(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の窒化物単結晶のアニール処理方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
まず、
図1を用いて、六方晶系の結晶構造の軸と面との関係について説明する。
図1は、六方晶系の結晶構造の軸と面を説明する図である。本明細書においてシードまたは窒化物結晶の「主面」とは、当該シードまたは窒化物結晶における最も広い面であって、通常は結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。例えば、
図1の[2−1]に示す(0001)面とその反対面である(000−1)面を指す。III族窒化物結晶では、C面はIII族面又はV族面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面又はN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には
図1の[2−2]で示す(1−100)面や、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面である。具体的には
図1の[2−3]で示すような(11−20)面や、(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。
【0014】
また、本明細書において「非極性面」とは、表面にIII族元素と窒素元素の両方が存在しており、かつその存在比が1:1である面を意味する。具体的には、M面やA面を好ましい面として挙げることができる。本明細書において「半極性面」とは、例えば、III族窒化物が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、[0001]面以外で、m=0ではない面をいう。すなわち(0001)面に対して傾いた面で、かつ非極性面ではない面をいう。表面にIII族元素と窒素元素の両方あるいはC面のように片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。窒化物結晶の主面として好ましく採用できる半極性面として、例えば(10−11)面、(10−1−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(20−21)面、(202−1)面、(20−2−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(11−21)面、(11−2−1)面、(11−22)面、(11−2−2)面、(11−24)面、(11−2−4)面などを挙げることができ、特に(10−11)面、(202−1)面を挙げることができる。
【0015】
[窒化物単結晶のアニール処理方法]
(特徴)
本発明の窒化物単結晶のアニール処理方法は、アモノサーマル法で結晶成長した窒化物単結晶を750℃以上で5.5時間以上アニール処理することを特徴とする。
アモノサーマル法で結晶成長した窒化物単結晶のアニール処理による作用機構は、詳細にはまだ分かっていないが次のようなことが考えられる。一般的に結晶中でドーパントが活性化するためには、ドーパントとなる原子が結晶の格子点に入らなければならないことが知られている。例えばアモノサーマル法で育成した窒化ガリウムの場合、アニール処理する前は結晶内部にドーパントとなる酸素等の原子が多量に存在するにもかかわらず、それらが活性化していないため非常に高抵抗となっていることを確認している。活性化していない要因として、一般的なアモノサーマル法での育成温度である750℃未満の温度ではドーパント原子が格子間に入った状態であり、格子点の原子と置換された状態にまではなっていないことが考えられる。そこで本発明では、アモノサーマル法で結晶成長した窒化物単結晶を750℃以上の温度でアニール処理することで、格子間に入った状態のドーパント原子が、格子点の原子と置換された状態となり、その結果、ドーパント原子が活性化されていると予想される。
また上述のアニール温度条件においては、活性化がゆっくり進行すると考えられ、そのためアニール時間が十分長くなければ結晶全体では十分活性化できていないと考えられる。そこで本発明では、750℃以上の温度条件において、5.5時間以上の長時間のアニール処理をすることで、ドーパント原子を十分に活性化することができていると予想される。
【0016】
本発明にしたがってアニール処理の時間を5.5時間以上にすることによって、窒化物単結晶のキャリアを活性化するとともに、移動度も十分に向上させることができる。アニール処理の時間が不十分であると、キャリアを活性化することはできても、移動度を十分に向上させることができない、アニール処理の時間は、5.5時間以上であることが好ましく、8時間以上であることがより好ましく、10時間以上であることがさらに好ましく、12時間以上であることが特に好ましい。また、300時間以内であることが好ましく、150時間以内であることがより好ましく、120時間以内であることがさらに好ましく、100時間以内であることが特に好ましい。
アニール処理の温度は750℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、850℃以上であることがさらに好ましく、900℃以上であることが特に好ましい。また、アニール処理の温度は1250℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましく、1100℃以下であることがさらに好ましく、1050℃以下であることが特に好ましい。1250℃以下であれば、アニール処理による質量減少を抑えやすい。
【0017】
アニール処理中の温度は一定に維持してもよいし、段階的に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。また、これらを適宜組み合わせて実施してもよい。好ましいのは、必要十分な温度と時間を満たすことであることから、一定温度を維持する場合である。昇温する場合の昇温速度は10℃/時間以上にすることが好ましく、50℃/時間以上にすることがより好ましく、100℃/時間以上にすることがさらに好ましく、また、2000℃/時間以下にすることが好ましく、1500℃/時間以下にすることがより好ましく、1000℃/時間以下にすることがさらに好ましい。また、降温する場合の降温速度は10℃/時間以上にすることが好ましく、20℃/時間以上にすることがより好ましく、50℃/時間以上にすることがさらに好ましく、また、1000℃/時間以下にすることが好ましく、800℃/時間以下にすることがより好ましく、500℃/時間以下にすることがさらに好ましい。急激な昇温および/または降温によるサーマルショックは結晶中への歪みの誘起、クラックの発生を引き起こすことから、前記昇温/降温速度の範囲内で適宜調節することが好ましい。結晶の寸法が大きいほどサーマルショックによる結晶のダメージが大きくなるため、小さな寸法の結晶の場合よりも大きな寸法の結晶に対しては相対的に低い昇温/降温速度を適用することが好ましい。
【0018】
本発明のアニール処理は、1回だけ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行う場合は、複数回のアニール処理の時間がトータルで5.5時間以上であればよい。すなわち、750℃以上に維持する時間がトータルで5.5時間以上あればよい。通常は、時間効率やコストを考慮して1回のアニール処理を5.5時間以上行うことが好ましい。
【0019】
(アニール処理の実施環境)
本発明のアニール処理は、高温で長時間行うものであることから、雰囲気を制御できる空間の中で実施することが好ましい。例えば、結晶のアニールに使用することが可能なアニール炉の中で実施してもよいし、アニール処理する窒化物単結晶をアモノサーマル法により成長させた反応容器の中で実施してもよい。後者の場合は、アモノサーマル法による結晶成長が終わった後に、反応容器をいったん開放してから実施してもよいし、開放せずに結晶成長に続けて実施してもよい。
アモノサーマル法で結晶成長した窒化物単結晶の設置態様は特に制限されない。例えば、サセプタのような台座上に搭載して行ってもよいし、ワイヤーで吊り下げた状態で実施してもよい。
【0020】
アニール処理は、アンモニア、窒素、酸素、水素からなる群より選択される1つ以上が存在する雰囲気下で行うことが好ましい。好ましいのは少なくとも窒素が存在する雰囲気下で行なう場合である。このときの窒素の割合は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。さらには窒素が100%の雰囲気でも好適に行なうことができる。他の好ましい形態は、少なくとも窒素とアンモニアが存在する雰囲気下で行う場合である。このときの窒素の割合は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、また、99%以下であることが好ましく、97%以下であることがより好ましく、95%以下であることがさらに好ましい。また、アンモニアの割合は1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、また、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。また、酸素が存在する場合は0.1%以上であることが好ましく、また、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。酸素が存在することにより、アニールプロセス中に窒化物結晶表面に酸化物皮膜を形成し窒化物結晶の分解を抑制する効果があると推測される。水素が存在する場合は0.1%以上であることが好ましく、また、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。また、より簡便に、大気雰囲気で行うこともできる。この場合雰囲気制御は不要であるが、窒素が70〜90%、酸素が10〜30%の範囲であればよい。
【0021】
さらに、アニール処理はヘリウム、ネオン、アルゴンなどの不活性ガスが存在する雰囲気で行ってもよい。この場合、アンモニア、窒素、酸素、水素は存在していなくてもよい。
アニール処理を行う際には、上述のように制御した雰囲気ガスを流通しながら実施してもよい。
アニール処理時の圧力は、0.001〜10MPaとすることができる。好ましいのは、低コストで簡便に行なうことができることから圧力制御が不要な大気圧(0.1MPa)である。温度を上げることにより窒化物単結晶の分解が起きることから、分解が始まる温度以上ではアンモニア圧をかけて分解を抑制してもよい。例えばGaN単結晶の場合は大気圧下では約800℃を超えると分解を開始することから、少なくとも800℃以上になったときにアンモニア圧をかけてもよい。アンモニア圧は0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましく、また、0.3MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。
【0022】
アニールによる窒化物結晶の分解を抑制するためキャップアニールを行なってもよい。ここでいうキャップアニールとは、高温のアニール環境下で窒化物結晶の分解に起因する表面の変質を抑制するために、窒化物結晶表面を薄膜その他でカバーしてアニールすることである。カバー方法としては、蒸着、スパッタリングなどの薄膜形成法などを用いることができる。カバー材料としてはAu、Ptなどの貴金属元素、カーボン、窒化珪素や窒化アルミニウムなどの窒化物、二酸化珪素や酸化アルミなどの酸化物が好適に用いられる。
【0023】
加熱は、通常のアニール処理に用いられる加熱手段により行うことができる。昇温や降温を短時間に行いたい場合はランプを用いることができる。また、時間をかけて昇温や降温を行いたい場合は、電気炉を用いることができる。これらの加熱手段は組み合わせて用いてもよい。
本発明で用いることができるアニール炉の構造は特に制限されず、マッフル炉、縦型管状炉、横型勘定炉等を使用することができるが、
図2に示すような、横型管状炉を用いることが好ましい。
【0024】
図2に示した装置での窒化物結晶のアニール手順は以下の通りである、まず、ゾーン制御ができる横型環状炉内へ均熱管を設置して、更にその中へ石英管を設置し、石英管100内へ窒化物結晶101を載せたサセプタ102を炉の中央部へ設置し、石英管の両端へ遮熱板103を入れる。更に石英管の両端を水冷フランジ104で封じ、ガス導入側へは導入管105を設置し、排気側は排気管106を接続する。ガス導入側のガス流量制御は、流量調整機能付きフローメーター又はマスフローコントローラーで行うことができる。横型管状炉の制御は、ヒーター108をモニターで熱電対110の温度を見ながら目標温度まで昇温して、ヒーター107,109については中心温度に対するオフセット制御とすることで、設定温度とすることができる。また、ガス流量制御、ヒーター制御はプログラム制御で実施することもできる。
図2のような横型管状炉は、均熱性に優れていることから、大型のバルク結晶のアニールや、複数のウエハやバルク結晶を同一炉内で一度にアニールすることができるので好ましく、また、ガス導入や排出ができることから、内部のクリーン度を上げ、雰囲気制御が可能となるので好ましい。
【0025】
(アニール処理する窒化物単結晶)
本発明においてアニール処理する窒化物単結晶は、アモノサーマル法により結晶成長させた窒化物単結晶である。
窒化物単結晶は、III族窒化物単結晶であることが好ましい。窒化物単結晶の種類としては、GaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AllnGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaN、AlN、AlGaN、AllnGaNであり、より好ましいのはGaNである。
【0026】
本発明においてアニール処理する窒化物単結晶の加工や表面処理状況は特に制限されない。アニール処理する窒化物単結晶は、アモノサーマル法で結晶成長させた後のアズグロウンの窒化物単結晶であってもよいし、その後にスライスしたアズスライスの窒化物単結晶であってもよいし、さらに表面研磨を行った窒化物単結晶であってもよい。ここでいうスライスや研磨の方法については、窒化物単結晶のスライスや研磨に用いられる方法を広く採用することができる。スライスを行ってから本発明のアニール処理を行えば、アニール時間を短くでき、あらかじめ内部の品質を確認できる点で好ましい。また、表面研磨を行ってから本発明のアニール処理を行えば、アニール後の品質確認が容易である点で好ましい。さらに、アモノサーマル法で結晶成長させた後に洗浄してから本発明のアニール処理を行えば、不純物による汚染を防げることができる点で好ましい。
【0027】
本発明においてアニール処理する窒化物単結晶の形状も特に制限されない。例えば、バルクであってもウエハであってもよい。アニール処理後の窒化物単結晶を基板やデバイスとして用いる場合などは、望ましい主面を有する窒化物単結晶であることが好ましい。主面の種類は、C面などの極性面であってもよいし、M面やA面などの非極性面であってもよいし、半極性面であってもよい。また、これらの面から傾斜した面であってもよく、特に制限されない。好ましい主面の例として、+C面、−C面、M面、半極性面、またはこれらの面から±15°傾斜した面を挙げることができる。主面の形状は、円形、楕円形、正方形、長方形など、いずれであってもよい。
【0028】
本発明においてアニール処理する窒化物結晶の品質は特に制限されないが、アニールによるサーマルショックに対する耐性を持たせる観点から、結晶中の残留歪みなどが少ないほうが好ましい。結晶中の残留歪みに影響を与えるパラメータとして、主面における転位密度と結晶格子の曲率半径を挙げることができる。結晶中の転位密度は1×10
7/cm
2以下が好ましく、1×10
6/cm
2以下がより好ましく、1×10
5/cm
2以下がさらに好ましく、1×10
4/cm
2以下が特に好ましい。曲率半径は1m以上が好ましく、5m以上がより好ましく、10m以上がさらに好ましく、20m以上が特に好ましい。
【0029】
本発明においてアニール処理する窒化物単結晶のサイズも特に制限されない。ウエハの場合は、経済性とウェハの加工性の観点から、厚みが1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、下限は例えば0.1mm以上にすることができる。バルクの場合は、厚みが2mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、また、100mm以下であることが好ましく、75mm以下であることがより好ましい。厚すぎる場合は、アニールによるサーマルショックで結晶が破損する可能性が出てくるので、昇温速度、降温速度を調節することで破損を抑制することもできる。
【0030】
本発明においてアニール処理する窒化物単結晶の水素以外の不純物濃度は1×10
20atoms/cm
3以下であることが好ましく、5×10
19atoms/cm
3以下であることがより好ましく、1×10
18atoms/cm
3以下であることがさらに好ましい。また、アニール処理する窒化物単結晶の水素(H)濃度は、例えば5×10
16atoms/cm
3以上であってもよく、さらに5×10
17atoms/cm
3以上であってもよい。また、水素(H)濃度は1×10
21atoms/cm
3以下であることが好ましく、5×10
20atoms/cm
3以下であることがより好ましい。
【0031】
さらに、アニール処理する窒化物単結晶のn型ドーパント濃度は1×10
16/cm
3以上であることが好ましく、1×10
17/cm
3以上であることがより好ましく、1×10
18/cm
3以上であることがさらに好ましい。上記下限以上であると、アニール処理後に低抵抗で移動度が高い窒化物単結晶を得ることができる傾向がある。また、n型ドーパント濃度は1×10
20/cm
3以下であることが好ましく、8×10
19/cm
3以下であることがより好ましく、5×10
19/cm
3以下であることがさらに好ましい。n型ドーパントとしては、酸素、イオウ、セレン、テルル、シリコン、ゲルマニウム、スズ、ハロゲン元素などが挙げられるが、n型ドーパントとして酸素及びシリコンを含むことが好ましく、酸素を含むことがより好ましい。
なお、アニール処理する窒化物単結晶の酸素濃度は1×10
16/cm
3以上であることが好ましく、1×10
17/cm
3以上であることがより好ましく、1×10
18/cm
3以上であることがさらに好ましい。上記下限以上であると、アニール処理後に低抵抗で移動度が高い窒化物単結晶を得ることができる傾向がある。さらに、酸素濃度は1×10
20/cm
3以下であることが好ましく、8×10
19/cm
3以下であることがより好ましく、5×10
19/cm
3以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、アニール処理する窒化物結晶の塩素、臭素、ヨウ素、フッ素を合計したハロゲン元素濃度は1×10
20atoms/cm
3以下であることが好ましく、1×10
19atoms/cm
3以下であることがより好ましく、5×10
18atoms/cm
3以下であることがさらに好ましく、また1×10
14atoms/cm
3以上であることが好ましく、1×10
15atoms/cm
3以上であることがより好ましく、1×10
16atoms/cm
3以上であることがさらに好ましい。
窒化物単結晶を製造する際に用いるアモノサーマル法とは、超臨界状態及び/又は亜臨界状態にあるアンモニア溶媒などの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の窒化物単結晶を製造する方法である。結晶成長は、アンモニア溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させることにより行う。アモノサーマル法による結晶成長は、高温高圧の超臨界アンモニア環境下での反応であり、さらに、超臨界状態の純アンモニア中への窒化物単結晶の溶解度が極めて小さいため、溶解度を向上させ結晶成長を促進させるために好ましくは鉱化剤が用いられる。本発明では、アルカリ金属を不純物として取り込まないため、半導体特性に優れていることから、特に酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法で結晶成長させた窒化物単結晶に対して好ましくアニール処理を実施することができる。
【0033】
酸性鉱化剤としては、ハロゲン原子を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる、例えば塩化アンモニウム(NH
4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH
4I)、臭化アンモニウム(NH
4Br)、フッ化アンモニウム(NH
4F)である。本発明においては、得られる窒化物単結晶の品質が良好なことから、酸性鉱化剤として塩素、臭素、ヨウ素、フッ素のうち少なくとも2つ以上を含有していることが好ましく、より好ましくは少なくとも塩素、臭素、ヨウ素のうち1つとフッ素を含有していることである。
ハロゲン化アンモニウムを鉱化剤として添加する代わりに、ハロゲン化水素ガスとして添加してもよい。ハロゲン化水素ガスは反応容器中でアンモニアと反応することによりハロゲン化アンモニウムを生成する。なお、本発明は塩基性鉱化剤を用いて結晶成長させた窒化物単結晶に対しても適用することができる。
【0034】
(アモノサーマル法)
以下において、アモノサーマル法を用いて窒化物単結晶を製造する方法について詳しく説明するが、本発明で採用することができる結晶成長工程はこれに限定されるものではない。
1)鉱化剤の使用
アモノサーマル法に用いる鉱化剤の使用量は、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度が0.1mol%以上となるようにすることが好ましく、0.3mol%以上となるようにすることがより好ましく、0.5mol%以上となるようにすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度は30mol%以下となるようにすることが好ましく、20mol%以下となるようにすることがより好ましく、10mol%以下となるようにすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎたりするため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0035】
2)溶媒
アモノサーマル法に用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることができる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0036】
3)原料
原料としては、シード上に成長させようとしている窒化物単結晶を構成する元素を含む原料を用いる。好ましくは窒化物単結晶の多結晶原料及び/又はガリウムであり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又はガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によってはIII族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0037】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0038】
4)反応容器
アモノサーマル法は、反応容器中で実施することができる。
前記反応容器は、窒化物単結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択することができる。前記反応容器としては、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
【0039】
前記反応容器は、耐圧性と耐浸食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐浸食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、及び系内に含まれる鉱化剤及びそれらの反応物との反応性及び/又は酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として反応容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0040】
反応容器の耐浸食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐浸食性を利用して、貴金属を反応容器の内表面をライニング又はコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、及びこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐浸食性を有するPtおよびPt合金を用いることが好ましい。
【0041】
窒化物単結晶の製造方法に用いることのできる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を
図3に示す。
図3は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
図3に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に内筒として装填されるカプセル20中で結晶成長を行う。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6にはシード7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐浸食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、W、Mo、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。
図3に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁とカプセル20の間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、窒化物単結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0042】
前記オートクレーブにより耐食性を持たせるためにライニングを使用することもできる。ライニングする材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、Au及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、Cu及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0043】
5)製造工程
アモノサーマル法による窒化物単結晶の成長手順について説明する。まず、反応容器内に、シード、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止する。これらを反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内へのシードの装填は、通常は、原料及び鉱化剤を充填する際に同時又は充填後に装填する。シードは、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
図3に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内にシード、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧容器を密閉する。
【0044】
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態又は亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0045】
超臨界条件では、窒化物単結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及びフリー容積の存在によって多少異なる。
【0046】
反応容器内の温度範囲は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。窒化物単結晶を製造する際は、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。温度差(|ΔT|)は、結晶品質の維持と自発核発生結晶の制御の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0047】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及びシードを用いる場合には、シードとそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0048】
反応容器内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態又は超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度については特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。通常は、原料溶解領域の温度と結晶成長領域の温度の平均値を平均温度とする。
【0049】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。また、反応中に原料溶解領域と結晶成長領域との温度差を変化させてもよい。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物単結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0050】
なお、アモノサーマル法により窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0051】
[アニール処理後の窒化物単結晶]
(特徴)
本発明のアニール処理を行った後の窒化物単結晶は、様々な良好な特性を有する。
本発明のアニール処理を行った後の窒化物単結晶の水素(H)濃度は、5×10
16atoms/cm
3〜1×10
21atoms/cm
3である。
本発明のアニール処理後にドーパントが活性化され、移動度が大幅に向上して、比抵抗が大幅に低下する。このため、本発明のアニール処理によって、良好な電気特性を有する窒化物単結晶を得ることができる。また、アニール前の窒化物単結晶に観測される赤外吸収スペクトルのN−H吸収も低減または消滅する。
【0052】
アニール処理後の窒化物単結晶のキャリア濃度は1×10
16cm
-3以上であることが好ましく、
1×10
17cm
-3以上であることがより好ましく、1×10
18cm
-3以上であることがさらに好ましい。本発明のアニール処理方法は、特にn型窒化物単結晶に対して好ましく適用することができる。例えば、n型キャリア濃度が1×10
17cm
-3超で1×10
19cm
-3未満であるとき、アニール処理後の窒化物単結晶の移動度(μ)は150cm
2/Vs超を達成することが可能であり、さらには200cm
2/Vs超を達成することも可能であり、さらになお300cm
2/Vs超を達成することも可能である。本発明では、アニール処理を十分な時間をかけて実施するため、移動度を十分に上げることができる。一方、例えば、n型キャリア濃度が1×10
16cm
-3超で1×10
19cm
-3未満であるとき、アニール処理後の窒化物単結晶の比抵抗(ρ)は1×10
-4Ωcm超で1×10
-1Ωcm未満の範囲内にすることが可能であり、さらには1×10
-3Ωcm超で7×10
-2Ωcm未満の範囲内にすることも可能であり、さらになお5×10
-3Ωcm超で5×10
-2Ωcm未満の範囲内にすることも可能である。
【0053】
アニール処理後の窒化物単結晶のドーパントは十分活性化されていることが使用上望ましい。活性化が不十分であると、例えば高温で窒化物単結晶を利用する場合、窒化物単結晶のキャリア濃度、
比抵抗、移動度が変化してしまい安定して使用できない。
図4、
図5に、ドーパントが十分に活性化されていることで知られている気相成長法で育成した窒化物単結晶及び本発明の方法で育成した窒化物単結晶のキャリア濃度と比抵抗の関係と、キャリア濃度と移動度の関係を示す。十分にドーパントが活性化されるという観点から、キャリア濃度が1×10
16〜1×10
20cm
-3の範囲において、キャリア濃度と比抵抗とが下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがさらに好ましく、下記式(3)を満たすことがさらに好ましい。
y≦1.3×10
11×c
(-0.678)・・・(1)
y≦6.2×10
10×c
(-0.678)・・・(2)
y≦5.1×10
10×c
(-0.678)・・・(3)
ここでcはキャリア濃度[cm
-3]、yは比抵抗[Ωcm]である。
またキャリア濃度と移動度とが下記式(4)を満たすことが好ましく、下記式(5)を満たすことがさらに好ましく、下記式(6)を満たすことがもっとも好ましい。
z≧3.3×10
8×c
(-0.369)・・・(4)
z≧4.3×10
8×c
(-0.369)・・・(5)
z≧7.7×10
8×c
(-0.369)・・・(6)
ここでcはキャリア濃度[cm
-3]、zは移動度[cm
2/V*s]である。
【0054】
本発明のアニール処理を行うことによって、ドーパント活性化率を10〜100%の範囲内にすることが可能である。ここでいうドーパント活性化率は、以下の式で規定される。
[CC]
η(%)= ――――― x 100
[D]
上式において、ηはドーパント活性化率(単位:%)であり、[CC]はキャリア濃度(単位:cm
-3)であり、[D]はドーパント濃度(単位:cm
-3)である。ドーパント活性化率は10%以上にすることが好ましく、20%以上にすることがより好ましく、25%以上にすることがさらに好ましい。
【0055】
本発明のアニール処理を行うことによって、イエローバンドピークの最大ピーク発光強度を低減することができる。具体的には、アニール処理前に比べてアニール処理後の窒化物単結晶の530〜630nmに観測されるイエローバンドピークの最大ピーク発光強度を低減することができる。これは、アニール処理前に結晶中に存在していた点欠陥による不純物準位での発光(イエローバンド発光)が、アニールにより点欠陥が減少した結果として低減したものである。このようなイエローバンドの発光強度の低減等に伴って、GaNなどの窒化物単結晶のバンド端発光の強度が相対的に大きくなる。具体的に、たとえばSEM−CLスペクトル分析においては、波長450〜750nmにあるイエローバンドピークの最大ピーク発光強度に対する、発光強度が330〜400nmにあるバンド端発光ピークの最大ピーク発光強度の比が、アニール処理前には、0.1程度であったものが、アニール処理をすると、0.5以上を達成することが可能であり、さらには1以上を達成することも可能であり、さらになお2以上を達成することも可能である。なお、最大ピーク発光強度とは、イエローバンドピークまたはバンド端発光ピークのうち発光強度が最大となる波長での発光強度を示す。これは、PLスペクトルの発光強度でも同様である。
【0056】
本発明のアニール処理を行うことによって、アニール処理前の着色を低減することができる。例えば濃い黄色〜茶色の窒化物単結晶は、アニール処理することにより薄黄色の透明な窒化物単結晶にすることができる。本発明のアニール処理によって、光線透過率は10%以上向上させることが可能であり、さらには15%以上向上させることも可能であり、さらになお20%以上向上させることが可能である。なお、アニール処理前の窒化物単結晶の着色が過度に濃くて不純物濃度が高すぎると、キャリア濃度が高くなりすぎて、移動度が低くなり、着色があまり改善せずに、透明化せず濁ることがある。このため、アニール処理前の窒化物単結晶の水素以外の不純物濃度は、1×10
20/cm
3未満に制御しておくことが好ましく、1×10
19/cm
3未満に制御しておくことがより好ましく、1×10
18/cm
3未満に制御しておくことがさらに好ましい。
【0057】
(アニール処理後の窒化物単結晶の加工)
本発明にしたがってアニール処理した窒化物単結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。加工する場合は、例えばアニール処理した窒化物単結晶の表面の少なくとも一部を除去するなどの加工を施すことができる。除去する部分は、主面の表面であってもよいし、別の面であってもよい。例えば、GaN結晶の場合のGa面を除去したりする態様を例示することができる。
加工の手段としては、スライス、研磨、ケミカルエッチング、ドライエッチングなどを挙げることができる。これらの加工の具体的手順は、結晶の加工法として知られているものを適宜選択して用いることができる。
【0058】
[ウエハ]
バルク窒化物単結晶である場合は、所望の方向に切り出すことにより、任意の結晶方位を有するウエハ(板状結晶)を得ることができる。例えば、厚くて大口径のM面を有する窒化物単結晶を製造した場合は、m軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のM面ウエハを得ることができる。また、大口径の半極性面を有する窒化物単結晶を製造した場合は、半極性面に平行に切り出すことにより、大口径の半極性面ウエハを得ることができる。
窒化物単結晶やウエハは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。本発明の窒化物単結晶やウエハが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、本発明の窒化物単結晶やウエハが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。
【実施例】
【0059】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
各実施例および比較例では、表1に記載される結晶サンプルを用いてアニールを行った。まず、実施例および比較例で用いた結晶サンプルの調製法について説明する。
【0060】
<結晶サンプルの調製例>
図3に示す装置を用いて、以下の手順にしたがってアモノサーマル法によりGaN結晶サンプルの調製を行った。
RENE41製オートクレーブを耐圧容器として用い、Pt−Ir製カプセルを反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒子をカプセル下部領域(
図3における原料溶解領域9)内に設置した。次に鉱化剤として十分に乾燥した純度99.999%のNH
4Iと純度99.99%のGaF
3をカプセル内に投入した。
さらにカプセル下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域との間に、白金製バッフル板を設置した。シードを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセルの上部にPt−Ir製のキャップをTIG溶接により接続した。
キャップ上部に付属したチューブにバルブを接続し、真空ポンプに通じて真空脱気した後、窒素ボンベに通ずるように操作しカプセル内を窒素ガスにて繰り返しパージを行った。その後、真空ポンプに繋いだ状態で加熱をして脱気を行なった。カプセルを室温まで自然冷却したのちバルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH
3ボンベに通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH
3を充填した後、再びバルブを閉じた。NH
3充填前と充填後との重量の差から充填量を確認した。
【0061】
つづいてバルブが装着されたオートクレーブにカプセルを挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブの重量を計測した。次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプに通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した。カプセルと同様に窒素ガスパージを複数回行った後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH
3ボンベに通じるように操作した後、再びバルブを開け連続して外気に触れることなくNH
3をオートクレーブ(
図3におけるオートクレーブ1)に充填した。流量制御に基づき、カプセル内のNH
3量とバランスする量のNH
3を液体として充填した後、再びバルブを閉じた。
続いてオートクレーブを、上下に分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。結晶成長領域の平均温度が617℃、原料溶解領域の温度が635℃になるまで昇温した後、その温度にて20日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約210MPaであった。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブに付属したバルブを開放し、オートクレーブ内のNH
3を取り除いた。その後オートクレーブ1を計量しNH
3の排出を確認した後、オートクレーブの蓋を開け、カプセルを取り出した。カプセル上部に付属したチューブに穴を開けカプセル内部からNH
3を取り除いた。その結果、厚み3〜8mmの結晶が得られた。
【0062】
上記の工程を、M面を主面としたシードを用いて行うことにより、M面を主面とするGaN結晶サンプルを得た。また、C面を主面としたシードを用いて行うことにより、C面を主面とするGaN結晶サンプルも得た。
【0063】
以下の実施例および比較例では、得られたアズグロウンのGaN結晶をそのままバルク結晶として用いるか、得られたアズグロウンのGaN結晶をスライスしたウエハとして用いるか、得られたアズグロウンのGaN結晶をスライスした後にさらにメカノケミカルポリッシュすることにより表面研磨して用いた。これら3種の結晶は、表1において表面状態が「アズグロウン」、「スライス」、「研磨」であるものとして表示されている。
【0064】
<実施例1>
主面がM面の表面研磨された厚みが300〜800μmのGaN結晶サンプルを、グラファイトを基材とする表面コートされたサセプタに載せてアニール炉の中へ入れた。その後、アニール炉内の雰囲気を空気から窒素へ切り替えた。
その後に炉内雰囲気ガスを窒素90%−アンモニア10%とし、ヒーターの電源を入れて温度調節系のプロクラムを起動して1000℃まで昇温した。その時の昇温速度は100〜1000℃/時間の範囲とした。1000℃に到達後に50時間保持し、その後に100〜300℃/時間の冷却速度で冷却した。炉内雰囲気ガスは、昇温開始時から300℃に冷却するまで同じ組成に維持した。アニール炉の温度が300℃を示したときにアンモニアの供給を停止し、炉内温度が室温になったところで、アニール炉を開けてGaN結晶を取りだした。
アニール前に、目視で黄色に着色していた結晶は、色が薄くなり透明度が増して着色改善効果があることが確認できた。また、アニール後のGaN結晶のホール測定(東陽テクニカ社製ホール測定器)の結果から、キャリア濃度が1.69×10
18/cm
3、移動度が232cm
2/V・s、比抵抗が1.59×10
-2Ωcmとキャリアが活性化していることを確認した。
【0065】
アニール前後の窒化ガリウム結晶中のH、Si、O、F、Iの濃度をSIMS分析により定量分析した。装置は、CAMECA社製の二次イオン質量分析計(SIMS)IMS4fを使用した。分析条件は、一次イオンビームはCs、一次イオンエネルギーは14.5keV、2次イオン極性は負とした。本条件における検出限界は、Hが2×10
17atoms/cm
3、Siが5×10
14atoms/cm
3、Oが2×10
16atoms/cm
3、Fが1×10
15atoms/cm
3、Iが2×10
15atoms/cm
3であった。
アニール前には、Hは3×10
18atoms/cm
3、Siは1.5×10
15atoms/cm
3、Oは8×10
19atoms/cm
3、Fは2×10
17atoms/cm
3、Iは検出限界以下であったが、アニール後は、Hが1.3×10
19atoms/cm
3、Siが1.5×10
15atoms/cm
3、Oが6.9×10
18atoms/cm
3、Fが8.3×10
17atoms/cm
3、Iは検出限界以下であった。以上の結果は、アニールによりキャリアが活性化したことを示している。
【0066】
また、FT−IRにより測定される3050〜3300cm
-1に観察されるN−Hピークの強度がアニールの前後で、減少していることも確認された。
さらに、室温におけるSEM−CL(JEOL製サーマル電界放出形走査電子顕微鏡JSM−7000F-カソードルミネッセンス)測定結果から、アニール前に大きなピークを示していたイエローバンドのピークが、アニール後に減少し、いっぽうGaNのバンド端発光を示すピーク強度が増大した。イエローバンドのピークが存在している450〜750nmにある最大ピーク発光強度は約730nmにおいて、2000cpsであり、バンド端発光ピークが存在する330〜400nmにある最大ピーク発光強度は約360nmで8000cpsであり、発光強度の比を取ると約4倍と増加していた。
【0067】
<実施例2〜21>
実施例2〜21では、実施例1と同じアニール炉を用いて、表1に示すようにアニール温度、アニール時間、結晶形態を変更してアニール処理を行った。バルク結晶については、厚みが、4mm程度あるものを使用し、ウエハは、300〜800μmのものを使用した。また、ウエハについては、主面がM面、C面のものについてアニール処理を行った。
実施例2〜17のうち、ホール測定を行ったサンプルについては、全てについてキャリア濃度が1.0×10
17cm
-3以上とキャリアが活性化していることが確認でき、移動度の向上も確認できた。また、目視による着色改善効果も確認できた。なお、表1における着色改善効果の評価結果は、以下の基準によるものである。
◎ 色が薄くなり透明度が増して、肉眼で顕著な着色改善効果が認められる。
○ 色が薄くなり透明度が増しており、肉眼で着色改善効果が認められる。
△ 若干白濁化しているが、弱い着色改善効果が認められる。
× 肉眼では変化が見られず着色改善効果がない。
【0068】
実施例2については、アニール後の窒化ガリウム結晶中のH、O、F、Cの濃度をSIMS分析により定量分析を行った。装置は、CAMECA社製の二次イオン質量分析計(SIMS)IMS4fを使用した。分析条件は、一次イオンビームはCs、一次イオンエネルギーは14.5keV、2次イオン極性は負とした。本条件における検出限界は、Hが2×10
17atoms/cm
3、Oが2×10
16atoms/cm
3、Fが1×10
15atoms/cm
3、Cが1×10
16atoms/cm
3であった。アニール後の、Hは6.3×10
18atoms/cm
3、Oは4.8×10
18atoms/cm
3、Fは2.1×10
16atoms/cm
3、キャリア濃度は2.44×10
18/cm
3であった。
表1に示したように、着色が比較的濃い結晶でもアニール後は、キャリアの活性化は確認できた。ただ、着色が比較的薄い結晶と比べて、アニール後も、着色は弱くしか改善されず、キャリア濃度は、約1.0×10
19cm
-3と比較的高く、移動度も160以下と比較的低くなる傾向がみられた。
【0069】
<実施例22〜24>
実施例22〜24では、マッフル炉(Thermo Scientific社製、Model:FB1415M))を用いて、大気中で窒化物結晶の加熱処理を行った。
マッフル炉にサンプルを設置した後、アニール温度を設定し、加熱を開始した。3時間ほどで所定の温度まで加熱を行い、14時間経過したところで、ヒーターのスイッチをオフして自然冷却を行い、サンプルを取り出した。温度は、表1に示す条件で行った。
いずれも、アニール後は、アニール前より着色が改善されていることがわかった。アニール後は、表面に酸化物と思われる物質が存在するため、ホール測定を行うことができなかったが、表面をKOH(濃度48%)でエッチングを行い表面を5μm除去したところ、結晶の内部ではキャリアが実施例1〜21と同等に活性化していることがわかった。
【0070】
<実施例25〜57>
実施例25〜48は実施例1〜21と同じアニール炉を用いて、表2に示すようにアニール温度、アニール時間を変更してアニール処理を行った。アニール処理後にホール測定を実施したところ、実施例1〜24と同等に活性化していることが分かった。
【0071】
実施例49〜57では、マッフル炉(アズワン株式会社製、Model:HPM−1G)を用いて、窒素雰囲気中でアニール処理を行った。まずGaN結晶サンプルを石英製ラック上に載せ、次に結晶サンプルを載せた石英ラックを炉内に設置した。その後、窒素を3L/min.流しながら100℃/h〜200℃/hで所定設定温度まで昇温し、所定の温度に到達したところで所定の時間保持した。所定の時間経過後、100℃/h〜150℃/hで100℃まで降温した後ヒーターの電源を切り、50℃以下まで窒素を流しながら自然冷却した。その後、結晶サンプルを炉内から取出し、実施例1〜24と同様にホール測定を実施したところ、結晶の内部ではキャリアが実施例1〜24と同等に活性化していることが分かった。
【0072】
実施例38、39、43のアニール後のGaN結晶サンプルについて、実施例1と同様にH、Si、O、F、Iの濃度をSIMS分析により定量分析した。本条件における検出限界は、Hが1×10
17atoms/cm
3、Siが3×10
14atoms/cm
3、Oが1×10
16atoms/cm
3、Fが1×10
15atoms/cm
3、Iが3×10
15atoms/cm
3であった。表3に示すように、水素濃度は、3.4×10
18cm
-3、1.4×10
19cm
-3、4.3×1018cm
-3となった。また、キャリア濃度と分析結果を比較してみるとOがn型の主なドーパントと考えられた。Si、Fもn型のドーパントとなり得るので、O及びSiとFの濃度の和をドーパント濃度とし、活性化率を算出したところ、実施例1、実施例38、実施例39、実施例43で、それぞれ、22%、37%、41%、79% となった。
【0073】
実施例32〜36のアニールしたGaN結晶サンプルと、実施例32〜36に用いた結晶サンプルと同じ結晶から切り出した未アニールのGaN結晶サンプルについてFT−IR分析を行った。
顕微FT−IR法で測定し、装置はNicolet製 MAGNA−IR560を用いた。条件は波長分解能4cm
-1、積算回数:1024で行った。表4に波数3100〜3200cm
-1に測定されるピーク強度について、アニール前の強度を1としてアニール後のピーク強度を規格化した結果を示す。アニール後は、アニール前と比較しピーク強度が減少していることが確認された。
【0074】
実施例35、36、41のアニールしたGaN結晶サンプルと、実施例35、36、41に用いた結晶サンプルと同一サンプルから分割した未アニールのGaN結晶サンプルについて吸収係数の測定を行った。測定はまず、20inch積分球(メーカ:LabSphere、型番:LMS-200)内にサンプルを設置し、積分球の外で駆動させた半導体レーザ(メーカ:audio-technica、型番:(405nm)SU-62-405、 (445nm)SU-62-445)からのビームを積分球内に導入した。次にレーザをサンプルに照射し、サンプルにレーザを照射しない場合をリファレンスとし、基板の厚みとレーザ強度減少率から、吸収係数を得た。表5に波長405nm、445nmにおける測定結果を示す。アニール無の場合の吸収係数でアニール有の場合の吸収係数を割ると、波長405nmでは、実施例35、実施例36、実施例41で用いた結晶サンプルの場合がそれぞれ0.60、0.45、0.34、波長455nmでは、実施例35、実施例36、実施例41で用いた結晶サンプルの場合がそれぞれ0.51、0.46、0.18とアニール有の場合の吸収係数が小さくなり改善することが確認された。また、基板厚みを350μmと仮定した時の透過率では、アニール有の場合の透過率をアニール無の場合の透過率で引くと、波長405nmでは、実施例35、実施例36、実施例41で用いた結晶サンプルの場合がそれぞれ7.8%、11.4%、32.8%、波長455nmでは、実施例35、実施例36、実施例41で用いた結晶サンプルの場合がそれぞれ3.1%.3.7%、21.1%と改善することが確認された。
【0075】
<実施例58>
実施例42で用いたGaN結晶サンプルと同じGaN結晶から切り出した結晶サンプルについて、アニールしたサンプルとアニールしなかったサンプルのSEM−CL測定を実施例1と同様に行った。アニール有りのサンプルとアニール無しのサンプルは同一サンプルを分割して準備した。アニールは実施例52〜57と同じアニール炉、同じ条件で行った。
図6に示す測定結果から、アニール前に大きなピークを示していたイエローバンドのピークが、アニール後に減少し、一方GaNのバンド端発光を示すピーク強度が増大した。また、イエローバンドピークが存在している450nm〜750nmにある最大ピーク発光強度は544nmにおいて36147cpsであり、バンド端発光ピークに存在する330nm〜400nmにある最大ピーク発光強度は366nmで110849cpsであり、発光強度の比を取ると約3倍と増加していた。
【0076】
<比較例1および2>
比較例1および2では、上記のアモノサーマル法で得られた表面研磨済みのGaN結晶サンプルについて、アニールを行わずにホール測定を行うことを試みた。
比較例1では、導電性を有せず、測定不可であった。室温においてSEM−CLスペクトル分析を行ったところ、イエローバンドのピークが存在している450〜750nmにある最大ピーク発光強度は約570nmにおいて、9000cpsであり、バンド端発光ピークが存在する330〜400nmにある最大ピーク発光強度は約360nmで1000cpsであり、発光強度の比を取ると約0.1倍であった。
比較例2においても、ホール測定は測定不可であった。ホール測定ではなく、非接触式シート抵抗測定器(リハイトン社製、型番:LEI1510)で測定を行ったところ、キャリア濃度が5.59×10
12/cm
3、移動度が5.4cm
2/V・s、比抵抗が2.09×10
-4Ωcmとキャリアが活性化しておらず、高抵抗であった。
【0077】
<比較例3>
主面がM面の表面研磨されたGaN結晶サンプルについて、加熱発生ガス分析(Temperature Programmed Desorption-Mass Spectrometry:TPD-MS)を行った。装置は、Shimadzu TPD-MS 装置を使用した。
前記GaN結晶をTPD−MS分析装置に入れて、ヘリウムガスの流速を50mL/min(upper)、0mL/min(bottom)としたヘリウムガス雰囲気中で、GaN結晶を20℃/minで1000℃まで加熱したのち、1000℃に到達と同時にヒーター電源をオフにして、自然冷却しGaN結晶を取り出した。
TPD−MS分析では、水素の発生が確認できた。これにより、加熱により結晶から水素が発生していると推測される。また、測定に使用したGaNのホール測定を行ったところ、キャリア濃度が1.20×10
18cm
-3、移動度が72.2cm
2/V・s、比抵抗が、7.12×10
-2Ωcmで、キャリアは活性化しているが、移動度の向上は不十分であることが確認された。このことは、アニールの時間が不十分であることを示している。
【0078】
<比較例4>
主面がM面のスライスされた状態のGaN結晶サンプルについて、実施例49〜57と同じアニール炉を用いて、窒素雰囲気、750℃、5時間でアニール処理を行った。
その後ホール測定を実施したが測定することができなかった。これは、アニール時間が不十分でありドーパントが活性化しきれていないことを示している。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】