特許第6237781号(P6237781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6237781-非水電解質二次電池負極用炭素質材料 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237781
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池負極用炭素質材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20171120BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-543702(P2015-543702)
(86)(22)【出願日】2014年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2014005192
(87)【国際公開番号】WO2015059892
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-218499(P2013-218499)
(32)【優先日】2013年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】光嶋 章
(72)【発明者】
【氏名】奥野 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】小役丸 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
(72)【発明者】
【氏名】多田 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】園部 直弘
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−534024(JP,A)
【文献】 特開2011−204906(JP,A)
【文献】 特開平09−293648(JP,A)
【文献】 特開2008−124034(JP,A)
【文献】 特表2014−519135(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034859(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/038491(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の炭素質材料であって、
BET比表面積が1m2/g以上5.4m2/g以下であり、
前記炭素質材料を構成する炭素質粒子が、コア部と前記コア部を囲むスキン部とを有し、
前記コア部は、椰子殻由来の炭素質原料の焼成物を含み、
前記スキン部は、前記コア部を構成する材料よりも電子ビームの照射を受けたときの電子放出特性が高い材料により構成され、かつ有機質材料からの揮発成分に由来する炭素質材料を含む、
非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡を用いて前記炭素質粒子の断面を観察したときに、前記スキン部が、前記コア部より明るい表層部として識別できる、請求項1に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡を用いて前記炭素質粒子の断面を観察したときに、前記スキン部が、厚さが100nm以上の表層部として観察される、請求項2に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【請求項4】
前記炭素質材料を140℃、133.3Paの条件で2時間乾燥させて得た炭素質材料αの吸湿量Xを、前記炭素質材料αをさらに30℃、相対湿度60%の条件で2時間放置して得た炭素質材料βの吸湿量Yから差し引いた差分(吸湿量Y−吸湿量X)が15594ppm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
ただし、前記吸湿量Xおよび前記吸湿量Yは、測定対象とする前記炭素質材料αまたは前記炭素質材料βを250℃に加熱したときに放出される水分の質量をカールフィッシャー滴定法により測定し、前記質量を測定対象とする前記炭素質材料αまたは前記炭素質材料βの質量により除して定められる値である。
【請求項5】
前記炭素質材料βを140℃、133.3Paの条件で2時間乾燥させて得た炭素質材料γの吸湿量Zが262ppm以下である、請求項4に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
ただし、前記吸湿量Zは、測定対象とする前記炭素質材料γを250℃に加熱したときに放出される水分の質量をカールフィッシャー滴定法により測定し、前記質量を測定対象とする前記炭素質材料γの質量により除して定められる値である。
【請求項6】
平均粒子径が1μm〜20μmの範囲にある、請求項1に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【請求項7】
前記椰子殻由来の炭素質原料が、ココヤシおよび/またはパームヤシから得られた炭素質原料である請求項1に記載の非水電解質二次電池負極用炭素質材料。
【請求項8】
請求項1に記載の炭素質材料を含む非水電解質二次電池負極電極。
【請求項9】
請求項に記載の負極電極を含む非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の負極に適した炭素質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、主として黒鉛材料が使用されている。一方、黒鉛材料の理論容量を上回る容量を有する非黒鉛系の炭素質材料が報告されており、非黒鉛系の炭素質材料についても開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非黒鉛系の炭素質材料である活性炭を改良した負極材料が提案されている。この負極材料は、活性炭の表面にピッチ等の有機物の揮発成分を被着させることにより製造される。特許文献1によると、揮発成分の被着によって活性炭の細孔分布が制御され、高容量かつ高出力の電池に適した負極材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−346801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非黒鉛系の炭素質材料の原料としては、安価で環境にやさしい植物由来の炭素質原料が注目されている。しかし、植物由来の炭素質原料から得た炭素質材料には、微細孔が多く存在するために、その吸湿性が高くなる傾向があった。非水電解質二次電池の内部に水分が存在すると、電解液の加水分解に伴う酸の発生や水の電気分解によるガスの発生が問題を引き起こす。このため、負極材料は可能な限り水分を排除した状態で電池に組み込むことが望ましい。したがって、吸湿性が高い負極材料は、電池に組み込むまでの保管やその取扱いが煩雑となる。植物由来の炭素質原料から得た炭素質材料を量産される非水電解質二次電池の負極材料として用いるためには、この炭素質材料の吸湿性を低下させることが極めて重要である。本発明者の検討によると、特許文献1に開示されている負極材料は電池の高容量化には適しているが、その吸湿性が高すぎるために、量産される非水電解質二次電池には適していない。
【0006】
非水電解質二次電池の負極材料には、言うまでもなく、吸湿性の抑制のみならず電池特性の向上に適していることも求められる。したがって、負極材料の吸湿性の抑制は、電池特性の低下をもたらさないように実施することが求められる。
【0007】
そこで、本発明は、負極材料として用いられたときに、非水電解質二次電池の電池特性の低下をもたらさないように、植物由来の炭素質原料から得た炭素質材料の吸湿性を低下することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特許文献1に開示されている技術、すなわちピッチ等の有機物の揮発成分を被着させる技術を適用し、植物由来の炭素質原料から得た炭素質材料の改良を試みることから検討を開始し、鋭意検討の結果、以下の炭素質原料により本発明の目的が達成されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
粒子状の炭素質材料であって、
BET比表面積が1m2/g以上20m2/g未満であり、
前記炭素質材料を構成する炭素質粒子が、コア部と前記コア部を囲むスキン部とを有し、
前記コア部は、植物由来の炭素質原料の焼成物を含み、
前記スキン部は、前記コア部を構成する材料よりも電子ビームの照射を受けたときの電子放出特性が高い材料により構成されている、
非水電解質二次電池負極用炭素質材料、を提供する。
【0010】
また、本発明は、本発明の炭素質材料を含む非水電解質二次電池負極電極、を提供する。さらに、本発明は、本発明の負極電極を含む非水電解質二次電池、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、植物由来の炭素質原料を用いて、抑制された吸湿性を有し、非水電解質二次電池の負極材料として用いた場合に、良好な電池特性を実現する炭素質材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の炭素質材料を構成する炭素質粒子を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という)で観察した結果を示す図である。
図2】本発明による炭素質材料を構成する炭素質粒子をSEMで観察した結果の一例を示す図である。
図3】本発明による炭素質材料を構成する炭素質粒子を透過型電子顕微鏡(以下「TEM」という)で観察した結果の一例を示す図であり、Aが粒子内部の観察結果であり、Bが粒子表層部の観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0014】
本発明の一形態において、粒子状の炭素質材料は複数の炭素質粒子を含んでいる。本実施形態における炭素質材料を構成する炭素質粒子は、コア部とコア部を覆うスキン部とを有する。SEMを用いて炭素質粒子の断面を観察したときに、スキン部はコア部より明るい表層部として識別することができる。SEMは、通常観察する対象物に電子ビームを照射して対象物から放出される電子線を検出して対象物を観察する。このため電子放出特性が高い材料から構成された材料はより明るく観察されることになる。
【0015】
コア部は、SEMを用いた観察により相対的に暗く見える断面内部に対応する。コア部は植物由来の炭素質原料の焼成物を含む。炭素質原料は、植物由来である限り、言い換えると植物を原料として得られたものである限り、特に制限はない。炭素質原料の起源となる植物原料としては、椰子殼、茶葉、サトウキビ、果実(例えばバナナ、みかん)、藁、籾殻、竹を例示できる。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば使用済みの茶葉)、あるいはその一部(例えばバナナやみかんの皮)を包含している。複数種類の植物原料に由来する炭素質原料を用いても構わない。
【0016】
好ましい植物原料は大量入手が容易な椰子殼である。椰子殼としては、ココヤシ、パームヤシ(アブラヤシ)、サラク、オオミヤシの椰子殼を挙げることができる。ココヤシおよびパームヤシは、食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として大量に利用されているため、まとめて入手しやすい。植物由来の炭素質原料は、ココヤシおよび/またはパームヤシから得られたものであることが好ましい。
【0017】
植物由来の炭素質原料は、植物原料を加熱して炭素分に富む粒子状物へと変質させることにより製造される。なお、この炭素分に富む粒子状物は、チャーと呼ばれることがあり、椰子殼チャー等として入手可能である。
【0018】
植物由来の炭素質原料は、多量の活物質をドープ可能であることから、非水電解質二次電池の負極材料として基本的には適している。しかし、この炭素質原料には、植物に含まれていた金属元素に由来する灰分が多く含まれており、この灰分が電池特性に影響を与える可能性がある。このため、植物由来の炭素質原料は、負極材料となる炭素質材料を得るために焼成する前に、脱灰処理によって灰分を減少させておくことが望ましい。なお、灰分を生成させる金属元素は、植物原料によって相違するが、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ケイ素を例示できる。
【0019】
脱灰処理は液相脱灰と気相脱灰とに大別できる。適用する脱灰処理を限定する趣旨ではないが、以下では、脱灰後に乾燥処理の必要がない点で好ましい気相脱灰について説明する。
【0020】
気相脱灰は、ハロゲン元素含有ガスを含む気相中で脱灰の対象物(植物由来の炭素質原料)を加熱することにより実施される。ハロゲン元素含有ガスとしては、塩素、フッ化水素、塩化水素、臭化水素を例示できる。気相は、ハロゲン元素含有ガス以外の成分として非酸化性ガスを含んでいてもよい。非酸化性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等を使用できる。脱灰に好ましい気相は、ハロゲン元素ガスと非酸化性ガスとの混合ガスである。気相脱灰の好ましい加熱温度は500℃〜1100℃である。
【0021】
脱灰処理の後、植物由来の炭素質原料は、焼成され、コア部を形成することになる。本実施形態では、炭素質原料の焼成と共に、コア部の表面にスキン部が形成される。
【0022】
スキン部は、SEMを用いた観察により相対的に明るく見える断面表層部に対応する。本実施形態において、スキン部は、コア部とは別に準備された有機質材料からの揮発成分に由来する炭素質材料を含む。スキン部は、植物由来の炭素質原料の焼成物の微細孔に、有機質材料からの揮発成分に由来する炭素質材料が入りこんで形成された部分を有していてもよい。
【0023】
有機質材料は、スキン部を形成する揮発成分を供給可能であればその種類に特段の制限はなく、ピッチ、樹脂等を使用できる。揮発成分は、典型的には焼成の際の有機質材料の熱分解に伴って生じる低分子量化合物である。これから明らかなように、低分子量有機化合物自体を有機質材料として用いてもよい。ピッチとしては石油系ピッチ、石炭系ピッチを例示できる。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の熱可塑性樹脂、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を例示できる。低分子量有機化合物としては、メタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アントラセンを例示できる。中でも、ピッチ、ポリスチレンがスキン部を形成する温度域で揮発物を生成するため、高いスキン部の生成効率を有し、また工業的にも入手し易く、安定な物質であるため好ましい。
【0024】
本実施形態において、スキン部の形成は、炭素質原料とスキン部を形成するための有機質材料とを、炭素質原料と有機質材料とが雰囲気を共有する状態で焼成することにより実施される。炭素質原料と有機質材料とは焼成前に混合しておくとよい。混合を容易に行うために、有機質材料としては粒子状物を使用することが好ましい。
【0025】
本実施形態において、スキン部を形成するための焼成は、コア部の構造が好ましい状態に変化しうる高温で実施することが望ましい。この温度は、好ましくは1150℃以上であり、さらに好ましくは1200℃以上であり、例えば1200℃〜1300℃である。焼成は非酸化性ガス雰囲気中で実施することが望ましい。非酸化性ガスとしては、上記に例示したガスを使用可能であるが、窒素ガスが好ましい。
【0026】
揮発成分を被着させるためだけであれば、1000℃未満の温度での加熱で足りる。このため、これまでに提案されている揮発成分の被着は数百度の温度域で実施されている。例えば特許文献1の各実施例では670℃での加熱が適用されている。特許文献1の実施例に示されているとおり、揮発成分の被着は、活性炭から得た負極材料を用いた電池の容量および充放電効率を向上させる。しかし、特許文献1に記載されているように、植物由来の炭素質原料である椰子殻活性炭を用いた場合の充放電効率(実施例6;約35%)は、ピッチ系活性炭を用いた場合の充放電効率(実施例1〜5;約41〜66%)と比較して低く、植物由来の炭素質原料については改善の余地があるように見受けられる。また、1000℃未満の温度で有機質材料とともに加熱しても、得られる炭素質材料の吸湿性は十分に低下していない。
【0027】
図1に、1000℃未満程度の温度で炭素質原料と有機質材料とを焼成した炭素質材料の断面のSEMによる観察結果を示す(有機質材料:ポリスチレン、加熱温度:800℃)。図1ではコア部のみが観察される。なお、炭素質粒子の周囲に存在するリング状の明部は、エッジ(炭素質粒子と包埋樹脂の境界線)である。エッジの厚さは通常50nm未満、大きくても100nm未満にとどまる。一方、1150℃程度以上で焼成するとコア部の周囲にスキン部が形成される(図2参照、有機質材料:ポリスチレン、加熱温度:1270℃)。これらのスキン部は、SEMを用いて炭素質粒子の断面を観察したときに、典型的には厚さが100nm以上の表層部として観察される。
【0028】
高温域における加熱では、植物由来の炭素質原料に構造的な変化が引き起こされ、この変化が伴うことによって、被着する揮発成分が炭素質原料の焼成物と一体化しつつ、その表層においてスキン部を形成することが可能になると考えられる(図2参照;有機質材料ポリスチレン、焼成温度1270℃)。言い換えると、植物由来の炭素質原料の構造を変化させながら有機質材料から揮発成分を供給することにより、スキン部が形成される条件が整うことになると推察される。ただし、加熱温度が高すぎると、炭素質材料において炭素骨格が確立しすぎることとなって放電容量の低下等の影響が生じることがあるため、加熱は1300℃程度以下で実施することが好ましい。
【0029】
スキン部およびコア部の観察は用いるSEMの標準的な測定条件によって実施するとよい。標準的な測定条件は、SEMに付属する画像の自動調整機能により観察対象に適した状態に設定することができる。この機能は、ABC機能(オート・ブライトネス・コントラスト機能)等と呼ばれ、電子検出器により検出した電子数の最大値と最小値とに基づいて所定の諧調(例えば256諧調)を定めることにより実施される。
【0030】
スキン部の形成による細孔構造の変化によって、電解液との反応および水分の吸収が抑制され、充放電効率および吸湿性が改善される。しかし、特に水分の吸収を十分に抑制するためには、スキン部の形成による細孔構造の変化のみに頼らず、コア部の構造変化によっても吸湿性を低下させることが望ましい。スキン部の形成、およびコア部の構造変化は、比表面積の低下によって評価することができる。具体的には、炭素質材料の比表面積は20m2/g未満が望ましい。本実施形態において、炭素質材料の比表面積は、好ましくは18m2/g以下であり、さらに好ましくは15m2/g以下であり、特に好ましくは12m2/g以下であり、場合によっては10m2/g以下であってもよい。比表面積の下限は特に制限されないが、比表面積は、例えば1m2/g以上、場合によっては3m2/g以上であってもよい。
【0031】
本明細書において、比表面積はBET法により定まる比表面積(BET比表面積)を意味する。比表面積の具体的な測定方法は、77Kで測定した窒素吸着等温線から、BETの式による解析(多点法)を行い、得られたBET等温線の相対圧p/p0=0.001〜0.35(p0は飽和圧力)の領域での直線部分から比表面積を算出した。
【0032】
本実施形態の炭素質材料は、SEMを用いて観察したときに、コア部(相対的に暗い内部)とスキン部(相対的に明るい表層部)の輝度比が大きいことが好ましい。ここで、輝度とは、コア部およびスキン部それぞれの電子放出特性のことである。つまり、スキン部は、コア部を構成する材料よりも電子ビームの照射を受けたときの電子放出特性が高い材料により構成されているが、その差が大きいことが好ましい。輝度すなわち電子放出特性が高いとは、その材料の電子伝導性が高いことを示し、構造が緻密であるといえる。構造が緻密であれば吸湿性が低下する。具体的には、コア部の輝度に対するスキン部の輝度の比として定義される輝度比が1.05以上である場合、高輝度部分は高炭素密度であり、高い輝度比はスキン層が内部に比べ高い炭素密度を示し低吸湿性であるため好ましい。この輝度比は、より好ましくは1.10以上、特に好ましくは1.20以上である。
【0033】
上述の輝度比は、具体的にはSEMを用いて炭素質材料の断面を観察したときに検出される電子信号によりガウシアン分布を作成し、最も強度が高い粒子と包埋樹脂の境界線(エッジ)と、最も強度が低い粒子内部を検出し、その値を0〜255階調の間に入るように調整された場合の、粒子内部の輝度に対する粒子表層部の輝度の比である。
【0034】
本実施形態の炭素質材料は、炭素質材料を構成する炭素質粒子の平均粒子径が1μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。この平均粒子径は、好ましくは3μm〜18μm、より好ましくは5μm〜15μmである。炭素質材料の平均粒子径の調整は、各種ミルを用いた粉砕処理を植物由来の炭素質原料に適用することによって実施できる。粉砕処理は、脱灰処理後の炭素質原料に適用することが好ましい。
【0035】
本明細書において、平均粒子径は、フロー式画像解析法により測定した測定値を採用する。この測定値は、シスメックス社製「FPIA−3000」等の湿式フロー式粒子形状分析装置を用いて得ることができる。この装置では、測定対象を分散させた分散液を扁平な試料流として流しながら、ストロボ光を例えば1/60秒間隔で連続して照射しながら炭素質粒子を撮像し、撮像した画像を解析して平均粒子径等の粒子のパラメータを算出する。平均粒子径は、具体的には、撮像した粒子を円とみなしたときの直径を粒子の面積に基づいて算出し、この直径の個数平均により算出される。
【0036】
スキン部は、コア部の表面全体を被覆する程度に薄く形成すればよく過度に厚く形成する必要はない。厚く形成しすぎると炭素質材料表層部の抵抗が大きくなり、Liイオンのドープおよび脱ドープが阻害された結果、充放電効率が低下する可能性がある。具体的には、スキン部を形成する前の粒子の平均粒子径を平均粒子径A、スキン部を形成した後の平均粒子径Bとしたときに、平均粒子径Aに対する平均粒子径Bの比が1〜1.1であることが好ましい。(平均粒子径B/平均粒子径A)の値は、より好ましくは1〜1.05である。
【0037】
すなわち、本実施形態では、粒子状の炭素質材料が、有機質材料と粒子状の植物由来の炭素質原料とを非酸化性雰囲気において1150℃〜1300℃において焼成することにより、炭素質原料の焼成物を含むコア部の表面に有機質材料に由来するスキン部を形成することにより得られたものであることが好ましい。粒子状の炭素質材料は、炭素質原料の平均粒子径Aに対する炭素質材料の平均粒子径Bの比B/Aが1〜1.1となるようにスキン部を形成させたものであることがより好ましい。
【0038】
本実施形態の炭素質材料の特徴の一つは低い吸湿性にある。吸湿性は、具体的には、炭素質材料を140℃、133.3Pa(1torr)の条件で2時間乾燥させて得た炭素質材料αの吸湿量Xを、炭素質材料αをさらに30℃、相対湿度60%の条件で2時間放置して得た炭素質材料βの吸湿量Yから差し引いた差分(吸湿量Y−吸湿量X)により表示して、30000ppm以下、特に25000ppm以下であることが好ましい。差分(吸湿量Y−吸湿量X)は、含水雰囲気中に放置したときに炭素質材料が測定する水分量、すなわち炭素質材料の吸湿特性を示す指標となる。
【0039】
吸湿性は、さらに炭素質材料βを140℃、133.3Pa(1torr)の条件で2時間乾燥させて得た炭素質材料γの吸湿量Zにより表示して、700ppm以下、特に500ppm以下であることが好ましい。吸湿量Zは、含水雰囲気中で吸湿した後の乾燥処理によっても残存する水分量、すなわち炭素質材料の放湿特性を示す指標となる。
【0040】
ここで、吸湿量X、YまたはZは、測定対象とする炭素質材料α、βまたはγを250℃に加熱したときに放出される水分の質量をカールフィッシャー滴定法により測定し、この質量を測定対象とする炭素質材料α、βまたはγの質量により除して定められる値である。なお、この除算における分母は250℃に加熱する前の各炭素質材料の質量である。
【0041】
図2に、本実施形態の炭素質材料を構成する炭素質粒子の断面のSEMによる観察結果の一例を示す。コア部はスキン部により取り囲まれている。植物原料由来の焼成物を含むコア部と有機質材料由来の揮発成分を含むスキン部とは、その境界およびスキン部において連続した構造を形成している。スキン部は、コア部の表面によく追随して形成され、その表面の微細孔を覆っている。
【0042】
図3に、TEMを用いて、炭素質粒子のコア部(図3A)およびスキン部(図3B)を観察した結果の一例を示す。コア部とスキン部との間に構造差を観察されない。炭素質粒子のスキン部には、植物由来の炭素質原料の焼成物と有機質材料からの揮発成分とが微細に入り組んだ複合体構造が含まれていると考えられる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
ココヤシ由来のヤシ殻チャーを塩化水素気流中980℃で脱灰処理を実施することにより、ココヤシ由来の炭素質原料を得た。次いで、ジェットミルを用いて炭素質原料の粉砕処理を実施した。粉砕した炭素質原料の平均粒子径を、湿式フロー式粒子形状分析装置(シスメックス社製「FPIA−3000」)を用いて測定したところ、10.2μmであった。さらに、炭素質原料と有機質材料とした平均粒径0.3mmのポリスチレン粒子とを混合し、窒素雰囲気下1270℃で10分間焼成し、粒子状の炭素質材料を得た。炭素質原料と有機質材料との混合比は質量基準で10:1とした。粒子状の炭素質材料の平均粒子径は、上記装置を用いた測定によると、10.5μmであった。
【0044】
SEMを用いて粒子状の炭素質材料を観察した。SEM観察には、炭素質材料をエポキシ樹脂(包埋樹脂)に包埋し、クロスセクションポリッシャ(日本電子製「SM−09010」)を用いて炭素質粒子を断面出しし、断面に白金をスパッタリングして作製した試料を用いた。用いたSEMは日立ハイテク社製「SU70」であり、測定条件は加速電圧15kV、ワーキングディスタンス15mm、装置倍率5000〜20000倍とした。なお、観察像取得は、二次電子情報と反射電子情報を組み合わせて撮影するSuper ExBモードにて行い、コントラスト調整はオート調整とした。
【0045】
SEMを用いた断面観察により、コア部とスキン部とが確認された。図2と同様、スキン部は内部の周囲に形成されていた。このSEM画像を画像解析ソフトウェア(日本ローパー社製「Image−ProPLUS」)のラインプロファイルコマンドを用いて、炭素質粒子のコア部(暗部)からスキン部(明部)にかけて測定線を引いて輝度を測定した。コア部に対するスキン部の輝度比は1.21であった。
【0046】
自動比表面積細孔分布測定装置(日本ベル社製「BELSORP−mini」)を用いて炭素質材料のBET比表面積を測定したところ、5.4m2/gであった。
【0047】
カールフィッシャー水分測定装置(三菱化学アナリテック社製 微量水分測定装置CA−200)を用いてカールフィッシャー滴定法(電量滴定法)により炭素質材料の吸湿性を測定した。測定は上述の炭素質材料α、βおよびγについて実施した。差分(吸湿量Y−吸湿量X)は15594ppmであり、吸湿量Zは262ppmであった。
【0048】
引き続き、炭素質材料を用いた負極およびコインセルを作製し、充放電試験を実施した。負極は、炭素質材料94重量部に対し、結合剤としてポリフッ化ビニリデン6重量部を加え、さらに希釈ペースト化剤としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えてペーストを得た。アプリケーターを用いてペーストを銅箔上に塗工し、乾燥させた後、プレスして高密度化処理を実施し、厚さ0.1mm、直径14mmの負極を得た。
【0049】
電解液としては、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの1:1混合液に支持電解質として過塩素酸リチウム(LiClO4)を1.0mol/l加えた溶液を用いた。対極としてはリチウム金属を、セパレータとしては多孔質ポリプロピレンフィルムをそれぞれ用いた。
【0050】
上述の負極、電解液、対極およびセパレータを用い、充放電試験用のコインセル(2032型)を作製した。このコインセルでは、対極のリチウム金属極との電位の関係からは、炭素質材料からなる負極は実際には正極となる。このため、炭素質材料へのリチウムイオンをドーピングする過程は放電になるが、実電池に合わせて便宜上この過程を充電と呼び、炭素質材料極からリチウムイオンを脱ドーピングする過程を放電と呼ぶ。
【0051】
まず、0.77mAの一定電流で充電を行った。定電流充電を開始すると、コインセルの電圧は徐々に下降した。電池電圧が0mVに達したときに定電流から定電位に切換え、電流密度が20μAに達して微小となったときに充電を終了させ、その後、10分間休止した。その後、放電を行った。放電は0.77mAの定電流で開始し、電池電圧が1.5Vに達した時点で放電終了とした。放電容量は438mAh/g、充放電効率は87.4%となった。
【0052】
(実施例2)
脱灰処理温度を870℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、粒子状の炭素質材料を得た。この炭素質材料について実施例1と同様の各測定を実施した。SEMを用いた断面観察により、炭素質粒子にはコア部とスキン部とが確認された。
【0053】
参照例1
有機質材料として平均粒子径1mmの石油系ピッチを用い、炭素質原料と有機質材料との混合比を質量基準で7:3とし、焼成後の炭素質材料からピッチ焼成物を篩分けにより除去した以外は、実施例1と同様にして、粒子状の炭素質材料を得た。この炭素質材料について実施例1と同様の各測定を実施した。SEMを用いた断面観察により、炭素質粒子にはコア部とスキン部とが確認された。
【0054】
参照例2
パームヤシの椰子殻を500℃の窒素雰囲気下で60分間炭化して椰子殼チャーを得た。希塩酸を用いて椰子殼チャーを脱灰処理し、さらに乾燥させ、その後、980℃の窒素雰囲気下で熱処理することにより、パームヤシ由来の炭素質原料を得た。その後は、実施例1と同様にして、粒子状の炭素質材料を得た。この炭素質材料について実施例1と同様の各測定を実施した。SEMを用いた断面観察により、炭素質粒子にはコア部とスキン部とが確認された。
【0055】
(比較例1)
有機質材料を添加することなくココヤシ由来の炭素質原料を窒素雰囲気下で焼成して粒子状の炭素質材料を得たことを除いては、実施例1と同様にして、粒子状の炭素質材料を得た。この炭素質材料について実施例1と同様の各測定を実施した。
【0056】
(比較例2)
有機質材料とココヤシ由来の870℃で脱灰された炭素質原料を800℃の窒素雰囲気下で焼成して粒子状の炭素質材料を得たことを除いては、実施例1と同様にして、粒子状の炭素質材料を得た。この炭素質材料について実施例1と同様の各測定を実施した。
【0057】
比較例1、2により得た炭素質材料からは、SEMの断面観察により、スキン部が確認できなかった。比較例2による炭素質材料においてスキン部が確認できなかったのは、焼成温度(有機質材料の被着温度)が低く、コア部を形成する植物由来の炭素質原料の構造が十分に変化しなかったために、ポリスチレン粒子から供給された揮発成分が細孔の内部に入り込んだためと考えられる。
【0058】
以上の実施例、参照例および比較例の測定の結果を表1にまとめて示す。
【0059】
比較例1、2の炭素質材料は、比表面積が高いために吸湿性が高く、量産される非水電解質二次電池の負極材料には適していない。これに対し、実施例1〜2および参照例1〜2の炭素質材料では、SEMを用いた断面観察によりスキン部が確認された。実施例1〜2および参照例1〜2の炭素質材料の比表面積は低下し、吸湿性が改善された。さらに実施例1〜2および参照例1〜2の炭素質材料を用いた電池の特性は、比較例1の炭素質材料を用いた電池の特性と比較すると、容量において向上が認められ、比較例2の炭素質材料を用いた電池の特性と比較すると充放電効率において向上が認められた。容量においては比較例に劣っているが、電池特性全体として見れば実施例1〜2および参照例1〜2は、比較例に劣っていない。すなわち、実施例1〜2および参照例1〜2の炭素質材料は、電池特性を低下させることなく吸湿性を低下可能であって、量産される非水電解質二次電池の負極材料に適している。
【0060】
図1
図2
図3