特許第6237886号(P6237886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237886アクリル系重合体粒子とその製造方法、インキ組成物、および塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6237886
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】アクリル系重合体粒子とその製造方法、インキ組成物、および塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20171120BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 6/24 20060101ALI20171120BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171120BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20171120BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20171120BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C08F220/18
   C08F2/18
   C08F6/24
   C09D7/12
   C09D11/00
   C09D133/04
   C09D201/00
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-512159(P2016-512159)
(86)(22)【出願日】2016年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2016055431
【審査請求日】2016年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-90(P2016-90)
(32)【優先日】2016年1月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】椋田 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】福岡 博之
(72)【発明者】
【氏名】守屋 誠
(72)【発明者】
【氏名】木浦 正明
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 昌史
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−525277(JP,A)
【文献】 特開2013−216764(JP,A)
【文献】 特開平07−025949(JP,A)
【文献】 特開昭62−148501(JP,A)
【文献】 特開平01−231001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、アルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)、およびα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位(C)を含む粉体状のアクリル系重合体粒子であって、
ナトリウム元素量が3.5〜50ppmである、アクリル系重合体粒子。
【請求項2】
前記アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が3.5〜30ppmである、請求項に記載のアクリル系重合体粒子。
【請求項3】
質量平均粒子径が100〜1000μmである、請求項1または2に記載のアクリル系重合体粒子。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法であって、
懸濁重合により得られた前記アクリル系重合体を、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなるように洗浄する工程を含む、アクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項5】
メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含み、下記の方法で求められる静電気帯電の抑制率が90〜99.9%である粉体状のアクリル系重合体粒子の製造方法であって、
懸濁重合により得られた前記アクリル系重合体を、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなるように洗浄する工程を含む、アクリル系重合体粒子の製造方法。
(静電気帯電の抑制率の求め方)
JIS K 7365:1999「プラスチック−規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に従いアクリル系重合体粒子の嵩密度(A)を測定する。また、アクリル系重合体粒子100mLあたり帯電防止剤0.1g添加し、十分混合したものの嵩密度(B)を測定し、下記式(1)により静電気帯電の抑制率を算出する。
静電気帯電の抑制率(%)=嵩密度(A)/嵩密度(B)×100 ・・・(1)
【請求項6】
メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含む粉体状のアクリル系重合体粒子の製造方法であって、
懸濁重合により得られた前記アクリル系重合体を、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなるように洗浄する工程を含む、アクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アクリル系重合体を、ナトリウム元素量が3.5〜30ppmとなるように洗浄する、請求項5または6に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法
【請求項8】
前記アクリル系重合体粒子の質量平均粒子径が100〜1000μmである、請求項5〜7のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法
【請求項9】
前記アクリル系重合体粒子がα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位(C)をさらに含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法
【請求項10】
前記懸濁重合の際にナトリウム元素を含む分散剤を使用する請求項4〜9のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項11】
前記分散剤の使用量は、前記分散剤に含まれるナトリウム元素の量が、前記アクリル系重合体粒子の原料単量体100質量部に対して0.0009〜0.004質量部となる量である請求項10に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項12】
前記懸濁重合の際にナトリウム元素を含む分散助剤を使用する請求項4〜11のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項13】
前記分散助剤の使用量は、前記分散助剤に含まれるナトリウム元素の量が、前記アクリル系重合体粒子の原料単量体100質量部に対して0.06〜0.35質量部となる量である請求項12に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項14】
前記洗浄をナトリウム元素含有化合物の水溶液を用いて行う請求項4〜13のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項15】
前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液の使用量は、前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液に含まれるナトリウム元素が、前記アクリル系重合体100質量部に対して0.03〜0.1質量部となる量である請求項14に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項16】
洗浄に用いる前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液の質量が、前記アクリル系重合体に対して1〜3倍である請求項14または15に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子を含む、インキ組成物。
【請求項18】
請求項1〜のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子を含む、塗料組成物。
【請求項19】
塗料組成物の用途がコンテナ用、マリン用、又はロードマーキング用である、請求項18に記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、インクなどに好適なアクリル系重合体粒子とその製造方法、インキ組成物、および塗料組成物に関する。
本願は、2016年1月4日に、日本に出願された特願2016−000090号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体粒子の有用な製造方法として、懸濁重合法が知られている。懸濁重合法では、重合後のアクリル系重合体のスラリーを適宜、脱水及び洗浄し、乾燥等の工程を経てアクリル系重合体粒子を製造する。アクリル系重合体粒子は、塗料組成物の原料、インキ組成物の原料、複写機トナー用バインダー、セラミック焼成用バインダー、熱可塑性樹脂中間原料等の用途に使用されている。
【0003】
アクリル系重合体粒子は、電気伝導性が低く、比表面積が大きい傾向にあるために、静電気帯電しやすい性質を有する。静電気帯電したアクリル系重合体粒子は流動性が低下しやすく、製造工場において配管内が閉塞したり、篩別器で通過性が不良になる原因となることがあった。また、アクリル系重合体粒子が静電気帯電した状態では、その取り扱い性に問題が生じる場合があった。静電気帯電は、アクリル系重合体粒子の乾燥工程以降に発生しやすい。そのため、懸濁重合後の工程における静電気帯電の抑制方法が提案されている。
【0004】
例えば、アクリル系重合体粒子の表面を化学的に処理して導電性を付与する方法、真空乾燥器等で乾燥を行うことでアクリル系重合体同士の摩擦を減らし、静電気帯電を起こりにくくする方法、アクリル系重合体粒子を加湿処理された空気で乾燥する方法、静電気帯電したアクリル系重合体粒子に電気的な処理を施して静電気帯電を除電する方法などが提案されている。
【0005】
しかし、これらの方法は、多大な設備投資金額や運転費用が必要であったり、工程管理が煩雑であったり、生産速度が低下したりするなどの問題があった。
そこで、静電気帯電が抑制され、流動性に優れるアクリル系重合体粒子を簡便かつ低コストで製造する方法として、例えば特許文献1には、懸濁重合後に電解質が1〜1000ppm溶解した水でアクリル系重合体粒子を洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−306512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、アクリル系重合体粒子には流動性の他に有機溶剤に対する溶解性も求められている。しかし、特許文献1に記載の方法で得られるアクリル系重合体粒子はトルエン等の有機溶剤に溶解すると白濁するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、静電気帯電が抑制され、流動性に優れるアクリル系重合体粒子を提供することにある。また、本発明の目的は、有機溶剤に対する溶解性に優れるアクリル系重合体粒子を提供することにある。さらに、このようなアクリル系重合体粒子の製造方法、インキ組成物、および塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1] メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含むアクリル系重合体粒子であって、
下記の方法で求められる静電気帯電の抑制率が90〜99.9%であるアクリル系重合体粒子。
(静電気帯電の抑制率の求め方)
JIS K 7365:1999「プラスチック−規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に従いアクリル系重合体粒子の嵩密度(A)を測定する。また、アクリル系重合体粒子100mLあたり帯電防止剤0.1g添加し、十分混合したものの嵩密度(B)を測定し、下記式(1)により静電気帯電の抑制率を算出する。
静電気帯電の抑制率(%)=嵩密度(A)/嵩密度(B)×100 ・・・(1)
[2] 前記アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が3.5〜50ppmである、[1]に記載のアクリル系重合体粒子。
[3] 前記アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が3.5〜30ppmである、[2]に記載のアクリル系重合体粒子。
[4] 質量平均粒子径が100〜1000μmである、[1]に記載のアクリル系重合体粒子。
[5] 前記アクリル系重合体粒子がα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位(C)をさらに含む、[1]に記載のアクリル系重合体粒子。
[6] メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含むアクリル系重合体粒子であって、
ナトリウム元素量が3.5〜50ppmである、アクリル系重合体粒子。
[7] 前記アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が3.5〜30ppmである、[6]に記載のアクリル系重合体粒子。
[8] 質量平均粒子径が100〜1000μmである、[6]に記載のアクリル系重合体粒子。
[9] 前記アクリル系重合体粒子がα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位(C)をさらに含む、[6]に記載のアクリル系重合体粒子。
[10] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法であって、
懸濁重合により得られた前記アクリル系重合体を、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなるように洗浄する工程を含む、アクリル系重合体粒子の製造方法。
[11] 前記懸濁重合の際にナトリウム元素を含む分散剤を使用する[10]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[12] 前記分散剤の使用量は、前記分散剤に含まれるナトリウム元素の量が、前記アクリル系重合体粒子の原料単量体100質量部に対して0.0009〜0.004質量部となる量である[11]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[13] 前記懸濁重合の際にナトリウム元素を含む分散助剤を使用する[10]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[14] 前記分散助剤の使用量は、前記分散助剤に含まれるナトリウム元素の量が、前記アクリル系重合体粒子の原料単量体100質量部に対して0.06〜0.35質量部となる量である[13]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[15] 前記洗浄をナトリウム元素含有化合物の水溶液を用いて行う[10]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[16] 前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液の使用量は、前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液に含まれるナトリウム元素が、前記アクリル系重合体100質量部に対して0.03〜0.1質量部となる量である[15]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[17] 洗浄に用いる前記ナトリウム元素含有化合物の水溶液の質量が、前記アクリル系重合体に対して1〜3倍である[15]に記載のアクリル系重合体粒子の製造方法。
[18] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子を含む、インキ組成物。
[19] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のアクリル系重合体粒子を含む、塗料組成物。
[20] 塗料組成物の用途がコンテナ用、マリン用、又はロードマーキング用である、[19]に記載の塗料組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、静電気帯電が抑制され、流動性に優れるアクリル系重合体粒子とその製造方法、インキ組成物、および塗料組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「アクリル系重合体粒子」
本発明のアクリル系重合体粒子を構成するアクリル系重合体(以下、単にアクリル系重合体という。)は、メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含む。
なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の総称である。
【0012】
前記アルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でもn−ブチルメタクリレートが、得られるアクリル系重合体粒子を含むインキ組成物や塗料組成物の硬化物の耐候性が優れること、また入手し易さの面から好ましい。
これらは2種以上が併用されてもよい。
【0013】
アクリル系重合体は、α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位(C)をさらに含んでいてもよい。
前記α,β−不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸メチルおよびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能であれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
これらは、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
アクリル系重合体は、構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)以外の構成単位(D)をさらに含んでいてもよい。
構成単位(D)の由来となる単量体としては、メタクリル酸メチルおよびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能であれば特に制限されない。このような単量体としては、例えばメチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類;ラウリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等の重合性アミド類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
これらは2種以上が併用されてもよい。
【0015】
アクリル系重合体中の構成単位(A)と構成単位(B)の質量比は、構成単位(A):構成単位(B)=10:90〜90:10が好ましく、20:80〜80:20がより好ましく、30:70〜70:30がさらに好ましい。質量比が上記範囲内であれば、インキ組成物、および塗料組成物としたときに被塗物の表面へのぬれ性と塗膜硬度との性能バランスが良好となる。
アクリル系重合体中、構成単位(A)及び構成単位(B)の合計含有量は、全ての構成単位の合計100質量%中、80〜100質量%が好ましく、90〜100質量%がより好ましく、95〜100質量%がさらに好ましい。
【0016】
アクリル系重合体が構成単位(C)を含む場合、構成単位(C)の含有量は、全ての構成単位の合計100質量%中、0.1〜2質量%が好ましい。構成単位(C)の含有量は、1.5質量%以下がより好ましく、1.2質量%以下がさらに好ましい。構成単位(C)の含有量が上記上限値以下であれば、静電気帯電によるアクリル系重合体粒子の流動性の低下がより抑制され、インキ組成物、塗料組成物としたときの顔料分散性にも優れる。
【0017】
アクリル系重合体が構成単位(D)を含む場合、構成単位(D)の含有量は、全ての構成単位の合計100質量%中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。構成単位(D)の含有量が上記上限値以下であれば、共重合性と溶剤溶解性に優れる。
本明細書において、アクリル系重合体の各構成単位の割合は、原料に用いた各単量体の質量から算出したものを指す。
【0018】
本発明のアクリル系重合体粒子は、下記の方法で求められる静電気帯電の抑制率が90〜99.9%のものである。静電気帯電の抑制率が上記範囲内であれば、流動性に優れる。流動性がより向上する観点から、静電気帯電の抑制率は95%以上が好ましい。
(静電気帯電の抑制率の求め方)
JIS K 7365:1999「プラスチック−規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に従い、アクリル系重合体粒子の嵩密度(A)を測定する。また、アクリル系重合体粒子100mLあたり帯電防止剤0.1g添加し、十分混合したものの嵩密度(B)を測定する。帯電防止剤としては、例えば水澤化学工業株式会社製の活性シリカ「シルホナイトM−1」や「シルトンA」が好適である。測定した嵩密度(A)及び嵩密度(B)から下記式(1)により静電気帯電の抑制率を算出する。
静電気帯電の抑制率(%)=嵩密度(A)/嵩密度(B)×100 ・・・(1)
【0019】
本発明のアクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量は、3.5〜50ppmが好ましく、3.5〜40ppmがより好ましく、3.5〜30ppmがさらに好ましく、5ppm〜30ppmが特に好ましい。ナトリウム元素量が上記下限値以上であれば、静電気帯電がより抑制され、流動性がより向上する。流動性の向上効果は、ナトリウム元素量が多くなるほど高まる傾向にあるが、50ppmを超えると静電気帯電抑制効果が飽和化傾向となり、流動性の向上は頭打ちとなる。加えて、ナトリウム元素量が無用に増加するため、アクリル系重合体粒子の純度が低下する。
アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素は、アクリル系重合体粒子を製造する際に使用される分散剤や分散助剤、洗浄液に含まれるナトリウム塩等が由来する。
アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて測定される。
【0020】
アクリル系重合体粒子の平均粒子径は、100〜1000μmが好ましく、120〜700μmがより好ましい。平均粒子径が上記下限値以上であれば、静電気帯電による流動性の低下がより抑制される。
平均粒子径は、アクリル系重合体粒子を水中に分散させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器を用いて質量基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出される値(質量平均粒子径)である。
アクリル系重合体粒子の含水率は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。なお、含水率は、脱水工程後のアクリル系重合体粒子を105℃で2時間乾燥した場合の含水率を0%として、アクリル系重合体粒子の質量から算出する。
【0021】
<製造方法>
アクリル系重合体粒子は、例えば以下のようにして製造できる。
本実施形態のアクリル系重合体粒子の製造方法は、重合工程と、第一の脱水工程と、洗浄工程と、第二の脱水工程と、乾燥工程とを有する。
【0022】
(重合工程)
重合工程は、メタクリル酸メチルと、アルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じてα,β−不飽和カルボン酸や任意単量体とを懸濁重合し、アクリル系重合体を得る工程である。
懸濁重合の方法としては公知の方法を採用でき、例えば、重合温度制御機能と撹拌機能とを有する容器内にて、メタクリル酸メチルと、アルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じてα,β−不飽和カルボン酸や任意単量体とを、重合用助剤の存在下、水中で重合させる方法が挙げられる。
【0023】
重合用助剤としては、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤、分散助剤などが挙げられる。
重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイドなどが挙げられる。
連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、オクチルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
分散剤としては、例えば、水中で単量体を安定に分散させる界面活性剤が挙げられ、具体的には、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウムとメタクリル酸カリウムとメタクリル酸メチルとの共重合体、3−ナトリウムスルホプロピルメタクリレートとメタクリル酸メチルとの共重合体、メタクリル酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
分散助剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化カリウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどが挙げられる。
【0024】
ナトリウム元素量が3.5〜50ppmであるアクリル系重合体粒子を得るには、分散剤として、例えば、前記メタクリル酸2−スルホエチルナトリウムとメタクリル酸カリウムとメタクリル酸メチルとの共重合体、3−ナトリウムスルホプロピルメタクリレートとメタクリル酸メチルとの共重合体、メタクリル酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体等のナトリウムを含むものを用いることが好ましい。また、分散助剤として、例えば、前記硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のナトリウムを含むものを用いることが好ましい。
【0025】
ナトリウムを含む分散剤の使用量は、前記分散剤に含まれるナトリウム元素の量がアクリル系重合体の原料単量体の合計100質量部に対して、0.0009〜0.004質量部となる量が好ましく、0.0012〜0.003質量部となる量がより好ましい。
ナトリウムを含む分散助剤の使用量は、前記分散助剤に含まれるナトリウム元素の量がアクリル系重合体の原料単量体の合計100質量部に対して、0.06〜0.35質量部となる量が好ましく、0.14〜0.28質量部となる量がより好ましい。
ナトリウム含む分散剤や分散助剤の使用量が上記範囲内であれば、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmであるアクリル系重合体粒子が得られやすくなる。
【0026】
懸濁重合により得られるアクリル系重合体は、スラリーの状態で得られる。
アクリル系重合体粒子は、通常は真球に近いビーズ状の形状をしている。アクリル系重合体粒子の粒子径には分布があるが、質量平均粒子径は10〜1000μmの範囲内とすることが好ましい。
【0027】
(第一の脱水工程)
第一の脱水工程は、懸濁重合後のスラリーを脱水し、アクリル系重合体粒子を反応液から分離する工程である。
脱水には各種の脱水機を使用することができ、例えば、遠心脱水機、遠心分離機、多孔ベルト上で水を吸引除去する機構のもの等を適宜選択して使用することができる。
【0028】
(洗浄工程)
洗浄工程は、懸濁重合により得られたアクリル系重合体粒子を、最終的に乾燥して得られるアクリル系重合体粒子の静電気帯電の抑制率が90〜99.9%となるように洗浄する工程である。静電気帯電の抑制率が90〜99.9%のアクリル系重合体粒子は、例えば、最終的に乾燥して得られるアクリル系重合体粒子のナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなるように洗浄することで、得ることができる。
洗浄工程により、アクリル系重合体粒子の純度が高まるとともに、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmであるアクリル系重合体粒子が得られる。
洗浄方法としては、例えば、第一の脱水工程で脱水したアクリル系重合体粒子に洗浄液を添加してアクリル系重合体を再度スラリー化させて撹拌混合する方法、洗浄機能をも有する脱水機内で第一の脱水工程を行った後に、続けて洗浄液を加えて洗浄する方法などが挙げられる。また、これらの洗浄方法を組み合わせて洗浄を行ってもよい。
【0029】
洗浄液は、洗浄工程の目的が達成されるようにその種類や量を選定すればよい。洗浄剤としては、例えば水(イオン交換水、蒸留水、精製水等)、ナトリウム塩が溶解した水溶液(Na塩水溶液)などが挙げられる。
例えば、重合工程においてナトリウムを含む分散剤や分散助剤を用いる場合は、洗浄液として水またはNa塩水溶液を用いることが好ましい。特に、洗浄前のアクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が高い場合は洗浄液として水を用いることが好ましく、洗浄前のアクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が低い場合は洗浄液としてNa塩水溶液を用いることが好ましい。
重合工程においてナトリウムを含まない分散剤や分散助剤を用いる場合は、洗浄液としてNa塩水溶液を用いることが好ましい。
なお、Na塩水溶液を用いて洗浄した後のアクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が50ppmを超えるような場合には、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmの範囲内となるように、水等を用いて再度洗浄する。
【0030】
Na塩水溶液に用いられるナトリウム塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イセチオン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0031】
Na塩水溶液のナトリウム塩濃度は、500〜2000ppmが好ましく、600〜1000ppmがより好ましい。ナトリウム塩濃度が500ppm以上であれば、アクリル系重合体に帯電防止性を充分に付与できる。その結果、静電気帯電が抑制されやすくなり、流動性がより向上する。流動性の向上効果は、ナトリウム塩濃度が高くなるほど高まる傾向にあるが、2000ppmを超えると静電気帯電抑制効果が飽和化傾向となり、流動性の向上は頭打ちとなる。加えて、アクリル系重合体粒子の表面に付着残留するナトリウム塩が増え、アクリル系重合体粒子の純度が低下する。
洗浄工程における洗浄液の量は、アクリル系重合体粒子と洗浄液とが質量比(アクリル系重合体:洗浄液)として1:1以上であることが好ましい。これにより、洗浄液のナトリウム塩の量が、洗浄後のアクリル系重合体のナトリウム元素含有量に反映されやすくなり、アクリル系重合体粒子のナトリウム元素含有量を調整しやすい。
【0032】
洗浄に用いる所定の濃度のNa塩水溶液を工業的に生成する方法としては、撹拌機を有するタンク内で水とナトリウム塩とを所定の割合で混合して予め高濃度のNa塩水溶液を調製しておき、これを水が流れる供給ラインへ一定流量送り込み、高濃度のNa塩水溶液と水とを混合する方法が挙げられる。この混合液を、供給ラインを通じてアクリル系重合体粒子に供給して洗浄すればよい。
【0033】
洗浄回数については特に限定されず、アクリル系重合体粒子中のナトリウム元素量が3.5〜50ppmとなれば、1回でもよいし、2回以上行ってもよい。
【0034】
(第二の脱水工程)
第二の脱水工程は、洗浄工程後のアクリル系重合体粒子を脱水する工程である。
脱水には各種の脱水機を使用することができ、例えば、第一の脱水工程の説明において例示したものが挙げられる。
第一の脱水工程で使用する脱水機と第二の脱水工程で使用する脱水機は、1基を兼用して使用してもよいし、同一機種を2基用意して各脱水工程で使用してもよいし、各脱水工程で異なる機種の脱水機を使用してもよく、製品品質、設備投資費、生産性、運転コストなどの観点から目的に沿う方式を適宜選択することができる。製品品質と生産速度のバランスを重視する場合は、各脱水工程でそれぞれ専用の脱水機を使用することが好ましい。
【0035】
(乾燥工程)
乾燥工程は、第二の脱水工程後のアクリル系重合体粒子を乾燥する工程である。
第二の脱水工程後のアクリル系重合体粒子の表面には水が残留している。また、アクリル系重合体の内部は飽和吸水に近い状態にある。そのため、アクリル系重合体の含水率をさらに下げるために、乾燥することが好ましい。
乾燥には各種の乾燥機を使用することができ、例えば、減圧下で加温して乾燥を行うもの、加温空気を用いてアクリル系重合体粒子を管内空輸しながら同時に乾燥を行うもの、多孔板の下側から加温空気を吹き込み上側のアクリル系重合体粒子を流動させながら乾燥を行うものなどが挙げられる。
乾燥工程は、乾燥工程後のアクリル系重合体の含水率が5%以下となるように行うことが好ましく、2%以下となるように行うことがさらにより好ましい。
【0036】
<作用効果>
以上説明した本発明のアクリル系重合体粒子は、静電気帯電の抑制率が90〜99.9%であるため、流動性に優れる。特に、ナトリウム元素量が3.5〜50ppmであれば、静電気帯電がより抑制され、流動性がより向上する。よって、アクリル系重合体粒子が輸送される配管内での閉塞の解消が期待できる。また、乾燥処理された粉体状のアクリル系重合体粒子は、目的に合った粒子サイズのものだけを取り出す目的で篩別器を通過させることがあるが、その際の通過性の向上が期待できる。また、出荷先でのアクリル系重合体粒子の取り扱い時における流動性不良が起こりにくい。加えて、本発明のアクリル系重合体粒子は静電気帯電が抑制されているので着火しにくい。
【0037】
また、本発明のアクリル系重合体粒子の製造方法によれば、静電気帯電が抑制され、流動性に優れる粉体状のアクリル系重合体粒子を簡便かつ低コストで製造できる。
なお、本発明のアクリル系重合体粒子の製造方法は、上述した実施形態のものに限定されない。例えば、上述した実施形態では第二の脱水工程を行っているが、第二の脱水工程は省略してもよい。また、重合工程で得られるアクリル系重合体中のナトリウム元素量が3.5〜50ppmであれば洗浄工程は実施しなくてもよい。ただし、未反応の単量体等を除去してアクリル系重合体の純度を高める目的から、重合工程で得られるアクリル系重合体中のナトリウム元素量が3.5〜50ppmであっても、洗浄工程を実施することが好ましい。
また、上述した各工程は連続して行ってもよいし、重合工程と洗浄工程とを別の場所で行ってもよい。
【0038】
<用途>
本発明のアクリル系重合体粒子は、例えば、インキ原料、塗料原料、複写機トナー用バインダー、セラミック焼成用バインダー、熱可塑性樹脂中間原料などの用途に使用できる。特に、インキ組成物の原料や塗料組成物の原料として好適である。
【0039】
「インキ組成物」
本発明のインキ組成物は、本発明のアクリル系重合体粒子を含む。
本発明のインキ組成物は、例えば、本発明のアクリル系重合体粒子と、顔料と、有機溶剤と、必要に応じて任意成分とを混合して得られる。
顔料としては、インキ原料として用いられる公知の顔料が挙げられる。
有機溶剤としては、インキ原料として用いられる公知の有機溶剤が挙げられる。
任意成分としては、インキ原料として用いられる公知の各種添加剤が挙げられる。
【0040】
「塗料組成物」
本発明の塗料組成物は、本発明のアクリル系重合体粒子を含む。
本発明の塗料組成物は、例えば、コンテナ用塗料、マリン用塗料、ロードマーキング用塗料などの用途に使用できる。
マリン用塗料は、例えば、船舶のデッキ等を塗装する塗料である。
ロードマーキング用塗料は、例えば、道路上に標識等を表示するための塗料である。
【0041】
本発明の塗料組成物がコンテナ用である場合、本発明のアクリル系重合体粒子と、顔料と、炭酸カルシウムと、塩素化パラフィンと、有機溶剤と、必要に応じて任意成分とを混合したものが好適である。
本発明の塗料組成物がマリン用である場合、本発明のアクリル系重合体粒子と、顔料と、有機溶剤と、必要に応じて任意成分とを混合して得られる。
本発明の塗料組成物がロードマーキング用である場合、本発明のアクリル系重合体粒子と、顔料と、炭酸カルシウムと、有機溶剤と、必要に応じて任意成分とを混合して得られる。
顔料としては、塗料原料として用いられる公知の顔料が挙げられる。
有機溶剤としては、塗料原料として用いられる公知の有機溶剤が挙げられる。
任意成分としては、塗料原料として用いられる公知の各種添加剤を塗料組成物の用途に応じて用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例における各物性の測定および評価は以下の方法で行った。
また、実施例および比較例で用いた分散剤は以下の方法で製造した。
【0043】
[測定・評価]
<ナトリウム元素量の測定>
アクリル系重合体粒子0.15gを白金るつぼに採取し、ホットプレート上で150℃から540℃まで1時間かけて昇温し、540℃、30分間加熱した。ついで、マッフル炉にて575℃、1時間でアクリル系重合体粒子を灰化した。これに1質量%の硝酸水溶液250μLを加えて溶解し、超純水で25mLに希釈したものをICP発光分光分析装置に供し、ナトリウム元素量(Na元素量)を測定した。なお、測定条件は下記のとおりである。
(ICP測定条件)
・装置名:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 iCAP 6500
・RFパワー:750w
・ポンプ流量:50rpm
・補助ガス流量:1L/min
・ネブライザーガス流量:0.5L/min
・クーラントガス流量:12L/min
・パージガス流量:ノーマル
・測定波長:589.592(nm)
<平均粒子径の測定>
アクリル系重合体粒子を水中に分散させ、堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定器「LA−910」を用いて質量基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布から質量平均粒子径を求めた。
【0044】
<静電気帯電の抑制率の評価>
JIS K 7365:1999「プラスチック−規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に従い、アクリル系重合体粒子の嵩密度(A)を測定した。また、アクリル系重合体粒子100mLあたり帯電防止剤(水澤化学工業株式会社製、「シルホナイトM−1」)0.1g添加し、十分混合したサンプルの嵩密度(B)を測定し、下記式(1)により静電気帯電の抑制率を算出した。なお、一般的に帯電防止剤を用いずに測定した場合は静電気による反発で嵩密度が低くなる傾向にあり、帯電防止剤を用いて測定した場合は静電気による反発が軽減されるため嵩密度が高くなる傾向にある。帯電防止剤を用いなくても静電気が少ないほど(すなわち、静電気帯電が抑制されているほど)、帯電防止剤を添加する前と後での嵩密度の変化が小さく、下記式(1)により求められる静電気帯電の抑制率が100%に近づく。
抑制率(%)=嵩密度(A)/嵩密度(B)×100 ・・・(1)
【0045】
<流動性の評価>
アクリル系重合体粒子の流動性は、口径が15cm、足径が1cmのポリ塩化ビニル製の粉体用漏斗を用い、その漏斗を静止させた状態でアクリル系重合体粒子30gを投入し、その落下状態によって評価した。
(評価基準)
A:全量の粒子が連続的に全量落下した。
B:途中で粒子が詰まり、全量落下しなかった。
【0046】
<アクリル系重合体粒子のトルエンに対する溶解性の評価>
トルエン40gをフラスコに仕込み、室温で撹拌機にて撹拌している中に、アクリル系重合体粒子60gを少しずつ添加し、60℃で2時間撹拌した後の溶解性を溶液の透明性を基に目視にて確認した。
【0047】
(評価基準)
A:溶液が透明であり、溶解性に優れている。
B:溶液の白濁は僅かであり、溶解性が良好である。
C:溶液は白濁しており、溶解性が低い。
【0048】
[分散剤(1)の製造]
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水1230質量部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60質量部、メタクリル酸カリウム10質量部、メチルメタクリレート12質量部を加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、重合温度50℃に昇温し、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08質量部を添加し、さらに重合温度60℃に昇温した。重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24質量部/minの速度で75分間連続的に滴下し、重合温度60℃で6時間保持した後、室温に冷却して分散剤(1)を得た。この分散剤(1)の固形分は7.5質量%あった。
【0049】
「実施例1」
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、メタクリル酸メチル39.8質量部、n−ブチルメタクリレート60質量部、メタクリル酸0.2質量部を均一溶解した単量体混合物と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.25質量部と、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.3質量部と、分散剤(1)を0.8質量部、分散助剤として硫酸ナトリウムを1.0質量部均一溶解した純水200質量部とを仕込み、撹拌しながら窒素置換を行った。その後、75℃で懸濁重合を開始し、重合発熱のピークを検出した後、80℃で30分さらに重合を行った(重合工程)。
ついで、釜内を常温まで冷却し、生成したスラリーの3分の1量を採取し、これを遠心分離式脱水機にて脱水した(脱水工程)。
得られたアクリル系重合体粒子と、洗浄液として硫酸ナトリウム濃度が1000ppmの硫酸ナトリウム水溶液とを、質量比(アクリル系重合体粒子:洗浄液)が1:2となるように洗浄用槽に投入し、20分間撹拌混合して洗浄を行った後(洗浄工程)、これを遠心分離式脱水機にて脱水した(脱水工程)。
ついで、脱水されたアクリル系重合体粒子を50℃に内温設定された流動槽式乾燥機に投入し、含水率が2%以下になるように乾燥した(乾燥工程)。なお、含水率は、脱水工程後のアクリル系重合体粒子を105℃で2時間乾燥した場合のアクリル系重合体の含水率を0%として、乾燥処理後のアクリル系重合体の質量から算出した。
こうして得られた粉体状のアクリル系重合体粒子について、Na元素量と平均粒子径を測定し、静電気帯電の抑制率、流動性、およびトルエンに対する溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
「実施例2」
洗浄工程の回数を3回に変更した以外は、実施例1と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、各洗浄工程において、洗浄液を未使用のものに変更した。
【0051】
「実施例3」
洗浄液としてイオン交換水を用いた以外は、実施例1と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
「実施例4」
洗浄液としてイオン交換水を用い、洗浄工程の回数を3回に変更した以外は、実施例1と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。なお、各洗浄工程において、洗浄液を未使用のものに変更した。
【0053】
「実施例5」
重合工程において硫酸ナトリウムの使用量を0.2質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
「実施例6」
重合工程において分散剤(1)の使用量を0.2質量部に変更した以外は、実施例5と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
「実施例7」
重合工程においてメタクリル酸メチルの使用量を40質量部に変更し、メタクリル酸を使用しなかったこと以外は、実施例4と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種・評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
「比較例1」
重合工程において分散剤(1)の使用量を0.2質量部、硫酸ナトリウムの使用量を0.2質量部に変更した以外は、実施例4と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
「比較例2」
重合工程において硫酸ナトリウムの使用量を0.2質量部に変更した以外は、実施例4と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
「比較例3」
重合工程において硫酸ナトリウムの使用量を1.0質量部に変更し、洗浄を行わなわなかったこと以外は、比較例1と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
「比較例4」
重合工程において分散剤(1)の使用量を0.1質量部、硫酸ナトリウムの使用量を0.6質量部に変更し、洗浄工程において硫酸ナトリウム水溶液の濃度を400ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして粉体状のアクリル系重合体粒子を製造し、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から明らかなように、本発明の構成を満たす実施例1〜7で得られたアクリル系重合体粒子は、静電気帯電の抑制率が92%以上と、静電気帯電が十分に抑制されていた。また、Na元素量が3.5〜50ppmの範囲内である実施例1〜7で得られたアクリル系重合体粒子は、静電気帯電が十分に抑制されていた。また、実施例1〜7で得られたアクリル系重合体粒子は、流動性に優れていた。さらに、実施例1〜7で得られたアクリル系重合体粒子は、トルエンの溶解性が良好であった。
一方、比較例1、2および4で得られたアクリル系重合体粒子は静電気帯電の抑制率が88%以下であった。また、Na元素量が3ppm以下である比較例1、2および4で得られたアクリル系重合体粒子は、流動性に劣っていた。また、比較例3で得られたアクリル系重合体粒子は、静電気帯電の抑制率が100%であるが、トルエンへの溶解性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、静電気帯電が抑制され、流動性に優れるアクリル系重合体粒子とその製造方法、インキ組成物、および塗料組成物を提供できる。したがって、本発明はアクリル系重合体粒子の分野において好適に利用でき、産業上極めて重要である。
【要約】
メタクリル酸メチル由来の構成単位(A)、およびアルキル基の炭素数が2〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(B)を含むアクリル系重合体粒子であって、静電気帯電の抑制率が90〜99.9%であるアクリル系重合体粒子。