(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水性分散媒中に、i)ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子と、ii)酸化タングステン微粒子との2種類の光触媒微粒子が分散されている酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液であって、
i)の酸化チタン微粒子中に銅成分が固溶されており、
銅含有酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタン微粒子の全量に対して0.05〜2質量%であり、
i)の酸化チタン微粒子及びii)の酸化タングステン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D50)で、それぞれ5〜30nm及び5〜1,000nmであって、
可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現することを特徴とする酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
i)の酸化チタン微粒子中の銅成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Cu)で1〜1,000であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
ケイ素化合物系バインダーが、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液又はエマルジョンであって、コロイダルシリカ;ケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン樹脂とアクリル樹脂又はウレタン樹脂との共重合体のエマルジョンから選ばれるものであることを特徴とする請求項5に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
上記(3)の工程で使用する酸化タングステン微粒子分散液が、ビーズミルにより、酸化タングステン粉末を水性分散媒中で微粉砕・分散させて製造したものであることを特徴とする請求項8に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
ビーズミルに使用されるビーズが、直径5〜100μmのジルコニア製球状ビーズであることを特徴とする請求項9に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現し、高い抗菌性能を示し、かつ熱や紫外線曝露に対して銅の配位状態が安定で変性し難く、耐久性が高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる銅含有酸化チタン微粒子を含む酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液、その製造方法、及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、水性分散媒中に、i)ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子と、ii)酸化タングステン微粒子との2種類の光触媒微粒子が分散されている酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液が、可視光(400〜800nm)のみでも高い光触媒活性を発現し、高い抗菌性を示し、かつ特に銅成分が酸化チタン微粒子中に固溶化されている場合には、熱や紫外線曝露に対して銅の配位状態が安定で変性し難く、耐久性が高い光触媒薄膜を簡便に作製することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
このような銅成分が酸化チタン微粒子中に固溶化されている酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液は、例えば、銅化合物を含むペルオキソチタン酸水溶液を、高圧下、加熱して結晶化させる水熱反応によって得られるペルオキソチタン酸成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子を含む銅含有酸化チタン微粒子分散液に、これとは別に予め用意された可視光応答型光触媒である酸化タングステン微粒子分散液を混合する製造方法によって得られる。
【0012】
尚、上述の通り、特許文献15には、銅化合物を表面に担持した酸化タングステン光触媒材料が開示されているが、当該光触媒材料は、希少金属であるタングステンを多量に使用する必要があること、熱や紫外線曝露などの外的環境に対して十分安定なものではなかったこと、また、性能を高めるためには銅化合物を酸化タングステン表面にある特定の条件で担持する必要があり、製造条件が煩雑で光触媒性能にばらつきが発生しやすいことなどが課題として挙げられる。
【0013】
一方、本発明の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液では、酸化チタンと酸化タングステンとの複合光触媒とすることにより、希少金属であるタングステンの使用量を抑制しつつ、光触媒としての性能を維持、又は向上させるものである。また、本発明の上述の製造方法によれば、銅成分が酸化チタン微粒子中に固溶された状態で存在しているため、当該分散液によって形成される光触媒薄膜は、可視光下での高い光触媒活性を発揮すると同時に、熱や紫外線曝露に対して銅の配位状態が安定で変性し難いことから、その耐久性をも高めることができるものである。そして、酸化チタンと酸化タングステンとの複合化の方法は、銅含有酸化チタン微粒子分散液と酸化タングステン微粒子分散液を混合するだけであり、簡便な方法で製造することができるものである。
【0014】
従って、本発明は、下記に示す酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒、その製造方法、及び光触媒薄膜を表面に有する部材を提供する。
〔1〕水性分散媒中に、i)ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子と、ii)酸化タングステン微粒子との2種類の光触媒微粒子が分散されていることを特徴とする酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔2〕i)の酸化チタン微粒子及びii)の酸化タングステン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D
50)で、それぞれ5〜30nm及び5〜1,000nmであることを特徴とする〔1〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔3〕i)の酸化チタン微粒子中の銅成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Cu)で1〜1,000であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔4〕i)の酸化チタン微粒子中に銅成分が固溶されていることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔5〕i)の酸化チタン微粒子に、3mW/cm
2、ピーク波長365nmの紫外線を200時間照射するか、又は500℃下2時間加熱して劣化処理した後であっても、前記劣化処理前に対して、
エネルギー9,000eV近傍のCu−K端XAFS(X線吸収端微細構造)スペクトルの測定において、
1)XANES(X線吸収端近傍構造)スペクトルの8,970〜9,000eVの範囲内に認められる吸収スペクトルの極大ピークについて、相対吸収量が0.1以上変化せず、かつ吸収エネルギー値が5%以上変化せず、
2)同測定結果のk
3χ(k)Cu−K端EXAFS(広域X線吸収微細構造)スペクトルを高速フーリエ変換して得られる動径構造関数において、Cuの第1〜第2配位圏と判断される2〜3Åの範囲内の極大ピーク位置が5%以上変化しないこと
の2つを同時に満たすことを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔6〕更に、バインダーを含有することを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔7〕バインダーが、ケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする〔6〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。
〔9〕(1)原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、銅化合物を含有した前駆体水溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造した銅化合物を含有した前駆体水溶液を、0.12〜4.5MPa下、80〜250℃で1〜300分間加熱し、銅含有酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)上記(2)の工程で製造した銅含有酸化チタン微粒子分散液と、酸化タングステン微粒子分散液とを混合する工程
を有することを特徴とする酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
〔10〕上記(3)の工程で使用する酸化タングステン微粒子分散液が、ビーズミルにより、酸化タングステン粉末を水性分散媒中で微粉砕・分散させて製造したものであることを特徴とする〔9〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
〔11〕上記(2)の工程で得られた銅含有酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタン微粒子に対して0.05〜2質量%であることを特徴とする〔9〕又は〔10〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
〔12〕ビーズミルに使用されるビーズが、直径5〜100μmのジルコニア製球状ビーズであることを特徴とする〔10〕又は〔11〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現し、高い抗菌性能を示し、かつ熱や紫外線曝露に対して銅の配位状態が安定で変性し難く、耐久性が高い光触媒薄膜を簡便に作製することができる銅含有酸化チタン微粒子を含む酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液、その製造方法、及び該分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従って、本発明は、下記に示す酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒、その製造方法、及び光触媒薄膜を表面に有する部材を提供する。
〔1〕水性分散媒中に、i)ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子と、ii)酸化タングステン微粒子との2種類の光触媒微粒子が分散されている酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液であって、
i)の酸化チタン微粒子中に銅成分が固溶されており、
銅含有酸化チタン微粒子
分散液中のペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタン微粒子の全量に対して0.05〜2質量%であり、
i)の酸化チタン微粒子及びii)の酸化タングステン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D
50)で、それぞれ5〜30nm及び5〜1,000nmであって、
可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現することを特徴とする酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔2〕i)の酸化チタン微粒子中の銅成分の含有量が、酸化チタンとのモル比(Ti/Cu)で1〜1,000であることを特徴とする〔1〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔3〕i)の酸化チタン微粒子に、3mW/cm
2、ピーク波長365nmの紫外線を200時間照射するか、又は500℃下2時間加熱して劣化処理した後であっても、前記劣化処理前に対して、
エネルギー9,000eV近傍のCu−K端XAFS(X線吸収端微細構造)スペクトルの測定において、
1)XANES(X線吸収端近傍構造)スペクトルの8,970〜9,000eVの範囲内に認められる吸収スペクトルの極大ピークについて、相対吸収量が0.1以上変化せず、かつ吸収エネルギー値が5%以上変化せず、
2)同測定結果のk
3χ(k)Cu−K端EXAFS(広域X線吸収微細構造)スペクトルを高速フーリエ変換して得られる動径構造関数において、Cuの第1〜第2配位圏と判断される2〜3Åの範囲内の極大ピーク位置が5%以上変化しないこと
の2つを同時に満たすことを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔4〕更に、バインダーを含有することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔5〕バインダーが、ケイ素化合物系バインダーであることを特徴とする〔4〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔6〕ケイ素化合物系バインダーが、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液又はエマルジョンであって、コロイダルシリカ;ケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン樹脂とアクリル樹脂又はウレタン樹脂との共重合体のエマルジョンから選ばれるものであることを特徴とする〔5〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液を用いて形成される光触媒薄膜を表面に有する部材。
〔8〕(1)原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、銅化合物を含有した前駆体水溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造した銅化合物を含有した前駆体水溶液を、0.12〜4.5MPa下、80〜250℃で1〜300分間加熱し、銅含有酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)上記(2)の工程で製造した銅含有酸化チタン微粒子分散液と、酸化タングステン微粒子分散液とを混合する工程
を有する酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法であって、
上記(2)の工程の酸化チタン微粒子中に銅成分が固溶されており、
上記(2)の工程の
銅含有酸化チタン微粒子
分散液中のペルオキソチタン成分の含有量が、酸化チタン微粒子の全量に対して0.05〜2質量%であり、
上記(3)の工程の酸化チタン微粒子及び酸化タングステン微粒子の分散径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D
50)で、それぞれ5〜30nm及び5〜1,000nmであって、
可視光(400〜800nm)のみでも光触媒活性を発現することを特徴とする酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
〔9〕上記(3)の工程で使用する酸化タングステン微粒子分散液が、ビーズミルにより、酸化タングステン粉末を水性分散媒中で微粉砕・分散させて製造したものであることを特徴とする〔8〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
〔10〕
ビーズミルに使用されるビーズが、直径5〜100μmのジルコニア製球状ビーズであることを特徴とする〔9〕に記載の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法。
【0017】
ここで、酸化チタン微粒子には、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つが知られているが、主として、アナターゼ型及びルチル型を利用することが好ましい。尚、ここでいう、「主として」とは、通常、酸化チタン微粒子結晶全体のうち、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0018】
また、i)の酸化チタン微粒子とii)の酸化タングステン微粒子とが分散される水性分散媒としては、水性溶媒が使用される。水性溶媒としては、水、及び水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、純水等が好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。この場合、親水性有機溶媒の混合割合は、水性分散媒中0〜50質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%である。中でも、生産性、コスト等の点から純水が最も好ましい。
【0019】
i)の酸化チタン微粒子において、酸化チタン微粒子に含有させる銅成分は、光触媒薄膜の抗菌性能と可視光応答性を高めるためのもので、銅化合物から誘導されるものであればよく、例えば、銅の金属、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
このような酸化チタン微粒子中の銅成分の含有量は、酸化チタンとのモル比(Ti/Cu)で1〜1,000、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜100である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタン結晶の含有割合が低下し光触媒効果が十分発揮されないことがあり、1,000超過の場合、可視光応答性が不十分となることがあるためである。
ここで、銅成分は、単に酸化チタン微粒子に混合、吸着又は担持等されるのではなく、可及的に酸化チタン微粒子から分離、脱離しないように含有させることが好ましく、特に酸化チタン微粒子の結晶格子中に固溶されて取り込まれていることが好ましい。これは、銅成分を固溶することによって、熱や紫外線曝露に対して銅の配位状態が安定で変性し難く、耐久性が高い光触媒薄膜を形成することができるためである。このような銅成分の固溶形態は、後述する酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法により得ることができる。尚、一部の銅成分が、酸化チタン微粒子から分離、脱離し、分散液中に溶解及び/又は分散してもよい。
【0020】
i)の酸化チタン微粒子において、酸化チタン微粒子中に含有するペルオキソチタン成分は、酸化チタン微粒子を水性分散媒中に良好に分散させる作用を有するもので、ペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン系化合物(ペルオキソチタン錯体も包含する。)を意味するものである。このようなペルオキソチタン成分は、例えば、後述する酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法における(1)、(2)の工程からなる銅含有酸化チタン微粒子分散液の合成過程、即ち、原料チタン化合物、塩基性物質、過酸化水素を水性分散媒中で反応させたとき生成するものである。
【0021】
このようなペルオキソチタン成分は、i)の酸化チタン微粒子中のみならず、当該微粒子が分散される水性分散媒中にも含まれていることが好ましい。
特に、後述する酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法における(1)、(2)の工程で得られた銅含有酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分の含有量は、酸化チタン微粒子の全量に対して、0.05〜2質量%、好ましくは0.05〜1質量%である。これは、濃度が0.05質量%未満の場合、酸化チタン微粒子が凝集し易くなることがあり、2質量%超過の場合、該分散液から得られる光触媒薄膜の光触媒効果が不十分となることがあるためである。
【0022】
酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液において、i)の酸化チタン微粒子は、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(D
50)(以下、「平均粒子径」ということがある。)が、5〜30nmであることが好ましく、より好ましくは5〜20nm、更に好ましくは5〜15nmである。これは、平均粒子径が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、30nm超過の場合、酸化タングステンとの複合化の効果が低下するためである。尚、平均粒子径を測定する装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等を使用することができる。
【0023】
また、同様に測定される、ii)の酸化タングステン微粒子は、平均粒子径が、5〜1,000nmであることが好ましく、より好ましくは10〜300nm、更に好ましくは50〜200nmである。これは、平均粒子径が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、1,000nm超過の場合、酸化タングステン微粒子が沈殿しやすく、酸化チタンとの複合化の効果が低下するためである。
尚、i)の酸化チタン微粒子及びii)の酸化タングステン微粒子のそれぞれの平均粒子径の測定は、通常、複合化前(混合前であって、それぞれの微粒子を含む分散液の状態)において測定される。
【0024】
酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子との合計の濃度は、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。これは、このような濃度範囲とすることにより、当該分散液をそのまま使用し、所要の厚さの光触媒薄膜を形成するのに都合がよいためである。
【0025】
〔酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法〕
本発明の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液の製造方法は、最終的に、水性分散媒中に、i)ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子と、ii)酸化タングステン微粒子との2種類の光触媒微粒子が分散された状態で得られるものであり、以下の工程(1)〜(3)を有するものである。
(1)原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、銅化合物を含有した前駆体水溶液を製造する工程、
(2)上記(1)の工程で製造した銅化合物を含有した前駆体水溶液を、0.12〜4.5MPa下、80〜250℃で加熱し、銅含有酸化チタン微粒子分散液を得る工程、
(3)上記(2)の工程で製造した銅含有酸化チタン微粒子分散液と、酸化タングステン微粒子分散液とを混合する工程。
【0026】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させることにより、銅化合物を含有した前駆体水溶液を製造する。反応方法としては、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加して溶解せしめた後に銅化合物を添加して、銅化合物を含有した前駆体水溶液とする方法でも、水性分散媒中の原料チタン化合物に銅化合物を添加した後に塩基性物質を添加して銅含有水酸化チタンとし、不純物イオンを除去したのち過酸化水素を添加して溶解し銅化合物を含有した前駆体水溶液とする方法でもよい。
【0027】
ここで、原料チタン化合物としては、例えば、チタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
銅化合物、水性分散媒としては、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。尚、原料チタン化合物と水性分散媒とから形成される原料チタン化合物水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。濃度の下限は適宜選定されるが、通常、1質量%以上であることが好ましい。
【0029】
塩基性物質は、原料チタン化合物を水酸化チタンにすると共に、前駆体成分を水性分散媒中で安定化させるためのもので、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン化合物が挙げられ、原料チタン化合物水溶液のpHを7以上、特にpH7〜10になるような量で添加、使用される。尚、塩基性物質は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
【0030】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンを溶解するためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、Ti、Cuの合計モル数の1.5〜10倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンを溶解する反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
【0031】
こうして得られる銅化合物を含有した前駆体水溶液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、アルカリ性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られた銅化合物を含有した前駆体水溶液のpHは、1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0032】
・工程(2):
工程(2)では、上記(1)の工程で得られた銅化合物を含有した前駆体水溶液を、高圧下、80〜250℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜250℃の温度において水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80〜250℃が適切であり、その結果、銅含有酸化チタン微粒子として析出する。この場合、圧力は、0.12〜4.5MPa程度、好ましくは0.15〜4.5MPa程度、より好ましくは0.20〜4.5MPa程度の高圧とし、反応時間は、1分〜300分間、より好ましくは1分〜240分間とする。
【0033】
工程(2)により、水性分散媒中に、ペルオキソチタン成分及び銅成分を含有した酸化チタン微粒子が分散されている銅含有酸化チタン微粒子分散液が得られる。尚、ここでいう、ペルオキソチタン成分は、上述した通り、Ti−O−O−Ti結合を含む酸化チタン化合物を意味し、ペルオキソチタン酸及びTi(VI)と過酸化水素との反応によって生成するペルオキソチタン錯体を包含するものである。また、銅成分とは、金属銅を含む銅系化合物を意味し、上述の銅化合物を包含するものである。
【0034】
工程(2)で得られる銅含有酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分の含有量、及び酸化チタン微粒子の平均粒子径については、それぞれ前述の範囲のものが、前述の理由により好ましい。
また、銅含有酸化チタン微粒子分散液の酸化チタン微粒子の濃度は、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。これは、後述する工程(3)において、酸化タングステン微粒子分散液と共に混合せしめ、最終的な酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液を得る際、その最終的な酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子との合計の濃度範囲に収まるよう予め揃えておいた方が、例えば分散液の保管、管理等作業上も都合がよいからである。
【0035】
こうして得られる銅含有酸化チタン微粒子分散液は、銅化合物を含有したペルオキソチタン酸水溶液を、高圧下、加熱して結晶化させる水熱反応を経て製造されているため、銅成分が酸化チタン微粒子の結晶格子中に固溶されて取り込まれている。従って、特に、熱や紫外線暴露に対して銅の配位状態が安定で変性し難く、耐久性が高い光触媒薄膜を形成することができる。
【0036】
銅含有酸化チタン微粒子分散液中の銅含有酸化チタン微粒子の熱や紫外線暴露に対する安定性は、例えば、当該分散液を100℃で加熱乾燥することにより、銅含有酸化チタン乾燥粉末を得て、当該乾燥粉末の熱や紫外線暴露前後のCu配位状態をXAFS(X線吸収端微細構造)スペクトルの解析によって知ることができる。
【0037】
本発明の分散液中の銅含有酸化チタン微粒子は、当該微粒子に、3mW/cm
2、ピーク波長365nmの紫外線を200時間照射するか、又は500℃下2時間加熱して劣化処理した後であっても、前記劣化処理前に対して、エネルギー9,000eV近傍のCu−K端XAFS(X線吸収端微細構造)スペクトルの測定において、
1)XANES(X線吸収端近傍構造)スペクトルの8,970〜9,000eVの範囲内に認められる吸収スペクトルの極大ピークについて、相対吸収量が0.1以上変化せず、かつ吸収エネルギー値が5%以上、好ましくは4%以上、更に好ましくは3%以上変化せず、
2)同測定結果のk
3χ(k)Cu−K端EXAFS(広域X線吸収微細構造)スペクトルを高速フーリエ変換して得られる動径構造関数において、Cuの第1〜第2配位圏と判断される2〜3Åの範囲内の極大ピーク位置が5%以上、好ましくは4%以上、更に好ましくは3%以上変化しないこと
の2つを同時に満たすものである。
このようなCu配位状態の安定性は、銅成分が、単に酸化チタン微粒子に混合、吸着又は担持等されているのではなく、酸化チタン微粒子の結晶格子中に固溶されて取り込まれていることによってもたらされるものである。
【0038】
・工程(3):
工程(3)では、上記(2)の工程で製造した銅含有酸化チタン微粒子分散液と、これとは別に予め用意された酸化タングステン微粒子分散液とを混合することによって、最終的な酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液を得る。混合方法は、特に限定されず、攪拌機で撹拌する方法でも、超音波分散機で分散させる方法でもよい。混合時の温度は20〜100℃、時間は1分〜3時間であることが好ましい。混合比率は、質量比で(TiO
2:Cu)/WO
3で99〜0.01が好ましく、より好ましくは9〜0.1、更に好ましくは4〜0.25である。上記質量比が99超過若しくは0.01未満の場合、可視光活性が不十分となることがある。
尚、ここでいう、文言上の「複合」とは、前述の酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子との混合物であることを指す。つまり、酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子とが、別々の粒子として、同じ分散媒中に存在していることを意味する。但し、一部において、酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子とが、相互に吸着、結合等して一体化して存在していてもよい。
【0039】
工程(3)で使用する酸化タングステン微粒子分散液は、前述の水性分散媒中に、前述の平均粒子径を有する酸化タングステン微粒子が分散されているものであれば、特に限定されない。このような酸化タングステン微粒子分散液は、例えば、直径5〜100μm、好ましくは10〜50μm、より好ましくは10〜30μmのジルコニア製球状ビーズを使用したビーズミル(例えば、商品名“ナノ・ゲッター”、アシザワ・ファインテック(株))により、酸化タングステン粉末を水性分散媒中で微粉砕・分散させて製造することができる。ここで、微粉砕・分散操作では、光触媒活性発現を阻害するため、有機分散剤を使用しないことが好ましい。
また、酸化タングステン微粒子分散液の酸化タングステン微粒子の濃度は、0.01〜20質量%が好ましく、特に0.5〜10質量%が好ましい。これは、工程(3)において、酸化チタン微粒子分散液と共に混合せしめ、最終的な酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液を得る際、その最終的な酸化チタン微粒子と酸化タングステン微粒子との合計の濃度範囲に収まるよう予め揃えておいた方が、例えば分散液の保管、管理等作業上も都合がよいからである。
【0040】
こうして得られる酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液には、後述する各種部材表面に該分散液を塗布し易くすると共に該微粒子を接着し易いようにする目的で、バインダー、特にはケイ素化合物系バインダーを配合比(ケイ素化合物と酸化チタンの質量比)1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10、更に好ましくは30:70〜70:30の範囲で添加して使用してもよい。ここで、ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液又はエマルジョンであって、具体的には、コロイダルシリカ;シリケート等のケイ酸塩類溶液;シラン又はシロキサンの加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン−アクリル樹脂共重合体、シリコーン−ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。
【0041】
〔光触媒薄膜を表面に有する部材〕
本発明の酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液は、各種部材の表面に光触媒膜を形成させるために使用することができる。ここで、各種部材は、特に制限されないが、部材の材料としては、例えば、有機材料、無機材料が挙げられる。これらは、それぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0042】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料、天然ゴム等の天然材料、又は上記合成樹脂材料と天然材料との半合成材料が挙げられる。これらは、フィルム、シート、繊維材料、繊維製品、その他の成型品、積層体等の所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0043】
無機材料としては、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。
非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材等が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、壁、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。
【0044】
金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。これらは、上記金属無機材料のメッキが施されていてもよいし、上記有機材料が塗布されていてもよいし、上記有機材料又は非金属無機材料の表面に施すメッキであってもよい。
【0045】
各種部材表面への光触媒膜の形成方法としては、可視光応答型光触媒微粒子分散液を、例えば、上記部材表面に、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法により塗布した後、自然乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、IH乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥させればよく、光触媒膜の厚さも種々選定され得るが、通常、30nm〜10μmの範囲が好ましい。
【0046】
このようにして形成される光触媒膜は、透明であり、従来のように紫外領域の光(10〜400nm)において良好な光触媒作用を与えるばかりでなく、従来の光触媒では十分な光触媒作用を得ることができなかった可視領域の光(400〜800nm)のみでも優れた光触媒作用が得られるものであり、該光触媒膜が形成された各種部材は、光触媒作用により表面に吸着した有機物を分解することから、該部材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の効果を発揮することができるものである。また、銅含有酸化チタンを使用することから、光触媒作用があまり期待できない紫外・可視光がほとんど当たらないような場所でも抗菌性を発揮することができるものである。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明における各種の測定は次のようにして行った。
【0048】
(1)酸化チタン微粒子及び酸化タングステン微粒子の平均粒子径(D
50)
酸化チタン微粒子及び酸化タングステンの平均粒子径(D
50)は、粒度分布測定装置(商品名“ナノトラック粒度分析計UPA−EX150”、日機装(株))を用いて測定した。
【0049】
(2)酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在
酸化チタン微粒子中に含有されるペルオキソチタン成分の存在は、ペルオキソ基中のO−O結合の存在の有無によって確認した。具体的には、得られた酸化チタン微粒子分散液を室温で自然乾燥することで得た酸化チタン微粒子の粉末を、赤外分光光度計(商品名“SYSTEM2000”、PerkinElmer社)で測定し、900cm
-1付近のO−O結合のピークの有無を確認した。
【0050】
(3)酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度
酸化チタン微粒子分散液中のペルオキソチタン成分濃度は、過酸化水素吸光光度法によって測定した。具体的には、酸化チタン微粒子分散液を硫酸酸性としてペルオキソチタン成分と反応、呈色させた後、紫外可視近赤外分光光度計(商品名“LAMBDA950”、Perkin Elmer社)を用いて410nmの波長の強度を測定し、Ti標準液との相対強度から算出した。
【0051】
(4)銅含有酸化チタンの紫外線暴露
銅含有酸化チタン乾燥粉末に対し、UV−LED(商品型番“HLDL−432×336UV365−FN”、シーシーエス(株))で、該サンプル表面での紫外線強度が3mW/cm
2、ピーク波長365nmになるように調整した紫外光を200時間照射した。
【0052】
(5)銅含有酸化チタンの熱暴露
銅含有酸化チタン乾燥粉末を電気炉にて500℃下2時間熱暴露した。
【0053】
(6)銅含有酸化チタンのCu配位状態
銅含有酸化チタンのCu配位状態の評価には、X線吸収分光法(XAS)を用いた。即ち、以下のa)〜c)の手順に従い、財団法人高輝度光科学センターの大型放射光施設SPring−8のビームラインBL14B2を用い、備え付けの透過法測定ユニットを使用してCu−K殻吸収端のXAFS(X線吸収端微細構造)スペクトル測定を行った。
a)試料調製:
各試料すべて乾燥粉末にし、厚さ0.5mmのペレットにした際に吸収係数μtが1となるように、所定量のBN(窒化ホウ素、関東化学製試薬グレード)と混合し、錠剤成型機にて厚さ0.5mmのペレットに成型した。
b)測定:
上記ペレットを透明PP袋に封入し、BL14B2のハッチ内オートサンプラーに全てセットし、8,800〜9,600eV近傍のX線吸収スペクトルを透過法にてすべて測定した。
c)解析:
得られたスペクトルデータは、IfeFFitのGUIフロントエンド“Athena”,“Artemis”を使用して解析した。XANES領域はスペクトル比較評価とし、特にスペクトルの8,970〜9,000eVの範囲内に認められる吸収スペクトルの極大ピークについて、劣化処理前と比較して相対吸収量が0.1以上変化せず、かつ吸収エネルギー値が元の5%以上変化しない場合に○、いずれかを満たさずにスペクトル変化が認められた場合には×と記載した。
EXAFS関数k
3χ(k)については高速フーリエ変換によって動径構造関数を得、Cuの第二配位圏2から3Å内に認められるピークの位置をブランクと比較評価した。
【0054】
(7)光触媒薄膜のアセトアルデヒドガス分解性能試験(LED照射下)
分散液を塗布、乾燥することで作製した光触媒薄膜の活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
具体的には、容積5Lの石英ガラス窓付きステンレス製セル内にA4サイズのPETフィルム上に50mgの光触媒薄膜を形成した評価用サンプルを設置したのち、該セルを湿度50%に調湿した濃度5ppmのアセトアルデヒドガスで満たし、該セル上部に設置したLED(商品型番“TH−211×200SW”、シーシーエス(株)、分光分布:400〜800nm)で照度30,000LUXになるように光を照射した。薄膜上の光触媒によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セル中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度を測定することで、アセトアルデヒドガス分解量を求めることができる。アセトアルデヒドガス濃度は光音響マルチガスモニタ(商品名“INNOVA1412”、LumaSense社製)を用いて測定し、12時間照射後の残存アセトアルデヒドガス濃度を比較することで評価した。
【0055】
(8)光触媒薄膜の紫外線耐久性試験(UV−LED照射下)
上記(7)で作製した評価用サンプルをUV−LED(商品型番“HLDL−432×336UV365−FN”、シーシーエス(株))で、該サンプル表面での紫外線強度が3mW/cm
2になるように調整した紫外光を200時間照射した。
200時間照射後のサンプルのLED照射下でのアセトアルデヒドガス分解性能試験を上記(7)と同様に実施し、UV曝露前と曝露後のサンプルの分解率を比較し、次の基準で評価した。
UV曝露前サンプルのアセトアルデヒドガス分解割合−UV曝露後サンプルのアセトアルデヒドガス分解割合
良好(○と表示) ・・・ 差が30%以下。
やや不良(△と表示)・・・ 差が30%を超え、50%以下。
不良(×と表示) ・・・ 差が50%を超える。
【0056】
〔実施例1〕
<酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(α)の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化銅(II)をTi/Cu(モル比)が20となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより銅を含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の銅を含有する水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6.0以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄緑色透明の銅含有ペルオキソチタン酸溶液(t−i)(固形分濃度1質量%)を得た。
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(t−i)400mLを仕込み、これを130℃、0.3MPaの条件下、180分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)を得た。
こうして得られた銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)から、酸化チタン微粒子の平均粒子径、酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在、及び酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度の測定を行った。また、酸化チタン微粒子分散液を100℃で加熱乾燥することにより、酸化チタン乾燥粉末を得ると共に、そのままのもの、上述の紫外線暴露したもの、及び上述の熱暴露したものについて、それぞれXAFSスペクトルの測定を行った。
【0057】
酸化タングステン粉末((株)高純度化学研究所製)を、ビーズミル(商品名“ナノ・ゲッター”、アシザワ・ファインテック(株))により、水中で微粉砕・分散させた後、1μmのフィルターを通して粗粒を除き、酸化タングステン微粒子分散液(W−i)(固形分濃度1質量%)を得た。
こうして得られた酸化タングステン微粒子分散液(W−i)から、酸化タングステン微粒子の平均粒子径の測定を行った。
【0058】
銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)とを質量比で(T−i):(W−i)=50:50となるように混合することにより、酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(α)を得た。
【0059】
酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(α)に、シリカ系のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製)を、(TiO
2+WO
3)/SiO
2質量比1.5で添加し、評価用コーティング液を作製した。
【0060】
評価用コーティング液を#7のワイヤーバーコーターによって、A4サイズのPETフィルムに50mgの光触媒薄膜を形成するよう塗工し、アセトアルデヒドガス分解性能評価用サンプルを得た。この光触媒薄膜のガス分解率をバッチ式ガス分解性能評価法により測定したところ、LED照射12時間後のガス分解率は100%であった。
【0061】
上記のアセトアルデヒド分解性能測定後のサンプルに紫外線強度が3mW/cm
2になるように調整したUV−LEDを200時間照射したあと、再度アセトアルデヒド分解性能測定を行なったところ、LED照射12時間後のガス分解率は100%であった(良好:○)。
【0062】
上記で作成したA4サイズの光触媒薄膜形成PETフィルムを50mm角にカットして、JIS Z 2801“抗菌加工製品‐抗菌性試験方法・抗菌効果”試験を実施した。
大腸菌に対する抗菌力試験では抗菌活性値Rが3.52、黄色ブドウ球菌に対する抗菌力試験では抗菌活性値Rが5.17であり、高い抗菌性を示した。
【0063】
〔実施例2〕
<酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(β)の調製>
銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)との混合比(質量比)を(T−i):(W−i)=90:10となるように混合した以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(β)を得て、光触媒活性評価を行った。
【0064】
〔実施例3〕
<酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(γ)の調製>
銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)との混合比(質量比)を(T−i):(W−i)=30:70となるように混合した以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(γ)を得て、光触媒活性評価を行った。
【0065】
〔実施例4〕
<酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(δ)の調製>
酸化タングステン微粒子(W−i)に代えて、ルミレッシュ(W−ii)(Cu/WO
3系光触媒、昭和電工(株)製、固形分濃度1wt%)を使用した以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(δ)を得て、光触媒活性評価を行った。
【0066】
〔実施例5〕
<酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒分散液(ε)の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に塩化銅(II)をTi/Cu(モル比)が200となるように添加し、これを純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより銅を含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の銅を含有する水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6.0以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄緑色透明の銅含有ペルオキソチタン酸溶液(t−ii)(固形分濃度1質量%)を得た。
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(t−ii)400mLを仕込み、これを130℃、0.3MPaの条件下、180分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン微粒子分散液(T−ii)を得た。
こうして得られた酸化チタン微粒子分散液(T−ii)から、酸化チタン微粒子の平均粒子径、酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在、及び酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度の測定を行った。また、酸化チタン微粒子分散液を100℃で加熱乾燥することにより、酸化チタン乾燥粉末を得ると共に、そのままのもの、上述の紫外線暴露したもの、及び上述の熱暴露したものについて、それぞれXAFSスペクトルの測定を行った。
【0067】
上記で得た銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−ii)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)とを質量比で(T−ii):(W−i)=50:50となるように混合すること以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン・酸化タングステン複合光触媒微粒子分散液(ε)を得て、光触媒活性評価を行った。
【0068】
〔実施例6〕
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液を純水で10倍に希釈した後、この水溶液に10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの溶液のpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の水酸化チタン沈殿物に過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6.0以上となるように30質量%過酸化水素水を添加し、その後室温で一昼夜撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明のペルオキソチタン酸溶液(t−iii)(固形分濃度1質量%)を得た。
容積500mLのオートクレーブに、ペルオキソチタン酸溶液(t−iii)400mLを仕込み、これを130℃、0.3MPaの条件下、180分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン微粒子分散液(T−iii)を得た。
こうして得られた酸化チタン微粒子分散液(T−iii)から、酸化チタン微粒子の平均粒子径、酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在、及び酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度の測定を行った。
【0069】
酸化チタン微粒子分散液(T−iii)に、塩化銅(II)をTi/Cu(モル比)が20となるように添加して、酸化チタン分散液(T−v)を得た。
【0070】
酸化チタン微粒子分散液(T−v)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)とを質量比で(T−v):(W−i)=50:50となるように混合することにより、光触媒微粒子分散液(θ)を得て、光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0071】
〔比較例1〕
銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−i)の光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0072】
〔比較例2〕
酸化タングステン微粒子分散液(W−i)の光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0073】
〔比較例3〕
酸化タングステン微粒子分散液(W−i)に、塩化銅(II)をW/Cu(モル比)が20となるように添加して、酸化タングステン微粒子分散液(W−iii)を得て、光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0074】
〔比較例4〕
酸化チタン微粒子分散液(T−iii)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)とを質量比で(T−iii):(W−i)=50:50となるように混合することにより、光触媒微粒子分散液(ζ)を得て、光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0075】
〔比較例5〕
ペルオキソチタン酸溶液(t−i)を、0.5MPa下、150℃、420分間水熱処理したこと以外は、実施例1と同様に銅含有酸化チタン微粒子分散液(T−iv)を得た。
こうして得られた酸化チタン微粒子分散液(T−iv)から、酸化チタン微粒子の平均粒子径、酸化チタン微粒子に含有されるペルオキソチタン成分の存在、及び酸化チタン微粒子分散液に含有されるペルオキソチタン成分濃度の測定を行った。
【0076】
酸化チタン微粒子分散液(T−iv)と酸化タングステン微粒子分散液(W−i)とを質量比で(T−iv):(W−i)=50:50となるように混合することにより、光触媒微粒子分散液(η)を得て、光触媒活性評価を実施例1と同様に行った。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
実施例1〜3と、比較例1、2の結果から、酸化チタン・酸化タングステン微粒子を複合化することで可視光応答性が高まることが分かる。
【0081】
比較例2、3の結果から、酸化タングステン微粒子に銅化合物を直接混合/担持すると可視光活性は高まるものの、UV暴露後に性能が低下することから、耐久性が低いことがわかる。
【0082】
実施例1、5と、比較例4の結果から、複合化される酸化チタンが銅を含有していると可視光活性が高まることが分かる。
【0083】
実施例1と、比較例5の結果から、酸化チタン中及び分散液中のペルオキソチタン成分濃度が低いと平均粒子径が大きくなり、可視光応答性が十分に高められないことが分かる。
【0084】
実施例6の結果から、銅成分が酸化チタン微粒子中に固溶されていない場合には、耐UV性が下がる傾向にあるものの、酸化タングステン微粒子との複合効果があることが確認できる。