(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である請求項7記載の物品。
一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの片面又は両面に貼着された請求項11記載の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、分子中に2つ以上の異なる官能基を有し、通常では結合させにくい有機質材料と無機質材料とを連結させる仲介役として作用している。官能基の一方は加水分解性シリル基であり、水の存在によりシラノール基を生成し、このシラノール基が無機材質表面の水酸基と反応することで、無機材質表面と化学結合を形成する。また、他の官能基は、各種合成樹脂のような有機質材料と化学結合を形成するビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機反応基である。このような特性を用いて、有機・無機樹脂の改質剤、接着助剤、各種添加剤等として幅広く用いられている。
【0003】
シランカップリング剤の中でもイソシアネート基を有するものは、水酸基1級及び2級のアミノ基、カルボン酸基等活性水素構造基との反応性に優れるため、接着向上剤としての用途にのみならず、有機ポリマーへ加水分解性シリル基を導入するといった樹脂改質剤として有用である。
【0004】
イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を効率的に且つ工業的に製造する方法はいくつか提案されており、一般的にはアミンとホスゲンの反応、もしくはカルバメートの熱分解による製法が挙げられる。前者では特公平5−8713号公報、特公平5−8714号公報、特許第3806459号公報(特許文献1〜3)等で技術が開示されているが、ホスゲンの毒性の観点から取り扱いが困難であり、発生する塩酸塩の捕捉、除去等で生産性に課題がいまだ残されている。
【0005】
後者では特開平10−1486号公報、特許第2686420号公報、特許第2963309号公報、特許第4778844号公報(特許文献4〜7)等で技術が開示されており、ホスゲン法に比べ毒性も少なく、副生物も少ないことから小中規模のイソシアネート製造として主流となっているが、高温で発生するアルコールを効率よく除去する製造装置を導入する必要があり、工業的な点から課題が残っていた。
【0006】
尚、シランカップリング剤の一般的な合成法としてヒドロシランとオレフィン化合物のヒドロシリル化反応による手法が公知である。該方法をイソシアネートシランに適用させることを考えた場合、ヒドロシランと重合性基含有イソシアネートによるヒドロシリル化が挙げられるが、重合性基含有イソシアネートの工業品として代表的なアリルイソシアネートは高い毒性を有する他、窒素含有化合物であり、ヒドロシリル化反応触媒である白金錯体の触媒毒となることから該反応は現実的では無いと言える。
【0007】
また、工業的に入手容易なジイソシアネート化合物1モルとアミノシランやメルカプトシランといった活性水素含有構造基を有する有機ケイ素化合物1モルを反応させることでも未反応イソシアネート基が残存した有機ケイ素化合物が得られるが、この場合イソシアネートと活性水素含有構造基の反応性に選択性が無いことから原料のジイソシアネートが残存するケースもある他、反応により生成する尿素結合、チオウレタン結合のNH構造と残存イソシアネートが反応するといった副反応が生じることから、狙う目的物を単一に得ることが難しく、得られる反応物も安定性確保に課題が残る。
【0008】
ところで、粘着剤の接着性改質剤としての用途もシランカップリング剤の代表的なものであり、例えば、液晶セルと光学フィルムを貼り付ける際の粘着剤は、液晶表示装置(LCD)のサイズの大型化、ワイド化に伴い、求められている接着性能が高度なものとなっている。LCDの場合、20インチ以上の大型化が困難であるといった当初の予想とは異なり、急速な大型化が進んでいる。主要メーカーは、これまで20インチ以下の小型パネルの生産を主力としてきたが、近年の流れを受けて最新技術を積極的に導入し、製品範囲を20インチ以上の大型サイズへと展開している。
【0009】
このように、諸般の光学フィルムにおいて、液晶表示板の製造時に使用されるガラスは大型化される趨勢である。ところが、初期貼り付け時に不良製品が発生して、液晶セルから光学用フィルムを除去し、液晶セルを洗浄した後に再使用する場合、従来の高粘着力を有する粘着剤を使用していたならば、光学フィルムの再剥離の際に強い接着力によって光学フィルムを除去することが困難であるだけでなく、高価な液晶セルを破壊する可能性が大きいため、結果的に生産コストを大幅に上げてしまうこととなっている。
【0010】
従って、LCDの大型化に伴い、接着性、リワーク性等の諸粘着性能を両立する高機能性の粘着剤を開発しようとする試みが継続している。例えば、特許第3022993号公報、特許第5595034号公報(特許文献8,9)には、高温多湿の環境下における耐久性に優れた偏光板を提供する目的で、エポキシシラン、イソシアネートシランを含有するアクリル系粘着剤組成物が提案されている。
【0011】
また、特開2011−219765号公報、特許第4840888号公報、国際公開第2010/26995号(特許文献10〜14)には、初期接着力は低く、リワーク性に優れ、貼り付け後は高温多湿下で接着力が増強され、長期的に耐久性に優れる粘着剤として、ポリエーテル末端にアルコキシシリル基を持った有機ケイ素化合物を含むアクリル系粘着剤が提案されている。
【0012】
このようなシラン化合物を含有することによって、基板と偏光板は、実際使用される環境で要求される程度の適切な接着強度を保持することができ、接着強度は加熱等によって過度に高くならず、液晶素子に損傷を与えることなく、容易に偏光板を剥離することができるとされている。
【0013】
さらに近年の技術動向としては、タッチセンサーLCDの普及に伴い、粘着剤層とインジウムスズオキサイド(ITO)に代表される透明電極層が直接接触するような設計が主流となってきている。このような製品設計においては粘着剤として主流であったカルボン酸基含有型アクリルポリマーベースだとITOの腐食が懸念されるため、代替にOH基含有型のアクリルポリマーをベースとした粘着剤組成に技術変遷している。
【0014】
しかしながら、このような酸フリーのベースポリマー組成の粘着剤においては、従来の粘着剤で有効であったシランカップリング剤では効果が限定的であり、同水準以上の性能を発現するに寄与するシランカップリング剤は見つかっていなかった。
【0015】
以上のことから、イソシアネート基含有の有機ケイ素化合物は、簡便且つ汎用性に富む製法が望まれており、またシランカップリング剤としての用途においては、初期のリワーク性及び高温多湿下における高い接着強度を保持するバランスの取れた酸フリーベースポリマー型粘着剤の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、簡便且つ汎用性に富むイソシアネート基含有有機化合物の製法ならびにそれにより得られるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物、該化合物を用いた接着剤、粘着剤およびコーティング剤を提供することを目的とする。また、ガラス繊維製品、粘着偏光板、液晶表示装置等の各種物品を提供することを他の目的とする。
該有機ケイ素化合物をシランカップリング剤として含む粘着剤組成物は、ITO等の易腐食性被接着体を腐食させることなく貼り付ける際に初期接着力が低くてリワーク性に優れ、貼り付けた後に高温又は高温多湿処理を経た後は被接着体との接着力が増加し、長期的耐久性に優れた粘着剤層を提供可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、メルカプト基を有する有機ケイ素化合物と重合性基を有するイソシアネート化合物のエン−チオール付加反応により、相当するイソシアネート基含有有機ケイ素化合物が得られることを知見した。得られる反応物は、イソシアネート基と加水分解性シリル基の連結鎖に硫黄原子が必ず含まれた特定の連結構造を含むシランカップリング剤であり、接着改質剤として使用することにより、既存技術にて使用されるシランカップリング剤と比較して硫黄含有連結構造により疎水性が増加し、有機部分の占める割合が多くなり、結果、樹脂との相溶性が向上し、水酸基を有するマトリックス樹脂との結合力、相互作用に優れ、初期リワーク性と、高温又は高温多湿下での高接着力とを両立可能となる粘着剤が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0019】
従って、本発明は、下記有機ケイ素化合物とその製造方法、接着剤、粘着剤、コーティング剤、及び各種物品を提供する。
〔1〕
下記一般式(3)
【化1】
(式中、Xは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、Aは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、nは1〜3の整数であり、R
1は水素原子又はメチル基である。)
で示されることを特徴とするイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物。
〔2〕
R
1が水素原子であることを特徴とする〔1〕記載のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物。
〔3〕
〔1〕又は〔2〕記載のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法であって、(i)下記一般式(4)で示されるメルカプト基含有有機ケイ素化合物と
【化2】
(式中、X、R、A、nは上記と同義である。)
(ii)2−イソシアナトエチルアクリラート又は2−イソシアナトエチルメタクリラートとをラジカル発生剤の存在下においてエン−チオール付加反応させることを特徴とするイソシアネート基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
〔4〕
〔1〕又は〔2〕記載のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物を含む接着剤。
〔5〕
〔1〕又は〔2〕記載のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物を含む粘着剤であって、
(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー 100質量部
(B)該イソシアネート基含有有機ケイ素化合物 0.001〜10質量部
(C)多官能架橋剤 0.01〜10質量部
を含有することを特徴とする粘着剤。
〔6〕
〔1〕又は〔2〕記載のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物を含むコーティング剤。
〔7〕
〔6〕記載のコーティング剤で被覆又は表面処理されてなる物品。
〔8〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、ガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパーから選ばれるガラス繊維製品である〔7〕記載の物品。
〔9〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、無機フィラーである〔7〕記載の物品。
〔10〕
コーティング剤により被覆又は表面処理される基材が、セラミック又は金属である〔7〕記載の物品。
〔11〕
偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面又は両面に〔5〕記載の粘着剤から形成される粘着剤層とを有することを特徴とする粘着偏光板。
〔12〕
一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルと、この液晶セルの片面又は両面に貼着された〔11〕記載の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、入手容易な既存の工業原料を使用しながら、簡便にイソシアネート基含有の有機ケイ素化合物を得ることができる。得られた有機ケイ素化合物はイソシアネート基と加水分解性シリル基の連結鎖に硫黄原子が必ず含まれた特定の連結構造を含み、粘着剤用途においてシランカップリング剤を接着改質剤の必須成分として配合することにより、初期リワーク性と、高温又は高温多湿下での高接着力とを両立可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「シランカップリング剤」は「有機ケイ素化合物」に含まれる。
【0023】
[有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)]
本発明のイソシアネート基を含有する有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)
【化6】
(式中、Xは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基であり、Aは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、Bはエステル基を介してもよい炭素数2〜10の二価炭化水素基であり、nは1〜3の整数を示す。)
で示される。より好ましくは下記一般式(2)
【化7】
(式中、X、R、A、nは上記と同義である。)
又は下記一般式(3)
【化8】
(式中、X、R、A、nは上記と同義であり、R
1は水素原子又はメチル基である。)
で示される。
尚、上記式(3)の場合、R
1が水素原子であることが後述する製造時の生産効率の観点から好ましい。
【0024】
上記のXにおける炭素数1〜4の一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。これは後述する反応原料となるメルカプト基含有シランカップリング剤の入手が容易なためである。
【0025】
上記のRにおける炭素数1〜6の一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基やフェニル基が挙げられ、アルキル基に関しては鎖状、分岐状、環状の何れでもよい。好ましくはメチル基であり、これは後述する反応原料となるメルカプト基含有シランカップリング剤の入手が容易なためである。
【0026】
上記のAにおける炭素数1〜10の二価炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノナレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられ、鎖状、分岐状、環状の何れでもよい。好ましくはプロピレン基、ヘキシレン基、オクチレン基であり、更に好ましくはプロピレン基であり、これは後述する反応原料となるメルカプト基含有シランカップリング剤の入手が容易なためである。
【0027】
上記のBにおけるエステル基を介してもよい炭素数2〜10の二価炭化水素基のうち、エステル基を介さない炭素数2〜10の二価炭化水素基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノナレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられ、鎖状、分岐状、環状の何れでもよい。エステル基を介する炭素数2〜10の二価炭化水素基の具体例としては、3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基、2−メチル−3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基、3−オン−4−オキサ−オクタン−1,8−ジイル基、2−メチル−3−オン−4−オキサ−オクタン−1,8−ジイル基、3−オン−4−オキサ−デカン−1,10−ジイル基、2−メチル−3−オン−4−オキサ−デカン−1,10−ジイル基などが挙げられる。好ましくはメチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基、2−メチル−3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基であり、更に好ましくはプロピレン基、3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基、2−メチル−3−オン−4−オキサ−ヘキサン−1,6−ジイル基であり、これは後述する反応原料となる不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物の入手が容易なためである。
【0028】
上記より具体的な構造のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物としては、下記化合物群で示すことができるが、ここに示すものに限らない。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基である。)
【0029】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、
(i)下記一般式(4)で示されるメルカプト基含有有機ケイ素化合物と
【化33】
(式中、X、R、A、nは上記と同義である。)
(ii)下記一般式(5)で示される不飽和二重結合含有イソシアネート化合物とを
【化34】
(式中、Zは不飽和二重結合を含むエステル基を介してもよい炭素数2〜10の一価炭化水素基である。)
ラジカル発生剤の存在下においてエン−チオール付加反応させることにより合成される。
【0030】
更に詳述すると、下記のような反応式によってメルカプト基と炭素−炭素二重結合が付加反応しチオエーテル結合が形成されることで、加水分解性シリル基とイソシアネート構造を含むシランカップリング剤が得られる。
【0032】
本反応に使用するメルカプト基含有有機ケイ素化合物におけるR、A、X、nは前述したとおりであり、その中でも入手の容易なものとしては、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルジメチルメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、メルカプトメチルジメチルエトキシシラン、メルカプトオクチルトリメトキシシラン、メルカプトオクチルメチルジメトキシシラン、メルカプトオクチルジメチルメトキシシラン、メルカプトオクチルトリエトキシシラン、メルカプトオクチルメチルジエトキシシラン、メルカプトオクチルジメチルエトキシシランなどが挙げられ、その中でもより工業的に入手が容易なメルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0033】
本反応に使用する不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物は、特に入手の容易なものとしてはアリルイソシアネート、2−イソシアナトエチルアクリラート、2−イソシアナトエチルメタクリラートなどが挙げられ、その中でも毒性の観点から低毒性で取り扱いのしやすい2−イソシアナトエチルアクリラート、2−イソシアナトエチルメタクリラートが挙げられ、さらに好ましくはエン−チオール反応性に富んだ2−イソシアナトエチルアクリラートがもっとも好ましい。
【0034】
上記メルカプト基含有有機ケイ素化合物と不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物との反応割合は、不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物1モルに対し、メルカプト基含有有機ケイ素化合物が0.9〜1.1モル、特に0.95〜1.05モルとなるように反応させることが好ましい。
【0035】
本反応に使用するラジカル発生剤としては熱ラジカル発生剤、光ラジカル発生剤が挙げられ、好ましくはアゾ化合物や過酸化物などの熱ラジカル発生剤である。
【0036】
熱ラジカル発生剤としては、ジアルキルパーオキサイド類(ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド類[ジアルカノイルパーオキサイド(ラウロイルパーオキサイドなど)、ジアロイルパーオキサイド(ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルトルイルパーオキサイド、トルイルパーオキサイドなど)など]、過酸エステル類[過酢酸t−ブチル、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの過カルボン酸アルキルエステルなど]、ケトンパーオキサイド類、パーオキシカーボネート類、パーオキシケタール類などの有機過酸化物;アゾニトリル化合物[2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)など]、アゾアミド化合物{2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}など}、アゾアミジン化合物{2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩など}、アゾアルカン化合物[2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)など]、オキシム骨格を有するアゾ化合物[2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)など]などのアゾ化合物などが挙げられる。熱ラジカル発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
光ラジカル発生剤としては例えば、ベンゾイン類(ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など);アセトフェノン類(アセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−フェニル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなど);プロピオフェノン類(p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなど);ブチリルフェノン類[1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンなど];アミノアセトフェノン類[2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)−ブタン−1−オンなど];ベンゾフェノン類(ベンゾフェノン、ベンジル、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのN,N’−ジアルキルアミノベンゾフェノンなど);ケタール類(アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなど);チオキサンテン類(チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテンなど);アントラキノン類(2−エチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノンなど);(チオ)キサントン類(チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなど);アクリジン類(1,3−ビス−(9−アクリジニル)プロパン、1,7−ビス−(9−アクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス−(9−アクリジニル)ペンタンなど);トリアジン類(2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジンなど);スルフィド類(ベンジルジフェニルサルファイドなど);アシルフォスフィンオキサイド類(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなど);チタノセン類;オキシムエステル類などが例示できる。これらの光ラジカル発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
ラジカル発生剤の使用量は、メルカプト基含有有機ケイ素化合物と不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物の総量100質量部に対して、0.01〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部の範囲から選択できる。
【0039】
反応温度は25〜120℃が好ましく、より好ましくは60〜100℃である。25℃より低温だと反応速度が低くなる場合があり、120℃よりも高いとオレフィン化合物同士の重合等の副反応が生じる可能性がある。なお、反応時間は特に制限されないが、通常10分〜24時間である。
【0040】
本反応はメルカプト基含有有機ケイ素化合物とラジカル発生剤の存在下に不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物を滴下して反応させることを特徴とする。仕込みと滴下の原料を逆にしてしまうと不飽和炭化水素二重結合構造基含有のイソシアネート化合物の単独重合が生じるのみであり、目的の化合物が得られない。
【0041】
反応させる際に溶媒を使用してもよく、メルカプト基、イソシアネート基ならびに不飽和炭素−炭素二重結合と反応しない溶媒であればいずれを使用してもよい。具体的には炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等が挙げられ、より具体的には炭化水素系溶媒としてペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等、芳香族系溶媒としてベンゼン、トルエン、キシレン等、ケトン系溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等、エステル系溶媒として酢酸エチル、酢酸ブチル、ラクトン等、エーテル系溶媒としてジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。この中でも工業的に入手が容易なトルエン、キシレンなどが好ましい。
【0042】
本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物をコーティング剤、プライマーとして使用する場合には、必要に応じて溶剤を含有してもよい。この場合、イソシアネート基含有有機ケイ素化合物の含有量は全体の0.1〜90質量%、特に1〜50質量%であることが好ましく、残部は上記任意成分としての溶剤である。溶剤としては上述した反応溶媒と同じもので構わない。
【0043】
被覆及び処理する基材としては、一般に加水分解性シリル基と反応し結合を形成する無機材質及びイソシアネート基と反応して結合する有機樹脂であれば適用可能であり、基材の形状については特に指定されない。その中でも代表的な無機材質としては、シリカ等の無機フィラーやガラス繊維をはじめとしたガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品、セラミック、金属基材等が挙げられる。また、代表的な有機樹脂としてはポリエーテル、ポリビニルアルコール、水酸基含有アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられるが、ここに例示されたものに限らない。
【0044】
次に、本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を含む粘着剤について説明すると、該粘着剤は、
(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー〔(メタ)アクリル系共重合体〕 100質量部
(B)上記イソシアネート基含有有機ケイ素化合物 0.001〜10質量部
(C)多官能架橋剤 0.01〜10質量部
を含有するものが好ましい。
【0045】
このように本発明のイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を含む粘着剤の組成としては、(A)アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマー100質量部に対し、(B)イソシアネート基含有有機ケイ素化合物を0.001〜10質量部配合することが好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部である。0.001質量部未満である場合には所望とする接着性改質効果が発現せず、10質量部を超える場合には効果が飽和し、対費用効果が低下する他、元来のシランカップリング剤が持つ密着性向上効果の影響が大きくなり、初期の密着性が高くなりすぎてしまうおそれがあり好ましくない。
【0046】
ここで、アルコール性水酸基含有アクリル系ポリマーとしては、アルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとの共重合体が挙げられ、公知の共重合手順を用いて製造できる。アルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとしては一般工業品として入手可能なものでよく、一例としてはヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルも同様に一般工業品として入手可能なものでよく、一例としてはアルキル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のものが挙げられる。上記共重合体中の全モノマー単位に対するアルコール性水酸基含有(メタ)アクリルモノマー単位の含有割合は0.1〜50モル%の範囲であればよく、好ましくは1〜20モル%である。0.1モル%未満であると、所望の粘着性が得られない場合があり、50モル%を超えると粘着剤の粘度の上昇や凝集により粘着剤シート等への成形が困難となる場合がある。
【0047】
本発明にかかる粘着剤における(C)成分は、多官能架橋剤である。(C)成分の多官能架橋剤は、カルボキシル基や、水酸基等と反応することで粘着剤の凝集力を高める役割をする。架橋剤の含量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜10質量部で使用され、好ましくは0.05〜5質量部である。0.01質量部未満であると所望の凝集力向上効果が得られず、10質量部を超えると凝集を引き起こし、粘着剤シート等への成形が困難となる場合がある。
【0048】
多官能架橋剤は、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、金属キレート系架橋剤等を使用でき、その中でもイソシアネート系架橋剤が使用上容易である。イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォルムジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、これらとトリメチロールプロパン等のポリオールとの反応物(トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物等)等が挙げられる。
【0049】
エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジルエチレンジアミン、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0050】
アジリジン系架橋剤としては、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、トリエチレンメラミン、ビスイソプロタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0051】
金属キレート系架橋剤としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、チタン、アンチモン、マグネシウム、バナジウム等の多価金属がアセチルアセトン又はアセト酢酸エチルに配位した化合物等が挙げられる。
【0052】
粘着剤の製造方法は特に限定されず、前記した(A)〜(C)成分を通常の方法で混合して得られる。混合条件は、10〜150℃で10分〜10時間とすることが好ましい。この場合、上記イソシアネート基含有有機ケイ素化合物は、(メタ)アクリル系共重合体の重合の後、配合工程で添加して使用することができ、(メタ)アクリル系共重合体の製造工程中に添加しても同一な効果を示す。また、多官能架橋剤は、粘着剤組成物を硬化させて得られる粘着剤層形成のために実施する配合過程において、架橋剤の官能基架橋反応が殆ど生じない場合に均一なコーティングが可能となる。コーティングした後に乾燥及び熟成過程を経ると架橋構造が形成されて、弾性があり、凝集力の強い粘着剤層が得られる。
【0053】
このようにして得られた粘着剤は、ガラス板、プラスチックフィルム、紙等の被接着体に塗布し、25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間、特に40〜80℃、25〜60%RHで10分〜3時間硬化させることで粘着剤層を形成することができる。
【0054】
前記粘着剤を偏光フィルム等の片面又は両面に塗布・硬化させた粘着剤層を含む粘着偏光板は、偏光フィルム又は偏光素子とこの偏光フィルム又は偏光素子の片面又は両面に上記粘着剤から形成される粘着剤層とを有するものである。偏光板を構成する偏光フィルム又は偏光素子については特に限定されない。偏光フィルムの例を挙げると、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムにヨウ素又は異色性染料等の偏光成分を含有させて延伸することによって得られるフィルム等があり、これらの偏光フィルムの厚さも限定されず、通常の厚さに成形することができる。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルフォルマール、ポリビニルアセタール及びエチレン・酢酸ビニル共重合体の鹸化物等が使用される。
【0056】
また、粘着剤層を有する偏光フィルムの両面に、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム、ポリエーテルスルホン系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体のようなポリオレフィン系フィルム等の保護フィルムが積層された多層フィルム等を形成することができる。この際、これら保護フィルムの厚さも特に限定されず通常の厚さに成形することができる。
【0057】
偏光フィルムに粘着剤層を形成する方法には特に制限はなく、この偏光フィルムの表面に直接バーコーター等を使用して上記粘着剤を塗布して乾燥させる方法、上記粘着剤を一旦剥離性基材表面に塗布して乾燥させた後、この剥離性基材表面に形成された粘着剤層を偏光フィルム表面に転写し、次いで熟成させる方法等を採用することができる。この場合、乾燥は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましく、熟成は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましい。
【0058】
粘着剤層の厚さは特に制限されないが、通常0.01〜100μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。粘着剤層の厚さが上記範囲より小さいと粘着剤層としての効果が不十分となる場合があり、上記範囲より大きいと粘着剤層の効果が飽和し、コストが大きくなる場合がある。
【0059】
このようにして得られた粘着剤層を有する偏光フィルム(粘着偏光板)には、保護層、反射層、位相差板、光視野角補償フィルム、輝度向上フィルム等の追加機能を提供する層を1種以上積層することができる。
【0060】
粘着偏光板は、特に、通常の液晶表示装置全般に応用可能であり、その液晶パネルの種類は特に限られない。特に、本発明の粘着偏光板を、一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルの片面又は両面に貼合した液晶パネルを含めて液晶表示装置を構成することが好ましい。
【0061】
本発明の粘着剤は、上記した偏光フィルム以外に、産業用シート、特に反射シート、構造用粘着シート、写真用粘着シート、車線表示用粘着シート、光学用粘着製品、電子部品用等、用途に限らず使用できる。また、多層構造のラミネート製品、つまり一般商業用粘着シート製品、医療用パッチ、加熱活性用等、作用概念が同一である応用分野にも適用することができる。
【0062】
本発明の粘着剤は、連結鎖に硫黄原子を含むイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含む(メタ)アクリル系粘着剤であって、ガラス、ITO等に貼り付け時に初期接着力は低いため、リワーク性に優れ、貼り付け後の湿熱処理後の接着力が十分に高いものとなり長期耐久性に優れる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記例中、粘度、比重、屈折率は、25℃において測定した値である。また、GCはガスクロマトグラフィー、IRは赤外吸収分光法の略であり、装置はThermo sientific製NICOLET6700を使用した。NMRは核磁気共鳴分光法の略であり、装置はBruker製AVANCE400Mを使用した。粘度は毛細管式動粘度計による25℃における測定に基づく。
【0064】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコにメルカプトプロピルトリメトキシシラン980g(5モル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2gを仕込み、90℃に加熱した。その中にアリルイソシアネート415g(5モル)を滴下した。反応により発熱が生じ、内温が95℃を超えないように滴下速度を調整した。滴下終了後、90℃にて1時間加熱撹拌し、GC測定により原料のメルカプトプロピルトリメトキシシラン由来のピークが消失したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体、粘度3.8mm
2/s、比重1.10、屈折率1.464であり、この反応物についてプロトンNMRを測定したところ、下式(6)に帰属されるイソシアネート基含有有機ケイ素化合物であった。反応物のIRスペクトル、
1H−NMRスペクトルを
図1、
図2に示す。
【0065】
【化36】
【0066】
[実施例2〜6]
実施例1で使用したメルカプトプロピルトリメトキシシランを別のメルカプト基含有有機ケイ素化合物に変更した他は、反応比など同じ条件として対応するイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を得た。使用した原料と生成物を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[実施例7〜8]
実施例1で使用したアリルイソシアネートを別の不飽和炭素−炭素二重結合含有イソシアネート化合物に変更した他は、反応比など同じ条件として対応するイソシアネート基含有有機ケイ素化合物を得た。使用した原料と生成物を表2に示す。また、実施例7の生成物のIRスペクトル、
1H−NMRスペクトルを
図3、
図4に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
接着性試験用ポリウレタンエラストマーの調製
数平均分子量1,000のポリオキシテトラメチレングリコール150質量部、1,6−キシレングリコール100質量部、水0.5質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート200質量部及びジメチルホルムアミド800質量部を撹拌しつつ混合して90℃に加熱し、そのまま2時間撹拌して反応させた後、ジブチルアミンを3質量部添加して反応を停止させ、次いで過剰量のアミンを無水酢酸で中和してポリウレタンエラストマーを得た。
【0071】
プライマーの接着試験
ガラス板に対し本実施例又は比較例の有機ケイ素化合物を10wt%含むトルエン溶液をプライマーとして刷毛で塗布し、80℃で5分間乾燥した後、室温(23℃)まで冷却し、更にポリウレタンエラストマーを刷毛で塗布して、100℃で10分間乾燥した。次いで、得られた塗膜に1mm間隔で縦横に切れ目を入れて100個の碁盤目を形成させた後、セロハンテープで圧着してから剥離させて、剥離した碁盤目の数からプライマーのウレタン樹脂及び無機基材との接着性を評価した。実施例で得たプライマーに関してはいずれの基材の場合にも剥離した碁盤目はまったく無く、極めて接着性能が良好であった。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
比較例1:イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
比較例2:イソシアネートプロピルトリメトキシシラン
【0074】
[実施例9〜16、比較例3〜7]
粘着剤試験用アクリル系ポリマーの調製
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、n−ブチルアクリレート(BA)98.1g、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)0.6g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)1.3gを納め、溶剤として酢酸エチル100gを仕込み、溶解させた。その後、酸素を除去するために窒素ガスバブリングを1時間行い、反応系中を窒素置換して62℃に保持した。この中に、撹拌しながら重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.03g投入し、62℃で8時間反応させることでアクリル系ポリマー(ベースポリマー)である(メタ)アクリル系共重合体を得た。
【0075】
粘着剤の調製
上記で得られた(A)アクリル系ポリマー:(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、(B)接着性改質剤:、実施例1〜8で得られたシランカップリング剤又は比較例1〜2の有機ケイ素化合物、(C)架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物(TDI)を表4、5に示す配合組成でそれぞれ混合し、粘着剤実施例、比較例とした。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
得られた粘着剤を離型紙にコーティングして乾燥した後、25μmの均一な粘着剤層を得た。このように製造された粘着剤層を、厚さ185μmのヨード系偏光板に粘着加工した後、得られた偏光板を適切な大きさに切断し、各評価に使用した。
【0079】
製造した偏光板のテストピースについては、以下に示す評価試験方法を通じて耐久信頼性、ガラス接着力、リワーク性、耐熱又は耐湿熱条件での接着力の変化について評価し、その結果を表6に示した。
【0080】
評価試験
〈耐久性信頼性〉
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に両面で光学吸収軸がクロスされた状態で貼り付けた。この際、加えた圧力は約5kgf/cm
3であり、気泡や異物が生じないようにクリーンルームにて作業を行った。
【0081】
この試験片の耐湿耐熱特性を評価するために、60℃/90%RHの条件下で1,000時間放置した後、気泡や剥離の生成の有無を確認した。耐熱特性は、80℃/30%RHで1,000時間放置した後、気泡や剥離の様子を観察した。なお、試験片の状態を評価する前に、室温(23℃/60%RH)で24時間静置している。
耐久性評価についての評価基準は以下の通りである。
○:気泡や剥離現象無し
△:気泡や剥離現象僅かにあり
×:気泡や剥離現象多数有り
【0082】
〈ガラス接着力〉
粘着剤がコーティングされた偏光板を、室温(23℃/60%RH)において7日間熟成させた後、該偏光板をそれぞれ1インチ×6インチサイズに切断し、2kgのゴムローラーを使用して0.7mm厚の無アルカリガラスに貼り付けた。室温で1時間保管後、初期接着力を測定し、次いで50℃で4時間エージングさせ、その後室温で1時間保管後、接着力を測定した。
【0083】
〈リワーク性〉
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に貼り付けた後、室温(23℃/60%RH)で1時間放置後、50℃×4時間エージングし、更に室温で1時間放冷した後、偏光板をガラスから剥離した。
偏光板やガラス板を破壊せず、粘着材をガラス表面に残さずに剥離可能か否かを基準とし、以下の通り評価した。
○:容易に再剥離可能
△:再剥離は若干困難(粘着剤がガラス表面に残存)
×:剥離不能、ガラス又は偏光板が破損
【0084】
【表6】
【0085】
比較例3は接着性改質剤を含有せず、熱キュア後に十分な接着性が発現しない。比較例4、5は既存技術であるイソシアネートプロピル基含有シランカップリング剤を使用した場合であり、該化合物のイソシアネート基−シリル連結鎖がプロピレン基であり、分子全体の疎水性が低いことから初期接着力のリワーク性が発現するものの、樹脂とのなじみが相対的に不十分であるためキュア後の最終密着強度が不十分である。比較例6は使用する(B)成分が少なすぎるため効果が不十分である。一方、比較例6は(B)成分の使用量が多すぎるため初期から過剰な密着性が発現しリワーク性不十分となってしまった。
以上より、本発明の粘着剤が初期リワーク性に優れ、高温及び高温多湿処理することで十分なガラスとの接着力を発現し、長期的耐久性に優れた粘着剤であることを証明するものである。