(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「マトリックス前駆体」とは、焼成することによって防眩膜のマトリックスを形成し得る物質を意味する。
「シリカ前駆体」とは、焼成することによってシリカを主成分とするマトリックスを形成し得る物質を意味する。
「シリカを主成分とする」とは、SiO
2を90質量%以上含むことを意味する。
「ケイ素原子に結合した加水分解性基」とは、加水分解によって、ケイ素原子に結合したOH基に変換し得る基を意味する。
「鱗片状粒子」とは、扁平な形状を有する粒子を意味する。粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも記す。)を用いて確認できる。
「電解還元水」とは、電解質を含む水(水道水、電解質添加水等)を、公知の電解法(イオン交換法、隔膜法、水銀法等)によって電気分解した際に、陰極側に生成される液を意味する。
「60゜鏡面光沢度」は、JIS Z 8741:1997(ISO 2813:1994)に記載された方法によって、防眩膜が形成された側とは反対側の面に黒色テープを貼り付けた防眩膜付き物品について測定される。
「ヘーズ」は、JIS K 7136:2000(ISO 14782:1999)に記載された方法によって測定される。
「算術平均粗さRa」は、JIS B 0601:2001(ISO 4287:1997)に記載された方法によって測定される。
「平均粒子径」は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(D
50)を意味する。粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。
「アスペクト比」は、粒子の厚さに対する最長長さの比(最長長さ/厚さ)を意味し、「平均アスペクト比」は、無作為に選択された50個の粒子のアスペクト比の平均値である。粒子の厚さは原子間力顕微鏡(以下、AFMとも記す。)によって測定され、最長長さは、TEMによって測定される。
「アルカリ水溶液のpH」は、23±2℃にて市販のpHメータ(たとえば、堀場製作所社製、D−22、電極型式9615)を用いて測定される。
【0014】
<防眩膜付き物品>
本発明の防眩膜付き物品(以下、単に防眩膜付き物品とも記す。)は、基材の表面に防眩膜を有するものである。
図1は、本発明の防眩膜付き物品の一例を示す断面模式図である。防眩膜付き物品10は、基材12と、基材12の表面に形成された防眩膜14とを有する。
【0015】
防眩膜付き物品としては、画像表示装置本体の視認側に設けられる保護板や各種フィルタ、太陽電池モジュール用保護板等が挙げられる。
【0016】
防眩膜付き物品のヘーズは、15%以上であり、15〜45%が好ましく、18〜35%がより好ましく、20〜30%がさらに好ましい。ヘーズが15%以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。ヘーズが45%以下であれば、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
【0017】
(基材)
基材の材料としては、ガラス、樹脂等の透明材料が挙げられ、後述する工程(iii)の焼成時の耐熱性の点から、ガラスが好ましい。
ガラスとしては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。厚みが薄くても強化処理によって大きな応力が入りやすく、画像表示装置の視認側に配置される物品として好適である点から、アルミノシリケートガラスが好ましい。また、同じ理由から、化学強化ガラスが好ましく、化学強化アルミノシリケートガラスが特に好ましい。
樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0018】
基材の形態としては、板、フィルム等が挙げられる。
基材の形状は、通常、平坦な形状である。最近では、各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場しており、画像表示装置の形状に合わせて湾曲させた、曲面を有する形状であってもよい。
【0019】
基材は、基材本体の表面に機能層を有するものであってもよい。
機能層としては、アンダーコート層、密着改善層、保護層等が挙げられる。
アンダーコート層は、アルカリバリア層やワイドバンドの低屈折率層としての機能を有する。アンダーコート層としては、アルコキシシランの加水分解物(ゾルゲルシリカ)を含むアンダーコート用塗料組成物を基材本体に塗布することによって形成される層が好ましい。
【0020】
(防眩膜)
防眩膜は、たとえば、マトリックス前駆体(A)を焼成して形成されたマトリックス中に、無機粒子(B)が存在し、表面に凹凸を有する膜である。
【0021】
防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度は、25%以下であり、0〜25%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜15%がさらに好ましい。防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度は、防眩効果の指標であり、60゜鏡面光沢度が25%以下であれば、防眩効果が充分に発揮される。
【0022】
防眩膜の表面の算術平均粗さRaは、0.17μm以上であり、0.17〜0.35μmが好ましく、0.20〜0.33μmがより好ましく、0.21〜0.31μmがさらに好ましい。防眩膜の表面の算術平均粗さRaが0.17μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。防眩膜の表面の算術平均粗さRaが0.35μm以下であれば、画像のコントラストの低下が充分に抑えられる。
【0023】
<防眩膜付き物品の製造方法>
本発明の防眩膜付き物品の製造方法は、下記の工程(i)〜(iii)を有する。必要に応じて、防眩膜を形成する前に基材本体の表面に機能層を形成する工程を有していてもよく、防眩膜を形成した後に公知の後加工を施す工程を有していてもよい。
(i)マトリックス前駆体(A)と、無機粒子(B)と、液状媒体(C)とを含む塗布液を基材に塗布して塗膜を形成する工程。
(ii)前記工程(i)の後、前記塗膜に、pHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させる工程。
(iii)前記工程(ii)の後、前記塗膜を焼成して防眩膜を形成する工程。
【0024】
[工程(i)]
マトリックス前駆体(A)と、無機粒子(B)と、液状媒体(C)とを含む塗布液を基材に塗布すると、液状媒体(C)が揮発するとともに、マトリックス前駆体(A)が有する加水分解性基の一部が加水分解、縮合することによって、塗膜が形成される。塗布液が酸触媒(D)を含んでいる場合、縮合は直線的に進行し、直鎖状の重合物が主に形成される。そのため、アルカリ触媒を用いた場合に比べ、ゲル化が遅く、未反応の加水分解性基が多く残存することになる。
【0025】
(塗布液)
塗布液は、マトリックス前駆体(A)と、無機粒子(B)と、液状媒体(C)とを含み、必要に応じて、酸触媒(D)、公知の添加剤(E)を含んでいてもよい。塗布液は、マトリックス前駆体(A)がシリカ前駆体である場合、シリカ前駆体として、ケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有するシラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を少なくとも含むことが好ましい。また、塗布液は、無機粒子(B)として、鱗片状粒子(B1)を少なくとも含むことが好ましい。
【0026】
マトリックス前駆体(A)(酸化物換算)の割合は、塗布液中の固形分(100質量%)(ただし、マトリックス前駆体(A)は酸化物換算とする。)のうち、35〜90質量%が好ましく、50〜88質量%がより好ましい。マトリックス前駆体(A)の割合が35質量%以上であれば、基材との充分な密着強度が得られる。マトリックス前駆体(A)の割合が90質量%以下であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる。
【0027】
シラン化合物(A1)とその加水分解縮合物との合計(SiO
2換算)の割合は、塗布液中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体はSiO
2換算とする。)のうち、5〜30質量%が好ましく、7〜20質量%がより好ましい。シラン化合物(A1)とその加水分解縮合物との合計の割合が5質量%以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる。シラン化合物(A1)とその加水分解縮合物との合計の割合が30質量%以下であれば、充分な耐摩耗強度が得られる。
【0028】
無機粒子(B)の割合は、塗布液中の固形分(100質量%)(ただし、マトリックス前駆体(A)は酸化物換算とする。)のうち、5〜35質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。無機粒子(B)の割合が5質量%以上であれば、防眩膜付き物品のヘーズが充分に高くなり、かつ防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度が充分に低くなることから、防眩効果が充分に発揮される。無機粒子(B)の割合が35質量%以下であれば、充分な耐摩耗強度が得られる。
【0029】
鱗片状粒子(B1)の割合は、塗布液中の固形分(100質量%)(ただし、マトリクス前駆体(A)は酸化物換算とする。)のうち、5〜35質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。鱗片状粒子(B1)の割合が35質量%以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる。鱗片状粒子(B1)の割合が35質量%以下であれば、充分な耐摩耗強度が得られる。
【0030】
塗布液中の固形分濃度は、塗布液(100質量%)のうち、1〜5質量%が好ましく、2〜4質量%がより好ましい。固形分濃度が1質量%以上であれば、塗布液の液量を少なくできる。固形分濃度が5質量%以下であれば、防眩膜の膜厚の均一性が向上する。
【0031】
塗布液は、たとえば、マトリックス前駆体(A)の溶液と、無機粒子(B)の分散液とを混合することによって調製できる。酸触媒(D)は、あらかじめマトリックス前駆体(A)の溶液に含ませることが好ましい。
【0032】
(マトリックス前駆体(A))
マトリックス前駆体(A)としては、シリカ前駆体、アルミナ前駆体、ジルコニア前駆体、チタニア前駆体等が挙げられる。反応性を制御しやすい点から、シリカ前駆体が好ましい。
【0033】
シリカ前駆体としては、アルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等が挙げられ、防眩膜の各特性の点から、アルコキシシランおよびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方が好ましく、アルコキシシランの加水分解縮合物がより好ましい。
アルミナ前駆体としては、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシドの加水分解縮合物、水溶性アルミニウム塩、アルミニウムキレート等が挙げられる。
ジルコニア前駆体としては、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
チタニア前駆体としては、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
【0034】
シリカ前駆体は、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる点から、ケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有するシラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方を少なくとも含むことが好ましい。シリカ前駆体は、必要に応じて、シラン化合物(A1)およびその加水分解縮合物以外の他のシリカ前駆体(A2)をさらに含んでいてもよい。
【0035】
(シラン化合物(A1))
シラン化合物(A1)は、ケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有する。炭化水素基は、炭素原子間に−O−、−S−、−CO−および−NR’−(ただし、R’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。
【0036】
炭化水素基は、1つケイ素原子に結合した1価の炭化水素基であってもよく、2つのケイ素原子に結合した2価の炭化水素基であってもよい。1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基等が挙げられる。
【0037】
加水分解性基としては、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられ、シラン化合物(A1)の安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。シラン化合物(A1)中に加水分解性基が複数存在する場合には、加水分解性基は、同じ基であっても異なる基であってもよく、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
【0038】
シラン化合物(A1)としては、後述する式(I)で表される化合物、アルキル基を有するアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。
【0039】
シラン化合物(A1)としては、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる点から、下式(I)で表される化合物が好ましい。
R
3−pL
pSi−Q−SiL
pR
3−p ・・・(I)
【0040】
Qは、2価の炭化水素基(炭素原子間に−O−、−S−、−CO−および−NR’−(ただし、R’は水素原子または1価の炭化水素基である。)から選ばれる1つまたは2つ以上を組み合わせた基を有していてもよい。)である。
Qとしては、入手が容易であり、かつ膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる点から、炭素数2〜8のアルキル基が好ましく、炭素数2〜6のアルキル基がさらに好ましい。
【0041】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基としては、上述したものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
Rは、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素としては、上述したものが挙げられる。
pは、1〜3の整数である。pは、反応速度が遅くなりすぎない点から、2または3が好ましく、3が特に好ましい。
【0042】
(他のシリカ前駆体(A2))
他のシリカ前駆体(A2)としては、アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)、アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)の加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等が挙げられ、防眩膜の各特性の点から、アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)およびその加水分解縮合物のいずれか一方または両方が好ましく、アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)の加水分解縮合物がより好ましい。
【0043】
アルコキシシラン(ただし、前記シラン化合物(A1)を除く。)としては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等)等が挙げられる。
【0044】
(加水分解縮合物)
アルコキシシランの加水分解は、テトラアルコキシシランの場合、アルコキシシランの4倍モル以上の水、および酸触媒を用いて行う。酸触媒としては、無機酸(硝酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(ギ酸、シュウ酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、トリクロル酢酸等)が挙げられる。
【0045】
(無機粒子(B))
無機粒子(B)としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子等が挙げられる。膜の屈折率上昇を抑え、反射率を下げることができる点から、シリカ粒子が好ましい。
【0046】
無機粒子(B)は、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる点から、鱗片状粒子(B1)を少なくとも含むことが好ましい。無機粒子(B)は、必要に応じて、鱗片状粒子(B1)以外の他の無機粒子(B2)をさらに含んでいてもよい。
【0047】
(鱗片状粒子(B1))
鱗片状粒子(B1)の平均アスペクト比は、50〜650が好ましく、100〜350がより好ましく、170〜240がさらに好ましい。鱗片状粒子(B1)の平均アスペクト比が50以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる。鱗片状粒子(B1)の平均アスペクト比が650以下であれば、塗布液中における分散安定性が良好となる。
【0048】
鱗片状粒子(B1)の平均粒子径は、0.08〜0.42μmが好ましく、0.17〜0.21μmがより好ましい。鱗片状粒子(B1)の平均粒子径が0.08μm以上であれば、膜厚が厚くても防眩膜のクラックが充分に抑えられる。鱗片状粒子(B1)の平均粒子径が0.42μm以下であれば、塗布液中における分散安定性が良好となる。
【0049】
鱗片状粒子(B1)としては、鱗片状シリカ粒子、鱗片状アルミナ粒子、鱗片状ジルコニア粒子、鱗片状チタニア等が挙げられ、膜の屈折率上昇を抑え、反射率を下げることができる点から、鱗片状シリカ粒子が好ましい。
【0050】
鱗片状シリカ粒子は、薄片状のシリカ1次粒子、または複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が、互いに面間が平行的に配向し重なって形成されるシリカ2次粒子である。シリカ2次粒子は、通常、積層構造の粒子形態を有する。
鱗片状シリカ粒子は、シリカ1次粒子およびシリカ2次粒子のいずれか一方のみであってもよく、両方であってもよい。
【0051】
シリカ1次粒子の厚さは、0.001〜0.1μmが好ましい。シリカ1次粒子の厚さが前記範囲内であれば、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった鱗片状のシリカ2次粒子を形成できる。
シリカ1次粒子の厚さに対する最小長さの比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0052】
シリカ2次粒子の厚さは、0.001〜3μmが好ましく、0.005〜2μmがより好ましい。
シリカ2次粒子の厚さに対する最小長さの比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
シリカ2次粒子は、融着することなく互いに独立に存在していることが好ましい。
【0053】
鱗片状シリカ粒子のSiO
2純度は、95.0質量%以上が好ましく、99.0質量%以上がより好ましい。
塗布液の調製には、複数の鱗片状シリカ粒子の集合体である粉体、または該粉体を液状媒体に分散させた分散体が用いられる。分散体中のシリカ濃度は、1〜80質量%が好ましい。
【0054】
粉体または分散体には、鱗片状シリカ粒子だけでなく、鱗片状シリカ粒子の製造時に発生する不定形シリカ粒子が含まれることがある。鱗片状シリカ粒子は、たとえば、鱗片状シリカ粒子が凝集して不規則に重なり合って形成される間隙を有する凝集体形状のシリカ3次粒子(以下、シリカ凝集体とも記す。)を解砕、分散化することによって得られる。不定形シリカ粒子は、シリカ凝集体がある程度微粒化された状態であるが、個々の鱗片状シリカ粒子まで微粒化されていない状態のものであり、複数の鱗片状シリカ粒子が塊を形成する形状である。不定形シリカ粒子を含むと、形成される防眩膜の緻密性が低下してクラックが発生しやすくなるおそれがある。そのため、粉体または分散体における不定形シリカ粒子の含有量は、少ないほど好ましい。
不定形シリカ粒子およびシリカ凝集体は、いずれも、TEM観察において黒色状に観察される。一方、薄片状のシリカ1次粒子またはシリカ2次粒子は、TEM観察において透明または半透明状に観察される。
【0055】
鱗片状シリカ粒子は、市販のものを用いてもよく、製造したものを用いてもよい。
鱗片状シリカ粒子は、後述する製造方法(P)によって製造されたものが好ましい。製造方法(P)によれば、公知の製造方法(たとえば、特許第4063464号公報に記載の方法)に比べて、製造工程での不定形シリカ粒子の発生が抑えられ、不定形シリカ粒子の含有量の少ない粉体または分散体を得ることができる。
【0056】
(鱗片状シリカ粒子の製造方法(P))
製造方法(P)は、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を含むシリカ粉体をpH2以下で酸処理する工程と、酸処理したシリカ粉体をpH8以上でアルカリ処理し、シリカ凝集体を解膠する工程と、アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕し、鱗片状シリカ粒子を得る工程とを有する。
【0057】
シリカ凝集体としては、いわゆる層状ポリケイ酸および/またはその塩を用いることができる。層状ポリケイ酸は、基本構成単位がSiO
4四面体からなるシリケート層構造のポリケイ酸である。層状ポリケイ酸および/またはその塩としては、たとえば、シリカ−X(SiO
2−X)、シリカ−Y(SiO
2−Y)、ケニアアイト、マガディアイト、マカタイト、アイラアイト、カネマイト、オクトシリケート等が挙げられ、シリカ−Xまたはシリカ−Yが好ましい。
【0058】
シリカ−Xおよびシリカ−Yは、シリカ原料を水熱処理して、クリストバライトや石英(クオーツ)を形成させる過程で生じる、中間的な相または準安定な相であり、シリカの準結晶質ともいうべき微弱な結晶相である。
シリカ−Xおよびシリカ−Yは、X線回折パタ−ンは異なるが、電子顕微鏡で観察される粒子外観は極似しており、いずれも鱗片状シリカ粒子を得るために好ましく用いることができる。
【0059】
シリカ−XのX線回折のスペクトルは、米国のASTM(American Society for Testing and Materials)に登録されているカード(以下、単にASTMカードと称する。)番号16−0380に該当する2θ=4.9°、26.0°、および28.3°の主ピークを特徴とする。
シリカ−YのX線回折のスペクトルは、ASTMカード番号31−1233に該当する2θ=5.6°、25.8°および28.3°の主ピークを特徴とする。
シリカ凝集体のX線回折のスペクトルとしては、シリカ−Xおよび/またはシリカ−Yの主ピークを特徴とするものが好ましい。
【0060】
「シリカ粉体の形成」
シリカ凝集体を含むシリカ粉体の形成方法としては、シリカヒドロゲル、シリカゾルおよび含水ケイ酸のうち1種以上をアルカリ金属塩の存在下に水熱処理する方法が挙げられる。なお、シリカ粉体は、この方法で形成されたものに限定されず、任意の方法で形成されたものも包含する。
【0061】
出発原料がシリカヒドロゲルの場合:
出発原料としてシリカヒドロゲルを用いることによって、シリカ凝集体としてシリカ−X、シリカ−Y等を、より低温度、短時間の反応で、クオーツ等の結晶を生成させることなく、しかも収率高く形成できる。
シリカヒドロゲルとしては、粒子状シリカヒドロゲルが好ましい。シリカヒドロゲルの粒子形状は、球状であっても不定形粒状であってもよい。シリカヒドロゲルの造粒方法は、適宜選択できる。
【0062】
球状のシリカヒドロゲルの造粒方法としては、たとえば、(α)シリカヒドロゾルを石油類等の液状媒体中で、球形状に固化させる方法、(β)ケイ酸アルカリ金属水溶液と鉱酸水溶液とを混合して、シリカゾルを短時間で生成させるとともに、気体媒体中に放出し、気体中でゲル化させる方法が挙げられ、(β)の方法が好ましい。鉱酸水溶液としては、硫酸水溶液、塩酸、硝酸水溶液等が挙げられる。
【0063】
(β)の方法の具体例は下記のとおりである。
ケイ酸アルカリ金属水溶液と鉱酸水溶液とを、放出口を備えた容器内に別個の導入口から導入して瞬間的に均一混合し、SiO
2濃度換算で130g/L以上、pH7〜9であるシリカゾルを生成させる。シリカゾルを、放出口から空気等の気体媒体中に放出し、空中でゲル化させる。ゲル化させたものを、水を張った熟成槽に落下させて数分〜数十分間熟成させ、酸を添加し、水洗して球状のシリカヒドロゲルを得る。
【0064】
得られるシリカヒドロゲルは、粒径がよく揃った平均粒子径2〜10mm程度の透明で弾力性を有する球状粒子であり、SiO
2に対して質量比で約4倍の水を含む場合もある。シリカヒドロゲル中のSiO
2濃度は、15〜75質量%が好ましい。
【0065】
出発原料がシリカゾルの場合:
シリカゾルとしては、シリカおよびアルカリ金属を特定量含むシリカゾルを用いることが好ましい。
シリカゾルとしては、シリカ(SiO
2換算)とアルカリ金属(Me
2O換算。ただし、Meは、Li、Na、K等のアルカリ金属である。以下同じ。)とのモル比(SiO
2/Me
2O)が1.0〜3.4であるケイ酸アルカリ金属水溶液を、イオン交換樹脂法、電気透析法等によって脱アルカリしたシリカゾルが好適に用いられる。SiO
2/Me
2Oは、3.5〜20が好ましく、4.5〜18がより好ましい。
ケイ酸アルカリ金属水溶液としては、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)を適宜水で希釈したもの等が好ましい。
【0066】
シリカゾル中のSiO
2濃度は、2〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
シリカゾル中のシリカの平均粒子径は、1〜100nmが好ましい。平均粒子径が100nm以下であれば、シリカゾルの安定性が良好となる。
シリカゾルとしては、活性ケイ酸と称される平均粒子径1〜20nm以下のものが特に好ましい。
【0067】
出発原料が含水ケイ酸の場合:
含水ケイ酸を出発原料として用いる場合、シリカゾルと同様の方法でシリカ凝集体を含むシリカ粉体を形成できる。
【0068】
水熱処理:
シリカヒドロゲル、シリカゾルおよび含水ケイ酸のシリカ源のうち1種以上をアルカリ金属塩の存在下に、オートクレーブ等の加熱圧力容器中で加熱して水熱処理を行うことによって、シリカ凝集体を含むシリカ粉体を形成できる。
シリカ源を水熱処理するため、オートクレーブに仕込むに先立って、蒸留水、イオン交換水等の精製水をさらに加えて、シリカ濃度を所望の範囲に調整してもよい。
球状のシリカヒドロゲルを用いる場合、そのまま使用してもよく、粉砕または粗粉砕して、平均粒子径を0.1〜6mm程度としてもよい。
【0069】
オートクレーブの形式は、特に限定されない。オートクレーブは、少なくとも加熱手段、撹拌手段、および好ましくは温度測定手段を備えたものであればよい。
オートクレーブ内の処理液中の総SiO
2濃度は、撹拌効率、結晶成長速度、収率等を考慮して選択され、通常、全仕込み原料基準で1〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。処理液中の総SiO
2濃度は、系内の総SiO
2濃度のことであり、シリカ源中のSiO
2のみでなく、アルカリ金属塩としてケイ酸ナトリウム等を用いた場合は、ケイ酸ナトリウム等により系に持ち込まれるSiO
2を加えた値である。
【0070】
水熱処理においては、シリカ源にアルカリ金属塩を共存させることで、処理液のpHをアルカリ側に調節し、シリカ溶解度を適度に大きくし、いわゆるOstwaldの熟成に基づく晶析速度を高め、シリカヒドロゲルのシリカ−Xおよび/またはシリカ−Yへの変換を促進させることできる。
【0071】
アルカリ金属塩としては、水酸化アルカリ金属、ケイ酸アルカリ金属、炭酸アルカリ金属等、またはこれらの組み合わせが挙げられる。アルカリ金属としては、Li、Na、K等、またはこれらの組み合わせが挙げられる。系のpHは、7以上が好ましく、8〜13がより好ましく、9〜12.5がさらに好ましい。系内の総SiO
2とアルカリ金属(Me
2O換算)とのモル比(SiO
2/Me
2O)は、4〜15が好ましく、7〜13がより好ましい。
【0072】
シリカゾルまたは含水ケイ酸の水熱処理は、反応速度を大きく、かつ結晶化の進行を小さくする点から、150〜250℃で行われることが好ましく、170〜220℃で行われることがより好ましい。シリカヒドロゾルまたは含水ケイ酸の水熱処理の時間は、水熱処理の温度や種晶の添加の有無等によって変わり得るが、3〜50時間が好ましく、3〜40時間がより好ましく、5〜25時間がさらに好ましい。
【0073】
シリカヒドロゲルの水熱処理は、150〜220℃で行われることが好ましく、160〜200℃で行われることがより好ましく、170〜195℃で行われることがさらに好ましい。シリカヒドロゲルの水熱処理の時間は、水熱処理の温度や種晶の添加の有無等によって変わり得るが、3〜50時間が好ましく、5〜40時間がより好ましく、5〜25時間がさらに好ましく、5〜12時間が特に好ましい。
【0074】
水熱処理を効率よく進め、処理時間を短くするためには、シリカ源の仕込み量(SiO
2換算)に対して0.001〜1質量%程度の種晶(SiO
2換算)を添加することが好ましい。種晶としては、シリカ−X、シリカ−Y等をそのまま、または適宜粉砕して用いることができる。
【0075】
水熱処理終了後、生成物をオートクレーブから取り出し、濾過、水洗する。水洗処理後の粒子は、10質量%の水スラリーとした際のpHが、5〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましい。
【0076】
「シリカ粉体」
得られるシリカ粉体の平均粒子径は、7〜25μmが好ましく、7〜11μmがより好ましい。
シリカ粉体には、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体が含まれる。シリカ凝集体は、鱗片状シリカ粒子が凝集して不規則に重なり合って形成される間隙を有する凝集体形状のシリカ3次粒子である。シリカ凝集体は、シリカ粉体を走査型電子顕微鏡(以下、SEMとも記す。)を用いて確認できる。
【0077】
SEMでは、薄片状のシリカ1次粒子は識別できず、シリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し複数枚重なって形成される鱗片状のシリカ2次粒子を識別できる。一方、TEMでは、電子線が一部透過するような極薄片粒子であるシリカ1次粒子を識別できる。また、シリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し複数枚重なって形成されたシリカ2次粒子を識別できる。シリカ1次粒子およびシリカ2次粒子が鱗片状シリカ粒子である。
【0078】
鱗片状のシリカ2次粒子から、その構成単位である薄片状のシリカ1次粒子を1枚ずつ剥離し、単離することは難しいとされている。すなわち、薄片状のシリカ1次粒子の層状の重なりにおいて、各層間の結合は強固であって融合一体化している。したがって、鱗片状のシリカ2次粒子は、それ以上シリカ1次粒子に解砕することは難しいとされている。製造方法(P)によれば、シリカ凝集体から、鱗片状のシリカ2次粒子まで微細化することができ、さらに薄片状のシリカ1次粒子まで微細化することも可能である。
【0079】
「酸処理」
酸処理の方法としては、シリカ粉体を含む分散体(スラリー状の分散体も含む。)(以下、シリカ分散体とも記す。)に、系のpHが2以下になるように酸性液を添加して、任意で撹拌しながら処理する方法が挙げられる。
シリカ凝集体を含むシリカ粉体をpH2以下で酸処理することによって、後工程のアルカリ処理においてシリカ凝集体の解膠を促進でき、湿式解砕工程後に不定形シリカ粒子の発生を抑えることができる。
また、酸処理を行うことによって、シリカ粉体に含まれるアルカリ金属塩を除去できる。シリカ粉体が水熱処理によって形成されたものである場合、水熱処理においてアルカリ金属塩が添加されている。
【0080】
酸処理のpHは、2以下であればよく、1.9以下が好ましい。あらかじめ低いpHで酸処理しておくことによって、後工程のアルカリ処理および湿式解砕工程においてシリカ凝集体をより解膠および解砕しやすくなる。
酸処理は、処理を充分に行うために、室温下で8時間以上行うことが好ましい。
【0081】
酸性液としては、硫酸水溶液、塩酸、硝酸水溶液等の鉱酸水溶液を用いることができる。鉱酸の濃度は、1〜37質量%が好ましい。
シリカ分散体中のSiO
2濃度は、5〜15質量%が好ましい。シリカ分散体のpHは、10〜12が好ましい。
シリカ分散体と酸性液との配合割合は、pHが2以下となるように調整すればよく、特に制限されない。
【0082】
シリカ分散体を酸処理した後、シリカ粉体を洗浄することが好ましい。洗浄することによって、水熱処理で混入したアルカリ金属塩またはそれに由来する生成物を除去できる。
洗浄方法としては、シリカ分散体を濾過または遠心分離する際に水洗する方法が挙げられる。
洗浄後のシリカ分散体は、水を添加するまたは濃縮して、固形分濃度を調整してもよい。洗浄後にシリカケーキとして回収される場合は、水を添加してシリカ分散体とすることができる。洗浄後のシリカ分散体のpHは、4〜6が好ましい。
【0083】
「アルミン酸処理」
酸処理後のシリカ粉体に対し、任意に、アルミン酸処理を施してもよい。
アルミン酸処理によって、シリカ粉体中のシリカ粒子の表面にアルミニウム(Al)を導入させて、負に帯電させるように表面改質することができる。負に帯電したシリカ粉体は、酸性媒体に対する分散性を高めることができる。
【0084】
アルミン酸処理の方法としては、シリカ分散体にアルミン酸塩の水溶液を添加して、任意で撹拌して混合し、その後、加熱処理してシリカ粒子の表面にAlを導入する方法が挙げられる。
混合は、10〜30℃で0.5〜2時間行うことが好ましい。
加熱処理は、加熱還流条件で行うことが好ましく、80〜110℃で4時間以上行うことが好ましい。
【0085】
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等、これらの組み合わせが挙げられ、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
アルミン酸塩(Al
2O
3換算)とシリカ粉体(SiO
2換算)とのモル比(Al
2O
3/SiO
2)は、0.00040〜0.00160が好ましい。
アルミン酸塩の水溶液の濃度は、1〜3質量%が好ましい。
アルミン酸塩の水溶液の添加量は、シリカ分散体中のSiO
2の100質量部に対し、5.8〜80.0質量部が好ましい。
シリカ分散体中のSiO
2濃度は、5〜20質量%が好ましい。シリカ分散体のpHは、6〜8が好ましい。
【0086】
アルミン酸処理後のシリカ分散体は、水を添加するまたは濃縮して、固形分量を調整してもよい。アルミン酸処理後のシリカ分散体のpHは、6〜8が好ましい。
【0087】
「アルカリ処理」
酸処理し、必要に応じてアルミン酸処理した後のシリカ粉体を、pH8以上でアルカリ処理し、シリカ凝集体を解膠する。
アルカリ処理によって、シリカ凝集体の強固な結合を解膠して、個々の鱗片状シリカ粒子の形態に近づけることができる。
【0088】
シリカ凝集体を解膠することは、シリカ凝集体に電荷を与え、個々のシリカ粒子を媒体中に分散させることを意味する。
アルカリ処理によって、シリカ粉体に含まれるシリカ粒子のほぼ全量が個々の鱗片状シリカ粒子に解膠されてもよく、その一部のみが解膠されて凝集体が残っていてもよい。また、シリカ分散体に含まれるシリカ凝集体は、すべての部分が個々の鱗片状シリカ粒子に解膠されてもよく、その一部分のみが解膠されて凝集体部分が残っていてもよい。残った凝集体は、後工程の湿式解砕工程で個々の鱗片状シリカ粒子に解砕できる。
【0089】
アルカリ処理のpHは、8以上であればよく、8.5以上が好ましく、9以上がより好ましい。アルカリ処理のpHが8以上であれば、シリカ粉体に含まれるシリカ凝集体の解膠を促進できる。また、アルカリ処理後にシリカ凝集体が残ったとしても、シリカ凝集体の鱗片状シリカ粒子の結合を弱めることができ、後工程の湿式解砕工程において個々の鱗片状シリカ粒子に解砕しやすい。
【0090】
アルカリ処理の方法としては、シリカ分散体に、pHが8以上になるようにアルカリ性液を添加して、任意で撹拌しながら処理する方法が挙げられる。アルカリ性液の代わりにアルカリ金属塩および水を別々に添加してもよい。
アルカリ処理は、10〜50℃で1〜48時間行うことが好ましく、2〜24時間行うことがより好ましい。
【0091】
アルカリ金属塩としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩等、これらの組み合わせが挙げられる。
アルカリ性液としては、アルカリ金属塩を含む水溶液を用いることができる。また、アルカリ性液として、アンモニア水(NH
4+OH
−)を用いてもよい。
【0092】
シリカ分散体中のアルカリ金属塩の濃度(アルカリ金属塩の質量/シリカ分散体中の水とアルカリ金属塩との合計質量×100)は、0.01〜28質量%が好ましく、0.04〜5質量%がより好ましく、0.1〜2.5質量%がさらに好ましい。
アルカリ金属塩の量は、シリカ分散体中のSiO
2の1gに対して、0.4〜2.5ミリモルが好ましく、0.5〜2ミリモルがより好ましい。
シリカ分散体中のSiO
2濃度は、3〜7質量%が好ましい。シリカ分散体のpHは、8〜11が好ましい。
シリカ分散体とアルカリ性液との配合割合については、pHが8以上となるように調整すればよく、特に制限されない。
【0093】
アルカリ処理後のシリカ分散体に含まれるシリカ粉体の平均粒子径は、3〜10μmが好ましく、4〜8.5μmがより好ましい。
アルカリ処理後のシリカ分散体には、水を添加するまたは濃縮して、固形分量を調整してもよい。アルカリ処理後のシリカ分散体のpHは、8.0〜12.5が好ましい。
【0094】
「湿式解砕」
アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕し、鱗片状シリカ粒子を得る。
アルカリ処理したシリカ粉体には、シリカ凝集体が解膠されて、一部残存したシリカ凝集体とともに、シリカ凝集体がある程度微粒化された状態の不定形シリカ粒子が含まれる。これを湿式解砕することで、不定形シリカ粒子をさらに解砕して、個々の鱗片状シリカ粒子を得ることができる。あらかじめ、アルカリ処理しておくことで、湿式解砕において不定形シリカ粒子の解砕を促進することができる。そのため、充分に解砕されずに残る不定形シリカ粒子の量を抑えることができる。
【0095】
湿式解砕するための装置としては、粉砕媒体を用いて機械的に高速撹拌する方式の湿式ビーズミル、湿式ボールミル、薄膜旋回型高速ミキサ、衝撃粉砕装置(ナノマイザ等)等の湿式粉砕装置(解砕装置)等が挙げられる。特に、湿式ビーズミルにおいて、直径0.2〜1mmのアルミナ、ジルコニア等の媒体ビーズを用いると、鱗片状シリカ粒子の基本的な積層構造を極力粉砕、破壊しないように、解砕、分散化することができるため好ましい。衝撃粉砕装置は、80〜1000μmの細い管に、粉体を含む分散体を圧力をかけて投入して、分散体中の粒子同士を衝突させて分散させるものであり、衝撃粉砕装置を用いることによって、粒子をより微細に解砕できる。
【0096】
湿式粉砕するシリカ粉体は、蒸留水、イオン交換水等の精製水等で分散体として、適当な濃度にして湿式粉砕装置に供給することが好ましい。
分散体中のSiO
2濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、解砕効率や粘度上昇による作業効率を考慮すると、0.1〜15質量%がより好ましい。
【0097】
「カチオン交換処理」
湿式解砕後のシリカ粉体は、任意にカチオン交換処理してもよい。
カチオン交換処理することによって、シリカ粉体に含まれるカチオン、特に金属イオンを除去できる。
【0098】
カチオン交換処理の方法としては、シリカ粉体を含むシリカ分散体にカチオン交換樹脂を添加して、任意で撹拌しながら処理する方法が挙げられる。カチオン交換処理は、10〜50℃で0.5〜24時間行うことが好ましい。
【0099】
カチオン交換樹脂の樹脂母体としては、スチレン−ジビニルベンゼン等のスチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂等が挙げられる。
カチオン交換樹脂としては、水素型(H型)カチオン交換樹脂が好ましく、たとえば、スルホン酸基、カルボキシル基またはリン酸基等を有するカチオン交換樹脂が挙げられる。カチオン交換樹脂の量は、シリカ分散体中のSiO
2の100質量部に対し、3〜20質量部が好ましい。
シリカ分散体中のSiO
2濃度は、3〜20質量%が好ましい。シリカ分散体のpHは、4以下が好ましい。
【0100】
(他の無機粒子(B2))
他の無機粒子(B2)としては、球状シリカ粒子、球状アルミナ粒子、球状ジルコニア粒子、球状チタニア等が挙げられる。他の無機粒子(B2)としては、防眩膜付き物品のヘーズが充分に高くなり、かつ防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度が充分に低くなり、その結果、防眩効果が充分に発揮される点から、球状シリカ粒子が好ましく、多孔質球状シリカ粒子がより好ましい。
【0101】
他の無機粒子(B2)の平均粒子径は、0.3〜2μmが好ましく、0.5〜1.5μmがより好ましい。他の無機粒子(B2)の平均粒子径が0.3μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される。他の無機粒子(B2)の平均粒子径が2μm以下であれば、塗布液中における分散安定性が良好となる。
【0102】
多孔質球状シリカ粒子のBET比表面積は、200〜300m
2/gが好ましい。
多孔質球状シリカ粒子の細孔容積は、0.5〜1.5cm
3/gが好ましい。
多孔質球状シリカ粒子の市販品としては、日産化学工業社製のライトスター(登録商標)シリースが挙げられる。
【0103】
(液状媒体(C))
液状媒体(C)は、マトリックス前駆体(A)を溶解する溶媒であり、無機粒子(B)を分散させる分散媒である。
【0104】
液状媒体(C)としては、たとえば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0105】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エーテル類としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
セロソルブ類としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
含窒素化合物としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
液状媒体(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
マトリックス前駆体(A)におけるアルコキシシラン等の加水分解に水が必要となるため、アルコキシシランの加水分解後に液状媒体の置換を行わない限り、液状媒体(C)には少なくとも水が含まれる。
液状媒体(C)は、水と他の液体との混合液であってもよい。他の液体としては、たとえば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。他の液体のうち、マトリックス前駆体(A)の溶媒としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
【0107】
(酸触媒(D))
酸触媒(D)は、マトリックス前駆体の加水分解および縮合を促進し、塗膜を短時間で形成させる成分である。
酸触媒(D)は、マトリックス前駆体(A)の溶液の調製の際に、原料(アルコキシシラン等)の加水分解、縮合にために添加されたものであってもよく、必須成分からなる塗布液を調製した後にさらに添加されたものであってもよい。
酸触媒(D)としては、無機酸(硝酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(ギ酸、シュウ酸、モノクロル酢酸、ジクロル酢酸、トリクロル酢酸等)が挙げられる。
【0108】
(添加剤(E))
塗布液は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤(E)をさらに含んでいてもよい。
添加剤(E)としては、たとえば、紫外線吸収剤、赤外線反射/赤外線吸収剤、反射防止剤、レベリング性向上のための界面活性剤、耐久性向上のための金属化合物等が挙げられる。
【0109】
(塗布方法)
塗布方法としては、公知のウェットコート法(スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等)等が挙げられる。
塗布方法としては、充分な凹凸を形成しやすい点から、スプレー法が好ましい。
【0110】
スプレー法に用いるノズルとしては、2流体ノズル、1流体ノズル等が挙げられる。
ノズルから吐出される塗布液の液滴の粒径は、通常、0.1〜100μmであり、1〜50μmが好ましい。液滴の粒径が1μm以上であれば、防眩効果が充分に発揮される凹凸を短時間で形成できる。液滴の粒径が50μm以下であれば、防眩効果が充分に発揮される適度な凹凸を形成しやすい。
【0111】
液滴の粒径は、ノズルの種類、スプレー圧力、液量等により適宜調整できる。たとえば、2流体ノズルでは、スプレー圧力が高くなるほど液滴は小さくなり、また、液量が多くなるほど液滴は大きくなる。
液滴の粒径は、レーザ測定器によって測定されるザウター平均粒子径である。
【0112】
防眩膜の表面の算術平均粗さRaおよび60゜鏡面光沢度は、一定の塗布条件下では、塗布時間、すなわちスプレー法によるコート面数(重ね塗り回数)によって調整できる。コート面数が多くなるほど、防眩膜の表面の算術平均粗さRaは大きくなり、その結果、60゜鏡面光沢度は低下し、反射像が不鮮明となり(防眩効果が高くなり)、ヘーズは大きくなる(コントラストは低下する)。
【0113】
スプレー法にて塗布液を塗布する際には、基材を、あらかじめ30〜90℃に加熱することが好ましい。基材の温度が30℃以上であれば、液状媒体(C)がすばやく蒸発するため、充分な凸凹を形成しやすい。基材の温度が90℃以下であれば、基材と防眩膜との密着性が良好となる。基材が厚さ5mm以下のガラス板の場合、あらかじめ基材の温度以上の温度に設定した保温板を基材の下に配置し、基材の温度低下を抑えてもよい。
【0114】
[工程(ii)]
工程(i)で形成された塗膜に、pHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させることによって、塗膜中に残存する加水分解性基が加水分解、縮合する。アルカリ触媒による縮合は三次元的に進行するため、ゲル化が速やかに起こり、残存する加水分解性基が大幅に減少する。
【0115】
(アルカリ水溶液)
アルカリ水溶液は、アルカリ触媒を水に溶解させたものであってもよく、電解還元水であってもよい。尚、アルカリ触媒では金属イオン等によって塗膜が汚染され、たとえば耐久性に悪影響がある可能性もあるため、アルカリ水溶液としては電解還元水が好ましい。
【0116】
アルカリ触媒としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
電解還元水は、市販の電解還元水(いわゆるアルカリイオン水)であってもよく;市販のアルカリイオン整水器等を用い、電解質を含む水(水道水、電解質添加水等)を、公知の電解法(イオン交換法、隔膜法、水銀法等)によって電気分解して製造したものであってもよい。
電解還元水は、電解質に由来するカチオン、ならびに電気分解によって生成した水酸化物イオンおよび水素分子を含む。電解還元水は、水素分子を含むため、アルカリ触媒を水に溶解させたものに比べて酸化還元電位が低くなる。
【0117】
アルカリ水溶液のpHは、10〜12.5であり、10.5〜12が好ましく、10.5〜11.5がより好ましい。アルカリ水溶液のpHが10以上であれば、加水分解性基の加水分解、縮合が速やかに進行する。アルカリ水溶液のpHが12.5を超えると、形成された塗膜が浸食されたり劣化する可能性が高い。
【0118】
(接触方法)
塗膜にアルカリ水溶液を接触させる方法としては、塗膜付き物品をアルカリ水溶液に浸漬する方法;塗膜にアルカリ水溶液を塗布する方法等が挙げられる。
接触時間は、0.5〜5分間が好ましく、1〜3分間がより好ましい。接触時間が5分を超えると、形成された塗膜が浸食されたり劣化する可能性が高い。
塗膜にアルカリ水溶液を接触させた後、塗膜を水洗することが好ましい。
【0119】
[工程(iii)]
工程(ii)の後、塗膜を焼成することによって、残存する加水分解性基がほぼ分解するとともに膜が緻密化することによって防眩膜が形成される。
【0120】
焼成温度は、200℃以上が好ましく、300〜480℃がより好ましく、300〜450℃がさらに好ましい。焼成温度が200℃以上であれば、耐摩耗性が充分に高い防眩膜が形成される。焼成温度が480℃より低ければ、クラックの原因となる内部応力を制御しやすい。
焼成時間は、10〜120分間が好ましく、30〜60分間がより好ましい。
【0121】
<作用機序>
以上説明した本発明の防眩膜付き物品にあっては、物品のヘーズが、15%以上であり、防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度が、25%以下であり、防眩膜の表面の算術平均粗さRaが、0.17μm以上であるため、従来のものに比べ防眩効果が高い。
【0122】
また、以上説明した本発明の防眩膜付き物品の製造方法にあっては、マトリックス前駆体(A)と、無機粒子(B)と、液状媒体(C)とを含む塗布液を基材に塗布して塗膜を形成した後、塗膜に、pHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させているため、下記の理由から、防眩膜による防眩効果を高くするために塗布液を塗り重ねて防眩膜の膜厚を厚くし、かつ防眩膜の耐摩耗性を向上させるために膜厚を厚くした塗膜を高温で焼成しても、防眩膜のクラックおよび着色が抑えられる。
【0123】
塗布液を塗布して塗膜を形成する際には、塗布液が酸触媒(D)を含んでいる場合、直鎖状の重合物が主に形成される。そのため、未反応の加水分解性基が多く残存することになる。未反応の加水分解性基が多く残存した状態で塗膜を焼成した場合、未反応の加水分解性基の反応が進み、塗膜が収縮する。塗膜の収縮は、膜厚が厚いほど顕著になるため、防眩膜にクラックが発生する。また、塗膜の膜厚が厚いと、加水分解性基の反応によって発生する有機物が膜内に閉じ込められやすい。有機物が膜内に閉じ込められた状態で高温で焼成を続けると、有機物が分解し、カーボン等によって防眩膜に着色が発生する。
一方、本発明においては、塗膜を焼成する前に、塗膜に、pHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させることによって、塗膜中に残存する加水分解性基が加水分解、縮合する。アルカリ触媒による縮合は速やかに進行するため、残存する加水分解性基が大幅に減少する。そのため、塗布液を塗り重ねて膜厚を厚くした塗膜を高温で焼成しても、防眩膜のクラックおよび着色が抑えられる。
【0124】
<画像表示装置>
本発明の画像表示装置は、画像を表示する画像表示装置本体と、画像表示装置本体の視認側に設けられた本発明の防眩膜付き物品とを具備する。
【0125】
画像表示装置本体としては、液晶パネル、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル等が挙げられる。
防眩膜付き物品は、画像表示装置本体の保護板として、画像表示装置本体に一体に設けられてもよく、各種フィルタとして、画像表示装置本体の視認側に配置されてもよい。
【0126】
以上説明した本発明の画像表示装置にあっては、防眩効果が高い本発明の防眩膜付き物品が画像表示装置本体の視認側に設けられているため、視認性が良好である。
【実施例】
【0127】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
例1〜17は実施例であり、例18〜25は比較例である。
【0128】
(ヘーズ)
防眩膜付き物品のヘーズは、ヘーズメーター(村上色彩研究所社製、HM−150L2)を用い、JIS K 7136:2000に記載された方法によって、防眩膜のほぼ中央部で測定した。
【0129】
(60゜鏡面光沢度)
防眩膜の表面の60゜鏡面光沢度は、防眩膜が形成された側とは反対側の面に黒色テープを貼り付けた防眩膜付き物品について、光沢度計(日本電色工業社製、PG−3D)を用い、JIS Z 8741:1997に記載された方法によって、防眩膜のほぼ中央部で測定した。
【0130】
(算術平均粗さRa)
防眩膜の表面の算術平均粗さRaは、表面粗さ計(東京精密社製、サーフコム(登録商標)1500DX)を用い、JIS B 0601:2001に記載された方法によって測定した。
【0131】
(着色)
防眩膜の着色は、防眩膜を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
○ :着色がない。
△+:ごくわずかに着色がある。
△ :薄い着色がある。
× :明らかな着色がある。
【0132】
(クラック)
防眩膜のクラックは、光学顕微鏡を用いて500倍にて観察した画像について、下記の基準で評価した。
○ :クラックがない。
△+:1〜2個のクラックがある。
△ :3〜5個のクラックがある。
× :6個以上のクラックがある。
【0133】
(耐摩耗性)
防眩膜の表面の耐摩耗性は、消しゴム(ライオン事務器社製、GAZA1K、縦18mm×横11mm)をラビングテスター(大平理化工業社製)に取り付け、該消しゴムを9.8×10
−2MPaの圧力にて防眩膜の表面で水平往復運動させた。消しゴムを200往復させる前に対する、消しゴムを200往復させた後の防眩膜付き物品のヘーズの変化量および防眩膜の表面の60゜鏡面光沢度の変化量を求めた。ヘーズの変化量および60゜鏡面光沢度の変化量が小さいほど、耐摩耗性に優れる。なお、60゜鏡面光沢度は、防眩膜が形成された側とは反対側の面に黒色テープを貼り付けていない防眩膜付き物品について測定した。
【0134】
(防眩性)
防眩膜の防眩性は、防眩膜付き物品の防眩膜側への室内の蛍光灯の写り込み(蛍光灯の反射像)を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
○ :反射像が見えない。
× :反射像が見える。
【0135】
(鱗片状シリカ粒子分散液(a)の製造)
「シリカ粉体の形成」
ケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2/Na
2O=3.0(モル比)、SiO
2濃度:21.0質量%)の2000mL/分と、硫酸水溶液(硫酸濃度:20.0質量%)とを、放出口を備えた容器内に別個の導入口から導入して瞬間的に均一混合し、シリカゾルを生成させた。2液の流量比は、放出口から空中に放出されるシリカゾルのpHが7.5〜8.0になるように調整した。シリカゾルを、放出口から連続的に空気中に放出した。シリカゾルは、空気中で球形液滴となり、放物線を描いて約1秒間滞空する間に空中でゲル化した。ゲル化したものを、水を張った熟成槽に落下させて熟成させた。熟成後、pHを6に調整し、さらに充分に水洗して、シリカヒドロゲルを得た。得られたシリカヒドロゲルは、球状粒子であり、平均粒子径は6mmであった。シリカヒドロゲル中のSiO
2に対する水の質量比は、4.55倍であった。
【0136】
シリカヒドロゲルを、ダブルロールクラッシャを用いて平均粒子径2.5mmに粗粉砕した。容量17m
3のオートクレーブ(アンカー型撹拌羽根付き)に、系内の総SiO
2/Na
2Oが12.0(モル比)なるように、シリカヒドロゲル(SiO
2濃度:18質量%)の7249kgおよびケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2濃度:29.00質量%、Na
2O濃度:9.42質量%、SiO
2/Na
2O=3.18(モル比))の1500kgを仕込み、これに水の1560kgを加え、10rpmで撹拌しながら飽和圧力1.67MPaの高圧水蒸気の4682kgを加え、185℃まで昇温し、5時間水熱処理を行った。系内の総SiO
2濃度は、12.5質量%であった。
得られたシリカ分散体を濾過、洗浄してシリカ粉体を取り出し、TEMを用いて観察した。シリカ粉体にシリカ凝集体が含まれることが確認された。レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、LA−950、以下同じ。)によるシリカ粉体の平均粒子径は、8.33μmであった。
【0137】
「酸処理」
シリカ粉体を含むシリカ分散体(赤外線水分計によって計測された固形分濃度:13.3質量%、pH:11.4)の10100gをスターラで撹拌しながら、硫酸水溶液(硫酸濃度:20質量%)の1083g加えた。添加後のpHは1.5であった。そのまま室温下で18時間撹拌を継続し、処理を行った。
酸処理後のシリカ分散体を濾過し、SiO
2の1g当たり50mLの水で洗浄した。洗浄後のシリカケーキを回収し、水を加えスラリー状のシリカ分散体を調製した。赤外線水分計で計測したシリカ分散体の固形分濃度は、14.7質量%であり、pHは4.8であった。
【0138】
「アルミン酸処理」
酸処理後のシリカ分散体の7000gを10Lのフラスコへ入れ、オーバーヘッドスターラで撹拌しながら、アルミン酸ナトリウム水溶液(濃度:2.02質量%)の197g(Al
2O
3/SiO
2=0.00087(モル比))を少量ずつ加えた。添加後のpHは7.2であった。添加後、室温下で1時間撹拌を継続した。その後、昇温し加熱還流条件で4時間処理を行った。
【0139】
「アルカリ処理」
アルミン酸処理後のシリカ分散体の775gをスターラで撹拌しながら、水酸化カリウムの43.5g(1ミリモル/g−シリカ)および水の1381gを加えた。添加後のpHは9.9であった。そのまま室温下で24時間撹拌を継続し、処理を行った。アルカリ処理後のシリカ粉体の平均粒子径は、7.98μmであった。
【0140】
「湿式解砕」
アルカリ処理後のシリカ分散体を、超高圧湿式微粒化装置(吉田機械興業社製、ナノマイザー(登録商標)NM2−2000AR、孔径120μm衝突型ジェネレータ)を用い、吐出圧力130〜140MPaで30パスで処理を行い、シリカ粉体を解砕、分散化した。解砕後のシリカ分散体のpHは、9.3であり、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置による平均粒子径は、0.182μmであった。
【0141】
「カチオン交換」
解砕後のシリカ分散体の1550gにカチオン交換樹脂の161mLを添加し、オーバーヘッドスターラで撹拌しながら、室温下で17時間処理した。その後、カチオン交換樹脂を分離した。カチオン交換後のシリカ分散体のpHは、3.7であった。
【0142】
「濃度調整」
カチオン交換後のシリカ分散体を限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステム製、MOLSEP(登録商標)、分画分子量:150000)にて処理し、濃度調整した。
得られたシリカ分散体(鱗片状シリカ粒子分散液(a))からシリカ粒子を取り出し、TEMにて観察したところ、不定形シリカ粒子を実質的に含まない鱗片状シリカ粒子のみであることが確認された。
鱗片状シリカ粒子分散液(a)に含まれる鱗片状シリカ粒子の平均粒子径は、湿式解砕後と同じであり、0.182μmであった。平均アスペクト比は、188であった。
赤外線水分計で計測した鱗片状シリカ粒子分散液(a)の固形分濃度は、5.0質量%であった。
【0143】
[例1]
(ベース液(b)の調製)
変性エタノール(日本アルコール販売社製、ソルミックス(登録商標)AP−11、エタノールを主剤とした混合溶媒。以下同じ。)の30.83gを撹拌しながら、シリケート40(多摩化学工業社製、テトラエトキシシランおよびその加水分解縮合物の混合物、固形分濃度(SiO
2換算):40質量%)の3.70gおよび鱗片状シリカ粒子分散液(a)の6.00gを加え、30分間撹拌した。これに、イオン交換水の3.55gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.06gの混合液を加え、60分間撹拌した。これに、多孔質球状シリカ粒子(日産化学工業社製、ライトスター(登録商標)LA−S23A、固形分濃度(SiO
2換算):23質量%)の0.09gを加え、15分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が4.1質量%のベース液(b)を調製した。なお、SiO
2換算固形分濃度は、シリケート40のすべてのSiがSiO
2に転化したときの固形分濃度である。
【0144】
(シラン化合物溶液(c)の調製)
変性エタノールの3.76gを撹拌しながら、イオン交換水の0.37gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.01gの混合液を加え、5分間撹拌した。1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(信越化学工業社製、KBM−3066、固形分濃度(SiO
2換算):37質量%)の0.54gを加え、ウォーターバス中60℃で15分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が4.3質量%のシラン化合物溶液(c)を調製した。
【0145】
(塗布液の調製)
ベース液(b)を撹拌しながら、シラン化合物溶液(c)を加え、60分間撹拌した。これに、変性エタノールの51.09gを加え、室温で30分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が2.0質量%の塗布液を得た。
【0146】
(防眩膜付きガラス板の製造)
ガラス板としてソーダライムガラス(旭硝子社製、FL1.1、サイズ:300mm×300mm、厚さ:1.1mm。)を用意した。ガラス板の表面を炭酸水素ナトリウム水で洗浄した後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。
【0147】
ガラス板を予熱炉(いすゞ製作所社製、VTR−115)にて予熱した。ガラス板の表面温度を80℃に保温した状態で、ガラス板の表面に塗布液を、スプレー圧力:0.4MPa、ノズル移動速度:750mm/分、スプレーピッチ:22mmの条件で、かつ最終的に形成される防眩膜が表1に示す60゜鏡面光沢度になるようなコート面数(重ね塗りの回数)で、スプレー法にて塗布した。
スプレー法による塗布には、6軸塗装用ロボット(川崎ロボティックス社製、JF−5)を用いた。また、ノズルとしては、VAUノズル(スプレーイングシステムジャパン社製)を用いた。
【0148】
アルカリイオン整水器で製造した電解還元水のpHを23℃±2で測定した。具体的には、pHメータ(堀場製作所社製、D−22、電極型式9615)を用いて、次のように測定した。pH標準液(4.01、6.86、9.18)でpHメータの校正を行った。測定する電解還元水をビーカーに入れ23±2℃に設定したウォーターバスに入れ測定温度に達するまで待った。電解還元水が測定温度に達したら、pH測定を実施した。
塗膜付きガラス板を専用の冶具に載せ、冶具と一緒に電解還元水に浸漬し、3分間経過後に取り出し、イオン交換水によるかけ流し洗浄を約30秒間実施した。洗浄後、エアーガンにて塗膜付きガラス板の表面のイオン交換水を吹き払った。
【0149】
その後、大気中、450℃で30分間加熱養生し、防眩膜付きガラス板を得た。評価結果を表1に示す。
【0150】
[例2〜19]
アルカリ水溶液として表1に示すものを用い、浸漬および焼成を表1に示す条件で行い、かつ最終的に形成される防眩膜の60゜鏡面光沢度が表1に示す値となるようにコート面数(重ね塗りの回数)を設定した以外は、例1と同様にして防眩機能付きガラス板を得た。評価結果を表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
塗膜にpHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させた後、塗膜を300〜550℃で焼成した例1〜17においては、防眩効果および耐摩耗性が高く、クラックおよび着色が抑えられた防眩膜を有する物品を製造できた。
塗膜にpHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させることなく、塗膜を400〜550℃で焼成した例18〜22においては、防眩膜にクラックおよび着色が見られた。
塗膜にpHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させることなく、塗膜を300℃で焼成した例23においては、防眩膜に着色が見られ、耐摩耗性も不充分であった。
塗膜にpHが10〜12.5のアルカリ水溶液を接触させた後、塗膜を450℃で焼成したものの、60゜鏡面光沢度が高い(すなわち、防眩膜の膜厚が薄い)例24においては、防眩膜のクラックおよび着色が抑えられ、耐摩耗性もよかったものの、防眩効果が見られなかった。
塗膜にpHが9.5のアルカリ水溶液を接触させた後、塗膜を450℃で焼成した例25においては、防眩膜にクラックおよび着色が見られた。