特許第6237605号(P6237605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237605
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   C30B29/06 502G
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-257259(P2014-257259)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-117603(P2016-117603A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/025340(WO,A1)
【文献】 特開2000−044387(JP,A)
【文献】 米国特許第06200384(US,B1)
【文献】 特開平05−155682(JP,A)
【文献】 特開2011−093778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内に収容した原料融液に水平磁場を印加しながら、チョクラルスキー法によって、シリコン単結晶を回転させつつ引上げて製造するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の回転に起因する前記原料融液の強制対流強度USRと、前記原料融液内の温度差に起因する前記原料融液の自然対流強度Uとの比USR/Uを、前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキの指標として用い、該指標に基づいて前記シリコン単結晶の製造条件を制御することにより、径方向面内の抵抗率のバラツキを制御してシリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハの抵抗率を中心から外周5mmまで10mm以下のピッチで複数点測定した際の全測定値中の最大値をRmax、最小値をRminとしたときに、
前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを100×(Rmax−Rmin)/Rmin[%]の算出値とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを10%以下に制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記制御する製造条件は、前記シリコン単結晶の半径a[cm]、前記シリコン単結晶の回転速度ω[rpm]、固液界面における中心磁場強度B[T]、前記原料融液内の温度差ΔT[K]を含み、
前記強制対流強度USRをUSR=aω/B、前記自然対流強度UをU=ΔTとしたときの前記比USR/Uのとる値に基づいて、前記製造条件を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記強制対流強度USRと前記自然対流強度Uとの比USR/Uが、6000以上15000以下になるように、前記シリコン単結晶の製造条件を制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン単結晶の格子間酸素濃度を4×1017atoms/cm(ASTM‘79)以下とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン単結晶を製造するとき、前記ルツボの回転速度を0.2rpm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン単結晶を製造するとき、
製造したシリコン単結晶から切り出して選択エッチングを行ったウェーハにおいて、FPD欠陥及びLEP欠陥が検出されないように、前記シリコン単結晶の引上げ速度を制御することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスの基板などに用いられるシリコンウェーハを切り出すシリコン単結晶の製造方法に関するものであり、特に最先端分野で用いられている低酸素濃度のシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を中心としたパワー半導体向けにMCZ(MCZ:Magnetic field applied Czochralski)法により製造したシリコン単結晶が用いられようになってきている。パワー半導体はメモリーやCPUと異なりウェーハの縦方向をも使用する素子のため、ウェーハバルクの品質も重要となる。
【0003】
例えば、ウェーハ面内の抵抗率のバラツキが大きいと、デバイス作製後のデバイス特性のバラツキにつながる。このため、抵抗率はウェーハ面内で均一なことが求められる。
【0004】
また、450℃前後の低温熱処理をすると、ウェーハ内で格子間酸素に由来するサーマルドナーが発生して、ウェーハ面内の抵抗率の分布を変化させてしまう。このため、酸素濃度はウェーハ面内全体で低いことが好ましい。
【0005】
一方、ウェーハ内部に結晶欠陥があるとリークや耐圧不良の原因になりうるので、大きな結晶欠陥もないことが望ましい。
これらの結晶品質の制御は主に単結晶引き上げ時の操業パラメータを変化させることにより行う。
【0006】
ここで、低酸素結晶を得るには、特許文献1〜3で開示されるように、MCZ法により磁場を印加しつつルツボ回転速度(以下、CRとも言う)及び結晶回転速度(以下、SRとも言う)を低速化することが有効である。
【0007】
特許文献1ではCRを0.1〜0.6rpm、SRを0.2〜1.05rpmに制御し、特許文献2、3ではCRを0.1〜2rpm、SRを1〜7rpmにすることで低酸素結晶が育成可能であることを開示している。
【0008】
特に特許文献2、3では、開示された条件で引き上げを行うことにより、同時にウェーハ面内の抵抗率のバラツキ(以下、単にRRGとも言う)を5%以下、ないしは8%以下を達成できているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−155682号公報
【特許文献2】WO2009/025340
【特許文献3】特開2010−222241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、単に磁場を印加しつつCRやSRを低速化するだけでは、ウェーハ面内の抵抗率のバラツキを所望の小さい値に抑えることができない場合があることが分かってきた。調査の結果、炉内構造(HZ:Hot Zone)を変更するなどして炉内の熱分布を変化させた場合、あるいは磁場印加強度を変化させた場合にウェーハ面内の抵抗率の分布が変化することが分かった。
【0011】
これは、原料融液中の対流の変化や、それに伴う固液界面形状変化が大きな原因と考えられる。原料融液中のドーパント原子は、偏析現象のために界面近傍で高濃度化している。このような状況のため、界面付近の対流変化や界面形状変化は抵抗率の分布に直接影響を与える。
【0012】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを所望の値とすることができるようなシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ルツボ内に収容した原料融液に水平磁場を印加しながら、チョクラルスキー法によって、シリコン単結晶を回転させつつ引上げて製造するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の回転に起因する前記原料融液の強制対流強度USRと、前記原料融液内の温度差に起因する前記原料融液の自然対流強度Uとの比USR/Uを、前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキの指標として用い、該指標に基づいて前記シリコン単結晶の製造条件を制御することにより、径方向面内の抵抗率のバラツキを制御してシリコン単結晶を製造することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0014】
このようなシリコン単結晶の製造方法であれば、製造するシリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを制御して所望の値とすることができる。
【0015】
このとき、前記製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハの抵抗率を中心から外周5mmまで10mm以下のピッチで複数点測定した際の全測定値中の最大値をRmax、最小値をRminとしたときに、
前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを100×(Rmax−Rmin)/Rmin[%]の算出値とすることができる。
上記のようにして、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを算出することができる。
【0016】
このとき、前記シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを10%以下に制御することが好ましい。
このようにすれば、デバイス作製後のデバイス特性のバラツキを十分に小さく抑えることができる。
【0017】
前記制御する製造条件は、前記シリコン単結晶の半径a[cm]、前記シリコン単結晶の回転速度ω[rpm]、固液界面における中心磁場強度B[T]、前記原料融液内の温度差ΔT[K]を含み、
前記強制対流強度USRをUSR=aω/B、前記自然対流強度UをU=ΔTとしたときの前記比USR/Uのとる値に基づいて、前記製造条件を制御することができる。
このようにすれば、より確実に、USRやUを制御してシリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを制御して所望の値とすることができる。
【0018】
前記強制対流強度USRと前記自然対流強度Uとの比USR/Uが、6000以上15000以下になるように、前記シリコン単結晶の製造条件を制御することが好ましい。
このようにすれば、より確実に、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを所望の小さい値(例えば10%以下)とすることができる。
【0019】
また前記シリコン単結晶の格子間酸素濃度を4×1017atoms/cm(ASTM‘79)以下とすることが好ましい。
このようにすれば、比較的低酸素濃度のシリコン単結晶を得ることができ、該シリコン単結晶から得られるウェーハに低温熱処理を施した際に、ウェーハ内で格子間酸素に由来するサーマルドナーの発生量を一層抑えることができる。そのため、ウェーハ面内の抵抗率の分布が変化するのを抑制することができる。
【0020】
また前記シリコン単結晶を製造するとき、前記ルツボの回転速度を0.2rpm以下とすることが好ましい。
このようにすれば、低酸素濃度のシリコン単結晶を、より確実に製造することができる。
【0021】
また前記シリコン単結晶を製造するとき、
製造したシリコン単結晶から切り出して選択エッチングを行ったウェーハにおいて、FPD欠陥及びLEP欠陥が検出されないように、前記シリコン単結晶の引上げ速度を制御することが好ましい。
このようにすれば、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハを用いてデバイスを作製した場合に、リークや耐圧不良が発生するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキが所望の値のシリコン単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のシリコン単結晶の製造方法で用いることができる単結晶製造装置の一例を示した概略図である。
図2】強制対流強度USRと自然対流強度Uとの比USR/Uと、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述したように、近年、CZ法によるシリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを所望の値で得ることができない場合があるという問題があった。
【0025】
そこで、本発明者らはこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ルツボ内の原料融液の主な対流は、結晶回転による強制対流と、原料融液内の温度差による自然対流の2種類であり、それらの強さのバランスで抵抗率の面内分布が決定していることを発見した。そして、強制対流強度USRと、自然対流強度Uとの比USR/Uに基づいてシリコン単結晶の製造条件を制御することにより、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを制御することができることに想到した。そして、これらを実施するための最良の形態について精査し、本発明を完成させた。
【0026】
以下では、まず、本発明のシリコン単結晶の製造方法で用いることができる、図1に示すような単結晶製造装置1について説明する。
図1に示すように、単結晶製造装置1は、メインチャンバー2と、メインチャンバー2の上部に接続され、育成したシリコン単結晶3がワイヤー4により引上げられて収納される引上げチャンバー5とを具備する。メインチャンバー2には、原料融液6を収容する内側が石英ルツボ、外側が黒鉛ルツボにより構成されているルツボ7と、ルツボ7と同心円状に配置されたヒーター8が配置されている。
【0027】
メインチャンバー2の外周部には、磁場印加装置9が設けられている。磁場印加装置9は、ルツボ7内の原料融液6に所望の強さの水平磁場を印加することができる。
ワイヤー4の上方には、結晶回転制御装置10が設けられている。結晶回転制御装置10は、引き上げる際のシリコン単結晶3の結晶回転速度を制御することができる。
ルツボ7の下部には、ルツボ回転制御装置11が設けられている。ルツボ回転制御装置11は、ルツボ7の回転速度を制御することができる。
【0028】
次に、図1の装置を用いた本発明のシリコン単結晶の製造方法を説明する。
まず、MCZ法によるシリコン単結晶の製造の基本的な工程について説明する。ルツボ7にシリコンの高純度多結晶を充填し、該高純度多結晶をヒーター8によって加熱して、原料融液6とする。そして、ワイヤー4を巻きおろし、種結晶を原料融液6の融液面に接触又は浸漬させる。
【0029】
このとき、種結晶を原料融液6に着液させた際に生じる転位を消滅させるため、一旦、成長初期の結晶を3〜5mm程度まで細く絞り、転位が抜けたところで径を所望の直径まで拡大して、目的とする直径及び品質のシリコン単結晶3を成長させていく。或いは、このような種絞りを行わず、先端が尖った種結晶を用いて、該種結晶を原料融液6に静かに接触して所定径まで浸漬させてから引き上げを行う無転位種付け法を適用してシリコン単結晶3を育成することもできる。
【0030】
その後、必要に応じてルツボ回転制御装置11でルツボ7を適宜の方向に回転させるとともに、結晶回転制御装置10でワイヤー4を回転させながら巻き取り、種結晶を引き上げることにより、シリコン単結晶3の育成が開始される。なお、シリコン単結晶3の育成の際には、磁場印加装置9により、水平磁場を印加する。そして、所定の製造条件となるように制御しながら、シリコン単結晶3の引き上げを行うことで、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキが所望の値のシリコン単結晶を製造することができる。
【0031】
以下、本発明における、この所定の製造条件について詳述する。
本発明のシリコン単結晶の製造方法では、シリコン単結晶の回転に起因する原料融液の強制対流強度USRと、原料融液内の温度差に起因する原料融液の自然対流強度Uとの比USR/Uを用いて製造条件を制御しつつシリコン単結晶を製造する。より具体的には、それらをシリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキの指標として用い、該指標に基づいてシリコン単結晶の製造条件を制御することにより、径方向面内の抵抗率のバラツキを制御してシリコン単結晶を製造する。このようにすれば所望の値に抵抗率のバラツキを制御することができる。
【0032】
なお、本発明における、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキは、例えば、以下のようにして算出したものとすることができる。
まず、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハの抵抗率を中心から外周5mmまで10mm以下のピッチで複数点測定する。そして、測定した際の全測定値中の最大値をRmax、最小値をRminとし、100×(Rmax−Rmin)/Rmin[%]の算出値をシリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキ(以下、ウェーハ面内の抵抗率のバラツキまたはRRGとも言うことがある)とすることができる。
ただし、上記定義に限定されず、測定ピッチや上記算出式をクライアントの要望等に応じて適宜決定することができる。例えば、ピッチを5mm以下にできる。
【0033】
このとき、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを例えば10%以下に制御することが好ましい。
このようにすれば、デバイス作製後のデバイス特性のバラツキを十分に小さく抑えることができる。必要に応じて8%以下、さらには5%以下とすることができる。バラツキが小さいほど品質をそろえることができ、好ましい。
【0034】
そして、上記のようにして目標とする抵抗率のバラツキを設定し、該抵抗率のバラツキになるようなUSR/Uを決定する。さらには、該USR/Uを得られるような各種の製造条件の制御値を決定し、該制御値に制御しつつシリコン単結晶を製造する。上記の制御値を決定するまでの手順は、例えばシミュレーションにより行うこともできるし、過去の製造データに基づいて行うことも可能である。
このようにすれば、より少ない試行回数で、より効率良く所望の値の抵抗率のバラツキのものを製造できる。
【0035】
なお、強制対流強度USRや自然対流強度Uの調整のために制御する製造条件は、シリコン単結晶の半径a[cm]、シリコン単結晶の回転速度ω[rpm]、固液界面における中心磁場強度B[T]、原料融液内の温度差ΔT[K]を含むことが好ましい。ただし、当然これらに限定されるものではない。
【0036】
製造するシリコン単結晶の半径aとしては、シリコン単結晶の引き上げ時の直胴部の半径に従い、例えば10.3cm(直径206mm)又は15.3cm(直径306mm)とすることができる。
【0037】
シリコン単結晶の回転速度ωは、結晶回転制御装置によって制御された回転速度とすることができる。固液界面における中心磁場強度Bは、磁場印加装置によって固液界面の結晶中心位置に印加された水平磁場の強さとすることができる。
【0038】
原料融液内の温度差ΔTは、熱数値解析シミュレーションソフトFEMAGの計算などにより求めることができる。具体的には、例えば、ルツボと原料融液の接触面において最も高温となる部分をルツボ壁の最も温度が高いところとし、最も低温となる部分を原料融液の表面とルツボの接触点の温度として、両者の温度差を原料融液内の温度差ΔTとすることができる。
なお、シリコン単結晶の長さに従って、ΔTの値が変化していくため、熱数値解析シミュレーションソフトFEMAGで計算に用いるシリコン単結晶の長さ又は固化率は常に同程度に設定しておくことが好ましい。例えば、固化率0.15〜0.2程度の範囲に設定することができる。
【0039】
また、強制対流に影響するパラメータは結晶半径a[cm]、結晶回転速度ω[rpm]とすることができ、対流の強さとしてaωで表される。さらに固液界面における中心磁場強度B[T]も影響する。磁場強度は原料融液の流れを止める働きがあり、磁場強度が強いほど対流が弱くなるので、強制対流強度USRを、USR=aω/Bと表すことができる。
【0040】
また、自然対流に影響するパラメータは原料融液内の温度差ΔTとすることができる。水平磁場印加方式(HMCZ)の場合、磁力線に対して垂直な断面中の対流でかつ、ルツボ及び原料融液表面付近を流れる部分の原料融液に関しては、磁場による対流の抑制効果が小さいため、自然対流強度UをU=ΔTと表すことができる。
【0041】
そして、上記の強制対流強度USRと自然対流強度Uの比USR/Uすなわち、aω/(BΔT)のとる値に基づいて、製造条件を制御することができる。
このようにすれば、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを所望の値とすることがより確実にできる。
【0042】
比USR/Uのとる値に基づいて、製造条件を制御する方法として、具体的には、例えば、比USR/Uが、6000以上15000以下になるように、シリコン単結晶の製造条件を制御することが好ましい。
このようにすれば、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキを所望の小さい値とすることができ、特には10%以下にするのに好適である。なお、上記の比USR/Uの数値の範囲を見出した実験について、ここで説明する。
【0043】
(実験)
図1に示すような単結晶製造装置1で、n型のシリコン単結晶3の製造を複数回行った。このときに、シリコン単結晶3の半径a[cm]、シリコン単結晶3の回転速度ω[rpm]、固液界面における中心磁場強度B[T]、原料融液内の温度差ΔT[K]の製造条件を変更することで、強制対流強度USRをUSR=aω/B、自然対流強度UをU=ΔTとしたときの比USR/Uのとる値を変化させて、種々のシリコン単結晶を製造した。
【0044】
次に、製造したシリコン単結晶3から切り出したウェーハの抵抗率を中心から外周5mmまで5mmのピッチで複数点測定した。この際の全測定値中の最大値をRmax、最小値をRminとしたときに、ウェーハの径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)をRRG=100×(Rmax−Rmin)/Rminの式により算出した。
【0045】
そして、上記測定により得られた、強制対流強度USRと自然対流強度Uとの比USR/Uと、シリコン単結晶ウェーハの径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)との関係を図2に示した。
【0046】
その結果、図2に示すように、グラフの中央の領域でRRGが低下することが分かった。そして、RRGが10%以下となるUSR/Uの下限は6000、上限は15000であった。USR/Uが15000より大のときにRRGが高くなる原因は、USRが強くなることで固液界面形状の上凸度が上がり、上凸の領域中に流れが滞留する部分ができ、面内の抵抗率の均一性が減少するためと考えられる。
【0047】
また、USR/Uが6000未満のときにRRGが高くなる原因は、USRが弱すぎることで結晶の中心部の流れが止まり、滞留する領域ができるためと考えられる。
図2のグラフの中央の領域は、界面形状が大きく上凸にならず、かつ強制対流がある程度形成されるために滞留領域の形成が抑えられているために、RRGが低く抑えられていると考えられる。このようにして抵抗率のバラツキが10%以下となるのに、より好適なUSR/Uの範囲を求めた。
【0048】
また、製造するシリコン単結晶の格子間酸素濃度を4×1017atoms/cm(ASTM‘79)以下とすることが好ましい。
シリコン単結晶から切り出されたウェーハに低温熱処理を施した際に、ウェーハ内で格子間酸素に由来するサーマルドナーが発生して、ウェーハ面内の抵抗率の分布を変化させてしまうため、上記のような低酸素濃度のものが好ましい。
【0049】
シリコン単結晶を製造するとき、ルツボの回転速度を0.2rpm以下とすることが好ましい。
このようにすれば、低酸素濃度のシリコン単結晶を製造することができる。また、強制対流に影響するパラメータとしては結晶半径等の他、ルツボの回転速度も挙げられるが、このようなルツボの回転速度であれば、ルツボ回転によって生じる原料融液の強制対流への影響が、結晶回転による強制対流に比べて小さい。そのため、ルツボ回転の影響を考慮する必要性を省くことができ、簡便である。
【0050】
一方、ルツボの回転速度を大きくするなどして、製造するシリコン単結晶の格子間酸素濃度が4×1017atoms/cm(ASTM‘79)よりも高いような場合においては、ルツボ回転が原料融液の強制対流へ与える影響についても考慮するのが好ましい。
【0051】
また、シリコン単結晶を製造するとき、製造したシリコン単結晶から切り出して選択エッチングを行ったウェーハにおいて、FPD(Flow Pattern Defect)欠陥及びLEP(Large Etch Pit)欠陥が検出されないように、シリコン単結晶の引上げ速度を制御することが好ましい。
このように、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハを用いてデバイスを作製した場合、リークや耐圧不良の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
図1に示すような単結晶製造装置1を準備した。
製造するシリコン単結晶3はn型で、引き上げ時の直径206mm(半径10.3cm)のものとした。さらに、シリコン単結晶3の径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下になるようなUSR/Uを検討したところ、図2と同様の結果を得た。そこで、USR/Uが6000以上15000以下となるような製造条件を検討した。
【0054】
熱数値解析シミュレーションソフトFEMAGで、単結晶製造装置1の炉内部品を用いた場合の原料融液内の温度差ΔTを計算し求めたところ、20.5Kと求められた。
このとき、固液界面における中心磁場強度を0.376Tとした場合に、USR/Uが6000以上15000以下となる結晶回転速度ωは、3.3−8.1rpmの範囲内であることが分かった。
【0055】
そこで、制御値として、結晶回転速度ωを5.0rpm、中心磁場強度を0.376T、原料融液内の温度差ΔTを20.5Kと決定した。この製造条件におけるUSR/Uは9200となり、6000以上15000以下を満たしている。なお、ルツボの回転速度は0.05rpmとした。また、USR=aω/B、U=ΔTとした。
【0056】
上記したような製造条件で、シリコン単結晶を製造した。そして、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハ面内の抵抗率のバラツキ(RRG)と、中心酸素濃度を、シリコン単結晶の直胴部の全域にわたり測定した。そして、上記した製造条件および、測定結果を表1に示した。なお、表1には後述する比較例1及び比較例2における結果も併せて記した。
【0057】
なお、RRGは、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハの抵抗率を中心から外周5mmまで5mmのピッチで測定した際の全測定値中の最大値をRmax、最小値をRminとしたときの、(Rmax−Rmin)/Rminの算出値とした。
【0058】
【表1】
【0059】
その結果、表1に示すように、シリコン単結晶の直胴部の全域にわたり、RRGは2.9〜8.8%で、酸素濃度は2.4〜3.2×1017atoms/cmの低濃度であった。また、直胴部全域にわたり中心抵抗率は、33〜65Ωcmであった。
このように、RRGが10%以下となり、所望の値のシリコン単結晶を製造することができた。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様の単結晶製造装置を用いたものの、USR/Uを指標として用いずに(すなわちUSR/Uは考慮せず)、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下を所望の値として、製造条件を決定した。
【0061】
決定した製造条件は、結晶回転速度を2.0rpmとした以外は実施例1と同様の製造条件であった。このような製造条件でシリコン単結晶の製造を行った。
【0062】
製造したシリコン単結晶の直胴部においてコーン部との境目から40cmの箇所(以下、単に直胴部40cmという)における中心酸素濃度、及びRRGを実施例1と同様にして測定した。このときの結果を上記の表1に示した。
【0063】
その結果、表1に示したように、参考として計算したところ、比較例1の製造条件ではUSR/Uが3700であった。そのため、RRGは19.4%となり、所望の値(10%以下)よりも大きな値となった。なお、中心酸素濃度は、1.1×1017atoms/cmであった。
【0064】
(比較例2)
結晶回転速度を、9.0rpmとした以外は、比較例1と同様の製造条件で、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキが10%以下を所望の値として、シリコン単結晶の製造を行った。
【0065】
製造したシリコン単結晶の直胴部40cmにおける中心酸素濃度、及びウェーハ面内の抵抗率のバラツキを実施例1と同様にして測定した。このときの結果を上記の表1に示した。
【0066】
その結果、表1に示したように、比較例2の製造条件ではUSR/Uが16500であったため、ウェーハ面内の抵抗率のバラツキは、11.9%となり、比較例1に比べて改善したが、所望の値の10%以下にはならなかった。なお、中心酸素濃度は、3.6×1017atoms/cmであった。
【0067】
(実施例2)
実施例1で用いた単結晶製造装置の炉内部品を変更し、このときの原料融液内の温度差ΔTを計算したところ、37.6Kであった。このときに、面内抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下になるように、USR/Uが6000以上15000以下となるような、製造条件を検討した。その結果、結晶回転速度は実施例1と同様に5.0rpmで固定したときに、RRGが良好になるように、固液界面における中心磁場強度を0.360Tとした。このときの製造条件におけるUSR/Uは6500となり、6000以上15000以下を満たしている。
【0068】
上記したような製造条件で、シリコン単結晶を製造した。そして、製造したシリコン単結晶の直胴部40cmから切り出したウェーハ面内の抵抗率のバラツキ(RRG)と、中心酸素濃度を実施例1と同様にして直胴部の全域にわたり測定した。上記した製造条件および、測定結果を表2に示した。なお、表2には後述する比較例3における結果も併せて記した。
【0069】
【表2】
【0070】
その結果、直胴部40cmにおける酸素濃度は3.9×1017atoms/cm、RRGは9%となった。なお、直胴部全域において測定しても、RRGは10%以下であった
このように、RRGが10%以下となり、所望の値のシリコン単結晶を製造することができた。
【0071】
(比較例3)
実施例2と同様の単結晶製造装置を用いたものの、USR/Uを指標として用いずに、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下を所望の値として、製造条件を決定した。
【0072】
決定した製造条件は、磁場強度を0.389Tとした以外は実施例2と同様の製造条件であった。このような製造条件でシリコン単結晶の製造を行った。
【0073】
製造したシリコン単結晶の直胴部40cmにおける中心酸素濃度、及びRRGを実施例2と同様にして測定した。このときの結果を上記の表2に示した。
【0074】
その結果、表2に示すように、比較例3の製造条件ではUSR/Uが4100であったため、RRGは19.8%となり、所望の値(10%以下)よりも大きな値となった。中心酸素濃度は、2.8×1017atoms/cmであった。
【0075】
(実施例3)
実施例1、2から、製造するシリコン単結晶を引き上げ時の直径306mm(半径15.3cm)に変更した。そして、面内抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下になるように、USR/Uが6000以上15000以下となるような、製造条件を検討した。
【0076】
シミュレーションにより計算したところ、原料融液内の温度差ΔTは12.1Kであったので、固液界面における中心磁場強度が0.387Tのときの結晶回転速度を試算し、2.0rpmとした。上記した製造条件におけるUSR/Uは11500となり、6000以上15000以下を満たしている。なお、ルツボの回転速度は0.05rpmとした。
【0077】
上記したような製造条件で、シリコン単結晶を製造した。そして、製造したシリコン単結晶から切り出したウェーハ面内の抵抗率のバラツキ(RRG)と、中心酸素濃度を直胴部全域にわたり測定した。上記した製造条件および、測定結果を表3に示した。なお、表3には後述する比較例4における結果も併せて記した。
【0078】
【表3】
【0079】
その結果、表3に示すように、直胴部全域にわたり、面内の抵抗率のバラツキは5.9〜8.1%で、中心酸素濃度が、2.9〜3.5×1017atoms/cmであった。また、直胴部全域にわたり中心抵抗率は、31〜60Ωcmであった。
このように、RRGが10%以下となり、所望の値のシリコン単結晶を製造することができた。
【0080】
(比較例4)
実施例3と同様の単結晶製造装置を用いたものの、USR/Uを指標として用いずに、シリコン単結晶の径方向面内の抵抗率のバラツキ(RRG)が10%以下を所望の値として、製造条件を決定した。
【0081】
決定した製造条件は、結晶回転速度を4.0rpmとした以外は実施例3と同様の製造条件であった。このような製造条件でシリコン単結晶の製造を行った。
【0082】
製造したシリコン単結晶の直胴部40cmにおける中心酸素濃度、及びRRGを実施例3と同様にして測定した。このときの結果を上記の表3に示した。
【0083】
その結果、表3に示したように、比較例4の製造条件ではUSR/Uが23000であったため、RRGは11.4%となり、所望の値(10%以下)よりも大きな値となった。中心酸素濃度は、7.0×1017atoms/cmであった。
【0084】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0085】
実施例では抵抗率のバラツキが10%以下のものを求め、USR/Uの値が6000以上15000以下となるように制御したが、これに限定されない。例えば所望の抵抗率のバラツキとして、より大きな値(または、より小さな値)を設定してUSR/Uの設定値もそれに合わせて自由に設定した上で製造条件を適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0086】
1…単結晶製造装置、 2…メインチャンバー、 3…シリコン単結晶、
4…ワイヤー、 5…引上げチャンバー、 6…原料融液、 7…ルツボ、
8…ヒーター、 9…磁場印加装置、 10…結晶回転制御装置、
11…ルツボ回転制御装置。
図1
図2