特許第6237929号(P6237929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237929
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】異方性散乱フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20171120BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20171120BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20171120BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G02B5/02 B
   G02B5/30
   C09K19/54 Z
   G02F1/1335
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-558228(P2016-558228)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2016065570
(87)【国際公開番号】WO2016194764
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2016年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-113095(P2015-113095)
(32)【優先日】2015年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 浩史
(72)【発明者】
【氏名】中田 秀俊
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−251821(JP,A)
【文献】 特開平07−333432(JP,A)
【文献】 特開平11−023843(JP,A)
【文献】 特開2001−042122(JP,A)
【文献】 特開2005−274909(JP,A)
【文献】 特開平10−100247(JP,A)
【文献】 特開2007−225765(JP,A)
【文献】 特開2006−293393(JP,A)
【文献】 特開2009−086260(JP,A)
【文献】 特開平07−333657(JP,A)
【文献】 米国特許第5773178(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/00 − 5/136
C09K 19/00 − 19/60
G02F 1/137 − 1/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラビング処理したTACフィルム上に、液晶材料が一軸水平配向している複数領域と垂直配向している複数領域が同一層内で平面状に存在し、液晶材料がスメクチックA相を示すことを特徴とする異方性散乱フィルム。
【請求項2】
一軸水平配向している複数領域における配向方向は一定方向に定まっていることを特徴とする請求項1記載の異方性散乱フィルム。
【請求項3】
一軸水平配向している領域一つあたりの大きさ及び垂直配向している領域一つあたりの大きさが100μm以下であることを特徴する請求項1または2記載の異方性散乱フィルム。
【請求項4】
一軸水平配向している領域の面積合計(A)と垂直配向している領域の面積合計(B)の比が3:7〜7:3である請求項1から3のいずれかに記載の異方性散乱フィルム。
【請求項5】
液晶材料が重合性液晶組成物であり、配向状態が活性エネルギー線の照射によって固定化されたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の異方性散乱フィルム。
【請求項6】
重合性液晶組成物が一般式(I)
【化1】
(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Y及びYはそれぞれ独立的に−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物を含有する請求項1からのいずれかに記載の異方性散乱フィルム。
【請求項7】
重合性液晶組成物が一般式(II)
【化2】
(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、r及びsはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物を含有する請求項1からのいずれかに記載の光学異方体
【請求項8】
重合性液晶組成物が一般式(III)
【化3】
(式中、Wは単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Y及びYはそれぞれ独立に単結合、-CH2CH2COO-、-CH2CH2OCO-、-COOCH2CH2-、-OCOCH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-CH=CH-COO-又は-OCO-CH=CH-を表し、tは2〜18の整数を表し、nは0または1を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物を含有する請求項1からのいずれかに記載の異方性散乱フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光の振動方向によって散乱能が異なる異方性散乱フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の振動方向によって散乱能が異なる異方性散乱体は、プロジェクションスクリーン(特許文献1)や液晶ディスプレイの輝度向上(特許文献2、3)に応用できることが知られている。このような異方性散乱体は、透明マトリックス中に、異方的形状を有し、かつ透明マトリックスと異なる屈折率の透明物質が、秩序良く互いに平行移動した位置関係で均質に分散させた状態にすること(特許文献1)、アスペクト比が1以上の散乱粒子を屈折率の異なる支持媒質中に分散配列させること(特許文献2)、ポリマーマトリックスに埋め込んだ液晶からできている小滴から形成した一軸均一配向構造であり、小滴を共通軸に沿って物理的に引き延ばすこと(特許文献3)、電界を印加して共通の方向に配列させた液晶小滴から形成された一軸均一配向PDLC構造にすること(特許文献3)、マトリクス中に配列させ、埋め込んだ小径の繊維を有する構造にすること(特許文献3)等によって作製することができる。上述のような公知の製造方法においては、支持媒質中に支持媒質と相溶しない物質を方向性(異方性)を持って分散させている。このような製造方法では、互いに相溶しない物質を均一に分散させた状態で製膜する必要があるが、分散状態を均一に保持するのが難しいため、得られるフィルムの光散乱能の面内均一性が良好でないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−73637号公報
【特許文献2】特開平9−274108号公報
【特許文献3】特表平11−502036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明の目的は、フィルム面内における光散乱能の均一性に優れる異方性散乱フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、均一に相溶している材料系を用いて異方性散乱フィルムを製造すれば良いことを見出し本願発明の完成に至った。
本願発明は、液晶材料が一軸水平配向している複数領域と垂直配向している複数領域が存在することを特徴とする異方性散乱フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本願発明の異方性散乱フィルムは、均一に相溶している材料系を用いて製造されるものであるので、光散乱能の面内均一性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の異方性散乱フィルムは、液晶材料が一軸水平配向している複数領域と垂直配向している複数領域が存在してなることを特徴とする。一軸水平配向している領域と垂直配向領域の境界において、一軸水平配向領域の遅相軸(液晶分子の長軸方向)と平行に振動する光は屈折率の不一致によって光散乱し、一軸水平配向領域の遅相軸と垂直に振動する光は屈折率の不一致が無いので、光散乱しない。本発明の異方性散乱フィルムは、このような作用によって、異方性散乱フィルムとして機能を発現する。
【0008】
最も一般的な異方性散乱フィルムは、フィルム面全体に対して、一定方向に定まった方向に振動する偏光に対して最も大きく光散乱し、これに対して垂直方向に振動する偏光に対する光散乱が最も小さくなる。このような異方性散乱フィルムにおいては、一軸水平配向している複数領域の配向方向は、フィルム面内全面にわたって一定方向に定めればよい。 光散乱能を確保するためには、液晶材料の複屈折率を大きくするか、一軸水平配向している領域と垂直配向している領域の境界面積を増やすことが好ましい。このような観点から、一軸水平配向している領域一つあたりの大きさ(ここでの大きさは平均外径を表す)及び垂直配向している領域一つあたりの大きさ(ここでの大きさは平均外径を表す)が100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。更に、一軸配向している複数領域の面積合計(A)と垂直配向している複数領域の面積合計(B)の比が、3:7〜7:3に設定することが好ましく、4:6〜6:4に設定するのが更に好ましい。
【0009】
液晶材料として、重合性液晶化合物を含有してなる重合性液晶組成物を使用し、上述の配向状態が活性エネルギー線の照射により固定化された状態であることが好ましい。活性エネルギー線の照射によって高分子化することによって取扱いを容易にすることができる。
【0010】
液晶材料を、一軸水平配向している複数領域と垂直配向している複数領域が存在するように配向させる方法としては、配向処理をした基板に液晶材料を塗布した後に、液晶材料が自発的に垂直配向領域と水平配向領域が形成させる方法を挙げることができる。配向処理としては、基板上にポリイミドなどの高分子薄膜を形成し、該高分子膜をラビング処理する方法や、基板が高分子フィルムの場合には直接ラビングする方法が挙げられる。液晶材料が自発的に垂直配向領域と水平配向領域を形成させるようにするには、塗布した際にスメクチックA相を示す液晶材料を選択することが好ましい。スメクチックA相を選択しない場合、垂直配向領域は得られるものの、一軸水平配向領域が得られずにハイブリッド配向となってしまったり、もしくは一軸水平配向領域は得られるものの、垂直配向領域が得られずにハイブリッド配向となってしまう傾向がある。これは、垂直配向領域と一軸水平配向領域の境界にある「配向が不連続な面」における弾性歪エネルギーが大きいため、そのエネルギーを緩和するために、どちらか一方の領域がハイブリッド配向に変化するような力が働くためだと考えられる。スメクチックA相を選択すると、スメクチックA相は内部に層構造を有していることからハイブリッド配向を取りづらいので、ハイブリッド配向に変化することが抑制され、垂直配向領域と一軸水平配向領域が共存しやすくなると推測される。
【0011】
基板としては、ガラス基材、金属基材、セラミックス基材やプラスチック基材等の有機材料が挙げられる。特に基板が有機材料の場合、セルロース誘導体、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ナイロン、又はポリスチレン等が挙げられる。中でもポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリアリレート、ポリカーボネート等のプラスチック基板が好ましい。
【0012】
スメクチックA相を呈する重合性液晶組成物としては、重合性の官能基を分子中に少なくとも2つ以上有するものを使用することが好ましい。特に好ましい化合物としては、一般式(I)
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Y及びYはそれぞれ独立的に−COO−又は−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物が好ましい。
【0015】
一般式(I)において、W及びWは−O−を表し、Yは−COO−を表し、Yは−OCO−を表し、p及びqはそれぞれ独立的に3〜12の整数である化合物がより好ましく、p=q=6又はp=q=3である化合物が好ましい。
【0016】
一般式(I)で表される化合物はさらに具体的には、一般式(I−1)〜一般式(I―8)で表される化合物を挙げることができる。
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、p及びqは一般式(I)における意味と同じ。)
一般式(I−1)〜一般式(I―8)において、p及びqはそれぞれ独立的に3〜12の整数であることが好ましい。
【0019】
一般式(I)で表される化合物は、安定に液晶相を発現させる目的と結晶相の析出を避ける目的から、2種以上含有させることが好ましく、一般式(I−1)〜一般式(I―8)において、p=q=6又はp=q=3の化合物を2種以上含有することが特に好ましい。
【0020】
一般式(I)で表される化合物の重合性液晶組成物中での濃度は、耐熱性や液晶温度範囲の観点から20質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。
【0021】
重合性液晶組成物としては、一般式(II)
【0022】
【化3】
【0023】
(式中、W及びWはそれぞれ独立的に単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Yは−COO−又は−OCO−を表し、r及びsはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物を含有させることも好ましい。一般式(II)のような2官能液晶性アクリレートを用いると、室温でスメクチックA相を呈する組成物を容易に得ることができる。一般式(II)で表される化合物は、さらに具体的には、一般式(II−1)〜一般式(II―10)で表される化合物を挙げることができる。
【0024】
【化4】
【0025】
(式中、r及びsは一般式(II)における意味と同じ。)
一般式(II)で表される化合物の重合性液晶組成物中での濃度は、耐熱性や液晶温度範囲の観点から5〜50質量%が好ましく、7〜40質量%がさらに好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
【0026】
重合性液晶組成物としては、シアノ基を有する単官能液晶性アクリレートを含有させることも、スメクチックA相を呈する傾向があるため好ましい。具体的には、一般式(III)
【0027】
【化5】
【0028】
(式中、Wは単結合、−O−、−COO−又は−OCO−を表し、Y及びYはそれぞれ独立に単結合、-CH2CH2COO-、-CH2CH2OCO-、-COOCH2CH2-、-OCOCH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-CH=CH-COO-又は-OCO-CH=CH-を表し、tは2〜18の整数を表し、nは0または1を表すが、式中に存在する1,4−フェニレン基は炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、シアノ基又はハロゲン原子で一つ以上置換されていても良い。)で表される化合物が好ましい。一般式(III)で表される化合物の中でも、Y及びYはそれぞれ独立に単結合、-COO-又は-OCO-で表されるものが好ましい。さらに具体的には、一般式(III−1)〜一般式(III―4)で表される化合物を挙げることができる。
【0029】
【化6】
【0030】
(式中、tは一般式(III)における意味と同じ。)
一般式(III−1)〜一般式(III―4)の中でも、スメクチックA相の下限温度を40℃以下にする観点から、(III-1)及び(III-3)の化合物が好ましく、一般式(III-1)の化合物が特に好ましい。tは3〜18が好ましく、4〜16が好ましく、6〜12がさらに好ましい。3より小さいとスメクチックA相を得るのが難しくなる傾向があり、12より大きいと光重合して得られる重合体の耐熱性が劣化する傾向がある。一般式(III)で表される化合物の重合性液晶組成物中の濃度は、耐熱性や液晶温度範囲の観点から20質量%以下が好ましく、15質量%がさらに好ましい。
【0031】
以上あげた化合物の他にも重合性液晶組成物に、2官能液晶性アクリレートとしては、一般式(a−1)〜一般式(a―10)で表される化化合物を含有させることができる。
【0032】
【化7】
【0033】
(式中、u及びvはそれぞれ独立的に2〜18の整数を表す。)
u及びvは3〜18が好ましく、4〜16が好ましく、6〜12がさらに好ましい。3より小さいとスメクチックA相を得るのが難しくなる傾向があり、12より大きいと光重合して得られる重合体の耐熱性が劣化する傾向がある。
【0034】
重合性液晶組成物中には、重合性官能基を有する化合物であって、液晶性を示さない化合物を添加することもできる。このような化合物としては、通常、この技術分野で高分子形成性モノマーあるいは高分子形成性オリゴマーとして認識されるものであれば特に制限なく使用することができるが、その添加量は組成物としてスメクチックA相を呈するように調整する必要がある。
重合性液晶組成物の粘度は、塗布性を確保するために室温(25℃)において、2000mPa・s以上、さらに好ましくは3500cps以上、特に好ましくは5000mPa・s以上に調節することが好ましい。
【0035】
また、重合性液晶組成物中には、その重合反応性を向上させることを目的として、光重合開始剤を添加することができる。光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンジルケタール類、アシルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。その添加量は、液晶組成物に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.02〜1質量%がさらに好ましく、0.03〜1質量%の範囲が特に好ましい。
【0036】
また、重合性液晶組成物には、その保存安定性を向上させるために、安定剤を添加することもできる。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β−ナフチルアミン類、β−ナフトール類、ニトロソ化合物等が挙げられる。安定剤を使用する場合の添加量は、液晶組成物に対して0.005〜1質量%の範囲が好ましく、0.02〜0.5質量%がさらに好ましく、0.03〜0.1質量%が特に好ましい。
【0037】
重合性液晶組成物への添加剤として、水平配向させるための添加剤の選択と濃度は重要である。スメクチックA相を示す材料は垂直配向する性質が強いので、水平配向させるための添加剤を添加しないと、重合性液晶組成物を基板に塗布しても全面にわたって垂直配向してしまい、一軸水平配向する領域が得にくい傾向がある。そこで、液晶材料を水平配向させる添加剤を添加して、一軸水平配向する領域を得ることが好ましい。このような添加剤としては、一般式(IV)
【0038】
【化8】
【0039】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子又は炭素原子数1〜20の炭化水素基を表し、該炭化水素基中の水素原子は1つ以上のハロゲン原子で置換されていても良い。)で表される繰り返し単位を有する化合物をあげることができる。一般式(IV)で表される化合物としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、パラフィン、流動パラフィン、塩素化ポリプロピレン、塩素化パラフィン、又は塩素化流動パラフィンが挙げられる。このような化合物の重合性液晶組成物中における濃度は、0.001〜0.05重量%に調整するのが好ましく、0.002〜0.04重量%に調整するのが更に好ましく、0.003〜0.03重量%に調整するのが特に好ましい。添加量が少ないと、一軸水平配向する領域の面積合計が小さくなり、添加量が多いと水平配向する領域の面積合計が小さくなる傾向がある。
【0040】
一軸水平配向領域と垂直配向領域の面積制御の観点からは上記の添加剤濃度の調整に加えて、塗布基板の配向処理も重要である。配向処理として代表的なものとしてラビングが挙げられるが、所謂「ラビング強度」(例えば、ラビング布の基板への押しつけ圧力を高めるほど、ラビングローラーの回転速度を速めるほど、ラビング強度は強くなる)を強くすると、一軸水平配向領域の合計面積が大きくなる傾向がある。したがって、上記添加剤の濃度調整はラビング強度も勘案して行う必要がある。
【0041】
重合性液晶組成物中には、塗膜のレベリング性を確保する目的で界面活性剤を添加することが好ましい。含有することができる界面活性剤としては、アルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルリン酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン誘導体、フルオロアルキルエチレンオキシド誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、アルキルアンモニウム塩、フルオロアルキルアンモニウム塩類、シリコーン誘導体等をあげることができ、特に含フッ素界面活性剤、シリコーン誘導体が好ましい。更に具体的には「MEGAFAC F−110」、「MEGAFACF−113」、「MEGAFAC F−120」、「MEGAFAC F−812」、「MEGAFAC F−142D」、「MEGAFAC F−144D」、「MEGAFAC F−150」、「MEGAFAC F−171」、「MEGAFACF−173」、「MEGAFAC F−177」、「MEGAFAC F−183」、「MEGAFAC F−195」、「MEGAFAC F−824」、「MEGAFAC F−833」、「MEGAFAC F−114」、「MEGAFAC F−410」、「MEGAFAC F−493」、「MEGAFAC F−494」、「MEGAFAC F−443」、「MEGAFAC F−444」、「MEGAFAC F−445」、「MEGAFAC F−446」、「MEGAFAC F−470」、「MEGAFAC F−471」、「MEGAFAC F−474」、「MEGAFAC F−475」、「MEGAFAC F−477」、「MEGAFAC F−478」、「MEGAFAC F−479」、「MEGAFAC F−480SF」、「MEGAFAC F−482」、「MEGAFAC F−483」、「MEGAFAC F−484」、「MEGAFAC F−486」、「MEGAFAC F−487」、「MEGAFAC F−489」、「MEGAFAC F−172D」、「MEGAFAC F−178K」、「MEGAFAC F−178RM」、「MEGAFAC R−08」、「MEGAFAC R−30」、「MEGAFAC F−472SF」、「MEGAFAC BL−20」、「MEGAFAC R−61」、「MEGAFAC R−90」、「MEGAFAC ESM−1」、「MEGAFAC MCF−350SF」(以上、DIC株式会社製)、
「フタージェント100」、「フタージェント100C」、「フタージェント110」、「フタージェント150」、「フタージェント150CH」、「フタージェントA」、「フタージェント100A-K」、「フタージェント501」、「フタージェント300」、「フタージェント310」、「フタージェント320」、「フタージェント400SW」、「FTX-400P」、「フタージェント251」、「フタージェント215M」、「フタージェント212MH」、「フタージェント250」、「フタージェント222F」、「フタージェント212D」、「FTX-218」、「FTX-209F」、「FTX-213F」、「FTX-233F」、「フタージェント245F」、「FTX-208G」、「FTX-240G」、「FTX-206D」、「FTX-220D」、「FTX-230D」、「FTX-240D」、「FTX-207S」、「FTX-211S」、「FTX-220S」、「FTX-230S」、「FTX-750FM」、「FTX-730FM」、「FTX-730FL」、「FTX-710FS」、「FTX-710FM」、「FTX-710FL」、「FTX-750LL」、「FTX-730LS」、「FTX-730LM」、「FTX-730LL」、「FTX-710LL」(以上、ネオス社製)、
「BYK−300」、「BYK−302」、「BYK−306」、「BYK−307」、「BYK−310」、「BYK−315」、「BYK−320」、「BYK−322」、「BYK−323」、「BYK−325」、「BYK−330」、「BYK−331」、「BYK−333」、「BYK−337」、「BYK−340」、「BYK−344」、「BYK−370」、「BYK−375」、「BYK−377」、「BYK−350」、「BYK−352」、「BYK−354」、「BYK−355」、「BYK−356」、「BYK−358N」、「BYK−361N」、「BYK−357」、「BYK−390」、「BYK−392」、「BYK−UV3500」、「BYK−UV3510」、「BYK−UV3570」、「BYK−Silclean3700」(以上、ビックケミー・ジャパン社製)、
「TEGO Rad2100」、「TEGO Rad2200N」、「TEGO Rad2250」、「TEGO Rad2300」、「TEGO Rad2500」、「TEGO Rad2600」、「TEGO Rad2700」(以上、テゴ社製)等の例をあげることができる。界面活性剤の好ましい添加量は、重合性液晶組成物中に含有される界面活性剤以外の成分や、使用温度等によって異なるが、重合性液晶組成物中に0.01〜1質量%含有することが好ましく、0.02〜0.5質量%含有することがさらに好ましく、0.03〜0.1質量%含有することが特に好ましい。含有量が0.01質量%より低いときは膜厚ムラ低減効果が得にくい。
【0042】
重合性液晶組成物を基板に塗布するための法としては、アプリケーター法、バーコーティング法、スピンコーティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法、ダイコーティング法、キャップコーティング法、ディッピング等、公知慣用の方法を行うことができる。溶剤で希釈した重合性液晶組成物を塗布することが好ましい。使用する溶剤は、基板上に塗布した際に基板、あるいは、基板上に形成されている配向膜を溶解させないものであれば良い。また、使用する溶剤としては重合性液晶組成物を良好に溶解性させるものが好ましい。使用することができる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン、メシチレン等の芳香族系炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、アニソール等のエーテル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、等のアミド系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、クロロベンゼン等が挙げられる。これらは、単独で使用することもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。
【0043】
溶剤の比率は、重合性液晶組成物が通常塗布により行われることから、塗布した状態を著しく損なわない限りは特に制限はないが、重合性液晶組成物の固形分と溶剤の比率が0.1:99.9〜80:20が好ましく、塗布性を考慮すると、1:99〜60:40がさらに好ましい
溶剤を使用した場合、60〜100℃、さらに好ましくは80〜90℃で加熱して溶剤を揮発させることが好ましい。加熱時間は5秒〜3分が好ましい。
【0044】
重合性液晶組成物の重合操作については、重合性液晶組成物中の溶剤を乾燥等で除去した後、所望状態に配向した状態で一般に活性エネルギー線を照射することによって行うのが好ましい。活性エネルギー線としては紫外線、電子線を挙げることができる。装置の簡易さから、活性エネルギー線として紫外線を使用することが好ましい。重合を紫外光照射で行う場合は、具体的には390nm以下の紫外光を照射することが好ましく、250〜370nmの波長の光を照射することが最も好ましい。但し、390nm以下の紫外光により重合性液晶組成物が分解などを引き起こす場合は、390nm以上の紫外光で重合処理を行ったほうが好ましい場合もある。この光は、拡散光で、かつ偏光していない光であることが好ましい。紫外光の強度としては、1〜100mW/cm2が好ましく、2〜50mW/cm2が更に好ましく、5〜30mW/cm2が特に好ましい。照射エネルギーとしては5〜200mJ/cm2が好ましく、10〜150mJ/cm2が更に好ましく、20〜120mJ/cm2が特に好ましい。
【実施例】
【0045】
(実施例)
以下に示す組成の重合性液晶組成物(A)を調製した。
【0046】
【化9】
【0047】
重合性液晶組成物(A)は、一度、等方性液体相まで加熱してから冷却すると、70℃でネマチック相に相転移し、35℃でスメクチックA相に相転移した。このスメクチックA相は室温においても保たれた。本組成物(A)に光重合開始剤イルガキュアー907(チバスペシャリティケミカルズ製)3%、水平配向添加剤として質量平均分子量1650のポリプロピレンを0.01%を添加して、組成物(A-1)を調製した。さらに、組成物(A-1)を濃度が30%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させ、塗布組成物(A-2)を調整した。
【0048】
次に、幅15cm、長さ15cmのTACフィルム(厚さ50μm)を用意し、長さ方向と平行方向にラビング処理を行った。このラビング処理した基板に、組成物(A-2)を滴下し、#5のワイヤーバーを使用して全面に塗布した。これを80℃で3分乾燥後、室温で3分保持してから15mW/cmの強度で10秒間UV光を照射して、重合性液晶組成物を高分子化させ、フィルムを得た。厚みを測定したところ、1.1μmであった。得られたフィルムを偏光フィルムと組み合わせて確認したところ、ラビング方向に対して平行方向に振動する偏光が散乱され、垂直方向に振動する偏光は散乱されずに透過し、異方性散乱板として機能することが確かめられた。目視状態において散乱能はフィルム面内で均一であり、ムラは無かった。フィルムの4隅及び中央のヘイズを測定したところ、ヘイズは44±1%の範囲に収まっており、均一性に優れていることが定量的にも確かめられた。