な量が溶解した水溶液を得られないことがある。
【0036】
また、例えば、炭酸塩として炭酸ナトリウムを使用する場合、水溶液濃度は0.2mol/L以上が好ましく、0.25〜0.60mol/Lがより好ましい。炭酸ナトリウムは水への溶解度が高いため、その水溶液濃度を0.2mol/L以上とすることで、硫酸根や塩素などの不純物の除去をより効率的に行うことができる。
【0037】
炭酸塩水溶液の水温は、10℃〜50℃が好ましい。水温が上記範囲であることにより、イオン交換反応が活発となり不純物除去が効率的に進む。
また、炭酸ナトリウム水溶液量は、ニッケル複合水酸化物1000gに対して1000mL以上が好ましく、2000〜5000mLがより好ましい。1000mL以下では、不純物イオンと炭酸イオンが十分に置換されず洗浄効果が十分に得られないことがある。
炭酸塩水溶液による洗浄時間としては、ニッケル複合水酸化物の硫酸根含有量が0.1質量%以下、Na含有量が0.01質量%以下となるように、十分洗浄できれば、特に限定されないが、通常、0.5〜2時間である。
【0038】
洗浄方法としては、炭酸塩水溶液にニッケル複合水酸化物を添加し、スラリー化して洗浄した後、ろ過する、通常行われる洗浄方法、あるいは、中和晶析により生成したニッケル複合水酸化物を含むスラリーを、フィルタープレスなどのろ過機に供給し、炭酸塩水溶液を通液する、通水洗浄により行うことができる。通水洗浄は、不純物の除去効率が高く、また、ろ過と洗浄を同一の設備で連続的に行うことが可能で生産性が高いため、好ましい。
【0039】
炭酸塩水溶液による洗浄後、その後必要に応じて純水で洗浄を行う。ナトリウムなどのカチオン不純物を除去するため、純水による洗浄を行うことが好ましい。
純水による洗浄は、通常行われる方法を用いることができるが、炭酸塩水溶液の通水洗浄を行った際には、炭酸塩水溶液による通水洗浄後に、純水による通水洗浄を連続的に行うことが好ましい。
【0040】
2.非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体は、下記一般式(1)で表されるニッケル複合水酸化物からなり、硫酸根含有量が0.1質量%以下、Na含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする。
一般式:Ni
1―x―yCo
xM
y(OH)
2・・・(1)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは0<x≦0.20、yは0<y≦0.07である。)
【0041】
硫酸根は正極活物質の製造における焼成工程においても減少せず、正極活物質に残存するため、前駆体において十分に低減しておく必要がある。硫酸根含有量を0.1質量%以下、好ましくは0.08質量%以下とすることにより、得られる正極活物質の硫酸根含有量も0.1質量%以下にすることができ、得られる正極活物質を不可逆容量が小さく高容量なものとすることができる。
Na含有量についても同様に、0.01質量%以下、好ましくは0.008質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下となるように、前駆体において十分に低減しておく必要がある。
【0042】
さらに、塩素含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。塩素は、硫酸根より正極活物質に対する影響が少ないものの、正極活物質製造時の焼成炉などに悪影響を及ぼすため、前駆体において十分に低減しておくことが好ましい。
【0043】
前駆体中の硫酸根、Na、塩素含有量は、ニッケル複合水酸化物を炭酸塩水溶液で洗浄する際の炭酸塩水溶液の濃度、炭酸塩水溶液量、温度等を適宜調製することで、上記範囲とすることができる。
【0044】
3.非水電解質二次電池用の正極活物質の製造方法
本発明の非水電解質二次電池用の正極活物質の製造方法は、1)上記前駆体用ニッケル複合水酸化物を酸化性雰囲気中400〜800℃で酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る焙焼工程と、2)前記ニッケル複合酸化物とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、3)前記リチウム混合物を、酸素雰囲気中650〜850℃の範囲で焼成して、下記一般式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物得る焼成工程とを含む。
一般式:Li
aNi
1−x’−y’Co
x’M
y’O
2・・・(2)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.85≦a≦1.05であり、x’は0<x’≦0.20、y’は0<y’≦0.07である。)
また、前記焼成工程後に、4)前記リチウムニッケル複合酸化物を、水洗処理した後、濾過、乾燥する水洗工程を含むことが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0045】
(1)焙焼工程
焙焼工程は、ニッケル複合水酸化物を焙焼してニッケル複合酸化物を得る工程である。これにより、リチウムとリチウム以外の金属元素の比を容易に制御することができる。酸化性雰囲気中400〜800℃、より好ましくは500〜720℃の温度で焙焼する。
【0046】
このとき、焙焼温度が400℃未満では、これを用いて得られるリチウムニッケル複合酸化物の品位の安定が難しく、合成時に組成の不均一化が起こりやすい。一方、焙焼温度が800℃を超えると、粒子を構成する一次粒子が急激に粒成長を起こし、後続のリチウムニッケル複合酸化物の製造においてニッケル化合物側の反応面積が小さすぎることから、リチウムと反応することができずに下層の比重の大きなニッケル化合物と上層の溶融状態のリチウム化合物に比重分離してしまう問題が生ずる。
【0047】
(2)混合工程
前記ニッケル複合酸化物とリチウム化合物の混合比としては、リチウム(Li)とリチウム以外の金属元素(Me)がモル比(Li/Me)で0.85〜1.05、好ましくは0.95〜1.04になるように調整することが好ましい。つまり、リチウム混合物におけるモル比(Li/Me)が、本発明の正極活物質におけるモル比(Li/Me)と同じになるように混合される。これは、焼成工程前後で、モル比(Li/Me)は変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるモル比(Li/Me)となるからである。
得られる正極活物質のモル比(Li/Me)が0.85未満となると、充放電サイクル時の電池容量の大きな低下を引き起こす要因となり、一方、1.05を超えると、電池としたときの正極の内部抵抗が大きくなってしまう。
【0048】
また、後述するように、焼成工程後にリチウムニッケル複合酸化物を水洗する場合は、モル比(Li/Me)を0.95〜1.13とすることが好ましい。
すなわち、上記モル比が0.95未満では、得られる焼成粉末のモル比も0.95未満となり、結晶性が非常に悪く、また、水洗した際にはリチウムとリチウム以外の金属とのモル比(Li/Me)が0.85未満となる。一方、モル比が1.13を超えると得られる焼成粉末のモル比も1.13を超え、表面に余剰のリチウム化合物が多量に存在し、これを水洗で除去するのが難しくなる。このため、これを正極活物質として用いると、電池の充電時にガスが多量に発生されるばかりでなく、高pHを示す粉末であるため電極作製時に使用する有機溶剤などの材料と反応してスラリーがゲル化して不具合を起こす要因となる。また、水洗後のモル比(Li/Me)が1.05を超える。
【0049】
上記混合には、Vブレンダー等の乾式混合機又は混合造粒装置等が用いられ、また、上記焼成には、酸素雰囲気、除湿及び除炭酸処理を施した乾燥空気雰囲気等の酸素濃度20質量%以上のガス雰囲気に調整した電気炉、キルン、管状炉、プッシャー炉等の焼成炉が用いられる。
【0050】
上記リチウム化合物としては、特に限定されるものではなく、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0051】
(3)焼成工程
前記リチウム混合物を、酸素雰囲気中650〜850℃の範囲で焼成する工程である。焼成温度としては、650〜800℃℃の範囲、好ましくは730〜790℃の範囲が用いられる。すなわち、500℃を超えるような温度で熱処理すればニッケル酸リチウムが生成されるが、650℃未満ではその結晶が未発達で構造的に不安定であり充放電による相転移などにより容易に構造が破壊されてしまう。一方、800℃を超えると、カチオンミキシングが生じやすくなり層状構造が崩れ、リチウムイオンの挿入、脱離が困難となったり、さらには分解により酸化ニッケルなどが生成されてしまう。さらに、リチウム化合物の結晶水などを取り除いた上で、結晶成長が進む温度領域で均一に反応させるためにも、400〜600℃の温度で1時間以上、続いて650〜800℃の温度で3時間以上の2段階で焼成することが特に好ましい。
【0052】
(4)水洗工程
上記焼成工程によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、そのままの状態でも正極活物質として用いられるが、粒子表面の余剰リチウムを除去することにより、電解液と接触可能な表面積が増加して充放電容量を向上させることができるため、焼成後に水洗工程を行うことが好ましい。また、粒子表面に形成された脆弱部も十分に除去されるため、電解液との接触が増加して充放電容量を向上させることができる。
【0053】
水洗する際は、10〜40℃の温度で、かつ、リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量が、全量に対して0.10質量%以下になるのに十分なスラリー濃度で、水洗処理し、その後、濾過、乾燥することが好ましい。
【0054】
水洗処理において、温度を10〜40℃とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粉末の表面に存在するリチウム量を0.10質量%以下とすることができ、高温保持時のガス発生を抑制することができる。また、高容量と高出力を達成することができる正極活物質が得られるとともに高い安全性も両立させることができる。
【0055】
なお、リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム量は、リチウムニッケル複合酸化物粉末10gに超純水を100mlまで添加し攪拌した後、1mol/リットルの塩酸で滴定し第二中和点まで測定し、塩酸で中和されたアルカリ分として求める。
【0056】
また、水洗時間としては、特に限定されないが、リチウムニッケル複合酸化物の表面に存在するリチウム化合物のリチウム量が全量に対して0.10質量%以下になるに十分な時間であることが必要であり、水洗温度によって一概に言えないが、通常は20分〜2時間である。
【0057】
水洗する際のスラリー濃度としては、スラリー中に含まれる水1Lに対する前記焼成粉末の量(g)が500〜2000g/Lであることが好ましい。すなわち、スラリー濃度が濃いほど粉末量が多くなり、2000g/Lを超えると、粘度も非常に高いため攪拌が困難となるばかりか、液中のアルカリが高いので平衡の関係から付着物の溶解速度が遅くなったり、剥離が起きても粉末からの分離が難しくなる。一方、スラリー濃度が500g/L未満では、希薄過ぎるためリチウムの溶出量が多く、表面のリチウム量は少なくなるが、正極活物質の結晶格子中からのリチウムの脱離も起きるようになり、結晶が崩れやすくなるばかりか、高pHの水溶液が大気中の炭酸ガスを吸収して炭酸リチウムを再析出する。また、工業的な観点から生産性を考慮すると、設備の能力や作業性の点で、スラリー濃度が上記範囲であることが望ましい。
【0058】
水洗後の濾過方法としては、通常用いられる方法でよく、例えば、吸引濾過機、フィルタープレス、遠心機等を用いることができる。
【0059】
濾過後の乾燥の温度としては、特に限定されるものではなく、好ましくは80〜350℃である。80℃未満では、水洗後の正極活物質の乾燥が遅くなるため、粒子表面と粒子内部とでリチウム濃度の勾配が起こり、電池特性が低下することがある。一方、正極活物質の表面付近では化学量論比にきわめて近いか、もしくは若干リチウムが脱離して充電状態に近い状態になっていることが予想されるので、350℃を超える温度では、充電状態に近い結晶構造が崩れる契機になり、電池特性の低下を招く恐れがある。
乾燥の時間としては、特に限定されないが、好ましくは2〜24時間である。
【0060】
4.非水電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、下記の一般式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物からなり、硫酸根含有量が0.1質量%以下、Na含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする。
一般式:Li
aNi
1−x’−y’Co
x’M
y’O
2・・・(2)
(式中、Mは、Al、Ti、MnおよびWから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.85≦a≦1.05、x’は0<x’≦0.20、y’は0<y’≦0.07である。)
【0061】
本発明の正極活物質において、硫酸根含有量を0.1質量%以下、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下とすることにより、得られる正極活物質を不可逆容量が小さく高容量なものとすることができる。
Na含有量についても同様に、0.01質量%以下、好ましくは0.008質量%以下、より好ましくは0.006質量%以下とすることにより良好な電池特性を得ることができる。
さらに、塩素含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
正極活物質中の硫酸根、Na、塩素含有量は、ニッケル複合水酸化物を炭酸塩水溶液で洗浄する際の炭酸塩水溶液の濃度、炭酸塩水溶液量、温度等を適宜調製したり、焼成後に水洗工程を行うことにより、上記範囲とすることができる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたリチウムニッケル複合酸化物の金属の分析方法及び比表面積の評価方法は、以下の通りである。
【0064】
1.分析、評価方法
(1)組成の分析:ICP発光分析法で測定した。
(2)硫酸根含有量:ICP発光分析法により硫黄を定量分析し、硫黄は全て酸化して硫酸根(SO
42−)になるものとして係数を乗じることによって求めた。
(3)Na、Cl含有量:原子吸光分析法で測定した。
(4)充放電容量、不可逆容量、クーロン効率:
充放電容量は、コイン型電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を放電容量、このときの充電容量と放電容量との差(充電容量−放電容量)を不可逆容量とした。また、充電容量に対する放電容量の比率(放電容量/充電容量)をクーロン効率(%)とした。
(5)反応抵抗:
反応抵抗は、コイン型電池を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法ナイキストプロットを作成し、等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
【0065】
2.実施例及び比較例
(実施例1)
[ニッケル複合水酸化物の製造]
ニッケルとコバルトとアルミニウムのモル比が82:15:3となるように、硫酸ニッケル、硫酸コバルト及びアルミン酸ソーダを含む水溶液と、25質量%水酸化ナトリウム溶液、25質量%アンモニア水を反応槽に同時に添加し、pHを25℃基準で12.8に、アンモニア濃度を10g/Lに保ち、共沈法によって、ニッケル複合水酸化物を製造した。
得られたニッケル複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合して球状の二次粒子から成り、ニッケルとコバルトとアルミニウムとが固溶してなる。得られたニッケル複合水酸化物を、フィルタープレスろ過機により固液分離した。その後、20℃、pH11.5(25℃基準)の0.28mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を、ニッケル複合酸化物1000gに対して3000mLの割合で該フィルタープレスろ過機に通液することにより洗浄し、さらに、純水を通液して洗浄した。洗浄後のニッケル複合水酸化物(前駆体)の組成、不純物量等の結果を表1に示す。
【0066】
[リチウムニッケル複合酸化物の製造]
得られたニッケル複合水酸化物を電気炉を用いて大気雰囲気で700℃で焙焼してニッケル複合酸化物を得た。リチウムニッケル複合酸化物の各金属成分のモル比が、Ni:Co:Al:Li=0.85:0.12:0.03:1.03となるように、リチウムニッケル複合水酸化物と水酸化リチウム一水和物(和光純薬製)を秤量し、混合した。得られた混合物を、電気炉を用いて酸素濃度30%以上の雰囲気中で500℃で3時間仮焼した後、750℃で20時間、本焼成した。その後、室温まで炉内で冷却した後、解砕処理を行い一次粒子が凝集した球状焼成粉末を得た。
得られた球状焼成粉末をスラリー濃度が1500g/Lとなるように純水と混合したスラリーを製作し、スターラーを用いて、室温で30分水洗した後に濾過した。濾過後、真空乾燥機を用いて190℃、14時間保持して室温まで冷却して、レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒径が10.8μmの正極活物質を得た。得られた正極活物質の組成、不純物量を表2に示す。
【0067】
[電池の作製]
上記で得られた球状焼成粉末(正極活物質粉末)90重量部にアセチレンブラック5重量部及びポリ沸化ビニリデン5重量部を混合し、n−メチルピロリドンを加えペースト化した。これを20μm厚のアルミニウム箔に乾燥後の活物質重量が0.05g/cm
2なるように塗布し、120℃で真空乾燥を行い、その後、これより直径1cmの円板状に打ち抜いて正極とした。
負極としてリチウム金属を、電解液には1MのLiClO
4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液を用いた。また、ポリエチレンからなるセパレーターに電解液を染み込ませ、露点が−80℃に管理されたArガス雰囲気のグローブボックス中で、2032型のコイン電池を作製した。
図1に2032型のコイン電池の概略構造を示す。ここで、コイン電池は、正極缶5中の正極(評価用電極)1、負極缶6中のリチウム金属負極3、電解液含浸のセパレーター2及びガスケット4から構成される。
得られた電池の各特性(放電容量、不可逆容量、クーロン効率、反応抵抗)を表2に示す。
【0068】
(実施例2)
実施例1の炭酸ナトリウム水溶液を0.47mol/Lに変更して洗浄したこと以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
実施例1の炭酸ナトリウム水溶液を0.09mol/Lに変更して洗浄したこと以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
焼成後に球状焼成粉末を水洗し真空乾燥しなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1の炭酸ナトリウム水溶液を1.6mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄したこと、焼成後に球状焼成粉末を水洗し真空乾燥しなかった以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
実施例1の炭酸ナトリウム水溶液を3.39mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄したこと、焼成後に球状焼成粉末を水洗し真空乾燥しなかった以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例3)
炭酸ナトリウム水溶液による洗浄を行わず、純水による通水洗浄のみを行ったこと、焼成後に球状焼成粉末を水洗し真空乾燥しなかった以外は、実施例1と同様に行い、正極活物質を製造し、得られた正極活物質を用いて電池を作製した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1及び2より、本発明の要件をすべて満たす実施例1〜4では、得られた水酸化物の不純物量が低く、また正極活物質は高容量であることがわかる。
これに対して、本発明の要件の一部又はすべてを満たしていない比較例1では、水酸化物の不純物量が多く、容量が低下している。また、比較例2では、水酸化ナトリウム溶液の濃度を高くすることで硫酸根(SO
4)量は低下したもののナトリウム根が残り結果、容量が低下している。さらに、比較例3では、ニッケル複合水酸化物を純水のみで洗浄したため、硫酸根量が高く、放電容量とクーロン効率が低下している